説明

化粧品基材および当該化粧品基材を含有した化粧料

【課題】毛髪や皮膚への親和性に優れ、その結果として、毛髪や皮膚に保湿性や滑らかさを付与する効果が高い化粧品基材および当該化粧品基材を配合した毛髪化粧料および皮膚化粧料を提供することを課題とする。
【解決手段】プロタミンをプロテアーゼによって加水分解することで得られる加水分解プロタミンまたはその誘導体で化粧品基材を構成する。また、当該化粧品基材を含有させることで毛髪化粧料および皮膚化粧料を構成する。プロテアーゼとしてはトリプシンが好ましく、加水分解プロタミンの誘導体としては、N−アシル化加水分解プロタミン、N−グリセリル加水分解プロタミン、N−シリル化加水分解プロタミン、N−第4級アンモニウム化加水分解プロタミン、加水分解プロタミングリセリルエステル、加水分解プロタミンアルキルエステル、N−アルキルグリセリル加水分解プロタミンおよびN−(2−ヒドロキシアルキル)加水分解プロタミンが挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロタミン由来の化粧品基材および当該化粧品基材を含有した毛髪化粧料および皮膚化粧料に関し、さらに詳しくは、プロタミンをプロテアーゼによって加水分解することで得られる加水分解プロタミンまたはその誘導体からなることを特徴とする化粧品基材および当該化粧品基材を含有した毛髪化粧料および皮膚化粧料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、コラーゲン、ケラチン、絹、カゼイン、大豆、小麦などの天然物由来のタンパク質を加水分解することによって得られるタンパク質加水分解物やその誘導体が化粧品基材として開発されてきた。これは、タンパク質加水分解物やその誘導体の基本骨格であるペプチド構造が毛髪や皮膚のタンパク質の分子構造と類似しているため、タンパク質加水分解物やその誘導体が毛髪や皮膚との親和性に優れ、その結果として、毛髪や皮膚に保湿性や滑らかさを付与する効果を有しているからである。
【0003】
上記のタンパク質加水分解物やその誘導体の中で、特に加水分解コラーゲンや加水分解ケラチンおよびそれらの誘導体は、毛髪や皮膚への親和性が高く、損傷毛髪の改善や皮膚表面の保湿効果に優れているため、古くから毛髪化粧料や皮膚化粧料に配合されてきた。しかしながら、これらのタンパク質加水分解物の毛髪や皮膚への吸着能は必ずしも強いとは言えず、特にシャンプーやリンス、洗顔剤のような洗い流しタイプの化粧品では、一時的に吸着した加水分解タンパク質の多くが洗い流されてしまうため、効果を十分に発揮できているとは言えなかった。また、皮膚表面のバリア機能の改善や保湿作用を目的として、これらのタンパク質加水分解物やその誘導体を化粧水や乳液、保湿クリームなどの皮膚化粧料に添加する際には、効果の発現のためにそれらを多量に添加する必要があり、多量に配合されたタンパク質加水分解物やその誘導体が原因で化粧品の外観や使用感が損なわれることがあった。
【特許文献1】特開平4−139113号公報
【特許文献2】特開2002−226330号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明は、毛髪や皮膚への親和性に優れ、その結果として、毛髪や皮膚に保湿性や滑らかさを付与する効果が高い化粧品基材および当該化粧品基材を配合した毛髪化粧料および皮膚化粧料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記の課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、プロタミンをプロテアーゼによって加水分解することで得られる加水分解プロタミンまたはその誘導体からなる化粧品基材が、毛髪や皮膚への親和性に優れ、その結果として、毛髪や皮膚に保湿性や滑らかさを付与する効果が高く、それ故に、当該化粧品基材を配合した毛髪化粧料および皮膚化粧料が毛髪や皮膚に保湿性や滑らかさを付与する効果が高いことを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0006】
本発明の化粧品基材および当該化粧品基材を配合した毛髪化粧料および皮膚化粧料は、毛髪や皮膚への親和性に優れ、その結果として、毛髪や皮膚に優れた保湿性や滑らかさを付与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の化粧品基材は、プロタミンをプロテアーゼで加水分解することによって得られるが、使用するプロタミンは魚類の精巣から抽出されるもので、魚類としては、例えば、鮭、鱒、鰊、鰹、鱈などが挙げられるが、入手のしやすさなどの面から鮭が好ましい。また、これらの魚類から得られたプロタミンの塩酸塩や硫酸塩も本発明に使用できる。
【0008】
プロタミンのアミノ酸組成は、起源とする魚類によって多少異なるが、本発明の化粧品基材に用いるプロタミンのアミノ酸組成は、アルギニンが50〜70モル%であることが好ましく、55〜70モル%であることがより好ましい。特に、鮭由来のプロタミンのアミノ酸組成はアルギニンが約60モル%であるため、鮭由来のプロタミンは、本発明の化粧品基材の原料として、問題なく使用できる。
【0009】
プロタミンのアミノ酸組成のアルギニン含有割合が上記の範囲以上のものは天然のプロタミンには見られないが、上記の範囲以下であれば、加水分解プロタミンやその誘導体の毛髪や皮膚へ親和性が低下するため、毛髪や皮膚へ優れた保湿性や滑らかさを付与する効果も低下する。
【0010】
本発明の化粧品基材は、プロタミンをプロテアーゼによって加水分解分解する必要がある。プロテアーゼとしては、例えば、トリプシン、キモトリプシン、パパイン、サーモリシン、スブチリシンなどが挙げられるが、トリプシンは高い基質特異性を有するプロテアーゼであり、アルギニンやリジンのカルボキシ基側のペプチド結合を選択的に加水分解するため、本発明に用いるプロテアーゼはトリプシンが最も好ましい。トリプシンはプロタミンを極めて均一の分子量に加水分解できるため、分子量制御が容易であり、毛髪や皮膚上での期待する効果に応じて、加水分解プロタミンおよびその誘導体の分子量を調整できる。
【0011】
本発明の化粧品基材の構成物である加水分解プロタミンとしては、例えば、下記一般式(I)
【0012】
【化1】

【0013】
〔式中、Rはプロタミン由来のアミノ酸側鎖を、Mは水素原子、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機アミンを示す。また、mはアルギニンの重合度を、nはアルギニン以外のアミノ酸の重合度を示し、1≦m≦15でm+nは2〜20である(ただしmおよびnはアミノ酸の数を示すのみで、アミノ酸配列の順序を示すものではない)〕
で表される加水分解プロタミンが挙げられる。
【0014】
また、加水分解プロタミンの平均アミノ酸重合度〔上記一般式(I)のm+n〕は2〜20であることが好ましく、3〜15であることがより好ましく、6〜10であることが最も好ましい。
【0015】
これは、加水分解プロタミンのアミノ酸重合度が上記範囲以下では毛髪や皮膚への親和性が低くなる上、加水分解プロタミンの有する毛髪や皮膚へ保湿性や滑らかさを付与する効果が充分に発揮できないおそれがあり、加水分解プロタミンのアミノ酸重合度が上記範囲以上になると、毛髪や皮膚にごわつき感やつっぱり感を与えるおそれがあるからである。
【0016】
最適なアミノ酸重合度は目的とする効果によって異なり、例えば、加水分解プロタミンやその誘導体の経皮吸収を期待する場合には、平均アミノ酸重合度は6〜10が好ましく、7〜9がより好ましい。
【0017】
加水分解プロタミンの誘導体としては、N−アシル化加水分解プロタミン、N−グリセリル加水分解プロタミン、N−シリル化加水分解プロタミン、N−第4級アンモニウム化加水分解プロタミン、加水分解プロタミングリセリルエステル、加水分解プロタミンアルキルエステル、N−アルキルグリセリル加水分解プロタミンおよびN−(2−ヒドロキシアルキル)加水分解プロタミンが挙げられる。
【0018】
N−アシル化加水分解プロタミンとしては、加水分解プロタミンのN末端アミノ基に、炭素数8〜32の直鎖または分岐鎖の飽和または不飽和の脂肪酸や樹脂酸などを縮合させた誘導体やその塩が挙げられ、例えば、下記一般式(II)
【0019】
【化2】

【0020】
〔式中、Rはプロタミン由来のアミノ酸側鎖を、Rは炭素数8〜32の直鎖または分岐鎖の飽和または不飽和の脂肪酸や樹脂酸のカルボキシ基の水酸基を除く残基を示し、Mは水素原子、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機アミンを示す。また、mはアルギニンの重合度を、nはアルギニン以外のアミノ酸の重合度を示し、1≦m≦15でm+nは2〜20である(ただしmおよびnはアミノ酸の数を示すのみで、アミノ酸配列の順序を示すものではない)〕
で表せるN−アシル化加水分解プロタミンおよびその塩が挙げられる。
【0021】
前記炭素数8〜32の直鎖または分岐鎖の飽和または不飽和の脂肪酸や樹脂酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、ヤシ油脂肪酸、イソステアリン酸、ウンデシレン酸、ラノリン脂肪酸、樹脂酸、水素添加樹脂酸などが挙げられる。そして、N−アシル化加水分解プロタミンの塩としては、例えば、カリウム塩、ナトリウム塩、トリエタノールアミン塩、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール塩、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール塩などが挙げられる。
【0022】
そして、このN−アシル化加水分解プロタミンまたはその塩においても、その加水分解プロタミン部分のアミノ酸重合度〔上記一般式(II)のm+n〕は、前記加水分解プロタミンと同様の理由で、2〜20であることが好ましく、3〜15であることがより好ましく、6〜10であることが最も好ましい。
【0023】
N−グリセリル加水分解プロタミンとしては、例えば、下記一般式(III)
【0024】
【化3】

【0025】
〔式中、Rはプロタミン由来のアミノ酸側鎖を、Mは水素原子、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機アミンを示す。また、mはアルギニンの重合度を、nはアルギニン以外のアミノ酸の重合度を示し、1≦m≦15でm+nは2〜20である(ただしmおよびnはアミノ酸の数を示すのみで、アミノ酸配列の順序を示すものではない)〕
で表されるN−グリセリル加水分解プロタミンが挙げられ、このようなN−グリセリル加水分解プロタミンは、例えば、特開2005−306799号公報に記載の方法で製造することができる。
【0026】
そして、このN−グリセリル加水分解プロタミンにおいても、加水分解プロタミン部分のアミノ酸重合度〔上記一般式(III)のm+n〕は、前記加水分解プロタミンと同様の理由で、2〜20であることが好ましく、3〜15であることがより好ましく、6〜10であることが最も好ましい。
【0027】
N−シリル化加水分解プロタミンとしては、例えば、下記一般式(IV)
【0028】
【化4】

【0029】
〔式中、Rは炭素数1〜3のアルキル基を示し、Aは結合手で、メチレン、プロピレン、−CHOCHCH(OH)CH−または−(CHOCHCH(OH)CH−で示される基である。Rはプロタミン由来のアミノ酸側鎖を示し、Mは水素原子、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機アミンを示す。また、mはアルギニンの重合度を、nはアルギニン以外のアミノ酸の重合度を示し、1≦m≦15でm+nは2〜20である(ただしmおよびnはアミノ酸の数を示すのみで、アミノ酸配列の順序を示すものではない)〕
で表される加水分解プロタミンのアミノ基にケイ素原子をただ一つ含む官能基が結合した誘導体が挙げられ、このようなN−シリル化加水分解プロタミンは、例えば、特開平8−059424号公報、特開平8−067608号公報などに記載の方法で製造することができる。
【0030】
そして、このN−シリル化加水分解プロタミンにおいても、加水分解プロタミン部分のアミノ酸重合度〔上記一般式(IV)のm+n〕は、前記加水分解プロタミンと同様の理由で、2〜20であることが好ましく、3〜15であることがより好ましく、6〜10であることが最も好ましい。
【0031】
N−第4級アンモニウム化加水分解プロタミンとしては、例えば、下記の一般式(V)
【0032】
【化5】

【0033】
〔式中、R、R、Rは同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜22のアルキル基または炭素数2〜22のアルケニル基、あるいはR〜Rのうち1個または2個が炭素数1〜22のアルキル基または炭素数2〜22のアルケニル基で、残りが炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基またはベンジル基を表す。Bは炭素数2〜3の飽和炭化水素または炭素数2〜3の水酸基を有する飽和炭化水素を、Xはハロゲン原子を表す。Rはプロタミン由来のアミノ酸側鎖を示し、Mは水素原子、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機アミンを示す。また、mはアルギニンの重合度を、nはアルギニン以外のアミノ酸の重合度を示し、1≦m≦15でm+nは2〜20である(ただしmおよびnはアミノ酸の数を示すのみで、アミノ酸配列の順序を示すものではない)〕
で表されるものが挙げられ、このN−第4級アンモニウム化加水分解プロタミンは、アルカリ条件下で加水分解プロタミンと第4級アンモニウム化合物とを反応させることによって得られる。
【0034】
上記第4級アンモニウム化合物の具体例としては、例えば、グリシジルステアリルジメチルアンモニウムクロリド、グリシジルヤシ油アルキルジメチルアンモニウムクロリド、グリシジルラウリルジメチルアンモニウムクロリド、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリドなどのグリシジルアンモニウム塩、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルステアリルジメチルアンモニウムクロリド、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルヤシ油アルキルジメチルアンモニウムクロリド、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルラウリルジメチルアンモニウムクロリド、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルエチルジメチルアンモニウムクロリド、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドなどの3−ハロ−2−ヒドロキシプロピルアンモニウム塩、2−クロロエチルトリメチルアンモニウムクロリドなどの2−ハロ−エチルアンモニウム塩、3−クロロプロピルトリメチルアンモニウムクロリドなどの3−ハロ−プロピルアンモニウム塩などが挙げられる。
【0035】
そして、このN−第4級アンモニウム化加水分解プロタミンにおいても、加水分解プロタミン部分のアミノ酸重合度〔上記一般式(V)のm+n〕は、前記加水分解プロタミンと同様の理由で、2〜20であることが好ましく、3〜15であることがより好ましく、6〜10であることが最も好ましい。
【0036】
加水分解プロタミングリセリルエステルとしては、例えば、下記一般式(VI)および(VII)
【0037】

【化6】

【0038】
【化7】

【0039】
〔式中、Rはプロタミン由来のアミノ酸側鎖を示し、mはアルギニンの重合度を、nはアルギニン以外のアミノ酸の重合度を示し、1≦m≦15でm+nは2〜20である(ただしmおよびnはアミノ酸の数を示すのみで、アミノ酸配列の順序を示すものではない)〕
で表されるものが挙げられる。この加水分解プロタミングリセリルエステルは、酸性条件下で加水分解プロタミンとグリシドールとを反応させることによって得られるが、この酸性条件下にするための酸剤としては、硫酸またはリン酸が好ましい。また、反応生成物は前記一般式(VI)と(VII)の混合物として得られるが、この混合物をそのまま化粧品基材として使用してもよいし、それぞれを単離して用いてもよい。
【0040】
そして、この加水分解プロタミングリセリルエステルにおいても、加水分解プロタミン部分のアミノ酸重合度〔上記一般式(VI)および(VII)のm+n〕は、前記加水分解プロタミンと同様の理由で、2〜20であることが好ましく、3〜15であることがより好ましく、6〜10であることが最も好ましい。
【0041】
加水分解プロタミンとグリシドールを反応させる際の温度は、30℃〜80℃が好ましく、40℃〜70℃がより好ましい。前記温度以下では、加水分解プロタミンとグリシドールとの反応性が悪くなり、前記温度以上では、加水分解プロタミンが著しい着色や不快臭を生じるため化粧品基材としては適切でなく、加熱温度を高くすることによる反応性の向上も見込めない。
【0042】
また、加水分解プロタミンとグリシドールを反応させる際の反応時間は、温度やpH、加水分解プロタミンの濃度によっても異なるが、1〜10時間が好ましく、2〜8時間がより好ましい。反応時間が前記時間より短い場合では、未反応のグリシドールが残存し、前記時間より長い場合では、加水分解プロタミンが着色や不快臭を生じやすくなるだけでなく、生成したグリセリルエステルが加水分解される恐れがある。
【0043】
加水分解プロタミンアルキルエステルとしては、例えば、下記一般式(VIII)
【0044】
【化8】

【0045】
〔式中、Rはプロタミン由来のアミノ酸側鎖を、Rは炭素数1〜22のアルキル基、炭素数2〜22のアルケニル基、またはフェニル基を示す。mはアルギニンの重合度を、nはアルギニン以外のアミノ酸の重合度を示し、1≦m≦15でm+nは2〜20である(ただしmおよびnはアミノ酸の数を示すのみで、アミノ酸配列の順序を示すものではない)〕
で表されるものが挙げられ、この加水分解プロタミンアルキルエステルは、加水分解プロタミンと炭素数1〜22のアルキル基、炭素数2〜22のアルケニル基、またはフェニル基を有するアルコールを脱水縮合させることによって得られるが、製造の容易さの観点からアルコールとしては炭素数1〜4の低級アルコールが好ましく、エタノールが最も好ましい。また、加水分解プロタミンアルキルエステルは、例えば、特許第2564561号公報に記載の方法よって得ることができる。
【0046】
そして、この加水分解プロタミンアルキルエステルにおいても、加水分解プロタミン部分のアミノ酸重合度〔上記一般式(VIII)のm+n〕は、前記加水分解プロタミンと同様の理由で、2〜20であることが好ましく、3〜15であることがより好ましく、6〜10であることが最も好ましい。
【0047】
N−アルキルグリセリル加水分解プロタミンとしては、例えば、下記一般式(IX)
【0048】




【化9】

【0049】
〔式中、Rはプロタミン由来のアミノ酸側鎖を、Mは水素原子、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機アミンを示し、Rは炭素数1〜22のアルキル基、炭素数2〜22のアルケニル基、またはフェニル基を示す。また、mはアルギニンの重合度を、nはアルギニン以外のアミノ酸の重合度を示し、1≦m≦15でm+nは2〜20である(ただしmおよびnはアミノ酸の数を示すのみで、アミノ酸配列の順序を示すものではない)〕
で表されるものが挙げられる。
【0050】
このN−アルキルグリセリル加水分解プロタミンはアルカリ条件下で加水分解プロタミンと下記の一般式(X)
【0051】
【化10】

【0052】
(式中、Rは炭素数1〜22のアルキル基、炭素数2〜22のアルケニル基、またはフェニル基を示す)
で表されるアルキルグリセリル化剤を反応させることによって得られる。
【0053】
そして、このN−アルキルグリセリル加水分解プロタミンにおいても、加水分解プロタミン部分のアミノ酸重合度〔上記一般式(IX)のm+n〕は、前記加水分解プロタミンと同様の理由で、2〜20であることが好ましく、3〜15であることがより好ましく、6〜10であることが最も好ましい。
【0054】
加水分解プロタミンとアルキルグリセリル化剤を反応させる際の温度は、30℃〜80℃が好ましく、40℃〜70℃がより好ましい。前記温度以下では、加水分解プロタミンとアルキルグリセリル化剤との反応性が悪くなり、前記温度以上では、加水分解プロタミンが著しい着色や不快臭を生じるため化粧品基材としては適切でなく、加熱温度を高くすることによる反応性の向上も見込めない。
【0055】
また、加水分解プロタミンとアルキルグリセリル化剤を反応させる際の反応時間は、温度やpH、加水分解プロタミンの濃度によっても異なるが、1〜10時間が好ましく、2〜8時間がより好ましい。反応時間が前記時間より短い場合では、未反応のアルキルグリセリル化剤が残存し、前記時間より長い場合では、加水分解プロタミンが着色や不快臭を生じやすくなる。
【0056】
N−(2−ヒドロキシアルキル)加水分解プロタミンとしては、例えば、下記一般式(XI)
【0057】
【化11】

〔式中、Rはプロタミン由来のアミノ酸側鎖を示し、Mは水素原子、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機アミンを示す。R10は炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、またはフェニル基を示す。また、mはアルギニンの重合度を、nはアルギニン以外のアミノ酸の重合度を示し、1≦m≦15でm+nは2〜20である(ただしmおよびnはアミノ酸の数を示すのみで、アミノ酸配列の順序を示すものではない)〕
で表されるN−(2−ヒドロキシアルキル)加水分解プロタミンが挙げられる。
【0058】
このN−アルキルグリセリル加水分解プロタミンはアルカリ条件下で加水分解プロタミンと下記の一般式(XII)
【0059】
【化12】

【0060】
(式中、R11は炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、またはフェニル基を示す)
で表される2−ヒドロキシアルキル化剤を加熱反応させることによって得られる。
【0061】
そして、このN−(2−ヒドロキシアルキル)加水分解プロタミンにおいても、加水分解プロタミン部分のアミノ酸重合度〔上記一般式(XI)のm+n〕は、前記加水分解プロタミンと同様の理由で、2〜20であることが好ましく、3〜15であることがより好ましく、6〜10であることが最も好ましい。
【0062】
加水分解プロタミンと2−ヒドロキシアルキル化剤を反応させる際の温度は、30℃〜80℃が好ましく、40℃〜70℃がより好ましい。前記温度以下では、加水分解プロタミンとアルキルグリセリル化剤との反応性が悪くなり、前記温度以上では、加水分解プロタミンが著しい着色や不快臭を生じるため化粧品基材としては適切でなく、加熱温度を高くすることによる反応性の向上も見込めない。
【0063】
また、加水分解プロタミンと2−ヒドロキシアルキル化剤を反応させる際の反応時間は、温度やpH、加水分解プロタミンの濃度によっても異なるが、1〜10時間が好ましく、2〜8時間がより好ましい。反応時間が前記時間より短い場合では、未反応の2−ヒドロキシアルキル化剤が残存し、前記時間より長い場合では、加水分解プロタミンが着色や不快臭を生じやすくなる。
【0064】
本発明の毛髪化粧料は、加水分解プロタミンまたはその誘導体からなる化粧品基材を少なくとも1種含有することによって構成されるが、対象となる毛髪化粧料としては、例えば、ヘアリンス、ヘアコンディショナー、シャンプー、毛髪セット剤、整髪料、ヘアクリーム、パーマネントウェーブ用剤、染毛剤、染毛料などが挙げられる。
【0065】
そして、加水分解プロタミンまたはその誘導体からなる化粧品基材の毛髪化粧料中の含有量としては、毛髪化粧料の種類によっても異なるが、0.05〜30質量%が好ましく、0.5〜20質量%がより好ましい。ただし、パーマネントウェーブ処理や染毛処理などの化学処理を毛髪に施す際の中間処理剤や後処理剤として使用されるPPTトリートメント(ポリペプチドトリートメント)では、一般に加水分解タンパク質やその誘導体は高濃度に配合されていて、加水分解プロタミンやその誘導体の含有量が30質量%を超える場合もある。
【0066】
加水分解プロタミンまたはその誘導体からなる化粧品基材の毛髪化粧料中の含有量を上記のように規定しているのは、上記範囲より少ない場合は、加水分解プロタミンおよびその誘導体が毛髪に吸着する量が少なく、その結果として、加水分解プロタミンおよびその誘導体が毛髪に優れた保湿性や滑らかさを付与する効果が充分に発揮されないおそれがあり、また逆に、上記範囲より多くなると、毛髪にごわつき感やつっぱり感を与えるおそれがあるためである。
【0067】
本発明の皮膚化粧料は、加水分解プロタミンまたはその誘導体からなる化粧品基材を少なくとも1種含有することによって構成されるが、対象となる皮膚化粧料としては、例えば、化粧水、乳液、ローション、クリーム、ジェル、リップクリーム、サンスクリーンおよびファンデーションなどが挙げられる。
【0068】
そして、加水分解プロタミンまたはその誘導体からなる化粧品基材の皮膚化粧料中の含有量としては、皮膚化粧料の種類によっても異なるが、0.01〜20質量%が好ましく、0.1〜15質量%がより好ましい。
【0069】
加水分解プロタミンまたはその誘導体からなる化粧品基材の皮膚化粧料中での含有量を上記のように規定しているのは、上記範囲より少ない場合は、加水分解プロタミンおよびその誘導体が皮膚表面に吸着する量や経皮吸収する量が少なく、その結果として、加水分解プロタミンおよびその誘導体が皮膚に優れた保湿性や滑らかさなどを付与する効果が充分に発揮されないおそれがあり、また逆に、上記範囲より多くなると、皮膚にごわつき感やつっぱり感を与えるおそれがあるためである。
【0070】
本発明の毛髪化粧料や皮膚化粧料は、加水分解プロタミンまたはその誘導体からなる化粧品基材を少なくとも1種含有することによって構成されるが、加水分解プロタミンやその誘導体は、それぞれ単独で用いても良いし、また2種以上併用してもよい。そして、加水分解プロタミンおよびその誘導体を2種以上併用する場合は、異なった種類のものを2種以上含有させてもよいし、同種で加水分解プロタミンの分子量が異なるものを2種以上含有させてもよい。
【0071】
本発明の毛髪化粧料中や皮膚化粧料に、加水分解プロタミンまたはその誘導体からなる化粧品基材と併用して配合できる成分としては、例えば、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、カチオン性ポリマー、両性ポリマー、アニオン性ポリマーなどの合成ポリマー、半合成ポリマー類、動植物油、炭化水素類、エステル油、高級アルコール類、シリコーン油などの油剤、天然多糖類、保湿剤、低級アルコール類、アミノ酸類、増粘剤、動植物抽出物、シリコーン類、防腐剤、香料、プロタミン以外の動植物由来または微生物由来のタンパク質を加水分解した加水分解タンパク質およびそれらのエステル誘導体、第4級アンモニウム誘導体、シリル化誘導体、グリセリル誘導体、アシル化誘導体およびその塩などが挙げられるが、それら以外にも本発明の毛髪化粧料や皮膚化粧料の特性を損なわない範囲で適宜他の成分を添加することができる。
【実施例】
【0072】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はそれらの実施例にのみ限定されるものではない。なお、実施例中で用いている%はいずれも質量%である。また、実施例に先立ち、実施例などで使用するゲルろ過クロマトグラフィー(以下GPCと記す)分析の分析条件、窒素量測定法、カルボキシ基のモル数の算出法、加水分解プロタミンのアミノ基への各種反応試薬の導入率の算出法および加水分解プロタミンのエステル化率の測定法について記述する。
【0073】
[GPC分析条件]
分析カラム:東ソー(株)製TSKgel G3000PWXL(7.8mmID×300mm)
溶離液 :0.1%トリフルオロ酢酸−45%アセトニトリル−水溶液
溶出速度 :0.3ml/min
検出器 :UV検出器、220nm
標準試料 :リボヌクレアーゼA(MW13,700)
アプロチニン(MW6,500)
インシュリンB鎖(MW3,496)
ブラジキニン(MW1,060)
グルタチオン(MW307)
【0074】
[窒素量の測定法]
アミノ態窒素量は、van Slyke法により測定した。また、総窒素量は、改良デュマ法により測定した。
【0075】
[カルボキシ基のモル数の算出法]
van Slyke法で得られたアミノ態窒素量から求めたモル数と等モルの末端カルボキシ基が存在するものとし、アミノ酸分析から得られた酸性アミノ酸の存在モル数を加水分解タンパクのアミノ酸側鎖のカルボキシ基のモル数とし、これらの末端カルボキシ基のモル数とアミノ酸側鎖のカルボキシ基のモル数を合算した値を加水分解タンパク中の全カルボキシ基のモル数とした。
【0076】
[加水分解プロタミンのアミノ基への各種反応試薬の導入率の算出法]
加水分解プロタミンのアミノ基への各種反応前のプロタミン水溶液中のアミノ態窒素量と、反応後のプロタミン水溶液中のアミノ態窒素量を比較することによって、加水分解プロタミンのアミノ基への各種反応試薬の導入率を算出した。
【0077】
[エステル化率の測定法]
1)先ず、化粧品原料基準第二版注解に記載されているエステル価測定法に従い、試料1g中のエステルをけん化するのに要する水酸化カリウムのmg数(=エステル価)を算出する。すなわち、試料2〜3gを精密に秤り取り、200mlのフラスコに入れ、エタノール10mlおよび1%フェノールフタレインエタノール溶液を数滴加え、0.1mol/l水酸化カリウム水溶液で中和する。次いで、0.5mol/l水酸化カリウムエタノール液(水酸化カリウム35gを水20mlに溶解し、エタノールを加えて1000mlにした溶液)25mlを正確に加え、還流冷却器を付けて水浴上で1時間静かに煮沸する。煮沸後冷却し、0.5mol/lの塩酸水溶液で過量の水酸化カリウムを滴定する。このときの0.5mol/l塩酸水溶液の消費量(ml)をpとする。
【0078】
試料を用いない以外は同様にして(空試験)、0.5mol/l塩酸水溶液の消費量を求め、この消費量(ml)をqとする。このようにして得られたp、qと下記の式からエステル価を算出する。なお、下式において、28.053は、0.5mol/l塩酸水溶液1mlを中和するために必要な水酸化カリウムのミリグラム数である。
【0079】
【数1】

【0080】
2)次に、前記で得られたエステル価を、水酸化カリウムの分子量で除することで、試料1g中のエステルをけん化するために要する水酸化カリウムのモル数rを算出し、さらに、試料1g中に含まれているカルボキシ基のモル数sからエステル化率を算出する。すなわち、エステル化率は下記の式から求められる。
【0081】
エステル化率(%)=(r/s)×100
【0082】
[加水分解プロタミンまたはその誘導体からなる化粧品基材の製造]
実施例1:加水分解プロタミンの製造
鮭由来のプロタミン塩酸塩500gをイオン交換水4500gに溶解させ、20%NaOH水溶液にてpHを8に調整後、トリプシン2.36gを添加し、45℃で10時間加熱することで、プロタミンを加水分解した。さらに、加水分解プロタミン水溶液を80℃で30分間加熱することで、トリプシンを失活させた後、凍結乾燥に供することによって、加水分解プロタミン粉末440gを得た。
【0083】
得られた加水分解プロタミンのGPC分析を前記条件で行い、原料のプロタミン塩酸塩のGPCクロマトグラムと比較した。その結果を図1に示すが、原料のプロタミン塩酸塩がトリプシンによって極めて均一の分子量に加水分解されていることが分かった。また、前記の方法で測定した総窒素量とアミノ態窒素量から求めたアミノ酸平均重合度は7.4であった。
【0084】
実施例2:N−アシル化加水分解プロタミンの製造
実施例1で得られた加水分解プロタミン粉末40.0gを25%水溶液になるように溶解させ、20%NaOH水溶液を加えて、pH9に調整した。この溶液を45℃で撹拌しながら、塩化ラウロイル6.09g(加水分解プロタミンのアミノ基に対して1当量)を1時間かけて滴下してアシル化反応を行った。塩化ラウロイルの滴下中は、20%NaOH水溶液を添加して、溶液のpHを9に保った。滴下終了後、50℃で2時間撹拌を続け反応を完結させた。反応終了後、反応液に希硫酸を加えてpHを2にしてアシル化物を不溶性物質として回収した。この不溶性物質をイオン交換水でpHが3.5になるまで洗浄を繰り返し、未反応の加水分解プロタミンや生じた塩類を除去した。その後、ラウロイル加水分解プロタミンに20%KOH水溶液とイオン交換水を添加して、pHを7に調整することで、固形分20%のN−アシル化加水分解プロタミン(ラウロイル加水分解プロタミン)水溶液を91.0g得た。なお、前記の加水分解プロタミンのアミノ基への各種反応試薬の導入率の算出法で算出したN−アシル化率は96%であった。
【0085】
実施例3:N−グリセリル加水分解プロタミンの製造
実施例1で得られた加水分解プロタミン粉末40.0gを25%水溶液になるように溶解させ、20%NaOH水溶液を加えて、pH9に調整した。この溶液を55℃で撹拌しながら、グリシドール2.06g(加水分解プロタミンのアミノ基に対して1当量)を30分かけて滴下してグリセリル化反応を行った。滴下終了後、55℃で2時間撹拌を続け反応を完結させた。反応終了後、反応液に希塩酸を加えて中和し、電気透析で脱塩した。その後、濃縮によって濃度を調整して、固形分20%のN−グリセリル加水分解プロタミン水溶液を79.4g得た。なお、前記の加水分解プロタミンのアミノ基への各種反応試薬の導入率の算出法で算出したN−グリセリル化率は72%であった。
【0086】
実施例4:N−シリル化加水分解プロタミンの製造
実施例1で得られた加水分解プロタミン粉末40.0gを25%水溶液になるように溶解させ、20%NaOH水溶液を加えてpH9に調整した。この溶液を55℃で撹拌しながら、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン6.93g(加水分解プロタミンのアミノ基に対して1当量)を1時間かけて滴下してシリル化反応を行った。滴下終了後、55℃で3時間撹拌を続け反応を完結させた。反応終了後、反応液に希塩酸を加えてpHを7に調整し、電気透析で脱塩した。その後、濃縮によって濃度を調整して、固形分20%のN−シリル化加水分解プロタミン〔N−〔2−ヒドロキシ−3−〔3−(ジヒドロキシメチルシリル)プロポキシ〕プロピル〕加水分解プロタミン〕水溶液を90.2g得た。なお、前記の加水分解プロタミンのアミノ基への各種反応試薬の導入率の算出法で算出したN−シリル化率は67%であった。
【0087】
実施例5:N−第4級アンモニウム化加水分解プロタミンの製造
実施例1で得られた加水分解プロタミン粉末40.0gを25%水溶液になるように溶解させ、20%NaOH水溶液を加えてpH9に調整した。この溶液を55℃で撹拌しながら、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド4.23g(加水分解プロタミンのアミノ基に対して1当量)を30分間かけて滴下してN−第4級アンモニウム化反応を行った。滴下終了後、55℃で3時間撹拌を続け反応を完結させた。反応終了後、反応液に希塩酸を加えてpHを7に調整し、電気透析で脱塩した。その後、濃縮によって濃度を調整して、固形分20%のN−第4級アンモニウム化加水分解プロタミン水溶液〔塩化N−〔2−ヒドロキシ−3−(トリメチルアンモニオ)プロピル〕加水分解プロタミン〕を84.79g得た。なお、前記の加水分解プロタミンのアミノ基への各種反応試薬の導入率の算出法で算出した第4級アンモニウム化率は70%であった。
【0088】
実施例6:加水分解プロタミングリセリルエステルの製造
実施例1で得られた加水分解プロタミン粉末40.0gを40%水溶液になるように溶解させ、20%硫酸を加えて、pH4に調整した。この溶液を55℃で撹拌しながら、グリシドール4.13g(加水分解プロタミンのカルボキシ基に対して2当量)を30分間かけて滴下してカルボキシ基のグリセリルエステル化反応を行った。グリシドールの滴下中は、20%硫酸を添加して、溶液のpHを4に保った。滴下終了後、55℃で2時間撹拌を続け反応を完結させた。反応終了後、反応液に5%NaOH水溶液を加えてpHを7に調整し、電気透析で脱塩した。その後、濃縮によって濃度を調整して、固形分20%の加水分解プロタミングリセリルエステルの水溶液を75.0g得た。なお、前記のエステル化率の測定法で得られたグリセリルエステル化率は68%であった。
【0089】
実施例7:加水分解プロタミンエチルエステルの製造
実施例1で得られた加水分解プロタミン粉末40.0gを300mLの三ツ口フラスコに入れ、エタノール200mLを加えて撹拌しながら、エタノールの沸点まで加熱し、冷気管を用いてエタノールを還流した。このエタノール溶液に無水塩酸ガスを毎分20mLで15分間吹き込んだ後、さらに3時間還流を続けて反応を終了した。反応液を冷却後、撹拌しながらアンモニアガスを少量ずつ加えて、反応液をpH6.5にした後、濃縮によって濃度を調整して、固形分20%の加水分解プロタミンエチルエステルのエタノール溶液を175.0g得た。なお、前記のエステル化率の測定法で得られたエチルエステル化率は94%であった。
【0090】
実施例8:N−アルキルグリセリル加水分解プロタミンの製造
実施例1で得られた加水分解プロタミン粉末40.0gを25%水溶液になるように溶解させ、20%NaOH水溶液を加えてpH9に調整した。この溶液を55℃で撹拌しながら、ブチルグリシジルエーテル3.63g(加水分解プロタミンのアミノ基に対して1当量)を30分間かけて滴下してN−アルキルグリセリル化反応を行った。滴下終了後、55℃で3時間撹拌を続け反応を完結させた。反応終了後、反応液に希塩酸を加えて中和し、電気透析で脱塩した。その後、濃縮によって濃度を調整して、固形分20%のN−アルキルグリセリル加水分解プロタミン(N−ブチルグリセリル加水分解プロタミン)水溶液を81.5g得た。なお、前記の加水分解プロタミンのアミノ基への各種反応試薬の導入率の算出法で算出したN−アルキルグリセリル化率は69%であった。
【0091】
実施例9:N−(2−ヒドロキシアルキル)加水分解プロタミンの製造
実施例1で得られた加水分解プロタミン粉末40.0gを25%水溶液になるように溶解させ、20%NaOH水溶液を加えてpH9に調整した。この溶液を55℃で撹拌しながら、1,2−エポキシヘキサン2.79g(加水分解プロタミンのアミノ基に対して1当量)を30分間かけて滴下してN−(2−ヒドロキシアルキル)化反応を行った。滴下終了後、55℃で3時間撹拌を続け反応を完結させた。反応終了後、反応液に希塩酸を加えて中和し、電気透析で脱塩した。その後、濃縮によって濃度を調整して、固形分20%のN−(2−ヒドロキシアルキル)加水分解プロタミン〔N−(2−ヒドロキシヘキシル)加水分解プロタミン〕水溶液を79.8g得た。なお、前記の加水分解プロタミンのアミノ基への各種反応試薬の導入率の算出法で算出したN−(2−ヒドロキシアルキル)化率は70%であった。
【0092】
[加水分解プロタミンおよびその誘導体の毛髪への吸着性試験]
実施例1〜9の加水分解プロタミンおよびその誘導体の毛髪への吸着性を調べた。まず、毛髪の損傷度を一定にするため、6%過酸化水素水:2%アンモニア水=1:1でブリーチ処理(脱色処理)した毛髪を用いて作製した長さ15cmで重さ2gの毛束を用意した。次に、容量100mlの密栓付きスクリュー管(ガラス瓶)に毛束を1本ずつ入れ、固形分濃度1%に調整した実施例1〜9の各被験試料の水溶液50mlを添加し、密栓後、40℃の湯浴中でスクリュー管を30rpmで回転した。スクリュー管を湯浴中で回転して処理を開始してから、5、10、30、60、120分後に5mlずつ採取した処理溶液中のタンパク濃度を、以下の測定条件で液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて測定した。なお、比較品として、実施例1の加水分解プロタミンの代わりに、一般的に化粧品原料として使用されている加水分解コラーゲンを用いた。また、実施例2〜9の加水分解プロタミン誘導体の代わりに、前記加水分解プロタミンを加水分解コラーゲンに置き換えて調製した加水分解コラーゲン誘導体を実施例2〜9の比較品としてそれぞれ用いた。なお、用いた加水分解コラーゲンの平均アミノ酸重合度は7.5で実施例の加水分解プロタミンとほぼ同じである。
【0093】
HPLCの測定条件
分析用カラム:TSKgel G2000SWxL
(直径7.8mm×長さ300mm)
移動相 :アセトニトリル−水−トリフルオロ酢酸=20:80:0.1
流速 :0.8ml/min.
カラム恒温槽:40℃
検出器 :UV検出器、205nm
検量線用試料:それぞれの加水分解タンパク質およびその誘導体の0.02%、0.01%水溶液
【0094】
HPLCクロマトグラムのピークの面積から各測定時での被検試料水溶液中のタンパク濃度を求め、測定開始前の濃度と比較して、タンパク質濃度の低下量から、毛髪1g当たりの各被験試料の吸着量を計算した。その結果を表1に示す。
【0095】
【表1】

【0096】
表1から明らかなように、実施例1〜9の加水分解プロタミンおよびその誘導体は、それぞれの比較品である加水分解コラーゲンおよびその誘導体よりも毛髪への収着量が優れていた。すなわち、加水分解プロタミンおよびその誘導体は、加水分解タンパク質の特性や誘導体として付加された官能基が有する特質を毛髪に付与する効果が高いと考えられる。
【0097】
[加水分解プロタミンまたはその誘導体からなる化粧品基材を含有する化粧料]
実施例10:化粧水
表2に示す組成中の(12)に(1)〜(6)を溶解して水溶液とした。別に、(7)に(8)〜(11)を溶解し、これを前記の水溶液に加えて可溶化することにより、化粧水を調製した。
【0098】


【表2】

【0099】
実施例11:シャンプー
表3に示す組成中の(8)に(2)を混合し、50℃で加熱溶解して水溶液とした。この水溶液に(3)、(4)、(5)および(6)を加え70℃で加熱溶解させた後、(1)および(7)加えて40℃で加熱溶解させることによって、シャンプーを調製した。
【0100】
【表3】

【0101】
実施例12:クリーム
表4に示す組成のA相を76℃で加熱し、均一に溶解した。別に、B相を73℃で加熱溶解した。次に、アンカー撹拌下でA相にB相をゆっくりと添加した後、C相を加え、3000rpm・5分間ホモミキサーで処理した。その後、再度アンカー撹拌にて30℃まで冷却することによって、クリームを調製した。
【0102】

【表4】

【0103】
実施例13:パーマネントウェーブ用第1剤
表5に示す組成中の(9)に(2)〜(8)を順次加えて、よく撹拌した後、(1)を添加することによって、パーマネントウェーブ用第1剤を調製した。
【0104】
【表5】

【0105】
実施例14:ヘアトリートメント
表6に示す組成のA相およびB相をそれぞれ80℃で加熱した後、アンカー撹拌下、A相にB相を徐々に添加した。その後、この混合物を冷却することによって、ヘアトリートメントを調製した。
【0106】
【表6】

【0107】
実施例15:パック
表7に示す組成のA相、B相およびC相をそれぞれ均一に溶解し、A相にB相を加え可溶化した後、C相を加えることによって、パックを調製した。
【0108】
【表7】

【0109】
実施例16:乳化型ファンデーション(クリームタイプ)
表8に示す組成の水相を加熱撹拌後、十分に混合粉砕した粉体部を添加してホモミキサー処理した。さらに、加熱混合した油相を加えてホモミキサー処理した後、撹拌しながら香料を添加して室温まで冷却することによって、乳化型ファンデーションを調製した。
【0110】

【表8】

【0111】
実施例17:乳液
表9に示す組成のA相を76℃で加熱し、均一に溶解した。別に、B相を73℃で加熱し溶解した。次に、アンカー撹拌下でA相にB相をゆっくりと添加した後、C相を加え、3000rpm・3分間ホモミキサーで処理した。その後、再度アンカー撹拌にて30℃まで冷却することによって、乳液を調製した。
【0112】
【表9】

【0113】
実施例18:酸化型染毛剤(第1剤)
表10に示す組成中の(1)に(2)を少量ずつ加えて混合し、ジェル状にした。別に、(3)〜(7)を混合し、(8)に溶解した後、(9)〜(13)を順次加えて、よく撹拌した。これに前記ジェル状物を混合した後、(14)、(15)および(16)を添加し、撹拌することによって、酸化型染毛剤(第1剤)を調製した。
【0114】
【表10】

【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】実施例1の加水分解プロタミンとその原料であるプロタミン塩酸塩のGPCクロマトグラムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロタミンをプロテアーゼによって加水分解することで得られる加水分解プロタミンまたはその誘導体からなることを特徴とする化粧品基材。
【請求項2】
前記プロテアーゼがトリプシンであることを特徴とする請求項1に記載の化粧品基材。
【請求項3】
加水分解プロタミンが、アルギニンの含有率が50〜70mol%であるアミノ酸組成のプロタミンを加水分解することで得られることを特徴とする請求項1または2に記載の化粧品基材。
【請求項4】
加水分解プロタミンの平均アミノ酸重合度が2〜20であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の化粧品基材。
【請求項5】
加水分解プロタミンの誘導体が、N−アシル化加水分解プロタミン、N−グリセリル加水分解プロタミン、N−シリル化加水分解プロタミン、N−第4級アンモニウム化加水分解プロタミン、加水分解プロタミングリセリルエステル、加水分解プロタミンアルキルエステル、N−アルキルグリセリル加水分解プロタミンまたはN−(2−ヒドロキシアルキル)加水分解プロタミンである請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の化粧品基材。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の化粧品基材を含有することを特徴とする毛髪化粧料。
【請求項7】
前記化粧品基材の含有量が0.05〜30質量%であることを特徴とする請求項6に記載の毛髪化粧料。
【請求項8】

請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の化粧品基材を含有することを特徴とする皮膚化粧料。
【請求項9】
前記化粧品基材の含有量が0.01〜20質量%であることを特徴とする請求項8に記載の皮膚化粧料。







【図1】
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【公開番号】特開2009−203205(P2009−203205A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−49582(P2008−49582)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000147213)株式会社成和化成 (45)
【Fターム(参考)】