説明

半乾留バイオマス微粉炭材の製造方法および半乾留バイオマス微粉炭材の使用方法

【課題】バイオマス中のエネルギーの高効率回収を達成しつつ、吹き込みに適した微粉形態に容易に加工でき、利用による化石燃料からの二酸化炭素排出を低減することができる半乾留バイオマス微粉炭材の製造方法および半乾留バイオマス微粉炭材の使用方法を提供する。
【解決手段】バイオマスを不活性雰囲気下の250〜600℃の温度で半乾留し、半乾留したバイオマスを粉砕して微粉炭材とする。また、半乾留したバイオマスを、縦型製錬炉の補助燃料用微粉炭製造設備を用いて石炭と共に粉砕してもよい。粉砕された微粉炭材は、縦型製錬炉の補助燃料として使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間伐材、廃木材、古紙などのバイオマスと、バイオマス燃料生成残渣とを原料とする半乾留バイオマス微粉炭材の製造方法に関する。特に、製鉄設備から発生する高温廃熱と窒素濃度の高い不活性ガスとを有効利用した半乾留バイオマス微粉炭材の製造方法に関する。本発明は、バイオマス中のエネルギーの利用効率を向上するものである。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化を防止するために、化石燃料に由来する二酸化炭素の大気放出の削減が求められている。特に鉄鋼業、電力業では、還元材、燃料として化石燃料を大量に消費し、化石燃料中の炭素のほぼ全量が二酸化炭素として排出されるため、再生可能エネルギーによる化石燃料代替は不可欠である。
【0003】
バイオマスは、再生可能なエネルギーであるが、化石燃料に比べ酸素を多く含むため、発熱量を確保することが問題となる。そこで、木質系および草本系バイオマスを還元材および燃料として利用するために、バイオマスからの炭材生成法が開発されている。
【0004】
バイオマスからの炭材生成法として、数%の酸素を含むセメント焼成設備から排出される高温ガスを、バイオマス処理の熱源としてバイオマス炭化に利用する方法(例えば、特許文献1参照)や、200〜500℃における温度での半炭化バイオマス圧密燃料の製造方法(例えば、特許文献2参照)や、廃プラスチックの吹き込み設備を用いた、高炉へのバイオマスの吹き込みの方法(例えば、特許文献3)がある。
【0005】
【特許文献1】特開2005−239907号公報
【特許文献2】特開2003−206490号公報
【特許文献3】特開2004−183004号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、濃度にかかわらず、酸素供給下での300℃以上の温度におけるバイオマス処理は、二酸化炭素発生を伴い、バイオマス炭材の回収量を低下させるという課題がある。また、特許文献2に記載の方法では、高圧処理が不可欠でかつ、生成物形態も微粉状に加工しにくいという課題がある。特許文献3に記載の方法では、無処理の木質系バイオマスは粉砕性が低く、発熱量が少ないため、高炉利用において二酸化炭素削減効果が低いという課題がある。
【0007】
本発明は、上記の課題を鑑みてなされたものであり、バイオマス中のエネルギーの高効率回収を達成しつつ、吹き込みに適した微粉形態に容易に加工でき、利用による化石燃料からの二酸化炭素排出を低減することができる半乾留バイオマス微粉炭材の製造方法および半乾留バイオマス微粉炭材の使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
鉄鋼業でのバイオマス利用方法を本発明者らが検討した結果、半乾留バイオマスを微粉炭製造工程に導入して半乾留バイオマス微粉炭を生成し、羽口より高炉に吹き込み、炭材として反応させると、製鉄プロセス全体から化石燃料由来の二酸化炭素排出を削減できることを見出し、本発明に至った。
【0009】
本発明は、製鉄所など高温廃熱を発生するプラントで、窒素などの不活性ガス充填等により酸素供給を排した乾留装置を用いて300〜500℃の処理温度でエネルギー収率を向上させつつ、バイオマス中のセルロースの一部又は全部を分解して粉砕性を向上させ、従来の微粉炭製造工程でバイオマス由来の微粉炭材を生成することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る半乾留バイオマス微粉炭材の製造方法は、バイオマスを不活性ガス雰囲気下の250〜600℃の温度で半乾留し、半乾留した前記バイオマスを粉砕して微粉炭材とすることを、特徴とする。また、本発明に係る半乾留バイオマス微粉炭材の製造方法は、半乾留した前記バイオマスを、縦型製錬炉の補助燃料用微粉炭製造設備を用いて石炭と共に粉砕してもよい。
【0011】
本発明に係る半乾留バイオマス微粉炭材の使用方法は、本発明に係る半乾留バイオマス微粉炭材の製造方法により製造された前記微粉炭材を、縦型製錬炉の補助燃料として使用することを、特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、バイオマスの単位当たりの発熱量を向上させることにより二酸化炭素排出削減効果を向上させることができ、また、従来粉砕性が悪く微粉状に加工することが困難であった木質系バイオマスの粉砕性を向上させることができ、高炉吹き込みを主な対象とした半乾留バイオマス微粉炭材の製造方法および半乾留バイオマス微粉炭材の使用方法を提供することが出来る。
【0013】
そして、本発明により、カーボンニュートラルであるバイオマスの利用による化石燃料から発生する二酸化炭素排出量の削減を実現出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明においてバイオマスとは、化石資源を除く、ある一定量集積した動植物資源と、これを期限とする廃棄物との総称を示す。たとえば農作物、木材、海藻、パルプスラッジ、黒液、アルコール発酵残渣、厨芥、RDF(ゴミ固形化燃料)古紙、下水汚泥を示す。
【0015】
本発明では、これらのバイオマスのうち、特に、木質系バイオマスおよびアルコール発酵残渣を対象とし、微粉炭材用原料として有効活用するものである。
【0016】
図1は、本発明に係る、木質系バイオマスを原料とした高炉用半乾留バイオマス微粉炭材の製造プロセスの一例を示す図である。
【0017】
木質系バイオマス(Biomass)は、乾燥機(dryer)に供給され、所定水分量になるまで乾燥された後、加熱処理機に供給され、250〜600℃の温度で加熱処理され、炭化(Carbonizing)される。加熱処理機では、原料は酸素との反応による炭素のガス化を防ぐため、外部からの気体の流入を防止するか窒素等の不活性ガスで満たすことの出来る容器を、半乾留のための反応容器とする。乾燥機および加熱処理機の加熱には、他の反応装置からの廃熱(Waste heat)および原料から発生する油分(Tar)を用いるため、外部からのエネルギー供給の必要がない。製鉄所は十分な高温廃熱があり、窒素の製造設備が付随するため、特に、本発明を実施するのにふさわしい。
【0018】
半乾留によりセルロースの一部または全部が分解されたバイオマスは、既存の微粉炭製造工程に供給され74μm以下に加工される。
【0019】
本発明者の調査によれば、不活性雰囲気中で250〜300℃の温度でセルロースが分解し始め、酸素および水素が優先的に分離され脱水反応が起きる。その結果、強度が著しく低下すると共に、単位重量当たりの発熱量が上昇する。300℃以上の加熱では脱水反応の他に、脱二酸化炭素、脱炭化水素反応が同時に起きるため、バイオマスからの炭材の生成量が低下する。
【0020】
単位当たりの半乾留バイオマス微粉炭材の熱量と、バイオマスからの半乾留バイオマス微粉炭材の生成量とを鑑みると、高炉利用の際の総二酸化炭素削減効果は、処理温度250〜600℃で最大となる。250℃以下および600℃以上の温度では、二酸化炭素削減効果が低下する。
上記の理由から、本発明では、バイオマスの半乾留処理温度を250〜600℃とした。
【実施例1】
【0021】
本発明を実施例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
熱示差天秤を用いて木質バイオマス(杉)の温度と重量変化との関係を測定した。昇温速度を20℃/分として、アルゴンないし乾燥空気雰囲気中で加熱し、重量変化率を測定した。測定結果を図2に示す。実線はアルゴン中、破線は空気中の結果を表す。いずれも、300℃前後のセルロースの分解温度域で大きく重量が減少し、リグニン分解温度域では空気中の試料が減少しているのが分かる。空気中では、リグニンの分解の際に脱炭酸、脱炭化水素が同時に進行し、炭素の歩留まりを低下させる。
【0022】
バイオマス乾留実験で得られた杉試料に対して粉砕試験を行った。75φ×90mmのステンレス製転動ボールミルに、試料2〜3gをφ7.5mmのステンレスボール40%程度と共に充填し、60周/分で30分間粉砕を行った。250℃で乾留した試料は、良好な粉砕が出来ず、針状の粗粉末となった。300℃以上で乾留を行った試料は、数μm程度の微粉が得られた。これにより、セルロースの分解温度以上の処理で粉砕が可能になることが確認された。
【0023】
300℃で乾留して粉砕した試料の粒度分布を、図3に示す。測定にはマイクロトラックを用いた。50μm付近に凝集のピークが観察された。80%以上の粒子は、10μm以下の粒度である。図3中の右方に示した破線は、高炉用吹き込み微粉炭の粒度の上限に近い74μmを表す。微粉炭に比べ十分小さい粒度が得られることから、吹き込み時の燃焼性は良好であると考えられる。これにより、300℃以上で乾留したバイオマス炭材の羽口吹き込み利用が可能であることが確認された。
【0024】
アルゴン中で杉を所定の温度で2時間乾留した際の組成を、図4に示す。温度に対する重量変化率は各試料同様の傾向を示し、250-300℃の重量変化が大きい。組成は、酸素、水素の減少に従って炭素と灰分の割合が上昇している。
【0025】
熱物質収支計算を元に、羽口からの還元材吹き込み量、羽口先温度(TFT)を一定とし、二酸化炭素排出量を算出した。吹き込み還元材として微粉炭、半乾留バイオマス炭材を組み合わせ、合計150kg/thm、羽口先温度2150℃となるように酸素富化の条件を変化させた。半乾留バイオマス炭材の発熱量は、
高位発熱量[MJ/dry-kg] = 0.4571(%C)-2.7
の計算式から高位発熱量を求め、その値から低位発熱量を算出した。
ここで、kg/thmは銑鉄1トンの製造に必要な重量を示す。
【0026】
バイオマス50kg/thmを半乾留して得られたバイオマス微粉炭材と、石炭より製造された微粉炭材との合計150kg/thmを、高炉に吹き込んだ際の二酸化炭素排出量比を、図5に示す。乾留温度300℃までは二酸化炭素排出量比が低減し,300℃〜500℃ではほぼ一定値を示し、600℃以上でやや上昇している。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態の半乾留バイオマス微粉炭材の製造方法の一例を示す概要構成図である。
【図2】本発明の実施の形態の半乾留バイオマス微粉炭材の製造方法の、不活性ガス(アルゴン)中と空気中とにおける加熱による杉の重量変化を示すグラフである。
【図3】本発明の実施の形態の半乾留バイオマス微粉炭材の製造方法の、不活性ガス(アルゴン)中300℃で乾留した杉を粉砕したときの粒度分布を示すグラフである。
【図4】本発明の実施の形態の半乾留バイオマス微粉炭材の製造方法の、不活性ガス(アルゴン)中で2時間乾留した杉の乾留温度と組成との関係を示すグラフである。
【図5】本発明の実施の形態の半乾留バイオマス微粉炭材の製造方法および半乾留バイオマス微粉炭材の使用方法の、バイオマス50kg/thmを半乾留し得られたバイオマス微粉炭材と、石炭より製造された微粉炭材との合計150kg/thmを高炉に吹き込んだ際の、乾留の処理温度に対する二酸化炭素排出量比を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマスを不活性ガス雰囲気下の250〜600℃の温度で半乾留し、半乾留した前記バイオマスを粉砕して微粉炭材とすることを、特徴とする半乾留バイオマス微粉炭材の製造方法。
【請求項2】
半乾留した前記バイオマスを、縦型製錬炉の補助燃料用微粉炭製造設備を用いて石炭と共に粉砕することを、特徴とする請求項1記載の半乾留バイオマス微粉炭材の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の半乾留バイオマス微粉炭材の製造方法により製造された前記微粉炭材を、縦型製錬炉の補助燃料として使用することを、特徴とする半乾留バイオマス微粉炭材の使用方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−57438(P2009−57438A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−225023(P2007−225023)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名:社団法人 日本鉄鋼協会 刊行物名:「材料とプロセス」 Vol.20 No.1 発行年月日:平成19年3月1日
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】