説明

医療用プラスチック製容器用の包装袋

【課題】 高い酸素ガスバリア性及び好適な水蒸気バリア性を有し、さらに医療用プラスチック製容器を包装するのに適した物性を備えた医療用プラスチック製容器用の包装袋。
【解決手段】 二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムの一方の面に、無機酸化物蒸着膜を1層又は2層以上積層し、さらに該無機酸化物蒸着膜の上に、酸素吸収性ヒートシール性樹脂フィルムを積層した積層フィルム、を製袋して得られる医療用プラスチック製容器用の包装袋。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用プラスチック製容器を包装するための、ガスバリア性を有する積層フィルムからなる包装袋、及びその製造方法に関する。より詳細には、本発明は、高い酸素ガスバリア性、及び好適な水蒸気バリア性を有すると共に、医療用プラスチック製容器の包装袋として好適なその他の物性を有する積層フィルムからなる前記包装袋に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アミノ酸含有液等の種々の医薬品は、酸化分解を受け易いため、これらを入れる医療用容器は、高い酸素ガスバリア性が要求される。
近年、各種医療用容器は、取り扱いの容易さから、ガラス製のものからプラスチック製のものに切り替えられてきているが、該プラスチック製容器は、軽量かつ破損の恐れがないという利点を有する代わりに、ガラス製のものに比べてガスバリア性が劣るという欠点を有する。したがって、このような医療用プラスチック製容器を用いる場合、該容器を、高い酸素ガスバリア性を有する包装袋により包装する必要がある。
【0003】
このような医療用プラスチック製容器用の包装袋を製造するためには、例えば、無機酸化物を蒸着させたポリエステルフィルム層/ナイロンフィルム層/ヒートシール性樹脂層のような3層以上からなるガスバリア性積層フィルムを用いることができる(例えば特許文献1)。また、ポリエステルを基材とする蒸着ポリエステルフィルムのガスバリア性の改良に伴い、ナイロンフィルム層を省いた、無機酸化物を蒸着させたポリエステルフィルム層/ヒートシール性樹脂層の2層からなる2層型ガスバリア性積層フィルムも用いられるようになってきた。
【0004】
ポリエステルを基材とする蒸着フィルムを用いたガスバリア性積層フィルムは、基材と蒸着面の良好な密着を簡単に得ることができるというメリットを有するが、その物性は、医療用プラスチック製容器用の包装袋としては不適である。すなわち、医療用プラスチック製容器は、その口栓部等が細く角張っているため、この部分に接触する包装袋のフィルムは屈曲してシワになり易い。しかしながら、ポリエステルを基材とするガスバリア性積層フィルムは、可撓性を欠き、これからなる医療用プラスチック製容器用の包装袋は、フィルムの変形又は屈曲に伴って無機酸化物蒸着膜が破断し、ガスバリア性が損なわれるか、又は場合によっては、破袋することもある。
【0005】
また、医療用プラスチック製容器は、一般に、少量の水分を透過させることが知られている。これは、酸素ガスの透過とは異なり、内部の医薬品に対して悪影響を及ぼすものではないが、ポリエステルを基材とする蒸着フィルムを用いた従来のガスバリア性積層フィルムからなる包装袋は、その水蒸気バリア能が高すぎるために、医療用プラスチック製容器から外に透過した水分が袋内で結露し、外観不良を生じるという問題がある。
【0006】
さらに、上記の従来型ガスバリア性積層フィルムからなる包装袋は、カット性に問題があり、一般的に開封し難いことが多い。
【特許文献1】特開2002−65808
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、2層型ガスバリア性積層フィルムからなり、且つ、高い酸素ガスバリア性及び好適な水蒸気バリア性を有し、さらに医療用プラスチック製容器を包装するのに適した可撓性、透明性、強度、易カット性を備えた医療用プラスチック製容器用の包装袋を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究し、所望のガスバリア性、可撓性、透明性、強度及び易カット性を兼ね備えた2層型ガスバリア性積層フィルムからなる医療用プラスチック製容器用の包装袋として、二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムの一方の面に、無機酸化物蒸着膜を1層又は2層以上積層し、さらに該無機酸化物蒸着膜の上に、酸素吸収性ヒートシール性樹脂フィルムを積層した積層フィルム、を製袋して得られる医療用プラスチック製容器用の包装袋であって、該酸素吸収性ヒートシール性樹脂フィルムが、酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物による酸素吸収性樹脂層、及びヒートシール性樹脂層を有し、且つ該ヒートシール性樹脂層が上記積層フィルムの表面側に位置する、上記包装袋、を開発した。また、無機酸化物蒸着膜と酸素吸収性ヒートシール性樹脂フィルムの間に、バリアコートを設けることにより、酸素バリア性がさらに向上した包装袋を得ることができた。
【発明の効果】
【0009】
本発明の医療用プラスチック製容器用の包装袋を構成する積層フィルムは、無機酸化物を蒸着させた二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルム/酸素吸収性ヒートシール性樹脂フィルムからなる2層型ガスバリア性積層フィルムであって、3層以上からなる従来型のガスバリア性積層フィルムよりもコストがかからず、容易に製造することができるだけでなく、高い酸素ガスバリア性を示し、且つ良好な可撓性及び強度を有する。そのため、屈曲や変形に強く、医療用プラスチック製容器の角張った部分と接触してもシワにならず、無機酸化物蒸着膜の破断によってガスバリア性が低下することもない。したがって、長期間にわたり、高い酸素ガスバリア性を維持し続けることができる。
【0010】
また、上記積層フィルムは、医療用プラスチック製容器用の包装袋として好適な水蒸気バリア性を有する。具体的には、水蒸気バリア性が高すぎないため、医療用プラスチック製容器から外に透過したごく少量の水分を、包装袋外に透過させて、結露を防ぐことができる。
【0011】
さらに、上記積層フィルムは、易カット性に優れているため、これからなる本発明の医療用プラスチック製容器用の包装袋は、簡単に開封することができる。
【0012】
加えて、上記積層フィルムは、酸素吸収性ヒートシール性樹脂フィルムを備えているため、包装袋内のヘッドスペース等に存在する酸素、又は内容物である医療用プラスチック製容器内の酸素、又は発生する酸素等を吸収する酸素捕集機能を奏し、その結果、包装製品の外部からの酸素の透過を阻止する無機酸化物蒸着膜及びバリアコートの機能と相俟って、医薬品の品質、鮮度等を、充填包装したときの状態そのまま、あるいはそれ以上の状態で維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明について、以下に図面等を用いてさらに詳しく説明する。
<1>本発明の医療用プラスチック製容器用の包装袋を構成する積層フィルムの層構成
まず、本発明において用いられる積層フィルムの層構成について説明する。図1は、本発明の医療用プラスチック製容器用の包装袋を構成する積層フィルムの層構成の一例を示す断面図である。
本発明に係る積層フィルムは、図1に示すように、基材フィルムとしての二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルム1の一方の面に、無機酸化物蒸着膜2、及び酸素吸収性ヒートシール性樹脂フィルム3を順に積層した構成を基本構造とするものである。
また、本発明において、図2に示すように、無機酸化物蒸着膜2と酸素吸収性ヒートシール性樹脂フィルム3の間に、バリアコート4を設けてもよい。
本発明において、無機酸化物蒸着膜は、単層であっても、2層以上からなる多層であってもよい。
【0014】
さらに、本発明において、図3に示すように、酸素吸収性ヒートシール性樹脂フィルム3は、酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物と、熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物とを用いて、これらをTダイ共押出機又はインフレーション共押出機等を用いて2層共押出製膜化し、上記の酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物による酸素吸収性樹脂層3aと、上記の樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物による透明ないし半透明のヒートシール性樹脂層3bとの2種2層からなる共押出多層積層フィルムであってよく、この酸素吸収性樹脂層3aの面を、上記無機酸化物蒸着膜2又はバリアコート4の面と対向させて重ね合わせ、ラミネート用接着剤を介して積層することにより、本発明の包装袋を構成する積層フィルムを得ることができる。
【0015】
さらに、図4に示すように、酸素吸収性ヒートシール性樹脂フィルム3は、酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物と、熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物とを用いて、これらをTダイ共押出機又はインフレーション共押出機等を用いて3層共押出製膜化し、上記の樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物による透明ないし半透明のヒートシール性樹脂層3cと、上記の酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物による酸素吸収性樹脂層3aと、上記の樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物による透明ないし半透明のヒートシール性樹脂層3bとの2種3層からなる共押出多層積層フィルムであってよく、このヒートシール性樹脂層3cの面を、上記無機酸化物蒸着膜2又はバリアコート4の面と対向させて重ね合わせ、ラミネート用接着剤を介して積層することにより、本発明の包装袋を構成する積層フィルムを得ることができる。
【0016】
<2>基材フィルム
本発明において、無機酸化物蒸着膜を支持する基材フィルムとして、耐衝撃性、耐突刺性、耐屈曲性に優れる二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムが用いられる。
このような二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムとしては、後述の無機酸化物蒸着膜及びバリアコートの特性を損なうことなく良好に保持し得る二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムであればいずれのものでも使用することができ、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、その他の各種のポリアミド系樹脂のフィルムを使用することができる。これらの樹脂のフィルムは、二軸方向に延伸されているものが好ましく、また、その厚さとしては、10〜50μm位、好ましくは、10〜25μm位が望ましい。また、上記の樹脂のフィルムとしては、必要ならば、その表面に、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理等の表面活性処理を任意に施すことができる。また、本発明においては、無機酸化物蒸着膜との密着強度を高めるために、例えば、ポリエステル系、ウレタン系、エポキシ系、アミン系等のアンカーコート剤を、無機酸化物蒸着膜を形成する蒸着工程において、インライン又はオフラインで用いることもできる。更に、本発明においては、用途に応じて、例えば、帯電防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、充填剤等の所望の添加剤を、その透明性に影響しない範囲内で任意に添加し、それらを含有するポリアミド系樹脂フィルム等も使用することができる。
【0017】
<3>無機酸化物蒸着膜
本発明において、無機酸化物蒸着膜としては、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、カリウム(K)、スズ(Sn)、ナトリウム(Na)、ホウ素(B)、チタン(Ti)、鉛(Pb)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)等の酸化物からなる蒸着膜を挙げることができる。
好ましいものとしては、ケイ素(Si)又はアルミニウム(Al)の金属の酸化物からなる蒸着膜を挙げることができる。
【0018】
また、上記の金属の酸化物の蒸着膜は、ケイ素酸化物、アルミニウム酸化物、マグネシウム酸化物等のように金属酸化物ともいうことができ、その表記は、例えば、SiOx、AlOx、MgOx等のようにMOx(ただし、式中、Mは、金属元素を表し、xの値は、金属元素によってそれぞれ範囲が異なる)で表される。
また、上記のxの値の範囲として、ケイ素(Si)は0〜2、アルミニウム(Al)は0〜1.5、マグネシウム(Mg)は0〜1、カルシウム(Ca)は0〜1、カリウム(K)は0〜0.5、スズ(Sn)は0〜2、ナトリウム(Na)は0〜0.5、ホウ素(B)は0〜1.5、チタン(Ti)は0〜2、鉛(Pb)は0〜1、ジルコニウム(Zr)は0〜2、イットリウム(Y)は0〜1.5の範囲の値をとることができる。
【0019】
上記において、x=0の場合は、完全な金属であり、透明ではないので使用することができない。また、xの範囲の上限は、完全に酸化したときの値である。
望ましくは、ケイ素(Si)は1.0〜2.0、アルミニウム(Al)は0.5〜1.5の範囲の値のものを使用することができる。
【0020】
無機酸化物蒸着膜の膜厚は、使用する金属、又は金属の酸化物の種類等によって異なるが、例えば5〜100nm、好ましくは10〜50nmの範囲内で任意に選択することができる。
また、無機酸化物蒸着膜として、使用する金属、又は金属の酸化物は、1種又は2種以上の混合物で使用し、異種の材質で混合した無機酸化物蒸着膜を構成することもできる。
【0021】
さらに、無機酸化物が、酸化ケイ素である場合は、SiOxCyで表される炭素含有酸化ケイ素であってもよい[式中、xは1.5〜2.2の範囲内にあって、yは0.15〜0.80の範囲内にあるのが好ましく、そしてxが1.7〜2.1の範囲内にあって、yが0.39〜0.47の範囲内にあるのがさらに好ましい]。
【0022】
<4>蒸着方法
本発明において、所望のガスバリア性を得るために、上記無機酸化物蒸着膜は、化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition法、CVD法)、好ましくはプラズマ化学気相成長法により形成される。
本発明においては、具体的には、基材フィルムの表面に、有機ケイ素化合物等の蒸着用モノマーガスを原料とし、キャリヤーガスとして、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスを使用し、更に、酸素供給ガスとして、酸素ガス等を使用し、低温プラズマ発生装置等を利用する低温プラズマ化学気相成長法を用いて、酸化物からなる蒸着膜を形成することができる。
上記において、低温プラズマ発生装置としては、例えば、高周波プラズマ、パルス波プラズマ、マイクロ波プラズマ等の発生装置を使用することができるが、本発明においては、高活性の安定したプラズマを得るために、高周波プラズマ方式による発生装置を使用することが望ましい。
【0023】
本発明における、低温プラズマ化学気相成長法による無機酸化物蒸着膜の形成法について、その一例を挙げて説明する。図5は、上記のプラズマ化学気相成長法において使用される低温プラズマ化学気相成長装置の概略的構成図である。
【0024】
本発明においては、図5に示すように、低温プラズマ化学気相成長装置21の真空チャンバー22内に配置された巻き出しロール23から基材フィルム1を繰り出し、更に、該基材フィルム1を、補助ロール24を介して所定の速度で冷却・電極ドラム25周面上に搬送する。ガス供給装置26、27及び、原料揮発供給装置28から酸素ガス、不活性ガス、蒸着用モノマーガス等を供給し、それらからなる蒸着用混合ガス組成物を調整しながら原料供給ノズル29を通して真空チャンバー22内に該蒸着用混合ガス組成物を導入し、そして、上記の冷却・電極ドラム25周面上に搬送された、基材フィルム1の上に、グロー放電プラズマ30によってプラズマを発生させ、これを照射して、無機酸化物蒸着膜を形成する。その際に、冷却・電極ドラム25は、真空チャンバー22の外に配置されている電源31から所定の電力が印加されており、また、冷却・電極ドラム25の近傍には、マグネット32を配置してプラズマの発生が促進されている。次いで、基材フィルム1は、その一方の面に、無機酸化物蒸着膜を形成した後、補助ロール33を介して巻き取りロール34に巻き取られる。なお、図中、35は真空ポンプを表す。
【0025】
図示しないが、本発明において、無機酸化物蒸着膜の層は、単層であっても、2層以上からなる多層であってもよく、また、使用する酸化物は、単独で使用しても、2種以上の混合物として使用してもよい。
【0026】
ポリアミド系樹脂フィルムは、一般に、無機酸化物蒸着膜との密着性において、ポリエステルフィルムよりも劣ることが知られているが、本発明においては、プラズマにより基材フィルムの表面が清浄化され、基材フィルムの表面に極性基やフリーラジカル等が発生するので、形成される無機酸化物蒸着膜と、基材としてのポリアミド系樹脂フィルムとの強固な密着が得られる。
【0027】
また、上記の低温プラズマ化学気相成長装置において、無機酸化物蒸着膜は、プラズマ化した原料ガスを用いて、基材フィルム上に薄膜状に形成されるので、緻密で、隙間の少ない、可撓性に富む連続層となる。
【0028】
従って、フィルムの変形や屈曲に伴う無機酸化物蒸着膜の破断を防ぐことができ、耐衝撃性や耐屈曲性等に優れる二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムの性質と相俟って、角張った立体形状を有する医療用プラスチック製容器の包装袋として使用するのに好ましいガスバリア性積層フィルムを得ることができる。
【0029】
<5>バリアコート
本発明においては、上記無機酸化物蒸着膜上に、さらに、アルコキシドと水溶性高分子とをゾルゲル法によって重縮合して得られるガスバリア性組成物を塗布してなるバリアコートを設けることができる。これにより、酸素ガスバリア性をさらに向上させることができる。
【0030】
該ガスバリア性組成物において用いることができるアルコキシドとしては、一般式R1nM(OR2m(式中、R1、R2は炭素数1〜8の有機基であり、Mは金属原子であり、nは0以上の整数であり、mは1以上の整数であり、n+mはMの原子価である)で表される1種又はそれ以上のアルコキシドを好ましく用いることができる。
また、水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール系樹脂若しくはエチレン・ビニルアルコール共重合体のいずれか又はその両方を好ましく用いることができる。
【0031】
本発明において、一般式R1nM(OR2mで表されるアルコキシドとしては、金属原子Mとして、珪素、ジルコニウム、チタン、アルミニウムその他を使用することができる。また、本発明において、単独又は二種以上の異なる金属原子のアルコキシドを同一溶液中に混合して使うことができる。
【0032】
また、上記の一般式R1nM(OR2mで表されるアルコキシドにおいて、R1で表される有機基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基その他のアルキル基を挙げることができる。
【0033】
また、上記の一般式R1nM(OR2mで表されるアルコキシドにおいて、R2で表される有機基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基その他を挙げることができる。
尚、本発明において、同一分子中において、これらのアルキル基は同一であっても、異なってもよい。
【0034】
また、本発明において、ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体の含有量は、上記のアルコキシドの合計量100重量部に対して5〜500重量部の範囲であることが好ましい。上記において、500重量部を越えると、バリア性被膜の脆性が大きくなり、その耐侯性等も低下することから好ましくない。
【0035】
本発明において、ポリビニルアルコール系樹脂として、一般にポリ酢酸ビニルを鹸化して得られるものを使用することができる。具体例としては、株式会社クラレ製のRSポリマーであるRS−110(鹸化度=99%、重合度=1,000)、同社製のクラレポバールLM−20SO(鹸化度=40%、重合度=2,000)、日本合成化学工業株式会社製のゴーセノールNM−14(鹸化度=99%、重合度=1,000)等を使用することができる。
【0036】
また、本発明において、エチレン・ビニルアルコール共重合体としては、エチレンと、酢酸ビニルの共重合体の鹸化物、即ち、エチレン−酢酸ビニルランダム共重合体を鹸化して得られるものを使用することができる。具体例としては、株式会社クラレ製、エバールEP−F101(エチレン含量;32モル%)、日本合成化学工業株式会社製、ソアノールD2908(エチレン含量;29モル%)等を使用することができる。
【0037】
本発明において、本発明に係るバリアコートを形成するガスバリア性組成物を調製するには、例えば、既知の有機反応性基含有オルガノアルコキシシランのようなシランカップリング剤等も添加することができる。
【0038】
<6>バリアコートの形成方法
本発明において用いられるガスバリア性組成物は、アルコキシドと水溶性高分子とを、ゾル−ゲル法触媒、酸、水及び有機溶剤の存在下で、ゾルゲル法によって重縮合することにより調製することができ、これを、基材フィルムとしての二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルム上に設けた無機酸化物蒸着膜の上に塗布し、20℃〜200℃、好ましくは140℃以上、且つ基材フィルムの融点以下の温度で10秒〜10分間加熱処理することにより、バリアコートを形成することができる。必要ならば、無機酸化物蒸着膜の表面を、酸素ガスによりプラズマ処理してもよい。
なお、バリアコートは、2層以上重層して複合ポリマー層を形成してもよい。
【0039】
また、上記のガスバリア性組成物の調製において用いられる、ゾル−ゲル法触媒としては、実質的に水に不溶であり、且つ有機溶媒に可溶な第三アミン、例えばN,N−ジメチルベンジルアミンを用いることができ、また、酸としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸等の鉱酸、並びに酢酸、酒石酸等の有機酸その他を使用することができる。更に、有機溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール等を用いることができる。
【0040】
更に、上記のガスバリア性組成物に関して、ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体は、上記のアルコキシドやシランカップリング剤等を含む塗工液中で溶解した状態にあることが好ましく、そのため上記の有機溶媒の種類が適宜選択される。本発明において、溶剤中に可溶化されたエチレン・ビニルアルコール共重合体は、例えば、ソアノール(日本合成化学社製)として市販されているものを使用することができる。
上記のガスバリア性組成物を、無機酸化物蒸着膜の上に塗布し、加熱して溶媒及び重縮合反応により生成したアルコールを除去すると、重縮合反応が完結し、透明なバリアコートが形成される。
【0041】
更に、加水分解によって生じた水酸基や、シランカップリング剤の有機反応性基が無機酸化物蒸着膜の表面の水酸基と結合する為、該無機酸化物蒸着膜とバリアコートとの密着性、接着性等が良好なものとなる。
【0042】
上述のように形成されることにより、本発明のバリアコートは、結晶性を有する直鎖状ポリマーを含み、非晶質部分の中に多数の微小の結晶が埋包された構造を取る。このような結晶構造は、結晶性有機ポリマー(例えば、塩化ビニリデンやポリビニルアルコール)と同様であり、さらに極性基(OH基)が部分的に分子内に存在し、分子の凝集エネルギーが高く、分子剛性も高いため良好な酸素ガスバリア性を示す。
【0043】
本発明においては、無機酸化物蒸着膜とバリアコートとが、例えば、加水分解・共縮合による化学結合、水素結合、或いは、配位結合等を形成し、これら2層間の密着性が向上し、相乗効果により、より良好なバリア性の効果を発揮し得るものである。
【0044】
本発明において、上記のガスバリア性組成物を塗布する方法としては、例えば、グラビアロールコーター等のロールコート、スプレーコート、ディッピング、刷毛、バーコート、アプリケータ等の塗布手段により、1回或いは複数回の塗布で、乾燥膜厚が0.01〜30μm、好ましくは0.1〜10μmのバリアコートを形成することができる。更に、通常の環境下で、50〜300℃の温度下で、0.05〜60分間加熱・乾燥することにより、縮合が行われ、本発明のバリアコートを形成することができる。
【0045】
本発明においては、二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルム上に蒸着層とバリアコートを設けた後、さらに蒸着層を設け、その蒸着層上にバリアコートを上記と同様にして形成してもよい。このように積層数を増やすことにより、より一層ガスバリア性を向上することができる。
【0046】
<7>酸素吸収性ヒートシール性樹脂フィルム
本発明において、酸素吸収性ヒートシール性樹脂フィルムは、酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物による酸素吸収性樹脂層、及びヒートシール性樹脂層を有する。
【0047】
酸素吸収性樹脂層としては、主に、包装袋内に医療用プラスチック製容器を充填包装し、而して、その包装製品内の、例えば、ヘッドスペース等に存在する酸素、又は容器に内在している酸素、更には、容器内の医薬品から発生する酸素等の包装製品内に存在ないし内在している酸素を吸収し、捕捉するものであり、具体的には、酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含み、更に、要すれば、結合剤としての熱可塑性樹脂、あるいは、ラジカル発生剤または光増感剤等の添加物を任意に含む樹脂組成物による樹脂膜から構成することができる。
【0048】
ヒートシール性樹脂層としては、主に、積層フィルムを製袋し、包装袋を製造するときに、ヒートシールによりシール部を形成する機能を奏するものであると共に上記の酸素吸収性樹脂層の保護、隠蔽等のために設けるものである。而して、本発明において、上記のヒートシール性樹脂層は、熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物による樹脂膜から構成することができる。
【0049】
而して、本発明において、酸素吸収性樹脂層及びヒートシール性樹脂層は、これらを含む共押出多層積層フィルムとして構成することができるものである。
上記の本発明に係る酸素吸収性樹脂層とヒートシール性樹脂層とを含む共押出多層積層フィルムについて説明すると、まず、酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含み、更に、要すれば、結合剤としての熱可塑性樹脂、あるいは、ラジカル発生剤または光増感剤等の添加物を任意に添加し、溶剤、希釈剤等を添加し、十分に混練して、本発明に係る酸素吸収性樹脂層を形成する樹脂組成物を調製する。
【0050】
他方、上記と同様に、例えば、熱可塑性樹脂の1種ないし2種以上をビヒクルの主成分とし、これに、更に必要ならば種々のプラスチック配合剤や添加剤等を任意に添加し、更に、溶剤、希釈剤等を添加し、十分に混練して、本発明に係るヒートシール性樹脂層を形成する樹脂組成物を調整する。
【0051】
次に、本発明においては、まず、上記で各樹脂組成物を調製した後、その樹脂組成物を使用し、それらを組み合わせて、それらを、例えば、Tダイ共押出機、インフレーション共押出機等を使用して共押出成形し、種々の層構成からなる共押出多層積層フィルムを製造することができる。
【0052】
次に、本発明において、酸素吸収性ヒートシール性樹脂フィルムの膜厚としては、総厚、約20μm〜250μm、好ましくは、30μm〜190μmが望ましいものである。而して、該酸素吸収性ヒートシール性樹脂フィルムを構成する酸素吸収性樹脂層の膜厚としては、膜厚5μm〜50μmの範囲からなることが望ましいものである。更に、ヒートシール性樹脂層の膜厚としては、膜厚5μm〜100μmの範囲からなることが望ましいものである。
【0053】
上記において、酸素吸収性ヒートシール性樹脂フィルムの膜厚が、20μm未満であると、フィルム自体の製膜が困難となること、また、強度が低下し、やぶれ、傷等の不具合が生じやすいこと等の理由から好ましくなく、また、250μmを超えると、フィルムの強度等においては問題ないが、環境面、コスト面等から好ましくないものである。
【0054】
本発明において、酸素吸収性樹脂層を構成する酸化性樹脂としては、主に、主鎖、および、骨格内、あるいは、側鎖等に不飽和二重結合ユニットを有し、その不飽和二重結合部分が、例えば、ラジカルによる連鎖反応等により、酸素との相互作用により飽和状態となることで酸素吸収等の機能を奏する樹脂、具体的には、例えば、エチレン/メチルアクリレート/シクロヘキセニルメチルアクリレートターポリマー、シクロヘキセニルメチルアクリレート/エチレンコポリマー、シクロヘキセニルメチルアクリレート/スチレンコポリマー、シクロヘキセニルメチルアクリレートホモポリマーまたはメチルアクリレート/シクロヘキセニルメチルアクリレートコポリマーを好ましく使用することができる。
【0055】
また、本発明において、酸素吸収性樹脂層を構成する遷移金属触媒としては、例えば、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Sn、Cu又はその混合物から選択されるの遷移金属の低価数の無機酸塩あるいは有機酸塩あるいは錯塩を使用することができる。而して、本発明において、上記のような遷移金属触媒は、主に、紫外光(UV)等のエネルギーを与えることで、ラジカル的分解反応を促進させ、上記に示した酸化性樹脂の酸素吸収を開始、発現させる等の機能を奏するものであり、具体的には、コバルトネオデカノエート、コバルト2−エチルヘキサノエート、コバルトオレエートおよびコバルトステアレートを使用することが好ましいものである。
【0056】
次に、本発明において、上記の酸化性樹脂と遷移金属触媒との配合割合としては、酸化性樹脂100重量部に対し遷移金属触媒が、0.001〜10重量部位の配合割合で樹脂組成物を調製することが好ましいものである。上記において、遷移金属触媒が、0.001未満であると、触媒作用が低くなり、酸化反応が進行しない等の理由から好ましくなく、また、10重量部を超えると、触媒量が多すぎることで、酸化反応は進むものの、他の副反応等が発生すること、あるいは、コスト的に上昇すること等の理由から好ましくないものである。
【0057】
次に、本発明において、ヒートシール性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂としては、例えば、熱によって溶融し、押出機等の押出ダイ等から押出可能であり、更に、相互に熱融着する熱可塑性樹脂の1種ないし2種以上の混合物を使用することができる。 具体的には、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状(線状)低密度ポリエチレン(マルチサイト触媒を使用して重合したポリマー、LLDPE)、メタロセン触媒(シングルサイト触媒)使用して重合したエチレン−α・オレフイン共重合体、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン系樹脂等の熱可塑性樹脂の1種ないし2種以上を使用することができる。
【0058】
<8>酸素吸収性ヒートシール性樹脂フィルムの積層方法
本発明において、酸素吸収性ヒートシール性樹脂フィルムは、無機酸化物蒸着膜上に、又はバリアコートを設ける場合は、バリアコート上に、ラミネート用接着剤を介して、通常のラミネート方法、例えばウエットラミネーション法、ドライラミネーション法、押し出しラミネーション法等で行うことができる。
【0059】
本発明において用いることができるラミネート用接着剤としては、例えば、ポリ酢酸ビニル系接着剤、アクリル酸のエチル、ブチル、2−エチルへキシルエステル等のホモポリマー、あるいは、これらとメタクリル酸メチル、アクリロニトリル、スチレン等との共重合体等からなるポリアクリル酸エステル系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、エチレンと酢酸ビニル、アクリル酸エチル、アクリル酸、メタクリル酸等のモノマーとの共重合体等からなるエチレン共重合体系接着剤、セルロース系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリアミド系接着剤、ポリイミド系接着剤、尿素樹脂またはメラミン樹脂等からなるアミノ樹脂系接着剤、フェノール樹脂系接着剤、エポキシ系接着剤、ポリウレタン系接着剤、反応型(メタ)アクリル系接着剤、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、スチレン−ブタジエンゴム等からなるゴム系接着剤、シリコーン系接着剤、アルカリ金属シリケート、低融点ガラス等からなる無機系接着剤等の接着剤を使用することができる。
【0060】
上記の接着剤の組成系は、水性型、溶液型、エマルジョン型、分散型等のいずれの組成物形態でもよく、また、その性状は、フィルム・シート状、粉末状、固形状等のいずれの形態でもよく、更に、接着機構については、化学反応型、溶剤揮発型、熱溶融型、熱圧型等のいずれの形態でもよいものである。
【0061】
而して、上記の接着剤は、例えば、ロールコート法、グラビアロールコート法、キスコート法等のコート法、あるいは、印刷法等によって施すことができ、そのコーティング量としては、0.1〜10.0g/m2 (乾燥状態)位が望ましい。
【0062】
なお、本発明において、上記のような積層を行う際に、必要ならば、例えば、積層する各フィルム等の表面に、例えば、コロナ放電処理、オゾン処理、フレーム処理、プラズマ処理等の前処理を任意に施すことができる。
【0063】
<9>物性
次に、本発明の包装袋を構成する積層フィルムに要求されるガスバリア性を設定する際の要因について説明する。
プラスチック製容器中の医薬品の品質低下を抑止するために、本発明の包装袋を構成する積層フィルムは、酸素透過度に関して、JIS K 7126に準拠した手法で得られる数値として5ml/m2・24時間・MPa以下という優れた酸素バリア性を示すことができる。
【0064】
一方、医療用プラスチック製容器から外に透過したごく少量の水分を、包装袋外に透過させて、結露を防ぐために、本発明の包装袋を構成する積層フィルムは、水蒸気透過度に関して、JIS K 7129に準拠した手法で得られる数値として2.0g/m2・day以上、10.0g/m2・day以下という好適な水蒸気バリア性を示すことができる。水蒸気透過度が、2.0g/m2・dayより低い場合、水分が包装袋内で結露し、外観不良を引き起こす。一方、10.0g/m2・dayより高いと、医薬品の乾燥を招くため、好ましくない。
【0065】
<10>医療用プラスチック製容器用の包装袋
次に、本発明において、上記のような本発明に係る積層フィルムを製袋して、本発明に係る医療用プラスチック製容器用の包装袋を製造する方法について説明すると、例えば、上記のような方法で製造した本発明に係る積層フィルムを使用し、その内層のヒートシール性樹脂層の面を対向させて、それを折り重ねるか、或いはその二枚を重ね合わせ、更にその周辺端部をヒートシールしてシール部を設けて、種々の形態からなる包装袋を製造することができる。
【0066】
而して、その製袋方法としては、上記のような本発明に係る医療用プラスチック製容器用の包装袋を構成する積層フィルムを、その内層の面を対向させて折り曲げるか、あるいはその二枚を重ね合わせ、更にその外周の周辺端部を、例えば、側面シール型、二方シール型、三方シール型、四方シール型、封筒貼りシール型、合掌貼りシール型(ピローシール型)、ひだ付シール型、平底シール型、角底シール型等のヒートシール形態によりヒートシールして、本発明にかかる種々の形態からなる包装袋を製造することができる。
その他、例えば、自立性包装袋(スタンディングパウチ)等も製造することが可能でありる。
【0067】
上記において、ヒートシールの方法としては、例えば、バーシール、回転ロールシール、ベルトシール、インパルスシール、高周波シール、超音波シール等の公知の方法で行うことができる。
【0068】
実際の作業においては、内容物となる医療用プラスチック製容器を挿入するための挿入口を残し、それ以外の周縁を熱融着により製袋する。そして、医療用プラスチック製容器を充填し、挿入口を熱融着により塞ぐ。より具体的には、本発明の包装袋の開口部から、医療用プラスチック製容器を挿入し、次いで、例えば、窒素ガス置換等を行いながら、その開口部をヒートシール等により密閉することによって、本発明に係る医療用プラスチック製容器用の包装袋中に包装された、種々の形態からなるプラスチック製容器の包装製品を製造することができる。なお、医療用プラスチック製容器を充填包装するに際し、その充填前、又は充填後、又は充填と同時に、該包装袋の内面に、その内面側から紫外光を照射することにより、該紫外光は、包装袋を構成するヒートシール性樹脂層を透過して、極めて良好に酸素吸収性樹脂層に到達し、そして、該紫外光が、遷移金属触媒に作用し、これが、活性化し、これにより、例えば、酸素性樹脂としてのシクロヘキセン環の不飽和結合部へラジカルをアタックさせ、連鎖反応から酸素を結合し、吸収するという酸素捕集機能を奏することを可能とするものである。
【0069】
本発明の医療用プラスチック製容器用の包装袋は、構成成分である積層フィルムの特性に基いて、優れた酸素ガスバリア性を有し、更に、可撓性、透明性、強度、引き裂き性等に優れているため、医療用プラスチック製容器中の医薬品の酸化分解を防ぐことができ、また該容器の角張った部分と接触してもシワにならず、無機酸化物蒸着膜が破断することもない。したがって、長期間にわたり、高い酸素ガスバリア性を維持し続けることができる。さらに、本発明の包装袋は、医療用プラスチック製容器を包装するのに好適な水蒸気バリア性を有し、包装袋内に結露が生じるのを防ぐことができる。加えて、包装袋内の酸素を吸収する酸素捕集機能を奏し、医薬品の品質、鮮度等を、充填包装したときの状態そのまま、あるいはそれ以上の状態で維持することができる。
次に本発明について実施例を挙げて具体的に説明する。
【実施例】
【0070】
[実施例1]
厚さ15μmの二軸延伸ナイロンフィルムの一方の面に、プラズマ化学気相成長法を用いて、厚さ10nmの酸化ケイ素蒸着層を形成した。次いで、その酸化ケイ素蒸着層上に下記のバリアコート形成用組成物をグラビアコート法により塗工し、150℃で1分間乾燥して厚さ0.3μmの複合ポリマー層からなるバリアコートを形成した。
上記得られたガスバリア性透明蒸着ナイロンフィルムのバリアコート上に、ドライラミネート用接着剤を介して、予め製造した後述の酸素吸収性ヒートシール性樹脂フィルム(厚さ50μm)をドライラミネートすることにより、二軸延伸ナイロンフィルム15μm/酸化ケイ素蒸着層10nm/バリアコート0.3μm/酸素吸収性ヒートシール性樹脂フィルム50μmの積層フィルムを作成した。
【0071】
次いで、この積層フィルムを、酸素吸収性ヒートシール性樹脂フィルムの面を対向させて折り重ね、内容物を入れるための挿入口を残し、それ以外の周縁を熱融着により製袋した。
次いで、上記で製造した包装袋の内面に紫外線照射装置〔アイグラフィックス株式会社製ECS−401GX〕を使用し、紫外光1000mJ/cm2を照射した。
【0072】
次いで、水50L中にグリチルリチンアンモニウム塩100g、グリシン800g、L−システイン30gを溶解し、これをろ過して得られた溶液を内容物40mlのポリエチレン製容器に充填し、容器内の空間部分を窒素置換し、密封したものを上記包装袋に挿入し、密封して、ポリエチレン製容器入り包装袋を得た。
【0073】
<バリアコート形成用組成物の調製>
エチルシリケート34.13g、エタノール25g、2N塩酸1.15g及び水4.58gを混合し、常温で約1時間攪拌し、次いでエポキシシランSH6040(東レダウコーニング製)3.41g、ソアノール30L(日本合成化学社製)31.56g及びN,N−ジメチルベンジルアミン0.17gを加えて30分攪拌し、バリアコート形成用組成物を得た。
【0074】
<酸素吸収性ヒートシール性樹脂フィルムの製造>
まず、下記の(イ)〜(ハ)の樹脂組成物を調製した。
(イ).(第一層)に高圧法低密度ポリエチレン[HPLDPE、密度、0.923g/m3 、メルトフローレート(MFR)、3.5g/10分〕100.0重量部と、合成シリカ0.5重量部と、エルカ酸アミド0.05重量部と、エチレンビスオレイン酸アミド0.05重量部とを充分に混練して、第一層を形成する樹脂組成物を調製した。
(ロ).(第二層)に酸化性樹脂として、[エチレン/メチルアクリレート/メチルシクロヘキセンメチルアクリレートのコポリマー]100.0重量部と、遷移金属触媒として、[コバルト2ーエチルヘキサノエート]0.01重量部と、ラジカル系光重合開始剤として、[1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−エェニル−ケトン]0.001重量部とを十分に混練して、第二層を形成する樹脂組成物を調製した。
(ハ).(第三層)に高圧法低密度ポリエチレン[HPLDPE、密度、0.923g/m3 、メルトフローレート(MFR)、3.5g/10分〕100.0重量部と、合成シリカ0.5重量部とを充分に混練して、第三層を形成する樹脂組成物を調製した。
次に、上記で調製した(イ)〜(ハ)の樹脂組成物を使用し、これらを、上吹き空冷インフレーション共押出製膜機を用いて、(イ)の樹脂組成物による第一層を20μm、(ロ)の樹脂組成物による第二層を10μm、(ハ)の樹脂組成物による第三層を20μmにそれぞれ共押出して、3層からなる総厚50μmの酸素吸収性ヒートシール性樹脂フイルムを製造した。上記で製造した共押出多層積層フィルムへ250nm〜320nmのUV光を積算光量で1000mJ/cm2照射した。
【0075】
[比較例1]
酸素吸収性ヒートシール性樹脂フィルムの代わりに、厚さ50μmの低密度ポリエチレンフィルムを用いた以外は、実施例1と同様にして、ポリエチレン製容器入り包装袋を作成した。
【0076】
[比較例2]
基材フィルムとして、二軸延伸ナイロンフィルムの代わりに、厚さ12μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを用いた以外は、実施例1と同様にして、ポリエチレン製容器入り包装袋を作成した。
【0077】
<評価方法>
1.実施例及び比較例において得られた包装袋の酸素及び水蒸気透過度をMOCON法(JIS K7126、JIS K7129)を用いて実施した。
2.実施例及び比較例において得られた包装袋のシール部に切り込みを入れ、その部分を手で引き裂き、包装体のカット性評価を実施した。評価は、○:きれいに直線的に引き裂けた、△:わずかにカット部が蛇行した、×:カット部が大きく蛇行した、の3段階で行った。
3.実施例及び比較例において得られたポリエチレン製容器入り包装袋を、40℃、80%RHの恒温恒湿槽に1ヶ月間保管し、袋内部の外観確認を行った。
4.溶液中のL−システインは、酸素の存在下で分解が促進されることから、ポリエチレン製容器内の溶液中のL−システインの含有量を、保存試験時の包装袋に対する酸素透過量の指標とした。評価は、実施例及び比較例において得られたポリエチレン製容器入り包装袋10袋を紙箱に詰め、振動試験機で1000回振動させた後、室温又は40℃の環境下で保管し、L−システイン含有量の経時変化により実施した。
【0078】
<結果>
結果は以下のとおりであった。
【表1】

【表2】

【表3】

【0079】
<評価>
上記の表2から明らかなように、実施例1で得られた本発明に係る包装袋は、優れた易カット性を有し、プラスチック製容器を包装するのに好適な水蒸気バリア性を有し、包装袋内に水滴を生じることなく、美麗な外観を維持していた。また、表3から明らかなように、優れた耐衝撃性及び耐屈曲性を有し、外部からの衝撃によってガスバリア層が破断することなく、長期間にわたり、高い酸素ガスバリア性を維持することができた。さらに、包装袋内部の酸素を吸収することによって、ポリエチレン製容器内の溶液中のL−システインの酸化分解を、長期間にわたり防ぐことができた。
これに対し、比較例1で得られた包装袋は、酸素吸収性ヒートシール性樹脂層を有しないため、包装袋内部の酸素を吸収することができず、ポリエチレン製容器内の溶液中のL−システインは、包装袋内部の酸素と反応し、経時的に含有量が減少した。
【0080】
また、比較例2で得られた包装袋は、カットしにくいものであり、さらに水蒸気バリア性が高すぎるために、袋内部に水滴を生じた。また、基材フィルムとして二軸延伸ポリエステルフィルムを用いたため、可撓性を欠き、外部からの衝撃によりガスバリア層が破断し、酸素ガスバリア性が経時的に低下した。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明に係る包装袋を構成する積層フィルムの層構成を示す概略的断面図である。
【図2】本発明に係る包装袋を構成する積層フィルムの層構成を示す概略的断面図である。
【図3】本発明に係る包装袋を構成する積層フィルムの層構成を示す概略的断面図である。
【図4】本発明に係る包装袋を構成する積層フィルムの層構成を示す概略的断面図である。
【図5】プラズマ化学気相成長装置についてその一例の概要を示す概略的構成図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムの一方の面に、無機酸化物蒸着膜を1層又は2層以上積層し、さらに該無機酸化物蒸着膜の上に、酸素吸収性ヒートシール性樹脂フィルムを積層した積層フィルム、を製袋して得られる医療用プラスチック製容器用の包装袋であって、該酸素吸収性ヒートシール性樹脂フィルムが、酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物による酸素吸収性樹脂層、及びヒートシール性樹脂層を有し、且つ該ヒートシール性樹脂層が上記積層フィルムの表面側に位置する、上記包装袋。
【請求項2】
二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムが、二軸延伸ナイロンフィルムである、請求項1に記載の包装袋。
【請求項3】
無機酸化物蒸着膜が、プラズマ化学気相成長法により積層された、請求項1又は2に記載の包装袋。
【請求項4】
無機酸化物蒸着膜を構成する無機酸化物が、酸化ケイ素又は酸化アルミニウムである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の包装袋。
【請求項5】
酸素吸収性ヒートシール性樹脂フィルムが、酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物と、熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物とを用いて、2層共押出により製造された2層共押出多層積層フィルムである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の包装袋。
【請求項6】
酸素吸収性ヒートシール性樹脂フィルムが、酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物と、熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物とを用いて、3層共押出により、ヒートシール性樹脂層、酸素吸収性樹脂層、ヒートシール性樹脂層の順に並ぶように製造された3層共押出多層積層フィルムである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の包装袋。
【請求項7】
無機酸化物蒸着膜と酸素吸収性ヒートシール性樹脂フィルムの間に、アルコキシドと水溶性高分子とをゾルゲル法によって重縮合して得られるガスバリア性組成物を塗布してなるバリアコートを設けた、請求項1〜6のいずれか1項に記載の包装袋。
【請求項8】
アルコキシドが、一般式R1nM(OR2m(式中、R1、R2は炭素数1〜8の有機基であり、Mは金属原子であり、nは0以上の整数であり、mは1以上の整数であり、n+mはMの原子価である)で表される1種又はそれ以上のアルコキシドであり、そして、水溶性高分子が、ポリビニルアルコール系樹脂若しくはエチレン・ビニルアルコール共重合体のいずれか又はその両方である、請求項7に記載の包装袋。
【請求項9】
酸素吸収性ヒートシール性樹脂フィルムが、ラミネート用接着剤層を介して積層される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の包装袋。
【請求項10】
酸素透過度が、JIS K 7126に準拠した手法で得られる数値が5ml/m2・24時間・MPa以下である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の包装袋。
【請求項11】
水蒸気透過度が、JIS K 7129に準拠した手法で得られる数値が2.0g/m2・day以上、10.0g/m2・day以下である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の包装袋。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−154924(P2009−154924A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−335649(P2007−335649)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】