説明

半導体発光装置

【課題】半導体光検出素子による自然放出光の検出レベルを低減することにより、光検出精度をより向上させることの可能な半導体発光装置を提供する。
【解決手段】半導体レーザ素子50と、半導体光検出素子10との間に、金属層20、透明基板30および金属層40が挿入されており、発光領域53Aと光吸収層11との距離が長くなっている。これにより、発光領域53Aで発生した光に含まれる自然放出光L2のほとんどが光吸収層11に到達しない方向に向かい、金属層20,40で反射される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光光を検出する半導体光検出素子を有する半導体発光装置に係り、特に、光検出精度が高度に要求される用途で好適に適用可能な半導体発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光ファイバや、光ディスクなどの用途の半導体発光装置には、これに組み込まれた半導体発光素子の光出力レベルを一定にする目的の一環として、光検出機構により半導体発光素子の発光光を検出することが行われている。この光検出機構は、例えば、発光光の一部を分岐させる反射板と、この分岐した発光光を検出する半導体光検出素子とにより構成することが可能である。ところが、このようにすると、部品点数が多くなるだけでなく、反射板や、半導体光検出素子を半導体発光素子に対して高精度に配置しなければならないという問題がある。そこで、そのような問題を解決する方策の1つとして、半導体発光素子と半導体光検出素子とを一体に形成することが考えられる。
【0003】
しかし、これらを一体に形成すると、半導体光検出素子が、本来検出すべき誘導放出光だけでなく、自然放出光までも検出する可能性がある。そのような場合には、半導体光検出素子によって検出された光に基づいて計測される半導体発光素子の光出力レベルには、自然放出光の分だけ誤差が含まれていることとなる。よって、この方法も光出力レベルを高精度に制御することが要求される用途には適さない。
【0004】
そこで、特許文献1では、半導体光検出素子内に制御層を設け、半導体発光素子から入力される自然放出光の一部を半導体光検出素子が検出する前に遮断する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許2877785号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記の制御層は、半導体光検出素子を構成する半導体物質の一部を酸化することにより形成されるものである。しかし、酸化半導体による自然放出光の遮断は不完全であり、多くの光が酸化半導体を透過してしまう。
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、半導体光検出素子による自然放出光の検出レベルを低減することにより、光検出精度をより向上させることの可能な半導体発光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の半導体発光装置は、半導体発光素子と、半導体光検出素子とを備えたものである。半導体発光素子は、第1多層膜反射鏡、発光領域を含む活性層、および第2多層膜反射鏡をこの順に有している。半導体光検出素子は、半導体発光素子との関係で第1多層膜反射鏡側に設けられており、発光領域から射出された光を吸収する光吸収層を有している。本発明の半導体発光装置は、半導体発光素子と半導体光検出素子との間に透明基板を備えており、さらに、半導体発光素子と透明基板とを互いに貼り合わせる第1金属層と、半導体光検出素子と透明基板とを互いに貼り合わせる第2金属層を備えている。第1金属層は、発光領域との対向領域を含む領域に第1開口を有しており、第2金属層も、発光領域との対向領域を含む領域に第2開口を有している。
【0009】
本発明の半導体発光装置では、半導体発光素子と半導体光検出素子との間に透明基板が挿入されており、発光領域と光吸収層との距離が長くなっている。これにより、発光領域で発生した光に含まれる自然放出光のほとんどが光吸収層に到達しない方向に向かい、第1金属層および第2金属層で反射される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の半導体発光装置によれば、半導体発光素子と半導体光検出素子との間に透明基板を挿入し、発光領域と光吸収層との距離を長くするようにした。これにより、発光領域で発生した光に含まれる自然放出光のほとんどが光吸収層に到達しない方向に向かい、第1金属層および第2金属層で反射される。その結果、半導体光検出素子による自然放出光の検出レベルを低減することができるので、光検出精度をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施の形態に係る半導体レーザ装置の上面図である。
【図2】図1の半導体レーザ装置の製造工程を説明するための断面図である。
【図3】図2に続く工程を説明するための断面図である。
【図4】図3に続く工程を説明するための断面図である。
【図5】図4に続く工程を説明するための断面図である。
【図6】図5に続く工程を説明するための断面図である。
【図7】図6に続く工程を説明するための断面図である。
【図8】図7に続く工程を説明するための断面図である。
【図9】図8に続く工程を説明するための断面図である。
【図10】図9に続く工程を説明するための断面図である。
【図11】図1の発光領域から誘導放出光および自然放出光が射出される様子を表した模式図である。
【図12】d/r(発光領域の半径/発光領域と受光領域との距離)と、α(自然放出光の、入射光に占める割合)との関係を表した関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、発明を実施するための形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。

1.構成
2.製造方法
3.作用・効果
4.変形例
【0013】
[構成]
図1は本発明の一実施の形態に係る半導体レーザ装置1の断面構成の一例を表したものである。なお、図1は、模式的に表したものであり、実際の寸法、形状とは異なっている。この半導体レーザ装置1は、半導体光検出素子10上に、金属層20、透明基板30、金属層40および半導体レーザ素子50をこの順に積層したものである。なお、半導体レーザ装置1が、本発明の「半導体発光装置」の一具体例に相当し、半導体レーザ素子50が本発明の「半導体発光素子」の一具体例に相当する。また、金属層20が、本発明の「第2金属層」の一具体例に相当し、金属層40が、本発明の「第1金属層」の一具体例に相当する。
【0014】
半導体光検出素子10と、透明基板30とは、金属層20によって互いに貼り合わされており、半導体レーザ素子50と、透明基板30とは、金属層40によって互いに貼り合わされている。つまり、半導体レーザ装置1において、半導体光検出素子10、金属層20、透明基板30、金属層40および半導体レーザ素子50が一体となっている。なお、以下では、最初に、半導体レーザ素子50について説明し、その後に、他の構成要素について順次説明するものとする。
【0015】
(半導体レーザ素子50)
半導体レーザ素子50は、上面発光型のレーザであり、金属層40上に、例えば、p型DBR層51、p型クラッド層52、活性層53、n型クラッド層54、n型DBR層55をこの順に積層して構成されたものである。p型DBR層51の上部、p型クラッド層52、活性層53、n型クラッド層54およびn型DBR層55は、例えば直径が30μm程度の柱状(円柱状)のメサ部56となっている。なお、p型DBR層51が、本発明の「第1多層膜反射鏡」に相当し、n型クラッド層54が、本発明の「第2多層膜反射鏡」に相当する。
【0016】
p型DBR層51は、低屈折率層(図示せず)および高屈折率層(図示せず)を交互に積層して形成されたものである。この低屈折率層は、例えば厚さがλ0/4n1 (λ0は発振波長、n1 は屈折率)のp型Alx1Ga1-x1As(0<x1<1)により構成されている。高屈折率層は、例えば厚さがλ0/4n2(n2 は屈折率)のp型Alx2Ga1-x2As(0<x2<x1)により構成されている。なお、p型不純物としては、例えば、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、ベリリウム(Be)などが挙げられる。
【0017】
p型クラッド層52は、例えばp型Alx3Ga1-x3As(0<x3<1)により構成されている。活性層53は、例えばアンドープのAlx4Ga1-x4As(0<x4<1)により構成されている。この活性層53では、後述の電流注入領域57Aとの対向領域が発光領域53Aとなる。n型クラッド層54は、例えばn型Alx5Ga1-x5As(0≦x5<1)により構成されている。なお、n型不純物としては、例えば、ケイ素(Si)またはセレン(Se)などが挙げられる。
【0018】
n型DBR層55は、低屈折率層(図示せず)および高屈折率層(図示せず)を交互に積層して形成されている。低屈折率層は、例えば厚さがλ0/4n3(n3 は屈折率)のn型Alx6Ga1-x6As(0<x6<1)により構成されている。高屈折率層は、例えば厚さがλ0/4n4(n4 は屈折率)のn型Alx7Ga1-x7As(0<x7<x6)により構成されている。
【0019】
また、この半導体レーザ素子50では、例えば、p型DBR層51内に、電流狭窄層57が設けられている。電流狭窄層57は、p型DBR層51内において、活性層53側から数えて例えば数層離れた低屈折率層の部位に、低屈折率層に代わって設けられたものである。この電流狭窄層57は、その外縁領域に電流狭窄領域57Bを有しており、その中央領域が電流注入領域57Aとなっている。電流注入領域57Aは、例えばn型Alx8Ga1-x8As(0<x8≦1)からなる。電流狭窄領域57Bは、例えば、酸化アルミニウム(Al2 3)を含んで構成され、後述するように、側面から被酸化層57Dに含まれる高濃度のAlを酸化することにより得られたものである。これにより、電流狭窄層57は電流を狭窄する機能を有している。なお、電流狭窄層57は、例えば、n型DBR層55の内部や、p型クラッド層52とp型DBR層51との間、または、n型クラッド層54とn型DBR層55との間に形成されていてもよい。
【0020】
メサ部56の上面には、上部電極58が形成されている。上部電極58は、例えば、電流注入領域57Aとの対向領域を含む領域に開口(光射出口58A)を有する環形状となっている。なお、上部電極58は、電流注入領域57Aとの対向領域を塞がない限りにおいて、環形状以外の形状となっていてもよい。また、メサ部56の上面(光射出口58A)、側面および周辺の表面には、絶縁層59が形成されている。絶縁層59の表面上には、ワイヤ(図示せず)をボンディングするための電極パッド60と、接続部61とが設けられている。電極パッド60と上部電極58とが接続部61を介して互いに電気的に接続されている。また、電極パッド60の直下には、寄生容量を低減する目的で台座部62が設けられている。この台座部62は、絶縁層59と、p型DBR層51のうちメサ部56の非形成領域との間に設けられている。
【0021】
ここで、絶縁層59は、例えば酸化物または窒化物などの絶縁材料からなる。上部電極58、電極パッド60および接続部61は、例えば、金(Au)とゲルマニウム(Ge)との合金,ニッケル(Ni)および金(Au)とをこの順に積層して構成されたものであり、メサ部56の上部(n型DBR層55)と電気的に接続されている。台座部62は、例えば、ポリイミドにより構成されている。
【0022】
(半導体光検出素子10)
半導体光検出素子10は、半導体レーザ素子50の発光領域53Aで発生した光のうち半導体光検出素子10に入射した成分を検出するものである。半導体光検出素子10は、例えば、n型基板11上に、光吸収層12、p型コンタクト層13をこの順に積層して構成されたものである。また、半導体光検出素子10は、n型基板11の裏面に、下部電極14を有している。
【0023】
n型基板11は、例えばn型GaAsにより構成されている。光吸収層12は、例えばn型Alx9Ga1-x9As(0<x9≦1)により構成されている。光吸収層12は、発光領域53Aから射出されてきた光の一部を吸収すると共に、吸収した光を電気信号に変換するようになっている。この電気信号は、金属層20および下部電極14に接続された光出力演算回路(図示せず)に光出力モニタ信号として入力され、光出力演算回路において光射出口58Aから射出されるレーザ光L1の出力レベルを計測するために用いられる。p型コンタクト層13は、例えば、p型Alx101-x10As(0≦x10≦1)により構成されており、光吸収層12および金属層20と電気的に接続されている。
【0024】
(透明基板30)
透明基板30は、半導体レーザ素子50の発振波長λ0の光に対して透明な基板であり、透明基板30の電気的伝導性は、半導体レーザ装置1の駆動方法に応じて異なっている。例えば、半導体レーザ装置1が、金属層20,40の双方に同一位相の電圧を印加して駆動される場合には、透明基板30は、絶縁性を有していてもよいし、導電性を有していてもよい。また、例えば、半導体レーザ装置1が差動駆動される場合には、透明基板30は、絶縁性を有していている。絶縁性の基板としては、発振波長λ0が850nm帯である場合には、例えば、GaP基板、サファイア基板などが挙げられ、発振波長λ0が980nm帯である場合には、例えば、GaAs基板などが挙げられる。なお、上記の差動駆動とは、例えば、金属層20に印加する電圧の位相と、金属層40に印加する電圧の位相とが180°異なるように、金属層20,40に電圧を印加することを指している。
【0025】
(金属層20)
金属層20は、半導体光検出素子10と透明基板30とを互いに貼り合わせるためのものであり、半導体光検出素子10の上部電極としても機能するものである。金属層20は、金属層21および金属層22を半導体光検出素子10側から順に有する積層構造となっている。金属層21は、例えば、チタン(Ti),白金(Pt)および金(Au)を半導体光検出素子10側から順に積層して構成されたものであり、p型コンタクト層13および金属層22と電気的に接続されている。金属層22は、例えば、チタン(Ti),白金(Pt)および金(Au)を透明基板30側から順に積層して構成されたものであり、金属層21と電気的に接続されている。
【0026】
金属層20(金属層21,22)は、発光領域53Aとの対向領域を含む領域に開口20A(第1開口)を有している。開口20Aは、発光領域53Aから射出された光のうち半導体光検出素子10側に向かう光の通路であり、例えば、光射出口58Aとの対向領域内に形成されている。金属層20のうち開口20A以外の部分は、発光領域53Aから射出された光に含まれる自然放出光を反射する反射層として機能し得る。開口20Aの内部、具体的には、透明基板30のうち開口20Aの底面に露出している部分に低反射率層23が設けられており、p型コンタクト層13のうち開口20Aの底面に露出している部分に低反射率層24が設けられている。また、開口20A内には、反射率層23と反射率層24との間に、空隙25が存在している。
【0027】
低反射率層23,24は、例えば、低反射率部材によって構成されている。ここでの低反射率部材とは、例えば、屈折率が1(空気)より大きく、かつ透明基板30の屈折率、またはp型コンタクト層13の屈折率よりも小さい材料、例えば、SiN(屈折率=2.0)などの光透過性材料を指している。この低反射率層23,24の光学膜厚は、(2m−1)×λ0/4(mは正数)となっていることが好ましい。これにより、発光領域53A側から入射した波長λ0の光のうち、低反射率層23とp型コンタクト層13との界面で反射した光の位相が、発光領域53A側から入射した波長λ0の光のうち、空隙25と低反射率層23との界面で反射した光の位相と180度ずれる。また、発光領域53A側から入射した波長λ0の光のうち、空隙25と低反射率層24との界面で反射した光の位相が、発光領域53A側から入射した波長λ0の光のうち、低反射率層24と透明基板30との界面で反射した光の位相と180度ずれる。その結果、低反射率層23,24での反射率を実質的にゼロ%にすることが可能となる。つまり、この場合には、低反射率層23,24は、無反射層として機能する。
【0028】
金属層20において、金属層22の上面の一部が、例えば、透明基板30に設けられた開口30Aを介して露出している。この露出面22Aが半導体光検出素子10の上部電極として機能する。
【0029】
(金属層40)
金属層40は、半導体レーザ素子50と透明基板30とを互いに貼り合わせるためのものであり、半導体レーザ素子50の下部電極としても機能するものである。金属層40は、金属層41および金属層42を透明基板30側から順に有する積層構造となっている。金属層41は、例えば、チタン(Ti),白金(Pt)および金(Au)を透明基板30側から順に積層して構成されたものであり、金属層42と電気的に接続されている。金属層42は、例えば、チタン(Ti),白金(Pt)および金(Au)をp型DBR層51側から順に積層して構成されたものであり、p型DBR層51および金属層41と電気的に接続されている。
【0030】
金属層40(金属層41,42)は、発光領域53Aとの対向領域を含む領域に開口40A(第2開口)を有している。開口40Aは、発光領域53Aから射出された光のうち半導体光検出素子10側に向かう光の通路であり、例えば、光射出口58Aとの対向領域内に形成されている。金属層40のうち開口40A以外の部分は、発光領域53Aから射出された光に含まれる自然放出光を反射する反射層として機能し得る。開口40Aの内部、具体的には、透明基板30のうち開口40Aの底面に露出している部分に低反射率層43が設けられており、p型DBR層51のうち開口40Aの底面に露出している部分に低反射率層44が設けられている。また、開口40A内には、反射率層43と反射率層44との間に、空隙45が存在している。
【0031】
低反射率層43,44は、低反射率層23,24と同様、例えば、低反射率部材によって構成されている。ここでの低反射率部材とは、例えば、屈折率が1(空気)より大きく、かつ透明基板30の屈折率、またはp型DBR層51の屈折率よりも小さい材料、例えば、SiN(屈折率=2.0)などの光透過性材料を指している。この低反射率層43,44の光学膜厚は、(2n−1)×λ0/4(nは正数)となっていることが好ましい。これにより、発光領域53A側から入射した波長λ0の光のうち、低反射率層43と透明基板30との界面で反射した光の位相が、発光領域53A側から入射した波長λ0の光のうち、空隙45と低反射率層43との界面で反射した光の位相と180度ずれる。また、発光領域53A側から入射した波長λ0の光のうち、空隙45と低反射率層44との界面で反射した光の位相が、発光領域53A側から入射した波長λ0の光のうち、低反射率層44とp型DBR層51との界面で反射した光の位相と180度ずれる。その結果、低反射率層43,44での反射率を実質的にゼロ%にすることが可能となる。つまり、この場合には、低反射率層43,44は、無反射層として機能する。
【0032】
金属層40において、金属層42の上面の一部が、例えば、絶縁層59に設けられた開口59Aを介して露出している。この露出面42Aが半導体レーザ素子50の下部電極として機能する。
【0033】
[製造方法]
本実施の形態に係る半導体レーザ装置1は、例えば次のようにして製造することができる。図2〜図10は、半導体レーザ装置1の製造過程を工程順に表したものである。なお、図2〜図10は、製造過程の素子の断面構成を表したものである。
【0034】
各半導体層は、例えば、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition ;有機金属化学気相成長)法により形成される。この際、III−V族化合物半導体の原料としては、例えば、トリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルガリウム(TMG)、トリメチルインジウム(TMIn)、アルシン (AsH3)を用い、ドナー不純物の原料としては、例えば、H2Seを用い、アクセプタ不純物の原料としては、例えば、ジメチルジンク(DMZ)を用いる。
【0035】
具体的には、まず、例えばn型GaAsからなる基板70上に、n型DBR層55、n型クラッド層54、活性層53、p型クラッド層52およびp型DBR層51をこの順に形成する(図2)。このとき、例えば、p型DBR層51内の一部に、被酸化層57Dを形成しておく。被酸化層57Dは、後述の酸化工程で酸化されることにより、電流狭窄層57になる層であり、例えば、AlAsを含んで構成されている。続いて、p型DBR層51上に、開口を有する金属42を形成し、その開口に低反射率層44を形成する(図2)。このようにして、第1基板100が形成される。
【0036】
また、基板11上に、光吸収層12およびp型コンタクト層13をこの順に形成する(図3)。続いて、p型コンタクト層13上に、開口を有する金属層21を形成し、その開口に低反射率層23を形成する(図3)。このようにして、第2基板200が形成される。
【0037】
また、透明基板30上に、開口を有する金属層22を形成し、その開口に低反射率層24を形成する(図4)。このようにして、第3基板300が形成される。
【0038】
次に、第2基板200の金属層21上に、第3基板300を、金属層22を金属層21側に向けて貼り合わせる(図5)。これにより、金属層21と金属層22とが互いに接合されると共に、低反射率層23と低反射率層24との間に空隙25が形成される。その後、第3基板300のうち第2基板200とは反対側の表面(透明基板30の表面)上に、開口を有する金属層41を形成し、その開口に低反射率層43を形成する(図6)。
【0039】
次に、金属層41上に、第1基板100を、金属層42を金属層41側に向けて貼り合わせる(図7)。これにより、金属層41と金属層42とが互いに接合されると共に、低反射率層43と低反射率層44との間に空隙45が形成される。続いて、基板70を除去し、さらに、n型DBR層55、n型クラッド層54、活性層53、p型クラッド層52、p型DBR層51および被酸化層57Dを選択的に除去することにより、メサ部56を形成する(図8)。
【0040】
次に、水蒸気雰囲気中において、高温で酸化処理を行い、メサ部56の側面から被酸化層57Dを選択的に酸化する。これにより被酸化層57Dの外縁領域が絶縁層(酸化アルミニウム)となるので、外縁領域に電流狭窄領域57Bが形成され、その中央領域が電流注入領域57Aとなる。このようにして、電流狭窄層57が形成される(図8)。
【0041】
次に、p型DBR層51のうちメサ部56の非形成領域に、台座部62を形成すると共に、開口51Aを形成する(図9)。続いて、表面全体に絶縁層59を形成したのち、例えば蒸着法により、上部電極58、電極パッド60および接続部61を形成する(図10)。さらに、絶縁層59の開口51の底面に対応する部分を選択的に除去して、開口59Aと、開口59Bを形成する。
【0042】
次に、金属層40のうち開口59Bに対応する部分を除去して、透明基板30を露出させたのち、透明基板30のうち、その露出部分を選択的に除去して、開口30Aを形成する(図1)。さらに、基板10の裏面に下部電極14を形成する(図1)。このようにして、本実施の形態の半導体レーザ装置1が製造される。
【0043】
本実施の形態の半導体レーザ装置1では、例えば、透明基板30が導電性を有している場合には、金属層20,40を半導体レーザ素子50および半導体光検出素子10の共通電極として用いることができる。そして、その共通電極をグラウンドとした上で、上部電極58から半導体レーザ素子50を駆動する電流を供給し、かつ下部電極14に逆バイアス電圧を印加する。なお、透明基板30が絶縁性を有している場合であっても、金属層20,40をそれぞれ、グラウンドとすれば、金属層20,40を共通電極として用いた場合と同様の駆動を行うことが可能である。
【0044】
また、本実施の形態の半導体レーザ装置1では、例えば、透明基板30が絶縁性を有している場合には、金属層20,40が電気的に絶縁分離されるので、半導体レーザ素子50および半導体光検出素子10を独立に駆動することができる。例えば、上部電極58と、金属層40との電位差が一定となるように、上部電極58および金属層40に同一の位相で電圧を印加する。さらに、下部電極14と、金属層20との電位差が一定となるように、下部電極14および金属層20に同一の位相であって、かつ上部電極58および金属層40に印加する位相とは180°異なる位相で電圧を印加する。
【0045】
すると、上述したいずれの場合においても、電流狭窄層57によって狭窄された電流が活性層53の利得領域である発光領域53Aに注入され、これにより電子と正孔の再結合による発光が生じる。この光には誘導放出光だけでなく、自然放出光も含まれているが、素子内で誘導放出が繰り返される結果、波長λ0(例えば850nm)でレーザ発振が生じる。その結果、波長λ0を含む光L1が光射出口58Aから出力され、外部に射出されると共に、p型DBR層51から半導体光検出素子10側にわずかに出力され、その一部が透明基板30、開口20A、40Aを通過して光吸収層12に入射する(図1)。
【0046】
光吸収層12に入射した光は、光吸収層12に吸収され、吸収された光の出力レベルに応じた電気信号(フォトカレント)に変換されたのち、電気信号は金属層20,40に電気的に接続されたワイヤ(図示せず)を介して光出力演算回路(図示せず)に出力されたのち、光出力演算回路において光出力モニタ信号として受信される。これにより、光吸収層12に入射した光の出力レベルが計測される。
【0047】
なお、上述したように、半導体レーザ素子50および半導体光検出素子10を差動駆動した場合には、半導体レーザ素子50および半導体光検出素子10にノイズが入ったときに、そのノイズをキャンセルすることができる。これにより、半導体レーザ素子50からは、ノイズの影響を受けていない安定した光出力が得られる。また、半導体光検出素子10では、ノイズの影響を受けていない電気信号を出力することができる。
【0048】
[作用・効果]
次に、図11、図12を参照して、発光領域53Aと、p型コンタクト層13のうち開口20Aの底面に露出している部分(受光領域13A)との関係について説明する。図11は、発光領域53Aから誘導放出光および自然放出光が射出される様子を模式的に表したものである。図12は、誘導放出光の放出角が30度となっているときの、d/rと、αとの関係を表した関係図である。dは、発光領域53Aの半径である。rは、発光領域53Aと受光領域13Aとの距離である。αは、所定の領域に入射する光のうち自然放出光の占める割合である。具体的には、αは以下の式で表される。
α=A2/(A1+A2)×100
【0049】
1:発光領域53Aから射出された誘導放出光が所定の領域に入射する量
2:発光領域53Aから射出された自然放出光が所定の領域に入射する量
【0050】
一般に、発光領域53Aから射出される光のうち誘導放出光(レーザ光)の放射角は、典型的には30°程度であるが、発光領域53Aから射出される光のうち自然放出光の放射角は、誘導放出光の放射角よりも大幅に大きい。そのため、発光領域53Aを微細領域に分割し、一の微細領域から射出された誘導放出光Laによって所定の面Sを照射したときに形成される照射領域S1に、一の微細領域から遠く離れた他の微細領域から射出された自然放出光Lbが入射する。特に、発光領域53Aと所定の面Sとの距離dsが発光領域53Aの半径rと同等の大きさか、またはそれよりも短い場合には、自然放出光Lbの多くが照射領域S1に入射する(図12の左側に相当)。
【0051】
従って、発光領域53Aから射出された誘導放出光の全てが理論的に入射する領域内に受光領域13Aを形成した場合であっても、受光領域13Aの位置が発光領域53Aに近い場合には、自然放出光の占める割合αが大きくなってしまう。例えば、従来の10Gbps対向の面発光型のレーザにおいては、発光領域53Aの半径rが5μm程度であり、発光領域53Aと受光領域13Aとの距離dが10μm以下となっているので、自然放出光の占める割合αが10%を超えてしまう。
【0052】
一方、本実施の形態では、発光領域53Aと露出部分13Aとの間には、透明基板30が挿入されている。そのため、発光領域53Aと露出部分13Aとの距離dは、透明基板30の厚さが厚くなるにつれて長くなる。例えば、透明基板30の厚さが100μmとなっている場合には、距離dは、少なくとも100μmを超えており、発光領域53Aの半径rとして通常とり得る値(例えば1μm〜10μm)と比べて、少なくとも10倍〜100倍の長さとなっている。つまり、距離dおよび半径rがd/r≧10を満たす場合には、発光領域53Aで発生した光に含まれる自然放出光L2のほとんどが光吸収層12に到達しない方向に向かい、金属層20,40で反射される。これにより、受光領域13Aに入射する光のうち自然放出光の占める割合を十分に小さくすることができる。例えば、誘導放出光の放出角が30度となっている場合には、自然放出光の占める割合を、3%以下に抑えることができる(図12参照)。その結果、半導体光検出素子10による自然放出光の検出レベルを低減することができるので、光検出精度をより向上させることができる。
【0053】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変形が可能である。
【0054】
例えば、上記実施の形態等では、半導体材料をGaAs系化合物半導体により構成した場合について説明したが、他の材料系、例えば、GaInP系(赤系)材料またはAlGaAs系(赤外系)や、GaN系(青緑色系)などにより構成することも可能である。
【0055】
また、上記実施の形態において、半導体の導電型が例示されていたが、例示された導電型とは逆の導電型となっていてもよい。例えば、上記実施の形態において、p型と記述されている箇所をn型と読み替えると共に、n型と記述されている箇所をp型と読み替えることが可能である。
【符号の説明】
【0056】
1…半導体レーザ装置、10…半導体光検出素子、11…基板、12…光吸収層、13…p型コンタクト層、13A…露出面、14…下部電極、20,21,22,40,41,42…金属層、20A,30A,40A,59A…開口、22A,42A…露出面、23,24,43,44…低反射率層、25,45…空隙、30…透明基板、50…半導体レーザ素子、51…p型DBR層、52…p型スペーサ層、53…活性層、53A…発光領域、54…n型スペーサ層、55…n型DBR層、56…メサ部、57…電流狭窄層、57A…電流注入領域、57B…電流狭窄領域、58…上部電極、59…絶縁層、60…電極パッド、61…接続部、L1,La…誘導放出光、L2,Lb…自然放出光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1多層膜反射鏡、発光領域を含む活性層、および第2多層膜反射鏡をこの順に有する半導体発光素子と、
前記半導体発光素子との関係で前記第1多層膜反射鏡側に設けられ、かつ前記発光領域から射出された光を吸収する光吸収層を有する半導体光検出素子と、
前記半導体発光素子と前記半導体光検出素子との間に配置された透明基板と、
前記発光領域との対向領域を含む領域に第1開口を有し、かつ前記半導体発光素子と前記基板とを互いに貼り合わせる第1金属層と、
前記発光領域との対向領域を含む領域に第2開口を有し、かつ前記半導体光検出素子と前記基板とを互いに貼り合わせる第2金属層と
を備えた半導体発光装置。
【請求項2】
前記発光領域の半径をrとし、前記発光領域と前記半導体光検出素子との距離をdとすると、r、dは、以下の関係式を満たす
請求項1に記載の半導体発光装置。
d/r≧10
【請求項3】
前記半導体発光素子は、前記第2多層膜反射鏡の上に、前記発光領域との対向領域を含む領域に光射出口を有する環状の電極を有し、
第1開口および前記第2開口は、前記光射出口との対向領域内に形成されている
請求項1に記載の半導体発光装置。
【請求項4】
前記基板は、導電性を有している
請求項1に記載の半導体発光装置。
【請求項5】
前記基板は、絶縁性を有している
請求項1に記載の半導体発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−182972(P2010−182972A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−26672(P2009−26672)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】