説明

医療用マニピュレータ

【課題】駆動源から先端動作部に駆動力を伝達する動力伝達経路上に設けられた可撓性を有する動力伝達部材の異常の有無を判断できる医療用マニピュレータを提供する。
【解決手段】医療用マニピュレータ10において、モータ50a、50bの駆動力はワイヤ80a、80bを介して先端動作部12に伝達される。モータ50a、50bは、コントローラにより駆動制御される。コントローラ29は、始業前点検として、規定信号に従ってモータ50a、50bを動作させ、エンコーダ51a、51bからの信号に基づいてモータ50a、50bの動作角度を監視し、モータ50a、50bが目標角度に達するのに要する動作時間に基づいて、ワイヤ80a、80bの異常の有無を判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可撓性を有する動力伝達部材(ワイヤ等)を介してモータの駆動力が伝達されて動作する先端動作部を有する医療用マニピュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡下外科手術(または腹腔鏡下手術とも呼ばれる。)においては、患者の腹部等に複数の孔を開け、これらの孔にトラカール(筒状の器具)を挿入した後、各トラカールを通して、腹腔鏡(カメラ)と複数の鉗子を体腔内に挿入する。鉗子の先端部には、エンドエフェクタとして、生体組織を把持するためのグリッパや、鋏、電気メスのブレード等が取り付けられている。腹腔鏡と鉗子を体腔内に挿入したら、腹腔鏡に接続されたモニタに映る腹腔内の様子を見ながら鉗子を操作して手術を行う。このような手術方法は、開腹を必要としないため、患者への負担が少なく、術後の回復や退院までの日数が大幅に低減される。このため、このような手術方法は、適用分野の拡大が期待されている。
【0003】
トラカールから挿入される鉗子として、先端部に関節を持たない一般的な鉗子に加えて、先端部に複数の関節を有して先端部の姿勢を変更できる鉗子、いわゆる医療用マニピュレータの開発が行われている(例えば、特許文献1参照)。このような医療用マニピュレータによれば、体腔内で自由度の高い動作が可能であり、手技が容易となり、適用可能な症例が多くなる。
【0004】
特許文献1にて提案された医療用マニピュレータは、グリップハンドルを有する操作部からシャフトが前方に延出し、このシャフトの先端部にはエンドエフェクタを有する姿勢変更が可能な先端動作部が設けられている。この先端動作部では、操作部に設けられたモータの駆動力が先端動作部に機械的に伝達されることで、姿勢変更が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−107087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
モータの駆動力を先端動作部に伝達する動力伝達経路上には、可撓性を有する動力伝達部材として、一般的にワイヤが用いられている。このようなワイヤは、通常、剛性の高い材料により構成されるが、マニピュレータの使用回数の増大に伴って伸びが発生したり、何らかの原因で過大な負荷がかかることで損傷を受けたりすることがある。その結果、先端動作部に無駄な動作が生じたり、規定された動作を満足できなかったりすることがある。したがって、マニピュレータの使用を開始する前にワイヤの状態を確認し、異常がある場合には、異常の存在を報知したり、使用を制限したりすることが望ましい。
【0007】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、駆動源から先端動作部に駆動力を伝達する動力伝達経路上に設けられた可撓性を有する動力伝達部材の異常の有無を判断できる医療用マニピュレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明に係る医療用マニピュレータは、駆動源と、駆動源の動作位置を検出する検出器と、作業を行うエンドエフェクタを含み、少なくとも1つの動作軸を基準として動作する先端動作部と、前記駆動源の駆動力を前記先端動作部に機械的に伝達する動力伝達経路上に、張力を付与された状態で配設された可撓性を有する動力伝達部材と、前記駆動源を制御するとともに、前記動力伝達部材の異常診断を行うコントローラと、を備え、前記コントローラは、前記異常診断において、異常診断用の規定信号に従って前記駆動源を動作させ、前記検出器からの信号に基づいて、前記規定信号に従って動作する前記駆動源の動作位置を監視し、前記駆動源が目標位置に達するのに要する動作時間に基づいて、前記動力伝達部材の異常の有無を判断することを特徴とする。
【0009】
上記の構成によれば、規定信号に従って動作する駆動源の目標位置に到達するまでの動作時間に基づいて、動力伝達部材に異常があるか否かを判断することができる。また、駆動源の動作位置を検出する検出器からの検出信号を利用し、駆動源の目標位置に到達するまでの動作時間を監視するので、先端動作部の実際の動作状態を検出することなく、簡便に異常の有無を判断できる。
【0010】
上記の医療用マニピュレータにおいて、前記コントローラは、前記異常診断において、前記動作時間が設定された許容範囲内である場合には、前記動力伝達部材が正常であると判断し、前記動作時間が前記許容範囲より早い場合または遅い場合には、前記動力伝達部材に異常があると判断するとよい。
【0011】
上記の構成によれば、駆動源の動作時間が許容範囲内にあるかどうかによって異常の有無を判断するので、複雑な演算処理を要せずに、簡便に異常の有無を判断できる。
【0012】
上記の医療用マニピュレータにおいて、前記コントローラは、システム起動後、前記先端動作部の動作に係る操作指令の入力を無効とした状態で、自動的に前記異常診断を行い、前記動力伝達部材に異常があると判断した場合には、前記医療用マニピュレータの使用を制限するとよい。
【0013】
上記の構成によれば、使用前点検として自動的に異常診断を行い、異常がある場合にはマニピュレータの使用が制限されるため、動力伝達部材に異常があるマニピュレータの使用を未然に防止することができる。
【0014】
上記の医療用マニピュレータにおいて、前記先端動作部を先端に設けた作業部と、前記駆動源を含み前記作業部が着脱自在に装着される操作部と、前記作業部の前記操作部に対する着脱状態を検出する着脱検出機構と、をさらに有し、前記コントローラは、前記作業部が前記操作部に装着されたことを認識した後、前記先端動作部の動作に係る操作指令の入力を無効とした状態で、自動的に前記異常診断を行い、前記動力伝達部材に異常があると判断した場合には、前記医療用マニピュレータの使用を制限するとよい。
【0015】
上記の構成によれば、作業部が操作部に対して着脱可能な構成の場合に、作業部が装着されたことを認識した後に自動的に異常診断を行い、異常がある場合にはマニピュレータの使用が制限されるため、動力伝達部材に異常があるマニピュレータの使用を未然に防止することができる。
【0016】
上記の医療用マニピュレータにおいて、前記作業部には、前記作業部の個体識別情報を保持するID保持部が設けられ、前記操作部には、前記ID保持部の前記個体識別情報を検出するID検出部が設けられ、前記コントローラは、前記規定信号に従って動作する前記駆動源の動作時間に関して基準時間に対する時間差と前記異常診断における合否とを対応づけたデータテーブルを記憶し、または前記データテーブルにアクセス可能であり、前記異常診断において、前記操作部に装着された前記作業部の種類に対応した前記データテーブルを参照するとよい。
【0017】
上記の構成によれば、作業部の種類によって基準時間に対する時間差の許容範囲が異なる場合でも、作業部の種類に応じたデータテーブルを参照することで、適切な異常診断を行うことができる。
【0018】
なお、上記の医療用マニピュレータにおいて、前記動力伝達部材はワイヤであってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る医療用マニピュレータによれば、駆動源から先端動作部に駆動力を伝達する動力伝達経路上に設けられた可撓性を有する動力伝達部材の異常の有無を判断できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る医療用マニピュレータの斜視図である。
【図2】操作部と作業部とが分離した状態の医療用マニピュレータを示す一部省略側面図である。
【図3】駆動部の駆動力を姿勢変更機構に伝達するための機構の模式構造図である。
【図4】規定信号に従って動作するモータの動作角度の時間変化を示す図である。
【図5】基準時間に対する時間差と、異常判定における合否とを対応づけたデータテーブルを示す図である。
【図6】異常診断を行う際の処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る医療用マニピュレータ(以下、マニピュレータという。)について好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら説明する。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態に係るマニピュレータ10の斜視図である。マニピュレータ10は、先端に設けられた先端動作部12で生体の一部を把持しまたは生体に触れて、所定の処置を行うための医療用の器具であり、通常、把持鉗子やニードルドライバ(持針器)等とも呼ばれる。
【0023】
マニピュレータ10は、医療用器具を構成するマニピュレータ本体11と、マニピュレータ本体11にケーブル28を介して接続されたコントローラ29とを備える。マニピュレータ本体11は、ボディ21と、ボディ21から延出するシャフト18と、シャフトの先端に設けられた先端動作部12とを有する。
【0024】
以下の説明では、シャフト18の延在方向をZ方向と規定し、さらに、シャフト18の前方(先端側)をZ1方向、後方(根元側)をZ2方向と規定する。また、Z方向に直角な方向であって、マニピュレータ本体11を図1の姿勢にしたときのマニピュレータ本体11を基準とした左右方向をX方向とし、特に、マニピュレータ本体11の左側方向をX1方向、右側方向をX2方向と規定する。また、Z方向に直角な方向であって、マニピュレータ本体11を図1の姿勢にしたときのマニピュレータ本体11の上下方向をY方向とし、特に、上方向をY1方向、下方向をY2方向と規定する。
【0025】
なお、特に断りのない限り、これらの方向の記載はマニピュレータ本体11が基準姿勢(中立姿勢)である場合を基準として表すものとする。これらの方向は説明の便宜上のものであり、マニピュレータ本体11は任意の向きで(例えば、上下を反転させて)使用可能であることは勿論である。
【0026】
マニピュレータ本体11は、人手によって把持および操作される操作部14と、該操作部14に対して着脱自在な作業部16とを有する。操作部14は、上述したボディ21の一部を構成し、筐体を構成しZ1方向およびY2方向に略L字状に延在する左右一対の上部カバー25a、25bと、上部カバー25a、25b内に収容された駆動部30と、人手によって操作される複合入力部(操作入力部)24とを有する。
【0027】
駆動部30は、2つのモータ(駆動源)50a、50bを有し、モータ50a、50bの駆動力が先端動作部12に機械的に伝達されることで、エンドエフェクタ19の姿勢を変更できるように構成されている。
【0028】
モータ50a、50bには、それぞれエンコーダ(検出器)51a、51bが付帯して設けられており、各エンコーダ51a、51bによりモータ50a、50bの回転角度(動作位置)が検出され、その検出信号をフィードバック信号として、コントローラ29によりモータ50a、50bがフィードバック制御される。
【0029】
操作部14の基端側でY2方向に延びた部分は、人手によって把持されるグリップハンドル26として構成されている。複合入力部24は、グリップハンドル26の上部の傾斜面に設けられており、回転操作部90に対する左右方向への回動操作および傾動操作部92に対する傾動操作を単独または複合的に行うことで、その操作に応じた信号がコントローラ29に送信され、コントローラ29が駆動部30の駆動を制御することにより、先端動作部12の姿勢変更が行われる。
【0030】
作業部16は、Z方向で略対称に分割された一対の下部カバー37a、37bを筐体としており、上記の先端動作部12と、この先端動作部12を先端に設けた長尺且つ中空のシャフト18と、このシャフト18の基端側が固定され、下部カバー37a、37b内に収容されたプーリボックス32と、プーリボックス32の後方に設けられ、トリガ軸39を支点としてX方向の軸心を中心に回動可能に軸支されたトリガレバー36とを有する。下部カバー37a、37b、プーリボックス32およびトリガレバー36は、上述したボディ21の一部を構成する。
【0031】
作業部16は、操作部14に設けられた左右一対の着脱レバー40、40によって当該操作部14と連結・固定されると共に、着脱レバー40の開放操作によって操作部14から分離可能であり、特別な器具を用いることなく、手術現場で容易に交換作業等を行うことができる。
【0032】
先端動作部12は、トリガレバー36の操作に基づいて開閉動作するエンドエフェクタ19と、複合入力部24の操作に基づいてエンドエフェクタ19の姿勢を変化させる姿勢変更機構13とを有する。エンドエフェクタ19は、例えば、生体の一部や縫合用の針を把持するグリッパ、生体の一部を切断するハサミ等として、所定の開閉動作軸を基準に開閉動作可能に構成される。
【0033】
先端動作部12およびシャフト18は細径に構成されており、患者の腹部等に装着された円筒形状のトラカール20を通して体腔22内に挿入可能であり、複合入力部24およびトリガレバー36の操作によって体腔22内で患部切除、把持、縫合および結紮等の様々な手技を行うことができる。
【0034】
トリガレバー36は、操作者の手指が引っ掛けられるように構成されたトリガ操作子36bと、トリガ操作子36bの上部に設けられたアーム部36aとを有し、アーム部36aの箇所でトリガ軸39に軸支されることで、X方向の軸線を中心として前後方向(Z方向)に揺動可能に配置されている。
【0035】
エンドエフェクタ19の開閉動作は、人手によるトリガレバー36の操作(押し引き操作)に基づく力が機械的に伝達されることで行われる。具体的には、作業部16の内部には、ロッド、ワイヤ(動力伝達部材)、プーリ等から構成される伝達機構が設けられており、トリガレバー36の押し引き操作が、伝達機構によりエンドエフェクタ19の開閉動作に変換されるようになっている。このような伝達機構としては、例えば、特開2008−104855号公報や特開2009−106606号公報に記載された構成と同様の構成を採用し得る。
【0036】
姿勢変更機構13は、先端を指向するロール軸(動作軸)を基準に回転するロール動作と、Y方向のヨー軸(動作軸)を基準に傾動するヨー動作(傾動動作)とが可能であり、ロール動作と傾動動作とを選択的にまたは複合的に行うことが可能である。従って、先端動作部12は、エンドエフェクタ19の開閉動作、ロール動作およびヨー動作からなる3軸の動作が可能である。なお、先端動作部の中立姿勢時におけるロール軸は、Z軸と一致する。
【0037】
本実施形態の場合、エンドエフェクタ19の姿勢変更の動作(ロール動作およびヨー動作)は、回転操作部90および傾動操作部92を有する複合入力部24の操作に基づいてモータ50a、50bが駆動し、モータ50a、50bの駆動力が先端動作部12に機械的に伝達されることで行われる。図示例のマニピュレータ本体11では、回転操作部90に対して左右方向の回転操作を行うことで、先端動作部12のロール動作が行われ、傾動操作部92に対して傾動操作を行うことで、先端動作部12のヨー動作が行われる。
【0038】
コントローラ29は、マニピュレータ本体11を総合的に制御する制御部であって、グリップハンドル26の下端部から延在するケーブル28と接続される。コントローラ29の機能の一部または全部は、例えば操作部14に一体的に搭載することもできる。コントローラ29は、例えば、第1ポート27a、第2ポート27bおよび第3ポート27cを備えており、3台のマニピュレータ本体11を独立的に同時に制御することができる。
【0039】
図2は、操作部14と作業部16とが分離した状態のマニピュレータ本体11を示す一部省略側面図である。図2に示すように、駆動部30は、上述したモータ50a、50bと、モータ50a、50bの回転方向を変換して作業部16側に伝達するギア機構部54とを有する。ギア機構部54は、モータ50a、50bの出力軸56a、56bにそれぞれ固定された駆動傘歯車58a、58bと、駆動傘歯車58a、58bと噛み合う従動傘歯車62a、62bとを有する。
【0040】
従動傘歯車62a、62bには、それぞれ駆動軸60a、60bが固定されている。駆動軸60a、60bは、X方向に離間して互いに平行に配置されるとともに、図示しないベアリングによって回転可能に軸支されている。駆動軸60a、60bの下端部には、例えば断面波形状の係合凸部64a、64bがそれぞれ設けられている。
【0041】
プーリボックス32には、プーリ70a、70bが設けられている。このプーリ70a、70bは、作業部16が操作部14に装着された状態で、駆動軸60a、60bに対して同軸である。プーリ70a、70bの上端には、プーリボックス32の上面から露出した、例えば断面波形状の係合凹部74a、74bが設けられている。従って、操作部14と作業部16との装着時、係合凸部64a、64bと係合凹部74a、74bとが係合し、これにより、駆動軸60a、60bからの回転駆動力をプーリ70a、70bへと伝達することができる。なお、係合凸部64aや係合凹部74aの係合構造は他の構造であってもよい。
【0042】
プーリ70a、70bには、それぞれ、動力伝達部材としてのワイヤ80a、80bが巻き掛けられている。プーリボックス32内で、プーリ70a、70bのZ1方向側には、X方向に離間してアイドルプーリ72a、72bが配置されており、ワイヤ80a、80bはそれぞれ、これらのアイドルプーリ72a、72bにガイドされている。これらのワイヤ80a、80bは、シャフト18内に挿通されており、先端動作部12(図1参照)に設けられた姿勢変更機構13に駆動力を伝達する。これにより、駆動軸60a、60bからの回転駆動力が、プーリ70a、70b、前記ワイヤ80a、80bを介して姿勢変更機構13に伝達され、エンドエフェクタ19の姿勢変更が行われる。
【0043】
操作部14には、作業部16の着脱を検出する着脱検出機構42が設けられている。この着脱検出機構42は、センサドグとして機能する検出シャフト43と、検出シャフト43の一端部(上端部)を検出する検出部44とを有する。検出シャフト43は、操作部14内でY方向に移動自在に支持され、図示しないコイルバネによってY2方向(図2で下方)に弾性的に付勢されるとともに、図示しないスナップリングによって抜け止めがなされている。
【0044】
検出部44は、例えば、対向配置された投光器および受光器からなるフォトセンサで構成することができ、このようなフォトセンサでは、投光器と受光器との間に検出シャフト43が進入して光路を遮断することで、検出シャフト43の存在が検出される。着脱検出機構42は上記のように構成されているため、作業部16が操作部14に装着されると、検出シャフト43が作業部16によりY1方向に押圧されて移動し、検出部44により検出シャフト43の上端が検出される。コントローラ29は、検出部44からの信号に基づいて、作業部16が操作部14に装着されたことを認識する。
【0045】
プーリボックス32とアーム部36aとの間の位置には、トリガ軸39の両端を支持する一対の支持プレート45、45間にID表示プレート46が架設して固定されている。ID表示プレート46の表面には、作業部16に係る各種情報を保持するID保持部48として、作業部16に係る各種情報の内容に対応した画像パターンを表示する表示手段48Aが設けられている。表示手段48Aは、下部カバー37a、37bの上面に形成された切欠き部52を通して、作業部16の上方に露出している。
【0046】
表示手段48Aとしては、幅の異なる白色および黒色の線が交互に配列して印刷された一次元バーコード、または桝目に従って白色部および黒色部が印刷されたQRコード(登録商標)のようなマトリクス型二次元コードを採用し得る。表示手段48Aには、作業部16の個体識別情報(ID)、型式、仕様、タイムスタンプ(製造日等)やシリアルナンバー、使用回数、使用制限回数等の情報が含まれている。表示手段48Aが保持している個体識別情報は、作業部16毎に識別が可能なように異なる値が付与されている。
【0047】
操作部14の内部には、表示手段48Aを検出するためのID検出部54として、表示手段48Aを撮像するためのカメラ(撮像手段)54Aが配設されている。また、操作部14において、作業部16が操作部14に装着された状態で表示手段48Aに対向する位置に、光を透過する部材からなる撮影窓56が設けられ、さらに、撮影窓56を介して表示手段48Aからの光(像)をカメラ54Aに向けて反射させるミラー55が設けられている。このため、表示手段48Aは、鏡像となってカメラ54Aにより撮像される。なお、カメラ54Aの近傍には、図示しないLEDが設けられており、表示手段48Aは、ミラーを介してLEDにより照明される。このようなLEDは、十分な光量が得られるように複数設けられるとよい。
【0048】
本実施の形態に係るマニピュレータ10は、上記のように構成されたID保持部48(表示手段48A)とID検出部54(カメラ54A)とを備えるため、作業部16が操作部14に装着されると、コントローラ29による制御作用下に、ID検出部54がID保持部48から個体識別情報を検出する。具体的には、カメラ54Aが表示手段48Aを撮像して、その画像に対応した信号をコントローラ29に送信する。コントローラ29は、カメラ54Aより送信された信号を解析して作業部16の個体識別情報を認識する。
【0049】
これにより、コントローラ29が作業部16を識別し、さらに、操作指令の入力が有効になると、複合入力部24への操作に従って作業部16を動作させることが可能な状態となる。コントローラ29は、作業部16の種類(例えば、グリッパやはさみ、電気メス)に応じて、適切に且つ正確にモータ50a、50b等を駆動制御する。
【0050】
図3は、姿勢変更機構13、第1動力伝達機構112aおよび第2動力伝達機構112bの模式構造図である。姿勢変更機構13は、シャフト18の軸線と非平行なヨー軸(傾動軸)Oyを中心に回動可能な主軸部材100と、主軸部材100の軸線と一致するロール軸Orを中心に回転自在に主軸部材に支持されたギア体102と、ギア体102と噛み合いヨー軸Oyを中心に回転自在に支持された歯車体104とを有する。
【0051】
主軸部材100は、シャフト18の先端部に設けられた軸106によってヨー軸Oyを中心に回転可能である。主軸部材100の前部は、円筒形の筒部100aとして構成されており、主軸部材100の基端部には、ワイヤ80aが巻き掛けられた従動プーリ100bが一体的に設けられている。ワイヤ80aは、その一部が所定の固定手段によって従動プーリ100bに固定されることで、従動プーリ100bとの間ですべりが生じることが防止されている。
【0052】
主軸部材100は、ヨー軸Oyを中心に回動することが可能であるため、従動プーリ100bがワイヤ80aにより回転駆動されることで、従動プーリ100bが一体的に設けられた主軸部材100がヨー軸Oyを中心に回動する。
【0053】
ギア体102は、先端カバー108に固定されるとともに、ロール軸Or(図3参照)を中心として回転可能かつロール軸Or方向には移動が拘束された状態で主軸部材100の筒部100aの外周に支持されている。ギア体102のZ2方向端面には、歯車104bと噛み合うフェイスギア110が設けられている。
【0054】
歯車体104は、ワイヤ80bが巻き掛けられ従動プーリ104aと、該従動プーリ104aの上部に同心状に設けられた歯車104bとを有し、軸106により回転可能に支持されている。従動プーリ104aに巻き掛けられたワイヤ80bは、その一部が所定の固定手段によって従動プーリ104aに固定されることで、従動プーリ104aとの間ですべりが生じることが防止されている。
【0055】
上記のように構成された姿勢変更機構13において、ワイヤ80aの駆動作用下に従動プーリ100bを回転させると、従動プーリ100bが一体的に設けられた主軸部材100がヨー軸Oyを中心に回動するとともに、ギア体102、先端カバー108およびエンドエフェクタ19が主軸部材100と一体的にヨー軸Oyを中心として傾動する。すなわち、姿勢変更機構13のヨー動作が行われる。
【0056】
一方、ワイヤ80bの駆動作用下に歯車体104を回転させると、歯車体104と噛み合うギア体102がロール軸Orを中心に回転するとともに、先端カバー108およびエンドエフェクタ19がギア体102と一体的にロール軸Orを中心として回転する。すなわち、姿勢変更機構13のロール動作が行われる。
【0057】
第1動力伝達機構112aは、一方のモータ50aの駆動力を、主軸部材100を動作させるように、主軸部材100に機械的に伝達する機構である。したがって、上述したギア機構部54、係合凸部64a、係合凹部74a、プーリ70aおよびワイヤ80aは、第1動力伝達機構112aの構成要素である。
【0058】
第2動力伝達機構112bは、他方のモータ50bの駆動力を、ギア体102を回転させるように、ギア体102に機械的に伝達する機構である。したがって、上述したギア機構部54、係合凸部64b、係合凹部74b、プーリ70bおよびワイヤ80bは、第2動力伝達機構112bの構成要素である。
【0059】
上述したワイヤ80a、80bは、通常、剛性の高い材料(金属材料等)により構成されるが、マニピュレータ10の使用回数の増大に伴って伸びが発生したり、何らかの原因で過大な負荷がかかることで損傷を受けたりすることがある。このような場合、先端動作部12に無駄な動作が生じるか、あるいは、規定された動作を満足できない等の事態が生じることが懸念される。したがって、マニピュレータ10の使用が開始される前にワイヤ80a、80bの状態を確認し、異常がある場合には、異常の存在を報知したり、使用を制限したりすることが望ましい。
【0060】
そこで、本実施形態に係るマニピュレータ10では、使用前の点検(始業前点検)として自動的にワイヤ80a、80bに異常(伸び、損傷等)が無いかどうかを判断する異常診断を行う。より具体的には、コントローラ29は、テスト動作として異常診断用の規定信号に従ってモータ50a、50bを動作させ、エンコーダ51a、51bからの信号に基づいて、規定信号に従って動作するモータ50a、50bの動作角度を監視し、モータ50a、50bが目標動作角度に達するのに要する動作時間に基づいて、ワイヤ80a、80bの異常の有無を判断する。なお、以下では、代表的に一方のワイヤ80aの異常診断について説明するが、他方のワイヤ80bについても同様の考え方を適用することにより、同様にして異常診断を行うことができる。
【0061】
作業部16の製作時、ワイヤ80aは、規定張力(所望の動作をするように設定された適正な張力)でプーリ間に張られるが、作業部16の使用回数の増大による伸び、あるいは、過大な負荷による損傷が発生した場合には、ワイヤ80aの張力が低下する。ここで、図4は、ワイヤ80aが規定の張力で張られているとき(正常時)と、ワイヤ80aに伸びや損傷があるとき(異常時)の各々について、規定信号に従って動作するモータ50aの動作角の時間変化の例を示す図である。
【0062】
ワイヤ80aに伸びや損傷がある異常時では、ワイヤ80aの張力が正常時よりも低くなる。このため、正常時と比較して、プーリ等の回転抵抗が低下することにより、第1動力伝達機構112aを駆動するのに要する力、すなわちモータ50aに対する負荷が低下する。この結果、モータ50aの動作速度が上がり、図4に示すように、正常時と比較して、目標動作角度θtに到達するまでの動作時間が早くなる。本実施形態に係るマニピュレータ10では、このような動作時間の時間差Tdに基づいて、ワイヤ80aの異常診断を行う。
【0063】
目標動作角度θtに到達するまでのモータ50aの動作時間は、ワイヤ80aの張力に応じて変動する。この対応関係を予め調べておくことにより、ワイヤ80aが規定張力で張られているときのモータ50aの動作時間(以下、基準時間という)T0と、テスト動作時のモータ50aの動作時間T1との時間差Tdから、ワイヤ80aの張力を推定することができる。そこで、図5に示すように、基準時間T0に対する時間差と、異常判定の合否とを対応づけたデータテーブル120を作成し、これをコントローラ29の記憶部に記憶させておく。なお、コントローラ29が共通管理手段(ホストコンピュータ、サーバ等)に接続可能である場合には、共通管理手段の記憶部に記憶させておき、そこから読み出したデータテーブル120を参照してもよい。
【0064】
図5に示した例は、ワイヤ80aの規定張力が50[N]であるときのモータ50aの動作時間を基準時間T0とし、この基準時間T0に対する各時間差Tdに対して異常診断の合否を対応づけたものである。また、図5の例では、基準時間T0よりも早い側を正の時間差とし、基準時間T0よりも遅い側を負の時間差として定義している。
【0065】
ワイヤ80aの張力には、規定張力を基準とした前後に適正な範囲があり、この範囲から外れた場合には、伸びや損傷等の何らかの異常が発生しているとみなすことができる。上述したように、基準時間T0に対する時間差からワイヤ張力を推定することができるため、時間差Tdが、適正な範囲内のワイヤ張力に対応するものであるときは、ワイヤ80aは正常であると判断でき、適正なワイヤ張力の範囲から外れた張力に対応するものであるときは、ワイヤ80aに異常が発生していると判断できる。図5では、時間差Tdが5[msec]を超える場合または−5[msec]を下回る場合には、異常であると判断する例を示している。
【0066】
本実施形態に係るマニピュレータ10では、以下のようにしてワイヤ80aの異常診断を行う。図6は、異常診断を行う際のコントローラ29での処理の流れを示すフローチャートである。
【0067】
本実施形態において、ワイヤ80aが配設された作業部16は、操作部14に対して着脱可能な構成であるが、ワイヤ80aの異常診断を行うには、作業部16を操作部14に装着し、モータ50aによりワイヤ80aを介して先端動作部12を動作させる必要がある。そのため、まず、コントローラ29は、作業部16が操作部14に装着されたか否かを確認する(ステップS1)。マニピュレータ本体11には、着脱検出機構42が設けられており、作業部16が操作部14に装着されると、コントローラ29は、検出部44からの信号に基づいて、作業部16が操作部14に装着されたことを認識する。
【0068】
作業部16が装着されたことを認識したら(ステップS1でYES)、ID検出部54がID保持部48から個体識別情報を検出し、コントローラ29において、カメラ54Aより送信された信号を解析して作業部16の個体識別情報を認識する(ステップS2)。このとき、コントローラ29は、複合入力部24に対する入力操作に基づく操作指令の入力を無効としておく。すなわち、この時点で複合入力部24を操作しても、その操作指令は無効とされ、コントローラ29によるモータ50a、50bの駆動制御は行われない。
【0069】
作業部16の個体識別情報を認識したら、異常診断のためのテスト動作として、規定信号に従ってモータ50aを駆動する(ステップS3)。この規定信号は、テスト動作用にモータ50aを規定角度だけ動作させるための制御信号である。テスト動作用にモータ50aを動作させる規定角度は、上述した基準時間T0に対する時間差Tdに基づいて異常の有無を判断するのに必要十分な角度(例えば、60度)に設定するのがよい。
【0070】
モータ50aを動作させるのと並行して、エンコーダ51aからの信号に基づいて、規定信号に従って動作するモータ50aの動作角度を監視し、モータ50aが目標値(目標角度)に到達するまでの時間(動作時間T1)を測定する(ステップS4)。この測定は、コントローラ29が有する時計機能を利用する。そして、このときの動作時間T1について、規定張力時のモータ50aの動作時間である基準時間T0に対する時間差を演算し、予め定めた適正範囲内にあるか否かによって異常の有無を判断する(ステップS5)。
【0071】
具体的には、時間差Tdが、適正範囲内(下限閾値以上かつ上限閾値以下)である場合には、正常(異常なし)であると判断し、複合入力部24に対する入力操作に基づく操作指令の入力を有効にする(ステップS6)。したがって、操作者が複合入力部24への入力操作を行うと、コントローラ29の制御作用下にモータ50a、50bが駆動制御され、先端動作部12が動作する。すなわち、マニピュレータ本体11の使用が許可される。
【0072】
一方、ステップS5において、時間差Tdが、適正範囲外である場合には、ワイヤ80a、80bに異常があると判断し、所定の異常対応処理を行う(ステップS7)。この異常対応処理として、本実施形態では、異常があることを、コントローラ29の表示部に表示する等によって使用者に報知するとともに、操作指令の入力を無効のままとする。したがって、操作者が複合入力部24への入力操作を行っても、コントローラ29によるモータ50a、50bの駆動制御はなされず、先端動作部12は動作しない。すなわち、マニピュレータ本体11の使用が許可されず、強制的に使用不能となる。
【0073】
なお、上記では代表的に一方のワイヤ80aの異常診断について説明したが、他方のワイヤ80bについても上記と同様の手順に従って異常診断を行うことができる。すなわち、他方のワイヤ80bについての異常診断では、コントローラ29は、異常診断用の規定信号に従ってモータ50bを動作させ、エンコーダ51bからの信号に基づいて、規定信号に従って動作するモータ50bの動作角度を監視し、モータ50bが目標角度に達するのに要する動作時間に基づいて、ワイヤ80bの異常の有無を判断する。
【0074】
本実施形態に係るマニピュレータ10のように、複数のワイヤ80a、80bが設けられる場合、複数のワイヤ80a、80bの異常診断は、時間をずらして行ってもよいが、同時並行的に行えば、異常診断に要する時間を短縮化でき、マニピュレータ10を迅速に使用可能な状態にすることができる。
【0075】
以上のように、本実施形態に係るマニピュレータ10によれば、規定信号に従って動作するモータ50a、50bの目標角度に到達するまでの動作時間に基づいて、ワイヤ80a、80bに異常があるか否かを簡易に判断することができる。また、モータ50a、50bの動作時間が許容範囲内にあるかどうかによって異常の有無を判断するので、複雑な演算処理を要せずに、ワイヤ80a、80bの異常の有無を簡便に判断できる。さらに、マニピュレータ10の始業前点検として自動的に異常診断を行い、異常がある場合にはマニピュレータ10の使用が強制的に制限されるため、ワイヤ80a、80bに異常があるマニピュレータ10の使用を未然に防止することができる。
【0076】
ワイヤ80a、80bの異常を診断する他の方法として、モータ50a、50bの駆動に対する先端動作部12の動作の遅れ時間を計測することが考えられるが、先端動作部12は狭く小さい構造であるため、その動作状態を直接検出するセンサを先端動作部12に設けることは相当に困難である。これに対し、本発明では、モータ50a、50bの動作角度を検出するエンコーダ51a、51bからの検出信号を利用し、モータ50a、50bの目標角度に到達するまでの動作時間を判断基準としているので、先端動作部12の実際の動作状態を検出することなく、簡便にワイヤ80a、80b異常の有無を判断できる。
【0077】
異常診断に用いるモータ50a、50bの動作角度の検出は、モータ50a、50bをフィードバック制御するために設けられたエンコーダ51a、51bからの検出信号をそのまま利用するので、異常診断用に専用のエンコーダを追加する必要がなく、装置構成の複雑化やコスト増大を招くことがない。
【0078】
本実施形態に係るマニピュレータ10は、作業部16と操作部14とが着脱可能な構成であるが、コントローラ29が作業部16の装着を認識した後に自動的に異常診断を行い、異常がある場合にはマニピュレータ10の使用が制限されるため、ワイヤ80a、80bに異常があるマニピュレータ10の使用を未然に防止することができる。
【0079】
1回の手術において作業部16を何度か着脱する必要がある場合、装着のたびに異常診断を行ったのでは無駄に多くの異常診断を行うことになり、非効率である。そこで、このような無駄な異常診断の実施を防止するため、一定条件下では異常診断を省略してもよい。すなわち、コントローラ29は、作業部16が装着されたときに、その作業部16が最後に使用された時刻からの経過時間を調べ、最後に使用された時刻からの経過時間が設定時間(例えば、1回の手術時間として考えられる最大の時間)以内であるときは、異常診断を省略してもよい。
【0080】
なお、この場合、コントローラ29は、作業部16が最後に使用された時刻を、コントローラ29に内蔵された不揮発性記憶媒体(フラッシュメモリ、ハードディスク等)からなる記憶部に記憶しておき、作業部16が装着されたときに、最後に使用された時刻からの経過時間を計算する。複数のコントローラ29がアクセス可能な共通管理手段(ホストコンピュータ、サーバ等)がある場合、作業部16が最後に使用された時刻は、そのような共通管理手段が有する記憶部に記憶されてもよい。
【0081】
本実施形態に係るマニピュレータ10のように、複数のワイヤ80a、80bがそれぞれモータ50a、50bにより駆動される構成の場合において、モータ50a、50bによって基準時間に対する時間差の適正範囲が異なるときは、モータ50a、50b毎に別々のデータテーブル120を用意(作成)し、これらのデータテーブル120をコントローラ29または共通管理手段に記憶しておき、上述した異常診断において、モータ50a、50b毎に対応するデータテーブル120を参照して、ワイヤ80a、80bの異常の有無の判断をしてもよい。
【0082】
本実施形態に係るマニピュレータ10のように、作業部16が着脱可能であり、作業部16の種類(型式)によって基準時間に対する時間差の適正範囲が異なる場合、作業部16の種類毎に別々のデータテーブル120を用意(作成)し、これらのデータテーブル120をコントローラ29または共通管理手段に記憶しておき、上述した異常診断において、作業部16毎に対応するデータテーブル120を参照して、ワイヤ80a、80bの異常の有無の判断をしてもよい。
【0083】
上記では、コントローラ29が作業部16の個体識別情報を認識した後に、ワイヤ80a、80bの異常診断を行ったが、異常診断において、作業部16の種類に関わらず同一のデータテーブル120を参照する場合には、作業部16の装着後で、作業部16の個体識別情報を認識する前に異常診断を行ってもよい。
【0084】
本実施形態に係るマニピュレータ10は、作業部16が操作部14に着脱可能に構成されているが、作業部16と操作部14とが分離不可能であり両者が一体的に構成されてもよい。この場合、上述した作業部16の装着の確認と、作業部16の個体識別情報の取得および認識が不要であるため、マニピュレータ本体11の電源スイッチ34(図1参照)を入れたときに、上述した異常診断を行ってもよい。あるいは、マニピュレータ本体11に電源スイッチ34がない場合には、コントローラ29の電源を入れたときに、上述した異常診断を行ってもよい。
【0085】
本実施形態に係るマニピュレータ10は、トリガレバー36の動きが機械的に伝達されることでエンドエフェクタ19が開閉する構成が採用されているが、トリガレバー36の動きをセンサにより検出して、その検出信号に基づいてモータ50a、50bを駆動することでエンドエフェクタ19を開閉動作させる構成を採用してもよい。このような構成において、モータ50a、50bからエンドエフェクタ19までの動力伝達経路上にワイヤ(ワイヤ80a、80bとは別のワイヤ)が設けられる場合には、そのようなワイヤに対して、上述したワイヤ80a、80bに対する異常診断と同様の手順で、異常診断を行ってもよい。
【0086】
上記において、本発明について好適な実施の形態を挙げて説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能なことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0087】
10…医療用マニピュレータ 12…先端動作部
14…操作部 16…作業部
29…コントローラ 42…着脱検出機構
48…ID保持部 50a、50b…モータ
51a、51b…エンコーダ 54…ID検出部
80a、80b…ワイヤ 120…データテーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源と、
駆動源の動作位置を検出する検出器と、
作業を行うエンドエフェクタを含み、少なくとも1つの動作軸を基準として動作する先端動作部と、
前記駆動源の駆動力を前記先端動作部に機械的に伝達する動力伝達経路上に、張力を付与された状態で配設された可撓性を有する動力伝達部材と、
前記駆動源を制御するとともに、前記動力伝達部材の異常診断を行うコントローラと、を備え、
前記コントローラは、前記異常診断において、異常診断用の規定信号に従って前記駆動源を動作させ、前記検出器からの信号に基づいて、前記規定信号に従って動作する前記駆動源の動作位置を監視し、前記駆動源が目標位置に達するのに要する動作時間に基づいて、前記動力伝達部材の異常の有無を判断する、
ことを特徴とする医療用マニピュレータ。
【請求項2】
請求項1記載の医療用マニピュレータにおいて、
前記コントローラは、前記異常診断において、前記動作時間が設定された許容範囲内である場合には、前記動力伝達部材が正常であると判断し、前記動作時間が前記許容範囲より早い場合または遅い場合には、前記動力伝達部材に異常があると判断する、
ことを特徴とする医療用マニピュレータ。
【請求項3】
請求項1または2記載の医療用マニピュレータにおいて、
前記コントローラは、システム起動後、前記先端動作部の動作に係る操作指令の入力を無効とした状態で、自動的に前記異常診断を行い、前記動力伝達部材に異常があると判断した場合には、前記医療用マニピュレータの使用を制限する、
ことを特徴とする医療用マニピュレータ。
【請求項4】
請求項1または2に記載の医療用マニピュレータにおいて、
前記先端動作部を先端に設けた作業部と、
前記駆動源を含み前記作業部が着脱自在に装着される操作部と、
前記作業部の前記操作部に対する着脱状態を検出する着脱検出機構と、をさらに有し、
前記コントローラは、前記作業部が前記操作部に装着されたことを認識した後、前記先端動作部の動作に係る操作指令の入力を無効とした状態で、自動的に前記異常診断を行い、前記動力伝達部材に異常があると判断した場合には、前記医療用マニピュレータの使用を制限する、
ことを特徴とする医療用マニピュレータ。
【請求項5】
請求項4記載の医療用マニピュレータにおいて、
前記作業部には、前記作業部の個体識別情報を保持するID保持部が設けられ、
前記操作部には、前記ID保持部の前記個体識別情報を検出するID検出部が設けられ、
前記コントローラは、前記規定信号に従って動作する前記駆動源の動作時間に関して基準時間に対する時間差と前記異常診断における合否とを対応づけたデータテーブルを記憶し、または前記データテーブルにアクセス可能であり、前記異常診断において、前記操作部に装着された前記作業部の種類に対応した前記データテーブルを参照する、
ことを特徴とする医療用マニピュレータ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の医療用マニピュレータにおいて、
前記動力伝達部材はワイヤである、
ことを特徴とする医療用マニピュレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−61195(P2012−61195A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−208882(P2010−208882)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】