医療用具をコーティングするための組成物及び方法
【課題】 薬剤を含むポリマーマトリックスでコーティングされた医療用具を提供する。
【解決手段】 薬剤を含むポリマーマトリックスでコーティングされた医療用具であって、前記ポリマーマトリックスが少なくとも一種の生分解性ポリマー及び0.01%〜10%(w/v)の量の少なくとも一種の薬剤を含むものであり、かつ前記薬剤は核酸である、前記医療用具。
【解決手段】 薬剤を含むポリマーマトリックスでコーティングされた医療用具であって、前記ポリマーマトリックスが少なくとも一種の生分解性ポリマー及び0.01%〜10%(w/v)の量の少なくとも一種の薬剤を含むものであり、かつ前記薬剤は核酸である、前記医療用具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤を含むポリマーマトリックスで医療用具をコーティングするための組成物、医療用具をコーティングする方法、及びそれによりコーティングされた医療用具に関する。コーティングされた用具は、創傷あるいは疾患の治療のための医療処置の部位を標的とした薬剤の局所的送達に有用である。
【背景技術】
【0002】
医療用具、特に外科的インプラント、縫合糸、及び外傷用包帯等を薬剤でコーティングすることが望まれていることは当分野において十分に論じられている。そのようなコーティングされた用具は、理論的には、種々の疾患を治療するための医療処置の部位に薬剤あるいは治療薬を局所的に送達する手段を提供できる。例えば、抗生物質でコーティングされた外科的インプラントあるいは縫合糸は、インプラントあるいは縫合糸の部位に直接抗生物質の局所的送達をもたらし、これにより外科処置後の感染の発症を減少させることができる。
【0003】
インプラント、特に縫合糸をコーティングする組成物及び方法は当分野で周知である。そのようなコーティングは手術用縫合糸に塗布され、繊維滑沢性、結び目のすべり(snug-down)及び固定(tie-down)性能を改善し、また抗菌剤のような薬剤の局所的送達のために塗布される。例えば、ホモポリマーのポリグリコール酸(例えば米国特許第3,277,033号参照)、及び吸収性ポリマーを形成するその他の種々のモノマーとグリコール酸のコポリマー(例えば米国特許第3,839,297号参照)の広範な応用がある。縫合糸をコーティングするために使用されるその他のポリマーとしては、米国特許第5,378,540号(ポリカプロラクトン)、第5,312,437号(ポリ(オキシプロピレン)グリコール/ラクチド/グリコリドコポリマー)、第5,147,383号(ポリビニルエステル)、第5,123,912号(ポリ(アルキレン)グリコール/ラクチド/グリコリドコポリマー)、第5,102,420号(ポリエーテルアミド)、第5,100,433号(p-ジオキサノン/ε-カプロラクトンコポリマー)、第5,032,638号(ヒドロキシブチレート結合のホモポリマー)、第4,857,602号(グリコリド/ポリ(アルキレンオキシド)/トリメチレンカーボネートのトリブロックポリマー)、第4,844,067号(シュクロース脂肪酸エステル)、第4,711,241号(グリコール酸)、第4,649,920号(ポリアルキレンオキシド)、第4,532,929号(脂肪酸)、第4,433,688号(イソシアネートでキャップされたポリヒドロキシル化ポリエステル)等が挙げられる。
【0004】
これらの生分解性ポリマーコーティングのいくつかのものは縫合糸及びインプラントを薬剤でコーティングするのに理論的には使用でき、生分解性ポリマーコーティングが外科的処置の部位での薬剤の制御された放出を与え得ることが示されている。例えば、米国特許第5,378,540号は、任意に薬剤を含む生分解性ポリラクトンポリマーシースで外科用縫合糸をコーティングするための組成物を記載している。縫合糸はそれをポリマー及び薬剤を含む溶媒中に浸し、乾燥させることによってコーティングされる。
【0005】
しかし、従来技術の縫合糸あるいはインプラントをコーティングする方法は、典型的にはコーティングシースに含めることができる薬剤の種類において制限されていた。一般に薬剤は、縫合糸をコーティングする前にポリマーを溶解するのに使用する溶媒に可溶でなければならないことから、疎水性のものでなければならなかった。
【0006】
水溶性薬剤、特に抗菌剤でインプラントをコーティングするための方法が開発されているが、これらの方法は、複雑で高価な装置を必要としたり、その他の望ましくない制限を受けるために、広範な種類の薬剤、特に核酸により容易にかつ効率的に医療用具をコーティングするためには簡単には採用できなかった。これらの方法は、薬剤の制御されたあるいは持続した放出を示すコーティングを得るのにも適していない。
【0007】
例えば、米国特許5,474,797号は、真空チャンバー中でのイオンビームを利用した析出によりイオン化原子の形態の抗菌剤の0.5〜10μmの厚さの層をインプラント上に析出させることを使用した、インプラントを抗菌剤でドライコーティングする方法を記載している。この方法は、高価な装置を必要とする上に、投与される薬剤が容易にイオン化されるものでなければならないという制限を受ける。
【0008】
さらにこのコーティングされたインプラントは抗菌剤の制御されたあるいは持続する放出を与えることができない。
【0009】
米国特許第4,952,419号は、インプラントの表面にシリコーンオイルの膜を塗布し、その後オイルを塗布された表面を粉末化抗菌剤と接触させることを含む、インプラントを抗菌剤でコーティングする方法を記載している。この方法は比較的簡便であるが、複数の操作を必要とし、抗菌剤の持続した放出を与えることができない。また、この方法は薬剤が粉末形態で利用できることを必要とする。
【0010】
米国特許第4,027,871号は、水溶性抗微生物剤を含浸した縫合糸を記載している。この縫合糸は、抗微生物剤の希釈溶液に浸すことにより含浸される。縫合糸を乾燥させ、縫合糸フィラメントの実質的に全体に分配された抗微生物剤の残留物を残す。次に縫合糸をポリウレタンで仕上げ塗りし、抗微生物剤が縫合糸から脱落することを防止している。容易に判るように、この方法は所望の薬剤を容易に吸収しない用具あるいは所望の薬剤により含浸されない用具をコーティングするのには適していない。さらに、縫合糸はポリウレタンで仕上げ塗りされるので、この方法は外科処置の部位における薬剤の制御された送達には有用ではない。むしろ縫合糸を抗微生物剤で含浸し、その滅菌状態を確保するものである。
【0011】
従って、当分野においては、広範な種類の薬剤、特に親水性の薬剤により容易にかつ効率的に医療用具をコーティングすることを可能とし、さらに医療処置の部位の周辺の局所的領域に薬剤の制御されたあるいは持続した放出を与える組成物及び方法が求められている。
【0012】
また、従来技術のインプラントあるいは縫合糸をコーティングするための方法は、典型的には任意に薬剤を含むポリマーのシースあるいは層を数十ミクロンの厚さでインプラントあるいは縫合糸上に析出させるものである。生分解性ポリマーコーティングが溶解するに従って、薬剤はインプラントを囲む領域に放出され、そこで周囲細胞により取り込まれる。従って、従来技術の組成物及び方法によりコーティングされたインプラント及び縫合糸は、細胞外に薬剤を送達する。
【0013】
薬剤は、細胞外ではなく、あるいはそれに加えて細胞内に送達することが望ましい場合が多い。そのような用途は、例えば、薬剤が細胞膜に容易に浸透し、それを横断することができない場合に有用である。そのような薬剤の例としては、アンチセンスDNA及びRNAのようなオリゴヌクレオチド、リボザイム、遺伝子治療のためのDNA、転写因子、増殖因子結合タンパク質、シグナル伝達受容体等が挙げられる。
【0014】
マイクロスフィア及び/またはナノスフィアが薬剤を細胞内に送達するためのビヒクルとして広く使用されている。一般に、マイクロスフィア及び/またはナノスフィアは、その中に導入された薬剤を有する生分解性ポリマーコアを含む。マイクロスフィアは典型的には球状で、約1〜900μmの平均直径を有する。ナノスフィアは典型的には球状で、1μm未満、通常は約300nm未満の平均直径を有する。
【0015】
マイクロスフィア及び/またはナノスフィア医薬製剤の利点としては、細胞内に入り、細胞内接合部に浸透する能力が挙げられる。マイクロスフィア及び/またはナノスフィアの別の利点は、薬剤の持続したあるいは制御された放出を提供できるその能力である。すなわち、マイクロスフィア及び/またはナノスフィアは、薬剤の細胞内及び細胞外での制御されたあるいは持続した放出の手段を提供するものである。
【0016】
従って、薬剤を含むマイクロスフィア及び/またはナノスフィアで医療用具をコーティングするための方法及び組成物が利用できることは非常に有利である。そのようなコーティングされた用具により、医療処理部位における細胞内及び細胞外の薬剤の局所的な制御されたまたは持続した放出が容易になる。これらの用具は、細胞膜に容易に浸透せず、それを横断できない薬剤を送達するために特に有利である。
【0017】
遺伝子治療は一般的に、アンチセンスDNA及びRNA、リボザイム、ウイルス断片及び機能的に活性な治療用遺伝子等の核酸を標的の細胞に送達するように設計された技術をいうものと理解されている(Culver,1994,Gene Therapy:A Handbook for Physicians,Mary Ann Liebert,Inc.,New York,NY)。そのような核酸は、例えばmRNAの翻訳を阻害するアンチセンスDNAのようにそれ自体治療的なものでもよく、あるいは細胞機能を促進し、ブロックし、あるいは置換する治療用タンパク質をコードするものであってもよい。
【0018】
現在の遺伝子治療のストラテジーに関する最も重大な問題の一つはおそらく、ex vivoあるいはin vivoにかかわらず、標的の細胞集団に核酸を効率的に導入できないこと、及びin vivoで遺伝子産物の発現の高いレベルを達成することができないことである。ウイルスベクターが最も効率的な系であると考えられており、ex vivo及びin vivoの両方において、組換え複製欠陥ウイルスベクターが細胞に形質導入する(すなわち感染させる)のに使用されている。このようなベクターとしては、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター等がある。遺伝子導入では非常に効率的であるが、ウイルスベクターを使用することに伴う主要な欠点としては、多くのウイルスベクターが非分裂細胞に感染できないこと、挿入的な突然変異に関連する問題、少数のトランスフェクト細胞における時間を経るに従って遺伝子発現を「開始」する能力に関連する問題、ヘルパーウイルス生産及び/または有害ウイルスの生産及び別のヒト患者への感染の可能性等がある。
【0019】
殆どの細胞型における外来核酸の取り込み及び発現の低い効率に加え、多くの標的細胞集団が、これらの特異的な細胞型の形質転換の効率をさらに減じるような低い数でしか体内に存在しないことが判っている。従って、核酸を標的細胞に導入する効率を増加させる遺伝子治療法はいずれも遺伝子治療プロトコールの全体的な有用性を大きく高めることになる。
【0020】
最近、創傷治癒過程において活性な増殖中の修復細胞が核酸の取り込み及び発現について驚くほど効率的であることが見出された(1996年4月8日に出願された係属中の代理人文書番号8464-007-999の出願)。この増殖中の修復細胞は、遺伝子治療物を直接手術あるいは移植部位に投与するための効率的な手段を提供し得る。従って、核酸を含むポリマーマトリックスで医療用具をコーティングするための方法及び組成物が利用できることは非常に有利である。そのようなコーティングされた用具は、治療用核酸を創傷あるいは外科処置部位で直接増殖中の修復細胞に効率的に導入する便利な手段を提供する。そしてその増殖する修復細胞は、治療用タンパク質のような治療用遺伝子産物の生産のための局所的な「バイオリアクター」として働く。特に有意義な点は、核酸でコーティングされた縫合糸が利用できることであり、縫合糸は事実上、常に障害組織に包囲されているからである。
【0021】
ある状況下では、上記したように用具が核酸を含むマイクロスフィア及び/またはナノスフィアによりコーティングされていることが有利であり得る。しかし、核酸の創傷組織への導入は、マイクロスフィア及び/またはナノスフィアにより媒介されなければならないということはない。
【0022】
外科的処置の後の創傷治癒及び組織再生の困難性についても当分野で十分に記載されている。さらに、正常及び疾患肝臓組織、糖尿病のようなある種の代謝疾患に罹患する患者の組織、及び癌手術の後の組織のような照射された組織のような多くの壊れやすい組織の種類が縫合糸を保持することが困難であることは周知である。
【0023】
現在利用可能な創傷治癒療法は、治療用タンパク質の投与を使用する。そのような治療用タンパク質としては、全身ホルモン、サイトカイン、増殖因子、及び細胞の増殖及び分化を制御するその他のタンパク質のような、正常な治癒過程に関与する制御因子が挙げられる。そのような創傷治癒能力を有することが報告されている増殖因子、サイトカイン及びホルモンとしては、例えば、タンパク質のトランスフォーミング増殖因子-βスーパーファミリー(TGF-β)(Cox,D.A.,1995,Cell Biology International 19:357-371)、酸性繊維芽細胞増殖因子(FGF)(Slavin,J.,1995,Cell Biology International 19:431-444)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)及び副甲状腺ホルモン(PTH)のようなカルシウム制御物質が挙げられる。
【0024】
いくつかの問題が創傷治癒療法に治療用タンパク質を使用することに関して存在する。例えば、治療用タンパク質の精製及び/または組換え生産は高価であり時間がかかる過程であることが多い。一旦精製された後は、殆どのタンパク質調製物は不安定であり、貯蔵と使用を面倒なものとしている。
【0025】
さらに、タンパク質分解のために体内では半減期が短いことから、十分な量のタンパク質が組織に到達するようにするためにはタンパク質の高い投与量での反復投与が必要である。
【0026】
最後に、膜受容体のような種々のタンパク質については、生物活性は正確な発現と細胞中での存在位置に依存する。多くのタンパク質については、タンパク質として存在する正確な細胞位置は翻訳後に修正される。従ってそのようなタンパク質は、細胞内に取り込まれて適当な場所に局在するような方法で投与することができない。
【0027】
従って、創傷治癒を刺激する核酸によりコーティングされた医療用具、特に外科用縫合糸が利用できることは特に有利である。そのようなコーティングされた用具は、創傷あるいは外科的処置の部位への核酸の制御されたあるいは持続した放出を与える。上記したように、増殖する修復細胞は核酸を取り込んで発現し、それにより局所創傷治癒を刺激する。
【0028】
このコーティングされた用具は、例えば糖尿病を有する患者における手術のような、低下した創傷治癒が問題となる外科的に困難な状況に特に有用である。コーティングされた縫合糸は組織に物理的に近接することを可能にするだけでなく、修復細胞により媒介される核酸導入により縫合線に沿っても創傷治癒が刺激される。具体的には、そのような縫合糸は本質的に「スポット接着」(spot weld)により組織を接着する。そのような縫合糸は、縫合線及びその近傍の領域で正常な機能的組織構造を再構成するのにも有用である。
【0029】
核酸媒介創傷治癒ストラテジーにより、現在の創傷治癒ストラテジーの欠点の多くが克服される。タンパク質とは異なり、核酸、特にDNAは種々の貯蔵条件下で長い時間非常に安定である。さらに、トランスフェクト細胞がバイオリアクターとして働いてコードされたタンパク質を生産するので、少量の核酸の投与でも治療効果が得られる。さらに、コードされたタンパク質は哺乳動物細胞において発現されるので、それらは翻訳後に修飾され、及び/またはスプライスされて活性なタンパク質を生成することができる。
【0030】
上記から明らかなように、広範な種類の薬剤、特に水溶性あるいは親水性の薬剤により容易にかつ効率的にコーティングされた医療用具であって、創傷あるいは疾患の治療のための医療処置の部位でのそのような薬剤の局所的な制御されたあるいは持続する放出を可能とするものを実現できる方法及び/または組成物で利用できるものは現在ない。
【0031】
また、創傷あるいは疾患の治療のための、細胞膜を容易に横断あるいは浸透できない薬剤の容易で効率的な細胞内及び細胞外局所送達を可能とするマイクロスフィア及び/またはナノスフィア医薬製剤で医療用具をコーティングするために利用できる方法及び組成物もない。
【0032】
さらに、in vivoでの標的への核酸の容易で効率的な局所的送達を可能とする、核酸、特に創傷治癒を刺激する核酸により医療用具をコーティングするための組成物あるいは方法で現在利用できるものはない。
【0033】
従って、当分野におけるこれらの欠如及びその他の欠如を満たすことが本発明の目的である。
【発明の概要】
【0034】
これらの目的及びその他の目的は本発明により達成され、その一つの形態によれば、薬剤、特に水溶性あるいは親水性薬剤を含むポリマーマトリックスにより医療用具をコーティングするための組成物が提供される。前記ポリマーマトリックスは、医療処置の部位において薬剤の制御されたあるいは持続した放出を与える。このコーティングされた用具は、創傷あるいは疾患の治療のための薬剤の標的化された局所的送達に有用である。
【0035】
前記コーティング組成物は一般的にはエマルジョンあるいは懸濁物の形態にあり、少なくとも一種の生物適合性生分解性ポリマー及び少なくとも一種の薬剤を含む。
【0036】
エマルジョンの形態にある場合、前記コーティング組成物は通常、約0.01%〜15%(w/v)、典型的には約0.1%〜10%(w/v)、好ましくは約1%〜5%(w/v)の全ポリマー、及び約0.001%〜15%(w/v)、典型的には約0.01%〜10%(w/v)、好ましくは約0.1%〜0.5%(w/v)の薬剤を含む。
【0037】
懸濁物の形態にある場合、前記コーティング組成物は通常、約0.01%〜80%(w/v)、好ましくは約10%〜30%(w/v)の予備形成されたあるいは部分的に形成されたマイクロスフィア及び/またはナノスフィアを含み、約1〜100センチポアズの粘度を有する。懸濁物は好ましくは約30〜50センチポアズの粘度を有する。マイクロスフィア及び/またはナノスフィアは、生物適合性生分解性ポリマーコアからなり、それに取り込まれるか、随伴されるか、埋め込まれるか、あるいはその他の方法によりその中に導入された約0.001%〜30%(w/w)の少なくとも一種の薬剤を含む。好ましくはスフィアは約l%〜15%(w/w)の薬剤を含む。
【0038】
本発明のコーティング組成物は、さらにエーロゾルによる適用のための噴射剤を含むことができる。
【0039】
本発明の好ましい態様においては、コーティング組成物を構成する薬剤は核酸である。
【0040】
別の形態においては、本発明は、薬剤、特に水溶性あるいは親水性薬剤を含むポリマーマトリックスにより医療用具をコーティングするための方法に関する。該方法は一般に、コーティング組成物を調製し、医療用具を前記コーティング組成物でコーティングすることを含む。コーティング組成物は、前記したように、エマルジョン、懸濁物、あるいはエーロゾルの形態とすることができる。組成物は任意の便利な手段により用具に塗布され、浸漬、ローラー、ブラシ、エーロゾルスプレー等により塗布される。
【0041】
さらに別の形態においては、本発明は、少なくとも一種の薬剤を含む生物適合性生分解性ポリマーマトリックスによりコーティングされた医療用具に関する。前記ポリマーマトリックスでコーティングされた医療用具は、創傷あるいは疾患の治療のための医療処置の部位への薬剤の局所的送達に有用である。好ましくは、用具は治療的に有効な量の薬剤を含むポリマーマトリックスによりコーティングされる。
【0042】
一つの具体的な態様においては、ポリマーマトリックスコーティングはシースの形態にあり、用具(またはその一部)をポリマーマトリックスの層中に収容する。医療方法に使用された場合、体液がポリマーマトリックスシースに接触し、生分解を起こす。マトリックスが生分解されるに従って医療処置の部位を取り囲む局所領域に薬剤が放出される。放出された薬剤は周囲の細胞に取り込まれ、そこで薬剤は治療効果を発揮する。
【0043】
別の具体例においては、前記したように、ポリマーマトリックスコーティングはマイクロスフィア及び/またはナノスフィアの形態にある。医療方法に使用された場合、体液がポリマーマトリックスコーティングに接触してマイクロスフィア及び/またはナノスフィアの生分解を起こし、医療処置の部位を取り囲む局所領域に薬剤を放出する。さらにマイクロスフィア及び/またはナノスフィアは用具から離脱する。スフィアは周囲の細胞に取り込まれ、細胞内でスフィアが生分解されるに従って薬剤の制御されたあるいは持続した細胞内での放出を与える。
【0044】
好ましい態様においては、ポリマーマトリックスコーティングを構成する薬剤が核酸である。核酸ポリマーマトリックスコーティングは、前記したように、シースあるいはマイクロスフィア及び/またはナノスフィアの形態とすることができる。創傷を受けた組織の近傍に置くと、そのようなコーティングされた用具は、特に局所遺伝子治療のために細胞に核酸を局所的に送達するのに有用である。治癒過程で活性な増殖中の修復細胞が前記核酸を取り込み、そこで治療効果が発揮される。
【0045】
特に好ましい態様においては、核酸は、創傷治癒を刺激または促進する核酸である。このようなコーティングされた医療用具は改善された創傷治癒特性を示す。
【0046】
さらに別の形態においては、本発明は薬剤を局所的に送達する方法に関する。該方法は一般に、少なくとも一種の薬剤を含むポリマーマトリックスでコーティングされた医療用具を用意し、医療方法において前記コーティングされた用具を使用することを含む。前記用具は本明細書に記載するコーティング組成物及び方法を使用してコーティングされる。好ましくは、用具は薬剤の治療上有効な量によりコーティングされる。
【0047】
医療方法に使用されると、用具をコーティングするポリマーマトリックスが生分解を起こし、医療処置の部位を取り囲む局所領域に薬剤を放出し、そこでそれらが周囲の細胞に取り込まれ、治療効果を発揮する。
【0048】
好ましい態様においては、前記方法は創傷を受けた組織への核酸の局所的送達を与える。好ましい方法は、薬剤が核酸であるポリマーマトリックスでコーティングされた医療用具を用意し、コーティングされた用具を創傷を受けた組織を有する身体の領域中あるいは領域上に置くことを含む。前記したように、ポリマーマトリックスが生分解するに従って増殖中の修復細胞が放出された核酸を取り込む。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】図1は、コーティングされた縫合糸により修復された組織及びコーティングされていない縫合糸により修復された組織の熱安定性アルカリホスファターゼ活性を比較するグラフを示す。
【図2A】図2Aは、コーティングされていない縫合糸の走査電子顕微鏡像を示す。
【図2B】図2Bは、コーティングした縫合糸の走査電子顕微鏡像を示す。
【図2C】図2Cは、コーティングし、使用した縫合糸の走査電子顕微鏡像を示す。
【図3A】図3Aは、コーティングされていないステンレススチールネジの走査電子顕微鏡像を示す。
【図3B】図3Bは、コーティングしたステンレススチールネジの走査電子顕微鏡像を示す。
【図4A】図4Aは、コーティングされていないチタンロッドの走査電子顕微鏡像を示す。
【図4B】図4Bは、コーティングしたチタンロッドの走査電子顕微鏡像を示す。
【図5A】図5Aは、コーティングされていないヒドロキシアパタイト-リン酸三カルシウムセラミック粒子の走査電子顕微鏡像を示す。
【図5B】図5Bは、コーティングしたヒドロキシアパタイト-リン酸三カルシウムセラミック粒子の走査電子顕微鏡像を示す。
【図6】図6は、疎水性PCLセグメント及び親水性セグメントを有するブロックコポリマーの製造のための具体的な反応スキームを示す。
【発明を実施するための形態】
【0050】
5. 好ましい態様の詳細な説明
5.1 定義
本明細書で使用するように、以下の用語は下記に示した意味を有する。
【0051】
「医療用具」:本明細書で使用するように、「医療用具」は、限定するものではないが、外科的インプラント、外科用縫合糸、バンデージを含む包帯等の医療処置の間に使用され得る任意の用具を含む。
【0052】
「マイクロスフィア」:本明細書で使用するように、「マイクロスフィア」は一般に球状の粒子であって、その中に取り込まれるか、随伴させられるか、埋め込まれるか、あるいはその他の方法によりその中に導入された少なくとも一種の薬剤を有する生物適合性生分解性ポリマーコアからなる粒子である。マイクロスフィアは一般に約1〜900μm、典型的には約5〜10μmの平均粒径を有する。「ナノスフィア」:本明細書で使用するように、「ナノスフィア」は一般に球状の粒子であって、その中に取り込まれるか、随伴させられるか、埋め込まれるか、あるいはその他の方法によりその中に導入された少なくとも一種の薬剤を有する生物適合性生分解性ポリマーコアからなる粒子である。ナノスフィアは一般に約1μm未満、典型的には約300nm未満の平均粒径を有する。本明細書で使用するように「ナノスフィア」は、例えば「ナノ粒子」等の、ナノメーターサイズの医薬製剤についての他分野で認識された用語と同義である。
【0053】
「生物適合性」:本明細書で使用するように、物質がヒトあるいは動物にin vivoで使用するのに適する場合、それを「生物適合性」であるとする。すなわち、哺乳動物組織中に置いたときに、物質が生物学的に不活性であり、生理的に許容され、無毒で、有害な生物学的反応を生起しないものである場合にその物質を「生物適合性」であるとする。
【0054】
「生分解性」:本明細書で使用するように、物質が組織及び/または組織液に接触したときに加水分解され及び/または組織に吸収される場合、その物質を「生分解性」であるとする。
【0055】
「生物適合性生分解性ポリマーマトリックス」:本明細書で使用するように、生物適合性生分解性ポリマーマトリックスは、生物適合性生分解性ポリマーからなり、さらに、限定するものではないが、薬剤及び乳化剤のような物質が随伴させられるか、取り込まれるか、埋め込まれるか、あるいはその他の方法によりその中に導入された物質である。生物適合性生分解性ポリマーマトリックスは、具体的にはマイクロスフィア及び/またはナノスフィアを包含する。
【0056】
「薬剤」:本明細書で使用するように、薬剤は、天然または合成の化学的化合物あるいは化合物の組合せであり、生命系の正常な及び/または病理学的な挙動に対して影響を及ぼす性質を有するものである。薬剤は有機分子、ペプチド、タンパク質、核酸等を含む。薬剤は、治療的なもの、予防的なもの、化粧用のもの、栄養的なもの等であってよい。薬剤は、他の一種以上の薬学的物質と共にあるいは組合せで作用する賦形剤、充填剤、アジュバント等であってもよい。
【0057】
「機能的に結合した」:本明細書で使用するように、「機能的に結合した」は、結合した成分の正常な機能が発揮できるような隣接した位置関係をいう。従って、コード配列に「機能的に結合した」プロモーター配列は、プロモーター配列がコード配列の発現を促進する形態をいうものである。プロモーター配列は構成的なもの、及び/または誘導可能なものであってよい。
【0058】
「治療上有効な量」:薬剤の「治療上有効な量」は、治療的な効果を与えるのに有効な量である。すなわち、例えば治療用タンパク質をコードする核酸については、核酸の「治療上有効な量」は、治療的な効果を与えるのに有効な量の発現タンパク質を与えるのに有効な量である。
【0059】
「修復細胞」:本明細書で使用するように、「修復細胞」は、組織の損傷に応答して刺激されて移動及び増殖する任意の細胞をいう。修復細胞は創傷治癒反応を構成する成分である。そのような細胞としては、繊維芽細胞、毛細内皮細胞、毛細周皮細胞、単核炎症細胞、セグメント化炎症細胞、顆粒形成組織細胞等が挙げられる。
【0060】
5.2 発明
本発明は、外科用インプラント、外科用縫合糸、創傷包帯などの医療用具を、薬剤、特に水溶性または親水性の薬剤を含有する生物適合性生分解性ポリマーマトリックスでコーティングするための組成物、医療用具をコーティングする方法、および該組成物でコーティングされた医療用具に関する。コーティングされた用具を用いると、創傷または疾患の治療に役立つように選択された薬剤が、医学的介入部位を取り囲む局部へ制御下でまたは徐々に放出されるようになる。
【0061】
本発明の方法には、コーティング組成物を調製する工程と、該コーティング組成物で医療用具をコーティングする工程とが含まれる。一般的には、コーティング組成物は、エマルジョンまたは懸濁液の形態であり、少なくとも1種の生物適合性生分解性ポリマーと、少なくとも1種の薬剤とを含む。エマルジョンの形態の場合、コーティング組成物には、通常、約0.01%〜15%(w/v)、典型的には約0.l%〜10%(w/v)、好ましくは約l%〜5%(w/v)の全ポリマーと、約0.001%〜15%(w/v)、典型的には約0.01%〜10%(w/v)、好ましくは約0.l%〜0.5%(w/v)の薬剤とが含まれる。好ましい実施態様において、エマルジョンは、油中水(「W/O」)型エマルジョンである。
【0062】
懸濁液の形態の場合、コーティング組成物には、通常、約0.01%〜80%(w/v)、好ましくは約10%〜30%(w/v)の予備成形もしくは部分成形マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアが含まれ、その粘度は、約1〜100センチポアズ、好ましくは約30〜50センチポアズである。マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアには、生物適合性生分解性ポリマーコアーと、その中への閉込、連行、包埋、またはそれ以外の取込がなされた約0.001%〜30%(w/w)、好ましくは約1%〜15%(w/w)の少なくとも1種の薬剤とが含まれている。
【0063】
本発明のコーティング組成物には更に、エアゾール用途向けの噴射剤が含まれていてもよい。場合により、コーティング組成物には、約0.l%〜10%(w/v)、典型的には約1%〜3%(w/v)の乳化剤および/または約0.l%〜l%(w/v)の微生物汚染に対抗する保存剤が含まれていてもよい。
【0064】
均質コーティングとなるように組成物を用具に適用し、用具を乾燥させる。用具が乾燥するにつれて、コーティング組成物に含まれる溶剤が蒸発し、薬剤を含有した生物適合性生分解性ポリマーマトリックスが用具の表面上に堆積する。用具が組織液接触した場合、たとえば、用具が患者に移稙されるかまたは創傷に包帯をあてるために使用される場合、ポリマーマトリックスは生分解し、局部に薬剤を放出する。好ましくは、ポリマーマトリックスは、長期間にわたり薬剤を制御下でまたは徐々に放出できるようにする。
【0065】
好ましい実施態様において、本発明の組成物および方法を用いて、薬剤を含有したマイクロスフィアおよび/またはナノスフィアで医療用具をコーティングする。マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアでコーティングされた用具を患者の内部または表面上に置くと、ポリマーマトリックスが生分解して局部に薬剤を放出する。このほか、マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアは、それらが周囲の細胞中に浸透するかまたは周囲の細胞により摂取される場合、コーティングされた用具から分離する。従って、マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアでコーティングされた用具を用いると、細胞内または細胞外へ制御下でまたは徐々に薬剤を放出させることができるようになる。これは、細胞膜を容易に通過しない薬剤を局部的に送達するために特に重要である。
【0066】
本発明のこれらの態様は、部分的には、マイクロスフィアおよび/またはナノスフィア製剤を調製するのに好適なエマルジョンが、過剰の薬剤、特に、水溶性または親水性の薬剤で医療用具を、容易に、効率的に、かつ耐久性をもたせてコーティングするために即座に利用可能であるという発見に基づくものである。組成物を直接またはエアゾールの形態で使用して多種多様な医療用具をコーティングしてもよい。
【0067】
このような組成物を用いて調製されたコーティングは、コーティングされた用具を普通に取り扱うかぎり除去されることはないという意味で耐久性がある。極めて驚くべきことに、マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアコーティングは耐久性があることを見出した。例えば、サブミクロンサイズの粒子を含有したポリマーコーティングは、外科用縫合糸が骨格筋を通過する際に、縫合糸から剥離することはなかった。
【0068】
本発明の組成物および方法は、他の現用のコーティング法よりも優れた数多くの利点を提供する。重要なことは、本発明の組成物および方法を用いて、実質的に任意の医療用具を、核酸などの水溶性または親水性の薬剤を含めて実質的に任意の薬剤で容易にかつ効率的にコーティングできることである。従って、本発明のコーティングされた医療用具を用いると、創傷または疾患の治療のために医学的介入部位を取り囲む局部へ多種多様な薬剤を単独でまたは組合せて局部的に送達することができる。
【0069】
コーティングされた医療用具を用いた標的化薬物送達は、創傷または疾患の治療のための特に便利な手段を提供する。例えば、治療上有効な濃度で薬剤を全身的に投与すると、多くの場合、望ましからぬまたは有毒な副作用を起こす。このような場合、コーティングされた医療用具を用いて標的化局部送達を行えば、治療効果を得るのに有効な局部濃度の送達が可能となり、しかも有効な全身レベルの薬物の利用に伴う毒性を回避することが可能となる。コーティングされた医療用具を用いた標的化局部送達はまた、他の投与モードで送達された薬剤が標的細胞集団に容易に到達しない場合にも有利である。
【0070】
コーティングされた医療用具によるマイクロスフィアおよび/またはナノスフィア製剤の標的化投与は、マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアの他の投与モードよりも優れた数多くの利点を提供する。例えば、4〜7μmのサイズを有する静脈内送達マイクロスフィアは、肺において機械的に濾過および保持される(Troster et al.,1990,Int.J.Pharm. 61:85-100)。より小さなサイズのスフィアは、肺を通過するが細網内皮系のマクロファージ、主に肝臓のKupfer細胞および脾臓のマクロファージによって迅速に摂取される(Muller et al.,1993,Int.J.Pharm. 89:25-31)。多くの場合、注入されたスフィアの90%程度が肝臓により摂取され、2〜5%が脾臓により摂取され、注入後5分以内に循環系から除去される(Muller,1991,Colloidal Carriers for Controlled Drug Delivery and Targeting,Wissenschaftliche Verlagsgesellschaft,Stutgart)。従って、全身的に投与した場合、多くのスフィアは標的化送達部位への到達が妨害される。医学的介入部位においてマイクロスフィアおよび/またはナノスフィアを直接、局部的に投与すれば、局部の周辺細胞がスフィアを摂取することができ、血流への投与、および肺、肝臓、および脾臓中での随伴的滞留を回避することができる。
【0071】
もう1つの好ましい実施態様において、本発明の組成物を含有した薬剤は核酸である。核酸がコーティングされた用具を用いると、例えば、局部的遺伝子治療のための医学的介入部位を取り囲む細胞へ、標的化して、制御下で、または徐々にin vivo送達することができる。
【0072】
本発明のこの態様は、部分的には、創傷治癒過程に関与する増殖性修復細胞が、核酸の摂取、場合により核酸の発現に驚くほど有効であるという発見に基づくものである(1996年4月8日出願の同時係属の代理人整理番号8464-007-999)。通常はin vitroおよびin vivoのいずれにおいても効率的にトランスフェクトすることは困難であるこれらの修復細胞は、創傷治癒過程により増殖が誘発された場合、核酸の摂取および発現を極めて効率的に行うようになる。修復細胞は、組織損傷部位へ移行し、損傷部に置かれた、核酸を含有してなるマトリックスに浸透し、核酸の摂取および発現を行う。例えば、マウスBMP-4(通常、骨折修復中に始原細胞により発現される骨誘導因子)をコードするプラスミドDNAを含んでなるコラーゲンスポンジをラットの5mm骨切部内に配置したところ、その間隙を横切って骨の成長が促進されることが分かった(id)。
【0073】
2つのプラスミド、すなわち、マウスBMP-4をコードする一方のプラスミドと、BMP-4と相乗的に相互作用することが知られている副甲状腺ホルモンの34アミノ酸ペプチド断片であるPTH1-34ペプチドをコードする他方のプラスミド、を含有したコラーゲンスポンジを接種されたラットにおいて、相乗効果が観測された(Ahrens et al.,1993,J.Bone Min.Res. 12:871-880)。
【0074】
本発明は、これらの発見を利用したものである。核酸を含有したポリマーマトリックスでコーティングされた医療用具は、増殖性修復細胞中への容易でかつ効率的な核酸の移入、および場合により核酸の発現のための便利な手段を提供する。例えば、核酸のコーティングされた医療用具を創傷組織に近接して配置すると、こうした用具が、局部遺伝子治療のために細胞へ核酸を移入するための容易でかつ効率的な手段となる。コーティングされた外科用縫合糸は、核酸を移入するための特に便利な手段を提供する。なぜなら、縫合処理自体が組織の損傷を引き起こすため、それに続いて修復細胞の増殖が誘発されるが、こうした修復細胞は、コーティングから放出される核酸の摂取、場合により核酸の発現を即座に行うことができるからである。
【0075】
アンチセンスDNAおよびRNA、プラスミドDNA、ならびにウイルス断片など、実質的に任意の核酸を修復細胞に摂取させることが可能である。核酸は、それ自体が治療薬であってもよいし、治療用タンパク質をコードするものであってもよい。好ましくは、治療効果を得るのに有効な核酸の量で、すなわち、具体的には疾患の改善または治療、疾患に伴う症状の改善、創傷治癒の刺激または促進などの所望の効果を得るのに有効な量で用具をコーティングする。例えば、アンチセンスDNAおよびRNAなど、それ自体が治療薬となる核酸に対して、治療上有効な量とは、治療効果を得るのに有効なアンチセンスDNAまたはRNAの量を意味する。治療用遺伝子産物をコードする核酸に対して、治療上有効な量とは、発現したときに治療効果を得るのに有効な遺伝子産物の量を提供する核酸の量を意味する。当業者は、過度の実験を行うことなく治療上有効な量を容易に決定することが可能である。
【0076】
修復細胞による核酸の摂取および発現には組織損傷によって誘発される修復細胞増殖が必要となるため、本発明の核酸‐ポリマー組成物でコーティングされた用具を、発生したばかりの創傷が存在する組織に近接して配置すべきであると考えられる。当業者には自明であろうが、マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアにより細胞内送達が促進できるように核酸を含有したマイクロスフィアおよび/またはナノスフィアで医療用具をコーティングすることが有利である場合もあるが、創傷組織中に核酸を送達するうえでマイクロスフィアおよび/またはナノスフィアは必要ではない。増殖性修復細胞は、細胞外マトリックス中に送達された核酸を摂取する。
【0077】
コーティングされた医療用具を用いた局部的な核酸送達により、現在利用可能なin vivoおよびex vivo遺伝子治療プロトコルの抱える問題の多くが克服される。例えば、遺伝子治療のためのin vivo法では、所定の形態の標的化が必要であるが、これは機能しないことが非常に多い。本発明のコーティングされた用具では、標的化は問題にはならない。すなわち、マトリックス中の核酸は、創傷治癒過程に関与しかつ創傷部位に存在する細胞によってのみ摂取される「餌」としての働きをする。ex vivo遺伝子治療では、形質導入に利用されないかまたは抵抗性を示す、標的細胞の供給源が必要となる場合が多い。本発明のコーティングされた用具では、形質導入は問題にはならない。なぜなら、創傷治癒過程に活性を示す増殖性修復細胞によって核酸が効率的に摂取されるからである。
【0078】
本発明の特に好ましい実施態様において、核酸は創傷治癒を刺激または促進する。このような核酸は、それ自体が治療薬であってもよいし、in vivoで創傷治癒を刺激または促進する治療用遺伝子産物をコードするものであってもよい。好ましくは、核酸は、創傷治癒を刺激する治療用タンパク質をコードするDNA配列に機能的に結合されたプロモーター配列を有するDNA分子である。
【0079】
創傷治癒を刺激または促進する核酸でコーティングされた医療用具は、一般的には、改良された治癒特性を呈するであろう。例えば、破損したかまたは折れた骨を固定するために通常使用されるピンなどの整形外科用インプラントを、創傷治癒を刺激する核酸でコーティングすると、損傷した骨が機械的に並置されるほかに骨組織の再生が促進される。
【0080】
創傷治癒を刺激または促進する核酸でコーティングされた縫合糸もまた、改良された治癒特性を呈する。こうしたコーティングの施された縫合糸は、治癒組織を機械的に並置するほかに、創傷治癒を刺激または促進する核酸を縫合糸に近接した増殖性修復細胞まで移送するかまたは場合によりこうした核酸を発現することによって、創傷治癒を刺激または促進するであろう。具体的には、縫合糸の周りで創傷治癒を刺激することによって、このような縫合糸では縫合糸が本質的に組織に「スポット癒着」する。コーティングの施された縫合糸は、正常なまたは疾患を有する肝臓組織、放射線照射された組織、糖尿病などの代謝障害を患った患者の組織のような脆弱なまたは損傷を受けた組織を縫合するうえで特に有用である。
【0081】
好ましい実施態様の特に重要な特徴の1つは、結果として瘢痕組織の形成または組織再生が行われるように、修復過程を操作できる点である。例えば、創傷部位または手術部位で治療用タンパク質を過剰発現させると、瘢痕組織が形成されることなく損傷組織を再生することができる。多くの場合、例えば、骨修復の場合、このような再生を行うことが望ましいのは、瘢痕組織が正常な機械的機能を支持するようにデザインされたものではないからである。
【0082】
縫合術では、先に述べたように、もともと弱い組織を一体化して保持するために、瘢痕組織を形成することが望ましい場合もある。
【0083】
それ以外では、縫合糸の周りでの瘢痕組織の形成は望ましくないことが多い。このような例としては、角膜瘢痕組織が形成されると視界が妨げられる恐れのある眼球手術が挙げられる。
【0084】
こうした場合、本発明の組成物および方法を利用すれば、発現される遺伝子産物のタイプおよびレベルにもよるが、瘢痕組織の形成を伴ってまたは伴わずに創傷治癒を刺激する核酸で医療用具をコーティングすることができる。
【0085】
本発明の組成物、方法、およびコーティングの施された用具を用いると、創傷治療に関連した技術分野に見られる欠点の多くが克服される。第1に、タンパク質とは異なり、安定でしかも無毒である高用量の核酸をin vivoで安全に投与することができる。第2に、繰返し投与は可能ではあるが、必要ではない。核酸を摂取および発現する細胞は、局部バイオリアクターとして機能し、創傷部位でコードされた遺伝子産物が連続的に供給されるようになる。第3に、投与の一時的要件を満たすように核酸を送達することができる。
【0086】
5.3 コーティング組成物
本発明により、マイクロスフィアおよび/またはナノスフィア医療用徐放性製剤を調製するために当該技術分野で普通に使用されている組成物に適用可能な方法であって、インプラント、縫合糸、創傷用包帯などの医療用具を、薬剤を含有した生物適合性生分解性ポリマーマトリックスでコーティングする新規方法を見出した。コーティングの施された用具を用いると、制御下でまたは徐々に薬剤が局部へ送達される。
【0087】
文献に記載されているコーティング組成物および方法は、医療用具を疎水性の薬剤でコーティングする場合にのみ好適なものであるが、これとは異なり、本発明の方法および組成物は、親水性であるか疎水性であるかにかかわらず、多種多様な薬剤で用具をコーティングする場合に好適である。
【0088】
一般的には、本発明のコーティング組成物には、少なくとも1種の生物適合性生分解性ポリマーと、少なくとも1種の薬剤とが含まれる。本発明の1つの実施態様において、コーティング組成物は、エマルジョンの形態である。本発明の利点のlつは、マイクロスフィアおよび/またはナノスフィア医療用製剤を調製するために利用されている従来のエマルジョンのいずれもが医療用具のコーティングに適用可能である点である。このようなエマルジョンとしては、例えば、油中水型エマルジョン(「W/O」)、水中油中水(「W/O/W」)型エマルジョン、および共溶剤型エマルジョンが挙げられる。このようなエマルジョンの調製方法は、当該技術分野で周知であり、例えば、Wantierらの米国特許第5,478,564号、Yamamotoらの欧州特許出願第EP190,833号、Okadaらの米国特許第5,480,656号、およびAllemann et al.,1992,Intl.J.Pharmaceutics 87:247-253に記載されている。もちろん、調製されるエマルジョンのタイプが、部分的には、ポリマーマトリックス中に導入される薬剤の性質に依存するであろうことは理解されるであろう。
【0089】
好ましい実施態様において、本発明のコーティング組成物には、W/O型エマルジョンが含まれる。W/O型エマルジョンの任意の調製方法がそれぞれ本発明で利用しうるものと考えられるが、典型的なW/O型エマルジョンは、有機相を水相と共に乳化して乳状のエマルジョンを形成することによって調製することが可能である。
【0090】
疎水性の薬剤の場合、有機相には、少なくとも1種のポリマーと少なくとも1種の薬剤とが、水と混和しない有機溶剤中に溶解されて含まれる。従って、疎水性の薬剤の場合、本発明のコーティング組成物は、少なくとも1種のポリマーと少なくとも1種の薬剤とを、水不混和性有機溶剤中に溶解して有機相を形成し、この有機相を水相と共に乳化して乳状エマルジョンを形成することによって調製することが可能である。
【0091】
当業者には自明であろうが、エマルジョンを利用して疎水性薬剤で医療用具をコーティングすることの利点の1つは、従来型の組成物および方法を用いて得られるコーティングと比較して、コーティング中に残存する有機溶剤の含有量が少ないことである。従って、本発明の組成物および方法を用いてコーティングされた医療用具は、従来型の組成物および方法を用いてコーティングされた医療用具よりも毒性が低い。このことは、有機溶剤が塩化メチレンなどのように有毒な溶剤である場合に特に重要である。こうした利点があるにもかかわらず、本発明の組成物はヒトおよび動物に適用することを目的とするため、低い毒性を呈する水不混和性有機溶剤が好ましい。
【0092】
本発明のもう1つの実施態様において、薬剤は水溶性または親水性である。親水性薬剤の場合、有機相には、少なくとも1種の生分解性生物適合性ポリマーが水不混和性有機溶剤中に溶解されて含まれ、水相には、少なくとも1種の水溶性または親水性の薬剤が水に溶解されて含まれる。
【0093】
従って、水溶性または親水性の薬剤の場合、本発明のコーティング組成物は、少なくとも1種の生物適合性生分解性ポリマーを、水不混和性有機溶剤中に溶解して有機相を形成し、少なくとも1種の水溶性または親水性の薬剤を水に溶解して水性相を形成し、有機相を水相と共に乳化して乳状エマルジョンを形成することによって調製することが可能である。
【0094】
当業者には自明であろうが、水性相には更に、水中での薬剤の安定性を向上させる他の薬剤が含まれていてもよい。例えば、水性相には更に、薬剤学的に許容しうるpH調整用またはpH保持用緩衝剤、塩などが含まれていてもよい。
【0095】
本発明の組成物はヒトおよび動物に適用することを目的とするため、組成物にはまた、微生物汚染を防止する約0.1%〜約1%(w/v)の保存剤が含まれていてもよい。このような薬剤としては、例えば、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、イミドウレア、クアテルニウム15、ソルビン酸、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,2-ジオール、デヒドロ酢酸、安息香酸、ベンザルコニウムクロリド、ベンゼトニウムクロリド、フェノキシエタノール、ベンジルアルコール、セチルピリジニウムクロリド、およびクロロブタノールが挙げられる。
【0096】
場合により、水性相には更に、1種または複数種の乳化剤が含まれていてもよい。このような薬剤は、コーティング組成物の粘度を調節するのに有用であるが、これについては以下で更に説明する。存在させる場合、乳化剤は、一般的には、水性相の約0.l%〜10%(w/v)、好ましくは約l%〜3%(w/v)を占めるであろう。
【0097】
本発明に有効に利用できる好適な乳化剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコールなどの脂肪アルコール;ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸などの脂肪酸;グリセロールモノステアレートなどの脂肪酸エステル;商品名TWEENTM(デラウェア州WilmingtonのHercules Inc.の登録商標;ミズーリ州St.LouisのSigma Chemical Co.から入手可能である)として市販されているポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリエチレングリコールなどのポリアルキレングリコール;トリエタノールアミンオレエートなどのトリエタノールアミン脂肪酸エステル;オレイン酸ナトリウムなどの脂肪酸塩;ドデシル硫酸ナトリウム(SDS);セルロースアセテート;商品名PLUR0NIC F-68TMおよびPLURONIC F-127TM(BASFの登録商標;ミズーリ州St.LouisのSigma Chemical Co.から入手可能である)として販売されているエチレンオキシドとプロピレンオキシドとのブロックコポリマーなどのポラキソマー;ジドデシルジメチルアンモニウムブロミド(DMAB))などの第四級アンモニウム化合物;および鉱油、石油、綿実油、椰子油、胡麻油、落花生油、イソプロピルミリステート、イソプロピルパルミテートなどの油、が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0098】
本発明に有用な水不混和性有機溶剤は、典型的には、減圧下またはより好ましくは大気圧において室温で揮発性である。好適な水不混和性溶剤としては、例えば、クロロホルム、メチレンクロリド、エチルアセテート、アミルアルコール、アミルアセテートなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。メチレンクロリドと、アセトン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、および/またはテトラヒドロフランとの組合せもまた、ポリマーまたは疎水性薬剤を溶解する有機相を形成するために使用することができる。
【0099】
水不混和性有機溶剤の選択は、部分的には、溶剤中での薬剤の安定性に依存するであろうことを理解する必要がある。核酸薬剤を含む特に好ましい組成物(以下でより詳細に説明する)では、溶剤は、好ましくは、核酸に対する損傷を誘発しない。このような溶剤としては、例えば、メチレンクロリドなどのハロゲン化炭化水素;クロロホルムなどのポリハロゲン化炭化水素;芳香族化合物;ハロゲン化芳香族化合物;および当業者には自明であろう化合物、が挙げられるが、これらに限定されるものではない。特に好ましい組成物を調製するために使用される溶剤には、好ましくは、ヌクレアーゼが含まれないであろう。
【0100】
本発明に有用な生物適合性生分解性ポリマーは、マイクロスフィアおよび/またはナノスフィア医薬用製剤の技術分野で一般に利用されているポリマーである。好ましい実施態様において、生物適合性生分解性ポリマーを用いると、長期間にわたり薬剤を徐々に放出するようにできるであろう。好適なポリマーとしては、例えば、ポリグリコリド、ポリラクチド、ポリ乳酸ポリグリコール酸コポリマー(「PLGA」)などのポリエステル;ポリカプロラクトン(「PCL」)などのポリエーテル;ポリ酸無水物;シアノアクリル酸n-ブチル、シアノアクリル酸イソプロピルなどのシアノアクリル酸ポリアルキル;ポリアクリルアミド;ポリ(オルトエステル);ポリホスフアゼン;ポリペプチド;ポリウレタン;およびこれらのポリマーの混合物、が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0101】
薬剤を徐々にまたは制御下で放出するために好適なポリマーとして現在知られているかまたは今後開発されるであろう生物適合性生分解性ポリマーは、本発明に利用可能であると考えられる。
【0102】
ポリマーの選択は、個々の用途、送達される薬剤、およびコーティングされる医療用具に依存するであろう。特定のポリマーを選択するうえで考慮すべき要因としては、コーティング組成物を調製するために使用される溶剤中へのポリマーの溶解性、薬剤が放出される期間、ポリマーの生物適合性、コーティングされる医療用具に対するポリマーの接着能力、本開示内容を調べることにより自明となるであろうその他の考慮要因、が挙げられる。縫合糸に対するその他の考慮要因としては、湿潤および乾燥縫合条件下におけるコーティングされた縫合糸の結紮固定性およびフィット性が挙げられる。当業者は、過度な実験を行うことなく、特定の用途に好適なポリマーまたはポリマーの混合物を選択することができるであろう。
【0103】
組成物には、通常、約0.01%〜15%(w/v)、典型的には約0.1%〜10%(w/v)、好ましくは約1%〜5%(w/v)の全ポリマーが含まれるであろう。組成物の粘度は、オストワルド粘度計で測定した場合、通常、約1〜100センチポアズ、好ましくは約30〜50センチポアズであろう。
【0104】
好ましい実施態様において、生物適合性生分解性ポリマーは、乳酸単位/グリコール酸単位の比が約100/0〜約25/75の範囲内にあるグリコール酸と乳酸とのコポリマー(「PLGA」)である。ポリマーの平均分子量(「MW」)は、標準分子量の市販ポリスチレンを用いたゲル浸透クロマトグラフィーにより測定した場合、典型的には約6,000〜700,000、好ましくは約30,000〜120,000であり、固有粘度は、0.5〜10.5である。
【0105】
本発明に係るコーティングの施された医療用具から薬剤を徐々にまたは制御下で放出させる期間は、部分的には、乳酸/グリコール酸の組成比に依存するであろう。一般的には、例えば75/25のように乳酸/グリコール酸の比が高くなると、薬剤が制御下でまたは徐々に放出される期間が長くなり、乳酸/グリコール酸の比が低くなると、薬剤がより迅速に放出されるであろう。好ましくは、乳酸/グリコール酸の比は50/50である。
【0106】
徐々にまたは制御下で放出される期間は、ポリマーのMWにも依存する。一般的には、MWの高いポリマーほど、徐々にまたは制御下で放出される期間は長くなるであろう。
【0107】
低および高MWポリマーのブレンドもまた、薬剤の放出速度を制御するために利用可能である。このようなブレンド比は、約5/100の低MWポリマー/高MWポリマー〜約50/50の低MWポリマー/高MWポリマーの範囲内である。
【0108】
特定の用途に好適な特定のポリマー比、ポリマーMW、およびポリマーブレンドを含んでなる組成物は、当業者には自明であろう(例えば、Bodmer et al.,1992,J.Controlled Release 21:129-138を参照されたい)。
【0109】
本発明のコーティング組成物のコーティング特性は、組成物を構成する有機相と水性相との容量比により影響を受ける。ほとんどのコーティング用途に好適な組成物には、一般的には、約55%〜99.9%(v/v)、典型的には約75%〜95% (v/v)、好ましくは約80%〜90%(v/v)の有機相が含まれるであろう。これらの比は、約1.5〜3.5ポアズの粘度範囲に相当する。
【0110】
コーティング組成物に含まれる薬剤の濃度もまた、コーティング特性に影響を与える場合がある。更に、この濃度は、ポリマーマトリックス中に取込まれる薬剤の量に影響を与えることもある。ポリマーマトリックス中に取込み可能な薬剤の量は、薬剤のMWおよび溶剤中への溶解度に依存するであろうことは分かるであろうが、約0.001%〜15%(w/v)、典型的には約0.01%〜10%(w/v)、好ましくは約0.1%〜0.5%(w/v)の薬剤を含んでなる組成物が好適なコーティングを提供することを見出した。
【0111】
一般的には、コーティング組成物は、乳状のエマルジョンが得られるように乳化されるであろう。乳状エマルジョンを得るために任意の好適な手段が利用でき、こうした手段としては、例えば、激しい攪拌、渦流混合、および超音波処理が挙げられるが、これらに限定されるものではない。もちろん、乳状エマルジョンを得るために選択される方法は、当業者には自明であろうが、部分的には、乳化方法に対する薬剤の安定性に依存するであろう。コーティング組成物を約1分間渦流混合し、続いてプローブ型ソニケーターを用いて約0℃において約30秒間超音波処理にかけると、ほとんどのコーティング用途に対して満足しうる非常に乳状性の高い安定なエマルジョンが再現性よく得られる。
【0112】
核酸薬剤を含んでなる特に好ましい組成物(以下でより詳細に説明する)もまた、渦流混合、均質化処理、または超音波処理を行って調製してもよい。核酸、特に、プラスミドおよび染色体DNAに、渦流混合、均質化処理、または超音波処理により高剪断力を加えると、DNAは有意な損傷を受けると提言している重要な文献がある(例えば、Kondo et al.,1985,Radiation Research 104:284-292;Miller et al.,1991,Ultrasound in Medicine and Biology17:729-735;Miller et al.,1991,Ultrasound in Medicine and Biology17:401-406;Nicolau et al.,Methods in Enzymology 149:157-175を参照されたい)。しかしながら、極めて驚くべきことに、核酸薬剤を含んでなる本発明のコーティング組成物に渦流混合または超音波処理により高剪断力を加えても、核酸が有意な損傷を受けることはないことを見出した。例えば、ポリマーの不存在下でプラスミドDNAに超音波処理を施したところDNAは有意な損傷を受けたが、本発明のエマルジョンの形態のプラスミドDNA-ポリマー組成物に超音波処理を施してもDNAは有意な損傷を受けなかった(例えば、超音波処理されたプラスミドDNAの発現を提示した実施例6を参照されたい)。従って、核酸薬剤、特にDNA、を含んでなる本発明のコーティング組成物は、核酸に有意な損傷を与えることなく、上述したような渦流混合、均質化処理、および超音波処理を用いて調製することができる。また、薬剤の調製においてエマルジョンを処方するために使用される他の手順を、核酸を含有したエマルジョンを調製するために利用することもできると思われる。
【0113】
このほかの実施態様において、親水性および/または半極性の薬剤で医療用具をコーティングするためのW/O型エマルジョンを調製するために、共溶剤系を使用することも可能である。こうした別の実施態様において、W/O型エマルジョンの有機相には、少なくとも1種の生物適合性生分解性ポリマーと少なくとも1種の半極性および/または親水性の薬剤が、水不混和性有機溶剤と水混和性有機溶剤とを含む共溶剤中に溶解されて含まれる。コーティング組成物は、
(a)少なくとも1種の生物適合性生分解性ポリマーを水不混和性有機溶剤中に溶解する工程と、
(b)少なくとも1種の親水性および/または半極性の薬剤を水混和性有機溶剤中に溶解する工程と、
(c)工程(a)および(b)から得られた溶液を混合して有機相を形成する工程と、
(d)有機相を水性相と共に乳化して乳状エマルジョンを形成する工程と、
により調製される。
【0114】
水性相には、場合により、先に記載したように、抗微生物剤および乳化剤が含まれていてもよい。
【0115】
典型的な水不混和性有機溶剤は、先に記載したものである。好適な水混和性有機溶剤は、低温および低圧で蒸発するように低蒸気圧を有する水との共溶剤系を生成するであろう。好ましくは、水混和性溶剤は、半極性で無毒であり、更に、薬剤に損傷を与えることはないであろう。好適な水混和性溶剤としては、例えば、アセトン、アセトニトリル、エタノール、ジメチルアセトアミド(DMA)、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、およびジメチルホルムアミド(DMF))が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0116】
水混和性有機溶剤は、水性相中でポリマーが沈殿しないような、水不混和性有機溶剤に対する割合で添加される。水混和性有機溶剤の量が多すぎると、エマルジョンが得られない。有機相と水性相とが混和するようになり、ポリマーが水性相中で沈殿する。
【0117】
水混和性有機溶剤と水不混和性有機溶剤との体積比が約5/95〜約70/30の範囲にあるとエマルジョンが得られる。水不混和性有機溶剤に対する水混和性有機溶剤の最小の割合は、ポリマーマトリックス中への薬剤の所望の取込みレベルに関連する。従って、最小の割合は、個々の用途に依存するであろうが、当業者には自明であろう。
【0118】
もう1つの実施態様において、本発明のコーティング組成物は、エアゾール吹付用途向けのエアゾールとして配合してもよい。エアゾールの調製および送出の方法は、当該技術分野で周知である(例えば、Lachman et al.,1976,”Pharmaceutical Aerosols,”In:The Theory and Practice of Industrial Pharmacy270-295(Lea & Febiger,Philadelphia,PA); U.S.Pharmacopeia National Formulary 23/NF 18:1760-1767(1995);Ansel et al.,1995,”Aerosols,Inhalations and Sprays,”In:Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems443-459(Lea & Febiger,Philadelphia,PA)を参照されたい)。
【0119】
本発明のエアゾール組成物は、先に記載したように本質的にW/O型エマルジョンであり、更に、液化噴射剤を含む。液化噴射剤は、単独または混合物での蒸気圧が約20p.s.i.g.〜約130p.s.i.g.でありかつ薬剤として許容しうる任意の液化噴射剤であってよく、好ましくは、プロパン、ブタン、イソブタン、ジクロロジフルオロメタン、モノクロロジフルオロメタン、ジクロロトリフルオロエタン、モノクロロテトラフルオロエタン、テトラフルオロエタン、ジクロロモノフルオロエタン、およびジフルオロエタンから成る群より選ばれる。
【0120】
本発明のエアゾール組成物は、本発明のコーティング組成物を液化噴射剤と共にエアゾールディスペンサー中に仕込むことにより調製してもよい。エアゾールディスペンサーは、当該技術分野で周知の任意の従来型エアゾール缶もしくは瓶または他の適切な容器であってよい。
【0121】
本発明のもう1つの実施態様において、コーティング組成物は、懸濁液の形態であり、好適な溶剤中に懸濁させた予備成形および/または部分成形マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアを含む。このような組成物は、マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアコーティングで医療用具を被覆するうえで特に好適であるが、これについては、以下でより詳細に説明する。
【0122】
マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアで用具をコーテイングするための好適な懸濁液は、典型的には、均質コーティングの形成を可能にする流体物性を有し、溶液の粘度にもよるが、一般的には約0.01%〜80%(w/v)、好ましくは約10%〜30%(w/v)のマイクロスフィアおよび/またはナノスフィアを含む。約1〜100センチポアズ、好ましくは約30〜50センチポアズの粘度を有する懸濁液は、典型的には、均質コーティングを生成するであろう。
【0123】
懸濁液には、場合により、先に記載したような乳化剤および抗微生物剤が含まれていてもよい。また、懸濁液は、医療用具上へのマイクロスフィアおよび/またはナノスフィアのエアゾール吹付用途向けとして、先に記載したエアゾールとして配合してもよい。
【0124】
懸濁液に含まれるマイクロスフィアおよび/またはナノスフィアには、生物適合性生分解性ポリマーコアーが含まれ、更に、その中に閉込、連行、包埋、またはそれ以外の取込がなされた少なくとも1種の薬剤が含まれる。典型的には、マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアは、約0.001%〜30%(w/v)の薬剤、好ましくは約1%〜15%(w/v)の薬剤を含むであろう。
【0125】
予備成形マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアは、当該技術分野で普通に利用されている方法、例えば、Wantierらに付与されている米国特許第5,478,564号;Yamamotoらの欧州特許出願第EP190,833号;Okadaらの米国特許第5,480,656号;およびAllemann et al.,1992,Intl.J.Pharmaceutic 87:247-253;に記載の方法を用いて調製することができる。このほか、マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアは、本発明のコーティング組成物を室温で約18時間攪拌して有機溶剤を蒸発させることによって得ることもできる。スフィアは、超遠心分離により回収し、水で数回洗浄し、凍結乾燥器中で乾燥させる。
【0126】
マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアの調製に好適な生物適合性生分解性ポリマーは、先に記載したものである。
【0127】
マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアを形成してから好適な溶剤中に懸濁させて懸濁液を調製してもよい。マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアの懸濁液を調製するための有用な溶剤は、溶剤を蒸発させる前、スフィアを実質的に劣化させてはならず、好ましくは、約25℃〜30℃で容易に蒸発させることができるように十分に低い蒸気圧を有するであろう。更に、溶剤は、マイクロスフィアおよび/またはナノスフィア中に閉込められた薬剤を実質的に劣化させてはならない。好適な溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの低MWアルコール;アセトニトリル;アセトン;水-アセトン、水-アセトニトリルなどの共溶剤、が挙げられるが、これらに限定されるものではない。水もまた、溶剤として使用してもよい。水は、減圧下で蒸発を促進させて、コーティングの施された用具から、後から除去することができる。
【0128】
コーティングされる用具に対するマイクロスフィアおよび/またはナノスフィアの接着性を改良するために、スフィアには更に、生物接着ポリマーが含まれていてもよい。生物接着ポリマーは、マイクロスフィアおよび/またはナノスフイアの調製に使用されるエマルジョンに生物接着物質を添加することによって、スフィア中に取込まれる。典型的には、約1%〜10%(w/v)、好ましくは約3%〜5%(w/v)の生物接着物質をエマルジョンに添加してスフィアを調製する。
【0129】
このほか、コーティング懸濁液には更に、約3%〜5%(w/v)の生物接着ポリマーが含まれていてもよい。好ましくは、生物接着ポリマーは、懸濁液の調製に使用される溶剤に可溶である。マイクロスフィアおよび/またはナノスフィア中への取込またはコーティング懸濁液中への導入を行うための好適な生物接着ポリマーとしては、例えば、商品名PLURONIC F-68TMおよびPLURONIC F-127TM(BASFの登録商標;ミズーリ州St.LouisのSigma Chemical Co.から入手可能である)として販売されているエチレンオキシドとプロピレンオキシドとのブロックコポリマーなどのポラキソマー、メチルセルロース、カルボポール、シアノアクリル酸塩、ムチン、アルギン酸塩、アラビアゴム、ゼラチン、コラーゲンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0130】
場合により、スフィアまたはコーティング懸濁液には更に、粒状細胞内DNAおよび/またはRNAプロセシングを促進する薬剤が含まれていてもよい。このような薬剤としては、例えば、クロロキン、サイトカラシンB、コルヒチン、ポリビニルピロリドン、スクロース、ポリリシンなどのようにリソソームの働きを阻害または混乱させる化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。このような化合物は、遺伝子の移入および細胞核中への導入を促進するであろう。
【0131】
もちろん、マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアの表面の改質あるいはマイクロスフィアおよび/またはナノスフィアの中への他の薬剤の導入が望まれる場合も多いことを理解する必要がある。例えば、特定の組織もしくは細胞への標的化および結合、投与部位での残留、取込薬剤の保護、抗血栓作用の出現、および/または凝集の防止の能力を、マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアに付与することが望ましい場合がある。
【0132】
特定の例として、受容体特異性粒子摂取を媒介するために、例えば、抗体などの受容体特異性分子をマイクロスフィアおよび/またはナノスフィアの中へ導入することが望ましい場合がある。これらのおよびその他の望ましい性質をマイクロスフィアおよびナノスフィアに付与するための薬剤および方法は、当該技術分野で周知である(例えば、Troster et al.,1990,Intl.J.Pharmaceutics 61:85-100;Davis et al.,1993,J.Controlled Release 24:157-163;Muller et al.,1993,Intl.J.Pharmaceutics 89:25-31;Maruyama et al.,1994,Biomaterials15:1035-1042;Leroux et al.,1994,J.Biomed.Materials Res. 28:471-481を参照されたい)。これらの方法はいずれも本発明と組合せて使用することができる。
【0133】
5.4 薬剤
本発明のコーティング方法および組成物の主な利点の一つは、それらを使用することにより、疎水性、親水性、極性、半極性、小分子、タンパク質、DNAなどのいずれであろうとも、実質的にすべての薬剤を用いて医療用具を被覆し得るということである。
【0134】
本発明において有用な薬剤としては、例えば、限定するものではないが、心臓血管剤;通常ワクチンに見られる薬剤などの免疫応答を引き起こさせることが可能な薬剤;抗がん剤;抗生物質;抗菌剤;ステロイドおよび非ステロイド系抗炎症剤;抗増殖剤(anti-proliferative agents);抗トロンビン剤、抗血小板剤などの抗凝血特性を有する薬剤;一酸化窒素合成酵素インヒビター(N,N-ジメチルアルギニン)、チロシンキナーゼインヒビター、アルカリホスファターゼインヒビター、アンギオテンシン変換酵素インヒビターなどの特異的酵素インヒビター;組織因子系凝固インヒビター(TFPI)ペプチドインヒビター;ホルモンなどが挙げられる。
【0135】
心臓血管剤としては、血小板由来増殖因子、内皮細胞増殖因子、繊維芽細胞増殖因子、平滑筋細胞由来増殖因子、インターロイキン1および6、トランスフォーミング増殖因子β、ならびに低密度リポタンパク質のようなシミュレータ(simulators);アンギオテンシンII、エピネフリン、ノルエピネフリン、神経ペプチド、サブスタンスPおよびK、エンドセリン、トロンビン、ロイキトリン(leukitrins)、プロスタグラジン、上皮増殖因子、がん遺伝子(c-myb、c-myo、fos)、ならびに増殖細胞核抗原のような血管作動薬;トランスフォーミング増殖因子β、ヘパリン様因子および血管緊張低下剤(vasorelaxants)のようなインヒビター;ヘパリン、ヒルジンおよびヒルログ(hirulog)のような抗トロンビン;アスピリン、ジピリマドール(dipyrimadole)、スルフィンピロゾン(sulfinpyrozone)、サリチル酸、エイコサペンタン酸、シプロステン(ciprostene)および血小板糖タンパク質IIb/IIIaに対する抗体のような抗血小板剤;ニフェジピン、ベラパミル、およびジルチアゼムのようなカルシウムチャンネル阻害剤;カプトプリル(captopril)およびシラザプリル(cilazapril)のようなアンチテンシン(antitensin)変換酵素(ACE)インヒビター;ステロイドおよびサイクロスボリンのような免疫抑制剤;魚油;アンギオペプチン(angiopeptin)およびトラピジル(trapidil)のような増殖因子アンタゴニスト;サイトカラシンのような細胞骨格インヒビター;デキサメタゾンのような抗炎症剤;ストレプトキナーゼおよびウロキナーゼのような血栓崩壊剤;コルヒチンおよびU-86983(Upjohn社、カラマズー(Kalamazoo)、ミシシッピー州)のような抗増殖剤(antiproliferatives);心臓血管病のDNAおよび/またはアンチセンス治療に適した遺伝物質;スタウロスポリンのようなプロテインキナーゼインヒビター;サイトカラシン、およびスラミンのような平滑筋移動および/または収縮インヒビター;ならびにニトログリセリンおよびその類似体のような一酸化窒素放出化合物が挙げられ得る。
【0136】
免疫応答を引き起こさせることが可能な薬剤としては、破傷風トキソイド、コレラトキシン、スタフィロコッカスエンテロトキシンB、百日咳、肺炎球菌、スタフィロコッカスおよびストレプトコッカス抗原、ならびにE.coli(病原性)のようなタンパク質を基剤とする細菌性ワクチン;AIDS抗原、ウイルス性タンパク質(インフルエンザ、アデノウイルス等)、生ウイルス(生菌ポリオウイルス等)、肝炎ウイルス成分、ロタウイルス成分のようなウイルス性ワクチンタンパク質;ウイルスおよび細菌多糖類;ならびにDNAを基剤とするワクチンが挙げられる。
【0137】
抗がん剤としては、メクロエタミン、シクロホスファミド、イホスファミド、メファラン(mephalan)、クロラムブシル、ヘキサメチルアミン、チオテパ、ブスルファン、カルムスチン、ロムスチン(lomustin)、ロムスチン(lomustine)、セムスチン、ストレプトゾシン、およびジカルバイン(dicarbaine)のようなアルキル化剤;メトトレキセート、フルオロウラシル、フロクスウリジン、シタラビン、メルカプトプリン、チオグアニン、およびペントスタチンのような代謝拮抗薬;アルカロイド(ビンブラスチン、ビンクリスチン等)、トキシン(エトポシド、テニポシド(teniposide)等)、抗生物質(ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ブレオマイシン、プリカマイシン(plicamysin)、マイトマイシン等)および酵素(L-アスパラギナーゼ等)のような天然産物;インターフェロン−αのような生物学的応答調節剤;アドレノコルチコイド(デキサメタゾン等)、プロゲスチン、エストロゲン、抗エストロゲン、アンドロゲン、および性腺刺激ホルモン放出ホルモン類似体のようなホルモンおよびアンタゴニスト;がん抑制遺伝子(RB、P53等)、サイトカイン遺伝子、腫瘍壊死因子−α cDNA、がん胎児性抗原遺伝子、およびリンホカイン遺伝子のような抗がん遺伝子;トキシン介在遺伝子治療;アンチセンスRNA(E6およびE7遺伝子に対するアンチセンス等);副腎皮質抑制剤(ミトーテン、アミノグルテチミド等);ならびにシスプラチン、ミトザントロン、ヒドロキシ尿素、およびプレオカラバジンのような種々雑多な(miscellaneous)薬剤が挙げられる。
【0138】
その他の薬剤としては、酵素、サイトカイン、細胞接着分子、輸送タンパク質、生物学的活性ペプチド、核酸、プロタミン、コラーゲン、エラスチン、マトリックスタンパク質、炭水化物、プロテオグリカン、脂質、コレステロール、トリグリセリド、リポタンパク質、アポリポタンパク質、界面活性剤などが挙げられる。
【0139】
もちろん、上記リストは単に説明を目的とするものである。当業者は、本明細書に記載された方法にしたがって、生体適合性で(biocompatible)生分解性のポリマーマトリックスに含有せしめることができる、現在公知の、または後に開発されるであろうすべての薬剤または薬剤の組み合わせが本発明に本質的に含まれるものであるということを理解するであろう。
【0140】
5.4.1 核酸
特に好ましい実施態様においては、本発明は、薬剤が核酸であるコーティング組成物を提供する。最近、創傷治癒プロセスにおいて活性である増殖性修復細胞が核酸を取り込んで発現させるのに驚くほど効率的であるということが見出された(1996年4月8日に出願した、共同係属中の代理人事件登録第8464-007-999号)。
【0141】
したがって、特に外科的インプラント、縫合糸(sutures)、創傷包帯(wound dressings)などの医療用具を核酸を含む本発明の組成物で被覆することにより、治療用核酸を医療介入の局所部位に容易且つ効率的に移動させて任意に発現させるための都合のよい手段が得られ得る。このような被覆用具は、特に遺伝子治療のために核酸を標的送達するための都合のよい手段を提供するものである。
【0142】
本発明の特に好ましい組成物を用いることにより、広範な種類の治療用核酸で医療用具を被覆することができる。「核酸」とは、デオキシリボヌクレオシドから構成されようが、リボヌクレオシドから構成されようが、そしてホスホジエステル結合から構成されようが、ホスホトリエステル、ホスホルアミデート、シロキサン、カーボネート、カルボキシメチルエステル、アセトアミデート、カルバメート、チオエーテル、架橋ホスホルアミデート、架橋メチレンホスホネート、架橋ホスホルアミデート、架橋ホスホルアミデート、架橋メチレンホスホネート、ホスホロチオエート、メチルホスホネート、ホスホロジチオエート、架橋ホスホロチオエートまたはスルホン結合、およびそのような結合の組み合わせのような修飾結合から構成されようが、あらゆる核酸を意味するものである。
【0143】
また、核酸という用語には、特に、5種類の生物学的に生ずる塩基(アデニン、グアニン、チミン、シトシンおよびウラシル)以外の塩基から構成される核酸も含まれる。
【0144】
本発明において有用な核酸としては、例えば、限定するものではないが、アンチセンスDNAおよび/またはRNAのようなオリゴヌクレオチド;リボサイム;遺伝子治療用DNA;ウイルスDNAおよび/またはRNAなどのウイルス断片;DNAおよび/またはRNAキメラ;1本鎖DNA、2本鎖DNA、スーパーコイルDNAおよび/または三重らせんDNAなどのDNAの種々の構造体;Z−DNAなどが挙げられる。核酸は、核酸を大量に調製するために典型的に使用されているあらゆる通常の手段により調製され得る。例えば、DNAおよびRNAは、市販の試薬および合成装置を用いて当技術分野で周知の方法によって化学的に合成され得る(例えば、Gait,1985,Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press,オックスフォード,英国を参照されたい)。RNAは、SP65(Promega社、マジソン、ウィスコンシン州)などのプラスミドを用いて、in vitro転写によって高収率で製造され得る。
【0145】
いくつかの状況においては、ヌクレアーゼ安定性が高いほうが望ましい場合、修飾ヌクレオシド間結合を有する核酸が好ましくあり得る。修飾ヌクレオシド間結合を含む核酸も、当技術分野において周知の試薬および方法を用いて合成され得る。例えば、ホスホネートホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホルアミデートメトキシエチルホスホルアミデート、ホルムアセタール、チオホルムアセタール、ジイソプロピルシリル、アセトアミデート、カルバメート、ジメチレン−スルフィド(−CH2−S−CH2)、ジメチレン−スルホキシド(−CH2−SO−CH2)、ジメチレン−スルホン(−CH2−SO2−CH2)、2'-0-アルキルおよび2'−デオキシ-2'-フルオロホスホロチオエートヌクレオシド間結合を含む核酸を合成する方法は、当技術分野において周知である(Uhlmannら,1990,Chem.Rev. 90:543-584;Schneiderら,1990,Tetrahedron Lett.31:335およびそこに引用された参考文献を参照されたい)。
【0146】
核酸は、当技術分野で周知のあらゆる適当な手段によって精製され得る。例えば、核酸は、逆相もしくはイオン交換HPLC、サイズ排除クロマトグラフィー、またはゲル電気泳動によって精製することができる。もちろん、当業者は、精製方法が、部分的に、精製されるDNAの大きさに依存するであろうことは理解しているであろう。
【0147】
核酸は、それ自体、例えばmRNA翻訳を阻害するアンチセンスDNAなどの治療薬として作用し得るものであり、または、核酸は、修復細胞によって発現される種々の治療用の転写産物または翻訳産物をコードし得るものである。有用な転写産物としては、アンチセンスRNA、リボザイム、ウイルス断片などが挙げられる。有用な翻訳産物としては、例えば、膜タンパク質、転写因子、細胞内タンパク質、サイトカイン結合タンパク質などが挙げられる。
【0148】
本発明の好ましい実施態様においては、核酸は、傷つけられた、または損傷した組織の治癒をin vivoで刺激または促進する遺伝子産物をコードするDNA分子である。このDNA分子としては、細胞外、細胞表面および細胞内のRNAおよびタンパク質を含む、治癒を刺激または促進する種々の因子をコードするゲノムDNA分子またはcDNAが挙げられ得る。一方、このDNA分子は、遺伝子欠損から生じる欠如または欠陥遺伝子産物を補う機能的タンパク質をコードし得るものである。
【0149】
細胞外タンパク質としては、例えば、増殖因子、サイトカイン、治療用タンパク質、ホルモンおよびホルモンのペプチド断片、サイトカインのインヒビター、ペプチド増殖および分化因子、インターロイキン、ケモカイン、インターフェロン、コロニー刺激因子、血管新生促進因子、およびコラーゲン、ラミニン、フィブロネクチンなどの細胞外マトリックスタンパク質が挙げられる。
【0150】
そのようなタンパク質の具体例は、限定するものではないが、5種類のTGF−βアイソフォームや骨形成因子(BMP)などのTGF−β分子のスーパーファミリー、潜伏TGF−β結合タンパク質(LTBP)、角質細胞増殖因子(KGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、インスリン様増殖因子(IGF)、塩基性繊維芽細胞増殖因子(FGF−1、FGF−2)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、第VIII因子および第IX因子、エリスロポエチン(EPO)、組織プラスミノーゲンアクチベーター(TPA)、アクチビン、ならびにインヒビンが挙げられる。
【0151】
本発明の実施において使用され得る創傷治癒を刺激するホルモンとしては、例えば、成長ホルモン(GH)および副甲状腺ホルモン(PTH)が挙げられる。
【0152】
細胞表面タンパク質としては、例えば、細胞接着分子のファミリー(例えば、インテグリン、セレクチン、N−CAMおよびL1のようなIgファミリーメンバー、ならびにカドヘリン)、I型およびII型TGF−β受容体ならびにFGF受容体のようなサイトカインシグナリング(signaling)受容体、βグリカンおよびシンデカンのような非シグナリング補受容体(coreceptors)が挙げられる。
【0153】
細胞内RNAおよびタンパク質としては、例えば、シグナル伝達キナーゼのファミリー、テーリンおよびビンキュリンのような細胞骨格タンパク質、潜伏TGF−β結合タンパク質のようなサイトカイン結合タンパク質、ならびに転写因子および促進因子のような核トランス作用タンパク質が挙げられる。
【0154】
また、DNA分子は、病理学的プロセスを遮断するタンパク質もコードし得るので、自然の創傷治癒プロセスを妨害されることなく生じさせることができる。遮断因子の例としては、RNA機能を破壊するリボザイム、ならびに例えば組織完全性を破壊する酵素の組織インヒビター(例えば、変形性関節症に関連するメタロプロテイナーゼのインヒビター)をコードするDNAが挙げられる。
【0155】
当業者に一般的に公知の種々の分子生物学的方法を用いることによって興味の対象であるタンパク質をコードするDNAセグメントを得ることができる。例えば、cDNAまたはゲノムライブラリーを、公知のヌクレオチド配列に基づく配列を有するプライマーまたはプローブを用いてスクリーニングすることができる。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いることにより興味の対象であるタンパク質をコードするDNA断片を作製することができる。一方、DNA断片は市販品を入手してもよい。
【0156】
修飾遺伝子配列、すなわち、天然タンパク質をコードする遺伝子配列とは異なる配列を有する遺伝子も、その修飾遺伝子が依然として直接的または間接的な様式で治癒を刺激するように機能するタンパク質をコードする限り、本発明に含まれるものである。これらの修飾遺伝子配列としては、点突然変異によって生じる修飾、遺伝コードまたは天然対立遺伝子変異体の縮重による修飾、そしてさらに遺伝子操作、すなわち人間の手によって導入された修飾が挙げられる。
【0157】
コードされるタンパク質またはポリペプチドの機能的特性を変更するために設計されるヌクレオチド配列内への変化を導入するための技術は、当技術分野では周知である。そのような修飾としては、塩基の欠失、挿入または置換が挙げられ、よってアミノ酸配列が変化する。変化によって、タンパク質の活性を増大させたり、その生物学的安定性または半減期を増大させたり、そのグリコシル化パターンを変化させたりすることが可能である。そのようなタンパク質をコードするヌクレオチド配列へのそのような修飾はすべて、本発明に含まれるものである。
【0158】
興味の対象である転写または翻訳産物をコードするDNAは、被覆された医療用具の調製のために、そのDNAを大量に複製することができる種々の宿主ベクター系に組換え的に導入され得る。これらのベクターは、in vivoで、創傷部位にて修復細胞によって取り込まれたDNA配列の転写および/または翻訳を誘導するための必須のエレメントを含むように設計することができる。
【0159】
使用され得るベクターとしては、限定するものではないが、組換えバクテリオファージDNA、プラスミドDNAまたはコスミドDNAから誘導されるものが挙げられる。例えば、pcDNA3、pBR322、pUC19/18、pUC118、119、およびM13mp系のベクターのようなプラスミドベクターが使用され得る。バクテリオファージベクターとしては、λgt10、λgt11、λgt18−23、λZAP/R、およびEMBL系のバクテリオファージベクターが挙げられ得る。利用され得るコスミドベクターとしては、限定するものではないが、pJB8、pCV103、pCV107、pCV108、pTM、pMCS、pNNL、pHSG274、COS202、COS203、pWE15、pWE16、およびcharomid9系のベクターが挙げられる。
【0160】
一方、限定するものではないが、ヘルペスウイルス、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、deno−関連ウイルス、ウシパピローマウイルスのようなウイルスから誘導されたものなどの組換えウイルスベクターが操作され得る。組込みベクターが使用される一方で、創傷治癒に対しては、遺伝子産物を何世代にもわたって娘細胞に遺伝させない非組込み系が好ましい。このように、遺伝子産物は創傷治癒プロセスの間に発現され、遺伝子は子孫世代で弱められるので発現遺伝子産物の量はしだいに減少する。
【0161】
生物学的に活性なタンパク質を発現させるために、そのタンパク質をコードするヌクレオチド配列は、適切な発現ベクター、すなわち挿入されたコード配列の転写および翻訳に必須のエレメントを含むベクターに挿入され得る。当業者に周知の方法を用いることにより、適切な転写/翻訳調節シグナルに機能的に作用するように関連付けられたタンパク質コード配列を有する発現ベクターを構築することができる。これらの方法としては、in vitro組換えDNA技術および合成的技術が挙げられる。例えば、Sambrookら,1992,Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,ニューヨークおよびAusubelら,1989,Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing Associates & Wiley Interscience,ニューヨークを参照されたい。
【0162】
興味の対象であるタンパク質をコードする遺伝子は、種々の異なるプロモーター/エンハンサーエレメントに機能的に作用するように関連付けられ得る。プロモーター/エンハンサーエレメントは、治療学的な量のタンパク質の発現を最大限にするように選択され得る。これらのベクターの発現エレメントは、その強さおよび特異性が異なってもよい。利用される宿主/ベクター系に依存して、いくつかの適当な転写および翻訳エレメントのいずれか一つを使用し得る。プロモーターは、興味の対象である遺伝子にもともと関連付けられているプロモーターの状態であり得る。一方、DNAを、組換えプロモーターまたは異種プロモーター、すなわちその遺伝子と通常関連付けられていないプロモーターの調節下に配置してもよい。例えば、組織特異的プロモーター/エンハンサーエレメントを用いることにより特定の細胞型における転移DNAの発現を調節し得る。
【0163】
記述されており、使用することができる組織特異性を示す転写調節領域としては、例えば、限定するものではないが、膵臓腺房細胞において活性であるエラスターゼI遺伝子調節領域(Swiftら,1984,Cell 38:639-646;Ornitzら,1986,Cold Spring Harbor Symp.Quant.Biol. 50:399-409;MacDonald,1987,Hepatology 7:42S-51S);膵臓β細胞において活性であるインスリン遺伝子調節領域(Hanahan,1985,Nature 315:115-122);リンパ系細胞において活性である免疫グロブリン遺伝子調節領域(Grosschedlら,1984,Cell 38:647-658;Adamsら,1985,Nature 318:533-538;Alexanderら,1987,Mol.Cell.Biol. 7:1436-1444);肝臓において活性であるアルブミン遺伝子調節領域(Pinkertら,1987,Genes and Devel. 1:268-276);肝臓において活性であるα−フェトプロテイン遺伝子調節領域(Krumlaufら,1985,Mol.Cell.Biol. 5:1639-1648;Hammerら,1987,Science 235:53-58);肝臓において活性であるα-1-アンチトリプシン遺伝子調節領域(Kelseyら,1987,Genes and Devel. 1:161-171);骨髄性細胞において活性であるβ−グロビン遺伝子調節領域(Magramら,1985,Nature 315:338-340;Kolliasら,1986,Cell 46:89-94);脳のオリゴデントロサイト細胞において活性であるミエリン塩基性タンパク質遺伝子調節領域(Readheadら,1987,Cell 48:703-712);骨格筋において活性であるミオシン軽鎖−2遺伝子調節領域(Shani,1985,Nature 314:283-286);および視床下部において活性である性腺刺激ホルモン放出ホルモン遺伝子調節領域(Masonら,1986,Science 234:1372-1378)が挙げられる。哺乳類細胞において増殖するウイルスのゲノムから単離されたプロモーター(例えば、ワクシニアウイルス7.5K、SV40、HSV、アデノウイルスMLP、MMTV、LTRおよびCMVプロモーター)ならびに組換えDNAまたは合成技術によって産生させたプロモーターが使用され得る。
【0164】
いくつかの場合には、プロモーターエレメントは構成または誘導プロモーターであり得るものであり、興味の対象である遺伝子の高レベルの発現または調節された発現を誘導するのに適した条件下で使用することができる。構成プロモーターの調節下における遺伝子の発現は、遺伝子発現を誘発するための特異的な基質の存在を必要とせず、細胞増殖のすべての条件下で発生するであろう。対照的に、誘導プロモーターによって調節される遺伝子の発現は、誘導剤の存在または不存在に対し応答的である。
【0165】
挿入されたタンパク質コード配列の十分な翻訳のためには特定の開始シグナルも必要である。これらのシグナルとしては、ATG開始コドンおよび隣接配列が挙げられる。開始コドンおよび隣接配列を含むコード配列全体が適切な発現ベクターに挿入される場合、追加の翻訳調節シグナルは不要であり得る。しかしながら、コード配列の一部のみが挿入される場合、ATG開始コドンを含む外因性翻訳調節シグナルを付与しなければならない。さらに、開始コドンは、挿入物全体を確実に翻訳するために、タンパク質コード配列のリーディングフレームを有する相(phase)内に存在する必要がある。これらの外因性翻訳調節シグナルおよび開始コドンは、種々の起源(天然、合成の両方)のものであり得る。発現の効率は、転写アテニュエーション配列、エンハンサーエレメントなどを含有せしめることによって高められ得る。
【0166】
興味の対象である治療用タンパク質をコードするDNA配列に加えて、本発明の範囲には、哺乳類修復細胞に輸送され得るか、または該細胞によって発現され得るリボザイムまたはアンチセンスDNA分子の使用が含まれる。かかるリボザイムおよびアンチセンス分子を使用することにより、治癒プロセスを阻害するタンパク質をコードするDNAの転写またはRNAの翻訳を阻害し得るものである。
【0167】
輸送された、または発現したアンチセンスRNA分子は、標的となるmRNAに結合し、タンパク質翻訳を妨げることによってmRNAの翻訳を直接的に阻害するように作用する。輸送された、または発現されたリボザイム(これは、RNAの特異的切断を触媒することが可能な酵素的RNA分子である)を使用することによってもタンパク質翻訳を阻害することが可能である。リボザイム作用の機構には、リボザイム分子が相補的標的RNAに配列特異的にハイブリダイゼーションした後、エンドヌクレアーゼによって切断されることが関与する。本発明の範囲には、RNA配列のエンドヌクレアーゼによる切断を特異的且つ効率的に触媒する、操作を加えたハンマーヘッドモチーフ(hammerhead motif)リボザイム分子が含まれる。RNA分子は、RNA分子をコードするDNA配列の転写によって産生され得る。
【0168】
また、本発明の範囲においては、l個以上のプロモーターの調節下で1個の遺伝子構築物に結合した、または同一または異なる型の別個の構築物として調製された同義遺伝子も使用され得るものである。したがって、種々の遺伝子および遺伝子構築物のほとんど無限の組み合わせが用いられ得る。ある一定の遺伝子組み合わせを設計することにより、またはそのような組み合わせを用いることによリ、治癒に対する細胞刺激および再生において共同効果が得られ得る。そのような組み合わせはすべて本発明の範囲に含まれるものである。実際、多くの共同効果が科学文献に記載されているので、当業者は、共同的な遺伝子組み合わせか、または遺伝子−タンパク質組み合わせでさえ容易に同定することができるであろう。
【0169】
5.5 被覆用具を調製する方法
インプラント、縫合糸、創傷包帯などの医療用具は、当技術分野で周知の通常のコーティング技術を用いて本発明のコーティング組成物で被覆することが可能である。そのような方法としては、例えば、限定するものではないが、コーティング組成物中への用具の浸漬、コーティング組成物による用具のはけ塗り、および/または本発明のエアゾールコーティング組成物による用具の吹き付けが挙げられる。次いで、用具を、室温で、または乾燥炉によって、任意に減圧下にて乾燥する。外科的縫合糸を被覆するための好ましい方法は、実施例に記載されている。
【0170】
いくつかの場合には、本発明のコーティング組成物は被覆される用具に十分に接着しない可能性がある。チタンピンや金属材料から構築されたその他の用具などの整形外科用の移植片の場合、そのような可能性がある。これらの場合においては、まず、用具を、用具と本発明の組成物の両方に対して親和性を有する材料で被覆し、次いで本発明のコーティング組成物で用具をさらに被覆するのが望ましくあり得る。
【0171】
本発明のエアゾールコーティング組成物は、スプレーまたは泡の状態で調合され得るものであり(英国特許第1,372,721号)、塗布部位上に泡(米国特許第5,378,451号)またはゲル(米国特許第4,534,958号)を形成し得るものである。コーティングの密度は、送達される薬剤の用量に依存して、数マイクロメートル〜ミリメートルの範囲で変動し得るものである。
【0172】
コーティング組成物をエアゾールの状態で塗布することは、移植直前に外科的インプラントに即座の(on-the-spot)スプレーをしたり、包帯を巻く直前に包帯に即座にスプレーしたりすることなど、医療用具を使用する直前にその用具を被覆するのに特に有用である。これにより、過度の取扱いによって被膜がとれる可能性が低減するであろう。
【0173】
用具は、薬学的に有効な量の薬剤を含むポリマーマトリックスで被覆されることが重要であり、そしてその被膜は比較的連続的で均一であることが重要である。薬学的に有効で均一な被膜を得るために、用具を、数回、典型的にはコーティング組成物によるそれぞれの塗布の間で乾燥を行いながら被覆してもよい。したがって、例えば、用具をコーティング組成物中に数回浸漬してもよく、またはコーティング組成物で数回スプレーしてもよい。コーティングプロセスは、薬学的に有効な被膜で用具を被覆することが要求される場合、何回でも繰り返すことが可能である。
【0174】
被覆の回数は、1回の被覆から100回以上の被覆まで変動し得るものである。典型的には、被覆の回数は約5〜50の範囲であり、好ましくは約20〜30の範囲である。各被覆の後、次の被覆を行う前に用具を約1〜30分間、好ましくは約5〜10分間空気乾燥させる。
【0175】
十分な回数の被覆を行った後、実質的な量の有機溶媒を蒸発させるのに十分な期間被覆された用具を空気乾燥する。典型的には、用具は約12〜48時間、好ましくは約16〜24時間空気乾燥されるであろう。一方、用具は、減圧下で、例えば約10〜400mmHg、好ましくは約50〜100mmHgで乾燥される。
【0176】
プラスミドDNAを含むポリマーマトリックスで被覆された縫合糸については、合計約0.01〜10mgのプラスミドDNA、好ましくは約1〜5mgのプラスミドDNAを含むコーティング組成物を、70cmの長さの縫合糸に約5〜100回、好ましくは約5〜50回、より好ましくは約15〜30回被覆することにより、治療上有効で均一な被膜が得られるということがわかった。
【0177】
本発明の好ましい実施態様においては、医療用具はマイクロ球(microspheres)および/またはナノ球(nanospheres)の状態のポリマーマトリックスで被覆される。そのように被覆された用具は、その被覆された医療用具を取り囲んでいる局所領域にマイクロ球および/またはナノ球を放出することによって、薬剤の細胞内ならびに細胞外局所送達に特に適している。
【0178】
マイクロ球および/またはナノ球から構成される被膜は、本発明のエマルジョンコーティング組成物か懸濁コーティング組成物のいずれかを用いて得ることができる。理論に縛られるつもりはないが、マイクロ球および/またはナノ球の調製に適した乳状エマルジョンを医療用具に塗布することは、平滑なポリマーシースの形成よりもむしろマイクロメートルおよび/またはナノメートルサイズの粒子を含むポリマーマトリックス被膜の形成に好都合であり得ると考えられる。
【0179】
マイクロ球および/またはナノ球から構成されるポリマーマトリックス被膜の形成は、いくつかの様式で促進され得る。例えば、かかるポリマーマトリックスは、用具を被覆する前に、本発明のエマルジョンコーティング組成物中でマイクロ球および/またはナノ球の「核を形成させる(nucleating)」ことによって促進され得る。用具を被覆した後、残留している溶媒を蒸発させて薬剤を含むマイクロ球および/またはナノ球の被膜を用具上に付着させる。
【0180】
マイクロ球および/またはナノ球の核は、コーティング組成物の成分がマイクロ球および/またはナノ球生成に対して「臨界濃度」であるコーティング組成物を調製することによって形成され得る。そのような臨界濃度は、以前に記載されたようにしてエマルジョンコーティング組成物を調製し、用具を被覆する前に攪拌しながらエマルジョン溶媒を一部蒸発させることによって得ることができる。一般的に、用具を被覆する前にコーティング組成物の約5〜60容量%を蒸発させることによって、医療用具に塗布した場合にマイクロ球および/またはナノ球を生成させるのに都合がよい組成物が得られる。好ましくは、組成物の約15〜50容量%を用具を被覆する前に蒸発させる。
【0181】
マイクロ球および/またはナノ球から構成されるポリマーマトリックス被膜の形成は、まず、被覆される用具に乳化剤特性を与えることによっても促進され得る。というのは、かかる特性は、マイクロ球および/またはナノ球形成を高めると考えられるからである。まず、長鎖脂肪酸を用いて誘導体化されたポリウレタン(PittおよびCooper,1988,J.Biomed.Res.:359-382)または当業者に周知のその他の脂肪酸誘導体化ポリマーのような乳化剤特性を有するポリマーで用具を被覆することによって、用具に乳化剤特性を付与することができる。用具を被覆するのに適した脂肪酸誘導体化ポリマーを含む組成物は、本明細書に記載された方法によって、または当技術分野で公知の方法によって調製することができる。次いで、用具を、本明細書に記載したようにして本発明のコーティング組成物で被覆する。
【0182】
また、まず、乳化剤を含むポリマーマトリックスで用具を被覆し、次いで本発明のコーティング組成物で用具を被覆することによって用具に乳化剤特性を付与することができる。用具を乳化剤で被覆するのに適した組成物は、本明細書に記載した方法によって、一般的に薬剤を含有せしめることなく調製することができる。この場合、乳化剤は、典型的には、組成物中に約1%〜10%(w/v)、好ましくは約1%〜5%(w/v)の量で含まれる。
【0183】
別の実施態様においては、医療用具は、本発明のコーティング懸濁液を用いることによって、マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアから構成されるポリマーマトリックスでコーティングされ得る。用具をコーティングするために、以前に記載されたようにして調製した予備形成させたマイクロスフィアおよび/またはナノスフィアを含むコーティング懸濁液を用いて医療用具をコーティングする。用具に塗布したら、溶媒を蒸発させて用具の表面上にマイクロスフィアおよび/またはナノスフィアを付着させる。用具は、以前に記載されたように、多数回塗布によりコーティングされ得る。スフィアの用具への接着は、以前に記載されたような生物接着物質(bioadhesives)を使用することにより改良され得る。
【0184】
マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアは、アフィニティクロマトグラフィーの分野で通常使用されている化学現象を用いることによって用具に共有結合させてもよい(例えば、BioRad Laboratories,リッチモンド,カリフォルニア州およびPharmacia BioTech,Uppsala,スウェーデンの製品カタログおよびそこに引用された参考文献を参照されたい)。マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアを用具に共有結合させるのに適した反応性官能基としては、例えば、限定するものではないが、アルデヒド、アミン、アミド、無水物、カルボン酸、エポキシド、ヒドラジド、ヒドロキシル、チオールなどが挙げられる。
【0185】
共有結合させるために、スフィアおよび医療用具は、その表面にフリーの反応性官能基を有するように「活性化」される。スフィアおよび医療用具は、医療用具が適当な条件下でスフィアと接触した場合に共有結合が形成されるような相補的な反応性基を有する。そのような相補的な反応性基としては、例えば、限定するものではないが、エポキシドおよび、ヒドロキシル、アミノ、スルフヒドリル、カルボキシル、無水物およびフェノール基;カルボン酸および、ヒドロキシルまたはアミン基;ならびに合成化学の当業者には容易に明らかになるであろうその他のものが挙げられる。好ましくは、相補的官能基は、比較的穏やかな条件下で共有結合を形成するように反応させる。
【0186】
一般的には、活性化されたマイクロスフィアおよび/またはナノスフィアは、フリーの反応性官能基を有する生物適合性で生分解性のポリマーから構成されるか、あるいは、マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアを用具に共有結合させるのに十分な量のフリーの反応性官能基を有するポリマーもしくはリンカーが活性化されたマイクロスフィアおよび/またはナノスフィアに含まれているか、結合している。
【0187】
フリーの反応性官能基を有する適当なポリマーは、当技術分野で公知であり、例えば、限定するものではないが、PLGA、ポリアクリル酸、ポリ(アクリル酸ナトリウム)、ポリアルキルアクリル酸、ポリ(アルキルアクリル酸ナトリウム)、ポリ(アルキレンオキシド)、ポリスチレンスルホン酸、ポリスチレンカルボン酸など(これらはPolymer Source社、Dorval,ケベック(Quebec),カナダから入手可能である)が挙げられる。フリーの反応性官能基を有する適当なリンカーは、アフィニティクロマトグラフィーの分野、ならびにその他の分野で周知である。
【0188】
典型的には、スフィアに含ませるか、結合させる場合、マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアの制御放出特性に影響を及ぼさない量のリンカーまたはポリマーが好ましい。一般的には、マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアは、フリーの反応性官能基を有するポリマーまたはリンカーを、約0.1%〜10%(w/w)、好ましくは約1%〜5%(w/w)含有する。
【0189】
一つの実施態様においては、マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアは、医療用具に共有結合するのに適した量のヒドロキシ末端またはエポキシド末端ポリ(ε−カプロラクトン)−ポリエーテル多ブロック(multiblock)コポリマーから構成されるか、または該コポリマーを含んでいる(1995年2月16日に出願された共同係属中の米国特許出願第08/389,893号、特にその76〜96ページに記載されている。その開示は参照として本明細書に取り込まれるものである)。ヒドロキシ末端またはエポキシド末端ポリ(ε−カプロラクトン)−ポリエーテル多ブロックコポリマーは、親水性部分(それらはポリ(エチレングリコール)などの親水性ポリエーテルであり得る)および疎水性ポリ(ε−カプロラクトン)(「PCL」)部分から構成される。
【0190】
疎水性PCL部分および親水性部分を含むブロックコポリマーは、図6で説明しているように、ヒドロキシル末端基およびエポキシド基との多重反応によって合成され得る。図6に例示した反応スキームを用いることにより、コポリマーブロックをABA−、BAB−ならびに(AB)n−型ブロックコポリマーに化学的に連結することができ、よってブロックコポリマーの疎水度およびMWを望みどおりに調整することができる。
【0191】
図6に言及すると、化合物30はポリカプロラクトンジオール(「PCL−ジオール」)である。市販されている中でMWが最も大きいPCL−ジオールは、MWが3000のものであり、これは、薬剤の持続的放出のためにコポリマーにおける主部分として作用するには十分な大きさではない。意図する使用温度で固体であるMWがより大きいPCL−ジオールを得るためには、PCL−ジオール(化合物30)を、DENACOL EX252TM(Nagasi Chemicals、大阪、日本)という商標名で販売されている二官能価エポキシドなどの多官能価エポキシド化合物(化合物31)と反応させる。過剰のPCL−ジオールを用いることにより(モル比約2.5:1)、末端基としてPCL−ジオールを有するポリマー鎖が得られる。モル比を逆にすると、エポキシド末端基を有するポリマーが得られる。この反応の結果、発泡PCL−ジオールが得られ、これは、図6の場合には、構造HO−PCL−EX252−PCL−OH(化合物33)を有する。
【0192】
本明細書に記載されたブロックコポリマーを調製するのに適したエポキシド化合物としては、エポキシドモノマー、ポリエポキシド化合物およびエポキシド樹脂が挙げられる。二官能価または多官能価エポキシド化合物としては、例えば、限定するものではないが、1,2-エポキシド(例えば、エチレンオキシド、1,2-プロピレンオキシドなど)、アルキルジオールジグリシジルエーテル(例えば、ブタンジオールジグリシジルエーテル、Aldrich Chemicals,セントルイス,ミズーリ州)、エリスリトール無水物、DENACOL(Nagasi Chemicals,大阪,日本)という商標名で販売されている多官能価ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、エピクロロヒドリン(Aldrich Chemicals,セントルイス,ミズーリ州)、酵素誘導エポキシド(Sigma Chemical社,セントルイス,ミズーリ州)および光重合エポキシド(Pierce,ロックフォード,イリノイ州)が挙げられる。
【0193】
発泡PCL−ジオール33を過剰の多官能価エポキシド31と反応させることにより、発泡PCL−ジオール33の末端をエポキシド基でキャップすることができ、エポキシドキャップ化合物34が得られる。図6に言及すると、二官能価エポキシド31の2個のエポキシド基の一つをPCL−ジオール化合物33のヒドロキシル末端と反応させ、他方のエポキシド基はフリーのままにしておいて、PCL−ジオールの両末端をエポキシド基でキャップすることにより、エポキシドキャップポリマー、EX252−PCL−EX252−PCL−EX252(化合物34)が得られる。
【0194】
化合物34(ブロックA)を過剰のポリエーテルジオール35(ブロックB)と反応させる。図6に例示した実施態様においては、ポリエーテルジオール35はポリエチレングリコール(PEG;MW 4500)である。得られるコポリマーは、エポキシドに連結され、両末端がヒドロキシル基で終結したBAB−型のトリブロックコポリマ−36である。ABA−型トリブロックコポリマーは、過剰のブロックAを用いることにより生成させることができる。高次(higher order)多ブロックポリマーは、図6の一般的な反応スキームにおいては、反応物(化合物33に類似)としてABA−またはBAB−型トリブロックコポリマーを用いることにより製造され得る。当業者は、本明細書に記載された技術を用いることにより、非常に多くのヒドロキシ−および/またはエポキシド−末端ブロックポリマーを案出することができる。
【0195】
もちろん、その他の疎水性ポリマー、例えば、ポリラクチド、ポリグリコリド、PLGA、多価無水物、ポリアミノ酸および生分解性ポリウレタンなどをブロックAに使用してもよい。多ブロックコポリマーに適したその他の親水性ポリマーとしては、PLURONIC F-68TMおよびPLURONIC F-127TMという商標名(BASFの登録商標;Sigma Chemical社,セントルイス,ミズーリ州から入手可能)で販売されているエチレンオキシドおよびプロピレンオキシドのブロックコポリマーなどのポラキソマー(polaxomers)、ならびにポリ(プロピレンオキシド)(「PPO」)などのポリ(アルキレンオキシド)が挙げられる。
【0196】
ブロックAおよびBのポリマーを選択する際、当業者は、特定の用途のために親水性分子および疎水性分子の最適なバランスを選択するであろう。より親水性の高いポリマーは、薬剤放出特性がより速いであろうし、またその逆も成り立つ。放出速度論に影響を及ぼすその他の物理的特性は、以前に記載されたとおりである。当業者は、過度の実験を行うことなく特定の用途に適した所望の特性のバランスを選択することができるであろう。
【0197】
上記のブロックコポリマーのMWは、以前に記載されたようにゲル浸透によって測定した場合、一般的には約30,000〜70,000の範囲である。MWは、好ましくは、約90,000〜100,000である。好ましいブロックコポリマーを調製する方法は、実施例に記載されている。
【0198】
上記の多ブロックコポリマーによって医療用具に共有結合させるためのマイクロスフィアおよび/またはナノスフィアを形成させることの有意な利点は、それらが乳化剤の助けなしでスフィアを形成することができるということである。理論に縛られるつもりはないが、疎水性ブロックおよび親水性ブロックを含むコポリマーが水相に添加される場合、親水性ブロックは水相の方向を向き、疎水性ブロックはエマルション液滴の中心方向を向くであろうと考えられる。したがって、親水性表面を有する疎水性部分からなるマイクロスフィアおよび/またはナノスフィアコアが形成される。例えば、PEGなどの外面の親水性部分は、非常に良好な乳化剤であり、エマルションの生成を助けるであろう。さらに、PEG親水性部分はエマルションを安定化させ、エマルション液滴の凝集を妨げると考えられる。
【0199】
別の実施態様においては、マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアは、多官能価エポキシド化合物をスフィアの表面に共有結合させることによって反応性エポキシド基で活性化される。スフィアは、本明細書に記載した方法、または以前に記載されたような通常の手段を用いることにより調製される。スフィアは、PLGA、または以前に記載されたような、例えば上記のヒドロキシ末端ポリ(ε−カプロラクトン)−ポリエーテル多ブロックコポリマーなどのエポキシドと共有結合を形成することが可能なフリーの官能基を有する生物適合性で生分解性のあらゆるポリマーから構成される。
【0200】
マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアを、多官能価エポキシドと、エポキシド化合物と、該スフィアを含む生物適合性で生分解性のポリマー上のフリーの反応性官能基の間に共有結合を形成させ得る条件下で接触させる。好ましくは、反応は、比較的穏やかな条件で行う。
【0201】
例えば、反応は、触媒を使用することにより穏やかな条件で行い得る。適当な触媒としては、限定するものではないが、テトラフルオロホウ酸亜鉛、第三級アミン、グアニジン、イミダゾール、三フッ化ホウ素付加物(例えば、三フッ化ホウ素−モノエチルアミン)、ビスホスホネート、微量金属(例えば、亜鉛、スズ、マグネシウム、アルミニウムなど)およびアンモニウム錯体(例えば、PhNH3+AsF6-)が挙げられる。
【0202】
一方、反応は、適切な触媒の存在下にてUV光線によって開始することができる。適当な触媒としては、限定するものではないが、四塩化チタン、フェロセン(ジシクロペンタジエニル鉄)、ジルコノセンクロリド、四臭化炭素およびヨードホルムが挙げられる。
【0203】
もちろん、使用される実際の反応条件は、生物適合性で生分解性のポリマー上のフリーの反応性官能基、ならびにマイクロスフィアおよび/またはナノスフィアに含まれる薬剤に依存し得る。適当な反応条件は、有機化学の分野では周知であり(例えば、Streitwieser & Heathcock,Introduction to Organic Chemistry,Macmillan Publishing社,ニューヨーク,最新版;Smith,1994,Organic Synthesis,McGraw-Hill社を参照されたい)、当業者には容易に明らかになるであろう。
【0204】
エポキシド活性化マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアを調製するのに有用なエポキシド化合物は上記のとおりである。
【0205】
医療用具への共有結合に適したエポキシド活性化マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアを調製するための好ましい方法は、実施例に記載されている。
【0206】
次いで、エポキシド活性化マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアを、活性化医療用具と、スフィア上のエポキシド基と活性化医療用具上のフリーの反応性基との間に共有結合を形成させ得る条件下、例えば以前に記載されたような条件下で接触させる。
【0207】
医療用具は、用具を化学的に処理して用具の表面をフリーの反応性官能基で誘導体化することによって、フリーの反応性官能基を有するように活性化され得る。化学的処理方法は、用具の組成に依存し、当業者には容易に明らかになるであろう。
【0208】
用具を反応性基で誘導体化するのが困難である場合には、活性化マイクロスフィアおよび/またはナノスフィア上の官能基と相補的なフリーの反応性官能基を有するポリマーまたはリンカーを含むコーティング組成物で用具をコーティングすることによって該用具を活性化することができる。次いで、用具を、活性化マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアと、活性化スフィア上の反応性基が用具上の反応性基と反応して共有結合を形成するような条件下で接触させる。以前に記載されたようにして、過剰の試薬を除去するためにコーティングされた用具をすすいで、乾燥することができる。用具は、以前に記載されたように、多数回コーティングされ得るものである。
【0209】
5.6 医療用具
本発明の組成物および方法を用いることにより実質的にあらゆる医療用具をコーティングすることができる。コーティングされた用具によって、広範な種類の薬剤を局所投与するための都合のよい手段が提供される。例えば、本発明の組成物を使用することにより、包帯および創傷包帯;縫合糸(分解性および非分解性);支持棒インプラント(supporting rod implant)、関節補てつ物、骨折を安定させるためのピン、骨セメントおよびセラミックス、ならびに腱再建および補てつインプラントのような整形外科的補てつ物;心臓代用弁、ペースメーカー部材、除細動器部材、人工血管(angioplasty device)、血管内ステント、短期間(acute)および留置カテーテル、動脈管閉鎖用具(ductal arteiosus closure device)、ならびに心房および心室中隔欠損閉鎖用具などの心臓カテーテルによって送達可能なインプラントのような心臓血管インプラント;尿カテーテルなどの泌尿器科学的インプラント;神経外科的シャントなどの神経学的インプラント;レンズ補てつ物、細い眼用縫合糸(thin ophthalmic suture)および角膜インプラントのような眼科学的インプラント;歯科補てつ物;包帯、ヘルニア修復メッシュなどの内部および外部創傷包帯;ならびに当業者に容易に明らかになるようなその他の用具およびインプラントをコーティングすることができる。
【0210】
特に好ましい実施態様においては、本発明は、コーティングされた縫合糸、特にin vivoで創傷治癒を刺激する核酸を含むポリマーマトリックスでコーティングされた縫合糸を提供する。本発明の方法および組成物によってコーティングされ得る縫合糸としては、天然または合成起源のあらゆる縫合糸が挙げられる。典型的な縫合糸材料としては、例えば、限定するものではないが、絹;綿;リネン;ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル;ヒドロキシカルボン酸エステルのホモポリマーおよびコポリマー;コラーゲン(プレーン(plain)またはクロム処理されたもの(chromicized));カットグット(プレーンまたはクロム処理されたもの);ならびにシアノアクリレートなどの縫合糸代替物が挙げられる。縫合糸は、編組(braid)またはひねりなどのあらゆる都合のよい形状を取り得るものであり、当技術分野で通常使用されているような広範なサイズを有し得る。
【0211】
コーティングされた縫合糸、特に創傷治癒を刺激する核酸を含むポリマーマトリックスでコーティングされた縫合糸の利点により、ヒトおよび動物において縫合糸を使用する実質的にすべての分野がカバーされる。
【0212】
(実施例)
6. 実施例:マーカーDNAでコーティングされた縫合糸の調製および使用
本発明のコーティング組成物および方法の実施可能性を示すために、外科的縫糸をマーカープラスミドDNA(これはヒト胎盤アルカリホスファターゼをコードする)でコーティングし、ラット筋肉組織の縫合に使用した。この実験は、コーティングされた縫合糸で修復された組織においてDNAの移転および発現が成功したことを示すものである。
【0213】
6.1 DNA−PLGAコーティング組成物の調製
1.5mlのPLGA/クロロホルム溶液(3%(w/v)、50/50ポリ乳酸ポリグリコール酸PLGAコポリマー、平均MW:90,000、インヘレント粘度1.07)に、ヒト胎盤アルカリホスファターゼをコードするマーカープラスミドDNAを含む溶液(1mg DNA、0.5mMトリス−EDTA、0.5mM EDTA、pH7.3)0.2mlを添加した。溶液を2分間攪拌した後、マイクロチッププローブ型音波処理機を用いて55ワット出力で約0℃にて30秒間音波処理することにより乳化した。この方法により、かなり乳状に見えるエマルションが得られた。
【0214】
6.2 外科的縫合糸のコーティング
22ゲージ針を用いて1枚のテフロンコーティング箔(Norton Performance Plastic社,アクロン,オハイオ州)に穴をあけた。その穴にDNA−PLGAエマルションを1滴(約60μl)滴下した。長さ70cmの3−0クローミック縫合糸(Ethicon)を穴に通して縫合糸をコーティングした。縫合糸を穴に通すと、縫合糸はコーティング組成物の薄くて(約30μm)均一な被膜でコーティングされた。縫合糸を約3分間空気乾燥した。そのコーティングプロセスを15回繰り返した。それぞれ被膜を空気乾燥させながら行った。
【0215】
コーティングされた縫合糸を電子顕微鏡(150×)で調べた。図2A〜2Cに言及すると、図2Aはコーティングされていない縫合糸を示すものであり;図2Bは上記の方法によりコーティング縫合糸を示すものであり;そして図2Cはラット骨格筋を約25〜30回通過させたコーティング縫合糸を示すものである。図2C中の黒い点は、組織を通過させた後に縫合糸に接着した赤血球であり;図2Cの黒い点は血っぺいである。図2A〜2Cにおいて明らかなように、縫合糸はDNA−PLGAの均一な被膜でコーティングされた。さらに、縫合糸を組織に多数回通した後でさえ、被膜は無傷のままであった。
【0216】
6.3 コーティング縫合糸による骨格筋の修復
上記で調製した縫合糸を、公認のプロトコールおよび標準方法を用いて成体雄Sprague-Dawleyラットの骨格筋組織に縫い込んだ。縫合糸は良好な固定用具特性(tie-down property)を示した。1週間後に、骨格筋を採取し、液体窒素中でスナップ(snap)凍結して粉末状に粉砕した。粉末を200μLの細胞溶解緩衝液中でインキュベートし、凍結−解凍サイクルを3回行って透明にした。透明な液体を、65℃でインキュベートした後、市販の試薬およびプロトコール(Phospha-LiteTMChemiluminescent Reporter Assay for Secreted Alkaline Phosphatase,Tropix,ベッドフォード(Bedford),マサチューセッツ州)を用いて熱安定性アルカリホスファターゼ活性についてアッセイした。対照群は、コーティングされてない縫合糸を与えた動物からなる。データを図1に示す。
【0217】
6.3.1 結果
図1に示したように、コーティング縫合糸を縫い込み、1週間後に回収したラット骨格筋は、熱安定性アルカリホスファターゼ活性を示しており、よってマーカーアルカリホスファターゼ遺伝子が筋肉組織で発現しているということが示された。対照の回収物は有意なアルカリホスファターゼ活性を示さなかった。これらのデータは、エマルションを使用することにより縫合糸を効率的にコーティングすることができ、in vivoで遺伝子を増殖性修復細胞に送達することができるということを証明するものである。
【0218】
7. 実施例:コーティングねじおよびセラミック粒子の調製
本発明のコーティング組成物によって種々のステンレス鋼ねじをコーティングすることが可能であることを示すために、チタンねじおよびヒドロキシアパタイト−リン酸三カルシウム(「HTP」)セラミック粒子を上記の実施例で記載したDNA−ポリマーエマルションでコーティングした。
【0219】
図3A〜3Bは、コーティング前(図3A)およびコーティング後(図3B)のステンレス鋼ねじの走査電子顕微鏡写真を示すものである(炭素スパッタリングによる)。ねじの溝は、コーティングの前後ではっきりと異なるコントラストを有しており、このことによってDNA−ポリマーエマルションが均一なポリマー被膜で溝を覆っていることが証明された。コーティングされていないねじにおいて目視できる一般的な表面の欠損は、DNA−ポリマー被膜によってふさがれた。
【0220】
図4A〜4Bは、コーティング前(図4A)およびコーティング後(図4B)の標準整形外科的チタンねじの走査電子顕微鏡写真を示すものである。コーティングされていないねじ(図4A)と相対的に黒いコーティングねじ(図4B)の電子密度の対比から、表面のコーティングは非常に明らかである。これらの結果は、均一な被膜が得られたということを示すものである。
【0221】
図5A〜図5Bは、コーティングされていないHTPセラミック粒子(図5A)とコーティングHTPセラミック粒子(図5B)の走査電子顕微鏡写真である。高度に反射性のコーティングされていない粒子と比べて、コーティング粒子は明るさが小さく、ポリマー被膜で密に覆われているように見える。DNA−ポリマー被膜は、粒状のホルメート(formate)を残留させる一方、粒子をDNA放出性ポリマーマトリックスで均一に覆っている。
【0222】
8. 実施例:マーカーDNAを含むマイクロスフィアおよび/またはナノスフィアでコーティングされた縫合糸の調製
本実施例は、医療用具に共有結合させるのに適したエポキシド活性化マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアの好ましい調製方法、ならびに外科的縫合糸に活性化スフィアを共有結合させる方法を示すものである。
【0223】
8.1 DNA−PLGAマイクロスフィアおよび/またはナノスフィアの調製
DNAポリマー組成物を実施例6.1に記載したようにして調製する。DNAポリマーエマルションをポリビニルアルコールの水溶液(2.5%w/w、15mL、平均MW30,000〜70,000のPVA)とともに65ワット、0℃にて10分間音波処理することによってさらに乳化してW/O/Wエマルションを得る。
【0224】
W/O/Wエマルションを磁気攪拌棒を用いて室温で18時間攪拌して有機溶媒を蒸発させる。スフィアを超遠心分離によって回収し、水で3回洗浄し、30秒間音波処理することによって水に再懸濁し、得られた懸濁液を凍結乾燥する。
【0225】
8.2 エポキシド活性化スフィアの調製
凍結乾燥スフィア(8mg)をホウ酸塩緩衝液(1mL、50mM、pH5)に3分間音波処理することによって懸濁する。テトラフルオロホウ酸亜鉛水和物(2.4mg)を懸濁液に添加する。多官能価エポキシド、DENACOL EX520TM(Nagasi Chemicals,大阪,日本)を0.4mLのホウ酸塩緩衝液(50mM、pH5)に溶解し、そのエポキシド溶液を室温(37℃)で攪拌しながら懸濁液に添加する。30分後、スフィアを超遠心分離によって回収し、水で3回洗浄して未反応エポキシドを除去し、凍結乾燥する。
【0226】
8.3 外科的縫合糸のコーティング
ある長さの外科的縫合糸を、PLGAポリマーで、実施例6に記載した方法を用いてコーティングする。エポキシド活性化スフィア(200mg)をホウ酸塩緩衝液(1mL、50mM、pH5)に30秒間音波処理することによって懸濁する。テトラフルオロホウ酸亜鉛水和物(2.4mg)を懸濁液に添加する。PLGA−コーティング縫合糸を、実施例6.2の方法を用いて、または懸濁液中に縫合糸を浸漬することによって懸濁液でコーティングする。30分後、室温(37℃)にて縫合糸を水で洗浄し乾燥する。このコーティングプロセスは実施例6.2に記載したようにして繰り返すことができる。
【0227】
8.4 コーティング縫合糸による骨格節の修復
マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアコーティング縫合糸を用いて実施例6.3に記載されたようにしてラット骨格筋を修復することができる。マーカーDNAが増殖性修復細胞に取り込まれて発現すると予想される。
【0228】
9. 実施例:多ブロックコポリマーの調製
本実施例は、好ましいヒドロキシ−またはエポキシド−末端多ブロックコポリマーの調製方法を示すものである。
【0229】
9.1 発泡PCL−ジオール(化合物33)の調製
PCL−ジオール(1.5g、0.5mmol、MW 3000、Polyscience社,ワーリントン(Warrington),ペンシルベニア州)を、DENACOL EX252TM(0.21g、0.55mmol、Nagasi Chemicals,大阪,日本)と、15mL THF中、Zn(BF4)2触媒(エポキシド化合物に対して2重量%)の存在下で、攪拌しながら37℃にて28時間反応させた。非発泡PCL−ジオールから発泡PCL−ジオールを分離するために、グラジエント沈殿をヘプタンを用いて行って、沈殿した高MWの発泡PCL−ジオールを遠心分離によって集めた。生成物HO−PCL−EX252−PCL−OHを5mLのヘプタンで洗浄して未反応のエポキシド化合物を除去し、乾燥した。
【0230】
9.2 化合物34の調製
化合物33(0.75g)を過剰のDENACOL EX252TM(0.42g、化合物33とDENACOL EX252TMのモル比は1:4)と、10mLのTHF中、Zn(BF4)2触媒の存在下で、攪拌しながら37℃にて5時間反応させた。EX252−PCL−EX252−PCL−EX252ポリマー生成物を30mLのヘプタンを用いて沈殿させ、2mLのヘプタンで洗浄して未反応のエポキシド化合物を除去し、乾燥した。
【0231】
9.3 化合物36の調製
化合物34(1g)を、過剰のポリエチレングリコール(PEG)(平均MW 4500;化合物34とPEGのモル比は1:3)および20mgのZn(BF4)2触媒を加えた15mLのTHF中に溶解した。振盪テーブル上において、37℃で48時間反応させた。化合物36をヘプタンを用いて沈殿させ、遠心分離によって集めて50mLの水で2回洗浄し、乾燥した。
【0232】
9.4 その他のABA−型トリブロックコポリマーの調製
さらにABA−型およびBAB−型トリブロックコポリマーを、ブロックAとして下記のポリエーテル:PEG(平均MW 4500);ポラキソマーPLURONIC F-68TM(F−68)およびPLURONIC F-127TM(F−127);ならびにポリ(プロピレンオキシド)(PPO)を用いて上記の一般的な方法を用いて調製した。種々のポリエーテルを、PCL−ジオールを有するABA−型およびBAB−型トリブロックコポリマーに含有せしめることにより種々の親水度および機械特性を有するポリマーを得た。PLURONICTMは、疎水性ブロックとしてPPOを、親水性ブロックとしてポリ(エチレンオキシド)(PEO)を有するジブロックコポリマーである。PF−127はMWが約12,600であり、70%のPPOと30%のPEOからなる。F−68はMWが約6,000であり、80%のPPOと20%のPEOからなり、よってF−127よりも親水度が低い。PEGはそのグループの中で最も親水度の高いポリエーテルである。
【0233】
調製した種々のブロックコポリマーとそのそれぞれの物理特性を下記の表1に示す。
【0234】
【表1】
【0235】
表1に言及すると、薬剤の持続的放出という観点から最も有用なポリマーは、PCLおよびPEGまたはF−68からなるコポリマーである。高レベルのPPOを含むものなどの結晶化しないポリマーは、機械強度が低く、粘着性である。PCLおよびF−127を含むポリマーなどの大きい親水性部分を有するポリマーは、水相から分離するのが困難であり、水または体液と接触させた場合に固体形状を維持しないであろう。
【0236】
好ましいコポリマーは、体温で固体であり、体液の存在下でゆっくりと生体に適合し、ゆっくりと生分解される。
【0237】
例示した実施態様は本発明の一つの局面を説明するものであり、本発明は、その例示した実施態様によって範囲を限定されるものではない。実際、当業者には、本明細書に記載されたものに加えて、上記の説明および添付の図面から本発明の種々の変更修正が明らかになるであろう。そのような変更修正は、特許請求の範囲に含まれるものである。
【0238】
本明細書中で引用したすべての特許および刊行物は、全目的のために本明細書に取り込まれるものである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤を含むポリマーマトリックスで医療用具をコーティングするための組成物、医療用具をコーティングする方法、及びそれによりコーティングされた医療用具に関する。コーティングされた用具は、創傷あるいは疾患の治療のための医療処置の部位を標的とした薬剤の局所的送達に有用である。
【背景技術】
【0002】
医療用具、特に外科的インプラント、縫合糸、及び外傷用包帯等を薬剤でコーティングすることが望まれていることは当分野において十分に論じられている。そのようなコーティングされた用具は、理論的には、種々の疾患を治療するための医療処置の部位に薬剤あるいは治療薬を局所的に送達する手段を提供できる。例えば、抗生物質でコーティングされた外科的インプラントあるいは縫合糸は、インプラントあるいは縫合糸の部位に直接抗生物質の局所的送達をもたらし、これにより外科処置後の感染の発症を減少させることができる。
【0003】
インプラント、特に縫合糸をコーティングする組成物及び方法は当分野で周知である。そのようなコーティングは手術用縫合糸に塗布され、繊維滑沢性、結び目のすべり(snug-down)及び固定(tie-down)性能を改善し、また抗菌剤のような薬剤の局所的送達のために塗布される。例えば、ホモポリマーのポリグリコール酸(例えば米国特許第3,277,033号参照)、及び吸収性ポリマーを形成するその他の種々のモノマーとグリコール酸のコポリマー(例えば米国特許第3,839,297号参照)の広範な応用がある。縫合糸をコーティングするために使用されるその他のポリマーとしては、米国特許第5,378,540号(ポリカプロラクトン)、第5,312,437号(ポリ(オキシプロピレン)グリコール/ラクチド/グリコリドコポリマー)、第5,147,383号(ポリビニルエステル)、第5,123,912号(ポリ(アルキレン)グリコール/ラクチド/グリコリドコポリマー)、第5,102,420号(ポリエーテルアミド)、第5,100,433号(p-ジオキサノン/ε-カプロラクトンコポリマー)、第5,032,638号(ヒドロキシブチレート結合のホモポリマー)、第4,857,602号(グリコリド/ポリ(アルキレンオキシド)/トリメチレンカーボネートのトリブロックポリマー)、第4,844,067号(シュクロース脂肪酸エステル)、第4,711,241号(グリコール酸)、第4,649,920号(ポリアルキレンオキシド)、第4,532,929号(脂肪酸)、第4,433,688号(イソシアネートでキャップされたポリヒドロキシル化ポリエステル)等が挙げられる。
【0004】
これらの生分解性ポリマーコーティングのいくつかのものは縫合糸及びインプラントを薬剤でコーティングするのに理論的には使用でき、生分解性ポリマーコーティングが外科的処置の部位での薬剤の制御された放出を与え得ることが示されている。例えば、米国特許第5,378,540号は、任意に薬剤を含む生分解性ポリラクトンポリマーシースで外科用縫合糸をコーティングするための組成物を記載している。縫合糸はそれをポリマー及び薬剤を含む溶媒中に浸し、乾燥させることによってコーティングされる。
【0005】
しかし、従来技術の縫合糸あるいはインプラントをコーティングする方法は、典型的にはコーティングシースに含めることができる薬剤の種類において制限されていた。一般に薬剤は、縫合糸をコーティングする前にポリマーを溶解するのに使用する溶媒に可溶でなければならないことから、疎水性のものでなければならなかった。
【0006】
水溶性薬剤、特に抗菌剤でインプラントをコーティングするための方法が開発されているが、これらの方法は、複雑で高価な装置を必要としたり、その他の望ましくない制限を受けるために、広範な種類の薬剤、特に核酸により容易にかつ効率的に医療用具をコーティングするためには簡単には採用できなかった。これらの方法は、薬剤の制御されたあるいは持続した放出を示すコーティングを得るのにも適していない。
【0007】
例えば、米国特許5,474,797号は、真空チャンバー中でのイオンビームを利用した析出によりイオン化原子の形態の抗菌剤の0.5〜10μmの厚さの層をインプラント上に析出させることを使用した、インプラントを抗菌剤でドライコーティングする方法を記載している。この方法は、高価な装置を必要とする上に、投与される薬剤が容易にイオン化されるものでなければならないという制限を受ける。
【0008】
さらにこのコーティングされたインプラントは抗菌剤の制御されたあるいは持続する放出を与えることができない。
【0009】
米国特許第4,952,419号は、インプラントの表面にシリコーンオイルの膜を塗布し、その後オイルを塗布された表面を粉末化抗菌剤と接触させることを含む、インプラントを抗菌剤でコーティングする方法を記載している。この方法は比較的簡便であるが、複数の操作を必要とし、抗菌剤の持続した放出を与えることができない。また、この方法は薬剤が粉末形態で利用できることを必要とする。
【0010】
米国特許第4,027,871号は、水溶性抗微生物剤を含浸した縫合糸を記載している。この縫合糸は、抗微生物剤の希釈溶液に浸すことにより含浸される。縫合糸を乾燥させ、縫合糸フィラメントの実質的に全体に分配された抗微生物剤の残留物を残す。次に縫合糸をポリウレタンで仕上げ塗りし、抗微生物剤が縫合糸から脱落することを防止している。容易に判るように、この方法は所望の薬剤を容易に吸収しない用具あるいは所望の薬剤により含浸されない用具をコーティングするのには適していない。さらに、縫合糸はポリウレタンで仕上げ塗りされるので、この方法は外科処置の部位における薬剤の制御された送達には有用ではない。むしろ縫合糸を抗微生物剤で含浸し、その滅菌状態を確保するものである。
【0011】
従って、当分野においては、広範な種類の薬剤、特に親水性の薬剤により容易にかつ効率的に医療用具をコーティングすることを可能とし、さらに医療処置の部位の周辺の局所的領域に薬剤の制御されたあるいは持続した放出を与える組成物及び方法が求められている。
【0012】
また、従来技術のインプラントあるいは縫合糸をコーティングするための方法は、典型的には任意に薬剤を含むポリマーのシースあるいは層を数十ミクロンの厚さでインプラントあるいは縫合糸上に析出させるものである。生分解性ポリマーコーティングが溶解するに従って、薬剤はインプラントを囲む領域に放出され、そこで周囲細胞により取り込まれる。従って、従来技術の組成物及び方法によりコーティングされたインプラント及び縫合糸は、細胞外に薬剤を送達する。
【0013】
薬剤は、細胞外ではなく、あるいはそれに加えて細胞内に送達することが望ましい場合が多い。そのような用途は、例えば、薬剤が細胞膜に容易に浸透し、それを横断することができない場合に有用である。そのような薬剤の例としては、アンチセンスDNA及びRNAのようなオリゴヌクレオチド、リボザイム、遺伝子治療のためのDNA、転写因子、増殖因子結合タンパク質、シグナル伝達受容体等が挙げられる。
【0014】
マイクロスフィア及び/またはナノスフィアが薬剤を細胞内に送達するためのビヒクルとして広く使用されている。一般に、マイクロスフィア及び/またはナノスフィアは、その中に導入された薬剤を有する生分解性ポリマーコアを含む。マイクロスフィアは典型的には球状で、約1〜900μmの平均直径を有する。ナノスフィアは典型的には球状で、1μm未満、通常は約300nm未満の平均直径を有する。
【0015】
マイクロスフィア及び/またはナノスフィア医薬製剤の利点としては、細胞内に入り、細胞内接合部に浸透する能力が挙げられる。マイクロスフィア及び/またはナノスフィアの別の利点は、薬剤の持続したあるいは制御された放出を提供できるその能力である。すなわち、マイクロスフィア及び/またはナノスフィアは、薬剤の細胞内及び細胞外での制御されたあるいは持続した放出の手段を提供するものである。
【0016】
従って、薬剤を含むマイクロスフィア及び/またはナノスフィアで医療用具をコーティングするための方法及び組成物が利用できることは非常に有利である。そのようなコーティングされた用具により、医療処理部位における細胞内及び細胞外の薬剤の局所的な制御されたまたは持続した放出が容易になる。これらの用具は、細胞膜に容易に浸透せず、それを横断できない薬剤を送達するために特に有利である。
【0017】
遺伝子治療は一般的に、アンチセンスDNA及びRNA、リボザイム、ウイルス断片及び機能的に活性な治療用遺伝子等の核酸を標的の細胞に送達するように設計された技術をいうものと理解されている(Culver,1994,Gene Therapy:A Handbook for Physicians,Mary Ann Liebert,Inc.,New York,NY)。そのような核酸は、例えばmRNAの翻訳を阻害するアンチセンスDNAのようにそれ自体治療的なものでもよく、あるいは細胞機能を促進し、ブロックし、あるいは置換する治療用タンパク質をコードするものであってもよい。
【0018】
現在の遺伝子治療のストラテジーに関する最も重大な問題の一つはおそらく、ex vivoあるいはin vivoにかかわらず、標的の細胞集団に核酸を効率的に導入できないこと、及びin vivoで遺伝子産物の発現の高いレベルを達成することができないことである。ウイルスベクターが最も効率的な系であると考えられており、ex vivo及びin vivoの両方において、組換え複製欠陥ウイルスベクターが細胞に形質導入する(すなわち感染させる)のに使用されている。このようなベクターとしては、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター等がある。遺伝子導入では非常に効率的であるが、ウイルスベクターを使用することに伴う主要な欠点としては、多くのウイルスベクターが非分裂細胞に感染できないこと、挿入的な突然変異に関連する問題、少数のトランスフェクト細胞における時間を経るに従って遺伝子発現を「開始」する能力に関連する問題、ヘルパーウイルス生産及び/または有害ウイルスの生産及び別のヒト患者への感染の可能性等がある。
【0019】
殆どの細胞型における外来核酸の取り込み及び発現の低い効率に加え、多くの標的細胞集団が、これらの特異的な細胞型の形質転換の効率をさらに減じるような低い数でしか体内に存在しないことが判っている。従って、核酸を標的細胞に導入する効率を増加させる遺伝子治療法はいずれも遺伝子治療プロトコールの全体的な有用性を大きく高めることになる。
【0020】
最近、創傷治癒過程において活性な増殖中の修復細胞が核酸の取り込み及び発現について驚くほど効率的であることが見出された(1996年4月8日に出願された係属中の代理人文書番号8464-007-999の出願)。この増殖中の修復細胞は、遺伝子治療物を直接手術あるいは移植部位に投与するための効率的な手段を提供し得る。従って、核酸を含むポリマーマトリックスで医療用具をコーティングするための方法及び組成物が利用できることは非常に有利である。そのようなコーティングされた用具は、治療用核酸を創傷あるいは外科処置部位で直接増殖中の修復細胞に効率的に導入する便利な手段を提供する。そしてその増殖する修復細胞は、治療用タンパク質のような治療用遺伝子産物の生産のための局所的な「バイオリアクター」として働く。特に有意義な点は、核酸でコーティングされた縫合糸が利用できることであり、縫合糸は事実上、常に障害組織に包囲されているからである。
【0021】
ある状況下では、上記したように用具が核酸を含むマイクロスフィア及び/またはナノスフィアによりコーティングされていることが有利であり得る。しかし、核酸の創傷組織への導入は、マイクロスフィア及び/またはナノスフィアにより媒介されなければならないということはない。
【0022】
外科的処置の後の創傷治癒及び組織再生の困難性についても当分野で十分に記載されている。さらに、正常及び疾患肝臓組織、糖尿病のようなある種の代謝疾患に罹患する患者の組織、及び癌手術の後の組織のような照射された組織のような多くの壊れやすい組織の種類が縫合糸を保持することが困難であることは周知である。
【0023】
現在利用可能な創傷治癒療法は、治療用タンパク質の投与を使用する。そのような治療用タンパク質としては、全身ホルモン、サイトカイン、増殖因子、及び細胞の増殖及び分化を制御するその他のタンパク質のような、正常な治癒過程に関与する制御因子が挙げられる。そのような創傷治癒能力を有することが報告されている増殖因子、サイトカイン及びホルモンとしては、例えば、タンパク質のトランスフォーミング増殖因子-βスーパーファミリー(TGF-β)(Cox,D.A.,1995,Cell Biology International 19:357-371)、酸性繊維芽細胞増殖因子(FGF)(Slavin,J.,1995,Cell Biology International 19:431-444)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)及び副甲状腺ホルモン(PTH)のようなカルシウム制御物質が挙げられる。
【0024】
いくつかの問題が創傷治癒療法に治療用タンパク質を使用することに関して存在する。例えば、治療用タンパク質の精製及び/または組換え生産は高価であり時間がかかる過程であることが多い。一旦精製された後は、殆どのタンパク質調製物は不安定であり、貯蔵と使用を面倒なものとしている。
【0025】
さらに、タンパク質分解のために体内では半減期が短いことから、十分な量のタンパク質が組織に到達するようにするためにはタンパク質の高い投与量での反復投与が必要である。
【0026】
最後に、膜受容体のような種々のタンパク質については、生物活性は正確な発現と細胞中での存在位置に依存する。多くのタンパク質については、タンパク質として存在する正確な細胞位置は翻訳後に修正される。従ってそのようなタンパク質は、細胞内に取り込まれて適当な場所に局在するような方法で投与することができない。
【0027】
従って、創傷治癒を刺激する核酸によりコーティングされた医療用具、特に外科用縫合糸が利用できることは特に有利である。そのようなコーティングされた用具は、創傷あるいは外科的処置の部位への核酸の制御されたあるいは持続した放出を与える。上記したように、増殖する修復細胞は核酸を取り込んで発現し、それにより局所創傷治癒を刺激する。
【0028】
このコーティングされた用具は、例えば糖尿病を有する患者における手術のような、低下した創傷治癒が問題となる外科的に困難な状況に特に有用である。コーティングされた縫合糸は組織に物理的に近接することを可能にするだけでなく、修復細胞により媒介される核酸導入により縫合線に沿っても創傷治癒が刺激される。具体的には、そのような縫合糸は本質的に「スポット接着」(spot weld)により組織を接着する。そのような縫合糸は、縫合線及びその近傍の領域で正常な機能的組織構造を再構成するのにも有用である。
【0029】
核酸媒介創傷治癒ストラテジーにより、現在の創傷治癒ストラテジーの欠点の多くが克服される。タンパク質とは異なり、核酸、特にDNAは種々の貯蔵条件下で長い時間非常に安定である。さらに、トランスフェクト細胞がバイオリアクターとして働いてコードされたタンパク質を生産するので、少量の核酸の投与でも治療効果が得られる。さらに、コードされたタンパク質は哺乳動物細胞において発現されるので、それらは翻訳後に修飾され、及び/またはスプライスされて活性なタンパク質を生成することができる。
【0030】
上記から明らかなように、広範な種類の薬剤、特に水溶性あるいは親水性の薬剤により容易にかつ効率的にコーティングされた医療用具であって、創傷あるいは疾患の治療のための医療処置の部位でのそのような薬剤の局所的な制御されたあるいは持続する放出を可能とするものを実現できる方法及び/または組成物で利用できるものは現在ない。
【0031】
また、創傷あるいは疾患の治療のための、細胞膜を容易に横断あるいは浸透できない薬剤の容易で効率的な細胞内及び細胞外局所送達を可能とするマイクロスフィア及び/またはナノスフィア医薬製剤で医療用具をコーティングするために利用できる方法及び組成物もない。
【0032】
さらに、in vivoでの標的への核酸の容易で効率的な局所的送達を可能とする、核酸、特に創傷治癒を刺激する核酸により医療用具をコーティングするための組成物あるいは方法で現在利用できるものはない。
【0033】
従って、当分野におけるこれらの欠如及びその他の欠如を満たすことが本発明の目的である。
【発明の概要】
【0034】
これらの目的及びその他の目的は本発明により達成され、その一つの形態によれば、薬剤、特に水溶性あるいは親水性薬剤を含むポリマーマトリックスにより医療用具をコーティングするための組成物が提供される。前記ポリマーマトリックスは、医療処置の部位において薬剤の制御されたあるいは持続した放出を与える。このコーティングされた用具は、創傷あるいは疾患の治療のための薬剤の標的化された局所的送達に有用である。
【0035】
前記コーティング組成物は一般的にはエマルジョンあるいは懸濁物の形態にあり、少なくとも一種の生物適合性生分解性ポリマー及び少なくとも一種の薬剤を含む。
【0036】
エマルジョンの形態にある場合、前記コーティング組成物は通常、約0.01%〜15%(w/v)、典型的には約0.1%〜10%(w/v)、好ましくは約1%〜5%(w/v)の全ポリマー、及び約0.001%〜15%(w/v)、典型的には約0.01%〜10%(w/v)、好ましくは約0.1%〜0.5%(w/v)の薬剤を含む。
【0037】
懸濁物の形態にある場合、前記コーティング組成物は通常、約0.01%〜80%(w/v)、好ましくは約10%〜30%(w/v)の予備形成されたあるいは部分的に形成されたマイクロスフィア及び/またはナノスフィアを含み、約1〜100センチポアズの粘度を有する。懸濁物は好ましくは約30〜50センチポアズの粘度を有する。マイクロスフィア及び/またはナノスフィアは、生物適合性生分解性ポリマーコアからなり、それに取り込まれるか、随伴されるか、埋め込まれるか、あるいはその他の方法によりその中に導入された約0.001%〜30%(w/w)の少なくとも一種の薬剤を含む。好ましくはスフィアは約l%〜15%(w/w)の薬剤を含む。
【0038】
本発明のコーティング組成物は、さらにエーロゾルによる適用のための噴射剤を含むことができる。
【0039】
本発明の好ましい態様においては、コーティング組成物を構成する薬剤は核酸である。
【0040】
別の形態においては、本発明は、薬剤、特に水溶性あるいは親水性薬剤を含むポリマーマトリックスにより医療用具をコーティングするための方法に関する。該方法は一般に、コーティング組成物を調製し、医療用具を前記コーティング組成物でコーティングすることを含む。コーティング組成物は、前記したように、エマルジョン、懸濁物、あるいはエーロゾルの形態とすることができる。組成物は任意の便利な手段により用具に塗布され、浸漬、ローラー、ブラシ、エーロゾルスプレー等により塗布される。
【0041】
さらに別の形態においては、本発明は、少なくとも一種の薬剤を含む生物適合性生分解性ポリマーマトリックスによりコーティングされた医療用具に関する。前記ポリマーマトリックスでコーティングされた医療用具は、創傷あるいは疾患の治療のための医療処置の部位への薬剤の局所的送達に有用である。好ましくは、用具は治療的に有効な量の薬剤を含むポリマーマトリックスによりコーティングされる。
【0042】
一つの具体的な態様においては、ポリマーマトリックスコーティングはシースの形態にあり、用具(またはその一部)をポリマーマトリックスの層中に収容する。医療方法に使用された場合、体液がポリマーマトリックスシースに接触し、生分解を起こす。マトリックスが生分解されるに従って医療処置の部位を取り囲む局所領域に薬剤が放出される。放出された薬剤は周囲の細胞に取り込まれ、そこで薬剤は治療効果を発揮する。
【0043】
別の具体例においては、前記したように、ポリマーマトリックスコーティングはマイクロスフィア及び/またはナノスフィアの形態にある。医療方法に使用された場合、体液がポリマーマトリックスコーティングに接触してマイクロスフィア及び/またはナノスフィアの生分解を起こし、医療処置の部位を取り囲む局所領域に薬剤を放出する。さらにマイクロスフィア及び/またはナノスフィアは用具から離脱する。スフィアは周囲の細胞に取り込まれ、細胞内でスフィアが生分解されるに従って薬剤の制御されたあるいは持続した細胞内での放出を与える。
【0044】
好ましい態様においては、ポリマーマトリックスコーティングを構成する薬剤が核酸である。核酸ポリマーマトリックスコーティングは、前記したように、シースあるいはマイクロスフィア及び/またはナノスフィアの形態とすることができる。創傷を受けた組織の近傍に置くと、そのようなコーティングされた用具は、特に局所遺伝子治療のために細胞に核酸を局所的に送達するのに有用である。治癒過程で活性な増殖中の修復細胞が前記核酸を取り込み、そこで治療効果が発揮される。
【0045】
特に好ましい態様においては、核酸は、創傷治癒を刺激または促進する核酸である。このようなコーティングされた医療用具は改善された創傷治癒特性を示す。
【0046】
さらに別の形態においては、本発明は薬剤を局所的に送達する方法に関する。該方法は一般に、少なくとも一種の薬剤を含むポリマーマトリックスでコーティングされた医療用具を用意し、医療方法において前記コーティングされた用具を使用することを含む。前記用具は本明細書に記載するコーティング組成物及び方法を使用してコーティングされる。好ましくは、用具は薬剤の治療上有効な量によりコーティングされる。
【0047】
医療方法に使用されると、用具をコーティングするポリマーマトリックスが生分解を起こし、医療処置の部位を取り囲む局所領域に薬剤を放出し、そこでそれらが周囲の細胞に取り込まれ、治療効果を発揮する。
【0048】
好ましい態様においては、前記方法は創傷を受けた組織への核酸の局所的送達を与える。好ましい方法は、薬剤が核酸であるポリマーマトリックスでコーティングされた医療用具を用意し、コーティングされた用具を創傷を受けた組織を有する身体の領域中あるいは領域上に置くことを含む。前記したように、ポリマーマトリックスが生分解するに従って増殖中の修復細胞が放出された核酸を取り込む。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】図1は、コーティングされた縫合糸により修復された組織及びコーティングされていない縫合糸により修復された組織の熱安定性アルカリホスファターゼ活性を比較するグラフを示す。
【図2A】図2Aは、コーティングされていない縫合糸の走査電子顕微鏡像を示す。
【図2B】図2Bは、コーティングした縫合糸の走査電子顕微鏡像を示す。
【図2C】図2Cは、コーティングし、使用した縫合糸の走査電子顕微鏡像を示す。
【図3A】図3Aは、コーティングされていないステンレススチールネジの走査電子顕微鏡像を示す。
【図3B】図3Bは、コーティングしたステンレススチールネジの走査電子顕微鏡像を示す。
【図4A】図4Aは、コーティングされていないチタンロッドの走査電子顕微鏡像を示す。
【図4B】図4Bは、コーティングしたチタンロッドの走査電子顕微鏡像を示す。
【図5A】図5Aは、コーティングされていないヒドロキシアパタイト-リン酸三カルシウムセラミック粒子の走査電子顕微鏡像を示す。
【図5B】図5Bは、コーティングしたヒドロキシアパタイト-リン酸三カルシウムセラミック粒子の走査電子顕微鏡像を示す。
【図6】図6は、疎水性PCLセグメント及び親水性セグメントを有するブロックコポリマーの製造のための具体的な反応スキームを示す。
【発明を実施するための形態】
【0050】
5. 好ましい態様の詳細な説明
5.1 定義
本明細書で使用するように、以下の用語は下記に示した意味を有する。
【0051】
「医療用具」:本明細書で使用するように、「医療用具」は、限定するものではないが、外科的インプラント、外科用縫合糸、バンデージを含む包帯等の医療処置の間に使用され得る任意の用具を含む。
【0052】
「マイクロスフィア」:本明細書で使用するように、「マイクロスフィア」は一般に球状の粒子であって、その中に取り込まれるか、随伴させられるか、埋め込まれるか、あるいはその他の方法によりその中に導入された少なくとも一種の薬剤を有する生物適合性生分解性ポリマーコアからなる粒子である。マイクロスフィアは一般に約1〜900μm、典型的には約5〜10μmの平均粒径を有する。「ナノスフィア」:本明細書で使用するように、「ナノスフィア」は一般に球状の粒子であって、その中に取り込まれるか、随伴させられるか、埋め込まれるか、あるいはその他の方法によりその中に導入された少なくとも一種の薬剤を有する生物適合性生分解性ポリマーコアからなる粒子である。ナノスフィアは一般に約1μm未満、典型的には約300nm未満の平均粒径を有する。本明細書で使用するように「ナノスフィア」は、例えば「ナノ粒子」等の、ナノメーターサイズの医薬製剤についての他分野で認識された用語と同義である。
【0053】
「生物適合性」:本明細書で使用するように、物質がヒトあるいは動物にin vivoで使用するのに適する場合、それを「生物適合性」であるとする。すなわち、哺乳動物組織中に置いたときに、物質が生物学的に不活性であり、生理的に許容され、無毒で、有害な生物学的反応を生起しないものである場合にその物質を「生物適合性」であるとする。
【0054】
「生分解性」:本明細書で使用するように、物質が組織及び/または組織液に接触したときに加水分解され及び/または組織に吸収される場合、その物質を「生分解性」であるとする。
【0055】
「生物適合性生分解性ポリマーマトリックス」:本明細書で使用するように、生物適合性生分解性ポリマーマトリックスは、生物適合性生分解性ポリマーからなり、さらに、限定するものではないが、薬剤及び乳化剤のような物質が随伴させられるか、取り込まれるか、埋め込まれるか、あるいはその他の方法によりその中に導入された物質である。生物適合性生分解性ポリマーマトリックスは、具体的にはマイクロスフィア及び/またはナノスフィアを包含する。
【0056】
「薬剤」:本明細書で使用するように、薬剤は、天然または合成の化学的化合物あるいは化合物の組合せであり、生命系の正常な及び/または病理学的な挙動に対して影響を及ぼす性質を有するものである。薬剤は有機分子、ペプチド、タンパク質、核酸等を含む。薬剤は、治療的なもの、予防的なもの、化粧用のもの、栄養的なもの等であってよい。薬剤は、他の一種以上の薬学的物質と共にあるいは組合せで作用する賦形剤、充填剤、アジュバント等であってもよい。
【0057】
「機能的に結合した」:本明細書で使用するように、「機能的に結合した」は、結合した成分の正常な機能が発揮できるような隣接した位置関係をいう。従って、コード配列に「機能的に結合した」プロモーター配列は、プロモーター配列がコード配列の発現を促進する形態をいうものである。プロモーター配列は構成的なもの、及び/または誘導可能なものであってよい。
【0058】
「治療上有効な量」:薬剤の「治療上有効な量」は、治療的な効果を与えるのに有効な量である。すなわち、例えば治療用タンパク質をコードする核酸については、核酸の「治療上有効な量」は、治療的な効果を与えるのに有効な量の発現タンパク質を与えるのに有効な量である。
【0059】
「修復細胞」:本明細書で使用するように、「修復細胞」は、組織の損傷に応答して刺激されて移動及び増殖する任意の細胞をいう。修復細胞は創傷治癒反応を構成する成分である。そのような細胞としては、繊維芽細胞、毛細内皮細胞、毛細周皮細胞、単核炎症細胞、セグメント化炎症細胞、顆粒形成組織細胞等が挙げられる。
【0060】
5.2 発明
本発明は、外科用インプラント、外科用縫合糸、創傷包帯などの医療用具を、薬剤、特に水溶性または親水性の薬剤を含有する生物適合性生分解性ポリマーマトリックスでコーティングするための組成物、医療用具をコーティングする方法、および該組成物でコーティングされた医療用具に関する。コーティングされた用具を用いると、創傷または疾患の治療に役立つように選択された薬剤が、医学的介入部位を取り囲む局部へ制御下でまたは徐々に放出されるようになる。
【0061】
本発明の方法には、コーティング組成物を調製する工程と、該コーティング組成物で医療用具をコーティングする工程とが含まれる。一般的には、コーティング組成物は、エマルジョンまたは懸濁液の形態であり、少なくとも1種の生物適合性生分解性ポリマーと、少なくとも1種の薬剤とを含む。エマルジョンの形態の場合、コーティング組成物には、通常、約0.01%〜15%(w/v)、典型的には約0.l%〜10%(w/v)、好ましくは約l%〜5%(w/v)の全ポリマーと、約0.001%〜15%(w/v)、典型的には約0.01%〜10%(w/v)、好ましくは約0.l%〜0.5%(w/v)の薬剤とが含まれる。好ましい実施態様において、エマルジョンは、油中水(「W/O」)型エマルジョンである。
【0062】
懸濁液の形態の場合、コーティング組成物には、通常、約0.01%〜80%(w/v)、好ましくは約10%〜30%(w/v)の予備成形もしくは部分成形マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアが含まれ、その粘度は、約1〜100センチポアズ、好ましくは約30〜50センチポアズである。マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアには、生物適合性生分解性ポリマーコアーと、その中への閉込、連行、包埋、またはそれ以外の取込がなされた約0.001%〜30%(w/w)、好ましくは約1%〜15%(w/w)の少なくとも1種の薬剤とが含まれている。
【0063】
本発明のコーティング組成物には更に、エアゾール用途向けの噴射剤が含まれていてもよい。場合により、コーティング組成物には、約0.l%〜10%(w/v)、典型的には約1%〜3%(w/v)の乳化剤および/または約0.l%〜l%(w/v)の微生物汚染に対抗する保存剤が含まれていてもよい。
【0064】
均質コーティングとなるように組成物を用具に適用し、用具を乾燥させる。用具が乾燥するにつれて、コーティング組成物に含まれる溶剤が蒸発し、薬剤を含有した生物適合性生分解性ポリマーマトリックスが用具の表面上に堆積する。用具が組織液接触した場合、たとえば、用具が患者に移稙されるかまたは創傷に包帯をあてるために使用される場合、ポリマーマトリックスは生分解し、局部に薬剤を放出する。好ましくは、ポリマーマトリックスは、長期間にわたり薬剤を制御下でまたは徐々に放出できるようにする。
【0065】
好ましい実施態様において、本発明の組成物および方法を用いて、薬剤を含有したマイクロスフィアおよび/またはナノスフィアで医療用具をコーティングする。マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアでコーティングされた用具を患者の内部または表面上に置くと、ポリマーマトリックスが生分解して局部に薬剤を放出する。このほか、マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアは、それらが周囲の細胞中に浸透するかまたは周囲の細胞により摂取される場合、コーティングされた用具から分離する。従って、マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアでコーティングされた用具を用いると、細胞内または細胞外へ制御下でまたは徐々に薬剤を放出させることができるようになる。これは、細胞膜を容易に通過しない薬剤を局部的に送達するために特に重要である。
【0066】
本発明のこれらの態様は、部分的には、マイクロスフィアおよび/またはナノスフィア製剤を調製するのに好適なエマルジョンが、過剰の薬剤、特に、水溶性または親水性の薬剤で医療用具を、容易に、効率的に、かつ耐久性をもたせてコーティングするために即座に利用可能であるという発見に基づくものである。組成物を直接またはエアゾールの形態で使用して多種多様な医療用具をコーティングしてもよい。
【0067】
このような組成物を用いて調製されたコーティングは、コーティングされた用具を普通に取り扱うかぎり除去されることはないという意味で耐久性がある。極めて驚くべきことに、マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアコーティングは耐久性があることを見出した。例えば、サブミクロンサイズの粒子を含有したポリマーコーティングは、外科用縫合糸が骨格筋を通過する際に、縫合糸から剥離することはなかった。
【0068】
本発明の組成物および方法は、他の現用のコーティング法よりも優れた数多くの利点を提供する。重要なことは、本発明の組成物および方法を用いて、実質的に任意の医療用具を、核酸などの水溶性または親水性の薬剤を含めて実質的に任意の薬剤で容易にかつ効率的にコーティングできることである。従って、本発明のコーティングされた医療用具を用いると、創傷または疾患の治療のために医学的介入部位を取り囲む局部へ多種多様な薬剤を単独でまたは組合せて局部的に送達することができる。
【0069】
コーティングされた医療用具を用いた標的化薬物送達は、創傷または疾患の治療のための特に便利な手段を提供する。例えば、治療上有効な濃度で薬剤を全身的に投与すると、多くの場合、望ましからぬまたは有毒な副作用を起こす。このような場合、コーティングされた医療用具を用いて標的化局部送達を行えば、治療効果を得るのに有効な局部濃度の送達が可能となり、しかも有効な全身レベルの薬物の利用に伴う毒性を回避することが可能となる。コーティングされた医療用具を用いた標的化局部送達はまた、他の投与モードで送達された薬剤が標的細胞集団に容易に到達しない場合にも有利である。
【0070】
コーティングされた医療用具によるマイクロスフィアおよび/またはナノスフィア製剤の標的化投与は、マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアの他の投与モードよりも優れた数多くの利点を提供する。例えば、4〜7μmのサイズを有する静脈内送達マイクロスフィアは、肺において機械的に濾過および保持される(Troster et al.,1990,Int.J.Pharm. 61:85-100)。より小さなサイズのスフィアは、肺を通過するが細網内皮系のマクロファージ、主に肝臓のKupfer細胞および脾臓のマクロファージによって迅速に摂取される(Muller et al.,1993,Int.J.Pharm. 89:25-31)。多くの場合、注入されたスフィアの90%程度が肝臓により摂取され、2〜5%が脾臓により摂取され、注入後5分以内に循環系から除去される(Muller,1991,Colloidal Carriers for Controlled Drug Delivery and Targeting,Wissenschaftliche Verlagsgesellschaft,Stutgart)。従って、全身的に投与した場合、多くのスフィアは標的化送達部位への到達が妨害される。医学的介入部位においてマイクロスフィアおよび/またはナノスフィアを直接、局部的に投与すれば、局部の周辺細胞がスフィアを摂取することができ、血流への投与、および肺、肝臓、および脾臓中での随伴的滞留を回避することができる。
【0071】
もう1つの好ましい実施態様において、本発明の組成物を含有した薬剤は核酸である。核酸がコーティングされた用具を用いると、例えば、局部的遺伝子治療のための医学的介入部位を取り囲む細胞へ、標的化して、制御下で、または徐々にin vivo送達することができる。
【0072】
本発明のこの態様は、部分的には、創傷治癒過程に関与する増殖性修復細胞が、核酸の摂取、場合により核酸の発現に驚くほど有効であるという発見に基づくものである(1996年4月8日出願の同時係属の代理人整理番号8464-007-999)。通常はin vitroおよびin vivoのいずれにおいても効率的にトランスフェクトすることは困難であるこれらの修復細胞は、創傷治癒過程により増殖が誘発された場合、核酸の摂取および発現を極めて効率的に行うようになる。修復細胞は、組織損傷部位へ移行し、損傷部に置かれた、核酸を含有してなるマトリックスに浸透し、核酸の摂取および発現を行う。例えば、マウスBMP-4(通常、骨折修復中に始原細胞により発現される骨誘導因子)をコードするプラスミドDNAを含んでなるコラーゲンスポンジをラットの5mm骨切部内に配置したところ、その間隙を横切って骨の成長が促進されることが分かった(id)。
【0073】
2つのプラスミド、すなわち、マウスBMP-4をコードする一方のプラスミドと、BMP-4と相乗的に相互作用することが知られている副甲状腺ホルモンの34アミノ酸ペプチド断片であるPTH1-34ペプチドをコードする他方のプラスミド、を含有したコラーゲンスポンジを接種されたラットにおいて、相乗効果が観測された(Ahrens et al.,1993,J.Bone Min.Res. 12:871-880)。
【0074】
本発明は、これらの発見を利用したものである。核酸を含有したポリマーマトリックスでコーティングされた医療用具は、増殖性修復細胞中への容易でかつ効率的な核酸の移入、および場合により核酸の発現のための便利な手段を提供する。例えば、核酸のコーティングされた医療用具を創傷組織に近接して配置すると、こうした用具が、局部遺伝子治療のために細胞へ核酸を移入するための容易でかつ効率的な手段となる。コーティングされた外科用縫合糸は、核酸を移入するための特に便利な手段を提供する。なぜなら、縫合処理自体が組織の損傷を引き起こすため、それに続いて修復細胞の増殖が誘発されるが、こうした修復細胞は、コーティングから放出される核酸の摂取、場合により核酸の発現を即座に行うことができるからである。
【0075】
アンチセンスDNAおよびRNA、プラスミドDNA、ならびにウイルス断片など、実質的に任意の核酸を修復細胞に摂取させることが可能である。核酸は、それ自体が治療薬であってもよいし、治療用タンパク質をコードするものであってもよい。好ましくは、治療効果を得るのに有効な核酸の量で、すなわち、具体的には疾患の改善または治療、疾患に伴う症状の改善、創傷治癒の刺激または促進などの所望の効果を得るのに有効な量で用具をコーティングする。例えば、アンチセンスDNAおよびRNAなど、それ自体が治療薬となる核酸に対して、治療上有効な量とは、治療効果を得るのに有効なアンチセンスDNAまたはRNAの量を意味する。治療用遺伝子産物をコードする核酸に対して、治療上有効な量とは、発現したときに治療効果を得るのに有効な遺伝子産物の量を提供する核酸の量を意味する。当業者は、過度の実験を行うことなく治療上有効な量を容易に決定することが可能である。
【0076】
修復細胞による核酸の摂取および発現には組織損傷によって誘発される修復細胞増殖が必要となるため、本発明の核酸‐ポリマー組成物でコーティングされた用具を、発生したばかりの創傷が存在する組織に近接して配置すべきであると考えられる。当業者には自明であろうが、マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアにより細胞内送達が促進できるように核酸を含有したマイクロスフィアおよび/またはナノスフィアで医療用具をコーティングすることが有利である場合もあるが、創傷組織中に核酸を送達するうえでマイクロスフィアおよび/またはナノスフィアは必要ではない。増殖性修復細胞は、細胞外マトリックス中に送達された核酸を摂取する。
【0077】
コーティングされた医療用具を用いた局部的な核酸送達により、現在利用可能なin vivoおよびex vivo遺伝子治療プロトコルの抱える問題の多くが克服される。例えば、遺伝子治療のためのin vivo法では、所定の形態の標的化が必要であるが、これは機能しないことが非常に多い。本発明のコーティングされた用具では、標的化は問題にはならない。すなわち、マトリックス中の核酸は、創傷治癒過程に関与しかつ創傷部位に存在する細胞によってのみ摂取される「餌」としての働きをする。ex vivo遺伝子治療では、形質導入に利用されないかまたは抵抗性を示す、標的細胞の供給源が必要となる場合が多い。本発明のコーティングされた用具では、形質導入は問題にはならない。なぜなら、創傷治癒過程に活性を示す増殖性修復細胞によって核酸が効率的に摂取されるからである。
【0078】
本発明の特に好ましい実施態様において、核酸は創傷治癒を刺激または促進する。このような核酸は、それ自体が治療薬であってもよいし、in vivoで創傷治癒を刺激または促進する治療用遺伝子産物をコードするものであってもよい。好ましくは、核酸は、創傷治癒を刺激する治療用タンパク質をコードするDNA配列に機能的に結合されたプロモーター配列を有するDNA分子である。
【0079】
創傷治癒を刺激または促進する核酸でコーティングされた医療用具は、一般的には、改良された治癒特性を呈するであろう。例えば、破損したかまたは折れた骨を固定するために通常使用されるピンなどの整形外科用インプラントを、創傷治癒を刺激する核酸でコーティングすると、損傷した骨が機械的に並置されるほかに骨組織の再生が促進される。
【0080】
創傷治癒を刺激または促進する核酸でコーティングされた縫合糸もまた、改良された治癒特性を呈する。こうしたコーティングの施された縫合糸は、治癒組織を機械的に並置するほかに、創傷治癒を刺激または促進する核酸を縫合糸に近接した増殖性修復細胞まで移送するかまたは場合によりこうした核酸を発現することによって、創傷治癒を刺激または促進するであろう。具体的には、縫合糸の周りで創傷治癒を刺激することによって、このような縫合糸では縫合糸が本質的に組織に「スポット癒着」する。コーティングの施された縫合糸は、正常なまたは疾患を有する肝臓組織、放射線照射された組織、糖尿病などの代謝障害を患った患者の組織のような脆弱なまたは損傷を受けた組織を縫合するうえで特に有用である。
【0081】
好ましい実施態様の特に重要な特徴の1つは、結果として瘢痕組織の形成または組織再生が行われるように、修復過程を操作できる点である。例えば、創傷部位または手術部位で治療用タンパク質を過剰発現させると、瘢痕組織が形成されることなく損傷組織を再生することができる。多くの場合、例えば、骨修復の場合、このような再生を行うことが望ましいのは、瘢痕組織が正常な機械的機能を支持するようにデザインされたものではないからである。
【0082】
縫合術では、先に述べたように、もともと弱い組織を一体化して保持するために、瘢痕組織を形成することが望ましい場合もある。
【0083】
それ以外では、縫合糸の周りでの瘢痕組織の形成は望ましくないことが多い。このような例としては、角膜瘢痕組織が形成されると視界が妨げられる恐れのある眼球手術が挙げられる。
【0084】
こうした場合、本発明の組成物および方法を利用すれば、発現される遺伝子産物のタイプおよびレベルにもよるが、瘢痕組織の形成を伴ってまたは伴わずに創傷治癒を刺激する核酸で医療用具をコーティングすることができる。
【0085】
本発明の組成物、方法、およびコーティングの施された用具を用いると、創傷治療に関連した技術分野に見られる欠点の多くが克服される。第1に、タンパク質とは異なり、安定でしかも無毒である高用量の核酸をin vivoで安全に投与することができる。第2に、繰返し投与は可能ではあるが、必要ではない。核酸を摂取および発現する細胞は、局部バイオリアクターとして機能し、創傷部位でコードされた遺伝子産物が連続的に供給されるようになる。第3に、投与の一時的要件を満たすように核酸を送達することができる。
【0086】
5.3 コーティング組成物
本発明により、マイクロスフィアおよび/またはナノスフィア医療用徐放性製剤を調製するために当該技術分野で普通に使用されている組成物に適用可能な方法であって、インプラント、縫合糸、創傷用包帯などの医療用具を、薬剤を含有した生物適合性生分解性ポリマーマトリックスでコーティングする新規方法を見出した。コーティングの施された用具を用いると、制御下でまたは徐々に薬剤が局部へ送達される。
【0087】
文献に記載されているコーティング組成物および方法は、医療用具を疎水性の薬剤でコーティングする場合にのみ好適なものであるが、これとは異なり、本発明の方法および組成物は、親水性であるか疎水性であるかにかかわらず、多種多様な薬剤で用具をコーティングする場合に好適である。
【0088】
一般的には、本発明のコーティング組成物には、少なくとも1種の生物適合性生分解性ポリマーと、少なくとも1種の薬剤とが含まれる。本発明の1つの実施態様において、コーティング組成物は、エマルジョンの形態である。本発明の利点のlつは、マイクロスフィアおよび/またはナノスフィア医療用製剤を調製するために利用されている従来のエマルジョンのいずれもが医療用具のコーティングに適用可能である点である。このようなエマルジョンとしては、例えば、油中水型エマルジョン(「W/O」)、水中油中水(「W/O/W」)型エマルジョン、および共溶剤型エマルジョンが挙げられる。このようなエマルジョンの調製方法は、当該技術分野で周知であり、例えば、Wantierらの米国特許第5,478,564号、Yamamotoらの欧州特許出願第EP190,833号、Okadaらの米国特許第5,480,656号、およびAllemann et al.,1992,Intl.J.Pharmaceutics 87:247-253に記載されている。もちろん、調製されるエマルジョンのタイプが、部分的には、ポリマーマトリックス中に導入される薬剤の性質に依存するであろうことは理解されるであろう。
【0089】
好ましい実施態様において、本発明のコーティング組成物には、W/O型エマルジョンが含まれる。W/O型エマルジョンの任意の調製方法がそれぞれ本発明で利用しうるものと考えられるが、典型的なW/O型エマルジョンは、有機相を水相と共に乳化して乳状のエマルジョンを形成することによって調製することが可能である。
【0090】
疎水性の薬剤の場合、有機相には、少なくとも1種のポリマーと少なくとも1種の薬剤とが、水と混和しない有機溶剤中に溶解されて含まれる。従って、疎水性の薬剤の場合、本発明のコーティング組成物は、少なくとも1種のポリマーと少なくとも1種の薬剤とを、水不混和性有機溶剤中に溶解して有機相を形成し、この有機相を水相と共に乳化して乳状エマルジョンを形成することによって調製することが可能である。
【0091】
当業者には自明であろうが、エマルジョンを利用して疎水性薬剤で医療用具をコーティングすることの利点の1つは、従来型の組成物および方法を用いて得られるコーティングと比較して、コーティング中に残存する有機溶剤の含有量が少ないことである。従って、本発明の組成物および方法を用いてコーティングされた医療用具は、従来型の組成物および方法を用いてコーティングされた医療用具よりも毒性が低い。このことは、有機溶剤が塩化メチレンなどのように有毒な溶剤である場合に特に重要である。こうした利点があるにもかかわらず、本発明の組成物はヒトおよび動物に適用することを目的とするため、低い毒性を呈する水不混和性有機溶剤が好ましい。
【0092】
本発明のもう1つの実施態様において、薬剤は水溶性または親水性である。親水性薬剤の場合、有機相には、少なくとも1種の生分解性生物適合性ポリマーが水不混和性有機溶剤中に溶解されて含まれ、水相には、少なくとも1種の水溶性または親水性の薬剤が水に溶解されて含まれる。
【0093】
従って、水溶性または親水性の薬剤の場合、本発明のコーティング組成物は、少なくとも1種の生物適合性生分解性ポリマーを、水不混和性有機溶剤中に溶解して有機相を形成し、少なくとも1種の水溶性または親水性の薬剤を水に溶解して水性相を形成し、有機相を水相と共に乳化して乳状エマルジョンを形成することによって調製することが可能である。
【0094】
当業者には自明であろうが、水性相には更に、水中での薬剤の安定性を向上させる他の薬剤が含まれていてもよい。例えば、水性相には更に、薬剤学的に許容しうるpH調整用またはpH保持用緩衝剤、塩などが含まれていてもよい。
【0095】
本発明の組成物はヒトおよび動物に適用することを目的とするため、組成物にはまた、微生物汚染を防止する約0.1%〜約1%(w/v)の保存剤が含まれていてもよい。このような薬剤としては、例えば、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、イミドウレア、クアテルニウム15、ソルビン酸、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,2-ジオール、デヒドロ酢酸、安息香酸、ベンザルコニウムクロリド、ベンゼトニウムクロリド、フェノキシエタノール、ベンジルアルコール、セチルピリジニウムクロリド、およびクロロブタノールが挙げられる。
【0096】
場合により、水性相には更に、1種または複数種の乳化剤が含まれていてもよい。このような薬剤は、コーティング組成物の粘度を調節するのに有用であるが、これについては以下で更に説明する。存在させる場合、乳化剤は、一般的には、水性相の約0.l%〜10%(w/v)、好ましくは約l%〜3%(w/v)を占めるであろう。
【0097】
本発明に有効に利用できる好適な乳化剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコールなどの脂肪アルコール;ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸などの脂肪酸;グリセロールモノステアレートなどの脂肪酸エステル;商品名TWEENTM(デラウェア州WilmingtonのHercules Inc.の登録商標;ミズーリ州St.LouisのSigma Chemical Co.から入手可能である)として市販されているポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリエチレングリコールなどのポリアルキレングリコール;トリエタノールアミンオレエートなどのトリエタノールアミン脂肪酸エステル;オレイン酸ナトリウムなどの脂肪酸塩;ドデシル硫酸ナトリウム(SDS);セルロースアセテート;商品名PLUR0NIC F-68TMおよびPLURONIC F-127TM(BASFの登録商標;ミズーリ州St.LouisのSigma Chemical Co.から入手可能である)として販売されているエチレンオキシドとプロピレンオキシドとのブロックコポリマーなどのポラキソマー;ジドデシルジメチルアンモニウムブロミド(DMAB))などの第四級アンモニウム化合物;および鉱油、石油、綿実油、椰子油、胡麻油、落花生油、イソプロピルミリステート、イソプロピルパルミテートなどの油、が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0098】
本発明に有用な水不混和性有機溶剤は、典型的には、減圧下またはより好ましくは大気圧において室温で揮発性である。好適な水不混和性溶剤としては、例えば、クロロホルム、メチレンクロリド、エチルアセテート、アミルアルコール、アミルアセテートなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。メチレンクロリドと、アセトン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、および/またはテトラヒドロフランとの組合せもまた、ポリマーまたは疎水性薬剤を溶解する有機相を形成するために使用することができる。
【0099】
水不混和性有機溶剤の選択は、部分的には、溶剤中での薬剤の安定性に依存するであろうことを理解する必要がある。核酸薬剤を含む特に好ましい組成物(以下でより詳細に説明する)では、溶剤は、好ましくは、核酸に対する損傷を誘発しない。このような溶剤としては、例えば、メチレンクロリドなどのハロゲン化炭化水素;クロロホルムなどのポリハロゲン化炭化水素;芳香族化合物;ハロゲン化芳香族化合物;および当業者には自明であろう化合物、が挙げられるが、これらに限定されるものではない。特に好ましい組成物を調製するために使用される溶剤には、好ましくは、ヌクレアーゼが含まれないであろう。
【0100】
本発明に有用な生物適合性生分解性ポリマーは、マイクロスフィアおよび/またはナノスフィア医薬用製剤の技術分野で一般に利用されているポリマーである。好ましい実施態様において、生物適合性生分解性ポリマーを用いると、長期間にわたり薬剤を徐々に放出するようにできるであろう。好適なポリマーとしては、例えば、ポリグリコリド、ポリラクチド、ポリ乳酸ポリグリコール酸コポリマー(「PLGA」)などのポリエステル;ポリカプロラクトン(「PCL」)などのポリエーテル;ポリ酸無水物;シアノアクリル酸n-ブチル、シアノアクリル酸イソプロピルなどのシアノアクリル酸ポリアルキル;ポリアクリルアミド;ポリ(オルトエステル);ポリホスフアゼン;ポリペプチド;ポリウレタン;およびこれらのポリマーの混合物、が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0101】
薬剤を徐々にまたは制御下で放出するために好適なポリマーとして現在知られているかまたは今後開発されるであろう生物適合性生分解性ポリマーは、本発明に利用可能であると考えられる。
【0102】
ポリマーの選択は、個々の用途、送達される薬剤、およびコーティングされる医療用具に依存するであろう。特定のポリマーを選択するうえで考慮すべき要因としては、コーティング組成物を調製するために使用される溶剤中へのポリマーの溶解性、薬剤が放出される期間、ポリマーの生物適合性、コーティングされる医療用具に対するポリマーの接着能力、本開示内容を調べることにより自明となるであろうその他の考慮要因、が挙げられる。縫合糸に対するその他の考慮要因としては、湿潤および乾燥縫合条件下におけるコーティングされた縫合糸の結紮固定性およびフィット性が挙げられる。当業者は、過度な実験を行うことなく、特定の用途に好適なポリマーまたはポリマーの混合物を選択することができるであろう。
【0103】
組成物には、通常、約0.01%〜15%(w/v)、典型的には約0.1%〜10%(w/v)、好ましくは約1%〜5%(w/v)の全ポリマーが含まれるであろう。組成物の粘度は、オストワルド粘度計で測定した場合、通常、約1〜100センチポアズ、好ましくは約30〜50センチポアズであろう。
【0104】
好ましい実施態様において、生物適合性生分解性ポリマーは、乳酸単位/グリコール酸単位の比が約100/0〜約25/75の範囲内にあるグリコール酸と乳酸とのコポリマー(「PLGA」)である。ポリマーの平均分子量(「MW」)は、標準分子量の市販ポリスチレンを用いたゲル浸透クロマトグラフィーにより測定した場合、典型的には約6,000〜700,000、好ましくは約30,000〜120,000であり、固有粘度は、0.5〜10.5である。
【0105】
本発明に係るコーティングの施された医療用具から薬剤を徐々にまたは制御下で放出させる期間は、部分的には、乳酸/グリコール酸の組成比に依存するであろう。一般的には、例えば75/25のように乳酸/グリコール酸の比が高くなると、薬剤が制御下でまたは徐々に放出される期間が長くなり、乳酸/グリコール酸の比が低くなると、薬剤がより迅速に放出されるであろう。好ましくは、乳酸/グリコール酸の比は50/50である。
【0106】
徐々にまたは制御下で放出される期間は、ポリマーのMWにも依存する。一般的には、MWの高いポリマーほど、徐々にまたは制御下で放出される期間は長くなるであろう。
【0107】
低および高MWポリマーのブレンドもまた、薬剤の放出速度を制御するために利用可能である。このようなブレンド比は、約5/100の低MWポリマー/高MWポリマー〜約50/50の低MWポリマー/高MWポリマーの範囲内である。
【0108】
特定の用途に好適な特定のポリマー比、ポリマーMW、およびポリマーブレンドを含んでなる組成物は、当業者には自明であろう(例えば、Bodmer et al.,1992,J.Controlled Release 21:129-138を参照されたい)。
【0109】
本発明のコーティング組成物のコーティング特性は、組成物を構成する有機相と水性相との容量比により影響を受ける。ほとんどのコーティング用途に好適な組成物には、一般的には、約55%〜99.9%(v/v)、典型的には約75%〜95% (v/v)、好ましくは約80%〜90%(v/v)の有機相が含まれるであろう。これらの比は、約1.5〜3.5ポアズの粘度範囲に相当する。
【0110】
コーティング組成物に含まれる薬剤の濃度もまた、コーティング特性に影響を与える場合がある。更に、この濃度は、ポリマーマトリックス中に取込まれる薬剤の量に影響を与えることもある。ポリマーマトリックス中に取込み可能な薬剤の量は、薬剤のMWおよび溶剤中への溶解度に依存するであろうことは分かるであろうが、約0.001%〜15%(w/v)、典型的には約0.01%〜10%(w/v)、好ましくは約0.1%〜0.5%(w/v)の薬剤を含んでなる組成物が好適なコーティングを提供することを見出した。
【0111】
一般的には、コーティング組成物は、乳状のエマルジョンが得られるように乳化されるであろう。乳状エマルジョンを得るために任意の好適な手段が利用でき、こうした手段としては、例えば、激しい攪拌、渦流混合、および超音波処理が挙げられるが、これらに限定されるものではない。もちろん、乳状エマルジョンを得るために選択される方法は、当業者には自明であろうが、部分的には、乳化方法に対する薬剤の安定性に依存するであろう。コーティング組成物を約1分間渦流混合し、続いてプローブ型ソニケーターを用いて約0℃において約30秒間超音波処理にかけると、ほとんどのコーティング用途に対して満足しうる非常に乳状性の高い安定なエマルジョンが再現性よく得られる。
【0112】
核酸薬剤を含んでなる特に好ましい組成物(以下でより詳細に説明する)もまた、渦流混合、均質化処理、または超音波処理を行って調製してもよい。核酸、特に、プラスミドおよび染色体DNAに、渦流混合、均質化処理、または超音波処理により高剪断力を加えると、DNAは有意な損傷を受けると提言している重要な文献がある(例えば、Kondo et al.,1985,Radiation Research 104:284-292;Miller et al.,1991,Ultrasound in Medicine and Biology17:729-735;Miller et al.,1991,Ultrasound in Medicine and Biology17:401-406;Nicolau et al.,Methods in Enzymology 149:157-175を参照されたい)。しかしながら、極めて驚くべきことに、核酸薬剤を含んでなる本発明のコーティング組成物に渦流混合または超音波処理により高剪断力を加えても、核酸が有意な損傷を受けることはないことを見出した。例えば、ポリマーの不存在下でプラスミドDNAに超音波処理を施したところDNAは有意な損傷を受けたが、本発明のエマルジョンの形態のプラスミドDNA-ポリマー組成物に超音波処理を施してもDNAは有意な損傷を受けなかった(例えば、超音波処理されたプラスミドDNAの発現を提示した実施例6を参照されたい)。従って、核酸薬剤、特にDNA、を含んでなる本発明のコーティング組成物は、核酸に有意な損傷を与えることなく、上述したような渦流混合、均質化処理、および超音波処理を用いて調製することができる。また、薬剤の調製においてエマルジョンを処方するために使用される他の手順を、核酸を含有したエマルジョンを調製するために利用することもできると思われる。
【0113】
このほかの実施態様において、親水性および/または半極性の薬剤で医療用具をコーティングするためのW/O型エマルジョンを調製するために、共溶剤系を使用することも可能である。こうした別の実施態様において、W/O型エマルジョンの有機相には、少なくとも1種の生物適合性生分解性ポリマーと少なくとも1種の半極性および/または親水性の薬剤が、水不混和性有機溶剤と水混和性有機溶剤とを含む共溶剤中に溶解されて含まれる。コーティング組成物は、
(a)少なくとも1種の生物適合性生分解性ポリマーを水不混和性有機溶剤中に溶解する工程と、
(b)少なくとも1種の親水性および/または半極性の薬剤を水混和性有機溶剤中に溶解する工程と、
(c)工程(a)および(b)から得られた溶液を混合して有機相を形成する工程と、
(d)有機相を水性相と共に乳化して乳状エマルジョンを形成する工程と、
により調製される。
【0114】
水性相には、場合により、先に記載したように、抗微生物剤および乳化剤が含まれていてもよい。
【0115】
典型的な水不混和性有機溶剤は、先に記載したものである。好適な水混和性有機溶剤は、低温および低圧で蒸発するように低蒸気圧を有する水との共溶剤系を生成するであろう。好ましくは、水混和性溶剤は、半極性で無毒であり、更に、薬剤に損傷を与えることはないであろう。好適な水混和性溶剤としては、例えば、アセトン、アセトニトリル、エタノール、ジメチルアセトアミド(DMA)、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、およびジメチルホルムアミド(DMF))が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0116】
水混和性有機溶剤は、水性相中でポリマーが沈殿しないような、水不混和性有機溶剤に対する割合で添加される。水混和性有機溶剤の量が多すぎると、エマルジョンが得られない。有機相と水性相とが混和するようになり、ポリマーが水性相中で沈殿する。
【0117】
水混和性有機溶剤と水不混和性有機溶剤との体積比が約5/95〜約70/30の範囲にあるとエマルジョンが得られる。水不混和性有機溶剤に対する水混和性有機溶剤の最小の割合は、ポリマーマトリックス中への薬剤の所望の取込みレベルに関連する。従って、最小の割合は、個々の用途に依存するであろうが、当業者には自明であろう。
【0118】
もう1つの実施態様において、本発明のコーティング組成物は、エアゾール吹付用途向けのエアゾールとして配合してもよい。エアゾールの調製および送出の方法は、当該技術分野で周知である(例えば、Lachman et al.,1976,”Pharmaceutical Aerosols,”In:The Theory and Practice of Industrial Pharmacy270-295(Lea & Febiger,Philadelphia,PA); U.S.Pharmacopeia National Formulary 23/NF 18:1760-1767(1995);Ansel et al.,1995,”Aerosols,Inhalations and Sprays,”In:Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems443-459(Lea & Febiger,Philadelphia,PA)を参照されたい)。
【0119】
本発明のエアゾール組成物は、先に記載したように本質的にW/O型エマルジョンであり、更に、液化噴射剤を含む。液化噴射剤は、単独または混合物での蒸気圧が約20p.s.i.g.〜約130p.s.i.g.でありかつ薬剤として許容しうる任意の液化噴射剤であってよく、好ましくは、プロパン、ブタン、イソブタン、ジクロロジフルオロメタン、モノクロロジフルオロメタン、ジクロロトリフルオロエタン、モノクロロテトラフルオロエタン、テトラフルオロエタン、ジクロロモノフルオロエタン、およびジフルオロエタンから成る群より選ばれる。
【0120】
本発明のエアゾール組成物は、本発明のコーティング組成物を液化噴射剤と共にエアゾールディスペンサー中に仕込むことにより調製してもよい。エアゾールディスペンサーは、当該技術分野で周知の任意の従来型エアゾール缶もしくは瓶または他の適切な容器であってよい。
【0121】
本発明のもう1つの実施態様において、コーティング組成物は、懸濁液の形態であり、好適な溶剤中に懸濁させた予備成形および/または部分成形マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアを含む。このような組成物は、マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアコーティングで医療用具を被覆するうえで特に好適であるが、これについては、以下でより詳細に説明する。
【0122】
マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアで用具をコーテイングするための好適な懸濁液は、典型的には、均質コーティングの形成を可能にする流体物性を有し、溶液の粘度にもよるが、一般的には約0.01%〜80%(w/v)、好ましくは約10%〜30%(w/v)のマイクロスフィアおよび/またはナノスフィアを含む。約1〜100センチポアズ、好ましくは約30〜50センチポアズの粘度を有する懸濁液は、典型的には、均質コーティングを生成するであろう。
【0123】
懸濁液には、場合により、先に記載したような乳化剤および抗微生物剤が含まれていてもよい。また、懸濁液は、医療用具上へのマイクロスフィアおよび/またはナノスフィアのエアゾール吹付用途向けとして、先に記載したエアゾールとして配合してもよい。
【0124】
懸濁液に含まれるマイクロスフィアおよび/またはナノスフィアには、生物適合性生分解性ポリマーコアーが含まれ、更に、その中に閉込、連行、包埋、またはそれ以外の取込がなされた少なくとも1種の薬剤が含まれる。典型的には、マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアは、約0.001%〜30%(w/v)の薬剤、好ましくは約1%〜15%(w/v)の薬剤を含むであろう。
【0125】
予備成形マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアは、当該技術分野で普通に利用されている方法、例えば、Wantierらに付与されている米国特許第5,478,564号;Yamamotoらの欧州特許出願第EP190,833号;Okadaらの米国特許第5,480,656号;およびAllemann et al.,1992,Intl.J.Pharmaceutic 87:247-253;に記載の方法を用いて調製することができる。このほか、マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアは、本発明のコーティング組成物を室温で約18時間攪拌して有機溶剤を蒸発させることによって得ることもできる。スフィアは、超遠心分離により回収し、水で数回洗浄し、凍結乾燥器中で乾燥させる。
【0126】
マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアの調製に好適な生物適合性生分解性ポリマーは、先に記載したものである。
【0127】
マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアを形成してから好適な溶剤中に懸濁させて懸濁液を調製してもよい。マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアの懸濁液を調製するための有用な溶剤は、溶剤を蒸発させる前、スフィアを実質的に劣化させてはならず、好ましくは、約25℃〜30℃で容易に蒸発させることができるように十分に低い蒸気圧を有するであろう。更に、溶剤は、マイクロスフィアおよび/またはナノスフィア中に閉込められた薬剤を実質的に劣化させてはならない。好適な溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの低MWアルコール;アセトニトリル;アセトン;水-アセトン、水-アセトニトリルなどの共溶剤、が挙げられるが、これらに限定されるものではない。水もまた、溶剤として使用してもよい。水は、減圧下で蒸発を促進させて、コーティングの施された用具から、後から除去することができる。
【0128】
コーティングされる用具に対するマイクロスフィアおよび/またはナノスフィアの接着性を改良するために、スフィアには更に、生物接着ポリマーが含まれていてもよい。生物接着ポリマーは、マイクロスフィアおよび/またはナノスフイアの調製に使用されるエマルジョンに生物接着物質を添加することによって、スフィア中に取込まれる。典型的には、約1%〜10%(w/v)、好ましくは約3%〜5%(w/v)の生物接着物質をエマルジョンに添加してスフィアを調製する。
【0129】
このほか、コーティング懸濁液には更に、約3%〜5%(w/v)の生物接着ポリマーが含まれていてもよい。好ましくは、生物接着ポリマーは、懸濁液の調製に使用される溶剤に可溶である。マイクロスフィアおよび/またはナノスフィア中への取込またはコーティング懸濁液中への導入を行うための好適な生物接着ポリマーとしては、例えば、商品名PLURONIC F-68TMおよびPLURONIC F-127TM(BASFの登録商標;ミズーリ州St.LouisのSigma Chemical Co.から入手可能である)として販売されているエチレンオキシドとプロピレンオキシドとのブロックコポリマーなどのポラキソマー、メチルセルロース、カルボポール、シアノアクリル酸塩、ムチン、アルギン酸塩、アラビアゴム、ゼラチン、コラーゲンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0130】
場合により、スフィアまたはコーティング懸濁液には更に、粒状細胞内DNAおよび/またはRNAプロセシングを促進する薬剤が含まれていてもよい。このような薬剤としては、例えば、クロロキン、サイトカラシンB、コルヒチン、ポリビニルピロリドン、スクロース、ポリリシンなどのようにリソソームの働きを阻害または混乱させる化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。このような化合物は、遺伝子の移入および細胞核中への導入を促進するであろう。
【0131】
もちろん、マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアの表面の改質あるいはマイクロスフィアおよび/またはナノスフィアの中への他の薬剤の導入が望まれる場合も多いことを理解する必要がある。例えば、特定の組織もしくは細胞への標的化および結合、投与部位での残留、取込薬剤の保護、抗血栓作用の出現、および/または凝集の防止の能力を、マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアに付与することが望ましい場合がある。
【0132】
特定の例として、受容体特異性粒子摂取を媒介するために、例えば、抗体などの受容体特異性分子をマイクロスフィアおよび/またはナノスフィアの中へ導入することが望ましい場合がある。これらのおよびその他の望ましい性質をマイクロスフィアおよびナノスフィアに付与するための薬剤および方法は、当該技術分野で周知である(例えば、Troster et al.,1990,Intl.J.Pharmaceutics 61:85-100;Davis et al.,1993,J.Controlled Release 24:157-163;Muller et al.,1993,Intl.J.Pharmaceutics 89:25-31;Maruyama et al.,1994,Biomaterials15:1035-1042;Leroux et al.,1994,J.Biomed.Materials Res. 28:471-481を参照されたい)。これらの方法はいずれも本発明と組合せて使用することができる。
【0133】
5.4 薬剤
本発明のコーティング方法および組成物の主な利点の一つは、それらを使用することにより、疎水性、親水性、極性、半極性、小分子、タンパク質、DNAなどのいずれであろうとも、実質的にすべての薬剤を用いて医療用具を被覆し得るということである。
【0134】
本発明において有用な薬剤としては、例えば、限定するものではないが、心臓血管剤;通常ワクチンに見られる薬剤などの免疫応答を引き起こさせることが可能な薬剤;抗がん剤;抗生物質;抗菌剤;ステロイドおよび非ステロイド系抗炎症剤;抗増殖剤(anti-proliferative agents);抗トロンビン剤、抗血小板剤などの抗凝血特性を有する薬剤;一酸化窒素合成酵素インヒビター(N,N-ジメチルアルギニン)、チロシンキナーゼインヒビター、アルカリホスファターゼインヒビター、アンギオテンシン変換酵素インヒビターなどの特異的酵素インヒビター;組織因子系凝固インヒビター(TFPI)ペプチドインヒビター;ホルモンなどが挙げられる。
【0135】
心臓血管剤としては、血小板由来増殖因子、内皮細胞増殖因子、繊維芽細胞増殖因子、平滑筋細胞由来増殖因子、インターロイキン1および6、トランスフォーミング増殖因子β、ならびに低密度リポタンパク質のようなシミュレータ(simulators);アンギオテンシンII、エピネフリン、ノルエピネフリン、神経ペプチド、サブスタンスPおよびK、エンドセリン、トロンビン、ロイキトリン(leukitrins)、プロスタグラジン、上皮増殖因子、がん遺伝子(c-myb、c-myo、fos)、ならびに増殖細胞核抗原のような血管作動薬;トランスフォーミング増殖因子β、ヘパリン様因子および血管緊張低下剤(vasorelaxants)のようなインヒビター;ヘパリン、ヒルジンおよびヒルログ(hirulog)のような抗トロンビン;アスピリン、ジピリマドール(dipyrimadole)、スルフィンピロゾン(sulfinpyrozone)、サリチル酸、エイコサペンタン酸、シプロステン(ciprostene)および血小板糖タンパク質IIb/IIIaに対する抗体のような抗血小板剤;ニフェジピン、ベラパミル、およびジルチアゼムのようなカルシウムチャンネル阻害剤;カプトプリル(captopril)およびシラザプリル(cilazapril)のようなアンチテンシン(antitensin)変換酵素(ACE)インヒビター;ステロイドおよびサイクロスボリンのような免疫抑制剤;魚油;アンギオペプチン(angiopeptin)およびトラピジル(trapidil)のような増殖因子アンタゴニスト;サイトカラシンのような細胞骨格インヒビター;デキサメタゾンのような抗炎症剤;ストレプトキナーゼおよびウロキナーゼのような血栓崩壊剤;コルヒチンおよびU-86983(Upjohn社、カラマズー(Kalamazoo)、ミシシッピー州)のような抗増殖剤(antiproliferatives);心臓血管病のDNAおよび/またはアンチセンス治療に適した遺伝物質;スタウロスポリンのようなプロテインキナーゼインヒビター;サイトカラシン、およびスラミンのような平滑筋移動および/または収縮インヒビター;ならびにニトログリセリンおよびその類似体のような一酸化窒素放出化合物が挙げられ得る。
【0136】
免疫応答を引き起こさせることが可能な薬剤としては、破傷風トキソイド、コレラトキシン、スタフィロコッカスエンテロトキシンB、百日咳、肺炎球菌、スタフィロコッカスおよびストレプトコッカス抗原、ならびにE.coli(病原性)のようなタンパク質を基剤とする細菌性ワクチン;AIDS抗原、ウイルス性タンパク質(インフルエンザ、アデノウイルス等)、生ウイルス(生菌ポリオウイルス等)、肝炎ウイルス成分、ロタウイルス成分のようなウイルス性ワクチンタンパク質;ウイルスおよび細菌多糖類;ならびにDNAを基剤とするワクチンが挙げられる。
【0137】
抗がん剤としては、メクロエタミン、シクロホスファミド、イホスファミド、メファラン(mephalan)、クロラムブシル、ヘキサメチルアミン、チオテパ、ブスルファン、カルムスチン、ロムスチン(lomustin)、ロムスチン(lomustine)、セムスチン、ストレプトゾシン、およびジカルバイン(dicarbaine)のようなアルキル化剤;メトトレキセート、フルオロウラシル、フロクスウリジン、シタラビン、メルカプトプリン、チオグアニン、およびペントスタチンのような代謝拮抗薬;アルカロイド(ビンブラスチン、ビンクリスチン等)、トキシン(エトポシド、テニポシド(teniposide)等)、抗生物質(ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ブレオマイシン、プリカマイシン(plicamysin)、マイトマイシン等)および酵素(L-アスパラギナーゼ等)のような天然産物;インターフェロン−αのような生物学的応答調節剤;アドレノコルチコイド(デキサメタゾン等)、プロゲスチン、エストロゲン、抗エストロゲン、アンドロゲン、および性腺刺激ホルモン放出ホルモン類似体のようなホルモンおよびアンタゴニスト;がん抑制遺伝子(RB、P53等)、サイトカイン遺伝子、腫瘍壊死因子−α cDNA、がん胎児性抗原遺伝子、およびリンホカイン遺伝子のような抗がん遺伝子;トキシン介在遺伝子治療;アンチセンスRNA(E6およびE7遺伝子に対するアンチセンス等);副腎皮質抑制剤(ミトーテン、アミノグルテチミド等);ならびにシスプラチン、ミトザントロン、ヒドロキシ尿素、およびプレオカラバジンのような種々雑多な(miscellaneous)薬剤が挙げられる。
【0138】
その他の薬剤としては、酵素、サイトカイン、細胞接着分子、輸送タンパク質、生物学的活性ペプチド、核酸、プロタミン、コラーゲン、エラスチン、マトリックスタンパク質、炭水化物、プロテオグリカン、脂質、コレステロール、トリグリセリド、リポタンパク質、アポリポタンパク質、界面活性剤などが挙げられる。
【0139】
もちろん、上記リストは単に説明を目的とするものである。当業者は、本明細書に記載された方法にしたがって、生体適合性で(biocompatible)生分解性のポリマーマトリックスに含有せしめることができる、現在公知の、または後に開発されるであろうすべての薬剤または薬剤の組み合わせが本発明に本質的に含まれるものであるということを理解するであろう。
【0140】
5.4.1 核酸
特に好ましい実施態様においては、本発明は、薬剤が核酸であるコーティング組成物を提供する。最近、創傷治癒プロセスにおいて活性である増殖性修復細胞が核酸を取り込んで発現させるのに驚くほど効率的であるということが見出された(1996年4月8日に出願した、共同係属中の代理人事件登録第8464-007-999号)。
【0141】
したがって、特に外科的インプラント、縫合糸(sutures)、創傷包帯(wound dressings)などの医療用具を核酸を含む本発明の組成物で被覆することにより、治療用核酸を医療介入の局所部位に容易且つ効率的に移動させて任意に発現させるための都合のよい手段が得られ得る。このような被覆用具は、特に遺伝子治療のために核酸を標的送達するための都合のよい手段を提供するものである。
【0142】
本発明の特に好ましい組成物を用いることにより、広範な種類の治療用核酸で医療用具を被覆することができる。「核酸」とは、デオキシリボヌクレオシドから構成されようが、リボヌクレオシドから構成されようが、そしてホスホジエステル結合から構成されようが、ホスホトリエステル、ホスホルアミデート、シロキサン、カーボネート、カルボキシメチルエステル、アセトアミデート、カルバメート、チオエーテル、架橋ホスホルアミデート、架橋メチレンホスホネート、架橋ホスホルアミデート、架橋ホスホルアミデート、架橋メチレンホスホネート、ホスホロチオエート、メチルホスホネート、ホスホロジチオエート、架橋ホスホロチオエートまたはスルホン結合、およびそのような結合の組み合わせのような修飾結合から構成されようが、あらゆる核酸を意味するものである。
【0143】
また、核酸という用語には、特に、5種類の生物学的に生ずる塩基(アデニン、グアニン、チミン、シトシンおよびウラシル)以外の塩基から構成される核酸も含まれる。
【0144】
本発明において有用な核酸としては、例えば、限定するものではないが、アンチセンスDNAおよび/またはRNAのようなオリゴヌクレオチド;リボサイム;遺伝子治療用DNA;ウイルスDNAおよび/またはRNAなどのウイルス断片;DNAおよび/またはRNAキメラ;1本鎖DNA、2本鎖DNA、スーパーコイルDNAおよび/または三重らせんDNAなどのDNAの種々の構造体;Z−DNAなどが挙げられる。核酸は、核酸を大量に調製するために典型的に使用されているあらゆる通常の手段により調製され得る。例えば、DNAおよびRNAは、市販の試薬および合成装置を用いて当技術分野で周知の方法によって化学的に合成され得る(例えば、Gait,1985,Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press,オックスフォード,英国を参照されたい)。RNAは、SP65(Promega社、マジソン、ウィスコンシン州)などのプラスミドを用いて、in vitro転写によって高収率で製造され得る。
【0145】
いくつかの状況においては、ヌクレアーゼ安定性が高いほうが望ましい場合、修飾ヌクレオシド間結合を有する核酸が好ましくあり得る。修飾ヌクレオシド間結合を含む核酸も、当技術分野において周知の試薬および方法を用いて合成され得る。例えば、ホスホネートホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホルアミデートメトキシエチルホスホルアミデート、ホルムアセタール、チオホルムアセタール、ジイソプロピルシリル、アセトアミデート、カルバメート、ジメチレン−スルフィド(−CH2−S−CH2)、ジメチレン−スルホキシド(−CH2−SO−CH2)、ジメチレン−スルホン(−CH2−SO2−CH2)、2'-0-アルキルおよび2'−デオキシ-2'-フルオロホスホロチオエートヌクレオシド間結合を含む核酸を合成する方法は、当技術分野において周知である(Uhlmannら,1990,Chem.Rev. 90:543-584;Schneiderら,1990,Tetrahedron Lett.31:335およびそこに引用された参考文献を参照されたい)。
【0146】
核酸は、当技術分野で周知のあらゆる適当な手段によって精製され得る。例えば、核酸は、逆相もしくはイオン交換HPLC、サイズ排除クロマトグラフィー、またはゲル電気泳動によって精製することができる。もちろん、当業者は、精製方法が、部分的に、精製されるDNAの大きさに依存するであろうことは理解しているであろう。
【0147】
核酸は、それ自体、例えばmRNA翻訳を阻害するアンチセンスDNAなどの治療薬として作用し得るものであり、または、核酸は、修復細胞によって発現される種々の治療用の転写産物または翻訳産物をコードし得るものである。有用な転写産物としては、アンチセンスRNA、リボザイム、ウイルス断片などが挙げられる。有用な翻訳産物としては、例えば、膜タンパク質、転写因子、細胞内タンパク質、サイトカイン結合タンパク質などが挙げられる。
【0148】
本発明の好ましい実施態様においては、核酸は、傷つけられた、または損傷した組織の治癒をin vivoで刺激または促進する遺伝子産物をコードするDNA分子である。このDNA分子としては、細胞外、細胞表面および細胞内のRNAおよびタンパク質を含む、治癒を刺激または促進する種々の因子をコードするゲノムDNA分子またはcDNAが挙げられ得る。一方、このDNA分子は、遺伝子欠損から生じる欠如または欠陥遺伝子産物を補う機能的タンパク質をコードし得るものである。
【0149】
細胞外タンパク質としては、例えば、増殖因子、サイトカイン、治療用タンパク質、ホルモンおよびホルモンのペプチド断片、サイトカインのインヒビター、ペプチド増殖および分化因子、インターロイキン、ケモカイン、インターフェロン、コロニー刺激因子、血管新生促進因子、およびコラーゲン、ラミニン、フィブロネクチンなどの細胞外マトリックスタンパク質が挙げられる。
【0150】
そのようなタンパク質の具体例は、限定するものではないが、5種類のTGF−βアイソフォームや骨形成因子(BMP)などのTGF−β分子のスーパーファミリー、潜伏TGF−β結合タンパク質(LTBP)、角質細胞増殖因子(KGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、インスリン様増殖因子(IGF)、塩基性繊維芽細胞増殖因子(FGF−1、FGF−2)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、第VIII因子および第IX因子、エリスロポエチン(EPO)、組織プラスミノーゲンアクチベーター(TPA)、アクチビン、ならびにインヒビンが挙げられる。
【0151】
本発明の実施において使用され得る創傷治癒を刺激するホルモンとしては、例えば、成長ホルモン(GH)および副甲状腺ホルモン(PTH)が挙げられる。
【0152】
細胞表面タンパク質としては、例えば、細胞接着分子のファミリー(例えば、インテグリン、セレクチン、N−CAMおよびL1のようなIgファミリーメンバー、ならびにカドヘリン)、I型およびII型TGF−β受容体ならびにFGF受容体のようなサイトカインシグナリング(signaling)受容体、βグリカンおよびシンデカンのような非シグナリング補受容体(coreceptors)が挙げられる。
【0153】
細胞内RNAおよびタンパク質としては、例えば、シグナル伝達キナーゼのファミリー、テーリンおよびビンキュリンのような細胞骨格タンパク質、潜伏TGF−β結合タンパク質のようなサイトカイン結合タンパク質、ならびに転写因子および促進因子のような核トランス作用タンパク質が挙げられる。
【0154】
また、DNA分子は、病理学的プロセスを遮断するタンパク質もコードし得るので、自然の創傷治癒プロセスを妨害されることなく生じさせることができる。遮断因子の例としては、RNA機能を破壊するリボザイム、ならびに例えば組織完全性を破壊する酵素の組織インヒビター(例えば、変形性関節症に関連するメタロプロテイナーゼのインヒビター)をコードするDNAが挙げられる。
【0155】
当業者に一般的に公知の種々の分子生物学的方法を用いることによって興味の対象であるタンパク質をコードするDNAセグメントを得ることができる。例えば、cDNAまたはゲノムライブラリーを、公知のヌクレオチド配列に基づく配列を有するプライマーまたはプローブを用いてスクリーニングすることができる。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いることにより興味の対象であるタンパク質をコードするDNA断片を作製することができる。一方、DNA断片は市販品を入手してもよい。
【0156】
修飾遺伝子配列、すなわち、天然タンパク質をコードする遺伝子配列とは異なる配列を有する遺伝子も、その修飾遺伝子が依然として直接的または間接的な様式で治癒を刺激するように機能するタンパク質をコードする限り、本発明に含まれるものである。これらの修飾遺伝子配列としては、点突然変異によって生じる修飾、遺伝コードまたは天然対立遺伝子変異体の縮重による修飾、そしてさらに遺伝子操作、すなわち人間の手によって導入された修飾が挙げられる。
【0157】
コードされるタンパク質またはポリペプチドの機能的特性を変更するために設計されるヌクレオチド配列内への変化を導入するための技術は、当技術分野では周知である。そのような修飾としては、塩基の欠失、挿入または置換が挙げられ、よってアミノ酸配列が変化する。変化によって、タンパク質の活性を増大させたり、その生物学的安定性または半減期を増大させたり、そのグリコシル化パターンを変化させたりすることが可能である。そのようなタンパク質をコードするヌクレオチド配列へのそのような修飾はすべて、本発明に含まれるものである。
【0158】
興味の対象である転写または翻訳産物をコードするDNAは、被覆された医療用具の調製のために、そのDNAを大量に複製することができる種々の宿主ベクター系に組換え的に導入され得る。これらのベクターは、in vivoで、創傷部位にて修復細胞によって取り込まれたDNA配列の転写および/または翻訳を誘導するための必須のエレメントを含むように設計することができる。
【0159】
使用され得るベクターとしては、限定するものではないが、組換えバクテリオファージDNA、プラスミドDNAまたはコスミドDNAから誘導されるものが挙げられる。例えば、pcDNA3、pBR322、pUC19/18、pUC118、119、およびM13mp系のベクターのようなプラスミドベクターが使用され得る。バクテリオファージベクターとしては、λgt10、λgt11、λgt18−23、λZAP/R、およびEMBL系のバクテリオファージベクターが挙げられ得る。利用され得るコスミドベクターとしては、限定するものではないが、pJB8、pCV103、pCV107、pCV108、pTM、pMCS、pNNL、pHSG274、COS202、COS203、pWE15、pWE16、およびcharomid9系のベクターが挙げられる。
【0160】
一方、限定するものではないが、ヘルペスウイルス、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、deno−関連ウイルス、ウシパピローマウイルスのようなウイルスから誘導されたものなどの組換えウイルスベクターが操作され得る。組込みベクターが使用される一方で、創傷治癒に対しては、遺伝子産物を何世代にもわたって娘細胞に遺伝させない非組込み系が好ましい。このように、遺伝子産物は創傷治癒プロセスの間に発現され、遺伝子は子孫世代で弱められるので発現遺伝子産物の量はしだいに減少する。
【0161】
生物学的に活性なタンパク質を発現させるために、そのタンパク質をコードするヌクレオチド配列は、適切な発現ベクター、すなわち挿入されたコード配列の転写および翻訳に必須のエレメントを含むベクターに挿入され得る。当業者に周知の方法を用いることにより、適切な転写/翻訳調節シグナルに機能的に作用するように関連付けられたタンパク質コード配列を有する発現ベクターを構築することができる。これらの方法としては、in vitro組換えDNA技術および合成的技術が挙げられる。例えば、Sambrookら,1992,Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,ニューヨークおよびAusubelら,1989,Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing Associates & Wiley Interscience,ニューヨークを参照されたい。
【0162】
興味の対象であるタンパク質をコードする遺伝子は、種々の異なるプロモーター/エンハンサーエレメントに機能的に作用するように関連付けられ得る。プロモーター/エンハンサーエレメントは、治療学的な量のタンパク質の発現を最大限にするように選択され得る。これらのベクターの発現エレメントは、その強さおよび特異性が異なってもよい。利用される宿主/ベクター系に依存して、いくつかの適当な転写および翻訳エレメントのいずれか一つを使用し得る。プロモーターは、興味の対象である遺伝子にもともと関連付けられているプロモーターの状態であり得る。一方、DNAを、組換えプロモーターまたは異種プロモーター、すなわちその遺伝子と通常関連付けられていないプロモーターの調節下に配置してもよい。例えば、組織特異的プロモーター/エンハンサーエレメントを用いることにより特定の細胞型における転移DNAの発現を調節し得る。
【0163】
記述されており、使用することができる組織特異性を示す転写調節領域としては、例えば、限定するものではないが、膵臓腺房細胞において活性であるエラスターゼI遺伝子調節領域(Swiftら,1984,Cell 38:639-646;Ornitzら,1986,Cold Spring Harbor Symp.Quant.Biol. 50:399-409;MacDonald,1987,Hepatology 7:42S-51S);膵臓β細胞において活性であるインスリン遺伝子調節領域(Hanahan,1985,Nature 315:115-122);リンパ系細胞において活性である免疫グロブリン遺伝子調節領域(Grosschedlら,1984,Cell 38:647-658;Adamsら,1985,Nature 318:533-538;Alexanderら,1987,Mol.Cell.Biol. 7:1436-1444);肝臓において活性であるアルブミン遺伝子調節領域(Pinkertら,1987,Genes and Devel. 1:268-276);肝臓において活性であるα−フェトプロテイン遺伝子調節領域(Krumlaufら,1985,Mol.Cell.Biol. 5:1639-1648;Hammerら,1987,Science 235:53-58);肝臓において活性であるα-1-アンチトリプシン遺伝子調節領域(Kelseyら,1987,Genes and Devel. 1:161-171);骨髄性細胞において活性であるβ−グロビン遺伝子調節領域(Magramら,1985,Nature 315:338-340;Kolliasら,1986,Cell 46:89-94);脳のオリゴデントロサイト細胞において活性であるミエリン塩基性タンパク質遺伝子調節領域(Readheadら,1987,Cell 48:703-712);骨格筋において活性であるミオシン軽鎖−2遺伝子調節領域(Shani,1985,Nature 314:283-286);および視床下部において活性である性腺刺激ホルモン放出ホルモン遺伝子調節領域(Masonら,1986,Science 234:1372-1378)が挙げられる。哺乳類細胞において増殖するウイルスのゲノムから単離されたプロモーター(例えば、ワクシニアウイルス7.5K、SV40、HSV、アデノウイルスMLP、MMTV、LTRおよびCMVプロモーター)ならびに組換えDNAまたは合成技術によって産生させたプロモーターが使用され得る。
【0164】
いくつかの場合には、プロモーターエレメントは構成または誘導プロモーターであり得るものであり、興味の対象である遺伝子の高レベルの発現または調節された発現を誘導するのに適した条件下で使用することができる。構成プロモーターの調節下における遺伝子の発現は、遺伝子発現を誘発するための特異的な基質の存在を必要とせず、細胞増殖のすべての条件下で発生するであろう。対照的に、誘導プロモーターによって調節される遺伝子の発現は、誘導剤の存在または不存在に対し応答的である。
【0165】
挿入されたタンパク質コード配列の十分な翻訳のためには特定の開始シグナルも必要である。これらのシグナルとしては、ATG開始コドンおよび隣接配列が挙げられる。開始コドンおよび隣接配列を含むコード配列全体が適切な発現ベクターに挿入される場合、追加の翻訳調節シグナルは不要であり得る。しかしながら、コード配列の一部のみが挿入される場合、ATG開始コドンを含む外因性翻訳調節シグナルを付与しなければならない。さらに、開始コドンは、挿入物全体を確実に翻訳するために、タンパク質コード配列のリーディングフレームを有する相(phase)内に存在する必要がある。これらの外因性翻訳調節シグナルおよび開始コドンは、種々の起源(天然、合成の両方)のものであり得る。発現の効率は、転写アテニュエーション配列、エンハンサーエレメントなどを含有せしめることによって高められ得る。
【0166】
興味の対象である治療用タンパク質をコードするDNA配列に加えて、本発明の範囲には、哺乳類修復細胞に輸送され得るか、または該細胞によって発現され得るリボザイムまたはアンチセンスDNA分子の使用が含まれる。かかるリボザイムおよびアンチセンス分子を使用することにより、治癒プロセスを阻害するタンパク質をコードするDNAの転写またはRNAの翻訳を阻害し得るものである。
【0167】
輸送された、または発現したアンチセンスRNA分子は、標的となるmRNAに結合し、タンパク質翻訳を妨げることによってmRNAの翻訳を直接的に阻害するように作用する。輸送された、または発現されたリボザイム(これは、RNAの特異的切断を触媒することが可能な酵素的RNA分子である)を使用することによってもタンパク質翻訳を阻害することが可能である。リボザイム作用の機構には、リボザイム分子が相補的標的RNAに配列特異的にハイブリダイゼーションした後、エンドヌクレアーゼによって切断されることが関与する。本発明の範囲には、RNA配列のエンドヌクレアーゼによる切断を特異的且つ効率的に触媒する、操作を加えたハンマーヘッドモチーフ(hammerhead motif)リボザイム分子が含まれる。RNA分子は、RNA分子をコードするDNA配列の転写によって産生され得る。
【0168】
また、本発明の範囲においては、l個以上のプロモーターの調節下で1個の遺伝子構築物に結合した、または同一または異なる型の別個の構築物として調製された同義遺伝子も使用され得るものである。したがって、種々の遺伝子および遺伝子構築物のほとんど無限の組み合わせが用いられ得る。ある一定の遺伝子組み合わせを設計することにより、またはそのような組み合わせを用いることによリ、治癒に対する細胞刺激および再生において共同効果が得られ得る。そのような組み合わせはすべて本発明の範囲に含まれるものである。実際、多くの共同効果が科学文献に記載されているので、当業者は、共同的な遺伝子組み合わせか、または遺伝子−タンパク質組み合わせでさえ容易に同定することができるであろう。
【0169】
5.5 被覆用具を調製する方法
インプラント、縫合糸、創傷包帯などの医療用具は、当技術分野で周知の通常のコーティング技術を用いて本発明のコーティング組成物で被覆することが可能である。そのような方法としては、例えば、限定するものではないが、コーティング組成物中への用具の浸漬、コーティング組成物による用具のはけ塗り、および/または本発明のエアゾールコーティング組成物による用具の吹き付けが挙げられる。次いで、用具を、室温で、または乾燥炉によって、任意に減圧下にて乾燥する。外科的縫合糸を被覆するための好ましい方法は、実施例に記載されている。
【0170】
いくつかの場合には、本発明のコーティング組成物は被覆される用具に十分に接着しない可能性がある。チタンピンや金属材料から構築されたその他の用具などの整形外科用の移植片の場合、そのような可能性がある。これらの場合においては、まず、用具を、用具と本発明の組成物の両方に対して親和性を有する材料で被覆し、次いで本発明のコーティング組成物で用具をさらに被覆するのが望ましくあり得る。
【0171】
本発明のエアゾールコーティング組成物は、スプレーまたは泡の状態で調合され得るものであり(英国特許第1,372,721号)、塗布部位上に泡(米国特許第5,378,451号)またはゲル(米国特許第4,534,958号)を形成し得るものである。コーティングの密度は、送達される薬剤の用量に依存して、数マイクロメートル〜ミリメートルの範囲で変動し得るものである。
【0172】
コーティング組成物をエアゾールの状態で塗布することは、移植直前に外科的インプラントに即座の(on-the-spot)スプレーをしたり、包帯を巻く直前に包帯に即座にスプレーしたりすることなど、医療用具を使用する直前にその用具を被覆するのに特に有用である。これにより、過度の取扱いによって被膜がとれる可能性が低減するであろう。
【0173】
用具は、薬学的に有効な量の薬剤を含むポリマーマトリックスで被覆されることが重要であり、そしてその被膜は比較的連続的で均一であることが重要である。薬学的に有効で均一な被膜を得るために、用具を、数回、典型的にはコーティング組成物によるそれぞれの塗布の間で乾燥を行いながら被覆してもよい。したがって、例えば、用具をコーティング組成物中に数回浸漬してもよく、またはコーティング組成物で数回スプレーしてもよい。コーティングプロセスは、薬学的に有効な被膜で用具を被覆することが要求される場合、何回でも繰り返すことが可能である。
【0174】
被覆の回数は、1回の被覆から100回以上の被覆まで変動し得るものである。典型的には、被覆の回数は約5〜50の範囲であり、好ましくは約20〜30の範囲である。各被覆の後、次の被覆を行う前に用具を約1〜30分間、好ましくは約5〜10分間空気乾燥させる。
【0175】
十分な回数の被覆を行った後、実質的な量の有機溶媒を蒸発させるのに十分な期間被覆された用具を空気乾燥する。典型的には、用具は約12〜48時間、好ましくは約16〜24時間空気乾燥されるであろう。一方、用具は、減圧下で、例えば約10〜400mmHg、好ましくは約50〜100mmHgで乾燥される。
【0176】
プラスミドDNAを含むポリマーマトリックスで被覆された縫合糸については、合計約0.01〜10mgのプラスミドDNA、好ましくは約1〜5mgのプラスミドDNAを含むコーティング組成物を、70cmの長さの縫合糸に約5〜100回、好ましくは約5〜50回、より好ましくは約15〜30回被覆することにより、治療上有効で均一な被膜が得られるということがわかった。
【0177】
本発明の好ましい実施態様においては、医療用具はマイクロ球(microspheres)および/またはナノ球(nanospheres)の状態のポリマーマトリックスで被覆される。そのように被覆された用具は、その被覆された医療用具を取り囲んでいる局所領域にマイクロ球および/またはナノ球を放出することによって、薬剤の細胞内ならびに細胞外局所送達に特に適している。
【0178】
マイクロ球および/またはナノ球から構成される被膜は、本発明のエマルジョンコーティング組成物か懸濁コーティング組成物のいずれかを用いて得ることができる。理論に縛られるつもりはないが、マイクロ球および/またはナノ球の調製に適した乳状エマルジョンを医療用具に塗布することは、平滑なポリマーシースの形成よりもむしろマイクロメートルおよび/またはナノメートルサイズの粒子を含むポリマーマトリックス被膜の形成に好都合であり得ると考えられる。
【0179】
マイクロ球および/またはナノ球から構成されるポリマーマトリックス被膜の形成は、いくつかの様式で促進され得る。例えば、かかるポリマーマトリックスは、用具を被覆する前に、本発明のエマルジョンコーティング組成物中でマイクロ球および/またはナノ球の「核を形成させる(nucleating)」ことによって促進され得る。用具を被覆した後、残留している溶媒を蒸発させて薬剤を含むマイクロ球および/またはナノ球の被膜を用具上に付着させる。
【0180】
マイクロ球および/またはナノ球の核は、コーティング組成物の成分がマイクロ球および/またはナノ球生成に対して「臨界濃度」であるコーティング組成物を調製することによって形成され得る。そのような臨界濃度は、以前に記載されたようにしてエマルジョンコーティング組成物を調製し、用具を被覆する前に攪拌しながらエマルジョン溶媒を一部蒸発させることによって得ることができる。一般的に、用具を被覆する前にコーティング組成物の約5〜60容量%を蒸発させることによって、医療用具に塗布した場合にマイクロ球および/またはナノ球を生成させるのに都合がよい組成物が得られる。好ましくは、組成物の約15〜50容量%を用具を被覆する前に蒸発させる。
【0181】
マイクロ球および/またはナノ球から構成されるポリマーマトリックス被膜の形成は、まず、被覆される用具に乳化剤特性を与えることによっても促進され得る。というのは、かかる特性は、マイクロ球および/またはナノ球形成を高めると考えられるからである。まず、長鎖脂肪酸を用いて誘導体化されたポリウレタン(PittおよびCooper,1988,J.Biomed.Res.:359-382)または当業者に周知のその他の脂肪酸誘導体化ポリマーのような乳化剤特性を有するポリマーで用具を被覆することによって、用具に乳化剤特性を付与することができる。用具を被覆するのに適した脂肪酸誘導体化ポリマーを含む組成物は、本明細書に記載された方法によって、または当技術分野で公知の方法によって調製することができる。次いで、用具を、本明細書に記載したようにして本発明のコーティング組成物で被覆する。
【0182】
また、まず、乳化剤を含むポリマーマトリックスで用具を被覆し、次いで本発明のコーティング組成物で用具を被覆することによって用具に乳化剤特性を付与することができる。用具を乳化剤で被覆するのに適した組成物は、本明細書に記載した方法によって、一般的に薬剤を含有せしめることなく調製することができる。この場合、乳化剤は、典型的には、組成物中に約1%〜10%(w/v)、好ましくは約1%〜5%(w/v)の量で含まれる。
【0183】
別の実施態様においては、医療用具は、本発明のコーティング懸濁液を用いることによって、マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアから構成されるポリマーマトリックスでコーティングされ得る。用具をコーティングするために、以前に記載されたようにして調製した予備形成させたマイクロスフィアおよび/またはナノスフィアを含むコーティング懸濁液を用いて医療用具をコーティングする。用具に塗布したら、溶媒を蒸発させて用具の表面上にマイクロスフィアおよび/またはナノスフィアを付着させる。用具は、以前に記載されたように、多数回塗布によりコーティングされ得る。スフィアの用具への接着は、以前に記載されたような生物接着物質(bioadhesives)を使用することにより改良され得る。
【0184】
マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアは、アフィニティクロマトグラフィーの分野で通常使用されている化学現象を用いることによって用具に共有結合させてもよい(例えば、BioRad Laboratories,リッチモンド,カリフォルニア州およびPharmacia BioTech,Uppsala,スウェーデンの製品カタログおよびそこに引用された参考文献を参照されたい)。マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアを用具に共有結合させるのに適した反応性官能基としては、例えば、限定するものではないが、アルデヒド、アミン、アミド、無水物、カルボン酸、エポキシド、ヒドラジド、ヒドロキシル、チオールなどが挙げられる。
【0185】
共有結合させるために、スフィアおよび医療用具は、その表面にフリーの反応性官能基を有するように「活性化」される。スフィアおよび医療用具は、医療用具が適当な条件下でスフィアと接触した場合に共有結合が形成されるような相補的な反応性基を有する。そのような相補的な反応性基としては、例えば、限定するものではないが、エポキシドおよび、ヒドロキシル、アミノ、スルフヒドリル、カルボキシル、無水物およびフェノール基;カルボン酸および、ヒドロキシルまたはアミン基;ならびに合成化学の当業者には容易に明らかになるであろうその他のものが挙げられる。好ましくは、相補的官能基は、比較的穏やかな条件下で共有結合を形成するように反応させる。
【0186】
一般的には、活性化されたマイクロスフィアおよび/またはナノスフィアは、フリーの反応性官能基を有する生物適合性で生分解性のポリマーから構成されるか、あるいは、マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアを用具に共有結合させるのに十分な量のフリーの反応性官能基を有するポリマーもしくはリンカーが活性化されたマイクロスフィアおよび/またはナノスフィアに含まれているか、結合している。
【0187】
フリーの反応性官能基を有する適当なポリマーは、当技術分野で公知であり、例えば、限定するものではないが、PLGA、ポリアクリル酸、ポリ(アクリル酸ナトリウム)、ポリアルキルアクリル酸、ポリ(アルキルアクリル酸ナトリウム)、ポリ(アルキレンオキシド)、ポリスチレンスルホン酸、ポリスチレンカルボン酸など(これらはPolymer Source社、Dorval,ケベック(Quebec),カナダから入手可能である)が挙げられる。フリーの反応性官能基を有する適当なリンカーは、アフィニティクロマトグラフィーの分野、ならびにその他の分野で周知である。
【0188】
典型的には、スフィアに含ませるか、結合させる場合、マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアの制御放出特性に影響を及ぼさない量のリンカーまたはポリマーが好ましい。一般的には、マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアは、フリーの反応性官能基を有するポリマーまたはリンカーを、約0.1%〜10%(w/w)、好ましくは約1%〜5%(w/w)含有する。
【0189】
一つの実施態様においては、マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアは、医療用具に共有結合するのに適した量のヒドロキシ末端またはエポキシド末端ポリ(ε−カプロラクトン)−ポリエーテル多ブロック(multiblock)コポリマーから構成されるか、または該コポリマーを含んでいる(1995年2月16日に出願された共同係属中の米国特許出願第08/389,893号、特にその76〜96ページに記載されている。その開示は参照として本明細書に取り込まれるものである)。ヒドロキシ末端またはエポキシド末端ポリ(ε−カプロラクトン)−ポリエーテル多ブロックコポリマーは、親水性部分(それらはポリ(エチレングリコール)などの親水性ポリエーテルであり得る)および疎水性ポリ(ε−カプロラクトン)(「PCL」)部分から構成される。
【0190】
疎水性PCL部分および親水性部分を含むブロックコポリマーは、図6で説明しているように、ヒドロキシル末端基およびエポキシド基との多重反応によって合成され得る。図6に例示した反応スキームを用いることにより、コポリマーブロックをABA−、BAB−ならびに(AB)n−型ブロックコポリマーに化学的に連結することができ、よってブロックコポリマーの疎水度およびMWを望みどおりに調整することができる。
【0191】
図6に言及すると、化合物30はポリカプロラクトンジオール(「PCL−ジオール」)である。市販されている中でMWが最も大きいPCL−ジオールは、MWが3000のものであり、これは、薬剤の持続的放出のためにコポリマーにおける主部分として作用するには十分な大きさではない。意図する使用温度で固体であるMWがより大きいPCL−ジオールを得るためには、PCL−ジオール(化合物30)を、DENACOL EX252TM(Nagasi Chemicals、大阪、日本)という商標名で販売されている二官能価エポキシドなどの多官能価エポキシド化合物(化合物31)と反応させる。過剰のPCL−ジオールを用いることにより(モル比約2.5:1)、末端基としてPCL−ジオールを有するポリマー鎖が得られる。モル比を逆にすると、エポキシド末端基を有するポリマーが得られる。この反応の結果、発泡PCL−ジオールが得られ、これは、図6の場合には、構造HO−PCL−EX252−PCL−OH(化合物33)を有する。
【0192】
本明細書に記載されたブロックコポリマーを調製するのに適したエポキシド化合物としては、エポキシドモノマー、ポリエポキシド化合物およびエポキシド樹脂が挙げられる。二官能価または多官能価エポキシド化合物としては、例えば、限定するものではないが、1,2-エポキシド(例えば、エチレンオキシド、1,2-プロピレンオキシドなど)、アルキルジオールジグリシジルエーテル(例えば、ブタンジオールジグリシジルエーテル、Aldrich Chemicals,セントルイス,ミズーリ州)、エリスリトール無水物、DENACOL(Nagasi Chemicals,大阪,日本)という商標名で販売されている多官能価ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、エピクロロヒドリン(Aldrich Chemicals,セントルイス,ミズーリ州)、酵素誘導エポキシド(Sigma Chemical社,セントルイス,ミズーリ州)および光重合エポキシド(Pierce,ロックフォード,イリノイ州)が挙げられる。
【0193】
発泡PCL−ジオール33を過剰の多官能価エポキシド31と反応させることにより、発泡PCL−ジオール33の末端をエポキシド基でキャップすることができ、エポキシドキャップ化合物34が得られる。図6に言及すると、二官能価エポキシド31の2個のエポキシド基の一つをPCL−ジオール化合物33のヒドロキシル末端と反応させ、他方のエポキシド基はフリーのままにしておいて、PCL−ジオールの両末端をエポキシド基でキャップすることにより、エポキシドキャップポリマー、EX252−PCL−EX252−PCL−EX252(化合物34)が得られる。
【0194】
化合物34(ブロックA)を過剰のポリエーテルジオール35(ブロックB)と反応させる。図6に例示した実施態様においては、ポリエーテルジオール35はポリエチレングリコール(PEG;MW 4500)である。得られるコポリマーは、エポキシドに連結され、両末端がヒドロキシル基で終結したBAB−型のトリブロックコポリマ−36である。ABA−型トリブロックコポリマーは、過剰のブロックAを用いることにより生成させることができる。高次(higher order)多ブロックポリマーは、図6の一般的な反応スキームにおいては、反応物(化合物33に類似)としてABA−またはBAB−型トリブロックコポリマーを用いることにより製造され得る。当業者は、本明細書に記載された技術を用いることにより、非常に多くのヒドロキシ−および/またはエポキシド−末端ブロックポリマーを案出することができる。
【0195】
もちろん、その他の疎水性ポリマー、例えば、ポリラクチド、ポリグリコリド、PLGA、多価無水物、ポリアミノ酸および生分解性ポリウレタンなどをブロックAに使用してもよい。多ブロックコポリマーに適したその他の親水性ポリマーとしては、PLURONIC F-68TMおよびPLURONIC F-127TMという商標名(BASFの登録商標;Sigma Chemical社,セントルイス,ミズーリ州から入手可能)で販売されているエチレンオキシドおよびプロピレンオキシドのブロックコポリマーなどのポラキソマー(polaxomers)、ならびにポリ(プロピレンオキシド)(「PPO」)などのポリ(アルキレンオキシド)が挙げられる。
【0196】
ブロックAおよびBのポリマーを選択する際、当業者は、特定の用途のために親水性分子および疎水性分子の最適なバランスを選択するであろう。より親水性の高いポリマーは、薬剤放出特性がより速いであろうし、またその逆も成り立つ。放出速度論に影響を及ぼすその他の物理的特性は、以前に記載されたとおりである。当業者は、過度の実験を行うことなく特定の用途に適した所望の特性のバランスを選択することができるであろう。
【0197】
上記のブロックコポリマーのMWは、以前に記載されたようにゲル浸透によって測定した場合、一般的には約30,000〜70,000の範囲である。MWは、好ましくは、約90,000〜100,000である。好ましいブロックコポリマーを調製する方法は、実施例に記載されている。
【0198】
上記の多ブロックコポリマーによって医療用具に共有結合させるためのマイクロスフィアおよび/またはナノスフィアを形成させることの有意な利点は、それらが乳化剤の助けなしでスフィアを形成することができるということである。理論に縛られるつもりはないが、疎水性ブロックおよび親水性ブロックを含むコポリマーが水相に添加される場合、親水性ブロックは水相の方向を向き、疎水性ブロックはエマルション液滴の中心方向を向くであろうと考えられる。したがって、親水性表面を有する疎水性部分からなるマイクロスフィアおよび/またはナノスフィアコアが形成される。例えば、PEGなどの外面の親水性部分は、非常に良好な乳化剤であり、エマルションの生成を助けるであろう。さらに、PEG親水性部分はエマルションを安定化させ、エマルション液滴の凝集を妨げると考えられる。
【0199】
別の実施態様においては、マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアは、多官能価エポキシド化合物をスフィアの表面に共有結合させることによって反応性エポキシド基で活性化される。スフィアは、本明細書に記載した方法、または以前に記載されたような通常の手段を用いることにより調製される。スフィアは、PLGA、または以前に記載されたような、例えば上記のヒドロキシ末端ポリ(ε−カプロラクトン)−ポリエーテル多ブロックコポリマーなどのエポキシドと共有結合を形成することが可能なフリーの官能基を有する生物適合性で生分解性のあらゆるポリマーから構成される。
【0200】
マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアを、多官能価エポキシドと、エポキシド化合物と、該スフィアを含む生物適合性で生分解性のポリマー上のフリーの反応性官能基の間に共有結合を形成させ得る条件下で接触させる。好ましくは、反応は、比較的穏やかな条件で行う。
【0201】
例えば、反応は、触媒を使用することにより穏やかな条件で行い得る。適当な触媒としては、限定するものではないが、テトラフルオロホウ酸亜鉛、第三級アミン、グアニジン、イミダゾール、三フッ化ホウ素付加物(例えば、三フッ化ホウ素−モノエチルアミン)、ビスホスホネート、微量金属(例えば、亜鉛、スズ、マグネシウム、アルミニウムなど)およびアンモニウム錯体(例えば、PhNH3+AsF6-)が挙げられる。
【0202】
一方、反応は、適切な触媒の存在下にてUV光線によって開始することができる。適当な触媒としては、限定するものではないが、四塩化チタン、フェロセン(ジシクロペンタジエニル鉄)、ジルコノセンクロリド、四臭化炭素およびヨードホルムが挙げられる。
【0203】
もちろん、使用される実際の反応条件は、生物適合性で生分解性のポリマー上のフリーの反応性官能基、ならびにマイクロスフィアおよび/またはナノスフィアに含まれる薬剤に依存し得る。適当な反応条件は、有機化学の分野では周知であり(例えば、Streitwieser & Heathcock,Introduction to Organic Chemistry,Macmillan Publishing社,ニューヨーク,最新版;Smith,1994,Organic Synthesis,McGraw-Hill社を参照されたい)、当業者には容易に明らかになるであろう。
【0204】
エポキシド活性化マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアを調製するのに有用なエポキシド化合物は上記のとおりである。
【0205】
医療用具への共有結合に適したエポキシド活性化マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアを調製するための好ましい方法は、実施例に記載されている。
【0206】
次いで、エポキシド活性化マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアを、活性化医療用具と、スフィア上のエポキシド基と活性化医療用具上のフリーの反応性基との間に共有結合を形成させ得る条件下、例えば以前に記載されたような条件下で接触させる。
【0207】
医療用具は、用具を化学的に処理して用具の表面をフリーの反応性官能基で誘導体化することによって、フリーの反応性官能基を有するように活性化され得る。化学的処理方法は、用具の組成に依存し、当業者には容易に明らかになるであろう。
【0208】
用具を反応性基で誘導体化するのが困難である場合には、活性化マイクロスフィアおよび/またはナノスフィア上の官能基と相補的なフリーの反応性官能基を有するポリマーまたはリンカーを含むコーティング組成物で用具をコーティングすることによって該用具を活性化することができる。次いで、用具を、活性化マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアと、活性化スフィア上の反応性基が用具上の反応性基と反応して共有結合を形成するような条件下で接触させる。以前に記載されたようにして、過剰の試薬を除去するためにコーティングされた用具をすすいで、乾燥することができる。用具は、以前に記載されたように、多数回コーティングされ得るものである。
【0209】
5.6 医療用具
本発明の組成物および方法を用いることにより実質的にあらゆる医療用具をコーティングすることができる。コーティングされた用具によって、広範な種類の薬剤を局所投与するための都合のよい手段が提供される。例えば、本発明の組成物を使用することにより、包帯および創傷包帯;縫合糸(分解性および非分解性);支持棒インプラント(supporting rod implant)、関節補てつ物、骨折を安定させるためのピン、骨セメントおよびセラミックス、ならびに腱再建および補てつインプラントのような整形外科的補てつ物;心臓代用弁、ペースメーカー部材、除細動器部材、人工血管(angioplasty device)、血管内ステント、短期間(acute)および留置カテーテル、動脈管閉鎖用具(ductal arteiosus closure device)、ならびに心房および心室中隔欠損閉鎖用具などの心臓カテーテルによって送達可能なインプラントのような心臓血管インプラント;尿カテーテルなどの泌尿器科学的インプラント;神経外科的シャントなどの神経学的インプラント;レンズ補てつ物、細い眼用縫合糸(thin ophthalmic suture)および角膜インプラントのような眼科学的インプラント;歯科補てつ物;包帯、ヘルニア修復メッシュなどの内部および外部創傷包帯;ならびに当業者に容易に明らかになるようなその他の用具およびインプラントをコーティングすることができる。
【0210】
特に好ましい実施態様においては、本発明は、コーティングされた縫合糸、特にin vivoで創傷治癒を刺激する核酸を含むポリマーマトリックスでコーティングされた縫合糸を提供する。本発明の方法および組成物によってコーティングされ得る縫合糸としては、天然または合成起源のあらゆる縫合糸が挙げられる。典型的な縫合糸材料としては、例えば、限定するものではないが、絹;綿;リネン;ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル;ヒドロキシカルボン酸エステルのホモポリマーおよびコポリマー;コラーゲン(プレーン(plain)またはクロム処理されたもの(chromicized));カットグット(プレーンまたはクロム処理されたもの);ならびにシアノアクリレートなどの縫合糸代替物が挙げられる。縫合糸は、編組(braid)またはひねりなどのあらゆる都合のよい形状を取り得るものであり、当技術分野で通常使用されているような広範なサイズを有し得る。
【0211】
コーティングされた縫合糸、特に創傷治癒を刺激する核酸を含むポリマーマトリックスでコーティングされた縫合糸の利点により、ヒトおよび動物において縫合糸を使用する実質的にすべての分野がカバーされる。
【0212】
(実施例)
6. 実施例:マーカーDNAでコーティングされた縫合糸の調製および使用
本発明のコーティング組成物および方法の実施可能性を示すために、外科的縫糸をマーカープラスミドDNA(これはヒト胎盤アルカリホスファターゼをコードする)でコーティングし、ラット筋肉組織の縫合に使用した。この実験は、コーティングされた縫合糸で修復された組織においてDNAの移転および発現が成功したことを示すものである。
【0213】
6.1 DNA−PLGAコーティング組成物の調製
1.5mlのPLGA/クロロホルム溶液(3%(w/v)、50/50ポリ乳酸ポリグリコール酸PLGAコポリマー、平均MW:90,000、インヘレント粘度1.07)に、ヒト胎盤アルカリホスファターゼをコードするマーカープラスミドDNAを含む溶液(1mg DNA、0.5mMトリス−EDTA、0.5mM EDTA、pH7.3)0.2mlを添加した。溶液を2分間攪拌した後、マイクロチッププローブ型音波処理機を用いて55ワット出力で約0℃にて30秒間音波処理することにより乳化した。この方法により、かなり乳状に見えるエマルションが得られた。
【0214】
6.2 外科的縫合糸のコーティング
22ゲージ針を用いて1枚のテフロンコーティング箔(Norton Performance Plastic社,アクロン,オハイオ州)に穴をあけた。その穴にDNA−PLGAエマルションを1滴(約60μl)滴下した。長さ70cmの3−0クローミック縫合糸(Ethicon)を穴に通して縫合糸をコーティングした。縫合糸を穴に通すと、縫合糸はコーティング組成物の薄くて(約30μm)均一な被膜でコーティングされた。縫合糸を約3分間空気乾燥した。そのコーティングプロセスを15回繰り返した。それぞれ被膜を空気乾燥させながら行った。
【0215】
コーティングされた縫合糸を電子顕微鏡(150×)で調べた。図2A〜2Cに言及すると、図2Aはコーティングされていない縫合糸を示すものであり;図2Bは上記の方法によりコーティング縫合糸を示すものであり;そして図2Cはラット骨格筋を約25〜30回通過させたコーティング縫合糸を示すものである。図2C中の黒い点は、組織を通過させた後に縫合糸に接着した赤血球であり;図2Cの黒い点は血っぺいである。図2A〜2Cにおいて明らかなように、縫合糸はDNA−PLGAの均一な被膜でコーティングされた。さらに、縫合糸を組織に多数回通した後でさえ、被膜は無傷のままであった。
【0216】
6.3 コーティング縫合糸による骨格筋の修復
上記で調製した縫合糸を、公認のプロトコールおよび標準方法を用いて成体雄Sprague-Dawleyラットの骨格筋組織に縫い込んだ。縫合糸は良好な固定用具特性(tie-down property)を示した。1週間後に、骨格筋を採取し、液体窒素中でスナップ(snap)凍結して粉末状に粉砕した。粉末を200μLの細胞溶解緩衝液中でインキュベートし、凍結−解凍サイクルを3回行って透明にした。透明な液体を、65℃でインキュベートした後、市販の試薬およびプロトコール(Phospha-LiteTMChemiluminescent Reporter Assay for Secreted Alkaline Phosphatase,Tropix,ベッドフォード(Bedford),マサチューセッツ州)を用いて熱安定性アルカリホスファターゼ活性についてアッセイした。対照群は、コーティングされてない縫合糸を与えた動物からなる。データを図1に示す。
【0217】
6.3.1 結果
図1に示したように、コーティング縫合糸を縫い込み、1週間後に回収したラット骨格筋は、熱安定性アルカリホスファターゼ活性を示しており、よってマーカーアルカリホスファターゼ遺伝子が筋肉組織で発現しているということが示された。対照の回収物は有意なアルカリホスファターゼ活性を示さなかった。これらのデータは、エマルションを使用することにより縫合糸を効率的にコーティングすることができ、in vivoで遺伝子を増殖性修復細胞に送達することができるということを証明するものである。
【0218】
7. 実施例:コーティングねじおよびセラミック粒子の調製
本発明のコーティング組成物によって種々のステンレス鋼ねじをコーティングすることが可能であることを示すために、チタンねじおよびヒドロキシアパタイト−リン酸三カルシウム(「HTP」)セラミック粒子を上記の実施例で記載したDNA−ポリマーエマルションでコーティングした。
【0219】
図3A〜3Bは、コーティング前(図3A)およびコーティング後(図3B)のステンレス鋼ねじの走査電子顕微鏡写真を示すものである(炭素スパッタリングによる)。ねじの溝は、コーティングの前後ではっきりと異なるコントラストを有しており、このことによってDNA−ポリマーエマルションが均一なポリマー被膜で溝を覆っていることが証明された。コーティングされていないねじにおいて目視できる一般的な表面の欠損は、DNA−ポリマー被膜によってふさがれた。
【0220】
図4A〜4Bは、コーティング前(図4A)およびコーティング後(図4B)の標準整形外科的チタンねじの走査電子顕微鏡写真を示すものである。コーティングされていないねじ(図4A)と相対的に黒いコーティングねじ(図4B)の電子密度の対比から、表面のコーティングは非常に明らかである。これらの結果は、均一な被膜が得られたということを示すものである。
【0221】
図5A〜図5Bは、コーティングされていないHTPセラミック粒子(図5A)とコーティングHTPセラミック粒子(図5B)の走査電子顕微鏡写真である。高度に反射性のコーティングされていない粒子と比べて、コーティング粒子は明るさが小さく、ポリマー被膜で密に覆われているように見える。DNA−ポリマー被膜は、粒状のホルメート(formate)を残留させる一方、粒子をDNA放出性ポリマーマトリックスで均一に覆っている。
【0222】
8. 実施例:マーカーDNAを含むマイクロスフィアおよび/またはナノスフィアでコーティングされた縫合糸の調製
本実施例は、医療用具に共有結合させるのに適したエポキシド活性化マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアの好ましい調製方法、ならびに外科的縫合糸に活性化スフィアを共有結合させる方法を示すものである。
【0223】
8.1 DNA−PLGAマイクロスフィアおよび/またはナノスフィアの調製
DNAポリマー組成物を実施例6.1に記載したようにして調製する。DNAポリマーエマルションをポリビニルアルコールの水溶液(2.5%w/w、15mL、平均MW30,000〜70,000のPVA)とともに65ワット、0℃にて10分間音波処理することによってさらに乳化してW/O/Wエマルションを得る。
【0224】
W/O/Wエマルションを磁気攪拌棒を用いて室温で18時間攪拌して有機溶媒を蒸発させる。スフィアを超遠心分離によって回収し、水で3回洗浄し、30秒間音波処理することによって水に再懸濁し、得られた懸濁液を凍結乾燥する。
【0225】
8.2 エポキシド活性化スフィアの調製
凍結乾燥スフィア(8mg)をホウ酸塩緩衝液(1mL、50mM、pH5)に3分間音波処理することによって懸濁する。テトラフルオロホウ酸亜鉛水和物(2.4mg)を懸濁液に添加する。多官能価エポキシド、DENACOL EX520TM(Nagasi Chemicals,大阪,日本)を0.4mLのホウ酸塩緩衝液(50mM、pH5)に溶解し、そのエポキシド溶液を室温(37℃)で攪拌しながら懸濁液に添加する。30分後、スフィアを超遠心分離によって回収し、水で3回洗浄して未反応エポキシドを除去し、凍結乾燥する。
【0226】
8.3 外科的縫合糸のコーティング
ある長さの外科的縫合糸を、PLGAポリマーで、実施例6に記載した方法を用いてコーティングする。エポキシド活性化スフィア(200mg)をホウ酸塩緩衝液(1mL、50mM、pH5)に30秒間音波処理することによって懸濁する。テトラフルオロホウ酸亜鉛水和物(2.4mg)を懸濁液に添加する。PLGA−コーティング縫合糸を、実施例6.2の方法を用いて、または懸濁液中に縫合糸を浸漬することによって懸濁液でコーティングする。30分後、室温(37℃)にて縫合糸を水で洗浄し乾燥する。このコーティングプロセスは実施例6.2に記載したようにして繰り返すことができる。
【0227】
8.4 コーティング縫合糸による骨格節の修復
マイクロスフィアおよび/またはナノスフィアコーティング縫合糸を用いて実施例6.3に記載されたようにしてラット骨格筋を修復することができる。マーカーDNAが増殖性修復細胞に取り込まれて発現すると予想される。
【0228】
9. 実施例:多ブロックコポリマーの調製
本実施例は、好ましいヒドロキシ−またはエポキシド−末端多ブロックコポリマーの調製方法を示すものである。
【0229】
9.1 発泡PCL−ジオール(化合物33)の調製
PCL−ジオール(1.5g、0.5mmol、MW 3000、Polyscience社,ワーリントン(Warrington),ペンシルベニア州)を、DENACOL EX252TM(0.21g、0.55mmol、Nagasi Chemicals,大阪,日本)と、15mL THF中、Zn(BF4)2触媒(エポキシド化合物に対して2重量%)の存在下で、攪拌しながら37℃にて28時間反応させた。非発泡PCL−ジオールから発泡PCL−ジオールを分離するために、グラジエント沈殿をヘプタンを用いて行って、沈殿した高MWの発泡PCL−ジオールを遠心分離によって集めた。生成物HO−PCL−EX252−PCL−OHを5mLのヘプタンで洗浄して未反応のエポキシド化合物を除去し、乾燥した。
【0230】
9.2 化合物34の調製
化合物33(0.75g)を過剰のDENACOL EX252TM(0.42g、化合物33とDENACOL EX252TMのモル比は1:4)と、10mLのTHF中、Zn(BF4)2触媒の存在下で、攪拌しながら37℃にて5時間反応させた。EX252−PCL−EX252−PCL−EX252ポリマー生成物を30mLのヘプタンを用いて沈殿させ、2mLのヘプタンで洗浄して未反応のエポキシド化合物を除去し、乾燥した。
【0231】
9.3 化合物36の調製
化合物34(1g)を、過剰のポリエチレングリコール(PEG)(平均MW 4500;化合物34とPEGのモル比は1:3)および20mgのZn(BF4)2触媒を加えた15mLのTHF中に溶解した。振盪テーブル上において、37℃で48時間反応させた。化合物36をヘプタンを用いて沈殿させ、遠心分離によって集めて50mLの水で2回洗浄し、乾燥した。
【0232】
9.4 その他のABA−型トリブロックコポリマーの調製
さらにABA−型およびBAB−型トリブロックコポリマーを、ブロックAとして下記のポリエーテル:PEG(平均MW 4500);ポラキソマーPLURONIC F-68TM(F−68)およびPLURONIC F-127TM(F−127);ならびにポリ(プロピレンオキシド)(PPO)を用いて上記の一般的な方法を用いて調製した。種々のポリエーテルを、PCL−ジオールを有するABA−型およびBAB−型トリブロックコポリマーに含有せしめることにより種々の親水度および機械特性を有するポリマーを得た。PLURONICTMは、疎水性ブロックとしてPPOを、親水性ブロックとしてポリ(エチレンオキシド)(PEO)を有するジブロックコポリマーである。PF−127はMWが約12,600であり、70%のPPOと30%のPEOからなる。F−68はMWが約6,000であり、80%のPPOと20%のPEOからなり、よってF−127よりも親水度が低い。PEGはそのグループの中で最も親水度の高いポリエーテルである。
【0233】
調製した種々のブロックコポリマーとそのそれぞれの物理特性を下記の表1に示す。
【0234】
【表1】
【0235】
表1に言及すると、薬剤の持続的放出という観点から最も有用なポリマーは、PCLおよびPEGまたはF−68からなるコポリマーである。高レベルのPPOを含むものなどの結晶化しないポリマーは、機械強度が低く、粘着性である。PCLおよびF−127を含むポリマーなどの大きい親水性部分を有するポリマーは、水相から分離するのが困難であり、水または体液と接触させた場合に固体形状を維持しないであろう。
【0236】
好ましいコポリマーは、体温で固体であり、体液の存在下でゆっくりと生体に適合し、ゆっくりと生分解される。
【0237】
例示した実施態様は本発明の一つの局面を説明するものであり、本発明は、その例示した実施態様によって範囲を限定されるものではない。実際、当業者には、本明細書に記載されたものに加えて、上記の説明および添付の図面から本発明の種々の変更修正が明らかになるであろう。そのような変更修正は、特許請求の範囲に含まれるものである。
【0238】
本明細書中で引用したすべての特許および刊行物は、全目的のために本明細書に取り込まれるものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤を含むポリマーマトリックスでコーティングされた医療用具であって、前記ポリマーマトリックスが少なくとも一種の生分解性ポリマー及び0.01%〜10%(w/v)の量の少なくとも一種の薬剤を含むものであり、かつ前記薬剤は核酸である、前記医療用具。
【請求項2】
薬剤を含むポリマーマトリックスでコーティングされた医療用具であって、前記ポリマーマトリックスが少なくとも一種の生分解性ポリマー及び0.01%〜20%(w/w)の量の少なくとも一種の薬剤を含み、かつマイクロスフィア及び/またはナノスフィアの形態にあり、前記薬剤が創傷治癒を刺激または促進する核酸である、前記医療用具。
【請求項3】
前記用具が、外科的インプラント、外科用縫合糸及び創傷包帯からなる群から選択される、請求項1または2に記載の医療用具。
【請求項4】
前記核酸が、トランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)、繊維芽細胞増殖因子(FGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、インスリン様増殖因子(IGF)、骨誘導因子(BMP)、成長ホルモン(GH)及びヒト副甲状腺ホルモン(PTH)からなる群から選択される治療用タンパク質をコードするDNA配列に機能的に結合したDNA分子である、請求項1または2に記載の医療用具。
【請求項5】
前記ポリマーが少なくとも一種の疎水性セグメント及び少なくとも一種の親水性セグメントを含むブロックコポリマーを含んでなる、請求項1または2に記載の医療用具。
【請求項6】
前記ポリマーがPLGAコポリマーである、請求項5に記載の医療用具。
【請求項1】
薬剤を含むポリマーマトリックスでコーティングされた医療用具であって、前記ポリマーマトリックスが少なくとも一種の生分解性ポリマー及び0.01%〜10%(w/v)の量の少なくとも一種の薬剤を含むものであり、かつ前記薬剤は核酸である、前記医療用具。
【請求項2】
薬剤を含むポリマーマトリックスでコーティングされた医療用具であって、前記ポリマーマトリックスが少なくとも一種の生分解性ポリマー及び0.01%〜20%(w/w)の量の少なくとも一種の薬剤を含み、かつマイクロスフィア及び/またはナノスフィアの形態にあり、前記薬剤が創傷治癒を刺激または促進する核酸である、前記医療用具。
【請求項3】
前記用具が、外科的インプラント、外科用縫合糸及び創傷包帯からなる群から選択される、請求項1または2に記載の医療用具。
【請求項4】
前記核酸が、トランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)、繊維芽細胞増殖因子(FGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、インスリン様増殖因子(IGF)、骨誘導因子(BMP)、成長ホルモン(GH)及びヒト副甲状腺ホルモン(PTH)からなる群から選択される治療用タンパク質をコードするDNA配列に機能的に結合したDNA分子である、請求項1または2に記載の医療用具。
【請求項5】
前記ポリマーが少なくとも一種の疎水性セグメント及び少なくとも一種の親水性セグメントを含むブロックコポリマーを含んでなる、請求項1または2に記載の医療用具。
【請求項6】
前記ポリマーがPLGAコポリマーである、請求項5に記載の医療用具。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【公開番号】特開2009−102418(P2009−102418A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−23612(P2009−23612)
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【分割の表示】特願平10−501785の分割
【原出願日】平成9年6月11日(1997.6.11)
【出願人】(509004642)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティー オブ ミシガン (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【分割の表示】特願平10−501785の分割
【原出願日】平成9年6月11日(1997.6.11)
【出願人】(509004642)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティー オブ ミシガン (1)
【Fターム(参考)】
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