説明

化学分析用前処理装置

【課題】 化学分析において、分析妨害成分を、分析対象イオンの精度の良い分析が可能となる程度に除去することができ、また迅速に除去することのできる化学分析用前処理装置を提供すること。
【解決手段】 液体試料に含有される分析妨害成分を光触媒反応により分解することのできる光触媒反応分解手段と、該光触媒反応分解手段により得られた分解処理済み試料の供給を受けることができ、供給された液体に含有される揮発性分析妨害成分を蒸発除去することのできる蒸発除去手段とを有して成ることを特徴とする化学分析用前処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、化学分析用前処理装置に関し、さらに詳しくはイオンクロマト分析等の化学分析における分析妨害成分を効率的に除去する化学分析用前処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発電所で使用される冷却水等の水には、通常水質調整のためにアンモニア及びヒドラジンが例えば10〜20ppmという高濃度で添加されている。また最近ではヒドラジンに発癌性がある等の理由から、ヒドラジンの代わりにエタノールアミンが使用される場合が多い。
【0003】
発電所においては前記のような水の水質管理の目的で、前記水中の微量成分の分析を行っている。この分析には、手分析と工業計器による自動分析とがあり、自動分析においては、微量成分濃度が変化したときに変動する水の導電率を測定する導電率分析装置、及びイオンクロマトグラフィーによりイオンを連続測定するオンラインイオンクロマト装置等が使用される。
【0004】
オンラインイオンクロマト装置による分析においては、例えばNa、Mg、Ca及びKイオン等の陽イオンが分析対象イオンとなる。前述のような水に添加されるアンモニア及びエタノールアミンも陽イオンを生成するので、これらが試料水中に高濃度で存在すると、クロマトグラム上には、これらから生成された陽イオンに基づく巨大なピークが現れ、前記分析対象イオンの測定を困難にする場合がある。したがってこのような試料水は、そのままの状態でオンラインイオンクロマト装置に供することはできず、分析前に、分析妨害成分の影響を排除する前処理を行うことが必要となる。
【0005】
発電所における前記水質管理分析においては、その分析結果を直ちに発電所プラントの運転にフィードバックする必要があり、また試料水の採取後直ちに分析を行わないと、分析精度が低下するので、試料水の前処理に時間をかけることができない。
【0006】
このような事情から従来のオンラインイオンクロマト装置による分析においては、アンモニア等の分析妨害成分の影響を排除するための手段として、試料水の濃縮方法を調整する手段を採用していた。すなわちイオン交換樹脂等を用いた試料水の濃縮において、試料水中に残存する前記妨害物質の濃度を低減させ、その妨害物質に基づくピークを小さくして、前記分析対象イオンのピークの測定が可能になるようにしていた。
【0007】
しかし従来のこの方法では、前記妨害物質がなおも試料水中に相当量存在するので、精度の良い前記分析対象イオンの分析は不可能であり、発電所における前記水質管理分析本来の目的を達成することは困難であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明は、イオンクロマト分析等の化学分析におけるこのような不都合を解消するためになされたものである。すなわちこの発明の目的は、化学分析において、分析妨害成分を、分析対象イオンの精度の良い分析が可能となる程度に除去することができ、また迅速に除去することのできる化学分析用前処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するためのこの発明は、液体試料に含有される分析妨害成分を光触媒反応により分解することのできる光触媒反応分解手段と、該光触媒反応分解手段により得られた分解処理済み試料の供給を受けることができ、供給された液体に含有される揮発性分析妨害成分を蒸発除去することのできる蒸発除去手段とを有して成ることを特徴とする化学分析用前処理装置であり、
また化学分析用前処理装置の好適な態様として、前記前記光触媒反応分解手段に液体試料を供給することのできる第1流路と、前記光触媒反応分解手段により得られた分解処理済み試料を前記蒸発除去手段に送ることのできる第2流路とを有し、
前記第1流路を流通する液体試料を、前記光触媒反応分解手段に流通させることなく、前記蒸発除去手段に送ることのできる迂回流路形成手段を備え、
前記迂回流路形成手段は、前記第1流路に設けられた第1三方切り替えバルブと、前記第2流路に設けられた第2三方切り替えバルブと、前記第1三方切り替えバルブから延び、第2三方切り替えバルブに至る迂回流路とを有して成り、
前記蒸発除去手段は、液体を加熱して、その液体中の揮発性成分を蒸発除去することのできる加熱手段と、液体を脱気して、その液体中の揮発性成分を蒸発除去することのできる脱気手段とを有して成り、
前記光触媒反応分解手段は、光触媒として二酸化チタンを有する。
【発明の効果】
【0010】
この発明に係る化学分析用前処理装置は、光触媒反応分解手段及び蒸発除去手段を有することにより、分析妨害成分を効果的に除去することができる。すなわちこの発明に係る化学分析用前処理装置は、蒸発除去処理のみで除去することできず、光触媒反応により分解する必要がある分析妨害成分と、蒸発除去処理のみで除去することできる分析妨害成分との両方を除去することができる。
【0011】
この発明に係る化学分析用前処理装置は、迂回流路形成手段を設けることにより、試料が光触媒反応により分解する必要がある分析妨害成分を含まない場合には、試料を光触媒反応分解手段に通すことなく直接加熱手段に導入することができる。すなわちこの発明に係る化学分析用前処理装置は、光触媒反応により分解する必要がある分析妨害成分を含有する試料と、光触媒反応により分解する必要がある分析妨害成分を含有しない試料との両方に対して好適に使用することができる。
【0012】
またこのことによりこの発明に係る化学分析用前処理装置は、試料の迅速的な、効率の良い前処理が可能になり、また光触媒反応分解手段に加わる負担を軽減して、光触媒反応分解手段の寿命を延長することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、この発明に係る化学分析用前処理装置の一具体例であるイオンクロマト分析用前処理装置1の概念図である。
【0014】
イオンクロマト分析用前処理装置1は、ポンプ2と、光触媒反応分解手段3と、加熱装置4と、脱気装置5と、第1流路6と、第2流路7と、第3流路8と、第1三方切り替えバルブ9と、第2三方切り替えバルブ10と、迂回流路11とを有して成る。
【0015】
第1流路6は、試料供給流路であり、試料を光触媒反応分解手段3に供給する流路である。第1流路6は、その一端が光触媒反応分解手段3に結合し、その他端が例えば試料を収容する槽等に結合する。ポンプ2は、第1流路6に設けられ、試料を所定の流量で第1流路6に送液することができる。
【0016】
光触媒反応分解手段3は、第1流路6により送液されてきた試料を受容し、その試料に含有される分析妨害成分を光触媒反応により分解することのできる装置である。光触媒反応分解手段3に供給された試料は、光触媒反応分解手段3による光触媒反応を受けて分解処理済み試料となる。
【0017】
光触媒反応分解手段3は、試料に含有される分析妨害成分を分解することのできる光触媒を備える。前記光触媒としては、目的とする分析妨害成分を好適に分解することができれば特に制限はなく、例えば分析妨害成分がエタノールアミンである場合には、二酸化チタンを使用することができる。
【0018】
図2は、光触媒反応分解手段3の部分縦断面図である。光触媒反応分解手段3は、外管16と、光触媒部17と、紫外線照射部18とを有して成る。
外管16は、光触媒反応分解手段3の外殻を成す部材である。
【0019】
光触媒部17は、U字型の形状を有する線状体であり、平行に形成されたその両端直線部が外管16の周面に平行になるように、外管16内に収容されている。光触媒部17は、管状に形成されてなる管状体と、その表面に形成された光触媒被膜とを有して成る。光触媒部17における光触媒被膜は、例えばゾルゲル法により製造することができる。光触媒として二酸化チタンを用いる場合には、光触媒被膜は、ゾルゲル法により、例えば次のようにして作成することできる。二酸チタンを溶剤、例えばテトラブトキサイドに分散させ、濃度が3〜6%である二酸化チタン分散液を調製し、これをSiO等の管状体に塗付し、乾燥後、例えば500℃で燒結する。
【0020】
紫外線照射部18は、外管16内に収容され、光触媒部17の両端部の間に、これらに平行になるように配置されている。紫外線照射部18は、光触媒反応に必要な紫外線を照射する。紫外線照射部18としては、光触媒反応に必要な紫外線を照射することのできる公知の紫外線照射手段例えば紫外線ランプを使用することができる。
【0021】
なお、この発明に係る光触媒反応分解手段の構造は、図2に示される構造に制限されることはなく、試料に含有される分析妨害成分を前記光触媒により連続的に分解することができれば、どのような構造であってもかまわない。
【0022】
第2流路7は、光触媒反応分解手段3と加熱手段4とを結ぶ流路であり、光触媒反応分解手段3で生成された分解処理済み試料を加熱手段4に供給することができる。したがって第2流路7は、分解処理済み試料供給流路として機能することができる。
【0023】
第1三方切り替えバルブ9は、第1流路6に設けられている。したがって第1流路6は、第1三方切り替えバルブ9からポンプ2側に延びる第1流路前半部12と、第1三方切り替えバルブ9から光触媒反応分解手段3側に延びる第1流路後半部13とに分けることができる。
【0024】
第2三方切り替えバルブ10は、第2流路7に設けられている。したがって第2流路7は、第2三方切り替えバルブ10から光触媒反応分解手段3側に延びる第2流路前半部14と、第2三方切り替えバルブ10から加熱手段4側に延びる第2流路後半部15とに分けることができる。
【0025】
迂回流路11は、第1三方切り替えバルブ9と第2三方切り替えバルブ10とを結ぶ流路である。
【0026】
したがって第1三方切り替えバルブ9は、第1流路前半部12を通って第1三方切り替えバルブ9に至った流体を、第1流路後半部13と迂回流路11とのいずれか一方に流通させることができる。また第2三方切り替えバルブ10は、第2流路前半部13を通って第2三方切り替えバルブ10に至った流体と迂回流路11を通って第2三方切り替えバルブ10に至った流体とのいずれか一方を、第2流路後半部15に流通させることができる。
【0027】
このように第1三方切り替えバルブ9、第2三方切り替えバルブ10及び迂回流路11は、迂回路形成手段を形成する。
【0028】
なお、この発明に係る迂回路形成手段としては、試料供給流路を流通する液体試料を、前記光触媒反応分解手段に流通させることなく、前記蒸発除去手段に送ることができれば、前記のような迂回路形成手段に制限されることはない。
【0029】
加熱手段4は、第2流路後半部15を通って供給された流体を加熱処理して、その流体に含有される揮発性成分を連続的に蒸発除去することのできる装置である。加熱手段4は、第2流路7により光触媒反応分解手段3と連通するので、光触媒反応分解手段3で生成された分解処理済み試料を受容し、これを加熱処理することができる。また加熱手段4は、迂回流路11及び第2流路後半部15により第1流路前半部12と連通するので、光触媒反応分解手段3で処理されていない試料を受容し、これを加熱処理することもできる。加熱手段4に供給された流体は、加熱手段4で前記のように加熱処理されて加熱処理済み試料となる。
【0030】
加熱手段4としては、前記機能を有していれば特に制限されることはなく、例えば公知の加熱手段を使用することができる。
【0031】
第3流路8は、加熱手段4と脱気手段5とを結ぶ流路であり、加熱手段4で生成された加熱処理済み試料を脱気手段5に供給することができる。したがって第3流路8は、加熱処理済み試料供給流路として機能する。
【0032】
脱気手段5は、第3流路8を通って供給された加熱処理済み試料を脱気処理して、その流体に含有される揮発性成分を連続的に蒸発除去することのできる装置である。脱気手段5に供給された加熱処理済み試料は、前記のように加熱処理されて前処理済み試料となる。
【0033】
脱気手段5としては、前記機能を有していれば特に制限されることはなく、例えば公知の脱気手段を使用することができる。
【0034】
このように加熱手段4及び脱気手段5は、加熱除去手段を形成する。
【0035】
イオンクロマト分析用前処理装置1は、以上の構成を有することにより、次のように作用する。
【0036】
まず試料中に、加熱処理及び脱気処理のみでは除去することができず、光触媒反応により分解する必要がある分析妨害成分と、加熱処理及び脱気処理のみで除去することのできる揮発性分析妨害成分とが含有されている場合について説明する。
【0037】
第1三方バルブ9は、第1流路前半部12から第1流路後半部13への流通を可能にし、第1流路前半部12から迂回流路11への流通を不能にするように調整され、第2三方バルブ10は、第2流路前半部14から第2流路後半部15への流通を可能にし、迂回流路11から第2流路後半部15への流通を不能にするように調整される(以下、この状態を「光触媒反応分解手段経由状態」という。)。
【0038】
試料は、ポンプ2の作用によって、第1流路前半部12及び第1流路後半部13を通って光触媒反応分解手段3に供給される。光触媒反応分解手段3に供給された試料は、光触媒部17と接触しながら外管16内を通過する。その間に試料中の分解対象成分は、紫外線照射部18から照射された紫外線を受けながら光触媒部17の光触媒の作用を受け、光触媒反応を起こして分解される。その結果光触媒反応分解手段3により、試料に含有される光触媒反応により分解する必要がある分析妨害成分が分解される。そして前記分析妨害成分が分解することにより生成された分解生成物を含有する光触媒反応処理済み試料が得られる。
【0039】
この光触媒反応処理済み試料は、第2流路前半部14及び第2流路後半部15を通って、加熱手段4に供給される。加熱手段4に供給された前記光触媒反応処理済み試料は、加熱手段4によって加熱処理がなされ、その光触媒反応処理済み試料に含有される揮発性分析妨害成分は蒸発除去される。前記光触媒反応処理済み試料に含有される前記分解生成物が揮発性である場合には、その分解生成物も加熱手段4によって蒸発除去される。その結果加熱手段4により、前記光触媒反応処理済み試料から揮発性成分が蒸発除去されて生成された加熱処理済み試料が得られる。
【0040】
前記加熱処理済み試料は、第3流路8を通って、脱気手段5に供給される。脱気手段5に供給された前記加熱処理済み試料は、脱気手段5によって脱気処理がなされ、その加熱処理済み試料に含有される揮発性分析妨害成分が蒸発除去される。揮発性の前記分解生成物についても同様に蒸発除去される。このことにより加熱手段4の前記加熱処理によっても除去しきれず、なおも前記加熱処理済み試料中に残存する揮発性分析妨害成分を除去することができる。その結果脱気手段5により、前記加熱処理済み試料から揮発性成分が蒸発除去されて生成された前処理済み試料が得られる。
【0041】
以上により試料中の、光触媒反応により分解する必要がある分析妨害成分は分解され、揮発性分析妨害成分は蒸発除去される。光触媒反応により生成された分解生成物が揮発性である場合には、その分解生成物も蒸発除去される。つまり試料に含有されていた、光触媒反応により分解する必要がある分析妨害成分、及び加熱処理及び脱気処理のみで除去することのできる揮発性分析妨害成分の両方が、イオンクロマト分析用前処理装置1により除去される。その結果、得られた前処理済み試料を使用してイオン分析を行えば、分析対象イオンの精度の良い分析が可能になる。
【0042】
例えば発電所において水質調整のためにアンモニア及びエタノールアミンが添加された冷却水等の試料水中に含有されるNaイオン等の陽イオンを、オンラインイオンクロマト装置により分析する場合には、アンモニア及びエタノールアミンはイオンクロマト分析において分析妨害物質となるので、精度の良い分析を行うためには、試料からこれらの成分を事前に除去しておく必要がある。アンモニアは、蒸発除去処理だけでは除去することができるが、エタノールアミンは、蒸発除去処理だけでは除去することはできない。またエタノールアミンは、光触媒反応により分解することができ、蒸発除去可能な分解生成物を生じる。
【0043】
この試料水をイオンクロマト分析用前処理装置1によって前記のように処理すると、エタノールアミンが光触媒反応分解手段3により分解され、揮発性のメタン、二酸化炭素、アンモニア等の分解生成物が生じ、この分解生成物と試料水中に最初から含まれていたアンモニアとが加熱手段4及び脱気手段5によって蒸発除去される。このようにして分析妨害物質であるアンモニア及びエタノールアミン、並びにエタノールアミンから生じた分解生成物が除去された前処理済み試料が得られる。この前処理済み試料を使用して、Na及びMgイオン等の分析対象成分の効果的な分析を行うことが可能である。
【0044】
なお、アンモニアについては、一般的にその濃度が約3ppm以上であると、Na及びMgイオン等のイオンクロマト分析は困難になり、約1ppm以下であると、これらのイオンクロマト分析は精度良く行うことができる。またエタノールアミンについては、一般的にその濃度が約3ppm以上であると、Na及びMgイオン等のイオンクロマト分析は困難になり、約1ppm以下であると、これらのイオンクロマト分析は精度良く行うことができる。
【0045】
試料が、光触媒反応により分解する必要がある分析妨害成分を含まず、加熱処理及び脱気処理のみで除去することのできる揮発性分析妨害成分のみを含有する場合には、イオンクロマト分析用前処理装置1は次のように作用する。
【0046】
第1三方バルブ9は、第1流路前半部12から迂回流路11への流通を可能にし、第1流路前半部12から第1流路後半部13への流通を不能にするように調整され、第2三方バルブ10は、迂回流路11から第2流路後半部15への流通を可能にし、第2流路前半部14から第2流路後半部15への流通を不能にするように調整される(以下この状態を「迂回路経由状態」という)。
【0047】
試料は、ポンプ2の作用によって、第1流路前半部12、迂回流路11及び第2流路後半部15を通って、加熱手段4に供給される。加熱手段4に供給された試料は、加熱手段4によって加熱処理がなされ、その試料に含有される揮発性分析妨害成分は蒸発除去される。その結果加熱手段4により、前記試料から揮発性成分が蒸発除去されて生成された加熱処理済み試料が得られる。
【0048】
前記加熱処理済み試料は、第3流路8を通って、脱気手段5に供給される。脱気手段5に供給された前記加熱処理済み試料は、脱気手段5によって脱気処理がなされ、その加熱処理済み試料に含有される揮発性分析妨害成分が蒸発除去される。このことにより加熱手段4の前記加熱処理によっても除去しきれず、なおも前記加熱処理済み試料中に残存する揮発性分析妨害成分を脱気手段5によって除去することができる。その結果脱気手段5により、前記加熱処理済み試料から揮発性成分が蒸発除去されて生成された前処理済み試料が得られる。
【0049】
以上により試料中の揮発性分析妨害成分は蒸発除去される。イオンクロマト分析用前処理装置1は、このように、試料が光触媒反応により分解する必要がある分析妨害成分を含まない場合には、その試料を迂回流路11に流通させて、光触媒反応分解手段3に通すことなく直接加熱手段4に導入することができる。このことにより試料の迅速的な、効率の良い前処理が可能になり、また光触媒反応分解手段3に加わる負担を軽減して、光触媒反応分解手段3の寿命を延長することが可能になる。
【0050】
得られた前処理済み試料を使用してイオン分析を行えば、分析対象イオンの精度の良い分析が可能になる。
【0051】
例えば発電所において水質調整のためにアンモニア及びヒドラジンが添加された冷却水等の試料水中に含有されたNaイオン等の陽イオンを、オンラインイオンクロマト装置により分析する場合には、アンモニア及びヒドラジンはイオンクロマト分析において分析妨害物質となるので、精度の良い分析を行うためには、試料からこれらの成分を事前に除去しておく必要がある。アンモニア及びヒドラジンは、蒸発除去処理のみにより除去することができる物質である。
【0052】
この試料水をイオンクロマト分析用前処理装置1によって前記のように処理すると、試料に含有されていたアンモニア及びヒドラジンが加熱手段4及び脱気手段5によって蒸発除去される。このようにして分析妨害物質であるアンモニア及びヒドラジンが除去された前処理済み試料が得られる。この前処理済み試料を使用して、Na及びMgイオン等の分析対象成分の効果的な分析を行うことが可能である。
【0053】
以上からわかるように、イオンクロマト分析用前処理装置1は、光触媒反応により分解する必要がある分析妨害成分を含有する試料と、光触媒反応により分解する必要がある分析妨害成分を含有しない試料との両方に対して好適に使用することができる。
【0054】
発電所においては、水質調整のために冷却水等にアンモニア及びエタノールアミンを添加する場合と、アンモニア及びヒドラジンを添加する場合とがあるが、そのどちらの場合であっても、前述のように、その水質検査のためのイオンクロマト分析に対する前処理にイオンクロマト分析用前処理装置1を使用することが可能である。
【0055】
光触媒反応分解手段3における処理条件としては、光触媒反応により分解対象成分を効果的に分解することができれば特に制限はないが、処理温度が10〜60℃であり、処理時間が15〜60分間であると、好適な分解処理をすることができ、好適である。
【0056】
加熱手段4における処理条件としては、加熱処理により対象成分を効果的に除去することができれば特に制限はないが、処理温度が80〜120℃であり、処理時間が10〜30分間であると、好適な除去をすることができ、好適である。
【0057】
脱気手段5における処理条件としては、加熱処理により対象成分を効果的に除去することができれば特に制限はないが、処理温度が40〜60℃であり、処理時間が10〜30分間であり、処理圧力が50〜760mmHgであると、好適な除去をすることができ、好適である。
【0058】
イオンクロマト分析用前処理装置1は、発電所等を初めとする、イオンクロマト分析を行う広範囲の分野において使用することができ、中でも発電所の水質検査用として好適に使用されることができる。
【0059】
また、この発明に係る化学分析用前処理装置は、イオンクロマト分析に限らず、前処理として分析妨害成分の除去が必要な化学分析に広く適用することができる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により、より具体的にこの発明にかかる化学分析用前処理装置を説明する。
(1)装置
図1に示した構造を有する化学分析用前処理装置を使用した。
光触媒反応分解手段は、SiOで形成された管状体にTiOを被膜して成る、全長450mmの光触媒部を有する。紫外線照射部は、185〜356nmの紫外線を照射する。処理温度は40℃であった。
【0061】
加熱手段の構造は、電気ヒータ加熱部にPEEK製配管(外径1.6mm、内径0.5mm)を均一に巻きつけて成る構造である。処理温度は80℃であった。
【0062】
脱気手段の構造は、脱気装置内部に中空糸膜を装填して成る構造である。処理温度は、60℃であり、処理圧力は760mmHgであった。
【0063】
(2)試料
アンモニウムを10ppm含有する水溶液(試料1)と、エタノールアミンを20ppm含有する水溶液(試料2)とを使用した。
【0064】
(3)試験方法及び結果
試料1については、化学分析用前処理装置を迂回路経由状態にし、光触媒反応分解手段を流通させることなく、加熱手段及び脱気手段に5ml/minの流速で流通させた。脱気手段通過後のアンモニア濃度を日機装(株)製7310−20型イオンクロマトグラム分析装置により測定した。その結果をアンモニア最終濃度として、表1に示した。
【0065】
試料2については、化学分析用前処理装置を光触媒反応分解手段経由状態にし、光触媒反応分解手段、加熱手段及び脱気手段に3ml/min、7ml/min、8ml/min及び10ml/minの流速で流通させた。脱気手段通過後のアンモニア濃度及びエタノールアミン濃度を日機装(株)製7310−20型イオンクロマトグラム分析装置により測定した。その結果をアンモニア最終濃度及びエタノールアミン最終濃度として、表1に示した。
【0066】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】図1は、この発明に係る化学分析用前処理装置の一具体例であるイオンクロマト分析用前処理装置1の概念図である。
【図2】図2は、光触媒反応分解手段3の部分縦断面図である。
【符号の説明】
【0068】
1・・化学分析用前処理装置、2・・ポンプ、3・・光触媒反応分解手段、4・・加熱装置、5・・脱気装置、6・・第1流路、7・・第2流路、8・・第3流路、9・・第1三方切り替えバルブ、10・・第2三方切り替えバルブ、11・・迂回流路、12・・第1流路前半部、13・・第1流路後半部、14・・第2流路前半部、15・・第2流路後半部、16・・外管16、17・・光触媒部、18・・紫外線照射部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料に含有される分析妨害成分を光触媒反応により分解することのできる光触媒反応分解手段と、該光触媒反応分解手段により得られた分解処理済み試料の供給を受けることができ、供給された液体に含有される揮発性分析妨害成分を蒸発除去することのできる蒸発除去手段とを有して成ることを特徴とする化学分析用前処理装置。
【請求項2】
前記光触媒反応分解手段に液体試料を供給することのできる第1流路と、前記光触媒反応分解手段により得られた分解処理済み試料を前記蒸発除去手段に送ることのできる第2流路とを有する請求項1に記載の化学分析用前処理装置。
【請求項3】
前記第1流路を流通する液体試料を、前記光触媒反応分解手段に流通させることなく、前記蒸発除去手段に送ることのできる迂回流路形成手段を備えることを特徴とする請求項2に記載の化学分析用前処理装置。
【請求項4】
前記迂回流路形成手段は、前記第1流路に設けられた第1三方切り替えバルブと、前記第2流路に設けられた第2三方切り替えバルブと、前記第1三方切り替えバルブから延び、第2三方切り替えバルブに至る迂回流路とを有して成る請求項3に記載の化学分析用前処理装置。
【請求項5】
前記蒸発除去手段は、液体を加熱して、その液体中の揮発性成分を蒸発除去することのできる加熱手段と、液体を脱気して、その液体中の揮発性成分を蒸発除去することのできる脱気手段とを有して成る請求項1〜4のいずれか1項に記載の化学分析用前処理装置。
【請求項6】
前記光触媒反応分解手段は、光触媒として二酸化チタンを有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の化学分析用前処理装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−113006(P2006−113006A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−302891(P2004−302891)
【出願日】平成16年10月18日(2004.10.18)
【出願人】(000226242)日機装株式会社 (383)
【Fターム(参考)】