説明

半導体薄膜結晶性評価装置および該方法

【課題】本発明は、非破壊であって測定環境をコントロールすることなく、基板上に導電性を持つ導電層を介して半導体層を形成した測定対象物における前記半導体層の結晶性を評価し得る半導体薄膜結晶性評価装置および該方法を提供する。
【解決手段】本発明の半導体薄膜結晶性評価装置Daは、基板LA1上に導電性を持つ導電層LA2を介して半導体層A3を形成した測定対象物WAに、半導体層LA3の厚さよりも短い浸透長となる波長域の測定光を照射して、測定対象物WAで反射した測定光の反射光を測定する測定部1と、測定部1の出力に基づいて反射スペクトルにおける所定のピークに関する情報を求め、この求めた前記情報に基づいて半導体層LA3における結晶性の評価を表す評価指標を求める演算部2とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体薄膜の結晶性を評価する半導体薄膜結晶性評価装置および半導体薄膜結晶性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体薄膜は、例えば、トランジスタ素子および発光素子等の種々の電子デバイスに応用され、その研究開発が進められている。半導体薄膜は、様々な半導体材料について検討されているが、現状では、シリコン薄膜が主流となっている。このシリコン薄膜は、高温ポリシリコン薄膜(p-Si薄膜)やアモルファスシリコン薄膜(a-Si薄膜)がよく知られており、さらに近年では、微結晶シリコン薄膜(μc-Si薄膜、低温ポリシリコン薄膜)も研究開発されている。このようなシリコン薄膜は、例えば、薄膜トランジスタ(TFT)や太陽電池等への応用が進められている。この薄膜トランジスタでは、スイッチング速度に影響する移動度がa-Si薄膜を用いたa-Si薄膜トランジスタに較べて1桁ほど高いことから、μc-Si薄膜を用いたμc-Si薄膜トランジスタが有利である。また、太陽電池では、μc-Si薄膜を用いたμc-Si薄膜太陽電池は、光照射下での変換効率がa-Si薄膜を用いたa-Si薄膜太陽電池に較べて劣化しにくく、そして、光吸収がa-Si薄膜太陽電池に較べてより長波長側であるため、a-Si薄膜太陽電池と積層したタンデム型セルへの応用が期待されている。
【0003】
このようなSi薄膜による電子デバイスの性能は、Si薄膜の結晶性に依存するため、Si薄膜の結晶性を評価する必要がある。結晶性とは、結晶化している程度(度合い)である。Si薄膜の結晶性を評価する手法は、従来、PL法(フォトルミネッセンス法)、X線回折法、ラザフォード後方散乱法、透過電子回折法等がある。安定した所定の品質のSi薄膜を製造するためには、製造したSi薄膜を製造ラインで評価(インライン評価)し、この評価結果を製造条件へフィードバックすることが必要となるが、これらの結晶性評価方法は、低温環境や真空環境等が必要であったり、測定に時間を要したり、あるいは、破壊検査であったりするため、前記インライン評価に適用することが難しい。
【0004】
このため、比較的短時間で、常温(室温程度)、常圧(大気圧程度)で、しかも非破壊で半導体を測定する手法として、マイクロ波光導電減衰法(Micro wave Photoconductive Decay、μ−PCD)法がある(例えば特許文献1参照)。このμ−PCD法は、測定対象である半導体(半導体試料、被測定試料)に光を照射することによって過剰キャリアを生成し、この過剰キャリアが前記半導体試料の物性によって決まるキャリア寿命で再結合して消滅する過程を、マイクロ波の反射率の時間変化または透過率の時間変化によって検出する方法である。過剰キャリアの生成は、半導体の導電率を増加させるため、光励起によって過剰キャリアの生成された半導体の部位(部分、領域)に照射されたマイクロ波は、その反射率または透過率が過剰キャリアの密度に対応して変化する。このマイクロ波光導電減衰法は、この現象を利用することによってキャリア寿命を測定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−142359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記μ−PCD法は、照射したマイクロ波の反射波または透過波を検出する必要があるため、基板とこの基板上に積層される半導体層との間に、前記マイクロ波の反射または透過を妨げる層、例えばボトムゲート型等における電極層等が存在すると、その測定感度が著しく低下してしまう。
【0007】
本発明は、上述の事情に鑑みて為された発明であり、その目的は、非破壊であって測定環境をコントロールすることなく、基板上に導電性を持つ導電層を介して半導体層を形成した測定対象物における前記半導体層の結晶性を評価することができる半導体薄膜結晶性評価装置および半導体薄膜結晶性評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、種々検討した結果、上記目的は、以下の本発明により達成されることを見出した。すなわち、本発明の一態様にかかる半導体薄膜結晶性評価装置は、基板上に導電性を持つ導電層を介して半導体層を形成した測定対象物に、前記半導体層の厚さよりも短い浸透長となる波長域の測定光を照射して、前記測定対象物で反射した前記測定光の反射光を測定する測定部と、前記測定部の出力に基づいて反射スペクトルにおける所定のピークに関する情報を求め、この求めた前記情報に基づいて前記半導体層における結晶性の評価を表す評価指標を求める演算部とを備えることを特徴とする。そして、本発明の他の一態様にかかる半導体薄膜結晶性評価方法は、基板上に導電性を持つ導電層を介して半導体層を形成した測定対象物に、前記半導体層の厚さよりも短い浸透長となる波長域の測定光を照射して、前記測定対象物で反射した前記測定光の反射光を測定する測定工程と、前記測定工程の測定結果に基づいて反射スペクトルにおける所定のピークに関する情報を求め、この求めた前記情報に基づいて前記半導体層における結晶性の評価を表す評価指標を求める演算工程とを備えることを特徴とする。
【0009】
このような構成の半導体薄膜結晶性評価装置および半導体薄膜結晶性評価方法では、基板上に導電層を介して半導体層を形成した測定対象物に対し、この半導体層の厚さよりも短い浸透長となる波長域の測定光が照射され、この測定光の反射光が測定され、そして、この測定結果に基づいて反射スペクトルにおける所定のピークに関する情報が求められ、この情報に基づいて前記半導体層の結晶性が評価される。このように半導体層の厚さよりも短い浸透長となる波長域の測定光が用いられるので、基板とこの基板上に積層される半導体層との間に導電層が介在しても、この測定光の反射光は、この導電層の影響を受けることがない。そして、測定対象物に測定光を照射することによって得られる測定光の反射光を測定するので、測定対象物を破壊することもなく、さらに、測定環境を特にコントロールする必要もない。そして、反射スペクトルにおける所定のピークは、エネルギーバンドの直接遷移に起因して生じるものであるため、半導体層の結晶性に対応して現れる。したがって、この反射スペクトルにおける所定のピークに関する情報に基づいて半導体層における結晶性を評価することができる。このように上記構成の半導体薄膜結晶性評価装置および半導体薄膜結晶性評価方法は、非破壊であって測定環境を特にコントロールすることなく、基板上に導電層を介して半導体層を形成した測定対象物における前記半導体層の結晶性を評価することができる。
【0010】
また、他の一態様では、上述の半導体薄膜結晶性評価装置において、前記測定対象物の前記半導体層は、シリコン薄膜であって、前記測定光は、紫外域の光であることを特徴とする。
【0011】
シリコン薄膜は、略紫外域の光に対し、比較的短い浸透長を有している。このため、このような構成の半導体薄膜結晶性評価装置は、導電層の影響を受けることなく、シリコン薄膜の結晶性を評価することができる。
【0012】
また、他の一態様では、これら上述の半導体薄膜結晶性評価装置において、前記測定対象物の前記半導体層は、シリコン薄膜であって、前記所定のピークは、E2ピークであることを特徴とする。
【0013】
シリコンの反射スペクトルは、例えば、いわゆるE1ピークやE2ピーク等の所定のピークを有し、特に、E2ピークは、半導体層の厚さに依存しない。このため、このような構成の半導体薄膜結晶性評価装置は、シリコン薄膜の結晶性をより的確に評価することができる。
【0014】
また、他の一態様では、これら上述の半導体薄膜結晶性評価装置において、前記測定部は、前記測定光を放射する光源部と、前記光源部から放射された前記測定光を前記測定対象物へ導く光学系と、前記測定光の反射光を分光測定する分光部とを備えることを特徴とする。
【0015】
このような構成の半導体薄膜結晶性評価装置は、半導体層の反射スペクトルを比較的簡易な構成で測定することができる。
【0016】
また、他の一態様では、これら上述の半導体薄膜結晶性評価装置において、前記測定部は、分光エリプソメトリであることを特徴とする。
【0017】
このような構成の半導体薄膜結晶性評価装置は、多波長および多入射角で測定することができ、より高精度に半導体層の反射スペクトルを測定することができる。
【0018】
また、他の一態様では、これら上述の半導体薄膜結晶性評価装置において、 前記測定部は、前記所定のピークに対応する波長を持つ単一波長の光または前記所定のピークに対応する波長を含む狭波長域の光を前記測定光として、ブリュースター角を測定するべく、前記測定対象物に複数の入射角で照射して前記測定対象物で反射した、前記複数の入射角で照射された前記各測定光に対応する各反射光を測定し、前記演算部は、前記測定部で測定した測定結果に基づいてブリュースター角を前記情報として求め、この求めたブリュースター角に基づいて前記半導体層の前記評価指標を求めることを特徴とする。
【0019】
このような構成の半導体薄膜結晶性評価装置は、前記所定のピークに対応する波長を持つ単一波長の光または前記所定のピークに対応する波長を含む狭波長域の光を前記測定光として用いて測定すればよいので、測定光の波長を走査して反射スペクトルを求める必要がなく、より簡便に結晶性を評価することができる。
【0020】
ここで、ブリュースター角θbは、一般には、互いに異なる屈折率を持つ第1および第2媒質における界面にp偏光を入射した場合に、反射率が0となる入射角として定義されるが、本明細書では、この反射率が0となる入射角だけでなく、さらに、反射率が最小となる入射角も含むものとして定義される。
【発明の効果】
【0021】
本発明にかかる半導体薄膜結晶性評価装置および半導体薄膜結晶性評価方法は、非破壊であって測定環境をコントロールすることなく、基板上に導電層を介して半導体層を形成した測定対象物における前記半導体層の結晶性を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1実施形態における半導体薄膜結晶性評価装置の構成を示す図である。
【図2】シリコン薄膜における波長と浸透長との関係を示す図である。
【図3】シリコン薄膜における反射スペクトルを示す図である。
【図4】シリコン薄膜における膜厚別の反射スペクトルを示す図である。
【図5】第2実施形態の半導体薄膜結晶性評価装置における測定部の構成を示す図である。
【図6】第3実施形態の半導体薄膜結晶性評価装置における測定部の構成を示す図である。
【図7】消衰係数別の入射角と反射率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明にかかる実施の一形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、適宜、その説明を省略する。また、本明細書において、総称する場合には添え字を省略した参照符号で示し、個別の構成を指す場合には添え字を付した参照符号で示す。
【0024】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態における半導体薄膜結晶性評価装置の構成を示す図である。図1(A)は、全体構成を示し、図1(B)は、演算部の電気的な構成を示す。図2は、シリコン薄膜における波長と浸透長との関係を示す図である。図2の横軸は、nm単位で示す波長であり、その縦軸は、nm単位で示す浸透長である。図3は、シリコン薄膜における反射スペクトルを示す図である。図3の横軸は、nm単位で示す波長であり、その縦軸は、%単位で示す反射率である。図2および図3において、実線は、p-Si薄膜の場合における測定結果であり、破線は、a-Si薄膜の場合における測定結果である。図4は、シリコン薄膜における膜厚別の反射スペクトルを示す図である。図4の横軸は、nm単位で示す波長(wavelength)であり、その縦軸は、%単位で示す反射率(Reflectance)である。破線は、膜厚が40nmである場合における測定結果であり、比較的太い実線は、膜厚が50nmである場合における測定結果であり、そして、比較的細い実線は、膜厚が60nmである場合における測定結果である。図4は、シミュレーション結果である。
【0025】
半導体薄膜結晶性評価装置Daは、測定対象物WAにおける半導体層LA3の結晶性を評価する装置であり、例えば、図1に示すように、測定部1と、演算部2とを備えて構成される。
【0026】
測定対象物WAは、基板LA1上に、導電性を持つ導電層LA2を介して半導体層LA3を形成したものである。このような測定対象物WAは、例えば、太陽電池やいわゆるボトムゲート型構造のTFT等においてよく見られるものである。例えば、ガラス基板上に、第1電極、半導体層および第2電極の順で順次に積層されることによって、太陽電池が構成される。また例えば、ガラス基板上に、ゲート電極、ゲート絶縁層、半導体層およびソース−ドレイン電極の順で順次に積層されることによって、TFTが構成される。
【0027】
基板LA1は、任意の材料によって形成された任意の形状であってよく、特に限定されないが、例えば、測定対象物WAの使用用途、すなわち、半導体層LA3の使用用途に応じて適宜に決定され、例えば、フラットディスプレイのTFTや太陽電池等の場合では、ガラスの薄板である。
【0028】
導電層LA2は、基板LA1上に積層された例えば金属材料(合金を含む)や透明電極材料(例えばITO等)等の薄膜である。導電層LA2は、単層であってよく、また、複数層であってもよい。また、導電層LA2が複数層である場合には、複数層の中に導電性を持つ層が少なくとも含まれていれば、導電性を有しない絶縁体の層が含まれていてもよい。
【0029】
半導体層LA3は、導電層LA2上に積層された所定の半導体材料の薄膜である。この半導体材料は、半導体層LA3の使用用途に応じて適宜に決定される。半導体層LA3は、例えば、50nm〜数μmのシリコン薄膜である。現時点の液晶ディスプレイに用いられるTFTにおけるシリコン薄膜の厚さは、一般的に、50nm程度である。
【0030】
測定部1は、測定対象物WAに、半導体層LA3の厚さよりも短い浸透長となる波長域の測定光を照射して、測定対象物WAで反射した前記測定光の反射光を測定する装置である。本実施形態では、例えば、図1に示すように、光源部11と、光学系12と、分光部13と、ステージ14とを備えて構成される。
【0031】
浸透長は、光を吸収する測定対象物に入射させた場合に、光が照射される表面から、その光の光強度が入射強度の1/eとなる地点までの距離(深さ)である。eは、ネイピア数(Napier’s constant、オイラー数)であり、自然対数の底として用いられる定数である。
【0032】
光源部11は、測定光を放射する装置である。測定光は、半導体層LA3の厚さよりも短い浸透長となる波長域の光である。浸透長は、通常、材料によって異なり、また、波長依存性を有している。
【0033】
例えば、半導体層LA3がp-Si薄膜である場合には、図2に実線で示すように、波長約360nm以下では浸透長が10nm以下で波長の増加に従って大略緩やかに長くなり、その後、波長の増加に従って急激に長くなり、波長約385nmでは浸透長が約50nmであり、波長約390nmでは浸透長が約100nmである。また例えば、半導体層LA3がa-Si薄膜である場合には、図2に破線で示すように、波長約400nm以下では浸透長が15nm以下で波長の増加に従って緩やかに長くなり、その後、波長の増加に従ってより大きな割合で長くなり、波長約500nmでは浸透長が約35nmである。μc-Si薄膜の浸透長は、微結晶であることから、このようなp-Si薄膜の浸透長の波長特性とa-Si薄膜の浸透長の波長特性との間に存在するものと考えられる。
【0034】
測定対象物WAがシリコン薄膜である場合には、シリコン薄膜の浸透長が図2に示す波長特性を有するので、好ましくは、測定光は、200nm〜450nmの波長範囲の光である。ここで、200nmより短い光は、空気中の窒素や酸素と反応してしまうため、測定環境を真空にコントロールする必要が生じてしまい好ましくない。450nmの光は、浸透長が比較的長くなり、シリコン薄膜を透過する虞があって好ましくない。
【0035】
また、より好ましくは、シリコン薄膜が略紫外域の光に対し比較的短い浸透長を有しているため、測定光は、紫外域の光である。これによって半導体薄膜結晶性評価装置Daは、導電層LA2の影響を受けることなく、シリコン薄膜の結晶性を評価することが可能となる。より具体的には、測定光は、250nm〜375nmの波長範囲における光である。ここで、250nmより短い紫外光を放射する光源は、特殊な光源となってしまい、入手し難い一方、250nm以上の紫外光を放射する光源は、一般的な光源であり、比較的入手し易い。そして、375nmより長い光は、上述したように、現時点の液晶ディスプレイに用いられるTFTにおけるボトムゲートの厚さが一般的に50nm程度であることから、このようなボトムゲートのシリコン薄膜を透過する虞があって好ましくない。このような光源部11として、例えば、重水素光源を挙げることができる。
【0036】
光学系12は、光源部11から放射された測定光を測定対象物WAへ導く光学素子である。本実施形態では、例えば、図1(A)に示すように、ステージ14上に略水平に載置された測定対象物WAの水平な表面に対し、その表面の法線方向から測定光を測定対象物WAに照射するとともに、分光部13と重ならないように光源部11を配置するべく、水平方向で測定光を放射するように光源部11を配置するために、光学系12は、法線方向に対し45度傾けて配置されるハーフミラ12が用いられている。
【0037】
分光部13は、測定光の反射光を分光測定する分光計であり、演算部2に接続される。本実施形態では、例えば、図1(A)に示すように、その受光開口が測定対象物WAにおける表面の法線方向に向くように、分光部13が配置される。分光計は、例えば、スリット形状(細長な矩形形状)の受光開口から入射された光を回折する回折格子と、前記回折格子で回折された回折光を受光する複数の光電変換素子とを備えて構成され、受光開口から入射された光は、回折格子で波長に応じた方向に回折され、これら各方向の各回折光は、複数の光電変換素子のそれぞれで受光され、波長ごとの受光強度が出力される。
【0038】
このような構成の測定部1では、光源部11から放射された測定光は、水平方向からハーフミラ12に入射され、このハーフミラ12で測定対象物WAの表面方向に反射され、測定対象物WAの半導体層LA3に法線方向から照射される。この照射された測定光は、測定対象物WAの半導体層LA3にその浸透長の範囲で浸透するとともに反射され、ハーフミラ12を透過して分光部13に入射される。この入射された測定光の反射光は、分光部13で分光され、反射光を分光した測定結果が演算部2へ出力される。このように演算部2には、測定対象物WAに対する反射スペクトルが測定部1の分光部13から入力される。このように本実施形態では、光源部11、光学系12および分光部13という比較的簡易な構成で半導体層LA3の反射スペクトルを測定することができる。
【0039】
ステージ14は、測定対象物WAを載置する載置台である。ステージ14は、測定対象物WAの測定位置を変更するべく、測定対象物WAを水平面内で移動することができるように構成されており、演算部2に接続され、演算部2の制御に従って駆動される。ステージ14は、例えば、測定対象物WAを水平面内でX方向およびY方向に移動可能なXYステージであり、また例えば、測定対象物WAを水平面内で周方向および径方向に移動可能な回転ステージである。
【0040】
演算部2は、測定部1の出力に基づいて反射スペクトルにおける所定のピークに関する情報を求め、この求めた情報に基づいて半導体層LA3における結晶性の評価を表す評価指標を求める装置である。演算部2は、本実施形態では、例えば、図1に示すように、演算制御部21と、出力部22と、入力部23とを備えて構成される。
【0041】
入力部23は、例えば、測定開始等を指示するコマンドや測定対象物WAの属性情報等のデータを入力するための装置であり、例えば、キーボード231やマウス232等である。入力部23は、また例えば、複数の入力スイッチを備えた操作パネルであってもよい。出力部22は、入力部23で受け付けたコマンドやデータおよび測定結果等を出力するための装置であり、例えば、CRTディスプレイ、LCD(液晶ディスプレイ)、有機ELディスプレイおよびプラズマディスプレイ等の表示装置やプリンタ等の印刷装置等である。これら入力部23および出力部22は、演算制御部7に接続される。
【0042】
演算制御部21は、半導体薄膜結晶性評価装置Daの各部を当該機能に応じて制御する回路であり、例えば、半導体薄膜結晶性評価装置Daの各部を当該機能に応じて制御するための制御プログラムや測定対象物WAにおける半導体層LA3の結晶性を測定部1の分光部13の出力に基づいて求める演算プログラム等の各種の所定のプログラム、および、前記所定のプログラムの実行に必要なデータ等の各種の所定のデータ等を記憶する、不揮発性の記憶素子であるROM(Read Only Memory)や書き換え可能な不揮発性の記憶素子であるEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)、前記所定のプログラムを読み出して実行することによって所定の演算処理や制御処理を行うCPU(Central Processing Unit)、前記所定のプログラムの実行中に生じるデータ等を記憶するいわゆる前記CPUのワーキングメモリとなるRAM(Random Access Memory)、ならびに、これらの周辺回路を備えたマイクロコンピュータ等によって構成される。演算制御部21は、機能的に、ピーク情報演算部211と、評価指標演算部212と、測定光学系制御部213と、ステージ制御部214とを備えている。
【0043】
ピーク情報演算部211は、測定部1の出力に基づいて反射スペクトルにおける反射率が極大となる所定のピークに関する情報を求めるものである。この反射スペクトルの前記ピークは、半導体におけるエネルギーバンドの遷移に起因して生じるものである。エネルギーバンドは、バンド理論から複数の原子が周期性を有して配列することから生じる。このため、反射スペクトルの前記ピークは、半導体薄膜の結晶性に対応して現れ、半導体薄膜の結晶性が良いほど明確に現れ、結晶性が崩れ悪くなるほど不明確となり、やがて現れなくなる。ピークに関する情報(ピーク情報)は、例えば、ピークの有無や、ピークの大きさ(ピークにおける反射率)や、ピークが現れる波長等である。
【0044】
シリコン薄膜の反射スペクトルは、図3に示すように、大略、波長が長くなるに従って反射率が小さくなって、所定の波長において反射率が最小となり、その後、波長が長くなるに従って反射率が大きくなるプロファイルである。そして、a-Si薄膜では、図3に破線で示すように、a-Si薄膜が非晶質であることから、a-Si薄膜の反射スペクトルは、所定の波長において反射率が極大となる所定のピークが認められず、前記大略のプロファイルとなる。一方、p-Si薄膜では、図3に実線で示すように、p-Si薄膜が比較的良い結晶性を持つことから、p-Si薄膜の反射スペクトルは、所定の波長において反射率が極大となる所定のピークが認められ、前記大略のプロファイルにこの所定のピークを持つプロファイルとなる。このp-Si薄膜の反射スペクトルにおける前記ピークは、紫外波長域に複数有り、例えば、図3に示すようなシリコンにおけるエネルギーバンドの直接遷移に起因して生じるE1ピークやE2ピーク等である。図3に示す例では、p-Si薄膜において、このE1ピークは、波長約400nmで現れ、E2ピークは、これより短波長側である波長約275nmで現れている。なお、図示しないが、μc-Si薄膜の反射スペクトルは、微結晶であることから、このようなp-Si薄膜の反射スペクトルとa-Si薄膜の反射スペクトルとの間に存在するものと考えられる。そして、μc-Si薄膜において、E1ピークは、波長約365nm(≒3.4eV)で現れ、E2ピークは、これより短波長側である波長約290nm(≒4.3eV)で現れる。
【0045】
ここで、エネルギーバンドの直接遷移に起因して生じる複数のピークのうち、長波長側から短波長側へ順に、E1ピーク、E2ピーク、・・・と呼称することとする。
【0046】
したがって、測定対象物WAの半導体層LA3がシリコン薄膜である場合には、ピーク情報演算部211は、測定部1の分光部13で測定された反射スペクトルからE1ピークおよびE2ピークの少なくとも一方を探索し、E1ピークに関する情報(E1ピーク情報)およびE2ピークに関する情報(E2ピーク情報)の少なくとも一方を求める。
【0047】
そして、測定対象物WAの半導体層LA3がシリコン薄膜である場合には、図4に示すように、E1ピークが現れる波長は、シリコン薄膜の厚さに依存し、膜厚が薄くなるに従って短波長側へシフトする一方、E2ピークが現れる波長は、シリコン薄膜の厚さに依存せず、約275nmで略一定である。このため、ピーク情報演算部211は、測定部1の分光部13で測定された反射スペクトルからE2ピークを探索し、E2ピーク情報を求めることが好ましい。これによって、半導体薄膜結晶性評価装置Daは、シリコン薄膜の結晶性をより的確に評価することができる。後述の第2および第3実施形態の半導体薄膜結晶性評価装置Db、Dcも同様である。
【0048】
評価指標演算部212は、ピーク情報演算部211によって求められたピーク情報に基づいて測定対象物WAの半導体層LA3における結晶性の評価を表す評価指標を求めるものである。結晶性とは、前述したように、結晶化している程度(度合い)である。
【0049】
評価指標は、例えば、所定のピークの大きさや所定のピークが現れる波長等のピーク情報そのものであってよい。評価指標がピークの大きさである場合では、例えば、バルクのシリコン結晶におけるピークの大きさを基準とするべく、評価指標演算部212は、ピーク情報演算部211によって求められたピークの大きさ(例えばE2ピークの大きさ)を、バルクのシリコン結晶におけるピークの大きさ(この例ではE2ピークの大きさ)で規格化することが好ましい。
【0050】
また例えば、評価指標は、3段階評価や5段階評価等であってもよい。この場合では、例えば、ピーク情報(例えばE2ピークの大きさ)の値と評価指標の階級(例えば3段階評価や5段階評価等における各段階)とを対応付けるルックアップテーブルが予め作成され、この作成されたルックアップテーブルが演算制御部21に記憶される。そして、評価指標演算部212は、ピーク情報演算部211によって求められたピーク情報(この例ではE2ピークの大きさ)に対応する評価指標の階級を前記ルックアップテーブルから求めることで、ピーク情報(この例ではE2ピークの大きさ)に対応する評価指標を求める。
【0051】
測定光学系制御部213は、光源部11の動作および分光部13の動作を制御するものである。
【0052】
ステージ制御部214は、測定対象物WAにおける複数の測定箇所を測定するために、測定対象物WAを水平面内で移動するように、ステージ14を制御するものである。
【0053】
このような構成の半導体薄膜結晶性評価装置Daでは、評価が開始されると、測定対象物WAにおける初期の測定箇所を分光部13によって測定することができるように、演算制御部21のステージ制御部214によってステージ14が制御される。
【0054】
続いて、演算制御部21の測定光学系制御部213によって測定部1の光源部11が制御され、測定光が光源部11によって放射される。測定光が放射されると、上述したように、この測定光が測定対象物WAに照射され、その反射光が分光部13に入射される。
【0055】
続いて、演算制御部21の測定光学系制御部213によって測定部1の分光部13が制御され、測定光の反射光が分光部13によって分光され、測定対象物WAの反射スペクトルが分光部13によって測定される。この測定された反射スペクトルは、測定結果として測定部1の分光部13から演算部2の演算制御部21へ出力される。
【0056】
続いて、演算部2の演算制御部21では、測定部1で測定された反射スペクトルにおける所定のピークに関する情報がピーク情報演算部211によって求められる。
【0057】
続いて、この求められたピーク情報に基づいて測定対象物WAの半導体層LA3に対する評価指標が評価指標演算部212によって求められる。
【0058】
続いて、必要に応じて、測定対象物WAにおける次の測定箇所を分光部13によって測定することができるように、演算制御部21のステージ制御部214によってステージ14が制御され、上述の動作が同様に実行され、測定対象物WAの半導体層LA3に対する評価指標が求められる。以下、測定すべきすべての測定箇所に対し、同様の処理が実行される。
【0059】
そして、この求められた所定の測定箇所における評価指標が演算制御部21の制御によって出力部22に出力される。
【0060】
以上、説明したように、本実施形態の半導体薄膜結晶性評価装置Daおよびこれに実装された半導体薄膜結晶性評価方法では、基板LA1上に導電層LA2を介して半導体層LA3を形成した測定対象物WAに対し、この半導体層LAの厚さよりも短い浸透長となる波長域の測定光が照射され、この測定光の反射光が測定され、そして、この測定結果に基づいて反射スペクトルにおけるピーク情報が求められ、このピーク情報に基づいて半導体層LA3の結晶性が評価される。このように半導体層LA3の厚さよりも短い浸透長となる波長域の測定光が用いられるので、基板LA1とこの基板LA1上に積層される半導体層LA3との間に導電層LA2が介在しても、この測定光の反射光は、この導電層LA2の影響を受けることがない。そして、測定対象物WAに測定光を照射することによって得られる測定光の反射光を測定するので、測定対象物WAを破壊することもなく、さらに、測定環境を特にコントロールする必要もない。例えば、室温(例えば20℃ないし27℃の間の温度)程度の常温で、しかも大気圧程度の常圧で測定することができる。そして、反射スペクトルにおける所定のピークは、エネルギーバンドの遷移に起因して生じるものであるため、半導体層LA3の結晶性に対応して現れる。したがって、この反射スペクトルにおける所定のピークに関するピーク情報に基づいて半導体層LA3における結晶性を評価することができる。このように上記構成の半導体薄膜結晶性評価装置Daおよび該方法は、非破壊であって測定環境を特にコントロールすることなく、基板LA1上に導電層LA2を介して半導体層LA3を形成した測定対象物WAにおける半導体層LA3の結晶性を評価することができる。
【0061】
このため、このような上記構成の半導体薄膜結晶性評価装置Daは、例えば、製造ラインに配置することができ、インラインで測定対象物WAの半導体層LA3を評価することが可能となる。後述の第2および第3実施形態の半導体薄膜結晶性評価装置Db、Dcも同様である。
【0062】
次に、別の実施形態について説明する。
(第2実施形態)
図5は、第2実施形態の半導体薄膜結晶性評価装置における測定部の構成を示す図である。第1実施形態における半導体薄膜結晶性評価装置Daは、光源部11、光学系12、分光部13およびステージ14を備えた測定部1によって測定対象物WAにおける半導体層LA3の反射スペクトルを測定したが、第2実施形態における半導体薄膜結晶性評価装置Dbは、分光エリプソメトリの測定部4によって測定対象物WAにおける半導体層LA3の反射スペクトルを測定するものである。このため、第2実施形態の半導体薄膜結晶性評価装置Dbにおける演算部は、第1実施形態の半導体薄膜結晶性評価装置Daにおける演算部2と同様であるので、その説明を省略する。
【0063】
この第2実施形態の半導体薄膜結晶性評価装置Dbにおける測定部4は、例えば、図5に示すように、前記測定光を放射する光源部41と、光源部41から放射された測定光を所定の偏光成分の偏光に偏光させて測定対象物WAへブリュースター角で導く偏光子421および測定対象物WAで反射した測定光の正反射方向の反射光から所定の偏光成分を取り出して射出する検光子422を備える光学系42と、検光子422から射出された光を分光測定する分光部43とを備えて構成され、いわゆる回転検光子型の分光エリプソメトリである。そして、測定部4は、第1実施形態の測定部1と同様に、測定対象物WAを載置する載置台であるステージ44をさらに備えている。また、検光子422および分光部43は、これら検光子422および分光部43の光軸が、光源部41および偏光子421の光軸に沿って測定対象物WAへ入射される測定光の正反射方向に一致するように、配置される。
【0064】
このような構成の測定部4では、光源部11から放射された測定光は、偏光子421に入射され、この偏光子421で所定の偏光成分の偏光(直線偏光)、例えばP偏光が射出され、ブリュースター角の入射角で測定対象物WAの半導体層LA3に照射される。このブリュースター角で測定対象物WAの半導体層LA3に入射された測定光は、測定対象物WAの半導体層LA3にその浸透長の範囲で浸透するとともに反射される。この所定の偏光成分の測定光における反射光(楕円偏光)は、正反射方向に配置された検光子422に入射され、所定の偏光成分が取り出され、射出される。この検光子422から射出された光は、分光部43に入射され、分光部43で分光される。ここで、測定部4の分光部43では、所定の偏光成分の測定光における反射光の偏光状態の変化(Ψ、△)に基づいて反射率を演算し、測定対象物WAに対する反射スペクトルが演算される。なお、△は、楕円偏光の反射光の位相角であり、Ψは、楕円の振幅強度比から求められる正接である。そして、この求められた測定対象物WAに対する反射スペクトルが測定結果として測定部4の分光部43から演算部2へ出力される。このように演算部2には、測定対象物WAに対する反射スペクトルが測定部4の分光部43から入力される。
【0065】
このように第2実施形態における半導体薄膜結晶性評価装置Dbでは、測定対象物WAにおける半導体層LA3の反射スペクトルをいわゆる分光エリプソメトリの測定部4で測定するので、測定対象物WAの半導体層LA3を多波長および多入射角で測定することができ、より高精度に半導体層LA3の反射スペクトルを測定することができる。
【0066】
なお、上述では、測定部4は、回転検光子型の分光エリプソメトリで構成されたが、回転補償型の分光エリプソメトリや位相変調器型の分光エリプソメトリであってもよい。
【0067】
次に、別の実施形態について説明する。
(第3実施形態)
図6は、第3実施形態の半導体薄膜結晶性評価装置における測定部の構成を示す図である。図6(A)は、全体構成を示し、図6(B)は、演算部の電気的な構成を示す。図7は、消衰係数別の入射角と反射率との関係を示す図である。図7の横軸は、度(゜)単位で示す入射角であり、その縦軸は、反射率である。*は、消衰係数が3である場合の測定結果を示し、■は、消衰係数が4である場合の測定結果を示し、そして、−は、消衰係数が5である場合の測定結果を示す。図7は、n=2.5のシミュレーション結果である。
【0068】
第1および第2実施形態では、測定部1、4によって測定対象物WAの半導体層LA3における反射スペクトルを求め、所定のピークに関するピーク情報に基づいて評価指標を求めるものであったが、第3実施形態における半導体薄膜結晶性評価装置Dcは、反射スペクトルにおける反射率が極大となる所定のピークに対応する波長の偏光の測定光を測定対象物WAに複数の入射角で照射することによってブリュースター角θbを前記ピーク情報として求め、この求めたブリュースター角θbに基づいて評価指標を求めるものである。
【0069】
この第3実施形態における半導体薄膜結晶性評価装置Dcは、測定対象物WAに、半導体層LA3の厚さよりも短い浸透長となる波長域の測定光を照射して、測定対象物WAで反射した測定光の反射光を測定する測定部6と、測定部6の出力に基づいて反射スペクトルにかかるピーク情報を求め、この求めたピーク情報に基づいて測定対象物WAの半導体層LA3における評価指標を求める演算部7とを備えて構成される。より具体的には、測定部6は、反射スペクトルにおける反射率が極大となる所定のピークに対応する波長を持つ単一波長の光または前記所定のピークに対応する波長を含む狭波長域の光を測定光として、ブリュースター角を測定するべく、測定対象物WAに複数の入射角で照射して測定対象物WAで反射した、前記複数の入射角で照射された各測定光に対応する各反射光を測定ものであり、演算部7は、この測定部6で測定した測定結果に基づいてブリュースター角θbを前記ピーク情報として求め、この求めたブリュースター角θbに基づいて測定対象物WAにおける半導体層LA3の評価指標を求めるものである。
【0070】
このような測定部6は、例えば、図6(A)に示すように、光源部61と、光学系62と、受光部63と、ステージ64とを備えて構成される。
【0071】
光源部61は、測定光を放射する装置であり、本実施形態では、前記測定光は、測定対象物WAにおける半導体層LA3の厚さよりも短い浸透長となる波長域の光であって、かつ、反射スペクトルにおける反射率が極大となる所定のピークに対応する波長を持つ単一波長の光、または、前記所定のピークに対応する波長を含む狭波長域の光である。前記狭波長域の波長幅は、この狭波長域の光で得られた評価結果が前記単一波長の光で得られた評価結果と実質的に一致するような幅である。例えば、測定光は、E2ピークに対応する波長275nmの単一波長の光や、この波長275nmの波長を含む狭波長域の光(例えば、260nm〜290nmの紫外光や、好ましくは270nm〜280nmの紫外光)である。測定光は、所定のビーム幅で光源部61から放射される。
【0072】
光学系62は、光源部61から前記所定のビーム幅で放射された測定光における所定の偏光成分の光を測定対象物WAにおける半導体層LA3へ導くとともに、その正反射方向の反射光における所定の偏光成分の光を受光部63へ導くものである。光学系62は、例えば、光源部41から放射された測定光を所定の偏光成分の偏光(例えばp偏光)に偏光させて射出する偏光子621と、偏光子621から射出された所定の偏光の測定光を集光して測定対象物WAへ導くレンズ622と、測定対象物WAで反射した前記所定の偏光の測定光における反射光を前記所定のビーム幅の平行光にするレンズ623と、レンズ623から射出された前記所定の偏光の測定光における反射光から所定の偏光成分(例えば上記例ではp偏光成分)を取り出して射出する検光子624とを備えて構成される。光源部61、偏光子621およびレンズ622は、これら光源部61、偏光子621およびレンズ622の光軸が測定対象物WAの平面における法線方向に対して所定の角度となるように、配置され、これら検光子624、レンズ623および受光部63は、これら検光子624、レンズ623および受光部63の光軸が、光源部61、偏光子621およびレンズ622の光軸に沿って測定対象物WAへ入射される測定光の正反射方向に一致するように、配置される。
【0073】
受光部63は、光学系62の検光子624から射出された前記反射光における所定の偏光成分の偏光を受光し、その受光光強度を測定するものであり、直線状に一次元配列された複数の光源変換素子を備えて構成される。このような受光部63は、例えば、ラインCCDセンサ等を備えて構成される。
【0074】
このような構成の測定部6では、光源部61から放射された所定のビーム幅を持った測定光は、偏光子621に入射され、この偏光子621で所定の偏光成分の偏光、例えばp偏光が射出され、レンズ622に入射される。このレンズ622に入射された所定のビーム幅の測定光は、集光され、測定対象物WAの半導体層LA3に照射される。このようにレンズ622を用いることによって測定対象物WAの半導体層LA3に一度に複数の入射角で前記測定光を照射することができる。そして、この様々な入射角で測定対象物WAの半導体層LA3に入射された前記測定光は、測定対象物WAの半導体層LA3にその浸透長の範囲で浸透するとともに反射される。この所定の偏光成分の測定光における反射光は、正反射方向に配置されたレンズ623に入射され、前記所定のビーム幅の平行光となって射出される。このレンズ623から射出された前記所定のビーム幅の前記反射光は、検光子624に入射され、前記所定の偏光成分(例えばこの例ではp偏光成分)が取り出され、前記所定のビーム幅で射出される。この検光子624から射出された前記反射光の偏光は、受光部63に前記所定のビーム幅で入射され、受光部63で受光される。ここで、前記所定のビーム幅の前記反射光には、レンズ622およびレンズ623のレンズ作用から、複数の入射角で測定対象物WAの半導体層LA3に入射された各測定光に対応する各反射光が平行に並ぶように含まれており、この各入射角の各測定光に対応する各反射光の各光強度を測定するように、受光部63は、上述したように、一次元配列された複数の光電変換素子を備えて構成されている。すなわち、受光部63の各光電変換素子は、前記複数の入射角のそれぞれに予め対応付けられており、これら各入射角の各測定光に対応する各反射光を受光するものである。このように受光部63は、一次元配列された複数の光電変換素子を用いることによって、前記複数の入射角で測定対象物WAの半導体層LA3に入射された各測定光に対応する各反射光の各光強度を一括で測定することができる。そして、このように測定された前記各反射光の各光強度が測定結果として測定部6の受光部63から演算部7へ出力される。
【0075】
また、演算部7は、本実施形態では、例えば、図6(B)に示すように、演算制御部71と、出力部72と、入力部73とを備えて構成される。出力部72および入力部73は、第1実施形態の出力部22および入力部23と同様であるので、その説明を省略する。
【0076】
演算制御部71は、第1実施形態の演算制御部21と同様に、半導体薄膜結晶性評価装置Dcの各部を当該機能に応じて制御する回路であり、例えば、マイクロコンピュータ等によって構成される。そして、本実施形態では、演算制御部71は、機能的に、ブリュースター角演算部711と、評価指標演算部712と、測定光学系制御部713と、ステージ制御部714とを備えている。
【0077】
ブリュースター角演算部711は、測定部6で測定された前記各反射光の各光強度に基づいてピーク情報としてブリュースター角θbを求めるものである。より具体的には、ブリュースター角演算部711では、測定部6の受光部63から出力された各光電変換素子の各出力の中から最も小さい光強度の反射光を受光した光電変換素子が探索され、この探索された光電変換素子に対応付けられた入射角がブリュースター角θbとして求められる。
【0078】
ブリュースター角θbは、一般には、互いに異なる屈折率を持つ第1および第2媒質における界面にp偏光を入射した場合に、反射率が0となる入射角として定義されるが、本明細書では、この反射率が0となる入射角だけでなく、上述のように、さらに、反射率が最小となる入射角も含むものとして定義される。
【0079】
評価指標演算部712は、ブリュースター角演算部711によって求められたブリュースター角θbに基づいて測定対象物WAの半導体層LA3における結晶性の評価を表す評価指標を求めるものである。
【0080】
ここで、入射角θで入射光を斜め入射した場合における反射率R(θ)は、入射角θ、屈折率nおよび消衰係数kの各パラメータを含む所定の関数となる。ここで、波長275nm付近の入射光に対して屈折率nは、略一定であり、このE2ピークに対応する波長275nm付近の光を測定光とすれば、斜入射の場合における反射率R(θ)は、入射角θおよび消衰係数kの各パラメータを含む所定の関数となり、例えば、図7に示すプロファイルを持つ。すなわち、測定対象の水平な平面における法線方向を0゜として入射角の増加に従って反射率R(θ)は、比較的徐々に減少し、所定の入射角で反射率は、極小値となり、その後、入射角の増加に従って反射率は、比較的急激に増加する。そして、このようなプロファイルを持つ反射率R(θ)は、図7に示すように、消衰係数kの増加に従って反射率が増加する方向に全体的にシフトする。すなわち、反射率R(θ)は、消衰係数k=3の測定結果から、消衰係数k=4の測定結果へ、さらに、消衰係数k=5の測定結果へ、シフトする。
【0081】
一方、ブリュースター角θbは、消衰係数kと比例関係にあり、消衰係数kの増加に比例して変化するものである。そして、消衰係数kは、結晶性の向上に従い単調に増加するものである。
【0082】
したがって、複数の入射角での各測定光に対する各反射光の光強度を測定することによってブリュースター角θbを測定し、この測定したブリュースター角θbに基づいて測定対象物WAの結晶性を評価することが可能となる。
【0083】
シリコン薄膜の消衰係数kは、約3〜5の範囲であり、ブリュースター角θbもこの範囲に対応する範囲となることから、第1実施形態と同様に、評価指標は、例えば、ブリュースター角θbの大きさであってよく、また例えば、評価指標は、3段階評価や5段階評価等であってもよい。第1実施形態と同様に、ブリュースター角θbの大きさを評価指標とする場合には、評価指標演算部712は、ブリュースター角演算部711によって求められたブリュースター角θbを、バルクのシリコン結晶におけるブリュースター角で規格化することが好ましく、また、多段階評価を評価指標とする場合には、例えば、ブリュースター角θbの大きさと評価指標の階級とを対応付けるルックアップテーブルが予め作成され、この作成されたルックアップテーブルが演算制御部71に記憶され、そして、評価指標演算部712は、ブリュースター角演算部711によって求められたブリュースター角θbの大きさに対応する評価指標の階級を前記ルックアップテーブルから求めることで、ブリュースター角θbの大きさに対応する評価指標を求める。
【0084】
測定光学系制御部713は、第1実施形態の測定光学系制御部213と同様に、光源部61の動作および受光部63の動作を制御するものである。ステージ制御部714は、第1実施形態のステージ制御部214と同様に、測定対象物WAにおける複数の測定箇所を測定するために、測定対象物WAを水平面内で移動するように、ステージ64を制御するものである。
【0085】
このような構成の半導体薄膜結晶性評価装置Dcでは、評価が開始されると、測定対象物WAにおける初期の測定箇所を測定部6の受光部63によって測定することができるように、演算制御部71のステージ制御部714によってステージ64が制御される。
【0086】
続いて、演算制御部71の測定光学系制御部713によって測定部6の光源部61が制御され、測定光が光源部61によって放射される。測定光が放射されると、上述したように、この測定光が測定対象物WAに複数の入射角で照射され、これら各入射角の各測定光に対応する各反射光が受光部63に入射される。
【0087】
続いて、演算制御部71の測定光学系制御部713によって測定部6の受光部63が制御され、各入射角の各測定光に対応する各反射光が受光部63によって受光され、これら各反射光の各光強度が受光部63によって測定される。この測定された各入射角の各測定光に対応する各反射光の各光強度は、測定結果として測定部6の受光部63から演算部7の演算制御部71へ出力される。
【0088】
続いて、演算部7の演算制御部71では、測定部6で測定された測定結果に基づいて前記ピーク情報としてブリュースター角θbがブリュースター角演算部711によって求められる。
【0089】
続いて、この求められたブリュースター角θbに基づいて測定対象物WAの半導体層LA3に対する評価指標が評価指標演算部712によって求められる。
【0090】
続いて、必要に応じて、測定対象物WAにおける次の測定箇所を測定部6の受光部63によって測定することができるように、演算制御部71のステージ制御部714によってステージ64が制御され、上述の動作が同様に実行され、測定対象物WAの半導体層LA3に対する評価指標が求められる。以下、測定すべきすべての測定箇所に対し、同様の処理が実行される。
【0091】
そして、この求められた所定の測定箇所における評価指標が演算制御部71の制御によって出力部72に出力される。
【0092】
以上、説明したように、本実施形態の半導体薄膜結晶性評価装置Dcおよびこれに実装された半導体薄膜結晶性評価方法では、第1実施形態と同様に、半導体層LA3の厚さよりも短い浸透長となる波長域の測定光が用いられるので、基板LA1とこの基板LA1上に積層される半導体層LA3との間に導電層LA2が介在しても、この測定光の反射光は、この導電層LA2の影響を受けることがない。そして、測定対象物WAに測定光を照射することによって得られる測定光の反射光を測定するので、測定対象物WAを破壊することもなく、さらに、測定環境を特にコントロールする必要もない。そして、反射スペクトルにおける所定のピーク、例えばE2ピークに対応する波長275nm付近の光が測定光として用いられるので、測定光の波長を走査して反射スペクトルを求める必要がなく、より簡便に結晶性を評価することができる。このように上記構成の半導体薄膜結晶性評価装置Dcおよび該方法は、非破壊であって測定環境を特にコントロールすることなく、基板LA1上に導電層LA2を介して半導体層LA3を形成した測定対象物WAにおける半導体層LA3の結晶性をより簡便に評価することができる。
【0093】
なお、上述の実施形態では、点測定であったが、測定光を図6の紙面法線方向(光軸に直交するとともに測定対象物WAの表面に平行な方向)に延びるライン光とするとともに、2次元アレイ状に複数の光電変換素子を配置した2次元アレイセンサを備える受光部を用いることによって、同時に、多点を測定することができ、より短時間で測定対象物WAにおける所定の面積に亘る表面の結晶性を評価することができる。
【0094】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【符号の説明】
【0095】
Da、Db、Dc 半導体薄膜結晶性評価装置
WA 測定対象物
LA1 基板
LA2 導電層
LA3 半導体層
1、4、6 測定部
2、7 演算部
21、71 演算制御部
211 ピーク情報演算部
212、712 評価指標演算部
711 ブリュースター角演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に導電性を持つ導電層を介して半導体層を形成した測定対象物に、前記半導体層の厚さよりも短い浸透長となる波長域の測定光を照射して、前記測定対象物で反射した前記測定光の反射光を測定する測定部と、
前記測定部の出力に基づいて反射スペクトルにおける所定のピークに関する情報を求め、この求めた前記情報に基づいて前記半導体層における結晶性の評価を表す評価指標を求める演算部とを備えること
を特徴とする半導体薄膜結晶性評価装置。
【請求項2】
前記測定対象物の前記半導体層は、シリコン薄膜であって、
前記測定光は、紫外域の光であること
を特徴とする請求項1に記載の半導体薄膜結晶性評価装置。
【請求項3】
前記測定対象物の前記半導体層は、シリコン薄膜であって、
前記所定のピークは、E2ピークであること
を特徴とする請求項1または請求項2に記載の半導体薄膜結晶性評価装置。
【請求項4】
前記測定部は、前記測定光を放射する光源部と、前記光源部から放射された前記測定光を前記測定対象物へ導く光学系と、前記測定光の反射光を分光測定する分光部とを備えること
を特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の半導体薄膜結晶性評価装置。
【請求項5】
前記測定部は、分光エリプソメトリであること
を特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の半導体薄膜結晶性評価装置。
【請求項6】
前記測定部は、前記所定のピークに対応する波長を持つ単一波長の光または前記所定のピークに対応する波長を含む狭波長域の光を前記測定光として、ブリュースター角を測定するべく、前記測定対象物に複数の入射角で照射して前記測定対象物で反射した、前記複数の入射角で照射された前記各測定光に対応する各反射光を測定し、
前記演算部は、前記測定部で測定した測定結果に基づいてブリュースター角を前記情報として求め、この求めたブリュースター角に基づいて前記半導体層の前記評価指標を求めること
を特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の半導体薄膜結晶性評価装置。
【請求項7】
基板上に導電性を持つ導電層を介して半導体層を形成した測定対象物に、前記半導体層の厚さよりも短い浸透長となる波長域の測定光を照射して、前記測定対象物で反射した前記測定光の反射光を測定する測定工程と、
前記測定工程の測定結果に基づいて反射スペクトルにおける所定のピークに関する情報を求め、この求めた前記情報に基づいて前記半導体層における結晶性の評価を表す評価指標を求める演算工程とを備えること
を特徴とする半導体薄膜結晶性評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−83120(P2012−83120A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227183(P2010−227183)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(000130259)株式会社コベルコ科研 (174)
【Fターム(参考)】