説明

化粧品用容器の製造方法及び化粧品用容器

【課題】パール顔料を用いることも、多層構造にすることも、プリフォームを形成することもなく、良好な真珠光沢を有する小型ボトルを、安価に提供する。
【解決手段】スチレンブタジエンコポリマーのペレット(A)と、乳白色オレフィン系合成樹脂(ポリプロピレン,低密度ポリエチレンなど)のペレット(B)を、重量比において、ペレット(A):ペレット(B)=55:45〜90:10の範囲内でよく混合した混合ペレットを、ダイレクトブロー成形用のスクリュー式押出成形機に投入して加熱・溶融・混練し、一層構造のチューブ状パリソンを吐出し、このパリソンの下端をピンチオフする様にブロー成形用金型を閉型し、ブロー比2〜3倍のダイレクトブローを実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧品用容器に係り、特に、真珠光沢を呈する容量20ml以下の化粧品用小型ボトルの製造にも適する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、真珠光沢を備えたボトルは、塗装や蒸着などによる後加工が主流であったが、近年では、二層構造のボトルの最外層にパール顔料を含有させたり(特許文献1)、三層構造のボトルの中間層にパールエッセンスを含有させた多層構造のブロー成形ボトルが提案されている(特許文献2)。
【0003】
また、最外層をポリエステル系樹脂70〜96.5重量%にメタクリル系樹脂3.5〜30重量%を添加した組成物とし、中間層を不透明な白色又は着色された熱可塑性樹脂層とした多層構造のブロー成形ボトルも提案されている(特許文献3)。
【0004】
さらに、熱可塑性ポリエステルと、オレフィン・酢酸ビニル共重合体鹸化物とを所定範囲で配合した組成物を射出成形して形成したプリフォームを二軸延伸ブローによってボトル化することで、パール状の光沢を有するボトルを成形することができるとする提案もある(特許文献4)。
【特許文献1】特開平9−77039号公報
【特許文献2】特許第3014061号公報
【特許文献3】特開平6−210708号公報
【特許文献4】特公平7−340号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1,2の方法は、高価なパール顔料を用いなければならないという欠点がある。また、特許文献1〜3の方法は、多層ブロー成形であり、特許文献4は、二軸延伸ブロー成形であるから、マスカラやリップグロスなどといった化粧品用の小型ボトルの製造に適していない。
【0006】
そこで、本発明は、パール顔料を用いなくても真珠光沢を有する化粧品用容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するためになされた本発明の化粧品用容器の製造方法は、
(1)スチレンブタジエンコポリマーのペレットと、スチレンブタジエンコポリマーと溶融温度が同程度の物性値を有する乳白色オレフィン系合成樹脂のペレットとを、前記乳白色オレフィン系合成樹脂の混合割合が重量比10%以上であってスチレンブタジエンコポリマーがリッチとなる混合比の範囲内で混合した混合ペレットを準備し、
(2)該混合ペレットをダイレクトブロー成形用のスクリュー式押出成形機に投入して加熱・溶融・混練した上で吐出口より一層構造のチューブ状パリソンとして吐出し、
(3)該パリソンの下端をピンチオフする様にブロー成形用金型を型閉じし、
(4)該金型のキャビティ内でブロー比3以下の条件で延伸させること
を特徴とする。
【0008】
また、本発明の目的を達成する化粧品用容器は、スチレンブタジエンコポリマーと、スチレンブタジエンコポリマーと溶融温度が同程度の物性値を有する乳白色オレフィン系合成樹脂とが、前記乳白色オレフィン系合成樹脂の混合割合が重量比10%以上であってスチレンブタジエンコポリマーがリッチとなる混合比の範囲内で溶融混練された素材をダイレクトブローにて一軸方向に延伸させてなる一層構造の化粧品用容器である。
【0009】
ここで、「スチレンブタジエンコポリマーと溶融温度が同程度の物性値を有する乳白色オレフィン系合成樹脂」としては、ポリプロピレン、低密度ポリエチレン等を用いるとよい。乳白色オレフィン系合成樹脂を用いることにより、白色顔料を添加しなくても、ホワイト系のパール調に仕上がる。なお、赤,青等の顔料を添加することにより、ピンク系,ブルー系等のパール調ボトルとすることができる。
【0010】
また、スチレンブタジエンコポリマーのペレットと乳白色オレフィン系合成樹脂のペレットは、ほぼ同じ大きさにしておくと混合し易い。
【0011】
本発明の方法では、各素材のペレットを溶融して混合材料ペレットにする必要がなく、そのままダイレクトブロー成形用のスクリュー式押出成形機に投入して加熱・溶融・混練することができる。従って、スチレンブタジエンコポリマーのペレットと、乳白色オレフィン系合成樹脂のペレットを用意しておき、上述の配合比の範囲内となる様に押出成形機に投入するだけでよい。このとき、オレフィン系合成樹脂の混合割合を重量比10%に近付ける程、輝きの強調された真珠光沢とすることができる。逆に、オレフィン系合成樹脂の混合割合を重量比50%に近付ける程、落ち着きのある真珠光沢とすることができる。
【0012】
なお、真珠光沢は輝きと落ち着きのバランスに対して年齢・性別による好みの差がある。しかしながら、スチレンブタジエンコポリマー:乳白色オレフィン系合成樹脂=55:45〜90:10の範囲であれば、需用者の年齢や性別により、それなりに好まれる様な真珠光沢を有するボトルを製造することができる。そして、スチレンブタジエンコポリマー:乳白色オレフィン系合成樹脂=60:40〜80:20(より望ましくは、70:30〜80:20)の範囲であれば、どの年齢層の男女にも、真珠光沢としての価値を十分に見出させることができる。
【0013】
なお、スチレンブタジエンコポリマーを100%として白色顔料を混ぜた素材では、白色のテカテカしたボトルとなり、真珠の光沢感は得られない。一方、乳白色オレフィン系合成樹脂を100%とした場合にも真珠光沢は得られない。
【0014】
従って、本発明の目的を達成する化粧品用容器の具体的な構成を示すと、「スチレンブタジエンコポリマーと、スチレンブタジエンコポリマーと溶融温度が同程度の物性値を有する乳白色オレフィン系合成樹脂とが、前記乳白色オレフィン系合成樹脂の混合割合が重量比10%以上であってスチレンブタジエンコポリマーがリッチとなる混合比の範囲内で溶融混練された素材をダイレクトブローにて一軸方向に延伸させてなる一層構造の化粧品用化粧品用容器であって、前記乳白色オレフィン系合成樹脂がポリプロピレン及び/又は低密度ポリエチレンであり、前記混合割合が重量比において40:60〜10:90のスチレンブタジエンコポリマーリッチに調整された化粧品用小型ボトル(容量5〜20ml程度)。」となる。
【0015】
本発明の方法は、ダイレクトブローによる一層構造容器の製造方法であるから、容量5〜20ml程度の化粧品用小型ボトル(ネイルカラー,リップグロス,マスカラなどのボトル)も容易に製造することができるのである。そして、上記配合の素材を用いることにより、ムラのない良好な真珠光沢を有する化粧品用小型ボトルを製造することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、パール顔料を用いることも、多層構造にすることも、プリフォームを形成することもなく、良好な真珠光沢を有する化粧品用容器(特に、小型ボトル)を、安価に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。実施形態においては、一層構造の容量10mlの化粧品用小型ボトル(ネイルカラー用ボトル)をダイレクトブロー成形により製造する方法を説明する。
【0018】
まず、原料として、スチレンブタジエンコポリマー(以下「SBP」と記す。)のペレット(A)と、乳白色オレフィン系合成樹脂(ポリプロピレン(以下、「PP」と記す。)、低密度ポリエチレン(以下、「LDPE」と記す。)、PPとLDPEの混合物など)のペレット(B)を準備する。そして、これらを重量比において、ペレット(A):ペレット(B)=55:45〜90:10の範囲内でよく混合して混合ペレットを準備しておく。
【0019】
次に、この混合ペレットを、ダイレクトブロー成形用のスクリュー式押出成形機に投入し、押出成形機を駆動させ、加熱・溶融・混練を実行する。そして、押出成形機内の原料が十分に溶融・混練されたら、吐出口から一層構造のチューブ状パリソンの吐出を開始する。
【0020】
そして、このパリソンの下端をピンチオフする様にブロー成形用金型を型閉じし、ブローピンを挿入し、ブローエアーを吐出する。このとき、パリソン径・パリソン肉厚は、キャビティの容積との関係でブロー比が2〜3倍となる様に設定しておく。
【0021】
こうして、ホワイト系パール調の外観を呈する化粧品用小型ボトルを製造することができる。なお、押出成形機に混合ペレットを投入する際に、顔料を添加することにより、赤色顔料添加によるピンク系、青色顔料添加によるブルー系など、白以外の真珠光沢を呈する様に製造することができる。
【実施例】
【0022】
原料素材として、ポリプロピレン(日本ポリプロ(株)製「ノバテックPP(商品名)」。)、低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン(株)製「ノバテックLD(商品名)」。)、スチレンブタジエンコポリマー(シェブロンフィリップス化学(株)製「K−レジン(商品名)」。)を準備し、下記表の混合比にて化粧品用小型ボトルをダイレクトブロー成形により、製造した。
【0023】
【表1】

【0024】
No.3〜No.8,No.10が、実施例である。No.1,No.2は比較例である。No.1〜No.9は、乳白色オレフィン系合成樹脂をPPとして、SBPとの混合割合が真珠光沢に対して与える影響を調べる実験をするために製造した。また、No.10は、乳白色オレフィン系合成樹脂がポリプロピレンに限らないことを確認するために製造した。
【0025】
No.1〜No.10を用いて、図1に示す様にアンケート用比較サンプルを作成し、女性被験者23名、男性被験者12名の合計35名を対象に、「質感(パール感・光沢など)が良いと思う順に3番まで選んで下さい。」という質問を行った結果、下記の表の結果が得られた。なお、アンケート用比較サンプルの丸数字が表1のNo.に対応している。
【0026】
【表2】

【0027】
このアンケート調査の結果、No.1(PP100%)のボトルを3位以内に選んだ回答者はなかった。
【0028】
一方、No.9(SBP100%)のボトルは、男性2名が3位以内に選んでいた。ちなみに、これら2名の男性の選択した第1位〜第3位は、No.8,9,10であった。
【0029】
また、3位以内に入った累積数では、No.8(A:B=90:10)の31票、No.10(A:B=70:30)の23票、No.4(A:B=60:40)の21票、No.7(A:B=80:20)の17票が、回答者の半数以上の支持を得た結果となっている。中でもNo.8(A:B=90:10)は、回答者の約9割の支持を得ていることになる。
【0030】
女性だけで見ると、3位以内に入った累積数は、No.8(A:B=90:10)の20票、No.4(A:B=60:40)の16票、No.7(A:B=80:20)の15票、No.10(A:B=70:30)の14票の順に高い支持を得ている。いずれも、女性回答者の半数以上が支持した結果となっている。中でも、No.8(A:B=90:10)は、女性回答者の9割強の支持を得ている。なお、No.8(A:B=90:10)は、第1位よりも第2位又は第3位に投票した女性が多くなっている。逆に、No.4(A:B=60:40)は、女性回答者の約半数に相当する11票の1位投票を得ている。これは、No.4はSBPの割合が少なくなった分だけ輝きよりも落ち着きという点でのパール感を感じさせたからであろうと考える。化粧品需用者である女性にとって、落ち着いた真珠光沢の高級感が第1位投票の原因になったものと考えることができる。
【0031】
なお、女性回答者において、No.10(A:B=70:30)は、第1位,第2位,第3位がほぼ同数の得票となっている。これは、女性にとっては、No.10が、輝きと落ち着きという点でのバランスが最も良く感じられた結果であろうと考える。
【0032】
男性だけで見た場合には、3位以内に入った累積数で、No.8(A:B=90:10)の11票、No.10(A:B=70:30)の9票は、75%以上の支持を得ている。このことから、男性の方が女性よりもメタリック感の強い真珠光沢の輝きを好む傾向にあるととることができる。その一方、No.4(A:B=60:40)に4割程度(5票)の支持が得られている。これは、男性は、どちらかというと輝きを好むが、落ち着きのある真珠光沢もまた好まれる場合があることを意味していると解する。
【0033】
以上のアンケートより、スチレンブタジエンコポリマーと乳白色オレフィン系合成樹脂の混合によるものがよく、その混合比は、スチレンブタジエンコポリマーリッチとなっている場合に、真珠光沢を感じさせるものとなることが分かる。そして、スチレンブタジエンコポリマー:乳白色オレフィン系合成樹脂=55:45〜90:10の範囲、望ましくは60:40〜90:10の範囲、より望ましくは70:30〜90:10の範囲で混合するとよいという結果が得られた。
【0034】
次に、No.2、No.5、No.8のボトルについて、引張降伏強さ、引張強さ、伸び、曲げ強さ、曲げ弾性率、白色度を計測した結果を示す。
【0035】
【表3】

【0036】
「引張降伏強さ、引張強さ、伸び」は、JIS K 7113(試験速度100mm/min)、「曲げ強さ、曲げ弾性率」は、JIS K 7171(試験速度1mm/min、支点間距離64mm)、「白色度」は、中心波長457nm(青色)による白色度測定(JIS P 8148に基づいた標準白色板で標準値を設定し測定)により、それぞれの計測を行った。
【0037】
これら計測結果からは、実施例においてプラスチックボトルの備えるべき物理的強度等に問題はなく、また、十分な白色度が得られることから、ホワイトパールのイメージも十分に発揮されるということが数値的にも確認された。
【0038】
なお、実施例では、LDPEを用いたボトルは、SBP:LDPE=70:30の1種類だけであるが、PPの場合と同様に、60:40〜90:10のSBPリッチの混合比で製造した場合に、十分に真珠光沢といえる小型ボトルが製造できる。その理由は、アンケートに対する女性の回答において、No.4(A:B=60:40)が16票、No.7(A:B=80:20)が15票、No.10(A:B=70:30)が14票とほぼ同数の支持を得ていることから十分に予測できるといえる。なお、回答において、PP30%のNo.5、PP25%のNo.6が支持率が低くなったのは、ボトルの配置の仕方による可能性もある。No.5は、女性支持率の最も高かったNo.4の右隣という不利があったと考えることができる。逆に、No.10は、不人気であったNo.9の右隣にあったことが高支持率に繋がった可能性が窺える。なお、No.10はNo.5の真下の位置であるが、回答者の心理として、1,2,3,…と横に見比べながら感じた印象で回答している可能性が高い。そのことは、人気の高かったNo.7の左隣のNo.6が支持数が少なかったことからも窺える。
【0039】
よって、今回の実施例を通じて、SBPとLDPEの組合せにおいても、60:40〜90:10のSBPリッチの混合比が消費者に対して真珠光沢感を感じさせることができるであろうという予測は十分に根拠があるといえる。また、乳白色オレフィン系合成樹脂として、PP,LDPEを単体で用いるのではなく、両者を混合したものを用いても同様の結果となるであろうということも、物性値の関係から予測できる。従って、本発明は、実施例にだけ限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において、種々の混合比で実施可能なものということができる。加えて、ネイルカラーボトルに限らず、リップグロスやマスカラなどのボトル(通常5〜20ml程度が多い)の様な他の種類の化粧品用小型ボトルはもちろん、クリーム類を収納するためのジャー(通常数十ml〜100ml程度)の製造に本発明の方法を適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施例を用いたアンケート用比較サンプルのスキャナ画像として作成した正面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレンブタジエンコポリマーのペレットと、スチレンブタジエンコポリマーと溶融温度が同程度の物性値を有する乳白色オレフィン系合成樹脂のペレットとを、前記乳白色オレフィン系合成樹脂の混合割合が重量比10%以上であってスチレンブタジエンコポリマーがリッチとなる混合比の範囲内で混合した混合ペレットを準備し、
該混合ペレットをダイレクトブロー成形用のスクリュー式押出成形機に投入して加熱・溶融・混練した上で吐出口より一層構造のチューブ状パリソンとして吐出し、
該パリソンの下端をピンチオフする様にブロー成形用金型を型閉じし、
該金型のキャビティ内でブロー比3以下の条件で延伸させること
を特徴とする化粧品用容器の製造方法。
【請求項2】
スチレンブタジエンコポリマーと、スチレンブタジエンコポリマーと溶融温度が同程度の物性値を有する乳白色オレフィン系合成樹脂とが、前記乳白色オレフィン系合成樹脂の混合割合が重量比10%以上であってスチレンブタジエンコポリマーがリッチとなる混合比の範囲内で溶融混練された素材をダイレクトブローにて一軸方向に延伸させてなる一層構造の化粧品用容器。
【請求項3】
前記乳白色オレフィン系合成樹脂がポリプロピレン及び/又は低密度ポリエチレンであり、前記混合割合が重量比において40:60〜10:90のスチレンブタジエンコポリマーリッチに調整された小型ボトルであることを特徴とする請求項2記載の化粧品用容器。

【図1】
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【公開番号】特開2009−868(P2009−868A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−162805(P2007−162805)
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【出願人】(591029149)本多プラス株式会社 (18)
【Fターム(参考)】