説明

半導体ウエハ加工用粘着テープ

【課題】本発明により、粘着剤層に、界面活性剤や、硬化促進剤としての有機スズ化合物を含まず、表面糊残り、側面糊残りにおいて優れた防止性能を発揮し、かつ、LM糊残りについても優れた防止性能を発揮する半導体ウエハ加工用粘着テープを提供する。
【解決手段】基材フィルム上に、少なくとも一層の粘着剤層が積層された半導体ウエハ加工用テープであって、前記粘着剤層が放射線硬化型粘着剤を含み、元素の周期表における第4族の金属元素の有機金属化合物が、前記放射線硬化型粘着剤の全重量に対して、0.001〜10重量%の割合で含まれていることを特徴とする半導体ウエハ加工用粘着テープである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バックグラインド工程で使用する、半導体ウエハの回路パターンが形成された面を保護しかつ工程終了後に容易にバックグラインドされた半導体ウエハを剥離できる半導体ウエハ加工用粘着テープ、ウエハダイシング工程で使用する、パターン形成した半導体ウエハを一つ一つのパターン毎に裁断し半導体素子として分割できる半導体ウエハ加工用粘着テープ、及びパッケージダイシング工程で使用する、分割された半導体素子を樹脂などで封入した基板を一つ一つのパターン毎に裁断し分割できる半導体ウエハ加工用粘着テープに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセスは、高純度シリコン単結晶等をスライスして半導体ウエハとした後、イオン注入、エッチング等により該ウエハ表面に集積回路が形成される。次に、この集積回路が形成された半導体ウエハの裏面を研削することで、半導体ウエハを所望の厚さにし(バックグラインド工程)、その半導体ウエハを一つ一つのパターン毎に裁断し半導体素子として分割するダイシングが行われる。その後ダイシング工程で分割された半導体素子を樹脂などで封入し、基板を一つ一つのパターン毎に裁断することで半導体が製造される。この際、バックグラインド工程、ダイシング工程で一般的に半導体ウエハ加工用粘着テープが使用される。
【0003】
バックグラインド工程で使用される半導体ウエハ加工用粘着テープには、ウエハ上に形成された回路やウエハ本体へのダメージを防止すること、剥離後の回路上への粘着剤付着がないことが必要である。近年では、回路の微細化、ウエハ形状の変化によりウエハ全体の凹凸が増え、剥離後の回路上への粘着剤付着が発生しやすい状況となっている。
【0004】
ダイシングを行う際は、ウエハの固定に半導体ウエハ加工用粘着テープを用いるピックアップ方式が一般的である。この方式においては、大径のウエハは半導体ウエハ加工用粘着テープに貼着、固定した状態でチップ状にダイシングされ、洗浄、乾燥後、ピックアップの工程を経た後、レジン封止によりパッケージ化される。
【0005】
ダイシングにおいては、IC等の所定の回路パターンが形成された半導体ウエハ、樹脂で一括封止されたパッケージは、その背面に半導体ウエハ加工用粘着テープが貼合された後、金属粒子分散のブレードを高速回転させるなどの回転刃を介し所定のチップサイズにダイシング処理されるが、その処理に際しては、半導体ウエハ加工用粘着テープの一部(5〜40μm)に達する切断を行ってウエハをフルカットする方法が一般的に採用されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−103516号公報
【特許文献2】特開2008−163276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の半導体ウエハ加工用粘着テープにあっては、ダイシング時の衝撃や振動等によりウエハ、パッケージが保持されず飛散する(以下、「ダイフライ」という。)問題が生じるため、不具合が生じないように柔軟な粘着剤が使用されるのが一般的である。
【0008】
しかしながらこのような柔軟な粘着剤を使用することにより、ダイシングによるウエハ、パッケージに捺印されているレーザーマークへの粘着剤付着やパッケージ側面への粘着剤付着という問題が生じており、歩留まりが大幅に低下するという不具合発生している。そのため、この点の改良が望まれていた。
【0009】
それに対して、粘着剤層に界面活性剤を添加する(特許文献1、2)、または粘着剤層に硬化促進剤として有機スズ化合物を添加する方法が知られている。しかしながら、前者においては、界面活性剤のブリードによるウエハ、パッケージへの汚染性が、後者においては、近年欧州を発端とした有機スズ化合物に関する環境規制動向のため、新たな解決手段が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたもので、粘着剤層に、界面活性剤や、硬化促進剤としての有機スズ化合物を含まず、半導体ウエハ加工用粘着テープを使用する際に発生する、粘着剤層の一部がウエハ表面、パッケージ側面に残る現象(以下、前者を「表面糊残り」、後者を「側面糊残り」という。)において優れた防止性能を発揮し、かつ、ウエハ、パッケージに捺印されているレーザーマークにおいて発生する糊残り(以下、「LM糊残り」という。)についても優れた防止性能を発揮する半導体ウエハ加工用粘着テープを提供することを目的とする。
表面糊残りとは、ウエハと半導体ウエハ加工用粘着テープが密着している状態で剥離する際、粘着剤の一部または全てがウエハ上に残る現象である。
側面糊残りとは、パッケージをダイシングする際回転丸刃により粘着剤が掻き揚げられ、これがパッケージ側面につく現象である。
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、第4族の金属元素の有機金属化合物が各糊残りを防止する効果があることを見出した。本発明は、これらの知見に基づきなされたものである。
【0012】
本願は、以下の発明を提供する。
(1)基材フィルム上に、少なくとも一層の粘着剤層が積層された半導体ウエハ加工用テープであって、前記粘着剤層が放射線硬化型粘着剤を含み、元素の周期表における第4族の金属元素の有機金属化合物が、前記放射線硬化型粘着剤の全重量に対して、0.001〜10重量%の割合で含まれていることを特徴とする半導体ウエハ加工用粘着テープ。
(2)前記有機金属化合物がチタンアルコキシド、チタンキレート、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムキレートのうち少なくとも1種類以上を主成分とすることを特徴とする(1)記載の半導体ウエハ加工用粘着テープ。
(3)前記粘着剤層にイソシアネート化合物を含んでいることを特徴とする(1)または(2)に記載の半導体ウエハ加工用粘着テープ。
(4)前記基材フィルムが、金属イオンで架橋されたエチレン系アイオノマー樹脂を含むことを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の半導体ウエハ加工用粘着テープ。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、粘着剤層に、界面活性剤や、硬化促進剤としての有機スズ化合物を含まず、表面糊残り、側面糊残りにおいて優れた防止性能を発揮し、かつ、LM糊残りについても優れた防止性能を発揮する半導体ウエハ加工用粘着テープを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の半導体ウエハ加工用粘着テープの一実施態様を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の半導体ウエハ加工用粘着テープの一実施態様を示す断面図であり、基材フィルム(樹脂層)5の表面に粘着剤層3が積層され、半導体ウエハ加工用粘着テープ1が形成されている。
【0016】
(粘着剤層)
粘着剤層3を構成する放射線硬化型粘着剤の1つとしては、アルキル基の炭素数が2以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーから導かれる分子内に不飽和炭化水素を持つポリマーが、イソシアネート化合物により架橋されたものであり、かつ、周期表4族の金属元素からなる有機金属化合物が放射線硬化型粘着剤の全重量に対して、0.001〜10重量%の割合で含まれる。
【0017】
ここで、アルキル基の炭素数が2以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−メチルプロピル、(メタ)アクリル酸2−メチルブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルブチル、(メタ)アクリル酸2−メチルヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸1,2−ジメチルブチル、(メタ)アクリル酸ラウリルなどが挙げられる。
【0018】
また、粘着剤層3を構成する放射線硬化型粘着剤の他の1つとしては、通常のゴム系あるいはアクリル系の感圧性ベース樹脂に対して、光重合性炭素−炭素二重結合を少なくとも2個有する化合物を配合したものであり、かつ、周期表4族の金属元素からなる有機金属化合物が放射線硬化型粘着剤の全重量に対して、0.001〜10重量%の割合で含まれる。
【0019】
ここで光重合性炭素−炭素二重結合を少なくとも2個有する化合物としては、放射線の照射により硬化して三次元網状化するものであれば特に制限なく使用することができる。該化合物の分子量としては、重量平均分子量が20,000以下のものが好ましい。放射線の照射による粘着剤層の三次元網状化が効率よくなされるように、分子量が5,000以下でかつ分子内の放射線重合性の炭素−炭素二重結合の数が2〜6個である低分子量化合物が好ましい。
【0020】
放射線重合性化合物としては、たとえば、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、オルガノポリシロキサン組成物、市販のオリゴエステルアクリレート、ウレタンアクリレートなどが挙げられる。
【0021】
光重合性炭素−炭素二重結合を少なくとも2個有する低分子量化合物は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。配合量は、放射線硬化型粘着剤全重量に対して、1〜75重量%である。好ましくは、放射線硬化型粘着剤全重量に対し、23〜66重量%、さらに好ましくは、33〜60重量%である。この量が少なすぎると、粘着剤層の放射線の照射による三次元網状化が不十分となり、被着体から剥離しにくくなり糊残りが発生しやすくなる。この量が多すぎると、放射線による重合反応が過度に進み、放射線の照射による硬化収縮が発生する。その結果、粘着剤層が被着体の表面に追従して食い込み、被着体から剥離しにくくなり糊残りが発生しやすくなる。また、放射線重合性化合物の量が多すぎると、粘着剤層の形状を保持しにくくなり、厚み精度が悪くなるなどの問題がある。
【0022】
また、粘着剤層の厚さは、バックグラインド工程用半導体ウエハ加工用粘着テープであれば5〜400μmであるものが好ましく、10〜100μmであるものがより好ましい。一方、ダイシング工程用半導体ウエハ加工用粘着テープであれば3〜50μmであるのが好ましく、より好ましくは5〜20μmである。これらの数字は半導体ウエハ加工用粘着テープに必要な機械特性、熱収縮などの観点から導き出されたものである。
【0023】
(有機金属化合物)
上記粘着剤において、周期表4族の金属元素からなる有機金属化合物が放射線硬化型粘着剤の全重量に対して、0.001〜10重量%、好ましくは0.005〜10重量%、より好ましくは0.1〜10重量%含まれるものである。周期表4族の金属元素からなる有機金属化合物の割合が少なすぎると粘着剤の架橋反応が鈍化してしまい、十分な特性を得ることができず、多すぎると粘着剤組成物を混合し、基材フィルムに塗布するまでのポットライフが短くなり、本発明の半導体ウエハ加工用粘着テープを製造する場合に支障が生じるからである。
【0024】
また、周期表4族の金属元素としては、チタン、ジルコニウム、ハフニウムが挙げられ、周期表4族の金属元素からなる有機金属化合物としては、これら金属元素のアルコキシド、キレート、アシレートなどが挙げられ、その中でもチタンアルコキシド、チタンキレート、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムキレートのうち少なくとも1種類以上を主成分とすることが好ましい。なお、主成分とするとは、全体の50重量%以上を占めるこという。
【0025】
(イソシアネート化合物)
本発明においては、粘着剤を構成する放射線硬化型粘着剤は、イソシアネート化合物により架橋されていることが好ましい。
イソシアネート化合物としては、特に制限がなく、例えば、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルエーテルジイソシアネート、4,4′−〔2,2−ビス(4−フェノキシフェニル)プロパン〕ジイソシアネート等の芳香族イソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチル−ヘキサメチレンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、リジントリイソシアネート等が挙げられる。具体的には、市販品として、コロネートL(商品名、日本ポリウレタン社製)等を用いることができる。
【0026】
本発明において、粘着剤層中、イソシアネート化合物の含有量は、放射線硬化型粘着剤の全重量に対して、0.01〜10重量%が好ましく、さらに好ましくは0.1〜8重量%である。イソシアネート化合物の含有量割合が少なすぎると粘着剤の架橋反応が鈍化してしまい、十分な特性を得ることができず、多すぎると粘着剤組成物を混合し、基材フィルムに塗布するまでのポットライフが短くなり、本発明の半導体ウエハ加工用粘着テープを製造する場合に支障が生じるからである。
【0027】
(基材フィルム)
図1に示される本発明に用いられる基材フィルム5は、特に限定されるものではなく公知のプラスチックなどの樹脂を用いることができる。一般に基材フィルム5としては熱可塑性のプラスチックフィルムが用いられている。基材フィルム5は、市販のものを用いても良いし、押出成形等により製膜したものであっても良い。基材フィルム5の厚さは通常30〜300μm、より好ましくは50〜200μmである。これらの数字は半導体ウエハ加工用粘着テープに必要な機械特性、熱収縮などの観点から導き出されたものである。
【0028】
バックグラインド工程用半導体ウエハ加工用粘着テープの基材フィルム5としては、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリブテンのようなポリオレフィン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体およびエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体のようなエチレン共重合体、軟質ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、半硬質ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリイミド、天然ゴムならびに合成ゴムなどの高分子材料が好ましい。そして、これらは単層フィルム、またはそれぞれの複層フィルムとして用いられる。
【0029】
ダイシング工程用半導体ウエハ加工用粘着テープの基材フィルム5を形成する樹脂は、高温状態における糸状の切削屑の発生を防止するため、切削熱により溶融状態になることが好ましい。通常、半導体ウエハダイシング時には、回転丸刃がウエハを切削する時に発生する熱を冷却しかつウエハ表面を洗浄するために、ウエハ表面の切削点に切削水が供給されるが、被切削物はウエハの切削熱により、切削水の沸点の100℃近くまで上昇する。また、ダイシング工程用半導体ウエハ加工用粘着テープへの回転丸刃の切り込み深さが深い場合、切削水の供給は不十分となり、概略テープ厚さの表面20μm程度までしか十分な冷却効果は期待できず、それ以上の深さの部分では切削水の供給量不足により被切削物の温度が100℃以上まで上昇することがある。
このため、従来のダイシング工程用半導体ウエハ加工用粘着テープでは、基材フィルムの樹脂が切削時に溶融・延伸され、糸状の切削屑が発生していた。これに対し、切削熱により溶融状態になる樹脂を用いた本発明のテープでは、このような高温状態における糸状の切削屑の発生を防止することができる。
【0030】
このような樹脂であれば特に限定されないが、例えば、重合体構成単位としてカルボキシル基を有する化合物を含む樹脂が用いられ、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体のアイオノマー樹脂などを用いることができる。さらに、理由は定かではないが、切削屑の糸状化を防止するうえ基材フィルムの樹脂として、エチレン、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸アルキルエステルを重合体の構成単位とする3元共重合体であると、より効果がある。3元共重合体アイオノマー樹脂として、三井・デュポンポリケミカル社から市販されているハイミランAM7316(Zn)などがある。この3元共重合体において、エチレン成分は好ましくは50〜90重量%、(メタ)アクリル酸成分は好ましくは5〜20重量%、(メタ)アクリル酸アルキルエステル成分は好ましくは5〜30重量%とする。2元または3元共重合体の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、アルキル部の炭素数が3以上8以下のアルキルエステルが好ましく用いられ、具体的には、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−メチルプロピル、(メタ)アクリル酸2−エチルプロピル、(メタ)アクリル酸2−メチルブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルブチル、(メタ)アクリル酸2−メチルヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸1,2−ジメチルブチル等が挙げられる。また、前記2元または3元共重合体のカルボキシル基を陽イオンで一部中和したアイオノマー樹脂を主成分とするとより効果があり好ましい。ここで主成分とするとは、好ましくは樹脂中、50重量%以上含有することをいう。カルボキシル基を中和する陽イオンとしては、金属イオン、有機アミンが通常用いられるが、その中でも主にNa、K、Li、Mg2+、Zn2+等の金属イオンが用いられる。なお、半導体ウエハへの悪影響を防止するためには陽イオンとしてZn2+を用いたアイオノマーが好ましく用いられる。カルボキシル基の陽イオンによる中和度は好ましくは5〜90mol%である。
アイオノマー樹脂としては、金属イオン含有量やカルボキシル基数の異なる樹脂を複数配合し、適切な金属イオン含有量やカルボキシル基数とすることができる。
【0031】
本発明においては、前記基材フィルム5が、バックグラインド工程用半導体ウエハ加工用粘着テープではポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリブテンのようなポリオレフィン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体およびエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体のようなエチレン共重合体、軟質ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、半硬質ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリイミド、天然ゴムならびに合成ゴムなどの高分子材料が好ましく、ダイシング工程用半導体ウエハ加工用粘着テープではエチレン、(メタ)アクリル酸および(メタ)アクリル酸アクリルエステルを重合体の構成成分とする3元共重合体からなり、該3元共重合体は金属イオンで架橋されているアイオノマー樹脂を主成分とすることが好ましい。
【実施例】
【0032】
以下、実施例に基づき、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、ポリマーの重量平均分子量は、テトラヒドロフランに溶解して得た1%溶液を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(ウオータース社製、商品名:150−C ALC/GPC)により測定した値をポリスチレン換算して算出したものである。
【0033】
[実施例1] 粘着テープA
基材フィルム(基材層)として、ノバテックEVA LV342(商品名、日本ポリエチレン株式会社製)を使用し、厚さ150μmのフィルム(基材フィルムA)を押出成形で作成した。ポリマー(ブチルアクリレート75重量%、2−ヒドロキシエチルアクリレート20重量%を構成単位として、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートを付与したものであり、重量平均分子量は600,000であった。)に、放射線硬化型粘着剤の全重量に対して光重合性開始剤が1重量%、イソシアネート系硬化剤が2重量%、ジルコニウムキレートであるZC−150(商品名、松本ファインケミカル社製)が0.001重量%になるようそれぞれ加え混合することで放射線硬化型粘着剤を製造し、基材フィルムAの表面に乾燥後30μmの厚さになるように塗工し、図1に示すと同様のテープを作成した。
【0034】
[実施例2] 粘着テープB
放射性硬化型粘着剤の全重量に対して、ジルコニウムキレートであるZC−150(商品名、松本ファインケミカル社製)が0.1重量%になるようにする以外は、実施例1と同様のテープを作成した。
【0035】
[実施例3] 粘着テープC
放射性硬化型粘着剤の全重量に対して、ジルコニウムキレートであるZC−150(商品名、松本ファインケミカル社製)が10重量%になるようにする以外は、実施例1と同様のテープを作成した。
【0036】
[実施例4] 粘着テープD
基材フィルム(基材層)として、ノバテックEVA LV342(商品名、日本ポリエチレン株式会社製)を使用し、厚さ150μmのフィルム(基材フィルムA)を押出成形で作成した。ポリマー(ブチルアクリレート89質量%、メタクリル酸1質量%、2−ヒドロキシエチルアクリレート10質量%を構成単位としてなるものであり、重量平均分子量は550,000であった。)に、放射線硬化型粘着剤の全重量に対して光重合性炭素−炭素二重結合を有する化合物ペンタエリスリトールテトラアクリレートが35重量%、光重合性開始剤が3重量%、イソシアネート系硬化剤が4重量%、ジルコニウムキレートであるZC−150(商品名、松本ファインケミカル社製)が0.1重量%になるようそれぞれ加え混合することで放射線硬化型粘着剤を製造し、基材フィルムAの表面に乾燥後30μmの厚さになるように塗工し、図1に示すと同様のテープを作成した。
【0037】
[比較例1] 粘着テープE
放射性硬化型粘着剤に対して、ジルコニウムキレートを加えない点以外は、実施例1と同様のテープを作成した。
【0038】
[比較例2] 粘着テープF
放射性硬化型粘着剤の全重量に対して、ジルコニウムキレートであるZC−150(商品名、松本ファインケミカル社製)が11重量%になるようにする以外は、実施例1と同様のテープ作成を試みたが、粘着剤がゲル化してしまい作成不能となった。
【0039】
[実施例5] 粘着テープG
基材フィルム(基材層)として、ハイミランAM−7316(商品名、三井・デュポンポリケミカル社製)を使用し、厚さ100μmのフィルム(基材フィルムB)を押出成形で作成した。ポリマー(ブチルアクリレート75重量%、2−ヒドロキシエチルアクリレート20重量%を構成単位として、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートを付与したものであり、重量平均分子量は500,000であった。)に、放射線硬化型粘着剤の全重量に対して光重合性開始剤が5重量%、イソシアネート系硬化剤が1.5重量%、ジルコニウムキレートであるZC−150(商品名、松本ファインケミカル社製)が0.001重量%になるようそれぞれ加え混合することで放射線硬化型粘着剤を製造し、基材フィルムBの表面に乾燥後10μmの厚さになるように塗工し、図1に示すと同様のテープを作成した。
【0040】
[実施例6] 粘着テープH
放射性硬化型粘着剤の全重量に対して、ジルコニウムキレートであるZC−150(商品名、松本ファインケミカル社製)が0.1重量%になるようにする以外は、実施例5と同様のテープを作成した。
【0041】
[実施例7] 粘着テープI
放射性硬化型粘着剤の全重量に対して、ジルコニウムキレートであるZC−150(商品名、松本ファインケミカル社製)が10重量%になるようにする以外は、実施例5と同様のテープを作成した。
【0042】
[実施例8] 粘着テープJ
基材フィルム(基材層)として、ハイミランAM−7316(商品名、三井・デュポンポリケミカル社製)を使用し、厚さ100μmのフィルム(基材フィルムB)を押出成形で作成した。ポリマー(ブチルアクリレート89質量%、メタクリル酸1質量%、2−ヒドロキシエチルアクリレート10質量%を構成単位としてなるものであり、重量平均分子量は530,000であった。)に、放射線硬化型粘着剤の全重量に対して光重合性炭素−炭素二重結合を有する化合物ペンタエリスリトールテトラアクリレートが40重量%、光重合性開始剤が6重量%、イソシアネート系硬化剤が3重量%、ジルコニウムキレートであるZC−150(商品名、松本ファインケミカル社製)が0.1重量%になるようそれぞれ加え混合することで放射線硬化型粘着剤を製造し、基材フィルムBの表面に乾燥後10μmの厚さになるように塗工し、図1に示すと同様のテープを作成した。
【0043】
[比較例3] 粘着テープK
放射性硬化型粘着剤に対して、ジルコニウムキレートを加えない点以外は、実施例5と同様のテープを作成した。
【0044】
[比較例4] 粘着テープL
放射性硬化型粘着剤の全重量に対して、ジルコニウムキレートであるZC−150(商品名、松本ファインケミカル社製)が11重量%になるようにする以外は、実施例5と同様のテープ作成を試みたが、粘着剤がゲル化してしまい作成不能となった。
【0045】
[実施例9] 粘着テープM
ジルコニウムキレートに代えて、放射線硬化型粘着剤の全重量に対して、ジルコニウムアルコキシドであるZA−45(商品名、松本ファインケミカル社製)が0.1重量%になるよう混合する点以外は、実施例2と同様にテープを作成した。
【0046】
[実施例10] 粘着テープN
ジルコニウムキレートに代えて、放射線硬化型粘着剤の全重量に対して、チタンキレートであるTC−750(商品名、松本ファインケミカル社製)が0.1重量%になるよう混合する点以外は、実施例2と同様にテープを作成した。
【0047】
[実施例11] 粘着テープO
ジルコニウムキレートに代えて、放射線硬化型粘着剤の全重量に対して、チタンアルコキシドであるTA−10(商品名、松本ファインケミカル社製)が0.1重量%になるよう混合する点以外は、実施例2と同様にテープを作成した。
【0048】
[実施例12] 粘着テープP
ジルコニウムキレートに代えて、放射線硬化型粘着剤の全重量に対して、ジルコニウムアルコキシドであるZA−45(商品名、松本ファインケミカル社製)が0.1重量%になるよう混合する点以外は、実施例6と同様にテープを作成した。
【0049】
[実施例13] 粘着テープQ
ジルコニウムキレートに代えて、放射線硬化型粘着剤の全重量に対して、チタンキレートであるTC−750(商品名、松本ファインケミカル社製)が0.1重量%になるよう混合する点以外は、実施例6と同様にテープを作成した。
【0050】
[実施例14] 粘着テープR
ジルコニウムキレートに代えて、放射線硬化型粘着剤の全重量に対して、チタンアルコキシドであるTA−10(商品名、松本ファインケミカル社製)が0.1重量%になるよう混合する点以外は、実施例6と同様にテープを作成した。
【0051】
[試験例]
(バックグラインド工程用半導体ウエハ加工用粘着テープの表面糊残り評価)
実施例1、2、3、4、9、10、11、比較例1、2の半導体ウエハ加工用粘着テープにシリコンウエハを貼合し、バックグラインド作業を行い、紫外線を照射し、粘着テープを剥離した。この剥離したシリコンウエハの表面糊残り発生数について評価した。
【0052】
(ダイシング工程用半導体ウエハ加工用テープの側面糊残り評価)
実施例5、6、7、8、12、13、14、比較例3、4の半導体ウエハ加工用粘着テープに縦10.0mm、横10.0mm、厚さ1.1mm、のレーザーマークが捺印されたエポキシ系樹脂パッケージを貼合した後、ダイシング装置(ディスコ社製、商品名:DFD6340)、ダイシングブレード(ディスコ社製、商品名:SD320N100M42)を使用し回転数40000rpm、カットスピード50mm/secで1.0mm×1.0mmにダイシングした。
ダイシングされたパッケージチップ100個についてダイスピッカー装置(キャノンマシナリー社製、商品名:CAP−300II)によるピックアップ作業を行い、得られたパッケージチップの側面糊残りの発生数について評価した。
【0053】
(レーザーマーク糊残り評価:ウエハ)
実施例5、6、7、8、12、13、14、比較例3、4の半導体ウエハ加工用粘着テープにレーザーマークが捺印された#2000研磨処理シリコンウエハを貼合した後、ダイシング装置(ディスコ社製、商品名:DFD6340)、ダイシングブレード(ディスコ社製、商品名:NBC−ZH 205O 27HEDD)を使用し回転数40000rpm、カットスピード50mm/secで10.0mm×10.0mmにダイシングした。
ダイシングされたシリコンウエハ50個についてダイスピッカー装置(キャノンマシナリー社製、商品名:CAP−300II)によるピックアップ作業を行い、得られたシリコンウエハのレーザーマーク糊残り発生数について評価した。
【0054】
(レーザーマーク糊残り評価:パッケージ)
実施例5、6、7、8、12、13、14、比較例3、4の半導体ウエハ加工用粘着テープに縦10.0mm、横10.0mm、厚さ1.1mm、のレーザーマークが捺印されたエポキシ系樹脂パッケージを貼合した後、ダイシング装置(ディスコ社製、商品名:DFD6340)、ダイシングブレード(ディスコ社製、商品名:SD320N100M42)を使用し回転数40000rpm、カットスピード50mm/secで1.0mm×1.0mmにダイシングした。
ダイシングされたパッケージチップ100個についてダイスピッカー装置(キャノンマシナリー社製、商品名:CAP−300II)によるピックアップ作業を行い、得られたパッケージチップのレーザーマーク糊残りの発生数について評価した。
【0055】
それぞれの試験結果を表1〜4に記した。なお、バックグラインド工程用半導体ウエハ加工用粘着テープの表面糊残り評価、ダイシング工程用半導体ウエハ加工用粘着テープの側面糊残り評価については、非常に良好であったものを◎、良好であったものを○、不良であったものを×で示した。また、テープ製造の可否についても記載した。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
【表3】

【0059】
【表4】

【0060】
表1の実施例1〜4からわかるようにジルコニウムキレートを0.001〜10重量%加えることで表面糊残りの発生数が良好になることが示された。一方、ジルコニウムキレートを添加しなかった比較例1においては、バックグラインド時の表面糊残りが不良であった。また、ジルコニウムキレートを11重量%加えた比較例2については、粘着剤のポットライフが短くなり、粘着テープの製造が不可能であった。
【0061】
表2の実施例5〜8からわかるようにジルコニウムキレートを0.001〜10重量%加えることで側面糊残りの発生数、及びレーザーマーク糊残りが良好になることが示された。一方、ジルコニウムキレートを添加しなかった比較例3においては、側面糊残り及びLM糊残りが不良であった。また、ジルコニウムキレートを11重量%加えた比較例4については、粘着剤のポットライフが短くなり、粘着テープの製造が不可能であった。
【0062】
表3及び表4からわかるようにジルコニウムキレート、ジルコニウムアルコキシド、チタンキレート、チタンアルコキシドを加えることで表面糊残り、側面糊残りの発生数、及びレーザーマーク糊残りが良好になることが示された。
【0063】
また、実施例4,8が示す通り、感圧性ベース樹脂に対して、光重合性炭素−炭素二重結合を少なくとも2個有する化合物を配合した放射線硬化型粘着剤においても、ジルコニウムキレートを添加することで各種の糊残りを防止することができた。
【0064】
以上、添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しえることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0065】
1………半導体ウエハ加工用粘着テープ
3………粘着剤層
5………基材フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルム上に、少なくとも一層の粘着剤層が積層された半導体ウエハ加工用テープであって、
前記粘着剤層が放射線硬化型粘着剤を含み、
元素の周期表における第4族の金属元素の有機金属化合物が、前記放射線硬化型粘着剤の全重量に対して、0.001〜10重量%の割合で含まれていることを特徴とする半導体ウエハ加工用粘着テープ。
【請求項2】
前記有機金属化合物がチタンアルコキシド、チタンキレート、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムキレートのうち少なくとも1種類以上を主成分とすることを特徴とする請求項1記載の半導体ウエハ加工用粘着テープ。
【請求項3】
前記粘着剤層にイソシアネート化合物を含んでいることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体ウエハ加工用粘着テープ。
【請求項4】
前記基材フィルムが、金属イオンで架橋されたエチレン系アイオノマー樹脂を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の半導体ウエハ加工用粘着テープ。

【図1】
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【公開番号】特開2012−201846(P2012−201846A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69514(P2011−69514)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】