医療用針および医療用デバイス
【課題】本発明は、患者に与える痛みをできるだけ小さくし、患者の穿刺部位における損傷を極力抑えることができる医療用針を用いた医療用デバイスを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る医療用針は、先端部から後端部まで所定方向に延び、これに垂直な平面で切断された垂直断面の断面積が先端部からの距離に依存して規則的に増減する医療用針であって、垂直断面の断面積が極大となる複数の極大点と、垂直断面の断面積が極小となる少なくとも1つの極小点と、所定方向に延びる複数の通路とを有することを特徴とする。
【解決手段】本発明に係る医療用針は、先端部から後端部まで所定方向に延び、これに垂直な平面で切断された垂直断面の断面積が先端部からの距離に依存して規則的に増減する医療用針であって、垂直断面の断面積が極大となる複数の極大点と、垂直断面の断面積が極小となる少なくとも1つの極小点と、所定方向に延びる複数の通路とを有することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ランセットおよび注射針などの医療用針、ならびにこれを用いた医療用デバイスに関し、とりわけ生体適合性材料からなる医療用針ならびにこれを用いた医療用デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、治療などの目的で皮下注射を行うとき、患者の適当な皮膚または筋肉に注射針を突き刺して、薬剤が注射針を介して体内に注入される。同様に、例えば、糖尿病患者の血糖値を定期的に測定するために、ランセットを適当な身体部分(例えば、指先)に穿刺して、微量の血液が採取される。このように、注射針またはランセットを体内に突き刺す際、患者は、相当の痛みまたは不快感を感じ、穿刺された部位における細胞が広範な領域に亙って損傷を受けることがある。したがって、患者に与える痛み(不快感)をできるだけ抑え、侵襲性のより低い注射針およびランセットが強く要望されている。
【0003】
患者にできるだけ痛みを与えない注射針が、これまでいくつか提案されている。例えば、特開平10−57490によれば、注射針が患者の皮膚または筋肉に穿刺された時、患者が痛みを感じる理由は、注射針の先端部が皮膚または筋肉を掴むためであるとし、これに対処するため、注射針の先端部を図面に示すような多斜角面を有するように成形することが開示されている。
【特許文献1】特開平10−57490号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
患者が痛みを感じる理由をより詳細に以下説明する。注射針が体内の細胞組織(皮膚または筋肉内)に侵入するとき、注射針表面と細胞組織とが接触する表面積が大きくなり、その間に生じる摩擦力が増大する一方、注射針表面付近にある細胞組織が皮下方向に強く引っ張られる。その結果、周辺細胞組織は、摩擦力により大きな物理的にストレスが付加されるため、極端に変形し、場合によっては、細胞が引きちぎられ(破壊され)、ヒスタミンおよびブラディキニンなどの発痛ケミカルメディエータが放出されるために、患者は極めて強い痛みを感じる。また、こうした摩擦力による物理的なストレスは広範囲に亙り、周辺細胞組織は相当な損傷を受け、容易に回復しないため、注射針の侵襲性は極めて高いものとなる。
【0005】
微量の血液を採取するために適当な身体部位に穿刺されるランセットも同様に、物理的ストレスを極力小さくして、すなわちできるだけ少ない数の細胞組織を切開して、切開された細胞以外の細胞組織を分け入るようにして、細胞組織内に侵入していくことが好ましい。こうして、損傷を与える細胞の数をできるだけ抑え、低侵襲性の医療用針(注射針およびランセット)を構成することが好ましい。
【0006】
したがって、本発明の1つの態様は、患者に与える痛み(負担)が極力小さい低侵襲性医療用針を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの態様は、先端部から後端部まで所定方向に延び、これに垂直な平面で切断された垂直断面の断面積が先端部からの距離に依存して規則的に増減する医療用針に関し、この医療用針は、垂直断面の断面積が極大となる複数の極大点と、垂直断面の断面積が極小となる少なくとも1つの極小点と、所定方向に延びる複数の通路とを有することを特徴とする。
【0008】
好適には、医療用針はその後端部に連結された保持部をさらに有する。
【0009】
より好適には、保持部は前記複数の通路のそれぞれと個別に連通する複数のチャンバを有する。
【0010】
さらに好適には、複数のチャンバ内にそれぞれ異なる薬剤が収容されている。
【0011】
択一的には、複数のチャンバ内にそれぞれ異なる成分を分析するバイオセンサが収容されている。
【0012】
好適には、複数の通路のそれぞれは開口部を有し、医療用針は各開口部を封止する封止部をさらに有する。
【0013】
さらに好適には、封止部の厚みが、各開口部に対してそれぞれ異なる。
【0014】
好適には、医療用針は生分解性材料および生体適合性材料の少なくとも一方、または両方からなる。
【0015】
このように構成された医療用針を用いて、任意の医療用デバイスを構成することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の1つの実施形態の医療用針によれば、患者に与える痛みをできるだけ小さくし、患者の穿刺部位における損傷を極力抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して本発明に係る医療用針の実施形態を説明するが、発明を理解しやすくするために、医療用針の中でも中実タイプのランセットの実施形態を主に説明する。したがって、詳細には説明しないが、本発明は中空タイプの注射針にも等しく適用されるものと理解されたい。
なお、各実施形態の説明において、理解を容易にするために方向を表す用語(例えば、「X方向」、「Y方向」、「Z方向」など)を適宜用いるが、これは説明のためのものであって、これらの用語は本発明を限定するものでない。また本発明は、特許請求の範囲により定義される精神および範疇に含まれるすべての変形例を含むものとし、各実施形態の説明に基づいて限定的に解釈すべきではない。
【0018】
(実施形態1)
図1および図4を参照しながら、本発明の第1の実施形態によるランセットを以下に説明する。ランセット1を用いて、例えば、糖尿病患者の血糖値測定のために、患者の適当な身体部位(例えば、指先)に穿刺して、微量血液が採取される。図1および図2に示すように、ランセット1は、X方向に延び、任意のY−Z平面で切断したとき、三角形形状の断面を有する。その三角形断面の底辺、高さ、および断面積は、先端部11からの距離またはX方向における位置に依存して変化する。すなわち、ランセット1は、この断面積が単調増加する第1の拡大領域(細胞切開領域)10と、断面積が単調減少する縮小領域(摩擦力緩和領域)20と、さらに再び断面積が単調増加する第2の拡大領域(細胞切開領域)30とを有する。また、保持部40が第2の拡大領域30に連結されている。
【0019】
換言すると、本発明のランセット1は、図1に示すように、所定方向(X方向)に延び、これに垂直な平面(Y−Z平面)で切断された断面(垂直断面)の断面積が先端部11からの距離に依存して規則的に増減する。また、ランセット1は、垂直断面の断面積が極大となる複数の極大点(Y−Z平面51,53)と、垂直断面の断面積が極小となる極小点(Y−Z平面52)とを有し、先端部に最も近い極大点51における垂直断面の断面積が、他の各極大点53における垂直断面の断面積と同じとなるように設計されている。
【0020】
本発明のランセット1は、一般には、高分子ポリマ、生体高分子、蛋白質、および生体適合性無機材料を含む任意の生体適合性材料により構成される。
【0021】
高分子ポリマとしては、これらに限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニル,ポリエチレングリコール,パリレン,ポリエチレン,ポリプロピレン,シリコーン,ポリイソプレン,ポリメチルメタクリレート,フッ素樹脂,ポリエーテルイミド,ポリエチレンオキサイド,ポリエチレンテレフタレート,ポリエチレンサクシネート,ポリブチレンテレフタレート,ポリブチレンサクシネート,ポリブチレンサクシネートカーボネート,ポリフェニレンオキサイド,ポリフェニレンサルファイド,ポリホルムアルデヒド,ポリアンヒドリド,ポリアミド(6ナイロン、66ナイロン),ポリブタジエン,ポリ酢酸ビニル,ポリビニ−ルアルコ−ル,ポリビニルピロリドン,ポリエステルアミド,ポリメタクリル酸メチル,ポリアクリロニトリル,ポリサルホン,ポリエーテルサルホン,ABS樹脂,ポリカーボネート,ポリウレタン(ポリエーテルウレタン、ポリエステルウレタン、ポリエーテルウレタン尿素),ポリ塩化ビニリデン,ポリスチレン,ポリアセタール,ポリブタジエン,エチレン酢酸ビニル共重合体,エチレンビニルアルコール共重合体,エチレンプロピレン共重合体,ポリヒドロキシエチルメタクリレート,ポリヒイドロブチレート,ポリオルトエステル,ポリ乳酸,ポリグリコール,ポリカプロラクトン,ポリ乳酸共重合体,ポリグリコール酸・グリコール共重合体,ポリカプロノラクトン共重合体,ポリジオキサノン,パーフルオロエチレン―プロピレン共重合体,シアノアクリレート重合体,ポリブチルシアノアクリレート,ポリアリルエーテルケトン,エポキシ樹脂,ポリエステル樹脂,ポリイミド,フェノール樹脂)が含まれる。
【0022】
また、生体高分子としては、例えば、セルロース,でんぷん,キチン・キトサン,寒天,カラギーナン,アルギン酸,アガロース,ブルラン,マンナン,カードラン,キサンタンガム,ジェランガム,ペクチン,キシログルカン,グアーガム,リグニン,オリゴ糖,ヒアルロン酸,シゾフィラン,レンチナンなどが含まれ、蛋白質としてはコラーゲン,ゼラチン,ケラチン,フィブロイン,にかわ,セリシン,植物性蛋白質,牛乳蛋白質,ラン蛋白質,合成蛋白質,ヘパリン,核酸が含まれ、糖、あめ、ブドウ糖、麦芽糖、ショ糖およびこれらのポリマーアロイを用いることもできる。
【0023】
さらに、生体適合性無機材料としては、例えば、セラミック,ナノ複合化セラミック,Al2O3/ZnO2複合セラミックス,Si3N4系ナノ複合材料,水酸化アパタイト,炭酸カルシウム,カーボン,グラファイト(ナノグラファイバー),カーボンナノチューブ(CNT),フラーレン複合材料,ハイドロキシアパタイト・ポリマー複合材料,コバルトクロム合金,ステンレスなどが含まれる。
【0024】
ただし好適には、本発明のランセット1は、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、コラーゲン、でんぷん、ヒアルロン酸、アルギン酸、キチン、キトサン、セルロース、ゼラチンなどを含む生分解性ポリマ、およびこれらの化合物からなる生分解性材料を用いて形成される。
【0025】
一般に、使用済の注射針およびランセットは、さまざまな感染症を防止するために再利用されることはなく、使用後、直ちに破棄され、しかも可燃物ごみとしてではなく、産業廃棄物として埋め立て処理されることが多い。しかし、ポリ乳酸などの生分解性材料を用いて形成されたランセット1が埋め立て処理されると、好適にも、土中の微生物により水と二酸化炭素に分解される。すなわち、生分解性材料を用いて本発明のランセット1を形成すると、他の生体適合性材料を用いて形成した場合よりも環境に優しいだけでなく、ランセットの一部が欠損して、体内に残留した場合であっても、同様に体内において容易に生分解されるので、極めて安全であるランセットを実現することができる。
【0026】
次に、図2(a)ないし(c)を参照しながら、実施形態1のランセット1を構成する上述の各領域10,20,30の外形形状についてより詳細に説明する。第1および第2の拡大領域10,30および縮小領域20は、所定の四角錐の部分的な外形形状を有する。
【0027】
この四角錐は、図2(a)の正面図および図2(b)の側面図において、所定の高さ(H)を有し、図2(c)の平面図において所定の長さを一辺とし、第1および第2対角線12,13を有する菱形形状の底面14を有する。好適には、四角錐の底面14は正方形であり(四角錐は正四角錐であり)、第1および第2対角線の長さは互いに等しい(L1=L2)。さらに好適には、それぞれの正四角錐の高さ(H)は、第1および第2対角線12,13の長さの半分であって(H=L1/2=L2/2)、このとき、正四角錐を構成する側面は正三角形となる。
【0028】
図2(b)の側面図において、ランセット1の第1の拡大領域10は、第1対角線を通るY−Z平面51で四角錐を切断して得られる外形形状を有し、縮小領域20は、第1対角線を通るY−Z平面51と、これと平行な平面52により四角錐を切断して得られる外形形状を有する。同様に、第2の拡大領域30は、第1対角線を通るY−Z平面53と、これと平行な平面52により別の四角錐を切断して得られる外形形状を有する。そして、ランセット1は、第1の拡大領域10と、縮小領域20と、第2の拡大領域30が、各四角錐の第2対角線が同一直線上に、かつ各四角錐の底面が同一平面上に配置されるように一体成形される。
【0029】
こうして構成されたランセット1は、上述のように、任意のY−Z平面で切断したとき、三角形形状の断面を有し、その底辺、高さ、および断面積は、先端部11からの距離またはX方向における位置に依存して直線的に増加または減少する。なお、本発明の拡大領域10,30および縮小領域20に関し、任意のY−Z平面で切断された断面の底辺および高さは、先端部からの距離をパラメータとして、直線的に増加または減少するものとして説明されるが、曲線的に増加または減少してもよく、例えば2次関数などの単調増加または単調減少する任意の関数として定義することができる。すなわち、各領域10,20,30における三角形断面の底辺、高さ、および断面積は、X方向における位置をパラメータとする線形または非線形関数で与えられる。
【0030】
本発明の実施形態1のランセット1によれば、第1および第2の拡大領域10,30において最大の断面積を与える最大断面(Y−Z平面51および53で切断した断面)は、互いに実質的に合同であって、実質的に同じ三角形形状および大きさを有し、縮小領域20において最小の断面積を与える最小断面(Y−Z平面52で切断した断面)と相似形状を有する。
【0031】
さらに、実施形態1のランセット1は、図3および図4に示すように、同様にX方向に沿って連続的に一体成形される、少なくとも1つの追加的な縮小領域20a,20bおよび拡大領域30a,30bを有していてもよい。各拡大領域10,30において最大の断面積を与える最大断面は、同様に、実質的に同じ形状および大きさを有する。
【0032】
このように構成されたランセット1は、体内の細胞組織(皮膚または筋肉内)に侵入する時、図1および図3に示すように、第1の拡大領域(細胞切開領域)10の先端部11を支点として、四角錐を構成する3つの辺(稜線)15a,15b,16が周辺細胞を切開し、第1の拡大領域10の底面14および一対の側面17a,17bが切開されない細胞を押し広げるようにして、細胞組織内に侵入する。このとき、底面14および一対の側面17a,17bと周辺細胞との間に生じる摩擦力は非常に大きく、ランセット1の体内侵入に伴い、周辺細胞は、摩擦力により深部に向かって強く引き込まれ得る。
【0033】
しかしながら、本発明のランセット1は、第1の拡大領域10が体内に侵入した後、さらに体内に進むと、縮小領域(摩擦力緩和領域)20における断面積が小さくなるので、縮小領域20と周辺組織との間に生じる摩擦力は実質的に低減され、周辺細胞は、自らの弾性により元の正常位置に復帰する。したがって、第1の拡大領域10に引っ張られていた周辺細胞が、元の位置に戻り、これに加えられる物理的なストレスが解消される。このように、ランセット1が四角錐の第2対角線の長さの半分(L2/2)だけ進むと、深部に向かって強く引き込まれていた周辺細胞は、摩擦力から解放され、引きちぎられることなく正常位置に戻るので、患者に与える痛みを実質的に低減し、広範囲に亙る周辺細胞の回復し難い損傷を与えることを防止できる。
【0034】
さらにランセット1の縮小領域20が体内に侵入すると、第1の拡大領域10と同様に、第2の拡大領域(細胞切開領域)30を構成する3つの辺(稜線)35a,35b,36が周辺細胞を切開し、底面および一対の側面37a,37bが切開されない細胞を押し広げるようにして、細胞組織内に侵入することができる。このとき、上述のように、第1および2の拡大領域10,30において最大の断面積を与える最大断面は、実質的に合同であって、実質的に同じ形状および寸法を有するので、ランセット1が体内侵入する上で必要以上に周辺細胞を切開することを回避することができる。
【0035】
本発明のランセット1が体内に侵入するプロセスは、各拡大領域10,30において周辺細胞を切開するとともに、その他の細胞をかき分けて侵入するステップと、各縮小領域20と周辺細胞との摩擦力を緩和して周辺細胞を元の位置に復帰させるステップとを反復することにより実現される。このように、本発明によれば、広範な領域における周辺細胞を元の位置に復帰させることにより、患者に与える痛みを実質的に緩和し、周辺細胞に損傷をできるだけ与えないようにした低侵襲性のランセット1を提供することができる。
【0036】
また、周辺細胞の大きさは、ランセット1を穿刺する身体部位に依存するが、通常、約10μmであり、毛細血管などの微小細胞の場合、約5μmである。これに対し、四角錐の第1および第2対角線12,13の長さ(L1,L2)は、好適には、約85〜約180μmの範囲にある。また、四角錐の高さ(H)は、好適には、約42.5〜約90μmの範囲にある。すなわち、第1の拡大領域10おいて最大の断面積を与える最大断面は、約85〜約180μmの底辺と、約42.5〜約90μmの高さを有する三角形形状を有する。
【0037】
このとき、縮小領域20において最小の断面積を与える最小断面の底辺および高さ(Y方向およびZ方向の寸法)が、最大断面の底辺および高さの半分以下となると、縮小領域20と第2の拡大領域30の間における強度が際立って低減し、非常に折れやすくなる。すなわち、最小断面の底辺および高さが、それぞれ約42.5〜約90μm、約21.2〜約45μmであるとき、ランセット1は折れやすくなる。したがって、実施形態1のランセット1によれば、縮小領域20における最小断面の底辺および高さが、最大断面の底辺および高さの約1/2以上となるように、すなわち最小断面の断面積が、各拡大領域30における最大断面の断面積の約1/4(1/2の自乗)以上となるように設計される。さらに好適には、最小断面の底辺および高さが、最大断面の底辺および高さの約2/3以上となるように、すなわち最小断面の断面積が、各拡大領域10,30における最大断面の断面積の約4/9(2/3の自乗)以上となるように設計される。このように、本発明によれば、折れにくく、確実に体内に突き刺すことができる信頼性の高いランセット1を提供することができる。
【0038】
なお、縮小領域20は、第1の拡大領域10と細胞との間の摩擦力を低減または緩和するものであって、少なくとも細胞程度の大きさを必要とするので、第1および第2の拡大領域10,30における最大断面間の距離(D)、すなわちY−Z平面51および53の間の距離は、少なくとも1μm、好適には5μmとなるように設計される。
【0039】
さらに、図1ないし図4に示すランセット1によれば、縮小領域20の側面21および第2の拡大領域30の側面37は、実質的に平面であって、両者が互いに交差することにより鋭角部(不連続部)が形成される。これに対し、ランセット1は、図5に示すように、側面21および側面37を連続的に接続するような連続曲面58を有していてもよい。これにより、側面21,37間の不連続部において集中する応力により、ランセット1を折れにくくすることができる。
また、図1ないし図4においては、第2の拡大領域30に連結された保持部40は、三角柱形状を有するように図示したが、四角柱であってもよい。
【0040】
(実施形態2)
図6ないし図9を参照しながら、実施形態2のランセット2について詳細に説明する。実施形態2のランセット2は、縮小領域と第2の拡大領域の間に一体成形された一定領域(補強領域)を有する点を除き、実施形態1のランセット1と同様の構成を有するので、重複する点については説明を省略する。
【0041】
実施形態2のランセット2の一定領域60は、図6および図7に示すように、縮小領域20における最小断面と実質的に同じYおよびZ方向寸法ly,lzを有する三角形を底面61とし、X方向寸法lxを高さとする三角柱の外形形状を有し、縮小領域20と第2の拡大領域30の間における強度を補強するために設けられる。したがって、一定領域60は、これを任意のY−Z平面で切断したとき、底辺がlyで、高さがlzである実質的に同一の三角形形状の断面を有する。
【0042】
実施形態1の縮小領域20における最小断面について説明したのと同様、実施形態2において、縮小領域20と第2の拡大領域30の間の強度を十分に補強するためには、一定領域60の断面の底辺および高さly,lzは、好適には、拡大領域10,30の最大断面の底辺および高さL1,Hの半分以上(ly≧L1/2,lz≧H/2)、さらに好適には2/3以上(ly≧2L1/3,lz≧2H/3)となるように構成される。
【0043】
さらに、実施形態1と同様、実施形態2のランセット2は、図8および図9に示すように、同様にX方向に沿って連続的に一体成形される、少なくとも1つの追加的な縮小領域20a,20b、一定領域60a,60b、および拡大領域30a,30bを有していてもよい。
【0044】
(実施形態3)
図10を参照しながら、実施形態3のランセット3について詳細に説明する。実施形態3のランセット3は、第1の拡大領域10の先端部11が、実施形態1のランセット1のそれよりも鋭くなるように設計される点を除き、実施形態1のランセット1と同様の構成を有するので、重複する点については説明を省略する。
【0045】
図10(a)において、第2の拡大領域30におけるY−Z平面で切断された断面の高さおよび底辺の長さは、一点鎖線54で示す勾配(増加比率)で直線的に大きくなる一方、第1の拡大領域10における断面の高さおよび底辺の長さは、実線55で示す勾配(増加比率)で直線的に大きくなるように設計されている。実線55で示す第1の拡大領域10における断面の高さおよび底辺の長さが増加する比率(k)は、一方の点線56で示す勾配(k1)から他方の点線57で示す勾配の範囲で変化(k2)する(k2≦k≦k1)。第1の拡大領域10の一方の点線56の勾配(k2)は、第2の拡大領域30の一点鎖線54で示す勾配(k0)と同じであり、他方の点線57で示す勾配は一点鎖線54で示す勾配の約1/4倍(k0/4)である。好適には、第1の拡大領域10における断面の高さおよび底辺の長さの増加比率(k)は、第2の拡大領域30のそれよりも約1/3倍(k0/3)となるように設計される(k0/4≦k≦k0、好適には、k=k0/3)。
【0046】
したがって、第1の拡大領域10における断面の断面積の増加比率(K)は、第2の拡大領域30における断面の断面積の増加比率(K0)の約1/16倍(1/4の自乗)以上、約1倍以下であり、好適には、約1/9(1/3の自乗)である(K0/16≦K≦K0、好適には、K=K0/3)。例えば、それぞれの拡大および縮小領域の外形形状を構成する四角錐の第1および第2対角線の長さ(L1,L2)が同じで、その高さが対角線の半分であるとき(H=L1/2=L2/2)であるとき、第1の拡大領域10のX方向の長さは、L1/2から2L1の範囲で、好適には3L1/2の範囲にあり、図10(a)に示す先端部11における稜線角θは、約14°〜45°の範囲にあり、好適には約18.3°となる。
【0047】
このように、実施形態3のランセット3の第1の拡大領域10における断面の高さおよび底辺の長さは、第2の拡大領域30よりも緩やかに増加するように設計されるため、第1の拡大領域10の先端部11が実施形態1よりも鋭くなる。したがって、実施形態3のランセット3は、細胞組織内により容易に侵入でき、患者に与える痛みをより小さくすることができる。
【0048】
これまで説明した実施形態1ないし3のランセットは、当業者ならば容易に理解されるように、例えば、ファナック社の超精密ナノ加工機(FANUC ROBONANO α-0iA、登録商標)を用いて製造することができる。
【0049】
(変形例1)
図11ないし図13を参照しながら、実施形態1ないし3の変形例1のランセット101について詳細に説明する。変形例1のランセット101は、内部に通路およびチャンバを有する点を除き、実施形態1ないし3のランセットと同様の構成を有するので、重複する点については説明を省略する。
【0050】
変形例1のランセット101は、図11(a)に示すように、各拡大領域10,30および各縮小領域20の内部を貫通するようにX方向に延びる少なくとも1つの通路71を有する。また好適には、保持部40は、図11(b)および図11(c)に示すように、任意のY−Z平面で切断されたとき、四角柱形状の断面を有し、その内部には通路71と連通する少なくとも1つのチャンバ81が形成される。また、ランセット101の先端部11付近において、少なくとも1つの開口部72が、例えば、図11(a)では縮小領域20の底面73上に設けられる。開口部72は、任意の形状を有していてもよいが、赤血球や白血球などが通路71内に侵入しないように、好適には、10μm以下の直径を有する円形に形成される。
【0051】
このように構成された通路71内には互いに離間した一対の電極(図示せず)を配置し、チャンバ81内には微小化学分析システム(μTAS:Micro Total Analysis System)などのバイオセンサ(図示せず)を配置する。このように構成されたランセット101によれば、体内に穿刺されたとき、開口部72から入り込んだ血清成分を微小化学分析システムにより直ちにかつ容易に分析することができる。
【0052】
また、変形例1のランセット101は、注射針としても利用することができる。すなわち、チャンバ81に図示しないマイクロポンプを接続し、ランセット101が体内に穿刺された後、チャンバ81内に負圧を形成することにより、血液を容易に採集することができる。
【0053】
図11に示す通路71と開口部72の代わりに、ランセット101は、図12に示すように、X方向に延びる溝部74を底面73に設けてもよい。こうして同様に、溝部74に一対の電極を配置し、チャンバ81内にはバイオセンサを配置することにより、所望の血液成分を分析することができる。
【0054】
さらに択一的には、変形例1のランセット101は、図13に示すように、同様にX方向に延びる複数の(図13では2つの)通路75,76を有し、保持部40内には各通路75,76と個別に連通する複数のチャンバ82,83が形成される。また、先端部11付近において、各通路75,76と連通する複数の開口部77a〜77c,78a〜78cが、例えば、図13では第1の拡大領域10、縮小領域20、および第2の拡大領域30の側面に形成される。そして、各通路75,76に異なる電極対を配置し、各チャンバ82,83に個別のバイオセンサを設けて、別種の血液成分について分析することができる。あるいは、異なる薬剤をそれぞれのチャンバ82,83に封止し、複数の開口部77,78を介して薬剤を体内に徐放させることができる。必要ならば、各開口部77,78を同じ生分解性材料からなるシート(図示せず)で封止し、体内に穿刺して所定時間経過した後に、徐放させることが可能である。さらに、各開口部77,78を封止するシートの厚みを通路75,76により変更して、各チャンバ82,83内に封止された薬剤が徐放されるタイミングを制御することもできる。
【0055】
さらに好適には、隣接する開口部77,78は所定の距離だけ離間して配置される。例えば、一対の電極を異なる開口部77,78から露出させると、電極間の距離が正確に決定されるので、その電位差から電極間に介在する溶液を、より厳密に分析することができる。同様に、光ファイバを異なる開口部77,78から露出させ、これらから出力される光線が交差する領域における溶液を既知の距離から正確に分析することができる。
【0056】
(変形例2)
図14および図15を参照しながら、実施形態1ないし3の変形例2のランセットについて詳細に以下説明する。変形例2のランセットは、薬剤を収容するための複数の縦孔と、縦孔を封止する封止部とをさらに有する点を除き、実施形態1のランセット1と同様の構成を有するので、重複する点については説明を省略する。
【0057】
変形例2のランセット102は、図14に示すように、薬剤を収容するためのZ方向に延びる複数の縦孔91a〜91dと、これを封止するための生分解性材料からなる封止部92とをさらに有する。この縦孔91a〜91dに薬剤を含む微小粒体または流体(図示せず)を充填した後、縦孔91a〜91dから逸脱しないようにこれを封止部92で封止する。
【0058】
こうして形成されたランセット102を体内に穿刺して留置しておくと、とりわけ封止部92を構成する生分解性材料が徐々に分解され、縦孔91a〜91dに収容された薬剤を含む微小粒体または粒体を徐放させることができる。また好適には、封止部92は、そのZ方向における厚みが縦孔91a〜91dの配置位置において異なるように形成される。具体的には、封止部92は、図15(a)に示すように傾斜した厚みを有するように、あるいは図15(b)に示すように段差を有するように構成される。こうして、各縦孔91a〜91dに収容された薬剤を徐放させる時期を制御することができる。
【0059】
なお、変形例1および2において、ランセットの通路71、チャンバ81、および縦孔91a〜91dは、当業者ならば容易に理解されるように、例えばエキシマレーザなどの光出力を自在に制御できるレーザ装置を用いて形成することができる。
【0060】
(実施形態4)
図16ないし図18を参照しながら、実施形態4のランセット4について詳細に以下説明する。実施形態1のランセット1によれば、Y−Z平面に平行な任意の切断面で切断したときの断面が三角形形状であったのに対し、実施形態4のランセット4の切断面は、実質的に台形形状を有する点を除き、実施形態1のランセット1と同様の構成を有するので、重複する点については説明を省略する。
【0061】
実施形態1の図3および図10と実施形態4の図16とを比較すると容易に理解されるように、実施形態4のランセット4は、Y−Z平面に平行な任意の切断面で切断したとき、三角形ではなく実質的に台形形状の断面を有する。また、台形断面の底辺(上底および下底)は、先端部11からの距離またはX方向における位置に依存して変化する一方、その高さは一定(H)である。すなわち、実施形態4のランセット4は、Y−Z平面に平行な切断面で切断された台形断面の底辺が単調増加する第1および第2の拡大領域(細胞切開領域)10,30と、台形断面の底辺が単調減少する少なくとも1つの縮小領域(摩擦力緩和領域)20とを有する。また、保持部40が、後続の拡大領域20に連結されている。本発明のランセット4は、上述の生体適合性材料を用いて形成されるが、好適には、生分解性材料を用いて一体成形されるので、容易に廃棄処分でき、その一部を体内に係留することができる。
【0062】
実施形態4のランセット4によれば、第1および第2の拡大領域10,30において最大の断面積を与える最大断面の底辺は、実質的に同じ長さを有する。また、台形断面の高さ(H)は、細胞組織を切開する上ではできるだけ低い(ランセット4は薄い)方が好ましいが、十分な強度をもたせるためにはできるだけ高い(ランセット4は厚い)方が好ましい。より好ましくは、高さ(H)は、最大断面の底辺、すなわち第2の対角線(L2)の約1/8倍以上の長さを有する。
【0063】
また、実施形態4のランセット4によれば、図17および図18において、縮小領域20において最小の断面積を与える最小断面の底辺は、好適には、最大断面の底辺の約1/2倍以上であり、さらに好適には、約2/3倍以上である。実施形態1と同様、実施形態4のランセット4によれば、各拡大領域10,30における最大断面間の距離(D)が、少なくとも約1μm離間していることが好ましい。
【0064】
実施形態1と同様、追加的な縮小領域および拡大領域を第2の拡大領域20に続けて一体成形してもよい。さらに詳細図示しないが、実施形態2と同様、任意のY−Z平面で切断された断面が実質的に一定の断面積を与えるような一定領域60を、縮小領域と拡大領域の間に一体成形してもよい。
【0065】
加えて、実施形態3と同様、実施形態4のランセット4の第1の拡大領域10において、底辺の長さは、好適には、図18に示すように、第2の拡大領域30よりも緩やかに増加するように設計される。すなわち、第1の拡大領域10の底辺の長さが増加する比率は、第2の拡大領域30の底辺の長さが増加する比率の約1/4倍ないし約1倍の範囲で、好適には約1/3倍になるように設計される。こうして、実施形態4のランセット4は、細胞組織内により容易に侵入でき、患者に与える痛みをより小さくすることができる。
【0066】
(実施形態5)
図19および図20を参照しながら、実施形態5のランセット5について詳細に以下説明する。図19(a)は、図3(ランセット1)および図10(a)(ランセット3)と同様の斜視図であって、図19(b)〜(d)は、図4(a)〜(c)(ランセット1)とそれぞれ同様の正面図、側面図、および平面図である。実施形態1のランセット1によれば、Y−Z平面に平行な任意の平面で切断したときの断面が三角形形状であったのに対し、実施形態5のランセット5の断面は、半円形状を有する点を除き、実施形態1のランセット1と同様の構成を有するので、重複する点については説明を省略する。
【0067】
すなわち、本発明のランセット5は、所定方向(X方向)に延び、これに垂直な平面で切断された断面(Y−Z平面で切断された断面を本願においては「垂直断面」という。)の断面積が先端部11からの距離に依存して規則的に増減する。また、ランセット5は、垂直断面の断面積が極大となる複数の極大点22a,22b,22cと、垂直断面の断面積が極小となる複数の極小点23a,23b,23cとを有する。なお、図19に示すランセット5は、それぞれ3つずつの極大点および極小点を有するように図示したが、任意の複数の極大点および極小点を有していてもよい。
【0068】
本発明のランセット5によれば、先端部11に最も近い極大点22aにおける垂直断面の断面積が、他の各極大点22b,22cにおける垂直断面の断面積と同じで、先端部11に最も近い極小点23aにおける垂直断面の断面積が、他の各極小点23b,23cにおける垂直断面の断面積と同じになるように設計されている。また、図19に示すランセット5において、隣接する一対の極大点間の距離D、例えば極大点22aと22bの間の距離は、極大点22bと22cの間の距離と実質的に同じである。
【0069】
さらに、本発明のランセット5を、図19(c)に示すX−Z平面、および図19(d)に示すX−Y平面に投影して見たとき、垂直断面の断面積は、隣接する極大点と極小点の間、例えば極大点22aと極小点23aの間、極小点23aと極大点22bの間において直線的に増減する。ただし、実施形態1で説明したように、垂直断面の断面積は、隣接する極大点と極小点の間において曲線的に変化してもよい。
【0070】
こうして構成されたランセット5は、体内の細胞組織(皮膚または筋肉内)に穿刺されたとき、図19に示すように、第1の拡大領域(細胞切開領域)10の先端部11を支点として、周辺にある細胞組織を押し広げるようにして、細胞組織内に侵入する。このとき、第1の拡大領域10と周辺細胞との間に生じる摩擦力は非常に大きく、ランセット1の体内侵入に伴い、周辺細胞は、摩擦力により深部に向かって強く引き込まれ得る。
【0071】
しかしながら、本発明のランセット5は、第1の拡大領域10が体内に侵入した後、さらに体内に進むと、縮小領域(摩擦力緩和領域)20における断面積が小さくなるので、縮小領域20と周辺組織との間に生じる摩擦力は実質的に低減され、周辺細胞は、自らの弾性により元の正常位置に復帰する。したがって、第1の拡大領域10に引っ張られていた周辺細胞が、元の位置に戻り、これに加えられる物理的なストレスが解消される。
【0072】
同様に、ランセット5の第2の拡大領域30が体内に侵入するとき、周辺にある細胞組織を押し広げるようにして細胞組織内に侵入する。このとき、上述のように、先端部11に最も近い極大点22aにおける垂直断面の断面積が、他の各極大点22b,22cにおける垂直断面の断面積と同じとなるように設計されているので、第2の拡大領域30を始めとする拡大領域において、体内に進入する際に必要以上に周辺細胞を押し広げる(周辺細胞にストレスを与える)ことを回避することができる。
【0073】
なお、本発明のランセット5を、図20(a)に示すX−Z平面、および図20(b)に示すX−Y平面に投影して見たとき、縮小領域20の斜面がX軸と交差する角度αは、第2の拡大領域30の斜面がX軸と交差する角度βより大きいことが好ましい。これにより、本発明のランセット5が第1の拡大領域10を超えて体内に侵入したとき、縮小領域20における断面積が急激に小さくなり、両者の間に生じる摩擦力がより速やかに低減され、周辺細胞が元の位置に復帰しやすくなる。
【0074】
このように、本発明によれば、広範な領域における周辺細胞を元の位置に復帰させることにより、患者に与える痛みを実質的に緩和し、周辺細胞に損傷をできるだけ与えないようにした低侵襲性のランセット5を提供することができる。
【0075】
(変形例3〜6)
図21〜図24を参照しながら、実施形態5の変形例3〜6のランセットについて詳細に以下説明する。本発明のランセット5は、上記説明したように、Y−Z平面に平行な任意の平面で切断したときの垂直断面が半円である。一方、実施形態5の変形例3〜6のランセット103,104,105,および106は、Y−Z平面に平行な任意の平面で切断したときの垂直断面が半円ではなく、図21〜図24にそれぞれ示すように、真円形状、楕円形状、矩形形状、および六角形形状を有する点を除き、実施形態5のランセット5と同様の構成を有する。
【0076】
したがって、変形例3〜6のランセット103,104,105,および106は、実施形態5のランセット5と同様の利点を有し、患者に与える痛みを実質的に緩和し、周辺細胞への回復し難い損傷を極力抑えることができる。
【0077】
(実施形態6)
図25を参照しながら、実施形態6のランセット6について詳細に以下説明する。図25は、図4(c)(ランセット1)および図10(c)(ランセット3)と同様の平面図である。実施形態1のランセット1によれば、各極大点における垂直断面の断面積はすべて同じであったのに対し、実施形態6のランセット6によれば、先端部11に最も近い極大点22aにおける垂直断面の断面積が他の各極大点22b,22cなどにおける垂直断面の断面積より大きく、とりわけ各極大点22a,22b,22cにおける垂直断面の断面積は、先端部11から後端部18に向かって徐々に小さくなる点を除き、実施形態1のランセット1と同様の構成を有するので、重複する点については説明を省略する。
【0078】
このとき、図25から明らかなように、ランセット6の隣接する一対の極大点間の距離(D1,D2,D3,D4,D5)は、先端部から後端部に向かって(−X方向に向かって)徐々に短くなる。また、図25に示すランセット6において、各極大点22a,22b,22cにおける垂直断面の断面積が先端部11から後端部18に向かって徐々に小さくなる一方、各極小点23a,23b,23c,23dにおける垂直断面の断面積は一定である。
【0079】
一般に、ランセット6が細胞組織内に穿刺された状態にあるとき、すなわちランセット6の先端部11が細胞組織内にあって、保持部40がユーザにより支持されている状態にあるとき、最も大きな応力がランセット6の後端部18に集中しやすく、後端部18付近の極小点23dにおいて破断することがある。
【0080】
しかし、本発明の実施形態6によれば、各極小点23a,23b,23c,23dにおける垂直断面の断面積が一定となるように構成されているので、後端部18付近の極小点23dにおいて折れにくい安全なランセット6を実現することができる。
【0081】
(変形例7)
図26を参照しながら、実施形態6の変形例7のランセットについて以下に詳細に説明する。実施形態6の変形例7のランセット107は、各極大点22a,22b,22cにおける垂直断面の断面積は一定である一方、各極小点23a,23b,23c,23dにおける垂直断面の断面積は、先端部11から後端部18に向かって(−X方向に)徐々に大きくなるように構成されている。すなわち、後端部18に最も隣接する極小点23dにおける垂直断面が、他のすべての極小点23a,23b,23cにおける垂直断面よりも大きい。したがって、変形例7によれば、実施形態6のランセット6に比して、後端部18付近の極小点23dにおいて、よりいっそう折れにくい、より安全なランセット107を提供することができる。
【0082】
(変形例8)
図27を参照しながら、実施形態6の変形例8のランセットについて以下に詳細に説明する。変形例8のランセット108において、各極大点22a,22b,22cにおける垂直断面の断面積が一定であり、後端部18に最も隣接した極小点23d以外の各極小点23a,23b,23cにおける垂直断面の断面積も同様に一定である。すなわち、後端部18に最も隣接した極小点23dにおける垂直断面の断面積だけが、他の各極小点23a,23b,23cにおける垂直断面の断面積より小さくなるように形成されている。
【0083】
このように構成されたランセット108は、細胞組織内に穿刺した後、後端18付近の極小点23dにおいて、意図的に破断させ、ランセット108の一部を体内に留置することができる。ただし、このようにランセット108を留置針として利用する場合、ランセット108はポリ乳酸などの生分解性材料を用いて一体成形する必要がある。
【0084】
付言すると、ランセット107および108は、ランセット6と同様の効果を有し、患者に与える痛みを実質的に緩和し、周辺細胞への回復し難い損傷を極力押さえることができる。
【0085】
(変形例9)
図28を参照しながら、上述の実施形態1〜6の変形例9によるランセット109について以下に詳細に説明する。図28(a)は、図3に示すランセット1をZ方向に(下方から上方に向かって)見たときの底面図であって、図28(b)は、X−Z平面で切断したときの断面図である。変形例9のランセット109は、底面73上に回折格子24が設けられている。
【0086】
この回折格子24は、図28(c)の一部拡大図に示すように、隣接する一対の頂点25の間の距離(ピッチ)Pを有し、例えば、X方向軸と45°の角度で傾斜する斜面26を有する。
【0087】
このように構成されたランセット109が、細胞組織内に穿刺されると、回折格子24上の斜面26に血液27が付着する。そして血液27と大気の間の界面は、図28(c)に示すように曲線的軌跡を描くが、この曲線的形状は、流体である血液27と斜面26を構成する材料の間に働く表面張力に依存する。例えば、親水性が高いポリ乳酸を用いて回折格子24を形成すると、より多量の血液27が回折格子24上に付着する。このとき、図示しないレーザ測定装置などからの入射ビーム28が回折格子24の真上から照射されると、入射ビーム28は、斜面26で2度反射し、反射ビーム29としてレーザ測定装置へ帰還する。このとき、入射ビーム28と反射ビーム29との間の間隔をdとすると、レーザビームの光路長を間隔dにより一意的に決定することができる。こうして、斜面26に付着した血液を透過したことによる光の位相のずれを検出することができる。こうして光の位相のずれが検出されると、血液中に含まれるケトン体の含有量または血糖量を測定することができる。
なお、赤血球などの粒状体が回折格子24上に付着すると、血糖量などの測定に誤差が生じることがあるので、頂点25間ピッチPは、赤血球などよりも小さくして、回折格子24上に付着しにくくしておくことが好ましく、例えば1〜25μmの範囲にあることが好ましい。
【0088】
このように、変形例9によるランセット109によれば、図示しないレーザ測定装置を用いて、血液中に含まれるケトン体の含有量または血糖量を瞬時にして測定することができる。
【0089】
(変形例10)
図29を参照しながら、上述の実施形態1〜6の変形例10によるランセット110について以下に詳細に説明する。図29(a)および(b)は、図4(c)および図10(c)と同様の平面図であって、それぞれ10μmおよび3μmの曲率半径を有する先端部11を含むランセット110を示す。
【0090】
一般に、ランセットおよび注射針の先端部11が丸みを帯びて尖っていない場合、これが細胞組織内に刺さったときに感じる痛みは強い。すなわち、ランセット110の先端部11が鋭ければ鋭いほど痛みが小さくなることは、これまでにも当業者に広く知られていた。しかし、本発明者らは、鋭意研究の結果、先端部11の曲率半径が約10μm以下であるランセット110を皮膚に突き刺さした時に受ける痛みは実質的に軽減されることを見出した。
【0091】
そこで、変形例10によるランセット110は、図29(a)に示すように、約10μmの曲率半径(R1)を有し、より好適には、図29(b)に示すように、約3μmの曲率半径(R2)を有するように設計される。こうして、より痛みの少ないランセット110を実現することができる。
【0092】
さらに、変形例10によるランセット110は、図29(a)および(b)に示すように、ランセット110の極大点22および極小点23を数多く有し、隣接する一対の極大点22および極小点23の間の距離が一定(例えば、D=1〜25μm)となるように構成される。こうして構成されたランセット110によれば、細胞組織内に穿刺されたとき、極大点22または極小点23をある種の寸法ゲージとして利用することができる。択一的には、先端部11から所定の距離だけ隔てた位置にマーキングまたは色付けし、先端部11からの距離が容易に示唆されるようにしてもよい。
【0093】
(変形例11〜12)
図30および図31を参照しながら、実施形態5の変形例11および12によるランセット111および112について以下に詳細に説明する。図30(a)〜(c)は、図4(a)〜(c)と同様の正面図、側面図、および平面図であって、図4に示す実施形態1による一対のランセット1a,1bを保持部40において貼り合わせた構造を有し、一対のランセット1a,1bの間にスリット31が形成されている。同様に、図31(a)〜(c)は、図19(b)〜(d)と同様の正面図、側面図、および平面図であって、図19に示す実施形態5による一対のランセット5a,5bを保持部40において貼り合わせた構造を有し、一対のランセット5a,5bの間にスリット31が形成されている。
【0094】
変形例11〜12によるランセット111,112は、一対のランセットの間にスリット31を有し、ランセット1,5と同様の利点を期待することができる。
さらに、この変形例11〜12によるランセット111,112によれば、これを細胞組織内に穿刺すると、微少なスリット31の中に血液または体液が毛細管現象により保持部40の方へ吸い上げられる。したがって、血液に含まれる血漿、細胞、たんぱく質を容易に採集することができる。
【0095】
これまで説明した実施形態および変形例を示す図面において、極大点および極小点、ならびに稜線および先端部は、不連続面を有するものとして図示されているが、当業者ならば容易に理解されるように、図5に示す連続曲面58と同様に、連続的に推移する曲面を有していてもよい。
【0096】
すなわち、上記の実施形態および変形例は、本発明を単に例示的に説明するためのものであって、本発明を限定するものではなく、本発明の精神および範疇は、添付のクレームにより定義される。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】図1は、本発明に係る実施形態1のランセットの斜視図である。
【図2】図2(a)ないし図2(c)は、それぞれ図1に示すランセットの正面図、側面図、および平面図である。
【図3】図3は、実施形態1の別のランセットの斜視図である。
【図4】図4(a)ないし図4(c)は、それぞれ図3に示すランセットの正面図、側面図、および平面図である。
【図5】図5(a)ないし図5(c)は、それぞれ実施形態1の別のランセットの斜視図、側面図、および平面図である。
【図6】図6は、本発明に係る実施形態2のランセットの斜視図である。
【図7】図7(a)ないし図7(c)は、それぞれ図5に示すランセットの正面図、側面図、および平面図である。
【図8】図8は、実施形態2の別のランセットの斜視図である。
【図9】図9(a)ないし図9(c)は、それぞれ図8に示すランセットの正面図、側面図、および平面図である。
【図10】図10(a)ないし図10(c)は、本発明に係る実施形態3のランセットの斜視図、側面図、および平面図である。
【図11】図11(a)ないし図11(c)は、それぞれ変形例1のランセットの側面図、平面図、および背面図である。
【図12】図12(a)および図12(b)は、それぞれ変形例1の別のランセットの側面図および底面図である。
【図13】図13(a)および図13(b)は、それぞれ変形例1のさらに別のランセットの側面図および平面図である。
【図14】図14(a)および図14(b)は、それぞれ変形例2のランセットの側面図および底面図である。
【図15】図15(a)および図15(b)は、変形例2の別のランセットの側面図である。
【図16】図16(a)および図16(b)は、本発明に係る実施形態4のランセットの斜視図である。
【図17】図17(a)ないし図17(c)は、図16(a)に示すランセットの正面図、側面図、および平面図である。
【図18】図18(a)ないし図18(c)は、図16(b)に示すランセットの正面図、側面図、および平面図である。
【図19】図19(a)ないし図19(d)は、本発明に係る実施形態5のランセットの斜視図、正面図、側面図、および平面図である。
【図20】図20(a)および図20(b)は、実施形態5の択一的なランセットの側面図および平面図である。
【図21】図21(a)ないし図21(c)は、実施形態5の変形例3によるランセットの正面図、側面図、および平面図である。
【図22】図22(a)ないし図22(c)は、実施形態5の変形例4によるランセットの正面図、側面図、および平面図である。
【図23】図23(a)ないし図23(c)は、実施形態5の変形例5によるランセットの正面図、側面図、および平面図である。
【図24】図24(a)ないし図24(c)は、実施形態5の変形例6によるランセットの正面図、側面図、および平面図である。
【図25】図25は、本発明に係る実施形態6によるランセットの平面図である。
【図26】図26は、実施形態6の変形例7によるランセットの平面図である。
【図27】図27は、実施形態6の変形例8によるランセットの平面図である。
【図28】図28(a)ないし図28(c)は、上記実施形態の変形例9によるランセットの底面図、側方断面図、および回折格子の一部を拡大する断面図である。
【図29】図29(a)および図29(b)は、上記実施形態の変形例10によるランセットの平面図である。
【図30】図30(a)ないし図30(c)は、上記実施形態の変形例11によるランセットの正面図、側面図、および平面図である。
【図31】図31(a)ないし図31(c)は、上記実施形態の変形例12によるランセットの正面図、側面図、および平面図である。
【符号の説明】
【0098】
1〜6,101〜112 ランセット、10 第1の拡大領域(細胞切開領域)、11 先端部、12 第1対角線、13 第2対角線、14 底面、15a,15b,16 辺(稜線)、17a,17b 側面、18 後端部、20 縮小領域(摩擦力緩和領域)、21 側面、22a,22b,22c 極大点、23a,23b,23c,23d 極小点、24 回折格子、25 頂点、26 斜面、27 血液、28 入射ビーム、29 反射ビーム、30 第2の拡大領域(細胞切開領域)、37a,37b 側面、40 保持部、51,52,53 Y−Z平面、60a,60b 一定領域、71,75,76 通路、72 開口部、73 底面、74 溝部、77,78 開口部、81,82,83 チャンバ、91 縦孔、92 封止部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ランセットおよび注射針などの医療用針、ならびにこれを用いた医療用デバイスに関し、とりわけ生体適合性材料からなる医療用針ならびにこれを用いた医療用デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、治療などの目的で皮下注射を行うとき、患者の適当な皮膚または筋肉に注射針を突き刺して、薬剤が注射針を介して体内に注入される。同様に、例えば、糖尿病患者の血糖値を定期的に測定するために、ランセットを適当な身体部分(例えば、指先)に穿刺して、微量の血液が採取される。このように、注射針またはランセットを体内に突き刺す際、患者は、相当の痛みまたは不快感を感じ、穿刺された部位における細胞が広範な領域に亙って損傷を受けることがある。したがって、患者に与える痛み(不快感)をできるだけ抑え、侵襲性のより低い注射針およびランセットが強く要望されている。
【0003】
患者にできるだけ痛みを与えない注射針が、これまでいくつか提案されている。例えば、特開平10−57490によれば、注射針が患者の皮膚または筋肉に穿刺された時、患者が痛みを感じる理由は、注射針の先端部が皮膚または筋肉を掴むためであるとし、これに対処するため、注射針の先端部を図面に示すような多斜角面を有するように成形することが開示されている。
【特許文献1】特開平10−57490号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
患者が痛みを感じる理由をより詳細に以下説明する。注射針が体内の細胞組織(皮膚または筋肉内)に侵入するとき、注射針表面と細胞組織とが接触する表面積が大きくなり、その間に生じる摩擦力が増大する一方、注射針表面付近にある細胞組織が皮下方向に強く引っ張られる。その結果、周辺細胞組織は、摩擦力により大きな物理的にストレスが付加されるため、極端に変形し、場合によっては、細胞が引きちぎられ(破壊され)、ヒスタミンおよびブラディキニンなどの発痛ケミカルメディエータが放出されるために、患者は極めて強い痛みを感じる。また、こうした摩擦力による物理的なストレスは広範囲に亙り、周辺細胞組織は相当な損傷を受け、容易に回復しないため、注射針の侵襲性は極めて高いものとなる。
【0005】
微量の血液を採取するために適当な身体部位に穿刺されるランセットも同様に、物理的ストレスを極力小さくして、すなわちできるだけ少ない数の細胞組織を切開して、切開された細胞以外の細胞組織を分け入るようにして、細胞組織内に侵入していくことが好ましい。こうして、損傷を与える細胞の数をできるだけ抑え、低侵襲性の医療用針(注射針およびランセット)を構成することが好ましい。
【0006】
したがって、本発明の1つの態様は、患者に与える痛み(負担)が極力小さい低侵襲性医療用針を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの態様は、先端部から後端部まで所定方向に延び、これに垂直な平面で切断された垂直断面の断面積が先端部からの距離に依存して規則的に増減する医療用針に関し、この医療用針は、垂直断面の断面積が極大となる複数の極大点と、垂直断面の断面積が極小となる少なくとも1つの極小点と、所定方向に延びる複数の通路とを有することを特徴とする。
【0008】
好適には、医療用針はその後端部に連結された保持部をさらに有する。
【0009】
より好適には、保持部は前記複数の通路のそれぞれと個別に連通する複数のチャンバを有する。
【0010】
さらに好適には、複数のチャンバ内にそれぞれ異なる薬剤が収容されている。
【0011】
択一的には、複数のチャンバ内にそれぞれ異なる成分を分析するバイオセンサが収容されている。
【0012】
好適には、複数の通路のそれぞれは開口部を有し、医療用針は各開口部を封止する封止部をさらに有する。
【0013】
さらに好適には、封止部の厚みが、各開口部に対してそれぞれ異なる。
【0014】
好適には、医療用針は生分解性材料および生体適合性材料の少なくとも一方、または両方からなる。
【0015】
このように構成された医療用針を用いて、任意の医療用デバイスを構成することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の1つの実施形態の医療用針によれば、患者に与える痛みをできるだけ小さくし、患者の穿刺部位における損傷を極力抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して本発明に係る医療用針の実施形態を説明するが、発明を理解しやすくするために、医療用針の中でも中実タイプのランセットの実施形態を主に説明する。したがって、詳細には説明しないが、本発明は中空タイプの注射針にも等しく適用されるものと理解されたい。
なお、各実施形態の説明において、理解を容易にするために方向を表す用語(例えば、「X方向」、「Y方向」、「Z方向」など)を適宜用いるが、これは説明のためのものであって、これらの用語は本発明を限定するものでない。また本発明は、特許請求の範囲により定義される精神および範疇に含まれるすべての変形例を含むものとし、各実施形態の説明に基づいて限定的に解釈すべきではない。
【0018】
(実施形態1)
図1および図4を参照しながら、本発明の第1の実施形態によるランセットを以下に説明する。ランセット1を用いて、例えば、糖尿病患者の血糖値測定のために、患者の適当な身体部位(例えば、指先)に穿刺して、微量血液が採取される。図1および図2に示すように、ランセット1は、X方向に延び、任意のY−Z平面で切断したとき、三角形形状の断面を有する。その三角形断面の底辺、高さ、および断面積は、先端部11からの距離またはX方向における位置に依存して変化する。すなわち、ランセット1は、この断面積が単調増加する第1の拡大領域(細胞切開領域)10と、断面積が単調減少する縮小領域(摩擦力緩和領域)20と、さらに再び断面積が単調増加する第2の拡大領域(細胞切開領域)30とを有する。また、保持部40が第2の拡大領域30に連結されている。
【0019】
換言すると、本発明のランセット1は、図1に示すように、所定方向(X方向)に延び、これに垂直な平面(Y−Z平面)で切断された断面(垂直断面)の断面積が先端部11からの距離に依存して規則的に増減する。また、ランセット1は、垂直断面の断面積が極大となる複数の極大点(Y−Z平面51,53)と、垂直断面の断面積が極小となる極小点(Y−Z平面52)とを有し、先端部に最も近い極大点51における垂直断面の断面積が、他の各極大点53における垂直断面の断面積と同じとなるように設計されている。
【0020】
本発明のランセット1は、一般には、高分子ポリマ、生体高分子、蛋白質、および生体適合性無機材料を含む任意の生体適合性材料により構成される。
【0021】
高分子ポリマとしては、これらに限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニル,ポリエチレングリコール,パリレン,ポリエチレン,ポリプロピレン,シリコーン,ポリイソプレン,ポリメチルメタクリレート,フッ素樹脂,ポリエーテルイミド,ポリエチレンオキサイド,ポリエチレンテレフタレート,ポリエチレンサクシネート,ポリブチレンテレフタレート,ポリブチレンサクシネート,ポリブチレンサクシネートカーボネート,ポリフェニレンオキサイド,ポリフェニレンサルファイド,ポリホルムアルデヒド,ポリアンヒドリド,ポリアミド(6ナイロン、66ナイロン),ポリブタジエン,ポリ酢酸ビニル,ポリビニ−ルアルコ−ル,ポリビニルピロリドン,ポリエステルアミド,ポリメタクリル酸メチル,ポリアクリロニトリル,ポリサルホン,ポリエーテルサルホン,ABS樹脂,ポリカーボネート,ポリウレタン(ポリエーテルウレタン、ポリエステルウレタン、ポリエーテルウレタン尿素),ポリ塩化ビニリデン,ポリスチレン,ポリアセタール,ポリブタジエン,エチレン酢酸ビニル共重合体,エチレンビニルアルコール共重合体,エチレンプロピレン共重合体,ポリヒドロキシエチルメタクリレート,ポリヒイドロブチレート,ポリオルトエステル,ポリ乳酸,ポリグリコール,ポリカプロラクトン,ポリ乳酸共重合体,ポリグリコール酸・グリコール共重合体,ポリカプロノラクトン共重合体,ポリジオキサノン,パーフルオロエチレン―プロピレン共重合体,シアノアクリレート重合体,ポリブチルシアノアクリレート,ポリアリルエーテルケトン,エポキシ樹脂,ポリエステル樹脂,ポリイミド,フェノール樹脂)が含まれる。
【0022】
また、生体高分子としては、例えば、セルロース,でんぷん,キチン・キトサン,寒天,カラギーナン,アルギン酸,アガロース,ブルラン,マンナン,カードラン,キサンタンガム,ジェランガム,ペクチン,キシログルカン,グアーガム,リグニン,オリゴ糖,ヒアルロン酸,シゾフィラン,レンチナンなどが含まれ、蛋白質としてはコラーゲン,ゼラチン,ケラチン,フィブロイン,にかわ,セリシン,植物性蛋白質,牛乳蛋白質,ラン蛋白質,合成蛋白質,ヘパリン,核酸が含まれ、糖、あめ、ブドウ糖、麦芽糖、ショ糖およびこれらのポリマーアロイを用いることもできる。
【0023】
さらに、生体適合性無機材料としては、例えば、セラミック,ナノ複合化セラミック,Al2O3/ZnO2複合セラミックス,Si3N4系ナノ複合材料,水酸化アパタイト,炭酸カルシウム,カーボン,グラファイト(ナノグラファイバー),カーボンナノチューブ(CNT),フラーレン複合材料,ハイドロキシアパタイト・ポリマー複合材料,コバルトクロム合金,ステンレスなどが含まれる。
【0024】
ただし好適には、本発明のランセット1は、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、コラーゲン、でんぷん、ヒアルロン酸、アルギン酸、キチン、キトサン、セルロース、ゼラチンなどを含む生分解性ポリマ、およびこれらの化合物からなる生分解性材料を用いて形成される。
【0025】
一般に、使用済の注射針およびランセットは、さまざまな感染症を防止するために再利用されることはなく、使用後、直ちに破棄され、しかも可燃物ごみとしてではなく、産業廃棄物として埋め立て処理されることが多い。しかし、ポリ乳酸などの生分解性材料を用いて形成されたランセット1が埋め立て処理されると、好適にも、土中の微生物により水と二酸化炭素に分解される。すなわち、生分解性材料を用いて本発明のランセット1を形成すると、他の生体適合性材料を用いて形成した場合よりも環境に優しいだけでなく、ランセットの一部が欠損して、体内に残留した場合であっても、同様に体内において容易に生分解されるので、極めて安全であるランセットを実現することができる。
【0026】
次に、図2(a)ないし(c)を参照しながら、実施形態1のランセット1を構成する上述の各領域10,20,30の外形形状についてより詳細に説明する。第1および第2の拡大領域10,30および縮小領域20は、所定の四角錐の部分的な外形形状を有する。
【0027】
この四角錐は、図2(a)の正面図および図2(b)の側面図において、所定の高さ(H)を有し、図2(c)の平面図において所定の長さを一辺とし、第1および第2対角線12,13を有する菱形形状の底面14を有する。好適には、四角錐の底面14は正方形であり(四角錐は正四角錐であり)、第1および第2対角線の長さは互いに等しい(L1=L2)。さらに好適には、それぞれの正四角錐の高さ(H)は、第1および第2対角線12,13の長さの半分であって(H=L1/2=L2/2)、このとき、正四角錐を構成する側面は正三角形となる。
【0028】
図2(b)の側面図において、ランセット1の第1の拡大領域10は、第1対角線を通るY−Z平面51で四角錐を切断して得られる外形形状を有し、縮小領域20は、第1対角線を通るY−Z平面51と、これと平行な平面52により四角錐を切断して得られる外形形状を有する。同様に、第2の拡大領域30は、第1対角線を通るY−Z平面53と、これと平行な平面52により別の四角錐を切断して得られる外形形状を有する。そして、ランセット1は、第1の拡大領域10と、縮小領域20と、第2の拡大領域30が、各四角錐の第2対角線が同一直線上に、かつ各四角錐の底面が同一平面上に配置されるように一体成形される。
【0029】
こうして構成されたランセット1は、上述のように、任意のY−Z平面で切断したとき、三角形形状の断面を有し、その底辺、高さ、および断面積は、先端部11からの距離またはX方向における位置に依存して直線的に増加または減少する。なお、本発明の拡大領域10,30および縮小領域20に関し、任意のY−Z平面で切断された断面の底辺および高さは、先端部からの距離をパラメータとして、直線的に増加または減少するものとして説明されるが、曲線的に増加または減少してもよく、例えば2次関数などの単調増加または単調減少する任意の関数として定義することができる。すなわち、各領域10,20,30における三角形断面の底辺、高さ、および断面積は、X方向における位置をパラメータとする線形または非線形関数で与えられる。
【0030】
本発明の実施形態1のランセット1によれば、第1および第2の拡大領域10,30において最大の断面積を与える最大断面(Y−Z平面51および53で切断した断面)は、互いに実質的に合同であって、実質的に同じ三角形形状および大きさを有し、縮小領域20において最小の断面積を与える最小断面(Y−Z平面52で切断した断面)と相似形状を有する。
【0031】
さらに、実施形態1のランセット1は、図3および図4に示すように、同様にX方向に沿って連続的に一体成形される、少なくとも1つの追加的な縮小領域20a,20bおよび拡大領域30a,30bを有していてもよい。各拡大領域10,30において最大の断面積を与える最大断面は、同様に、実質的に同じ形状および大きさを有する。
【0032】
このように構成されたランセット1は、体内の細胞組織(皮膚または筋肉内)に侵入する時、図1および図3に示すように、第1の拡大領域(細胞切開領域)10の先端部11を支点として、四角錐を構成する3つの辺(稜線)15a,15b,16が周辺細胞を切開し、第1の拡大領域10の底面14および一対の側面17a,17bが切開されない細胞を押し広げるようにして、細胞組織内に侵入する。このとき、底面14および一対の側面17a,17bと周辺細胞との間に生じる摩擦力は非常に大きく、ランセット1の体内侵入に伴い、周辺細胞は、摩擦力により深部に向かって強く引き込まれ得る。
【0033】
しかしながら、本発明のランセット1は、第1の拡大領域10が体内に侵入した後、さらに体内に進むと、縮小領域(摩擦力緩和領域)20における断面積が小さくなるので、縮小領域20と周辺組織との間に生じる摩擦力は実質的に低減され、周辺細胞は、自らの弾性により元の正常位置に復帰する。したがって、第1の拡大領域10に引っ張られていた周辺細胞が、元の位置に戻り、これに加えられる物理的なストレスが解消される。このように、ランセット1が四角錐の第2対角線の長さの半分(L2/2)だけ進むと、深部に向かって強く引き込まれていた周辺細胞は、摩擦力から解放され、引きちぎられることなく正常位置に戻るので、患者に与える痛みを実質的に低減し、広範囲に亙る周辺細胞の回復し難い損傷を与えることを防止できる。
【0034】
さらにランセット1の縮小領域20が体内に侵入すると、第1の拡大領域10と同様に、第2の拡大領域(細胞切開領域)30を構成する3つの辺(稜線)35a,35b,36が周辺細胞を切開し、底面および一対の側面37a,37bが切開されない細胞を押し広げるようにして、細胞組織内に侵入することができる。このとき、上述のように、第1および2の拡大領域10,30において最大の断面積を与える最大断面は、実質的に合同であって、実質的に同じ形状および寸法を有するので、ランセット1が体内侵入する上で必要以上に周辺細胞を切開することを回避することができる。
【0035】
本発明のランセット1が体内に侵入するプロセスは、各拡大領域10,30において周辺細胞を切開するとともに、その他の細胞をかき分けて侵入するステップと、各縮小領域20と周辺細胞との摩擦力を緩和して周辺細胞を元の位置に復帰させるステップとを反復することにより実現される。このように、本発明によれば、広範な領域における周辺細胞を元の位置に復帰させることにより、患者に与える痛みを実質的に緩和し、周辺細胞に損傷をできるだけ与えないようにした低侵襲性のランセット1を提供することができる。
【0036】
また、周辺細胞の大きさは、ランセット1を穿刺する身体部位に依存するが、通常、約10μmであり、毛細血管などの微小細胞の場合、約5μmである。これに対し、四角錐の第1および第2対角線12,13の長さ(L1,L2)は、好適には、約85〜約180μmの範囲にある。また、四角錐の高さ(H)は、好適には、約42.5〜約90μmの範囲にある。すなわち、第1の拡大領域10おいて最大の断面積を与える最大断面は、約85〜約180μmの底辺と、約42.5〜約90μmの高さを有する三角形形状を有する。
【0037】
このとき、縮小領域20において最小の断面積を与える最小断面の底辺および高さ(Y方向およびZ方向の寸法)が、最大断面の底辺および高さの半分以下となると、縮小領域20と第2の拡大領域30の間における強度が際立って低減し、非常に折れやすくなる。すなわち、最小断面の底辺および高さが、それぞれ約42.5〜約90μm、約21.2〜約45μmであるとき、ランセット1は折れやすくなる。したがって、実施形態1のランセット1によれば、縮小領域20における最小断面の底辺および高さが、最大断面の底辺および高さの約1/2以上となるように、すなわち最小断面の断面積が、各拡大領域30における最大断面の断面積の約1/4(1/2の自乗)以上となるように設計される。さらに好適には、最小断面の底辺および高さが、最大断面の底辺および高さの約2/3以上となるように、すなわち最小断面の断面積が、各拡大領域10,30における最大断面の断面積の約4/9(2/3の自乗)以上となるように設計される。このように、本発明によれば、折れにくく、確実に体内に突き刺すことができる信頼性の高いランセット1を提供することができる。
【0038】
なお、縮小領域20は、第1の拡大領域10と細胞との間の摩擦力を低減または緩和するものであって、少なくとも細胞程度の大きさを必要とするので、第1および第2の拡大領域10,30における最大断面間の距離(D)、すなわちY−Z平面51および53の間の距離は、少なくとも1μm、好適には5μmとなるように設計される。
【0039】
さらに、図1ないし図4に示すランセット1によれば、縮小領域20の側面21および第2の拡大領域30の側面37は、実質的に平面であって、両者が互いに交差することにより鋭角部(不連続部)が形成される。これに対し、ランセット1は、図5に示すように、側面21および側面37を連続的に接続するような連続曲面58を有していてもよい。これにより、側面21,37間の不連続部において集中する応力により、ランセット1を折れにくくすることができる。
また、図1ないし図4においては、第2の拡大領域30に連結された保持部40は、三角柱形状を有するように図示したが、四角柱であってもよい。
【0040】
(実施形態2)
図6ないし図9を参照しながら、実施形態2のランセット2について詳細に説明する。実施形態2のランセット2は、縮小領域と第2の拡大領域の間に一体成形された一定領域(補強領域)を有する点を除き、実施形態1のランセット1と同様の構成を有するので、重複する点については説明を省略する。
【0041】
実施形態2のランセット2の一定領域60は、図6および図7に示すように、縮小領域20における最小断面と実質的に同じYおよびZ方向寸法ly,lzを有する三角形を底面61とし、X方向寸法lxを高さとする三角柱の外形形状を有し、縮小領域20と第2の拡大領域30の間における強度を補強するために設けられる。したがって、一定領域60は、これを任意のY−Z平面で切断したとき、底辺がlyで、高さがlzである実質的に同一の三角形形状の断面を有する。
【0042】
実施形態1の縮小領域20における最小断面について説明したのと同様、実施形態2において、縮小領域20と第2の拡大領域30の間の強度を十分に補強するためには、一定領域60の断面の底辺および高さly,lzは、好適には、拡大領域10,30の最大断面の底辺および高さL1,Hの半分以上(ly≧L1/2,lz≧H/2)、さらに好適には2/3以上(ly≧2L1/3,lz≧2H/3)となるように構成される。
【0043】
さらに、実施形態1と同様、実施形態2のランセット2は、図8および図9に示すように、同様にX方向に沿って連続的に一体成形される、少なくとも1つの追加的な縮小領域20a,20b、一定領域60a,60b、および拡大領域30a,30bを有していてもよい。
【0044】
(実施形態3)
図10を参照しながら、実施形態3のランセット3について詳細に説明する。実施形態3のランセット3は、第1の拡大領域10の先端部11が、実施形態1のランセット1のそれよりも鋭くなるように設計される点を除き、実施形態1のランセット1と同様の構成を有するので、重複する点については説明を省略する。
【0045】
図10(a)において、第2の拡大領域30におけるY−Z平面で切断された断面の高さおよび底辺の長さは、一点鎖線54で示す勾配(増加比率)で直線的に大きくなる一方、第1の拡大領域10における断面の高さおよび底辺の長さは、実線55で示す勾配(増加比率)で直線的に大きくなるように設計されている。実線55で示す第1の拡大領域10における断面の高さおよび底辺の長さが増加する比率(k)は、一方の点線56で示す勾配(k1)から他方の点線57で示す勾配の範囲で変化(k2)する(k2≦k≦k1)。第1の拡大領域10の一方の点線56の勾配(k2)は、第2の拡大領域30の一点鎖線54で示す勾配(k0)と同じであり、他方の点線57で示す勾配は一点鎖線54で示す勾配の約1/4倍(k0/4)である。好適には、第1の拡大領域10における断面の高さおよび底辺の長さの増加比率(k)は、第2の拡大領域30のそれよりも約1/3倍(k0/3)となるように設計される(k0/4≦k≦k0、好適には、k=k0/3)。
【0046】
したがって、第1の拡大領域10における断面の断面積の増加比率(K)は、第2の拡大領域30における断面の断面積の増加比率(K0)の約1/16倍(1/4の自乗)以上、約1倍以下であり、好適には、約1/9(1/3の自乗)である(K0/16≦K≦K0、好適には、K=K0/3)。例えば、それぞれの拡大および縮小領域の外形形状を構成する四角錐の第1および第2対角線の長さ(L1,L2)が同じで、その高さが対角線の半分であるとき(H=L1/2=L2/2)であるとき、第1の拡大領域10のX方向の長さは、L1/2から2L1の範囲で、好適には3L1/2の範囲にあり、図10(a)に示す先端部11における稜線角θは、約14°〜45°の範囲にあり、好適には約18.3°となる。
【0047】
このように、実施形態3のランセット3の第1の拡大領域10における断面の高さおよび底辺の長さは、第2の拡大領域30よりも緩やかに増加するように設計されるため、第1の拡大領域10の先端部11が実施形態1よりも鋭くなる。したがって、実施形態3のランセット3は、細胞組織内により容易に侵入でき、患者に与える痛みをより小さくすることができる。
【0048】
これまで説明した実施形態1ないし3のランセットは、当業者ならば容易に理解されるように、例えば、ファナック社の超精密ナノ加工機(FANUC ROBONANO α-0iA、登録商標)を用いて製造することができる。
【0049】
(変形例1)
図11ないし図13を参照しながら、実施形態1ないし3の変形例1のランセット101について詳細に説明する。変形例1のランセット101は、内部に通路およびチャンバを有する点を除き、実施形態1ないし3のランセットと同様の構成を有するので、重複する点については説明を省略する。
【0050】
変形例1のランセット101は、図11(a)に示すように、各拡大領域10,30および各縮小領域20の内部を貫通するようにX方向に延びる少なくとも1つの通路71を有する。また好適には、保持部40は、図11(b)および図11(c)に示すように、任意のY−Z平面で切断されたとき、四角柱形状の断面を有し、その内部には通路71と連通する少なくとも1つのチャンバ81が形成される。また、ランセット101の先端部11付近において、少なくとも1つの開口部72が、例えば、図11(a)では縮小領域20の底面73上に設けられる。開口部72は、任意の形状を有していてもよいが、赤血球や白血球などが通路71内に侵入しないように、好適には、10μm以下の直径を有する円形に形成される。
【0051】
このように構成された通路71内には互いに離間した一対の電極(図示せず)を配置し、チャンバ81内には微小化学分析システム(μTAS:Micro Total Analysis System)などのバイオセンサ(図示せず)を配置する。このように構成されたランセット101によれば、体内に穿刺されたとき、開口部72から入り込んだ血清成分を微小化学分析システムにより直ちにかつ容易に分析することができる。
【0052】
また、変形例1のランセット101は、注射針としても利用することができる。すなわち、チャンバ81に図示しないマイクロポンプを接続し、ランセット101が体内に穿刺された後、チャンバ81内に負圧を形成することにより、血液を容易に採集することができる。
【0053】
図11に示す通路71と開口部72の代わりに、ランセット101は、図12に示すように、X方向に延びる溝部74を底面73に設けてもよい。こうして同様に、溝部74に一対の電極を配置し、チャンバ81内にはバイオセンサを配置することにより、所望の血液成分を分析することができる。
【0054】
さらに択一的には、変形例1のランセット101は、図13に示すように、同様にX方向に延びる複数の(図13では2つの)通路75,76を有し、保持部40内には各通路75,76と個別に連通する複数のチャンバ82,83が形成される。また、先端部11付近において、各通路75,76と連通する複数の開口部77a〜77c,78a〜78cが、例えば、図13では第1の拡大領域10、縮小領域20、および第2の拡大領域30の側面に形成される。そして、各通路75,76に異なる電極対を配置し、各チャンバ82,83に個別のバイオセンサを設けて、別種の血液成分について分析することができる。あるいは、異なる薬剤をそれぞれのチャンバ82,83に封止し、複数の開口部77,78を介して薬剤を体内に徐放させることができる。必要ならば、各開口部77,78を同じ生分解性材料からなるシート(図示せず)で封止し、体内に穿刺して所定時間経過した後に、徐放させることが可能である。さらに、各開口部77,78を封止するシートの厚みを通路75,76により変更して、各チャンバ82,83内に封止された薬剤が徐放されるタイミングを制御することもできる。
【0055】
さらに好適には、隣接する開口部77,78は所定の距離だけ離間して配置される。例えば、一対の電極を異なる開口部77,78から露出させると、電極間の距離が正確に決定されるので、その電位差から電極間に介在する溶液を、より厳密に分析することができる。同様に、光ファイバを異なる開口部77,78から露出させ、これらから出力される光線が交差する領域における溶液を既知の距離から正確に分析することができる。
【0056】
(変形例2)
図14および図15を参照しながら、実施形態1ないし3の変形例2のランセットについて詳細に以下説明する。変形例2のランセットは、薬剤を収容するための複数の縦孔と、縦孔を封止する封止部とをさらに有する点を除き、実施形態1のランセット1と同様の構成を有するので、重複する点については説明を省略する。
【0057】
変形例2のランセット102は、図14に示すように、薬剤を収容するためのZ方向に延びる複数の縦孔91a〜91dと、これを封止するための生分解性材料からなる封止部92とをさらに有する。この縦孔91a〜91dに薬剤を含む微小粒体または流体(図示せず)を充填した後、縦孔91a〜91dから逸脱しないようにこれを封止部92で封止する。
【0058】
こうして形成されたランセット102を体内に穿刺して留置しておくと、とりわけ封止部92を構成する生分解性材料が徐々に分解され、縦孔91a〜91dに収容された薬剤を含む微小粒体または粒体を徐放させることができる。また好適には、封止部92は、そのZ方向における厚みが縦孔91a〜91dの配置位置において異なるように形成される。具体的には、封止部92は、図15(a)に示すように傾斜した厚みを有するように、あるいは図15(b)に示すように段差を有するように構成される。こうして、各縦孔91a〜91dに収容された薬剤を徐放させる時期を制御することができる。
【0059】
なお、変形例1および2において、ランセットの通路71、チャンバ81、および縦孔91a〜91dは、当業者ならば容易に理解されるように、例えばエキシマレーザなどの光出力を自在に制御できるレーザ装置を用いて形成することができる。
【0060】
(実施形態4)
図16ないし図18を参照しながら、実施形態4のランセット4について詳細に以下説明する。実施形態1のランセット1によれば、Y−Z平面に平行な任意の切断面で切断したときの断面が三角形形状であったのに対し、実施形態4のランセット4の切断面は、実質的に台形形状を有する点を除き、実施形態1のランセット1と同様の構成を有するので、重複する点については説明を省略する。
【0061】
実施形態1の図3および図10と実施形態4の図16とを比較すると容易に理解されるように、実施形態4のランセット4は、Y−Z平面に平行な任意の切断面で切断したとき、三角形ではなく実質的に台形形状の断面を有する。また、台形断面の底辺(上底および下底)は、先端部11からの距離またはX方向における位置に依存して変化する一方、その高さは一定(H)である。すなわち、実施形態4のランセット4は、Y−Z平面に平行な切断面で切断された台形断面の底辺が単調増加する第1および第2の拡大領域(細胞切開領域)10,30と、台形断面の底辺が単調減少する少なくとも1つの縮小領域(摩擦力緩和領域)20とを有する。また、保持部40が、後続の拡大領域20に連結されている。本発明のランセット4は、上述の生体適合性材料を用いて形成されるが、好適には、生分解性材料を用いて一体成形されるので、容易に廃棄処分でき、その一部を体内に係留することができる。
【0062】
実施形態4のランセット4によれば、第1および第2の拡大領域10,30において最大の断面積を与える最大断面の底辺は、実質的に同じ長さを有する。また、台形断面の高さ(H)は、細胞組織を切開する上ではできるだけ低い(ランセット4は薄い)方が好ましいが、十分な強度をもたせるためにはできるだけ高い(ランセット4は厚い)方が好ましい。より好ましくは、高さ(H)は、最大断面の底辺、すなわち第2の対角線(L2)の約1/8倍以上の長さを有する。
【0063】
また、実施形態4のランセット4によれば、図17および図18において、縮小領域20において最小の断面積を与える最小断面の底辺は、好適には、最大断面の底辺の約1/2倍以上であり、さらに好適には、約2/3倍以上である。実施形態1と同様、実施形態4のランセット4によれば、各拡大領域10,30における最大断面間の距離(D)が、少なくとも約1μm離間していることが好ましい。
【0064】
実施形態1と同様、追加的な縮小領域および拡大領域を第2の拡大領域20に続けて一体成形してもよい。さらに詳細図示しないが、実施形態2と同様、任意のY−Z平面で切断された断面が実質的に一定の断面積を与えるような一定領域60を、縮小領域と拡大領域の間に一体成形してもよい。
【0065】
加えて、実施形態3と同様、実施形態4のランセット4の第1の拡大領域10において、底辺の長さは、好適には、図18に示すように、第2の拡大領域30よりも緩やかに増加するように設計される。すなわち、第1の拡大領域10の底辺の長さが増加する比率は、第2の拡大領域30の底辺の長さが増加する比率の約1/4倍ないし約1倍の範囲で、好適には約1/3倍になるように設計される。こうして、実施形態4のランセット4は、細胞組織内により容易に侵入でき、患者に与える痛みをより小さくすることができる。
【0066】
(実施形態5)
図19および図20を参照しながら、実施形態5のランセット5について詳細に以下説明する。図19(a)は、図3(ランセット1)および図10(a)(ランセット3)と同様の斜視図であって、図19(b)〜(d)は、図4(a)〜(c)(ランセット1)とそれぞれ同様の正面図、側面図、および平面図である。実施形態1のランセット1によれば、Y−Z平面に平行な任意の平面で切断したときの断面が三角形形状であったのに対し、実施形態5のランセット5の断面は、半円形状を有する点を除き、実施形態1のランセット1と同様の構成を有するので、重複する点については説明を省略する。
【0067】
すなわち、本発明のランセット5は、所定方向(X方向)に延び、これに垂直な平面で切断された断面(Y−Z平面で切断された断面を本願においては「垂直断面」という。)の断面積が先端部11からの距離に依存して規則的に増減する。また、ランセット5は、垂直断面の断面積が極大となる複数の極大点22a,22b,22cと、垂直断面の断面積が極小となる複数の極小点23a,23b,23cとを有する。なお、図19に示すランセット5は、それぞれ3つずつの極大点および極小点を有するように図示したが、任意の複数の極大点および極小点を有していてもよい。
【0068】
本発明のランセット5によれば、先端部11に最も近い極大点22aにおける垂直断面の断面積が、他の各極大点22b,22cにおける垂直断面の断面積と同じで、先端部11に最も近い極小点23aにおける垂直断面の断面積が、他の各極小点23b,23cにおける垂直断面の断面積と同じになるように設計されている。また、図19に示すランセット5において、隣接する一対の極大点間の距離D、例えば極大点22aと22bの間の距離は、極大点22bと22cの間の距離と実質的に同じである。
【0069】
さらに、本発明のランセット5を、図19(c)に示すX−Z平面、および図19(d)に示すX−Y平面に投影して見たとき、垂直断面の断面積は、隣接する極大点と極小点の間、例えば極大点22aと極小点23aの間、極小点23aと極大点22bの間において直線的に増減する。ただし、実施形態1で説明したように、垂直断面の断面積は、隣接する極大点と極小点の間において曲線的に変化してもよい。
【0070】
こうして構成されたランセット5は、体内の細胞組織(皮膚または筋肉内)に穿刺されたとき、図19に示すように、第1の拡大領域(細胞切開領域)10の先端部11を支点として、周辺にある細胞組織を押し広げるようにして、細胞組織内に侵入する。このとき、第1の拡大領域10と周辺細胞との間に生じる摩擦力は非常に大きく、ランセット1の体内侵入に伴い、周辺細胞は、摩擦力により深部に向かって強く引き込まれ得る。
【0071】
しかしながら、本発明のランセット5は、第1の拡大領域10が体内に侵入した後、さらに体内に進むと、縮小領域(摩擦力緩和領域)20における断面積が小さくなるので、縮小領域20と周辺組織との間に生じる摩擦力は実質的に低減され、周辺細胞は、自らの弾性により元の正常位置に復帰する。したがって、第1の拡大領域10に引っ張られていた周辺細胞が、元の位置に戻り、これに加えられる物理的なストレスが解消される。
【0072】
同様に、ランセット5の第2の拡大領域30が体内に侵入するとき、周辺にある細胞組織を押し広げるようにして細胞組織内に侵入する。このとき、上述のように、先端部11に最も近い極大点22aにおける垂直断面の断面積が、他の各極大点22b,22cにおける垂直断面の断面積と同じとなるように設計されているので、第2の拡大領域30を始めとする拡大領域において、体内に進入する際に必要以上に周辺細胞を押し広げる(周辺細胞にストレスを与える)ことを回避することができる。
【0073】
なお、本発明のランセット5を、図20(a)に示すX−Z平面、および図20(b)に示すX−Y平面に投影して見たとき、縮小領域20の斜面がX軸と交差する角度αは、第2の拡大領域30の斜面がX軸と交差する角度βより大きいことが好ましい。これにより、本発明のランセット5が第1の拡大領域10を超えて体内に侵入したとき、縮小領域20における断面積が急激に小さくなり、両者の間に生じる摩擦力がより速やかに低減され、周辺細胞が元の位置に復帰しやすくなる。
【0074】
このように、本発明によれば、広範な領域における周辺細胞を元の位置に復帰させることにより、患者に与える痛みを実質的に緩和し、周辺細胞に損傷をできるだけ与えないようにした低侵襲性のランセット5を提供することができる。
【0075】
(変形例3〜6)
図21〜図24を参照しながら、実施形態5の変形例3〜6のランセットについて詳細に以下説明する。本発明のランセット5は、上記説明したように、Y−Z平面に平行な任意の平面で切断したときの垂直断面が半円である。一方、実施形態5の変形例3〜6のランセット103,104,105,および106は、Y−Z平面に平行な任意の平面で切断したときの垂直断面が半円ではなく、図21〜図24にそれぞれ示すように、真円形状、楕円形状、矩形形状、および六角形形状を有する点を除き、実施形態5のランセット5と同様の構成を有する。
【0076】
したがって、変形例3〜6のランセット103,104,105,および106は、実施形態5のランセット5と同様の利点を有し、患者に与える痛みを実質的に緩和し、周辺細胞への回復し難い損傷を極力抑えることができる。
【0077】
(実施形態6)
図25を参照しながら、実施形態6のランセット6について詳細に以下説明する。図25は、図4(c)(ランセット1)および図10(c)(ランセット3)と同様の平面図である。実施形態1のランセット1によれば、各極大点における垂直断面の断面積はすべて同じであったのに対し、実施形態6のランセット6によれば、先端部11に最も近い極大点22aにおける垂直断面の断面積が他の各極大点22b,22cなどにおける垂直断面の断面積より大きく、とりわけ各極大点22a,22b,22cにおける垂直断面の断面積は、先端部11から後端部18に向かって徐々に小さくなる点を除き、実施形態1のランセット1と同様の構成を有するので、重複する点については説明を省略する。
【0078】
このとき、図25から明らかなように、ランセット6の隣接する一対の極大点間の距離(D1,D2,D3,D4,D5)は、先端部から後端部に向かって(−X方向に向かって)徐々に短くなる。また、図25に示すランセット6において、各極大点22a,22b,22cにおける垂直断面の断面積が先端部11から後端部18に向かって徐々に小さくなる一方、各極小点23a,23b,23c,23dにおける垂直断面の断面積は一定である。
【0079】
一般に、ランセット6が細胞組織内に穿刺された状態にあるとき、すなわちランセット6の先端部11が細胞組織内にあって、保持部40がユーザにより支持されている状態にあるとき、最も大きな応力がランセット6の後端部18に集中しやすく、後端部18付近の極小点23dにおいて破断することがある。
【0080】
しかし、本発明の実施形態6によれば、各極小点23a,23b,23c,23dにおける垂直断面の断面積が一定となるように構成されているので、後端部18付近の極小点23dにおいて折れにくい安全なランセット6を実現することができる。
【0081】
(変形例7)
図26を参照しながら、実施形態6の変形例7のランセットについて以下に詳細に説明する。実施形態6の変形例7のランセット107は、各極大点22a,22b,22cにおける垂直断面の断面積は一定である一方、各極小点23a,23b,23c,23dにおける垂直断面の断面積は、先端部11から後端部18に向かって(−X方向に)徐々に大きくなるように構成されている。すなわち、後端部18に最も隣接する極小点23dにおける垂直断面が、他のすべての極小点23a,23b,23cにおける垂直断面よりも大きい。したがって、変形例7によれば、実施形態6のランセット6に比して、後端部18付近の極小点23dにおいて、よりいっそう折れにくい、より安全なランセット107を提供することができる。
【0082】
(変形例8)
図27を参照しながら、実施形態6の変形例8のランセットについて以下に詳細に説明する。変形例8のランセット108において、各極大点22a,22b,22cにおける垂直断面の断面積が一定であり、後端部18に最も隣接した極小点23d以外の各極小点23a,23b,23cにおける垂直断面の断面積も同様に一定である。すなわち、後端部18に最も隣接した極小点23dにおける垂直断面の断面積だけが、他の各極小点23a,23b,23cにおける垂直断面の断面積より小さくなるように形成されている。
【0083】
このように構成されたランセット108は、細胞組織内に穿刺した後、後端18付近の極小点23dにおいて、意図的に破断させ、ランセット108の一部を体内に留置することができる。ただし、このようにランセット108を留置針として利用する場合、ランセット108はポリ乳酸などの生分解性材料を用いて一体成形する必要がある。
【0084】
付言すると、ランセット107および108は、ランセット6と同様の効果を有し、患者に与える痛みを実質的に緩和し、周辺細胞への回復し難い損傷を極力押さえることができる。
【0085】
(変形例9)
図28を参照しながら、上述の実施形態1〜6の変形例9によるランセット109について以下に詳細に説明する。図28(a)は、図3に示すランセット1をZ方向に(下方から上方に向かって)見たときの底面図であって、図28(b)は、X−Z平面で切断したときの断面図である。変形例9のランセット109は、底面73上に回折格子24が設けられている。
【0086】
この回折格子24は、図28(c)の一部拡大図に示すように、隣接する一対の頂点25の間の距離(ピッチ)Pを有し、例えば、X方向軸と45°の角度で傾斜する斜面26を有する。
【0087】
このように構成されたランセット109が、細胞組織内に穿刺されると、回折格子24上の斜面26に血液27が付着する。そして血液27と大気の間の界面は、図28(c)に示すように曲線的軌跡を描くが、この曲線的形状は、流体である血液27と斜面26を構成する材料の間に働く表面張力に依存する。例えば、親水性が高いポリ乳酸を用いて回折格子24を形成すると、より多量の血液27が回折格子24上に付着する。このとき、図示しないレーザ測定装置などからの入射ビーム28が回折格子24の真上から照射されると、入射ビーム28は、斜面26で2度反射し、反射ビーム29としてレーザ測定装置へ帰還する。このとき、入射ビーム28と反射ビーム29との間の間隔をdとすると、レーザビームの光路長を間隔dにより一意的に決定することができる。こうして、斜面26に付着した血液を透過したことによる光の位相のずれを検出することができる。こうして光の位相のずれが検出されると、血液中に含まれるケトン体の含有量または血糖量を測定することができる。
なお、赤血球などの粒状体が回折格子24上に付着すると、血糖量などの測定に誤差が生じることがあるので、頂点25間ピッチPは、赤血球などよりも小さくして、回折格子24上に付着しにくくしておくことが好ましく、例えば1〜25μmの範囲にあることが好ましい。
【0088】
このように、変形例9によるランセット109によれば、図示しないレーザ測定装置を用いて、血液中に含まれるケトン体の含有量または血糖量を瞬時にして測定することができる。
【0089】
(変形例10)
図29を参照しながら、上述の実施形態1〜6の変形例10によるランセット110について以下に詳細に説明する。図29(a)および(b)は、図4(c)および図10(c)と同様の平面図であって、それぞれ10μmおよび3μmの曲率半径を有する先端部11を含むランセット110を示す。
【0090】
一般に、ランセットおよび注射針の先端部11が丸みを帯びて尖っていない場合、これが細胞組織内に刺さったときに感じる痛みは強い。すなわち、ランセット110の先端部11が鋭ければ鋭いほど痛みが小さくなることは、これまでにも当業者に広く知られていた。しかし、本発明者らは、鋭意研究の結果、先端部11の曲率半径が約10μm以下であるランセット110を皮膚に突き刺さした時に受ける痛みは実質的に軽減されることを見出した。
【0091】
そこで、変形例10によるランセット110は、図29(a)に示すように、約10μmの曲率半径(R1)を有し、より好適には、図29(b)に示すように、約3μmの曲率半径(R2)を有するように設計される。こうして、より痛みの少ないランセット110を実現することができる。
【0092】
さらに、変形例10によるランセット110は、図29(a)および(b)に示すように、ランセット110の極大点22および極小点23を数多く有し、隣接する一対の極大点22および極小点23の間の距離が一定(例えば、D=1〜25μm)となるように構成される。こうして構成されたランセット110によれば、細胞組織内に穿刺されたとき、極大点22または極小点23をある種の寸法ゲージとして利用することができる。択一的には、先端部11から所定の距離だけ隔てた位置にマーキングまたは色付けし、先端部11からの距離が容易に示唆されるようにしてもよい。
【0093】
(変形例11〜12)
図30および図31を参照しながら、実施形態5の変形例11および12によるランセット111および112について以下に詳細に説明する。図30(a)〜(c)は、図4(a)〜(c)と同様の正面図、側面図、および平面図であって、図4に示す実施形態1による一対のランセット1a,1bを保持部40において貼り合わせた構造を有し、一対のランセット1a,1bの間にスリット31が形成されている。同様に、図31(a)〜(c)は、図19(b)〜(d)と同様の正面図、側面図、および平面図であって、図19に示す実施形態5による一対のランセット5a,5bを保持部40において貼り合わせた構造を有し、一対のランセット5a,5bの間にスリット31が形成されている。
【0094】
変形例11〜12によるランセット111,112は、一対のランセットの間にスリット31を有し、ランセット1,5と同様の利点を期待することができる。
さらに、この変形例11〜12によるランセット111,112によれば、これを細胞組織内に穿刺すると、微少なスリット31の中に血液または体液が毛細管現象により保持部40の方へ吸い上げられる。したがって、血液に含まれる血漿、細胞、たんぱく質を容易に採集することができる。
【0095】
これまで説明した実施形態および変形例を示す図面において、極大点および極小点、ならびに稜線および先端部は、不連続面を有するものとして図示されているが、当業者ならば容易に理解されるように、図5に示す連続曲面58と同様に、連続的に推移する曲面を有していてもよい。
【0096】
すなわち、上記の実施形態および変形例は、本発明を単に例示的に説明するためのものであって、本発明を限定するものではなく、本発明の精神および範疇は、添付のクレームにより定義される。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】図1は、本発明に係る実施形態1のランセットの斜視図である。
【図2】図2(a)ないし図2(c)は、それぞれ図1に示すランセットの正面図、側面図、および平面図である。
【図3】図3は、実施形態1の別のランセットの斜視図である。
【図4】図4(a)ないし図4(c)は、それぞれ図3に示すランセットの正面図、側面図、および平面図である。
【図5】図5(a)ないし図5(c)は、それぞれ実施形態1の別のランセットの斜視図、側面図、および平面図である。
【図6】図6は、本発明に係る実施形態2のランセットの斜視図である。
【図7】図7(a)ないし図7(c)は、それぞれ図5に示すランセットの正面図、側面図、および平面図である。
【図8】図8は、実施形態2の別のランセットの斜視図である。
【図9】図9(a)ないし図9(c)は、それぞれ図8に示すランセットの正面図、側面図、および平面図である。
【図10】図10(a)ないし図10(c)は、本発明に係る実施形態3のランセットの斜視図、側面図、および平面図である。
【図11】図11(a)ないし図11(c)は、それぞれ変形例1のランセットの側面図、平面図、および背面図である。
【図12】図12(a)および図12(b)は、それぞれ変形例1の別のランセットの側面図および底面図である。
【図13】図13(a)および図13(b)は、それぞれ変形例1のさらに別のランセットの側面図および平面図である。
【図14】図14(a)および図14(b)は、それぞれ変形例2のランセットの側面図および底面図である。
【図15】図15(a)および図15(b)は、変形例2の別のランセットの側面図である。
【図16】図16(a)および図16(b)は、本発明に係る実施形態4のランセットの斜視図である。
【図17】図17(a)ないし図17(c)は、図16(a)に示すランセットの正面図、側面図、および平面図である。
【図18】図18(a)ないし図18(c)は、図16(b)に示すランセットの正面図、側面図、および平面図である。
【図19】図19(a)ないし図19(d)は、本発明に係る実施形態5のランセットの斜視図、正面図、側面図、および平面図である。
【図20】図20(a)および図20(b)は、実施形態5の択一的なランセットの側面図および平面図である。
【図21】図21(a)ないし図21(c)は、実施形態5の変形例3によるランセットの正面図、側面図、および平面図である。
【図22】図22(a)ないし図22(c)は、実施形態5の変形例4によるランセットの正面図、側面図、および平面図である。
【図23】図23(a)ないし図23(c)は、実施形態5の変形例5によるランセットの正面図、側面図、および平面図である。
【図24】図24(a)ないし図24(c)は、実施形態5の変形例6によるランセットの正面図、側面図、および平面図である。
【図25】図25は、本発明に係る実施形態6によるランセットの平面図である。
【図26】図26は、実施形態6の変形例7によるランセットの平面図である。
【図27】図27は、実施形態6の変形例8によるランセットの平面図である。
【図28】図28(a)ないし図28(c)は、上記実施形態の変形例9によるランセットの底面図、側方断面図、および回折格子の一部を拡大する断面図である。
【図29】図29(a)および図29(b)は、上記実施形態の変形例10によるランセットの平面図である。
【図30】図30(a)ないし図30(c)は、上記実施形態の変形例11によるランセットの正面図、側面図、および平面図である。
【図31】図31(a)ないし図31(c)は、上記実施形態の変形例12によるランセットの正面図、側面図、および平面図である。
【符号の説明】
【0098】
1〜6,101〜112 ランセット、10 第1の拡大領域(細胞切開領域)、11 先端部、12 第1対角線、13 第2対角線、14 底面、15a,15b,16 辺(稜線)、17a,17b 側面、18 後端部、20 縮小領域(摩擦力緩和領域)、21 側面、22a,22b,22c 極大点、23a,23b,23c,23d 極小点、24 回折格子、25 頂点、26 斜面、27 血液、28 入射ビーム、29 反射ビーム、30 第2の拡大領域(細胞切開領域)、37a,37b 側面、40 保持部、51,52,53 Y−Z平面、60a,60b 一定領域、71,75,76 通路、72 開口部、73 底面、74 溝部、77,78 開口部、81,82,83 チャンバ、91 縦孔、92 封止部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部から後端部まで所定方向に延び、これに垂直な平面で切断された垂直断面の断面積が先端部からの距離に依存して規則的に増減する医療用針であって、
垂直断面の断面積が極大となる複数の極大点と、
垂直断面の断面積が極小となる少なくとも1つの極小点と、
所定方向に延びる複数の通路とを有することを特徴とする医療用針。
【請求項2】
請求項1に記載の医療用針であって、
医療用針の後端部に連結された保持部をさらに有することを特徴とする医療用針。
【請求項3】
請求項2に記載の医療用針であって、
保持部は、前記複数の通路のそれぞれと個別に連通する複数のチャンバを有することを特徴とする医療用針。
【請求項4】
請求項2に記載の医療用針であって、
複数のチャンバ内にそれぞれ異なる薬剤が収容されていることを特徴とする医療用針。
【請求項5】
請求項2に記載の医療用針であって、
複数のチャンバ内にそれぞれ異なる成分を分析するバイオセンサが収容されていることを特徴とする医療用針。
【請求項6】
請求項2に記載の医療用針であって、
複数の通路のそれぞれは開口部を有し、
各開口部を封止する封止部をさらに有することを特徴とする医療用針。
【請求項7】
請求項6に記載の医療用針であって、
封止部の厚みが、各開口部に対してそれぞれ異なることを特徴とする医療用針。
【請求項8】
請求項1に記載の医療用針であって、
生分解性材料および生体適合性材料の少なくとも一方からなることを特徴とする医療用針。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一に記載の医療用針を有する医療用デバイス。
【請求項1】
先端部から後端部まで所定方向に延び、これに垂直な平面で切断された垂直断面の断面積が先端部からの距離に依存して規則的に増減する医療用針であって、
垂直断面の断面積が極大となる複数の極大点と、
垂直断面の断面積が極小となる少なくとも1つの極小点と、
所定方向に延びる複数の通路とを有することを特徴とする医療用針。
【請求項2】
請求項1に記載の医療用針であって、
医療用針の後端部に連結された保持部をさらに有することを特徴とする医療用針。
【請求項3】
請求項2に記載の医療用針であって、
保持部は、前記複数の通路のそれぞれと個別に連通する複数のチャンバを有することを特徴とする医療用針。
【請求項4】
請求項2に記載の医療用針であって、
複数のチャンバ内にそれぞれ異なる薬剤が収容されていることを特徴とする医療用針。
【請求項5】
請求項2に記載の医療用針であって、
複数のチャンバ内にそれぞれ異なる成分を分析するバイオセンサが収容されていることを特徴とする医療用針。
【請求項6】
請求項2に記載の医療用針であって、
複数の通路のそれぞれは開口部を有し、
各開口部を封止する封止部をさらに有することを特徴とする医療用針。
【請求項7】
請求項6に記載の医療用針であって、
封止部の厚みが、各開口部に対してそれぞれ異なることを特徴とする医療用針。
【請求項8】
請求項1に記載の医療用針であって、
生分解性材料および生体適合性材料の少なくとも一方からなることを特徴とする医療用針。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一に記載の医療用針を有する医療用デバイス。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【公開番号】特開2006−297142(P2006−297142A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−199498(P2006−199498)
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【分割の表示】特願2005−516328(P2005−516328)の分割
【原出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(503467089)株式会社ライトニックス (10)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【分割の表示】特願2005−516328(P2005−516328)の分割
【原出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(503467089)株式会社ライトニックス (10)
【Fターム(参考)】
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