説明

半導体装置とその製造方法

【課題】 高濃度n層とライフタイム制御領域を同時に形成可能な半導体装置およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 n型のドリフト層と、ドリフト層の表面側に設けられたp型のボディ層と、ドリフト層の裏面側に設けられており、水素イオンドナーをドーパントとして含んでおり、ドリフト層よりもn型の不純物濃度が高い高濃度n層とを備えた半導体基板を有する半導体装置であって、高濃度n層およびドリフト層の一部には、結晶欠陥をライフタイムキラーとして含むライフタイム制御領域が形成されており、半導体基板の厚さ方向について、高濃度n層の水素イオンドナー濃度が最も高いドナーピーク位置は、ライフタイム制御領域の結晶欠陥密度が最も高い欠陥ピーク位置に一致または隣接しており、ライフタイム制御領域の欠陥ピーク位置における結晶欠陥の密度は、1×1012atoms/cm以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置において、キャリアのライフタイムを制御するために、半導体基板に、局所的に結晶欠陥が形成されている領域(以下、本明細書ではライフタイム制御領域と呼ぶ)が形成されることがある。例えば、特許文献1には、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)のターンオフ時間の短縮およびターンオフ損失の低減を図る目的で、IGBTのドリフト層内またはコレクタ層内にライフタイム制御領域を形成する技術が開示されている。ライフタイム制御領域は、水素イオン、ヘリウムイオン等の軽イオンをIGBTのドリフト層内またはコレクタ層内に打ち込むことによって形成される。
【0003】
IGBTにおいては、ドリフト層とコレクタ層の間に、バッファ層が形成されている場合がある。バッファ層は、一般に、ドリフト層に不純物イオンを注入することによって形成される。例えば、ドリフト層およびバッファ層がn型の場合には、リンイオン、ヒ素イオン等を注入することによって形成される。特許文献1では、ドリフト層、バッファ層等を形成した後の半導体基板に対して、水素イオン、ヘリウムイオン等の軽イオンをIGBTのドリフト層内に照射し、ライフタイム制御領域を形成している。
【0004】
また、特許文献2には、n型のドリフト層に、1MeV以下の加速エネルギーで水素イオンを照射し、低温でアニール処理を行うことによって、バッファ層を形成する方法が記載されている。特許文献2では、水素イオンの加速エネルギーが低く設定されているため、バッファ層を形成することはできても、ライフタイム制御領域を形成することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−121052号公報
【特許文献2】特開2001−160559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のように、従来、バッファ層等の高濃度のn層を製造する工程と、ライフタイム制御領域を形成する工程は、別工程で行われていた。特許文献2では、バッファ層を製造するために水素イオンの照射を行っている。しかしながら、バッファ層を製造するための水素イオンの照射を利用して、ライフタイム制御領域を形成することは、記載も示唆もされていない。特許文献2のように、1MeV以下の加速エネルギーで水素イオンを照射した場合には、結晶欠陥が残存したとしても、その密度が低いため、ライフタイムキラーとして十分に機能せず、半導体装置の特性改善に寄与できない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ライフタイム制御領域の結晶欠陥ピーク位置における結晶欠陥の密度が1×1012atoms/cm以上である場合に、半導体装置のスイッチング特性の改善に寄与できることを見出した。また、2MeV以上の加速エネルギーで半導体基板に水素イオンを照射した後で、水素イオンをドナー化すると、欠陥ピーク位置における結晶欠陥の密度が1×1012atoms/cm以上であるライフタイム制御領域が半導体基板内に形成されることを見出した。
【0008】
本願が開示する半導体装置は、n型のドリフト層と、ドリフト層の表面側に設けられたp型のボディ層と、ドリフト層の裏面側に設けられており、水素イオンドナーをドーパントとして含んでおり、ドリフト層よりもn型の不純物濃度が高い高濃度n層とを備えている。高濃度n層およびドリフト層の一部には、結晶欠陥をライフタイムキラーとして含むライフタイム制御領域が形成されている。半導体基板の厚さ方向について、高濃度n層の水素イオンドナー濃度が最も高いドナーピーク位置は、ライフタイム制御領域の結晶欠陥密度が最も高い欠陥ピーク位置に一致している。ライフタイム制御領域の欠陥ピーク位置における結晶欠陥の密度は、1×1012atoms/cm以上である。
【0009】
上記の半導体装置では、ライフタイム制御領域の結晶欠陥は、高濃度n層を形成する際に照射される水素イオンによって形成される。このため、半導体基板の厚さ方向について、高濃度n層の水素イオンドナー濃度が最も高いドナーピーク位置は、ライフタイム制御領域の結晶欠陥密度が最も高い欠陥ピーク位置に一致または隣接している。また、ライフタイム制御領域の欠陥ピーク位置における結晶欠陥の密度は、1×1012atoms/cm以上であり、半導体装置の特性を改善可能な結晶欠陥密度の分布を有している。上記の半導体装置によれば、高濃度のn層を製造する工程を利用して、半導体装置の特性改善に効果的なライフタイム制御領域を形成することができる。
【0010】
高濃度n層の半導体基板の厚さ方向の幅は、2μm以上かつ70μm以下であることが好ましい。
【0011】
また、本願は、n型のドリフト層と、ドリフト層の表面側に設けられたp型のボディ層と、ドリフト層の裏面側に設けられており、ドリフト層よりもn型の不純物濃度が高い高濃度n層とを備えた半導体基板を有する半導体装置の製造方法を開示する。この製造方法は、ドリフト層を備えた半導体基板を準備する準備工程と、半導体基板のコレクタ層側となる面からドリフト層のコレクタ層側の領域に、2MeV以上の加速エネルギーで水素イオンを照射して、結晶欠陥を形成する照射工程と、照射工程で照射した水素イオンを活性化して高濃度n層を形成するとともに、照射工程で形成した結晶欠陥の少なくとも一部を半導体基板内に残存させる活性化工程とを含む。
【0012】
照射工程では、ドリフト層に、2MeV以上かつ20MeV以下の加速エネルギーで水素イオンを照射することが好ましい。照射工程では、ドリフト層の裏面側から水素イオンを照射してもよく、ドリフト層の表面側から水素イオンを照射してもよい。活性化工程では、半導体基板を200℃以上かつ500℃以下の基板温度でアニール処理することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1の半導体装置の断面図である。
【図2】結晶欠陥形成確率と、水素イオンを照射する加速エネルギーとの関係を示す図である。
【図3】水素イオンのドナー化率と、欠陥密度/水素イオン濃度との関係を示す図である。
【図4】スイッチング損失と、水素イオンを照射する加速エネルギーとの関係を示す図である。
【図5】水素イオンドナーの濃度分布の半値幅と、水素イオンを照射する加速エネルギーとの関係を示す図である。
【図6】シミュレーションに用いたダイオードを示す図である。
【図7】図6に示すダイオードのエネルギー準位図である。
【図8】シミュレーション結果を示す図である。
【図9】シミュレーション結果を示す図である。
【図10】実施例1の半導体装置の製造方法を示す図である。
【図11】実施例1の半導体装置の製造方法を示す図である。
【図12】実施例1の半導体装置の製造方法を示す図である。
【図13】照射工程で照射される水素イオンによって形成される結晶欠陥量の半導体基板の厚さ方向の分布を示す図である。
【図14】実施例1の半導体装置の結晶欠陥密度分布および水素イオンドナー濃度分布を示す図である。
【図15】実施例1および従来例に係る半導体装置のターンオフ時の電流値および電圧値を示す図である。
【図16】実施例1の半導体装置の水素イオンドナー濃度分布と、ターンオフ時の電解強度を示す図である。
【図17】実施例1の半導体装置のキャリア濃度分布と、キャリアのライフタイムの分布を示す図である。
【図18】半導体装置のスナップバック現象を説明する図である。
【図19】半導体装置のCE間耐電圧と傷深さの関係を示す図である。
【図20】変形例に係る半導体装置の製造方法を示す図である。
【図21】変形例の半導体装置の結晶欠陥密度分布および水素イオンドナー濃度分布を示す図である。
【図22】変形例に係る半導体装置の断面図である。
【図23】実施例2に係る半導体装置の断面図である。
【図24】実施例2の半導体装置の結晶欠陥密度分布および水素イオンドナー濃度分布を示す図である。
【図25】実施例2の半導体装置の結晶欠陥密度分布および水素イオンドナー濃度分布を示す図である。
【図26】実施例2および従来例に係る半導体装置のダイオード逆回復時の電流値および電圧値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本願が開示する半導体装置は、n型のドリフト層と、ドリフト層の表面側に設けられたp型のボディ層と、ドリフト層の裏面側に設けられており、ドリフト層よりもn型の不純物濃度が高い高濃度n層を有する半導体素子を備えた半導体装置に適用できる。特に限定されないが、例えば、ダイオード、バッファ層を備えたIGBT、またはIGBTと還流ダイオードが同一半導体基板に形成されたRC−IGBTであってもよい。
【0015】
半導体装置がダイオードである場合には、高濃度n層とボディ層は、それぞれダイオードのカソード、アノードとして機能する。
【0016】
半導体装置がIGBTである場合には、高濃度n層は、バッファ層である。半導体基板の裏面(バッファ層の裏面側)にp型のコレクタ層が形成されている。ボディ層の表面の一部にn型のエミッタ層が形成されている。ボディ層およびエミッタ層は半導体基板の表面に露出している。半導体基板の表面側に、エミッタ層とドリフト層とを隔離する部分のボディ層に接する絶縁ゲートが形成されている。IGBTは、フィールドストップ(FS)型IGBTであってもよく、パンチスルー(PT)型IGBTであってもよい。
【0017】
半導体装置が、IGBTと還流ダイオードが同一半導体基板に形成されたRC−IGBTである場合には、半導体基板の裏面(ドリフト層の裏面側)にコレクタ層またはカソード層が形成されている。コレクタ層とドリフト層との間、もしくは、カソード層とドリフト層との間にバッファ層が形成されている場合がある。バッファ層、カソード層が、高濃度n層に相当する。半導体基板の表面(ドリフト層の表面側)にボディ層が形成されている。ボディ層の表面の一部にエミッタ層が形成されている。ボディ層およびエミッタ層は半導体基板の表面に露出している。半導体基板の表面側に、エミッタ層とドリフト層とを隔離する部分のボディ層に接するゲート電極が形成されている。RC−IGBTは、ダイオード素子が形成されているダイオード領域とIGBT素子が形成されているIGBT領域が分離されている半導体装置であってもよい。また、半導体基板の表面側の構造が共通しており、裏面側の構造がコレクタ層またはカソード層であって、ダイオード素子とIGBT素子が混在している半導体装置であってもよい。
【0018】
本願が開示する半導体装置の製造方法は、本願が開示する製造方法は、高濃度n層および結晶欠陥を形成する工程として、準備工程、照射工程、活性化工程を含む。準備工程では、ドリフト層を備えた半導体基板を準備する。照射工程では、半導体基板に水素イオンを照射して、結晶欠陥を形成する。活性化工程では、照射工程で照射した水素イオンを活性化して高濃度n層を形成するとともに、照射工程で形成した結晶欠陥の少なくとも一部を半導体基板内(例えば、高濃度n層とドリフト層の一部)に残存させる。準備工程、照射工程、活性化工程は、この順序で行われ、各工程の間に別の工程(例えば、ウェハを洗浄する工程やイオン注入する工程)が行われてもよい。
【実施例1】
【0019】
(半導体装置)
図1に示す半導体装置10は、高濃度n層としてバッファ層102を備えたIGBTである。半導体装置10は、半導体基板100と、半導体基板100の表面に設けられたエミッタ電極121と、半導体基板100の裏面に設けられたコレクタ電極122とを備えている。半導体基板100には、IGBTが形成されている。半導体基板100は、半導体基板100の裏面側から順に設けられたp型のコレクタ層101と、n型のバッファ層102と、n型のドリフト層103と、p型のボディ層104と、n型のエミッタ層105およびp型のボディコンタクト層106を備えている。エミッタ層105およびボディコンタクト層106は、ボディ層104によってドリフト層103と隔離されている。半導体基板100は、さらに、エミッタ層105とドリフト層103との間に位置するボディ層104に接する絶縁ゲート110を備えている。絶縁ゲート110は、トレンチ111と、トレンチ111の内壁に形成されている絶縁膜112と、絶縁膜112に覆われてトレンチ111内に形成されているゲート電極113とを備えている。
【0020】
コレクタ層101、ボディコンタクト層106は、ボディ層104よりもp型の不純物濃度が高い。バッファ層102は、ドリフト層103とコレクタ層101の間に設けられており、ドリフト層103よりもn型の不純物濃度が高い。バッファ層102は、水素イオンドナーを含んでいる。バッファ層102およびドリフト層103には、結晶欠陥の密度が高いライフタイム制御領域2が形成されている。バッファ層102の水素イオンドナー濃度は、1×1014〜1×1016atoms/cmであることが好ましい。ライフタイム制御領域2は、バッファ層102内全体、およびドリフト層103のバッファ層側の一部に形成されている。ライフタイム制御領域2は、ドリフト層103内に含まれる領域2aと、バッファ層102に含まれる領域2bを有している。ライフタイム制御領域2の半導体基板100の厚さ方向の幅は、バッファ層102の半導体基板100の厚さ方向の幅(バッファ層102の厚さに相当する)よりも大きい。ライフタイム制御領域2の結晶欠陥密度の平均は、ドリフト層103のライフタイム制御領域2に含まれない部分の結晶欠陥密度と比べてきわめて高い。ライフタイム制御領域2内には、結晶欠陥密度のピークが含まれている。ライフタイム制御領域2の結晶欠陥ピーク濃度は、1×1012atoms/cm以上であり、これによって、ライフタイム制御領域2が半導体装置10の特性(例えば、スイッチング損失の低減)を改善する効果を十分に発揮することができる。ライフタイム制御領域2の結晶欠陥密度および結晶欠陥量は、ライフタイム制御領域2でのキャリア(少数キャリアである正孔)のライフタイムが、ライフタイム制御領域2に含まれない部分のドリフト層103でのキャリアのライフタイムの1/1000以上かつ1/10以下となる範囲で調整されている。また、バッファ層102の半導体基板100の厚さ方向の幅Dは、2μm以上かつ70μm以下が好ましい。
【0021】
(半導体装置の製造方法)
半導体装置10の製造方法について、バッファ層102およびライフタイム制御領域2を形成する工程を中心に説明する。半導体装置10が備えるその他の構造は、従来公知の方法によって形成することができるため、説明を省略する。バッファ層102およびライフタイム制御領域2を形成する工程は、準備工程、照射工程、活性化工程を含む。準備工程では、ドリフト層103を備えた半導体基板を準備する。照射工程では、半導体基板に水素イオンを照射して、結晶欠陥を形成する。活性化工程では、照射工程で照射した水素イオンを活性化する。これによって、バッファ層102を形成するとともに、照射工程で形成した結晶欠陥の少なくとも一部をバッファ層102層およびドリフト層103の一部に残存させる。
【0022】
照射工程における水素イオンの加速エネルギーについて、より具体的に説明する。照射工程では、半導体基板のドリフト層に、2MeV以上の加速エネルギーで水素イオンを照射して、結晶欠陥を形成する。図2に示すように、照射工程で照射する水素イオンの加速エネルギー(図2の横軸に示す)が高くなるほど、結晶欠陥が形成される確率である欠陥形成確率(図2の縦軸に示す)は高くなる。すなわち、水素イオンの加速エネルギーが高くなるほど、結晶欠陥の密度と水素イオン濃度との比である、「欠陥密度/水素イオン濃度」が高くなる。
【0023】
活性化工程では、照射工程で照射した水素イオンをアニール処理等によって活性化させる。照射された水素イオンと、半導体基板中のシリコン(Si)と、水素イオンが照射されることによって形成された結晶欠陥との3者が複合化することによって、水素イオンがドナー化すると推定される。図3に示すように、「欠陥密度/水素イオン濃度(図3の横軸に示す)」が高いほど、水素イオンのドナー化率(図3の縦軸に示す)は高くなる。図2に示すように、照射工程で照射する水素イオンの加速エネルギーが高いほど、「欠陥密度/水素イオン濃度」は高くなるから、加速エネルギーが高いほど、水素イオンドナー化率は高くなる。
【0024】
また、照射工程で照射する水素イオンの加速エネルギーが高いほど、ライフタイム制御領域2の結晶欠陥のピーク密度が高くなる。ライフタイム制御領域2が半導体装置10のスイッチング損失を低減させる効果を発揮するためには、ライフタイム制御領域2の結晶欠陥ピーク密度は、1×1012atoms/cm以上である必要がある。照射工程において、2MeVの加速エネルギーで水素イオンを照射した場合には、ライフタイム制御領域2の結晶欠陥ピーク密度は、1×1012atoms/cmになる。図4に示すように、照射する水素イオンの加速エネルギーの値が2MeV以上である場合(すなわち、結晶欠陥ピーク密度は、1×1012atoms/cm以上である場合)には、加速エネルギー(図4の横軸に示す)が高くなるほど、ライフタイム制御領域2によるスイッチング損失(図4の縦軸に示す)を低減させる効果を高くすることができる。一方、照射する水素イオンの加速エネルギーの値を2MeV未満とした場合(すなわち、結晶欠陥ピーク濃度は、1×1012atoms/cm未満である場合)では、スイッチング損失を低減させる効果を得ることができない。
【0025】
また、図5に示すように、照射工程で照射する水素イオンの加速エネルギー(図5の横軸に示す)が高いほど、ドナー化した水素イオン濃度の半値幅(図5の縦軸に示す)が大きくなる。例えば、水素イオンの加速エネルギーが2MeV,4MeV,8MeV,20MeV程度の場合には、ドナー化した水素イオン濃度の半値幅は、それぞれ、2μm,7μm,20μm,70μm程度となる。すなわち、照射する水素イオンの加速エネルギーが高いほど、水素イオンをドナー化することによって形成されるバッファ層102の厚さが大きくなる。このため、バッファ層102の厚さを確保するために、通常行われる高温(900℃程度)でのアニール処理等を行う必要がない。例えば、照射する水素イオンの加速エネルギーの値が2MeV以上である場合には、200〜500℃程度の基板温度でアニール処理を行うことで、2μm以上の厚さのバッファ層102を形成することができる。
【0026】
図6〜図9は、ダイオード素子が形成された半導体装置についてシミュレーションを行った結果を示す図である。シミュレーションには、図6に示すように、p型半導体層41とn型半導体層42を有する半導体基板を備えており、領域43に結晶欠陥が形成されているダイオード40を用いた。図7は、ダイオード40のバンドギャップ構造を示している。伝導帯Ecと価電子帯Evとの間の禁止帯中にフェルミ準位Eiが位置している。図7の破線に示すように、結晶欠陥の準位4は、フェルミ準位よりやや高い。シミュレーションでは、結晶欠陥ピーク密度を変えて、ダイオード40の結晶欠陥ピーク密度とスイッチング特性の関係を調べた。その結果を図8に示す。図8に示す各プロット点は、それぞれダイオード40の結晶欠陥ピーク密度が1×1011atoms/cm、1×1012atoms/cm、1×1013atoms/cm、1×1014atoms/cm、1×1015atoms/cm、1×1016atoms/cm、1×1017atoms/cmの場合を示している。図8に示すように、ダイオード40の結晶欠陥ピーク密度が1×1012atoms/cm以上となると、結晶欠陥ピーク密度が減少するに従って、ダイオード40の逆回復時間trrも減少していくことがわかった。また、図9は、照射工程で照射する水素イオンの加速エネルギーと、それによってダイオード40に形成される半導体装置の結晶欠陥ピーク密度とについてシミュレーションを行った結果を示す。図9に示すように、加速エネルギーが大きくなるほど結晶欠陥ピーク密度が高くなり、加速エネルギーが2MeV以上であれば、結晶欠陥ピーク密度を1×1012atoms/cm以上にすることができる。ダイオード40の逆回復時間trrが小さいほど、ダイオードのスイッチング損失(SW損失と略記することがある)は小さくなるから、図8、図9の結果から、図4に示す加速エネルギーとスイッチング損失の関係を得ることができる。
【0027】
上記において説明したとおり、照射工程で照射する水素イオンの加速エネルギーは、2MeV以上である。水素イオンの加速エネルギーを2MeV以上とした場合には、その後に活性化工程を行うことによって、スイッチング損失を低減する効果を有するライフタイム制御領域2を形成するとともに、2μm以上のバッファ層102を形成することができる。水素イオンの加速エネルギーは、2MeV以上かつ20MeV以下であることが、さらに好ましい。20MeV以下の加速エネルギーで水素イオンを照射すれば、ライフタイム制御領域がキャリアのライフタイムを低減する機能が十分に得られる一方で、加速エネルギーが20MeVを超えると、水素イオンを照射する装置の負荷が大きくなり、製造コストが大きくなる。
【0028】
以下、図10〜図14を参照して、半導体装置10の製造方法の一例をさらに具体的に説明する。準備工程では、図10に示すように、ドリフト層103と、ドリフト層103の裏面に接するコレクタ層101が形成されている半導体基板300を準備する。なお、図10では、ドリフト層103よりも表面側の半導体基板300の構造については図示を省略しているが、ドリフト層103の表面側に、図1に図示した半導体装置10が備える各構成が形成されている。ドリフト層103としてn型の半導体ウェハを用いる場合は、n型の半導体ウェハにイオン注入等を行うことによってコレクタ層、ボディ層等の構造を形成することができる。また、コレクタ層101としてp型の半導体ウェハを用いる場合は、ドリフト層103としてp型の半導体ウェハの表面にn型のエピタキシャル層を形成し、そのエピタキシャル層にイオン注入等を行うことによってボディ層等の構造を形成してもよい。
【0029】
照射工程では、図10に示すように、ドリフト層103のコレクタ層101側の領域に、アブソーバ150を介して、2MeV以上の加速エネルギーで水素イオンを照射する。図10では、半導体基板300の表面側から水素イオンを照射する場合を例示している。水素イオンは、高い加速エネルギーを比較的容易に達成可能な加速器を用いて照射することが好ましく、例えば、サイクロトロン加速器を好適に用いることができる。照射位置(水素イオンの平均停止位置)は、コレクタ層101の表面から距離X(X≧0)の位置に設定する。照射する水素イオンの加速エネルギーおよびアブソーバ150の厚さを調整することによって、照射位置を所定の位置に調整することができる。水素イオンの照射量は、5×1013cm−2以上かつ1×1016cm−2以下であることが好ましい。
【0030】
これによって、図11に示すように、コレクタ層101の表面側に接するように、水素イオンが照射されたイオン層142および結晶欠陥が形成された領域22を形成することができる。領域22は、ドリフト層103に含まれる領域22aおよびイオン層142に含まれる領域22bを有している。結晶欠陥密度のピークは、領域22bに位置している。
【0031】
図12に示すように、活性化工程では、照射工程で照射した水素イオンを活性化して水素イオンドナー化し、これによってバッファ層102を形成する。活性化工程では、半導体基板300をアニール処理することによって、水素イオンを活性化する。アニール処理は、窒素雰囲気下で200℃以上かつ500℃以下の温度範囲に加熱する。アニール処理を行なうと、水素イオンを照射することによって形成された結晶欠陥と、水素イオンと、シリコン(Si)が複合化し、水素イオンがドナー化する。これによって、図12に示すように、コレクタ層101とドリフト層103の間にバッファ層を形成することができる。また、アニール処理を行った後、照射工程で形成した結晶欠陥は、バッファ層102内およびドリフト層103内に残存している。これによって、図12に示すように、バッファ層102内およびドリフト層103のコレクタ層101側の部分にライフタイム制御領域2が形成される。
【0032】
図13に示すように、照射工程で照射される水素イオン量は、水素イオン量のピーク位置を中心に深さ方向に左右対象の関係となる。縦軸に示す水素イオン量のピークにおける水素イオン量をPとすると、水素イオン量がP/2以上である領域の半導体基板の厚さ方向の幅はdである。即ち、dは、図13に示す波形の半値幅を示している。図10および図11に示す照射位置Xは、X<d/2を満たすように設定される。図11に示すように、イオン層142は、照射位置Xから半導体基板の表面側に距離d/2まで伸びている。照射位置Xが、X<d/2を満たすように設定すれば、水素イオン量がP/2以上であるイオン層142をコレクタ層101の表面側に接して形成することができる。
【0033】
なお、照射工程における水素イオンの照射条件(水素イオンの照射量、加速エネルギー等)と、活性化工程におけるアニール処理条件(処理温度、加熱の方法等)を調整することによって、水素イオンドナーの濃度分布曲線および結晶欠陥の密度分布曲線のピーク位置、ピーク濃度、半値幅等を調整することが可能である。また、必要に応じて、水素イオンの照射を2回以上に分けて行ってもよい。水素イオンの照射を2回以上行う場合には、それぞれの照射において、照射位置や照射方向を変えてもよい。
【0034】
図14は、照射位置X=0と設定した場合(図10において、コレクタ層101とドリフト層103との界面の位置を水素イオンの照射位置とした場合)の、結晶欠陥密度の分布および水素イオンドナー濃度の分布を、半導体基板300の表面からの距離に対してプロットした図である。結晶欠陥密度は、参照番号81で示す破線であり、水素イオンドナー濃度は、参照番号91で示す実線である。距離D1からE1の領域は、コレクタ層101である。距離B1からD1の領域は、バッファ層102である。距離B1より浅い領域(半導体基板300の表面側)は、ドリフト層103である。半導体基板300の表面側から距離D1の位置に水素イオンを照射すると、加速エネルギーによって決定される半値幅に従って距離D1からC1に示すガウス分布状の水素イオンドナー濃度の分布を得ることができる。これは、水素イオン照射時に形成された水素イオンの濃度分布に一致する。距離C1からB1の領域では、距離D1からC1の領域よりも、水素イオンドナーの分布がより緩やかになっている。距離C1からB1の領域は、活性化工程におけるアニール処理等の活性化処理によって水素イオンが拡散したため、水素イオンドナーの分布がより緩やかになっている。結晶欠陥は、距離A1からE1の領域に広がっている。2MeV以上という高い加速エネルギーで水素イオンの照射を行うため、水素イオンが通過する領域にも結晶欠陥が形成され易い。このため、結晶欠陥は、図14に示すような広い範囲に緩やかに分布する。
【0035】
距離C1からD1の領域は、水素イオンドナー濃度が高濃度であり、半導体装置10に高電圧が印加された場合に、電界が急激に広がることを抑制する効果が高い。距離C1からD1の領域は、分布の緩やかな距離B1からC1の領域に連続しており、全体として電界の広がりを緩やかにし、ターンオフ時のキャリアをゆっくりと消失させる効果を有する。図15は、半導体装置のターンオフ時における電圧値および電流値を示している。図15に示すように、従来の半導体装置の電圧値(参照番号901)と比較して、図14のようなドナー分布を有する半導体装置10の電圧値(参照番号801)においては、ターンオフ時のサージ電圧が低減される。サージ電圧が低減されるメカニズムを具体的に説明する。図14のようなドナー分布を有する半導体装置10では、図16に示すように、距離B1からE1の領域に高濃度に分布する水素イオンドナー(参照番号91)によって、ターンオフ時に形成される電界強度(参照番号821)が顕著に低減される。また、図17に示すように、ターンオフ時には、距離B1からE1の領域においてキャリア濃度(参照番号832)が高くなる。その結果、ドリフト層103に残留するキャリアが速やかに消失して、スイッチング損失が低減される。
【0036】
また、距離A1からE1の領域には、距離D1をピーク位置として、結晶欠陥が緩やかに分布している。この結晶欠陥密度分布は、過剰に注入された電子や正孔を消失させる効果を有する。図15に示すように、図14のような結晶欠陥密度分布を有する半導体装置10の電流値(参照番号802)では、従来の半導体装置の電流値(参照番号902)と比較して、ターンオフ時のテール電流が低減される。その結果、スイッチング損失を低減することが可能となる。特に、距離A1からB1の領域では、結晶欠陥は形成されているが、水素イオンドナーは形成されていない。このため、距離A1からB1の領域では、結晶欠陥がキャリアを消失させる効果が大きい。図14に示す分布を有する半導体装置は、結晶欠陥は分布している一方で、水素イオンドナーは実質分布していない領域を有するため、スイッチング損失を低減する効果が高く、高速スイッチングを行う用途に好適に利用できる。また、図17に示すように、結晶欠陥が多く分布している領域ほど、参照番号831に示すように、キャリアのライフタイムが短くなる。残留キャリア(参照番号832)が多い半導体基板の裏面側では、キャリアのライフタイムが短くなっており、残留キャリアが少ない半導体基板の表面側では、キャリアのライフタイムが長くなっている。すなわち、距離B1からE1に残留するキャリアのライフタイムは短く、速やかに消失する。その結果、スイッチング損失が低減される。
【0037】
また、本願に係る半導体装置では、オン電圧のスナップバック現象を防止する効果を得ることもできる。図18に、半導体装置のオン時の正常波形803と、スナップバック現象が発生した状態を示すスナップバック波形903を示す。スナップバック波形930は、図18に示すように、半導体装置10のオン時に、印加電圧の上昇に伴い、その初期には電流が増加するものの、印加電圧が特定のスイッチング電圧に達すると、印加電圧の上昇に対して電流値が減少する現象(負性抵抗)を一旦示す。そして、この後に印加電圧が更に上昇して特定のホールディング電圧に達すると、電流が再び増加する。本願に係る半導体装置およびその製造方法では、水素イオンを照射してドナー化することによって高濃度n層を形成するとともに、高濃度n層内およびその周辺にライフタイム制御領域を形成する。このため、本願に係る半導体装置は、ライフタイム制御領域の結晶欠陥密度が比較的少なくても、図11に示すようなターンオフ時のテール電流を低減し、スイッチング損失を低減する効果を得ることができる。本願に係る半導体装置は、ライフタイム制御領域の結晶欠陥密度を比較的少なくすることができるため、スナップバックが発生しにくい。
【0038】
また、上記の製造方法によれば、半導体装置10のバッファ層102の半導体基板100の厚さ方向の幅Dを、2μm以上かつ70μm以下とすることができる。このため、半導体装置の裏面に入る傷によってCE間耐圧が低下することを抑制することができる。図19は、バッファ層を有するIGBTの裏面(コレクタ層側)に傷が入った場合のコレクタ電極−エミッタ電極間の耐圧(CE間耐圧)を示している。横軸の右方向ほど、半導体装置の裏面に深い傷が入った場合を示している。実験例1として図示する実験データは、半導体装置10のバッファ層102の厚さが2μmである場合を示している。比較例1として図示するデータは、バッファ層の厚さが1μmである以外は実験例1と同様の構成の半導体装置の場合を示している。図19に示すように、比較例1では、半導体装置の裏面に傷が入ると、著しくCE間耐圧が低下した。一方、実験例1では、ある程度の深さの傷に対してはCE間耐圧が低下することがなかった。実験例1に係る半導体装置によれば、半導体装置の裏面に入る傷によってCE間耐圧が低下することを抑制することができる。バッファ層102が厚いほど、裏面に入る傷に起因するCE間耐圧低下を抑制する効果は高くなるが、バッファ層102が厚過ぎるとIGBT動作時の抵抗値が大きくなる。このため、バッファ層102の半導体基板100の厚さ方向の幅Dは、2μm以上かつ70μm以下である。
【0039】
上記では、照射工程において、半導体基板300の表面側から水素イオンを照射する場合(図10)を例示して説明したが、図20に示すように、半導体基板300の裏面側から水素イオンを照射してもよい。照射工程において、裏面側から水素イオンを照射した場合には、結晶欠陥密度分布および水素イオンドナー濃度分布を、半導体基板300の表面からの距離に対してプロットした図は、図21に示すとおりとなる。結晶欠陥密度は、参照番号82で示す破線であり、水素イオンドナー濃度は、参照番号92で示す実線である。距離D2からE2の領域は、コレクタ層101である。距離B2からD2の領域は、バッファ層102である。距離B2より浅い領域は、ドリフト層103である。半導体基板300の表面側から距離D2の位置に水素イオンを照射すると、加速エネルギーによって決定される半値幅に従って距離D2からB2に示すガウス分布状のドナー濃度分布を得ることができる。水素イオンドナーの濃度分布は、水素イオン照射時に形成された水素イオンの分布に一致しており、照射する水素イオンの加速エネルギーによって決定される半値幅に従うガウス分布形状で、距離B2から距離E2の領域に分布する。
【0040】
結晶欠陥は、距離A2からE2の領域に広がっており、水素イオンドナーよりも半導体基板300の厚さ方向に広い領域に分布している。図2,図3に示すように、結晶欠陥が形成される確率および水素イオンがドナー化する確率は、水素イオンの加速エネルギーに依存するが、同じ加速エネルギーにおけるそれぞれの確率は、前者の方が後者よりも高い。例えば、2MeVの加速エネルギーで水素イオンを照射した場合には、1つの水素イオンに対して、30個の結晶欠陥が形成される一方、ドナー化の確率は、10個の水素イオンに対して1個がドナー化する程度である。結晶欠陥は、照射した水素イオン量の少ない領域でも比較的密度が高い。一方、水素イオンドナーは、照射した水素イオン量の少ない領域では、比較的低濃度となり、場合によっては、無視できるほど低濃度となる。その結果、結晶欠陥は、水素イオンドナーよりも半導体基板の厚さ方向に広い領域に分布した状態となる。
【0041】
半導体装置10が図21に示す分布を有する場合について説明する。距離B2からE2までの領域では、水素イオンドナーが高濃度に分布しており、半導体装置10に高電圧が印加された場合に、電界が急激に広がることを抑制する効果が高い。また、距離B2からE2までの領域において、水素イオンドナーは、全体的に緩やかに分布している。このため、電界の広がりを緩やかにし、ターンオフ時のキャリアをゆっくりと消失させる効果を有する。図21のような水素イオンドナー濃度分布を有する半導体装置においても、図14に示す場合と同様に、図15に示すようなサージ電圧低減の効果を得ることができる。また、図18に示すようなスナップバック現象を防止することができる。また、図10と同様に、図21では、距離D2をピーク位置として、距離A2からE2の領域に結晶欠陥が緩やかに分布している。このため、図15に示すようなテール電流低減の効果を得ることができる。
【0042】
なお、バッファ層は、図1に示すバッファ層102のように、上下面が平面であるものに限定されない。例えば、図22に示すように、ドリフト層103と接する面に凹凸を有するバッファ層202であってもよい。この場合、バッファ層202の薄い部分の厚さ方向の幅y1および厚い部分の厚さ方向の幅y2が、上記の幅Dについて示した範囲内となるように設計する。ライフタイム制御領域222は、領域222aと領域222bを有している。領域222aはドリフト層103内に含まれており、領域222bはバッファ層202内に含まれている。
【実施例2】
【0043】
本願に係る半導体装置は、IGBTに限られず、ダイオード、MOSFET、RC−IGBT等であってもよい。他の一例として、図23に示す半導体装置50について説明する。半導体50は、高濃度n層としてバッファ層502およびカソード層531を備えたRC−IGBTである。半導体装置50は、半導体基板500と、半導体基板500の表面に設けられた表面電極521と、半導体基板500の裏面に設けられた裏面電極522とを備えている。半導体基板500には、IGBTおよびダイオードが形成されている。半導体基板500は、半導体基板500の裏面側から順に設けられたp型のコレクタ層501およびn型のカソード層531と、n型のバッファ層502と、n型のドリフト層503と、p型のボディ層504と、n型のエミッタ層505およびp型のボディコンタクト層506を備えている。エミッタ層505およびボディコンタクト層506は、ボディ層504によってドリフト層503と隔離されている。半導体基板500は、さらに、エミッタ層505とドリフト層503との間に位置するボディ層504に接する絶縁ゲート510を備えている。絶縁ゲート510は、トレンチ511と、トレンチ511の内壁に形成されている絶縁膜512と、絶縁膜512に覆われてトレンチ511内に形成されているゲート電極513とを備えている。バッファ層502は、ドリフト層503とコレクタ層501の間に設けられている。カソード層531とコレクタ層501は、互いに隣接している。コレクタ層501、ボディコンタクト層506は、ボディ層504よりもp型の不純物濃度が高い。バッファ層502は、ドリフト層503よりもn型の不純物濃度が高く、カソード層531は、バッファ層502よりもn型の不純物濃度が高い。バッファ層502は、水素イオンドナーを含んでいる。バッファ層502およびドリフト層503には、結晶欠陥の密度が高いライフタイム制御領域52が形成されている。ライフタイム制御領域52は、ドリフト層103内に含まれる領域52aと、バッファ層102に含まれる領域52bを有している。ライフタイム制御領域52の結晶欠陥ピーク濃度は、1×1012atoms/cm以上である。
【0044】
図24および図25は、裏面にカソード層531が形成されている部分について、半導体装置50の結晶欠陥密度分布および水素イオンドナー濃度分布を、半導体基板500の表面からの距離に対してプロットした図である。図24は、照射工程において、図10と同様に半導体基板の表面側から水素イオンを照射した場合の分布を示している。図25は、照射工程において、図20と同様に半導体基板の裏面側から水素イオンを照射した場合の分布を示している。なお、裏面にコレクタ層501が形成されている部分について、半導体装置50の結晶欠陥密度分布および水素イオンドナー濃度分布は、図14および図21に示した分布と同様である。
【0045】
図24において、結晶欠陥密度は、参照番号83で示す破線であり、水素イオンドナー密度は、参照番号93で示す実線である。距離D3からE3の領域は、カソード層531である。距離B3からD3の領域は、バッファ層502である。距離B3より浅い領域は、ドリフト層503である。半導体基板500の表面側から距離D3の位置に水素イオンを照射すると、加速エネルギーによって決定される半値幅に従って距離D3からC3に示すガウス分布状の水素イオンドナー濃度分布を得ることができる。これは、水素イオン照射時に形成された水素イオンの分布に一致する。距離C3からB3の領域では、距離D3からC3の領域よりも、水素イオンドナーの分布がより緩やかになっている。距離C3からB3の領域は、活性化工程におけるアニール処理等の活性化処理によって水素イオンが拡散したため、水素イオンドナー分布がより緩やかになっている。結晶欠陥は、距離A3からE3の領域に広がっている。
【0046】
図25において、結晶欠陥密度は、参照番号84で示す破線であり、水素イオンドナー密度は、参照番号94で示す実線である。距離D4からE4の領域は、カソード層531である。距離B4からD4の領域は、バッファ層502である。距離B4より浅い領域は、ドリフト層503である。半導体基板500の表面側から距離D4の位置に水素イオンを照射すると、加速エネルギーによって決定される半値幅に従って距離D4からB4に示すガウス分布状のドナー濃度分布を得ることができる。水素イオンドナーの濃度分布は、水素イオン照射時に形成された水素イオンの分布に一致しており、照射する水素イオンの加速エネルギーによって決定される半値幅に従うガウス分布形状で、距離B4から距離E4の領域に分布する。結晶欠陥は、距離A4からE4の領域に広がっており、水素イオンドナーよりも半導体基板の厚さ方向に広い領域に分布している。
【0047】
図26は、半導体装置50のダイオードの逆回復時(リカバリ時)における電流値(参照番号803)および電圧値(参照番号804)を示している。比較のため、図26には、従来の半導体装置の電流値(参照番号903)および電圧値(参照番号904)を併せて図示している。半導体装置50が図24または図25に示す分布を有している場合には、図16および図17を用いて半導体装置10について説明した場合と同様に、距離B3からE3、または距離B4からE4に高濃度に分布する水素イオンドナーによって、ターンオフ時に形成される電界の強度が低減される。その結果、図26に示すように、ダイオードの逆回復時のリカバリサージ電圧が低減する。また、図17を用いて半導体装置10について説明した場合と同様に、半導体基板500の裏面側に残留キャリアが蓄積するため、ソフトターンオフおよびソフトリカバリを実現することができる。また、結晶欠陥が多く分布している領域ほど、キャリアのライフタイムが短くなる。そのため、図26に示すように、リカバリ電流を低減することができる。なお、半導体装置50のIGBT動作時の効果については、図14および図21に示す分布を持つIGBTである半導体装置10で説明したとおりである。また、RC−IGBTのダイオードの逆回復時についての説明した効果は、半導体素子としてダイオードを備えている半導体装置(例えば、ダイオードのみを半導体素子として備える半導体装置)において、同様に得ることができる。
【0048】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0049】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0050】
2,222,52 ライフタイム制御領域
10,50 半導体装置
100,300,500 半導体基板
101,501 コレクタ層
102,202,502 バッファ層
103,503 ドリフト層
104,504 ボディ層
105,505 エミッタ層
106,506 ボディコンタクト層
110,510 絶縁ゲート
111,511 トレンチ
112,512 絶縁膜
113,513 ゲート電極
121 エミッタ電極
122 コレクタ電極
521 表面電極
522 裏面電極
531 カソード層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型のドリフト層と、
ドリフト層の表面側に設けられたp型のボディ層と、
ドリフト層の裏面側に設けられており、水素イオンドナーをドーパントとして含んでおり、ドリフト層よりもn型の不純物濃度が高い高濃度n層とを備えた半導体基板を有する半導体装置であって、
高濃度n層およびドリフト層の一部には、結晶欠陥をライフタイムキラーとして含むライフタイム制御領域が形成されており、
半導体基板の厚さ方向について、高濃度n層の水素イオンドナー濃度が最も高いドナーピーク位置は、ライフタイム制御領域の結晶欠陥密度が最も高い欠陥ピーク位置に一致または隣接しており、
ライフタイム制御領域の欠陥ピーク位置における結晶欠陥の密度は、1×1012atoms/cm以上である、半導体装置。
【請求項2】
高濃度n層の半導体基板の厚さ方向の幅は、2μm以上かつ70μm以下である、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
ライフタイム制御領域の結晶欠陥は、半導体基板に、2MeV以上の加速エネルギーで水素イオンを照射することによって形成され、
高濃度n層の水素イオンドナーは、結晶欠陥を形成する際に照射した水素イオンをドナー化することによって形成される、請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項4】
n型のドリフト層と、
ドリフト層の表面側に設けられたp型のボディ層と、
ドリフト層の裏面側に設けられており、ドリフト層よりもn型の不純物濃度が高い高濃度n層とを備えた半導体基板を有する半導体装置の製造方法であって、
ドリフト層を備えた半導体基板を準備する準備工程と、
ドリフト層に、2MeV以上の加速エネルギーで水素イオンを照射して、結晶欠陥を形成する照射工程と、
照射工程で照射した水素イオンを活性化して高濃度n層を形成するとともに、照射工程で形成した結晶欠陥の少なくとも一部を半導体基板内に残存させる活性化工程とを含む、半導体装置の製造方法。
【請求項5】
照射工程では、ドリフト層に、2MeV以上かつ20MeV以下の加速エネルギーで水素イオンを照射する、請求項4に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
活性化工程では、半導体基板を200℃以上かつ500℃以下の基板温度でアニール処理する、請求項4または5に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項7】
照射工程では、ドリフト層の裏面側から水素イオンを照射する、請求項4〜6のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項8】
照射工程では、ドリフト層の表面側から水素イオンを照射する、請求項4〜6のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2013−74181(P2013−74181A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213006(P2011−213006)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(500216466)住重試験検査株式会社 (11)