説明

医療用デバイスの表面処理

医療用デバイスのぬれ性を改善するための方法は、以下:(a)モノマー混合物から形成された医療用デバイスを提供する工程であって、該モノマー混合物は、共重合可能な基および電子供与部分を含む親水性デバイス形成モノマーと、共重合可能な基および反応性官能基を含む第2のデバイス形成モノマーとを含む、工程;ならびに(b)該医療用デバイスの表面を、湿潤剤と接触させる工程であって、該湿潤剤は、該第2のレンズ形成モノマーによって提供される該官能基と反応性のプロトン供与部分を含み、該親水性レンズ形成モノマーによって提供される該電子供与部分と複合体化する、工程を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、眼科用レンズ(例えば、コンタクトレンズおよび眼内レンズ)、ステント、移植片およびカテーテルを含めた医療用デバイスの表面処理に関する。特に、本発明は、そのぬれ性を上昇させる、単純でコストの低い、医療用デバイスの表面改変方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(背景)
医療用デバイス(例えば、眼科用レンズ)は、一般に、2つの主なクラス(すなわち、ヒドロゲルおよび非ヒドロゲル)に細分され得る。非ヒドロゲルは、認識し得る量の水を吸収しないが、ヒドロゲルは、水を吸収して平衡状態に維持し得る。シリコーン医療用デバイスに関して、非ヒドロゲルシリコーン医療用デバイスおよびヒドロゲルシリコーン医療用デバイスの両方とも、脂質に対して高い親和性を有する、比較的疎水性の非濡れ表面を有する傾向がある。この問題は、コンタクトレンズについて特に関心のある問題である。
【0003】
当業者は、シリコーン製眼科用デバイスが眼と適合するようにシリコーン製眼科用デバイス(例えば、コンタクトレンズおよび眼内レンズ)の表面を改変する必要性を長らく認識している。一般に、コンタクトレンズ表面の親水性を上昇させることにより、コンタクトレンズのぬれ性が改善されることが公知である。これは次いで、コンタクトレンズの改善された着用快適性に関連する。さらに、このレンズの表面は、レンズの沈着感受性(特に、レンズを着用している間の涙液からのタンパク質および脂質の沈着)に影響を与え得る。蓄積した沈着物は、眼の不快感を、またはさらには炎症を引き起こし得る。長期着用レンズ(すなわち、睡眠前にレンズを毎日取り外すことなく使用されるレンズ)の場合、この表面は特に重要である。なぜなら、長期着用レンズは、長期間にわたって高い快適性標準および高い生体適合性のために設計されなければならないからである。
【0004】
シリコーンレンズは、それらの表面特性を改善するためにプラズマ表面処理に供されている(例えば、表面は、より親水性に、より沈着抵抗性に、より引掻き抵抗性にされているか、さもなければ改変されている)。以前に開示されたプラズマ表面処理の例としては、コンタクトレンズ表面を、以下を含むプラズマに供することが挙げられる:不活性ガスまたは酸素(例えば、米国特許第4,055,378号;同第4,122,942号;ぉよび同第4,214,014号を参照のこと);種々の炭化水素モノマー(例えば、米国特許第4,143,949号を参照のこと);および酸化剤と炭化水素との組み合わせ(例えば、水およびエタノール)(例えば、WO 95/04609および米国特許第4,632,844号を参照のこと)。Peymanらに対する米国特許第4,312,575号は、シリコーンまたはポリウレタン製のレンズを電気グロー放電(プラズマ)プロセスに供することによって、このレンズ上にバリアコーティングを提供するためのプロセスを開示し、このプロセスは、最初にこのレンズを炭化水素雰囲気に供し、次いでこのレンズをフロー放電の間酸素に供し、それにより、このレンズ表面の親水性を上昇させることによって行われる。
【0005】
米国特許第4,168,112号、同第4,321,261号および同第4,436,730号(全て、Ellisらに対して発行された)は、荷電したコンタクトレンズ表面を反対に荷電したイオン性ポリマーで処理して、ぬれ性を改善する高分子電解質複合体をこのレンズ表面に形成するための方法を開示する。
【0006】
Yangらに対する米国特許第5,397,848号は、コンタクトレンズおよび眼内レンズにおいて使用するためのシリコーンポリマー材料中に親水性構成要素を取り込む方法を開示する。
【0007】
Sheuらに対する米国特許第5,700,559号および同第5,807,636号は両方とも、基材、この基材上のイオン性ポリマー層およびこのポリマー層にイオン結合した無秩序高分子電解質コーティングを含む、親水性物品(例えば、コンタクトレンズ)を開示する。
【0008】
Bowersらに対する米国特許第5,705,583号は、生体適合性ポリマー表面コーティングを開示する。開示されたポリマー性表面コーティングとしては、カチオン性モノマーおよび双生イオン性モノマーを含め、正電荷中心を保有するモノマーから合成されるコーティングが挙げられる。
【0009】
欧州特許出願EP 0 963 761 Alは、安定で、親水性でかつ抗微生物性であるといわれ、かつカルボキシル含有親水性コーティングをエステル結合またはアミド結合によってこの表面へと結合するためのカップリング剤を用いて形成されるコーティングを有する生体医療用デバイスを開示する。
【0010】
Goldenbergらに対する米国特許第4,734,475号は、約0.5重量%と約30重量%との間のオキシラン置換単位を骨格に取り込んだ疎水性付加ポリマーから作製されたコンタクトレンズを開示する。このオキシラン置換単位は、水溶性で反応性の有機アミン、アルコール、チオール、尿素もしくはチオ尿素、またはスルファイト、ビスルファイトもしくはチオスルファイトと、反応性である。
【0011】
Kunzlerらに対する米国特許第6,428,839号は、種々の先行技術のアプローチの欠点を克服する医療用デバイスのぬれ性を改善するための方法を開示する。この方法は、以下を包含する:(a)表面酸化処理に供されていない医療用デバイスを提供する工程、および(b)この医療用デバイスの表面を、(好ましくは(メタ)アクリル酸のポリマーまたはコポリマーを含む)湿潤剤溶液と接触させ、それにより、表面酸化処理工程なしで、かつカップリング剤の添加なしで、このポリマーまたはコポリマーのメタ(アクリル)酸が、このコンタクトレンズ表面上でこの親水性モノマーとの複合体を形成する、工程。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0012】
(発明の要旨)
本発明は、医療用デバイスのぬれ性を改善するための方法に関し、この方法は、以下の工程を包含する:
(a)モノマー混合物から形成された医療用デバイスを提供する工程であって、該モノマー混合物は、共重合可能な基および電子供与部分を含む親水性デバイス形成モノマーと、共重合可能な基および反応性官能基を含む第2のデバイス形成モノマーとを含む、工程;ならびに
(b)該医療用デバイスの表面を、湿潤剤と接触させる工程であって、該湿潤剤は、該第2のレンズ形成モノマーによって提供される該官能基と反応性のプロトン供与部分を含み、該親水性レンズ形成モノマーによって提供される該電子供与部分と複合体化する、工程。
【0013】
好ましい実施形態によれば、デバイス形成モノマーの共重合可能な基は、これらのモノマーが、フリーラジカル重合プロセスによって互いに共重合するように、エチレン性不飽和基である。
【0014】
好ましくは、この第2のデバイス形成モノマーの反応性官能基は、エポキシ基である。好ましくは、この湿潤剤のプロトン供与部分は、カルボン酸官能性を含むポリマー(例えば、ポリ(アクリル酸)(PAA)を含有するポリマー)によって提供される。特に好ましいポリマーは、少なくとも約30モルパーセント(好ましくは少なくとも約40モルパーセント)の酸含有量によって特徴付けられる。
【0015】
米国特許第6,428,839号と同様に、本発明の方法は、表面酸化処理工程もカップリング剤の添加も必要としない。用語「カップリング剤」は、医療用デバイスの表面と親水性コーティング材料との結合を形成する、医療用デバイスまたは湿潤剤コーティング材料以外の実体を意味する。しかし、本発明によって提供されるコーティングは、非酸溶液中に保存した場合、米国特許第6,428,839号のコーティングよりも耐久性が高く、そしてより安定であると考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(発明の詳細な説明)
本発明の方法は、眼科用レンズ(コンタクトレンズが挙げられる)について通常用いられる柔らかい材料および硬い材料の両方を含めた生体適合性材料について有用である。好ましい基材は、ヒドロゲル材料(特に、シリコーンヒドロゲル材料)である。眼科用レンズの場合、デバイス形成モノマーは、本明細書中では、レンズ形成モノマーと呼ばれ得る。
【0017】
ヒドロゲルは一般に、平衡状態の水を含む、水和した架橋ポリマー系を含む、周知のクラスの材料である。従って、ヒドロゲルは、親水性モノマーから調製されるコポリマーである。シリコーンヒドロゲルの場合、ヒドロゲルコポリマーは、一般に、少なくとも1つのデバイス形成シリコーン含有モノマーと少なくとも1つのデバイス形成親水性モノマーとを含む混合物を重合させることにより調製される。シリコーン含有モノマーまたは親水性モノマーのいずれかが架橋剤(架橋剤は、複数の重合可能官能基を有するモノマーと定義される)として作用してもよく、または別の架橋剤を用いてもよい。シリコーンヒドロゲルは代表的に、約10重量パーセント〜約80重量パーセントの間の水含有量を有する。
【0018】
適切なデバイス形成性の親水性モノマーとしては、一旦重合すると、湿潤剤(例えば、この湿潤剤は、カルボン酸基を含む)と複合体を形成し得るモノマーが挙げられる。従って、このデバイス形成性の親水性モノマーとしては、湿潤剤のプロトン供与部分と複合体を形成する電子供与部分が挙げられる。さらに、この親水性モノマーとしては、他のデバイス形成モノマーの共重合可能な基と共重合する共重合可能な基(例えば、エチレン性不飽和基)が挙げられる。
【0019】
有用なデバイス形成親水性モノマーの例としては、以下が挙げられる:アミド(例えば、N,N−ジメチルアクリルアミドおよびN,N−ジメチルメタクリルアミド);環状ラクタム(例えば、N−ビニル−2−ピロリドン);および(メト)アクリレート化ポリ(アルケングリコール)(例えば、モノメタクリレートまたはジメタクリレートおよびキャップを含む種々の鎖長のポリ(ジエチレングリコール))。なおさらなる例は、米国特許第5,070,215号に開示された親水性ビニルカーボネートモノマーまたはビニルカルバメートモノマー、ならびに米国特許第4,910,277号に開示された親水性オキサゾロンモノマーである。米国特許第5,070,215号および米国特許第4,910,277号の開示は、本明細書中に参考として援用される。他の適切な親水性モノマーは、当業者に明らかである。例えば、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(Hema)は、比較的強いプロトン供与部分を有する上記の親水性モノマーと混合して用いられ得る周知の親水性モノマーである。
【0020】
このデバイス形成モノマー混合物としてはまた、共重合可能な基および反応性官能基を含む第2のデバイス形成モノマーが挙げられる。共重合可能な基は、好ましくはエチレン性不飽和基であり、その結果、このデバイス形成モノマーは、最初のデバイス形成モノマー混合物中で親水性デバイス形成モノマーおよび任意の他のデバイス形成モノマーと共重合する。さらに、この第2のモノマーとしては、湿潤剤の相補的反応性基と反応する反応性官能基が挙げられる。言い換えると、このデバイス形成モノマー混合物を共重合することによってこのデバイスが形成された後に、第2のデバイス形成モノマーによって提供される反応性官能基は、湿潤剤の相補性反応性プロトン供与部分と依然として反応する。
【0021】
第2のデバイス形成モノマーの好ましい反応性基としては、エポキシド基が挙げられる。従って、好ましい第2のデバイス形成モノマーは、エチレン性不飽和基(この親水性デバイス形成モノマーとこのモノマーが共重合することを可能にする)およびエポキシド基(親水性デバイス形成モノマーと反応しないが、湿潤剤と依然として反応する)の両方を含むモノマーである。例としては、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルビニルカーボネート、グリシジルビニルカルバメート、および4−ビニル−1−シクロヘキサン−1,2−エポキシドが挙げられる。
【0022】
上記のように、1つの好ましいクラスの医療用デバイス基材材料は、シリコーンヒドロゲルである。この場合、最初のデバイス形成モノマー混合物は、シリコーン含有モノマーをさらに含む。
【0023】
シリコーンヒドロゲルの形成において使用するための適用可能なシリコーン含有モノマー材料は、当該分野で周知であり、そして多数の例が、以下に提供される:米国特許第4,136,250号;同第4,153,641号;同第4,740,533号;同第5,034,461号;同第5,070,215号;同第5,260,000号;同第5,310,779号;および同第5,358,995号。
【0024】
適用可能なケイ素含有モノマーの例としては、嵩高いポリシロキサニルアルキル(メト)アクリルモノマーが挙げられる。嵩高いポリシロキサニルアルキル(メト)アクリルモノマーの例は、以下の式Iによって表される:
【0025】
【化1】

ここで:
Xは、−O−または−NR−を示し;
各Rは、水素またはメチルを独立して示し;
各Rは、低級アルキルラジカル、フェニルラジカルまたは以下によって表される基を独立して示し:
【0026】
【化2】

ここで、
各R’は、低級アルキルラジカルまたはフェニルラジカルを独立して示し;そして
hは1〜10である。
【0027】
1つの好ましい嵩高いモノマーは、メタクリルオキシプロピルトリス(トリメチル−シロキシ)シランまたはトリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルメタクリレート(時々、TRISと呼ばれる)である。
【0028】
別のクラスの代表的ケイ素含有モノマーとしては、以下が挙げられる:シリコーン含有ビニルカーボネートまたはビニルカーバメートモノマー(例えば、1,3−ビス[4−ビニルオキシカルボニルオキシ)ブト−l−イル]テトラメチル−ジシロキサン;3−(トリメチルシリル)プロピルビニルカルボネート;3−(ビニルオキシカルボニルチオ)プロピル−[トリス(トリメチルシロキシ)シラン];3−[トリス(トリ−メチル−メチルシロキシ)シリル]プロピルビニルカーバメート;3−[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピルアリルカーバメート;3−[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピルビニルカルボネート;t−ブチルジメチルシロキシエチルビニルカルボネート;トリメチルシリルエチルビニルカルボネート;およびトリメチルシリルメチルビニルカルボネート。
【0029】
ケイ素含有ビニルカルボネートモノマーまたはビニルカーバメートモノマーの例は、以下の式IIによって表される:
【0030】
【化3】

ここで:
Y’は、−O−、−S−または−NH−を示し;
Siは、シリコーン含有有機ラジカルを示し;
は、水素またはメチルを示し;
dは、1、2、3または4であり;そして
qは、0または1である。
【0031】
適切なシリコーン含有有機ラジカルRSiとしては、以下が挙げられる:
【0032】
【化4】

ここでp’は、1〜6であり;
は、1〜6個の炭素原子を有するフルオロアルキルラジカルまたはアルキルラジカルを示し;
eは、1〜200であり;n’は、1、2、3または4であり;そしてm’は0、1、2、3、4または5である。
【0033】
式II内の特定の種の例は、式IIIによって表される。
【0034】
【化5】

別のクラスのケイ素含有モノマーとしては、伝統的なウレタンエラストマーと同様にハード−ソフト−ハードのブロックを有し得る、ポリウレタンポリシロキサンマクロモノマー(時々、プレポリマーともいう)が挙げられる。これらは、親水性モノマー(例えば、HEMA)で末端がキャップされ得る。このようなシリコーンウレタンの例は、Lai,Yu−Chin,「The Role of Bulky Polysiloxanylalkyl Methacryates in Polyurethane−Polysiloxane Hydrogels」,Journal of Applied Polymer Science,第60巻,1193−1199(1996)を含め、種々の刊行物に開示される。PCT公開出願第WO 96/31792号は、このようなモノマーの例を開示し、この開示は、その全体が、本明細書中に参考として援用される。シリコーンウレタンモノマーのさらなる例は、式IVおよび式Vによって表される:
(IV)E(G)E’;または
(V)E(A)E’;
ここで:
Dは、6〜30個の炭素原子を有する、アルキルジラジカル、アルキルシクロアルキルジラジカル、シクロアルキルジラジカル、アリールジラジカルまたはアルキルアリールジラジカルを示し;
Gは、1〜40個の炭素原子を有する、アルキルジラジカル、シクロアルキルジラジカル、アルキルシクロアルキルジラジカル、アリールジラジカルまたはアルキルアリールジラジカルを示し、これは、エーテル結合、チオ結合またはアミン結合をその主鎖中に含み得る;
は、ウレタン結合またはウレイド結合を示し;
aは、少なくとも1であり;
Aは、式VIの二価のポリマーラジカルを示す:
【0035】
【化6】

ここで:
各Rは、1〜10個の炭素原子を有するフルオロ置換アルキル基またはアルキル基を独立して示し、これは、炭素原子間にエーテル結合を含み得;
m’は、少なくとも1であり;そして
pは、400〜10,000の部分質量を提供する数であり;
EおよびE’の各々は、式VIIによって表される重合可能な不飽和有機ラジカルを独立して示し:
【0036】
【化7】

ここで:
は、水素またはメチルであり;
は、水素、1〜6個の炭素原子を有するアルキルラジカル、または−CO−Y−Rラジカルであり、ここでYは、−O−、−S−または−NH−であり;
は、1〜10個の炭素原子を有する二価アルキレンラジカルであり;
は、1〜12個の炭素原子を有するアルキルラジカルであり;
Xは、−CO−または−OCO−を示し;
Zは、−O−または−NH−を示し;
Arは、6〜30個の炭素原子を有する芳香族ラジカルを示し;
wは、0〜6であり;xは、0または1であり;yは0または1であり;そしてzは0または1である。
【0037】
シリコーン含有ウレタンモノマーのより特定の例は、式(VIII)によって表される:
【0038】
【化8】

ここで、mは、少なくとも1であり、好ましくは3または4であり、aは、少なくとも1であり、好ましくは1であり、pは、400〜10,000の部分重量を提供する数であり、少なくとも30であり、R10は、イソシアネート基の除去後にジイソシアネートのジラジカル(例えば、イソホロンジイソシアネートのジラジカル)であり、そして各E”は、以下によって表される:
【0039】
【化9】

好ましいシリコーンヒドロゲル材料は、(共重合する嵩高いモノマー混合物において)5〜50重量パーセント(好ましくは10〜25重量パーセント)の1以上のシリコーンマクロモノマー、5〜75重量パーセント(好ましくは30〜60重量パーセント)の1以上のポリシロキサニルアルキル(メタ)アクリルモノマー、および10〜50重量パーセント(好ましくは20〜40重量パーセント)の親水性モノマーを含む。一般に、このシリコーンマクロモノマーは、その分枝の2以上の末端において不飽和基でキャップしたポリ(オルガノシロキサン)である。上記の構造式における末端基に加えて、Deichertらに対する米国特許第4,153,641号は、アクリルオキシまたはメタクリルオキシを含めた、さらなる不飽和基を開示する。フマレート含有材料(例えば、Laiに対する米国特許5,512,205号;同第5,449,729号;および同第5,310,779号において教示される材料)もまた、本発明二従って有用な基材である。好ましくは、シランマクロモノマーは、ケイ素含有ビニルカルボネートもしくはビニルカーバメート、または1以上のハード−ソフト−ハードブロックを有し、親水性モノマーで末端キャップされたポリウレタン−ポリシロキサンである。
【0040】
本発明において有用な基材材料の特定の例は、以下に教示される:Kiinzlerらに対する米国特許5,908,906号;Kiinzlerらに対する同第5,714,557号;Kunzlerらに対する同第5,710,302号;Laiらに対する同第5,708,094号;Bamburyらに対する同第5,616,757号;Bamburyらに対する同第5,610,252号;Laiに対する同第5,512,205号;Laiに対する同第5,449,729号;Kunzlerらに対する同第5,387,662号およびLaiに対する同第5,310,779号;これらの開示は、本明細書中に参考として援用される。
【0041】
上記のように、この湿潤剤は、好ましくは、カルボン酸官能性を含むポリマー(例えば、PAAを含むポリマー)である。従って、第2のデバイス形成モノマーが反応性官能基として反応性のエポキシド含む場合、(デバイス形成モノマーの)エポキシド基および(湿潤剤の)カルボン酸基は、互いに反応して、それらの間に共有結合を形成する。さらに、デバイスのエポキシド基と反応しない湿潤剤の種々のカルボン酸基もまた、親水性デバイス形成モノマーによって提供される電子供与部分と複合体を形成する(水素結合複合体化であると考えられる)。
【0042】
PAA含有ポリマーに加えて、第2のデバイス形成モノマー反応性基と反応性の他の湿潤剤基としては、スルホン酸、フマル酸、マレイン酸、無水物(例えば、マレイン酸無水物)および官能基化アルコール(例えば、ビニルアルコール)基を含むポリマーが挙げられる。
【0043】
特異的表面コーティング湿潤剤としては、P(ビニルピロリジノン(VP)−co−アクリル酸(AA))、P(メチルビニルエーテル−alt−マレイン酸)、P(アクリル酸−グラフト−エチレンオキシド)、P(アクリル酸−co−メタクリル酸)、P(アクリルアミド−co−AA)、P(アクリルアミド−co−AA)、P(AA−co−マレイン酸)、およびP(ブタジエン−マレイン酸)が挙げられる。特に好ましいポリマーは、少なくとも約30モルパーセント、好ましくは少なくとも約40モルパーセントの酸含有量によって特徴付けられる。特に好ましい湿潤剤は、カルボン酸含有ポリマー、特にPAAベースのポリマーである。
【0044】
それゆえ、好ましい実施形態によれば、本発明は、濡れ性のシリコーンベースのヒドロゲル処方物の調製のための方法を提供する。従来の親水性モノマーであるN,N−ジメチルアクリルアミド(DMA)またはN,N−ビニルピロリジノン(NVP)と、エポキシド含有デバイス形成モノマーとから調製されたシリコーンヒドロゲルコポリマーは、PAA含有湿潤剤を含む水ベースの溶液で処理されて、滑らかな、安定した、高濡れ性で耐久性の高いPAAベースの表面コーティングにされる。この処理は、室温で、またはオートクレーブ条件下で実施され得る。さらなる酸化表面処理(例えば、コロナ放電もプラズマ酸化も)は必要とされない。本明細書中に開示された通りの別個のカップリング剤は必要とされない。
【0045】
本発明の表面処理(接触)工程において有用な溶媒としては、プロトン供与溶質(solube)(例えば、カルボン酸、スルホン酸、フマル酸、マレイン酸、無水物および官能基化ビニルアルコール)を容易に可溶化する溶媒が挙げられる。好ましい溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、および水が挙げられる。最も好ましい溶媒は、水である。
【0046】
この表面処理溶液は、好ましくは、接触工程の前に酸性化される。それゆえ、この溶液のpHは、適切には、7未満であり、好ましくは5未満であり、より好ましくは4未満である。特に好ましい実施形態では、この溶液のpHは、約3.5である。複合体化反応におけるpHの役割の根本にある理論の考察については、一般に、Advances in Polymer Science,Springer−Verlag出版,H.J.Cantowら編,V45,1982,17−63頁を参照のこと。
【0047】
以下の実施例は、本発明の種々の局面を例示し、本発明を限定するとは解釈されるべきではない。
【実施例】
【0048】
(実施例1)
レンズ形成モノマー混合物を、表1に列挙した成分を混合することにより調製した。
【0049】
【表1】

表1では、Trisは、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルメタクリレートを示し;DMAは、N,N−ジメチルアクリルアミドを示し;NVPは、N−ビニル−2−ピロリドンを示し;そしてpbwは、重量部を示す。この開始剤は、Darocur1173TM開始剤であり、そしてヘキサノールを、希釈剤として用いた。さらに、M25(40TMS)は、それぞれ、60/40のモル比での、以下の2つのモノマー材料の混合物を示す。
【0050】
【化10】

2つのさらなるモノマー混合物を、2重量%および4重量%のグリシジルメタクリレートを、ベースモノマー混合物Aに添加することによって得た。グリシジルメタクリレートは、表2においてGMAと称される。
【0051】
このモノマー混合物を、2つのポリプロピレン型部分から構成される型のアセンブリに導入することによって、得られるモノマー混合物の各々を成型して、コンタクトレンズにした。この型の前面部分は、前面のコンタクトレンズ表面を形成するための型表面を有し、そしてこの型の裏面部分は、裏面のコンタクトレンズ表面を形成するための型表面を有する。次いで、この型部分およびモノマー混合物を紫外光に曝露して、フリーラジカル重合を誘導し、そしてこのモノマー混合物を硬化させて、コンタクトレンズが形成された。得られたコンタクトレンズを型アセンブリから取り出し、そして抽出して未反応のモノマーを除去した。
【0052】
次いで、これらのレンズを、アクリルアミドおよびアクリル酸(30/70モル比)のコポリマーの1重量%溶液(pH3.5に酸性化した)中に入れた。溶液中のこのレンズを1回目のオートクレーブサイクル(30分間、t122℃/15psi)に供し、このレンズを蒸留水で3回リンスし、次いでこのレンズをホウ酸緩衝化生理食塩水中に入れ、そして2回目のオートクレーブサイクルに供した。
【0053】
得られた処理レンズは、高度に濡れ性であり、そして滑らかであった。種々の物理的特性を測定した。そしてこれを表2に報告する。
【0054】
【表2】

(実施例2)
レンズ形成モノマー混合物を、表3に列挙した成分を混合することによって調製した。
【0055】
【表3】

表3では、TrisVCは、3−[トリス(トリ−メチルシロキシ)シリル]プロピルビニルカーバメートを示し、そして残りの略号は、上記と同一である。開始剤は、Darocur1173TM開始剤であり、そしてノナノール(nonanol)を希釈剤として用いた。さらに、V9010は、以下のモノマー材料を示し、ここで、シロキサンラジカルの10モル%は、フッ化側鎖で置換されている(模式的にF1と称される):
【0056】
【化11】

3つのさらなるモノマー混合物を、1重量%、2.5重量%および5重量%のグリシジルビニルカルボネートをベースモノマー混合物Bに添加することによって得た。グリシジルビニルカルボネートは、表4においてGVCと称される。
【0057】
得られたモノマー混合物の各々を、実施例1と同様の手順で成型してコンタクトレンズにした。型アセンブリから取り出した後、これらのコンタクトレンズを超臨界二酸化炭素で抽出した。
【0058】
次いで、これらのレンズを、アクリルアミドおよびアクリル酸(30/70のモル比)のコポリマーの1重量%溶液(pH3.5に酸性化した)中に入れた。溶液中のこれらのレンズを、1回目のオートクレーブサイクル(30分間、t122℃/15psi)に供し、これらのレンズを蒸留水で3回リンスし、次いでこれらのレンズをホウ酸緩衝化生理食塩水中に入れ、そして2回目のオートクレーブサイクルに供した。
【0059】
得られた処理レンズは、高度に濡れ性であり、そして滑らかであった。種々の物理的特性を測定した。そしてこれらを表4に報告する。
【0060】
【表4】

(実施例3)
レンズ形成モノマー混合物を、表5に列挙した成分を混合することによって調製した。
【0061】
【表5】

表5では、PU−Siは、式(VIII)のモノマー材料を示し、そして残りの略号は、上記と同一である。開始剤は、Darocur1173TM開始剤であり、そしてヘキサノールを希釈剤として用いた。
【0062】
2つのさらなるモノマー混合物を、1重量%および2.5重量%のグリシジルメタクリレートをベースモノマー混合物Cに添加することによって得た。
【0063】
得られたモノマー混合物の各々を成型してコンタクトレンズにし、そしてこれらのコンタクトレンズを、実施例1と同様の手順によって加工した。
【0064】
次いで、種々のレンズを、アクリルアミドおよびアクリル酸(30/70モル比)のコポリマーの1重量%溶液(pH3.5に酸性化された)に入れた。溶液中のこれらのレンズを1回目のオートクレーブサイクル(30分間、t122℃/15psi)に供し、これらのレンズを蒸留水で3回リンスし、次いでこれらのレンズをホウ酸緩衝化生理食塩水中に入れ、そして2回目のオートクレーブサイクルに供した。種々の他のレンズを、「コントロール」として表6において称した任意のPAA含有溶液中で処理した。得られた処理レンズは、高度に濡れ性であり、そして滑らかであった。
【0065】
【表6】

(実施例4)
本実施例は、さらなる湿潤剤(すなわち、N,N−ジメチルアクリルアミド(DMA)およびメタクリル酸(MA)の反応性で親水性のコポリマー)の合成を例示する。
【0066】
3000mlの反応フラスコに、蒸留N,N−ジメチルアクリルアミド(DMA、128g、1.28モル)、メタクリル酸(MAA、32g、0.37モル)、Vazo 64(AIBN、0.24g、0.0016モル)および無水2−プロパノール(2000ml)を添加した。反応容器に、磁気スターラー、凝縮器、熱制御器および窒素入り口を取り付けた。窒素を、この溶液を通して15分間発泡させて、あらゆる溶存酸素を除去した。次いで、この反応フラスコを、窒素の受動的ブランケット下で60℃にて72時間加熱した。反応混合物の体積を、フラッシュエバポレーションによって半分に減らした。この反応性ポリマーを8Lのエチルエーテル中に沈澱させ、次いで真空濾過によって収集した。この固体を、30℃の真空オーブン中に一晩入れて、エーテルを除去して、142.34gの反応性ポリマー(89%の収率)が残った。この反応性ポリマーを、使用するまで保存のためにデシケーター中に入れた。
【0067】
【化12】

この一般的手順に従って、以下の表に列挙した反応性ポリマーを調製した。
【0068】
【表7】

本発明の多くの他の改変およびバリエーションは、本明細書中の教示を考慮して可能である。それゆえ、特許請求の範囲の範囲内で、本明細書中に具体的に記載した以外にも本発明が実施され得ることが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用デバイスのぬれ性を改善するための方法であって、該方法は、以下:
(a)モノマー混合物から形成された医療用デバイスを提供する工程であって、該モノマー混合物は、共重合可能な基および電子供与部分を含む親水性デバイス形成モノマーと、共重合可能な基および反応性官能基を含む第2のデバイス形成モノマーとを含む、工程;ならびに
(b)該医療用デバイスの表面を、湿潤剤と接触させる工程であって、該湿潤剤は、該第2のレンズ形成モノマーによって提供される該官能基と反応性のプロトン供与部分を含み、該親水性レンズ形成モノマーによって提供される該電子供与部分と複合体化する、工程
を包含する、方法。
【請求項2】
前記湿潤剤が、カルボン酸、スルホン酸、フマル酸、マレイン酸、無水物、およびビニルアルコールからなる群より選択されるプロトン供与部分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記湿潤剤が、カルボン酸反応性基含有ポリマーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記医療用デバイスが、シリコーンヒドロゲルを含み、前記モノマー混合物が、シリコーン含有デバイス形成モノマーをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記親水性モノマーが、ビニルラクタム、アクリルアミド、ビニルカーボネート、ビニルカルバメート、およびオキサゾロンからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記親水性モノマーが、N−ビニルピロリドンおよびN,N−ジメチルアクリルアミドからなる群より選択される少なくとも1つのメンバーを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第2のデバイス形成モノマーが、共重合可能なエチレン性不飽和基およびエポキシ反応性官能基を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記第2のデバイス形成モノマーが、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルビニルカーボネート、およびグリシジルビニルカルバメートからなる群より選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記医療用デバイスが、表面酸化処理に供されていない、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記湿潤剤が、表面酸化処理工程の非存在下で、そしてカップリング剤の添加なしで、前記親水性モノマーと複合体を形成する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記湿潤剤が、表面酸化処理工程の非存在下で、そしてカップリング剤の添加なしで、前記第2のレンズ形成モノマーによって提供される前記プロトン供与部分と反応する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記医療用デバイスが、眼科用レンズまたは眼科用移植片である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記医療用デバイスが、コンタクトレンズである、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記湿潤剤が、少なくとも30モルパーセントのカルボン酸含有量を有するポリマーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記湿潤剤が、P(ビニルピロリジノン(VP)−co−アクリル酸(AA))、P(メチルビニルエーテル−alt−マレイン酸)、P(アクリル酸−グラフト−エチレンオキシド)、P(アクリル酸−co−メタクリル酸)、P(アクリルアミド−co−AA)、P(アクリルアミド−co−AA)、P(AA−co−マレイン酸)、およびP(ブタジエン−マレイン酸)からなる群より選択される少なくとも1つのメンバーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記湿潤剤が、5未満のpHを有する処理溶液中に存在する、請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2006−513282(P2006−513282A)
【公表日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−565244(P2004−565244)
【出願日】平成15年12月8日(2003.12.8)
【国際出願番号】PCT/US2003/038873
【国際公開番号】WO2004/060431
【国際公開日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(391008847)ボシュ・アンド・ロム・インコーポレイテッド (137)
【氏名又は名称原語表記】BAUSCH & LOMB INCORPORATED
【Fターム(参考)】