説明

化学機械研磨パッドの研磨層形成用組成物、化学機械研磨パッドおよび化学機械研磨方法

【課題】研磨速度が高く、被研磨物の平坦性に優れ、被研磨物のスクラッチが少ないなどの研磨特性を有する化学機械研磨パッドの研磨層形成用組成物を提供すること。
【解決手段】(A)炭素−炭素二重結合を側鎖に有するポリウレタンと、(B)架橋剤とを含む、化学機械研磨パッドの研磨層形成用組成物。前記ポリウレタン(A)は、少なくとも(A11)1個以上の水酸基および1個以上の炭素−炭素二重結合を有する化合物と、(A12)前記成分(A11)とは異なるポリオール化合物と、(A13)少なくとも2個の活性水素基を有する、前記成分(A11)および(A12)とは異なる有機化合物と、(A2)1個以上のイソシアネート基を有する、前記成分(A11)とは異なる化合物とを反応させて得られるポリウレタンであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学機械研磨パッドの研磨層形成用組成物、該組成物を用いて形成される研磨層を有する化学機械研磨パッド、および該パッドを用いて化学機械研磨を行う化学機械研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体装置の製造などにおいて、被研磨物に対し、優れた平坦性を有する表面を形成することができる研磨方法として、化学機械研磨方法(Chemical Mechanical Polishing;一般にCMPと略称される。)が多く用いられている。この化学機械研磨方法においては、化学機械研磨パッドが有する研磨層の材質により研磨結果が大きく変化するため、様々な組成の研磨層を有する研磨パッドが提案されている(例えば、特許文献1〜7参照。)。一般的に、前記研磨層に最もよく使用されている材料はポリウレタンである。
【0003】
特許文献1には、架橋エラストマーと親水性官能基を有する単量体を使用した重合体とを含有する研磨パッド用組成物を用いることにより、該組成物からなる研磨パッド表面の親水性を向上させて、研磨速度の向上を行う技術が開示されている。特許文献2には、架橋ジエンエラストマーと酸無水物構造を有する重合体とをブレンドした材料を用いて研磨パッドを製造することで、研磨速度を向上させるとともに、研磨時の被研磨物表面の平坦性を良好にする技術が開示されている。特許文献3には、ウレタン樹脂と水に不溶のフィラーとを含有した研磨パッドを製造することで、被研磨物表面に発生するスクラッチ傷の低減と被研磨物表面の平坦性との両立を図る技術が開示されている。
【0004】
しかしながら、上記特許文献1〜3に記載の技術では、均一な研磨パッド形成用組成物を得ることが難しく、良好な研磨速度と被研磨物表面の平坦性と被研磨物表面のスクラッチ傷の低減とをともに確保することは困難であった。
【0005】
特許文献4には、(1)イソシアネート末端プレポリマーを調製し、(2)該プレポリマーの気泡分散液を作製し、(3)鎖延長剤を混合し、(4)加熱硬化してポリウレタンブロックを作成し、(5)該ポリウレタンブロックをパッドの形状にスライスすることにより、化学機械研磨パッドの研磨層を製造する方法が記載されている。
【0006】
しかしながら、上記方法では、ウレタンブロックを均一に作成することは困難である。さらに、スライスすることにより製造されたパッドの研磨層表面は、機械的物性値が不均一になる傾向がある。その結果、被研磨物を均一に研磨することは困難であった。
【0007】
特許文献5には、反応射出成形法で製造された発泡ポリウレタン製パッドを用いることにより、研磨条件の変化による影響が小さく、高い研磨速度、段差解消性能および面内均一性を発現する技術が開示されている。
【0008】
しかしながら、上記成型法の原理から考えても、被研磨物の研磨面を均一にすることは困難であり、研磨面内で研磨速度にバラツキが出ることは明らかである。その結果、良好な面内均一性を有する研磨面を繰り返し得ることは困難であった。
【0009】
特許文献6には、ポリウレタンとビニル化合物の重合体との混合物を用いることにより、研磨パッドの硬度をコントロールし、研磨速度の安定化と平坦性とを両立する技術が開示されている。
【0010】
しかしながら、特許文献6に開示されている技術では、研磨速度、平坦性およびスクラッチの改良が今般求められているレベルに対して充分ではない。
一方、特許文献7には、熱可塑性ポリウレタンを構成成分とする化学機械研磨パッドが記載されている。前記研磨パッドは、実施例に開示されているように熱可塑性ポリウレタンをペレット化した後、これを加熱成型することで製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−134445号公報
【特許文献2】特開2004−343099号公報
【特許文献3】特開2002−137160号公報
【特許文献4】特開2005−322789号公報
【特許文献5】特開2003−062748号公報
【特許文献6】特開2001−239453号公報
【特許文献7】特開2006−100556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献7に記載の方法は、研磨パッドの研磨層表面を均一な研磨面とすることを可能にする技術である。このため、上記特許文献7に開示される熱可塑性ポリウレタンを用いて得られる化学機械研磨パッドは、柔らかく、低誘電率膜のように機械的強度が小さい被研磨物に対しては使用可能な場合がある。
【0013】
しかしながら、一般的な絶縁膜として使用されているシリコン酸化膜のように機械的強度が大きい被研磨物に対しては、研磨速度および耐久性が不充分である。
また、上記特許文献4〜6に開示されている研磨パッドが有する研磨層は、何れも気泡を有するいわゆる発泡ウレタンパッドである。このため、研磨剤を前記研磨層表面に保持するという観点からは有効である。
【0014】
しかしながら、被研磨物の平坦性を左右するスラリーの保持度合いなどに大きな影響を与える、研磨層中のセルの大きさおよび分散を充分に制御することは困難である。このため、化学発泡や物理発泡により製造される研磨層は、機械的強度および平坦性などの特性に劣るという問題がある。
【0015】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものである。すなわち、本発明の課題は、研磨速度が高く、被研磨物の平坦性に優れ、被研磨物のスクラッチが少ないなどの研磨特性を兼ね備える化学機械研磨パッドの研磨層を形成するための組成物を提供することにある。また、本発明の課題は、前記研磨特性を有するとともに、機械的強度および加工性に優れる化学機械研磨パッドの研磨層を形成するための組成物を提供することにある。
【0016】
さらに、本発明の課題は、上記組成物を架橋して形成される研磨層を有する化学機械研磨パッド、および該パッドを用いて化学機械研磨を行う化学機械研磨方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、炭素−炭素二重結合を側鎖に有するポリウレタンと、架橋剤とを混合して架橋して形成される研磨層を有する研磨パッドが、上記研磨特性を兼ね備えることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の態様[1]〜[11]に関する。
【0018】
[1](A)炭素−炭素二重結合を側鎖に有するポリウレタンと、(B)架橋剤とを含む、化学機械研磨パッドの研磨層形成用組成物。
[2]前記ポリウレタン(A)が、ビニル基およびアリル基から選択される少なくとも1種の官能基を側鎖に有する、前記[1]に記載の化学機械研磨パッドの研磨層形成用組成物。
【0019】
[3]前記ポリウレタン(A)が、共役ジエン系(共)重合体骨格を有する、前記[1]または[2]に記載の化学機械研磨パッドの研磨層形成用組成物。
[4]前記ポリウレタン(A)が、ポリブタジエン骨格を有する、前記[1]〜[3]の何れかに記載の化学機械研磨パッドの研磨層形成用組成物。
【0020】
[5]前記ポリウレタン(A)が、少なくとも(A11)1個以上の水酸基および1個以上の炭素−炭素二重結合を有する化合物と、(A2)1個以上のイソシアネート基を有する、前記成分(A11)とは異なる化合物とを反応させて得られる、前記[1]〜[4]の何れかに記載の化学機械研磨パッドの研磨層形成用組成物。
【0021】
[6]前記ポリウレタン(A)が、少なくとも(A11)1個以上の水酸基および1個以上の炭素−炭素二重結合を有する化合物と、(A12)前記成分(A11)とは異なるポリオール化合物と、(A13)少なくとも2個の活性水素基を有する、前記成分(A11)および(A12)とは異なる有機化合物と、(A2)1個以上のイソシアネート基を有する、前記成分(A11)とは異なる化合物とを反応させて得られる、前記[1]〜[5]の何れかに記載の化学機械研磨パッドの研磨層形成用組成物。
【0022】
[7]前記成分(A11)が、末端が水酸基化されたポリブタジエンであって、該ポリブタジエンの数平均分子量が、500〜5000である、前記[5]または[6]に記載の化学機械研磨パッドの研磨層形成用組成物。
【0023】
[8]前記成分(A11)に含まれる水酸基の総モル数をN−1、前記成分(A2)に含まれるイソシアネート基の総モル数をN−2とした場合、N−1/N−2の比が7/100〜100/100である、前記[5]〜[7]の何れかに記載の化学機械研磨パッドの研磨層形成用組成物。
【0024】
[9]水溶性粒子(C)をさらに含む、前記[1]〜[8]の何れかに記載の化学機械研磨パッドの研磨層形成用組成物。
[10]前記[1]〜[9]の何れかに記載の化学機械研磨パッドの研磨層形成用組成物を架橋して形成される研磨層を有する化学機械研磨パッド。
【0025】
[11]前記[10]に記載の化学機械研磨パッドを用いて化学機械研磨を行う化学機械研磨方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、研磨速度が高く、被研磨物の平坦性に優れ、被研磨物のスクラッチが少ないなどの研磨特性を兼ね備える化学機械研磨パッドの研磨層を形成するための組成物が提供される。
【0027】
さらに、本発明によれば、上記組成物を架橋して形成される研磨層を有する化学機械研磨パッド、および該パッドを用いて化学機械研磨を行う化学機械研磨方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る化学機械研磨パッドの研磨層形成用組成物、該組成物を架橋して形成される研磨層を有する化学機械研磨パッド、および該パッドを用いて化学機械研磨を行う化学機械研磨方法について詳細に説明する。
【0029】
なお、本発明において、上記化学機械研磨パッドが、上記研磨層形成用組成物を架橋して形成される研磨層のみからなる場合においては、該研磨層を単に「化学機械研磨パッド」と称することもある。
【0030】
〔化学機械研磨パッドの研磨層形成用組成物〕
本発明に係る化学機械研磨パッドの研磨層形成用組成物(以下、単に「研磨層形成用組成物」ともいう。)は、以下に説明するポリウレタン(A)と架橋剤(B)とを必須成分として含み、水溶性粒子(C)を任意成分として含むことを特徴とする。以下、前記組成物の各成分について詳細に説明する。
【0031】
<ポリウレタン(A)>
本発明で使用されるポリウレタン(A)は、炭素−炭素二重結合を側鎖に有する。このようなポリウレタン(A)を架橋剤(B)とともに加熱することで形成される研磨層は、架橋構造を有する。このため、前記研磨層(化学機械研磨パッドが前記研磨層のみからなる場合は、該パッドを指す。以下同じ。)の硬度、弾性率および耐水性を向上させることができる。
【0032】
なお、本発明において「側鎖」とは、最も分子鎖が長い分子構造を幹ポリマー部とした場合に、幹ポリマー部から分岐した分子構造部分をいう。さらに「炭素−炭素二重結合を側鎖に有する」とは、重合体中の幹ポリマー部から分岐した分子構造部分において炭素−炭素二重結合が存在している状態をいう。
【0033】
ポリウレタン(A)は、熱可塑性ポリウレタンであることが好ましい。ポリウレタン(A)が熱可塑性ポリウレタンである場合、上記研磨層形成用組成物を用いて、常温では極めて安定な非架橋成型体を成型することが可能である。このような非架橋成型体は、所定の温度以上では流動性を有し、加熱しつつ圧力をかけることで所望の形状の成型体を得ることができる。
【0034】
また、ポリウレタン(A)は、ビニル基(CH2=CH−)およびアリル基(CH2=CH−CH2−)から選択される少なくとも1種の官能基を側鎖に有することが好ましく、ビニル基を側鎖に有することがより好ましい。このようなポリウレタン(A)を架橋剤(B)とともに加熱成型することで、ポリウレタン(A)の架橋反応を容易に行うことができ、機械的強度の高い研磨層を有する化学機械研磨パッドを製造することができる。
【0035】
また、ポリウレタン(A)は、共役ジエン系(共)重合体骨格を有することが好ましく、ポリブタジエン骨格を有することがより好ましい。このようなポリウレタン(A)を架橋剤(B)とともに加熱成型することで、ポリウレタン(A)の架橋反応を容易に行うことができ、機械的強度の高い研磨層を有する化学機械研磨パッドを製造することができる。
【0036】
上記のようなポリウレタン(A)は、例えば、少なくとも(A11)1個以上の水酸基および1個以上の炭素−炭素二重結合を有する化合物と、(A2)1個以上のイソシアネート基を有する、成分(A11)とは異なる化合物とを反応させて得られる。なお、本発明において使用される化合物などを、成分(A11)のように、単に「成分(…)」と記すこともある。
【0037】
また、ポリウレタン(A)を製造するに際して、成分(A11)および成分(A2)に加えて、他の成分を用いてもよい。前記他の成分としては、例えば、成分(A11)とは異なるポリオール化合物(A12)、鎖延長剤(A13)が挙げられる。
【0038】
<成分(A11)>
ポリウレタン(A)を製造するために使用される(A11)1個以上の水酸基および1個以上の炭素−炭素二重結合を有する化合物は、成分(A2)が有するイソシアネート基と反応し得る水酸基を、分子内に1個以上、好ましくは1〜2個、より好ましくは2個有する。成分(A11)が分子内に水酸基を前記範囲で有することにより、成分(A11)と成分(A2)とを容易に反応させることが可能となる。
【0039】
また、成分(A11)は、炭素−炭素二重結合を、分子内に1個以上、好ましくは2個以上有する。成分(A11)が分子内に炭素−炭素二重結合を前記範囲で有することにより、ポリウレタン(A)へ容易に炭素−炭素二重結合を導入することができ、該二重結合をポリウレタン(A)を架橋させる際の架橋点とすることができる。
【0040】
成分(A11)が有する炭素−炭素二重結合は、ビニル基およびアリル基から選択される少なくとも1種の官能基であることが好ましい。ポリウレタン(A)の側鎖に前記官能基を導入することにより、該ポリウレタン(A)の架橋反応を容易に行うことができる。
【0041】
また、成分(A11)が有する炭素−炭素二重結合の総モル数を100とした場合に、ビニル基に由来する炭素−炭素二重結合の総モル数は20以上であることが好ましく、50以上であることがより好ましく、80以上であることがさらに好ましい。
【0042】
ビニル基に由来する炭素−炭素二重結合の割合が高いほど、ポリウレタン(A)の架橋速度が速く、該ポリウレタン(A)を架橋する際に上記研磨層形成用組成物を長時間加熱する必要がない。このため、上記研磨層形成用組成物の酸化変性を抑制することができる。一方、ビニル基に由来する炭素−炭素二重結合の割合が低過ぎると、上記研磨層の硬度および弾性率が小さくなり、研磨速度が低下するとともに、該研磨層表面において塑性変形が生じやすくなる。このため、充分な平坦性を有する研磨層が得られないことがある。
【0043】
成分(A11)としては、例えば、下記要件(i)〜(iii)を満たすオリゴマー(a11)、モノアリルグリコール、3−アリルオキシ−1,2−プロパンジオール、1,4−ブテンジオールが挙げられる。
【0044】
また、成分(A11)としては、オリゴマー(a11)以外の共役ジエン系単独重合体または共重合体(以下、「共役ジエン系(共)重合体」ともいう。例えば、末端が水酸基化されたポリブタジエンが挙げられる。)を用いてもよい。
【0045】
上記ポリブタジエンのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定されるスチレン換算の数平均分子量は、500〜5000であることが好ましい。ポリブタジエンの数平均分子量が前記範囲にあると、ポリブタジエンが有する水酸基と成分(A2)が有するイソシアネート基とを充分に反応させることができる。これにより、ポリウレタン(A)の分子量を充分に大きくすることができ、上記研磨層の機械的強度を向上させることができる。
これらの中では、下記要件(i)〜(iii)を満たすオリゴマー(a11)が好ましい。また、これらの成分(A11)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
≪オリゴマー(a11)≫
成分(A11)としては、下記要件(i)〜(iii)を満たすオリゴマー(a11)を用いることが特に好ましい。オリゴマー(a11)は、(i)1個以上、好ましくは2個の水酸基を有し、(ii)1個以上、好ましくは2個以上の炭素−炭素二重結合を有し、(iii)ゲルパーミネーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定されるスチレン換算の数平均分子量が好ましくは500〜2500、より好ましくは750〜2500、さらに好ましくは1000〜2000である。
【0047】
オリゴマー(a11)が分子内に水酸基を上記範囲で有することにより、成分(A2)とオリゴマー(a11)とを容易に反応させることが可能となる。
分子内に炭素−炭素二重結合を上記範囲で有するオリゴマー(a11)を用いることにより、ポリウレタン(A)へ容易に炭素−炭素二重結合を導入することができ、該二重結合をポリウレタン(A)を架橋させる際の架橋点とすることができる。すなわち、機械的強度に劣るという熱可塑性ポリウレタンの欠点が、上記のように架橋することにより解決される。
【0048】
ここで、オリゴマー(a11)は、炭素−炭素二重結合を側鎖に有することが好ましい。側鎖に炭素−炭素二重結合を有するオリゴマー(a11)を用いることにより、ポリウレタン(A)と架橋剤(B)とをともに加熱することで容易にポリウレタン(A)を架橋することができ、化学機械研磨パッドの研磨層に架橋構造を持たせることができる。これにより、前記研磨層の硬度や弾性率などの機械的特性、および耐水性を向上させることができる。
【0049】
さらに、オリゴマー(a11)が有する炭素−炭素二重結合は、ビニル基およびアリル基から選択される少なくとも1種の官能基であることが好ましく、ビニル基であることがより好ましい。これらの官能基を有するオリゴマー(a11)を用いることにより、ポリウレタン(A)の架橋反応を容易に行うことができる。
【0050】
オリゴマー(a11)が有する炭素−炭素二重結合の総モル数を100とした場合に、ビニル基に由来する炭素−炭素二重結合の総モル数は20以上であることが好ましく、50以上であることがさらに好ましく、80以上であることが特に好ましい。
【0051】
ビニル基に由来する炭素−炭素二重結合の割合が高いほど、ポリウレタン(A)の架橋速度が速く、架橋する際に長時間加熱する必要がない。このため、上記研磨層形成用組成物の酸化変性を抑制することができる。一方、ビニル基に由来する炭素−炭素二重結合の割合が低過ぎると、上記研磨層の硬度および弾性率が小さくなり、研磨速度が低下するとともに、上記研磨層表面において塑性変形が生じやすくなる。このため、充分な平坦性を有する研磨層が得られないことがある。
【0052】
オリゴマー(a11)の数平均分子量が上記範囲にあると、オリゴマー(a11)が有する水酸基と成分(A2)が有するイソシアネート基とを充分に反応させることができる。これにより、ポリウレタン(A)の分子量を充分に大きくすることができ、上記研磨層の機械的強度を向上させることができる。
【0053】
オリゴマー(a11)は、水酸基を有する共役ジエン系(共)重合体であることが好ましい。前記共役ジエン系(共)重合体としては、例えば、ブタジエンホモポリマー(ポリブタジエン)、イソプレンホモポリマー(ポリイソプレン)、ブタジエン−スチレンコポリマー、ブタジエン−イソプレンコポリマー、ブタジエン−アクリロニトリルコポリマー、ブタジエン−2−エチルヘキシルアクリレートコポリマー、ブタジエン−n−オクタデシルアクリレートコポリマーが挙げられる。これらの中では、パッドの研磨層形成時にポリウレタン(A)を低温で容易に架橋させることができるため、ポリブタジエンおよびポリイソプレンが好ましい。
【0054】
上記共役ジエン系(共)重合体は水酸基を有することを必要とするが、成分(a2)との反応性を高くするため、上記共役ジエン系(共)重合体の一方の片末端が水酸基で変性されていることが好ましく、他方の片末端が水酸基、カルボキシル基またはアミノ基などで変性されていることが好ましい。
【0055】
オリゴマー(a11)として水酸基を有する上記共役ジエン系(共)重合体を用いることにより、ポリウレタン(A)に共役ジエン系(共)重合体骨格を導入することができる。これにより、ポリウレタン(A)を架橋剤(B)とともに加熱することで速やかに架橋反応が進行し、機械的強度の高い研磨層を有する化学機械研磨パッドを製造することができる。
【0056】
<成分(A2)>
ポリウレタン(A)を製造するために使用される(A2)1個以上のイソシアネート基を有する、成分(A11)とは異なる化合物は、成分(A11)などが有する水酸基と反応し得るイソシアネート基を、分子内に1個以上、好ましくは2個有する。
【0057】
成分(A2)としては、2個のイソシアネート基を有するモノマー(a2)が、ポリウレタン(A)の分子量を充分に大きくでき、該ポリウレタン(A)の耐熱性を向上させることができるため好ましい。
【0058】
≪モノマー(a2)≫
モノマー(a2)としては、一般的なポリウレタンを製造する際に使用されるジイソシアネートが挙げられる。前記ジイソシアネートとしては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−キシレンジイソシアネート、m−キシレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート類;
エチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート類;イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネートなどの脂環式ジイソシアネート類が挙げられる。
【0059】
これらの中では、容易に入手でき、成分(A11)などが有する水酸基との反応制御が容易な点から、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートが好ましい。また、モノマー(a2)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0060】
−他の成分−
ポリウレタン(A)を製造するに際して、成分(A11)および成分(A2)に加えて、上記のようにポリオール化合物(A12)、鎖延長剤(A13)などの他の成分を用いてもよい。
【0061】
<ポリオール化合物(A12)>
本発明で使用されるポリウレタン(A)は、成分(A11)および成分(A2)以外に、成分(A11)とは異なるポリオール化合物(A12)を併用し、製造することができる。
【0062】
ポリオール化合物(A12)としては、ポリウレタンの技術分野において通常使用されるポリオール化合物を使用することができ、例えば、ヒドロキシ末端ポリエステル、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルカーボネートポリオール、ポリエーテルカーボネートポリオール、ポリエステルアミドポリオールが挙げられる。
【0063】
これらの中では、耐加水分解性の良好なポリエーテルポリオールおよびポリカーボネートポリオールが好ましく、より低価格であり、溶融粘度が低く加工が容易であるという観点からポリエーテルポリオールが特に好ましい。
【0064】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリエチレングリコール(PEG)が挙げられる。ポリエステルポリオールとしては、例えば、ポリブチレンアジペート、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリカプロラクトンポリオールが挙げられる。
【0065】
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリテトラメチレングリコールから選択される少なくとも1種のジオールと、ホスゲン、ジアリールカーボネート(例えば、ジフェニルカーボネート)、環式カーボネート(例えば、プロピレンカーボネート)との反応生成物が挙げられる。
【0066】
ポリエステルカーボネートポリオールとしては、ポリカプロラクトンポリオールなどのポリエステルグリコールとエチレンカーボネートなどのアルキレンカーボネートとの反応生成物;エチレンカーボネートなどのアルキレンカーボネートを多価アルコールと反応させて得られた反応混合物と有機ジカルボン酸との反応生成物が挙げられる。
【0067】
ポリオール化合物(A12)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ポリオール化合物(A12)としては、ポリウレタン(A)の弾性特性などの観点から、数平均分子量が500〜2000の範囲にあるポリオール化合物を用いることが好ましい。
また、ポリオール化合物(A12)としては、下記要件(i)〜(iii)を満たす、オリゴマー(a11)とは異なるオリゴマー(a12)を用いることもまた好ましい。
【0068】
≪オリゴマー(a12)≫
成分(A12)としては、下記要件(i)〜(iii)を満たすオリゴマー(a12)を用いることが特に好ましい。オリゴマー(a12)は、(i)2個以上、好ましくは2〜3個の水酸基を有し、(ii)エーテル結合およびエステル結合の何れか一方または双方の結合を有し、(iii)ゲルパーミネーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定されるスチレン換算の数平均分子量が好ましくは500〜2500、より好ましくは500〜2000、さらに好ましくは600〜1800である。
【0069】
オリゴマー(a12)が分子内に水酸基を上記範囲で有することにより、成分(A2)とオリゴマー(a12)とを容易に反応させることが可能となる。
オリゴマー(a12)が分子内にエーテル結合およびエステル結合の何れか一方または双方の結合を有することにより、廉価で、しかも良好な機械的強度を示すポリウレタン(A)を得ることが可能となる。
【0070】
オリゴマー(a12)の数平均分子量が上記範囲にあると、ポリウレタン(A)の弾性率などの機械的強度を適切な範囲に制御することができる。数平均分子量が上記範囲より大きい場合は、ポリウレタン(A)の架橋後も機械的強度を向上させることができず、高い研磨速度が実現可能な化学機械研磨パッドが得られないことがある。また、数平均分子量が上記範囲より小さい場合は、後述する加工可能な温度が高くなり、ポリウレタン(A)に架橋剤(B)を配合できなくなることがある。その結果、得られる化学機械研磨パッドの研磨層表面において塑性変形が生じやすくなり、平坦性が悪くなることがある。
【0071】
<鎖延長剤(A13)>
本発明で使用されるポリウレタン(A)は、成分(A11)および成分(A2)以外に、鎖延長剤(A13)を併用し、製造することができる。鎖延長剤(A13)は、少なくとも2個、好ましくは2個の活性水素基を有する、成分(A11)およびポリオール化合物(A12)とは異なる有機化合物である。活性水素基としては、例えば、水酸基、第1級アミノ基、第2級アミノ基、チオール基(SH)が挙げられ、これらの中では水酸基が好ましい。
鎖延長剤(A13)としては、例えば、2個の水酸基を有するモノマー(a13)、ポリアミン類が挙げられる。これらの中では、モノマー(a13)が好ましい。
【0072】
≪モノマー(a13)≫
モノマー(a13)は,低分子量ジオール類であることが好ましい。低分子量ジオール類の分子量は、オリゴマー(a11)およびオリゴマー(a12)の分子量より小さいことが好ましく、50〜300であることがさらに好ましい。
【0073】
低分子量ジオール類としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンなどの低分子量二価アルコールが挙げられる。
【0074】
これらの中では、成分(A2)が有するイソシアネート基との反応制御が容易な点から、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールが好ましい。また、低分子量二価アルコールは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0075】
≪ポリアミン類≫
ポリアミン類としては、例えば、4,4'−メチレンビス(o−クロロアニリン)、2,6−ジクロロ−p−フェニレンジアミン、4,4'−メチレンビス(2,3−ジクロロアニリン)、3,5−ビス(メチルチオ)−2,4−トルエンジアミン、3,5−ビス(メチルチオ)−2,6−トルエンジアミン、3,5−ジエチルトルエン−2,4−ジアミン、3,5−ジエチルトルエン−2,6−ジアミン、トリメチレングリコール−ジ−p−アミノベンゾエート、1,2−ビス(2−アミノフェニルチオ)エタン、4,4'−ジアミノ−3,3'−ジエチル−5,5'−ジメチルジフェニルメタンが挙げられる。これらのポリアミン類は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0076】
<ポリウレタン(A)の製造条件>
本発明で使用されるポリウレタン(A)としては、上述の成分(A11)および成分(A2)を、下記条件を満足する割合で混合して反応させて得られるポリウレタンを用いることが好ましい。
【0077】
すなわち、成分(A11)に含まれる水酸基の総モル数をN−1、成分(A2)に含まれるイソシアネート基の総モル数をN−2とした場合、N−1/N−2の比が7/100〜100/100であることが好ましく、10/100〜50/100であることがより好ましく、15/100〜30/100であることがさらに好ましい。
【0078】
成分(A11)および成分(A2)を、上記N−1/N−2の値の範囲で用いることにより、化学機械研磨パッドの研磨層の材料として好適な、硬度、弾性率および残留ひずみを有するポリウレタンが得られる。
【0079】
成分(A11)の使用量が上記範囲より少ない場合、架橋が不充分となり、化学機械研磨パッドの研磨層としての耐水性および熱的安定性が不充分となることがある。また、成分(A11)の使用量が上記範囲より大きい場合、架橋度が大きくなるため、化学機械研磨パッドの硬度が過剰に大きくなることがある。
【0080】
本発明における成分(A2)、ポリオール化合物(A12)および鎖延長剤(A13)の比は、各々の分子量や化学機械研磨パッドの所望物性などにより種々変更し得る。また、所望の研磨特性を有する化学機械研磨パッドを得るためには、ポリオール化合物(A12)と鎖延長剤(A13)との比は、これらから製造されるポリウレタンに要求される特性により適宜設定される。
【0081】
また、これらの化合物(成分(A2)、ポリオール化合物(A12)および鎖延長剤(A13))の使用量は、ポリウレタン(A)を構成する全成分の総重量に対して、好ましくは10重量%以上、より好ましくは20重量%以上、さらに好ましくは30重量%以上である。
【0082】
≪ポリウレタン(A’)の製造条件≫
本発明で使用されるポリウレタン(A)としては、少なくとも上述の成分(a11)〜(a13)および成分(a2)を、下記条件(1)および(2)を満足する割合で混合して反応させて得られる熱可塑性ポリウレタン(A’)(以下、単に「ポリウレタン(A’)」ともいう。)を用いることが特に好ましい。
【0083】
すなわち、成分(a11)〜(a13)および成分(a2)の混合物中における、成分(a2)が有するイソシアネート基数をM−1、成分(a13)が有する水酸基数をM−2、ならびに成分(a11)、(a12)および(a13)が有する水酸基数の合計をM−OHとした場合に、
(1)M−1/M−OHの値が、好ましくは0.85〜1.10、より好ましくは0.90〜1.10、さらに好ましくは0.90〜1.05の範囲にある。
【0084】
(2)M−2/M−OHの値が、好ましくは0.45〜0.80、より好ましくは0.50〜0.70、さらに好ましくは0.50〜0.60の範囲にある。
一般に熱可塑性ポリウレタンは、高融点で剛直性を備えるハードセグメントと、低融点で柔らかく伸縮性を与えるソフトセグメントとから構成される。
【0085】
しかしながら、M−1/M−OHの値およびM−2/M−OHの値が上記範囲より小さい場合、ハードセグメントの割合が小さくなるため、熱可塑性ポリウレタンの架橋後も機械的強度が低くなり、高い研磨速度が実現可能な化学機械研磨パッドが得られないことがある。
【0086】
また、M−1/M−OHの値およびM−2/M−OHの値が上記範囲より大きい場合、ハードセグメントの割合が高くなるため、加工可能な温度が高くなり過ぎ、架橋剤(B)を配合することが困難となることがある。その結果、得られる化学機械研磨パッドの研磨層表面において塑性変形が生じやすくなり、平坦性が悪くなることがある。あるいは架橋剤(B)を配合できたとしても、研磨層が剛直となるため、スクラッチの性能が悪化することがある。
【0087】
以上のようにして得られるポリウレタン(A’)は、研磨層形成用組成物を製造する際に架橋剤(B)と混合されるため、架橋剤(B)の分解反応が進行しない温度で混合・加工できることが好ましい。例えば、架橋剤(B)として一般的な有機過酸化物は、10時間半減期温度が150℃以下であることから、150℃以下の低温で混合・加工できることが好ましい。これにより、加工性に優れた研磨層形成用組成物を得ることができる。
【0088】
本発明において、ポリウレタン(A’)の加工可能な温度の指標として、流動開始温度を採用する。前記流動開始温度は、JIS K7311の「10.流れ試験」に準拠して測定され、具体的な測定条件は実施例記載の通りである。このように測定されるポリウレタン(A’)の流動開始温度は、好ましくは60〜130℃、より好ましくは70〜120℃、さらに好ましくは80〜110℃の範囲にある。
【0089】
流動開始温度が上記範囲より高い場合には、ポリウレタン(A’)と架橋剤(B)とを混練する際に架橋反応が進行し、ゲル化や粘度上昇のため研磨層形成用組成物の製造が困難となることがある。また、流動開始温度が上記範囲より低い場合には、ポリウレタン(A’)の分子量が低いことを意味し、研磨層の機械的強度が充分ではなく、高い研磨速度が実現可能な化学機械研磨パッドが得られないことがある。
【0090】
ポリウレタン(A’)の流動開始温度は、M−1/M−OHおよびM−2/M−OHの値を上述の範囲(1)および(2)に設定することにより、上記範囲に調節することができる。これにより、架橋剤(B)として、例えば10時間半減期温度が好ましくは150℃以下、より好ましくは140℃以下である有機過酸化物を用いることができる。
【0091】
また、ポリウレタン(A’)は、ビニル基およびアリル基から選択される少なくとも1種の官能基を有することが好ましく、特にビニル基を有することが好ましい。これらの官能基を有することにより、架橋剤(B)とともに加熱成型することで速やかに架橋反応が進行し、その結果、機械的強度の高い研磨層を有する化学機械研磨パッドを製造することができる。
【0092】
さらに、ポリウレタン(A’)は、上述の成分(a11)〜(a13)および成分(a2)に由来する構成単位を繰り返し単位として含有することにより、ラジカルを発生させる有機過酸化物などの架橋剤(B)や電子線などによる架橋効率が極めて高いポリウレタンである。すなわち、ポリウレタン(A’)を用いることにより、化学機械研磨パッドの研磨速度や機械的強度などの物性を幅広く調整可能である。
【0093】
<架橋剤(B)>
本発明に係る研磨層形成用組成物は、架橋剤(B)を含む。架橋剤(B)は、ポリウレタン(A)を架橋するために配合される。これにより、本発明に係る研磨層形成用組成物を用いて研磨層を形成する際に、該研磨層に架橋構造を持たせることが可能になる。
【0094】
本発明において、特にポリウレタン(A)としてポリウレタン(A’)を用いた場合には、上述のように未架橋のポリウレタン(A’)と架橋剤(B)とを低温で混合できるため、架橋剤(B)が反応することなく、ポリウレタン(A’)と架橋剤(B)とを含む混合物を安定的に得ることが可能である。
【0095】
また、ポリウレタン(A’)は熱可塑性であるために、架橋させることなく適度な温度でプレス加工することにより上記組成物を成型することが可能である。さらに、得られた成型体を例えば160〜220℃の温度で加工することにより、成型体中のポリウレタン(A’)を容易に架橋させることができる。その結果、加工性や平坦性などの物性が飛躍的に向上し、化学機械研磨に適した物性を示すパッドが得られる。
【0096】
架橋を行う方法としては、有機過酸化物、硫黄、硫黄化合物などを用いた化学架橋により行うことが好ましく、加熱によりラジカルを発生させる有機過酸化物を用いた化学架橋がより好ましい。
【0097】
上記有機過酸化物としては、例えば、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシカーボネート、パーオキシエステルが挙げられる。これらの中では、特に架橋速度の面からジアルキルパーオキサイドが好ましく、具体的には、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンが挙げられる。また、前記有機過酸化物は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0098】
<水溶性粒子(C)>
本発明に係る研磨層形成用組成物は、さらに水溶性粒子(C)を含んでいてもよい。水溶性粒子(C)は、研磨剤および薬液からなるスラリーと接触することにより、化学機械研磨パッドの研磨層表面から遊離して、該スラリーを保持することのできる空孔(ポア)を形成するために用いられる。
【0099】
このように、本発明においては表面に気泡構造を有するポリウレタン発泡体を用いることなく、上述の水溶性粒子(C)を用いることにより化学機械研磨パッドに空孔が形成され、スラリーの保持がより良好となる。このため、得られる化学機械研磨パッドの研磨層は、(1)非発泡であり、中実体であることから機械的強度に優れ、(2)発泡セル構造を均一に制御するという精緻な技術を用いる必要がないことから平坦性に優れる。
【0100】
水溶性粒子(C)は、ポリウレタン(A)中に均一に分散された状態で存在してもよく、ポリウレタン(A)中に海島構造のように相分離した状態で存在してもよいが、ポリウレタン(A)中に均一に分散された状態で存在していることが好ましい。
【0101】
水溶性粒子(C)としては、例えば、水溶性高分子のように水に溶解する物質の他、吸水性樹脂のように水との接触により膨潤またはゲル化して研磨層表面から遊離することができる物質が挙げられる。前記水溶性粒子としては、例えば、有機水溶性粒子および無機水溶性粒子が挙げられる。
【0102】
上記有機水溶性粒子を構成する材料としては、例えば、糖類(でんぷん、デキストリンおよびシクロデキストリンなどの多糖類、乳糖、マンニットなど)、セルロース類(ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロースなど)、蛋白質、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリエチレンオキサイド、水溶性の感光性樹脂、スルホン化ポリイソプレン、スルホン化イソプレン共重合体が挙げられる。
【0103】
上記無機水溶性粒子を構成する材料としては、例えば、酢酸カリウム、硝酸カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、臭化カリウム、リン酸カリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硝酸カルシウムが挙げられる。
【0104】
水溶性粒子(C)を構成する材料としては、上記材料を1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。さらに、所定の材料からなる1種の水溶性粒子を用いてもよく、異なる材料からなる2種以上の水溶性粒子を用いてもよい。
【0105】
また、研磨層の硬度その他の機械的強度を適正な値とすることができるという観点から、水溶性粒子(C)(特に有機水溶性粒子)は中実体であることが特に好ましい。
水溶性粒子(C)の平均粒径は、好ましくは0.1〜500μm、より好ましくは0.5〜100μmである。また、水溶性粒子(C)が化学機械研磨パッドの研磨層表面から遊離することにより形成される空孔の大きさは、好ましくは0.1〜500μm、より好ましくは0.5〜100μmである。水溶性粒子(C)の平均粒径が前記範囲にあると、高い研磨速度を示し、かつ機械的強度に優れた研磨層を有する化学機械研磨パッドを製造することができる。
【0106】
なお、本発明における水溶性粒子(C)の平均粒径の値は、レーザー回折法により、後述する実施例での測定条件下で測定される場合の値である。
また、水溶性粒子(C)は、化学機械研磨パッドの研磨層表面に露出した場合にのみ水などに溶解または膨潤し、該研磨層内部では吸湿および膨潤しないことが好ましい。このため、水溶性粒子(C)の最外部の少なくとも一部に、吸湿および膨潤を抑制する外殻が形成されていることが好ましい。この場合、水溶性粒子(C)は、外殻を有する水溶性粒子と外殻を有さない水溶性粒子とを含んでいてもよく、外殻を有する水溶性粒子はその表面のすべてが外殻に被覆されていなくても充分に上記効果を得ることができる。
【0107】
ここで、上記外殻は、水溶性粒子に物理的に吸着していても、水溶性粒子と化学結合していても、さらには吸着および化学結合双方により水溶性粒子に接していてもよい。上記外殻を形成する材料としては、例えば、エポキシ樹脂、ポリイミド、ポリアミド、ポリシリケート、シランカップリング剤などが挙げられる。
【0108】
<研磨層形成用組成物の製造>
本発明に係る研磨層形成用組成物は、ポリウレタン(A)100重量部に対して、架橋剤(B)を好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.1〜5重量部、さらに好ましくは0.1〜3重量部含む。架橋剤(B)の含有量が前記範囲にあると、硬度、弾性率および残留ひずみなどの機械的特性に優れる研磨層を有する化学機械研磨パッドが得られる。
【0109】
一方、架橋剤(B)の含有量が上記範囲を下回ると、架橋反応が充分に進行せず、上記研磨層の硬度および弾性率が小さくなる。このため、化学機械研磨において研磨速度が低下し、さらに、上記研磨層の残留ひずみが大きくなるため、被研磨物を均一に平坦にすることが困難になることがある。また、架橋剤(B)の含有量が上記範囲を超えると、上記研磨層の硬度および弾性率が高くなり、被研磨物のスクラッチが増加することがある。
【0110】
本発明に係る研磨層形成用組成物は、ポリウレタン(A)100重量部に対して、水溶性粒子(C)を好ましくは1〜300重量部、より好ましくは1〜250重量部、さらに好ましくは1〜200重量部、一層好ましくは3〜200重量部、特に好ましくは3〜150重量部含む。水溶性粒子(C)の含有量が前記範囲にあると、化学機械研磨において高い研磨速度を示し、かつ適正な硬度その他の機械的強度を有する化学機械研磨パッドを製造することができる。
【0111】
また、本発明に係る研磨層形成用組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、該組成物の劣化を防ぐための老化防止剤、架橋反応を促進するための架橋助剤、研磨層の硬度を適正な値にするための有機フィラーおよび無機フィラーなどの添加剤を配合してもよい。また、水溶性フィラーを配合してもよい。
【0112】
本発明に係る研磨層形成用組成物の製造方法は特に限定されず、例えば、上述の成分を混練機などにより混練して得ることができる。混練機としては従来公知のものを用いることができ、例えば、ロール、ニーダー、バンバリーミキサー、押出機が挙げられる。
【0113】
〔化学機械研磨パッド〕
本発明に係る化学機械研磨パッドは、上述の研磨層形成用組成物を架橋して形成される研磨層を有することを特徴とする。本発明に係る化学機械研磨パッドの構成としては特に限定されず、例えば、前記研磨層と、前記研磨層に形成された透光性材料からなる透明性部材とから構成される。また、前記研磨層の片面に発泡ポリウレタンなどを成型した緩衝パッドが積層されていてもよい。また、本発明に係る化学機械研磨パッドは、前記研磨層のみから構成されていてもよい。
【0114】
上記研磨層は、上述の研磨層形成用組成物を好ましくは160〜220℃、より好ましくは170〜200℃で架橋させることにより形成することができる。前記架橋を実施することにより、架橋しない状態に比べて後述する物性を格段に向上させることができる。
【0115】
また、被研磨物と接触する上記研磨層表面に、スラリーを保持するための溝を設けてもよい。前記溝は、スラリーを保持する表面形状であれば特に限定されず、例えば、同心円状、格子状などが挙げられる。
【0116】
上記透明性部材は、被研磨物の研磨面を、レーザー光などを用いた光学的検知方法により常時確認して、研磨終点を検出するために好ましく設けられる。
上記研磨層は、例えば、上述の研磨層形成用組成物をプレス金型内に注入して、加熱することにより架橋させて成型体を製造し、必要に応じて該成型体の表面および裏面を研削することにより製造される。このため、ポリウレタンブロックを一旦製造した後、これをスライスすることにより製造されたパッドに比べて、上記研磨層を有する本発明に係る化学機械研磨パッドは加工性および平坦性に優れており、被研磨物を均一に研磨することができる。
【0117】
本発明に係る化学機械研磨パッドが有する研磨層は、JIS K7244に準拠した、動的粘弾性測定(30℃)により測定される弾性率が、好ましくは50〜500MPaである。また、JIS K6251に準拠した引張試験を行い、{(破断後のサンプルの全長−試験前のサンプルの全長)/試験前のサンプルの全長}×100の式により算出した残留ひずみが、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下である。また、JIS K6253に準拠して測定されるデュロD硬度が、好ましくは30〜90、より好ましくは35〜80である。
【0118】
この結果、本発明に係る化学機械研磨パッドは、弾性回復力が良好であることから、研磨時に該パッドにかかるずり応力による変位を小さく抑えることができる。また、弾性率および残留ひずみが上記範囲にあることにより、ドレッシング時および研磨時に非水溶性部分が過度に引き延ばされ塑性変形して上述の空孔が埋まることや、化学機械研磨パッドの研磨層表面が過度に毛羽立つことなどを効果的に抑制できる。
【0119】
したがって、ドレッシング時にも空孔が効率よく形成され、研磨時のスラリーの保持性の低下が防止でき、毛羽立ちが少なく優れた研磨平坦性を実現することができる。なお、ドレッシングとは、被研磨物に対して化学機械研磨を行う前に、化学機械研磨パッドの研磨層表面を例えばダイヤモンド砥石で毛羽立たせる方法である。ドレッシングを行うと、研磨剤に含まれる砥粒が研磨パッドの研磨層表面に保持されやすくなるため、研磨速度が向上し、また被研磨物表面における研磨速度のばらつきを抑えることができる。
【0120】
また、本発明に係る化学機械研磨パッドは、上記研磨層形成用組成物を架橋させて製造することにより、30℃の貯蔵弾性率と60℃の貯蔵弾性率との比が、好ましくは3〜10となる。このため、前記化学機械研磨パッドは、研磨時の温度を制御することで、異なる研磨性能を発現することができる。
【0121】
〔化学機械研磨パッドを用いた化学機械研磨方法〕
本発明に係る化学機械研磨方法は、上述の化学機械研磨パッドを用いて化学機械研磨を行うことを特徴とする。これにより、研磨速度が高く、被研磨物の平坦性に優れ、被研磨物のスクラッチが少ないなどの研磨特性に優れる化学機械研磨方法を提供することができる。
【実施例】
【0122】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
<流動開始温度(加工温度)>
試験サンプルおよび試験装置はJIS K7311の「10.流れ試験」に準拠して、下記条件にて熱可塑性ポリウレタンの流動開始温度の測定を行った。
試験機:CFT−500((株)島津製作所製)
予熱条件:90℃×4分
昇温速度:3℃/分
開始温度:90℃
試験荷重:98N
使用ダイス:直径1mm、長さ1mm
熱可塑性ポリウレタンからなる試験サンプルを予熱した後、試験荷重を負荷すると同時に昇温を開始し、ダイスから流出し始めた温度を熱可塑性ポリウレタンの流動開始温度(加工温度)とした。
【0123】
<GPC測定>
各成分の数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(東ソー社製、装置型番「HLC−8120」、カラム型番「TSK−GEL α−M」)を用いて測定した。
測定方法:ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法
標準物質:スチレン標準
装置:東ソー社製 HLC−8120
カラム:東ソー社製 TSK−GEL α−M
溶媒:THF
濃度: 0.2質量%
注入量: 100μL
流速: 1μL/min
圧力:64kgf/cm2
【0124】
<水溶性粒子(C)の平均粒径>
水溶性粒子(C)の平均粒径は、レーザー回折法により、測定装置:HORIBA LA−500、および分散媒:1−ブタノールを用いて測定した。
【0125】
<化学機械研磨パッドの製造・評価>
(1)研磨層基体の製造
下記実施例および比較例で得られた研磨層形成用組成物を、プレス金型内にて160℃で7分間架橋反応させ、直径790mm、厚さ3.2mmの円柱状の成形体を得た。次いでエンドミル((株)加藤機械製)を用い、前記成形体の中心から105mmの箇所を中心として、半径方向の長さが58mm、接線方向の長さが22mmである矩形の貫通孔を形成し、孔部を有する研磨層基体を製造した。
【0126】
(2)透明性部材の原料組成物の調製
(2−1)実施例1−1〜1−5、比較例1−1〜1−2の場合
1,2−ポリブタジエン(JSR(株)、商品名「JSR RB830」)98体積%および水溶性粒子(C)としてβ−サイクロデキストリン(塩水港精糖(株)製、商品名「デキシパールβ−100」、平均粒径20μm)2体積%を、160℃に加熱したル−ダーにて混練した。
【0127】
次いで、得られた混練物中の1,2−ポリブタジエン100重量部に対して、架橋剤としてジクミルパーオキサイド(日油(株)製、商品名「パークミルD−40」)を0.7重量部(純ジクミルパーオキサイド換算で0.28重量部に相当)を添加してさらに混練することにより、透明性部材の原料組成物を得た。
【0128】
(2−2)実施例2−1〜2−17、比較例2−1〜2−3の場合
1,2−ポリブタジエン(JSR(株)、商品名「JSR RB830」)100重量部および水溶性粒子(C)としてβ−サイクロデキストリン(塩水港精糖(株)製、商品名「デキシパールβ−100」、平均粒径20μm)3重量部を、140℃に加熱したルーダーにて混練した。
【0129】
次いで、得られた混練物中の1,2−ポリブタジエン100重量部に対して、架橋剤としてジクミルパーオキサイド(日油(株)製、商品名「パークミルD−40」)を0.7重量部(純ジクミルパーオキサイド換算で0.28重量部に相当)を添加してさらに混練することにより、透明性部材の原料組成物を得た。
【0130】
(3)パッドの製造
上記(1)で製造した研磨層基体をプレス金型内に再びセットし、該研磨層基体の孔部に上記(2−1)または(2−2)で調製した透明性部材の原料組成物を充填した。
【0131】
次いで、孔部の残余の空間に、孔部とほぼ同じ平面形状および大きさで厚さが1.5mmの金属ブロックを入れ、180℃で10分間架橋反応させることにより、直径790mm、厚さ3.2mmの円柱状であり、孔部に透明性部材が融着された成形体を得た。
【0132】
得られた成形体を、ワイドベルトサンダー機器((株)名南製作所製)の挿入口にセットし、ローラーを500rpmで回転しながら、成形体の表面および裏面につき、粒度メッシュ#120、#150および#220のサンドペーパー((株)コバックス製)を順次に用いてそれぞれ0.1m/sの速さで動かして、各番定あたり0.1mmずつ研削した(総研削量は、表面および裏面それぞれ0.3mmずつである。)。
次いで、表面(研磨面となるべき面)のみ、さらに#320のサンドペーパーを用いて上記と同様にして0.1mm研削し、直径790mm、厚さ2.5mmのパッドを得た。
【0133】
(4)化学機械研磨パッドの製造
上記で製造したパッドを切削加工機(加藤機械(株)製)の定盤上に、吸引圧力20kPaで吸引固定した。この状態で、幅0.5mm、深さ1mmの同心円状の溝群を中心から半径10mm以遠の所にピッチ2mmで形成し、さらに、同機械を用いて、中心から254mmのところを切削することで、直径508mm、厚さ2.5mmの化学機械研磨パッドを製造した。
【0134】
(5)化学機械研磨パッドの研磨層の評価
上記(4)で製造した化学機械研磨パッドの研磨層の残留ひずみは、JIS K6251に準拠した引張試験を行い、{(破断後のサンプルの全長−試験前のサンプルの全長)/試験前のサンプルの全長}×100の式により算出した。また、前記研磨層のデュロD硬度は、JIS K6253に準拠して測定した。
【0135】
(6)化学機械研磨の評価
上記(4)で製造した化学機械研磨パッドの溝を形成していない面へ3M社製両面テープ#422をラミネートした後、該パッドを化学機械研磨装置(アプライドマテリアルズ社製、形式「Mirra」)に装着して、以下の条件で化学機械研磨を行い、以下に記載する項目から該パッドの評価をした。
ヘッド回転数:120rpm
ヘッド荷重:1.5psi(10.3kPa)
定盤回転数:120rpm
化学機械研磨用水系分散体供給速度:200ml/分
化学機械研磨用水系分散体:CMS7401/CMS7452(JSR(株)製)
【0136】
(i)銅研磨速度の算出
被研磨物として、8インチ熱酸化膜付シリコン基板上に膜厚15000Åの銅膜が設けられた基板を用いて、上述の条件で1分間化学機械研磨を行い、研磨前後の銅膜の膜厚をシート抵抗測定装置(ケーエルエー・テンコール社製、形式「オムニマップRS75」)を用いて測定した。得られた研磨前後の膜厚および研磨時間から研磨速度を算出した。
【0137】
(ii)パターン付基板の研磨試験
被研磨物として、「Sematech 854パターンウェハ」(商品名、Sematech社製;種々のパターンが形成された絶縁膜上に、厚さ250Åのタンタルからなる層および厚さ11000Åの銅からなる層を順次堆積した研磨試験用のパターン付き基板である。)を用いた。
【0138】
研磨開始時点から研磨終了時点(定盤に設置された光源から発する光の、上記ウェハからの反射光強度の変化からタンタル膜の露出を検知した時点を研磨終了時点とした。)に至るまでの時間を終点検出時間とし、研磨時間を終点検出時間の1.2倍とした。上述の条件で化学機械研磨を行い、下記のようにして、平坦性およびスクラッチを評価した。
【0139】
(ii−1)平坦性の評価
幅100μmの銅配線部と幅100μmの絶縁体部とが交互に連続したパターンが、該パターンの長さ方向に3.0mm連続した部分について、銅配線部の窪み量(以下、「ディッシング」と記す。)を、精密段差計(ケーエルエー・テンコール社製、形式「HRP−240」)を使用して測定することで、平坦性の指標であるディッシングを評価した。
【0140】
(ii−2)スクラッチの評価
光学顕微鏡を用いて、暗視野にて、銅配線部における範囲120μm×120μmの単位領域をランダムに200箇所選出し、スクラッチが発生している単位領域の個数を、スクラッチ数として測定した。
【0141】
〔製造例1−1〕
空気雰囲気下で、撹拌機を備えた2Lの4つ口セパラブルフラスコに、成分(a12)としてポリテトラメチレングリコール(Mn=1000、保土谷化学工業(株)製、商品名「PTMG−1000SN」;以下、「PTMG−1000」と記す。)を51.0重量部投入し、60℃に調温して撹拌した。
【0142】
次いで、上記フラスコに、80℃の油浴で溶解させた成分(a2)として4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業(株)製、商品名「MILLIONATE MT」;以下、「MDI」と記す。)を36.5重量部加え、10分撹拌・混合した後、成分(a13)として1,4−ブタンジオール(三菱化学(株)製、商品名「14BG」;以下、「14BG」と記す。)を2.3重量部、および成分(A11)として3−アリルオキシ−1,2−プロパンジオールを10.1重量部加え、撹拌・混合した。
次いで、得られた混合物を表面加工されたSUS製のバットに拡げ、110℃で1時間、さらに80℃で16時間アニールし、熱可塑性ポリウレタンaを得た。
【0143】
〔製造例1−2〕
空気雰囲気下で、撹拌機を備えた2Lの4つ口セパラブルフラスコに、成分(a12)として上記「PTMG−1000」を50.2重量部、および成分(a11)として末端が水酸基化されたポリブタジエン(Mn=1500、日本曹達(株)製、商品名「NISSO PB G−1000」;以下、「G−1000」と記す。)を15.6重量部投入し、60℃に調温して撹拌した。
【0144】
次いで、上記フラスコに、80℃の油浴で溶解させた成分(a2)として上記「MDI」を28.8重量部加え、10分撹拌・混合した後、成分(a13)として上記「14BG」を5.5重量部加え、撹拌・混合した。
次いで、得られた混合物を表面加工されたSUS製のバットに拡げ、110℃で1時間、さらに80℃で16時間アニールし、熱可塑性ポリウレタンbを得た。
【0145】
〔製造例1−3〕
空気雰囲気下で、撹拌機を備えた2Lの4つ口セパラブルフラスコに、成分(a12)として上記「PTMG−1000」を42.7重量部、および成分(a11)として上記「G−1000」を24.1重量部投入し、60℃に調温して撹拌した。
【0146】
次いで、上記フラスコに、80℃の油浴で溶解させた成分(a2)として上記「MDI」を27.8重量部加え、10分撹拌・混合した後、成分(a13)として上記「14BG」を5.2重量部加え、撹拌・混合した。
次いで、得られた混合物を表面加工されたSUS製のバットに拡げ、110℃で1時間、さらに80℃で16時間アニールし、熱可塑性ポリウレタンcを得た。
【0147】
〔製造例1−4〕
空気雰囲気下で、撹拌機を備えた2Lの4つ口セパラブルフラスコに、成分(a12)として上記「PTMG−1000」を33.5重量部、および成分(a11)として上記「G−1000」を34.7重量部投入し、60℃に調温して撹拌した。
【0148】
次いで、上記フラスコに、80℃の油浴で溶解させた成分(a2)として上記「MDI」を26.7重量部加え、10分撹拌・混合した後、成分(a13)として上記「14BG」を5.0重量部加え、撹拌・混合した。
次いで、得られた混合物を表面加工されたSUS製のバットに拡げ、110℃で1時間、さらに80℃で16時間アニールし、熱可塑性ポリウレタンdを得た。
【0149】
〔製造例1−5〕
空気雰囲気下で、撹拌機を備えた2Lの4つ口セバラブルフラスコに、成分(a12)として上記「PTMG−1000」を63.8重量部入れ、60℃に調温して撹拌した。
【0150】
次いで、上記フラスコに、80℃の油浴で溶解させた成分(a2)として上記「MDI」を30.5重量部加え、10分撹拌・混合した後、成分(a13)として上記「14BG」を5.7重量部加え、撹拌・混合した。
次いで、得られた混合物を表面加工されたSUS製のバットに拡げ、110℃で1時間、さらに80℃で16時間アニールし、熱可塑性ポリウレタンeを得た。
【0151】
〔製造例2−1〕
空気雰囲気下で、撹拌機を備えた2Lの4つ口セパラブルフラスコに、成分(a12)として上記「PTMG−1000」を31.9重量部、および成分(a11)として上記「G−1000」を35.0重量部投入し、60℃に調温して撹拌した。
【0152】
次いで、上記フラスコに、80℃の油浴で溶解させた成分(a2)として上記「MDI」を27.6重量部加え、10分撹拌・混合した後、成分(a13)として上記「14BG」を5.5重量部加え、撹拌・混合した。
【0153】
次いで、得られた混合物を表面加工されたSUS製のバットに拡げ、110℃で1時間静置して反応させ、さらに80℃で16時間アニールし、熱可塑性ポリウレタンAを得た。
【0154】
〔製造例2−2〕
空気雰囲気下で、撹拌機を備えた2Lの4つ口セパラブルフラスコに、成分(a11)として上記「G−1000」を35.0重量部、成分(a12)として上記「PTMG−1000」を30.7重量部、および成分(a13)として上記「14BG」を5.5重量部投入し、80℃に調温して攪拌した。
【0155】
次いで、上記フラスコに、80℃の油浴で溶解させた成分(a2)として上記「MDI」を28.8重量部加え、3分攪拌・混合した後、得られた混合物を表面加工されたSUS製のバットに拡げ、110℃で1時間、さらに80℃で16時間加熱し、熱可塑性ポリウレタンBを得た。
【0156】
〔製造例2−3〕
成分(a2)として上記「MDI」を31.3重量部、成分(a13)として上記「14BG」を6.4重量部、成分(a11)として上記「G−1000」を35.0重量部、成分(a12)としてポリテトラメチレングリコール(Mn=700、保土谷化学工業、商品名「PTMG−650SN」)を27.3重量部投入したこと以外は製造例2−1と同様にして、熱可塑性ポリウレタンCを得た。
【0157】
〔製造例2−4〕
成分(a2)として上記「MDI」を27.6重量部、成分(a13)として上記「14BG」を5.5重量部、成分(a11)として上記「G−1000」を35.0重量部、成分(a12)としてポリカーボネートジオール(Mn=1000、日本ポリウレタン工業(株)製、商品名「NIPPOLAN 981」)を31.9重量部投入したこと以外は製造例2−1と同様にして、熱可塑性ポリウレタンDを得た。
【0158】
〔製造例2−5〕
成分(a2)として上記「MDI」を21.8重量部、成分(a13)として上記「14BG」を4.4重量部、成分(a11)として上記「G−1000」を35.0重量部、成分(a12)としてポリテトラメチレングリコール(Mn=2000、三菱化学(株)製、商品名「PTMG−2000」)を38.8重量部投入したこと以外は製造例2−1と同様にして、熱可塑性ポリウレタンEを得た。
【0159】
〔製造例2−6〕
成分(a2)として上記「MDI」を27.3重量部、成分(a13)として上記「14BG」を6.2重量部、成分(a11)として末端が水酸基化されたポリイソプレン(Mn=2500、出光興産(株)製、商品名「Poly ip」)を36.0重量部、成分(a12)として上記「PTMG−1000」を30.5重量部投入したこと以外は製造例2−1と同様にして、熱可塑性ポリウレタンFを得た。
【0160】
〔製造例2−7〕
成分(a2)として上記「MDI」を27.0重量部、成分(a13)として上記「14BG」を5.0重量部、成分(a11)として末端が水酸基化されたポリブタジエン(Mn=2000、日本曹達(株)製、商品名「NISSO PB G−2000」を46.0重量部、成分(a12)として上記「PTMG−1000」を22.0重量部投入したこと以外は製造例2−1と同様にして、熱可塑性ポリウレタンGを得た。
【0161】
〔製造例2−8〕
成分(a2)として上記「MDI」を26.0重量部、成分(a13)としてエチレングリコール(三菱化学(株)製)を3.2重量部、成分(a11)として上記「G−1000」を34.3重量部、成分(a12)として上記「PTMG−1000」を36.5重量部投入したこと以外は製造例2−1と同様にして、熱可塑性ポリウレタンHを得た。
【0162】
〔製造例2−9〕
成分(a2)としてトリレンジイソシアネート(三井化学ポリウレタン(株)製、商品名「コスモネートT−100」)を19.0重量部、成分(a13)として上記「14BG」を5.9重量部、成分(a11)として上記「G−1000」を52.5重量部、成分(a12)として上記「PTMG−1000」を22.6重量部投入したこと以外は製造例2−1と同様にして、熱可塑性ポリウレタンIを得た。
【0163】
〔製造例2−10〕
成分(a2)として上記「MDI」を33.9重量部、成分(a13)として上記「14BG」を6.9重量部、成分(a11)として上記「G−1000」を35.7重量部、成分(a12)としてポリエチレングリコール(Mn=550、三洋化成工業(株)製、商品名「PEG1500」)を23.5重量部投入したこと以外は製造例2−1と同様にして、熱可塑性ポリウレタンJを得た。
【0164】
〔製造例2−11〕
成分(a2)として上記「MDI」を31.1重量部、成分(a13)として上記「14BG」を5.2重量部、成分(a11)として上記「G−1000」を35.0重量部、成分(a12)として上記「PTMG−1000」を28.7重量部投入したこと以外は製造例2−1と同様にして、熱可塑性ポリウレタンKを得た。
【0165】
〔製造例2−12〕
成分(a2)として上記「MDI」を43.5重量部、成分(a13)として上記「14BG」を13.7重量部、成分(a11)として上記「G−1000」を35.0重量部、成分(a12)として上記「PTMG−1000」を7.8重量部投入したこと以外は製造例2−1と同様にして、熱可塑性ポリウレタンLを得た。
【0166】
〔製造例2−13〕
成分(a2)として上記「MDI」を25.1重量部、成分(a13)として上記「14BG」を5.9重量部、成分(a11)として上記「G−1000」を35重量部、成分(a12)として上記「PTMG−1000」を34.0重量部投入したこと以外は製造例2−1と同様にして、熱可塑性ポリウレタンMを得た。
【0167】
〔製造例2−14〕
成分(a2)として上記「MDI」を24.4重量部、成分(a13)として上記「14BG」を4.2重量部、成分(a11)として上記「G−1000」を35.0重量部、成分(a12)として上記「PTMG−1000」を36.4重量部投入したこと以外は製造例2−1と同様にして、熱可塑性ポリウレタンNを得た。
【0168】
〔製造例2−15〕
成分(a2)として上記「MDI」を23.5重量部、成分(a13)として上記「14BG」を4.6重量部、成分(A11)として末端が水酸基化されたポリブタジエン(Mn=3000、日本曹達(株)製、商品名「NISSO PB G−3000」;以下、「G−3000」と記す。)を35.0重量部、成分(a12)として上記「PTMG−1000」を36.9重量部投入したこと以外は製造例2−1と同様にして、熱可塑性ポリウレタンOを得た。
【0169】
〔製造例2−16〕
成分(a2)として上記「MDI」を18.7重量部、成分(a13)として上記「14BG」を3.7重量部、成分(a11)として上記「G−1000」を35.0重量部、成分(a12)としてポリテトラメチレングリコール(Mn=3000、保土谷化学工業、商品名「PTMG−3000SN」)を42.6重量部投入したこと以外は製造例2−1と同様にして、熱可塑性ポリウレタンPを得た。
【0170】
以上の製造例1−1〜1−5で得られた熱可塑性ポリウレタンa〜eの組成を表1に、製造例2−1〜2−16で得られた熱可塑性ポリウレタンA〜Pの組成および加工温度を表2に示す。
【0171】
【表1】

【0172】
【表2】

[実施例1−1]
ポリウレタン(A)として熱可塑性ポリウレタンa100重量部と、水溶性粒子(C)としてβ−サイクロデキストリン(塩水港精糖(株)製、商品名「デキシパールβ−100」、平均粒径20μm;以下、「β−CD」と記す。)38.8重量部とを160℃に調温されたルーダーにより混練した。
【0173】
次いで、得られた混練物に、架橋剤(B)としてジクミルパーオキサイド(日油(株)製、商品名「パークミルD−40」;以下、「D−40」と記す。)3.0重量部を配合して、120℃でさらに混練し、ペレット状の研磨層形成用組成物を得た。
【0174】
上記研磨層形成用組成物を用いて、上記<化学機械研磨パッドの製造・評価>に従って化学機械研磨パッドを製造し、研磨特性を評価した。結果を表4に示す。
なお、実施例1−1で得られた研磨層形成用組成物の組成とともに、以下の実施例1−2〜1−5および比較例1−1〜1−2で得られた研磨層形成用組成物の組成を表3に示す。
【0175】
[実施例1−2]
実施例1−1において、ポリウレタン(A)として上記熱可塑性ポリウレタンbを100重量部用いたこと以外は実施例1−1と同様にして、ペレット状の研磨層形成用組成物を得た。前記研磨層形成用組成物を用いて、上記<化学機械研磨パッドの製造・評価>に従って化学機械研磨パッドを製造し、研磨特性を評価した。結果を表4に示す。
【0176】
[実施例1−3]
実施例1−1において、ポリウレタン(A)として上記熱可塑性ポリウレタンcを100重量部用いたこと以外は実施例1−1と同様にして、ペレット状の研磨層形成用組成物を得た。前記研磨層形成用組成物を用いて、上記<化学機械研磨パッドの製造・評価>に従って化学機械研磨パッドを製造し、研磨特性を評価した。結果を表4に示す。
【0177】
[実施例1−4]
実施例1−1において、ポリウレタン(A)として上記熱可塑性ポリウレタンdを100重量部用いたこと以外は実施例1−1と同様にして、ペレット状の研磨層形成用組成物を得た。前記研磨層形成用組成物を用いて、上記<化学機械研磨パッドの製造・評価>に従って化学機械研磨パッドを製造し、研磨特性を評価した。結果を表4に示す。
【0178】
[実施例1−5]
ポリウレタン(A)として上記熱可塑性ポリウレタンd100重量部と、水溶性粒子(C)として上記「β−CD」38.8重量部とを、160℃に調温されたルーダーにより混練した。次いで、得られた混練物に、架橋剤(B)として2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン(日油(株)製、商品名「パーヘキサ25B40」)3.0重量部を配合して、140℃でさらに混練し、ペレット状の研磨層形成用組成物を得た。前記研磨層形成用組成物を用いて、上記<化学機械研磨パッドの製造・評価>に従って化学機械研磨パッドを製造し、研磨特性を評価した。結果を表4に示す。
【0179】
[比較例1−1]
ポリウレタン(A)として上記熱可塑性ポリウレタンd100重量部と、水溶性粒子(C)として上記「β−CD」38.8重量部とを、160℃に調温されたルーダーにより混練し、ペレット状の研磨層形成用組成物を得た。前記研磨層形成用組成物を用いて、上記<化学機械研磨パッドの製造・評価>に従って化学機械研磨パッドを製造し、研磨特性を評価した。結果を表4に示す。
【0180】
[比較例1−2]
実施例1−1において、ポリウレタン(A)として上記熱可塑性ポリウレタンeを100重量部用いたこと以外は実施例1−1と同様にして、ペレット状の研磨層形成用組成物を得た。前記研磨層形成用組成物を用いて、上記<化学機械研磨パッドの製造・評価>に従って化学機械研磨パッドを製造し、研磨特性を評価した。結果を表4に示す。
【0181】
【表3】

【0182】
【表4】

研磨速度は700nm/分以上、ディッシングは60nm以下、スクラッチは50個以下であれば、研磨特性が特に良好である。
【0183】
表4によれば、本発明に係る研磨層形成用組成物(実施例1−1〜1−5)から得られた化学機械研磨パッドは、良好な研磨特性を有することが明らかになった。
これに対し、架橋剤を含まない組成物(比較例1−1)から得られた化学機械研磨パッドは、スクラッチの性能は充分なものの、研磨速度および平坦性(ディッシング)の性能が不充分であった。また、ポリウレタンeを用いた組成物(比較例1−2)から得られた化学機械研磨パッドも同様な結果であった。
【0184】
上記実施例および比較例の結果から明らかであるように、本発明に係る研磨層形成用組成物を用いることにより、研磨速度、平坦性(ディッシング)およびスクラッチの性能に優れた研磨層を有する化学機械研磨パッドを製造することができる。
【0185】
[実施例2−1]
ポリウレタン(A)として上記熱可塑性ポリウレタンA100重量部と、水溶性粒子(C)として上記「β−CD」2重量部とを140℃に調温されたルーダーにより混練した。次いで、得られた混練物に、架橋剤(B)として上記「D−40」1.5重量部(純ジクミルパーオキサイド換算で0.6重量部に相当)を配合して、120℃でさらに混練し、ペレット状の研磨層形成用組成物を得た。
【0186】
上記研磨層形成用組成物を用いて、上記<化学機械研磨パッドの製造・評価>に従って化学機械研磨パッドを製造し、研磨特性を評価した。結果を表5に示す。なお、実施例2−1で得られた研磨層形成用組成物の組成とともに、以下の実施例2−2〜2−17および比較例2−1〜2−3で得られた研磨層形成用組成物の組成を表5〜表7に示す。
【0187】
[実施例2−2]
実施例2−1において、ポリウレタン(A)として上記熱可塑性ポリウレタンBを100重量部、水溶性粒子(C)として上記「β−CD」を34重量部用いたこと以外は実施例2−1と同様にして、ペレット状の研磨層形成用組成物を得た。前記研磨層形成用組成物を用いて、上記<化学機械研磨パッドの製造・評価>に従って化学機械研磨パッドを製造し、研磨特性を評価した。結果を表5に示す。
【0188】
[実施例2−3]
実施例2−1において、ポリウレタン(A)として上記熱可塑性ポリウレタンCを100重量部、水溶性粒子(C)として硫酸カリウム(大塚化学(株)製;以下「硫酸カリウム」と記す。)を171重量部用いたこと以外は実施例2−1と同様にして、ペレット状の研磨層形成用組成物を得た。前記研磨層形成用組成物を用いて、上記<化学機械研磨パッドの製造・評価>に従って化学機械研磨パッドを製造し、研磨特性を評価した。結果を表5に示す。
【0189】
[実施例2−4]
実施例2−1において、ポリウレタン(A)として上記熱可塑性ポリウレタンDを100重量部、架橋剤(B)として上記「D−40」を0.75重量部(純ジクミルパーオキサイド換算で0.3重量部に相当)、水溶性粒子(C)として上記「β−CD」を15重量部用いたこと以外は実施例2−1と同様にして、ペレット状の研磨層形成用組成物を得た。前記研磨層形成用組成物を用いて、上記<化学機械研磨パッドの製造・評価>に従って化学機械研磨パッドを製造し、研磨特性を評価した。結果を表5に示す。
【0190】
[実施例2−5]
実施例2−1において、ポリウレタン(A)として上記熱可塑性ポリウレタンEを100重量部、架橋剤(B)として上記「D−40」を7重量部(純ジクミルパーオキサイド換算で2.8重量部に相当)、水溶性粒子(C)として上記「β−CD」を58重量部用いたこと以外は実施例2−1と同様にして、ペレット状の研磨層形成用組成物を得た。前記研磨層形成用組成物を用いて、上記<化学機械研磨パッドの製造・評価>に従って化学機械研磨パッドを製造し、研磨特性を評価した。結果を表5に示す。
【0191】
[実施例2−6]
実施例2−1において、ポリウレタン(A)として上記熱可塑性ポリウレタンFを100重量部、架橋剤(B)として上記「D−40」を8重量部(純ジクミルパーオキサイド換算で3.2重量部に相当)、水溶性粒子(C)として上記「β−CD」を90重量部用いたこと以外は実施例2−1と同様にして、ペレット状の研磨層形成用組成物を得た。前記研磨層形成用組成物を用いて、上記<化学機械研磨パッドの製造・評価>に従って化学機械研磨パッドを製造し、研磨特性を評価した。結果を表5に示す。
【0192】
[実施例2−7]
実施例2−1において、ポリウレタン(A)として上記熱可塑性ポリウレタンGを100重量部、水溶性粒子(C)として上記「硫酸カリウム」を110重量部用いたこと以外は実施例2−1と同様にして、ペレット状の研磨層形成用組成物を得た。前記研磨層形成用組成物を用いて、上記<化学機械研磨パッドの製造・評価>に従って化学機械研磨パッドを製造し、研磨特性を評価した。結果を表5に示す。
【0193】
[実施例2−8]
実施例2−2において、ポリウレタン(A)として上記熱可塑性ポリウレタンHを100重量部用いたこと以外は実施例2−2と同様にして、ペレット状の研磨層形成用組成物を得た。前記研磨層形成用組成物を用いて、上記<化学機械研磨パッドの製造・評価>に従って化学機械研磨パッドを製造し、研磨特性を評価した。結果を表5に示す。
【0194】
[実施例2−9]
実施例2−2において、ポリウレタン(A)として上記熱可塑性ポリウレタンIを100重量部用いたこと以外は実施例2−2と同様にして、ペレット状の研磨層形成用組成物を得た。前記研磨層形成用組成物を用いて、上記<化学機械研磨パッドの製造・評価>に従って化学機械研磨パッドを製造し、研磨特性を評価した。結果を表5に示す。
【0195】
[実施例2−10]
実施例2−2において、ポリウレタン(A)として上記熱可塑性ポリウレタンJを100重量部、架橋剤(B)として2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン(日油(株)製、商品名「パーヘキサ25B40」)を1重量部(純パーオキサイド換算で0.4重量部に相当)を用いたこと以外は実施例2−2と同様にして、ペレット状の研磨層形成用組成物を得た。前記研磨層形成用組成物を用いて、上記<化学機械研磨パッドの製造・評価>に従って化学機械研磨パッドを製造し、研磨特性を評価した。結果を表5に示す。
【0196】
[実施例2−11]
実施例2−2において、ポリウレタン(A)として上記熱可塑性ポリウレタンMを100重量部用いたこと以外は実施例2−2と同様にして、ペレット状の研磨層形成用組成物を得た。前記研磨層形成用組成物を用いて、上記<化学機械研磨パッドの製造・評価>に従って化学機械研磨パッドを製造し、研磨特性を評価した。結果を表6に示す。
【0197】
[実施例2−12]
実施例2−2において、ポリウレタン(A)として上記熱可塑性ポリウレタンNを100重量部、水溶性粒子(C)として上記「硫酸カリウム」を257重量部用いたこと以外は実施例2−2と同様にして、ペレット状の研磨層形成用組成物を得た。前記研磨層形成用組成物を用いて、上記<化学機械研磨パッドの製造・評価>に従って化学機械研磨パッドを製造し、研磨特性を評価した。結果を表6に示す。
【0198】
[実施例2−13]
実施例2−2において、ポリウレタン(A)として上記熱可塑性ポリウレタンOを100重量部用いたこと以外は実施例2−2と同様にして、ペレット状の研磨層形成用組成物を得た。前記研磨層形成用組成物を用いて、上記<化学機械研磨パッドの製造・評価>に従って化学機械研磨パッドを製造し、研磨特性を評価した。結果を表6に示す。
【0199】
[実施例2−14]
実施例2−2において、ポリウレタン(A)として上記熱可塑性ポリウレタンLを100重量部用いたこと以外は実施例2−2と同様にして、ペレット状の研磨層形成用組成物を得た。前記研磨層形成用組成物を用いて、上記<化学機械研磨パッドの製造・評価>に従って化学機械研磨パッドを製造し、研磨特性を評価した。結果を表6に示す。
【0200】
[実施例2−15]
実施例2−2において、ポリウレタン(A)として上記熱可塑性ポリウレタンKを100重量部用いたこと以外は実施例2−2と同様にして、ペレット状の研磨層形成用組成物を得た。前記研磨層形成用組成物を用いて、上記<化学機械研磨パッドの製造・評価>に従って化学機械研磨パッドを製造し、研磨特性を評価した。結果を表6に示す。
【0201】
[実施例2−16]
実施例2−1において、架橋剤(B)として上記「D−40」を2重量部(純ジクミルパーオキサイド換算で0.8重量部に相当)を用い、水溶性粒子(C)を用いなかったこと以外は実施例2−1と同様にして、ペレット状の研磨層形成用組成物を得た。前記研磨層形成用組成物を用いて、上記<化学機械研磨パッドの製造・評価>に従って化学機械研磨パッドを製造し、研磨特性を評価した。結果を表6に示す。
【0202】
[実施例2−17]
実施例2−1において、ポリウレタン(A)として上記熱可塑性ポリウレタンPを100重量部、架橋剤(B)として上記「D−40」を2.5重量部(純ジクミルパーオキサイド換算で1.0重量部に相当)用い、水溶性粒子(C)を用いなかったこと以外は実施例2−1と同様にして、ペレット状の研磨層形成用組成物を得た。前記研磨層形成用組成物を用いて、上記<化学機械研磨パッドの製造・評価>に従って化学機械研磨パッドを製造し、研磨特性を評価した。結果を表6に示す。
【0203】
[比較例2−1]
熱可塑性ポリウレタンとして上記熱可塑性ポリウレタンAを100重量部、水溶性粒子(C)として上記「β−CD」を34重量部用い、140℃に調温されたルーダーにより混練してペレットを得た。前記ペレットを、プレス金型内にて150℃で5分間加熱圧縮し、その後金型を室温まで冷却することにより、直径790mm、厚さ3.2mmの円柱状の成形体を得た。
【0204】
次いで、エンドミル((株)加藤機械製)を用い、上記成形体の中心から105mmの箇所を中心として、半径方向の長さが58mm、接線方向の長さが22mmである矩形の貫通孔を形成し、孔部を有する研磨層基体を製造した。
【0205】
上記研磨層基体をプレス金型内に再びセットし、研磨層基体の孔部に上記「(2)透明性部材の原料組成物の調製」で調製した透明性部材の原料組成物を充填した。
次いで、孔部の残余の空間に、孔部とほぼ同じ平面形状および大きさで厚さが1.5mmの金属ブロックを入れ、150℃で5分間加熱圧縮し、その後金型を室温まで冷却することにより、直径790mm、厚さ3.2mmの円柱状であり、透明性部材が融着された成形体を得た。その後は、上記<化学機械研磨パッドの製造・評価>と同様にして化学機械研磨パッドを製造し、研磨特性を評価した。結果を表7に示す。
【0206】
[比較例2−2]
熱可塑性ポリウレタンとして上記熱可塑性ポリウレタンKを100重量部、水溶性粒子(C)として上記「β−CD」を34重量部用い、180℃に調温されたルーダーにより混練してペレットを得た。前記ペレットを用いて、比較例2−1と同様にして化学機械研磨パッドを製造し、研磨特性を評価した。結果を表7に示す。
【0207】
[比較例2−3]
熱可塑性ポリウレタンとして上記熱可塑性ポリウレタンLを100重量部、水溶性粒子(C)として上記「β−CD」を34重量部用い、200℃に調温されたルーダーにより混練してペレットを得た。前記ペレットを用いて、比較例2−1と同様にして化学機械研磨パッドを製造し、研磨特性を評価した。結果を表7に示す。
【0208】
【表5】

【0209】
【表6】

【0210】
【表7】

研磨速度は700nm/分以上、終点検出時間は110秒以下、ディッシングは60nm以下、スクラッチは50個以下であれば、研磨特性が特に良好である。
【0211】
表5によれば、本発明に係る研磨層形成用組成物(実施例2−1〜2−10)から得られた化学機械研磨パッドは、特に良好な研磨特性を有することが明らかになった。
また、表6によれば、本発明に係る研磨層形成用組成物(実施例2−11〜2−12)から得られた化学機械研磨パッドは、研磨速度および終点検出時間などの研磨特性を大きく損なうことなく、平坦性(ディッシング)、スクラッチの性能、研磨層の残留ひずみ、および研磨層の硬度(デュロD硬度)などにおいて、良好な研磨特性を有することが明らかになった。
【0212】
また、本発明に係る研磨層形成用組成物(実施例2−13〜2−15)から得られた化学機械研磨パッドは、スクラッチの性能が若干劣るものの、その他の性能において、良好な研磨特性を有することが明らかになった。
【0213】
また、本発明に係る研磨層形成用組成物(実施例2−16〜2−17)から得られた化学機械研磨パッドは、実施例2−1〜2−10から得られた化学機械研磨パッドと比較しても、ある程度良好な研磨特性を有することが明らかになった。
【0214】
これに対し、表7によれば、架橋剤を含まない組成物(比較例2−1〜2−3)から得られた化学機械研磨パッドは、スクラッチの性能は充分なものの、研磨速度、終点検出時間、平坦性(ディッシング)、研磨層の残留ひずみ、および研磨層の硬度(デュロD硬度)が不充分であった。
【0215】
上記実施例および比較例の結果から明らかであるように、本発明に係る研磨層形成用組成物を用いることにより、研磨速度、終点検出時間、平坦性(ディッシング)およびスクラッチの性能に優れ、かつ加工性に優れた研磨層を有する化学機械研磨パッドを製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)炭素−炭素二重結合を側鎖に有するポリウレタンと、
(B)架橋剤と
を含む、化学機械研磨パッドの研磨層形成用組成物。
【請求項2】
前記ポリウレタン(A)が、ビニル基およびアリル基から選択される少なくとも1種の官能基を側鎖に有する、請求項1に記載の化学機械研磨パッドの研磨層形成用組成物。
【請求項3】
前記ポリウレタン(A)が、共役ジエン系(共)重合体骨格を有する、請求項1または2に記載の化学機械研磨パッドの研磨層形成用組成物。
【請求項4】
前記ポリウレタン(A)が、ポリブタジエン骨格を有する、請求項1〜3の何れかに記載の化学機械研磨パッドの研磨層形成用組成物。
【請求項5】
前記ポリウレタン(A)が、少なくとも
(A11)1個以上の水酸基および1個以上の炭素−炭素二重結合を有する化合物と、
(A2)1個以上のイソシアネート基を有する、前記成分(A11)とは異なる化合物と
を反応させて得られる、請求項1〜4の何れかに記載の化学機械研磨パッドの研磨層形成用組成物。
【請求項6】
前記ポリウレタン(A)が、少なくとも
(A11)1個以上の水酸基および1個以上の炭素−炭素二重結合を有する化合物と、
(A12)前記成分(A11)とは異なるポリオール化合物と、
(A13)少なくとも2個の活性水素基を有する、前記成分(A11)および(A12)とは異なる有機化合物と、
(A2)1個以上のイソシアネート基を有する、前記成分(A11)とは異なる化合物と
を反応させて得られる、請求項1〜5の何れかに記載の化学機械研磨パッドの研磨層形成用組成物。
【請求項7】
前記成分(A11)が、末端が水酸基化されたポリブタジエンであって、該ポリブタジエンの数平均分子量が、500〜5000である、請求項5または6に記載の化学機械研磨パッドの研磨層形成用組成物。
【請求項8】
前記成分(A11)に含まれる水酸基の総モル数をN−1、前記成分(A2)に含まれるイソシアネート基の総モル数をN−2とした場合、N−1/N−2の比が7/100〜100/100である、請求項5〜7の何れかに記載の化学機械研磨パッドの研磨層形成用組成物。
【請求項9】
水溶性粒子(C)をさらに含む、請求項1〜8の何れかに記載の化学機械研磨パッドの研磨層形成用組成物。
【請求項10】
請求項1〜9の何れかに記載の化学機械研磨パッドの研磨層形成用組成物を架橋して形成される研磨層を有する化学機械研磨パッド。
【請求項11】
請求項10に記載の化学機械研磨パッドを用いて化学機械研磨を行う化学機械研磨方法。

【公開番号】特開2010−1454(P2010−1454A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−11743(P2009−11743)
【出願日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】