説明

動圧流体軸受装置および動圧流体軸受装置を備えた小型モータ

【課題】 クランプねじをねじ孔に締込んだ際のシャフトの変形によるシャフトの過浮上を防止することができ、小型化が促進される動圧流体軸受装置を提供する。
【解決手段】 スリーブ3の軸受孔に、シャフト5が回転自在に挿通され、シャフト5にクランプを締結するためのねじ孔10がシャフト5の上端部から軸心17の方向に沿って形成され、スリーブ3の内周面とシャフト5の外周面との間隙21に作動油16が充填され、スリーブ3の内周面に、動圧発生用溝を形成したラジアル軸受部26,27が設けられている。スリーブ3の内径は、開口上端部3aから所定範囲A内における内径D1が、所定範囲Aよりも下端側の範囲Bにおける内径D2に比べて、シャフト5の径方向の変形見込み量ΔDだけ大きく形成されている。所定範囲Aは、スリーブ3の開口上端部3aから上端側に位置するラジアル軸受部26を取り込んだ範囲に相当する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば1インチ以下のHDD用モータ等の小型薄型モータに使用される動圧流体軸受装置、および動圧流体軸受装置を備えた小型薄型モータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、HDDのAV製品や家電製品への展開に伴い、スピンドルモータは小型・薄型・高精度・長寿命を求められている。前記スピンドルモータの構成は、図10に示すように、ベース51に、軸受孔を有するスリーブ52が設けられ、この軸受孔にシャフト53が挿通され、シャフト53の上端部に、ディスク65を受けるハブ54と、ディスク65をハブ54上に保持するためのクランプ55とが設けられている。このクランプ55は、クランプねじ56をシャフト53に形成されたねじ孔57(雌ねじ)にねじ込むことにより、シャフト53に締結されている。
【0003】
また、シャフト53は、本体軸部53aと、本体軸部53aの上端に形成された先端軸部53bと、本体軸部53aの下端に形成されたスラストフランジ部53cとで構成されている。前記先端軸部53bは、本体軸部53aよりも小径であり、ハブ54に嵌め込まれている。前記スラストフランジ部53cは本体軸部53aよりも大径である。また、前記ハブ54にはマグネット66が設けられており、コイルを巻回したステータ67がマグネット66の内周側に対向してベース51に設けられている。
【0004】
また、前記スピンドルモータの高精度化・長寿命化のために、軸受には動圧流体軸受が採用されている。
すなわち、スリーブ52の下端部には、シャフト53に作用するスラスト荷重を受け止めるスラスト板58が設けられている。
【0005】
また、シャフト53の本体軸部53aの外周面とスリーブ52の内周面との間の間隙60a、および、スラストフランジ部53cの外周面とスリーブ52の内周面との間の間隙60b、および、スラストフランジ部53cの上面とこの面に対向するスリーブ52の下部面との間の間隙60c、および、スラストフランジ部53cの下面とスラスト板58の上面との間の間隙60dの前記各間隙60a〜60dには、作動流体である作動油61が充填されている。
【0006】
スリーブ52の内周面には、動圧発生用溝を形成したラジアル軸受部62a,62bが軸心68の方向(上下方向)において一対設けられている。また、スラスト板58の上面には、動圧発生用溝を形成した主スラスト軸受部63が設けられ、スラストフランジ部53cの上面には、動圧発生用溝を形成した副スラスト軸受部64が設けられている。尚、スラスト板58の上面に形成した動圧発生用溝は、スラストフランジ部53cの下面に形成してもよい。
【0007】
これによると、コイルに通電することによって、シャフト53が回転し、クランプ55によってハブ54上に保持されたディスク65が回転する。この際、各軸受部62a,62b,63,64によって動圧が発生し、ラジアル荷重がラジアル軸受部62a,62bによって支持され、スラスト荷重が主スラスト軸受部63と副スラスト軸受部64とによって支持される。
【0008】
しかしながら前記の従来形式では、スピンドルモータの小型化に伴って、シャフト53の外径が小さくなり、シャフト53の本体軸部53aの外周面とねじ孔57との径方向の肉厚tが薄くなるため、クランプねじ56をねじ孔57に螺合して締め込んだ際、図11の実線で示すように、シャフト53の上部が径方向外側へ膨れて変形し、前記間隙60aの上部が下部よりも径方向に縮小されて狭くなった。その結果、前記間隙60a内の作動油61が下方へ押されて間隙60dに過剰に充填され、シャフト53が過浮上するといった悪影響があった。
【0009】
尚、図10,図11では、動圧流体軸受を採用したスピンドルモータを示したが、図12に示すように、動圧流体軸受の代わりに、上下一対のボールベアリング71,72を採用したスピンドルモータがある(下記特許文献1参照)。これによると、シャフト73の上端部分において、クランプ74を止めるねじ孔75が形成されており、シャフト73の外周面とねじ孔75との径方向の肉厚をtとし、ねじ孔75の谷径をD0とすると、下記の式(1)を満たすように寸法が設定されている。
t≧D0/2 ・・・式(1)
前記式(1)を満たすことにより、ねじ孔75にねじ76を締め込んだ時の応力で上部のボールベアリング71の内輪が変形するのを防止することができる。
【0010】
しかしながら図12に示したスピンドルモータでは、前記式(1)を満たしているため、シャフト73の外径が大径化し、スピンドルモータの小型化の障害になるといった問題がある。
【特許文献1】特開2000−125506
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、ねじをねじ孔に締め込んだ際のシャフトの変形による悪影響を防止することができ、小型化が促進される動圧流体軸受装置および動圧流体軸受装置を備えた小型モータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本第1発明における動圧流体軸受装置は、
スリーブに形成された軸受孔にシャフトが挿通され、
前記スリーブとシャフトとのいずれか一方が固定されているとともに他方が回転自在な動圧流体軸受装置であって、
前記シャフトに他部材を締結するためのねじ孔がシャフトの一端部から軸心方向に沿ってスリーブの開口一端部を越え他端側へ向かって形成され、
前記スリーブの内周面とシャフトの外周面との間隙に作動流体が充填され、
前記スリーブの内周面とシャフトの外周面との少なくともいずれかに、動圧発生用溝を形成したラジアル軸受部が設けられ、
スリーブの内径は、少なくともスリーブの開口一端部から前記ねじ孔にねじ込まれるねじの先端部までを含む所定範囲が、この所定範囲よりも他端側の範囲に比べて、シャフトの径方向の変形見込み量だけ大きく形成されているものである。
【0013】
これによると、シャフトに他部材を締結する際、ねじをシャフトのねじ孔に締め込むことによって、シャフトの一端部が径方向外側へ膨れて変形する。これに対して、スリーブの内径は、少なくともスリーブの開口一端部から前記所定範囲において、前記シャフトの変形を見込んだ変形見込み量だけ大きく形成されているため、シャフトが変形しても、所定範囲内におけるスリーブの内周面とシャフトの外周面との間隙が径方向に縮小して狭くなるのを防止することができ、スリーブの内周面とシャフトの外周面との間隙を適切な大きさに維持することが可能となる。これにより、シャフトの変形による悪影響を防止することができる。また、シャフトの外周面とねじ孔との径方向の肉厚を薄くすることができるため、シャフトの外径を小さくすることが可能であり、小型化が促進される。
【0014】
本第2発明における動圧流体軸受装置は、ラジアル軸受部はシャフトの軸心方向において複数設けられ、
ねじ孔にねじ込まれるねじの先端部が一端側に位置するラジアル軸受部の形成範囲内に突入し、
所定範囲は、スリーブの開口一端部から前記一端側に位置するラジアル軸受部までを取り込んだ範囲に相当するものである。
【0015】
本第3発明における動圧流体軸受装置は、スリーブの軸受孔は、指定範囲内において、ストレート状に形成されているものである。
本第4発明における動圧流体軸受装置は、スリーブの軸受孔は、所定範囲内において、開口一端部ほど大径となるテーパー状に形成されているものである。
【0016】
また、本第5発明における動圧流体軸受装置は、スリーブに形成された軸受孔にシャフトが挿通され、
前記スリーブとシャフトとのいずれか一方が固定されているとともに他方が回転自在な動圧流体軸受装置であって、
シャフトに他部材を締結するためのねじ孔がシャフトの一端部から軸心方向に沿ってスリーブの開口一端部を越え他端側へ向かって形成され、
前記スリーブの内周面とシャフトの外周面との間隙に作動流体が充填され、
前記スリーブの内周面とシャフトの外周面との少なくともいずれかに、動圧発生用溝を形成したラジアル軸受部が設けられ、
前記シャフトの外径は、少なくともスリーブの開口一端部に臨む部分から前記ねじ孔にねじ込まれるねじの先端部までを含む所定範囲が、この所定範囲よりも他端側の範囲に比べて、シャフトの径方向の変形見込み量だけ小さく形成されているものである。
【0017】
これによると、ねじをシャフトのねじ孔に締め込むことによって、シャフトの一端部が径方向外側へ膨れて変形する。これに対して、シャフトの外径は、少なくともスリーブの開口一端部に臨む部分から前記所定範囲において、前記シャフトの変形を見込んだ変形見込み量だけ小さく形成されているため、シャフトが変形しても、所定範囲内におけるスリーブの内周面とシャフトの外周面との間隙が径方向に縮小して狭くなるのを防止することができ、スリーブの内周面とシャフトの外周面との間隙を適切な大きさに維持することが可能となる。これにより、シャフトの変形による悪影響を防止することができる。また、シャフトの外周面とねじ孔との径方向の肉厚を薄くすることができるため、シャフトの外径を小さくすることが可能であり、小型化が促進される。
【0018】
また、本第6発明における動圧流体軸受装置は、所定範囲は、スリーブの開口一端部に臨む部分から前記ねじ孔にねじ込まれるねじの先端部までの長さに、前記ねじ孔を形成した部分のシャフトの径方向の肉厚を加えた範囲に相当するものである。
【0019】
また、本第7発明における動圧流体軸受装置は、シャフトは、所定範囲内において、ストレート状に形成されているものである。
また、本第8発明における動圧流体軸受装置は、シャフトは、所定範囲内において、一端側ほど小径となるテーパー状に形成されているものである。
【0020】
また、本第9発明における動圧流体軸受装置は、シャフトがベースに固定されたスリーブに対して回転自在であり、
スリーブの他端部に、シャフトの他端面に対向するスラスト板が設けられ、
前記スリーブの内周面とシャフトの外周面との間隙と前記シャフトの他端面とスラスト板との間隙とが連通し、
これら間隙に作動流体が充填され、
前記シャフトの他端面とスラスト板との少なくともいずれかに、動圧発生用溝を形成したスラスト軸受部が設けられているものである。
【0021】
これによると、シャフトが回転している際、スラスト荷重がスラスト軸受部で支持される。また、ねじをシャフトのねじ孔に締め込むことによって、シャフトの一端部が径方向外側へ膨れて変形しても、所定範囲内におけるスリーブの内周面とシャフトの外周面との間隙が径方向に縮小して狭くなるのを防止することができ、スリーブの内周面とシャフトの外周面との間隙を適切な大きさに維持することが可能となるため、作動流体がスリーブの内周面とシャフトの外周面との間隙からシャフトの他端面とスラスト板との間隙に過剰に充填されることはない。これにより、シャフトが過浮上するといった悪影響を防止することができる。
【0022】
また、本第10発明における小型モータは、前記第1発明から第9発明のいずれかに記載の動圧流体軸受装置を備えたものである。
これによると、モータの小型化を促進することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明によると、ねじをシャフトのねじ孔に締め込むことによって、シャフトの一端部が径方向外側へ膨れて変形しても、所定範囲内におけるスリーブの内周面とシャフトの外周面との間隙が径方向に縮小して狭くなるのを防止することができ、スリーブの内周面とシャフトの外周面との間隙を適切な大きさに維持することが可能となる。これにより、作動流体がスリーブの内周面とシャフトの外周面との間隙からシャフトの他端面とスラスト板との間隙に過剰に充填されることはなく、シャフトが過浮上するといった悪影響を防止することができる。
【0024】
また、シャフトの外周面とねじ孔との径方向の肉厚を薄くすることができるため、シャフトの径を小さくすることが可能であり、モータの小型化が促進される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の第1の実施の形態を図1〜図5に基づいて説明する。
1は軸回転タイプの小型薄型モータであり、ベース2に円筒状のスリーブ3が設けられている。このスリーブ3に形成された軸受孔4には、シャフト5が回転自在に挿通されている。前記シャフト5の上端部(一端部)には、ディスク6を受けるハブ7(他部材の一例)と、ディスク6をハブ7上に保持するためのクランプ8(他部材の一例)とが設けられている。ハブ7にはマグネット18が設けられ、マグネット18に径方向の内側から対向するステータ19がベース2に設けられている。
【0026】
図3に示すように、前記シャフト5は、軸受孔4に挿入された本体軸部5aと、本体軸部5aの上端部に形成された先端軸部5bと、本体軸部5aの下端部に形成されたスラストフランジ部5cとで構成されている。前記先端軸部5bの外径は本体軸部5aの外径D4よりも小さく、スラストフランジ部5cの外径は本体軸部5aの外径D4よりも大きく設定されている。尚、前記本体軸部5aの上端はスリーブ3の開口上端部3a(開口一端部)に臨んでいる。
【0027】
また、シャフト5には、上端面に開口するねじ孔10が形成されている。このねじ孔10は、下孔部10aと、下孔部10aの内周に形成された雌ねじ部10bとで構成されており、シャフト5の上端面から軸心17の方向に沿ってスリーブ3の開口上端部3aを越え下端側(他端側)へ向って形成されている。
【0028】
前記シャフト5の先端軸部5bはハブ7の中央部に形成された貫通孔12に嵌め込まれている。前記ねじ孔10にクランプねじ13をねじ込むことにより、ハブ7とクランプ8とがシャフト5の上端部に締結される。
【0029】
前記スリーブ3の下端部(他端部)には、スラストフランジ部5cの下方に対向するスラスト板14が設けられている。このスラスト板14によってスリーブ3の下端部が閉鎖されている。
【0030】
図4に示すように、スリーブ3の軸受孔4は、シャフト5の本体軸部5aが挿通される本体軸挿通孔部4aと、スラストフランジ部5cが挿通されるフランジ挿通孔部4bとで構成されている。本体軸挿通孔部4aの上端部(一端部)には、本体軸挿通孔部4aよりも僅かに大径なシール面部4cが形成され、本体軸挿通孔部4aの上下両端部間には、本体軸挿通孔部4aよりも僅かに大径な油溜り部4dが形成されている。
【0031】
図2に示すように、シャフト5の本体軸部5aの外周面とスリーブ3の本体軸挿通孔部4aの内周面との間に第1の間隙21が形成され、スラストフランジ部5cの上面(一端面)とこの面に対向するスリーブ3の下部面との間に第2の間隙22が形成され、スラストフランジ部5cの外周面とスリーブ3のフランジ挿通孔部4bの内周面との間に第3の間隙23が形成され、スラストフランジ部5cとスラスト板14との間に第4の間隙24が形成されている。これら第1〜第4の間隙21〜24は連通しており、これら間隙21〜24には作動油16(作動流体の一例)が充填されている。
【0032】
図4に示すように、前記スリーブ3の内周面には、ラジアル軸受部26,27が上下方向(すなわちシャフト5の軸心17の方向)において一対設けられている。これらラジアル軸受部26,27はそれぞれ、スリーブ3の内周面に形成されたヘリングボーン形状等のラジアル動圧発生用溝26a,27aの作用により、ラジアル荷重支持圧を発生させるものである。尚、前記クランプねじ13の先端部は上端側のラジアル軸受部26の形成範囲内に突入している。また、油溜り部4dは両ラジアル軸受部26,27の上下間に配設されている。
【0033】
図2に示すように、前記シャフト5のスラストフランジ部5cの下端面(シャフト5の他端面)には、主スラスト軸受部28が設けられている。この主スラスト軸受部28は、スラストフランジ部5cの下端面に形成されたヘリングボーン形状(又はスパイラル形状等)の主スラスト動圧発生用溝(図示せず)の作用により、スラスト荷重支持圧を発生させるものである。
【0034】
さらに、前記スラストフランジ部5cの上端面には、副スラスト軸受部29が設けられている。この副スラスト軸受部29は、スラストフランジ部5cの上端面に形成されたヘリングボーン形状(又はスパイラル形状等)の副スラスト動圧発生用溝(図示せず)の作用により、スラスト荷重支持圧を発生させるものである。
【0035】
図4に示すように、軸受孔4の本体軸挿通孔部4aの直径(すなわちスリーブ3の内径)は、スリーブ3の開口上端部3aから所定範囲A内における直径D1が、所定範囲Aよりも下端側(他端側)の範囲B内における直径D2に比べて、シャフト5の径方向の変形見込み量Δdだけ大きく形成されている(すなわち、D1=D2+Δd)。尚、前記本体軸挿通孔部4aの直径D2はシャフト5の本体軸部5aの外径D4に対応した値である。
【0036】
また、前記所定範囲Aは、スリーブ3の開口上端部3aから上端側のラジアル軸受部26までを取り込んだ範囲に相当しており、スリーブ3の開口上端部3aからクランプねじ13の先端部までを含んでいる。また、所定範囲Aよりも下端側の範囲Bは、本体軸挿通孔部4aの下端から下端側のラジアル軸受部27までを取り込んだ範囲に相当している。尚、軸受孔4の本体軸挿通孔部4aは、所定範囲A内において、直径D1が一定で変化しないストレート(真直ぐ)な孔として形成されている。
【0037】
以下、前記構成における作用を説明する。
シャフト5の先端軸部5bをハブ7の貫通孔12に嵌め込み、クランプねじ13をねじ孔10を締め込んで、ハブ7とクランプ8とをシャフト5に締結する。この際、クランプねじ13のねじ込み深さの範囲において、シャフト5が径方向外側へ膨れようとするため、図5の実線で示すように、本体軸部5aが、その上端からクランプねじ13の先端までの範囲Lにおいて、径方向外側へ膨れて変形し、外径がD4よりも拡大する(図3の仮想線参照)。
【0038】
これに対して、スリーブ3の軸受孔4の本体軸挿通孔部4aの直径は、スリーブ3の開口上端部3aから所定範囲A内における直径D1が、範囲B内における直径D2に比べて、シャフト5の径方向の変形見込み量Δdだけ大きく形成されており、このため、前記のようにシャフト5の本体軸部5aが径方向外側へ膨れて変形しても、前記所定範囲A内における第1の間隙21が径方向に縮小して狭くなるのを防止することができ、この第1の間隙21を適切な大きさに維持することが可能となる。
【0039】
ステータ19に通電することにより、シャフト5が回転するとともに、ディスク6とハブ7とクランプ8とがシャフト5と一体に回転する。この際、両ラジアル軸受部26,27のラジアル動圧発生用溝26a,27aの作用により、ラジアル荷重支持圧が発生してラジアル荷重が支持され、主スラスト軸受部28の主スラスト動圧発生用溝と副スラスト軸受部29の副スラスト動圧発生用溝との作用により、スラスト荷重支持圧が発生してスラスト荷重が支持される。
【0040】
このようにシャフト5が回転している際、前記のようにシャフト5の変形に対して第1の間隙21を適切な大きさに維持することが可能であるため、作動油16が第1の間隙21から第4の間隙24に過剰に充填されることはなく、これにより、シャフト5が過浮上するといった悪影響を防止することができる。
【0041】
また、シャフト5の本体軸部5aの外周面とねじ孔10との径方向の肉厚tを薄くすることができるため、前記本体軸部5aの外径D4を小さくすることが可能であり、モータ1の小型化を促進することができる。
【0042】
次に、前記第1の実施の形態におけるシャフト5の径方向の変形見込み量ΔDの一例を(1)〜(4)に記載する。例えば、上記変形見込み量ΔDは、先ずシャフト5単体のときの外径の軸方向の変化を非接触変位計で走査して求め、次に、シャフト5にクランプねじ13を螺合したときの外径の軸方向の変化を同様に走査して求め、それらの差から変形見込み量ΔDを求めることができる。
(1)シャフト5の材質が高Mn、Cr系ステンレス鋼(例えばASK8000)であり、クランプねじ13のサイズがM1.6である場合において、シャフト5の本体軸部5aの外径がφ2.4mmのとき、変形見込み量ΔD(オフセット量)は1.2μm程度であり、また、前記外径がφ3.0mmのとき、変形見込み量ΔD(オフセット量)は0.8μm程度である。
(2)シャフト5の材質が高Mn、Cr系ステンレス鋼であり、シャフト5の本体軸部5aの外周面とねじ孔10との径方向の肉厚をtとすると、変形見込み量ΔD(オフセット量)は下記の式を満足する範囲である。
ΔD/2=−a×t+b
ここで、a=0.15〜0.5であり、b=0.7〜1.10である。
(3)シャフト5の材質がマルテンサイト系ステンレス鋼(例えばSUS420J2)であり、クランプねじ13のサイズがM1.6である場合において、シャフト5の本体軸部5aの外径がφ2.4mmのとき、変形見込み量ΔD(オフセット量)は1.0μm程度であり、また、前記外径がφ3.0mmのとき、変形見込み量ΔD(オフセット量)は0.3μm程度である。
(4)シャフト5の材質がマルテンサイト系ステンレス鋼であり、シャフト5の本体軸部5aの外周面とねじ孔10との径方向の肉厚をtとすると、変形見込み量ΔD(オフセット量)は下記の式を満足する範囲である。
ΔD/2=−c×t+d
ここで、c=0.35〜0.7であり、d=0.65〜1.1である。
【0043】
次に、本発明における第2の実施の形態を図6に基づいて説明する。
スリーブ3の軸受孔4の本体軸挿通孔部4aは、所定範囲A内において、開口上端部3aほど大径となるテーパー状の孔として形成されている。この際、前記本体軸挿通孔部4aの直径は、所定範囲Aの上端部においてD1となり、所定範囲Aの下端部においてD2となる。
【0044】
前記第1および第2の実施の形態では、図4,図6に示すように、スリーブ3の開口上端部3aから上端側のラジアル軸受部26までを取り込んだ範囲を所定範囲Aとしているが、スリーブ3の開口上端部3aからクランプねじ13の先端部までの範囲を所定範囲Aとしてもよい。また、スリーブ3の開口上端部3aからクランプねじ13の先端部までの範囲以上で且つスリーブ3の開口上端部3aから上端側のラジアル軸受部26を取り込んだ範囲以下の範囲を、所定範囲Aとしてもよい。
【0045】
前記第1および第2の実施の形態では、シャフト5の変形を見込んでスリーブ3の所定範囲Aの内径を大きくしているが、次に説明する第3の実施の形態では、図7,図8に示すように、シャフト5の変形を見込んで、シャフト5の外径を小さくしている。
【0046】
すなわち、図7に示すように、シャフト5の本体軸部5aの外径は、その上端部分(すなわちスリーブ3の開口上端部3aに臨む部分)から所定範囲E内における外径D3が、この所定範囲Eよりも下端側(他端側)の範囲F内における外径D4に比べて、シャフト5の径方向の変形見込み量ΔDだけ小さく形成されている(すなわち、D3=D4−ΔD)。
【0047】
尚、前記所定範囲Eは、シャフト5の本体軸部5aの上端部分からクランプねじ13の先端部までの長さLに、本体軸部5aの外周面とねじ孔10との径方向の肉厚tを加えた範囲に相当する。また、前記範囲Fは、所定範囲Eの下端から本体軸部5aの下端までの範囲に相当する。尚、シャフト5の本体軸部5aは、所定範囲E内において、外径D3が一定で変化しないストレート(真直ぐ)な円形軸として形成されている。
【0048】
また、スリーブ3の本体軸挿通孔部4aは直径D2に形成されており、シャフト5の本体軸部5aの外径D4が前記本体軸挿通孔部4aは直径D2に対応した値である。
以下、前記構成における作用を説明する。
【0049】
シャフト5の本体軸部5aの外径は、その上端部分から所定範囲E内における外径D3が、範囲F内における外径D4に比べて、変形見込み量ΔDだけ小さく形成されており、これによって、図8の実線で示すように、前記本体軸部5aが径方向外側へ膨れて変形しても、前記外径D3がほぼ外径D4まで拡大するため、所定範囲E内における第1の間隙21が径方向に縮小して狭くなるのを防止することができ、この第1の間隙21を適切な大きさに維持することが可能となる。これにより、作動油16が第1の間隙21から第4の間隙24に過剰に充填されることはなく、シャフト5が過浮上するといった悪影響を防止することができる。
【0050】
また、前記第3の実施の形態におけるシャフト5の径方向の変形見込み量ΔDの一例は、先の第1の実施の形態で説明した(1)〜(4)と同一である。
次に、本発明における第4の実施の形態を図9に基づいて説明する。
【0051】
シャフト5の本体軸部5aの外径は、所定範囲E内において、上端側(一端側)ほど小径となるテーパー状の円形軸として形成されている。この際、前記本体軸部5aの外径は、所定範囲Eの上端部においてD3となり、所定範囲Eの下端部においてD4となる。
【0052】
前記第3および第4の実施の形態では、図7,図9に示すように、シャフト5の本体軸部5aの上端部分からクランプねじ13の先端部までの長さLに、本体軸部5aの外周面とねじ孔10との径方向の肉厚tを加えた範囲を所定範囲Eとしているが、前記長さLの範囲を所定範囲Eとしてもよい。また、第1および第2の実施の形態における所定範囲A(図4,図6参照)を第3および第4の実施の形態における所定範囲Eに適用してもよい。また、反対に、第3および第4の実施の形態における所定範囲E(図7,図9参照)を第1および第2の実施の形態における所定範囲Aに適用してもよい。
【0053】
前記第1〜第4の実施の形態では、図2に示すように、ラジアル軸受部26,27をスリーブ3の内周面に形成しているが、シャフト5の外周面に形成してもよい。また、主スラスト軸受部28をスラストフランジ部5cの下端面に形成しているが、スラスト板14に形成してもよい。さらに、副スラスト軸受部29をスラストフランジ部5cの上端面に形成しているが、スラストフランジ部5cの上方において対向するスリーブ3の下部面に形成してもよい。
【0054】
前記第1〜第4の実施の形態では、クランプねじ13で他部材の一例であるクランプ8とハブ7とをシャフト5に締結しているが、クランプ8のみをクランプねじ13でシャフト5に締結してもよい。
【0055】
前記第1〜第4の実施の形態では、軸心17の方向において上下2個のラジアル軸受部26,27を設けているが、3個以上設けてもよい。
前記第1〜第4の実施の形態では、作動流体の一例として作動油16を用いているが、油以外の液体又は気体を用いてもよい。
【0056】
前記第1〜第4の実施の形態では、固定されたスリーブ3に対してシャフト5が回転する構造のモータ1を挙げたが、ベース2に固定されたシャフト5に対してスリーブ3が回転する構造のものであってもよい。
【0057】
前記第1〜第4の実施の形態では、ねじ孔10に締め込まれたクランプねじ13の先端部が上端側のラジアル軸受部26の形成範囲内に突入しているが、クランプねじ13の先端部が上端側のラジアル軸受部26の形成範囲よりも上方となるように、クランプねじ13の長さを短縮して、前記形成範囲に到達しないようにしてもよい。
【0058】
また、前記第1の実施の形態のようにシャフト5の変形を見込んでスリーブ3の所定範囲Aの内径(本体軸挿通孔部4aの直径D1)を大きくする(図4参照)ことと、前記第3の実施の形態のようにシャフト5の変形を見込んでシャフト5の所定範囲Eの外径(本体軸部5aの外径D3)を小さくする(図7参照)こととを組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、気体、液体を問わず流体軸受を使用した軸受装置に適用することができる。この軸受装置は、記録媒体制御装置のための、小型化に適した信頼性の高いものである。前記記録媒体は、光記録媒体、光磁気記録媒体、磁気記録媒体等がある。また、媒体にはディスクをはじめ、テープ等も含まれる。また、軸受装置の使用箇所は、ディスク駆動装置、リール駆動装置、キャプスタン駆動装置、ドラム駆動装置等である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の第1の実施の形態におけるモータの断面図である。
【図2】同、モータの動圧流体軸受装置の拡大断面図である。
【図3】同、モータのシャフトの断面図であり、クランプねじをねじ込んでいない状態を実線で示し、クランプねじをねじ込んで変形した状態を仮想線で示す。
【図4】同、モータのスリーブの断面図である。
【図5】同、モータのスリーブの内周面とシャフトの外周面との間隙の上部の拡大断面図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態におけるモータのスリーブの断面図である。
【図7】本発明の第3の実施の形態におけるモータのシャフトの断面図であり、クランプねじをねじ込んでいない状態を実線で示し、クランプねじをねじ込んで変形した状態を仮想線で示す。
【図8】同、モータのスリーブの内周面とシャフトの外周面との間隙の上部の拡大断面図である。
【図9】本発明の第4の実施の形態におけるモータのシャフトの断面図である。
【図10】従来の動圧流体軸受装置を備えたモータの断面図である。
【図11】同、モータのスリーブの内周面とシャフトの外周面との間隙の上部の拡大断面図である。
【図12】従来のベアリング軸受装置を備えたモータの断面図である。
【符号の説明】
【0061】
1 モータ
2 ベース
3 スリーブ
3a 開口上端部(開口一端部)
4 軸受孔
5 シャフト
10 ねじ孔
13 クランプねじ
14 スラスト板
16 作動油(作動流体)
17 軸心
21 第1の間隙
24 第4の間隙
26,27 ラジアル軸受部
26a,27a ラジアル動圧発生用溝
28 主スラスト軸受部
A 所定範囲
B 他端側の範囲
E 所定範囲
F 他端側の範囲
D1 本体軸挿通孔部4aの直径(スリーブの内径)
D2 本体軸挿通孔部4aの直径(スリーブの内径)
D3 本体軸部5aの外径(シャフトの外径)
D4 本体軸部5aの外径(シャフトの外径)
ΔD 変形見込み量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スリーブに形成された軸受孔にシャフトが挿通され、
前記スリーブとシャフトとのいずれか一方が固定されているとともに他方が回転自在な動圧流体軸受装置であって、
前記シャフトに他部材を締結するためのねじ孔がシャフトの一端部から軸心方向に沿ってスリーブの開口一端部を越え他端側へ向かって形成され、
前記スリーブの内周面とシャフトの外周面との間隙に作動流体が充填され、
前記スリーブの内周面とシャフトの外周面との少なくともいずれかに、動圧発生用溝を形成したラジアル軸受部が設けられ、
スリーブの内径は、少なくともスリーブの開口一端部から前記ねじ孔にねじ込まれるねじの先端部までを含む所定範囲が、この所定範囲よりも他端側の範囲に比べて、シャフトの径方向の変形見込み量だけ大きく形成されていることを特徴とする動圧流体軸受装置。
【請求項2】
ラジアル軸受部はシャフトの軸心方向において複数設けられ、
ねじ孔にねじ込まれるねじの先端部が一端側に位置するラジアル軸受部の形成範囲内に突入し、
所定範囲は、スリーブの開口一端部から前記一端側に位置するラジアル軸受部までを取り込んだ範囲に相当することを特徴とする請求項1記載の動圧流体軸受装置。
【請求項3】
スリーブの軸受孔は、所定範囲内において、ストレート状に形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の動圧流体軸受装置。
【請求項4】
スリーブの軸受孔は、所定範囲内において、開口一端部ほど大径となるテーパー状に形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の動圧流体軸受装置。
【請求項5】
スリーブに形成された軸受孔にシャフトが挿通され、
前記スリーブとシャフトとのいずれか一方が固定されているとともに他方が回転自在な動圧流体軸受装置であって、
シャフトに他部材を締結するためのねじ孔がシャフトの一端部から軸心方向に沿ってスリーブの開口一端部を越え他端側へ向かって形成され、
前記スリーブの内周面とシャフトの外周面との間隙に作動流体が充填され、
前記スリーブの内周面とシャフトの外周面との少なくともいずれかに、動圧発生用溝を形成したラジアル軸受部が設けられ、
前記シャフトの外径は、少なくともスリーブの開口一端部に臨む部分から前記ねじ孔にねじ込まれるねじの先端部までを含む所定範囲が、この所定範囲よりも他端側の範囲に比べて、シャフトの径方向の変形見込み量だけ小さく形成されていることを特徴とする動圧流体軸受装置。
【請求項6】
所定範囲は、スリーブの開口一端部に臨む部分から前記ねじ孔にねじ込まれるねじの先端部までの長さに、前記ねじ孔を形成した部分のシャフトの径方向の肉厚を加えた範囲に相当することを特徴とする請求項5記載の動圧流体軸受装置。
【請求項7】
シャフトは、所定範囲内において、ストレート状に形成されていることを特徴とする請求項5又は請求項6記載の動圧流体軸受装置。
【請求項8】
シャフトは、所定範囲内において、一端側ほど小径となるテーパー状に形成されていることを特徴とする請求項5又は請求項6記載の動圧流体軸受装置。
【請求項9】
シャフトがベースに固定されたスリーブに対して回転自在であり、
スリーブの他端部に、シャフトの他端面に対向するスラスト板が設けられ、
前記スリーブの内周面とシャフトの外周面との間隙と前記シャフトの他端面とスラスト板との間隙とが連通し、
これら間隙に作動流体が充填され、
前記シャフトの他端面とスラスト板との少なくともいずれかに、動圧発生用溝を形成したスラスト軸受部が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の動圧流体軸受装置。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の動圧流体軸受装置を備えたことを特徴とする小型モータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−183787(P2006−183787A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−378371(P2004−378371)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】