説明

半導体磁器組成物の製造方法

【課題】Pbを使用することなく、キュリー温度を正の方向へシフトすることができ、室温における抵抗率を大幅に低下させた半導体磁器組成物を得る製造方法、及び複雑な熱処理を行うことなく、比較的大きな厚みのある形状の材料においても、材料内部にまで均一な特性を付与することができる半導体磁器組成物の製造方法の提供。
【解決手段】組成式を[(Bi0.5Na0.5)x(Ba1-yRy)1-x]TiO3(但し、RはLa、Dy、Eu、Gd、Yの少なくとも一種)と表し、前記x、yが、0<x≦0.14、0.002<y≦0.02を満足する半導体磁器組成物の製造方法において、焼結を酸素濃度1%以下の不活性ガス雰囲気で行うことにより、室温における抵抗率を大幅に低下させかつ材料内部にまで均一な特性を付与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、PTCサーミスタ、PTCヒータ、PTCスイッチ、温度検知器などに用いられる、正の抵抗温度を有するとともに、室温における抵抗率を大幅に低下させ、材料内部にまで均一な特性を付与できる半導体磁器組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、正のPCTRを示す材料として、BaTiO3に様々な半導体化元素を加えた組成物が提案されている。これらの組成物は、キュリー温度が120℃前後であるため、用途に応じてキュリー温度をシフトさせることが必要になる。
【0003】
例えば、BaTiO3にSrTiO3を添加することによってキュリー温度をシフトさせることが提案されているが、この場合、キュリー温度は負の方向にのみシフトし、正の方向にはシフトしない。現在、キュリー温度を正の方向にシフトさせる添加元素として知られているのはPbTiO3だけである。しかし、PbTiO3は環境汚染を引き起こす元素を含有するため、近年、PbTiO3を使用しない材料が要望されている。
【0004】
BaTiO3系半導体磁器において、Pb置換による抵抗温度係数の低下を防止するとともに、電圧依存性を小さくし、生産性や信頼性を向上させることを目的として、BaTiO3のBaの一部をBi-Naで置換したBa1-2X(BiNa)xTiO3なる構造において、xを0<x≦0.15の範囲とした組成物にNb、Taまたは希土類元素のいずれか一種または一種以上を加えて窒素中で焼結した後酸化性雰囲気中で熱処理するBaTiO3系半導体磁器の製造方法が提案されている(特許文献1)。
【0005】
Baの一部をBi-Naで置換した系において、組成物の原子価制御を行う場合、3価の陽イオンを半導体化元素として添加すると半導体化の効果が1価のNaイオンの存在のために低下し、室温における抵抗率が高くなるという問題がある。特許文献1には、実施例として、Ba1-2X(BiNa)xTiO3(0<x≦0.15)に、半導体元素として、Nd2O3を0.1モル%添加した組成物が開示されているが、PTC用途として十分な半導体化を実現できる添加量ではない。
【0006】
上述した材料において、その抵抗値は粒界のショットキー障壁に起因すると考えられている。このショットキー障壁をコントロールする手段として、粒界の酸化・還元処理が提案されており、一般的に酸素中で酸化処理を行った材料で高いPTC特性が得られることが報告されている(非特許文献1)。また、その熱処理における処理速度も特性に影響を与えることも報告されており(非特許文献2)、材料の熱処理が非常に複雑になっているという問題がある。
【0007】
また、上記熱処理によれば、比較的小さな形状であれば、熱処理による効果が材料内部にまで均一に作用させることができるが、PTCヒータなどの用途へ応用される比較的大きな形状(厚みのある形状)の場合は、材料内部にまで均一なPTC特性を持たせることが困難であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭56−169301号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】チタバリ研究会資料XVII-95-659(1968)
【非特許文献2】J. Am.Ceram. Soc. 48, 81 (1965)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この発明は、上述した従来の問題を解決し、Pbを使用することなく、キュリー温度を正の方向へシフトすることができるとともに、室温における抵抗率を大幅に低下させた半導体磁器組成物を得るための製造方法の提供を目的とする。
【0011】
また、この発明は、複雑な熱処理を行うことなく、比較的大きな、厚みのある形状の材料においても、材料内部にまで均一な特性を付与することができる半導体磁器組成物の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らは、BaTiO3系半導体磁器組成物において、Baの一部をBi-Naによって置換した場合の原子価制御に着目し、最適な原子価制御を行うための添加元素の含有量について鋭意研究の結果、Baを特定量のR元素で置換することにより、最適な原子価制御ができ、室温における抵抗率を大幅に低下させることができることを知見した。
【0013】
また、発明者らは、上記半導体磁器組成物の製造方法について研究の結果、上記組成物の焼結を酸素濃度1%以下の不活性ガス雰囲気で行うことにより、組成物内部にまで均一なPTC特性を付与することができるとともに、複雑な雰囲気管理、処理速度などを行うことなく、優れた特性を有する半導体磁器組成物が得られることを知見し、この発明を完成した。
【0014】
この発明による半導体磁器組成物の製造方法は、組成式を[(Bi0.5Na0.5)x(Ba1-yRy)1-x]TiO3(但し、RはLa、Dy、Eu、Gd、Yの少なくとも一種)と表し、前記x、yが、0<x≦0.14、0.002<y≦0.02を満足する半導体磁器組成物の製造方法であって、焼結を酸素濃度1%以下の不活性ガス雰囲気で行うことを特徴とする。
【0015】
また、この発明は、上記構成の半導体磁器組成物の製造方法において、酸素濃度が10ppm以下であることを特徴とする構成、Si酸化物を3.0mol%以下、Ca酸化物を4.0mol%以下含有することを特徴とする構成を併せて提案する。
【0016】
この発明によれば、環境汚染を引き起こすPbを使用することなく、キュリー温度を上昇させることができるとともに、室温における抵抗率を大幅に低下させた半導体磁器組成物を提供することができる。
【0017】
この発明によれば、比較的大きな、厚みのある形状の半導体磁器組成物においても、材料内部にまで均一な特性を付与することができる。
【0018】
この発明によれば、複雑な熱処理を行う必要がないので、安価にして優れた特性を有する半導体磁器組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明による半導体磁器組成物の抵抗率の温度変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
この発明の特徴の一つは、Baの一部をBi-Naで置換することにより、キュリー温度を正の方向にシフトさせるとともに、該Bi-Naの置換によって乱れた原子価を最適に制御するために、Baの一部を特定量のR元素(La、Dy、Eu、Gd、Yの少なくとも一種)で置換した[(Bi0.5Na0.5)x(Ba1-yRy)1-x]TiO3組成とすることにある。各組成の限定理由は以下の通りである。
【0021】
[(Bi0.5Na0.5)x(Ba1-yRy)1-x]TiO3組成において、Rは、La、Dy、Eu、Gd、Yの少なくとも一種である。好ましい形態はRがLaの場合である。組成式中、xはBi+Naの成分範囲を示し、0<x≦0.14が好ましい範囲である。xが0ではキュリー温度を高温側へシフトすることができず、0.14を超えると室温の抵抗率が104Ωcmに近づき、PTCヒーターなどに適用することが困難となるため好ましくない。
【0022】
yは、Rの成分範囲を示し、0.002≦y≦0.02が好ましい範囲である。yが0.002未満では組成物の原子価制御が不充分となり室温の抵抗率が大きくなる。また、yが0.02を超えると室温の抵抗率が大きくなるため好ましくない。好ましくは0.005≦y≦0.02であり、室温の抵抗率をより低下することができる。なお、上記0.002≦y≦0.01はモル%表記では0.2モル%〜2.0モル%となる。
【0023】
前記[(Bi0.5Na0.5)x(Ba1-yRy)1-x]TiO3組成において、Si酸化物を3.0mol%以下、Ca酸化物を4.0mol%以下添加することが好ましい。Si酸化物の添加は結晶粒の異常成長を抑制するとともに抵抗率のコントロールを容易にすることができ、Ca酸化物の添加は低温での焼結性を向上させることができる。いずれも上記限定量を超えて添加すると、組成物が半導体化を示さなくなるため好ましくない。
【0024】
この発明のもう一つの特徴は、上記[(Bi0.5Na0.5)x(Ba1-yRy)1-x]TiO3組成物の製造方法において、焼結を酸素濃度1%以下の不活性ガス雰囲気で行うことにある。より好ましい酸素濃度は10ppmである。これにより、従来行われていた酸素雰囲気中における複雑な熱処理が不要となるとともに、比較的大きな、厚みのある形状の材料においても、材料内部にまで均一な特性を付与することができる。
【0025】
酸素濃度が1%を超えると、材料内部にまで均一な特性を付与することができないので好ましくない。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム、炭酸ガスなどを用いることができる。焼結に際しては、気密構造を有する焼結炉を用いることが好ましい。
【0026】
この発明による半導体磁器組成物の製造方法の一例を以下に説明する。焼結工程以外の工程については、以下に限定されるものではなく、公知の方法を採用することができる。
【0027】
(1)主原料としてBaCO3、TiO2、半導体化元素及び原子価制御元素としてLa2O3、Dy2O3、Eu2O3、Gd2O3、Y2O3の少なくとも一種、焼結助剤としてSiO2、CaO、さらにキュリー温度のシフターとして(Na2CO3・Bi2O3・TiO2)の各粉末を準備する。
【0028】
(2)各粉末を湿式中で混合した後、乾燥する。この時、原料粉末の粒度によっては、混合と同時に粉砕を施してもよい。混合時の媒体は純水またはエタノールが好ましい。混合または粉砕後の混合粉末の平均粒径は0.6μm〜1.5μmが好ましい。
【0029】
(3)混合粉末を仮焼する。仮焼温度は900℃〜1100℃が好ましい。仮焼時間は2時間〜6時間が好ましい。仮焼雰囲気は大気中あるいは酸素中が好ましい。
【0030】
(4)仮焼後の仮焼体を微粉砕の後乾燥する。微粉砕は湿式中で行うことが好ましい。粉砕時の媒体は純水またはエタノールが好ましい。微粉砕後の粉砕粉の平均粒径は0.6μm〜1.5μmが好ましい。
【0031】
(5)微粉砕後の粉砕粉を所望の成形手段によって成形する。成形前に、必要に応じて粉砕粉を造粒装置によって造粒してもよい。成形後の成形体密度は2〜3g/cm3が好ましい。
【0032】
(6)成形体を焼結する。焼結雰囲気は、上述したように、例えば不活性ガスが窒素の場合、99%以上の窒素、酸素濃度が1%以下、好ましくは10ppm以下の雰囲気中で行う。焼結温度は1200℃〜1400℃が好ましく、焼結時間は2時間〜4時間が好ましい。造粒を行った場合は、300℃〜700℃で脱バインダー処理を行うことが好ましい。
【0033】
上記の焼結工程を必須工程として含むことにより、室温における抵抗率を大幅に低下させた、[(Bi0.5Na0.5)x(Ba1-yRy)1-x]TiO3組成を有する半導体磁器組成物を得ることができる。
【実施例】
【0034】
主原料としてBaCO3、TiO2、半導体化元素及び原子価制御元素としてLa2O3、Dy2O3、Eu2O3、Gd2O3、Y2O3、焼結助剤としてSiO2、CaO、さらにキュリー温度のシフターとして(Na2CO3・Bi2O3・TiO2)の各粉末を準備した。各粉末を[(Bi0.5Na0.5)x(Ba1-yRy)1-x]TiO3組成となるように、表1に示す如く配合し、エタノール中で混合した後乾燥し、平均粒径9.0μm程度の混合粉を得た。
【0035】
上記混合粉を大気中で1000℃で4時間仮焼し、得られた仮焼粉を湿式粉砕により平均粒径0.9μmに粉砕した後、粉砕粉を乾燥させた。次いで、乾燥粉にPVAを添加、混合した後、造粒装置によって造粒した。得られた造粒粉を一軸プレス装置で成形し、寸法28.5mm×28.5mm×厚み0.7mm〜18mm、成形密度2.5〜3.5g/cm3の成形体を得た。
【0036】
上記成形体を300℃〜700℃で脱バインダー後、表1に示す酸素濃度を有する窒素雰囲気中において、各組成に応じて1280〜1380℃で4時間焼結し、寸法23.0mm×23.0mm×厚み0.5mm〜15mm、焼結密度5.5g/cm3の焼結体を得た。得られた焼結体を10mm×10mm×1mmの板状に加工(但し、焼結体の厚みが1mm以下の場合は除く)し、試験片を得た。
【0037】
各試験片を抵抗測定器で室温から270℃までの範囲で抵抗値の温度変化を測定した。測定結果を表1に示す。表1において、試料番号52はRとしてDyを用いた例、試料番号53はRとしてEuを用いた例、試料番号54はRとしてGdを用いた例、試料番号55はRとしてYを用いた例である。
【0038】
また、表1において、試料番号の横に*印を付したものは比較例である。図1は[(Bi0.5Na0.5)x(Ba1-yLay)1-x]TiO3組成において、yを0.006とし、xの値を0.02(黒丸a)、0.075(黒丸b)、0.875(黒菱形c)、0.1(黒四角d)、0.1375(黒三角e)、0.2(白丸f)とした場合の、抵抗率の温度変化を示すグラフである。
【0039】
表1及び図1から明らかなように、この発明の実施例により得られた半導体磁器組成物は、Pbを使用することなく、キュリー温度を上昇させることができるとともに、室温における抵抗率を大幅に低下させることできる。
【0040】
また、表1又は図1から明らかなように、xが0<x≦0.14の範囲、yが0.002<y≦0.02の範囲で良好な特性が得られている。
【0041】
さらに、表1から明らかなように、酸素濃度が1%以下の雰囲気中で焼結した場合に、良好な特性が得られており、また、厚み15mmの比較的大きな材料でも、良好な特性が得られていることが分かる。これは、焼結を酸素濃度1%以下の不活性ガス雰囲気中で行ったことにより、材料内部にまで均一な特性を付与することができたからである。
【0042】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0043】
この発明により得られる半導体磁器組成物は、PTCサーミスタ、PTCヒータ、PTCスイッチ、温度検知器などの材料として最適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式を[(Bi0.5Na0.5)x(Ba1-yRy)1-x]TiO3(但し、RはLa、Dy、Eu、Gd、Yの少なくとも一種)と表し、前記x、yが、0<x≦0.14、0.002<y≦0.02を満足する半導体磁器組成物の製造方法であって、焼結を酸素濃度1%以下の不活性ガス雰囲気で行う半導体磁器組成物の製造方法。
【請求項2】
酸素濃度が10ppm以下である請求項1に記載の半導体磁器組成物の製造方法。
【請求項3】
Si酸化物を3.0mol%以下、Ca酸化物を4.0mol%以下含有する請求項1に記載の半導体磁器組成物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−14508(P2013−14508A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−173673(P2012−173673)
【出願日】平成24年8月6日(2012.8.6)
【分割の表示】特願2007−511158(P2007−511158)の分割
【原出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】