半導体ガスセンサ及びガスクロマトグラフ用半導体ガスセンサ
【課題】多種のガスに対して高い感度を有すると共に水素ガスについても安定した高い検知感度を有し、特にガスクロマトグラフにおける検知器に好適に用いることができる半導体ガスセンサを提供する。
【解決手段】酸化タングステンを含む粉体材料の焼結体にて構成される感ガス体1と、一対の検知用電極2,2とを具備する。前記感ガス体1が前記一対の検知用電極2,2の互いに対向し合う対向面に接触すると共に前記対向面間に挟まれた空間に配置されるコア部3を含む。前記コア部3は平均粒径10μm以上20μm以下の酸化タングステン粉末を含む粉体材料の焼結体にて形成されたものであることを特徴とするものである。このような半導体ガスセンサAでは、多種のガスに対して良好な感応性を示すと共に、水素ガスに対しても安定した高い感応性を示すものである。
【解決手段】酸化タングステンを含む粉体材料の焼結体にて構成される感ガス体1と、一対の検知用電極2,2とを具備する。前記感ガス体1が前記一対の検知用電極2,2の互いに対向し合う対向面に接触すると共に前記対向面間に挟まれた空間に配置されるコア部3を含む。前記コア部3は平均粒径10μm以上20μm以下の酸化タングステン粉末を含む粉体材料の焼結体にて形成されたものであることを特徴とするものである。このような半導体ガスセンサAでは、多種のガスに対して良好な感応性を示すと共に、水素ガスに対しても安定した高い感応性を示すものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素をはじめとする種々のガスに対する感応性が高く、特にガスクロマトグラフにおける分離ガス検出用途に好適に用いることができる半導体ガスセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体ガスセンサは微量のガス成分の検知に適し、種々の用途に用いられているが、例えばガス感度の高さを利用して、近年ガスクロマトグラフにおける検出器としても用いられるようになってきている。
【0003】
ここで、ガスクロマトグラフは、ガス中の成分の定性・定量分析に広く用いられており、これは試料ガスをキャリアガスと共に、充填材が充填されている分離カラムに導入し、試料ガス中に含まれる成分が分離カラム中の充填材との相互作用によるリテンションタイム(保持時間)の差により分離され、この分離されたガス中成分を分離カラム1から導出し、ガス検出器にて検出することにより、クロマトグラムが得られるものである。
【0004】
このようなガスクロマトグラフにおける検出器として半導体ガスセンサを使用する場合は、数多くの種類のガスが検知対象となるため、半導体ガスセンサとしてもガスの種類を問わず高感度でガスの検知を行うことができるものが求められ、そのため種々の試みがなされている(特許文献1参照)。
【0005】
このようにして近年、多種のガスを高感度で検知できる半導体ガスセンサの開発が進められているが、更に多くの種類のガスに対する感度の高いものが求められている。
【0006】
そこで、従来から知られている半導体ガスセンサのうち、酸化タングステンを感ガス材料とするものを適用することが考えられる。この酸化タングステンにて形成される半導体ガスセンサは、非常に多くの種類のガスを高い感度で検知することができることが知られている。このような酸化タングステンからなるセンサは通常は種々の添加剤を含有させるなどして特定のガス検知に用いられるが(特許文献2参照)、かかる選択検知のための添加剤を加えなければ多種のガスの検知に用いることができるものである。
【特許文献1】特開2003−075384号公報
【特許文献2】特開2002−31615号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、酸化タングステンを感ガス材料として用いた場合には、水素ガスの検知に問題が生じるものがあった。すなわち、酸化タングステンを感ガス材料とする半導体ガスセンサでは水素ガスを検知可能ではあるが、その検知感度は他のガスの検知感度と較べて安定せず、同一組成の感ガス体を用いても水素感度が低い場合もあれば高い場合もあり、水素ガス検知の信頼性に欠けるものであった。また、水素感度が低くなる場合には、水素ほどその差は顕著ではないものの、その他のガスに対しても総じて感度が低く、特にガスクロマトグラフ用の検出器に用いるには問題があった。
【0008】
また、ガスクロマトグラフの分離カラムにおける固定相としては、パックドカラム用充填剤やキャピラリーカラム等において、シリコン系化合物が固定相として用いられる場合が多くあるが、一般的に半導体ガスセンサはシリコン被毒に対する耐性が低く、前記固定相に用いられるシリコン系化合物による被毒を受けるとガス検知感度が変動してしまい、長期に亘って正確なガス検知を行うことが困難となる場合がある。
【0009】
本発明は上記の点に鑑みて為されたものであり、多種のガスに対して高い感度を有すると共に水素ガスについても安定した高い検知感度を有し、特にガスクロマトグラフにおける検知器に好適に用いることができる半導体ガスセンサを提供することを目的とするものである。
【0010】
また、本発明は更にシリコン被毒に対する耐性が高い半導体ガスセンサを提供することを目的とするものである。
【0011】
更に本発明は、上記のような半導体ガスセンサにて構成されるガスクロマトグラフ用半導体ガスセンサを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは鋭意研究の結果、酸化タングステンを含む焼結体にて構成される感ガス体中の特定部位を形成するために用いられる酸化タングステン粒子の粒径が、水素ガス検知感度の増減に大きく関与することを見出し、本発明の完成に至ったものである。
【0013】
すなわち、本発明に係る半導体ガスセンサAは、酸化タングステンを含む粉体材料の焼結体にて構成される感ガス体1と、一対の検知用電極2,2とを具備し、前記感ガス体1が前記一対の検知用電極2,2の互いに対向し合う対向面に接触すると共に前記対向面間に挟まれた空間に配置されるコア部3を含み、前記コア部3は平均粒径10μm以上20μm以下の酸化タングステン粉末を含む粉体材料の焼結体にて形成されたものであることを特徴とするものである。このような半導体ガスセンサAでは、多種のガスに対して良好な感応性を示すと共に、水素ガスに対しても安定した高い感応性を示すものである。
【0014】
上記感ガス体1のコア部3には、コア部3中の酸化タングステンの含有量に対して20〜100重量%の範囲のアルミナが含有されていることが好ましい。このようにすると、感ガス体1の電気抵抗値を適度な値に維持すると共にガスの検知感度を更に向上することができるものである。
【0015】
また、上記感ガス体1にはシリカが添加されていることも好ましい。この場合、感ガス体1はシリコン被毒に対する高い耐性を有することとなり、感ガス体1がシリコン被毒を受けた場合もガス検知感度の変動が発生することを抑制することができる。
【0016】
また、本発明に係るガスクロマトグラフ用半導体ガスセンサは、上記のような半導体ガスセンサにて構成されることを特徴とするものである。このため、このガスクロマトグラフ用半導体ガスセンサは多種のガスに対して良好な感応性を示すと共に、水素ガスに対しても安定した高い感応性を示し、多種の被検知ガスの検知に有用なものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、多種のガスを良好な感度で検知可能であると共に、水素ガスについても安定且つ高感度で検知可能なものであって、多種のガス検知を行う用途に好適に用いることができ、特にガスクロマトグラフにおける検知器として好適なものである。
【0018】
また、感ガス体のコア部が所定量のアルミナを含有することで、感ガス体の電気抵抗値を適度な値に維持して半導体ガスセンサの実用性を向上することができ、且つ水素ガス感度をはじめとするガス検知感度を更に向上することができるものである。
【0019】
また、感ガス体にシリカを添加して感ガス体のシリコン被毒に対する耐性を向上することで、シリコン被毒を受けた場合でも長期に亘ってガス検知感度の変動を抑制することができ、特にガスクロマトグラフの検知器として使用した場合に、固定相としてシリコン化合物等を用いていても長期に渡って正確なガス検知を行うことができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0021】
本発明に係る半導体ガスセンサAは、酸化タングステンを含む粉体材料の焼結体にて構成される感ガス体1と、前記感ガス体1の電気抵抗を測定するための検知用電極2,2とを具備する。
【0022】
感ガス体1は一対の検知用電極2,2を覆うように設けられる。図1,2に示す半導体ガスセンサAでは、検知用電極2,2であるコイル状のヒータ兼用電極2a及び芯線状電極2bをセンサ基体とし、このヒータ兼用電極2a及び芯線状電極2bを覆うように楕円球体状に感ガス体1が形成されている。このとき図示の例ではヒータ兼用電極2aは、そのコイル部分が感ガス体1中に埋設されるように形成されると共に、芯線状電極2bはヒータ兼用電極2aのコイル部分の中心を貫通するように感ガス体1中に埋設されており、これによりヒータ兼用電極2a及び芯線状電極2bがまとまりよく配設されて感ガス体1の小型化が容易なものである。
【0023】
そして、この半導体ガスセンサAは、有底筒状のセンサ筐体40の底部を兼ねる樹脂製のベース30と、ベース30を貫通してセンサ筐体40内外に突出する3本の端子101,102,103と、端子101,102,103にリード線201,202,203を接続固定して支持された感ガス体1からなるセンシング部Aと、センサ筐体40の天上面に設けられたガス導入用のステンレス製の金網41とで構成されている。ヒータ兼用電極2aは上述のリード線201,203間に設けられて、ヒータ兼用電極2a、リード線201,203が一体に形成されているものであり、また芯線状電極2bは上述のリード線202により形成されている。
【0024】
このときの感ガス体1の外径形状は、適宜の形状とすることができ、例えば図示の例のような楕円球体状、或いは球体状等のような球状に形成することができる。また感ガス体1の外径寸法は適宜設定されるが、その径が好ましくは0.20〜0.7mm、更に好ましくは、0.25〜0.6mmの範囲となるようにするものであり、例えば長手軸方向の直径を0.5mmとし、短手軸方向の径を、0.3mmとすることができる。
【0025】
また、図3,4に示す半導体ガスセンサAでは、アルミナ等にて形成される例えば厚さ0.3mmで一辺の長さが2mmの正方形の平板状の基板7をセンサ基体(平板型基体)として用い、この基板7の一面に厚膜状に感ガス体1が形成されている。ここで基板7の一面には電極2c,2dを一対の検知用電極2,2として図3(a)に示すように設け、電極2c,2d間に亘るように感ガス体1が形成されている。また基板7の他面には前記電極2c,2dとスルーホールにより接続される電極8c,8dと、ヒータ用の電極8a,8bとが設けられており、ヒータ用の電極8a,8b間には酸化ルテニウム印刷膜等からなるヒータ25が設けられている。各電極2c,2d、8a〜8dは例えば金製のものを設けることができる。またこの基板7の他面側の電極8a〜8dにはリードワイヤ5をそれぞれ接続して、リードワイヤ5をベース30に貫通した端子10に接続してある。
【0026】
このような半導体ガスセンサAにおける感ガス体1は、一対の検知用電極2,2の互いに対向し合う対向面に接触すると共に前記対向面間に挟まれた空間に配置されるコア部3を有する。このときコア部3は感ガス体1の内部での各検知用電極2,2の互いに対向し合う各対向面の80%以上の領域と接触し、且つこの対向面間に挟まれた空間の80%以上を占有することが好ましい。そして、上記コア部3を形成するための粉体材料中の酸化タングステン粒子の平均粒径は、10μm以上20μm以下である必要がある。
【0027】
このようなコア部3を備えることで、半導体ガスセンサAは他のガスに対する良好な感応性とその検知時の良好な応答性とを有し、しかも水素ガスを検知するにあたっても安定かつ高感度で検知を行うことができるものである。ここで、コア部3を形成するための酸化タングステン粒子の平均粒径が10μmに満たないと良好な水素感度が得られなくなるものであり、またこの平均粒径が20μmを超えると検知用電極2,2にて検知される感ガス体1の電気抵抗値が高くなって実用上不具合が生じる。
【0028】
また、上記感ガス体1には、特にコア部3に、コア部3中の酸化タングステンの含有量に対して20〜100重量%の範囲でアルミナを含有させることも好ましい。この場合は、感ガス体1を作製するにあたり、例えば酸化タングステン粒子に所定量のアルミナ粒子を混合した粉体材料の焼結体にて感ガス体1を形成することができる。このような範囲で感ガス体1にアルミナを含有させると、感ガス体1の電気抵抗値を適度な値に維持すると共に半導体ガスセンサAのイニシャルアクションが良好となり、しかも水素ガス感度の検知感度を更に低減することができるものである。すなわち、前記アルミナ含有量が20重量%以上であることで半導体ガスセンサAのイニシャルアクションが向上すると共に、水素ガス感度をはじめとするガス感度を更に向上することができ、またアルミナ含有量を100重量%以下とすることで感ガス体1の電気抵抗値が過剰に増大することがなく、半導体ガスセンサAの実用性が向上するものである。
【0029】
ここでイニシャルアクションは、空気中で半導体ガスセンサAにおけるヒータや検知用電極2,2間に電圧がかけられていない状態から、ヒータの通電と検知用電極2,2間の電圧の印加を同時に行った場合、すなわち半導体ガスセンサAを起動した場合に、検知用電極2,2にて検知される感ガス体1の電気抵抗値が安定するまでに要する時間の短さで評価される。
【0030】
また、上記感ガス体1にはシリカ(SiO2)を含有させることも好ましい。シリカの添加は、例えば感ガス体1を構成するための焼結体にシリカゾルを塗布した後に焼成することにより行うことができる。かかる感ガス体1はシリコン被毒に対する高い耐性を有することとなり、感ガス体1がシリコン被毒を受けた場合もガス検知感度の変動が発生することを抑制することができるものである。前記シリカの含有量は適宜調整されるものであるが、シリコン被毒に対して十分に高い耐性を発揮させるためには、好ましくは6〜60体積%の範囲で添加されるようにする。例えばシリカの添加のために濃度20%のシリカゾルを用いる場合には感ガス体1を構成する焼結体に対してこの焼結体の30〜300体積%のシリカゾルを用いることが好ましい。このときシリカの含有量が6体積%に満たないと十分なシリコン被毒性改善効果が得られないおそれがあり、また60体積%を超えると応答性が遅くなるおそれがある。
【0031】
上記感ガス体1はこのようなコア部3のみで形成しても良く、このときコア部3は一対の検知用電極2,2の互いに対向し合う対向面に接触すると共に前記対向面間に挟まれた空間に配置するだけでなく、更に前記検知用電極2,2を覆うように形成することができる。
【0032】
また感ガス体1はこのようなコア部3と、平均粒径が10μm未満又は20μmを超える酸化タングステン粒子を含む粉体材料の焼結体からなる部分とを共に有していても良い。このような部分を有していても上記のようなコア部3を有していれば、水素ガスの検知感度を十分に向上することができるものである。例えばコア部3の表面を覆う外層部4を、平均粒径が10μmに満たず、或いはこれが20μmを超える酸化タングステン粒子を含む粉体材料の焼結体にて形成することができる。また、このコア部3以外の焼結体からなる部分にもアルミナを含有させることができる。この部分におけるアルミナの含有量は特に制限されず、適宜調整される。
【0033】
感ガス体1を形成するにあたっては、原料として酸化タングステン粒子、アルミナ粒子、シリカゾル等を用いることができ、適宜の手法で形成することができる。具体的には次の手法を例示することができる。
【0034】
まず、メタタングステン酸アンモニウムや無水タングステン酸のようなタングステン化合物を、例えば空気中で500℃〜700℃で1〜7時間加熱して焼成した後、粉砕して、粉体状の酸化タングステンを得る。このとき、酸化タングステン粒子の平均粒径が10μm以上20μm以下の範囲となるように粉砕を行う。この粉体状の酸化タングステンに、必要に応じてα−アルミナ等の粉体状のアルミナを酸化タングステンに対して好ましくは20〜100重量%の範囲で混合し、この混合物にテルピオネール等の分散媒を加えてコア部形成用のペースト状の組成物を得る。
【0035】
また外層部形成用の組成物も、上記コア部形成用の組成物と同様の組成に形成する。このとき粉末状の酸化タングステンの平均粒径は10μm以上20μm以下である必要はなく、特に制限はない。また、この外層部形成用の組成物にアルミナを含有させる場合はその含有量は適宜調整され、特に制限はされない。
【0036】
そして、まずコア部形成用の組成物をセンサ基体を覆うように塗布又は印刷する。このき上記図1に示す構造の半導体ガスセンサAを得る場合には、まずコア部形成用の組成物をヒータ兼用電極2aのコイル部分の内側に充填する。また、前記組成物は更に前記コイル部分の外側も覆うようにして塗布しても良い。
【0037】
また図3に示す構造を有する半導体ガスセンサAを得る場合には、基板1の一面上にコア部形成用の組成物を一対の電極2c,2dに亘るようにしてこの電極2c,2dを覆うように塗布又は印刷する。
【0038】
次に、必要に応じて上記塗布又は印刷されたコア部形成用の組成物を焼成する。焼成条件は適宜設定されるが、例えば400〜600℃で、3〜10分間加熱することができる。
【0039】
次に、上記塗布又は印刷されたコア部形成用の組成物又はその焼結体にシリカを添加した後、焼成する。シリカの添加は例えば前記組成物やその焼結体の表面に所定量のシリカゾル等を塗布することにより行うことができる。焼成条件は適宜設定されるが、例えば500℃で3分間加熱することができる。尚、このときのシリカゾルの塗布焼成は省略しても良い。
【0040】
次に、このセンサ基体に塗布又は印刷したコア部形成用の組成物(又はその焼結体)の表面を覆うようにして外層部形成用の組成物を塗布又は印刷する。このとき図1に示す構造の半導体ガスセンサAを得る場合には、コア部形成用の組成物(又はその焼結体)の表面全体を覆うようにして外層部形成用の組成物を塗布することができる。また図3に示す構造を有する半導体ガスセンサAを得る場合には、基板1上におけるコア部形成用の組成物(又はその焼結体)の外部に露出する露出面全体を覆うようにして外層部形成用の組成物を塗布又は印刷することができる。
【0041】
次に、センサ基体に塗布又は印刷された上記組成物を焼成して焼結体を得る。焼成条件は適宜調整されるが例えば400〜600℃で3〜10分間加熱することができる。
【0042】
次に、上記焼結体にシリカを添加した後、再度焼成する。シリカの添加は例えば焼結体の表面に所定量のシリカゾル等を塗布することにより行うことができる。また焼成は例えば空気中で500℃〜800℃で3〜10分間加熱することにより行うことができる。これにより感ガス体1を得ることができる。
【0043】
このようにして感ガス体1を形成するにあたり、図1に示す構造にあっては、ヒータ兼用電極2aの表面のうちコイル部分の内側に配された面の少なくとも80%がコア部3と接触すると共にこのコイル部分の内側における芯線状電極2bの表面の少なくとも80%もコア部3と接触し、且つコイル部分の内側の空間の少なくとも80%をコア部3が占有していることが好ましい。また更に好ましくは、前記コイル部分の内側の空間全てをコア部3が占有すると共にこのコア部3がヒータ兼用電極2aにおけるコイル部分内側に配置された面及び芯線状電極2bにおけるコイル部分内側に配置されている表面の全てと接触するようにし、或いは更にコイル部分全体をコア部3にて覆うようにする。
【0044】
また図3に示す構造にあっては、好ましくは感ガス体1内部における一対の電極2c,2dの各対向面のうち少なくとも80%をコア部3と接触させる。また、感ガス体1内部における一対の電極2c,2dの表面全体のうち少なくとも80%をコア部3と接触させることも好ましい。また、前記各対向面に挟まれた空間の少なくとも80%を前記コア部3が占有するようになっていることが好ましい。また、電極2c,2dの間の領域における基板1上の感ガス体1の厚みの1/3以上をコア部3が占めることが好ましい。
【0045】
また、感ガス体1をコア部3のみで形成する場合には上記外層部形成用の組成物に代えてコア部形成用の組成物を用いて、同様に感ガス体1を形成することができる。特に図3に示す構造の半導体ガスセンサAを得る場合には、基板1上におけるコア部形成用の組成物(又はその焼結体)の外部に露出する露出面全体を覆うようにして外層部形成用の組成物を1回だけ塗布又は印刷し、次いで、上記と同様の条件で焼成、シリカの添加、焼成を順次行って感ガス体1を形成することができる。
【0046】
図6,7はガスクロマトグラフの装置構成の一例の概略を示すものであり、図5はガスクロマトグラフの外観を示す。
【0047】
図6に示すガスクロマトグラフは装置本体34に、測定対象である試料ガスや検出器14の構成等に応じた空気等の適宜のキャリアガスが充填されたガスボンベ37が装置本体34に接続されている。装置本体34内にはガスボンベ37から供給されたキャリアガスが流通するガス流路35の上流側から下流側に沿って、流量切替器36、流量計21、試料ガス供給口11、分離カラム37、検出器14が順次設けられている。また装置本体34には、装置本体34の動作設定や装置本体34における検出結果の解析等を行う制御部15と、制御部15における動作設定や検出結果、その解析結果等を表示する表示部16とが接続されている。制御部15及び表示部16は図5に示すようにパーソナルコンピュータ24にて構成することができ、装置本体34とパーソナルコンピュータ24とはケーブル29にて接続されている。
【0048】
また図5に示すように、装置本体34のハウジングには、電源スイッチ26、分離カラム37の加熱保持温度を設定するカラム加熱温度調整盤27、流量切替器36におけるキャリアガスの流量を設定するキャリアガス流量切替スイッチ28、測定動作の開始を設定する動作開始スイッチ25等が設けられており、また試料ガス供給口11もハウジングの外面に開口して設けられている。
【0049】
上記の分離カラム37には、図8に示すように、その外面にラバーヒータ31を密接して配設している。分離カラム37はステンレス、銅等の金属や、ポリフッ化エチレン樹脂(テフロン(登録商標)等)等の樹脂成形体等にて中空筒状に形成されており、内部には固定相となる充填材が充填される。分離カラム37を樹脂成形体にて形成する場合にはその外面に金属箔等で金属被覆を施して熱伝導性を向上することが好ましい。充填材は検出対象の試料ガスやキャリアガスの種類に応じた適宜のものを用いることができ、シリコン系のパックドカラム用充填材等のシリコン系のものであっても良い。ラバーヒータ31はシリコーンラバーシート等の絶縁性ラバーにて抵抗体32を絶縁したフレキシブルなヒータであり、抵抗体32が分離カラム37の外周面に一端側から他端側に亘って螺旋状に周回するようにして、分離カラム37の外面に密着して配設される。また、この分離カラム37には熱電対からなる温度センサ33が設けられており、この熱電対はポリフッ化エチレン樹脂(テフロン(登録商標)等)やガラスウール等の絶縁材にて絶縁被覆された状態で分離カラム37の外面に配設され、この温度センサ33にて分離カラム37の温度を検知するようにしている。
【0050】
このような分離カラム37の近傍には冷却用のファン12が配設される。このファン12は分離カラム37に向けて送風を行うように配設されている。
【0051】
また装置本体34内にはカラム加熱温度調整盤27における設定動作に従って動作する温度制御器13が設けられており、上記の温度センサ33による検知結果は温度制御器13に入力され、またラバーヒータ31における通電量や、冷却用ファン12の駆動は、温度センサ33による検知結果に基づいて温度制御器13にて制御される。
【0052】
この図6に示されるガスクロマトグラフを用い、電源スイッチ26を操作してガスクロマトグラフを起動し、動作開始スイッチ25を操作して測定動作の開始を設定し、ガスボンベ37からガス流路35内にキャリアガスを供給すると共に試料ガス供給口11から試料ガスを導入すると、ガス流路35に供給されたキャリアガスの流量が流量切替器36にて調整され、流量計21による検知によりキャリアガスの流通とその流量が確認された後に、試料ガス供給口11から供給された試料ガスがキャリアガスと混合される。この混合ガスは分離カラム37に導入されて、分離カラム37内部の固定相を通過することにより固定相との相互作用によってガス中成分が分離されて、分離カラム37から導出される。次いで、分離カラム37から導出されたガス中成分が検出器14にて検出され、この検出情報が制御部15に入力されて解析され、クロマトグラムが得られるものであり、またこの検出結果が表示部16にて表示されるものである。
【0053】
この測定動作中においては、分離カラム37は温度制御器13による制御により、カラム加熱温度調整盤27にて設定された所定の温度となるようにラバーヒータ31への通電がなされて、加熱される。このとき温度制御器13は温度センサ33による検知結果を基にして、ラバーヒータ31への通電量を制御し、また必要に応じてファン12を駆動することにより、分離カラム37を所定の温度に加熱保持する。このため、分離カラム37におけるガス中成分のリテンションタイムを一定に保って、正確な測定が行われる。
【0054】
また、図7には、キャリアガスとして空気を用いるようにしたガスクロマトグラフの装置構成の一例を示す。このガスクロマトグラフの装置本体34内にはキャリアガスが流通するガス流路35の上流側から下流側に沿ってエアーポンプ17、リーク流路18、流量切替器36、浄化フィルタ22、流量計21、試料ガス供給口11、分離カラム37、検出器14が順次設けられている。
【0055】
エアーポンプ17は外気をガスクロマトグラフ内のガス流路35に送出するものである。またリーク流路18はガス流路35から外気に向けて分岐されると共にリーク弁19が設けられ、ガス流路35に流入した過剰な空気をリーク流路18から外気に放出することによりガス流路35の内圧が過度に大きくなることを抑制し、エアーポンプ17にかかる負荷を調節するようにしている。また浄化フィルタ22は内部に活性炭及びシリカゲルを充填するなどして構成され、ガス流路35を流通するキャリアガス(空気)を清浄化するものである。また流量切替器36、流量計21、試料ガス供給口11、分離カラム37の構成は、図6に示されるものと同様である。
【0056】
この図7に示されるガスクロマトグラフでは、エアーポンプ17によってガス流路35に供給される空気の流量が流量切替器36にて調整された後、この空気が浄化フィルタ22を通過することにより清浄化され、更に流量計21による検知により空気の流通とその流量が確認された後に、試料ガス供給口11から試料ガスが供給されて空気と混合される。この混合ガスは分離カラム37に導入されて、分離カラム37内部の固定相を通過することにより固定相との相互作用によってガス中成分が分離されて、分離カラム37から導出される。次いで、分離カラム37から導出されたガス中成分が検出器14にて検出され、この検出情報が制御部15に入力されて処理され、クロマトグラムが得られるものであり、またこの検出結果が表示部16にて表示されるものである。
【0057】
このようなガスクロマトグラフでは、キャリアガスを供給するためにガスボンベ37を接続する必要がなくなり、更に装置の小型化が可能となる。
【0058】
以上のようにして構成されるガスクロマトグラフにおいて、検出器として上記のような半導体ガスセンサAを適用すると、分離カラム37を通過したガスを検知することにより、試料中のガス中成分が分離され、この分離された各ガス中成分が半導体ガスセンサAにて高感度で検知される。ここで、本発明では上記のような感ガス体1を用いているために、種々のガスを分離してそれぞれの検出を行うことができ、水素ガスについても高感度で安定した検知を行うことができるものである。
【実施例】
【0059】
〔耐シリコン被毒性評価〕
(実施例1)
半導体ガスセンサAとして、図1,2に示すものを作製した。
【0060】
このとき、コイル状のヒータ兼用電極2a及び芯線状電極2bとしては、線径20μmの白金線からなるものを用い、ヒータ兼用電極2aのコイル部の寸法はコイル径0.18mm、コイル幅0.4mmに形成した。
【0061】
また感ガス体1は次のようにして形成した。
【0062】
まず、メタタングステン酸アンモニウムを空気中で600°で5時間加熱して焼成した後、粉砕して、平均粒径12μmの粉体状の酸化タングステンを得た。
【0063】
この粉体状の酸化タングステンに、この酸化タングステンに対して20重量%のα−アルミナ粉末を加えて混合し、これに更にテルピオネールを加えてペースト状としてコア部形成用のペースト状の組成物を得た。
【0064】
この組成物をヒータ兼用電極2aのコイル部の内側全体に充填し、更にこのコイル部全体を覆うように塗布した後、700℃で10分間加熱焼成した。更にこの焼結体の表面に濃度20%のシリカゾルを焼結体の体積に対して100体積%塗布した後、750℃で10分間焼成することにより、長径0.5mm、短径0.3mmの寸法の感ガス体1を形成した。
【0065】
(評価試験)
上記実施例1について、素子温度400℃での種々のガスに対するシリコン被毒前後のガス感度を調査した。
【0066】
シリコン被毒処理は、濃度100ppmのヘキサメチルジシロキサン(HMDS)を含む雰囲気中に半導体ガスセンサAを素子温度400で1時間暴露することにより行った。
【0067】
ここでガス感度は、特定のガスを含む雰囲気中における感ガス体1の電気抵抗値(R)を、清浄空気中における電気抵抗値(Rair)にて除した値(R/Rair)と定義する。
【0068】
この結果を下記表1及び図9のグラフに示す。図9(a)は実施例1のシリコン被毒前における結果を、図9(b)は実施例1のシリコン被毒後における結果をそれぞれ示す。
【0069】
【表1】
【0070】
この結果から明らかなように、実施例1では水素ガスの検知感度が高く、また他のガスについても高い検知感度を有し、またシリコン被毒前後で各ガスの検知感度の変動がほとんど認められなかった。
【0071】
〔ガス感度特性〕
(組成物(a)の調製)
実施例1と同様の手法により得られた平均粒径12μmの粉体状の酸化タングステンに、この酸化タングステンに対して50重量%のα−アルミナ粉末を加えて混合し、これに更にテルピオネールを加えてペースト状として調製した。
【0072】
(組成物(b)の調製)
酸化タングステン粉末の平均粒径を9μmとした以外は上記組成物(a)と同様にして調製した。
【0073】
(実施例2)
半導体ガスセンサAとして、図1,2に示すものを作製した。
【0074】
このとき、コイル状のヒータ兼用電極2a及び芯線状電極2bとしては、線径20μmの白金線からなるものを用い、ヒータ兼用電極2aのコイル部の寸法はコイル径0.18mm、コイル幅0.4mmに形成した。
【0075】
感ガス体1の作製にあたっては、まず組成物(a)をヒータ兼用電極2aのコイル部の内側全体に充填し、更にこのコイル部全体を覆うように塗布した後、400℃で、3分間加熱焼成した。更にこの焼結体の表面にこの焼結体に対して組成物(b)を塗布した後、700℃で10分間焼成した。次いでこの焼結体の表面に濃度20重量%のシリカゾルを焼結体の体積の100体積%塗布した後、更に750℃で10分間加熱焼成することで、長径0.5mm、短径0.3mmの寸法の感ガス体1を形成した。
【0076】
(実施例3)
実施例2において、組成物の塗布を、組成物(a)、組成物(a)の順番で行った。それ以外は実施例2と同様にして半導体ガスセンサAを作製した。
【0077】
(比較例1)
実施例2において、組成物の塗布を、組成物(b)、組成物(b)の順番で行った。それ以外は実施例2と同様にして半導体ガスセンサAを作製した。
【0078】
(比較例2)
実施例2において、組成物の塗布を、組成物(b)、組成物(a)の順番で行った。それ以外は実施例2と同様にして半導体ガスセンサAを作製した。
【0079】
(評価試験)
上記実施例2,3及び比較例1,2について、素子温度400℃でのエタノールと水素の各ガス感度を調査した。
【0080】
ガス感度の測定にあたっては、感ガス体1に向けて空気の気流を送出した状態から、この気流中に10ppmのエタノール又は30ppmの水素を混入し、その後再び空気のみを送出して、この間の検知用電極2,2にて測定される感ガス体1の電気抵抗値の測定を行った。測定は各実施例及び比較例につき5個の半導体ガスセンサAを作製してそれぞれについて行った。
【0081】
この結果を図10,11に示す。図10(a)は実施例2におけるエタノール検知時の結果を、図10(b)は実施例2における水素ガス検知時の結果を、図10(c)は実施例3におけるエタノール検知時の結果を、図10(d)は実施例3における水素ガス検知時の結果を、図11(a)は比較例1におけるエタノール検知時の結果を、図11(b)は比較例1における水素ガス検知時の結果を、図11(c)は比較例2におけるエタノール検知時の結果を、図11(d)は比較例2における水素ガス検知時の結果を、それぞれ示す。
【0082】
これらの結果から明らかなように、平均粒径12μmの酸化タングステン粉末を含む焼結体にて形成されたコア部3を有する実施例2,3ではエタノールが高い検知感度で測定されると共に、水素ガスも高い検知感度で測定することができ、このとき感ガス体1をコア部3のみで形成した実施例3だけでなく、平均粒径9μmの酸化タングステン粉末を含む焼結体にて形成された外層部4を有する実施例2でも、同様の結果が得られた。
【0083】
一方、コア部3に相当する部位を平均粒径9μmの酸化タングステン粉末を含む焼結体にて形成した比較例1,2ではエタノールの検知感度は比較的高いものの、実施例1,2と較べると検知感度は低く、しかも水素感度が非常に低いものであり、このとき前記のような焼結体のみで形成した比較例1だけでなく、外層部4に相当する部位を平均粒径12μmの酸化タングステン粉末を含む焼結体にて形成した比較例2でも同様の結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示す、半導体ガスセンサの要部概略構成図である。
【図2】同上の一部破断した正面図である。
【図3】本発明の実施の形態の他例の要部を示し、(a)は一面側から視た斜視図、(b)は他面側から視た斜視図、(c)は一部省略した断面図である。
【図4】同上の一部破断した斜視図である。
【図5】ガスクロマトグラフの外観を示す斜視図である。
【図6】ガスクロマトグラフの構成の一例を示す概略図である。
【図7】ガスクロマトグラフの構成の他例を示す概略図である。
【図8】分離カラムの構成の一例を示す斜視図である。
【図9】(a)はシリコン被毒前の実施例1、(b)はシリコン被毒後の実施例1、種々のガスについての、濃度−ガス感度特性を示すグラフである。
【図10】(a)は実施例3におけるエタノール感度特性を、(b)は実施例3における水素ガス感度特性を、(c)は実施例4におけるエタノール感度特性を、(d)は実施例4における水素ガス感度特性を示すグラフである。
【図11】(a)は比較例1におけるエタノール感度特性を、(b)は比較例1における水素ガス感度特性を、(c)は比較例2におけるエタノール感度特性を、(d)は比較例2における水素ガス感度特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0085】
A 半導体ガスセンサ
1 感ガス体
2 検知用電極
3 コア部
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素をはじめとする種々のガスに対する感応性が高く、特にガスクロマトグラフにおける分離ガス検出用途に好適に用いることができる半導体ガスセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体ガスセンサは微量のガス成分の検知に適し、種々の用途に用いられているが、例えばガス感度の高さを利用して、近年ガスクロマトグラフにおける検出器としても用いられるようになってきている。
【0003】
ここで、ガスクロマトグラフは、ガス中の成分の定性・定量分析に広く用いられており、これは試料ガスをキャリアガスと共に、充填材が充填されている分離カラムに導入し、試料ガス中に含まれる成分が分離カラム中の充填材との相互作用によるリテンションタイム(保持時間)の差により分離され、この分離されたガス中成分を分離カラム1から導出し、ガス検出器にて検出することにより、クロマトグラムが得られるものである。
【0004】
このようなガスクロマトグラフにおける検出器として半導体ガスセンサを使用する場合は、数多くの種類のガスが検知対象となるため、半導体ガスセンサとしてもガスの種類を問わず高感度でガスの検知を行うことができるものが求められ、そのため種々の試みがなされている(特許文献1参照)。
【0005】
このようにして近年、多種のガスを高感度で検知できる半導体ガスセンサの開発が進められているが、更に多くの種類のガスに対する感度の高いものが求められている。
【0006】
そこで、従来から知られている半導体ガスセンサのうち、酸化タングステンを感ガス材料とするものを適用することが考えられる。この酸化タングステンにて形成される半導体ガスセンサは、非常に多くの種類のガスを高い感度で検知することができることが知られている。このような酸化タングステンからなるセンサは通常は種々の添加剤を含有させるなどして特定のガス検知に用いられるが(特許文献2参照)、かかる選択検知のための添加剤を加えなければ多種のガスの検知に用いることができるものである。
【特許文献1】特開2003−075384号公報
【特許文献2】特開2002−31615号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、酸化タングステンを感ガス材料として用いた場合には、水素ガスの検知に問題が生じるものがあった。すなわち、酸化タングステンを感ガス材料とする半導体ガスセンサでは水素ガスを検知可能ではあるが、その検知感度は他のガスの検知感度と較べて安定せず、同一組成の感ガス体を用いても水素感度が低い場合もあれば高い場合もあり、水素ガス検知の信頼性に欠けるものであった。また、水素感度が低くなる場合には、水素ほどその差は顕著ではないものの、その他のガスに対しても総じて感度が低く、特にガスクロマトグラフ用の検出器に用いるには問題があった。
【0008】
また、ガスクロマトグラフの分離カラムにおける固定相としては、パックドカラム用充填剤やキャピラリーカラム等において、シリコン系化合物が固定相として用いられる場合が多くあるが、一般的に半導体ガスセンサはシリコン被毒に対する耐性が低く、前記固定相に用いられるシリコン系化合物による被毒を受けるとガス検知感度が変動してしまい、長期に亘って正確なガス検知を行うことが困難となる場合がある。
【0009】
本発明は上記の点に鑑みて為されたものであり、多種のガスに対して高い感度を有すると共に水素ガスについても安定した高い検知感度を有し、特にガスクロマトグラフにおける検知器に好適に用いることができる半導体ガスセンサを提供することを目的とするものである。
【0010】
また、本発明は更にシリコン被毒に対する耐性が高い半導体ガスセンサを提供することを目的とするものである。
【0011】
更に本発明は、上記のような半導体ガスセンサにて構成されるガスクロマトグラフ用半導体ガスセンサを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは鋭意研究の結果、酸化タングステンを含む焼結体にて構成される感ガス体中の特定部位を形成するために用いられる酸化タングステン粒子の粒径が、水素ガス検知感度の増減に大きく関与することを見出し、本発明の完成に至ったものである。
【0013】
すなわち、本発明に係る半導体ガスセンサAは、酸化タングステンを含む粉体材料の焼結体にて構成される感ガス体1と、一対の検知用電極2,2とを具備し、前記感ガス体1が前記一対の検知用電極2,2の互いに対向し合う対向面に接触すると共に前記対向面間に挟まれた空間に配置されるコア部3を含み、前記コア部3は平均粒径10μm以上20μm以下の酸化タングステン粉末を含む粉体材料の焼結体にて形成されたものであることを特徴とするものである。このような半導体ガスセンサAでは、多種のガスに対して良好な感応性を示すと共に、水素ガスに対しても安定した高い感応性を示すものである。
【0014】
上記感ガス体1のコア部3には、コア部3中の酸化タングステンの含有量に対して20〜100重量%の範囲のアルミナが含有されていることが好ましい。このようにすると、感ガス体1の電気抵抗値を適度な値に維持すると共にガスの検知感度を更に向上することができるものである。
【0015】
また、上記感ガス体1にはシリカが添加されていることも好ましい。この場合、感ガス体1はシリコン被毒に対する高い耐性を有することとなり、感ガス体1がシリコン被毒を受けた場合もガス検知感度の変動が発生することを抑制することができる。
【0016】
また、本発明に係るガスクロマトグラフ用半導体ガスセンサは、上記のような半導体ガスセンサにて構成されることを特徴とするものである。このため、このガスクロマトグラフ用半導体ガスセンサは多種のガスに対して良好な感応性を示すと共に、水素ガスに対しても安定した高い感応性を示し、多種の被検知ガスの検知に有用なものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、多種のガスを良好な感度で検知可能であると共に、水素ガスについても安定且つ高感度で検知可能なものであって、多種のガス検知を行う用途に好適に用いることができ、特にガスクロマトグラフにおける検知器として好適なものである。
【0018】
また、感ガス体のコア部が所定量のアルミナを含有することで、感ガス体の電気抵抗値を適度な値に維持して半導体ガスセンサの実用性を向上することができ、且つ水素ガス感度をはじめとするガス検知感度を更に向上することができるものである。
【0019】
また、感ガス体にシリカを添加して感ガス体のシリコン被毒に対する耐性を向上することで、シリコン被毒を受けた場合でも長期に亘ってガス検知感度の変動を抑制することができ、特にガスクロマトグラフの検知器として使用した場合に、固定相としてシリコン化合物等を用いていても長期に渡って正確なガス検知を行うことができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0021】
本発明に係る半導体ガスセンサAは、酸化タングステンを含む粉体材料の焼結体にて構成される感ガス体1と、前記感ガス体1の電気抵抗を測定するための検知用電極2,2とを具備する。
【0022】
感ガス体1は一対の検知用電極2,2を覆うように設けられる。図1,2に示す半導体ガスセンサAでは、検知用電極2,2であるコイル状のヒータ兼用電極2a及び芯線状電極2bをセンサ基体とし、このヒータ兼用電極2a及び芯線状電極2bを覆うように楕円球体状に感ガス体1が形成されている。このとき図示の例ではヒータ兼用電極2aは、そのコイル部分が感ガス体1中に埋設されるように形成されると共に、芯線状電極2bはヒータ兼用電極2aのコイル部分の中心を貫通するように感ガス体1中に埋設されており、これによりヒータ兼用電極2a及び芯線状電極2bがまとまりよく配設されて感ガス体1の小型化が容易なものである。
【0023】
そして、この半導体ガスセンサAは、有底筒状のセンサ筐体40の底部を兼ねる樹脂製のベース30と、ベース30を貫通してセンサ筐体40内外に突出する3本の端子101,102,103と、端子101,102,103にリード線201,202,203を接続固定して支持された感ガス体1からなるセンシング部Aと、センサ筐体40の天上面に設けられたガス導入用のステンレス製の金網41とで構成されている。ヒータ兼用電極2aは上述のリード線201,203間に設けられて、ヒータ兼用電極2a、リード線201,203が一体に形成されているものであり、また芯線状電極2bは上述のリード線202により形成されている。
【0024】
このときの感ガス体1の外径形状は、適宜の形状とすることができ、例えば図示の例のような楕円球体状、或いは球体状等のような球状に形成することができる。また感ガス体1の外径寸法は適宜設定されるが、その径が好ましくは0.20〜0.7mm、更に好ましくは、0.25〜0.6mmの範囲となるようにするものであり、例えば長手軸方向の直径を0.5mmとし、短手軸方向の径を、0.3mmとすることができる。
【0025】
また、図3,4に示す半導体ガスセンサAでは、アルミナ等にて形成される例えば厚さ0.3mmで一辺の長さが2mmの正方形の平板状の基板7をセンサ基体(平板型基体)として用い、この基板7の一面に厚膜状に感ガス体1が形成されている。ここで基板7の一面には電極2c,2dを一対の検知用電極2,2として図3(a)に示すように設け、電極2c,2d間に亘るように感ガス体1が形成されている。また基板7の他面には前記電極2c,2dとスルーホールにより接続される電極8c,8dと、ヒータ用の電極8a,8bとが設けられており、ヒータ用の電極8a,8b間には酸化ルテニウム印刷膜等からなるヒータ25が設けられている。各電極2c,2d、8a〜8dは例えば金製のものを設けることができる。またこの基板7の他面側の電極8a〜8dにはリードワイヤ5をそれぞれ接続して、リードワイヤ5をベース30に貫通した端子10に接続してある。
【0026】
このような半導体ガスセンサAにおける感ガス体1は、一対の検知用電極2,2の互いに対向し合う対向面に接触すると共に前記対向面間に挟まれた空間に配置されるコア部3を有する。このときコア部3は感ガス体1の内部での各検知用電極2,2の互いに対向し合う各対向面の80%以上の領域と接触し、且つこの対向面間に挟まれた空間の80%以上を占有することが好ましい。そして、上記コア部3を形成するための粉体材料中の酸化タングステン粒子の平均粒径は、10μm以上20μm以下である必要がある。
【0027】
このようなコア部3を備えることで、半導体ガスセンサAは他のガスに対する良好な感応性とその検知時の良好な応答性とを有し、しかも水素ガスを検知するにあたっても安定かつ高感度で検知を行うことができるものである。ここで、コア部3を形成するための酸化タングステン粒子の平均粒径が10μmに満たないと良好な水素感度が得られなくなるものであり、またこの平均粒径が20μmを超えると検知用電極2,2にて検知される感ガス体1の電気抵抗値が高くなって実用上不具合が生じる。
【0028】
また、上記感ガス体1には、特にコア部3に、コア部3中の酸化タングステンの含有量に対して20〜100重量%の範囲でアルミナを含有させることも好ましい。この場合は、感ガス体1を作製するにあたり、例えば酸化タングステン粒子に所定量のアルミナ粒子を混合した粉体材料の焼結体にて感ガス体1を形成することができる。このような範囲で感ガス体1にアルミナを含有させると、感ガス体1の電気抵抗値を適度な値に維持すると共に半導体ガスセンサAのイニシャルアクションが良好となり、しかも水素ガス感度の検知感度を更に低減することができるものである。すなわち、前記アルミナ含有量が20重量%以上であることで半導体ガスセンサAのイニシャルアクションが向上すると共に、水素ガス感度をはじめとするガス感度を更に向上することができ、またアルミナ含有量を100重量%以下とすることで感ガス体1の電気抵抗値が過剰に増大することがなく、半導体ガスセンサAの実用性が向上するものである。
【0029】
ここでイニシャルアクションは、空気中で半導体ガスセンサAにおけるヒータや検知用電極2,2間に電圧がかけられていない状態から、ヒータの通電と検知用電極2,2間の電圧の印加を同時に行った場合、すなわち半導体ガスセンサAを起動した場合に、検知用電極2,2にて検知される感ガス体1の電気抵抗値が安定するまでに要する時間の短さで評価される。
【0030】
また、上記感ガス体1にはシリカ(SiO2)を含有させることも好ましい。シリカの添加は、例えば感ガス体1を構成するための焼結体にシリカゾルを塗布した後に焼成することにより行うことができる。かかる感ガス体1はシリコン被毒に対する高い耐性を有することとなり、感ガス体1がシリコン被毒を受けた場合もガス検知感度の変動が発生することを抑制することができるものである。前記シリカの含有量は適宜調整されるものであるが、シリコン被毒に対して十分に高い耐性を発揮させるためには、好ましくは6〜60体積%の範囲で添加されるようにする。例えばシリカの添加のために濃度20%のシリカゾルを用いる場合には感ガス体1を構成する焼結体に対してこの焼結体の30〜300体積%のシリカゾルを用いることが好ましい。このときシリカの含有量が6体積%に満たないと十分なシリコン被毒性改善効果が得られないおそれがあり、また60体積%を超えると応答性が遅くなるおそれがある。
【0031】
上記感ガス体1はこのようなコア部3のみで形成しても良く、このときコア部3は一対の検知用電極2,2の互いに対向し合う対向面に接触すると共に前記対向面間に挟まれた空間に配置するだけでなく、更に前記検知用電極2,2を覆うように形成することができる。
【0032】
また感ガス体1はこのようなコア部3と、平均粒径が10μm未満又は20μmを超える酸化タングステン粒子を含む粉体材料の焼結体からなる部分とを共に有していても良い。このような部分を有していても上記のようなコア部3を有していれば、水素ガスの検知感度を十分に向上することができるものである。例えばコア部3の表面を覆う外層部4を、平均粒径が10μmに満たず、或いはこれが20μmを超える酸化タングステン粒子を含む粉体材料の焼結体にて形成することができる。また、このコア部3以外の焼結体からなる部分にもアルミナを含有させることができる。この部分におけるアルミナの含有量は特に制限されず、適宜調整される。
【0033】
感ガス体1を形成するにあたっては、原料として酸化タングステン粒子、アルミナ粒子、シリカゾル等を用いることができ、適宜の手法で形成することができる。具体的には次の手法を例示することができる。
【0034】
まず、メタタングステン酸アンモニウムや無水タングステン酸のようなタングステン化合物を、例えば空気中で500℃〜700℃で1〜7時間加熱して焼成した後、粉砕して、粉体状の酸化タングステンを得る。このとき、酸化タングステン粒子の平均粒径が10μm以上20μm以下の範囲となるように粉砕を行う。この粉体状の酸化タングステンに、必要に応じてα−アルミナ等の粉体状のアルミナを酸化タングステンに対して好ましくは20〜100重量%の範囲で混合し、この混合物にテルピオネール等の分散媒を加えてコア部形成用のペースト状の組成物を得る。
【0035】
また外層部形成用の組成物も、上記コア部形成用の組成物と同様の組成に形成する。このとき粉末状の酸化タングステンの平均粒径は10μm以上20μm以下である必要はなく、特に制限はない。また、この外層部形成用の組成物にアルミナを含有させる場合はその含有量は適宜調整され、特に制限はされない。
【0036】
そして、まずコア部形成用の組成物をセンサ基体を覆うように塗布又は印刷する。このき上記図1に示す構造の半導体ガスセンサAを得る場合には、まずコア部形成用の組成物をヒータ兼用電極2aのコイル部分の内側に充填する。また、前記組成物は更に前記コイル部分の外側も覆うようにして塗布しても良い。
【0037】
また図3に示す構造を有する半導体ガスセンサAを得る場合には、基板1の一面上にコア部形成用の組成物を一対の電極2c,2dに亘るようにしてこの電極2c,2dを覆うように塗布又は印刷する。
【0038】
次に、必要に応じて上記塗布又は印刷されたコア部形成用の組成物を焼成する。焼成条件は適宜設定されるが、例えば400〜600℃で、3〜10分間加熱することができる。
【0039】
次に、上記塗布又は印刷されたコア部形成用の組成物又はその焼結体にシリカを添加した後、焼成する。シリカの添加は例えば前記組成物やその焼結体の表面に所定量のシリカゾル等を塗布することにより行うことができる。焼成条件は適宜設定されるが、例えば500℃で3分間加熱することができる。尚、このときのシリカゾルの塗布焼成は省略しても良い。
【0040】
次に、このセンサ基体に塗布又は印刷したコア部形成用の組成物(又はその焼結体)の表面を覆うようにして外層部形成用の組成物を塗布又は印刷する。このとき図1に示す構造の半導体ガスセンサAを得る場合には、コア部形成用の組成物(又はその焼結体)の表面全体を覆うようにして外層部形成用の組成物を塗布することができる。また図3に示す構造を有する半導体ガスセンサAを得る場合には、基板1上におけるコア部形成用の組成物(又はその焼結体)の外部に露出する露出面全体を覆うようにして外層部形成用の組成物を塗布又は印刷することができる。
【0041】
次に、センサ基体に塗布又は印刷された上記組成物を焼成して焼結体を得る。焼成条件は適宜調整されるが例えば400〜600℃で3〜10分間加熱することができる。
【0042】
次に、上記焼結体にシリカを添加した後、再度焼成する。シリカの添加は例えば焼結体の表面に所定量のシリカゾル等を塗布することにより行うことができる。また焼成は例えば空気中で500℃〜800℃で3〜10分間加熱することにより行うことができる。これにより感ガス体1を得ることができる。
【0043】
このようにして感ガス体1を形成するにあたり、図1に示す構造にあっては、ヒータ兼用電極2aの表面のうちコイル部分の内側に配された面の少なくとも80%がコア部3と接触すると共にこのコイル部分の内側における芯線状電極2bの表面の少なくとも80%もコア部3と接触し、且つコイル部分の内側の空間の少なくとも80%をコア部3が占有していることが好ましい。また更に好ましくは、前記コイル部分の内側の空間全てをコア部3が占有すると共にこのコア部3がヒータ兼用電極2aにおけるコイル部分内側に配置された面及び芯線状電極2bにおけるコイル部分内側に配置されている表面の全てと接触するようにし、或いは更にコイル部分全体をコア部3にて覆うようにする。
【0044】
また図3に示す構造にあっては、好ましくは感ガス体1内部における一対の電極2c,2dの各対向面のうち少なくとも80%をコア部3と接触させる。また、感ガス体1内部における一対の電極2c,2dの表面全体のうち少なくとも80%をコア部3と接触させることも好ましい。また、前記各対向面に挟まれた空間の少なくとも80%を前記コア部3が占有するようになっていることが好ましい。また、電極2c,2dの間の領域における基板1上の感ガス体1の厚みの1/3以上をコア部3が占めることが好ましい。
【0045】
また、感ガス体1をコア部3のみで形成する場合には上記外層部形成用の組成物に代えてコア部形成用の組成物を用いて、同様に感ガス体1を形成することができる。特に図3に示す構造の半導体ガスセンサAを得る場合には、基板1上におけるコア部形成用の組成物(又はその焼結体)の外部に露出する露出面全体を覆うようにして外層部形成用の組成物を1回だけ塗布又は印刷し、次いで、上記と同様の条件で焼成、シリカの添加、焼成を順次行って感ガス体1を形成することができる。
【0046】
図6,7はガスクロマトグラフの装置構成の一例の概略を示すものであり、図5はガスクロマトグラフの外観を示す。
【0047】
図6に示すガスクロマトグラフは装置本体34に、測定対象である試料ガスや検出器14の構成等に応じた空気等の適宜のキャリアガスが充填されたガスボンベ37が装置本体34に接続されている。装置本体34内にはガスボンベ37から供給されたキャリアガスが流通するガス流路35の上流側から下流側に沿って、流量切替器36、流量計21、試料ガス供給口11、分離カラム37、検出器14が順次設けられている。また装置本体34には、装置本体34の動作設定や装置本体34における検出結果の解析等を行う制御部15と、制御部15における動作設定や検出結果、その解析結果等を表示する表示部16とが接続されている。制御部15及び表示部16は図5に示すようにパーソナルコンピュータ24にて構成することができ、装置本体34とパーソナルコンピュータ24とはケーブル29にて接続されている。
【0048】
また図5に示すように、装置本体34のハウジングには、電源スイッチ26、分離カラム37の加熱保持温度を設定するカラム加熱温度調整盤27、流量切替器36におけるキャリアガスの流量を設定するキャリアガス流量切替スイッチ28、測定動作の開始を設定する動作開始スイッチ25等が設けられており、また試料ガス供給口11もハウジングの外面に開口して設けられている。
【0049】
上記の分離カラム37には、図8に示すように、その外面にラバーヒータ31を密接して配設している。分離カラム37はステンレス、銅等の金属や、ポリフッ化エチレン樹脂(テフロン(登録商標)等)等の樹脂成形体等にて中空筒状に形成されており、内部には固定相となる充填材が充填される。分離カラム37を樹脂成形体にて形成する場合にはその外面に金属箔等で金属被覆を施して熱伝導性を向上することが好ましい。充填材は検出対象の試料ガスやキャリアガスの種類に応じた適宜のものを用いることができ、シリコン系のパックドカラム用充填材等のシリコン系のものであっても良い。ラバーヒータ31はシリコーンラバーシート等の絶縁性ラバーにて抵抗体32を絶縁したフレキシブルなヒータであり、抵抗体32が分離カラム37の外周面に一端側から他端側に亘って螺旋状に周回するようにして、分離カラム37の外面に密着して配設される。また、この分離カラム37には熱電対からなる温度センサ33が設けられており、この熱電対はポリフッ化エチレン樹脂(テフロン(登録商標)等)やガラスウール等の絶縁材にて絶縁被覆された状態で分離カラム37の外面に配設され、この温度センサ33にて分離カラム37の温度を検知するようにしている。
【0050】
このような分離カラム37の近傍には冷却用のファン12が配設される。このファン12は分離カラム37に向けて送風を行うように配設されている。
【0051】
また装置本体34内にはカラム加熱温度調整盤27における設定動作に従って動作する温度制御器13が設けられており、上記の温度センサ33による検知結果は温度制御器13に入力され、またラバーヒータ31における通電量や、冷却用ファン12の駆動は、温度センサ33による検知結果に基づいて温度制御器13にて制御される。
【0052】
この図6に示されるガスクロマトグラフを用い、電源スイッチ26を操作してガスクロマトグラフを起動し、動作開始スイッチ25を操作して測定動作の開始を設定し、ガスボンベ37からガス流路35内にキャリアガスを供給すると共に試料ガス供給口11から試料ガスを導入すると、ガス流路35に供給されたキャリアガスの流量が流量切替器36にて調整され、流量計21による検知によりキャリアガスの流通とその流量が確認された後に、試料ガス供給口11から供給された試料ガスがキャリアガスと混合される。この混合ガスは分離カラム37に導入されて、分離カラム37内部の固定相を通過することにより固定相との相互作用によってガス中成分が分離されて、分離カラム37から導出される。次いで、分離カラム37から導出されたガス中成分が検出器14にて検出され、この検出情報が制御部15に入力されて解析され、クロマトグラムが得られるものであり、またこの検出結果が表示部16にて表示されるものである。
【0053】
この測定動作中においては、分離カラム37は温度制御器13による制御により、カラム加熱温度調整盤27にて設定された所定の温度となるようにラバーヒータ31への通電がなされて、加熱される。このとき温度制御器13は温度センサ33による検知結果を基にして、ラバーヒータ31への通電量を制御し、また必要に応じてファン12を駆動することにより、分離カラム37を所定の温度に加熱保持する。このため、分離カラム37におけるガス中成分のリテンションタイムを一定に保って、正確な測定が行われる。
【0054】
また、図7には、キャリアガスとして空気を用いるようにしたガスクロマトグラフの装置構成の一例を示す。このガスクロマトグラフの装置本体34内にはキャリアガスが流通するガス流路35の上流側から下流側に沿ってエアーポンプ17、リーク流路18、流量切替器36、浄化フィルタ22、流量計21、試料ガス供給口11、分離カラム37、検出器14が順次設けられている。
【0055】
エアーポンプ17は外気をガスクロマトグラフ内のガス流路35に送出するものである。またリーク流路18はガス流路35から外気に向けて分岐されると共にリーク弁19が設けられ、ガス流路35に流入した過剰な空気をリーク流路18から外気に放出することによりガス流路35の内圧が過度に大きくなることを抑制し、エアーポンプ17にかかる負荷を調節するようにしている。また浄化フィルタ22は内部に活性炭及びシリカゲルを充填するなどして構成され、ガス流路35を流通するキャリアガス(空気)を清浄化するものである。また流量切替器36、流量計21、試料ガス供給口11、分離カラム37の構成は、図6に示されるものと同様である。
【0056】
この図7に示されるガスクロマトグラフでは、エアーポンプ17によってガス流路35に供給される空気の流量が流量切替器36にて調整された後、この空気が浄化フィルタ22を通過することにより清浄化され、更に流量計21による検知により空気の流通とその流量が確認された後に、試料ガス供給口11から試料ガスが供給されて空気と混合される。この混合ガスは分離カラム37に導入されて、分離カラム37内部の固定相を通過することにより固定相との相互作用によってガス中成分が分離されて、分離カラム37から導出される。次いで、分離カラム37から導出されたガス中成分が検出器14にて検出され、この検出情報が制御部15に入力されて処理され、クロマトグラムが得られるものであり、またこの検出結果が表示部16にて表示されるものである。
【0057】
このようなガスクロマトグラフでは、キャリアガスを供給するためにガスボンベ37を接続する必要がなくなり、更に装置の小型化が可能となる。
【0058】
以上のようにして構成されるガスクロマトグラフにおいて、検出器として上記のような半導体ガスセンサAを適用すると、分離カラム37を通過したガスを検知することにより、試料中のガス中成分が分離され、この分離された各ガス中成分が半導体ガスセンサAにて高感度で検知される。ここで、本発明では上記のような感ガス体1を用いているために、種々のガスを分離してそれぞれの検出を行うことができ、水素ガスについても高感度で安定した検知を行うことができるものである。
【実施例】
【0059】
〔耐シリコン被毒性評価〕
(実施例1)
半導体ガスセンサAとして、図1,2に示すものを作製した。
【0060】
このとき、コイル状のヒータ兼用電極2a及び芯線状電極2bとしては、線径20μmの白金線からなるものを用い、ヒータ兼用電極2aのコイル部の寸法はコイル径0.18mm、コイル幅0.4mmに形成した。
【0061】
また感ガス体1は次のようにして形成した。
【0062】
まず、メタタングステン酸アンモニウムを空気中で600°で5時間加熱して焼成した後、粉砕して、平均粒径12μmの粉体状の酸化タングステンを得た。
【0063】
この粉体状の酸化タングステンに、この酸化タングステンに対して20重量%のα−アルミナ粉末を加えて混合し、これに更にテルピオネールを加えてペースト状としてコア部形成用のペースト状の組成物を得た。
【0064】
この組成物をヒータ兼用電極2aのコイル部の内側全体に充填し、更にこのコイル部全体を覆うように塗布した後、700℃で10分間加熱焼成した。更にこの焼結体の表面に濃度20%のシリカゾルを焼結体の体積に対して100体積%塗布した後、750℃で10分間焼成することにより、長径0.5mm、短径0.3mmの寸法の感ガス体1を形成した。
【0065】
(評価試験)
上記実施例1について、素子温度400℃での種々のガスに対するシリコン被毒前後のガス感度を調査した。
【0066】
シリコン被毒処理は、濃度100ppmのヘキサメチルジシロキサン(HMDS)を含む雰囲気中に半導体ガスセンサAを素子温度400で1時間暴露することにより行った。
【0067】
ここでガス感度は、特定のガスを含む雰囲気中における感ガス体1の電気抵抗値(R)を、清浄空気中における電気抵抗値(Rair)にて除した値(R/Rair)と定義する。
【0068】
この結果を下記表1及び図9のグラフに示す。図9(a)は実施例1のシリコン被毒前における結果を、図9(b)は実施例1のシリコン被毒後における結果をそれぞれ示す。
【0069】
【表1】
【0070】
この結果から明らかなように、実施例1では水素ガスの検知感度が高く、また他のガスについても高い検知感度を有し、またシリコン被毒前後で各ガスの検知感度の変動がほとんど認められなかった。
【0071】
〔ガス感度特性〕
(組成物(a)の調製)
実施例1と同様の手法により得られた平均粒径12μmの粉体状の酸化タングステンに、この酸化タングステンに対して50重量%のα−アルミナ粉末を加えて混合し、これに更にテルピオネールを加えてペースト状として調製した。
【0072】
(組成物(b)の調製)
酸化タングステン粉末の平均粒径を9μmとした以外は上記組成物(a)と同様にして調製した。
【0073】
(実施例2)
半導体ガスセンサAとして、図1,2に示すものを作製した。
【0074】
このとき、コイル状のヒータ兼用電極2a及び芯線状電極2bとしては、線径20μmの白金線からなるものを用い、ヒータ兼用電極2aのコイル部の寸法はコイル径0.18mm、コイル幅0.4mmに形成した。
【0075】
感ガス体1の作製にあたっては、まず組成物(a)をヒータ兼用電極2aのコイル部の内側全体に充填し、更にこのコイル部全体を覆うように塗布した後、400℃で、3分間加熱焼成した。更にこの焼結体の表面にこの焼結体に対して組成物(b)を塗布した後、700℃で10分間焼成した。次いでこの焼結体の表面に濃度20重量%のシリカゾルを焼結体の体積の100体積%塗布した後、更に750℃で10分間加熱焼成することで、長径0.5mm、短径0.3mmの寸法の感ガス体1を形成した。
【0076】
(実施例3)
実施例2において、組成物の塗布を、組成物(a)、組成物(a)の順番で行った。それ以外は実施例2と同様にして半導体ガスセンサAを作製した。
【0077】
(比較例1)
実施例2において、組成物の塗布を、組成物(b)、組成物(b)の順番で行った。それ以外は実施例2と同様にして半導体ガスセンサAを作製した。
【0078】
(比較例2)
実施例2において、組成物の塗布を、組成物(b)、組成物(a)の順番で行った。それ以外は実施例2と同様にして半導体ガスセンサAを作製した。
【0079】
(評価試験)
上記実施例2,3及び比較例1,2について、素子温度400℃でのエタノールと水素の各ガス感度を調査した。
【0080】
ガス感度の測定にあたっては、感ガス体1に向けて空気の気流を送出した状態から、この気流中に10ppmのエタノール又は30ppmの水素を混入し、その後再び空気のみを送出して、この間の検知用電極2,2にて測定される感ガス体1の電気抵抗値の測定を行った。測定は各実施例及び比較例につき5個の半導体ガスセンサAを作製してそれぞれについて行った。
【0081】
この結果を図10,11に示す。図10(a)は実施例2におけるエタノール検知時の結果を、図10(b)は実施例2における水素ガス検知時の結果を、図10(c)は実施例3におけるエタノール検知時の結果を、図10(d)は実施例3における水素ガス検知時の結果を、図11(a)は比較例1におけるエタノール検知時の結果を、図11(b)は比較例1における水素ガス検知時の結果を、図11(c)は比較例2におけるエタノール検知時の結果を、図11(d)は比較例2における水素ガス検知時の結果を、それぞれ示す。
【0082】
これらの結果から明らかなように、平均粒径12μmの酸化タングステン粉末を含む焼結体にて形成されたコア部3を有する実施例2,3ではエタノールが高い検知感度で測定されると共に、水素ガスも高い検知感度で測定することができ、このとき感ガス体1をコア部3のみで形成した実施例3だけでなく、平均粒径9μmの酸化タングステン粉末を含む焼結体にて形成された外層部4を有する実施例2でも、同様の結果が得られた。
【0083】
一方、コア部3に相当する部位を平均粒径9μmの酸化タングステン粉末を含む焼結体にて形成した比較例1,2ではエタノールの検知感度は比較的高いものの、実施例1,2と較べると検知感度は低く、しかも水素感度が非常に低いものであり、このとき前記のような焼結体のみで形成した比較例1だけでなく、外層部4に相当する部位を平均粒径12μmの酸化タングステン粉末を含む焼結体にて形成した比較例2でも同様の結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示す、半導体ガスセンサの要部概略構成図である。
【図2】同上の一部破断した正面図である。
【図3】本発明の実施の形態の他例の要部を示し、(a)は一面側から視た斜視図、(b)は他面側から視た斜視図、(c)は一部省略した断面図である。
【図4】同上の一部破断した斜視図である。
【図5】ガスクロマトグラフの外観を示す斜視図である。
【図6】ガスクロマトグラフの構成の一例を示す概略図である。
【図7】ガスクロマトグラフの構成の他例を示す概略図である。
【図8】分離カラムの構成の一例を示す斜視図である。
【図9】(a)はシリコン被毒前の実施例1、(b)はシリコン被毒後の実施例1、種々のガスについての、濃度−ガス感度特性を示すグラフである。
【図10】(a)は実施例3におけるエタノール感度特性を、(b)は実施例3における水素ガス感度特性を、(c)は実施例4におけるエタノール感度特性を、(d)は実施例4における水素ガス感度特性を示すグラフである。
【図11】(a)は比較例1におけるエタノール感度特性を、(b)は比較例1における水素ガス感度特性を、(c)は比較例2におけるエタノール感度特性を、(d)は比較例2における水素ガス感度特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0085】
A 半導体ガスセンサ
1 感ガス体
2 検知用電極
3 コア部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化タングステンを含む粉体材料の焼結体にて構成される感ガス体と、一対の検知用電極とを具備し、前記感ガス体が前記一対の検知用電極の互いに対向し合う対向面に接触すると共に前記対向面間に挟まれた空間に配置されるコア部を含み、前記コア部は平均粒径10μm以上20μm以下の酸化タングステン粉末を含む粉体材料の焼結体にて形成されたものであることを特徴とする半導体ガスセンサ。
【請求項2】
上記感ガス体のコア部に、コア部中の酸化タングステンの含有量に対して20〜100重量%の範囲のアルミナが含有されていることを特徴とする請求項1に記載の半導体ガスセンサ。
【請求項3】
上記感ガス体にシリカが添加されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体ガスセンサ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の半導体ガスセンサにて構成されることを特徴とするガスクロマトグラフ用半導体ガスセンサ。
【請求項1】
酸化タングステンを含む粉体材料の焼結体にて構成される感ガス体と、一対の検知用電極とを具備し、前記感ガス体が前記一対の検知用電極の互いに対向し合う対向面に接触すると共に前記対向面間に挟まれた空間に配置されるコア部を含み、前記コア部は平均粒径10μm以上20μm以下の酸化タングステン粉末を含む粉体材料の焼結体にて形成されたものであることを特徴とする半導体ガスセンサ。
【請求項2】
上記感ガス体のコア部に、コア部中の酸化タングステンの含有量に対して20〜100重量%の範囲のアルミナが含有されていることを特徴とする請求項1に記載の半導体ガスセンサ。
【請求項3】
上記感ガス体にシリカが添加されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体ガスセンサ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の半導体ガスセンサにて構成されることを特徴とするガスクロマトグラフ用半導体ガスセンサ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−57392(P2007−57392A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−243457(P2005−243457)
【出願日】平成17年8月24日(2005.8.24)
【出願人】(593210961)エフアイエス株式会社 (39)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年8月24日(2005.8.24)
【出願人】(593210961)エフアイエス株式会社 (39)
【Fターム(参考)】
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