説明

医療意志決定支援装置及びその制御方法

【課題】医療意志決定支援による推論結果の信頼性をユーザが容易に且つ的確に判断できるようにする。
【解決手段】医療意志決定支援装置は、入力された複数の医用情報に基づいて医療診断に関わる推論処理を行い、推論結果を得る推論処理と、複数の医用情報から取り出された医用情報を要素とする複数の部分集合の各々について、推論結果に関して否定もしくは肯定の側に作用する度合いを算出する算出処理を行う。そして、医療意志決定支援装置は、推論処理によって得られた推論結果と、複数の部分集合のうち、算出処理により否定の側に作用する度合いが算出された部分集合に含まれている医用情報を示す否定情報とをユーザに提示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医用情報を処理し、得られた情報を提示する医療意志決定支援装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療の分野において、医師は、患者を撮影した医用画像をモニタに表示し、表示された医用画像を読影して、病変部の状態や経時変化を観察する。この種の医用画像を生成する装置としては、
・CR(Computed Radiography)装置、
・CT(Computed Tomography)装置、
・MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置、
・PET(Positron Emission Tomography)装置、
・SPECT画像(Single Photon Emission Computed Tomography)、
・超音波装置(US;Ultrasound System)等が挙げられる。
【0003】
このような医師の読影に対する負担軽減を目的として、医用画像に対して癌等を表す異常な腫瘤陰影や高濃度の微小石灰化陰影等を検出し、コンピュータ処理により陰影の状態を推論・提示することにより診断の支援を行う装置が開発されている。この結果を提示することにより、医師の読影に対する負荷を軽減し、また読影結果の精度を向上させることができる。このような装置はコンピュータ支援診断(CAD:Computer-Aided Diagnosis)装置と呼ばれる。
【0004】
通常、このようなCADを実際の臨床現場で用いる場合の正しい手順としては、まず医師による読影が行われ、その後に医師はCADが出力した診断支援情報を参照し、自らが読影した結果との比較を行う。この作業は具体的には、医師自らが書いた読影レポートとCADが算出した診断支援情報との所見情報の対応付けを行い、見落としや誤検出、所見の違いなどを見つける。しかし、CADが何を根拠にして診断支援情報を推論したのかが提示されないと、CADの推論結果が信頼性のある結果かどうかが判断できない。特に、医師の読影の結果とCADの結果が異なる場合には、推論結果の信頼性を判断するのが重要となる。
【0005】
従って、CADシステム側が何を根拠にして診断支援情報を推論したのかを提示する仕組みを提供する必要がある。これに対して、特許文献1には医用画像上に異常陰影候補のマーカーと異常の判定を支援した情報を同時に重畳表示する技術が記載されている。また、特許文献2にはコンピュータ支援検出で使用された特徴・基準を画像上に符号化記述子として表示する技術が記載されている。以上の特許文献1,2によれば、検出した異常陰影に対する推論の根拠をユーザに提示することで異常陰影候補の種別をより的確に判定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特WO2005/104953号公報
【特許文献2】特表2006−500124号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「Bayesian Networks and Decision Graphs」、FinnV. Jensen、Thomas D. Nielsen、2007年(非特許文献1は、「発明を実施するための形態」の欄において参照されている)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は異常陰影候補の検出理由は提示されるものの、理由の一つが提示されるのみであり、推論の根拠となる情報が多数ある場合の対処法は示されていない。特許文献2に記載の技術は表示する根拠情報を複数選択することは可能なものの、提示する情報はユーザの選択に任されており、どの情報を選択してユーザに提示すればよいかが不明であった。また、特許文献1および特許文献2では、推論結果に肯定的な情報のみを提示しているため、推論結果の信頼性が肯定的な情報からのみしか判断できなかった。
【0009】
本発明は、医療意志決定支援による推論結果の信頼性をユーザが容易に、的確に判断できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するための、本発明の一態様によるによる医療意志決定支援装置は以下の構成を備える。すなわち、
入力された複数の医用情報に基づいて医療診断に関わる推論処理を行い、推論結果を得る推論手段と、
前記複数の医用情報から取り出された医用情報を要素とする複数の部分集合の各々について、前記推論結果を否定もしくは肯定する度合いを算出する算出手段と、
前記推論手段によって得られた推論結果と、前記複数の部分集合のうち、前記算出手段により否定する度合いが算出された部分集合に含まれている医用情報を示す否定情報とを提示する提示手段とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、医療意志決定支援による推論結果の信頼性をユーザが容易に、的確に判断できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態による医療意志決定支援装置の機器構成例を示す図。
【図2】第1〜第3実施形態の処理手順を示すフローチャート。
【図3】図2におけるステップS204の詳細な処理手順を示すフローチャート。
【図4】ベイジアンネットワークを用いた確率推論モデルを示す図。
【図5】図4の確率推論モデルにいくつかのエビデンスが入力された例を示す図。
【図6】図4の確率推論モデルに一つのエビデンスが入力された例を示す図。
【図7】第1実施形態でk=1の場合のモニタ104における表示の一例を示す図。
【図8】図4の確率推論モデルに二つのエビデンスが入力された例を示す図。
【図9】第1実施形態でk=2の場合のモニタ104における表示の一例を示す図。
【図10】図10におけるステップS504の詳細な処理手順を示すフローチャート。
【図11】図10におけるステップS505の詳細な処理手順を示すフローチャート。
【図12】第2実施形態でk=1の場合のモニタ104における表示の一例を示す図。
【図13】第2実施形態でk=2の場合のモニタ104における表示の一例を示す図。
【図14】図15におけるステップS805の詳細な処理手順を示すフローチャート。
【図15】第3実施形態のモニタ104における表示の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面に従って本発明に係る医療意志決定支援装置及び方法の好ましい実施形態について詳説する。ただし、発明の範囲は図示例に限定されるものではない。
【0014】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る医療意志決定支援装置の機器構成例を示す図である。医療意志決定支援装置1は、入力された複数の医用情報に基づいて医療診断に関わる推論処理を行い、推論結果を得るものであり、制御部10、モニタ104、マウス105、キーボード106を有する。制御部10は、中央処理装置(CPU)100、主メモリ101、磁気ディスク102、表示メモリ103を有する。そして、CPU100が主メモリ101に格納されたプログラムを実行することにより、医用画像データベース2や診療録データベース3との通信、医療意志決定支援装置1の全体の制御、等の各種制御が実行される。
【0015】
CPU100は、主として医療意志決定支援装置1の各構成要素の動作を制御する。主メモリ101は、CPU100が実行する制御プログラムを格納したり、CPU100によるプログラム実行時の作業領域を提供したりする。磁気ディスク102は、オペレーティングシステム(OS)、周辺機器のデバイスドライブ、後述する診断支援処理等を行うためのプログラムを含む各種アプリケーションソフト等を格納する。表示メモリ103は、モニタ104のための表示用データを一時記憶する。モニタ104は、例えばCRTモニタや液晶モニタ等であり、表示メモリ103からのデータに基づいて画像を表示する。なお、本実施形態では、医療意志決定支援による推論結果等をユーザ(医師)に提示するためにモニタ104に推論結果を表示するが、プリンタ等により推論結果を出力する形態であってもかまわない。マウス105及びキーボード106はユーザによるポインティング入力及び文字等の入力をそれぞれ行う。上記各構成要素は共通バス107により互いに通信可能に接続されている。
【0016】
本実施形態において、医療意志決定支援装置1はLAN4を介して、医用画像データベース2から画像データを、診療録データベース3から診療録データを、それぞれ読み出すことができる。ここで、医用画像データベース2として既存のPACS(Picture Archiving and Communication System)を利用することができる。また、診療録データベース3として既存のHIS(HospitalInformation System)のサブシステムである電子カルテシステムを利用することができる。或いは、医療意志決定支援装置1に外部記憶装置、例えばFDD、HDD、CDドライブ、DVDドライブ、MOドライブ、ZIPドライブ等を接続し、それらのドライブから画像データおよび診療録データを読み込むようにしても良い。
【0017】
なお、医用画像の種類には、単純X線画像(レントゲン画像)、X線CT画像、MRI画像、PET画像、SPECT画像、超音波画像などがある。また、診療録データには、患者の個人情報(氏名、生年月日、年齢、性別など)、臨床情報(様々な検査値、主訴、既往歴、治療歴など)、医用画像データベース2に格納された患者の画像データへの参照情報および主治医の所見情報などが記載される。さらに、診断が進んだ段階で、診療録データには確定診断名が記載される。
【0018】
次に、図2のフローチャートを用いて、制御部10がどのように医療意志決定支援装置1を制御しているかについて説明する。なお、図2のフローチャートによって示される処理は、CPU100が主メモリ101に格納されているプログラムを実行することにより実現される。
【0019】
ステップS201において、CPU100はマウス105やキーボード106の入力に応じて、所望の医用画像データを医療意志決定支援装置1に入力する処理を行う。以下、ステップS201で入力された医用画像データを読影対象画像と呼ぶ。この画像データの入力処理は、例えば、上述したように、CPU100は、撮影された医用画像データを保存する医用画像データベース2からLAN4を介して医用画像データを読影対象画像として受信する。或いは、CPU100は、医療意志決定支援装置1に接続された記憶装置、例えばFDD、CD−RWドライブ、MOドライブ、ZIPドライブ等の各種記憶媒体から画像データを読影対象画像として読み取る。次に、ステップS202において、CPU100は、医療意志決定支援装置1に入力された読影対象画像を、モニタ104に表示する。
【0020】
ステップS203において、医師はモニタ104に表示された読影対象画像を見ながら、マウス105やキーボード106などを用いて読影所見を医療意志決定支援装置1に入力する。このとき、例えばテンプレート形式の読影所見入力支援方法を用いてもよい。或いは、画像処理による画像特徴量を入力としてもよい。以下では、入力された読影所見/画像特徴量を医用情報と呼ぶ。ステップS204において、CPU100は、ステップS203で入力された読影対象画像の医用情報から、コンピュータ処理によって医学的な診断情報を得る処理を実行する。すなわち、医療意志決定支援装置1に入力された医用情報に対して、推論処理を行う。ステップS204の詳細な処理手順については、図3を用いて以下で説明する。以下、Ifix等、Iを用いて示したデータは一つの医用情報からなる集合を表す。
【0021】
図3はステップS204の詳細な処理手順を示すフローチャートである。ステップS301において、CPU100は確率推論モデルより、エビデンス(後述)が入力されていない場合の推論結果A〜Aの確率(事前確率)を取得し、主メモリ101に保存する。この確率推論モデルは、例えば図4に示されるようなベイジアンネットワーク(Bayesian Network)である。
【0022】
ベイジアンネットワークは現象を複数の事象と事象間の因果関係で表現したモデルである。事象間の関係は確率で表し、対象とする現象を構成する事象をノード401で、ノード間の関係を示すリンク402で表現する。リンクは矢印で表され、矢印の根元にあたるノードを親ノード、矢印の先にあたるノードを子ノードと呼ぶ。各ノードにはノードの状態を示すステート403を複数個持っており、各ステートに生起確率(事前確率と呼ばれる)が付与される。親ノードと子ノード間の関係は親ノードを条件とした条件付確率によって与えられる。この条件付確率を表にしたものを条件付確率表404(CPT:conditional probability table)と呼ぶ。
【0023】
対象モデルの少なくとも一つのノードのステートが何であるかを示す情報をエビデンスという。このエビデンスとCPTおよびベイズの定理(式1)を用いて、求めたいノードの確率(事後確率と呼ばれる)を確率伝播法により求めることができる(非特許文献1)。
【数1】

【0024】
図4は肺の異常陰影に関する推論モデルで、各ノードが読影医による所見に対応している。例えば「石灰化濃度比」は異常陰影における石灰化部分が陰影の中で占める比率を表している。「水濃度比」、「軟部組織濃度比」、「気体濃度比」も同様に、それぞれの部分が陰影の中で占める比率を表す。「血管の引込・巻込」は周囲の肺野における臓器内での血管の引込・巻込の有無を表している。なお、異常陰影の濃度はここで挙げたもの以外にもあり(例えば金属)、また医用情報として入力しない場合もあり、必ずしも総和が100%とはならない。
【0025】
図4はエビデンスが入力されていない状態を示しており、各ノードのステートの横に付与されている数値は、ステートの事前確率を示している。例えば、「異常の種類」の各ステートの事前確率は「異常の種類:原発性肺癌」で11.0%、「異常の種類:癌の肺転移」で48.0%、「異常の種類:その他の異常」で41.0%である。図5は図4で示したベイジアンネットワークの複数あるノードのうちいくつかのノードにエビデンスが入力された状態を示している。「境界」「形状」など、あるステートの確率が100%となっているものが入力されたエビデンスである。
【0026】
ステップS302において、CPU100は、ステップS203で入力されたm個の医用情報(m≧1)を確定情報(以下、Ifixと呼ぶ)とし、Ifixをエビデンスとして推論結果A〜A(n≧2)に属する確率を確率推論モデルにより計算する。すなわち、確定情報Ifixは、m個の医用情報からなる集合である。次に、ステップS303において、CPU100はステップS302で計算された事後確率のうち、最も確率の高い推論結果A(1≦x≦n)を選択する。同時に、主メモリ101に推論結果A〜Aとその確率を保存する。また、変数jを用意し、j=1とする。
【0027】
ステップS304において、CPU100はIfixのうちk個(1≦k≦m)の医用情報を選択して、確定情報の部分情報Iとし、主メモリ101に保存する。すなわち、部分情報Iは、確定情報Ifixからk個の医用情報を取り出して得られた確定情報Ifixの部分集合である。ステップS305において、CPU100はステップS304で選択したIをエビデンスとして推論結果Aに属する事後確率を確率推論モデルにより計算する。そして、CPU100は、その計算結果とステップS301で取得したAの事前確率の差(以下、D(A|I)とする)を計算し、ステップS304で主メモリ101に保存されたIに関連付けて保存する。次いで、変数jに1を加える。こうして、複数の医用情報から取り出された医用情報を要素とする複数の部分集合Iの各々について、ステップS303で得られた推論結果に関して否定もしくは肯定の側に作用する度合いが算出されることになる。
【0028】
ステップS306において、CPU100はjの値と、Ifixのうちk個の医用情報を選択するIの組合せの総数(以下、組合せ数とする)の値を比較する。jが組合せ数より小さければ、全てのIについて事後確率を得ていないので、ステップS304へ戻り上記の処理を継続する。jが組合せ数より大きければステップS307を実行する。
【0029】
ステップS307において、CPU100はステップS304で保存されたIに関連付けられたD(A|I)を比較する。正となるD(A|I)の中で最も高い(絶対値が最大となる)D(A|I)が得られたI(以下、Iとする)を主メモリ101に保存する。また、負となるD(A|I)の中で最も低い(絶対値が最大となる)D(A|I)が得られたI(以下、Iとする)を主メモリ101に保存する。この時、D(A|I)が正となるIが存在しない場合はIにNULL値を入力する。同様にD(A|I)が負となるIが存在しない場合はIにNULL値を入力する。NULL値を取る場合はステップS205において、Iまたは/およびIは表示されない。D(A|I)が正となるIは、推論結果Aの確率を増大させる情報を示し、D(A|I)が負となるIは、推論結果Aの確率を減少させる情報を示す。従ってIは推論結果を肯定する根拠となり、Iは推論結果を否定する根拠となる。
【0030】
ステップS205において、CPU100はステップS204において処理された推論処理の結果を表示する。主メモリ101に保存されている推論結果A〜Aとその事後確率、及び、IとIをそれぞれモニタ104に表示する。
以下、具体的な例として、k=1の場合とk=2の場合について説明する。
【0031】
ステップS301において、推論結果「異常の種類:原発性肺癌」「異常の種類:癌の肺転移」「異常の種類:その他の異常」の事前確率、11.0%、48.0%、41.0%をそれぞれ取得する。ステップS302において、S203で入力されたIfixをエビデンスとして、推論結果の「異常の種類:原発性肺癌」「異常の種類:癌の肺転移」「異常の種類:その他の異常」を計算する。それぞれの事後確率は15.3%、66.4%、18.3%となる(図5)。従って、これらの計算結果を保存し、最も事後確率の高い「異常の種類:癌の肺転移」を選択する。
【0032】
図6は、Ifixにおいて、k=1として医用情報「結節の大きさ:中程度」を選択し、確定情報の部分情報Iとした例である。Iをエビデンスとして、ステップS303で選択された推論結果の「異常の種類:癌の肺転移」に属する事後確率を計算する。計算結果として得られた53.5%とステップS301で所得した「異常の種類:癌の肺転移」の事前確率48.0%との差を計算する。結果として得られた5.5%をIと関連付けて保存する。
【0033】
表1はk=1とした場合の全てのIとIをエビデンスとして計算した推論結果「異常の種類:癌の肺転移」の事後確率と、事後確率と事前確率との差を表したものである。差を比較すると、Iが「形状:球形」の時に正となる中で最も大きい差の17.9%を取る。一方Iが「気体濃度比:高い」の時に負となる中で最も大きい差の−11.0%を取る。従って、Iが「形状:球形」、Iが「気体濃度比:高い」となる。
【表1】

【0034】
図7はk=1とした場合のモニタ104における表示の一例である。推論結果A〜Aとして「異常の種類:原発性肺癌」「異常の種類:癌の肺転移」「異常の種類:その他の異常」を、Ifixをエビデンスとした場合の推論結果の事後確率としてそれぞれ15.3%、66.4%、18.3%を表示する。さらに、最も確率の高い推論結果を肯定する根拠としてI「形状:球形」を、否定する根拠としてI「気体濃度比:高い」を表示する。
【0035】
図8は、Ifixにおいて、k=2として医用情報「結節の大きさ:中程度」「形状:球形」を選択し、確定情報の部分情報Iとした例である。Iをエビデンスとして、ステップS303で選択された推論結果の「異常の種類:癌の肺転移」に属する事後確率を計算する。計算結果として得られた71.1%とステップS301で所得した「異常の種類:癌の肺転移」の事前確率48.0%との差を計算する。結果として得られた23.1%をIと関連付けて保存する。
【0036】
表2はk=2とした場合の全てのIとIをエビデンスとして計算した推論結果「異常の種類:癌の肺転移」の事後確率と、事後確率と事前確率との差を表したものである。差を比較すると、Iが「形状:球形」「境界:不明瞭」の時に正となる中で最も大きい差の27.2%を取る。一方Iが「軟部組織濃度比:低い」「気体濃度比:高い」の時に負となる中で最も大きい差の−21.7%を取る。従って、Iが「形状:球形」「境界:不明瞭」、Iが「軟部組織濃度比:低い」「気体濃度比:高い」となる。
【表2】

【0037】
図9はk=2とした場合のモニタ104における表示の一例である。推論結果A〜Aとして「異常の種類:原発性肺癌」「異常の種類:癌の肺転移」「異常の種類:その他の異常」を、Ifixをエビデンスとした場合の推論結果の事後確率としてそれぞれ15.3%、66.4%、18.3%を表示する。さらに、最も事後確率の高い推論結果を肯定する根拠としてI「形状:球形」「境界:不明瞭」を、推論結果を否定する根拠としてI「軟部組織濃度比:低い」「気体濃度比:高い」を表示する。
【0038】
なお、k=1、k=2いずれの例においても、推論結果A〜Aを表示する場合は、Ifixをエビデンスとした場合の事後確率が大きい順に表示することが望ましいが、それに限定されない。
【0039】
推論結果を肯定する根拠を表示すると共に、推論結果を否定する根拠を同時に表示することで、提示された推論結果の信頼性の判断、入力した医用情報の信頼性の検証、提示した推論結果以外の診断を考慮する必要性などをユーザへ喚起することが可能である。
【0040】
以上、述べた構成によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)異常陰影の医用情報による推論の後、医用情報の一部を用いた推論を行うことで、最も確率の高い推論結果に寄与した医用情報を判定することができ、推論の根拠となる情報を絞って提示することができる。
(2)特に、推論結果を否定するような推論根拠を提示することにより、入力した医用情報の信頼性の検証、提示した最も確率の高い推論結果以外の診断を考慮する必要性などをユーザへ喚起することができる。
【0041】
(第1実施形態の変形例)
ステップS201は、医用画像データの入力に限定されず、読影レポート、及び診断支援処理に必要な情報等を含む医用検査データの入力が可能としても良い。その場合、これらのデータをユーザによる直接入力が可能な構成であっても良いし、情報が記録されたFDD、CD−RWドライブ、MOドライブ、ZIPドライブ等の各種記憶媒体から読み取り可能な構成であっても良い。またこれらのデータを記録するデータベースとLANを介して接続し、受信可能な構成であってもよい。
【0042】
また、ステップS204における推論処理による診断情報の生成は、次の形態を取ってもよい。すなわち、処理対象を医用画像データに限定せず、例えば被検査者に関する過去の読影レポートやカルテ、及び診断支援処理に利用できる他の情報等を含む医用検査データなども処理の対象とすることができる。この場合、被検査者の画像情報以外の医用検査データに基づいた診断情報を生成することができる。
【0043】
また、ステップS304において確定情報の部分情報Iを選択する場合、Ifixのうちk個以下の情報としてもよい。例えば、k=1とk=2の場合のそれぞれについて部分情報Iを取得して、それらを用いて上述のIやIを取得するようにしてもよい。
【0044】
また、ステップS307において選択される推論結果を肯定する根拠、および、否定する根拠は複数選択してもよい。この場合はユーザが選択する個数を決めてもよく、あるいは閾値を超えたもの全てを選択してもよい。この場合閾値はユーザが決定してもよい。また、否定する根拠が存在する場合は警告表示を出してもよい。閾値を用いて表示の可否を決める例については、第2実施形態において説明する。
【0045】
また、ステップS205において推論結果A〜Aを全て表示しているが、もっとも事後確率の高い推論結果のみを表示してもよいし、また、一部の推論結果のみを表示してもよい。この場合はユーザが選択する個数を決めてもよい。また、閾値を超えるもの、例えば事後確率が30%以上の推論結果を表示するようにしてもよい。ただし、閾値は上記の例に限定されず、閾値をユーザが決定してもよい。
【0046】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態を説明する。なお、第2実施形態の構成は、第1実施形態と同様の構成を取るため、図1の構成図を用いるものとし、説明を省略する。また、第2実施形態における制御部10による制御の概略も第1実施形態(図2)と同様である。但し、ステップS204における推論処理、ステップS205における推論結果表示処理が異なる。以下、これらの処理について図10、図11のフローチャートを参照して説明する。
【0047】
図10は、第2実施形態によるステップS204の詳細な処理手順を示すフローチャートである。ステップS601において、CPU100は確率推論モデルより、エビデンスが入力されていない場合の推論結果A〜Aの確率(事前確率)を取得し、主メモリ101に保存する。ステップS602において、CPU100は、ステップS503で入力されたm個の医用情報(m≧1)を確定情報(以下、Ifixと呼ぶ)として、予め決められた推論結果A〜A(n≧2)に属する確率を確率推論モデルにより計算する。また、変数jを用意し、j=1とする。
【0048】
ステップS603において、CPU100はIfixのうちk個(1≦k≦m)の医用情報を選択して、確定情報の部分情報Iとし、主メモリ101に保存する。ステップS604において、CPU100はステップS603で選択した仮情報Iをエビデンスとして推論結果A〜Aに属する事後確率を確率推論モデルにより計算する。計算結果は、ステップS603で主メモリ101に保存されたIに関連付けて保存する。ステップS605において、CPU100はステップS601で得た推論結果A〜Aの事前確率と、ステップS604で得られたIをエビデンスとして得られた推論結果A〜Aの事後確率を比較計算し、計算結果をIに関連付けて保存する。次いで、変数jに1を加える。比較計算の方法は、例えば事後確率と事前確率の差を取る方法がある。
【0049】
ステップS606において、CPU100はjの値と、Ifixのうちk個の医用情報を選択するIの組合せの総数(以下、組合せ数とする)の値を比較する。jが組合せ数より小さければ、全てのIについて事後確率を得ていないので、ステップS603へ戻り処理を継続する。jが組合せ数より大きければステップS607を実行する。ステップS607において、CPU100はステップS604で得られたIに関連付けられた計算結果から、計算結果と推論結果の関係を示す値(以下、関係量C(A,I)とする)を計算し、その計算結果をIに関連付けて保存する。関係量の計算は、例えば、
・各部分集合について、算出された事後確率と事前確率の差と、後述の表4に示されるテーブルから関係量を決定する方法、
・各部分集合について、算出された事後確率と事前確率の差の絶対値を取り、その中で最大となる値を基準として規格化を行う方法、などがある。
この関係量の計算は推論結果に関する度合いの算出に相当する。
【0050】
以上で、ステップS204の処理を終了する。次に、ステップS205において、CPU100はステップS204において処理された推論処理の結果を表示する。ステップS205の詳細な処理手順について、図11を用いて以下で説明する。
【0051】
図11はステップS205(推論結果表示)の詳細な処理手順を示すフローチャートである。ステップS701において、CPU100は主メモリ101に変数iを用意し、i=1とする。ステップS702において、CPU100は主メモリ101に変数jを用意し、j=1とする。ステップS703において、CPU100は主メモリ101に保存されている関係量が所定の基準を満たすかどうかを判定する。所定の基準を満たす場合はステップS704の処理を行い、満たさない場合はステップS705の処理を行う。ステップS704において、CPU100は主メモリ101に保存されているIをモニタ104へ表示する。この時、関係量に応じてIが推論結果Aを肯定する根拠であるか、否定する根拠であるかを同時に表示する。推論結果推論結果Aを肯定する根拠は推論結果Aの確率を増大させる情報であり、否定する根拠は確率を減少させる情報である。例えば、後述の表4のように関係量を定義した場合、関係量が正の値を有する場合は推論結果を肯定する根拠(肯定情報)であり、関係量が負の値を有する場合は推論結果を否定する根拠(否定情報)である。
【0052】
ステップS705において、CPU100は主メモリ101に保存されている変数jの値に1を加える。
ステップS706において、CPU100はjの値と、組合せ数(mCk)を比較する。jが組合せ数より小さければ、全てのIについて関係量が判定基準を満たすかどうかを判定できていないので、ステップS703へ戻り処理を継続する。jが組合せ数より大きければステップS707を実行する。
【0053】
ステップS707において、CPU100は主メモリ101に保存されているIfixがエビデンスとして入力された場合の推論Aの事後確率をモニタ104へ表示する。これは、ユーザが所望する推論結果に相当する。ステップS708において、CPU100は主メモリ101に保存されている変数iの値に1を加える。ステップS709において、CPU100はiの値と、nの値を比較する。iがnより小さければ、全ての推論結果Aに対する処理が終了していないので、ステップS702に戻り処理を継続する。iがnより大きければステップS505を終了する。このような処理により、全ての推論結果Aに対して、事後確率、肯定情報、否定情報が表示される。
【0054】
以下、具体的な例として、k=1の場合とk=2の場合について説明する。ただし、比較計算では、事前確率と事後確率の差を算出するものとする。
まず、ステップS601において、推論結果「異常の種類:原発性肺癌」「異常の種類:癌の肺転移」「異常の種類:その他の異常」の事前確率、11.0%、48.0%、41.0%をそれぞれ取得する。
【0055】
図6は、ステップS503で入力されたIfixにおいて、k=1として医用情報「結節の大きさ:中程度」を選択し、確定情報の部分情報Iとした例である。Iをエビデンスとして推論を行い、結果として得られた推論結果「異常の種類:原発性肺癌」「異常の種類:癌の肺転移」「異常の種類:その他の異常」に属するそれぞれの事後確率12.3%、53.5%、34.2%をIと関連付けて保存する。
【0056】
表3はk=1とした場合の全てのIとIをエビデンスとして計算した推論結果A〜Aの事後確率と、事後確率と推論結果A〜Aの事前確率の差D(A|I)を示したものである。これは、ステップS603〜ステップS605の処理によって得られる。
【表3】

【0057】
表4は関係量C(A,I)の計算方法の一例を示したものである。この例では事後確率と事前確率の差に応じて絶対的に関係量が求まる。前述の例では、表4で示した計算方法で関係量を求めると、表5のようになる。これはステップS607の処理によって得られる。
【表4】

【表5】

【0058】
図12はk=1、ステップS703における所定の基準を関係量の絶対値が3以上(すなわち、関係量が+4、+3、−3、−4)とした場合のモニタ104における表示の一例である。前述の例では、例えば、i=1、j=1(結節の大きさ:中程度)の場合は関係量が0なので基準を満たさず、ステップS705の処理を行う。つまり、モニタ104への表示は行わない。一方、i=1、j=4(気体濃度比:高い)の場合は関係量が+4なので基準を満たし、ステップS704の処理を行う。
【0059】
前述の例では、関係量が正の場合はIがエビデンスとして入力された場合の推論結果Aの事後確率が事前確率より高くなることを示し、負の場合は低くなることを示す。よって、関係量が正の時に推論結果Aを肯定する根拠となり、負の時に否定する根拠となる。従って、i=1、j=4の場合は、推論結果A(原発性肺癌)を肯定する根拠として「気体濃度比:高い」がモニタ104へ表示される。
【0060】
全ての処理が終了すると、図12で示したように、推論結果A〜Aとして「異常の種類:原発性肺癌」「異常の種類:癌の肺転移」「異常の種類:その他の異常」、それぞれの事後確率として15.3%、66.4%、18.3%が表示される。
【0061】
また、「異常の種類:原発性肺癌」を肯定する根拠として「軟部組織濃度比:低い」「気体濃度比:高い」が表示される。さらに、「異常の種類:癌の肺転移」を肯定する根拠として「形状:球形」「境界:不明瞭」が、「異常の種類:癌の肺転移」を否定する根拠として「気体濃度比:高い」が表示される。さらにまた、「異常の種類:その他の異常」を否定する根拠として「形状:球形」が表示される。
【0062】
第1実施形態で示したように、図8は、Ifixにおいて、k=2として医用情報「結節の大きさ:中程度」「形状:球形」を選択し、確定情報の部分情報Iとした例である。Iをエビデンスとして推論を行い、結果として得られた推論結果「異常の種類:原発性肺癌」「異常の種類:癌の肺転移」「異常の種類:その他の異常」に属するそれぞれの事後確率4.9%、71.1%、24.0%をIと関連付けて保存する。
【0063】
表6はk=2とした場合の全てのIとIをエビデンスとして計算した推論結果A〜Aの事後確率と、事後確率と推論結果A〜Aの事前確率の差を示したものである。これは、ステップS603〜ステップS605の処理によって得られる。
【表6】

【0064】
ステップS607の処理により関係量を求める。ここでは、D(A|I)(以下、差分量と呼ぶ)の絶対値を取り、その中で最大となる値を基に規格化を行う。以下、具体的に説明する。「異常の種類:原発性肺癌」の差分量の絶対値の最大値は35.2%である。この値が4.0になるように各差分量を変換する。例えば差分量が−4.4%の時は−0.5となる。その後、さらに小数点第1位で切捨てを行い、得られた値を関係量とする。すなわち、4.0の場合は+4とし、−0.5の場合は0とする。この操作を、「異常の種類:癌の肺転移」「異常の種類:その他の異常」においても行う。このとき、規格化の基となる値は、推論結果に応じて変化する。この例では、「異常の種類:癌の肺転移」では27.2%、「異常の種類:その他の異常」では18.5%を基に規格化を行う。以上の方法により求まった関係量は、表7のようになる。
【表7】

【0065】
図13はk=2、ステップS703における所定の基準を関係量の絶対値が3以上(すなわち、関係量が+4、+3、−3、−4)とした場合のモニタ104における表示の一例である。k=1の例と同様、関係量が正の時に推論結果Aを肯定する根拠となり、負の時に否定する根拠となる。全ての処理が終了すると、図13で示したように、推論結果A〜Aとして「異常の種類:原発性肺癌」「異常の種類:癌の肺転移」「異常の種類:その他の異常」、それぞれの事後確率として15.3%、66.4%、18.3%が表示される。
【0066】
また、「異常の種類:原発性肺癌」を肯定する根拠として「軟部組織濃度比:低い、気体濃度比:高い」が表示される。さらに、「異常の種類:癌の肺転移」を肯定する根拠として「結節の大きさ:中程度、形状:球形」「形状:球形、境界:不明瞭」が、「異常の種類:癌の肺転移」を否定する根拠として「軟部組織濃度比:低い、気体濃度比:高い」が表示される。さらにまた、「異常の種類:その他の異常」を否定する根拠として「結節の大きさ:中程度、形状:球形」「形状:球形、境界:不明瞭」が表示される。
【0067】
なお、k=1、k=2いずれの例においても、推論結果A〜Aを表示する場合は、Ifixをエビデンスとした場合の事後確率が大きい順に表示することが望ましいが、それに限定されない。
【0068】
それぞれの推論結果を肯定する根拠を表示すると共に、推論結果を否定する根拠を同時に表示することで、最も確率の高い推論結果の信頼性の判断のみならず、他の推論結果の可能性を考慮することができる。また第一の実施形態と同様、入力した医用情報の信頼性の検証をユーザに喚起することも可能である。
【0069】
以上、述べた構成によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)複数の推論結果に対して、それぞれ結果を肯定する根拠と否定する根拠を提示することで、最も確率の高い推論結果の信頼性の判断のみならず、他の推論結果の可能性を考慮することができる。
(2)また、入力した医用情報の信頼性の検証をユーザに喚起することができる。
【0070】
(第2実施形態の変形例)
ステップS603において確定情報の部分情報Iを選択する場合、Ifixのうちk個以下の情報(例えば、k=1とk=2の両方の部分情報)としてもよい。また、ステップS605における比較計算の計算方法として、確率の差分値を計算する例を示したがこれに限られるものではない。例えば、ステップS605における比較計算として確率の比をとる方法であっても良い。また、他の方法を用いてもよい。また、ステップS607における関係量の計算方法は前述の例で挙げた方法以外、例えば対数を取る方法などで計算してもよい。また、k=1の例で挙げたような方法を用いる場合、表4で示した変換幅に限定されない。また、k=2の例の場合は切り捨てではなく、切り上げや四捨五入、あるいは他の方法であってもよい。また、前述の例では関係量は9つの離散値を取っていたが、数は限定されない。また、関係量は連続値を取ってもよい。
【0071】
また、ステップS703における判定基準は前述の例で挙げた方法に限定されない。判定基準はユーザが任意に変更可能であってもよい。この場合、判定基準を変更するためのユーザインタフェースがあることが望ましい。また、ステップS704において基準を満たした全てのIを表示しているが、基準を満たした中で最も推論結果を肯定/否定する結果のみを表示してもよい。さらにまた、推論結果を否定する根拠が存在する場合は警告表示を出してもよい。この場合警告表示を出す判定基準はS703におけるものと異なっていてもよい。ただし、S703の判定基準より緩やかな基準による判定は望ましくない。また、関係量やIがエビデンスとして入力された場合の事後確率を同時に表示してもよい。
【0072】
また、ステップS707において推論結果A〜Aを全て表示しているが、
もっとも事後確率の高い推論結果のみを表示してもよく、また、一部の推論結果のみを表示してもよい。この場合はユーザが選択する個数を決めてもよい。また、閾値を超えるもの、例えば事後確率が30%以上の推論結果を表示するようにしてもよい。ただし、閾値は上記の例に限定されず、閾値をユーザが決定してもよい。
なお、ステップS201,S204に関して第1実施形態で説明した変形例は第2実施形態においても適用可能であることはいうまでもない。
【0073】
[第3実施形態]
次に、第3実施形態を説明する。なお、第3実施形態の構成は、第1実施形態と同様の構成を取るため、図1の構成図を用いるものとし、説明を省略する。また、第3実施形態の制御部10による制御の概要は第1実施形態(図2)と同様である。図14は第3実施形態による推論結果表示処理(S205)の処理を説明するフローチャートである。なお、図14のフローチャートによって示される処理は、CPU100が主メモリ101に格納されているプログラムを実行することにより実現される。ステップS205において、CPU100はステップS204において処理された推論処理の結果を表示する。以下、ステップS205の詳細な処理手順について、図14、図15を用いて詳細に説明する。
【0074】
図14はステップS205の詳細な処理手順を示すフローチャートである。ステップS901において、CPU100は主メモリ101に記憶されたA〜Aの事後確率の中で、もっとも高い事後確率となるAの評価値V(A)を計算する。
【0075】
ステップS902において、CPU100はステップS901で計算された評価値が所定の基準を満たすかどうかを判定する。基準を満たす場合はステップS903の処理を行い、満たさない場合はステップS904の処理を行う。ステップS903において、CPU100は警告表示をモニタ104へ表示する。ステップS904において、CPU100はステップS804において処理された推論処理の結果を表示する。主メモリ101に保存されている推論結果A〜Aとその事後確率、及び、IとIをそれぞれモニタ104に表示する。以下、具体的な例について説明する。
【0076】
表8は図4の確率推論モデルに対して、ステップS803で入力されたIfix、Ifixをエビデンスとして計算した推論結果A〜A(n=3)の事後確率、k=1とした場合のIとIをそれぞれ示したものである。
【表8】

【0077】
ステップS901において、A〜Aの中でもっとも高い事後確率を有する診断結果(異常の種類)の評価値を計算する。ここでは、Aの評価値V(A)が計算される。
【0078】
の評価値V(A)の計算方法としては例えば、推論結果の事後確率がもっとも高い推論結果(A)と2番目に高い推論結果(Ax2)の確率の差を計算する方法がある。あるいは、推論結果の事後確率が最も高い推論結果の確率と推論結果の状態数(=n)を用いて計算する方法がある。それぞれの方法を式2、式3として示す。
【数2】

【数3】

【0079】
ここでP(A|Ifix)はIfixをエビデンスとして計算した推論結果Aの事後確率を示す。表8の例では、事後確率がもっとも高い推論結果はAであり、2番目に高い推論結果はAであり、それぞれ49.9%、40.5%である。またnは3であり、その逆数は1/n=0.333となり、百分率に変換すると33.3%となる。従って、式2を用いて計算すればV(A)=49.9%−40.5%=9.4%となる。また、式3を用いて計算すればV(A)=49.9%−33.3%=16.6%となる。
【0080】
次に、ステップS902においてV(A)が所定の基準を満たすかどうかを判定する。この例では所定の基準として閾値を用い、閾値以下かどうかで判定を行う。閾値以下の場合はステップS903の処理を行い、閾値を超えた場合はステップS904の処理を行う。この閾値はユーザが変更できることが望ましい。上記の表8の例の場合、例えば閾値が15%の場合、式2で計算した評価値においてはステップS903の処理が行われ、式3で計算した評価値においてはステップS904の処理が行われることになる。ステップS903では警告表示を行い、ステップS904でIfix、推論結果A〜Aの事後確率、IとIの表示をそれぞれ行う。図15は警告表示がある場合の表示例である。ここでは、注意を促すアイコンと文字により警告表示を行っている。
【0081】
以上、述べた構成によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)推論結果に対して評価値を計算し所定の基準を満たす場合に警告表示を行うことで、推論結果の信頼性や入力した医用情報の信頼性の検証をユーザに喚起することができる。
【0082】
(第3実施形態の変形例)
ステップS901の評価値の計算は式2と式3の両方を組み合わせてつかってもよい。また、式2、式3以外の式を用いて計算しても良い。また、ステップS902の基準はユーザが任意に設定可能であってもよい。この場合、条件を設定するためのユーザインタフェースがあることが望ましいが、これに限定されない。また、基準は閾値を用いることに限定されない。
【0083】
また、ステップS903における警告表示は、アイコン表示のみであっても、文字表示のみであってもよく、ユーザに注意を促す形式であれば他の方法であってもよい。例えば、文字の表示色を変える、警告音を出す、背景色を変えるなどがある。また、ステップS904において推論結果A〜Aを全て表示しているが、もっとも事後確率の高い推論結果のみを表示してもよく、また、一部の推論結果のみを表示してもよい。この場合はユーザが選択する個数を決めてもよい。また、閾値を超えるもの、例えば事後確率が30%以上の推論結果を表示するようにしてもよい。ただし、閾値は上記の例に限定されず、閾値をユーザが決定してもよい。
【0084】
以上詳述したように、上記第1〜第3実施形態によれば、複数の推論の根拠のうち、推論結果に関して影響の大きい根拠がユーザに提示される。更に、推論結果を否定する根拠を提示するので、医療情報や推論結果の信頼性、提示した推論結果(最も確率の高い推論結果)以外の診断を考慮する必要性をユーザへ喚起することができる。すなわち、読影時に入力した情報の信頼性やシステムが提示した診断以外の可能性を検討する仕組みが提供される。
【0085】
[その他の実施形態]
以上、実施形態を詳述したが、本発明は、例えば、システム、装置、方法、プログラムもしくは記憶媒体等としての実施態様をとることが可能である。具体的には、複数の機器から構成されるシステムに適用しても良いし、また、一つの機器からなる装置に適用しても良い。
【0086】
尚、本発明は、ソフトウェアのプログラムをシステム或いは装置に直接或いは遠隔から供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータが該供給されたプログラムコードを読み出して実行することによって前述した実施形態の機能が達成される場合を含む。この場合、供給されるプログラムは実施形態で図に示したフローチャートに対応したコンピュータプログラムである。
従って、本発明の機能処理をコンピュータで実現するために、該コンピュータにインストールされるプログラムコード自体も本発明を実現するものである。つまり、本発明は、本発明の機能処理を実現するためのコンピュータプログラム自体も含まれる。
【0087】
その場合、プログラムの機能を有していれば、オブジェクトコード、インタプリタにより実行されるプログラム、OSに供給するスクリプトデータ等の形態であっても良い。
コンピュータプログラムを供給するためのコンピュータ読み取り可能な記憶媒体としては以下が挙げられる。例えば、フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、MO、CD−ROM、CD−R、CD−RW、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM、DVD(DVD−ROM,DVD−R)などである。
【0088】
その他、プログラムの供給方法としては、クライアントコンピュータのブラウザを用いてインターネットのホームページに接続し、該ホームページから本発明のコンピュータプログラムをハードディスク等の記録媒体にダウンロードすることが挙げられる。この場合、ダウンロードされるプログラムは、圧縮され自動インストール機能を含むファイルであってもよい。また、本発明のプログラムを構成するプログラムコードを複数のファイルに分割し、それぞれのファイルを異なるホームページからダウンロードすることによっても実現可能である。つまり、本発明の機能処理をコンピュータで実現するためのプログラムファイルを複数のユーザに対してダウンロードさせるWWWサーバも、本発明に含まれるものである。
【0089】
また、本発明のプログラムを暗号化してCD−ROM等の記憶媒体に格納してユーザに配布するという形態をとることもできる。この場合、一定の基準をクリアしたユーザに、インターネットを介してホームページから暗号を解く鍵情報をダウンロードさせ、その鍵情報を使用して暗号化されたプログラムを実行し、プログラムをコンピュータにインストールさせるようにもできる。
【0090】
また、コンピュータが、読み出したプログラムを実行することによって、前述した実施形態の機能が実現される他、そのプログラムの指示に基づき、コンピュータ上で稼動しているOSなどとの協働で実施形態の機能が実現されてもよい。この場合、OSなどが、実際の処理の一部または全部を行ない、その処理によって前述した実施形態の機能が実現される。
【0091】
さらに、記録媒体から読み出されたプログラムが、コンピュータに挿入された機能拡張ボードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに書き込まれて前述の実施形態の機能の一部或いは全てが実現されてもよい。この場合、機能拡張ボードや機能拡張ユニットにプログラムが書き込まれた後、そのプログラムの指示に基づき、その機能拡張ボードや機能拡張ユニットに備わるCPUなどが実際の処理の一部または全部を行う。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された複数の医用情報に基づいて医療診断に関わる推論処理を行い、推論結果を得る推論手段と、
前記複数の医用情報から取り出された医用情報を要素とする複数の部分集合の各々について、前記推論結果を否定もしくは肯定する度合いを算出する算出手段と、
前記推論手段によって得られた推論結果と、前記複数の部分集合のうち、前記算出手段により否定する度合いが算出された部分集合に含まれている医用情報を示す否定情報とを提示する提示手段とを備えることを特徴とする医療意志決定支援装置。
【請求項2】
前記提示手段は、更に、前記複数の部分集合のうち、前記算出手段により肯定する度合いが算出された部分集合に含まれている医用情報を肯定情報として提示することを特徴とする請求項1に記載の医療意志決定支援装置。
【請求項3】
前記提示手段は、前記算出手段により算出された否定する度合いが最大の部分集合と、肯定する度合いが最大の部分集合に含まれる医用情報を、それぞれ前記否定情報および前記肯定情報として提示することを特徴とする請求項2に記載の医療意志決定支援装置。
【請求項4】
前記推論手段は、事前確率が設定されている複数の推論結果に関して、前記複数の医用情報に基づいて各推論結果の事後確率を計算することにより推論結果を得ることを特徴とする請求項1に記載の医療意志決定支援装置。
【請求項5】
前記算出手段は、前記事後確率が最大となる推論結果について前記度合いを算出することを特徴とする請求項4に記載の医療意志決定支援装置。
【請求項6】
前記算出手段は、前記複数の推論結果のそれぞれについて前記度合いを算出し、
前記提示手段は、前記度合いが所定の条件を満たす部分集合の医用情報を肯定情報または否定情報として、前記複数の推論結果のそれぞれについて提示することを特徴とする請求項4に記載の医療意志決定支援装置。
【請求項7】
前記算出手段は、前記複数の推論結果のうち、前記推論処理によって得られた事後確率が所定の値を超える推論結果のそれぞれについて前記度合いを算出することを特徴とする請求項4に記載の医療意志決定支援装置。
【請求項8】
前記算出手段は、前記部分集合に基づいて各推論結果の事後確率を計算し前記事前確率と事後確率を利用して前記度合いを算出することを特徴とする請求項4に記載の医療意志決定支援装置
【請求項9】
前記複数の推論結果に関して算出された複数の事後確率に基づいて、それらのうちの最大の事後確率に対する評価値を算出する評価手段を更に備え、
前記提示手段は、前記評価値が所定の条件を満たさない場合には、推論結果の信頼性に関する警告を提示することを特徴とする請求項4に記載の医療意志決定支援装置。
【請求項10】
前記評価手段は、前記複数の確率のうち最も高い事後確率と2番目に高い事後確率との差を前記評価値とすることを特徴とする請求項9に記載の医療意志決定支援装置。
【請求項11】
前記評価手段は、前記複数の事後確率のうち最も高い事後確率と、前記複数の事後確率の個数の逆数との差を前記評価値とすることを特徴とする請求項9に記載の医療意志決定支援装置。
【請求項12】
入力された複数の医用情報に基づいて医療診断に関わる推論処理を行い、推論結果を得る推論工程と、
前記複数の医用情報から取り出された医用情報を要素とする複数の部分集合の各々について、前記推論結果を否定もしくは肯定する度合いを算出する算出工程と、
前記推論工程で得られた推論結果と、前記複数の部分集合のうち、前記算出工程で否定する度合いが算出された部分集合に含まれている医用情報を示す否定情報とを提示する提示工程とを有することを特徴とする医療意志決定支援装置の制御方法。
【請求項13】
請求項12に記載の制御方法の各工程をコンピュータに実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−200840(P2010−200840A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47021(P2009−47021)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】