説明

化学分析装置

【課題】化学分析装置において、被検試料や試薬の使用量を微量化すると共に、測定精度を向上すること。
【解決手段】被検試料と試薬の混合液が入った反応管4に光源21からの光を照射し、反応管4を透過した光を分光して検出し、その検出結果から所定の項目の測定を行う化学分析装置において、光源21と反応管4との間に配置された光学レンズ24と、光源21と光学レンズ24との間であって、光学レンズ24からその焦点距離離れた位置に配置されたスリット22とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体中に含まれている成分を分析する化学分析装置に関わり、特に、ヒトの血液や尿などに含まれる化学成分を自動的に分析する化学分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動化学分析装置は、反応管に被検試料と測定項目に該当する試薬を一定量分注し、攪拌混和後一定温度にて反応させ、この反応によって生ずる色調の変化を測定することにより、被検試料中の被測定物質又は酵素の濃度/活性を測定する。
【0003】
色調の測定は、反応管内の被検試料と試薬を混合した反応液に、光源からの光を照射し、反応液を介して得られる光を分光し光検出器で受光することで、反応液で吸収される特定の波長成分の変化を検出する。このとき、光源から反応管に入射する光束の大きさは、反応管内の反応液の液高より小さくなるように設定される。即ち、反応管に照射される光源のフィラメント像が、反応管内の反応液の液高より小さくなるように設定されている。
【0004】
一方、自動化学分析装置のランニングコストを低く抑えるために、反応管に分注する試薬の微量化が望まれている。この試薬の微量化を図るためには、従来以下の方法がある。
【0005】
まず、第1の方法として、反応管の容積を小さくする方法である。例えば、底面積が5mm×6mmの反応管に150μLの試薬を分注するとその液高は5mmであるが、反応管の底面積を4mm×5mmとすれば150μLの試薬を分注したときに7.5mmの液高を得ることができる。前述のように、正確な測定結果を得るためには、反応管に照射される光源のフィラメント像を反応管内の反応液の液高より小さくする必要があるが、反応管の底面積を小さくすることで、反応管に照射される光源のフィラメント像よりも反応液の液高を充分大きくすることができ、正確な測定結果を得ることができると共に、必要とする試薬の微量化を図ることが可能である。しかし、本法は、反応管の底面積を小さくするため、被検試料や試薬の分注、攪拌、測光、及び反応管の洗浄乾燥等の動作を制約することになる。また、測光のための光路長が短くなり測定精度が低下するという問題がある。
【0006】
第2の方法として、反応管に入射する光を小さくする方法である。反応管の容積を変えずに試薬の微量化を図るためには、反応管内の液高が下がる分、反応管に照射される光源のフィラメント像を小さくする必要がある。このため、この第2の方法としては、光源として小さなフィラメントのランプを用いたり、或いは光線が通過する反応管の前後どちらか一方に光線の透過を制限する遮光板を設けたりする方法(例えば、特許文献1参照)、ランプのフィラメントを傾けて投影されるフィラメント像を小さくしたりする方法がある(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、小さなフィラメントのランプを用いる方法は、所望の輝度を得ようとすると巻き線を非常に密にする必要があり所望の寿命を得ることが難しい。また、遮光板を設ける方法では、光の波動特性により光の透過部分と遮光部分の境界近傍で光の回折を生じ十分な遮光効果が得られず、反応管に入射する光を充分に小さくすることは難しい。更に、ランプのフィラメントを傾ける方法は、被検試料に照射する光量が抑制され、また光軸方向に光源が分散しているため焦点位置における光線のボケを生じる。
【0007】
また、前記色調の測定において、反応液を透過した光を分光し光検出器で受光するために回折格子と光検出素子アレイが一般的に用いられるが、その場合に、回折格子と光検出素子アレイ間で多重反射を生じると不要な光(迷光)が、光検出器に混入し、測定誤差を生じる原因となる。これを回避する一つの方法として、光検出素子アレイの前面には受光素子の配列方向に沿って分光特性の異なる複数のフィルタ部材を設ける方法がある(例えば、特許文献3、特許文献4参照)。
【0008】
しかしながら、当該分析装置で要求される分光の波長幅は10nm程度と非常に狭い帯域であり、特に前述したような回折格子と光検出素子アレイ間で多重反射を生じるような場合には、フィルタを設ける方法では迷光の十分な抑制効果を得ることは難しい。また、光検出素子アレイの前面に配置するフィルタを受光素子の配列方向に沿って分光特性の異なる複数のフィルタ部材で構成する場合、各フィルタ部材の接合端面での光の反射や、前記フィルタ内での多重反射による光の伝播により迷光を生じ、測定誤差の原因となる。
【特許文献1】特開平12−180368号公報
【特許文献2】特開平13−183290号公報
【特許文献3】特公平2−39726号公報
【特許文献4】特開平9−222358号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、化学分析装置において、被検試料や試薬の使用量を微量化すると共に、測定精度を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するため、次のような手段を講じている。
【0011】
本発明の視点は、被検試料と試薬の混合液が入った反応管に光源からの光を照射し、前記反応管を透過した光を分光して光検出器で検出し、その検出結果から所定の項目の測定を行う化学分析装置であって、前記光検出器は、当該光検出器の受光面に沿って配列された複数の受光素子と、当該光検出器の受光面に沿って配列され、前記複数の受光素子に入射する光をフィルタリングする複数の透過波長選択性フィルタと、隣り合う前記透過波長選択性フィルタの間に配置され、遮光性と反射防止性とを有する複数の遮光層と、を具備することを特徴とする化学分析装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、被検試料や試薬の使用量を微量化すると共に、測定精度を向上することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明による化学分析装置を好ましい実施形態により説明する。本実施形態では、光源の前面にスリットを配置し、このスリットと反応管との間のレンズの焦点をこのスリットに合わせることによって、試料を透過する光線の大きさを小さくする。また、光検出素子アレイ(フォトダイオードアレイ)の前面に配列した複数のフィルタであって、その隣り合うフィルタの間に、遮光性及び反射防止性を有する層を挟み込むことによって、迷光を抑制する。この迷光を、フィルタの前面と背面との少なくとも一方に、遮光及び反射防止性を有するマスクを配置することによりさらに抑制する。
【0014】
また、回折格子により分光された光線が、フォトダイオードアレイに入射する際に生じる反射光が回折格子に戻らないように、回折格子の反射面の光軸に対して、光検出器の光入射面が傾斜(非90°)するように配置されている。
【0015】
更には、色調測定において反応液中に散乱体がある場合には光線の多重散乱により吸光度を算出する際の有効光路長が異なる光を検出することによる測定精度の低下を生じるので、試料内の散乱体からの不要な散乱光の検出を抑制するため、光源と反応管との間に光学レンズを配置し、この光学レンズの焦点が反応管の中央よりも後方、即ち反応管の中央から分光部及び検出部方向に所望の距離だけ離れた位置に結ぶように位置調整され、かつ反応管への入射光線の開口及び反応管を透過した光を検出する開口を光学レンズにより所望の値に制限する。これらにより微量化と測定精度の向上を達成する。
【0016】
図1は本発明の実施形態に係る化学分析装置の構成を示す図である。この化学分析装置は、被検試料の各種成分と反応する試薬を納めた複数の試薬ボトルを収納した試薬ラック1を設置可能な試薬庫2及び3と、円周上に複数の反応管4を配置した反応ディスク5と、被検試料が納められた被検試料容器がセットされるディスクサンプラ6とを有している。試薬庫2、3、反応ディスク5及びディスクサンプラ6は、それぞれ駆動装置により回動されるようになっている。測定に必要な試薬は、試薬庫2或いは試薬庫3の試薬ラック1に収納されている試薬ボトル7から、それぞれ分注アーム8或いは分注アーム9を用いて反応ディスク5上の反応管4に分注される。
【0017】
また、ディスクサンプラ6上に配置されている被検試料容器17に納められた被検試料は、サンプリングアーム10を用いて反応ディスク5上の反応管4に分注される。被検試料と試薬を分注された反応管4は、反応ディスク5の回動により撹拌位置まで移動し、撹拌ユニット11により被検試料と試薬の混合液が撹拌される。その後、測光ユニット13は、測光位置まで移動した反応管4に対して光を照射して混合液の吸光度変化を測定することにより、被検試料の成分分析を行う。そして、分析の終了した反応管4内の混合液は廃棄され、その後、反応管4は洗浄ユニット12により洗浄される。
【0018】
図2は、測光ユニット13の上面図である。タングステンハロゲンランプ等の光源21から所望の距離だけ離れた位置、例えば光源21直前にランプ前スリット22を配置する。ランプ前スリット22の光が透過する穴は、反応管4に分注される被検試料と試薬の最小液量に応じて所望の大きさに設定される。スリット22の光が透過する穴は、例えば一辺が1mmの正方形に形成される。ランプ前スリット22の穴を透過した光は、熱線吸収フィルタ23により熱成分を除去され、そして、熱線吸収フィルタ23により熱成分が除去された光は、集光レンズ24により集光される。
【0019】
集光レンズ24の光学的な焦点が、ランプ前スリット22、もしくはその近傍に位置するように、ランプ前スリット22と集光レンズ24との距離が設定されている。換言すると、光源21と集光レンズ24との間であって、集光レンズ24からその焦点距離離れた位置にスリット22が配置される。さらに換言すると、集光レンズ24は、その焦点距離だけスリット22から離れた位置に配置される。これにより、被検試料と試薬の混合液に照射される光は、光源21のフィラメントの大きさに依らず、ランプ前スリット22を透過する穴の大きさを反映したボケの少ない光像となる。そのため効果的に光源21から放射される光を集光し、被検試料と試薬の混合液に所望の大きさの光を照射することができる。
【0020】
集光レンズ24により集光された光は、反応ディスク5の側壁部に配置された光透過窓25を介して反応管4内の被検試料と試薬の混合液に照射される。このとき、集光レンズ24の反応管4側の光学的焦点位置が、反応管4の中心よりも所望の距離だけ、例えば、5mmから10mm程度後方になるように、集光レンズ24と反応管4との距離が、当該集光レンズ24の焦点距離よりも短く設定されている。換言すると、反応管4は、集光レンズ24の焦点位置よりも、集光レンズ24側に近い手前に配置される。
【0021】
反応管4を透過した光は、反応ディスク5の側壁部に配置された光透過窓26を介して集光レンズ28により集光される。集光レンズ28の光学的焦点は、集光レンズ24の反応管4側の光学的焦点位置、つまり反応管4の中心より所定距離後方にずれた位置、もしくはその近傍に合致される。それにより、反応管4を透過した光を効果的に集光し、被検試料と試薬の混合液の吸光度を精度良く測定することができる。
【0022】
即ち、反応管4の前後に配置した集光レンズ24、28の光学的焦点位置を反応管4の中心より所定距離だけ後方にずらすことによって、反応管4の中に分注された被検試料と試薬の混合液に含まれる散乱体により散乱され所望の光線軌跡を外れた光の検出を抑制することができる。また、集光レンズ24、28の開口(NA)を調整することによっても、同様に、吸光度測定の誤差要因となる散乱光の検出を抑制することが可能である。シャッタ27は、被検試料の測定時には開放される。
【0023】
集光レンズ28で集められた光は、集光レンズ28のもう一方の光学焦点位置又はその近傍に配置されたスリット29により所定の幅に絞り込まれた後、凹面回折格子30に照射される。
【0024】
凹面回折格子30は、入射した光をその波長毎に所望の方向に回折する。この回折光は、光検出器33で波長成分毎に検出される。光検出器33は、マスク付き波長選択性フィルタアレイ31と、フォトダイオードアレイ32とを有している。
【0025】
図3には、測光ユニット13の構成を示す側面図である。凹面回折格子30は、その中心軸が、光軸に対してθ1だけ下向きに傾斜するように配置される。また、光検出器33は、その受光面の中心垂直軸が回折光の光軸に対してθ2だけ傾斜するように配置される。これにより、凹面回折格子30と光検出器33との間の多重反射を防止することができ、多重反射による迷光の検出を防止することができる。
【0026】
図4(a)には光検出器33の断面図、図4(b)には光検出器33の上面図をそれぞれ示している。フォトダイオードアレイ32は、基板41と、その基板41上に形成された複数のフォトダイオード(受光検出素子)42とを有する。複数のフォトダイオード42は、分光方向に沿って一列に配列される。フォトダイオードアレイ32の前面(光入射側)には、フィルタアレイ31が配置される。
【0027】
フィルタアレイ31は、波長選択特性の異なる複数の波長選択性フィルタ43を有する。複数のフィルタ43は、複数のフォトダイオード42の配列方向に沿って配列される。隣り合うフィルタ43の間には、遮光性及び光反射抑制性を持つ遮光層44が配置される。この遮光層44は、エポキシ接着剤に黒色の塗料を混合した材料で形成される。この材料の採用により、複数のフィルタ43を張り合わせるための接着機能を併せ持つことができる。
【0028】
フィルタ43の前面には、マスク45が配置される。マスク45は、遮光膜であって、フォトダイオード42のアレイに対応する部分が開口されている。さらに、マスク45は、遮光層44に対応する位置に形成された同じ遮光性を持つ横木部分46を有する。
【0029】
遮光層44及びマスク45により、迷光の検出を抑制することができる。なお、フィルタ43の背面、又はフォトダイオード42の前面、つまりフィルタ43とフォトダイオード42との間に、マスク45と同じ機能及び同じ構造を持つマスクを配置してもよい。このマスクにより、フォトダイオード42とフィルタ43との間の多重反射に起因した迷光の検出を抑制することができる。このマスクと上記マスク45とはその両方を設けてもよいし、いずれか一方だけを設けてもよい。
【0030】
フォトダイオード42は、入射光の光量に応じた電気信号(受光信号)を発生する。この受光信号は信号収集部で収集された後、信号処理部おいて被検試料の吸光度変化等の算出処理に利用される。
【0031】
以上の説明から明らかなように当該実施形態の自動化学分析装置は、被検試料や試薬の使用量を微量化すると共に、迷光や散乱光の検出を抑制することにより所望の被検試料と試薬の混合液の吸光度変化の測定精度を向上することすることができる。
【0032】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することが可能である。例えば本発明は、上記以外にも種々変形して実施可能であり、自動化学分析装置のみならず各種分光分析装置に適用することができる。さらに、上記実施形態には種々の段階が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0033】
以上本発明によれば、本発明によれば、被検試料や試薬の使用量を微量化すると共に、測定精度を向上することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態の自動化学分析装置の外観を示す図。
【図2】図1の測光ユニットの構成を示す上面図。
【図3】図1の測光ユニットの構成を示す側面図。
【図4】図4(a)は図2,図3の光検出器の断面図、図4(b)は図2,図3の光検出器の上面図。
【符号の説明】
【0035】
1…試薬ラック、2…試薬庫、3…試薬庫、4…反応管、5…反応ディスク、6…ディスクサンプラ、7…試薬ボトル、8…分注アーム、9…分注アーム、10…ディスクサンプラ用分注アーム、11…撹拌ユニット、12…洗浄ユニット、13…測光ユニット、14…第1の分注アームのプローブ、17…被検試料容器、21…光源、22…ランプ前スリット、23…熱線吸収フィルタ、24…集光レンズ、25、26…光透過窓、27…シャッタ、28…集光レンズ、29…スリット、30…凹面回折格子、32…光検出器、41…フォトダイオードアレイ基板、42…フォトダイオード、43…透過波長選択性フィルタ、44…遮光層、45…マスク、46…マスク横木部分。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検試料と試薬の混合液が入った反応管に光源からの光を照射し、前記反応管を透過した光を分光して光検出器で検出し、その検出結果から所定の項目の測定を行う化学分析装置であって、
前記光検出器は、
当該光検出器の受光面に沿って配列された複数の受光素子と、
当該光検出器の受光面に沿って配列され、前記複数の受光素子に入射する光をフィルタリングする複数の透過波長選択性フィルタと、
隣り合う前記透過波長選択性フィルタの間に配置され、遮光性と反射防止性とを有する複数の遮光層と、
を具備することを特徴とする化学分析装置。
【請求項2】
前記フィルタの前面と背面との少なくとも一方に配置されたマスクをさらに具備することを特徴とする化学分析装置。
【請求項3】
前記光源と前記反応管との間に配置された光学レンズと、
前記光源と前記光学レンズとの間であり、前記光源の直前に配置されたスリットと、
をさらに具備する請求項1又は2記載の化学分析装置。
【請求項4】
前記反応管を透過した光を分光する回折格子と、光検出器とをさらに備え、前記回折格子の光軸に対して前記光検出器の表面が傾斜するように前記光検出器が前記回折格子に対して配置されることを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一項記載の化学分析装置。
【請求項5】
前記反応管は、前記光源とは反対側の前記光学レンズの焦点位置と当該光学レンズとの間に配置されることを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか一項記載の化学分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−51822(P2008−51822A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−263684(P2007−263684)
【出願日】平成19年10月9日(2007.10.9)
【分割の表示】特願2001−345298(P2001−345298)の分割
【原出願日】平成13年11月9日(2001.11.9)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】