説明

化粧シートおよび加飾成形品

【課題】樹脂成形品の表面に高意匠性を付与することができるとともに、樹脂成形品の射出成形時における意匠性の変化を改善できる化粧シートを提供する。
【解決手段】化粧シート2は、加飾用シート3と、加飾用シート3の表面上に積層された樹脂製の透明シート4と、透明シート4と反対側の加飾用シート3の裏面上に積層された樹脂製のバッカー用シート5とからなる。加飾用シート3はバッカー用シート5と異なる熱可塑性樹脂によりシート状に形成された印刷原反6と、印刷原反6の表面上に形成された絵柄印刷層7と、絵柄印刷層7を含む印刷原反6の表面を凹凸状に加工して形成された凹凸模様8と、凹凸模様8の表面を印刷原反6と同等の樹脂によりラミネートするラミネート層9とからなる。そして、加飾用シート3はバッカー用シート5を介して樹脂成形品1の表面上にインサート成形により積層される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅等の建築物における内外装材や、造作材、建具等の建築資材、自動車内装部品、携帯電話やパーソナルコンピュータ等の表面を加飾するときに用いられる化粧シートおよびそれを用いた加飾成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の化粧シートには、塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル共重合体樹脂などの熱可塑性樹脂からなるシート基材の表面または裏面に絵柄印刷を施した単層構造のものと、熱可塑性樹脂シート基材の表面上に形成された絵柄印刷層の上に熱可塑性樹脂からなる透明シートを積層した複層構造のものとがある。
シート基材や透明シートの素材として塩化ビニル樹脂を用いた化粧シートは、印刷適正、高意匠性、下地基材との接着性などに優れているため、従来から広く用いられてきた。しかし、塩化ビニル樹脂は焼却時に酸性雨の原因となる塩化水素ガス等が発生し、環境問題等を引き起こすおそれがあるため、塩化ビニル樹脂に代わる熱可塑性樹脂として、ポリオレフィン樹脂を用いた化粧シートが提案され、開発されている(特許文献1参照)。
【0003】
このような熱可塑性樹脂からなる化粧シートを各種部品の表面に貼り合せて意匠性を付与する場合、部品形状の複雑化に伴い、平面への貼り合せに加え、立体面への貼り合せも要求される。この場合、立体面への貼り合せ手法としては、従来、ラッピング法等による貼り合せが実施されている。特に、射出成形の分野においては、射出成形と同時に化粧シートを樹脂成形品の表面に積層して樹脂成形品の表面を化粧シートにより加飾する射出成形同時加飾法(インサート成形法)が知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−353828号公報
【特許文献2】特開2003−145998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、化粧シートにより付与される意匠性に関して、従来の絵柄印刷による意匠性に加え、エンボス加工等による凹凸模様を化粧シートに施して各種の部品に高意匠性を付与することが要求される場合がある。しかしながら、エンボス加工等の凹凸模様が施された化粧シートを用いて樹脂成形品の表面を射出成形同時加飾法により加飾する場合、化粧シートが金型と密接しているため、金型内に射出された溶融樹脂の熱や圧力によって化粧シートが軟化し、軟化した化粧シートの凹凸模様が金型の形状に変化してしまい、柄を保持できないといった問題があった。
【0006】
また、化粧シートを樹脂成形品の表面にインサート成形により積層する工程において、射出成形時に化粧シートに負荷される溶融樹脂の溶融流動による熱およびせん断の影響が大きい、ゲート近傍における化粧シートの意匠性の変化をともなうという問題もあった。
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、その課題とするところは、樹脂成形品の表面に高意匠性を付与することができるとともに、樹脂成形品の射出成形時における意匠性の変化を改善できる化粧シートおよびそれを用いた加飾成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に係る発明は、樹脂成形品の表面に装飾を加えるための加飾用シートと、該加飾用シートの表面上に積層された透明シートと、該透明シートと反対側の前記加飾用シートの裏面上に積層されたバッカー用シートとからなり、前記透明シートおよび前記バッカー用シートが熱可塑性樹脂からなる化粧シートであって、前記加飾用シートが、前記バッカー用シートと異なる熱可塑性樹脂によりシート状に形成された印刷原反と、該印刷原反の表面上に形成された絵柄印刷層と、該絵柄印刷層を含む前記印刷原反の表面を凹凸状に加工して形成された凹凸模様と、該凹凸模様の表面を前記印刷原反と同等の樹脂によりラミネートするラミネート層とからなり、前記加飾用シートは前記バッカー用シートを介して前記樹脂成形品の表面上にインサート成形により積層されることを特徴とする。
【0008】
本発明の請求項2に係る発明は、請求項1に記載の化粧シートにおいて、前記印刷原反は、前記バッカー用シートと異なる熱可塑性樹脂に光輝顔料を配合して形成されていることを特徴とする。
本発明の請求項3に係る発明は、請求項1に記載の化粧シートにおいて、前記絵柄印刷層は、光輝顔料を含むインキからなることを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項4に係る発明は、請求項1に記載の化粧シートにおいて、前記凹凸模様は、微細な間隔の複数の平行な直線または曲線状の条模様からなる縞模様を一単位とし、隣り合った単位縞模様同士の条模様の条方向が互いに異なるように組み合わされた形状であることを特徴とする。
本発明の請求項5に係る発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の化粧シートにおいて、前記バッカー用シートは、前記加飾用シートの厚みに対して0.5倍以上5.0倍以下の厚みを有し、かつ前記印刷原反よりもガラス転移温度が30℃以上高い熱可塑性樹脂から形成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項6に係る発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の化粧シートにおいて、前記印刷原反はポリオレフィン系樹脂から形成され、前記透明シートは透明アクリル系樹脂から形成されていることを特徴とする。
本発明の請求項7に係る発明は、請求項1〜6のいずれか一項に記載の化粧シートにおいて、前記印刷原反は、ポリオレフィン系樹脂から形成され、前記透明シートは透明アクリル系樹脂から形成され、前記バッカー用シートはアクリル系樹脂から形成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項8に係る発明は、請求項1〜6のいずれか一項に記載の化粧シートにおいて、前記印刷原反は、ポリオレフィン系樹脂から形成され、前記透明シートは透明アクリル系樹脂から形成され、前記バッカー用シートはポリエステル系樹脂から形成されていることを特徴とする。
本発明の請求項9に係る発明は、請求項1〜8のいずれか一項に記載の化粧シートにおいて、前記絵柄印刷層は、前記印刷原反の表面上に木目模様を印刷して形成されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項10に係る発明は、樹脂成形品と、該樹脂成形品の表面を当該樹脂成形品の射出成形と同時に加飾する化粧シートとからなり、該化粧シートが請求項1〜9のいずれか一項に記載された化粧シートであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、加飾用シートが、バッカー用シートと異なる熱可塑性樹脂によりシート状に形成された印刷原反と、該印刷原反の表面上に形成された絵柄印刷層と、該絵柄印刷層を含む前記印刷原反の表面を凹凸状に加工して形成された凹凸模様と
、該凹凸模様の表面を前記印刷原反と同等の樹脂によりラミネートするラミネート層とからなることにより、複雑な意匠性を樹脂成形品に付与することが可能となる。また、絵柄印刷層の表面を熱可塑性樹脂からなるラミネート層でラミネートすることにより、樹脂成形品の表面上に化粧シートをインサート成形により積層して樹脂成形品の表面を化粧シートにより加飾する際に凹凸模様の形状を所望の形状に保持できると共に、化粧シートの内部に凹凸模様が形成されることで独特の意匠感を創出することが可能となる。さらに、絵柄印刷層の表面を熱可塑性樹脂からなるラミネート層でラミネートすることにより、絵柄印刷層の損傷や汚れを防止できる。また、加飾用シートの表面に透明シートを積層することで、加飾用シートに耐傷付き性,耐候性等の機能を付与できると共に、化粧シートに奥行き感を付与することができる。さらに、透明シートと反対側の加飾用シートの表面上にバッカー用シートを積層することで、樹脂成形品の射出成形時に加飾用シートに負荷される熱や圧力がバッカー用シートによって緩和され、樹脂成形品の射出成形時に加飾用シートの凹凸模様に熱的変形等が生じることを抑制することができる。
【0014】
請求項2〜4に記載の発明によれば、見る角度によって煌き感が異なる特殊な意匠感を樹脂成形品に付与することができる。
請求項5〜8に記載の発明によれば、樹脂成形品の射出成形時に金型内に射出される溶融樹脂の熱や圧力が加飾用シートの印刷原反に直接的に影響することを抑制でき、これにより、加飾用シートの凹凸模様が溶融樹脂によって変形してしまうことをより効果的に抑制することができる。
【0015】
請求項9及び10に記載の発明によれば、意匠性、製造コスト、量産安定性に優れた内装資材、建築資材、自動車内装用部材、携帯電話やパーソナルコンピュータ等の筐体用部材等の加飾成形品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施形態を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の第2の実施形態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1に、本発明の第1の実施形態を示す。図中符号1は、内装資材、建築資材、自動車内装用部材、携帯電話やパーソナルコンピュータ等の筐体用部材等の樹脂成形品、2は本発明の第1の実施形態に係る化粧シートであって、この化粧シート2は加飾用シート3、透明シート4およびバッカー用シート5から構成されている。
【0018】
加飾用シート3は樹脂成形品1の表面に装飾を加えるものであって、樹脂成形品1の表面上に積層されるバッカー用シート5の表面上に形成されている。また、加飾用シート3は熱可塑性樹脂からなるシート状の印刷原反6と、この印刷原反6の表面上に形成された絵柄印刷層7と、この絵柄印刷層7を含む印刷原反6の表面を凹凸状に加工して形成された凹凸模様8と、この凹凸模様8の表面をラミネートするラミネート層9とからなり、ラミネート層9は印刷原反6と同等の熱可塑性樹脂で形成されている。
【0019】
透明シート4は加飾用シート3の表面を保護するためのものであって、透明アクリル系樹脂等の熱可塑性樹脂により加飾用シート3の表面上に加飾用シート3の表面全体を覆うように形成されている。
バッカー用シート5は樹脂成形品1の表面を射出成形同時加飾法により加飾するときに加飾用シート3の印刷原反6やラミネート層9に負荷される熱や圧力を緩和するためのものであって、加飾用シート3の印刷原反6と異なる熱可塑性樹脂から形成されている。具体的には、印刷原反6よりもガラス転移温度が30℃以上高い熱可塑性樹脂から形成され
ている。また、バッカー用シート5は印刷原反6の厚みに対して0.5倍以上5.0以下の厚みでシート状に形成されている。
【0020】
第1の実施形態の化粧シート2は、加飾用シート3の、ラミネート層9の側に透明シート4を積層し、印刷用原反6の側にバッカー用シート5を積層した状態で、更に、樹脂成形品1の表面とバッカー用シート5が接するような向きで積層するものである。
図2は本発明の第2の実施形態を示す図である。第2の実施形態の化粧用シート2は、加飾用シート3の、印刷用原反6の側に透明シート4を積層し、ラミネート層9の側にバッカー用シート5を積層した状態で、更に、樹脂成形品1の表面とバッカー用シート5が接するような向きで積層するものである。
【0021】
上述した第1及び第2の実施形態において、印刷原反6は例えば塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル共重合系樹脂、ポリエステル系樹脂などの熱可塑性樹脂で形成することが可能であるが、塩化ビニル樹脂は前述の環境負荷の観点から好ましくない。さらに、これらの熱可塑性樹脂のなかでも化粧シートとして要求される適度な柔軟性、耐薬品性、後加工性等を備え、なおかつ安価で提供される点から、ポリオレフィン系樹脂が好ましい。
【0022】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリイソプレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体、プロピレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体や、これらを接着性の向上の目的で酸変性したもの、あるいはアイオノマー等から適宜選択が可能で、単一でも複数種の混合でも構わない。
【0023】
なかでも、柔軟性、耐熱性などの点から、ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン共重合体などのポリプロピレン系樹脂が最も適している。
【0024】
加飾用シート3の印刷原反6に、無機の染料や顔料などの着色剤を適宜添加することによって、印刷原反6に着色を施すこともできる。特に、化粧シートが用途により隠蔽性を必要とする場合には、隠蔽性顔料を添加して印刷原反6を隠蔽性とすることが好ましい。ここで言う隠蔽性顔料とは、分散媒たる熱可塑性樹脂と比較して高屈折率の顔料であり、屈折率の高さや耐候性、耐薬品性等の面から、例えば酸化チタン系顔料や酸化鉄系顔料等の無機顔料を少なくとも使用することが好ましい。ただし、図2に示した第2の実施形態のように、絵柄印刷層7が樹脂成形品側となる構成の場合には、印刷用原反6としては透明性が必要とされるため、求める意匠性により前記隠蔽性を調整する必要がある。
【0025】
印刷原反6の製造方法には特に制限はなく、Tダイ押出法、インフレーション成形法およびカレンダー成形法などの公知の方法で製膜することができる。また、印刷原反6の厚さには特に制限はなく、用途や樹脂の種類にもよるが、50〜200μm程度の範囲から選ばれるのが一般的である。
【0026】
絵柄印刷層7は、目的とする化粧シートに所望の絵柄を付与する目的で設けられるものであって、その絵柄の種類には特に制限はなく、例えば木目柄、石目柄、抽象柄、単色無地等、従来の化粧シートの場合と同様の各種の絵柄を採用することができる。絵柄印刷層7の構成材料や形成方法にも特に制限はなく、例えば有機又は無機の染料又は顔料等の着色剤を、適当な結着剤樹脂と共に、適当な溶剤中に溶解又は分散してなる、印刷インキ又はコーティング剤等を、適宜の印刷方法又はコーティング方法によって印刷又は塗工して設けることができる。
【0027】
前記着色剤としては、例えばカーボンブラック、チタン白、亜鉛華、弁柄、紺青、カドミウムレッド等の無機顔料や、アゾ顔料、レーキ顔料、アントラキノン顔料、フタロシアニン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料等の有機顔料、アルミニウム、チタンなどの鱗片状箔片からなる金属顔料あるいは酸化チタン被覆雲母、貝殻等の鱗片状箔片からなるパール顔料などの光輝性顔料等、又はこれらから選ばれる2種類以上の混合物を使用することができる。
【0028】
絵柄印刷層7の刷り数に関しては、特に制限されるものではなく、所望の意匠性発現に向け適宜選定することができるが、内部に凹凸模様を付与することで高意匠性を得るためには、少なくとも上記光輝性顔料を用いた絵柄印刷層を有することが好ましい。
また、前記結着剤樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリビニル系樹脂、アルキド系樹脂、石油系樹脂、ケトン樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、繊維素誘導体、ゴム系樹脂等の各種合成樹脂類、又はそれらの2種以上の混合物、共重合体等を使用することができる。
【0029】
また、前記溶剤としては、例えばヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の石油系有機溶剤や、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸−2−メトキシエチル、酢酸−2−エトキシエチル等のエステル系有機溶剤、メチルアルコール、エチルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール系有機溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系有機溶剤、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系有機溶剤、ジクロロメタン、四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等の塩素系有機溶剤等の各種有機溶剤や、水等の無機溶剤、又はそれらの2種以上の混合溶剤等を使用することができる。
【0030】
絵柄印刷層7の形成方法には特に制限はなく、例えばグラビア印刷法やオフセット印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、静電印刷法、インクジェット印刷法等の従来公知の各種の印刷方法を使用することができる。
絵柄印刷層7を含む印刷原反6の表面上に凹凸模様8を形成する方法としては、熱圧エンボスなど公知の方法を用いることが可能であり、特に限定するものではなく、任意のエンボス版を用いて熱や圧力を加えることで凹凸模様8を形成することができる。具体的には、印刷原反6を加温、軟化させた状態で凹凸を有する金属製または樹脂製のエンボス版やエンボスロールを圧着し冷却することにより所望の形状を付与できる。エンボス版の加熱温度は印刷原反6を形成する樹脂などの構成材料にもよるが、130℃程度とするのが好適である。これにより化粧シートが50〜100℃程度に熱せられた状態となる。
【0031】
エンボス版の形状に関しては、凹凸模様の種類に特に制限はなく、例えば木目調、石目調、和紙調、布目調、幾何学模様状等の各種模様状であっても良いし、或いは例えば単なる艶消状や砂目状、ヘアライン状、スウェード調等であっても良い。特に、凹凸模様が微細な間隔の複数の平行な直線または曲線状の条模様からなる縞模様を一単位とし、隣り合った単位縞模様同士の条模様の条方向が互いに異なるように組み合わされた形状からなる場合、見る角度によって煌き感が異なる独特の意匠感を表現することが可能となる。また、光輝顔料を添加したインキで印刷された木目柄と組み合わせて使用した場合、漆塗りのリアルな木目感を表現することができ、より好ましい。凹凸の深さに関しては特に制限するものではないが、木目感の表現においては5〜100μmが適当であり、20〜70μmの高低差がより好ましい。
【0032】
加飾用シート3のラミネート層9は、熱可塑性樹脂を加熱溶融してフィルム状あるいは
シート状に押出成形すると同時に樹脂シート基材の表面上に積層し接着させる溶融押出ラミネート法により、凹凸模様を付与した印刷原反6の凹凸面側に積層される。溶融押出ラミネート法により凹部を熱可塑性樹脂で埋めることにより、凹凸模様が化粧シート内部に存在し立体感のある独特な意匠を得ることができる。溶融押出ラミネート法を用いることにより、凹凸高低差のある凹凸模様に関しても、凹部を均一に熱可塑性樹脂により埋めることが可能となり有利である。
【0033】
ラミネート層9の材料としては印刷原反6と同系統の樹脂とすることが好ましい。同系統の樹脂とすることで熱寸法変化による剥がれ等の不具合を防ぐことができる。より具体的には化粧シートとしての性能に加え、押出ラミネート適性、凹凸部への樹脂の流動性などの点から、押出ラミネートに用いる樹脂系としてポリプロピレン系樹脂が好ましい。また、図1に示した第1の実施形態においては、ラミネート層9の樹脂が絵柄印刷層7より意匠面側に積層されるため、結晶性や成形条件を制御することにより透明性を有することが必要である。
【0034】
第1及び第2の実施形態のように、加飾用シート3の意匠面側に透明シート4を積層することにより、化粧シートに更なる立体感と独特な意匠性を付与することが可能となる。透明シート4を形成する透明樹脂シートの材料としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂等が用いられるが、なかでも透明性、表面硬度特性および耐候性が改善できる点からアクリル系樹脂を用いた透明熱可塑性シートが好ましい。
【0035】
高意匠性を付与した化粧シートを用い、インサート成形による同時加飾成形品の製造を検討した際に化粧シート材料が溶融するウォッシュアウト(W/O)と呼ばれる現象が起きる可能性がある。これは、樹脂成形品1の射出成形時において、特にゲート近傍で、高い成形圧力および熱が化粧シートに付与されることにより発生する。このW/Oを抑えるために、透明シート4を形成する透明樹脂シートと反対の面(加飾用シート3と樹脂成形品1との間の位置)に加飾用シート3と異なる材質でガラス転移温度が30℃以上高く、加飾用シート3の厚みに対して、0.5倍以上5.0倍以下の厚みを有する熱可塑性樹脂シートをバッカー用シート5として積層させることで、樹脂成形品1の射出成形時に溶融樹脂の熱や圧力が加飾用シート3に加わるのを緩和することが可能となり、結果としてW/Oを改善することができる。
【0036】
バッカー用シート5のシート基材としては塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル共重合系樹脂、ポリエステル系樹脂などがあげられるが、耐熱性および樹脂成形品1との密着性を考えると、アクリル系かポリエステル系の材料が好ましい。選定に関しては、樹脂成形品1との密着性を加味して選定することが出来るが、必要であれば金型内に射出される溶融樹脂との密着性を得るために、バッカー用シート5に接着層(図示せず)を塗工しても構わない。
【0037】
なお、加飾用シート3と透明シート4およびバッカー用シート5の積層方法は特に制限されるものでなく、例えば、2液硬化型の接着剤等を介してドライラミネート法等により積層することが可能である。
射出成形用の樹脂としては特に制限するものではなく、汎用的な射出成形用熱可塑性樹脂を用いることが出来るが、自動車内装用部品などを想定するとABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)、PC(ポリカーボネート)、PCとABSのアロイ樹脂などが一般的である。本発明による化粧シートを用いることで、これら射出成形温度が250〜300℃である射出成形温度が高い樹脂を用いた場合においてもW/O等の不具合を起こすことなくインサート成形が可能である。
【0038】
また、インサート成形の手法についても特に制限するものではなく、真空成形によりあ
らかじめ予備賦形した化粧シートを射出成形用金型に挿入する手法や、直接射出成形用の金型に化粧シートを挿入する手法など、成形部材形状により適時選定可能である。
【実施例】
【0039】
次に、本発明の実施例と比較例について説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
印刷原反6としてランダムポリプロピレンに無機顔料および酸化防止剤、ブロッキング防止剤を配合し、Tダイによる溶融押出により得られたポリプロピレン着色シート(ガラス転移温度−10℃、基材厚み80μm)を用い、このシートに東洋インキ製造株式会社製のアクリル−塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体インキの光輝顔料を添加したインキも含め重ね刷りし木目柄をグラビア印刷して絵柄印刷層7を設けた。
【0040】
次に絵柄印刷層7の印刷面側に、最大深度50μmの微細な間隔の複数の平行な直線の条模様からなる縞模様を一単位とし、隣り合った単位縞模様同士の条模様の条方向が互いに異なるように組み合わされて形成されたエンボス版を用いて、余熱ロール80℃、メインドラムのヒーター温度110℃、スライダックヒーター110℃/160℃/170℃となるようなエンボスロール装置を用い、エンボス版を温水加熱で30℃として、ライン速度11m/minにて前記絵柄模様層を付与した印刷原反6を繰り出しながら、絵柄印刷層7上にエンボス加工を施して凹凸模様8を付与した。
【0041】
この凹凸模様8を付与した印刷原反6の凹凸面に、溶融押出ラミネート法によりホモポリプロピレン樹脂をラミネート層9として積層し、凹凸面を埋めることにより加飾用シート3を作成した。その後、加飾用シート3のラミネート層側に、三菱レイヨン製アクリルシート:HBS010P(ガラス転移温度100℃、基材厚み125μm)を透明シート4としてドライラミネート法により積層させ、また、東洋紡績製コスモシャインA4300(ガラス転移温度70℃、基材厚み100μm)をバッカー用シート5として、透明シート4と反対側にドライラミネート法にて積層させることで、加飾成形用化粧シートを得た。
【0042】
加飾成形用化粧シートを100℃に加熱し真空圧空成形により、射出成形用金型内面に沿う形状に予備腑形を実施し、プレフォーム成形体を作成した。作成したプレフォーム成形体を射出成形用金型にセットし、バッカー用シート側に樹脂を射出することにより、加飾成形品を得た。射出成形用樹脂としては、日本A&L製ポリカーボネート樹脂とABS樹脂のアロイ:T105を用い、射出温度270℃、最大射出圧力200MPa、金型温度70℃、射出率150cm3/秒の成形条件にて射出成形を実施し加飾成形品を得た。
【0043】
[実施例2]
印刷原反6としてランダムポリプロピレンに酸化防止剤およびブロッキング防止剤を配合し、Tダイによる溶融押出により得られたポリプロピレンクリアシート(ガラス転移温度−10℃、基材厚み80μm)を用い、このシートに東洋インキ製造株式会社製のアクリル−塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体インキの光輝顔料を添加したインキも含め重ね刷りし木目柄をグラビア印刷して絵柄印刷層7を設けた。
【0044】
次に絵柄印刷層7の印刷面側に、最大深度50μmの微細な間隔の複数の平行な直線の条模様からなる縞模様を一単位とし、隣り合った単位縞模様同士の条模様の条方向が互いに異なるように組み合わされて形成されたエンボス版を用いて、余熱ロール80℃、メインドラムのヒーター温度110℃、スライダックヒーター110℃/160℃/170℃となるようなエンボスロール装置を用い、エンボス版を温水加熱で30℃として、ライン速度11m/minにて前記絵柄模様層を付与した印刷原反6を繰り出しながら、絵柄印
刷層7上にエンボス加工を施し凹凸模様8を付与した。
【0045】
この凹凸模様8を付与した印刷原反6の凹凸面に、溶融押出ラミネート法によりホモポリプロピレン樹脂をラミネート層9として積層し、凹凸面を埋めることにより加飾用シートを作成した。その後、加飾用シート3のラミネート層側に、三菱レイヨン製アクリルシート:HBS010P(ガラス転移温度100℃、基材厚み125μm)をバッカー用シート5としてドライラミネート法により積層させ、また、同様の三菱レイヨン製アクリルシートを透明シート4として、バッカー用シート5と反対側にドライラミネート法にて積層させることで、加飾成形用化粧シートを得た。
【0046】
加飾成形用化粧シートを100℃に加熱し真空圧空成形により、射出成形用金型内面に沿う形状に予備腑形を実施し、プレフォーム成形体を作成した。作成したプレフォーム成形体を射出成形用金型にセットし、バッカー用シート側に樹脂を射出することにより、加飾成形品を得た。射出成形用樹脂としては、日本A&L製ポリカーボネート樹脂:T105を用い、射出温度270℃、最大射出圧力200MPa、金型温度70℃、射出率150cm3/秒の成形条件にて射出成形を実施し加飾成形品を得た。
【0047】
[比較例1]
印刷原反としてランダムポリプロピレンに無機顔料および酸化防止剤、ブロッキング防止剤を配合し、Tダイによる溶融押出により得られたポリプロピレン着色シート(ガラス転移温度−10℃、基材厚み80μm)を用い、このシートに東洋インキ製造株式会社製のアクリル−塩酢ビインキのグラビアインキに光輝顔料を添加したインキも含め重ね刷りし木目柄をグラビア印刷して絵柄印刷層を設けた。
【0048】
次に絵柄印刷層の印刷面側に、最大深度50μmの微細な間隔の複数の平行な直線の条模様からなる縞模様を一単位とし、隣り合った単位縞模様同士の条模様の条方向が互いに異なるように組み合わされて形成されたエンボス版を用いて、余熱ロール80℃、メインドラムのヒーター温度110℃、スライダックヒーター110℃/160℃/170℃となるようなエンボスロール装置を用い、エンボス版を温水加熱で30℃として、ライン速度11m/minにて前記絵柄模様層を付与した印刷原反を繰り出しながら、絵柄印刷層上にエンボス加工を施し凹凸模様を付与した。
【0049】
この凹凸模様を付与した印刷原反の凹凸面に、溶融押出ラミネート法によりホモポリプロピレン樹脂をラミネート層として積層し、凹凸面を埋めることにより加飾用シートを作成した。その後、加飾用シートのラミネート層側に、三菱レイヨン製アクリルシート:HBS010P(ガラス転移温度100℃、基材厚み125μm)を透明熱可塑性樹脂シートとしてドライラミネート法により積層させることで、加飾成形用化粧シートを得た。
【0050】
加飾成形用化粧シートを100℃に加熱し真空圧空成形により、射出成形用金型内面に沿う形状に予備腑形を実施し、プレフォーム成形体を作成した。作成したプレフォーム成形体を射出成形用金型にセットし、透明熱可塑性樹脂シートと反対側に樹脂を射出することにより、加飾成形品を得た。射出成形用樹脂としては、日本A&L製ポリカーボネート樹脂:T105を用い、射出温度270℃、最大射出圧力200MPa、金型温度70℃、射出率150cm3/秒の成形条件にて射出成形を実施し加飾成形品を得た。
【0051】
[比較例2]
加飾用シート3において、凹凸模様を付与する工程を省いた以外は実施例1と同様の工程にて加飾成形品を作成した。
[比較例3]
加飾成形用化粧シートのバッカー用シートとしてガラス転移温度−100℃、基材厚み
50μmのポリエチレン樹脂シートを用いた以外は実施例1と同様の工程にて加飾成形品を作成した。
【0052】
【表1】

【0053】
表1の結果から分かるように、本発明によって得られた実施例1、2は、本発明の特徴である、絵柄印刷に加え凹凸模様を付与することによる優れた意匠性の付与および射出成形工程における化粧シートの意匠性変化が改善された化粧シートおよび加飾成形品を提供することができた。
【符号の説明】
【0054】
1…樹脂成形品
2,10…化粧シート
3…加飾用シート
4…透明シート
5…バッカー用シート
6…印刷原反
7…絵柄印刷層
8…凹凸模様
9…ラミネート層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成形品の表面に装飾を加えるための加飾用シートと、該加飾用シートの表面上に積層された透明シートと、該透明シートと反対側の前記加飾用シートの裏面上に積層されたバッカー用シートとからなり、前記透明シートおよび前記バッカー用シートが熱可塑性樹脂からなる化粧シートであって、前記加飾用シートが、前記バッカー用シートと異なる熱可塑性樹脂によりシート状に形成された印刷原反と、該印刷原反の一方の表面上に形成された絵柄印刷層と、該絵柄印刷層を含む前記印刷原反の表面を凹凸状に加工して形成された凹凸模様と、該凹凸模様の表面を前記印刷原反と同等の樹脂によりラミネートするラミネート層とからなり、前記加飾用シートは前記バッカー用シートを介して前記樹脂成形品の表面上にインサート成形により積層されることを特徴とする化粧シート。
【請求項2】
前記印刷原反は、前記バッカー用シートと異なる熱可塑性樹脂に光輝顔料を配合して形成されていることを特徴とする請求項1に記載の化粧シート。
【請求項3】
前記絵柄印刷層は、光輝顔料を含むインキからなることを特徴とする請求項1に記載の化粧シート。
【請求項4】
前記凹凸模様は、微細な間隔の複数の平行な直線または曲線状の条模様からなる縞模様を一単位とし、隣り合った単位縞模様同士の条模様の条方向が互いに異なるように組み合わされた形状であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の化粧シート。
【請求項5】
前記バッカー用シートは、前記加飾用シートの厚みに対して0.5倍以上5.0倍以下の厚みを有し、かつ前記印刷原反よりもガラス転移温度が30℃以上高い熱可塑性樹脂から形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の化粧シート。
【請求項6】
前記印刷原反はポリオレフィン系樹脂から形成され、前記透明シートは透明アクリル系樹脂から形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の化粧シート。
【請求項7】
前記印刷原反は、ポリオレフィン系樹脂から形成され、前記透明シートは透明アクリル系樹脂から形成され、前記バッカー用シートはアクリル系樹脂から形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の化粧シート。
【請求項8】
前記印刷原反は、ポリオレフィン系樹脂から形成され、前記透明シートは透明アクリル系樹脂から形成され、前記バッカー用シートはポリエステル系樹脂から形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の化粧シート。
【請求項9】
前記絵柄印刷層は、前記印刷原反の表面上に木目模様を印刷して形成されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の化粧シート。
【請求項10】
樹脂成形品と、該樹脂成形品の表面を当該樹脂成形品の射出成形と同時に加飾する化粧シートとからなり、該化粧シートが請求項1〜9のいずれか一項に記載された化粧シートであることを特徴とする加飾成形品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−51218(P2012−51218A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195118(P2010−195118)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】