動脈硬化性関連遺伝子、およびその利用
【課題】動脈硬化性関連遺伝子および該遺伝子の特徴を利用する用途を提供する。
【解決手段】アテローム血栓性脳梗塞をターゲットとした大規模な症例-対照相関研究により、脳梗塞等の動脈硬化性疾患に関連するとして同定された2種の遺伝子上に見出された多型変異を指標とする、動脈硬化性疾患のリスク素因の有無の検査方法。また、該遺伝子の発現もしくは機能を指標とする、動脈硬化性疾患の治療薬のスクリーニング方法。さらに該遺伝子の発現を抑制する、動脈硬化疾患の治療・予防薬。
【解決手段】アテローム血栓性脳梗塞をターゲットとした大規模な症例-対照相関研究により、脳梗塞等の動脈硬化性疾患に関連するとして同定された2種の遺伝子上に見出された多型変異を指標とする、動脈硬化性疾患のリスク素因の有無の検査方法。また、該遺伝子の発現もしくは機能を指標とする、動脈硬化性疾患の治療薬のスクリーニング方法。さらに該遺伝子の発現を抑制する、動脈硬化疾患の治療・予防薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ARHGEF10遺伝子もしくはGABBR1遺伝子の多型変異を指標とする動脈硬化性関連疾患のリスク素因の有無の検査方法、並びに、該遺伝子を利用した動脈硬化性疾患治療薬のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界中で脳卒中は一般的死因の1つであり、また機能障害の主な原因である(非特許文献1)。特に、高齢者人口が増加している国々では、さらに急速なる増加が懸念される。したがって、脳卒中の一次予防は深刻な問題であり、新規な予防手段の開発が緊急に必要とされている。双生児研究および家族研究により、虚血性脳卒中のリスクは遺伝要因および環境要因に左右されることが示されている(非特許文献2)。虚血性脳卒中に対する感受性遺伝子の同定により、この疾患の新しい病態生理学的機序を解明することおよび新規予防手段の開発を導くことが期待されている。従来のゲノム全体での相関研究により、いくつかの感受性遺伝子が報告されているが(非特許文献3)、虚血性脳卒中における遺伝要素の一般的形式は依然としてほとんど不明である。
【0003】
虚血性脳卒中は通常、いくつかのサブタイプに分類される。病態生理学的機序および予防手段の観点から、虚血性脳卒中はアテローム血栓性脳梗塞および心原性脳梗塞に分類される(非特許文献3、4、5)。アテローム血栓性脳梗塞は主に、様々な大きさの動脈におけるアテローム硬化によって引き起こされ、主な予防手段は、高血圧、糖尿病、高脂血症、および喫煙といった心血管の危険因子を制御することである。一方、心原性脳梗塞は主に、心房細動および心臓弁膜症といった心疾患によって引き起こされ、主な予防手段は抗凝固剤の使用である。これら2つのサブタイプの遺伝的特質に関して、Jerrard-Dunneらは、アテローム血栓性脳梗塞の遺伝要素の方が心原性脳梗塞の遺伝要素よりも強いということを示し、遺伝学的研究はアテローム血栓性脳梗塞に的を絞ることでより効率的になりうるということを示唆した(非特許文献6)。
【0004】
また、GABBR1遺伝子に関しては、GABA B受容体に関する総説(非特許文献7および8)、およびGABBR1 isoform eに関する報告(非特許文献9)が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Lopez AD, ら著、「Global and regional burden of disease and risk factors, 2001: systematic analysis of population health data.」、Lancet、2006年、Vol. 367、p.1747-1757.
【非特許文献2】Flossmann E, ら著、「Systematic review of methods and results of studies of the genetic epidemiology of ischemic stroke.」、Stroke、2004年、Vol.35、p.212-227.
【非特許文献3】Ikram MA, ら著、「Genomewide Association Studies of Stroke.」、 N Engl J Med、2009年、Vol.360、p.1718-1728.
【非特許文献4】Rosamond WD,ら著、「Stroke incidence and survival among middle-aged adults: 9-year follow-up of the Atherosclerosis Risk in Communities (ARIC) cohort.」、Stroke、1999年、Vol.30、p.736-743.
【非特許文献5】Sacco RL, ら著、「American Heart Association/American Stroke Association Council on Stroke; Council on Cardiovascular Radiology and Intervention; American Academy of Neurology. Guidelines for prevention of stroke in patients with ischemic stroke or transient ischemic attack: a statement for healthcare professionals from the American Heart Association/American Stroke Association Council on Stroke: co-sponsored by the Council on Cardiovascular Radiology and Intervention: the American Academy of Neurology affirms the value of this guideline.」、Circulation、2006年、Vol.113、e409-e449.
【非特許文献6】Jerrard-Dunne P, ら著、「Evaluating the genetic component of ischemic stroke subtypes: a family history study.」、Stroke、2003年、Vol.34、p.1364-1369.
【非特許文献7】Piers C. Emsonら著、「GABA(B) receptors: structure and function.」、Prog Brain Res., 2007年、Vol.160、p.43-57
【非特許文献8】BERNHARD BETTLERら著、「Molecular Structure and Physiological Functions of GABAB Receptors」、Physiol Rev、2004年Jul、Vol.84、p.835 - 867
【非特許文献9】David A. Schwarzら著、「Characterization of g-Aminobutyric Acid Receptor GABAB(1e), a GABAB(1) Splice Variant Encoding a Truncated Receptor」、Biol. Chem.、2000年October 13、Vol. 275、Issue 41、p. 32174-32181
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、動脈硬化性関連遺伝子および該遺伝子の特徴を利用する用途の提供を課題とする。より具体的には本発明は、動脈硬化性関連遺伝子および該遺伝子上の多型を利用した動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法、並びに、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤のスクリーニング方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、アテローム血栓性脳梗塞に的を絞り、日本人集団における大規模な症例-対照相関研究を実施し(Kubo M, ら著、「A nonsynonymous SNP in PRKCH (protein kinase C eta) increases the risk of cerebral infarction.」、Nat Genet、2007年、Vol.36、p.233-239.; Hata J, ら著、「Functional SNP in an Sp1-binding site of AGTRL1 gene is associated with susceptibility to ischemic stroke.」、Hum Mol Genet、2007年、Vol.16、p.630-639.)、染色体8p23上のグアニンヌクレオチド交換因子10(ARHGEF10)をコードする遺伝子をアテローム血栓性脳梗塞の新規な感受性遺伝子として同定することに成功した。そして、ARHGEF10遺伝子上の多型が脳梗塞等の動脈硬化性疾患と関連することを新たに見出した。
【0008】
また、この遺伝子の機能的ハプロタイプが、Sp1結合親和性を改変することでその転写活性に影響を及ぼすことを見出した。さらに、低分子量GTPase活性アッセイにより、ARHGEF10の遺伝子産物であるグアニンヌクレオチド交換因子10(GEF10)がRhoAを特異的に活性化することが示された。RhoA-Rhoキナーゼ経路は、心血管疾患およびアテローム硬化の病因において重要な役割を有するため、ARHGEF10のハプロタイプは虚血性脳卒中の発症に対する感受性に関与している可能性がある。
【0009】
また発明者らは、GABBR1遺伝子上の多型が脳梗塞等の動脈硬化性疾患と関連することを新たに見出した。
上述の如く本発明者らは、脳梗塞等の動脈硬化性疾患に関連する2遺伝子、並びに動脈硬化性疾患に関連する多型を同定することに成功し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明は、脳梗塞等の動脈硬化性疾患に関連する遺伝子、および該遺伝子上の多型を利用した動脈硬化性疾患のリスク素因の有無の検査方法、並びに、動脈硬化性疾患の治療のための薬剤のスクリーニング方法に関し、より具体的には、
〔1〕 被検者におけるARHGEF10遺伝子の発現を指標とすることを特徴とする、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法、
〔2〕 被検者について、ARHGEF10遺伝子におけるDNA変異を検出することを特徴とする、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法、
〔3〕 前記変異が、Sp1転写因子との結合を変化させる変異である、〔2〕に記載の検査方法、
〔4〕 被検者について、GABBR1遺伝子におけるDNA変異を検出することを特徴とする、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法、
〔5〕 変異が多型変異である、〔2〕〜〔4〕のいずれかに記載の検査方法、
〔6〕 被検者について、GABBR1遺伝子における多型部位の塩基種を決定することを特徴とする、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法、
〔7〕 多型部位が、GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列における(1a)1位、(2a)4572位、(3a)7333位、(4a)7599位、(5a)7775位、(6a)8114位、(7a)8479位、(8a)10188位、(9a)13327位、(10a)13371位、または(11a)15463位の多型部位である、〔6〕に記載の検査方法、
〔8〕 〔7〕の(1a)〜(11a)に記載の多型部位における塩基種が、それぞれ以下の(1b)〜(11b)である場合に、被検者は動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと判定される〔7〕に記載の検査方法、
(1b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の1位における塩基種がT
(2b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の4572位における塩基種がA
(3b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7333位における塩基種がG
(4b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7599位における塩基種がC
(5b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位における塩基種がA
(6b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の8114位における塩基種がG
(7b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の8479位における塩基種がA
(8b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の10188位における塩基種がG
(9b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の13327位における塩基種がA
(10b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の13371位における塩基種がT
(11b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の15463位における塩基種がC
〔9〕 被検者について、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法であって、以下の(A)〜(C)のいずれかに記載のハプロタイプを示すDNAブロックが検出された場合に動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと判定される方法、
(A)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれA、A、G、A、A、およびCであるハプロタイプ
(B)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれG、G、A、G、G、およびGであるハプロタイプ
(C)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれG、G、G、G、A、およびCであるハプロタイプ
〔10〕 被検者について動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法であって、以下の(A)〜(C)のいずれかに記載のハプロタイプを示すDNAブロック内に存在し互いに連鎖することを特徴とする多型部位の塩基種を決定する工程を含む検査方法、
(A)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれA、A、G、A、A、およびCであるハプロタイプ
(B)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれG、G、A、G、G、およびGであるハプロタイプ
(C)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれG、G、G、G、A、およびCであるハプロタイプ
〔11〕 以下の工程(a)および(b)を含む、被検者について、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法、
(a) 被検者におけるGABBR1遺伝子上の多型部位について、塩基種を決定する工程
(b)(a)で決定された塩基種が、以下の(A)〜(C)のいずれかに記載のハプロタイプを示すGABBR1遺伝子における前記多型部位の塩基種と同一であった場合に、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと判定する工程
(A)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれA、A、G、A、A、およびCであるハプロタイプ
(B)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれG、G、A、G、G、およびGであるハプロタイプ
(C)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれG、G、G、G、A、およびCであるハプロタイプ
〔12〕 前記(a)の多型部位が、GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列における1位、4572位、7333位、7599位、7775位、8114位、8479位、10188位、13327位、13371位、または15463位のいずれかの多型部位である、〔11〕に記載の検査方法、
〔13〕 被検者について、ARHGEF10遺伝子における多型部位の塩基種を決定することを特徴とする、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法、
〔14〕 多型部位が、ARHGEF10遺伝子上の部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列における(1a)2225位の多型部位である、〔13〕に記載の検査方法、
〔15〕 〔14〕の(1a)に記載の多型部位における塩基種が、以下の(1b)である場合に、被検者は動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと判定される〔14〕に記載の検査方法、
(1b)ARHGEF10遺伝子上の部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列の2225位の塩基種がG
〔16〕 被検者について、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法であって、以下の(A)に記載のハプロタイプを示すDNAブロックが検出された場合に動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと判定される方法、
(A)ARHGEF10遺伝子上の多型部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列の2222位、および2225位の多型部位における塩基種が、それぞれCおよびGであるハプロタイプ
〔17〕 被検者について動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法であって、以下の(A)に記載のハプロタイプを示すDNAブロック内に存在し互いに連鎖することを特徴とする多型部位の塩基種を決定する工程を含む検査方法、
(A)ARHGEF10遺伝子上の多型部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列の2222位、および2225位の多型部位における塩基種が、それぞれC、およびGであるハプロタイプ
〔18〕 以下の工程(a)および(b)を含む、被検者について、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法、
(a) 被検者におけるARHGEF10遺伝子上の多型部位について、塩基種を決定する工程
(b)(a)で決定された塩基種が、以下の(A)に記載のハプロタイプを示すARHGEF10遺伝子における前記多型部位の塩基種と同一であった場合に、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと判定する工程
(A)ARHGEF10遺伝子上の多型部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列の2222位、および2225位の多型部位における塩基種が、それぞれC、およびGであるハプロタイプ
〔19〕 前記(a)の多型部位が、ARHGEF10遺伝子上の部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列における2222位、または2225位の多型部位である、〔18〕に記載の検査方法、
〔20〕 被検者由来の生体試料を被検試料として検査に供する、〔1〕〜〔19〕のいずれかに記載の検査方法、
〔21〕 〔7〕の(1a)〜(11a)に記載の多型部位、または、〔14〕の(1a)に記載の多型部位を含むDNAにハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチドを含む、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かを検査するための試薬、
〔22〕 〔7〕の(1a)〜(11a)に記載の多型部位、または、〔14〕の(1a)に記載の多型部位を含むDNAとハイブリダイズするヌクレオチドプローブが固定された固相からなる、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かを検査するための試薬、
〔23〕 〔7〕の(1a)〜(11a)に記載の多型部位、または、〔14〕の(1a)に記載の多型部位を含むDNAを増幅するためのプライマーオリゴヌクレオチドを含む、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かを検査するための試薬、
〔24〕 以下の(a)または(b)を有効成分として含有する、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査用試薬、
(a)ARHGEF10遺伝子の転写産物にハイブリダイズするオリゴヌクレオチド
(b)ARHGEF10遺伝子によってコードされるタンパク質を認識する抗体
〔25〕 以下の(a)または(b)を有効成分として含有する、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤のスクリーニング用試薬、
(a)ARHGEF10遺伝子の転写産物にハイブリダイズするオリゴヌクレオチド
(b)ARHGEF10遺伝子によってコードされるタンパク質を認識する抗体
〔26〕 ARHGEF10遺伝子の発現、もしくは該遺伝子によってコードされるタンパク質の機能を抑制する物質を有効成分として含有する、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤、
〔27〕 ARHGEF10遺伝子の発現抑制物質が、以下の(a)〜(c)からなる群より選択される化合物である、〔26〕に記載の動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤、
(a)ARHGEF10遺伝子の転写産物またはその一部に対するアンチセンス核酸
(b)ARHGEF10遺伝子の転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有する核酸
(c)ARHGEF10遺伝子の発現をRNAi効果による阻害作用を有する核酸
〔28〕 ARHGEF10遺伝子によってコードされるタンパク質の機能抑制物質が、以下の(a)または(b)の化合物である、〔26〕に記載の動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤、
(a)ARHGEF10遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する抗体
(b)ARHGEF10遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する低分子化合物
〔29〕 以下の(a)または(b)を有効成分として含有する、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤、
(a)エキソン15を欠損したGABBR1によって形成されるGABA B受容体のリガンド
(b)RhoAインヒビター
〔30〕 ARHGEF10遺伝子の発現量または該遺伝子によってコードされるタンパク質の活性を低下させる化合物を選択することを特徴とする、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤のスクリーニング方法、
〔31〕 以下の(a)〜(c)の工程を含む、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤のスクリーニング方法、
(a)ARHGEF10遺伝子を発現する細胞に、被検化合物を接触させる工程
(b)該ARHGEF10遺伝子の発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、該発現レベルを低下させる化合物を選択する工程
〔32〕 以下の(a)〜(c)の工程を含む、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤のスクリーニング方法、
(a)ARHGEF10遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞または細胞抽出液と、被検化合物を接触させる工程
(b)該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、該発現レベルを低下させる化合物を選択する工程、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明において、アテローム血栓性脳梗塞をターゲットとした大規模な症例-対照相関研究のデータを分析した。ARHGEF10のイントロン17に位置する新規な候補遺伝子座rs2280887が見出された。このSNPは、多重検定の補正後もアテローム血栓性脳梗塞に有意に相関しており、この相関は他の症例-対照サンプルでも再現された。ARHGFE10遺伝子のファインマッピングにより、4つの高度に関連したSNP(rs2280887、rs35234164、rs4480162、およびrs4376531)が機能的意義を有する候補であることが示された。これら4つのSNPの機能分析により、rs4480162およびrs4376531を含むハプロタイプがSp1転写因子の結合親和性を改変し、感受性ハプロタイプにおけるARHGEF10転写活性を増強しうることが示された。
【0012】
また、GEF10が、アテローム硬化の様々な過程において重要な役割を有するRhoAを特異的に活性化することが見出された。これらの知見は、ARHGEF10の感受性ハプロタイプを有する被験者が、転写物をより高発現し、かつより高いRhoA活性を有しうることを示唆する。RhoA-Rhoキナーゼ経路がアテローム硬化の病因に関連していることから、ARHGEF10の機能的ハプロタイプはアテローム血栓性脳梗塞の発症をもたらしうる。この知見は、集団に基づくコホート研究により補強された。
【0013】
グアニンヌクレオチド交換因子(GEF)は、多様な細胞外刺激に応答して低分子量GTPaseを活性化し、最終的には多数の細胞応答を調節する(Rossman KL, et al., Nature Rev Mol Cell Biol, 2005;6:167-180.)。アクチン細胞骨格のマスターレギュレーターとして同定される低分子量GTPaseは、収縮、移動、増殖、およびアポトーシスを含む極めて多様な細胞機能を制御する。低分子量GTPaseは、不活性なGDP結合型と活性なGTP結合型との間を循環する分子スイッチとして作用する(Loirand G, et al., Curr Opin Pharmacol, 2008;2:174-180.)。Rho GEFは、GTPと交換にGDPの放出を促進することによって低分子量GTPaseの活性化を仲介する(Bos JL, et al., Cell, 2007;129:865-877.)。Rho GEFのメンバーであるARHGEF10は、ヒト脳由来のcDNAクローンのシーケンシングにより同定され(Nagase T, et al., DNA Res, 2000;31:347-355.)、脳だけでなく心臓を含む様々な組織で発現することが見出された(Yoshizawa M, et al., Gene Expr Patterns, 2003;3:375-381.)。ARHGEF10の点変異(T109I)は、常染色体性優性遺伝により末梢神経の運動神経および知覚神経伝導速度が低下した家系において共分離することが報告されている(Verhoeven K, et al., Am J Hum Genet, 2003;73:926-932.)。しかしながら、ARHGEF10の機能は大部分が未知である。
【0014】
本発明者らは、GEF10がRhoAを特異的に活性化し、RhoA-Rhoキナーゼ活性の調節を通してアテローム血栓性脳梗塞の発症に寄与しうることを見出した。近年の連関研究により、いくつかのRho GEFがアテローム硬化の病因に関連している可能性があることが示された。II型糖尿病の連鎖スキャンにより、LARGおよびPDZ-Rho GEFの非同義SNPがインシュリン感受性またはインシュリン耐性に相関していることが確認された(Kovacs P, et al., Diabetes, 2006;55:1497-1503.、Fu M, et al., Diabetes, 2007;56:1454-1459.)。別の連関研究は、kalirin遺伝子を早期発症性冠動脈疾患の候補遺伝子として見出した(Wang L, et al., Am J Hum Genet, 2007;80:650-663.)。これらの結果は、Rho GEF多型が低分子量GTPaseシグナル伝達経路に影響を及ぼし、結果としてヒトのアテローム硬化の病因となることを示唆している。
【0015】
特性が最もよく判明している低分子量GTPaseであるRhoA(Etienne-Manneville S, Hall A. Nature, 2002;420:629-935.)およびそのエフェクターの1つであるRho-キナーゼは、内皮細胞機能不全、炎症、および血管平滑筋細胞の増殖を含むアテローム硬化の様々な過程において重要な役割を果たすことが報告されている(Loirand G, et al., Circ Res, 2006;98:322-334.、Ming XF, et al., Circulation, 2004;110:3708-3714.、Stamatovic SM,et al., J. Cell Sci, 2003;116:4615-4628.、Sauzeau V, et al., Circ Res, 2001;88:1102-1104.、Rikitake Y, Liao JK. Circ Res, 2005; 97:1232-1235.)。これら状況から、RhoA-Rhoキナーゼ経路を阻害する薬物、たとえばRhoキナーゼ阻害剤(Loirand G, et al.,Circ Res, 2006;98:322-334.)またはスタチン(Rikitake Y, Liao JK. Circ Res, 2005; 97:1232-1235.)は、臨床の場では既に役に立っている。本発明者らによって見出された知見から、アテローム血栓性脳梗塞のより効果的な予防のためにRhoA-Rhoキナーゼ経路阻害剤をARHGEF10の感受性ハプロタイプを有する被験者に用いることが期待できる。
【0016】
結論として、ARHGEF10のイントロン17に位置するrs4480162およびrs4376531を含むハプロタイプは、アテローム血栓性脳梗塞と有意に相関していた。感受性ハプロタイプを有する個体は、Sp1結合に起因してGEF10転写物をより高発現し、かつより高いRhoA-Rhoキナーゼ活性を有する可能性がある。このより高い活性は最終的に、一般集団中のアテローム血栓性脳梗塞の罹患率の増加をもたらす。本発明者らの知見は、アテローム硬化の新規の病因の解明および虚血性脳卒中の予防療法の開発に光をあてる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1A】ARHGEF10における、エキソン-イントロン構造、症例-対照研究の結果、および連鎖不平衡マップを示す図である。(I)ARHGEF10の全エキソン-イントロン構造。(II)マーカーSNP rs2280887の周辺のエキソン-イントロン構造。(III)症例-対照相関研究の結果。優性モデルについての-log10に変換したP値がy軸上にプロットされている。
【図1B】図1Aの続きの図である。(IV)D'で測定した、SNP-SNPペア間での連鎖不平衡マップ。明るい赤はペアD'が高い領域を表し、白はペアD'が低い領域を表す。(V)r2で測定した、SNP-SNPペア間での連鎖不平衡マップ。黒はペアr2が高い領域を表し、白はペアr2が低い領域を表す。
【図2】機能的ハプロタイプは、Sp1の結合親和性を改変し、ARHGEF10の転写活性に影響を及ぼすことを示す写真および図である。(A)ARHGEF10の2つのSNP(右のパネルおよび左のパネル)ならびに1つのハプロタイプ(中央のパネル)の各対立遺伝子の周辺の5'末端標識50 bpプローブを用いたゲルシフトアッセイ。実線の矢印は、非感受性ハプロタイプ(G-C)よりも、rs4480162およびrs4376531を含む感受性ハプロタイプ(C-G)に対し、核因子の密接な結合を示すシフトバンドを示している。(B)非標識の自己オリゴヌクレオチドまたは非自己オリゴヌクレオチドを用いた競合アッセイ。DNA-タンパク質複合体(実線の矢印)は、G-C対立遺伝子を有するよりもC-G対立遺伝子を有する非標識のオリゴヌクレオチドによって、より効率的に競合された。(C)非標識Sp1結合コンセンサスオリゴヌクレオチドを用いた競合アッセイおよび抗Sp1抗体を用いたスーパーシフトアッセイ。電気泳動の実施時間を長くすることで、さらなるシフトバンドをより明確に(点線矢印)観察することができた。(D)ルシフェラーゼアッセイ。ハプロタイプの各対立遺伝子の周辺の50bp断片を、pGL3プロモーターベクターに挿入した。各試料を3回ずつ調査し、データを平均± SDとして示した。*はスチューデントt検定でP < 0.05を示す。
【図3】GEF10はRhoAを特異的に活性化することを示す図および写真である。(A)RhoA活性アッセイ。上部に示したように、293FT細胞にプラスミドをトランスフェクトした。GST-ローテキンによって細胞溶解物にプルダウンアッセイを行い、抗Myc抗体による免疫ブロットに供した。細胞溶解物全体を、抗Myc抗体および抗FLAG抗体による免疫ブロットで分析し、総RhoAおよびARHGEF10をそれぞれ検出した。GTP結合型RhoAおよび総RhoAを、LAS-3000システムのMulti Gaugeソフトウェアを用いてバンド強度により定量化した(下部)。RhoA活性を、総RhoAの強度に対するGTP結合RhoAの強度の相対比として算出した。対照(空ベクターをトランスフェクトした)における相対強度を、1単位として表した。(B)Rac1活性アッセイ。(C)Cdc42活性アッセイ。(B)および(C)を、パネル(A)においてと同様に、GST-ローテキンの代わりにGST-PAK-1を用いたプルダウンアッセイによって分析した。実験は最低3回繰り返した。
【図4】久山町研究の14年間の追跡調査期間中の、機能的ハプロタイプによる虚血性脳卒中の罹患率のカプラン・マイヤー推定値を示す図である。
【図5】図5の上部分はGABBR1遺伝子近傍の各SNPに対してアリル頻度、優性または劣性モデルの中で最も低いp値を対数変換したものをy軸に、染色体上の位置をx軸にプロットしている。下部分はHaploview ver3.32を用いてΔにより計測されたSNP間の連鎖不平衡を示す。
【図6】PCR法によるexon 15の有無を確認した写真である。cDNAの由来を以下に示す。1:ヒト胎児脳、2:ヒト胸部大動脈血管平滑筋細胞、3:ヒト冠状動脈血管平滑筋細胞、4:ヒト胸部大動脈血管内皮細胞、5:ヒト冠状動脈血管内皮細胞、6:ヒト脳血管内皮細胞
【図7】Western Blotting法によるタンパクレベルでの検出を示す写真である。
【図8】培養期間を変動した場合の、ヒト胸部大動脈血管平滑筋細胞および冠状動脈血管平滑筋細胞におけるGABBR1、GABBR2またはα-actinのGAPDHとの相対mRNA発現量を示すグラフである。
【図9】培地を変動した場合の、ヒト冠状動脈血管平滑筋細胞におけるGABBR1およびGABBR2の、GAPDHとの相対mRNA発現量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らは、脳梗塞等の動脈硬化性疾患と関連する遺伝子として、ARHGEF10遺伝子およびGABBR1遺伝子を同定し、さらに、該遺伝子上の多型変異(SNP)を同定した。また、ARHGEF10遺伝子の発現または該遺伝子によってコードされるタンパク質の機能の亢進は動脈硬化性疾患の発症と深く関連していることが見出された。被検者について、ARHGEF10遺伝子の発現が亢進(上昇)していれば、動脈硬化性疾患のリスク素因を有する(動脈硬化性疾患に罹患しやすい体質である)ものと判定することが可能である。
【0019】
本発明において「動脈硬化性疾患」とは、通常、動脈硬化を起因とする疾患を指す。具体的には、脳梗塞(例えば、ラクナ梗塞、アテローム性血栓性梗塞を含む)、心筋梗塞、動脈硬化症(例えば、アテローム性動脈硬化症を含む)、閉塞性動脈硬化症、大動脈瘤、腎動脈狭窄等を例示することができる。また、上記のラクナ梗塞は細動脈硬化を起因とする疾患であり、例えば、脳血管性痴呆(特にビンスワンガー病)、無症候性脳梗塞、微小心筋梗塞等も、本発明の動脈硬化性疾患に含まれる。
【0020】
ARHGEF10遺伝子またはGABBR1遺伝子上の多型変異、またはARHGEF10遺伝子の発現等を指標とすることにより、動脈硬化性疾患のリスク素因の有無を検査することが可能であることが、本発明者らによって初めて見出された。
【0021】
本発明は、まず、被検者(被検者由来の生体試料)におけるARHGEF10遺伝子の発現を指標とすることを特徴とする、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法を提供する。
【0022】
従って、ARHGEF10遺伝子の発現、または該遺伝子によってコードされるタンパク質の活性(機能)を指標とすることにより、被検者について、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かを検査することができる。
【0023】
本発明におけるARHGEF10遺伝子の塩基配列、および該遺伝子によってコードされるタンパク質のアミノ酸配列に関する情報は、例えば、遺伝子名を参考に公共のデータベースから取得することが可能である。
【0024】
なお、本発明におけるGABBR1遺伝子およびARHGEF10遺伝子(これらの遺伝子をまとめて本願明細書において「本発明の遺伝子」と記載する場合あり)の塩基配列をそれぞれ配列番号1、2に示す。なおGABBR1遺伝子に関して、配列表はプラス鎖を掲載している。
【0025】
本発明において「被検者」とは、通常ヒトであるが、本発明の検査方法は必ずしもヒトのみを被検対象とする方法に限定されない。ヒト以外の生物(好ましくは、脊椎動物であり、より好ましくはマウス、ラット、サル、イヌ、ネコ等の哺乳動物)を検査対象とする場合は、被検対象とする生物が有する内在性のARHGEF10遺伝子に相当する遺伝子について、その発現量を指標として検査を行う。従って本発明における「ARHGEF10遺伝子」には、例えば、配列番号:2に記載の塩基配列からなるDNAに対応する他の生物における内在性のDNA(ARHGEF10遺伝子ホモログ等)が含まれる。
【0026】
また、配列番号:2に記載の塩基配列からなるDNAに対応する他の生物の内在性のDNAは、一般的に、配列番号:2に記載のDNAと高い相同性を有する。高い相同性とは、50%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上(例えば、95%以上、さらには96%、97%、98%または99%以上)の相同性を意味する。この相同性は、mBLASTアルゴリズム(Altschul et al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 2264-8; Karlin and Altschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 5873-7)によって決定することができる。また、該DNAは、生体内から単離した場合、配列番号:2に記載のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズすると考えられる。ここで「ストリンジェントな条件」としては、例えば「2×SSC、0.1%SDS、50℃」、「2×SSC、0.1%SDS、42℃」、「1×SSC、0.1%SDS、37℃」、よりストリンジェントな条件として「2×SSC、0.1%SDS、65℃」、「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」および「0.2×SSC、0.1%SDS、65℃」の条件を挙げることができる。当業者においては、他の生物におけるARHGEF10遺伝子に相当する内在性の遺伝子を、ARHGEF10遺伝子の塩基配列を基に適宜取得することが可能である。
【0027】
また本発明は、被検者におけるARHGEF10遺伝子の発現量が対照と比較して上昇している場合に、被検者は動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと判定される、動脈硬化性疾患のリスク素因の有無の検査方法を提供する。
【0028】
上記方法においては、通常、被検者由来の生体試料を被検試料とする。該被検試料におけるARHGEF10遺伝子の発現量の測定は、当業者においては公知の技術を用いて適宜実施することが可能である。
【0029】
なお、上記遺伝子の「発現」には、該遺伝子からの「転写」あるいはポリペプチドへの「翻訳」が含まれる。
【0030】
遺伝子の発現量を、該遺伝子の翻訳産物(タンパク質)の生成量を指標として測定する場合、例えば、被検試料からタンパク質試料を調製し、該タンパク質試料に含まれるARHGEF10の量を測定する。このような方法としては、当業者に周知の方法、例えば、酵素結合免疫測定法(ELISA)、二重モノクローナル抗体サンドイッチイムノアッセイ法、モノクローナルポリクローナル抗体サンドイッチアッセイ法、免疫蛍光法、ウェスタンブロッティング法、ドットブロッティング法、免疫沈降法、プロテインチップによる解析法(蛋白質 核酸 酵素 Vol.47 No.5(2002)、蛋白質 核酸 酵素 Vol.47 No.8(2002))、2次元電気泳動法、SDSポリアクリルアミド電気泳動法が挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
遺伝子の発現量を、該遺伝子の転写産物(mRNA)の生成量を指標として測定する場合、例えば、被検試料からRNA試料を調製し、該RNA試料に含まれるARHGEF10をコードするRNAの量を測定する。また、被検試料からcDNA試料を調製し、該cDNA試料に含まれるARHGEF10をコードするcDNAの量を測定することによって、発現量を評価することも可能である。被検試料からのRNA試料やcDNA試料は、被検者由来の生体試料から、当業者に周知の方法で調製することができる。このような方法としては、当業者に周知の方法、例えばノーザンブロッティング法、RT-PCR法、DNAアレイ法等を挙げることができる。
【0032】
なお、上記「対照」とは、通常、健常者由来の生体試料におけるARHGEF10遺伝子の発現量を指す。なお、本発明におけるARHGEF10遺伝子の発現とは、ARHGEF10遺伝子から転写されるmRNAの発現、またはARHGEF10遺伝子によってコードされるタンパク質の発現の両方を意味するものである。
【0033】
また本発明は、被検者について、ARHGEF10もしくはGABBR1遺伝子における多型変異を検出することを特徴とする、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法を提供する。
【0034】
本発明において「動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査」には、被検者について動脈硬化性疾患の非リスク素因を有するか否かの検査、または、被検者について動脈硬化性疾患に罹患する可能性が高いか低いかを判定するための検査が含まれる。
【0035】
本発明の方法においては、ARHGEF10遺伝子において変異が検出された場合に、被検者は動脈硬化性疾患のリスク素因を有する、または、動脈硬化性疾患の非リスク素因を有さない、あるいは動脈硬化性疾患に罹患しやすい体質を有すると判定される。
【0036】
一方、ARHGEF10遺伝子において変異が検出されない場合に、被検者は動脈硬化性疾患の非リスク素因を有する、または動脈硬化性疾患のリスク素因を有さない等と判定される。
【0037】
また、本発明の方法においては、GABBR1遺伝子において変異が検出されない場合(野生型の場合)に、被検者は動脈硬化性疾患のリスク素因を有する、または、動脈硬化性疾患の非リスク素因を有さない、あるいは動脈硬化性疾患に罹患しやすい体質を有すると判定される。
【0038】
一方、GABBR1遺伝子において変異が検出された場合(非野生型の場合)に、被検者は動脈硬化性疾患の非リスク素因を有する、または動脈硬化性疾患のリスク素因を有さない等と判定される。
【0039】
また本発明の方法により、動脈硬化性疾患を罹患していない被検者であっても、動脈硬化性疾患を罹患する可能性が高いか低いかを判定することができる。
【0040】
なお、本明細書で用いられる「治療」とは、通常、薬理学的なおよび/または生理学的な効果を得ることを意味する。効果とは、疾患や症状を完全にあるいは部分的に妨げる点で予防的であってもよく、疾患の症状を完全にあるいは部分的に治療する点で治療的であっても良い。本明細書における「治療」とは、哺乳類、特にヒトにおける疾患の治療すべてを含んでいる。そしてさらに、疾患のリスク素因があるが未だ発病していると診断されていない被検者の発病の予防、疾患の進行を抑制すること、または疾患を軽減させること、発症を遅らせることなども、この「治療」に含まれる。
【0041】
本発明の検査方法により、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かを判定し、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと判定された患者は、発症する前に適切な治療を選択し、動脈硬化性疾患の発症を事前に予防することができると考えられる。
【0042】
本発明のARHGEF10もしくはGABBR1遺伝子のDNA配列としては、具体的には、それぞれ配列番号:2または1に記載の塩基配列が挙げられる。
【0043】
上記本発明の検査方法における「変異」の位置は、通常、上記ARHGEF10もしくはGABBR1遺伝子のORF中、あるいは上記遺伝子の発現を制御する領域(例えば、プロモーター領域、エンハンサー領域、イントロン等)中などに存在するが、これらに限定されるものではない。また、ARHGEF10遺伝子においては、この「変異」とは、通常、ARHGEF10遺伝子の発現量を亢進させる、mRNAの安定性を向上させる、あるいはARHGEF10遺伝子によってコードされるタンパク質の有する活性を上昇させるような変異であることが好ましい。本発明の変異の種類としては、例えば、塩基の付加、欠失、置換、挿入変異等を挙げることができる。
【0044】
本発明は、被検者についてARHGEF10遺伝子もしくはGABBR1遺伝子におけるDNA変異を検出することを特徴とする、動脈硬化性疾患のリスク要因を有するか否かの検査方法に関する。なお、本発明において「ARHGEF10遺伝子における(ARHGEF10遺伝子上)」もしくは「GABBR1遺伝子における(GABBR1遺伝子上)」の文言は、必ずしもこれらの遺伝子内の配列のみを指すものではなく、これらの遺伝子の近傍の配列をも包含するものとして解される。
【0045】
ARHGEF10遺伝子においては、Sp1転写因子の結合活性が変化するような「変異」であることが好ましい。該変異の好ましい例としては、後述の実施例において示すrs4480162(配列番号:1に記載の塩基配列上において2222位の多型部位の塩基種がCまたはrs4376531(配列番号:1に記載の塩基配列上において2225位の多型部位の塩基種がGを挙げることができる。
【0046】
本発明者らは、被検者におけるARHGEF10もしくはGABBR1遺伝子において、動脈硬化性疾患に対して有意に関連する多型変異を見出すことに成功した。従って、ARHGEF10もしくはGABBR1遺伝子上の多型部位について変異の有無を指標とする(塩基種を決定する)ことにより、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査を行なうことが可能である。
【0047】
本発明の好ましい態様においては、本発明のARHGEF10もしくはGABBR1遺伝子における多型変異を検出することを特徴とする、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かを検査する方法である。
【0048】
多型とは、遺伝学的には、人口中1%以上の頻度で存在している1遺伝子におけるある塩基の変化と一般的に定義されるが、本発明における「多型」は、この定義に制限されない。本発明における多型の種類としては、例えば、一塩基多型、一から数十塩基(時には数千塩基)が欠失あるいは挿入している多型等が挙げられる。さらに、多型部位の数も、1個に限定されず、複数個の多型であってもよい。
【0049】
また本発明は、被検者について、本発明のARHGEF10もしくはGABBR1遺伝子における多型部位の塩基種を決定することを特徴とする、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かを検査する方法を提供する。
【0050】
本発明の動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かを検査する方法における「多型部位」は、本発明のARHGEF10もしくはGABBR1遺伝子上、もしくはその周辺領域に存在する多型であれば、特に制限されない。GABBR1上に見出される多型部位に関する情報を表1−1から表1−2、ARHGEF10遺伝子上に見出される多型部位に関する情報を表2にそれぞれ示す。表中、「ストランド」の列における「+」はプラス鎖を、「−」はマイナス鎖を表す。また、「多型の種類」の列における「SNP」は一塩基多型変異を、「in/del」は挿入・欠失変異を表す。なお、表中「アリル1」がリスク型である。
【0051】
【表1−1】
【0052】
表1−2は表1−1の続きの表である。
【表1−2】
【0053】
【表2】
【0054】
即ち、本発明の好ましい態様においては、上記の表に記載された多型部位について塩基種を決定することを特徴とする方法である。
【0055】
本発明の動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法に利用可能な多型部位としては、上記の多型部位の中でも、ARHGEF10もしくはGABBR1遺伝子もしくは該遺伝子の周辺領域上の部位であることが好ましい。
【0056】
例えば、GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列における1位、4572位、6889位、7196位、7221位、7250位、7266位、7333位、7599位、7775位、8114位、8479位、8543位、10188位、11410位、11529位、11565位、11937位、13274位、13327位、13371位、13524位、13526位、14127位、15463位、17199位、17370位、17945位、17975位、18044位、18047位、18691位、26058位、26600位、29365位、または30722位の多型部位が好ましい。
【0057】
また、ARHGEF10遺伝子上の部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列における828位、2222位、2225位、または3171位の多型部位が好ましい。
【0058】
上記の多型部位を本明細書において、「本発明の多型部位」と記載する場合がある。
【0059】
なお、当業者においては掲載されたdbSNPデータベースのrs番号等をもとに、当該部位についての塩基種の情報を適宜取得することができる。また、SNP IDの記載内容は、先頭にrsが付くものはdbSNPデータベースの登録IDのうちNCBIにより一配列に一意に定まるIDを付与されたものである。また、dbSNPデータベースはウェブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/SNP/index.html)に公開されており、SNP IDに記載された登録ID番号を用いてウェブサイト上で検索することにより、塩基配列におけるSNPsの詳細な情報(例えば、染色体上の位置、多型部位の塩基の種類、前後の配列等)が入手できる。
【0060】
当業者においては、通常、本明細書において開示された多型に付与された登録ID番号、例えばdbSNPデータベースにおけるrs番号によって、本発明の多型部位の実際のゲノム上の位置および前後の配列等を容易に知ることができる。これによって、知ることができない場合であっても、当業者においては、配列番号:1または2で示される塩基配列および多型部位等に関する情報から、適宜、該多型部位に相当する実際のゲノム上の位置を知ることは容易である。例えば、公開されているゲノムデータベース等と照会することにより、本発明の多型部位のゲノム上の位置を知ることができる。即ち、配列表に記載の塩基配列とゲノム上の実際の塩基配列との間に若干の塩基配列の相違がみられた場合であっても、配列表に記載の塩基配列を基にゲノム配列と相同性検索等を行うことにより、本発明の多型部位について、実際のゲノム上の位置を正確に知ることが可能である。また、ゲノム上の位置が特定できない場合でも、本明細書に記載の配列表および多型部位の情報に基づき、本発明の検査方法を実施することは容易である。
【0061】
また、ゲノムDNAは、通常、互いに相補的な二本鎖DNA構造を有している。従って、本明細書においては、便宜的に一方の鎖におけるDNA配列を示した場合であっても、当然の如く、当該配列(塩基)に相補的な配列も開示したものと解釈される。当業者にとって、一方のDNA配列(塩基)が判れば、該配列(塩基)に相補的な配列(塩基)は自明である。
【0062】
本発明の動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法においては、以下に記載の多型部位について検査を行なうことが好ましい。
【0063】
また本発明のさらに好ましい態様においては、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法においては、以下の(1a)の多型部位と(11a)の多型部位との間の領域に含まれる多型部位、好ましくは、GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列における(1a)1位、(2a)4572位、(3a)7333位、(4a)7599位、(5a)7775位、(6a)8114位、(7a)8479位、(8a)10188位、(9a)13327位、(10a)13371位、または(11a)15463位の多型部位について検査を行う。
【0064】
本発明の好ましい態様においては、上記(1a)〜(11a)に記載の多型部位における塩基種が、それぞれ以下の(1b)〜(11b)である場合に、被検者は動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと判定される。被検者の動脈硬化性疾患の罹患の有無に関係無く、動脈硬化性疾患のリスク素因の有無の判定を行うことができる。
(1b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の1位における塩基種がT
(2b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の4572位における塩基種がA
(3b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7333位における塩基種がG
(4b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7599位における塩基種がC
(5b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位における塩基種がA
(6b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の8114位における塩基種がG
(7b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の8479位における塩基種がA
(8b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の10188位における塩基種がG
(9b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の13327位における塩基種がA
(10b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の13371位における塩基種がT
(11b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の15463位における塩基種がC
【0065】
なお、上記の塩基種は、本発明の遺伝子の塩基配列の+鎖もしくは−鎖のいずれかの鎖における塩基種を表す。当業者であれば、本明細書に開示された情報(特に表1−1から表1−2、および表2等)を基に、当該多型部位において検出すべき塩基の種類を適宜判断することができる。
【0066】
また別の態様として、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法においては、ARHGEF10遺伝子上の部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列における(1a)2225位の多型部位について検査を行う。
【0067】
本発明の好ましい態様においては、上記(1a)に記載の多型部位における塩基種が、以下の(1b)である場合に、被検者は動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと判定される。被検者の動脈硬化性疾患の罹患の有無に関係無く、動脈硬化性疾患のリスク素因の有無の判定を行うことができる。
(1b)ARHGEF10遺伝子上の部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列の2225位の塩基種がG
【0068】
本発明の方法において、上述の多型変異は一方のゲノムについて(ヘテロで)検出されればよいが、特に制限されないが、双方のゲノムにおいて(ホモで)検出されることが好ましい。
【0069】
例えば、ARHGEF10遺伝子上の部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列における2225位の遺伝子型がGG(ホモ)である場合に、被検者は動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと好適に判定される。
【0070】
本発明においては、上記多型部位以外であっても、該多型部位とその周辺のDNA領域は強く連鎖しているものと考えられることから、この強く連鎖しているDNAブロック上に存在する多型変異を検出することにより、本発明の検査方法を実施することも可能である。
【0071】
例えば、GABBR1遺伝子については、多型部位の塩基種が上記(1b)〜(11b)の塩基種であるような、動脈硬化性疾患の患者を含むヒトの小集団について、この「近傍の多型部位」(例えば、上記表1−1から表1−2に記載の多型部位)における塩基種を予め決定する。
【0072】
また、ARHGEF10遺伝子については、例えば、多型部位の塩基種が上記(1b)の塩基種であるような、動脈硬化性疾患の患者を含むヒトの小集団について、この「近傍の多型部位」(例えば上記表2に記載の多型部位)における塩基種を予め決定する。
【0073】
次いで、この「近傍の多型部位」について被検者における塩基種を決定し、予め決定された前記塩基種と比較することにより、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査を行うことができる。予め決定された塩基種と同一の塩基種である場合に、被検者は動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと判定される。本発明の検査方法により、被検者の動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かを判定することができ、治療方針の決定や薬剤投与量の決定等に利用することができる。
【0074】
例えば、GABBR1遺伝子上の配列番号:1に記載の塩基配列における7775位の多型部位の塩基種がAである動脈硬化性疾患を罹患している人を含むヒトの小集団について、近傍の多型部位、例えば7599位の多型部位の塩基種を決定する。この部位の塩基種が上記の動脈硬化性疾患を罹患している人においてCである頻度が、上記動脈硬化性疾患を発症していない人に比べ高かった場合、被検者について7599位の多型部位の塩基種を調べ、この部位の塩基種が同様にCであった場合には、被検者は動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと判定される。
【0075】
以上のように、本発明により、動脈硬化性疾患に関連する遺伝子上の領域が明らかになったことにより、当業者に過度の負担を強いることなく、上記動脈硬化性疾患のリスク素因の有無について検査を行うことができる。
【0076】
また、ヒトゲノムの解析が進み全塩基配列やSNP、マイクロサテライト、VNTR、RFLPsなどの多型情報も充実してきた。ゲノムの塩基配列について詳細が明らかになりつつある現在、最大の関心事は遺伝子あるいは特定の配列と機能(疾患・疾患の進行性などの表現型)との関連を解析することである。これを解決するための有力な手法の一つがハプロタイプを用いた遺伝統計学的解析である。
【0077】
ヒトの染色体は2本1組で存在し、それぞれ父親と母親から由来している。ハプロタイプとは、その一方に関する個体の遺伝子型の組み合わせをいい、それぞれ父母由来の1本の染色体上に遺伝子座がどのように並んでいるかを示すものである。染色体を父母から1本ずつ受け継ぐので、配偶子形成の際に組み換えが起きないとすれば1本の染色体上にのっている遺伝子は必ず一緒に子に伝えられる、すなわち連鎖する事になる。しかし、実際は減数分裂の際に組み換えが起きるため、1本の染色体上にのっている遺伝子であっても必ずしも連鎖しているわけではない。しかし逆に、遺伝的組み換えが起きた場合であっても同一染色体上の距離が近い遺伝子座は強く連鎖する。
【0078】
このような現象を集団において観察し、アリルの非独立が認められる事を連鎖不平衡という。例えば、3つの遺伝子座を観察した場合、これらの間に連鎖不平衡がないとすると、存在するハプロタイプは23通りと予測され、それぞれの頻度は各遺伝子座の頻度から予測される値となるが、連鎖不平衡がある場合には23通りより少ないハプロタイプしか存在せず、その頻度も予測と異なる値を示す結果となる。
【0079】
近年、ハプロタイプが連鎖不平衡解析に有用である事が示されており(Genetic Epidemiology 23:221-233)研究が行われているが、ゲノム上には組換えが起きやすい部位と起きにくい部位があり、1つの領域として先祖から子孫へと伝えられる部分(ハプロタイプによって特定される領域)は人種を越えて共通性がある事が明らかになっている(Science 226, 5576:2225-2229)。即ち、強く連鎖するDNA領域が存在し、この領域は一般的にDNAブロックと呼ばれる。本発明においては、本発明の多型部位を含むDNAブロックの存在の有無を検出することによっても、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査を行うことができる。
【0080】
即ち本発明の好ましい態様においては、以下の(A)〜(C)のいずれかに記載のハプロタイプを示すDNAブロックの存在が検出された場合に、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと判定されることを特徴とする、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かを検査する方法を提供する。
(A)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれA、A、G、A、A、およびCであるハプロタイプ
(B)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれG、G、A、G、G、およびGであるハプロタイプ
(C)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれG、G、G、G、A、およびCであるハプロタイプ
【0081】
また本発明の好ましい態様においては、以下の(A)に記載のハプロタイプを示すDNAブロックの存在が検出された場合に、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと判定されることを特徴とする、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かを検査する方法を提供する。
(A)ARHGEF10遺伝子上の多型部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列の2222位、および2225位の多型部位における塩基種が、それぞれCおよびGであるハプロタイプ
【0082】
本発明において、DNAブロックとは、各遺伝子座間で強い連鎖不平衡を示す部位(領域)を指す。動脈硬化性疾患と関連するDNAブロックが見出されれば、該DNAブロックを検出することにより、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査が可能となる。
【0083】
動脈硬化性疾患と関連するハプロタイプ(を示すDNAブロック)が見出されれば、該ハプロタイプを検出することにより、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査が可能となる。本発明者らは、鋭意研究により、動脈硬化性疾患に対する感受性と関連するハプロタイプを見出すことに成功した。
【0084】
従って、本発明はGABBR1遺伝子またはARHGEF10遺伝子上に存在する、動脈硬化性疾患と関連するハプロタイプ(を示すDNAブロック)を検出することを特徴とする、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法を提供する。
【0085】
本方法においては、被検者について「動脈硬化性疾患と関連するハプロタイプ」を検出することで、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かを判定することができる。これらの判定は例えば治療方針の決定等に利用することができる。
【0086】
上記「GABBR1遺伝子上に存在する、動脈硬化性疾患と関連するハプロタイプ(を示すDNAブロック)」とは、具体的には以下のようなハプロタイプ(を示すDNAブロック)を挙げることができる。
(A)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれA、A、G、A、A、およびCであるハプロタイプ
(B)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれG、G、A、G、G、およびGであるハプロタイプ
(C)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれG、G、G、G、A、およびCであるハプロタイプ
【0087】
なお上記(A)〜(C)に記載されるGABBR1遺伝子のハプロタイプ3種を、表3−1および表3−2に示す。
【表3−1】
【0088】
表3−2は表3−1の続きの表である。
【表3−2】
【0089】
上記表3−1および表3−2に記載の各ハプロタイプにおいて、「Hap-1」として記載されるハプロタイプを示すDNAブロックの存在が検出された場合、動脈硬化性疾患のリスク素因が「高」程度と判定される。また「Hap-2」として記載されるハプロタイプを示すDNAブロックの存在が検出された場合、動脈硬化性疾患のリスク素因が「中」程度と判断される。また「Hap-3」として記載されるハプロタイプを示すDNAブロックの存在が検出された場合、動脈硬化性疾患のリスク素因が「低」程度と判断される。
【0090】
上記「ARHGEF10遺伝子上に存在する、動脈硬化性疾患と関連するハプロタイプ(を示すDNAブロック)」とは、具体的には以下のようなハプロタイプ(を示すDNAブロック)を挙げることができる。
(A)ARHGEF10遺伝子上の多型部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列の2222位、および2225位の多型部位における塩基種が、それぞれC、およびGであるハプロタイプ
【0091】
本発明の上記方法の好ましい態様においては、被検者について動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法であって、以下の(A)〜(C)のいずれかに記載のハプロタイプを示すDNAブロック内に存在し互いに連鎖することを特徴とする多型部位の塩基種を決定する工程を含む検査方法である。
(A)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれA、A、G、A、A、およびCであるハプロタイプ
(B)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれG、G、A、G、G、およびGであるハプロタイプ
(C)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれG、G、G、G、A、およびCであるハプロタイプ
【0092】
また、本発明の上記方法の好ましい態様においては、被検者について動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法であって、以下の(A)に記載のハプロタイプを示すDNAブロック内に存在し互いに連鎖することを特徴とする多型部位の塩基種を決定する工程を含む検査方法である。
(A)ARHGEF10遺伝子上の多型部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列の2222位、および2225位の多型部位における塩基種が、それぞれC、およびGであるハプロタイプ
【0093】
即ち、本明細書において具体的に記載された部位以外の多型部位であっても、上記DNAブロック上に含まれる多型であって、本発明の多型部位と互いに連鎖している多型部位であれば、本発明の検査方法に利用することが可能である。
【0094】
上記方法の好ましい態様においては、以下の工程(a)および(b)を含む、被検者が動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法である。
(a) 被検者におけるGABBR1遺伝子上の多型部位について、塩基種を決定する工程
(b)(a)で決定された塩基種が、以下の(A)〜(C)のいずれかに記載のハプロタイプを示すGABBR1遺伝子における前記多型部位の塩基種と同一であった場合に、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと判定する工程
(A)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれA、A、G、A、A、およびCであるハプロタイプ
(B)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれG、G、A、G、G、およびGであるハプロタイプ
(C)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれG、G、G、G、A、およびCであるハプロタイプ
【0095】
なお、上記工程(a)における多型部位としては、例えば、上記表1−1から1−2に記載の各多型部位を挙げることができるが、好ましくは、GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列における1位、4572位、7333位、7599位、7775位、8114位、8479位、10188位、13327位、13371位、または15463位のいずれかの多型部位を示すことができる。
【0096】
また、上記方法の好ましい態様においては、以下の工程(a)および(b)を含む、被検者が動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法である。
(a) 被検者におけるARHGEF10遺伝子上の多型部位について、塩基種を決定する工程
(b)(a)で決定された塩基種が、以下の(A)に記載のハプロタイプを示すARHGEF10遺伝子における前記多型部位の塩基種と同一であった場合に、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと判定する工程
(A)ARHGEF10遺伝子上の多型部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列の2222位、および2225位の多型部位における塩基種が、それぞれCおよびGであるハプロタイプ
【0097】
なお、上記工程(a)における多型部位としては、例えば、上記表2に記載の各多型部位を挙げることができるが、好ましくは、ARHGEF10遺伝子上の部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列における2225位の多型部位を示すことができる。
【0098】
本発明の多型部位における塩基種の決定は、当業者においては種々の方法によって行うことができる。一例を示せば、本発明の多型部位を含むDNAの塩基配列を直接決定することによって行うことができる。
【0099】
本発明の検査方法に供する被検試料は、通常、予め被検者から取得された生体試料であることが好ましい。生体試料としては、例えばDNA試料を挙げることができる。本発明においてDNA試料は、例えば被検者の血液、皮膚、口腔粘膜、手術により採取あるいは切除した組織または細胞、検査等の目的で採取された体液等から抽出した染色体DNA、あるいはRNAを基に調製することができる。
【0100】
即ち本発明は、通常、被検者由来の生体試料(予め被検者から取得された生体試料)を被検試料として検査に供する方法である。
当業者においては、公知の技術を用いて、適宜、生体試料の調製を行うことができる。例えば、DNA試料は、本発明の多型部位を含むDNAにハイブリダイズするプライマーを用いて、染色体DNA、あるいはRNAを鋳型としたPCR等によって調製することができる。
【0101】
本方法においては、次いで、単離したDNAの塩基配列を決定する。単離したDNAの塩基配列の決定は、当業者においては、DNAシークエンサー等を用いて容易に実施することができる。
【0102】
本発明の多型部位は、通常、その部位の塩基種のバリエーションが既に明らかになっている。本発明における「塩基種の決定」とは、必ずしもその多型部位についてA、G、T、Cのいずれかの塩基種であるかを判別することを意味するものではない。例えば、ある多型部位について塩基種のバリエーションがAまたはGであることが判明している場合には、その部位の塩基種が「Aでない」もしくは「Gでない」ことが判明すれば充分である。
【0103】
予め塩基のバリエーションが明らかにされている多型部位について、その塩基種を決定するための様々な方法が公知である。本発明の塩基種の決定のための方法は、特に限定されない。例えば、PCR法を応用した解析方法として、TaqMan PCR法、AcycloPrime法、およびMALDI-TOF/MS法等が実用化されている。またPCRに依存しない塩基種の決定法としてInvader法やRCA法が知られている。更にDNAアレイを使って塩基種を決定することもできる。以下にこれらの方法について簡単に述べる。ここに述べた方法は、いずれも本発明における多型部位の塩基種の決定に応用できる。
【0104】
[TaqMan PCR法]
TaqMan PCR法の原理は次のとおりである。TaqMan PCR法は、アリルを含む領域を増幅することができるプライマーセットと、TaqManプローブを利用した解析方法である。TaqManプローブは、このプライマーセットによって増幅されるアリルを含む領域にハイブリダイズするように設計される。
【0105】
TaqManプローブのTmに近い条件で標的塩基配列にハイブリダイズさせれば、1塩基の相違によってTaqManプローブのハイブリダイズ効率は著しく低下する。TaqManプローブの存在下でPCR法を行うと、プライマーからの伸長反応は、いずれハイブリダイズしたTaqManプローブに到達する。このときDNAポリメラーゼの5'-3'エキソヌクレアーゼ活性によって、TaqManプローブはその5'末端から分解される。TaqManプローブをレポーター色素とクエンチャーで標識しておけば、TaqManプローブの分解を、蛍光シグナルの変化として追跡することができる。つまり、TaqManプローブの分解が起きれば、レポーター色素が遊離してクエンチャーとの距離が離れることによって蛍光シグナルが生成する。1塩基の相違のためにTaqManプローブのハイブリダイズが低下すればTaqManプローブの分解が進まず蛍光シグナルは生成されない。
【0106】
多型に対応するTaqManプローブをデザインし、更に各プローブの分解によって異なるシグナルが生成されるようにすれば、同時に塩基種の判定を行うこともできる。例えば、レポーター色素として、あるアリルのアリルAのTaqManプローブに6-carboxy-fluorescein(FAM)を、アリルBのプローブにVICを用いる。プローブが分解されない状態では、クエンチャーによってレポーター色素の蛍光シグナル生成は抑制されている。各プローブが対応するアリルにハイブリダイズすれば、ハイブリダイズに応じた蛍光シグナルが観察される。すなわち、FAMまたはVICのいずれかのシグナルが他方よりも強い場合には、アリルAまたはアリルBのホモであることが判明する。他方、アリルをヘテロで有する場合には、両者のシグナルがほぼ同じレベルで検出されることになる。TaqMan PCR法の利用によって、ゲル上での分離のような時間のかかる工程無しで、ゲノムを解析対象としてPCRと塩基種の決定を同時に行うことができる。そのため、TaqMan PCR法は、多くの被検者についての塩基種を決定できる方法として有用である。
【0107】
[AcycloPrime法]
PCR法を利用した塩基種を決定する方法として、AcycloPrime法も実用化されている。AcycloPrime法では、ゲノム増幅用のプライマー1組と、多型検出用の1つのプライマーを用いる。まず、ゲノムの多型部位を含む領域をPCRで増幅する。この工程は、通常のゲノムPCRと同じである。次に、得られたPCR産物に対して、SNPs検出用のプライマーをアニールさせ、伸長反応を行う。SNPs検出用のプライマーは、検出対象となっている多型部位に隣接する領域にアニールするようにデザインされている。
【0108】
このとき、伸長反応のためのヌクレオチド基質として、蛍光偏光色素でラベルし、かつ3'-OHをブロックしたヌクレオチド誘導体(ターミネータ)を用いる。その結果、多型部位に相当する位置の塩基に相補的な塩基が1塩基だけ取りこまれて伸長反応が停止する。ヌクレオチド誘導体のプライマーへの取りこみは、分子量の増大による蛍光偏光(Fluorescence polarization;FP)の増加によって検出することができる。蛍光偏光色素に波長の異なる2種類のラベルを用いれば、特定のSNPsが2種類の塩基のうちのいずれであるのかを特定することができる。蛍光偏光のレベルは定量することができるので、1度の解析でアリルがホモかヘテロかを判定することもできる。
【0109】
[MALDI-TOF/MS法]
PCR産物をMALDI-TOF/MSで解析することによって塩基種の決定を行うこともできる。MALDI-TOF/MSは、分子量をきわめて正確に知ることができるため、タンパク質のアミノ酸配列や、DNAの塩基配列のわずかな相違を明瞭に識別することができる解析手法として様々な分野で利用されている。MALDI-TOF/MSによる塩基種の決定のためには、まず解析対象であるアリルを含む領域をPCRで増幅する。次いで増幅産物を単離してMALDI-TOF/MSによってその分子量を測定する。アリルの塩基配列は予めわかっているので、分子量に基づいて増幅産物の塩基配列は一義的に決定される。
【0110】
MALDI-TOF/MSを利用した塩基種の決定には、PCR産物の分離工程などが必要となる。しかし標識プライマーや標識プローブを使わないで、正確な塩基種の決定が期待できる。また複数の場所の多型の同時検出にも応用することができる。
【0111】
[IIs型制限酵素を利用したSNPs特異的な標識方法]
PCR法を利用した更に高速な塩基種の決定が可能な方法も報告されている。例えば、IIs型制限酵素を利用して多型部位の塩基種の決定が行われている。この方法においては、PCRにあたり、IIs型制限酵素の認識配列を有するプライマーが用いられる。遺伝子組み換えに利用される一般的な制限酵素(II型)は、特定の塩基配列を認識して、その塩基配列中の特定部位を切断する。これに対してIIs型の制限酵素は、特定の塩基配列を認識して、認識塩基配列から離れた部位を切断する。酵素によって、認識配列と切断個所の間の塩基数は決まっている。従って、この塩基数の分だけ離れた位置にIIs型制限酵素の認識配列を含むプライマーがアニールするようにすれば、IIs型制限酵素によってちょうど多型部位で増幅産物を切断することができる。
【0112】
IIs型制限酵素で切断された増幅産物の末端には、SNPsの塩基を含む付着末端(cohesive end)が形成される。ここで、増幅産物の付着末端に対応する塩基配列からなるアダプターをライゲーションする。アダプターは、多型変異に対応する塩基を含む異なる塩基配列からなり、それぞれ異なる蛍光色素で標識しておくことができる。最終的に、増幅産物は多型部位の塩基に対応する蛍光色素で標識される。
【0113】
前記IIs型制限酵素認識配列を含むプライマーに、捕捉プライマー(capture primer)を組み合せてPCR法を行えば、増幅産物は蛍光標識されるとともに、捕捉プライマーを利用して固相化することができる。例えばビオチン標識プライマーを捕捉プライマーとして用いれば、増幅産物はアビジン結合ビーズに捕捉することができる。こうして捕捉された増幅産物の蛍光色素を追跡することにより、塩基種を決定することができる。
【0114】
[磁気蛍光ビーズを使った多型部位における塩基種の決定]
複数のアリルを単一の反応系で並行して解析することができる技術も公知である。複数のアリルを並行して解析することは、多重化と呼ばれている。一般に蛍光シグナルを利用したタイピング方法では、多重化のために異なる蛍光波長を有する蛍光成分が必要である。しかし実際の解析に利用することができる蛍光成分は、それほど多くない。これに対して、樹脂等に複数種の蛍光成分を混合した場合には、限られた種類の蛍光成分であっても、相互に識別可能な多様な蛍光シグナルを得ることができる。更に、樹脂中に磁気で吸着される成分を加えれば蛍光を発するとともに、磁気によって分離可能なビーズとすることができる。このような磁気蛍光ビーズを利用した、多重化多型タイピングが考え出された(バイオサイエンスとバイオインダストリー, Vol.60 No.12, 821-824)。
【0115】
磁気蛍光ビーズを利用した多重化多型タイピングにおいては、各アリルの多型部位に相補的な塩基を末端に有するプローブが磁気蛍光ビーズに固定化される。各アリルにそれぞれ固有の蛍光シグナルを有する磁気蛍光ビーズが対応するように、両者は組み合せられる。一方、磁気蛍光ビーズに固定されたプローブが相補配列にハイブリダイズしたときに、当該アリル上で隣接する領域に相補的な塩基配列を有する蛍光標識オリゴDNAを調製する。
【0116】
アリルを含む領域を非対称PCRによって増幅し、上記の磁気蛍光ビーズ固定化プローブと蛍光標識オリゴDNAをハイブリダイズさせ、更に両者をライゲーションする。磁気蛍光ビーズ固定化プローブの末端が、多型部位の塩基に相補的な塩基配列であった場合には効率的にライゲーションされる。逆にもしも多型のために末端の塩基が異なれば、両者のライゲーション効率は低下する。その結果、各磁気蛍光ビーズには、試料が当該磁気蛍光ビーズに相補的な塩基種であった場合に限り、蛍光標識オリゴDNAが結合する。
【0117】
磁気によって磁気蛍光ビーズを回収し、更に各磁気蛍光ビーズ上の蛍光標識オリゴDNAの存在を検出することにより、塩基種が決定される。磁気蛍光ビーズは、フローサイトメーターでビーズ毎に蛍光シグナルを解析できるので、多種類の磁気蛍光ビーズが混合されていてもシグナルの分離は容易である。つまり、多種類の多型部位について、単一の反応容器で並行して解析する「多重化」が達成される。
【0118】
[Invader法]
PCR法に依存しないジェノタイピングのための方法も実用化されている。例えば、Invader法では、アリルプローブ、インベーダープローブ、およびFRETプローブの3種類のオリゴヌクレオチドと、cleavaseと呼ばれる特殊なヌクレアーゼのみで、塩基種の決定を実現している。これらのプローブのうち標識が必要なのはFRETプローブのみである。
【0119】
アリルプローブは、検出すべきアリルに隣接する領域にハイブリダイズするようにデザインされる。アリルプローブの5'側には、ハイブリダイズに無関係な塩基配列からなるフラップが連結されている。アリルプローブは多型部位の3'側にハイブリダイズし、多型部位の上でフラップに連結する構造を有する。
【0120】
一方インベーダープローブは、多型部位の5'側にハイブリダイズする塩基配列からなっている。インベーダープローブの塩基配列は、ハイブリダイズによって3'末端が多型部位に相当するようにデザインされている。インベーダープローブにおける多型部位に相当する位置の塩基は任意で良い。つまり、多型部位を挟んでインベーダープローブとアリルプローブとが隣接してハイブリダイズするように両者の塩基配列はデザインされている。
【0121】
多型部位がアリルプローブの塩基配列に相補的な塩基であった場合には、インベーダープローブとアリルプローブの両者がアリルにハイブリダイズすると、アリルプローブの多型部位に相当する塩基にインベーダープローブが侵入(invasion)した構造が形成される。cleavaseは、このようにして形成された侵入構造を形成したオリゴヌクレオチドのうち、侵入された側の鎖を切断する。切断は侵入構造の上で起きるので、結果としてアリルプローブのフラップが切り離されることになる。一方、もしも多型部位の塩基がアリルプローブの塩基に相補的でなかった場合には、多型部位におけるインベーダープローブとアリルプローブの競合は無く、侵入構造は形成されない。したがってcleavaseによるフラップの切断が起こらない。
【0122】
FRETプローブは、こうして切り離されたフラップを検出するためのプローブである。FRETプローブは5'末端側に自己相補配列を有し、3'末端側に1本鎖部分が配置されたヘアピンループを構成している。FRETプローブの3'末端側に配置された1本鎖部分は、フラップに相補的な塩基配列からなっていて、ここにフラップがハイブリダイズすることができる。フラップがFRETプローブにハイブリダイズすると、FRETプローブの自己相補配列の5'末端部分にフラップの3'末端が侵入した構造が形成されるように両者の塩基配列がデザインされている。cleavaseは侵入構造を認識して切断する。FRETプローブのcleavaseによって切断される部分を挟んで、TaqMan PCRと同様のレポーター色素とクエンチャーで標識しておけば、FRETプローブの切断を蛍光シグナルの変化として検知することができる。
【0123】
なお、理論的には、フラップは切断されない状態でもFRETプローブにハイブリダイズするはずである。しかし実際には、切断されたフラップとアリルプローブの状態で存在しているフラップとでは、FRETに対する結合効率に大きな差が有る。そのため、FRETプローブを利用して、切断されたフラップを特異的に検出することは可能である。
【0124】
Invader法に基づいて塩基種を決定するためには、アリルAとアリルBのそれぞれに相補的な塩基配列を含む、2種類のアリルプローブを用意すれば良い。このとき両者のフラップの塩基配列は異なる塩基配列とする。フラップを検出するためのFRETプローブも2種類を用意し、それぞれのレポーター色素を識別可能なものとしておけば、TacMan PCR法と同様の考え方によって、塩基種を決定することができる。
【0125】
Invader法の利点は、標識の必要なオリゴヌクレオチドがFRETプローブのみであることである。FRETプローブは検出対象の塩基配列とは無関係に、同一のオリゴヌクレオチドを利用することができる。従って、大量生産が可能である。一方アリルプローブとインベーダープローブは標識する必要が無いので、結局、ジェノタイピングのための試薬を安価に製造することができる。
【0126】
[RCA法]
PCR法に依存しない塩基種の決定方法として、RCA法を挙げることができる。鎖置換作用を有するDNAポリメラーゼが、環状の1本鎖DNAを鋳型として、長い相補鎖を合成する反応に基づくDNAの増幅方法が、Rolling Circle Amplification(RCA)法である(Lizardri PM et al.,Nature Genetics 19, 225, 1998)。RCA法においては、環状DNAにアニールして相補鎖合成を開始するプライマーと、このプライマーによって生成する長い相補鎖にアニールする第2のプライマーを利用して、増幅反応を構成している。
【0127】
RCA法には、鎖置換作用を有するDNAポリメラーゼが利用されている。そのため、相補鎖合成によって2本鎖となった部分は、より5'側にアニールした別のプライマーから開始した相補鎖合成反応によって置換される。例えば、環状DNAを鋳型とする相補鎖合成反応は、1周分では終了しない。先に合成した相補鎖を置換しながら相補鎖合成は継続し、長い1本鎖DNAが生成される。一方、環状DNAを鋳型として生成した長い1本鎖DNAには、第2のプライマーがアニールして相補鎖合成が開始する。RCA法において生成される1本鎖DNAは、環状のDNAを鋳型としていることから、その塩基配列は同じ塩基配列の繰り返しである。従って、長い1本鎖の連続的な生成は、第2のプライマーの連続的なアニールをもたらす。その結果、変性工程を経ることなく、プライマーがアニールすることができる1本鎖部分が連続的に生成される。こうして、DNAの増幅が達成される。
【0128】
RCA法に必要な環状1本鎖DNAが多型部位の塩基種に応じて生成されれば、RCA法を利用して塩基種の決定をすることができる。そのために、直鎖状で1本鎖のパドロックプローブが利用される。パドロックプローブは、5'末端と3'末端に検出すべき多型部位の両側に相補的な塩基配列を有している。これらの塩基配列は、バックボーンと呼ばれる特殊な塩基配列からなる部分で連結されている。多型部位がパドロックプローブの末端に相補的な塩基配列であれば、アリルにハイブリダイズしたパドロックプローブの末端をDNAリガーゼによってライゲーションすることができる。その結果、直鎖状のパドロックプローブが環状化され、RCA法の反応がトリガーされる。DNAリガーゼの反応は、ライゲーションすべき末端部分が完全に相補的でない場合には反応効率が著しく低下する。従って、ライゲーションの有無をRCA法で確認することによって、多型部位の塩基種の決定が可能である。
【0129】
RCA法は、DNAを増幅することはできるが、そのままではシグナルを生成しない。また増幅の有無のみを指標とするのでは、アリル毎に反応を行わなければ、通常、塩基種を決定することができない。これらの点を塩基種の決定のために改良した方法が公知である。例えば、モレキュラービーコンを利用して、RCA法に基づいて1チューブで塩基種の決定を行うことができる。モレキュラービーコンは、TaqMan法と同様に、蛍光色素とクエンチャーを利用したシグナル生成用プローブである。モレキュラービーコンの5'末端と3'末端は相補的な塩基配列で構成されており、単独ではヘアピン構造を形成する。両端付近を蛍光色素とクエンチャーで標識しておけば、ヘアピン構造を形成している状態では蛍光シグナルが検出できない。モレキュラービーコンの一部を、RCA法の増幅産物に相補的な塩基配列としておけば、モレキュラービーコンはRCA法の増幅産物にハイブリダイズする。ハイブリダイズによってヘアピン構造が解消されるため、蛍光シグナルが生成される。
【0130】
モレキュラービーコンの利点は、パドロックプローブのバックボーン部分の塩基配列を利用することによって、検出対象とは無関係にモレキュラービーコンの塩基配列を共通にできる点である。アリル毎にバックボーンの塩基配列を変え、蛍光波長が異なる2種類のモレキュラービーコンを組み合わせれば、1チューブで塩基種の決定が可能である。蛍光標識プローブの合成コストは高いので、測定対象に関わらず共通のプローブを利用できることは、経済的なメリットである。
【0131】
これらの方法はいずれも多量のサンプルを高速にジェノタイピングするために開発された方法である。MALDI-TOF/MSを除けば、通常、いずれの方法にも何らかの形で標識プローブなどを用意する必要がある。これに対して、標識プローブなどに頼らない塩基種決定法も古くから行われている。このような方法の一つとして、例えば、制限酵素断片長多型(Restriction Fragment Length Polymorphism/RFLP)を利用した方法やPCR-RFLP法等が挙げられる。
【0132】
RFLPは、制限酵素の認識部位の変異、あるいは制限酵素処理によって生じるDNA断片内における塩基の挿入または欠失が、制限酵素処理後に生じる断片の大きさの変化として検出できることを利用している。検出対象となる多型を含む塩基配列を認識する制限酵素が存在すれば、RFLPの原理によって多型部位の塩基を知ることができる。
【0133】
標識プローブを必要としない方法として、DNAの二次構造の変化を指標として塩基の違いを検出する方法も公知である。PCR-SSCPでは、1本鎖DNAの二次構造がその塩基配列の相違を反映することを利用している(Cloning and polymerase chain reaction-single-strand conformation polymorphism analysis of anonymous Alu repeats on chromosome 11. Genomics. 1992 Jan 1; 12(1): 139-146.、Detection of p53 gene mutations in human brain tumors by single-strand conformation polymorphism analysis of polymerase chain reaction products. Oncogene. 1991 Aug 1; 6(8): 1313-1318.、Multiple fluorescence-based PCR-SSCP analysis with postlabeling.、PCR Methods Appl. 1995 Apr 1; 4(5): 275-282.)。PCR-SSCP法は、PCR産物を1本鎖DNAに解離させ、非変性ゲル上で分離する工程により実施される。ゲル上の移動度は、1本鎖DNAの二次構造によって変動するので、もしも多型部位における塩基の相違があれば、移動度の違いとして検出することができる。
【0134】
その他、標識プローブを必要としない方法として、例えば、変性剤濃度勾配ゲル(denaturant gradient gel electrophoresis: DGGE法)等を例示することができる。DGGE法は、変性剤の濃度勾配のあるポリアクリルアミドゲル中で、DNA断片の混合物を泳動し、それぞれの不安定性の違いによってDNA断片を分離する方法である。ミスマッチのある不安定なDNA断片が、ゲル中のある変性剤濃度の部分まで移動すると、ミスマッチ周辺のDNA配列はその不安定さのために、部分的に1本鎖へと解離する。部分的に解離したDNA断片の移動度は、非常に遅くなり、解離部分のない完全な二本鎖DNAの移動度と差がつくことから、両者を分離することができる。
【0135】
具体的には、まずPCR法等によって多型部位を含む領域を増幅する。増幅産物に、塩基配列がわかっているプローブDNAをハイブリダイズさせて2本鎖とする。これを尿素などの変性剤の濃度が移動するに従って徐々に高くなっているポリアクリルアミドゲル中で電気泳動し、対照と比較する。プローブDNAとのハイブリダイズによってミスマッチを生じたDNA断片では、より低い変性剤濃度位置でDNA断片が一本鎖になり、極端に移動速度が遅くなる。こうして生じた移動度の差を検出することによりミスマッチの有無を検出することができる。
【0136】
更にDNAアレイを使って塩基種を決定することもできる(細胞工学別冊「DNAマイクロアレイと最新PCR法」,秀潤社,2000.4/20発行,pp97-103「オリゴDNAチップによるSNPの解析」,梶江慎一)。DNAアレイは、同一平面上に配置した多数のプローブに対してサンプルDNA(あるいはRNA)をハイブリダイズさせ、当該平面をスキャンすることによって、各プローブに対するハイブリダイズが検出される。多くのプローブに対する反応を同時に観察することができることから、例えば、多数の多型部位について同時に解析するには、DNAアレイは有用である。
【0137】
一般にDNAアレイは、高密度に基板にプリントされた何千ものヌクレオチドで構成されている。通常これらのDNAは非透過性(non- porous)の基板の表層にプリントされる。基板の表層は、一般的にはガラスであるが、透過性(porous)の膜、例えばニトロセルロースメンブレムを使用することもできる。
【0138】
本発明において、ヌクレオチドの固定(アレイ)方法として、Affymetrix社開発によるオリゴヌクレオチドを基本としたアレイが例示できる。オリゴヌクレオチドのアレイにおいて、オリゴヌクレオチドは通常インビトロ(in vitro)で合成される。例えば、photolithographicの技術(Affymetrix社)、および化学物質を固定させるためのインクジェット(Rosetta Inpharmatics社)技術等によるオリゴヌクレオチドのインサイチュ合成法が既に知られており、いずれの技術も本発明の基板の作製に利用することができる。
【0139】
オリゴヌクレオチドは、検出すべきSNPsを含む領域に相補的な塩基配列で構成される。基板に結合させるヌクレオチドプローブの長さは、オリゴヌクレオチドを固定する場合は、通常10〜100ベースであり、好ましくは10〜50ベースであり、さらに好ましくは15〜25ベースである。更に、一般にDNAアレイ法においては、クロスハイブリダイゼーション(非特異的ハイブリダイゼーション)による誤差を避けるために、ミスマッチ(MM)プローブが用いられる。ミスマッチプローブは、標的塩基配列と完全に相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとのペアを構成している。ミスマッチプローブに対して、完全に相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドはパーフェクトマッチ(PM)プローブと呼ばれる。データ解析の過程で、ミスマッチプローブで観察されたシグナルを消去することによって、クロスハイブリダイゼーションの影響を小さくすることができる。
【0140】
DNAアレイ法によるジェノタイピングのための試料は、被検者から採取された生物学的試料をもとに当業者に周知の方法で調製することができる。生物学的試料は特に限定されない。例えば被検者の血液、末梢血白血球、皮膚、口腔粘膜等の組織または細胞、涙、唾液、尿、糞便または毛髪から抽出した染色体DNAから、DNA試料を調製することができる。判定すべき多型部位を含む領域を増幅するためのプライマーを用いて、染色体DNAの特定の領域が増幅される。このとき、マルチプレックスPCR法によって複数の領域を同時に増幅することができる。マルチプレックスPCR法とは、複数組のプライマーセットを、同じ反応液中で用いるPCR法である。複数の多型部位を解析するときには、マルチプレックスPCR法が有用である。
【0141】
一般にDNAアレイ法においては、PCR法によってDNA試料を増幅するとともに、増幅産物が標識される。増幅産物の標識には、標識を付したプライマーが利用される。例えば、まず多型部位を含む領域に特異的なプライマーセットによるPCR法でゲノムDNAを増幅する。次に、ビオチンラベルしたプライマーを使ったラベリングPCR法によって、ビオチンラベルされたDNAを合成する。こうして合成されたビオチンラベルDNAを、チップ上のオリゴヌクレオチドプローブにハイブリダイズさせる。ハイブリダイゼーションの反応液および反応条件は、基板に固定するヌクレオチドプローブの長さや反応温度等の条件に応じて、適宜調整することができる。当業者は、適切なハイブリダイゼーションの条件をデザインすることができる。ハイブリダイズしたDNAを検出するために、蛍光色素で標識したアビジンが添加される。アレイをスキャナで解析し、蛍光を指標としてハイブリダイズの有無を確認する。
【0142】
上記方法をより具体的に示せば、被検者から調製した本発明の多型部位を含むDNA、およびヌクレオチドプローブが固定された固相、を取得した後、次いで、該DNAと該固相を接触させる。さらに、固相に固定されたヌクレオチドプローブにハイブリダイズしたDNAを検出することにより、本発明の多型部位の塩基種を決定する。
【0143】
本発明において「固相」とは、ヌクレオチドを固定することが可能な材料を意味する。本発明の固相は、ヌクレオチドを固定することが可能であれば特に制限はないが、具体的には、マイクロプレートウェル、プラスチックビーズ、磁性粒子、基板などを含む固相等を例示することができる。本発明の「固相」としては、一般にDNAアレイ技術で使用される基板を好適に用いることができる。本発明において「基板」とは、ヌクレオチドを固定することが可能な板状の材料を意味する。また、本発明においてヌクレオチドには、オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドが含まれる。
【0144】
上記の方法以外にも、特定部位の塩基を検出するために、アリル特異的オリゴヌクレオチド(Allele Specific Oligonucleotide/ASO)ハイブリダイゼーション法が利用できる。アリル特異的オリゴヌクレオチド(ASO)は、検出すべき多型部位が存在する領域にハイブリダイズする塩基配列で構成される。ASOを試料DNAにハイブリダイズさせるとき、多型によって多型部位にミスマッチが生じるとハイブリッド形成の効率が低下する。ミスマッチは、サザンブロット法や、特殊な蛍光試薬がハイブリッドのギャップにインターカレーションすることにより消光する性質を利用した方法等によって検出することができる。また、リボヌクレアーゼAミスマッチ切断法によって、ミスマッチを検出することもできる。
【0145】
本発明の多型部位を含むDNAにハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチドは、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かを検査するための試薬(検査薬)として利用できる。これは遺伝子発現を指標とする検査、または遺伝子多型を指標とする検査に使用される。
【0146】
より具体的には、本発明の多型部位を含むDNAにハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチドは、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かを検査するための試薬(検査薬)として利用できる。
【0147】
該オリゴヌクレオチドは、本発明の多型部位を含むDNAに特異的にハイブリダイズするものである。ここで「特異的にハイブリダイズする」とは、通常のハイブリダイゼーション条件下、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下(例えば、サムブルックら, Molecular Cloning,Cold Spring Harbour Laboratory Press,New York,USA,第2版1989に記載の条件)において、他のタンパク質をコードするDNAとクロスハイブリダイゼーションを有意に生じないことを意味する。特異的なハイブリダイズが可能であれば、該オリゴヌクレオチドは、検出する遺伝子もしくは該遺伝子の近傍DNA領域における本発明の多型部位を含む塩基配列に対し、完全に相補的である必要はない。
【0148】
本発明においてハイブリダイゼーションの条件としては、例えば「2×SSC、0.1%SDS、50℃」、「2×SSC、0.1%SDS、42℃」、「1×SSC、0.1%SDS、37℃」、よりストリンジェントな条件として「2×SSC、0.1%SDS、65℃」、「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」及び「0.2×SSC、0.1%SDS、65℃」等の条件を挙げることができる。より詳細には、Rapid-hyb buffer (Amersham Life Science)を用いた方法として、68℃で30分間以上プレハイブリダイゼーションを行った後、プローブを添加して1時間以上68℃に保ってハイブリッド形成させ、その後2×SSC、0.1%SDS中、室温で20分間の洗浄を3回行い、続いて1×SSC、0.1%SDS中、37℃で20分間の洗浄を3回行い、最後に1×SSC、0.1%SDS中、50℃で20分間の洗浄を2回行うことができる。その他、例えばExpresshyb Hybridization Solution (CLONTECH)中、55℃で30分間以上プレハイブリダイゼーションを行った後、標識プローブを添加して37〜55℃で1時間以上インキュベートし、2×SSC、0.1%SDS中、室温で20分間の洗浄を3回、1×SSC、0.1%SDS中、37℃で20分間の洗浄を1回行うこともできる。ここで、例えば、プレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーションや2度目の洗浄の際の温度をより高く設定することにより、よりストリンジェントな条件とすることができる。例えば、プレハイブリダイゼーション及びハイブリダイゼーションの温度を60℃、さらにストリンジェントな条件としては68℃とすることができる。当業者であれば、このようなバッファーの塩濃度、温度等の条件に加えて、プローブ濃度、プローブの長さ、プローブの塩基配列構成、反応時間等のその他の条件を加味し、条件を設定することができる。
【0149】
該オリゴヌクレオチドは、上記本発明の検査方法におけるプローブやプライマーとして用いることができる。該オリゴヌクレオチドをプライマーとして用いる場合、その長さは、通常15 bp〜100 bpであり、好ましくは17 bp〜30 bpである。プライマーは、本発明の多型部位を含むDNAの少なくとも一部を増幅しうるものであれば、特に制限されない。
【0150】
本発明は、本発明の多型部位を含む領域を増幅するためのプライマー、および多型部位を含むDNA領域にハイブリダイズするプローブを提供する。
【0151】
本発明において、多型部位を含む領域を増幅するためのプライマーには、多型部位を含むDNAを鋳型として、多型部位に向かって相補鎖合成を開始することができるプライマーも含まれる。該プライマーは、多型部位を含むDNAにおける、多型部位の3'側に複製開始点を与えるためのプライマーと表現することもできる。プライマーがハイブリダイズする領域と多型部位との間隔は任意である。両者の間隔は、多型部位の塩基の解析手法に応じて、好適な塩基数を選択することができる。たとえば、DNAチップによる解析のためのプライマーであれば、多型部位を含む領域として、20〜500、通常50〜200塩基の長さの増幅産物が得られるようにプライマーをデザインすることができる。当業者においては、多型部位を含む周辺DNA領域についての塩基配列情報を基に、解析手法に応じたプライマーをデザインすることができる。本発明のプライマーを構成する塩基配列は、ゲノムの塩基配列に対して完全に相補的な塩基配列のみならず、適宜改変することができる。
【0152】
本発明のプライマーには、ゲノムの塩基配列に相補的な塩基配列に加え、任意の塩基配列を付加することができる。例えば、IIs型の制限酵素を利用した多型の解析方法のためのプライマーにおいては、IIs型制限酵素の認識配列を付加したプライマーが利用される。このような、塩基配列を修飾したプライマーは、本発明のプライマーに含まれる。更に、本発明のプライマーは、修飾することができる。例えば、蛍光物質や、ビオチンまたはジゴキシンのような結合親和性物質で標識したプライマーが各種のジェノタイピング方法において利用される。これらの修飾を有するプライマーも本発明に含まれる。
【0153】
一方本発明において、多型部位を含む領域にハイブリダイズするプローブとは、多型部位を含む領域の塩基配列を有するポリヌクレオチドとハイブリダイズすることができるプローブを言う。より具体的には、プローブの塩基配列中に多型部位を含むプローブは本発明のプローブとして好ましい。あるいは、多型部位における塩基の解析方法によっては、プローブの末端が多型部位に隣接する塩基に対応するように、デザインされる場合もある。従って、プローブ自身の塩基配列には多型部位が含まれないが、多型部位に隣接する領域に相補的な塩基配列を含むプローブも、本発明における望ましいプローブとして示すことができる。
【0154】
言いかえれば、ゲノムDNA上の本発明の多型部位、または多型部位に隣接する部位にハイブリダイズすることができるプローブは、本発明のプローブとして好ましい。本発明のプローブには、プライマーと同様に、塩基配列の改変、塩基配列の付加、あるいは修飾が許される。例えば、Invader法に用いるプローブは、フラップを構成するゲノムとは無関係な塩基配列が付加される。このようなプローブも、多型部位を含む領域にハイブリダイズする限り、本発明のプローブに含まれる。本発明のプローブを構成する塩基配列は、ゲノムにおける本発明の多型部位の周辺DNA領域の塩基配列をもとに、解析方法に応じてデザインすることができる。
【0155】
本発明のプライマーまたはプローブは、それを構成する塩基配列をもとに、任意の方法によって合成することができる。本発明のプライマーまたはプローブの、ゲノムDNAに相補的な塩基配列の長さは、通常15〜100、一般に15〜50、通常15〜30である。与えられた塩基配列に基づいて、当該塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを合成する手法は公知である。更に、オリゴヌクレオチドの合成において、蛍光色素やビオチンなどで修飾されたヌクレオチド誘導体を利用して、オリゴヌクレオチドに任意の修飾を導入することもできる。あるいは、合成されたオリゴヌクレオチドに、蛍光色素などを結合する方法も公知である。
【0156】
本発明のオリゴヌクレオチドをプローブとして使用する場合には、適宜、放射性同位体または非放射性化合物などで標識して用いられる。また、プライマーとして使用する場合には、例えば、オリゴヌクレオチドの3'末端側の領域を標的とする配列に対して相補的にし、5'末端側には制限酵素認識配列、タグ等を付加した形態に設計することができる。このような少なくとも連続した15塩基を含む塩基配列からなるポリヌクレオチドは、ARHGEF10もしくはGABBR1遺伝子のmRNAに対してハイブリダイズすることができる。
【0157】
本発明のオリゴヌクレオチドは、天然以外の塩基、例えば、4-アセチルシチジン、5-(カルボキシヒドロキシメチル)ウリジン、2'-O-メチルシチジン、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウリジン、5-カルボキシメチルアミノメチルウリジン、ジヒドロウリジン、2'-O-メチルプソイドウリジン、β-D-ガラクトシルキュェオシン、2'-O-メチルグアノシン、イノシン、N6-イソペンテニルアデノシン、1-メチルアデノシン、1-メチルプソイドウリジン、1-メチルグアノシン、1-メチルイノシン、2,2-ジメチルグアノシン、2-メチルアデノシン、2-メチルグアノシン、3-メチルシチジン、5-メチルシチジン、N6-メチルアデノシン、7-メチルグアノシン、5-メチルアミノメチルウリジン、5-メトキシアミノメチル-2-チオウリジン、β-D-マンノシルキュェオシン、5-メトキシカルボニルメチル-2-チオウリジン、5-メトキシカルボニルメチルウリジン、5-メトキシウリジン、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデノシン、N-((9-β-D-リボフラノシル-2-メチルリオプリン-6-イル)カルバモイル)トレオニン、N-((9-β-D-リボフラノシルプリン-6-イル)N-メチルカルバモイル)トレオニン、ウリジン-5-オキシ酢酸-メチルエステル、ウリジン-5-オキシ酢酸、ワイブトキソシン、プソイドウリジン、キュェオシン、2-チオシチジン、5-メチル-2-チオウリジン、2-チオウリジン、4-チオウリジン、5-メチルウリジン、N-((9-β-D-リボフラノシルプリン-6-イル)カルバモイル)トレオニン、2'-O-メチル-5-メチルウリジン、2'-O-メチルウリジン、ワイブトシン、3-(3-アミノ-3-カルボキシプロピル)ウリジン等を必要に応じて含んでいてもよい。
【0158】
本発明はまた、動脈硬化性疾患のリスク素因の有無の検査方法に使用するための試薬(検査薬)を提供する。本発明の試薬は、前記本発明のプライマーおよび/またはプローブを含む。動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査においては、本発明の多型部位を含むDNAを増幅するためのプライマーおよび/またはプローブを用いる。
【0159】
本発明の試薬には、塩基種の決定方法に応じて、各種の酵素、酵素基質、および緩衝液などを組み合せることができる。酵素としては、DNAポリメラーゼ、DNAリガーゼ、あるいはIIs制限酵素などの、上記の塩基種決定方法として例示した各種の解析方法に必要な酵素を示すことができる。緩衝液は、これらの解析に用いる酵素の活性の維持に好適な緩衝液が、適宜選択される。更に、酵素基質としては、例えば、相補鎖合成用の基質等が用いられる。
【0160】
更に本発明の試薬には、多型部位における塩基が明らかな対照を添付することができる。対照は、予め多型部位の塩基種が明らかなゲノム、あるいはゲノムの断片を用いることができる。ゲノムは、細胞から抽出されたものでもよいし、細胞あるいは細胞の分画を用いることもできる。細胞を対照として用いれば、対照の結果によってゲノムDNAの抽出操作が正しく行われたことを証明することができる。あるいは、多型部位を含む塩基配列からなるDNAを対照として用いることもできる。具体的には、本発明の多型部位における塩基種が明らかにされたゲノム由来のDNAを含むYACベクターやBACベクターは、対照として有用である。あるいは多型部位に相当する数百ベースのみを切り出して挿入したベクターを対照として用いることもできる。
【0161】
さらに、本発明における試薬の別の態様は、本発明の多型部位を含むDNAとハイブリダイズするヌクレオチドプローブが固定された固相からなる、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かを検査するための試薬である。
これらは本発明の多型部位を指標とする検査に使用される。これらの調製方法に関しては、上述の通りである。
【0162】
また、本発明の好ましい態様においては、ARHGEF10遺伝子の転写産物または翻訳産物を検出する工程を含む、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法に関する。
【0163】
従って、該検査方法においてARHGEF10遺伝子の転写産物の検出の際にプローブとして利用可能な、例えば、ARHGEF10遺伝子の転写産物にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドは、本発明の検査用試薬の一例である。
【0164】
また、該検査方法においてARHGEF10遺伝子の翻訳産物の検出の際に利用可能な、ARHGEF10タンパク質を認識する抗体(抗ARHGEF10タンパク質抗体)もまた、本発明の検査用試薬の好ましい具体例である。
【0165】
上記ARHGEF10遺伝子の転写産物にハイブリダイズするオリゴヌクレオチド、またはARHGEF10タンパク質を認識する抗体(抗ARHGEF10タンパク質抗体)は、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤のスクリーニング用試薬として用いることもできる。
【0166】
本発明者らによって、ARHGEF10遺伝子の発現亢進(上昇)が、動脈硬化性疾患と関連することが明らかとなった。従って、ARHGEF10遺伝子の発現、または該遺伝子によってコードされるタンパク質の機能(活性)を抑制する物質は、動脈硬化性疾患の治療薬もしくは予防薬となるものと考えられる。
【0167】
本発明は、ARHGEF10遺伝子の発現、または、該遺伝子によってコードされるタンパク質(ARHGEF10タンパク質)の機能(活性)を抑制する物質を有効成分として含有する、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤を提供する。
【0168】
本発明の好ましい態様においては、まず、ARHGEF10遺伝子の発現の発現抑制物質を有効成分として含む、動脈硬化性疾患治療薬(動脈硬化性疾患治療もしくは予防のための薬剤・医薬組成物)を提供する。
【0169】
本発明においてARHGEF10遺伝子の発現抑制物質には、例えば、ARHGEF10の転写もしくは該転写産物からの翻訳を抑制する物質が含まれる。本発明の上記発現抑制物質の好ましい態様として、例えば、以下の(a)〜(c)からなる群より選択される化合物(核酸)を挙げることができる。
(a)ARHGEF10遺伝子の転写産物またはその一部に対するアンチセンス核酸
(b)ARHGEF10遺伝子の転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有する核酸
(c)ARHGEF10遺伝子の発現をRNAi効果により抑制する作用を有する核酸
【0170】
本発明における「核酸」とはRNAまたはDNAを意味する。また、所謂PNA (peptide nucleic acid)等の化学合成核酸アナログも、本発明の核酸に含まれる。PNAは、核酸の基本骨格構造である五単糖・リン酸骨格を、グリシンを単位とするポリアミド骨格に置換したもので、核酸によく似た3次元構造を有する。
【0171】
特定の内在性遺伝子の発現を抑制する方法としては、アンチセンス技術を利用する方法が当業者によく知られている。アンチセンス核酸が標的遺伝子の発現を抑制する作用としては、以下のような複数の要因が存在する。即ち、三重鎖形成による転写開始阻害、RNAポリメラーゼによって局部的に開状ループ構造が作られた部位とのハイブリッド形成による転写阻害、合成の進みつつあるRNAとのハイブリッド形成による転写阻害、イントロンとエキソンとの接合点におけるハイブリッド形成によるスプライシング阻害、スプライソソーム形成部位とのハイブリッド形成によるスプライシング阻害、mRNAとのハイブリッド形成による核から細胞質への移行阻害、キャッピング部位やポリ(A)付加部位とのハイブリッド形成によるスプライシング阻害、翻訳開始因子結合部位とのハイブリッド形成による翻訳開始阻害、開始コドン近傍のリボソーム結合部位とのハイブリッド形成による翻訳阻害、mRNAの翻訳領域やポリソーム結合部位とのハイブリッド形成によるペプチド鎖の伸長阻害、および核酸とタンパク質との相互作用部位とのハイブリッド形成による遺伝子発現阻害などである。このようにアンチセンス核酸は、転写、スプライシングまたは翻訳など様々な過程を阻害することで、標的遺伝子の発現を阻害する(平島および井上, 新生化学実験講座2 核酸IV遺伝子の複製と発現, 日本生化学会編, 東京化学同人, 1993, 319-347.)。
【0172】
本発明で用いられるアンチセンス核酸は、上記のいずれの作用によりARHGEF10遺伝子の発現を抑制してもよい。一つの態様としては、ARHGEF10遺伝子のmRNAの5'端近傍の非翻訳領域に相補的なアンチセンス配列を設計すれば、遺伝子の翻訳阻害に効果的と考えられる。また、コード領域もしくは3'側の非翻訳領域に相補的な配列も使用することができる。このように、ARHGEF10遺伝子の翻訳領域だけでなく非翻訳領域の配列のアンチセンス配列を含む核酸も、本発明で利用されるアンチセンス核酸に含まれる。使用されるアンチセンス核酸は、適当なプロモーターの下流に連結され、好ましくは3'側に転写終結シグナルを含む配列が連結される。このようにして調製された核酸は、公知の方法を用いることで、所望の動物へ形質転換できる。アンチセンス核酸の配列は、形質転換される動物が持つ内在性ARHGEF10遺伝子またはその一部と相補的な配列であることが好ましいが、遺伝子の発現を有効に抑制できる限りにおいて、完全に相補的でなくてもよい。転写されたRNAは、標的遺伝子の転写産物に対して好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相補性を有する。アンチセンス核酸を用いて標的遺伝子(ARHGEF10遺伝子)の発現を効果的に抑制するには、アンチセンス核酸の長さは少なくとも15塩基以上25塩基未満であることが好ましいが、本発明のアンチセンス核酸は、必ずしもこの長さに限定されない。
【0173】
本発明のアンチセンスは、特に制限されないが、例えば、配列番号:2に記載の塩基配列を基に作成することができる。
【0174】
また、ARHGEF10遺伝子の発現の抑制は、リボザイム、またはリボザイムをコードするDNAを利用して行うことも可能である。リボザイムとは触媒活性を有するRNA分子を指す。リボザイムには種々の活性を有するものが存在するが、中でもRNAを切断する酵素としてのリボザイムに焦点を当てた研究により、RNAを部位特異的に切断するリボザイムの設計が可能となった。リボザイムには、グループIイントロン型やRNase Pに含まれるM1 RNAのように400ヌクレオチド以上の大きさのものもあるが、ハンマーヘッド型やヘアピン型と呼ばれる40ヌクレオチド程度の活性ドメインを有するものもある(小泉誠および大塚栄子, タンパク質核酸酵素, 1990, 35, 2191.)。
【0175】
例えば、ハンマーヘッド型リボザイムの自己切断ドメインは、G13U14C15という配列のC15の3'側を切断するが、その活性にはU14とA9との塩基対形成が重要とされ、C15の代わりにA15またはU15でも切断され得ることが示されている(Koizumi, M. et al., FEBS Lett, 1988, 228, 228.)。基質結合部位が標的部位近傍のRNA配列と相補的なリボザイムを設計すれば、標的RNA中のUC、UUまたはUAという配列を認識する制限酵素的なRNA切断リボザイムを作出することができる(Koizumi, M. et al., FEBS Lett, 1988, 239, 285.、小泉誠および大塚栄子, タンパク質核酸酵素, 1990, 35, 2191.、Koizumi, M. et al., Nucl Acids Res, 1989, 17, 7059.)。
【0176】
また、ヘアピン型リボザイムも本発明の目的に有用である。このリボザイムは、例えばタバコリングスポットウイルスのサテライトRNAのマイナス鎖に見出される(Buzayan, JM., Nature, 1986, 323, 349.)。ヘアピン型リボザイムからも、標的特異的なRNA切断リボザイムを作出できることが示されている(Kikuchi, Y. & Sasaki, N., Nucl Acids Res, 1991, 19, 6751.、菊池洋, 化学と生物, 1992, 30, 112.)。このように、リボザイムを用いて本発明におけるARHGEF10遺伝子の転写産物を特異的に切断することで、該遺伝子の発現を抑制することができる。
【0177】
内在性遺伝子の発現の抑制は、さらに、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有する二本鎖RNAを用いたRNA干渉(RNA interferance;RNAi)によっても行うことができる。本発明のRNAi効果による抑制作用を有する核酸は、一般的にsiRNAとも言われる。RNAiは、標的遺伝子のmRNAと相同な配列からなるセンスRNAとこれと相補的な配列からなるアンチセンスRNAとからなる二本鎖RNAを細胞等に導入することにより、標的遺伝子mRNAの破壊を誘導し、標的遺伝子の発現を抑制し得る現象である。このようにRNAiは、標的遺伝子の発現を抑制し得ることから、従来の煩雑で効率の低い相同組み換えによる遺伝子破壊方法に代わる簡易な遺伝子ノックアウト方法として、または、遺伝子治療への応用可能な方法として注目を集めている。RNAiに用いるRNAは、ARHGEF10遺伝子もしくは該遺伝子の部分領域と必ずしも完全に同一である必要はないが、完全な相同性を有することが好ましい。
【0178】
本発明の上記(c)の核酸の好ましい態様として、ARHGEF10遺伝子に対してRNAi(RNA interference;RNA干渉)効果を有する二本鎖RNA(siRNA)を挙げることができる。より具体的には、配列番号:2に記載の塩基配列の部分配列に対するセンスRNAおよびアンチセンスRNAからなる二本鎖RNA(siRNA)を挙げることができる。
【0179】
RNAi機構の詳細については未だに不明な部分もあるが、DICERといわれる酵素(RNase III核酸分解酵素ファミリーの一種)が二本鎖RNAと接触し、二本鎖RNAがsmall interfering RNAまたはsiRNAと呼ばれる小さな断片に分解されるものと考えられている。本発明におけるRNAi効果を有する二本鎖RNAには、このようにDICERによって分解される前の二本鎖RNAも含まれる。即ち、そのままの長さではRNAi効果を有さないような長鎖のRNAであっても、細胞においてRNAi効果を有するsiRNAへ分解されることが期待されるため、本発明における二本鎖RNAの長さは、特に制限されない。
【0180】
例えば、本発明のARHGEF10遺伝子のmRNAの全長もしくはほぼ全長の領域に対応する長鎖二本鎖RNAを、例えば、予めDICERで分解させ、その分解産物を動脈硬化性疾患治療薬として利用することが可能である。この分解産物には、RNAi効果を有する二本鎖RNA分子(siRNA)が含まれることが期待される。この方法によれば、RNAi効果を有することが期待されるmRNA上の領域を、特に選択しなくともよい。即ち、RNAi効果を有する本発明のARHGEF10遺伝子のmRNA上の領域は、必ずしも正確に規定される必要はない。
【0181】
なお、上記RNA分子において一方の端が閉じた構造の分子、例えば、ヘアピン構造を有するsiRNA(shRNA)も本発明に含まれる。即ち、分子内において二本鎖RNA構造を形成し得る一本鎖RNA分子もまた本発明に含まれる。
【0182】
本発明の上記「RNAi効果により抑制し得る二本鎖RNA」は、当業者においては、該二本鎖RNAの標的となる本発明のARHGEF10遺伝子の塩基配列を基に、適宜作製することができる。一例を示せば、配列番号:2に記載の塩基配列をもとに、本発明の二本鎖RNAを作製することができる。即ち、配列番号:2に記載の塩基配列をもとに、該配列の転写産物であるmRNAの任意の連続するRNA領域を選択し、この領域に対応する二本鎖RNAを作製することは、当業者においては、通常の試行の範囲内において適宜行い得ることである。また、該配列の転写産物であるmRNA配列から、より強いRNAi効果を有するsiRNA配列を選択することも、当業者においては、公知の方法によって適宜実施することが可能である。また、一方の鎖(例えば、配列番号:2に記載の塩基配列)が判明していれば、当業者においては容易に他方の鎖(相補鎖)の塩基配列を知ることができる。siRNAは、当業者においては市販の核酸合成機を用いて適宜作製することが可能である。また、所望のRNAの合成については、一般の合成受託サービスを利用することができる。
【0183】
さらに、本発明の上記RNAを発現し得るDNA(ベクター)もまた、本発明のARHGEF10遺伝子の発現を抑制し得る化合物の好ましい態様に含まれる。例えば、本発明の上記二本鎖RNAを発現し得るDNA(ベクター)は、該二本鎖RNAの一方の鎖をコードするDNA、および該二本鎖RNAの他方の鎖をコードするDNAが、それぞれ発現し得るようにプロモーターと連結した構造を有するDNAである。本発明の上記DNAは、当業者においては、一般的な遺伝子工学技術により、適宜作製することができる。より具体的には、本発明のRNAをコードするDNAを公知の種々の発現ベクターへ適宜挿入することによって、本発明の発現ベクターを作製することが可能である。
【0184】
また、本発明の発現抑制物質には、例えば、ARHGEF10遺伝子の発現調節領域(例えば、プロモーター領域)と結合することにより、ARHGEF10遺伝子の発現を抑制する化合物が含まれる。該化合物は、例えば、ARHGEF10遺伝子のプロモーターDNA断片を用いて、該DNA断片との結合活性を指標とするスクリーニング方法により、取得することが可能である。また、当業者においては、所望の化合物について、本発明のARHGEF10遺伝子の発現を抑制するか否かの判定を、公知の方法、例えば、レポーターアッセイ法等により適宜実施することができる。
【0185】
また本発明者らは、ARHGEF10遺伝子上(イントロン17)に存在する多型「rs4480162」および「rs4376531」を含むハプロタイプ(感受性ハプロタイプ)がSp1転写因子の結合親和性を改変し、ARHGEF10転写活性を増強しうることを示した。
【0186】
当該ハプロタイプは、転写調節因子であるSp1と結合するDNA領域を含むものと考えられる。また、ARHGEF10 遺伝子上のrs4480162およびrs4376531を含むハプロタイプは、アテローム血栓性脳梗塞と有意に相関していた。感受性ハプロタイプを有する個体は、Sp1結合に起因してARHGEF10転写物をより高発現させるものと考えられる。
【0187】
従って、上記多型(ハプロタイプ)を含むARHGEF10遺伝子のDNA領域と、Sp1転写因子との結合活性を変化させる化合物は、ARHGEF10遺伝子の転写を抑制するものと考えられ、本発明の上記発現抑制物質の好ましい態様の一つと言える。上記DNA領域としては、例えば、多型部位「rs4480162」または「rs4376531」を含むDNA領域を挙げることができる。
【0188】
また、本発明の多型変異を有するDNA配列であって、Sp1転写因子との結合活性が変化したDNA配列を含むポリヌクレオチドは、例えば、後述の動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤のスクリーニング方法に、好適に用いることが可能であり有用である。例えば、以下の(a)または(b)のポリヌクレオチドは、動脈硬化性疾患の治療薬のスクリーニングのための用途に利用できる。
(a)配列番号:2に記載のDNA配列の部分断片ポリヌクレオチドであって、2222位、または2225位の多型部位を含むポリヌクレオチド
(b)上記(b)のポリヌクレオチド配列において1もしくは複数の塩基が付加、欠失もしくは置換された塩基配列からなるポリヌクレオチドであって、Sp1転写因子との結合能が変化していることを特徴とするポリヌクレオチド
【0189】
また本発明は、ARHGEF10タンパク質の機能抑制物質を有効成分として含有する、動脈硬化性疾患治療薬を提供する。
【0190】
本発明におけるARHGEF10タンパク質の機能抑制物質としては、例えば、以下の(a)または(b)の化合物を挙げることができる。
(a)ARHGEF10タンパク質に結合する抗体
(b)ARHGEF10タンパク質に結合する低分子化合物
【0191】
ARHGEF10タンパク質に結合する抗体(抗ARHGEF10タンパク質抗体)は、当業者に公知の方法により調製することが可能である。ポリクローナル抗体であれば、例えば、次のようにして得ることができる。天然のARHGEF10タンパク質、あるいはGSTとの融合タンパク質として大腸菌等の微生物において発現させたリコンビナント(組み換え)ARHGEF10タンパク質、またはその部分ペプチドをウサギ等の小動物に免疫し血清を得る。これを、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、ARHGEF10タンパク質や合成ペプチドをカップリングしたアフィニティーカラム等により精製することにより調製する。また、モノクローナル抗体であれば、例えば、ARHGEF10タンパク質若しくはその部分ペプチドをマウスなどの小動物に免疫を行い、同マウスより脾臓を摘出し、これをすりつぶして細胞を分離し、該細胞とマウスミエローマ細胞とをポリエチレングリコール等の試薬を用いて融合させ、これによりできた融合細胞(ハイブリドーマ)の中から、ARHGEF10タンパク質に結合する抗体を産生するクローンを選択する。次いで、得られたハイブリドーマをマウス腹腔内に移植し、同マウスより腹水を回収し、得られたモノクローナル抗体を、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、ARHGEF10タンパク質や合成ペプチドをカップリングしたアフィニティーカラム等により精製することで、調製することが可能である。
【0192】
本発明の抗体の形態には、特に制限はなく、本発明のARHGEF10タンパク質に結合する限り、上記ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のほかに、ヒト抗体、遺伝子組み換えによるヒト型化抗体、さらにその抗体断片や抗体修飾物も含まれる。
【0193】
抗体取得の感作抗原として使用される本発明のARHGEF10タンパク質は、その由来となる動物種について制限されないが、哺乳動物、例えばマウス、ヒト由来のタンパク質が好ましく、特にヒト由来のタンパク質が好ましい。ヒト由来のタンパク質は、当業者においては、本明細書に開示される遺伝子配列又はアミノ酸配列を用いて、適宜、取得することができる。
【0194】
本発明において、感作抗原として使用されるタンパク質は、完全なタンパク質あるいはタンパク質の部分ペプチドであってもよい。タンパク質の部分ペプチドとしては、例えば、タンパク質のアミノ基(N)末端断片やカルボキシ(C)末端断片あるいは中央部のキナーゼ活性部位等が挙げられる。本明細書における「抗体」とはタンパク質の全長又は断片に反応する抗体を意味する。
【0195】
本発明における抗体には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体(scFv)(Huston et al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 5879-83; The Pharmacology of Monoclonal Antibody, Vol. 113, Rosenburg and Moore ed., Springer Verlag (1994) pp. 269-315)、ヒト化抗体、多特異性抗体(LeDoussal et al. (1992) Int. J. Cancer Suppl. 7: 58-62; Paulus (1985) Behring Inst. Mitt. 78: 118-32; Millstein and Cuello (1983) Nature 305: 537-9; Zimmermann (1986) Rev. Physiol. Biochem. Pharmacol. 105: 176-260; VanDijk et al. (1989) Int. J. Cancer 43: 944-9)、並びに、Fab、Fab'、F(ab')2、Fc、Fv等の抗体断片が含まれる。このような抗体は必要に応じ、PEG等により修飾されていてもよい。また、β‐ガラクトシダーゼ、マルトース結合タンパク質、GST、緑色蛍光タンパク質(GFP)等との融合タンパク質として製造して、二次抗体を用いずに検出できるようにすることも可能である。また、ビオチン等により抗体を標識することによりアビジン、ストレプトアビジン等を用いて抗体の検出、回収を行い得るように改変することもできる。
【0196】
また、ヒト以外の動物に抗原を免疫して上記ハイブリドーマを得る他に、ヒトリンパ球、例えばEBウィルスに感染したヒトリンパ球をin vitroでタンパク質、タンパク質発現細胞又はその溶解物で感作し、感作リンパ球をヒト由来の永久分裂能を有するミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、タンパク質への結合活性を有する所望のヒト抗体を産生するハイブリドーマを得ることもできる。
【0197】
本発明のARHGEF10タンパク質に対する抗体は、ARHGEF10タンパク質と結合することにより、該タンパク質の機能を抑制し、例えば、脳梗塞等の動脈硬化性疾患の治療や改善効果が期待される。得られた抗体を人体に投与する目的(抗体治療)で使用する場合には、免疫原性を低下させるため、ヒト抗体やヒト型抗体が好ましい。
【0198】
さらに本発明は、ARHGEF10タンパク質の機能を抑制し得る物質として、ARHGEF10タンパク質に結合する低分子量物質(低分子化合物)も含有する。本発明のARHGEF10タンパク質に結合する低分子量物質は、天然または人工の化合物であってもよい。通常、当業者に公知の方法を用いることによって製造または取得可能な化合物である。また本発明の化合物は、後述のスクリーニング方法によって、取得することも可能である。
【0199】
上記(b)のARHGEF10タンパク質に結合する低分子化合物には、例えば、ARHGEF10に対して親和性が高い化合物が含まれる。
【0200】
さらに、本発明のARHGEF10タンパク質の機能を抑制し得る物質として、ARHGEF10タンパク質に対してドミナントネガティブの性質を有するARHGEF10タンパク質変異体を挙げることができる。「ARHGEF10タンパク質に対してドミナントネガティブの性質を有する該タンパク質変異体」とは、該タンパク質をコードする遺伝子を発現させることによって、内在性の野生型タンパク質の活性を消失もしくは低下させる機能を有するタンパク質を指す。
【0201】
また、既にARHGEF10タンパク質の機能を阻害することが知られている物質(化合物)は、本発明の上記「ARHGEF10タンパク質の機能を抑制し得る物質」の具体例として、好適に示すことができる。
【0202】
また、本発明の機能抑制物質は、本発明のARHGEF10の有する活性を指標とするスクリーニング方法により、適宜、取得することができる。
また本発明は、以下の(a)または(b)を有効成分として含有する、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤を提供する。
(a)エキソン15を欠損したGABBR1によって形成されるGABA B受容体のリガンド
(b)RhoAインヒビター
上記リガンドには、GABA B受容体のアンタゴニスト等が含まれる。RhoA下流のRhoキナーゼのインヒビターとしては、Y-27632やfasudil等が知られている。
【0203】
また本発明は、ARHGEF10遺伝子の発現量もしくは該遺伝子によってコードされるタンパク質の活性を低下させる化合物を選択することを特徴とする、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤(候補化合物)のスクリーニング方法を提供する。
【0204】
本発明のスクリーニング方法の一態様は、ARHGEF10遺伝子の発現レベルを指標とする方法である。ARHGEF10遺伝子の発現レベルを低下させる化合物は、動脈硬化性疾患治療もしくは予防のための薬剤となることが期待される。
【0205】
本発明の上記方法は、例えば、以下の(a)〜(c)の工程を含む、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤のスクリーニング方法である。
(a)ARHGEF10遺伝子を発現する細胞に、被検化合物を接触させる工程
(b)該ARHGEF10遺伝子の発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、該発現レベルを低下させる化合物を選択する工程
【0206】
本方法においては、まずARHGEF10遺伝子を発現する細胞に、被検化合物を接触させる。用いられる「細胞」の由来としては、ヒト、マウス、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、鳥など、ペット、家畜等に由来する細胞が挙げられるが、これら由来に制限されない。「ARHGEF10遺伝子を発現する細胞」としては、内因性のARHGEF10遺伝子を発現している細胞、または外来性のARHGEF10遺伝子が導入され、該遺伝子が発現している細胞を利用することができる。外来性のARHGEF10遺伝子が発現した細胞は、通常、ARHGEF10遺伝子が挿入された発現ベクターを宿主細胞へ導入することにより作製することができる。該発現ベクターは、一般的な遺伝子工学技術によって作製することができる。
【0207】
本方法に用いる被検化合物としては、特に制限はない。例えば、天然化合物、有機化合物、無機化合物、タンパク質、ペプチドなどの単一化合物、並びに、化合物ライブラリー、遺伝子ライブラリーの発現産物、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0208】
ARHGEF10遺伝子を発現する細胞への被検化合物の「接触」は、通常、ARHGEF10遺伝子を発現する細胞の培養液に被検化合物を添加することによって行うが、この方法に限定されない。被検化合物がタンパク質等の場合には、該タンパク質を発現するDNAベクターを、該細胞へ導入することにより、「接触」を行うことができる。
【0209】
本方法においては、次いで、該ARHGEF10遺伝子の発現レベルを測定する。ここで「遺伝子の発現」には、転写および翻訳の双方が含まれる。遺伝子の発現レベルの測定は、当業者に公知の方法によって行うことができる。例えば、ARHGEF10遺伝子を発現する細胞からmRNAを定法に従って抽出し、このmRNAを鋳型としたノーザンハイブリダイゼーション法またはRT-PCR法を実施することによって該遺伝子の転写レベルの測定を行うことができる。また、ARHGEF10遺伝子を発現する細胞からタンパク質画分を回収し、ARHGEF10タンパク質の発現をSDS-PAGE等の電気泳動法で検出することにより、遺伝子の翻訳レベルの測定を行うこともできる。さらに、ARHGEF10タンパク質に対する抗体を用いて、ウェスタンブロッティング法を実施することにより該タンパク質の発現を検出することにより、遺伝子の翻訳レベルの測定を行うことも可能である。ARHGEF10タンパク質の検出に用いる抗体としては、検出可能な抗体であれば、特に制限はないが、例えばモノクローナル抗体、またはポリクローナル抗体の両方を利用することができる。
【0210】
本方法においては、次いで、被検化合物を接触させない場合(対照)と比較して、該発現レベルを低下させる化合物を選択する。低下させる化合物は、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤となる。
【0211】
本発明のスクリーニング方法の他の態様は、本発明のARHGEF10遺伝子の発現レベルを低下させる化合物を、レポーター遺伝子の発現を指標として同定する方法である。
【0212】
本発明の上記方法は、例えば、以下の(a)〜(c)の工程を含む、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤のスクリーニング方法である。
(a)ARHGEF10遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞と、被検化合物を接触させる工程
(b)該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、該発現レベルを低下させる化合物を選択する工程
【0213】
本方法においては、まず、ARHGEF10遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞または細胞抽出液と、被検化合物を接触させる。ここで「機能的に結合した」とは、ARHGEF10遺伝子の転写調節領域に転写因子が結合することにより、レポーター遺伝子の発現が誘導されるように、ARHGEF10遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが結合していることをいう。従って、レポーター遺伝子が他の遺伝子と結合しており、他の遺伝子産物との融合タンパク質を形成する場合であっても、ARHGEF10遺伝子の転写調節領域に転写因子が結合することによって、該融合タンパク質の発現が誘導されるものであれば、上記「機能的に結合した」の意に含まれる。ARHGEF10遺伝子のcDNA塩基配列に基づいて、当業者においては、ゲノム中に存在するARHGEF10遺伝子の転写調節領域を周知の方法により取得することが可能である。
【0214】
本方法に用いるレポーター遺伝子としては、その発現が検出可能であれば特に制限はなく、例えば、CAT遺伝子、lacZ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、およびGFP遺伝子等が挙げられる。「ARHGEF10遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞」として、例えば、このような構造が挿入されたベクターを導入した細胞が挙げられる。このようなベクターは、当業者に周知の方法により作製することができる。ベクターの細胞への導入は、一般的な方法、例えば、リン酸カルシウム沈殿法、電気パルス穿孔法、リポフェクトアミン法、マイクロインジェクション法等によって実施することができる。「ARHGEF10遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞」には、染色体に該構造が挿入された細胞も含まれる。染色体へのDNA構造の挿入は、当業者に一般的に用いられる方法、例えば、相同組み換えを利用した遺伝子導入法により行うことができる。
【0215】
「ARHGEF10遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞抽出液」とは、例えば、市販の試験管内転写翻訳キットに含まれる細胞抽出液に、ARHGEF10遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを添加したものを挙げることができる。
【0216】
本方法における「接触」は、「ARHGEF10遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞」の培養液に被検化合物を添加する、または該DNAを含む上記の市販された細胞抽出液に被検化合物を添加することにより行うことができる。被検化合物がタンパク質の場合には、例えば、該タンパク質を発現するDNAベクターを、該細胞へ導入することにより行うことも可能である。
【0217】
本方法においては、次いで、該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する。レポーター遺伝子の発現レベルは、該レポーター遺伝子の種類に応じて、当業者に公知の方法により測定することができる。例えば、レポーター遺伝子がCAT遺伝子である場合には、該遺伝子産物によるクロラムフェニコールのアセチル化を検出することによって、レポーター遺伝子の発現量を測定することができる。レポーター遺伝子がlacZ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による色素化合物の発色を検出することにより、また、ルシフェラーゼ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による蛍光化合物の蛍光を検出することにより、さらに、GFP遺伝子である場合には、GFPタンパク質による蛍光を検出することにより、レポーター遺伝子の発現量を測定することができる。
【0218】
本方法においては、次いで、測定したレポーター遺伝子の発現レベルを、被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、低下(抑制)させる化合物を選択する。低下(抑制)させる化合物は、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤となる。
【0219】
また、本発明の上記スクリーニング方法におけるARHGEF10遺伝子は、通常、野生型の遺伝子を用いることができるが、本発明者らによって見出された発現亢進に関与する多型(「rs4480162」、「rs4376531」)を含むハプロタイプを構成するDNA断片を好適に使用することも可能である。
上記ハプロタイプは、ARHGEF10遺伝子の発現が亢進していることから、該遺伝子の発現を抑制する(低下させる)物質のスクリーニングに好適に利用することが可能である。
【0220】
本発明のスクリーニング方法の他の態様は、ARHGEF10遺伝子上のSp1転写因子との結合DNA領域と、Sp1転写因子との相互作用活性(結合活性)を指標とする方法である。
【0221】
本発明の上記方法は、例えば、以下の(a)〜(c)の工程を含む、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤のスクリーニング方法である。
(a)ARHGEF10遺伝子上の塩基部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列における2222位または2225位の部位を含むDNA領域からなるポリヌクレオチド、およびSp1転写因子と、被検化合物とを接触させる工程
(b)前記ポリヌクレオチドとSp1転写因子との結合活性を測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、前記結合活性を低下させる化合物を選択する工程
【0222】
本方法においては、まず、ARHGEF10遺伝子上の塩基部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列における2222位または2225位の部位を含むDNA領域からなるポリヌクレオチド、およびSp1転写因子と、被検化合物を接触させる。
【0223】
次いで該ポリヌクレオチドとSp1転写因子の相互作用活性(結合活性)を測定する。この相互作用活性は、当業者においては公知の種々の方法を利用して、評価することが可能である。
一例を示せば、シフトアッセイにより相互作用活性を評価することができる。
また、上記の各種スクリーニング方法において使用される化合物もまた、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤のスクリーニング用試薬として有用である。
【0224】
さらに本発明は、本発明の検査方法またはスクリーニング方法を実施するために用いられる各種薬剤・試薬等を含むキットを提供する。
【0225】
本発明のキットは、例えば、本発明の上述の各種試薬の中から、実施する検査方法あるいはスクリーニング方法に合わせて適宜選択することができる。例えば、本発明のキットは、本発明の遺伝子、タンパク質、オリゴヌクレオチド、抗体等を構成要素とすることができる。より具体的には、(1)本発明のプライマーオリゴヌクレオチド、およびPCR用反応試薬(Taq ポリメラーゼ、緩衝液等)、または(2)本発明のプローブオリゴヌクレオチド、およびハイブリダイゼーション用緩衝液、(3)本発明の抗ARHGEF10タンパク質抗体、およびELISA用試薬、等を例示することができる。
さらに、本発明のキットには、対照サンプル、緩衝液、使用方法を記載した指示書等を適宜含めることができる。
【0226】
また本発明は、本発明の薬剤を被検者へ投与する工程を含む、動脈硬化性疾患を治療もしくは予防する方法に関する。本発明の薬剤は、安全とされている投与量の範囲内において、ヒトを含む哺乳動物に対して、必要量が投与される。本発明の薬剤の投与量は、剤型の種類、投与方法、患者の年齢や体重、患者の症状等を考慮して、最終的には医師または獣医師の判断により適宜決定することができる。
【0227】
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0228】
以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
材料および方法等について、以下に示す。
【0229】
<試験集団>
大規模な症例-対照相関研究のために、福岡市内および周辺の7つの医療センターからの2004年の虚血性脳卒中の症例を登録した。登録および相関研究の詳細は既に記述されている(Kubo M, et al. Nat Genet, 2007;36:233-239.)。簡潔に述べると、症例被験者は全員、詳細な臨床的特徴および補助的に実験室での検査(コンピュータ断層撮影法およびMRI、脳血管造影法、心エコー検査、ならびに頚動脈複式画像法を含む脳画像法など)に基づき、脳卒中専門の神経科医によって診断された。先行研究(Ikram MA, et al. N Engl J Med, 2009;360:1718-1728.、Rosamond WD,et al. Stroke, 1999;30:736-743.、Ohira T, et al. Stroke, 2006;37:2493-2498.)におけるような分類に基づき虚血性脳卒中のサブタイプを決定した。虚血性脳卒中のサブタイプは、アテローム血栓性が860例、心原性が136例、および不明なサブタイプが116例であった。年齢(5歳の範囲内)および性別が一致した対照被験者を、2002年〜2003年の久山町研究の参加者3,328名から選択した。
【0230】
再現研究のために、バイオバンクジャパンプロジェクト(Nakamura Y. Clin Adv Hematol Oncol, 2007;5:696-697.)から症例試料を選択した。バイオバンクジャパンの虚血性脳卒中を有する被験者の中から、先の研究と同様の脳画像法によってアテローム血栓性脳梗塞と診断された症例1,925例を選択した。先の研究で登録されなかった久山町研究の参加者の残りの2,068名を、対照として用いた。
【0231】
前向きコホート研究のために、1988年に設けられた久山町研究のコホート集団(Kubo M, et al. Nat Genet, 2007;36:233-239.)を用いた。このコホートでは、1988年に登録された脳卒中または冠動脈性心疾患の病歴を有さない40歳以上の久山町住民2,637名を、心血管疾患を発症するか死亡するまで14年間追跡調査した。そのうち、2002年〜2003年の試験に参加した1,656名の被験者を、本研究において用いた。
【0232】
両集団の調査被験者全員から書面のインフォームドコンセントを得た。また、本研究は、九州大学医学系学府および理化学研究所横浜研究所の倫理委員会によって承認された。
【0233】
<SNPの選択および遺伝子型同定>
ARHGEF10の全体にわたるファインマッピングのために、r2 > 0.8、マイナーアリル頻度(MAF)> 5 %、およびコールレート>75 %の基準に従ったペアでのタギング法により、第二段階のHapMap JPTデータからタグSNPを選択した。両集団において、標準的な方法によりゲノムDNAを末梢血白血球から抽出した。既に記述されているような多重PCRに基づくインベーダーアッセイ(Third Wave Technologies)(Ohnishi Y, et al. J Hum Genet, 2001;46:471-478.)を用いて、または標準プロトコルに従ってABI3700キャピラリーシーケンサー(Applied Biosystems)を用いたPCR産物のダイレクトシーケンシングによって、SNPの遺伝子型同定を行った。遺伝子型はすべて目視により判定し、本発明者らは遺伝子型の決定に成功し、384穴プレート中の未同定試料は10未満であった。
【0234】
<細胞培養>
ヒト結腸癌LoVo細胞を、10%ウシ胎仔血清(FBS)を含むF12-HAM(Invitrogen)で増殖させた。ヒト胚性腎線維芽細胞293FT細胞を、10% FBSを含むダルベッコ変法イーグル培地(Invitrogen)で増殖させた。これらの細胞を、CO2 5%を含む37℃の加湿雰囲気中でインキュベートした。
【0235】
<電気泳動移動度シフト解析>
5'-ビオチン標識一本鎖オリゴヌクレオチドをInvitrogenから入手し、アニールした。電気泳動移動度シフト解析(EMSA)プローブの配列は以下の通りである:
rs35234164_delは5'-CAGTGAAGTAAAATATGGCCTACC_TTAAGAAGTTAAGATAG TCATTTAA-3'(配列番号:3)、rs35234164_Tは5'-CAGTGAAGTAAAATATGGCCTACCTTTAAGAAG TTAAGATAGTCATTTAA-3'(配列番号:4)、rs4480162_C / rs4376531_Gは5'-AGTCGGACT CCTTAGTGTGAACTCCAGATCCACCTTCTCTGAACTCTGAA-3'(配列番号:5)、rs4480162_G / rs4376531_Cは5'-AGTCGGACTCCTTAGTGTGAACTGCACATCCACCTTCTCTGAA CTCTGAA-3'(配列番号:6)、rs2280887_Gは5'-CTTGACTCTTGGGCAGTTTTAAGTAGGTTTAAAA TTCTCCCGCTGCCAGA-3'(配列番号:7)、rs2280887_Cは5'-CTTGACTCTTGGGCAGTTTTAAGT ACGTTTAAAATTCTCCCGCTGCCAGA-3'(配列番号:8)、およびSp1コンセンサス配列は5'-ATTCGATCGG GGCGGGGCGAGC-3'(配列番号:9)。20 fmolのEMSAプローブを、結合緩衝液(5 mM HEPES、pH7.9、0.05 mM EDTA、0.5μgポリ(dI/dC)、50 mM KCl、1 mMジチオスレイトール、および10%グリセロール)中、室温で30分間、核タンパク質10μgとインキュベートした。競合アッセイのために、それぞれ1倍〜20倍モル過剰の非標識プローブを添加し、追加で15分間室温でインキュベートした。スーパーシフトアッセイのために、160 fmolのEMSAプローブを使用し、2μgのウサギポリクローナル抗ヒトSp1抗体(07-645、Upstate)を添加して、追加で15分間室温でインキュベートした。混合物を、4℃で0.5 x トリス-硼酸-EDTA(TBE)緩衝液中の4 %ポリアクリルアミドゲル上で電気泳動に供した。核酸を100 Vで60分間、ナイロン膜(Hybond-N+; Amercham Biosciences)に転写した。ビオチン標識プローブを化学発光核酸検出モジュール(PIERCE, 89880)を用いて検出し、LAS-3000システム(富士フィルム、東京、日本)を用いて分析した。
【0236】
<ルシフェラーゼレポーターアッセイ法>
rs4480162およびrs4376531の周辺のEMSAプローブと同一のDNA配列をpGL3プロモータールシフェラーゼベクター(Promega)にサブクローニングした。FuGENE 6トランスフェクション試薬(Roche)を用いて、各レポーター構築物500 ngおよびpRL-CMVベクター(Promega)50 ngをLoVo細胞にトランスフェクトした。48時間後、細胞を収集し、デュアルルシフェラーゼアッセイシステム(東洋ビーネット)を用いてルシフェラーゼ活性を測定した。
【0237】
<低分子量GTPase活性アッセイ>
全長ヒトARHGEF10 cDNAをp3XFLAG-CMV-10発現ベクター(SIGMA)にクローニングすることによって、全長ARHGEF10を発現するように設計されたプラスミドを得た。全長ヒトRhoA、Rac1、またはCdc42 cDNAをpcDNA3.1/myc-His発現ベクター(Invitrogen)にクローニングすることによって、3つの低分子量GTPase過剰発現プラスミドを構築した。既に記述されているように(Kobayashi S, et al. Biochem J, 2001;354:73-78.、Reid T, et al. J Biol Chem, 1996;271:13556-13560.)、ローテキンのRho GTPase結合ドメインを含むGST融合タンパク質(GST-RBD)(14-383, Upstate)またはPAK-1結合ドメインを含むGST融合タンパク質(GST-PBD)(14-325, Upstate)を用いて、GTPを負荷したRhoA、Rac1、およびCdc42の細胞レベルを決定した。簡潔に述べると、pcDNA3.1-RhoA-MycまたはpcDNA3.1-Rac1-MycまたはpcDNA3.1-Cdc42-Mycを、FuGENE 6 トランスフェクション試薬(Roche)を用いて、p3XFLAG-CMV-10-ARHGEF10または対応する空ベクターと共に、10 cm皿に播種した293FT細胞に同時トランスフェクトした。48時間培養後、25 mM HEPES pH7.5、150 mM NaCl、1% Igepal CA-630、10 mM MgCl2、1 mM EDTA、10%グリセロール、およびプロテアーゼ阻害剤を含む緩衝液中に細胞を溶解し、遠心分離によって個々の画分をペレット化した。続いて、GTPaseを含む上澄みを、グルタチオン-セファロースビーズに結合したGST融合タンパク質と共に、4℃で45〜60分間インキュベートした。ビーズを3回洗浄した後、結合したタンパク質を試料緩衝液で溶出し、SDS-PAGEにより分離した。続いて、市販されている特異的抗FLAG抗体(F3165、SIGMA、1μg/ml)および抗Myc抗体(562、MBL、1μl/ml)をそれぞれ用いた免疫ブロット法により、GEF10および低分子量GTPaseを検出した。二次抗体にマッチする種を検出するために、一次抗体と反応するタンパク質を高感度化学発光システム(GE Healthcare UK Ltd. Amersham)によって可視化し、LAS-3000システムで分析した。LAS-3000システムに含まれるMulti Gauge バージョン2.02ソフトウェアを用いて、免疫ブロットの定量的分析を実施した。
【0238】
<統計解析>
必要に応じてカイ二乗検定およびフィッシャーの正確確率検定によって、症例-対照相関分析およびハーディー・ワインベルグ平衡のシフトを評価した。相関分析において、相乗、優性、劣性モデルを用いた。マンテル・ヘンツェル法を用いて、2つの症例-対照試料の結果を統合した。多重検定の補正のために、SASソフトウェアバージョン9.12(SAS Institute)のMULTTEST手順を用いて、10,000例の再現についてランダム並べ替え検定を実施した。D'またはr2で連鎖不平衡を計算し、Haploviewバージョン4.0(Broad Institute)を用いてGabrielの基準(Gabriel SB,et al. Science, 2002;296:2225-2229.)によりハプロタイプブロックを画定した。スチューデントt検定によってルシフェラーゼアッセイデータおよび低分子量GTPase活性アッセイデータを分析した。
【0239】
〔実施例1〕症例-対照相関研究
あらかじめ、虚血性脳卒中の症例1,112例ならびに年齢および性別が一致した対照1,112例において、JSNPデータベースから選択した52,608個の遺伝子に基づくタグSNPを用いて二段階大規模相関研究を実施した(Kubo M, et al. Nat Genet, 2007;36:233-239.、Hata J, et al. Hum Mol Genet, 2007;16: 630-639.)。アテローム血栓性脳梗塞の感受性遺伝子を同定するために、アテローム血栓性脳梗塞の症例860例ならびに年齢および性別が一致した対照860例に的を絞ってこのデータを分析した(第1セット)。染色体8p23上のARHGEF10のイントロン17にあるSNP rs2280887が、アテローム血栓性脳梗塞と強い相関性を有することが見出された(優性モデルについてP=1.2×10-6;表4)(ARHGEF10における4つのSNPsと、セット1およびセット2の試料におけるアテローム血栓性脳梗塞との関連)。
【0240】
【表4】
【0241】
上記表4中、ORはオッズ比、CIは信頼区間、「-」は欠失を示す。
【0242】
この相関は、多重検定の補正のための並び替え検定の後も有意に維持された(P=0.0006)。このSNPは、虚血性脳卒中全体に対しては比較的弱い相関を示し、心原性脳梗塞とは相関しなかった(表5)(rs2280887と、セット1における虚血性脳卒中サブタイプとの関連)。
【0243】
【表5】
【0244】
上記表5中、ORはオッズ比、CIは信頼区間、ATSはアテローム血栓性脳梗塞、CESは心原性脳梗塞を示す。
【0245】
そのため、アテローム血栓性脳梗塞に対する感受性座位がARHGEF10を含む領域に存在すると推測される。
【0246】
続いて、第二段階のHapMap JPTデータからARHGEF10遺伝子の全体にわたる93個のタグSNPを選択し、スクリーニング試料を用いてこれらのSNPの遺伝子型同定を行った。ARHGEF10 のイントロン17のrs4480162は、rs2280887とは完全に連鎖不平衡(D'=1.0およびR2=1.0)であり、かつアテローム血栓性脳梗塞に有意に相関していた(優性モデルについてP=6.9×10-7、表4)。その他の92個のSNPはいずれも有意に相関しなかった。これらの2つのSNPは、ARHGEF10のイントロン15からイントロン17に位置する高度に連鎖不平衡な7.4 kb領域内に位置していた。そのため、48名の罹患者を用いたダイレクトシーケンシングによって、この7.4 kb領域の変異体を検索した。このリシーケンシングにより、dbSNPデータベースに既に登録されている12個の変異体および28個の新規変異体が同定された。すでに遺伝子型同定された変異体またはMAF<0.05の変異体を除いた後、14個のSNPをさらに遺伝子型同定した。図1ABは、ARHGEF10の候補領域周辺のファインマッピングの結果を示している。相関はARHGEF10のブロックAに限定されていた。ブロックAにおいて、さらなる2つのSNP、rs35234164およびrs4376531が、rs2280887と同等の有意な相関を有することが見出された(図1A(III)および表4)。rs4376531はrs4480162から2塩基離れているだけであり、これらのSNPはrs2280887と完全に関連していた(各SNPペア D'=1.0およびr2=1.0)。rs35234164は、イントロン16に位置する、1塩基が挿入/欠失(T/del)された多型であり、他の3つのSNPと強力に関連していた(各SNPペアD'=1.0およびr2=0.95)。ブロックAには、アテローム血栓性脳梗塞と相関するSNPは他に存在しなかった。これらの4つのSNPは、症例1,925例および対照2,068例の別の症例-対照のセットにおいても、アテローム血栓性脳梗塞と相関することが見出された(第2セット、優性モデルについてP=0.018、表4)。これらの4つのSNPを用いたハプロタイプ分析は、単一遺伝子座分析と比較したところ、同様の相関を示した。したがって、本発明者らは、これらのSNPの1つまたは組み合わせが機能的意義を有するとみなした。
【0247】
〔実施例2〕感受性ハプロタイプは、Sp1結合親和性の差異によりARHGEF10転写活性に影響を及ぼす
前記の4つのSNPはイントロン16または17に位置付けられ、5'-非翻訳領域(UTR)からおよそ80 kb離れてかつ3'-UTRから50 kb離れてマッピングされた。4つのSNPのいずれも、イントロン16または17のスプライス供与部位、スプライス受容部位、またはブランチ部位には位置付けられなかった。さらに、UCSCゲノムブラウザデータベースは、ブロックAの領域において、他の注釈付き(annotated)遺伝子または非コードRNAを示さなかった。これらの可能性を完全に排除することはできないが、本発明者らはこれらのSNPのいくつかが間接的効果を介して転写に対して効力を発揮しうると仮定した。
【0248】
この仮説を証明するために、ARHGEF10のゲノム配列に由来する6つの5'末端ビオチン標識オリゴヌクレオチドプローブを調製し、ARHGEF10遺伝子転写物を高発現しているLoVo細胞の核抽出物を用いてEMSAを実施した。感受性ハプロタイプ(C-G)rs4480162およびrs4376531に対応するレーンにおいて、強い強度を有するDNA-タンパク質複合体のシフトバンドが見出された(図2A)。このシフトバンドは、非感受性ハプロタイプ(G-C)に対応するレーンでは弱かった。他のシフトバンドは、対立遺伝子間の強度について差異を示さなかった。非標識オリゴヌクレオチドを用いた競合アッセイにより、自己(C-G)オリゴヌクレオチドは用量依存的様式でDNA-タンパク質複合体の形成を阻害したが、非自己オリゴヌクレオチド(G-C)は阻害しなかったことが示され(図2B)、このことは、一部の核タンパク質が、C-Gハプロタイプに対応するDNA断片に特異的に結合することを示唆している。どの転写因子がこの感受性ハプロタイプに結合するかを同定するために、様々な転写因子のコンセンサス配列に対応する過剰量の非標識オリゴヌクレオチドを競合物として添加した。非標識Sp1-結合コンセンサスオリゴヌクレオチドがDNA-タンパク質複合体の形成を効率的に阻害することが見出された(図2C)。さらに、この混合物に抗Sp1抗体を添加した場合、バンドはより高分子量の位置へシフトし、このことはSp1タンパク質が感受性ハプロタイプに特異的に結合することを示している。
【0249】
ハプロタイプがARHGEF10の転写活性に影響を及ぼすか否かを試験するために、LoVo細胞を用いてルシフェラーゼアッセイを実施した。EMSAで用いたものと同一の配列をpGL3プロモーターベクターへサブクローニングした。ルシフェラーゼ活性は、感受性ハプロタイプ(C-G)を含むレポーターベクターをトランスフェクトした細胞では増強されたが、非感受性ハプロタイプを含むベクターをトランスフェクトした細胞では増強作用は低かった(図2D)。これらの知見により、ハプロタイプrs4480162およびrs4376531が、Sp1転写因子の結合親和性の差異を通してARHGEF10転写活性に影響を及ぼしうることが示された。
【0250】
GEF10の機能はほとんど不明であるものの、GEF10はRhoグアニンヌクレオチド交換因子のファミリーのメンバーであり、これは結合GDPのGTPによる交換を触媒することで低分子量GTPase Rhoの活性を制御する。アテローム血栓性脳梗塞の病因におけるGEF10の役割を解明するために、低分子量GTPase活性アッセイによって、RhoA、Rac1、およびCdc42の活性化に対するGEF10の効果を調べた。図3に示すように、GEF10の過剰発現はGTP結合RhoAの増加を引き起こし、このことはGEF10がRhoAを活性化しうることを示している。対照的に、GEF10の過剰発現はGTP結合Rac1またはCdc42には全く効果を有しなかった。Sp1は多数の組織において大量に発現するため、疾患感受性ハプロタイプを有する被験者は、ARHGEF10転写物をより高発現し、その結果RhoA-Rhoキナーゼ経路がより高活性であると予想される。
【0251】
〔実施例3〕感受性ハプロタイプは虚血性脳卒中の罹患率を増加させる
最後に、集団に基づくコホート研究を用いて、虚血性脳卒中の罹患率に対するこの機能的ハプロタイプの効果を調べた。コホートの14年間の追跡調査期間中、ベースライン調査時に脳卒中の病歴を有しなかった1,656名の被験者のうち、初めて虚血性脳卒中を起こした事象が67例観察された。図4は、機能的ハプロタイプによる虚血性脳卒中の罹患率のカプラン・マイヤー推定値である。少なくとも1つの感受性ハプロタイプを有する被験者における累積罹患率は6.1 %であり、感受性ハプロタイプを有しない被験者における累積罹患率は3.6 %であった。年齢および性別を調整したアテローム血栓性脳梗塞のリスクは、感受性ハプロタイプを有する被験者において有意に高かった(危険率1.79、95 % CI: 1.05〜3.04)。
【0252】
〔実施例4〕GABBR1上にあるSNPは脳梗塞と関連している
大規模tag-SNPマーカーによるケースコントロール研究により、GABBR1が脳梗塞と高度の関連性があることを見出した(表6−1〜表6−3)。
【0253】
【表6−1】
【0254】
表6−2は表6−1の続きの表である。
【表6−2】
【0255】
表6−3は表6−2の続きの表である。
【表6−3】
【0256】
GABBR1はファミリー遺伝子であるGABBR2とヘテロ接合することによりGABA B受容体を形成することが知られている。また、tag-SNPマーカーにより脳梗塞関連遺伝子と同定されたGABBR1に関して候補領域内に存在するexon、UTRおよびその近傍領域のシーケンスを行い、いくつかの関連するSNPを見出した。図5の上部分はGABBR1遺伝子近傍の各SNPに対してアリル頻度、優性または劣性モデルの中で最も低いp値を対数変換したものをy軸に、染色体上の位置をx軸にプロットしている。下部分はHaploview ver3.32を用いてΔにより計測されたSNP間の連鎖不平衡を示す。
【0257】
〔実施例5〕血管平滑筋細胞ではexon 15を欠損した型のGABBR1が発現している
A) PCR法によるexon 15の有無の確認
ヒト胎児脳、胸部大動脈血管平滑筋細胞、冠状動脈血管平滑筋細胞、胸部大動脈血管内皮細胞、冠状動脈血管内皮細胞および脳血管内皮細胞由来のcDNAを以下の方法にてPCR反応を行うことにより、Exon 15を保有しているかの確認を行った。
【0258】
使用プライマー:フォワード側配列CAGGGTGGCAGCTACAAGAAG(配列番号:10)、リバース側配列GTTGGGCTGTGAGTTCTGGATATAA(配列番号:11)、PCR用の試薬としてEXPRESS qPCR SuperMix Universal (invitrogen)を用いた。Exon 15を保持している場合には258 bpに、欠損している場合は107 bpに増幅産物が認められるようにプライマーを設計した。
【0259】
その結果、胎児脳においてはexon 15の保持が、その他の血管細胞においてはexon 15の欠損が認められた(図6)。脳梗塞と強い相関の認められたSNPのうち、GABBR1上に存在するものは6個であった。Exon 15を保有している場合にはrs2267633、SNP-A445、SNP-A1226およびrs3025640は3'-UTR領域に、rs2076489およびrs29230はexon 16に存在し、exon上に存在する2個のSNPはアミノ酸をコードしている。一方、exon 15を欠損した場合はフレームシフトによりrs2076489およびrs29230も3'-UTR領域に含まれる。すなわち、exon 15を欠損した場合にはこれら6個のSNPは全て3'-UTR領域に存在することになる。
【0260】
B) Western Blotting法によるタンパクレベルでの検出
ヒト胸部大動脈血管平滑筋細胞および冠状動脈血管平滑筋細胞(いずれもタカラバイオ社より購入)を6 cm培養皿に播種した。胸部大動脈血管平滑筋細胞は播種4日後に、冠状動脈血管平滑筋細胞は播種3日後にProteoExtract Transmembrane Protein Extraction Kit(Novagen)を製造元の指示に従い用いることにより、可溶性画分(C)と膜画分(M)に分画した。ウェスタンブロッティング法にて両細胞の可溶性および膜画分を抗GABBR1抗体(Abnova H00002550-M01)にて検討したところ、HEK293T細胞にGABBR1 isoform eを一過的に強制発現させた場合よりも小さいバンドが検出された(図7)。
【0261】
上記A)の結果と考え合わせると、ヒト胸部大動脈血管平滑筋細胞および冠状動脈血管平滑筋細胞には分子量は異なるものの、exon 15を欠損している点でisoform eと類似したGABBR1タンパクが存在していると考えられた。いずれの細胞も5%の二酸化炭素を含む37℃の加湿空気中でインキュベートし、培地は供給元の指示に従った。
【0262】
〔実施例6〕GABBR2はgrowth phaseにある血管平滑筋細胞で高発現している
A) 培養期間による発現の変動
ヒト胸部大動脈血管平滑筋細胞および冠状動脈血管平滑筋細胞を24 well培養皿に播種した。胸部大動脈血管平滑筋細胞は播種2,4,7および9日後、冠状動脈血管平滑筋細胞は播種2,3,6および8日後時点でmRNAを抽出し、random primerにて逆転写反応を行い、cDNAを得た。GABBR1、GABBR2またはα-actinの相対mRNA発現量は同一cDNA試料におけるGAPDHの発現量との比によって算出した(図8)。なお、各遺伝子のqPCR測定には以下の試薬および装置を用いた。GABBR1:Assay ID Hs00559488(Applied Biosystems)、GABBR2:Assay ID Hs00193804(Applied Biosystems)、a-actin:Assay ID Hs00426835(Applied Biosystems)装置:7500 Fast Real-Time PCR System(Applied Biosystems)
【0263】
B) 培地による発現の変動
ヒト冠状動脈血管平滑筋細胞を24 well培養皿に播種した。冠状動脈血管平滑筋細胞を供給元の指示に従い2日間培養した。2日後に一部の細胞は新鮮な同組成の培地に交換し、一部はウシ血清を含めた増殖刺激因子を全て除外した培地(基本培地)に交換した。
【0264】
翌日(播種より3日後)mRNAを抽出し、上記と同様の方法によりGABBR1およびGABBR2のqPCR測定を行い、GAPDHとの相対mRNA発現量を算出した(図9)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ARHGEF10遺伝子もしくはGABBR1遺伝子の多型変異を指標とする動脈硬化性関連疾患のリスク素因の有無の検査方法、並びに、該遺伝子を利用した動脈硬化性疾患治療薬のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界中で脳卒中は一般的死因の1つであり、また機能障害の主な原因である(非特許文献1)。特に、高齢者人口が増加している国々では、さらに急速なる増加が懸念される。したがって、脳卒中の一次予防は深刻な問題であり、新規な予防手段の開発が緊急に必要とされている。双生児研究および家族研究により、虚血性脳卒中のリスクは遺伝要因および環境要因に左右されることが示されている(非特許文献2)。虚血性脳卒中に対する感受性遺伝子の同定により、この疾患の新しい病態生理学的機序を解明することおよび新規予防手段の開発を導くことが期待されている。従来のゲノム全体での相関研究により、いくつかの感受性遺伝子が報告されているが(非特許文献3)、虚血性脳卒中における遺伝要素の一般的形式は依然としてほとんど不明である。
【0003】
虚血性脳卒中は通常、いくつかのサブタイプに分類される。病態生理学的機序および予防手段の観点から、虚血性脳卒中はアテローム血栓性脳梗塞および心原性脳梗塞に分類される(非特許文献3、4、5)。アテローム血栓性脳梗塞は主に、様々な大きさの動脈におけるアテローム硬化によって引き起こされ、主な予防手段は、高血圧、糖尿病、高脂血症、および喫煙といった心血管の危険因子を制御することである。一方、心原性脳梗塞は主に、心房細動および心臓弁膜症といった心疾患によって引き起こされ、主な予防手段は抗凝固剤の使用である。これら2つのサブタイプの遺伝的特質に関して、Jerrard-Dunneらは、アテローム血栓性脳梗塞の遺伝要素の方が心原性脳梗塞の遺伝要素よりも強いということを示し、遺伝学的研究はアテローム血栓性脳梗塞に的を絞ることでより効率的になりうるということを示唆した(非特許文献6)。
【0004】
また、GABBR1遺伝子に関しては、GABA B受容体に関する総説(非特許文献7および8)、およびGABBR1 isoform eに関する報告(非特許文献9)が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Lopez AD, ら著、「Global and regional burden of disease and risk factors, 2001: systematic analysis of population health data.」、Lancet、2006年、Vol. 367、p.1747-1757.
【非特許文献2】Flossmann E, ら著、「Systematic review of methods and results of studies of the genetic epidemiology of ischemic stroke.」、Stroke、2004年、Vol.35、p.212-227.
【非特許文献3】Ikram MA, ら著、「Genomewide Association Studies of Stroke.」、 N Engl J Med、2009年、Vol.360、p.1718-1728.
【非特許文献4】Rosamond WD,ら著、「Stroke incidence and survival among middle-aged adults: 9-year follow-up of the Atherosclerosis Risk in Communities (ARIC) cohort.」、Stroke、1999年、Vol.30、p.736-743.
【非特許文献5】Sacco RL, ら著、「American Heart Association/American Stroke Association Council on Stroke; Council on Cardiovascular Radiology and Intervention; American Academy of Neurology. Guidelines for prevention of stroke in patients with ischemic stroke or transient ischemic attack: a statement for healthcare professionals from the American Heart Association/American Stroke Association Council on Stroke: co-sponsored by the Council on Cardiovascular Radiology and Intervention: the American Academy of Neurology affirms the value of this guideline.」、Circulation、2006年、Vol.113、e409-e449.
【非特許文献6】Jerrard-Dunne P, ら著、「Evaluating the genetic component of ischemic stroke subtypes: a family history study.」、Stroke、2003年、Vol.34、p.1364-1369.
【非特許文献7】Piers C. Emsonら著、「GABA(B) receptors: structure and function.」、Prog Brain Res., 2007年、Vol.160、p.43-57
【非特許文献8】BERNHARD BETTLERら著、「Molecular Structure and Physiological Functions of GABAB Receptors」、Physiol Rev、2004年Jul、Vol.84、p.835 - 867
【非特許文献9】David A. Schwarzら著、「Characterization of g-Aminobutyric Acid Receptor GABAB(1e), a GABAB(1) Splice Variant Encoding a Truncated Receptor」、Biol. Chem.、2000年October 13、Vol. 275、Issue 41、p. 32174-32181
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、動脈硬化性関連遺伝子および該遺伝子の特徴を利用する用途の提供を課題とする。より具体的には本発明は、動脈硬化性関連遺伝子および該遺伝子上の多型を利用した動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法、並びに、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤のスクリーニング方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、アテローム血栓性脳梗塞に的を絞り、日本人集団における大規模な症例-対照相関研究を実施し(Kubo M, ら著、「A nonsynonymous SNP in PRKCH (protein kinase C eta) increases the risk of cerebral infarction.」、Nat Genet、2007年、Vol.36、p.233-239.; Hata J, ら著、「Functional SNP in an Sp1-binding site of AGTRL1 gene is associated with susceptibility to ischemic stroke.」、Hum Mol Genet、2007年、Vol.16、p.630-639.)、染色体8p23上のグアニンヌクレオチド交換因子10(ARHGEF10)をコードする遺伝子をアテローム血栓性脳梗塞の新規な感受性遺伝子として同定することに成功した。そして、ARHGEF10遺伝子上の多型が脳梗塞等の動脈硬化性疾患と関連することを新たに見出した。
【0008】
また、この遺伝子の機能的ハプロタイプが、Sp1結合親和性を改変することでその転写活性に影響を及ぼすことを見出した。さらに、低分子量GTPase活性アッセイにより、ARHGEF10の遺伝子産物であるグアニンヌクレオチド交換因子10(GEF10)がRhoAを特異的に活性化することが示された。RhoA-Rhoキナーゼ経路は、心血管疾患およびアテローム硬化の病因において重要な役割を有するため、ARHGEF10のハプロタイプは虚血性脳卒中の発症に対する感受性に関与している可能性がある。
【0009】
また発明者らは、GABBR1遺伝子上の多型が脳梗塞等の動脈硬化性疾患と関連することを新たに見出した。
上述の如く本発明者らは、脳梗塞等の動脈硬化性疾患に関連する2遺伝子、並びに動脈硬化性疾患に関連する多型を同定することに成功し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明は、脳梗塞等の動脈硬化性疾患に関連する遺伝子、および該遺伝子上の多型を利用した動脈硬化性疾患のリスク素因の有無の検査方法、並びに、動脈硬化性疾患の治療のための薬剤のスクリーニング方法に関し、より具体的には、
〔1〕 被検者におけるARHGEF10遺伝子の発現を指標とすることを特徴とする、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法、
〔2〕 被検者について、ARHGEF10遺伝子におけるDNA変異を検出することを特徴とする、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法、
〔3〕 前記変異が、Sp1転写因子との結合を変化させる変異である、〔2〕に記載の検査方法、
〔4〕 被検者について、GABBR1遺伝子におけるDNA変異を検出することを特徴とする、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法、
〔5〕 変異が多型変異である、〔2〕〜〔4〕のいずれかに記載の検査方法、
〔6〕 被検者について、GABBR1遺伝子における多型部位の塩基種を決定することを特徴とする、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法、
〔7〕 多型部位が、GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列における(1a)1位、(2a)4572位、(3a)7333位、(4a)7599位、(5a)7775位、(6a)8114位、(7a)8479位、(8a)10188位、(9a)13327位、(10a)13371位、または(11a)15463位の多型部位である、〔6〕に記載の検査方法、
〔8〕 〔7〕の(1a)〜(11a)に記載の多型部位における塩基種が、それぞれ以下の(1b)〜(11b)である場合に、被検者は動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと判定される〔7〕に記載の検査方法、
(1b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の1位における塩基種がT
(2b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の4572位における塩基種がA
(3b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7333位における塩基種がG
(4b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7599位における塩基種がC
(5b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位における塩基種がA
(6b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の8114位における塩基種がG
(7b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の8479位における塩基種がA
(8b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の10188位における塩基種がG
(9b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の13327位における塩基種がA
(10b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の13371位における塩基種がT
(11b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の15463位における塩基種がC
〔9〕 被検者について、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法であって、以下の(A)〜(C)のいずれかに記載のハプロタイプを示すDNAブロックが検出された場合に動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと判定される方法、
(A)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれA、A、G、A、A、およびCであるハプロタイプ
(B)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれG、G、A、G、G、およびGであるハプロタイプ
(C)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれG、G、G、G、A、およびCであるハプロタイプ
〔10〕 被検者について動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法であって、以下の(A)〜(C)のいずれかに記載のハプロタイプを示すDNAブロック内に存在し互いに連鎖することを特徴とする多型部位の塩基種を決定する工程を含む検査方法、
(A)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれA、A、G、A、A、およびCであるハプロタイプ
(B)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれG、G、A、G、G、およびGであるハプロタイプ
(C)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれG、G、G、G、A、およびCであるハプロタイプ
〔11〕 以下の工程(a)および(b)を含む、被検者について、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法、
(a) 被検者におけるGABBR1遺伝子上の多型部位について、塩基種を決定する工程
(b)(a)で決定された塩基種が、以下の(A)〜(C)のいずれかに記載のハプロタイプを示すGABBR1遺伝子における前記多型部位の塩基種と同一であった場合に、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと判定する工程
(A)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれA、A、G、A、A、およびCであるハプロタイプ
(B)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれG、G、A、G、G、およびGであるハプロタイプ
(C)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれG、G、G、G、A、およびCであるハプロタイプ
〔12〕 前記(a)の多型部位が、GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列における1位、4572位、7333位、7599位、7775位、8114位、8479位、10188位、13327位、13371位、または15463位のいずれかの多型部位である、〔11〕に記載の検査方法、
〔13〕 被検者について、ARHGEF10遺伝子における多型部位の塩基種を決定することを特徴とする、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法、
〔14〕 多型部位が、ARHGEF10遺伝子上の部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列における(1a)2225位の多型部位である、〔13〕に記載の検査方法、
〔15〕 〔14〕の(1a)に記載の多型部位における塩基種が、以下の(1b)である場合に、被検者は動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと判定される〔14〕に記載の検査方法、
(1b)ARHGEF10遺伝子上の部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列の2225位の塩基種がG
〔16〕 被検者について、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法であって、以下の(A)に記載のハプロタイプを示すDNAブロックが検出された場合に動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと判定される方法、
(A)ARHGEF10遺伝子上の多型部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列の2222位、および2225位の多型部位における塩基種が、それぞれCおよびGであるハプロタイプ
〔17〕 被検者について動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法であって、以下の(A)に記載のハプロタイプを示すDNAブロック内に存在し互いに連鎖することを特徴とする多型部位の塩基種を決定する工程を含む検査方法、
(A)ARHGEF10遺伝子上の多型部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列の2222位、および2225位の多型部位における塩基種が、それぞれC、およびGであるハプロタイプ
〔18〕 以下の工程(a)および(b)を含む、被検者について、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法、
(a) 被検者におけるARHGEF10遺伝子上の多型部位について、塩基種を決定する工程
(b)(a)で決定された塩基種が、以下の(A)に記載のハプロタイプを示すARHGEF10遺伝子における前記多型部位の塩基種と同一であった場合に、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと判定する工程
(A)ARHGEF10遺伝子上の多型部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列の2222位、および2225位の多型部位における塩基種が、それぞれC、およびGであるハプロタイプ
〔19〕 前記(a)の多型部位が、ARHGEF10遺伝子上の部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列における2222位、または2225位の多型部位である、〔18〕に記載の検査方法、
〔20〕 被検者由来の生体試料を被検試料として検査に供する、〔1〕〜〔19〕のいずれかに記載の検査方法、
〔21〕 〔7〕の(1a)〜(11a)に記載の多型部位、または、〔14〕の(1a)に記載の多型部位を含むDNAにハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチドを含む、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かを検査するための試薬、
〔22〕 〔7〕の(1a)〜(11a)に記載の多型部位、または、〔14〕の(1a)に記載の多型部位を含むDNAとハイブリダイズするヌクレオチドプローブが固定された固相からなる、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かを検査するための試薬、
〔23〕 〔7〕の(1a)〜(11a)に記載の多型部位、または、〔14〕の(1a)に記載の多型部位を含むDNAを増幅するためのプライマーオリゴヌクレオチドを含む、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かを検査するための試薬、
〔24〕 以下の(a)または(b)を有効成分として含有する、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査用試薬、
(a)ARHGEF10遺伝子の転写産物にハイブリダイズするオリゴヌクレオチド
(b)ARHGEF10遺伝子によってコードされるタンパク質を認識する抗体
〔25〕 以下の(a)または(b)を有効成分として含有する、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤のスクリーニング用試薬、
(a)ARHGEF10遺伝子の転写産物にハイブリダイズするオリゴヌクレオチド
(b)ARHGEF10遺伝子によってコードされるタンパク質を認識する抗体
〔26〕 ARHGEF10遺伝子の発現、もしくは該遺伝子によってコードされるタンパク質の機能を抑制する物質を有効成分として含有する、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤、
〔27〕 ARHGEF10遺伝子の発現抑制物質が、以下の(a)〜(c)からなる群より選択される化合物である、〔26〕に記載の動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤、
(a)ARHGEF10遺伝子の転写産物またはその一部に対するアンチセンス核酸
(b)ARHGEF10遺伝子の転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有する核酸
(c)ARHGEF10遺伝子の発現をRNAi効果による阻害作用を有する核酸
〔28〕 ARHGEF10遺伝子によってコードされるタンパク質の機能抑制物質が、以下の(a)または(b)の化合物である、〔26〕に記載の動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤、
(a)ARHGEF10遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する抗体
(b)ARHGEF10遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する低分子化合物
〔29〕 以下の(a)または(b)を有効成分として含有する、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤、
(a)エキソン15を欠損したGABBR1によって形成されるGABA B受容体のリガンド
(b)RhoAインヒビター
〔30〕 ARHGEF10遺伝子の発現量または該遺伝子によってコードされるタンパク質の活性を低下させる化合物を選択することを特徴とする、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤のスクリーニング方法、
〔31〕 以下の(a)〜(c)の工程を含む、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤のスクリーニング方法、
(a)ARHGEF10遺伝子を発現する細胞に、被検化合物を接触させる工程
(b)該ARHGEF10遺伝子の発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、該発現レベルを低下させる化合物を選択する工程
〔32〕 以下の(a)〜(c)の工程を含む、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤のスクリーニング方法、
(a)ARHGEF10遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞または細胞抽出液と、被検化合物を接触させる工程
(b)該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、該発現レベルを低下させる化合物を選択する工程、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明において、アテローム血栓性脳梗塞をターゲットとした大規模な症例-対照相関研究のデータを分析した。ARHGEF10のイントロン17に位置する新規な候補遺伝子座rs2280887が見出された。このSNPは、多重検定の補正後もアテローム血栓性脳梗塞に有意に相関しており、この相関は他の症例-対照サンプルでも再現された。ARHGFE10遺伝子のファインマッピングにより、4つの高度に関連したSNP(rs2280887、rs35234164、rs4480162、およびrs4376531)が機能的意義を有する候補であることが示された。これら4つのSNPの機能分析により、rs4480162およびrs4376531を含むハプロタイプがSp1転写因子の結合親和性を改変し、感受性ハプロタイプにおけるARHGEF10転写活性を増強しうることが示された。
【0012】
また、GEF10が、アテローム硬化の様々な過程において重要な役割を有するRhoAを特異的に活性化することが見出された。これらの知見は、ARHGEF10の感受性ハプロタイプを有する被験者が、転写物をより高発現し、かつより高いRhoA活性を有しうることを示唆する。RhoA-Rhoキナーゼ経路がアテローム硬化の病因に関連していることから、ARHGEF10の機能的ハプロタイプはアテローム血栓性脳梗塞の発症をもたらしうる。この知見は、集団に基づくコホート研究により補強された。
【0013】
グアニンヌクレオチド交換因子(GEF)は、多様な細胞外刺激に応答して低分子量GTPaseを活性化し、最終的には多数の細胞応答を調節する(Rossman KL, et al., Nature Rev Mol Cell Biol, 2005;6:167-180.)。アクチン細胞骨格のマスターレギュレーターとして同定される低分子量GTPaseは、収縮、移動、増殖、およびアポトーシスを含む極めて多様な細胞機能を制御する。低分子量GTPaseは、不活性なGDP結合型と活性なGTP結合型との間を循環する分子スイッチとして作用する(Loirand G, et al., Curr Opin Pharmacol, 2008;2:174-180.)。Rho GEFは、GTPと交換にGDPの放出を促進することによって低分子量GTPaseの活性化を仲介する(Bos JL, et al., Cell, 2007;129:865-877.)。Rho GEFのメンバーであるARHGEF10は、ヒト脳由来のcDNAクローンのシーケンシングにより同定され(Nagase T, et al., DNA Res, 2000;31:347-355.)、脳だけでなく心臓を含む様々な組織で発現することが見出された(Yoshizawa M, et al., Gene Expr Patterns, 2003;3:375-381.)。ARHGEF10の点変異(T109I)は、常染色体性優性遺伝により末梢神経の運動神経および知覚神経伝導速度が低下した家系において共分離することが報告されている(Verhoeven K, et al., Am J Hum Genet, 2003;73:926-932.)。しかしながら、ARHGEF10の機能は大部分が未知である。
【0014】
本発明者らは、GEF10がRhoAを特異的に活性化し、RhoA-Rhoキナーゼ活性の調節を通してアテローム血栓性脳梗塞の発症に寄与しうることを見出した。近年の連関研究により、いくつかのRho GEFがアテローム硬化の病因に関連している可能性があることが示された。II型糖尿病の連鎖スキャンにより、LARGおよびPDZ-Rho GEFの非同義SNPがインシュリン感受性またはインシュリン耐性に相関していることが確認された(Kovacs P, et al., Diabetes, 2006;55:1497-1503.、Fu M, et al., Diabetes, 2007;56:1454-1459.)。別の連関研究は、kalirin遺伝子を早期発症性冠動脈疾患の候補遺伝子として見出した(Wang L, et al., Am J Hum Genet, 2007;80:650-663.)。これらの結果は、Rho GEF多型が低分子量GTPaseシグナル伝達経路に影響を及ぼし、結果としてヒトのアテローム硬化の病因となることを示唆している。
【0015】
特性が最もよく判明している低分子量GTPaseであるRhoA(Etienne-Manneville S, Hall A. Nature, 2002;420:629-935.)およびそのエフェクターの1つであるRho-キナーゼは、内皮細胞機能不全、炎症、および血管平滑筋細胞の増殖を含むアテローム硬化の様々な過程において重要な役割を果たすことが報告されている(Loirand G, et al., Circ Res, 2006;98:322-334.、Ming XF, et al., Circulation, 2004;110:3708-3714.、Stamatovic SM,et al., J. Cell Sci, 2003;116:4615-4628.、Sauzeau V, et al., Circ Res, 2001;88:1102-1104.、Rikitake Y, Liao JK. Circ Res, 2005; 97:1232-1235.)。これら状況から、RhoA-Rhoキナーゼ経路を阻害する薬物、たとえばRhoキナーゼ阻害剤(Loirand G, et al.,Circ Res, 2006;98:322-334.)またはスタチン(Rikitake Y, Liao JK. Circ Res, 2005; 97:1232-1235.)は、臨床の場では既に役に立っている。本発明者らによって見出された知見から、アテローム血栓性脳梗塞のより効果的な予防のためにRhoA-Rhoキナーゼ経路阻害剤をARHGEF10の感受性ハプロタイプを有する被験者に用いることが期待できる。
【0016】
結論として、ARHGEF10のイントロン17に位置するrs4480162およびrs4376531を含むハプロタイプは、アテローム血栓性脳梗塞と有意に相関していた。感受性ハプロタイプを有する個体は、Sp1結合に起因してGEF10転写物をより高発現し、かつより高いRhoA-Rhoキナーゼ活性を有する可能性がある。このより高い活性は最終的に、一般集団中のアテローム血栓性脳梗塞の罹患率の増加をもたらす。本発明者らの知見は、アテローム硬化の新規の病因の解明および虚血性脳卒中の予防療法の開発に光をあてる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1A】ARHGEF10における、エキソン-イントロン構造、症例-対照研究の結果、および連鎖不平衡マップを示す図である。(I)ARHGEF10の全エキソン-イントロン構造。(II)マーカーSNP rs2280887の周辺のエキソン-イントロン構造。(III)症例-対照相関研究の結果。優性モデルについての-log10に変換したP値がy軸上にプロットされている。
【図1B】図1Aの続きの図である。(IV)D'で測定した、SNP-SNPペア間での連鎖不平衡マップ。明るい赤はペアD'が高い領域を表し、白はペアD'が低い領域を表す。(V)r2で測定した、SNP-SNPペア間での連鎖不平衡マップ。黒はペアr2が高い領域を表し、白はペアr2が低い領域を表す。
【図2】機能的ハプロタイプは、Sp1の結合親和性を改変し、ARHGEF10の転写活性に影響を及ぼすことを示す写真および図である。(A)ARHGEF10の2つのSNP(右のパネルおよび左のパネル)ならびに1つのハプロタイプ(中央のパネル)の各対立遺伝子の周辺の5'末端標識50 bpプローブを用いたゲルシフトアッセイ。実線の矢印は、非感受性ハプロタイプ(G-C)よりも、rs4480162およびrs4376531を含む感受性ハプロタイプ(C-G)に対し、核因子の密接な結合を示すシフトバンドを示している。(B)非標識の自己オリゴヌクレオチドまたは非自己オリゴヌクレオチドを用いた競合アッセイ。DNA-タンパク質複合体(実線の矢印)は、G-C対立遺伝子を有するよりもC-G対立遺伝子を有する非標識のオリゴヌクレオチドによって、より効率的に競合された。(C)非標識Sp1結合コンセンサスオリゴヌクレオチドを用いた競合アッセイおよび抗Sp1抗体を用いたスーパーシフトアッセイ。電気泳動の実施時間を長くすることで、さらなるシフトバンドをより明確に(点線矢印)観察することができた。(D)ルシフェラーゼアッセイ。ハプロタイプの各対立遺伝子の周辺の50bp断片を、pGL3プロモーターベクターに挿入した。各試料を3回ずつ調査し、データを平均± SDとして示した。*はスチューデントt検定でP < 0.05を示す。
【図3】GEF10はRhoAを特異的に活性化することを示す図および写真である。(A)RhoA活性アッセイ。上部に示したように、293FT細胞にプラスミドをトランスフェクトした。GST-ローテキンによって細胞溶解物にプルダウンアッセイを行い、抗Myc抗体による免疫ブロットに供した。細胞溶解物全体を、抗Myc抗体および抗FLAG抗体による免疫ブロットで分析し、総RhoAおよびARHGEF10をそれぞれ検出した。GTP結合型RhoAおよび総RhoAを、LAS-3000システムのMulti Gaugeソフトウェアを用いてバンド強度により定量化した(下部)。RhoA活性を、総RhoAの強度に対するGTP結合RhoAの強度の相対比として算出した。対照(空ベクターをトランスフェクトした)における相対強度を、1単位として表した。(B)Rac1活性アッセイ。(C)Cdc42活性アッセイ。(B)および(C)を、パネル(A)においてと同様に、GST-ローテキンの代わりにGST-PAK-1を用いたプルダウンアッセイによって分析した。実験は最低3回繰り返した。
【図4】久山町研究の14年間の追跡調査期間中の、機能的ハプロタイプによる虚血性脳卒中の罹患率のカプラン・マイヤー推定値を示す図である。
【図5】図5の上部分はGABBR1遺伝子近傍の各SNPに対してアリル頻度、優性または劣性モデルの中で最も低いp値を対数変換したものをy軸に、染色体上の位置をx軸にプロットしている。下部分はHaploview ver3.32を用いてΔにより計測されたSNP間の連鎖不平衡を示す。
【図6】PCR法によるexon 15の有無を確認した写真である。cDNAの由来を以下に示す。1:ヒト胎児脳、2:ヒト胸部大動脈血管平滑筋細胞、3:ヒト冠状動脈血管平滑筋細胞、4:ヒト胸部大動脈血管内皮細胞、5:ヒト冠状動脈血管内皮細胞、6:ヒト脳血管内皮細胞
【図7】Western Blotting法によるタンパクレベルでの検出を示す写真である。
【図8】培養期間を変動した場合の、ヒト胸部大動脈血管平滑筋細胞および冠状動脈血管平滑筋細胞におけるGABBR1、GABBR2またはα-actinのGAPDHとの相対mRNA発現量を示すグラフである。
【図9】培地を変動した場合の、ヒト冠状動脈血管平滑筋細胞におけるGABBR1およびGABBR2の、GAPDHとの相対mRNA発現量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らは、脳梗塞等の動脈硬化性疾患と関連する遺伝子として、ARHGEF10遺伝子およびGABBR1遺伝子を同定し、さらに、該遺伝子上の多型変異(SNP)を同定した。また、ARHGEF10遺伝子の発現または該遺伝子によってコードされるタンパク質の機能の亢進は動脈硬化性疾患の発症と深く関連していることが見出された。被検者について、ARHGEF10遺伝子の発現が亢進(上昇)していれば、動脈硬化性疾患のリスク素因を有する(動脈硬化性疾患に罹患しやすい体質である)ものと判定することが可能である。
【0019】
本発明において「動脈硬化性疾患」とは、通常、動脈硬化を起因とする疾患を指す。具体的には、脳梗塞(例えば、ラクナ梗塞、アテローム性血栓性梗塞を含む)、心筋梗塞、動脈硬化症(例えば、アテローム性動脈硬化症を含む)、閉塞性動脈硬化症、大動脈瘤、腎動脈狭窄等を例示することができる。また、上記のラクナ梗塞は細動脈硬化を起因とする疾患であり、例えば、脳血管性痴呆(特にビンスワンガー病)、無症候性脳梗塞、微小心筋梗塞等も、本発明の動脈硬化性疾患に含まれる。
【0020】
ARHGEF10遺伝子またはGABBR1遺伝子上の多型変異、またはARHGEF10遺伝子の発現等を指標とすることにより、動脈硬化性疾患のリスク素因の有無を検査することが可能であることが、本発明者らによって初めて見出された。
【0021】
本発明は、まず、被検者(被検者由来の生体試料)におけるARHGEF10遺伝子の発現を指標とすることを特徴とする、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法を提供する。
【0022】
従って、ARHGEF10遺伝子の発現、または該遺伝子によってコードされるタンパク質の活性(機能)を指標とすることにより、被検者について、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かを検査することができる。
【0023】
本発明におけるARHGEF10遺伝子の塩基配列、および該遺伝子によってコードされるタンパク質のアミノ酸配列に関する情報は、例えば、遺伝子名を参考に公共のデータベースから取得することが可能である。
【0024】
なお、本発明におけるGABBR1遺伝子およびARHGEF10遺伝子(これらの遺伝子をまとめて本願明細書において「本発明の遺伝子」と記載する場合あり)の塩基配列をそれぞれ配列番号1、2に示す。なおGABBR1遺伝子に関して、配列表はプラス鎖を掲載している。
【0025】
本発明において「被検者」とは、通常ヒトであるが、本発明の検査方法は必ずしもヒトのみを被検対象とする方法に限定されない。ヒト以外の生物(好ましくは、脊椎動物であり、より好ましくはマウス、ラット、サル、イヌ、ネコ等の哺乳動物)を検査対象とする場合は、被検対象とする生物が有する内在性のARHGEF10遺伝子に相当する遺伝子について、その発現量を指標として検査を行う。従って本発明における「ARHGEF10遺伝子」には、例えば、配列番号:2に記載の塩基配列からなるDNAに対応する他の生物における内在性のDNA(ARHGEF10遺伝子ホモログ等)が含まれる。
【0026】
また、配列番号:2に記載の塩基配列からなるDNAに対応する他の生物の内在性のDNAは、一般的に、配列番号:2に記載のDNAと高い相同性を有する。高い相同性とは、50%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上(例えば、95%以上、さらには96%、97%、98%または99%以上)の相同性を意味する。この相同性は、mBLASTアルゴリズム(Altschul et al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 2264-8; Karlin and Altschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 5873-7)によって決定することができる。また、該DNAは、生体内から単離した場合、配列番号:2に記載のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズすると考えられる。ここで「ストリンジェントな条件」としては、例えば「2×SSC、0.1%SDS、50℃」、「2×SSC、0.1%SDS、42℃」、「1×SSC、0.1%SDS、37℃」、よりストリンジェントな条件として「2×SSC、0.1%SDS、65℃」、「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」および「0.2×SSC、0.1%SDS、65℃」の条件を挙げることができる。当業者においては、他の生物におけるARHGEF10遺伝子に相当する内在性の遺伝子を、ARHGEF10遺伝子の塩基配列を基に適宜取得することが可能である。
【0027】
また本発明は、被検者におけるARHGEF10遺伝子の発現量が対照と比較して上昇している場合に、被検者は動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと判定される、動脈硬化性疾患のリスク素因の有無の検査方法を提供する。
【0028】
上記方法においては、通常、被検者由来の生体試料を被検試料とする。該被検試料におけるARHGEF10遺伝子の発現量の測定は、当業者においては公知の技術を用いて適宜実施することが可能である。
【0029】
なお、上記遺伝子の「発現」には、該遺伝子からの「転写」あるいはポリペプチドへの「翻訳」が含まれる。
【0030】
遺伝子の発現量を、該遺伝子の翻訳産物(タンパク質)の生成量を指標として測定する場合、例えば、被検試料からタンパク質試料を調製し、該タンパク質試料に含まれるARHGEF10の量を測定する。このような方法としては、当業者に周知の方法、例えば、酵素結合免疫測定法(ELISA)、二重モノクローナル抗体サンドイッチイムノアッセイ法、モノクローナルポリクローナル抗体サンドイッチアッセイ法、免疫蛍光法、ウェスタンブロッティング法、ドットブロッティング法、免疫沈降法、プロテインチップによる解析法(蛋白質 核酸 酵素 Vol.47 No.5(2002)、蛋白質 核酸 酵素 Vol.47 No.8(2002))、2次元電気泳動法、SDSポリアクリルアミド電気泳動法が挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
遺伝子の発現量を、該遺伝子の転写産物(mRNA)の生成量を指標として測定する場合、例えば、被検試料からRNA試料を調製し、該RNA試料に含まれるARHGEF10をコードするRNAの量を測定する。また、被検試料からcDNA試料を調製し、該cDNA試料に含まれるARHGEF10をコードするcDNAの量を測定することによって、発現量を評価することも可能である。被検試料からのRNA試料やcDNA試料は、被検者由来の生体試料から、当業者に周知の方法で調製することができる。このような方法としては、当業者に周知の方法、例えばノーザンブロッティング法、RT-PCR法、DNAアレイ法等を挙げることができる。
【0032】
なお、上記「対照」とは、通常、健常者由来の生体試料におけるARHGEF10遺伝子の発現量を指す。なお、本発明におけるARHGEF10遺伝子の発現とは、ARHGEF10遺伝子から転写されるmRNAの発現、またはARHGEF10遺伝子によってコードされるタンパク質の発現の両方を意味するものである。
【0033】
また本発明は、被検者について、ARHGEF10もしくはGABBR1遺伝子における多型変異を検出することを特徴とする、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法を提供する。
【0034】
本発明において「動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査」には、被検者について動脈硬化性疾患の非リスク素因を有するか否かの検査、または、被検者について動脈硬化性疾患に罹患する可能性が高いか低いかを判定するための検査が含まれる。
【0035】
本発明の方法においては、ARHGEF10遺伝子において変異が検出された場合に、被検者は動脈硬化性疾患のリスク素因を有する、または、動脈硬化性疾患の非リスク素因を有さない、あるいは動脈硬化性疾患に罹患しやすい体質を有すると判定される。
【0036】
一方、ARHGEF10遺伝子において変異が検出されない場合に、被検者は動脈硬化性疾患の非リスク素因を有する、または動脈硬化性疾患のリスク素因を有さない等と判定される。
【0037】
また、本発明の方法においては、GABBR1遺伝子において変異が検出されない場合(野生型の場合)に、被検者は動脈硬化性疾患のリスク素因を有する、または、動脈硬化性疾患の非リスク素因を有さない、あるいは動脈硬化性疾患に罹患しやすい体質を有すると判定される。
【0038】
一方、GABBR1遺伝子において変異が検出された場合(非野生型の場合)に、被検者は動脈硬化性疾患の非リスク素因を有する、または動脈硬化性疾患のリスク素因を有さない等と判定される。
【0039】
また本発明の方法により、動脈硬化性疾患を罹患していない被検者であっても、動脈硬化性疾患を罹患する可能性が高いか低いかを判定することができる。
【0040】
なお、本明細書で用いられる「治療」とは、通常、薬理学的なおよび/または生理学的な効果を得ることを意味する。効果とは、疾患や症状を完全にあるいは部分的に妨げる点で予防的であってもよく、疾患の症状を完全にあるいは部分的に治療する点で治療的であっても良い。本明細書における「治療」とは、哺乳類、特にヒトにおける疾患の治療すべてを含んでいる。そしてさらに、疾患のリスク素因があるが未だ発病していると診断されていない被検者の発病の予防、疾患の進行を抑制すること、または疾患を軽減させること、発症を遅らせることなども、この「治療」に含まれる。
【0041】
本発明の検査方法により、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かを判定し、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと判定された患者は、発症する前に適切な治療を選択し、動脈硬化性疾患の発症を事前に予防することができると考えられる。
【0042】
本発明のARHGEF10もしくはGABBR1遺伝子のDNA配列としては、具体的には、それぞれ配列番号:2または1に記載の塩基配列が挙げられる。
【0043】
上記本発明の検査方法における「変異」の位置は、通常、上記ARHGEF10もしくはGABBR1遺伝子のORF中、あるいは上記遺伝子の発現を制御する領域(例えば、プロモーター領域、エンハンサー領域、イントロン等)中などに存在するが、これらに限定されるものではない。また、ARHGEF10遺伝子においては、この「変異」とは、通常、ARHGEF10遺伝子の発現量を亢進させる、mRNAの安定性を向上させる、あるいはARHGEF10遺伝子によってコードされるタンパク質の有する活性を上昇させるような変異であることが好ましい。本発明の変異の種類としては、例えば、塩基の付加、欠失、置換、挿入変異等を挙げることができる。
【0044】
本発明は、被検者についてARHGEF10遺伝子もしくはGABBR1遺伝子におけるDNA変異を検出することを特徴とする、動脈硬化性疾患のリスク要因を有するか否かの検査方法に関する。なお、本発明において「ARHGEF10遺伝子における(ARHGEF10遺伝子上)」もしくは「GABBR1遺伝子における(GABBR1遺伝子上)」の文言は、必ずしもこれらの遺伝子内の配列のみを指すものではなく、これらの遺伝子の近傍の配列をも包含するものとして解される。
【0045】
ARHGEF10遺伝子においては、Sp1転写因子の結合活性が変化するような「変異」であることが好ましい。該変異の好ましい例としては、後述の実施例において示すrs4480162(配列番号:1に記載の塩基配列上において2222位の多型部位の塩基種がCまたはrs4376531(配列番号:1に記載の塩基配列上において2225位の多型部位の塩基種がGを挙げることができる。
【0046】
本発明者らは、被検者におけるARHGEF10もしくはGABBR1遺伝子において、動脈硬化性疾患に対して有意に関連する多型変異を見出すことに成功した。従って、ARHGEF10もしくはGABBR1遺伝子上の多型部位について変異の有無を指標とする(塩基種を決定する)ことにより、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査を行なうことが可能である。
【0047】
本発明の好ましい態様においては、本発明のARHGEF10もしくはGABBR1遺伝子における多型変異を検出することを特徴とする、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かを検査する方法である。
【0048】
多型とは、遺伝学的には、人口中1%以上の頻度で存在している1遺伝子におけるある塩基の変化と一般的に定義されるが、本発明における「多型」は、この定義に制限されない。本発明における多型の種類としては、例えば、一塩基多型、一から数十塩基(時には数千塩基)が欠失あるいは挿入している多型等が挙げられる。さらに、多型部位の数も、1個に限定されず、複数個の多型であってもよい。
【0049】
また本発明は、被検者について、本発明のARHGEF10もしくはGABBR1遺伝子における多型部位の塩基種を決定することを特徴とする、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かを検査する方法を提供する。
【0050】
本発明の動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かを検査する方法における「多型部位」は、本発明のARHGEF10もしくはGABBR1遺伝子上、もしくはその周辺領域に存在する多型であれば、特に制限されない。GABBR1上に見出される多型部位に関する情報を表1−1から表1−2、ARHGEF10遺伝子上に見出される多型部位に関する情報を表2にそれぞれ示す。表中、「ストランド」の列における「+」はプラス鎖を、「−」はマイナス鎖を表す。また、「多型の種類」の列における「SNP」は一塩基多型変異を、「in/del」は挿入・欠失変異を表す。なお、表中「アリル1」がリスク型である。
【0051】
【表1−1】
【0052】
表1−2は表1−1の続きの表である。
【表1−2】
【0053】
【表2】
【0054】
即ち、本発明の好ましい態様においては、上記の表に記載された多型部位について塩基種を決定することを特徴とする方法である。
【0055】
本発明の動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法に利用可能な多型部位としては、上記の多型部位の中でも、ARHGEF10もしくはGABBR1遺伝子もしくは該遺伝子の周辺領域上の部位であることが好ましい。
【0056】
例えば、GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列における1位、4572位、6889位、7196位、7221位、7250位、7266位、7333位、7599位、7775位、8114位、8479位、8543位、10188位、11410位、11529位、11565位、11937位、13274位、13327位、13371位、13524位、13526位、14127位、15463位、17199位、17370位、17945位、17975位、18044位、18047位、18691位、26058位、26600位、29365位、または30722位の多型部位が好ましい。
【0057】
また、ARHGEF10遺伝子上の部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列における828位、2222位、2225位、または3171位の多型部位が好ましい。
【0058】
上記の多型部位を本明細書において、「本発明の多型部位」と記載する場合がある。
【0059】
なお、当業者においては掲載されたdbSNPデータベースのrs番号等をもとに、当該部位についての塩基種の情報を適宜取得することができる。また、SNP IDの記載内容は、先頭にrsが付くものはdbSNPデータベースの登録IDのうちNCBIにより一配列に一意に定まるIDを付与されたものである。また、dbSNPデータベースはウェブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/SNP/index.html)に公開されており、SNP IDに記載された登録ID番号を用いてウェブサイト上で検索することにより、塩基配列におけるSNPsの詳細な情報(例えば、染色体上の位置、多型部位の塩基の種類、前後の配列等)が入手できる。
【0060】
当業者においては、通常、本明細書において開示された多型に付与された登録ID番号、例えばdbSNPデータベースにおけるrs番号によって、本発明の多型部位の実際のゲノム上の位置および前後の配列等を容易に知ることができる。これによって、知ることができない場合であっても、当業者においては、配列番号:1または2で示される塩基配列および多型部位等に関する情報から、適宜、該多型部位に相当する実際のゲノム上の位置を知ることは容易である。例えば、公開されているゲノムデータベース等と照会することにより、本発明の多型部位のゲノム上の位置を知ることができる。即ち、配列表に記載の塩基配列とゲノム上の実際の塩基配列との間に若干の塩基配列の相違がみられた場合であっても、配列表に記載の塩基配列を基にゲノム配列と相同性検索等を行うことにより、本発明の多型部位について、実際のゲノム上の位置を正確に知ることが可能である。また、ゲノム上の位置が特定できない場合でも、本明細書に記載の配列表および多型部位の情報に基づき、本発明の検査方法を実施することは容易である。
【0061】
また、ゲノムDNAは、通常、互いに相補的な二本鎖DNA構造を有している。従って、本明細書においては、便宜的に一方の鎖におけるDNA配列を示した場合であっても、当然の如く、当該配列(塩基)に相補的な配列も開示したものと解釈される。当業者にとって、一方のDNA配列(塩基)が判れば、該配列(塩基)に相補的な配列(塩基)は自明である。
【0062】
本発明の動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法においては、以下に記載の多型部位について検査を行なうことが好ましい。
【0063】
また本発明のさらに好ましい態様においては、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法においては、以下の(1a)の多型部位と(11a)の多型部位との間の領域に含まれる多型部位、好ましくは、GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列における(1a)1位、(2a)4572位、(3a)7333位、(4a)7599位、(5a)7775位、(6a)8114位、(7a)8479位、(8a)10188位、(9a)13327位、(10a)13371位、または(11a)15463位の多型部位について検査を行う。
【0064】
本発明の好ましい態様においては、上記(1a)〜(11a)に記載の多型部位における塩基種が、それぞれ以下の(1b)〜(11b)である場合に、被検者は動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと判定される。被検者の動脈硬化性疾患の罹患の有無に関係無く、動脈硬化性疾患のリスク素因の有無の判定を行うことができる。
(1b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の1位における塩基種がT
(2b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の4572位における塩基種がA
(3b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7333位における塩基種がG
(4b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7599位における塩基種がC
(5b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位における塩基種がA
(6b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の8114位における塩基種がG
(7b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の8479位における塩基種がA
(8b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の10188位における塩基種がG
(9b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の13327位における塩基種がA
(10b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の13371位における塩基種がT
(11b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の15463位における塩基種がC
【0065】
なお、上記の塩基種は、本発明の遺伝子の塩基配列の+鎖もしくは−鎖のいずれかの鎖における塩基種を表す。当業者であれば、本明細書に開示された情報(特に表1−1から表1−2、および表2等)を基に、当該多型部位において検出すべき塩基の種類を適宜判断することができる。
【0066】
また別の態様として、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法においては、ARHGEF10遺伝子上の部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列における(1a)2225位の多型部位について検査を行う。
【0067】
本発明の好ましい態様においては、上記(1a)に記載の多型部位における塩基種が、以下の(1b)である場合に、被検者は動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと判定される。被検者の動脈硬化性疾患の罹患の有無に関係無く、動脈硬化性疾患のリスク素因の有無の判定を行うことができる。
(1b)ARHGEF10遺伝子上の部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列の2225位の塩基種がG
【0068】
本発明の方法において、上述の多型変異は一方のゲノムについて(ヘテロで)検出されればよいが、特に制限されないが、双方のゲノムにおいて(ホモで)検出されることが好ましい。
【0069】
例えば、ARHGEF10遺伝子上の部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列における2225位の遺伝子型がGG(ホモ)である場合に、被検者は動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと好適に判定される。
【0070】
本発明においては、上記多型部位以外であっても、該多型部位とその周辺のDNA領域は強く連鎖しているものと考えられることから、この強く連鎖しているDNAブロック上に存在する多型変異を検出することにより、本発明の検査方法を実施することも可能である。
【0071】
例えば、GABBR1遺伝子については、多型部位の塩基種が上記(1b)〜(11b)の塩基種であるような、動脈硬化性疾患の患者を含むヒトの小集団について、この「近傍の多型部位」(例えば、上記表1−1から表1−2に記載の多型部位)における塩基種を予め決定する。
【0072】
また、ARHGEF10遺伝子については、例えば、多型部位の塩基種が上記(1b)の塩基種であるような、動脈硬化性疾患の患者を含むヒトの小集団について、この「近傍の多型部位」(例えば上記表2に記載の多型部位)における塩基種を予め決定する。
【0073】
次いで、この「近傍の多型部位」について被検者における塩基種を決定し、予め決定された前記塩基種と比較することにより、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査を行うことができる。予め決定された塩基種と同一の塩基種である場合に、被検者は動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと判定される。本発明の検査方法により、被検者の動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かを判定することができ、治療方針の決定や薬剤投与量の決定等に利用することができる。
【0074】
例えば、GABBR1遺伝子上の配列番号:1に記載の塩基配列における7775位の多型部位の塩基種がAである動脈硬化性疾患を罹患している人を含むヒトの小集団について、近傍の多型部位、例えば7599位の多型部位の塩基種を決定する。この部位の塩基種が上記の動脈硬化性疾患を罹患している人においてCである頻度が、上記動脈硬化性疾患を発症していない人に比べ高かった場合、被検者について7599位の多型部位の塩基種を調べ、この部位の塩基種が同様にCであった場合には、被検者は動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと判定される。
【0075】
以上のように、本発明により、動脈硬化性疾患に関連する遺伝子上の領域が明らかになったことにより、当業者に過度の負担を強いることなく、上記動脈硬化性疾患のリスク素因の有無について検査を行うことができる。
【0076】
また、ヒトゲノムの解析が進み全塩基配列やSNP、マイクロサテライト、VNTR、RFLPsなどの多型情報も充実してきた。ゲノムの塩基配列について詳細が明らかになりつつある現在、最大の関心事は遺伝子あるいは特定の配列と機能(疾患・疾患の進行性などの表現型)との関連を解析することである。これを解決するための有力な手法の一つがハプロタイプを用いた遺伝統計学的解析である。
【0077】
ヒトの染色体は2本1組で存在し、それぞれ父親と母親から由来している。ハプロタイプとは、その一方に関する個体の遺伝子型の組み合わせをいい、それぞれ父母由来の1本の染色体上に遺伝子座がどのように並んでいるかを示すものである。染色体を父母から1本ずつ受け継ぐので、配偶子形成の際に組み換えが起きないとすれば1本の染色体上にのっている遺伝子は必ず一緒に子に伝えられる、すなわち連鎖する事になる。しかし、実際は減数分裂の際に組み換えが起きるため、1本の染色体上にのっている遺伝子であっても必ずしも連鎖しているわけではない。しかし逆に、遺伝的組み換えが起きた場合であっても同一染色体上の距離が近い遺伝子座は強く連鎖する。
【0078】
このような現象を集団において観察し、アリルの非独立が認められる事を連鎖不平衡という。例えば、3つの遺伝子座を観察した場合、これらの間に連鎖不平衡がないとすると、存在するハプロタイプは23通りと予測され、それぞれの頻度は各遺伝子座の頻度から予測される値となるが、連鎖不平衡がある場合には23通りより少ないハプロタイプしか存在せず、その頻度も予測と異なる値を示す結果となる。
【0079】
近年、ハプロタイプが連鎖不平衡解析に有用である事が示されており(Genetic Epidemiology 23:221-233)研究が行われているが、ゲノム上には組換えが起きやすい部位と起きにくい部位があり、1つの領域として先祖から子孫へと伝えられる部分(ハプロタイプによって特定される領域)は人種を越えて共通性がある事が明らかになっている(Science 226, 5576:2225-2229)。即ち、強く連鎖するDNA領域が存在し、この領域は一般的にDNAブロックと呼ばれる。本発明においては、本発明の多型部位を含むDNAブロックの存在の有無を検出することによっても、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査を行うことができる。
【0080】
即ち本発明の好ましい態様においては、以下の(A)〜(C)のいずれかに記載のハプロタイプを示すDNAブロックの存在が検出された場合に、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと判定されることを特徴とする、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かを検査する方法を提供する。
(A)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれA、A、G、A、A、およびCであるハプロタイプ
(B)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれG、G、A、G、G、およびGであるハプロタイプ
(C)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれG、G、G、G、A、およびCであるハプロタイプ
【0081】
また本発明の好ましい態様においては、以下の(A)に記載のハプロタイプを示すDNAブロックの存在が検出された場合に、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと判定されることを特徴とする、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かを検査する方法を提供する。
(A)ARHGEF10遺伝子上の多型部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列の2222位、および2225位の多型部位における塩基種が、それぞれCおよびGであるハプロタイプ
【0082】
本発明において、DNAブロックとは、各遺伝子座間で強い連鎖不平衡を示す部位(領域)を指す。動脈硬化性疾患と関連するDNAブロックが見出されれば、該DNAブロックを検出することにより、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査が可能となる。
【0083】
動脈硬化性疾患と関連するハプロタイプ(を示すDNAブロック)が見出されれば、該ハプロタイプを検出することにより、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査が可能となる。本発明者らは、鋭意研究により、動脈硬化性疾患に対する感受性と関連するハプロタイプを見出すことに成功した。
【0084】
従って、本発明はGABBR1遺伝子またはARHGEF10遺伝子上に存在する、動脈硬化性疾患と関連するハプロタイプ(を示すDNAブロック)を検出することを特徴とする、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法を提供する。
【0085】
本方法においては、被検者について「動脈硬化性疾患と関連するハプロタイプ」を検出することで、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かを判定することができる。これらの判定は例えば治療方針の決定等に利用することができる。
【0086】
上記「GABBR1遺伝子上に存在する、動脈硬化性疾患と関連するハプロタイプ(を示すDNAブロック)」とは、具体的には以下のようなハプロタイプ(を示すDNAブロック)を挙げることができる。
(A)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれA、A、G、A、A、およびCであるハプロタイプ
(B)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれG、G、A、G、G、およびGであるハプロタイプ
(C)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれG、G、G、G、A、およびCであるハプロタイプ
【0087】
なお上記(A)〜(C)に記載されるGABBR1遺伝子のハプロタイプ3種を、表3−1および表3−2に示す。
【表3−1】
【0088】
表3−2は表3−1の続きの表である。
【表3−2】
【0089】
上記表3−1および表3−2に記載の各ハプロタイプにおいて、「Hap-1」として記載されるハプロタイプを示すDNAブロックの存在が検出された場合、動脈硬化性疾患のリスク素因が「高」程度と判定される。また「Hap-2」として記載されるハプロタイプを示すDNAブロックの存在が検出された場合、動脈硬化性疾患のリスク素因が「中」程度と判断される。また「Hap-3」として記載されるハプロタイプを示すDNAブロックの存在が検出された場合、動脈硬化性疾患のリスク素因が「低」程度と判断される。
【0090】
上記「ARHGEF10遺伝子上に存在する、動脈硬化性疾患と関連するハプロタイプ(を示すDNAブロック)」とは、具体的には以下のようなハプロタイプ(を示すDNAブロック)を挙げることができる。
(A)ARHGEF10遺伝子上の多型部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列の2222位、および2225位の多型部位における塩基種が、それぞれC、およびGであるハプロタイプ
【0091】
本発明の上記方法の好ましい態様においては、被検者について動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法であって、以下の(A)〜(C)のいずれかに記載のハプロタイプを示すDNAブロック内に存在し互いに連鎖することを特徴とする多型部位の塩基種を決定する工程を含む検査方法である。
(A)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれA、A、G、A、A、およびCであるハプロタイプ
(B)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれG、G、A、G、G、およびGであるハプロタイプ
(C)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれG、G、G、G、A、およびCであるハプロタイプ
【0092】
また、本発明の上記方法の好ましい態様においては、被検者について動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法であって、以下の(A)に記載のハプロタイプを示すDNAブロック内に存在し互いに連鎖することを特徴とする多型部位の塩基種を決定する工程を含む検査方法である。
(A)ARHGEF10遺伝子上の多型部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列の2222位、および2225位の多型部位における塩基種が、それぞれC、およびGであるハプロタイプ
【0093】
即ち、本明細書において具体的に記載された部位以外の多型部位であっても、上記DNAブロック上に含まれる多型であって、本発明の多型部位と互いに連鎖している多型部位であれば、本発明の検査方法に利用することが可能である。
【0094】
上記方法の好ましい態様においては、以下の工程(a)および(b)を含む、被検者が動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法である。
(a) 被検者におけるGABBR1遺伝子上の多型部位について、塩基種を決定する工程
(b)(a)で決定された塩基種が、以下の(A)〜(C)のいずれかに記載のハプロタイプを示すGABBR1遺伝子における前記多型部位の塩基種と同一であった場合に、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと判定する工程
(A)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれA、A、G、A、A、およびCであるハプロタイプ
(B)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれG、G、A、G、G、およびGであるハプロタイプ
(C)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれG、G、G、G、A、およびCであるハプロタイプ
【0095】
なお、上記工程(a)における多型部位としては、例えば、上記表1−1から1−2に記載の各多型部位を挙げることができるが、好ましくは、GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列における1位、4572位、7333位、7599位、7775位、8114位、8479位、10188位、13327位、13371位、または15463位のいずれかの多型部位を示すことができる。
【0096】
また、上記方法の好ましい態様においては、以下の工程(a)および(b)を含む、被検者が動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法である。
(a) 被検者におけるARHGEF10遺伝子上の多型部位について、塩基種を決定する工程
(b)(a)で決定された塩基種が、以下の(A)に記載のハプロタイプを示すARHGEF10遺伝子における前記多型部位の塩基種と同一であった場合に、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと判定する工程
(A)ARHGEF10遺伝子上の多型部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列の2222位、および2225位の多型部位における塩基種が、それぞれCおよびGであるハプロタイプ
【0097】
なお、上記工程(a)における多型部位としては、例えば、上記表2に記載の各多型部位を挙げることができるが、好ましくは、ARHGEF10遺伝子上の部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列における2225位の多型部位を示すことができる。
【0098】
本発明の多型部位における塩基種の決定は、当業者においては種々の方法によって行うことができる。一例を示せば、本発明の多型部位を含むDNAの塩基配列を直接決定することによって行うことができる。
【0099】
本発明の検査方法に供する被検試料は、通常、予め被検者から取得された生体試料であることが好ましい。生体試料としては、例えばDNA試料を挙げることができる。本発明においてDNA試料は、例えば被検者の血液、皮膚、口腔粘膜、手術により採取あるいは切除した組織または細胞、検査等の目的で採取された体液等から抽出した染色体DNA、あるいはRNAを基に調製することができる。
【0100】
即ち本発明は、通常、被検者由来の生体試料(予め被検者から取得された生体試料)を被検試料として検査に供する方法である。
当業者においては、公知の技術を用いて、適宜、生体試料の調製を行うことができる。例えば、DNA試料は、本発明の多型部位を含むDNAにハイブリダイズするプライマーを用いて、染色体DNA、あるいはRNAを鋳型としたPCR等によって調製することができる。
【0101】
本方法においては、次いで、単離したDNAの塩基配列を決定する。単離したDNAの塩基配列の決定は、当業者においては、DNAシークエンサー等を用いて容易に実施することができる。
【0102】
本発明の多型部位は、通常、その部位の塩基種のバリエーションが既に明らかになっている。本発明における「塩基種の決定」とは、必ずしもその多型部位についてA、G、T、Cのいずれかの塩基種であるかを判別することを意味するものではない。例えば、ある多型部位について塩基種のバリエーションがAまたはGであることが判明している場合には、その部位の塩基種が「Aでない」もしくは「Gでない」ことが判明すれば充分である。
【0103】
予め塩基のバリエーションが明らかにされている多型部位について、その塩基種を決定するための様々な方法が公知である。本発明の塩基種の決定のための方法は、特に限定されない。例えば、PCR法を応用した解析方法として、TaqMan PCR法、AcycloPrime法、およびMALDI-TOF/MS法等が実用化されている。またPCRに依存しない塩基種の決定法としてInvader法やRCA法が知られている。更にDNAアレイを使って塩基種を決定することもできる。以下にこれらの方法について簡単に述べる。ここに述べた方法は、いずれも本発明における多型部位の塩基種の決定に応用できる。
【0104】
[TaqMan PCR法]
TaqMan PCR法の原理は次のとおりである。TaqMan PCR法は、アリルを含む領域を増幅することができるプライマーセットと、TaqManプローブを利用した解析方法である。TaqManプローブは、このプライマーセットによって増幅されるアリルを含む領域にハイブリダイズするように設計される。
【0105】
TaqManプローブのTmに近い条件で標的塩基配列にハイブリダイズさせれば、1塩基の相違によってTaqManプローブのハイブリダイズ効率は著しく低下する。TaqManプローブの存在下でPCR法を行うと、プライマーからの伸長反応は、いずれハイブリダイズしたTaqManプローブに到達する。このときDNAポリメラーゼの5'-3'エキソヌクレアーゼ活性によって、TaqManプローブはその5'末端から分解される。TaqManプローブをレポーター色素とクエンチャーで標識しておけば、TaqManプローブの分解を、蛍光シグナルの変化として追跡することができる。つまり、TaqManプローブの分解が起きれば、レポーター色素が遊離してクエンチャーとの距離が離れることによって蛍光シグナルが生成する。1塩基の相違のためにTaqManプローブのハイブリダイズが低下すればTaqManプローブの分解が進まず蛍光シグナルは生成されない。
【0106】
多型に対応するTaqManプローブをデザインし、更に各プローブの分解によって異なるシグナルが生成されるようにすれば、同時に塩基種の判定を行うこともできる。例えば、レポーター色素として、あるアリルのアリルAのTaqManプローブに6-carboxy-fluorescein(FAM)を、アリルBのプローブにVICを用いる。プローブが分解されない状態では、クエンチャーによってレポーター色素の蛍光シグナル生成は抑制されている。各プローブが対応するアリルにハイブリダイズすれば、ハイブリダイズに応じた蛍光シグナルが観察される。すなわち、FAMまたはVICのいずれかのシグナルが他方よりも強い場合には、アリルAまたはアリルBのホモであることが判明する。他方、アリルをヘテロで有する場合には、両者のシグナルがほぼ同じレベルで検出されることになる。TaqMan PCR法の利用によって、ゲル上での分離のような時間のかかる工程無しで、ゲノムを解析対象としてPCRと塩基種の決定を同時に行うことができる。そのため、TaqMan PCR法は、多くの被検者についての塩基種を決定できる方法として有用である。
【0107】
[AcycloPrime法]
PCR法を利用した塩基種を決定する方法として、AcycloPrime法も実用化されている。AcycloPrime法では、ゲノム増幅用のプライマー1組と、多型検出用の1つのプライマーを用いる。まず、ゲノムの多型部位を含む領域をPCRで増幅する。この工程は、通常のゲノムPCRと同じである。次に、得られたPCR産物に対して、SNPs検出用のプライマーをアニールさせ、伸長反応を行う。SNPs検出用のプライマーは、検出対象となっている多型部位に隣接する領域にアニールするようにデザインされている。
【0108】
このとき、伸長反応のためのヌクレオチド基質として、蛍光偏光色素でラベルし、かつ3'-OHをブロックしたヌクレオチド誘導体(ターミネータ)を用いる。その結果、多型部位に相当する位置の塩基に相補的な塩基が1塩基だけ取りこまれて伸長反応が停止する。ヌクレオチド誘導体のプライマーへの取りこみは、分子量の増大による蛍光偏光(Fluorescence polarization;FP)の増加によって検出することができる。蛍光偏光色素に波長の異なる2種類のラベルを用いれば、特定のSNPsが2種類の塩基のうちのいずれであるのかを特定することができる。蛍光偏光のレベルは定量することができるので、1度の解析でアリルがホモかヘテロかを判定することもできる。
【0109】
[MALDI-TOF/MS法]
PCR産物をMALDI-TOF/MSで解析することによって塩基種の決定を行うこともできる。MALDI-TOF/MSは、分子量をきわめて正確に知ることができるため、タンパク質のアミノ酸配列や、DNAの塩基配列のわずかな相違を明瞭に識別することができる解析手法として様々な分野で利用されている。MALDI-TOF/MSによる塩基種の決定のためには、まず解析対象であるアリルを含む領域をPCRで増幅する。次いで増幅産物を単離してMALDI-TOF/MSによってその分子量を測定する。アリルの塩基配列は予めわかっているので、分子量に基づいて増幅産物の塩基配列は一義的に決定される。
【0110】
MALDI-TOF/MSを利用した塩基種の決定には、PCR産物の分離工程などが必要となる。しかし標識プライマーや標識プローブを使わないで、正確な塩基種の決定が期待できる。また複数の場所の多型の同時検出にも応用することができる。
【0111】
[IIs型制限酵素を利用したSNPs特異的な標識方法]
PCR法を利用した更に高速な塩基種の決定が可能な方法も報告されている。例えば、IIs型制限酵素を利用して多型部位の塩基種の決定が行われている。この方法においては、PCRにあたり、IIs型制限酵素の認識配列を有するプライマーが用いられる。遺伝子組み換えに利用される一般的な制限酵素(II型)は、特定の塩基配列を認識して、その塩基配列中の特定部位を切断する。これに対してIIs型の制限酵素は、特定の塩基配列を認識して、認識塩基配列から離れた部位を切断する。酵素によって、認識配列と切断個所の間の塩基数は決まっている。従って、この塩基数の分だけ離れた位置にIIs型制限酵素の認識配列を含むプライマーがアニールするようにすれば、IIs型制限酵素によってちょうど多型部位で増幅産物を切断することができる。
【0112】
IIs型制限酵素で切断された増幅産物の末端には、SNPsの塩基を含む付着末端(cohesive end)が形成される。ここで、増幅産物の付着末端に対応する塩基配列からなるアダプターをライゲーションする。アダプターは、多型変異に対応する塩基を含む異なる塩基配列からなり、それぞれ異なる蛍光色素で標識しておくことができる。最終的に、増幅産物は多型部位の塩基に対応する蛍光色素で標識される。
【0113】
前記IIs型制限酵素認識配列を含むプライマーに、捕捉プライマー(capture primer)を組み合せてPCR法を行えば、増幅産物は蛍光標識されるとともに、捕捉プライマーを利用して固相化することができる。例えばビオチン標識プライマーを捕捉プライマーとして用いれば、増幅産物はアビジン結合ビーズに捕捉することができる。こうして捕捉された増幅産物の蛍光色素を追跡することにより、塩基種を決定することができる。
【0114】
[磁気蛍光ビーズを使った多型部位における塩基種の決定]
複数のアリルを単一の反応系で並行して解析することができる技術も公知である。複数のアリルを並行して解析することは、多重化と呼ばれている。一般に蛍光シグナルを利用したタイピング方法では、多重化のために異なる蛍光波長を有する蛍光成分が必要である。しかし実際の解析に利用することができる蛍光成分は、それほど多くない。これに対して、樹脂等に複数種の蛍光成分を混合した場合には、限られた種類の蛍光成分であっても、相互に識別可能な多様な蛍光シグナルを得ることができる。更に、樹脂中に磁気で吸着される成分を加えれば蛍光を発するとともに、磁気によって分離可能なビーズとすることができる。このような磁気蛍光ビーズを利用した、多重化多型タイピングが考え出された(バイオサイエンスとバイオインダストリー, Vol.60 No.12, 821-824)。
【0115】
磁気蛍光ビーズを利用した多重化多型タイピングにおいては、各アリルの多型部位に相補的な塩基を末端に有するプローブが磁気蛍光ビーズに固定化される。各アリルにそれぞれ固有の蛍光シグナルを有する磁気蛍光ビーズが対応するように、両者は組み合せられる。一方、磁気蛍光ビーズに固定されたプローブが相補配列にハイブリダイズしたときに、当該アリル上で隣接する領域に相補的な塩基配列を有する蛍光標識オリゴDNAを調製する。
【0116】
アリルを含む領域を非対称PCRによって増幅し、上記の磁気蛍光ビーズ固定化プローブと蛍光標識オリゴDNAをハイブリダイズさせ、更に両者をライゲーションする。磁気蛍光ビーズ固定化プローブの末端が、多型部位の塩基に相補的な塩基配列であった場合には効率的にライゲーションされる。逆にもしも多型のために末端の塩基が異なれば、両者のライゲーション効率は低下する。その結果、各磁気蛍光ビーズには、試料が当該磁気蛍光ビーズに相補的な塩基種であった場合に限り、蛍光標識オリゴDNAが結合する。
【0117】
磁気によって磁気蛍光ビーズを回収し、更に各磁気蛍光ビーズ上の蛍光標識オリゴDNAの存在を検出することにより、塩基種が決定される。磁気蛍光ビーズは、フローサイトメーターでビーズ毎に蛍光シグナルを解析できるので、多種類の磁気蛍光ビーズが混合されていてもシグナルの分離は容易である。つまり、多種類の多型部位について、単一の反応容器で並行して解析する「多重化」が達成される。
【0118】
[Invader法]
PCR法に依存しないジェノタイピングのための方法も実用化されている。例えば、Invader法では、アリルプローブ、インベーダープローブ、およびFRETプローブの3種類のオリゴヌクレオチドと、cleavaseと呼ばれる特殊なヌクレアーゼのみで、塩基種の決定を実現している。これらのプローブのうち標識が必要なのはFRETプローブのみである。
【0119】
アリルプローブは、検出すべきアリルに隣接する領域にハイブリダイズするようにデザインされる。アリルプローブの5'側には、ハイブリダイズに無関係な塩基配列からなるフラップが連結されている。アリルプローブは多型部位の3'側にハイブリダイズし、多型部位の上でフラップに連結する構造を有する。
【0120】
一方インベーダープローブは、多型部位の5'側にハイブリダイズする塩基配列からなっている。インベーダープローブの塩基配列は、ハイブリダイズによって3'末端が多型部位に相当するようにデザインされている。インベーダープローブにおける多型部位に相当する位置の塩基は任意で良い。つまり、多型部位を挟んでインベーダープローブとアリルプローブとが隣接してハイブリダイズするように両者の塩基配列はデザインされている。
【0121】
多型部位がアリルプローブの塩基配列に相補的な塩基であった場合には、インベーダープローブとアリルプローブの両者がアリルにハイブリダイズすると、アリルプローブの多型部位に相当する塩基にインベーダープローブが侵入(invasion)した構造が形成される。cleavaseは、このようにして形成された侵入構造を形成したオリゴヌクレオチドのうち、侵入された側の鎖を切断する。切断は侵入構造の上で起きるので、結果としてアリルプローブのフラップが切り離されることになる。一方、もしも多型部位の塩基がアリルプローブの塩基に相補的でなかった場合には、多型部位におけるインベーダープローブとアリルプローブの競合は無く、侵入構造は形成されない。したがってcleavaseによるフラップの切断が起こらない。
【0122】
FRETプローブは、こうして切り離されたフラップを検出するためのプローブである。FRETプローブは5'末端側に自己相補配列を有し、3'末端側に1本鎖部分が配置されたヘアピンループを構成している。FRETプローブの3'末端側に配置された1本鎖部分は、フラップに相補的な塩基配列からなっていて、ここにフラップがハイブリダイズすることができる。フラップがFRETプローブにハイブリダイズすると、FRETプローブの自己相補配列の5'末端部分にフラップの3'末端が侵入した構造が形成されるように両者の塩基配列がデザインされている。cleavaseは侵入構造を認識して切断する。FRETプローブのcleavaseによって切断される部分を挟んで、TaqMan PCRと同様のレポーター色素とクエンチャーで標識しておけば、FRETプローブの切断を蛍光シグナルの変化として検知することができる。
【0123】
なお、理論的には、フラップは切断されない状態でもFRETプローブにハイブリダイズするはずである。しかし実際には、切断されたフラップとアリルプローブの状態で存在しているフラップとでは、FRETに対する結合効率に大きな差が有る。そのため、FRETプローブを利用して、切断されたフラップを特異的に検出することは可能である。
【0124】
Invader法に基づいて塩基種を決定するためには、アリルAとアリルBのそれぞれに相補的な塩基配列を含む、2種類のアリルプローブを用意すれば良い。このとき両者のフラップの塩基配列は異なる塩基配列とする。フラップを検出するためのFRETプローブも2種類を用意し、それぞれのレポーター色素を識別可能なものとしておけば、TacMan PCR法と同様の考え方によって、塩基種を決定することができる。
【0125】
Invader法の利点は、標識の必要なオリゴヌクレオチドがFRETプローブのみであることである。FRETプローブは検出対象の塩基配列とは無関係に、同一のオリゴヌクレオチドを利用することができる。従って、大量生産が可能である。一方アリルプローブとインベーダープローブは標識する必要が無いので、結局、ジェノタイピングのための試薬を安価に製造することができる。
【0126】
[RCA法]
PCR法に依存しない塩基種の決定方法として、RCA法を挙げることができる。鎖置換作用を有するDNAポリメラーゼが、環状の1本鎖DNAを鋳型として、長い相補鎖を合成する反応に基づくDNAの増幅方法が、Rolling Circle Amplification(RCA)法である(Lizardri PM et al.,Nature Genetics 19, 225, 1998)。RCA法においては、環状DNAにアニールして相補鎖合成を開始するプライマーと、このプライマーによって生成する長い相補鎖にアニールする第2のプライマーを利用して、増幅反応を構成している。
【0127】
RCA法には、鎖置換作用を有するDNAポリメラーゼが利用されている。そのため、相補鎖合成によって2本鎖となった部分は、より5'側にアニールした別のプライマーから開始した相補鎖合成反応によって置換される。例えば、環状DNAを鋳型とする相補鎖合成反応は、1周分では終了しない。先に合成した相補鎖を置換しながら相補鎖合成は継続し、長い1本鎖DNAが生成される。一方、環状DNAを鋳型として生成した長い1本鎖DNAには、第2のプライマーがアニールして相補鎖合成が開始する。RCA法において生成される1本鎖DNAは、環状のDNAを鋳型としていることから、その塩基配列は同じ塩基配列の繰り返しである。従って、長い1本鎖の連続的な生成は、第2のプライマーの連続的なアニールをもたらす。その結果、変性工程を経ることなく、プライマーがアニールすることができる1本鎖部分が連続的に生成される。こうして、DNAの増幅が達成される。
【0128】
RCA法に必要な環状1本鎖DNAが多型部位の塩基種に応じて生成されれば、RCA法を利用して塩基種の決定をすることができる。そのために、直鎖状で1本鎖のパドロックプローブが利用される。パドロックプローブは、5'末端と3'末端に検出すべき多型部位の両側に相補的な塩基配列を有している。これらの塩基配列は、バックボーンと呼ばれる特殊な塩基配列からなる部分で連結されている。多型部位がパドロックプローブの末端に相補的な塩基配列であれば、アリルにハイブリダイズしたパドロックプローブの末端をDNAリガーゼによってライゲーションすることができる。その結果、直鎖状のパドロックプローブが環状化され、RCA法の反応がトリガーされる。DNAリガーゼの反応は、ライゲーションすべき末端部分が完全に相補的でない場合には反応効率が著しく低下する。従って、ライゲーションの有無をRCA法で確認することによって、多型部位の塩基種の決定が可能である。
【0129】
RCA法は、DNAを増幅することはできるが、そのままではシグナルを生成しない。また増幅の有無のみを指標とするのでは、アリル毎に反応を行わなければ、通常、塩基種を決定することができない。これらの点を塩基種の決定のために改良した方法が公知である。例えば、モレキュラービーコンを利用して、RCA法に基づいて1チューブで塩基種の決定を行うことができる。モレキュラービーコンは、TaqMan法と同様に、蛍光色素とクエンチャーを利用したシグナル生成用プローブである。モレキュラービーコンの5'末端と3'末端は相補的な塩基配列で構成されており、単独ではヘアピン構造を形成する。両端付近を蛍光色素とクエンチャーで標識しておけば、ヘアピン構造を形成している状態では蛍光シグナルが検出できない。モレキュラービーコンの一部を、RCA法の増幅産物に相補的な塩基配列としておけば、モレキュラービーコンはRCA法の増幅産物にハイブリダイズする。ハイブリダイズによってヘアピン構造が解消されるため、蛍光シグナルが生成される。
【0130】
モレキュラービーコンの利点は、パドロックプローブのバックボーン部分の塩基配列を利用することによって、検出対象とは無関係にモレキュラービーコンの塩基配列を共通にできる点である。アリル毎にバックボーンの塩基配列を変え、蛍光波長が異なる2種類のモレキュラービーコンを組み合わせれば、1チューブで塩基種の決定が可能である。蛍光標識プローブの合成コストは高いので、測定対象に関わらず共通のプローブを利用できることは、経済的なメリットである。
【0131】
これらの方法はいずれも多量のサンプルを高速にジェノタイピングするために開発された方法である。MALDI-TOF/MSを除けば、通常、いずれの方法にも何らかの形で標識プローブなどを用意する必要がある。これに対して、標識プローブなどに頼らない塩基種決定法も古くから行われている。このような方法の一つとして、例えば、制限酵素断片長多型(Restriction Fragment Length Polymorphism/RFLP)を利用した方法やPCR-RFLP法等が挙げられる。
【0132】
RFLPは、制限酵素の認識部位の変異、あるいは制限酵素処理によって生じるDNA断片内における塩基の挿入または欠失が、制限酵素処理後に生じる断片の大きさの変化として検出できることを利用している。検出対象となる多型を含む塩基配列を認識する制限酵素が存在すれば、RFLPの原理によって多型部位の塩基を知ることができる。
【0133】
標識プローブを必要としない方法として、DNAの二次構造の変化を指標として塩基の違いを検出する方法も公知である。PCR-SSCPでは、1本鎖DNAの二次構造がその塩基配列の相違を反映することを利用している(Cloning and polymerase chain reaction-single-strand conformation polymorphism analysis of anonymous Alu repeats on chromosome 11. Genomics. 1992 Jan 1; 12(1): 139-146.、Detection of p53 gene mutations in human brain tumors by single-strand conformation polymorphism analysis of polymerase chain reaction products. Oncogene. 1991 Aug 1; 6(8): 1313-1318.、Multiple fluorescence-based PCR-SSCP analysis with postlabeling.、PCR Methods Appl. 1995 Apr 1; 4(5): 275-282.)。PCR-SSCP法は、PCR産物を1本鎖DNAに解離させ、非変性ゲル上で分離する工程により実施される。ゲル上の移動度は、1本鎖DNAの二次構造によって変動するので、もしも多型部位における塩基の相違があれば、移動度の違いとして検出することができる。
【0134】
その他、標識プローブを必要としない方法として、例えば、変性剤濃度勾配ゲル(denaturant gradient gel electrophoresis: DGGE法)等を例示することができる。DGGE法は、変性剤の濃度勾配のあるポリアクリルアミドゲル中で、DNA断片の混合物を泳動し、それぞれの不安定性の違いによってDNA断片を分離する方法である。ミスマッチのある不安定なDNA断片が、ゲル中のある変性剤濃度の部分まで移動すると、ミスマッチ周辺のDNA配列はその不安定さのために、部分的に1本鎖へと解離する。部分的に解離したDNA断片の移動度は、非常に遅くなり、解離部分のない完全な二本鎖DNAの移動度と差がつくことから、両者を分離することができる。
【0135】
具体的には、まずPCR法等によって多型部位を含む領域を増幅する。増幅産物に、塩基配列がわかっているプローブDNAをハイブリダイズさせて2本鎖とする。これを尿素などの変性剤の濃度が移動するに従って徐々に高くなっているポリアクリルアミドゲル中で電気泳動し、対照と比較する。プローブDNAとのハイブリダイズによってミスマッチを生じたDNA断片では、より低い変性剤濃度位置でDNA断片が一本鎖になり、極端に移動速度が遅くなる。こうして生じた移動度の差を検出することによりミスマッチの有無を検出することができる。
【0136】
更にDNAアレイを使って塩基種を決定することもできる(細胞工学別冊「DNAマイクロアレイと最新PCR法」,秀潤社,2000.4/20発行,pp97-103「オリゴDNAチップによるSNPの解析」,梶江慎一)。DNAアレイは、同一平面上に配置した多数のプローブに対してサンプルDNA(あるいはRNA)をハイブリダイズさせ、当該平面をスキャンすることによって、各プローブに対するハイブリダイズが検出される。多くのプローブに対する反応を同時に観察することができることから、例えば、多数の多型部位について同時に解析するには、DNAアレイは有用である。
【0137】
一般にDNAアレイは、高密度に基板にプリントされた何千ものヌクレオチドで構成されている。通常これらのDNAは非透過性(non- porous)の基板の表層にプリントされる。基板の表層は、一般的にはガラスであるが、透過性(porous)の膜、例えばニトロセルロースメンブレムを使用することもできる。
【0138】
本発明において、ヌクレオチドの固定(アレイ)方法として、Affymetrix社開発によるオリゴヌクレオチドを基本としたアレイが例示できる。オリゴヌクレオチドのアレイにおいて、オリゴヌクレオチドは通常インビトロ(in vitro)で合成される。例えば、photolithographicの技術(Affymetrix社)、および化学物質を固定させるためのインクジェット(Rosetta Inpharmatics社)技術等によるオリゴヌクレオチドのインサイチュ合成法が既に知られており、いずれの技術も本発明の基板の作製に利用することができる。
【0139】
オリゴヌクレオチドは、検出すべきSNPsを含む領域に相補的な塩基配列で構成される。基板に結合させるヌクレオチドプローブの長さは、オリゴヌクレオチドを固定する場合は、通常10〜100ベースであり、好ましくは10〜50ベースであり、さらに好ましくは15〜25ベースである。更に、一般にDNAアレイ法においては、クロスハイブリダイゼーション(非特異的ハイブリダイゼーション)による誤差を避けるために、ミスマッチ(MM)プローブが用いられる。ミスマッチプローブは、標的塩基配列と完全に相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとのペアを構成している。ミスマッチプローブに対して、完全に相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドはパーフェクトマッチ(PM)プローブと呼ばれる。データ解析の過程で、ミスマッチプローブで観察されたシグナルを消去することによって、クロスハイブリダイゼーションの影響を小さくすることができる。
【0140】
DNAアレイ法によるジェノタイピングのための試料は、被検者から採取された生物学的試料をもとに当業者に周知の方法で調製することができる。生物学的試料は特に限定されない。例えば被検者の血液、末梢血白血球、皮膚、口腔粘膜等の組織または細胞、涙、唾液、尿、糞便または毛髪から抽出した染色体DNAから、DNA試料を調製することができる。判定すべき多型部位を含む領域を増幅するためのプライマーを用いて、染色体DNAの特定の領域が増幅される。このとき、マルチプレックスPCR法によって複数の領域を同時に増幅することができる。マルチプレックスPCR法とは、複数組のプライマーセットを、同じ反応液中で用いるPCR法である。複数の多型部位を解析するときには、マルチプレックスPCR法が有用である。
【0141】
一般にDNAアレイ法においては、PCR法によってDNA試料を増幅するとともに、増幅産物が標識される。増幅産物の標識には、標識を付したプライマーが利用される。例えば、まず多型部位を含む領域に特異的なプライマーセットによるPCR法でゲノムDNAを増幅する。次に、ビオチンラベルしたプライマーを使ったラベリングPCR法によって、ビオチンラベルされたDNAを合成する。こうして合成されたビオチンラベルDNAを、チップ上のオリゴヌクレオチドプローブにハイブリダイズさせる。ハイブリダイゼーションの反応液および反応条件は、基板に固定するヌクレオチドプローブの長さや反応温度等の条件に応じて、適宜調整することができる。当業者は、適切なハイブリダイゼーションの条件をデザインすることができる。ハイブリダイズしたDNAを検出するために、蛍光色素で標識したアビジンが添加される。アレイをスキャナで解析し、蛍光を指標としてハイブリダイズの有無を確認する。
【0142】
上記方法をより具体的に示せば、被検者から調製した本発明の多型部位を含むDNA、およびヌクレオチドプローブが固定された固相、を取得した後、次いで、該DNAと該固相を接触させる。さらに、固相に固定されたヌクレオチドプローブにハイブリダイズしたDNAを検出することにより、本発明の多型部位の塩基種を決定する。
【0143】
本発明において「固相」とは、ヌクレオチドを固定することが可能な材料を意味する。本発明の固相は、ヌクレオチドを固定することが可能であれば特に制限はないが、具体的には、マイクロプレートウェル、プラスチックビーズ、磁性粒子、基板などを含む固相等を例示することができる。本発明の「固相」としては、一般にDNAアレイ技術で使用される基板を好適に用いることができる。本発明において「基板」とは、ヌクレオチドを固定することが可能な板状の材料を意味する。また、本発明においてヌクレオチドには、オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドが含まれる。
【0144】
上記の方法以外にも、特定部位の塩基を検出するために、アリル特異的オリゴヌクレオチド(Allele Specific Oligonucleotide/ASO)ハイブリダイゼーション法が利用できる。アリル特異的オリゴヌクレオチド(ASO)は、検出すべき多型部位が存在する領域にハイブリダイズする塩基配列で構成される。ASOを試料DNAにハイブリダイズさせるとき、多型によって多型部位にミスマッチが生じるとハイブリッド形成の効率が低下する。ミスマッチは、サザンブロット法や、特殊な蛍光試薬がハイブリッドのギャップにインターカレーションすることにより消光する性質を利用した方法等によって検出することができる。また、リボヌクレアーゼAミスマッチ切断法によって、ミスマッチを検出することもできる。
【0145】
本発明の多型部位を含むDNAにハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチドは、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かを検査するための試薬(検査薬)として利用できる。これは遺伝子発現を指標とする検査、または遺伝子多型を指標とする検査に使用される。
【0146】
より具体的には、本発明の多型部位を含むDNAにハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチドは、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かを検査するための試薬(検査薬)として利用できる。
【0147】
該オリゴヌクレオチドは、本発明の多型部位を含むDNAに特異的にハイブリダイズするものである。ここで「特異的にハイブリダイズする」とは、通常のハイブリダイゼーション条件下、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下(例えば、サムブルックら, Molecular Cloning,Cold Spring Harbour Laboratory Press,New York,USA,第2版1989に記載の条件)において、他のタンパク質をコードするDNAとクロスハイブリダイゼーションを有意に生じないことを意味する。特異的なハイブリダイズが可能であれば、該オリゴヌクレオチドは、検出する遺伝子もしくは該遺伝子の近傍DNA領域における本発明の多型部位を含む塩基配列に対し、完全に相補的である必要はない。
【0148】
本発明においてハイブリダイゼーションの条件としては、例えば「2×SSC、0.1%SDS、50℃」、「2×SSC、0.1%SDS、42℃」、「1×SSC、0.1%SDS、37℃」、よりストリンジェントな条件として「2×SSC、0.1%SDS、65℃」、「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」及び「0.2×SSC、0.1%SDS、65℃」等の条件を挙げることができる。より詳細には、Rapid-hyb buffer (Amersham Life Science)を用いた方法として、68℃で30分間以上プレハイブリダイゼーションを行った後、プローブを添加して1時間以上68℃に保ってハイブリッド形成させ、その後2×SSC、0.1%SDS中、室温で20分間の洗浄を3回行い、続いて1×SSC、0.1%SDS中、37℃で20分間の洗浄を3回行い、最後に1×SSC、0.1%SDS中、50℃で20分間の洗浄を2回行うことができる。その他、例えばExpresshyb Hybridization Solution (CLONTECH)中、55℃で30分間以上プレハイブリダイゼーションを行った後、標識プローブを添加して37〜55℃で1時間以上インキュベートし、2×SSC、0.1%SDS中、室温で20分間の洗浄を3回、1×SSC、0.1%SDS中、37℃で20分間の洗浄を1回行うこともできる。ここで、例えば、プレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーションや2度目の洗浄の際の温度をより高く設定することにより、よりストリンジェントな条件とすることができる。例えば、プレハイブリダイゼーション及びハイブリダイゼーションの温度を60℃、さらにストリンジェントな条件としては68℃とすることができる。当業者であれば、このようなバッファーの塩濃度、温度等の条件に加えて、プローブ濃度、プローブの長さ、プローブの塩基配列構成、反応時間等のその他の条件を加味し、条件を設定することができる。
【0149】
該オリゴヌクレオチドは、上記本発明の検査方法におけるプローブやプライマーとして用いることができる。該オリゴヌクレオチドをプライマーとして用いる場合、その長さは、通常15 bp〜100 bpであり、好ましくは17 bp〜30 bpである。プライマーは、本発明の多型部位を含むDNAの少なくとも一部を増幅しうるものであれば、特に制限されない。
【0150】
本発明は、本発明の多型部位を含む領域を増幅するためのプライマー、および多型部位を含むDNA領域にハイブリダイズするプローブを提供する。
【0151】
本発明において、多型部位を含む領域を増幅するためのプライマーには、多型部位を含むDNAを鋳型として、多型部位に向かって相補鎖合成を開始することができるプライマーも含まれる。該プライマーは、多型部位を含むDNAにおける、多型部位の3'側に複製開始点を与えるためのプライマーと表現することもできる。プライマーがハイブリダイズする領域と多型部位との間隔は任意である。両者の間隔は、多型部位の塩基の解析手法に応じて、好適な塩基数を選択することができる。たとえば、DNAチップによる解析のためのプライマーであれば、多型部位を含む領域として、20〜500、通常50〜200塩基の長さの増幅産物が得られるようにプライマーをデザインすることができる。当業者においては、多型部位を含む周辺DNA領域についての塩基配列情報を基に、解析手法に応じたプライマーをデザインすることができる。本発明のプライマーを構成する塩基配列は、ゲノムの塩基配列に対して完全に相補的な塩基配列のみならず、適宜改変することができる。
【0152】
本発明のプライマーには、ゲノムの塩基配列に相補的な塩基配列に加え、任意の塩基配列を付加することができる。例えば、IIs型の制限酵素を利用した多型の解析方法のためのプライマーにおいては、IIs型制限酵素の認識配列を付加したプライマーが利用される。このような、塩基配列を修飾したプライマーは、本発明のプライマーに含まれる。更に、本発明のプライマーは、修飾することができる。例えば、蛍光物質や、ビオチンまたはジゴキシンのような結合親和性物質で標識したプライマーが各種のジェノタイピング方法において利用される。これらの修飾を有するプライマーも本発明に含まれる。
【0153】
一方本発明において、多型部位を含む領域にハイブリダイズするプローブとは、多型部位を含む領域の塩基配列を有するポリヌクレオチドとハイブリダイズすることができるプローブを言う。より具体的には、プローブの塩基配列中に多型部位を含むプローブは本発明のプローブとして好ましい。あるいは、多型部位における塩基の解析方法によっては、プローブの末端が多型部位に隣接する塩基に対応するように、デザインされる場合もある。従って、プローブ自身の塩基配列には多型部位が含まれないが、多型部位に隣接する領域に相補的な塩基配列を含むプローブも、本発明における望ましいプローブとして示すことができる。
【0154】
言いかえれば、ゲノムDNA上の本発明の多型部位、または多型部位に隣接する部位にハイブリダイズすることができるプローブは、本発明のプローブとして好ましい。本発明のプローブには、プライマーと同様に、塩基配列の改変、塩基配列の付加、あるいは修飾が許される。例えば、Invader法に用いるプローブは、フラップを構成するゲノムとは無関係な塩基配列が付加される。このようなプローブも、多型部位を含む領域にハイブリダイズする限り、本発明のプローブに含まれる。本発明のプローブを構成する塩基配列は、ゲノムにおける本発明の多型部位の周辺DNA領域の塩基配列をもとに、解析方法に応じてデザインすることができる。
【0155】
本発明のプライマーまたはプローブは、それを構成する塩基配列をもとに、任意の方法によって合成することができる。本発明のプライマーまたはプローブの、ゲノムDNAに相補的な塩基配列の長さは、通常15〜100、一般に15〜50、通常15〜30である。与えられた塩基配列に基づいて、当該塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを合成する手法は公知である。更に、オリゴヌクレオチドの合成において、蛍光色素やビオチンなどで修飾されたヌクレオチド誘導体を利用して、オリゴヌクレオチドに任意の修飾を導入することもできる。あるいは、合成されたオリゴヌクレオチドに、蛍光色素などを結合する方法も公知である。
【0156】
本発明のオリゴヌクレオチドをプローブとして使用する場合には、適宜、放射性同位体または非放射性化合物などで標識して用いられる。また、プライマーとして使用する場合には、例えば、オリゴヌクレオチドの3'末端側の領域を標的とする配列に対して相補的にし、5'末端側には制限酵素認識配列、タグ等を付加した形態に設計することができる。このような少なくとも連続した15塩基を含む塩基配列からなるポリヌクレオチドは、ARHGEF10もしくはGABBR1遺伝子のmRNAに対してハイブリダイズすることができる。
【0157】
本発明のオリゴヌクレオチドは、天然以外の塩基、例えば、4-アセチルシチジン、5-(カルボキシヒドロキシメチル)ウリジン、2'-O-メチルシチジン、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウリジン、5-カルボキシメチルアミノメチルウリジン、ジヒドロウリジン、2'-O-メチルプソイドウリジン、β-D-ガラクトシルキュェオシン、2'-O-メチルグアノシン、イノシン、N6-イソペンテニルアデノシン、1-メチルアデノシン、1-メチルプソイドウリジン、1-メチルグアノシン、1-メチルイノシン、2,2-ジメチルグアノシン、2-メチルアデノシン、2-メチルグアノシン、3-メチルシチジン、5-メチルシチジン、N6-メチルアデノシン、7-メチルグアノシン、5-メチルアミノメチルウリジン、5-メトキシアミノメチル-2-チオウリジン、β-D-マンノシルキュェオシン、5-メトキシカルボニルメチル-2-チオウリジン、5-メトキシカルボニルメチルウリジン、5-メトキシウリジン、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデノシン、N-((9-β-D-リボフラノシル-2-メチルリオプリン-6-イル)カルバモイル)トレオニン、N-((9-β-D-リボフラノシルプリン-6-イル)N-メチルカルバモイル)トレオニン、ウリジン-5-オキシ酢酸-メチルエステル、ウリジン-5-オキシ酢酸、ワイブトキソシン、プソイドウリジン、キュェオシン、2-チオシチジン、5-メチル-2-チオウリジン、2-チオウリジン、4-チオウリジン、5-メチルウリジン、N-((9-β-D-リボフラノシルプリン-6-イル)カルバモイル)トレオニン、2'-O-メチル-5-メチルウリジン、2'-O-メチルウリジン、ワイブトシン、3-(3-アミノ-3-カルボキシプロピル)ウリジン等を必要に応じて含んでいてもよい。
【0158】
本発明はまた、動脈硬化性疾患のリスク素因の有無の検査方法に使用するための試薬(検査薬)を提供する。本発明の試薬は、前記本発明のプライマーおよび/またはプローブを含む。動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査においては、本発明の多型部位を含むDNAを増幅するためのプライマーおよび/またはプローブを用いる。
【0159】
本発明の試薬には、塩基種の決定方法に応じて、各種の酵素、酵素基質、および緩衝液などを組み合せることができる。酵素としては、DNAポリメラーゼ、DNAリガーゼ、あるいはIIs制限酵素などの、上記の塩基種決定方法として例示した各種の解析方法に必要な酵素を示すことができる。緩衝液は、これらの解析に用いる酵素の活性の維持に好適な緩衝液が、適宜選択される。更に、酵素基質としては、例えば、相補鎖合成用の基質等が用いられる。
【0160】
更に本発明の試薬には、多型部位における塩基が明らかな対照を添付することができる。対照は、予め多型部位の塩基種が明らかなゲノム、あるいはゲノムの断片を用いることができる。ゲノムは、細胞から抽出されたものでもよいし、細胞あるいは細胞の分画を用いることもできる。細胞を対照として用いれば、対照の結果によってゲノムDNAの抽出操作が正しく行われたことを証明することができる。あるいは、多型部位を含む塩基配列からなるDNAを対照として用いることもできる。具体的には、本発明の多型部位における塩基種が明らかにされたゲノム由来のDNAを含むYACベクターやBACベクターは、対照として有用である。あるいは多型部位に相当する数百ベースのみを切り出して挿入したベクターを対照として用いることもできる。
【0161】
さらに、本発明における試薬の別の態様は、本発明の多型部位を含むDNAとハイブリダイズするヌクレオチドプローブが固定された固相からなる、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かを検査するための試薬である。
これらは本発明の多型部位を指標とする検査に使用される。これらの調製方法に関しては、上述の通りである。
【0162】
また、本発明の好ましい態様においては、ARHGEF10遺伝子の転写産物または翻訳産物を検出する工程を含む、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法に関する。
【0163】
従って、該検査方法においてARHGEF10遺伝子の転写産物の検出の際にプローブとして利用可能な、例えば、ARHGEF10遺伝子の転写産物にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドは、本発明の検査用試薬の一例である。
【0164】
また、該検査方法においてARHGEF10遺伝子の翻訳産物の検出の際に利用可能な、ARHGEF10タンパク質を認識する抗体(抗ARHGEF10タンパク質抗体)もまた、本発明の検査用試薬の好ましい具体例である。
【0165】
上記ARHGEF10遺伝子の転写産物にハイブリダイズするオリゴヌクレオチド、またはARHGEF10タンパク質を認識する抗体(抗ARHGEF10タンパク質抗体)は、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤のスクリーニング用試薬として用いることもできる。
【0166】
本発明者らによって、ARHGEF10遺伝子の発現亢進(上昇)が、動脈硬化性疾患と関連することが明らかとなった。従って、ARHGEF10遺伝子の発現、または該遺伝子によってコードされるタンパク質の機能(活性)を抑制する物質は、動脈硬化性疾患の治療薬もしくは予防薬となるものと考えられる。
【0167】
本発明は、ARHGEF10遺伝子の発現、または、該遺伝子によってコードされるタンパク質(ARHGEF10タンパク質)の機能(活性)を抑制する物質を有効成分として含有する、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤を提供する。
【0168】
本発明の好ましい態様においては、まず、ARHGEF10遺伝子の発現の発現抑制物質を有効成分として含む、動脈硬化性疾患治療薬(動脈硬化性疾患治療もしくは予防のための薬剤・医薬組成物)を提供する。
【0169】
本発明においてARHGEF10遺伝子の発現抑制物質には、例えば、ARHGEF10の転写もしくは該転写産物からの翻訳を抑制する物質が含まれる。本発明の上記発現抑制物質の好ましい態様として、例えば、以下の(a)〜(c)からなる群より選択される化合物(核酸)を挙げることができる。
(a)ARHGEF10遺伝子の転写産物またはその一部に対するアンチセンス核酸
(b)ARHGEF10遺伝子の転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有する核酸
(c)ARHGEF10遺伝子の発現をRNAi効果により抑制する作用を有する核酸
【0170】
本発明における「核酸」とはRNAまたはDNAを意味する。また、所謂PNA (peptide nucleic acid)等の化学合成核酸アナログも、本発明の核酸に含まれる。PNAは、核酸の基本骨格構造である五単糖・リン酸骨格を、グリシンを単位とするポリアミド骨格に置換したもので、核酸によく似た3次元構造を有する。
【0171】
特定の内在性遺伝子の発現を抑制する方法としては、アンチセンス技術を利用する方法が当業者によく知られている。アンチセンス核酸が標的遺伝子の発現を抑制する作用としては、以下のような複数の要因が存在する。即ち、三重鎖形成による転写開始阻害、RNAポリメラーゼによって局部的に開状ループ構造が作られた部位とのハイブリッド形成による転写阻害、合成の進みつつあるRNAとのハイブリッド形成による転写阻害、イントロンとエキソンとの接合点におけるハイブリッド形成によるスプライシング阻害、スプライソソーム形成部位とのハイブリッド形成によるスプライシング阻害、mRNAとのハイブリッド形成による核から細胞質への移行阻害、キャッピング部位やポリ(A)付加部位とのハイブリッド形成によるスプライシング阻害、翻訳開始因子結合部位とのハイブリッド形成による翻訳開始阻害、開始コドン近傍のリボソーム結合部位とのハイブリッド形成による翻訳阻害、mRNAの翻訳領域やポリソーム結合部位とのハイブリッド形成によるペプチド鎖の伸長阻害、および核酸とタンパク質との相互作用部位とのハイブリッド形成による遺伝子発現阻害などである。このようにアンチセンス核酸は、転写、スプライシングまたは翻訳など様々な過程を阻害することで、標的遺伝子の発現を阻害する(平島および井上, 新生化学実験講座2 核酸IV遺伝子の複製と発現, 日本生化学会編, 東京化学同人, 1993, 319-347.)。
【0172】
本発明で用いられるアンチセンス核酸は、上記のいずれの作用によりARHGEF10遺伝子の発現を抑制してもよい。一つの態様としては、ARHGEF10遺伝子のmRNAの5'端近傍の非翻訳領域に相補的なアンチセンス配列を設計すれば、遺伝子の翻訳阻害に効果的と考えられる。また、コード領域もしくは3'側の非翻訳領域に相補的な配列も使用することができる。このように、ARHGEF10遺伝子の翻訳領域だけでなく非翻訳領域の配列のアンチセンス配列を含む核酸も、本発明で利用されるアンチセンス核酸に含まれる。使用されるアンチセンス核酸は、適当なプロモーターの下流に連結され、好ましくは3'側に転写終結シグナルを含む配列が連結される。このようにして調製された核酸は、公知の方法を用いることで、所望の動物へ形質転換できる。アンチセンス核酸の配列は、形質転換される動物が持つ内在性ARHGEF10遺伝子またはその一部と相補的な配列であることが好ましいが、遺伝子の発現を有効に抑制できる限りにおいて、完全に相補的でなくてもよい。転写されたRNAは、標的遺伝子の転写産物に対して好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相補性を有する。アンチセンス核酸を用いて標的遺伝子(ARHGEF10遺伝子)の発現を効果的に抑制するには、アンチセンス核酸の長さは少なくとも15塩基以上25塩基未満であることが好ましいが、本発明のアンチセンス核酸は、必ずしもこの長さに限定されない。
【0173】
本発明のアンチセンスは、特に制限されないが、例えば、配列番号:2に記載の塩基配列を基に作成することができる。
【0174】
また、ARHGEF10遺伝子の発現の抑制は、リボザイム、またはリボザイムをコードするDNAを利用して行うことも可能である。リボザイムとは触媒活性を有するRNA分子を指す。リボザイムには種々の活性を有するものが存在するが、中でもRNAを切断する酵素としてのリボザイムに焦点を当てた研究により、RNAを部位特異的に切断するリボザイムの設計が可能となった。リボザイムには、グループIイントロン型やRNase Pに含まれるM1 RNAのように400ヌクレオチド以上の大きさのものもあるが、ハンマーヘッド型やヘアピン型と呼ばれる40ヌクレオチド程度の活性ドメインを有するものもある(小泉誠および大塚栄子, タンパク質核酸酵素, 1990, 35, 2191.)。
【0175】
例えば、ハンマーヘッド型リボザイムの自己切断ドメインは、G13U14C15という配列のC15の3'側を切断するが、その活性にはU14とA9との塩基対形成が重要とされ、C15の代わりにA15またはU15でも切断され得ることが示されている(Koizumi, M. et al., FEBS Lett, 1988, 228, 228.)。基質結合部位が標的部位近傍のRNA配列と相補的なリボザイムを設計すれば、標的RNA中のUC、UUまたはUAという配列を認識する制限酵素的なRNA切断リボザイムを作出することができる(Koizumi, M. et al., FEBS Lett, 1988, 239, 285.、小泉誠および大塚栄子, タンパク質核酸酵素, 1990, 35, 2191.、Koizumi, M. et al., Nucl Acids Res, 1989, 17, 7059.)。
【0176】
また、ヘアピン型リボザイムも本発明の目的に有用である。このリボザイムは、例えばタバコリングスポットウイルスのサテライトRNAのマイナス鎖に見出される(Buzayan, JM., Nature, 1986, 323, 349.)。ヘアピン型リボザイムからも、標的特異的なRNA切断リボザイムを作出できることが示されている(Kikuchi, Y. & Sasaki, N., Nucl Acids Res, 1991, 19, 6751.、菊池洋, 化学と生物, 1992, 30, 112.)。このように、リボザイムを用いて本発明におけるARHGEF10遺伝子の転写産物を特異的に切断することで、該遺伝子の発現を抑制することができる。
【0177】
内在性遺伝子の発現の抑制は、さらに、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有する二本鎖RNAを用いたRNA干渉(RNA interferance;RNAi)によっても行うことができる。本発明のRNAi効果による抑制作用を有する核酸は、一般的にsiRNAとも言われる。RNAiは、標的遺伝子のmRNAと相同な配列からなるセンスRNAとこれと相補的な配列からなるアンチセンスRNAとからなる二本鎖RNAを細胞等に導入することにより、標的遺伝子mRNAの破壊を誘導し、標的遺伝子の発現を抑制し得る現象である。このようにRNAiは、標的遺伝子の発現を抑制し得ることから、従来の煩雑で効率の低い相同組み換えによる遺伝子破壊方法に代わる簡易な遺伝子ノックアウト方法として、または、遺伝子治療への応用可能な方法として注目を集めている。RNAiに用いるRNAは、ARHGEF10遺伝子もしくは該遺伝子の部分領域と必ずしも完全に同一である必要はないが、完全な相同性を有することが好ましい。
【0178】
本発明の上記(c)の核酸の好ましい態様として、ARHGEF10遺伝子に対してRNAi(RNA interference;RNA干渉)効果を有する二本鎖RNA(siRNA)を挙げることができる。より具体的には、配列番号:2に記載の塩基配列の部分配列に対するセンスRNAおよびアンチセンスRNAからなる二本鎖RNA(siRNA)を挙げることができる。
【0179】
RNAi機構の詳細については未だに不明な部分もあるが、DICERといわれる酵素(RNase III核酸分解酵素ファミリーの一種)が二本鎖RNAと接触し、二本鎖RNAがsmall interfering RNAまたはsiRNAと呼ばれる小さな断片に分解されるものと考えられている。本発明におけるRNAi効果を有する二本鎖RNAには、このようにDICERによって分解される前の二本鎖RNAも含まれる。即ち、そのままの長さではRNAi効果を有さないような長鎖のRNAであっても、細胞においてRNAi効果を有するsiRNAへ分解されることが期待されるため、本発明における二本鎖RNAの長さは、特に制限されない。
【0180】
例えば、本発明のARHGEF10遺伝子のmRNAの全長もしくはほぼ全長の領域に対応する長鎖二本鎖RNAを、例えば、予めDICERで分解させ、その分解産物を動脈硬化性疾患治療薬として利用することが可能である。この分解産物には、RNAi効果を有する二本鎖RNA分子(siRNA)が含まれることが期待される。この方法によれば、RNAi効果を有することが期待されるmRNA上の領域を、特に選択しなくともよい。即ち、RNAi効果を有する本発明のARHGEF10遺伝子のmRNA上の領域は、必ずしも正確に規定される必要はない。
【0181】
なお、上記RNA分子において一方の端が閉じた構造の分子、例えば、ヘアピン構造を有するsiRNA(shRNA)も本発明に含まれる。即ち、分子内において二本鎖RNA構造を形成し得る一本鎖RNA分子もまた本発明に含まれる。
【0182】
本発明の上記「RNAi効果により抑制し得る二本鎖RNA」は、当業者においては、該二本鎖RNAの標的となる本発明のARHGEF10遺伝子の塩基配列を基に、適宜作製することができる。一例を示せば、配列番号:2に記載の塩基配列をもとに、本発明の二本鎖RNAを作製することができる。即ち、配列番号:2に記載の塩基配列をもとに、該配列の転写産物であるmRNAの任意の連続するRNA領域を選択し、この領域に対応する二本鎖RNAを作製することは、当業者においては、通常の試行の範囲内において適宜行い得ることである。また、該配列の転写産物であるmRNA配列から、より強いRNAi効果を有するsiRNA配列を選択することも、当業者においては、公知の方法によって適宜実施することが可能である。また、一方の鎖(例えば、配列番号:2に記載の塩基配列)が判明していれば、当業者においては容易に他方の鎖(相補鎖)の塩基配列を知ることができる。siRNAは、当業者においては市販の核酸合成機を用いて適宜作製することが可能である。また、所望のRNAの合成については、一般の合成受託サービスを利用することができる。
【0183】
さらに、本発明の上記RNAを発現し得るDNA(ベクター)もまた、本発明のARHGEF10遺伝子の発現を抑制し得る化合物の好ましい態様に含まれる。例えば、本発明の上記二本鎖RNAを発現し得るDNA(ベクター)は、該二本鎖RNAの一方の鎖をコードするDNA、および該二本鎖RNAの他方の鎖をコードするDNAが、それぞれ発現し得るようにプロモーターと連結した構造を有するDNAである。本発明の上記DNAは、当業者においては、一般的な遺伝子工学技術により、適宜作製することができる。より具体的には、本発明のRNAをコードするDNAを公知の種々の発現ベクターへ適宜挿入することによって、本発明の発現ベクターを作製することが可能である。
【0184】
また、本発明の発現抑制物質には、例えば、ARHGEF10遺伝子の発現調節領域(例えば、プロモーター領域)と結合することにより、ARHGEF10遺伝子の発現を抑制する化合物が含まれる。該化合物は、例えば、ARHGEF10遺伝子のプロモーターDNA断片を用いて、該DNA断片との結合活性を指標とするスクリーニング方法により、取得することが可能である。また、当業者においては、所望の化合物について、本発明のARHGEF10遺伝子の発現を抑制するか否かの判定を、公知の方法、例えば、レポーターアッセイ法等により適宜実施することができる。
【0185】
また本発明者らは、ARHGEF10遺伝子上(イントロン17)に存在する多型「rs4480162」および「rs4376531」を含むハプロタイプ(感受性ハプロタイプ)がSp1転写因子の結合親和性を改変し、ARHGEF10転写活性を増強しうることを示した。
【0186】
当該ハプロタイプは、転写調節因子であるSp1と結合するDNA領域を含むものと考えられる。また、ARHGEF10 遺伝子上のrs4480162およびrs4376531を含むハプロタイプは、アテローム血栓性脳梗塞と有意に相関していた。感受性ハプロタイプを有する個体は、Sp1結合に起因してARHGEF10転写物をより高発現させるものと考えられる。
【0187】
従って、上記多型(ハプロタイプ)を含むARHGEF10遺伝子のDNA領域と、Sp1転写因子との結合活性を変化させる化合物は、ARHGEF10遺伝子の転写を抑制するものと考えられ、本発明の上記発現抑制物質の好ましい態様の一つと言える。上記DNA領域としては、例えば、多型部位「rs4480162」または「rs4376531」を含むDNA領域を挙げることができる。
【0188】
また、本発明の多型変異を有するDNA配列であって、Sp1転写因子との結合活性が変化したDNA配列を含むポリヌクレオチドは、例えば、後述の動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤のスクリーニング方法に、好適に用いることが可能であり有用である。例えば、以下の(a)または(b)のポリヌクレオチドは、動脈硬化性疾患の治療薬のスクリーニングのための用途に利用できる。
(a)配列番号:2に記載のDNA配列の部分断片ポリヌクレオチドであって、2222位、または2225位の多型部位を含むポリヌクレオチド
(b)上記(b)のポリヌクレオチド配列において1もしくは複数の塩基が付加、欠失もしくは置換された塩基配列からなるポリヌクレオチドであって、Sp1転写因子との結合能が変化していることを特徴とするポリヌクレオチド
【0189】
また本発明は、ARHGEF10タンパク質の機能抑制物質を有効成分として含有する、動脈硬化性疾患治療薬を提供する。
【0190】
本発明におけるARHGEF10タンパク質の機能抑制物質としては、例えば、以下の(a)または(b)の化合物を挙げることができる。
(a)ARHGEF10タンパク質に結合する抗体
(b)ARHGEF10タンパク質に結合する低分子化合物
【0191】
ARHGEF10タンパク質に結合する抗体(抗ARHGEF10タンパク質抗体)は、当業者に公知の方法により調製することが可能である。ポリクローナル抗体であれば、例えば、次のようにして得ることができる。天然のARHGEF10タンパク質、あるいはGSTとの融合タンパク質として大腸菌等の微生物において発現させたリコンビナント(組み換え)ARHGEF10タンパク質、またはその部分ペプチドをウサギ等の小動物に免疫し血清を得る。これを、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、ARHGEF10タンパク質や合成ペプチドをカップリングしたアフィニティーカラム等により精製することにより調製する。また、モノクローナル抗体であれば、例えば、ARHGEF10タンパク質若しくはその部分ペプチドをマウスなどの小動物に免疫を行い、同マウスより脾臓を摘出し、これをすりつぶして細胞を分離し、該細胞とマウスミエローマ細胞とをポリエチレングリコール等の試薬を用いて融合させ、これによりできた融合細胞(ハイブリドーマ)の中から、ARHGEF10タンパク質に結合する抗体を産生するクローンを選択する。次いで、得られたハイブリドーマをマウス腹腔内に移植し、同マウスより腹水を回収し、得られたモノクローナル抗体を、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、ARHGEF10タンパク質や合成ペプチドをカップリングしたアフィニティーカラム等により精製することで、調製することが可能である。
【0192】
本発明の抗体の形態には、特に制限はなく、本発明のARHGEF10タンパク質に結合する限り、上記ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のほかに、ヒト抗体、遺伝子組み換えによるヒト型化抗体、さらにその抗体断片や抗体修飾物も含まれる。
【0193】
抗体取得の感作抗原として使用される本発明のARHGEF10タンパク質は、その由来となる動物種について制限されないが、哺乳動物、例えばマウス、ヒト由来のタンパク質が好ましく、特にヒト由来のタンパク質が好ましい。ヒト由来のタンパク質は、当業者においては、本明細書に開示される遺伝子配列又はアミノ酸配列を用いて、適宜、取得することができる。
【0194】
本発明において、感作抗原として使用されるタンパク質は、完全なタンパク質あるいはタンパク質の部分ペプチドであってもよい。タンパク質の部分ペプチドとしては、例えば、タンパク質のアミノ基(N)末端断片やカルボキシ(C)末端断片あるいは中央部のキナーゼ活性部位等が挙げられる。本明細書における「抗体」とはタンパク質の全長又は断片に反応する抗体を意味する。
【0195】
本発明における抗体には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体(scFv)(Huston et al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 5879-83; The Pharmacology of Monoclonal Antibody, Vol. 113, Rosenburg and Moore ed., Springer Verlag (1994) pp. 269-315)、ヒト化抗体、多特異性抗体(LeDoussal et al. (1992) Int. J. Cancer Suppl. 7: 58-62; Paulus (1985) Behring Inst. Mitt. 78: 118-32; Millstein and Cuello (1983) Nature 305: 537-9; Zimmermann (1986) Rev. Physiol. Biochem. Pharmacol. 105: 176-260; VanDijk et al. (1989) Int. J. Cancer 43: 944-9)、並びに、Fab、Fab'、F(ab')2、Fc、Fv等の抗体断片が含まれる。このような抗体は必要に応じ、PEG等により修飾されていてもよい。また、β‐ガラクトシダーゼ、マルトース結合タンパク質、GST、緑色蛍光タンパク質(GFP)等との融合タンパク質として製造して、二次抗体を用いずに検出できるようにすることも可能である。また、ビオチン等により抗体を標識することによりアビジン、ストレプトアビジン等を用いて抗体の検出、回収を行い得るように改変することもできる。
【0196】
また、ヒト以外の動物に抗原を免疫して上記ハイブリドーマを得る他に、ヒトリンパ球、例えばEBウィルスに感染したヒトリンパ球をin vitroでタンパク質、タンパク質発現細胞又はその溶解物で感作し、感作リンパ球をヒト由来の永久分裂能を有するミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、タンパク質への結合活性を有する所望のヒト抗体を産生するハイブリドーマを得ることもできる。
【0197】
本発明のARHGEF10タンパク質に対する抗体は、ARHGEF10タンパク質と結合することにより、該タンパク質の機能を抑制し、例えば、脳梗塞等の動脈硬化性疾患の治療や改善効果が期待される。得られた抗体を人体に投与する目的(抗体治療)で使用する場合には、免疫原性を低下させるため、ヒト抗体やヒト型抗体が好ましい。
【0198】
さらに本発明は、ARHGEF10タンパク質の機能を抑制し得る物質として、ARHGEF10タンパク質に結合する低分子量物質(低分子化合物)も含有する。本発明のARHGEF10タンパク質に結合する低分子量物質は、天然または人工の化合物であってもよい。通常、当業者に公知の方法を用いることによって製造または取得可能な化合物である。また本発明の化合物は、後述のスクリーニング方法によって、取得することも可能である。
【0199】
上記(b)のARHGEF10タンパク質に結合する低分子化合物には、例えば、ARHGEF10に対して親和性が高い化合物が含まれる。
【0200】
さらに、本発明のARHGEF10タンパク質の機能を抑制し得る物質として、ARHGEF10タンパク質に対してドミナントネガティブの性質を有するARHGEF10タンパク質変異体を挙げることができる。「ARHGEF10タンパク質に対してドミナントネガティブの性質を有する該タンパク質変異体」とは、該タンパク質をコードする遺伝子を発現させることによって、内在性の野生型タンパク質の活性を消失もしくは低下させる機能を有するタンパク質を指す。
【0201】
また、既にARHGEF10タンパク質の機能を阻害することが知られている物質(化合物)は、本発明の上記「ARHGEF10タンパク質の機能を抑制し得る物質」の具体例として、好適に示すことができる。
【0202】
また、本発明の機能抑制物質は、本発明のARHGEF10の有する活性を指標とするスクリーニング方法により、適宜、取得することができる。
また本発明は、以下の(a)または(b)を有効成分として含有する、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤を提供する。
(a)エキソン15を欠損したGABBR1によって形成されるGABA B受容体のリガンド
(b)RhoAインヒビター
上記リガンドには、GABA B受容体のアンタゴニスト等が含まれる。RhoA下流のRhoキナーゼのインヒビターとしては、Y-27632やfasudil等が知られている。
【0203】
また本発明は、ARHGEF10遺伝子の発現量もしくは該遺伝子によってコードされるタンパク質の活性を低下させる化合物を選択することを特徴とする、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤(候補化合物)のスクリーニング方法を提供する。
【0204】
本発明のスクリーニング方法の一態様は、ARHGEF10遺伝子の発現レベルを指標とする方法である。ARHGEF10遺伝子の発現レベルを低下させる化合物は、動脈硬化性疾患治療もしくは予防のための薬剤となることが期待される。
【0205】
本発明の上記方法は、例えば、以下の(a)〜(c)の工程を含む、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤のスクリーニング方法である。
(a)ARHGEF10遺伝子を発現する細胞に、被検化合物を接触させる工程
(b)該ARHGEF10遺伝子の発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、該発現レベルを低下させる化合物を選択する工程
【0206】
本方法においては、まずARHGEF10遺伝子を発現する細胞に、被検化合物を接触させる。用いられる「細胞」の由来としては、ヒト、マウス、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、鳥など、ペット、家畜等に由来する細胞が挙げられるが、これら由来に制限されない。「ARHGEF10遺伝子を発現する細胞」としては、内因性のARHGEF10遺伝子を発現している細胞、または外来性のARHGEF10遺伝子が導入され、該遺伝子が発現している細胞を利用することができる。外来性のARHGEF10遺伝子が発現した細胞は、通常、ARHGEF10遺伝子が挿入された発現ベクターを宿主細胞へ導入することにより作製することができる。該発現ベクターは、一般的な遺伝子工学技術によって作製することができる。
【0207】
本方法に用いる被検化合物としては、特に制限はない。例えば、天然化合物、有機化合物、無機化合物、タンパク質、ペプチドなどの単一化合物、並びに、化合物ライブラリー、遺伝子ライブラリーの発現産物、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0208】
ARHGEF10遺伝子を発現する細胞への被検化合物の「接触」は、通常、ARHGEF10遺伝子を発現する細胞の培養液に被検化合物を添加することによって行うが、この方法に限定されない。被検化合物がタンパク質等の場合には、該タンパク質を発現するDNAベクターを、該細胞へ導入することにより、「接触」を行うことができる。
【0209】
本方法においては、次いで、該ARHGEF10遺伝子の発現レベルを測定する。ここで「遺伝子の発現」には、転写および翻訳の双方が含まれる。遺伝子の発現レベルの測定は、当業者に公知の方法によって行うことができる。例えば、ARHGEF10遺伝子を発現する細胞からmRNAを定法に従って抽出し、このmRNAを鋳型としたノーザンハイブリダイゼーション法またはRT-PCR法を実施することによって該遺伝子の転写レベルの測定を行うことができる。また、ARHGEF10遺伝子を発現する細胞からタンパク質画分を回収し、ARHGEF10タンパク質の発現をSDS-PAGE等の電気泳動法で検出することにより、遺伝子の翻訳レベルの測定を行うこともできる。さらに、ARHGEF10タンパク質に対する抗体を用いて、ウェスタンブロッティング法を実施することにより該タンパク質の発現を検出することにより、遺伝子の翻訳レベルの測定を行うことも可能である。ARHGEF10タンパク質の検出に用いる抗体としては、検出可能な抗体であれば、特に制限はないが、例えばモノクローナル抗体、またはポリクローナル抗体の両方を利用することができる。
【0210】
本方法においては、次いで、被検化合物を接触させない場合(対照)と比較して、該発現レベルを低下させる化合物を選択する。低下させる化合物は、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤となる。
【0211】
本発明のスクリーニング方法の他の態様は、本発明のARHGEF10遺伝子の発現レベルを低下させる化合物を、レポーター遺伝子の発現を指標として同定する方法である。
【0212】
本発明の上記方法は、例えば、以下の(a)〜(c)の工程を含む、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤のスクリーニング方法である。
(a)ARHGEF10遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞と、被検化合物を接触させる工程
(b)該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、該発現レベルを低下させる化合物を選択する工程
【0213】
本方法においては、まず、ARHGEF10遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞または細胞抽出液と、被検化合物を接触させる。ここで「機能的に結合した」とは、ARHGEF10遺伝子の転写調節領域に転写因子が結合することにより、レポーター遺伝子の発現が誘導されるように、ARHGEF10遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが結合していることをいう。従って、レポーター遺伝子が他の遺伝子と結合しており、他の遺伝子産物との融合タンパク質を形成する場合であっても、ARHGEF10遺伝子の転写調節領域に転写因子が結合することによって、該融合タンパク質の発現が誘導されるものであれば、上記「機能的に結合した」の意に含まれる。ARHGEF10遺伝子のcDNA塩基配列に基づいて、当業者においては、ゲノム中に存在するARHGEF10遺伝子の転写調節領域を周知の方法により取得することが可能である。
【0214】
本方法に用いるレポーター遺伝子としては、その発現が検出可能であれば特に制限はなく、例えば、CAT遺伝子、lacZ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、およびGFP遺伝子等が挙げられる。「ARHGEF10遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞」として、例えば、このような構造が挿入されたベクターを導入した細胞が挙げられる。このようなベクターは、当業者に周知の方法により作製することができる。ベクターの細胞への導入は、一般的な方法、例えば、リン酸カルシウム沈殿法、電気パルス穿孔法、リポフェクトアミン法、マイクロインジェクション法等によって実施することができる。「ARHGEF10遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞」には、染色体に該構造が挿入された細胞も含まれる。染色体へのDNA構造の挿入は、当業者に一般的に用いられる方法、例えば、相同組み換えを利用した遺伝子導入法により行うことができる。
【0215】
「ARHGEF10遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞抽出液」とは、例えば、市販の試験管内転写翻訳キットに含まれる細胞抽出液に、ARHGEF10遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを添加したものを挙げることができる。
【0216】
本方法における「接触」は、「ARHGEF10遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞」の培養液に被検化合物を添加する、または該DNAを含む上記の市販された細胞抽出液に被検化合物を添加することにより行うことができる。被検化合物がタンパク質の場合には、例えば、該タンパク質を発現するDNAベクターを、該細胞へ導入することにより行うことも可能である。
【0217】
本方法においては、次いで、該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する。レポーター遺伝子の発現レベルは、該レポーター遺伝子の種類に応じて、当業者に公知の方法により測定することができる。例えば、レポーター遺伝子がCAT遺伝子である場合には、該遺伝子産物によるクロラムフェニコールのアセチル化を検出することによって、レポーター遺伝子の発現量を測定することができる。レポーター遺伝子がlacZ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による色素化合物の発色を検出することにより、また、ルシフェラーゼ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による蛍光化合物の蛍光を検出することにより、さらに、GFP遺伝子である場合には、GFPタンパク質による蛍光を検出することにより、レポーター遺伝子の発現量を測定することができる。
【0218】
本方法においては、次いで、測定したレポーター遺伝子の発現レベルを、被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、低下(抑制)させる化合物を選択する。低下(抑制)させる化合物は、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤となる。
【0219】
また、本発明の上記スクリーニング方法におけるARHGEF10遺伝子は、通常、野生型の遺伝子を用いることができるが、本発明者らによって見出された発現亢進に関与する多型(「rs4480162」、「rs4376531」)を含むハプロタイプを構成するDNA断片を好適に使用することも可能である。
上記ハプロタイプは、ARHGEF10遺伝子の発現が亢進していることから、該遺伝子の発現を抑制する(低下させる)物質のスクリーニングに好適に利用することが可能である。
【0220】
本発明のスクリーニング方法の他の態様は、ARHGEF10遺伝子上のSp1転写因子との結合DNA領域と、Sp1転写因子との相互作用活性(結合活性)を指標とする方法である。
【0221】
本発明の上記方法は、例えば、以下の(a)〜(c)の工程を含む、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤のスクリーニング方法である。
(a)ARHGEF10遺伝子上の塩基部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列における2222位または2225位の部位を含むDNA領域からなるポリヌクレオチド、およびSp1転写因子と、被検化合物とを接触させる工程
(b)前記ポリヌクレオチドとSp1転写因子との結合活性を測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、前記結合活性を低下させる化合物を選択する工程
【0222】
本方法においては、まず、ARHGEF10遺伝子上の塩基部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列における2222位または2225位の部位を含むDNA領域からなるポリヌクレオチド、およびSp1転写因子と、被検化合物を接触させる。
【0223】
次いで該ポリヌクレオチドとSp1転写因子の相互作用活性(結合活性)を測定する。この相互作用活性は、当業者においては公知の種々の方法を利用して、評価することが可能である。
一例を示せば、シフトアッセイにより相互作用活性を評価することができる。
また、上記の各種スクリーニング方法において使用される化合物もまた、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤のスクリーニング用試薬として有用である。
【0224】
さらに本発明は、本発明の検査方法またはスクリーニング方法を実施するために用いられる各種薬剤・試薬等を含むキットを提供する。
【0225】
本発明のキットは、例えば、本発明の上述の各種試薬の中から、実施する検査方法あるいはスクリーニング方法に合わせて適宜選択することができる。例えば、本発明のキットは、本発明の遺伝子、タンパク質、オリゴヌクレオチド、抗体等を構成要素とすることができる。より具体的には、(1)本発明のプライマーオリゴヌクレオチド、およびPCR用反応試薬(Taq ポリメラーゼ、緩衝液等)、または(2)本発明のプローブオリゴヌクレオチド、およびハイブリダイゼーション用緩衝液、(3)本発明の抗ARHGEF10タンパク質抗体、およびELISA用試薬、等を例示することができる。
さらに、本発明のキットには、対照サンプル、緩衝液、使用方法を記載した指示書等を適宜含めることができる。
【0226】
また本発明は、本発明の薬剤を被検者へ投与する工程を含む、動脈硬化性疾患を治療もしくは予防する方法に関する。本発明の薬剤は、安全とされている投与量の範囲内において、ヒトを含む哺乳動物に対して、必要量が投与される。本発明の薬剤の投与量は、剤型の種類、投与方法、患者の年齢や体重、患者の症状等を考慮して、最終的には医師または獣医師の判断により適宜決定することができる。
【0227】
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0228】
以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
材料および方法等について、以下に示す。
【0229】
<試験集団>
大規模な症例-対照相関研究のために、福岡市内および周辺の7つの医療センターからの2004年の虚血性脳卒中の症例を登録した。登録および相関研究の詳細は既に記述されている(Kubo M, et al. Nat Genet, 2007;36:233-239.)。簡潔に述べると、症例被験者は全員、詳細な臨床的特徴および補助的に実験室での検査(コンピュータ断層撮影法およびMRI、脳血管造影法、心エコー検査、ならびに頚動脈複式画像法を含む脳画像法など)に基づき、脳卒中専門の神経科医によって診断された。先行研究(Ikram MA, et al. N Engl J Med, 2009;360:1718-1728.、Rosamond WD,et al. Stroke, 1999;30:736-743.、Ohira T, et al. Stroke, 2006;37:2493-2498.)におけるような分類に基づき虚血性脳卒中のサブタイプを決定した。虚血性脳卒中のサブタイプは、アテローム血栓性が860例、心原性が136例、および不明なサブタイプが116例であった。年齢(5歳の範囲内)および性別が一致した対照被験者を、2002年〜2003年の久山町研究の参加者3,328名から選択した。
【0230】
再現研究のために、バイオバンクジャパンプロジェクト(Nakamura Y. Clin Adv Hematol Oncol, 2007;5:696-697.)から症例試料を選択した。バイオバンクジャパンの虚血性脳卒中を有する被験者の中から、先の研究と同様の脳画像法によってアテローム血栓性脳梗塞と診断された症例1,925例を選択した。先の研究で登録されなかった久山町研究の参加者の残りの2,068名を、対照として用いた。
【0231】
前向きコホート研究のために、1988年に設けられた久山町研究のコホート集団(Kubo M, et al. Nat Genet, 2007;36:233-239.)を用いた。このコホートでは、1988年に登録された脳卒中または冠動脈性心疾患の病歴を有さない40歳以上の久山町住民2,637名を、心血管疾患を発症するか死亡するまで14年間追跡調査した。そのうち、2002年〜2003年の試験に参加した1,656名の被験者を、本研究において用いた。
【0232】
両集団の調査被験者全員から書面のインフォームドコンセントを得た。また、本研究は、九州大学医学系学府および理化学研究所横浜研究所の倫理委員会によって承認された。
【0233】
<SNPの選択および遺伝子型同定>
ARHGEF10の全体にわたるファインマッピングのために、r2 > 0.8、マイナーアリル頻度(MAF)> 5 %、およびコールレート>75 %の基準に従ったペアでのタギング法により、第二段階のHapMap JPTデータからタグSNPを選択した。両集団において、標準的な方法によりゲノムDNAを末梢血白血球から抽出した。既に記述されているような多重PCRに基づくインベーダーアッセイ(Third Wave Technologies)(Ohnishi Y, et al. J Hum Genet, 2001;46:471-478.)を用いて、または標準プロトコルに従ってABI3700キャピラリーシーケンサー(Applied Biosystems)を用いたPCR産物のダイレクトシーケンシングによって、SNPの遺伝子型同定を行った。遺伝子型はすべて目視により判定し、本発明者らは遺伝子型の決定に成功し、384穴プレート中の未同定試料は10未満であった。
【0234】
<細胞培養>
ヒト結腸癌LoVo細胞を、10%ウシ胎仔血清(FBS)を含むF12-HAM(Invitrogen)で増殖させた。ヒト胚性腎線維芽細胞293FT細胞を、10% FBSを含むダルベッコ変法イーグル培地(Invitrogen)で増殖させた。これらの細胞を、CO2 5%を含む37℃の加湿雰囲気中でインキュベートした。
【0235】
<電気泳動移動度シフト解析>
5'-ビオチン標識一本鎖オリゴヌクレオチドをInvitrogenから入手し、アニールした。電気泳動移動度シフト解析(EMSA)プローブの配列は以下の通りである:
rs35234164_delは5'-CAGTGAAGTAAAATATGGCCTACC_TTAAGAAGTTAAGATAG TCATTTAA-3'(配列番号:3)、rs35234164_Tは5'-CAGTGAAGTAAAATATGGCCTACCTTTAAGAAG TTAAGATAGTCATTTAA-3'(配列番号:4)、rs4480162_C / rs4376531_Gは5'-AGTCGGACT CCTTAGTGTGAACTCCAGATCCACCTTCTCTGAACTCTGAA-3'(配列番号:5)、rs4480162_G / rs4376531_Cは5'-AGTCGGACTCCTTAGTGTGAACTGCACATCCACCTTCTCTGAA CTCTGAA-3'(配列番号:6)、rs2280887_Gは5'-CTTGACTCTTGGGCAGTTTTAAGTAGGTTTAAAA TTCTCCCGCTGCCAGA-3'(配列番号:7)、rs2280887_Cは5'-CTTGACTCTTGGGCAGTTTTAAGT ACGTTTAAAATTCTCCCGCTGCCAGA-3'(配列番号:8)、およびSp1コンセンサス配列は5'-ATTCGATCGG GGCGGGGCGAGC-3'(配列番号:9)。20 fmolのEMSAプローブを、結合緩衝液(5 mM HEPES、pH7.9、0.05 mM EDTA、0.5μgポリ(dI/dC)、50 mM KCl、1 mMジチオスレイトール、および10%グリセロール)中、室温で30分間、核タンパク質10μgとインキュベートした。競合アッセイのために、それぞれ1倍〜20倍モル過剰の非標識プローブを添加し、追加で15分間室温でインキュベートした。スーパーシフトアッセイのために、160 fmolのEMSAプローブを使用し、2μgのウサギポリクローナル抗ヒトSp1抗体(07-645、Upstate)を添加して、追加で15分間室温でインキュベートした。混合物を、4℃で0.5 x トリス-硼酸-EDTA(TBE)緩衝液中の4 %ポリアクリルアミドゲル上で電気泳動に供した。核酸を100 Vで60分間、ナイロン膜(Hybond-N+; Amercham Biosciences)に転写した。ビオチン標識プローブを化学発光核酸検出モジュール(PIERCE, 89880)を用いて検出し、LAS-3000システム(富士フィルム、東京、日本)を用いて分析した。
【0236】
<ルシフェラーゼレポーターアッセイ法>
rs4480162およびrs4376531の周辺のEMSAプローブと同一のDNA配列をpGL3プロモータールシフェラーゼベクター(Promega)にサブクローニングした。FuGENE 6トランスフェクション試薬(Roche)を用いて、各レポーター構築物500 ngおよびpRL-CMVベクター(Promega)50 ngをLoVo細胞にトランスフェクトした。48時間後、細胞を収集し、デュアルルシフェラーゼアッセイシステム(東洋ビーネット)を用いてルシフェラーゼ活性を測定した。
【0237】
<低分子量GTPase活性アッセイ>
全長ヒトARHGEF10 cDNAをp3XFLAG-CMV-10発現ベクター(SIGMA)にクローニングすることによって、全長ARHGEF10を発現するように設計されたプラスミドを得た。全長ヒトRhoA、Rac1、またはCdc42 cDNAをpcDNA3.1/myc-His発現ベクター(Invitrogen)にクローニングすることによって、3つの低分子量GTPase過剰発現プラスミドを構築した。既に記述されているように(Kobayashi S, et al. Biochem J, 2001;354:73-78.、Reid T, et al. J Biol Chem, 1996;271:13556-13560.)、ローテキンのRho GTPase結合ドメインを含むGST融合タンパク質(GST-RBD)(14-383, Upstate)またはPAK-1結合ドメインを含むGST融合タンパク質(GST-PBD)(14-325, Upstate)を用いて、GTPを負荷したRhoA、Rac1、およびCdc42の細胞レベルを決定した。簡潔に述べると、pcDNA3.1-RhoA-MycまたはpcDNA3.1-Rac1-MycまたはpcDNA3.1-Cdc42-Mycを、FuGENE 6 トランスフェクション試薬(Roche)を用いて、p3XFLAG-CMV-10-ARHGEF10または対応する空ベクターと共に、10 cm皿に播種した293FT細胞に同時トランスフェクトした。48時間培養後、25 mM HEPES pH7.5、150 mM NaCl、1% Igepal CA-630、10 mM MgCl2、1 mM EDTA、10%グリセロール、およびプロテアーゼ阻害剤を含む緩衝液中に細胞を溶解し、遠心分離によって個々の画分をペレット化した。続いて、GTPaseを含む上澄みを、グルタチオン-セファロースビーズに結合したGST融合タンパク質と共に、4℃で45〜60分間インキュベートした。ビーズを3回洗浄した後、結合したタンパク質を試料緩衝液で溶出し、SDS-PAGEにより分離した。続いて、市販されている特異的抗FLAG抗体(F3165、SIGMA、1μg/ml)および抗Myc抗体(562、MBL、1μl/ml)をそれぞれ用いた免疫ブロット法により、GEF10および低分子量GTPaseを検出した。二次抗体にマッチする種を検出するために、一次抗体と反応するタンパク質を高感度化学発光システム(GE Healthcare UK Ltd. Amersham)によって可視化し、LAS-3000システムで分析した。LAS-3000システムに含まれるMulti Gauge バージョン2.02ソフトウェアを用いて、免疫ブロットの定量的分析を実施した。
【0238】
<統計解析>
必要に応じてカイ二乗検定およびフィッシャーの正確確率検定によって、症例-対照相関分析およびハーディー・ワインベルグ平衡のシフトを評価した。相関分析において、相乗、優性、劣性モデルを用いた。マンテル・ヘンツェル法を用いて、2つの症例-対照試料の結果を統合した。多重検定の補正のために、SASソフトウェアバージョン9.12(SAS Institute)のMULTTEST手順を用いて、10,000例の再現についてランダム並べ替え検定を実施した。D'またはr2で連鎖不平衡を計算し、Haploviewバージョン4.0(Broad Institute)を用いてGabrielの基準(Gabriel SB,et al. Science, 2002;296:2225-2229.)によりハプロタイプブロックを画定した。スチューデントt検定によってルシフェラーゼアッセイデータおよび低分子量GTPase活性アッセイデータを分析した。
【0239】
〔実施例1〕症例-対照相関研究
あらかじめ、虚血性脳卒中の症例1,112例ならびに年齢および性別が一致した対照1,112例において、JSNPデータベースから選択した52,608個の遺伝子に基づくタグSNPを用いて二段階大規模相関研究を実施した(Kubo M, et al. Nat Genet, 2007;36:233-239.、Hata J, et al. Hum Mol Genet, 2007;16: 630-639.)。アテローム血栓性脳梗塞の感受性遺伝子を同定するために、アテローム血栓性脳梗塞の症例860例ならびに年齢および性別が一致した対照860例に的を絞ってこのデータを分析した(第1セット)。染色体8p23上のARHGEF10のイントロン17にあるSNP rs2280887が、アテローム血栓性脳梗塞と強い相関性を有することが見出された(優性モデルについてP=1.2×10-6;表4)(ARHGEF10における4つのSNPsと、セット1およびセット2の試料におけるアテローム血栓性脳梗塞との関連)。
【0240】
【表4】
【0241】
上記表4中、ORはオッズ比、CIは信頼区間、「-」は欠失を示す。
【0242】
この相関は、多重検定の補正のための並び替え検定の後も有意に維持された(P=0.0006)。このSNPは、虚血性脳卒中全体に対しては比較的弱い相関を示し、心原性脳梗塞とは相関しなかった(表5)(rs2280887と、セット1における虚血性脳卒中サブタイプとの関連)。
【0243】
【表5】
【0244】
上記表5中、ORはオッズ比、CIは信頼区間、ATSはアテローム血栓性脳梗塞、CESは心原性脳梗塞を示す。
【0245】
そのため、アテローム血栓性脳梗塞に対する感受性座位がARHGEF10を含む領域に存在すると推測される。
【0246】
続いて、第二段階のHapMap JPTデータからARHGEF10遺伝子の全体にわたる93個のタグSNPを選択し、スクリーニング試料を用いてこれらのSNPの遺伝子型同定を行った。ARHGEF10 のイントロン17のrs4480162は、rs2280887とは完全に連鎖不平衡(D'=1.0およびR2=1.0)であり、かつアテローム血栓性脳梗塞に有意に相関していた(優性モデルについてP=6.9×10-7、表4)。その他の92個のSNPはいずれも有意に相関しなかった。これらの2つのSNPは、ARHGEF10のイントロン15からイントロン17に位置する高度に連鎖不平衡な7.4 kb領域内に位置していた。そのため、48名の罹患者を用いたダイレクトシーケンシングによって、この7.4 kb領域の変異体を検索した。このリシーケンシングにより、dbSNPデータベースに既に登録されている12個の変異体および28個の新規変異体が同定された。すでに遺伝子型同定された変異体またはMAF<0.05の変異体を除いた後、14個のSNPをさらに遺伝子型同定した。図1ABは、ARHGEF10の候補領域周辺のファインマッピングの結果を示している。相関はARHGEF10のブロックAに限定されていた。ブロックAにおいて、さらなる2つのSNP、rs35234164およびrs4376531が、rs2280887と同等の有意な相関を有することが見出された(図1A(III)および表4)。rs4376531はrs4480162から2塩基離れているだけであり、これらのSNPはrs2280887と完全に関連していた(各SNPペア D'=1.0およびr2=1.0)。rs35234164は、イントロン16に位置する、1塩基が挿入/欠失(T/del)された多型であり、他の3つのSNPと強力に関連していた(各SNPペアD'=1.0およびr2=0.95)。ブロックAには、アテローム血栓性脳梗塞と相関するSNPは他に存在しなかった。これらの4つのSNPは、症例1,925例および対照2,068例の別の症例-対照のセットにおいても、アテローム血栓性脳梗塞と相関することが見出された(第2セット、優性モデルについてP=0.018、表4)。これらの4つのSNPを用いたハプロタイプ分析は、単一遺伝子座分析と比較したところ、同様の相関を示した。したがって、本発明者らは、これらのSNPの1つまたは組み合わせが機能的意義を有するとみなした。
【0247】
〔実施例2〕感受性ハプロタイプは、Sp1結合親和性の差異によりARHGEF10転写活性に影響を及ぼす
前記の4つのSNPはイントロン16または17に位置付けられ、5'-非翻訳領域(UTR)からおよそ80 kb離れてかつ3'-UTRから50 kb離れてマッピングされた。4つのSNPのいずれも、イントロン16または17のスプライス供与部位、スプライス受容部位、またはブランチ部位には位置付けられなかった。さらに、UCSCゲノムブラウザデータベースは、ブロックAの領域において、他の注釈付き(annotated)遺伝子または非コードRNAを示さなかった。これらの可能性を完全に排除することはできないが、本発明者らはこれらのSNPのいくつかが間接的効果を介して転写に対して効力を発揮しうると仮定した。
【0248】
この仮説を証明するために、ARHGEF10のゲノム配列に由来する6つの5'末端ビオチン標識オリゴヌクレオチドプローブを調製し、ARHGEF10遺伝子転写物を高発現しているLoVo細胞の核抽出物を用いてEMSAを実施した。感受性ハプロタイプ(C-G)rs4480162およびrs4376531に対応するレーンにおいて、強い強度を有するDNA-タンパク質複合体のシフトバンドが見出された(図2A)。このシフトバンドは、非感受性ハプロタイプ(G-C)に対応するレーンでは弱かった。他のシフトバンドは、対立遺伝子間の強度について差異を示さなかった。非標識オリゴヌクレオチドを用いた競合アッセイにより、自己(C-G)オリゴヌクレオチドは用量依存的様式でDNA-タンパク質複合体の形成を阻害したが、非自己オリゴヌクレオチド(G-C)は阻害しなかったことが示され(図2B)、このことは、一部の核タンパク質が、C-Gハプロタイプに対応するDNA断片に特異的に結合することを示唆している。どの転写因子がこの感受性ハプロタイプに結合するかを同定するために、様々な転写因子のコンセンサス配列に対応する過剰量の非標識オリゴヌクレオチドを競合物として添加した。非標識Sp1-結合コンセンサスオリゴヌクレオチドがDNA-タンパク質複合体の形成を効率的に阻害することが見出された(図2C)。さらに、この混合物に抗Sp1抗体を添加した場合、バンドはより高分子量の位置へシフトし、このことはSp1タンパク質が感受性ハプロタイプに特異的に結合することを示している。
【0249】
ハプロタイプがARHGEF10の転写活性に影響を及ぼすか否かを試験するために、LoVo細胞を用いてルシフェラーゼアッセイを実施した。EMSAで用いたものと同一の配列をpGL3プロモーターベクターへサブクローニングした。ルシフェラーゼ活性は、感受性ハプロタイプ(C-G)を含むレポーターベクターをトランスフェクトした細胞では増強されたが、非感受性ハプロタイプを含むベクターをトランスフェクトした細胞では増強作用は低かった(図2D)。これらの知見により、ハプロタイプrs4480162およびrs4376531が、Sp1転写因子の結合親和性の差異を通してARHGEF10転写活性に影響を及ぼしうることが示された。
【0250】
GEF10の機能はほとんど不明であるものの、GEF10はRhoグアニンヌクレオチド交換因子のファミリーのメンバーであり、これは結合GDPのGTPによる交換を触媒することで低分子量GTPase Rhoの活性を制御する。アテローム血栓性脳梗塞の病因におけるGEF10の役割を解明するために、低分子量GTPase活性アッセイによって、RhoA、Rac1、およびCdc42の活性化に対するGEF10の効果を調べた。図3に示すように、GEF10の過剰発現はGTP結合RhoAの増加を引き起こし、このことはGEF10がRhoAを活性化しうることを示している。対照的に、GEF10の過剰発現はGTP結合Rac1またはCdc42には全く効果を有しなかった。Sp1は多数の組織において大量に発現するため、疾患感受性ハプロタイプを有する被験者は、ARHGEF10転写物をより高発現し、その結果RhoA-Rhoキナーゼ経路がより高活性であると予想される。
【0251】
〔実施例3〕感受性ハプロタイプは虚血性脳卒中の罹患率を増加させる
最後に、集団に基づくコホート研究を用いて、虚血性脳卒中の罹患率に対するこの機能的ハプロタイプの効果を調べた。コホートの14年間の追跡調査期間中、ベースライン調査時に脳卒中の病歴を有しなかった1,656名の被験者のうち、初めて虚血性脳卒中を起こした事象が67例観察された。図4は、機能的ハプロタイプによる虚血性脳卒中の罹患率のカプラン・マイヤー推定値である。少なくとも1つの感受性ハプロタイプを有する被験者における累積罹患率は6.1 %であり、感受性ハプロタイプを有しない被験者における累積罹患率は3.6 %であった。年齢および性別を調整したアテローム血栓性脳梗塞のリスクは、感受性ハプロタイプを有する被験者において有意に高かった(危険率1.79、95 % CI: 1.05〜3.04)。
【0252】
〔実施例4〕GABBR1上にあるSNPは脳梗塞と関連している
大規模tag-SNPマーカーによるケースコントロール研究により、GABBR1が脳梗塞と高度の関連性があることを見出した(表6−1〜表6−3)。
【0253】
【表6−1】
【0254】
表6−2は表6−1の続きの表である。
【表6−2】
【0255】
表6−3は表6−2の続きの表である。
【表6−3】
【0256】
GABBR1はファミリー遺伝子であるGABBR2とヘテロ接合することによりGABA B受容体を形成することが知られている。また、tag-SNPマーカーにより脳梗塞関連遺伝子と同定されたGABBR1に関して候補領域内に存在するexon、UTRおよびその近傍領域のシーケンスを行い、いくつかの関連するSNPを見出した。図5の上部分はGABBR1遺伝子近傍の各SNPに対してアリル頻度、優性または劣性モデルの中で最も低いp値を対数変換したものをy軸に、染色体上の位置をx軸にプロットしている。下部分はHaploview ver3.32を用いてΔにより計測されたSNP間の連鎖不平衡を示す。
【0257】
〔実施例5〕血管平滑筋細胞ではexon 15を欠損した型のGABBR1が発現している
A) PCR法によるexon 15の有無の確認
ヒト胎児脳、胸部大動脈血管平滑筋細胞、冠状動脈血管平滑筋細胞、胸部大動脈血管内皮細胞、冠状動脈血管内皮細胞および脳血管内皮細胞由来のcDNAを以下の方法にてPCR反応を行うことにより、Exon 15を保有しているかの確認を行った。
【0258】
使用プライマー:フォワード側配列CAGGGTGGCAGCTACAAGAAG(配列番号:10)、リバース側配列GTTGGGCTGTGAGTTCTGGATATAA(配列番号:11)、PCR用の試薬としてEXPRESS qPCR SuperMix Universal (invitrogen)を用いた。Exon 15を保持している場合には258 bpに、欠損している場合は107 bpに増幅産物が認められるようにプライマーを設計した。
【0259】
その結果、胎児脳においてはexon 15の保持が、その他の血管細胞においてはexon 15の欠損が認められた(図6)。脳梗塞と強い相関の認められたSNPのうち、GABBR1上に存在するものは6個であった。Exon 15を保有している場合にはrs2267633、SNP-A445、SNP-A1226およびrs3025640は3'-UTR領域に、rs2076489およびrs29230はexon 16に存在し、exon上に存在する2個のSNPはアミノ酸をコードしている。一方、exon 15を欠損した場合はフレームシフトによりrs2076489およびrs29230も3'-UTR領域に含まれる。すなわち、exon 15を欠損した場合にはこれら6個のSNPは全て3'-UTR領域に存在することになる。
【0260】
B) Western Blotting法によるタンパクレベルでの検出
ヒト胸部大動脈血管平滑筋細胞および冠状動脈血管平滑筋細胞(いずれもタカラバイオ社より購入)を6 cm培養皿に播種した。胸部大動脈血管平滑筋細胞は播種4日後に、冠状動脈血管平滑筋細胞は播種3日後にProteoExtract Transmembrane Protein Extraction Kit(Novagen)を製造元の指示に従い用いることにより、可溶性画分(C)と膜画分(M)に分画した。ウェスタンブロッティング法にて両細胞の可溶性および膜画分を抗GABBR1抗体(Abnova H00002550-M01)にて検討したところ、HEK293T細胞にGABBR1 isoform eを一過的に強制発現させた場合よりも小さいバンドが検出された(図7)。
【0261】
上記A)の結果と考え合わせると、ヒト胸部大動脈血管平滑筋細胞および冠状動脈血管平滑筋細胞には分子量は異なるものの、exon 15を欠損している点でisoform eと類似したGABBR1タンパクが存在していると考えられた。いずれの細胞も5%の二酸化炭素を含む37℃の加湿空気中でインキュベートし、培地は供給元の指示に従った。
【0262】
〔実施例6〕GABBR2はgrowth phaseにある血管平滑筋細胞で高発現している
A) 培養期間による発現の変動
ヒト胸部大動脈血管平滑筋細胞および冠状動脈血管平滑筋細胞を24 well培養皿に播種した。胸部大動脈血管平滑筋細胞は播種2,4,7および9日後、冠状動脈血管平滑筋細胞は播種2,3,6および8日後時点でmRNAを抽出し、random primerにて逆転写反応を行い、cDNAを得た。GABBR1、GABBR2またはα-actinの相対mRNA発現量は同一cDNA試料におけるGAPDHの発現量との比によって算出した(図8)。なお、各遺伝子のqPCR測定には以下の試薬および装置を用いた。GABBR1:Assay ID Hs00559488(Applied Biosystems)、GABBR2:Assay ID Hs00193804(Applied Biosystems)、a-actin:Assay ID Hs00426835(Applied Biosystems)装置:7500 Fast Real-Time PCR System(Applied Biosystems)
【0263】
B) 培地による発現の変動
ヒト冠状動脈血管平滑筋細胞を24 well培養皿に播種した。冠状動脈血管平滑筋細胞を供給元の指示に従い2日間培養した。2日後に一部の細胞は新鮮な同組成の培地に交換し、一部はウシ血清を含めた増殖刺激因子を全て除外した培地(基本培地)に交換した。
【0264】
翌日(播種より3日後)mRNAを抽出し、上記と同様の方法によりGABBR1およびGABBR2のqPCR測定を行い、GAPDHとの相対mRNA発現量を算出した(図9)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者におけるARHGEF10遺伝子の発現を指標とすることを特徴とする、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法。
【請求項2】
被検者について、ARHGEF10遺伝子におけるDNA変異を検出することを特徴とする、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法。
【請求項3】
前記変異が、Sp1転写因子との結合を変化させる変異である、請求項2に記載の検査方法。
【請求項4】
被検者について、GABBR1遺伝子におけるDNA変異を検出することを特徴とする、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法。
【請求項5】
変異が多型変異である、請求項2〜4のいずれかに記載の検査方法。
【請求項6】
被検者について、GABBR1遺伝子における多型部位の塩基種を決定することを特徴とする、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法。
【請求項7】
多型部位が、GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列における(1a)1位、(2a)4572位、(3a)7333位、(4a)7599位、(5a)7775位、(6a)8114位、(7a)8479位、(8a)10188位、(9a)13327位、(10a)13371位、または(11a)15463位の多型部位である、請求項6に記載の検査方法。
【請求項8】
請求項7の(1a)〜(11a)に記載の多型部位における塩基種が、それぞれ以下の(1b)〜(11b)である場合に、被検者は動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと判定される請求項7に記載の検査方法。
(1b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の1位における塩基種がT
(2b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の4572位における塩基種がA
(3b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7333位における塩基種がG
(4b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7599位における塩基種がC
(5b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位における塩基種がA
(6b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の8114位における塩基種がG
(7b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の8479位における塩基種がA
(8b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の10188位における塩基種がG
(9b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の13327位における塩基種がA
(10b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の13371位における塩基種がT
(11b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の15463位における塩基種がC
【請求項9】
被検者について、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法であって、以下の(A)〜(C)のいずれかに記載のハプロタイプを示すDNAブロックが検出された場合に動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと判定される方法。
(A)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれA、A、G、A、A、およびCであるハプロタイプ
(B)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれG、G、A、G、G、およびGであるハプロタイプ
(C)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれG、G、G、G、A、およびCであるハプロタイプ
【請求項10】
被検者について動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法であって、以下の(A)〜(C)のいずれかに記載のハプロタイプを示すDNAブロック内に存在し互いに連鎖することを特徴とする多型部位の塩基種を決定する工程を含む検査方法。
(A)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれA、A、G、A、A、およびCであるハプロタイプ
(B)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれG、G、A、G、G、およびGであるハプロタイプ
(C)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれG、G、G、G、A、およびCであるハプロタイプ
【請求項11】
以下の工程(a)および(b)を含む、被検者について、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法。
(a) 被検者におけるGABBR1遺伝子上の多型部位について、塩基種を決定する工程
(b)(a)で決定された塩基種が、以下の(A)〜(C)のいずれかに記載のハプロタイプを示すGABBR1遺伝子における前記多型部位の塩基種と同一であった場合に、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと判定する工程
(A)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれA、A、G、A、A、およびCであるハプロタイプ
(B)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれG、G、A、G、G、およびGであるハプロタイプ
(C)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれG、G、G、G、A、およびCであるハプロタイプ
【請求項12】
前記(a)の多型部位が、GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列における1位、4572位、7333位、7599位、7775位、8114位、8479位、10188位、13327位、13371位、または15463位のいずれかの多型部位である、請求項11に記載の検査方法。
【請求項13】
被検者について、ARHGEF10遺伝子における多型部位の塩基種を決定することを特徴とする、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法。
【請求項14】
多型部位が、ARHGEF10遺伝子上の部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列における(1a)2225位の多型部位である、請求項13に記載の検査方法。
【請求項15】
請求項14の(1a)に記載の多型部位における塩基種が、以下の(1b)である場合に、被検者は動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと判定される請求項14に記載の検査方法。
(1b)ARHGEF10遺伝子上の部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列の2225位の塩基種がG
【請求項16】
被検者について、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法であって、以下の(A)に記載のハプロタイプを示すDNAブロックが検出された場合に動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと判定される方法。
(A)ARHGEF10遺伝子上の多型部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列の2222位、および2225位の多型部位における塩基種が、それぞれCおよびGであるハプロタイプ
【請求項17】
被検者について動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法であって、以下の(A)に記載のハプロタイプを示すDNAブロック内に存在し互いに連鎖することを特徴とする多型部位の塩基種を決定する工程を含む検査方法。
(A)ARHGEF10遺伝子上の多型部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列の2222位、および2225位の多型部位における塩基種が、それぞれC、およびGであるハプロタイプ
【請求項18】
以下の工程(a)および(b)を含む、被検者について、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法。
(a) 被検者におけるARHGEF10遺伝子上の多型部位について、塩基種を決定する工程
(b)(a)で決定された塩基種が、以下の(A)に記載のハプロタイプを示すARHGEF10遺伝子における前記多型部位の塩基種と同一であった場合に、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと判定する工程
(A)ARHGEF10遺伝子上の多型部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列の2222位、および2225位の多型部位における塩基種が、それぞれC、およびGであるハプロタイプ
【請求項19】
前記(a)の多型部位が、ARHGEF10遺伝子上の部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列における2222位、または2225位の多型部位である、請求項18に記載の検査方法。
【請求項20】
被検者由来の生体試料を被検試料として検査に供する、請求項1〜19のいずれかに記載の検査方法。
【請求項21】
請求項7の(1a)〜(11a)に記載の多型部位、または、請求項14の(1a)に記載の多型部位を含むDNAにハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチドを含む、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かを検査するための試薬。
【請求項22】
請求項7の(1a)〜(11a)に記載の多型部位、または、請求項14の(1a)に記載の多型部位を含むDNAとハイブリダイズするヌクレオチドプローブが固定された固相からなる、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かを検査するための試薬。
【請求項23】
請求項7の(1a)〜(11a)に記載の多型部位、または、請求項14の(1a)に記載の多型部位を含むDNAを増幅するためのプライマーオリゴヌクレオチドを含む、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かを検査するための試薬。
【請求項24】
以下の(a)または(b)を有効成分として含有する、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査用試薬。
(a)ARHGEF10遺伝子の転写産物にハイブリダイズするオリゴヌクレオチド
(b)ARHGEF10遺伝子によってコードされるタンパク質を認識する抗体
【請求項25】
以下の(a)または(b)を有効成分として含有する、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤のスクリーニング用試薬。
(a)ARHGEF10遺伝子の転写産物にハイブリダイズするオリゴヌクレオチド
(b)ARHGEF10遺伝子によってコードされるタンパク質を認識する抗体
【請求項26】
ARHGEF10遺伝子の発現、もしくは該遺伝子によってコードされるタンパク質の機能を抑制する物質を有効成分として含有する、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤。
【請求項27】
ARHGEF10遺伝子の発現抑制物質が、以下の(a)〜(c)からなる群より選択される化合物である、請求項26に記載の動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤。
(a)ARHGEF10遺伝子の転写産物またはその一部に対するアンチセンス核酸
(b)ARHGEF10遺伝子の転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有する核酸
(c)ARHGEF10遺伝子の発現をRNAi効果による阻害作用を有する核酸
【請求項28】
ARHGEF10遺伝子によってコードされるタンパク質の機能抑制物質が、以下の(a)または(b)の化合物である、請求項26に記載の動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤。
(a)ARHGEF10遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する抗体
(b)ARHGEF10遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する低分子化合物
【請求項29】
以下の(a)または(b)を有効成分として含有する、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤。
(a)エキソン15を欠損したGABBR1によって形成されるGABA B受容体のリガンド
(b)RhoAインヒビター
【請求項30】
ARHGEF10遺伝子の発現量または該遺伝子によってコードされるタンパク質の活性を低下させる化合物を選択することを特徴とする、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤のスクリーニング方法。
【請求項31】
以下の(a)〜(c)の工程を含む、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤のスクリーニング方法。
(a)ARHGEF10遺伝子を発現する細胞に、被検化合物を接触させる工程
(b)該ARHGEF10遺伝子の発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、該発現レベルを低下させる化合物を選択する工程
【請求項32】
以下の(a)〜(c)の工程を含む、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤のスクリーニング方法。
(a)ARHGEF10遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞または細胞抽出液と、被検化合物を接触させる工程
(b)該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、該発現レベルを低下させる化合物を選択する工程
【請求項1】
被検者におけるARHGEF10遺伝子の発現を指標とすることを特徴とする、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法。
【請求項2】
被検者について、ARHGEF10遺伝子におけるDNA変異を検出することを特徴とする、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法。
【請求項3】
前記変異が、Sp1転写因子との結合を変化させる変異である、請求項2に記載の検査方法。
【請求項4】
被検者について、GABBR1遺伝子におけるDNA変異を検出することを特徴とする、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法。
【請求項5】
変異が多型変異である、請求項2〜4のいずれかに記載の検査方法。
【請求項6】
被検者について、GABBR1遺伝子における多型部位の塩基種を決定することを特徴とする、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法。
【請求項7】
多型部位が、GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列における(1a)1位、(2a)4572位、(3a)7333位、(4a)7599位、(5a)7775位、(6a)8114位、(7a)8479位、(8a)10188位、(9a)13327位、(10a)13371位、または(11a)15463位の多型部位である、請求項6に記載の検査方法。
【請求項8】
請求項7の(1a)〜(11a)に記載の多型部位における塩基種が、それぞれ以下の(1b)〜(11b)である場合に、被検者は動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと判定される請求項7に記載の検査方法。
(1b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の1位における塩基種がT
(2b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の4572位における塩基種がA
(3b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7333位における塩基種がG
(4b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7599位における塩基種がC
(5b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位における塩基種がA
(6b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の8114位における塩基種がG
(7b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の8479位における塩基種がA
(8b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の10188位における塩基種がG
(9b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の13327位における塩基種がA
(10b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の13371位における塩基種がT
(11b)GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の15463位における塩基種がC
【請求項9】
被検者について、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法であって、以下の(A)〜(C)のいずれかに記載のハプロタイプを示すDNAブロックが検出された場合に動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと判定される方法。
(A)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれA、A、G、A、A、およびCであるハプロタイプ
(B)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれG、G、A、G、G、およびGであるハプロタイプ
(C)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれG、G、G、G、A、およびCであるハプロタイプ
【請求項10】
被検者について動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法であって、以下の(A)〜(C)のいずれかに記載のハプロタイプを示すDNAブロック内に存在し互いに連鎖することを特徴とする多型部位の塩基種を決定する工程を含む検査方法。
(A)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれA、A、G、A、A、およびCであるハプロタイプ
(B)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれG、G、A、G、G、およびGであるハプロタイプ
(C)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれG、G、G、G、A、およびCであるハプロタイプ
【請求項11】
以下の工程(a)および(b)を含む、被検者について、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法。
(a) 被検者におけるGABBR1遺伝子上の多型部位について、塩基種を決定する工程
(b)(a)で決定された塩基種が、以下の(A)〜(C)のいずれかに記載のハプロタイプを示すGABBR1遺伝子における前記多型部位の塩基種と同一であった場合に、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと判定する工程
(A)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれA、A、G、A、A、およびCであるハプロタイプ
(B)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれG、G、A、G、G、およびGであるハプロタイプ
(C)GABBR1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列の7775位、8479位、10188位、13327位、13371位、および15463位の多型部位における塩基種が、それぞれG、G、G、G、A、およびCであるハプロタイプ
【請求項12】
前記(a)の多型部位が、GABBR1遺伝子上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列における1位、4572位、7333位、7599位、7775位、8114位、8479位、10188位、13327位、13371位、または15463位のいずれかの多型部位である、請求項11に記載の検査方法。
【請求項13】
被検者について、ARHGEF10遺伝子における多型部位の塩基種を決定することを特徴とする、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法。
【請求項14】
多型部位が、ARHGEF10遺伝子上の部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列における(1a)2225位の多型部位である、請求項13に記載の検査方法。
【請求項15】
請求項14の(1a)に記載の多型部位における塩基種が、以下の(1b)である場合に、被検者は動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと判定される請求項14に記載の検査方法。
(1b)ARHGEF10遺伝子上の部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列の2225位の塩基種がG
【請求項16】
被検者について、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法であって、以下の(A)に記載のハプロタイプを示すDNAブロックが検出された場合に動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと判定される方法。
(A)ARHGEF10遺伝子上の多型部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列の2222位、および2225位の多型部位における塩基種が、それぞれCおよびGであるハプロタイプ
【請求項17】
被検者について動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法であって、以下の(A)に記載のハプロタイプを示すDNAブロック内に存在し互いに連鎖することを特徴とする多型部位の塩基種を決定する工程を含む検査方法。
(A)ARHGEF10遺伝子上の多型部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列の2222位、および2225位の多型部位における塩基種が、それぞれC、およびGであるハプロタイプ
【請求項18】
以下の工程(a)および(b)を含む、被検者について、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査方法。
(a) 被検者におけるARHGEF10遺伝子上の多型部位について、塩基種を決定する工程
(b)(a)で決定された塩基種が、以下の(A)に記載のハプロタイプを示すARHGEF10遺伝子における前記多型部位の塩基種と同一であった場合に、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するものと判定する工程
(A)ARHGEF10遺伝子上の多型部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列の2222位、および2225位の多型部位における塩基種が、それぞれC、およびGであるハプロタイプ
【請求項19】
前記(a)の多型部位が、ARHGEF10遺伝子上の部位であって、配列番号:2に記載の塩基配列における2222位、または2225位の多型部位である、請求項18に記載の検査方法。
【請求項20】
被検者由来の生体試料を被検試料として検査に供する、請求項1〜19のいずれかに記載の検査方法。
【請求項21】
請求項7の(1a)〜(11a)に記載の多型部位、または、請求項14の(1a)に記載の多型部位を含むDNAにハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチドを含む、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かを検査するための試薬。
【請求項22】
請求項7の(1a)〜(11a)に記載の多型部位、または、請求項14の(1a)に記載の多型部位を含むDNAとハイブリダイズするヌクレオチドプローブが固定された固相からなる、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かを検査するための試薬。
【請求項23】
請求項7の(1a)〜(11a)に記載の多型部位、または、請求項14の(1a)に記載の多型部位を含むDNAを増幅するためのプライマーオリゴヌクレオチドを含む、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かを検査するための試薬。
【請求項24】
以下の(a)または(b)を有効成分として含有する、動脈硬化性疾患のリスク素因を有するか否かの検査用試薬。
(a)ARHGEF10遺伝子の転写産物にハイブリダイズするオリゴヌクレオチド
(b)ARHGEF10遺伝子によってコードされるタンパク質を認識する抗体
【請求項25】
以下の(a)または(b)を有効成分として含有する、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤のスクリーニング用試薬。
(a)ARHGEF10遺伝子の転写産物にハイブリダイズするオリゴヌクレオチド
(b)ARHGEF10遺伝子によってコードされるタンパク質を認識する抗体
【請求項26】
ARHGEF10遺伝子の発現、もしくは該遺伝子によってコードされるタンパク質の機能を抑制する物質を有効成分として含有する、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤。
【請求項27】
ARHGEF10遺伝子の発現抑制物質が、以下の(a)〜(c)からなる群より選択される化合物である、請求項26に記載の動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤。
(a)ARHGEF10遺伝子の転写産物またはその一部に対するアンチセンス核酸
(b)ARHGEF10遺伝子の転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有する核酸
(c)ARHGEF10遺伝子の発現をRNAi効果による阻害作用を有する核酸
【請求項28】
ARHGEF10遺伝子によってコードされるタンパク質の機能抑制物質が、以下の(a)または(b)の化合物である、請求項26に記載の動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤。
(a)ARHGEF10遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する抗体
(b)ARHGEF10遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する低分子化合物
【請求項29】
以下の(a)または(b)を有効成分として含有する、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤。
(a)エキソン15を欠損したGABBR1によって形成されるGABA B受容体のリガンド
(b)RhoAインヒビター
【請求項30】
ARHGEF10遺伝子の発現量または該遺伝子によってコードされるタンパク質の活性を低下させる化合物を選択することを特徴とする、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤のスクリーニング方法。
【請求項31】
以下の(a)〜(c)の工程を含む、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤のスクリーニング方法。
(a)ARHGEF10遺伝子を発現する細胞に、被検化合物を接触させる工程
(b)該ARHGEF10遺伝子の発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、該発現レベルを低下させる化合物を選択する工程
【請求項32】
以下の(a)〜(c)の工程を含む、動脈硬化性疾患の治療もしくは予防のための薬剤のスクリーニング方法。
(a)ARHGEF10遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞または細胞抽出液と、被検化合物を接触させる工程
(b)該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、該発現レベルを低下させる化合物を選択する工程
【図1A】
【図1B】
【図4】
【図5】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図6】
【図7】
【図1B】
【図4】
【図5】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2011−125296(P2011−125296A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288726(P2009−288726)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(505256685)一般社団法人久山生活習慣病研究所 (8)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(000002956)田辺三菱製薬株式会社 (225)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(505256685)一般社団法人久山生活習慣病研究所 (8)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(000002956)田辺三菱製薬株式会社 (225)
【Fターム(参考)】
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