説明

化粧料及びその製造方法

【課題】 界面活性剤、高級アルコール及び水からなる層状ゲル構造体を有する化粧料であって、当該層状ゲル構造体の安定性が改善された化粧料を提供する。
【解決手段】 界面活性剤と、高級アルコールと、水とにより形成される層状ゲル構造体を有する化粧料処方中に、特定構造の水溶性シラン誘導体を配合することによって、当該層状ゲル構造体の安定性が著しく改善される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は化粧料、特に界面活性剤、高級アルコール及び水からなる層状ゲル構造体を有する化粧料における当該層状ゲル構造体の安定性の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧料の分野では、従来、界面活性剤/高級アルコール/水の系によって層状ゲル構造体を形成することが知られている。そして、界面活性剤により乳化された水中油型のクリーム製剤においては、一般に、このような界面活性剤/高級アルコール/水系の層状ゲル構造体を形成し、外相を固化することによって乳化系を安定化している(例えば、非特許文献1参照)。また、近年では、このような界面活性剤/高級アルコール/水系の層状ゲル構造体を形成することで、塗布時におけるゲル構造の崩壊により、優れた使用感触を付与する化粧料の開発も進められている。
【0003】
しかしながら、以上のような界面活性剤/高級アルコール/水系により形成される層状のゲル構造体においては、他成分あるいは温度等の影響によって構造が崩壊してしまうことがあった。このため、クリーム製剤においては経時で乳化物の分離等を生じる場合があり、また、ゲル製剤においても実使用に満足のいく程度の製剤安定性を維持することは難しかった。
【0004】
【非特許文献1】福島正二著,「セチルアルコールの物理化学」,フレグランスジャーナル社,第6章,76〜88頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記従来技術の課題に鑑みて行なわれたものであり、その目的は、界面活性剤、高級アルコール及び水からなる層状ゲル構造体を有する化粧料であって、当該層状ゲル構造体の安定性が改善された化粧料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記従来技術の課題に鑑み、本発明者らが鋭意検討を行なった結果、界面活性剤と、高級アルコールと、水とにより形成される層状ゲル構造体を有する化粧料処方中に、特定構造の水溶性シラン誘導体を配合することによって、当該層状ゲル構造体の安定性が著しく改善されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明にかかる化粧料は、(A)界面活性剤と、(B)高級アルコールと、(C)水とを含む化粧料処方中に、(D)下記一般式(1)で示される水溶性シラン誘導体を配合して得られ、該(A)界面活性剤、(B)高級アルコール及び(C)水により形成される層状ゲル構造体を有することを特徴とするものである。
Si−(OR (1)
(式中、Rは少なくとも1つが多価アルコール残基であり、その他はアルキル基であってもよい。)
【0008】
また、前記化粧料において、前記(A)界面活性剤がイオン性界面活性剤であることが好適である。
また、前記化粧料において、前記(A)界面活性剤が直鎖のポリオキシエチレンアルキルエーテルであることが好適である。
また、前記化粧料において、前記(D)水溶性シラン誘導体がグリセリン置換水溶性シラン誘導体であることが好適である。
【0009】
また、前記化粧料において、前記(D)水溶性シラン誘導体の配合量が、化粧料全量に対して0.1〜20.0質量%であることが好適である。
また、前記化粧料において、さらに(E)油分を含む乳化化粧料であることが好適である。
【0010】
また、本発明にかかる化粧料の製造方法は、(A)界面活性剤と、(B)高級アルコールと、(C)水とを含み、該(A)界面活性剤、(B)高級アルコール及び(C)水により形成される層状ゲル構造体を有する化粧料処方中に、(D)下記一般式(1)で示される水溶性シラン誘導体を配合することを特徴とするものである。
Si−(OR (1)
(式中、Rは少なくとも1つが多価アルコール残基であり、その他はアルキル基であってもよい。)
【0011】
また、前記化粧料の製造方法において、前記(A)界面活性剤がイオン性界面活性剤であることが好適である。
また、前記化粧料の製造方法において、前記(A)界面活性剤が直鎖のポリオキシエチレンアルキルエーテルであることが好適である。
また、前記化粧料の製造方法において、前記(D)水溶性シラン誘導体がグリセリン置換水溶性シラン誘導体であることが好適である。
【0012】
また、前記化粧料の製造方法において、前記(D)水溶性シラン誘導体の配合量が、化粧料全量に対して0.1〜20.0質量%であることが好適である。
また、前記化粧料の製造方法において、さらに(E)油分を配合する乳化化粧料の製造方法であることが好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、界面活性剤と、高級アルコールと、水とにより形成される層状ゲル構造体を有する化粧料処方中に、特定構造の水溶性シラン誘導体を配合することによって、当該層状ゲル構造体の安定性が著しく改善される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明にかかる化粧料は、(A)界面活性剤と、(B)高級アルコールと、(C)水とを含む化粧料処方中に、(D)下記一般式(1)で示される水溶性シラン誘導体を配合して得られ、該(A)界面活性剤、(B)高級アルコール及び(C)水により形成される層状ゲル構造体を有することを特徴とするものである。
Si−(OR (1)
(式中、Rは少なくとも1つが多価アルコール残基であり、その他はアルキル基であってもよい。)
【0015】
(A)界面活性剤
本発明に用いられる(A)界面活性剤は、高級アルコール及び水とともに層状ゲル構造体を形成し得るものであれば、特に限定することなく用いることができる。(A)界面活性剤は直鎖状、分岐状のいずれであっても構わないが、直鎖状であることがより好ましい。層状ゲル構造を形成し得る(A)界面活性剤としては、具体的には、例えば、ステアロイルメチルタウリンナトリウム、ステアロイルグルタミン酸ナトリウム、ステアロイル乳酸ナトリウム等のアニオン性界面活性剤、ステアロイルトリメチルアンモニウムクロライド、アルキルエーテルアミン等のカチオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンベヘニルエーテル等の非イオン性界面活性剤が挙げられる。これらの界面活性剤のうち、イオン性界面活性剤、特にアニオン性界面活性剤を本発明に好適に用いることができる。イオン性界面活性剤を用いることで、界面活性剤の近傍でシリカの重合が起こりやすくなり、より少ない水溶性シラン誘導体量で層状ゲル構造体を安定化しやすくなる。また、非イオン性界面活性剤を用いる場合には、直鎖のポリオキシエチレンアルキルエーテルが特に好ましい。なお、オキシエチレン付加モル数及びアルキル基の炭素数は、特に限定されるものではないが、通常、オキシエチレン付加モル数が2〜100、アルキル基炭素数は8〜30程度である。これらの直鎖状の非イオン性界面活性剤を用いることで、層状ゲル構造体の構造がより密になり、水溶性シラン誘導体による安定化効果が発揮されやすくなる。
【0016】
また、上記(A)界面活性剤は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることも可能である。(A)界面活性剤の配合量は、層状ゲル構造体を形成し得る量であれば特に限定されるものではないが、組成物全量に対して0.1〜20.0質量%であることが好ましく、さらに好ましくは0.5〜1.0質量%である。(A)界面活性剤の配合量が少ないと、層状ゲル構造体形成による効果が得られない場合があり、一方で、配合量が多すぎると、べたつきを生じる等使用感触の点で悪影響を及ぼすほか、層状ゲル構造体の安定性に劣る場合がある。
【0017】
(B)高級アルコール
本発明に用いられる(B)高級アルコールは、具体的には、炭素数10〜30の一価脂肪族アルコールを意味するものである。(B)高級アルコールは、飽和又は不飽和の1価脂肪族アルコールであって、直鎖状、分岐状のいずれであっても構わないが、直鎖状であることがより好ましい。また、融点40℃以上の高級アルコールであることが好ましい。融点が40℃未満であると層状ゲル構造を形成できない場合がある。本発明に用いられる炭素数10〜30の一価脂肪族アルコールとしては、例えば、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、オクチルドデカノール、キミルアルコール、コレステロール、シトステロール、セタノール、セトステアリルアルコール、セラキルアルコール、デシルテトラデカノール、バチルアルコール、フィトステロール、ヘキシルデカノール、ベヘニルアルコール、ラウリルアルコール、ラノリンアルコール、水素添加ラノリンアルコール等を挙げることができる。
【0018】
また、上記(B)高級アルコールは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることも可能である。(B)高級アルコールの配合量は、層状ゲル構造を形成し得る量であれば特に限定されるものではないが、組成物全量に対して0.1〜20.0質量%であることが好ましく、さらに好ましくは1.0〜10.0質量%である。(B)高級アルコールの配合量が少ないと層状ゲル構造体形成による効果が得られない場合があり、一方で、配合量が多すぎると、層状ゲル構造体の安定性に劣る場合がある。
【0019】
(C)水
(C)水の配合量は、特に限定されるものではないが、組成物全量に対して50.0〜95.0質量%であることが好ましく、さらに好ましくは70.0〜90.0質量%である。(C)水の配合量が少ないと、層状ゲル構造体を形成できない場合があり、一方で、配合量が多すぎると、(A)界面活性剤あるいは(B)高級アルコールの配合量が相対的に減少してしまい、層状ゲル構造体の形成による効果が得られない場合がある。
【0020】
本発明にかかる化粧料は、上記(A)〜(C)成分を含み、層状ゲル構造体を形成し得る化粧料処方中に、(D)下記一般式(1)で示される水溶性シラン誘導体を配合して得られるものである。
Si−(OR (1)
(式中、Rは少なくとも1つが多価アルコール残基であり、その他はアルキル基であってもよい。)
【0021】
(D)水溶性シラン誘導体
本発明に用いられる(D)水溶性シラン誘導体は、上記一般式(1)に示されるものである。上記一般式(1)に示される水溶性シラン誘導体において、Rは少なくとも1つが多価アルコール残基であり、その他はアルキル基であってもよい。多価アルコール残基は、多価アルコールにおける1つの水酸基が除かれた形として示される。なお、(D)水溶性シラン誘導体は、通常、テトラアルコキシシランと多価アルコールとの置換反応により調製することができ、Rの多価アルコール残基は、使用する多価アルコールの種類によって異なるが、例えば、多価アルコールとしてエチレングリコールを用いた場合、Rは−CH−CH−OHとなる。なお、Rの少なくとも1つが、置換多価アルコール残基であればよく、その他は未置換のアルキル基であってもよい。
【0022】
上記一般式(1)におけるRの多価アルコール残基としては、例えば、エチレングリコール残基、ジエチレングリコール残基、トリエチレングリコール残基、テトラエチレングリコール残基、ポリエチレングリコール残基、プロピレングリコール残基、ジプロピレングリコール残基、ポリプロピレングリコール残基、ブチレングリコール残基、ヘキシレングリコール残基、グリセリン残基、ジグリセリン残基、ポリグリセリン残基、ネオペンチルグリコール残基、トリメチロールプロパン残基、ペンタエリスリトール残基、マルチトール残基等が挙げられる。これらのうち、Rがエチレングリコール残基、プロピレングリコール残基、ブチレングリコール残基、グリセリン残基のいずれかであることが好ましい。
【0023】
本発明に用いられる(D)水溶性シラン誘導体としては、より具体的には、Si−(O−CH−CH−OH)、Si−(O−CH−CH−CH−OH)、Si−(O−CH−CH−CHOH−CH、Si−(O−CH−CHOH−CH−OH)等が挙げられる。
【0024】
本発明に用いられる(D)水溶性シラン誘導体は、例えば、テトラアルコキシシランと多価アルコールとを、固体触媒の共存下で反応させることにより調製することができる。
【0025】
テトラアルコキシシランは、ケイ素原子に4つのアルコキシ基が結合したものであればよく、特に限定されるものではない。水溶性シリケートモノマーの製造に用いるテトラアルコキシシランとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等が挙げられる。これらのうち、入手のし易さ、及び反応副生成物の安全性の点から、テトラエトキシシランを用いるのが最も好ましい。
【0026】
なお、テトラアルコキシシランの代替化合物として、モノ、ジ、トリハロゲン化アルコキシシラン、例えばモノクロロトリエトキシシラン、ジクロロジメトキシシラン、モノブロモトリエトキシシラン等、あるいはテトラハロゲン化シラン、例えばテトラクロロシラン等を用いる事も考えられるが、これらの化合物は、多価アルコールとの反応において、塩化水素、臭化水素などの強酸を生成するため、反応装置の腐食が生じたり、さらには反応後の分離除去が困難であるため、実用的であるとは言い難い。
【0027】
多価アルコールは、分子中に2つ以上の水酸基を有する化合物であればよく、特に限定されるものではない。水溶性シリケートモノマーの製造に用いる多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、マルチトール等が挙げられる。これらのうち、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリンのいずれかを用いるのが好ましい。
【0028】
固体触媒は、用いられる原料成分、反応溶媒、及び反応生成物に対して不溶な固体状の触媒であり、ケイ素原子上の置換基交換反応に対して活性を有する酸点及び/又は塩基点を有する固体であればよい。本発明に用いられる固体触媒としては、例えば、イオン交換樹脂、及び各種無機固体酸/塩基触媒が挙げられる。
【0029】
固体触媒として用いられるイオン交換樹脂としては、例えば、酸性陽イオン交換樹脂及び塩基性陰イオン交換樹脂が挙げられる。これらのイオン交換樹脂の基体をなす樹脂としてはスチレン系、アクリル系、メタクリル系樹脂等が挙げられ、また、触媒活性を示す官能基としてはスルホン酸、アクリル酸、メタクリル酸、4級アンモニウム、3級アミン、1,2級ポリアミン等が挙げられる。また、イオン交換樹脂の基体構造としては、ゲル型、ポーラス型、バイポーラス型等から、目的に応じて選択することができる。
【0030】
酸性陽イオン交換樹脂としては、例えば、アンバーライト IRC76、FPC3500、IRC748、IRB120B Na、IR124 Na、200CT Na(以上、ロームアンドハース社製)、ダイヤイオン SK1B、PK208(以上、三菱化学社製)、Dow EX モノスフィア650C、マラソンC、HCR−S、マラソンMSC(以上、ダウ・ケミカル社製)等が挙げられる。また、塩基性陰イオン交換樹脂としては、例えば、アンバーライト IRA400J CL、IRA402BL CL、IRA410J CL、IRA411 CL、IRA458RF CL、IRA900J CL、IRA910CT CL、IRA67、IRA96SB(以上、ロームアンドハース社製)、ダイヤイオン SA10A、SAF11AL、SAF12A、PAF308L(以上、三菱化学社製)、Dow EX モノスフィア550A、マラソンA、マラソンA2、マラソンMSA(以上、ダウ・ケミカル社製)等が挙げられる。
【0031】
固体触媒として用いられる無機固体酸/塩基触媒としては、特に限定されるものではない。無機固体酸触媒としては、Al、SiO、ZrO、TiO、ZnO、MgO、Cr等の単元系金属酸化物、SiO−Al、SiO−TiO、SiO−ZrO、TiO−ZrO、ZnO−Al、Cr−AlO3、SiO−MgO、ZnO−SiO等の複合系金属酸化物、NiSO、FeSO等の金属硫酸塩、FePO等の金属リン酸塩、HSO/SiO等の固定化硫酸、HPO/SiO等の固定化リン酸、HBO/SiO等の固定化ホウ酸、活性白土、ゼオライト、カオリン、モンモリロナイト等の天然鉱物又は層状化合物、AlPO−ゼオライト等の合成ゼオライト、HPW1240・5HO、HPW1240等のヘテロポリ酸等が挙げられる。また、無機固体塩基触媒としては、NaO、KO、RbO、CsO、MgO、CaO、SrO、BaO、La、ZrO、ThO等の単元系金属酸化物、NaCO、KCO、KHCO、KNaCO、CaCO、SrCO、BaCO、(NHCO、NaWO・2HO、KCN等の金属塩、Na−Al、K−SiO等のアルカリ金属担持金属酸化物、Na−モルデナイト等のアルカリ金属担持ゼオライト、SiO−MgO、SiO−CaO、SiO−SrO、SiO−ZnO、SiO−Al、SiO−ThO、SiO−TiO、SiO−ZrO、SiO−MoO、SiO−WO、Al−MgO、Al−ThO、Al−TiO、Al−ZrO、ZrO−ZnO、ZrO−TiO、TiO−MgO、ZrO−SnO等の複合系金属酸化物等が挙げられる。
【0032】
固体触媒は、反応終了後にろ過あるいはデカンテーション等の処理を行なうことによって、容易に生成物と分離することができる。
【0033】
なお、(D)水溶性シラン誘導体の製造においては、反応時に溶媒を用いなくてもよいが、必要に応じて各種溶媒を用いても構わない。反応に用いる溶媒としては、特に限定されるものではなく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、酢酸エチル、酢酸メチル、アセトン、メチルエチルケトン、セロソルブ、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエステル、エーテル、ケトン系溶媒、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒、さらにはクロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン系溶媒が挙げられる。ここで、原料として用いるテトラアルコキシシランの加水分解縮合反応を抑制するため、溶媒は予め脱水しておくことが好ましい。また、これらのうちで、反応時に副生成するエタノール等のアルコールと共沸混合物を形成して系外へと除去することで反応を促進することのできるアセトニトリル、トルエン等を用いることが好ましい。
【0034】
(D)水溶性シラン誘導体は、単独で用いても、2種以上を混合して用いても構わない。(D)水溶性シラン誘導体の配合量は、特に限定されるものではないが、化粧料全量中0.1〜20.0質量%であることが好適である。水溶性シラン誘導体の配合量が0.1質量%未満では層状ゲル構造体の安定化効果が得られない場合があり、20.0質量%を超えると、過剰の水溶性シラン誘導体がバルクを固化して硬くなってしまい、使用感触に劣る場合がある。さらに、水溶性シラン誘導体の配合量が1.0〜10.0質量%であることが特に好適である。
【0035】
本発明においては、上記(A)〜(C)成分を含む化粧料処方が、層状ゲル構造体を形成し得るものである。なお、上記(A)〜(C)成分、すなわち、界面活性剤/高級アルコール/水を含む系は、それぞれを適切な量比となるように調整すること等により、層状ゲル構造体を形成し得ることが知られている(例えば、福島正二著,「セチルアルコールの物理化学」,フレグランスジャーナル社,第6章,76〜88頁参照)。ここで、本発明における層状ゲル構造体とは、通常、界面活性剤が形成する会合体構造の1種であって、長周期構造において界面活性剤及び高級アルコールの2分子膜が層状に配列しており、また、短面側では界面活性剤及び高級アルコールの疎水性基が六方晶型に配列していることを特徴とした結晶構造である。なお、疎水性基は自身の長軸の周りを回転しているが、液晶構造のように自由に熱運動はしておらず、また、親水性基間には多量の水が存在していることが知られている。なお、このような層状ゲル構造体は、クリーム製剤においては、外相の固化による乳化安定化効果を奏し、さらには使用時のゲル構造の崩壊による独特な使用感触を有することも知られているため、特に化粧料の分野において、例えば、クリームや乳液、クレンジング等に広く利用されている。
【0036】
本発明にかかる化粧料は、上記(A)〜(C)成分を含み、層状ゲル構造体を形成し得る化粧料処方中に、(D)上記一般式(1)で示される水溶性シラン誘導体を配合して得られるものである。これによって、化粧料処方中での加水分解・脱水縮合反応によりシリカが形成され、当該化粧料処方中の層状ゲル構造体を固化して、層状ゲル構造体を安定化することができる。
【0037】
このため、本発明にかかる化粧料は、系の内部に層状ゲル構造体を有しているものである。なお、層状ゲル構造体の有無の決定は、従来公知の方法によって行なえばよく、例えば、X線回折法により行なうことができる。層状ゲル構造体を有する組成物についてX線回折測定を行った場合、通常、小角領域においてラメラ構造と同様の長面間隔に由来する繰り返しのピークが得られるとともに、広角領域において2θ=21.4°付近に短面側の六方晶系に由来するシャープな単一のピークが示される。また、示差走査熱量分析(DSC)測定によれば、ゲル構造を含む結晶構造の融解に伴う吸熱ピークが観測され、これによって結晶構造の推定を行うことも可能である。
【0038】
また、本発明にかかる化粧料は、上記(A)〜(D)成分の他に、さらに(E)油分を含む乳化化粧料であってもよい。(E)油分を配合した場合、通常、剰余の(A)界面活性剤によって水相中に乳化分散された乳化化粧料となる。なお、本発明の化粧料に配合される(E)油分の種類、及び配合量は、特に限定されるものではなく、本発明の効果を損なわない範囲で適宜配合することができる。
【0039】
また、本発明にかかる化粧料においては、上記(A)〜(E)成分の他に、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で適宜他の成分を配合することができる。配合し得る他の成分としては、通常、化粧品、医薬品等の基剤成分あるいは添加剤成分として用いられている保湿剤、ゲル化剤、水溶性高分子、糖類、紫外線吸収剤、アミノ酸類、ビタミン類、薬剤、植物抽出物、有機酸、有機アミン、金属イオン封鎖剤、酸化防止剤、抗菌剤、防腐剤、清涼剤、香料、エモリエント剤、色素等が挙げられる。また、化粧品等に機能性を賦与する目的で用いられる美白剤、抗しわ剤、抗老化剤、抗炎症剤、発毛剤、育毛促進剤、タンパク質分解酵素などの薬剤、および外用薬の薬効成分としてのステロイド剤、非ステロイド剤を含む抗炎症剤、免疫抑制剤、鎮痛消炎剤、抗菌剤、抗真菌剤、抗ウイルス剤、抗腫瘍剤、抗潰瘍・褥瘡剤、創傷被覆剤、循環改善剤、止痒剤、局所麻酔剤、酔い止め剤、ニコチン剤、女性ホルモン剤等を配合してもよい。
【0040】
本発明の化粧料の使用用途は、特に限定されるものではなく、例えば、保湿クリーム、保湿乳液、保湿ローション、マッサージクリーム、マッサージローション、エッセンス等のスキンケア化粧料、へアクリーム、ヘアローション、整髪料等のヘアケア化粧料、サンスクリーン、ボディクリーム、ボディローション等のボディケア化粧料、口紅、マスカラ、アイライナー、ネールエナメル、液状ファンデーション、ゲル状ファンデーション等のメーキャップ化粧料、メーク落とし、シャンプー、リンス、リンスインシャンプー等の洗浄料等の種々の化粧料に利用することができる。
【実施例1】
【0041】
以下、具体的な実施例を挙げて、本発明についてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
まず最初に、本発明に用いられる水溶性シラン誘導体の製造方法について説明する。
【0042】
合成例1:グリセリン置換シラン誘導体
テトラエトキシシラン60.1g(0.28モル)と、グリセリン106.33g(1.16モル)とを混合し、無溶媒下、固体触媒として強酸性イオン交換樹脂(DowEX 50W−X8:ダウ・ケミカル社製)1.1gを添加した後、85℃で混合攪拌した。約3時間の後、混合物は一層透明溶液となった。さらに5時間30分反応を続けた後、得られた溶液を終夜静置した。減圧下、固体触媒をろ過分離した後、少量のエタノールで洗浄した。さらにこの溶液からエタノールを留去して、透明の粘性液体112gを得た。生成物は、同量の水と室温中で混合することにより、やや発熱し、均一で透明なゲルを形成した(収率:97%)
【0043】
本発明者らは、上記合成例に準じてグリセリン置換水溶性シラン誘導体を調製し、当該水溶性シラン誘導体を配合した化粧料の調製を試み、層状ゲル構造体形成の有無、安定性、使用感触のそれぞれについて評価を行なった。また、比較例として、水溶性シラン誘導体無配合、及び微粒子シリカを配合した化粧料を調製し、同様の評価を行なった。試験に用いた各種化粧料の組成と、評価結果とを併せて表1及び2に示す。なお、評価基準は以下のとおりである。
【0044】
層状ゲル構造体の形成
各種実施例及び比較例の化粧料について、小角X線回折測定及び偏光顕微鏡観察を行うことによって、層状ゲル構造体の形成の有無を確認した。
○:層状ゲル構造体の形成が確認された。
×:層状ゲル構造体の形成が確認されなかった。
【0045】
安定性
各種実施例及び比較例を50℃で2週間保存した後、化粧料の安定性について評価した。評価基準は以下の通りである。
<評価基準>
◎:まったく分離が生じず、外観の変化もなかった。
○:ほとんど分離が生じず、外観もほぼ変化しなかった。
△:分離が生じ、外観の変化が確認された。
×:ほとんどが分離し、外観もかなり変化していた。
【0046】
使用感触
各種実施例及び比較例の化粧料を使用した際の使用感触(肌なじみ、塗布時の広がり感、べたつき感)について、専門パネラー10名により実使用試験を実施した。評価基準は以下の通りである。
<評価基準>
◎…パネラー8名以上が、使用感触がよいと認めた。
○…パネラー6名以上8名未満が、使用感触がよいと認めた。
△…パネラー3名以上6名未満が、使用感触がよいと認めた。
×…パネラー3名未満が、使用感触がよいと認めた。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
上記表1に示すように、水溶性シラン誘導体無配合の試験例1の化粧料と比較して、水溶性シラン誘導体を配合した試験例2,3の化粧料は、安定性が著しく改善され、さらに使用感触も向上していることがわかった。また、水溶性シラン誘導体に代えて微粒子シリカを配合した試験例4の化粧料は、安定性も悪く、使用感触も劣っているものであった。なお、試験例1及び4の化粧料の1ヶ月保存後の状態を調べたところ、層状ゲル構造の崩壊が生じていることも確認された。
さらに、上記表2に示すように、油分を添加した乳化化粧料の場合においても、水溶性シラン誘導体による安定化効果が発揮されることが確認された。
【0050】
つづいて、本発明者らは、層状ゲル構造体の形成に使用する界面活性剤の適性について検討するため、界面活性剤の種類を各種変化させた化粧料を調製し、上記試験と同様の評価を行なった。各種化粧料の組成と評価結果とを併せて表3に示す。
【0051】
【表3】

【0052】
上記表3に示すように、イオン性の界面活性剤を用いた試験例5,6においては、非イオン性の界面活性剤を用いた試験例7,8と比較して、特に安定性の点で良好であった。なお、この結果は、イオン性界面活性剤を用いることで、界面活性剤の近傍でシリカの重合が起こりやすくなり、より少ない水溶性シラン誘導体量で層状ゲル構造体を安定化しやすくなるためと考えられる。また、直鎖の非イオン界面活性剤を用いた試験例7においては、分岐の非イオン界面活性剤を用いた試験例8と比較して安定性の点で良好であった。これは、直鎖状の非イオン性界面活性剤を用いることで層状ゲル構造体の構造がより密になり、水溶性シラン誘導体による安定化効果が発揮されやすくなるためと考えられる。
【0053】
また、本発明者らは、層状ゲル構造体の安定化に使用する水溶性シラン誘導体配合量について検討するため、水溶性シラン誘導体の配合量を各種変化させた化粧料を調製し、上記試験と同様の評価を行なった。各種化粧料の組成と評価結果とを併せて表4に示す。
【0054】
【表4】

【0055】
上記表4に示すように、水溶性シラン誘導体を1.0〜20.0質量%用いた試験例10〜13の化粧料においては、安定性及び使用感触ともに優れているものであった。これに対して、水溶性シラン誘導体の配合量が0.05質量%の試験例9では、安定性及び使用感触の改善効果が十分に得られなかった。他方、30.0質量%配合した試験例14では、系が硬くなりすぎてしまい、使用感触の点で劣っていた。
【0056】
また、本発明者らは、層状ゲル構造体の安定化に使用する水溶性シラン誘導体の適性について検討するため、水溶性シラン誘導体の種類を各種変化させた化粧料を調製し、上記試験と同様の評価を行なった。各種化粧料の組成と評価結果とを併せて表5に示す。
【0057】
【表5】

【0058】
上記表5に示すように、グリセリン置換水溶性シラン誘導体を用いた試験例15においては、1,3−ブチレングリコール置換水溶性シラン誘導体及びプロピレングリコール置換水溶性シラン誘導体を用いた試験例16,17と比較して、特に安定性の点で良好であった。なお、この結果はグリセリン置換水溶性シラン誘導体を用いることで、副生成物がグリセリンであるために層状ゲル構造体の構造形成に与える影響が少なく、構造体を安定化しやすくなるためと考えられる。
【実施例2】
【0059】
以下、本発明にかかる化粧料の他の実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
処方例1 (質量%)
ステアロイルメチルタウリンナトリウム 2.0
ベヘニルアルコール 4.0
グリセリン 2.0
ジプロピレングリコール 4.0
ワセリン 3.0
流動パラフィン 7.0
エチルヘキサン酸セチル 5.0
デカメチルシクロペンタシロキサン 5.0
グリセリン置換水溶性シラン誘導体 3.0
クエン酸 0.01
クエン酸ナトリウム 0.09
メチルパラベン 0.15
水 残量
以上により得られた処方例1の化粧料は、層状ゲル構造体を有しており、安定性、使用感触ともに優れているものであった。
【0060】
処方例2 (質量%)
POE−ベヘニルエーテル 3.0
ベヘニルアルコール 2.0
グリセリン 2.0
ジプロピレングリコール 4.0
ワセリン 3.0
流動パラフィン 7.0
エチルヘキサン酸セチル 5.0
デカメチルシクロペンタシロキサン 5.0
グリセリン置換水溶性シラン誘導体 3.0
クエン酸 0.01
クエン酸ナトリウム 0.09
メチルパラベン 0.15
水 残量
以上により得られた処方例2の化粧料は、層状ゲル構造体を有しており、安定性、使用感触ともに優れているものであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)界面活性剤と、
(B)高級アルコールと、
(C)水と
を含む化粧料処方中に、
(D)下記一般式(1)で示される水溶性シラン誘導体
を配合して得られ、該(A)界面活性剤、(B)高級アルコール及び(C)水により形成される層状ゲル構造体を有することを特徴とする化粧料。
Si−(OR (1)
(式中、Rは少なくとも1つが多価アルコール残基であり、その他はアルキル基であってもよい。)
【請求項2】
請求項1に記載の化粧料において、前記(A)界面活性剤がイオン性界面活性剤であることを特徴とする化粧料。
【請求項3】
請求項1に記載の化粧料において、前記(A)界面活性剤が直鎖のポリオキシエチレンアルキルエーテルであることを特徴とする化粧料。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の化粧料において、前記(D)水溶性シラン誘導体がグリセリン置換水溶性シラン誘導体であることを特徴とする化粧料。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の化粧料において、前記(D)水溶性シラン誘導体の配合量が、化粧料全量に対して0.1〜20.0質量%であることを特徴とする化粧料。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の化粧料において、さらに(E)油分を含むことを特徴とする乳化化粧料。
【請求項7】
(A)界面活性剤と、
(B)高級アルコールと、
(C)水と
を含み、該(A)界面活性剤、(B)高級アルコール及び(C)水により形成される層状ゲル構造体を有する化粧料処方中に、
(D)下記一般式(1)で示される水溶性シラン誘導体
を配合することを特徴とする化粧料の製造方法。
Si−(OR (1)
(式中、Rは少なくとも1つが多価アルコール残基であり、その他はアルキル基であってもよい。)
【請求項8】
請求項7に記載の化粧料の製造方法において、前記(A)界面活性剤がイオン性界面活性剤であることを特徴とする化粧料の製造方法。
【請求項9】
請求項7に記載の化粧料の製造方法において、前記(A)界面活性剤が直鎖のポリオキシエチレンアルキルエーテルであることを特徴とする化粧料の製造方法。
【請求項10】
請求項7から9のいずれかに記載の化粧料の製造方法において、前記(D)水溶性シラン誘導体がグリセリン置換水溶性シラン誘導体であることを特徴とする化粧料の製造方法。
【請求項11】
請求項7から10のいずれかに記載の化粧料の製造方法において、前記(D)水溶性シラン誘導体の配合量が、化粧料全量に対して0.1〜20.0質量%であることを特徴とする化粧料の製造方法。
【請求項12】
請求項7から11のいずれかに記載の化粧料の製造方法において、さらに(E)油分を配合することを特徴とする乳化化粧料の製造方法。

【公開番号】特開2009−57333(P2009−57333A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−226829(P2007−226829)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】