説明

半導体素子及び半導体素子の製造方法

【課題】n型GaN層の格子欠陥が抑制され、発光効率が向上した半導体素子及び半導体素子の製造方法を提供する。
【解決手段】
サファイア基板11と、サファイア基板11上に配置されたn型GaN層13と、n型GaN層13上に配置されたp型GaN層15とを有する半導体素子10であって、n型GaN層13には電子線が照射されている。Al(1-x)GaxN結晶と電子線との相互作用により、n型GaN層13の格子欠陥が抑制され、半導体素子10の発光効率が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子及び半導体素子の製造方法に関し、特にAl(1-x)GaxN(0≦x≦1)で表される窒化物半導体発光素子の発光効率を高効率化する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、結晶基板の表面又は結晶基板の表面に形成されたバッファ層の表面に形成されるAl(1-x)GaxNで表される窒化物半導体発光素子に関しては、多くの特許や発表がなされている。それら特許や発表の多くでは、結晶基板としてはサファイア単結晶基板が用いられており、化合物半導体の主力形成方法は有機金属化学気相成長法(MO−CVD)による。
【0003】
特許文献1、2には、接合状態や基板への立体構造作成の工夫により、発光効率を高める技術が開示されているが、発光効率を飛躍的に向上させるには、発光層の主力化合物であるGaN結晶の特性を改善する技術が必要であった。
【0004】
なぜならば、現在成長されているGaN結晶は、他の半導体材料膜に比べて、多くの格子欠陥を含んでおり、結晶として十分な特性を有していないのが現実であり、成長過程で特性をさらに上げるのは従来の技術では困難であった。
【0005】
具体的には、窒化物半導体発光素子の主要発光層であるn型半導体GaN層(n型GaN層)の形成方法は、MO−CVD法により、サファイア基板上にヘテロエピタキシャル成長させる方法が一般的である。しかし、GaN結晶とサファイア基板とは格子定数のミスマッチングが大きく、GaN結晶をサファイア基板表面に直接成長させた場合、GaN結晶は格子欠陥を多く含む膜となる。
【0006】
GaN結晶の格子欠陥を回避するために、サファイア基板表面にバッファ層を成長させ、バッファ層の表面にGaN結晶を成長させる方法が従来行われているが、バッファ層の導入によりミスマッチングを緩和させても、GaN結晶には108/cm2を超える転位密度が存在するという問題があった。
【0007】
また、特殊なGaN結晶の成長法として、GaN基板表面にGaN結晶をホモエピタキシャル成長させる方法があるが、ホモエピタキシャル成長させたGaN結晶にも103/cm2を超える転位密度が存在するという問題があった。
【0008】
なお、発光素子の発光効率を上げる方法として、特許文献3では、p型GaN層にだけ電子線を照射してp型GaN層のドーパントを活性化させ、その下のn型GaN層には電子線を到達させない技術が開示されている。具体的には、特許文献3の段落0005には「本発明者はこの構造の発光ダイオードの発光効率について研究した結果、電子線の照射強度を変化させると、発光強度が変化することを発見した。この現象に対して、本発明者は、電子線を照射する時に、マグネシウムがドープされている層を越えて、下層の発光層にも電子線が照射されることで、その発光層の結晶に欠陥を発生させていると推定した。」と記載され、段落0006には「よって、本発明は、発光ダイオードの発光効率を向上させるために製造方法を改善することである。」と記載され、段落0008には「上記のように、p層を形成するために、発光層には電子線が侵入しない電圧で電子線を照射するようにしているので、発光層に格子欠陥が発生しないため、発光素子の発光効率が向上する。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3209233号公報
【特許文献2】特許第2964822号公報
【特許文献3】特許第3538628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記従来技術の不都合を解決するために創作されたものであり、その目的は、n型GaN層の格子欠陥が抑制され、発光効率が向上した半導体素子及び半導体素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
MO−CVD法や分子線エピタキシー法(MBE)等により作成したGaN結晶の発光素子材料としての特性評価手法として、目的とする発光域よりも短波長の光を材料に照射する光励起ルミネッセンス(PL)や、真空中に材料を保持して電子線を照射するカソードルミネッセンス(陰極線発光、CL)を測定し、そのスペクトルと強度に基づいて素子材料の優劣性を評価する手法が一般的である。
【0012】
CL評価法について具体的に説明すると、真空中で物質に電子線を照射したとき、物質から二次電子・反射電子・オージェ電子・元素特有の特性X線と様々な信号が放出されるが、光信号としてカソードルミネッセンス(CL)も放出される。CL評価法は、CL信号としての光信号を真空中から窓部を介して大気中に取り出し、分光して各波長における強度を測定する。
【0013】
n型GaN膜のCLスペクトルのうち、波長360nmのピークの強度はGaN固有のものでバンド端発光によるものである。この強度を詳細に調べることにより、n型GaN層の優劣を決める大きな手がかりとなり、例えばLED等の発光素子としての特性を左右することになる。
【0014】
本発明者は、MO−CVD法、MBE法、スパッタリング法によるn型GaN層の特性をCL評価法により評価していくうちに、波長360nmのピークの強度が電子線の照射量(積算量)に応じて強くなることを見出し、n型GaN層への電子線照射は、上記特許文献3に記載されたような格子欠陥を発生させるのではなく、別の現象により元々存在する格子欠陥を発光現象に影響を与えないように抑制しているものと考え、n型GaN層に電子線を照射することにより上記目的を達成できることを見出した。
【0015】
係る知見に基づいて成された本発明は、サファイア基板と、前記サファイア基板上に配置されたn型GaN層と、前記n型GaN層上に配置されたp型GaN層と、を有する半導体素子であって、前記n型GaN層は電子線が照射された半導体素子である。
本発明は、サファイア基板上にn型GaN層を形成するn型GaN層形成工程と、前記n型GaN層上にp型GaN層を形成するp型GaN層形成工程と、を有する半導体素子の製造方法であって、前記n型GaN層形成工程の後、前記p型GaN層形成工程の前に、前記n型GaN層に電子線を照射する電子線照射工程を有する半導体素子の製造方法である。
本発明は、サファイア基板上にn型GaN層を形成するn型GaN層形成工程と、前記n型GaN層上にp型GaN層を形成するp型GaN層形成工程と、を有する半導体素子の製造方法であって、前記p型GaN層形成工程の後に、前記p型GaN層を通過させて前記n型GaN層に電子線を照射する電子線照射工程を有する半導体素子の製造方法である。
本発明は半導体素子の製造方法であって、前記電子線照射工程では、前記サファイア基板を冷却して100℃未満の温度に維持しながら前記電子線を照射する半導体素子の製造方法である。
本発明は半導体素子の製造方法であって、前記電子線照射工程では、前記n型GaN層内部に侵入する大きさのエネルギーの前記電子線を、前記n型GaN層に照射する半導体素子の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
電子線照射によりn型GaN層に含まれる格子欠陥を抑制することができ、半導体素子の発光効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の半導体素子の内部側面図
【図2】半導体素子製造装置の内部構成図
【図3】電子線照射室の内部構成図
【図4】n型GaN層のカソードルミネッセンスの測定結果を示すグラフ
【図5】電子線のエネルギーとGaN層内部への電子の侵入深さとの関係を示すグラフ
【図6】n型GaN層の波長360nmのピークの発光強度と電子線照射時間との関係を示すグラフ
【図7】加熱処理後のn型GaN層のカソードルミネッセンスの測定結果を示すグラフ
【図8】加熱処理後に電子線照射をした後のn型GaN層のカソードルミネッセンスの測定結果を示すグラフ
【図9】電子線照射後のp型GaN層のカソードルミネッセンスの測定結果を示すグラフ
【図10】電子線照射後のn型GaN層とp型GaN層のカソードルミネッセンスの測定結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0018】
<半導体素子の構造>
本発明の半導体素子の構造を説明する。図1は半導体素子10の内部側面図である。
半導体素子10は、サファイア基板11と、サファイア基板11上に配置されたn型GaN層13と、n型GaN層13上に配置されたp型GaN層15とを有している。ここでは、n型GaN層13はSiがドープされたAl(1-x)GaxN(0≦x≦1、すなわちxは0以上1以下の数を示す)の薄膜であり、p型GaN層15はMgがドープされたAl(1-y)GayN(0≦y≦1、すなわちyは0以上1以下の数を示す)の薄膜である。
【0019】
本実施例では、サファイア基板11の表面にはバッファ層12が配置され、n型GaN層13はバッファ層12の表面に配置されている。バッファ層12はここでは低温成長されたアモルファス状のGaNの薄膜であり、サファイア基板11とn型GaN層13との格子定数の差を緩衝している。本発明で「低温」とはエピタキシャル成長が起こる温度よりも低い温度をいう。
【0020】
なお、バッファ層12はサファイア基板11とn型GaN層13との間の緩衝作用を有するならば、低温成長されたGaNの薄膜に限定されず、例えば低温成長されたAlNの薄膜でもよい。
【0021】
n型GaN層13の表面には、中間層14が配置され、p型GaN層15は中間層14の表面に配置されている。中間層14は、ここではInGaN井戸層14aとGaN障壁層14bとが交互に積層された多重量子井戸(MQW)構造からなり、n型GaN層13とp型GaN層15との間に多重量子井戸接合が形成されている。
【0022】
p型GaN層15の表面にはp型電極17aが配置されている。また、n型GaN層13の表面は部分的に露出され、n型GaN層13の露出された表面には、p型電極17aから離間して、n型電極17bが配置されている。
【0023】
p型電極17aに正電圧を印加し、n型電極17bに負電圧を印加すると、p型GaN層15内の正孔と、n型GaN層13内の電子はそれぞれ中間層14内に移動し、中間層14内では正孔と電子の再結合が起きて光が発生する。
【0024】
本発明では、n型GaN層13は電子線が照射された薄膜である。内部に侵入した電子線とAl(1-x)GaxN結晶との相互作用により、n型GaN層13の格子欠陥は発光現象に影響を与えないように抑制されている。そのため、n型GaN層13内では格子欠陥による電子の散乱が減り、n型GaN層13の電子移動度が増大し、その結果、半導体素子10の発光効率は、従来の半導体素子の発光効率より向上している。
【0025】
なお、本発明の半導体素子10では、中間層14は上述の多重量子井戸構造に限定されず、単一量子井戸構造でもよいし、中間層14が真性InGaNの薄膜からなり、n型GaN層13とp型GaN層15との間にpin接合が形成された構成も本発明に含まれる。また、中間層14が省略され、n型GaN層13とp型GaN層15との間にpn接合が形成された構成も本発明に含まれる。
また、バッファ層12が省略され、サファイア基板11表面に直接n型GaN層13が配置された構成も本発明に含まれる。
【0026】
<半導体素子の製造方法>
上述の半導体素子10の製造方法を説明する。
図2は半導体素子製造装置20の内部構成図である。半導体素子製造装置20は、搬入出室21と、MOCVD室22と、電子線照射室23と、エッチング室24と、真空蒸着室25と、搬送室26とを有している。各室21〜26は、それぞれ真空槽と、真空槽内を真空排気する真空排気装置とを有している。
【0027】
符号21〜25の各室の真空槽は、それぞれ真空バルブを介して搬送室26の真空槽に接続されている。搬送室26の真空槽内には不図示の搬送ロボットが配置されており、符号21〜25のうち一の室の真空槽内の処理対象物を、大気に曝さずに、搬送室26の真空槽内を通って、他の一の室の真空槽内に移動できるようになっている。
【0028】
まず、各室21〜26の真空排気装置を動作させて、各室21〜26の真空槽内を真空排気し、真空雰囲気を形成する。以後、真空排気装置の動作を継続して、各室21〜26の真空槽内の真空雰囲気を維持する。
【0029】
(バッファ層形成工程)
搬入出室21の真空槽内には、処理対象物であるサファイア基板11が配置されている。
搬送室26の真空ロボットを動作させて、処理対象物を搬入出室21の真空槽内から搬送室26の真空槽内を通って、MOCVD室22の真空槽内に移動させる。
MOCVD室の真空槽内では、まず、処理対象物をエピタキシャル成長が起こる温度より低い温度に加熱する。ここでは500℃に加熱する。
【0030】
処理対象物の加熱を継続しながら、トリメチルガリウム(TMGA)ガスとアンモニア(NH3)ガスとを真空槽内に供給する。供給されたガスは、サファイア基板11の表面で熱により化学反応し、サファイア基板11の表面にアモルファス状のGaNの薄膜からなるバッファ層12が形成される。
【0031】
(n型GaN層形成工程)
次いで、処理対象物をエピタキシャル成長が起こる温度に加熱する。ここでは1000度に加熱する。
【0032】
処理対象物の加熱を継続しながら、TMGAガス又はトリメチルアルミニウム(TMAl)ガスのいずれか一方のガス又は両方のガスと、NH3ガスとシラン(SiH4)ガスとを真空槽内に供給する。供給されたガスは、バッファ層12の表面で熱により化学反応し、バッファ層12の表面にSiがドープされたAl(1-x)GaxNの薄膜からなるn型GaN層13が形成される。
【0033】
(電子線照射工程)
次いで、処理対象物を、大気に曝さずに、MOCVD室22の真空槽内から搬送室26の真空槽内を通って、電子線照射室23の真空槽内に移動させる。
図3は電子線照射室23の内部構成図である。
【0034】
電子線照射室23は、真空槽31と、真空排気装置32と、真空槽31内に配置され、表面に処理対象物が配置される基板保持台34と、基板保持台34に保持された処理対象物を冷却する冷却機構39と、真空槽31内に電子線を放出する電子銃33と、電子線の飛行経路に電場を形成して、電子線の照射位置を移動させる電子線走査機構35とを有している。符号41は電子銃33から放出された電子線を示している。
【0035】
処理対象物を真空槽31内に搬入した後、n型GaN層13が露出する向きで、基板保持台34の表面に配置する。基板保持台34には処理対象物を吸着させる静電吸着機構38が設けられている。
【0036】
静電吸着機構38は、基板保持台34の内部に設けられた内部電極38aと、内部電極38aに電気的に接続された静電吸着電源38bとを有している。静電吸着電源38bから内部電極38aに電圧を印加すると、基板保持台34の表面に配置された処理対象物に吸着力が発生し、処理対象物は基板保持台34の表面に面で密着する。処理対象物が基板保持台34の表面に面で密着することにより、処理対象物と基板保持台34との間の熱伝導効率(冷却効率)が増大する。
【0037】
冷却機構39は、ここでは基板保持台34の内部に設けられた流路39aと、流路39a内に温度管理された冷却媒体を循環させる冷却媒体循環装置39bとを有している。
冷却媒体循環装置39bから流路39a内に冷却媒体を循環させると、基板保持台34は冷却媒体の温度に冷却され、熱伝導により基板保持台34に吸着された処理対象物も冷却される。以後、処理対象物の冷却を継続して、処理対象物をここでは100℃未満の温度に維持する。
真空排気装置により、真空槽内を10-3Pa以下の真空雰囲気に維持する。
【0038】
電子銃33は、フィラメント33aと、フィラメント33aから放出された電子を加速する加速電極33bとを有している。
フィラメント33aにはフィラメント電源33cが電気的に接続されている。フィラメント電源33cからフィラメント33aに直流電流を流すと、フィラメント33aは発熱して、電子が放出される。
【0039】
予め、電子線のエネルギーと、GaN層内部への電子の侵入深さとの関係を計算により求め、この関係に基づいて、電子線のエネルギーを、n型GaN層13の内部に侵入する大きさに決めておく。また予め決めた電子線41のエネルギーから、加速電極33bに印加する電圧の大きさを求めておく。
【0040】
加速電極33bには加速電極電源33dが電気的に接続されている。加速電極電源33dから加速電極33bに予め求めた大きさの直流電圧を印加すると、フィラメント33aから放出された電子は、加速電極33bが形成する電場により加速されて、n型GaN層13の内部に侵入する大きさのエネルギーを獲得し、銃口33eから真空槽31内に放出される。
【0041】
加速電極33bと銃口33eとの間にはレンズ電極33fが配置され、レンズ電極33fにはレンズ電極電源33gが電気的に接続されている。レンズ電極電源33gからレンズ電極33fに電流を流して、電子線41の飛行経路に電場を形成し、電子線41のビーム径を所定の大きさにする。
【0042】
本実施例では、銃口33eの法線方向には、電子線41の飛行経路に電場を形成する電子線偏向機構36が配置されている。電子線偏向機構36を動作させて、電子線41の進行方向が処理対象物の表面に向くように、電子線41の進行方向に対して直角な向きの電場を形成する。
【0043】
銃口33eから放出された電子線41は、電子線偏光機構36が形成する電場を通って、基板保持台34上の処理対象物の表面に入射し、n型GaN層13の内部に侵入する。
【0044】
なお、銃口33eから放出された電子線41が処理対象物の表面に入射できるならば、電子線偏光機構36を用いた構成に限定されず、電子銃33を銃口33eの法線方向が処理対象物の表面と交差する向きに向けて配置し、電子線偏向機構36を省略してもよい。
電子線衝撃により処理対象物の温度が100℃以上に上がらないような電子線密度を予め実験や計算で求めておく。
【0045】
真空槽31内には電子線41の強度とビーム径を測定する電子線強度・サイズモニター37が配置されている。電子線強度・サイズモニター37により、電子線41の強度とビーム径を測定し、測定結果に基づいて、フィラメント電源33cの出力電流又はレンズ電極電源33gの出力電流を変更して、電子線41の強度とビーム径を変更し、電子線密度を予め求めた値にする。
【0046】
n型GaN層13の内部に電子線が侵入すると、侵入した電子とAl(1-x)GaxN結晶との相互作用により、n型GaN層13内の格子欠陥が抑制される。
電子線走査機構35を動作させて、電子線41の飛行経路に、電子線41の進行方向に対して直角な向きの電界を形成して、電子線41の照射位置をn型GaN層13の表面内で揺動させ、n型GaN層13の表面全体に均一な照射量で電子線41を照射する。
【0047】
電子線密度が高いほど電子線41の照射効果の効率がよく好ましい。電子線41の照射中に、処理対象物は冷却されて100℃未満の温度に維持されており、熱による処理対象物の変質は発生しない。
【0048】
予め、n型GaN層13に照射すべき電子線41の積算照射量を、実験や計算により定めておき、定めた積算照射量と電子線41の強度とから、照射時間を求めておく。
電子線41を予め求めた照射時間、照射した後、フィラメント電源33cからフィラメント33aへの電流の供給を停止し、処理対象物への電子線41の照射を停止する。
【0049】
(中間層形成工程)
処理対象物を、大気に曝さずに、電子線照射室23の真空槽内から搬送室26の真空槽内を通って、MOCVD室22の真空槽内に搬入する。
MOCVD室22の真空槽内では、処理対象物をエピタキシャル成長が起こる温度に加熱する。ここでは1000℃に加熱する。
【0050】
処理対象物の加熱を継続しながら、TMGAガスとNH3ガスとトリメチルインジウム(TMIn)ガスとを真空槽内に供給する。供給されたガスは、n型GaN層13の表面で熱により化学反応し、n型GaN層13の表面にInGaNの薄膜からなるInGaN井戸層14aが形成される。
【0051】
次いで、処理対象物の加熱を継続しながら、TMGAガスとNH3ガスとを真空槽内に供給する。供給されたガスは、InGaN井戸層14aの表面で熱により化学反応し、InGaN井戸層14aの表面にGaNの薄膜からなるGaN障壁層14bが形成される。
【0052】
InGaN井戸層14aの形成とGaN障壁層14bの形成とを交互に複数回繰り返して、n型GaN層13の表面にInGaN井戸層14aとGaN障壁層14bとが交互に積層された多重量子井戸構造からなる中間層14を形成する。
【0053】
(p型GaN層形成工程)
次いで、処理対象物の加熱を継続しながら、TMGAガスTMAlガスのいずれか一方のガス又は両方のガスと、NH3ガスとビスシクロペンタジエニルマグネシウム(CP2Mg)ガスとをMOCVD室22の真空槽内に供給する。供給されたガスは、中間層14の表面で熱により化学反応し、中間層14の表面にMgがドープされたAl(1-y)GayNの薄膜からなるp型GaN層15が形成される。
【0054】
(電極形成工程)
処理対象物を、MOCVD室22の真空槽内から搬送室26の真空槽内を通って、エッチング室24の真空槽内に移動させる。
エッチング室24の真空槽内では、p型GaN層15の表面の一部を膜厚方向にエッチングして中間層14の表面の一部を露出させ、中間層14の露出した部分を膜厚方向にエッチングして、n型GaN層13の表面の一部を露出させる。
【0055】
次いで、処理対象物をエッチング室24の真空槽内から搬送室26の真空槽内を通って、真空蒸着室25の真空槽内に搬入する。
真空蒸着室25の真空槽内では、電極材料(ここではAu)を加熱して蒸気を発生させ、電極材料の蒸気をp型GaN層15の表面とn型GaN層13の露出した表面にそれぞれ到達させ、p型GaN層15の表面にp型電極17aを形成し、n型GaN層13の露出した表面にn型電極17bを形成する。
【0056】
次いで、処理対象物を真空蒸着室25の真空槽内から搬送室26の真空槽内を通って、搬入出室21の真空槽内に移動させる。
このようにして、本発明の半導体素子10が得られる。
【0057】
なお、上記説明では、電子線照射工程は、n型GaN層形成工程の後、中間層形成工程の前に設けられていたが、p型GaN層形成工程の後に設けられていてもよい。電子線照射工程がp型GaN層形成工程の後に設けられている場合には、電子線をp型GaN層15と中間層14とを順に通過してn型GaN層13内に侵入するエネルギーで照射する。
【0058】
また、上述のn型GaN層形成工程では、n型GaN層13をMOCVD法により形成したが、GaNターゲット又はGaターゲットと、Siターゲットを窒素(N2)雰囲気中でスパッタしてn型GaN層13を形成してもよい。
【実施例】
【0059】
(実施例1)
サファイア基板の表面にアモルファス状のGaNの薄膜からなるバッファ層を形成し、バッファ層の表面にSiがドープされたGaNの薄膜からなるn型GaN層を4μmの膜厚で形成して、n型試料基板を得た。
【0060】
次いで、カソードルミネッセンス(CL)測定装置を用いて、n型試料基板の表面に露出するn型GaN層に、エネルギー15keV、電流値10nAの電子線を照射して、放出された光(カソードルミネッセンス)の波長と強度との関係を測定した。
【0061】
図4は測定結果を示している。波長360nmに観察されるピークA1はGaN結晶のバンド端発光によるものである。この波長360nmの発光が、短波長発光素子としてのLEDの性能上重要になる。波長550nmに観察されるピークA2は、GaN結晶中の不純物の発光であり、波長700nmに観察されるピークA3は波長360nmの発光の分光器系の干渉によるものである。
【0062】
ところで、電子線のエネルギーと、GaN層内部への電子の侵入深さとの関係を計算により求めると、図5に示すグラフが得られた。このグラフから、エネルギー15keVの電子線はGaN層内部に1.8μmの深さで侵入することが分かる。
【0063】
よって、エネルギー15keVの電子線を、n型試料基板の表面に露出するn型GaN層に照射すると、電子線はn型GaN層の内部にだけ侵入し、n型GaN層を通過してバッファ層又はサファイア基板には侵入しないことになる。
【0064】
(実施例2)
次いで、上述のn型試料基板表面のn型GaN層に、エネルギー15keVの電子線を、毎分1×103/cm2(7.5W/cm2)のドーズ量で照射し、波長360nmのピークの発光強度と電子線照射時間との関係を測定した。
【0065】
測定結果を図6の符号P1に示す。電子線照射時間が増大すると、波長360nmのピークの発光強度は増大し、電子線照射時間が40分経過した後は、波長360nmのピークの発光強度は電子線照射開始時の発光強度の3倍を超えてほぼ一定になることが分かる。
【0066】
(実施例3)
次いで、別のn型試料基板表面のn型GaN層に、エネルギー15keVの電子線を、実施例1のドーズ量の30倍である228W/cm2のドーズ量で照射し、波長360nmのピークの強度と電子線照射時間との関係を測定した。
測定結果を図6の符号P2に示す。実施例2の測定結果P1と比較すると、ドーズ量を30倍にすると、4倍を超える発光強度が測定されたことが分かる。
【0067】
つまり、電子線の照射時間又は照射強度を増加させると、波長360nmのピークの発光強度が増加したことが分かる。この原因は、電子線とGaN結晶との相互作用により、n型GaN層13の格子欠陥の数が減少したためと考えられる。
【0068】
(実施例4)
別のn型試料基板を作成した後、電子線照射を行わずに、真空雰囲気中又は窒素雰囲気中で800℃に加熱処理(アニール)した。加熱処理後に、実施例1のCL測定方法と同じ方法で、n型試料基板表面のn型GaN層に電子線を照射して、放出された光の波長と強度との関係を測定した。
【0069】
図7の符号Q1は真空雰囲気中で加熱処理したn型試料基板、符号Q2は窒素雰囲気中で加熱処理したn型試料基板、符号Q3は加熱処理していないn型試料基板についての測定結果を示す。
【0070】
加熱処理していないn型試料基板と比べて、真空雰囲気中、窒素雰囲気中で加熱処理したn型試料基板では波長360nmのピークの発光強度が減少したことが分かる。この結果から、加熱処理では波長360nmのピークの発光強度は増加しないことが分かり、すなわち、実施例2、3での電子線照射による発光強度の増加は、電子衝撃による熱的なアニール効果ではないことが分かる。
【0071】
なお、窒素雰囲気中で加熱処理したn型試料基板より、真空雰囲気中で加熱処理したn型試料基板の方が、発光強度の減少量が大きい理由は、真空雰囲気中での加熱処理ではGaN結晶からN原子が抜け出たからと考えられる。
【0072】
(実施例5)
次いで、実施例4で得た真空雰囲気中、窒素雰囲気中で加熱処理したn型試料基板と、加熱処理していないn型試料基板に、それぞれ実施例2の電子線照射条件と同じ照射条件で、電子線を30分間照射した後、放出された光の波長と強度との関係を測定した。
【0073】
図8の符号R1は真空雰囲気中で加熱処理したn型試料基板、符号R2は窒素雰囲気中で加熱処理したn型試料基板、符号R3は加熱処理していないn型試料基板についての測定結果を示す。
【0074】
加熱処理していないn型試料基板と比べて、窒素雰囲気中で加熱処理したn型試料基板では波長360nmの発光強度が減少したが、真空雰囲気中で加熱処理したn型試料基板では波長360nmの発光強度が増加したことが分かる。
実施例4の測定結果と比較すると、真空雰囲気中で加熱処理したn型試料基板では、電子線照射による波長360nmの増加量が、他のn型試料基板より大きいことが分かる。
【0075】
(実施例6)
サファイア基板の表面にアモルファス状のGaNの薄膜からなるバッファ層を形成し、バッファ層の表面にMgがドープされたGaNの薄膜からなるp型GaN層を4μmの膜厚で形成して、p型試料基板を得た。
次いで、実施例1のCL測定方法と同じ方法で、p型試料基板表面のp型GaN層に電子線を照射して、放出された光の波長と強度との関係を測定した。
【0076】
図9の符号S1はp型試料基板を揺動させながら電子線を照射したとき、符号S2はp型試料基板を静止させた状態で電子線を照射したとき、符号S3、S4はp型試料基板を静止させた状態で電子線照射を継続して5、10分経過したときの測定結果を示す。この結果から、n型GaN層だけでなく、p型GaN層でも、電子線照射により、発光強度が増加したことが分かる。
【0077】
(実施例7)
互いに異なるロットで作成した第一、第二のn型試料基板と、p型試料基板に、実施例2の電子線照射条件と同じ照射条件で、電子線を30分間照射した後、放出された光の波長と強度との関係を測定した。
【0078】
図10の符号T1、T2は第一、第二のn型試料基板、符号T3はp型試料基板についての測定結果を示す。図面上では、第一、第二のn型試料基板の測定結果T1、T2は互いに重なっている。この結果から、電子線照射後のn型GaN層の発光強度は、電子線照射後のp型GaN層の発光強度より大きいことが分かる。
【符号の説明】
【0079】
10……半導体素子
11……サファイア基板
13……n型GaN層
15……p型GaN層
41……電子線


【特許請求の範囲】
【請求項1】
サファイア基板と、
前記サファイア基板上に配置されたn型GaN層と、
前記n型GaN層上に配置されたp型GaN層と、
を有する半導体素子であって、
前記n型GaN層は電子線が照射された半導体素子。
【請求項2】
サファイア基板上にn型GaN層を形成するn型GaN層形成工程と、
前記n型GaN層上にp型GaN層を形成するp型GaN層形成工程と、
を有する半導体素子の製造方法であって、
前記n型GaN層形成工程の後、前記p型GaN層形成工程の前に、前記n型GaN層に電子線を照射する電子線照射工程を有する半導体素子の製造方法。
【請求項3】
サファイア基板上にn型GaN層を形成するn型GaN層形成工程と、
前記n型GaN層上にp型GaN層を形成するp型GaN層形成工程と、
を有する半導体素子の製造方法であって、
前記p型GaN層形成工程の後に、前記p型GaN層を通過させて前記n型GaN層に電子線を照射する電子線照射工程を有する半導体素子の製造方法。
【請求項4】
前記電子線照射工程では、前記サファイア基板を冷却して100℃未満の温度に維持しながら前記電子線を照射する請求項2又は請求項3のいずれか1項記載の半導体素子の製造方法。
【請求項5】
前記電子線照射工程では、前記n型GaN層内部に侵入する大きさのエネルギーの前記電子線を、前記n型GaN層に照射する請求項2乃至請求項4のいずれか1項記載の半導体素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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