説明

半導体装置の製造方法

【課題】Sn−Bi合金メッキ膜を形成する電解メッキ工程において、製造コストを抑えて、被メッキ処理物の表面に所望する組成のSn−Bi合金メッキ膜を形成することのできる技術を提供する。
【解決手段】金属ケース30内に投入された金属固体Sn32と金属ケース30とが直接接触するのを防ぐための絶縁シート33を、金属固体Sn32と金属ケース30との間に設ける。さらに、金属ケース30内に不活性ブロック34を配置して、この不活性ブロック34の上に絶縁シート33(及びアノードプレート31)を介して複数の金属固体Sn32を配置し、また、金属ケース30をアノードバック35内に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造技術に関し、特に、半導体装置の製造過程の一工程であるメッキ工程に適用して有効な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば錫及びビスマスを含むメッキ液中に被メッキ処理物を浸し、メッキ液中に配置された固体錫金属及び固体ビスマス金属を陽極に接続し、被メッキ処理物を陰極に接続して、被メッキ処理物のメッキ処理を行う技術が特開2005−163152号公報(特許文献1)に開示されている。
【特許文献1】特開2005−163152号公報(段落[0034]〜[0037]、図12)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
リードフレームを用いて製造される半導体装置では、実装基板に半田付けする際の半田ぬれ性を確保するため、リードの外部接続用端子部に合金メッキ膜が形成されている。この合金メッキ膜としては、主にSn(錫)−Pb(鉛)組成の合金メッキ膜が使用されてきたが、近年、環境保護の関係からPbの使用が規制され、合金メッキ膜においてもPbフリー化が進められている。
【0004】
Pbフリー組成の合金メッキ膜としては様々な組成のものが提案され、実用化されており、その中の1つに、Sn−Bi(ビスマス)組成の合金メッキ膜(以下、Sn−Bi合金メッキ膜と記す)がある。Sn−Bi合金メッキ膜は、一般に電解メッキ法により形成される。電解メッキ法は、メッキ液から金属を被メッキ処理物の表面に電解析出させて合金メッキ膜を形成する方法である。例えばSn及びBiを含むメッキ液中に被メッキ処理物を浸し、メッキ液中に配置された金属固体Sn及び金属固体Biを陽極に接続し、被メッキ処理物を陰極に接続することにより、被メッキ処理物の表面にSn−Bi合金メッキ膜を形成することができる(前記特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、電解メッキ法により形成されるSn−Bi合金メッキ膜については、以下に説明する種々の技術的課題が存在する。
【0006】
図20(a)に示すように、Sn及びBiを含むメッキ液51中に金属固体Sn52を浸すと、Snのイオン化傾向がBiよりも高いことから、金属固体Sn52の表面にBiが置換析出する。さらに、図20(b)に示すように、金属固体Sn52が陰極板53に接触すると、陰極板53の表面にもBiが置換析出する。メッキ液51中のBiが置換析出すると、メッキ液51中のBiの濃度が減少するため、Biを頻繁にメッキ液51中に供給する必要があり、Biの置換析出量が増加すれば、当然に補充されるBi量が増加する。しかし、BiのコストはSn等の他の材料のコストよりも高いため、このBi量の増加が、半導体装置の製造コストを押し上げる要因の1つとなっている。
【0007】
また、Sn−Bi合金メッキ膜は、半導体装置の実装時の基板側に予め設けている半田ペーストの濡れ性を考慮して、一般にSn:Bi=98(重量%):2(重量%)の組成で形成される。しかし、メッキ液中のBiの濃度が変動すると、形成されたSn−Bi合金メッキ膜のBiの濃度も変動して、その組成にばらつきが生じてしまう。
【0008】
また、金属固体Snをメッキ液中に浸す場合は、金属固体Snを不可溶性の金属ケースに収納している。金属ケースの上面は、金属固体Snの投入を容易にするために開放されており、金属ケースの前面は、メッキ液の侵入を容易にするために網で構成されている(前記特許文献1参照)。しかし、金属ケースの表面にBiが置換析出すると、金属ケースの網目を塞いでしまい、被メッキ処理物への安定したSnの供給が出来なくなってしまう。そのため、金属ケースの掃除を人手により行う必要があるが、金属ケースに析出した金属(Bi)を除去することは困難であり、掃除に多大な時間(例えば1つの金属ケースの掃除に2〜3時間程度)を要するため、作業者にとって大きな負担となっている。
【0009】
本発明の目的は、Sn−Bi合金メッキ膜を形成する電解メッキ工程において、製造コストを抑えて、被メッキ処理物の表面に所望する組成のSn−Bi合金メッキ膜を形成することのできる技術を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、Sn−Bi合金メッキ膜を形成する電解メッキ工程において、金属ケースのメンテナンス作業の軽減を図ることのできる技術を提供することにある。
【0011】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0013】
本発明は、Sn及びBiを含むメッキ液中に被メッキ処理物を浸して、被メッキ処理物の表面にSn−Bi合金メッキ膜を形成する電解メッキ工程を有する半導体装置の製造方法であって、Snはメッキ液中に配置された複数の金属固体Snから供給され、複数の金属固体Snは絶縁シートを介して金属ケース内に収納されている。
【発明の効果】
【0014】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0015】
Sn−Bi合金メッキ膜を形成する電解メッキ工程において、製造コストを抑えて、被メッキ処理物の表面に所望する組成のSn−Bi合金メッキ膜を形成することができる。また、金属ケースのメンテナンス作業の軽減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本実施の形態においては、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合及び原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でも良い。さらに、本実施の形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合及び原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。同様に、本実施の形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合及び原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似または類似するもの等を含むものとする。このことは、上記数値及び範囲についても同様である。
【0017】
また、本実施の形態で用いる図面においては、平面図であっても図面を見易くするためにハッチングを付す。また、本実施の形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0018】
本実施の形態によるQFN(Pb-free Quad Flat No-Lead)型半導体装置について図2〜図4を用いて説明する。図2は半導体装置の外観構造を示す概略平面図、図3は半導体装置の内部構造を示す図((a)は概略平面図、(b)は概略断面図)、図4は図3(b)の一部を拡大した概略断面図である。
【0019】
図2及び図3に示すように、半導体装置1は、半導体チップ2、複数のリード3、チップ支持体(ダイパッド、タブ、チップ搭載部)4、4本の吊りリード5、複数のボンディングワイヤ6及び樹脂封止体7等を有するパッケージ構造となっている。半導体チップ2、複数のリード3、チップ支持体4、4本の吊りリード5及び複数のボンディングワイヤ6等は、樹脂封止体7によって封止されている。半導体チップ2は、チップ支持体4の主面に接着剤8を介在して接着固定され、チップ支持体4には、4本の吊りリード5が一体的に連結されている。
【0020】
半導体チップ2は、その厚さ方向と交差する平面形状が方形状になっており、本実施の形態では例えば正方形になっている。半導体チップ2は、互いに反対側に位置する主面(回路形成面)及び裏面を有し、これに限定されないが、その主面には、複数のトランジスタ素子と、絶縁膜及び配線のそれぞれを複数段積み重ねた多層配線と、この多層配線を覆うようにして形成された表面保護膜等を有する構成になっている。
【0021】
さらに、半導体チップ2の主面には、複数のボンディングパッド9が形成されている。複数のボンディングパッド9は、半導体チップ2の各辺に沿って配置されている。複数のボンディングパッド9は、半導体チップ2の多層配線のうちの最上層の配線により形成され、各々のボンディングパッド9に対応して半導体チップ2の表面保護膜に形成された開口により露出している。
【0022】
複数のボンディングパッド9は、複数のリード3とそれぞれ電気的に接続されている。本実施の形態では、ボンディングパッド9とリード3との電気的な接続は、ボンディングワイヤ6により行われており、ボンディングワイヤ6の一端はボンディングパッド9に接続され、ボンディングワイヤの他の一端はリード3に接続されている。ボンディングワイヤ6としては、例えばAu(金)線を用いている。また、ボンディングワイヤ6の接続方法としては、例えば熱圧着に超音波振動を併用したネイルヘッドボンディング法(ボールボンディング法)を用いている。
【0023】
樹脂封止体7は、その厚さ方向と交差する平面形状が方形状になっており、本実施の形態では例えば正方形になっている。樹脂封止体7は、互いに反対側に位置する表面7x及び裏面7yを有し、樹脂封止体7の平面サイズ(外形サイズ)は、半導体チップ2の平面サイズ(外形サイズ)よりも大きくなっている。
【0024】
樹脂封止体7は、低応力化を図る目的として、例えばフェノール系硬化剤、シリコーンゴム及びフィラー等が添加されたビフェノール系の熱硬化性樹脂により形成されている。樹脂封止体7の形成方法としては、大量生産に好適なトランスファ・モールディング法を採用することができる。トランスファ・モールディング法は、ポット、ライナー、樹脂注入ゲート及びキャビティ等を備えた成形金型を使用し、ポットからライナー及び樹脂注入ゲートを通してキャビティの内部に熱硬化性樹脂を注入して樹脂封止体を形成する方法である。なお、トランスファ・モールディング法には、複数の製品形成領域を有するリードフレームを使用し、各製品形成領域に搭載された半導体チップを各製品形成領域毎に樹脂封止する個別方式と、複数の製品形成領域を有するリードフレームを使用し、各製品形成領域に搭載された半導体チップを一括して樹脂封止する一括方式とがあるが、本実施の形態では、個別方式のトランスファ・モールディング法を採用している。
【0025】
複数のリード3は、樹脂封止体7の4辺に沿って配置され、樹脂封止体7の側面側から半導体チップ2に向かって延在している。また、複数のリード3は、互いに反対側に位置する表面及び裏面を有し、複数のリード3のそれぞれの裏面は樹脂封止体7の裏面から露出している。本実施の形態の半導体装置1では、リード3の裏面を外部接続用端子部として使用している。
【0026】
リード3の裏面は、図4に示すように、合金メッキ膜11が形成されている。この合金メッキ膜11は、実装基板に半導体装置1を半田付けする際の半田濡れ性を確保する目的で形成されている。本実施の形態では、合金メッキ膜11として、例えばSn:Bi=98(重量%):2(重量%)の組成のSn−Bi合金メッキ膜が使用されている。この合金メッキ膜11は、後に詳細に説明するが、電解メッキ法により形成されている。電解メッキ法は、メッキ液中に陰極として被メッキ処理物を、陽極としてメッキ膜と同一の金属とをそれぞれ浸し、両電極間に電流を流してメッキ液中に溶けている金属イオンを陰極へ移動させ、被メッキ処理物の表面で電子を交換することにより、元の金属に還元、析出させてメッキ膜を生成する方法である。
【0027】
次に、本実施の形態による半導体装置の製造に使用されるリードフレームについて図5及び図6を用いて説明する。図5は半導体装置の製造に使用されるリードフレームの概略平面図、図6は図5の一部を拡大した概略平面図である。
【0028】
図5及び図6に示すように、リードフレームLFは、例えば外枠部及び内枠部を含むフレーム本体(支持体)12で区画された複数の製品形成領域(デバイス形成領域)13を行列状に配置した多連構造になっている。各製品形成領域13には、複数のリード3、1つのチップ支持体4、4本の吊りリード5等が配置されている。チップ支持体4は、製品形成領域13の中央部に配置され、4本の吊りリード5を介してフレーム本体12と一体的に形成されている。複数のリード3は、4つのリード群に分かれて配置され、各リード群のリード3はフレーム本体12と一体的に形成されている。
【0029】
リードフレームLFは、例えばFe(鉄)−Ni(ニッケル)系の合金、Cu(銅)またはCu系の合金からなる平板材(金属板)にエッチング加工またはプレス加工を施して、所定のリードパターンを形成することによって形成される。本実施の形態によるリードフレームLFは、その厚さ方向にリード3とチップ支持体4との高さをオフセットしている。このオフセットは、吊りリード5に曲げ加工を施すことによって行われている。
【0030】
次に、本実施の形態によるQFN型半導体装置の製造方法について図7及び図8を用いて工程順に説明する。図7は半導体装置の製造工程を示す図((a)はチップボンディング工程を示す概略断面図、(b)はワイヤボンディング工程を示す概略断面図)、図8は図7に続く半導体装置の製造工程を示す図((a)はモールディング工程を示す概略断面図、(b)はメッキ工程を示す概略断面図)である。
【0031】
まず、図7(a)に示すように、リードフレームLFを準備し、各製品形成領域13のチップ支持体4の主面に接着剤8を介在して半導体チップ2を接着固定する。半導体チップ2の接着固定は、半導体チップ2の裏面がチップ支持体4の主面と向かい合う状態で行われる。続いて、図7(b)に示すように、半導体チップ2の複数のボンディングパッド9と複数のリード3とをボンディングワイヤ6でそれぞれ電気的に接続する。
【0032】
次に、図8(a)に示すように、半導体チップ2、複数のリード3、チップ支持体4、同図に示さない4本の吊りリード5、複数のボンディングワイヤ6等を樹脂封止して樹脂封止体7を形成する。本実施の形態では、樹脂封止体7の形成は、各製品形成領域13に搭載された半導体チップ2を製品形成領域13毎に樹脂封止する個別方式のトランスファ・モールディング法で行われる。
【0033】
次に、図8(b)に示すように、リード3の裏面(外部接続用端子部)に、合金メッキ膜11として、例えばSn−Bi合金メッキ膜を電界メッキ法により形成する。その後、フレーム本体12からリード3及び吊りリード5を切断によって分離する。これにより、前記図2及び図3に示す半導体装置1がほぼ完成する。
【0034】
次に、本実施の形態によるリードフレームのメッキ工程について図1および図9〜図18を用いて説明する。図1は本実施の形態による電解メッキ装置のメッキ槽のリードフレーム搬送方向に対して垂直な方向の概略断面図((a)は2つのメッキ槽の断面図、(b)は金属ケース内を拡大した断面図)、図9は本実施の形態による電解メッキ装置の概略構成を示すブロック図、図10は本実施の形態による電解メッキ装置のメッキ槽の概略上面図、図11は本実施の形態による電解メッキ装置のメッキ槽の概略側面図、図12は本実施の形態によるモールディング工程が施されたリードフレームの拡大概略平面図、図13は本実施の形態による電解メッキ装置のメッキ槽に備わる金属ケースの概略図((a)は上面図、(b)及び(c)は側面図)、図14は本実施の形態による電解メッキ装置のメッキ槽に備わるアノードプレートの概略図((a)は上面図、(b)は側面図)、図15は本実施の形態による電解メッキ装置のメッキ槽に備わる絶縁シートの概略図((a)は上面図、(b)は側面図、(c)は断面図)、図16は本実施の形態によるメッキ液中の反応を説明するSn−Bi反応の模式図、図17は本実施の形態による絶縁シートの効果を説明するBi析出の模式図、図18は本実施の形態によるSn−Bi合金メッキ膜の厚さ及び組成比と印加電流との関係を示すグラフ図である。
【0035】
メッキ工程では、図9に示す電解メッキ装置20を使用する。電解メッキ装置20は、これに限定されないが、ローダ部21、前処理部22、メッキ処理部23、後処理部24、乾燥処理部25、アンローダ部26等を備えている。
【0036】
ローダ部21は前処理部22にリードフレームLFを供給する。前処理部22では、まず、NaOH(水酸化ナトリウム)等のアルカリ系の処理液を使用し、リードフレームLFの表面に付着した油成分等の汚れを除去する脱脂処理を行う。次にHCl(塩酸)やH2SO4(硫酸)等の処理液を使用し、リードフレームLFの表面をエッチングして合金メッキ膜11の接着性を良くする表面活性化処理等が行われる。メッキ処理部23では、リードフレームLFの表面に合金メッキ膜11を形成する。後処理部24では、Na3PO4(燐酸三ナトリウム)等のアルカリ系の処理液を使用し、前段のメッキ処理部23で形成された合金メッキ膜11を中和させる中和処理及び前段の処理液を洗い流す洗浄処理等を行う。乾燥処理部25では、リードフレームLFの表面に付着した水分等を蒸発させる処理を行う。アンローダ部26は、前段の乾燥処理部25で処理されたリードフレームLFを収納する。
【0037】
図10及び図11に示すように、電解メッキ装置20のメッキ処理部23には、例えば同じ構造の2つのメッキ槽27が配置され、各メッキ槽27には、例えば同じ構造の2つの処理槽29が配置されている。図10には、2つのメッキ槽27のうち、1つのメッキ槽27を示している。各処理槽29の中には、メッキ液28が入っている。メッキ液28としては、Sn(Sn塩)及びBi(Bi塩)を含み、さらに有機スルホン酸溶液を含むメッキ液が用いられている。Sn及びBiは、例えば概ねSn2+:Bi3+=98(重量%):2(重量%)の割合でメッキ液28中に含まれている。
【0038】
被メッキ処理物であるリードフレームLFは、一方のメッキ槽27に備わる1つの処理槽29から他の一方のメッキ槽27に備わる1つの処理槽29へ、例えば図10に示す搬送方向Rに沿って搬送される。さらに、1つの処理槽29は、例えば6つの金属ケース30及びBiを含むメッキ液28を噴出する8つのノズル28Aを備えており、リードフレームLFと所定の間隔をもってリードフレームLFを挟むようにして、リードフレームLFの搬送経路の両脇にそれぞれ3つの金属ケース30及び4つのノズル28Aが交互に配置されている。処理槽29のリードフレームLFの搬送方向Rに沿った方向の寸法は例えば1.5mである。また、リードフレームLFの搬送経路を挟んで互いに向かい合う2つの金属ケース30の距離は、例えば52mmである。
【0039】
金属ケース30内には、後述するように金属固体Snが複数(例えば20個程度)投入されている。金属ケース30は電源の陽極に接続され、リードフレームLFは電源の陰極に接続されている。
【0040】
メッキ工程は、図12に示すモールディング工程が施されたリードフレームLFをメッキ液28中において搬送することによって行われる。リードフレームLFは、一方向に複数の製品形成領域13を配置した多連構造になっているため、平面が長方形になっている。このリードフレームLFは、メッキ液28中において搬送方向RにリードフレームLFの長手方向が沿うようにして搬送され、金属固体Snが投入された金属ケース30がリードフレームLFの搬送方向Rに沿って配置されているので、合金メッキ膜11の厚さやSn−Bi組成比のばらつきを抑制することができる。
【0041】
金属ケース30は、図13(a)、(b)及び(c)に示すように、メッキ液28中において金属固体Snの投入を容易にするためにその上面が開放されており、また、金属ケース30内へのメッキ液28の侵入を容易にするためにその側面が網で構成されている。金属ケース30の基材には、例えば不溶性のTi(チタン)を用いることができる。金属ケース30のリードフレームLFの搬送方向Rに沿った方向の寸法は例えば380mm、リードフレームLFの搬送方向Rに対して垂直な方向の縦寸法は例えば65mm、横寸法は例えば21mmである。
【0042】
金属ケース30内へは複数の金属固体Snが投入されるが、金属固体Snと直接接触するアノードプレート31が金属ケース30内に配置されている。図14に、アノードプレート31の外形形状を示す。アノードプレート31の厚さは例えば0.5mmであり、アノードプレート31の基材には、例えば不溶性のTiを用いることができる。
【0043】
さらに、図1に示すように、金属ケース30内に投入された金属固体Sn32と金属ケース30とが直接接触するのを防ぐための絶縁シート33が、金属固体Sn32と金属ケース30との間(一部では、アノードプレート31と金属ケース30との間)に設けられている。金属固体Sn32の形状は球状であり、その直径は例えば15mmφである。球形状の利点としては、芯部が残らず最後まで使いきることができるので、メッキ液28から金属固体Sn32を取り出す作業が不要であること、コストが低いことなどを挙げることができる。また、金属ケース30内には、不活性ブロック34が設けられており、この不活性ブロック34の上に絶縁シート33(及びアノードプレート31)を介して複数の金属固体Sn32が収納されている。また、金属ケース30はアノードバック35内に配置されている。
【0044】
以下に、絶縁シート33、不活性ブロック34及びアノードバック35の効果についてそれぞれ説明する。
【0045】
まず、絶縁シート33の効果について説明する。図15に絶縁シート33の概略図を示す。絶縁シート33の材質は、例えばポリプロピレンであり、金属固体Sn32へのメッキ液28の循環を可能にするため、絶縁シート33の側面には複数の穴が形成されている。
【0046】
図16に示すように、金属固体Sn32を金属ケース30内に入れて、Biイオンを含むメッキ液28中に浸すと、金属固体Sn32からSnイオンが溶出し、Biが金属固体Sn32の表面で置換析出し、さらに金属固体Sn32の内部へ入り込んでいく。同時に金属固体Sn32と接触している金属ケース30の表面でもBiが置換析出する。SnとBiとの置換反応は標準電位差によるものであり、メッキ時の通電の有無に関わらず進行する。さらには、SnとBiとの置換反応で発生した余剰電子によって局所的な分極が生じ、金属固体Sn32に接触する導電物の表面にもBiが置換析出して、成長する。
【0047】
しかし、図17の模式図に示すように、Ti製の金属ケース30と金属固体Sn32との間に絶縁シート33を設けて、金属ケース30と金属固体Sn32とを間接的に接触させることにより、金属固体Sn32の表面にはメッキ液28中のBiが置換析出するが、金属ケース30の表面におけるBiの置換析出を抑制することができる。その結果、メッキ液28中の余分なBiの消費が少なくなり、従来の絶縁シート33を設けない電解メッキ法よりもメッキ液28に供給するBi量を低減することができて、半導体装置の製造コストの増加を抑えることができる。また、金属ケース30の網目を塞ぐことがないので、金属ケース30の掃除時間が短縮されて、作業者の負担を軽減することができる。
【0048】
次に、不活性ブロック34の効果について説明する。不活性ブロック34は、例えばTiからなり、その表面を4μm程度の厚さのPt(プラチナ)で覆ってもよい。不活性ブロック34の寸法は例えば180×35×15mmである。
【0049】
メッキ液28中に余剰のSnイオンが、置換及び溶解により変動したことにより多く含まれると、陽極と陰極との間の電流密度のバランスが取りにくくなり、所望する厚さ及びSn−Bi組成比の合金メッキ膜11を得ることが難しくなる。しかし、金属ケース30内に不活性ブロック34を配置して底上げすることにより、金属ケース30内に投入される金属固体Sn32の量が減り、所望の表面積に対して制御可能となることからメッキ液28中のSnイオン量が安定化するので、陽極と陰極との間の電流密度のバランスを取りやすくすることができる。
【0050】
図18に、Ti製の不活性ブロックを用いてリードフレームの表面に成長させたSn−Bi合金メッキ膜の厚さ及びSn−Bi組成比の印加電流(電源の陽極と陰極とに印加される電流)依存性の一例を示す。印加電流が55Aから80Aへ増加するに従って、Sn−Bi合金メッキ膜の厚さは3.6μmから5.3μmへ増加し、Sn−Bi組成比は3.7(%Bi)から2.7(%Bi)へ減少しており、印加電流を調整することにより所望する厚さ及びSn−Bi組成比のSn−Bi合金メッキ膜が得られることがわかる。
【0051】
また、前記図1に示したように、陰極となるリードフレームLFはメッキ液28中のほぼ中央部付近に配置、さらには不溶性陽極付近に配置されている。これは、リードフレームLFを水面近くに置くと、水面が波打った場合(揺れた場合)に、合金メッキ膜11の厚さやSn−Bi組成比がばらつくという問題を回避するためである。電流密度のバランスを取りやすくするために、不活性ブロック34を設置せずに金属固体Sn32のみを収納した金属ケース30を水面近くに置くと、陽極(金属固体Sn32)と陰極(リードフレームLF)との距離が離れて、合金メッキ膜11の厚さ及びSn−Bi組成比にばらつきが生じてしまう。しかし、不活性ブロック34を設置することにより、陽極(不活性ブロック34)と陰極(リードフレームLF)とを近くに置くことが出来るので、安定したSn−Bi反応が得られて、厚さ及びSn−Bi組成比のばらつきの小さい合金メッキ膜11を形成することができる。
【0052】
また、金属固体Sn32は、人手により金属ケース30内へ供給されるが、不活性ブロック34を金属ケース30内に設置すると、金属固体Sn32の消費の様子が目視し易くなり、遅滞なく金属固体Sn32を供給することができる。
【0053】
次に、アノードバック35の効果について説明する。メッキ処理中は、前述したように金属固体Sn32の表面にもBiが置換析出するが、スラッジ(酸化物等)も金属固体Sn32の表面に付着する。このスラッジは剥がれやすく、剥がれたスラッジは溶けることなくメッキ液28中に滞留して、安定したSn−Bi反応を阻害する可能性がある。しかし、金属ケース30をアノードバック35内に配置することにより、金属固体Sn32から剥がれ落ちたスラッジがメッキ液28内に滞留することを防ぐことができる。
【0054】
このように、本実施の形態によれば、Ti製の金属ケース30と金属固体Sn32との間に絶縁シート33を設けることにより、金属ケース30の表面におけるBiの置換析出を抑制することができる。その結果、メッキ液28中の余分なBiの消費が少なくなり、メッキ液28に供給するBi量を低減することができて、半導体装置の製造コストの増加を抑えることができる。また、金属ケース30内に不活性ブロック34を配置して底上げをすることにより、金属ケース30内に投入される金属固体Sn32の量が減り、陽極と陰極との間の電流密度のバランスが取りやすくなる。メッキ液の水面の揺れを考慮して陰極となるリードフレームLFをメッキ液28中のほぼ中央部付近に配置、さらには不溶性陽極付近に配置するが、陽極(金属固体Sn32)と陰極(リードフレームLF)との距離が離れても、Ti線の不活性ブロック34が陽極となるので、陽極と陰極との距離を近くに保持することができる。また、金属ケース30をアノードバック35内に配置して、金属固体Sn34から剥がれ落ちたスラッジがメッキ液28内に滞留することを防ぐことができる。これらにより、安定したSn−Bi反応が得られて、厚さ及びSn−Bi組成比のばらつきの小さい合金メッキ膜11を形成することができる。
【0055】
さらに、Ti製の金属ケース30と金属固体Sn32との間に絶縁シート33を設けることにより、金属ケース30の表面におけるBiの置換析出が抑制されて、金属ケース30の網目の潰れがなくなるので、金属ケース30の掃除時間が短縮されて、作業者の負担を軽減することができる。
【0056】
図19は、本実施の形態による電解メッキ装置のメッキ槽の他の例の概略断面図である。前述した電解メッキ装置20のメッキ槽27に備わる金属ケース30内に投入される金属固体Sn32は球形状としたが、図19に示すように、ブロック形状としてもよい。ブロック形状の金属固体Sn37の寸法は、例えば90×20×12mmであり、本実施の形態では、1つの金属ケース30に8本(4本×2段)の金属固体Sn37を投入した。ブロック形状の金属固体Sn37を使用することにより、球形状の金属固体Sn32よりもその表面積を低減することができるので、Snの溶出量が低減できて、メッキ液28中におけるSn濃度を抑えることができる。
【0057】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0058】
例えば、前記実施の形態では、メッキ液中に含まれる添加元素にBiを用いたが、これに限定されるものではなく、例えば添加元素としてCu、Ag(銀)またはZn(亜鉛)を含むメッキ液を用いることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、リードの外部接続用端子部にPbフリー組成の合金メッキ膜を形成する工程を有する半導体装置の製造方法に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本実施の形態による電解メッキ装置のメッキ槽のリードフレーム搬送方向に対して垂直な方向の概略断面図であって、(a)は2つのメッキ槽の断面図、(b)は金属ケース内を拡大した断面図である。
【図2】本実施の形態による半導体装置の外観構造を示す概略平面図である。
【図3】本実施の形態による半導体装置の内部構造を示す図であって、(a)は概略平面図、(b)は概略断面図である。
【図4】図3(b)の一部を拡大した概略断面図である。
【図5】本実施の形態による半導体装置の製造に使用されるリードフレームの概略平面図である。
【図6】図5の一部を拡大した概略平面図である。
【図7】本実施の形態による半導体装置の製造工程を示す図であって、(a)はチップボンディング工程を示す概略断面図、(b)はワイヤボンディング工程を示す概略断面図である。
【図8】図7に続く半導体装置の製造工程を示す図であって、(a)はモールディング工程を示す概略断面図、(b)はメッキ工程を示す概略断面図である。
【図9】本実施の形態による電解メッキ装置の概略構成を示すブロック図である。
【図10】本実施の形態による電解メッキ装置のメッキ槽の概略上面図である。
【図11】本実施の形態による電解メッキ装置のメッキ槽の概略側面図である。
【図12】本実施の形態によるモールディング工程が施されたリードフレームの拡大概略平面図である。
【図13】本実施の形態による電解メッキ装置のメッキ槽に備わる金属ケースの概略図であって、(a)は上面図、(b)及び(c)は側面図である。
【図14】本実施の形態による電解メッキ装置のメッキ槽に備わるアノードプレートの概略図であって、(a)は上面図、(b)は側面図である。
【図15】本実施の形態による電解メッキ装置のメッキ槽に備わる絶縁シートの概略図であって、(a)は上面図、(b)は側面図、(c)は断面図である。
【図16】本実施の形態によるメッキ液中の反応を説明するSn−Bi反応の模式図である。
【図17】本実施の形態による絶縁シートの効果を説明するBi析出の模式図である。
【図18】本実施の形態によるSn−Bi合金メッキ膜の厚さ及び組成比と印加電流との関係を示すグラフ図である。
【図19】本実施の形態による電解メッキ装置のメッキ槽の他の例の概略断面図である。
【図20】本発明者らによって検討されたSn−Bi反応の模式図である。
【符号の説明】
【0061】
1 半導体装置
2 半導体チップ
3 リード
4 チップ支持体
5 吊りリード
6 ボンディングワイヤ
7 樹脂封止体
7x 樹脂封止体の表面
7y 樹脂封止体の裏面
8 接着剤
9 ボンディングパッド
11 合金メッキ膜
12 フレーム本体
13 製品形成領域
20 電解メッキ装置
21 ローダ部
22 前処理部
23 メッキ処理部
24 後処理部
25 乾燥処理部
26 アンローダ部
27 メッキ槽
28 メッキ液
28A ノズル
29 処理槽
30 金属ケース
31 アノードプレート
32 金属固体Sn
33 絶縁シート
34 不活性ブロック
35 アノードバック
37 金属固体Sn
51 メッキ液
52 金属固体Sn
53 陰極板
LF リードフレーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
錫及び添加元素を含むメッキ液中に被メッキ処理物を浸して、前記被メッキ処理物の表面に合金メッキ膜を形成する工程を有する半導体装置の製造方法であって、
前記錫は前記メッキ液中に配置された複数の金属固体錫から供給され、前記複数の金属固体錫は絶縁シートを介して金属ケース内に収納されていることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の半導体装置の製造方法において、前記金属ケース内に不溶性ブロックを配置し、前記不溶性ブロックの上に前記絶縁シートを介して前記複数の金属固体錫を配置することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項3】
請求項2記載の半導体装置の製造方法において、前記複数の金属固体錫及び前記金属ケースは陽極に接続され、前記被メッキ処理物は陰極に接続されていることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の半導体装置の製造方法において、前記不溶性ブロックは陽極に接続されていることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項5】
請求項1記載の半導体装置の製造方法において、前記複数の金属固体錫は球形状であることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項6】
請求項1記載の半導体装置の製造方法において、前記複数の金属固体錫はブロック形状であることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項7】
請求項1記載の半導体装置の製造方法において、前記金属ケースはアノードバック内に配置されていることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項8】
請求項1記載の半導体装置の製造方法において、前記被メッキ処理物は前記メッキ液の中心付近に配置されていることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項9】
請求項1記載の半導体装置の製造方法において、前記メッキ液に含まれる前記添加元素はビスマス、銅、銀または亜鉛のいずれかであることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項10】
請求項1記載の半導体装置の製造方法において、前記絶縁シートには、複数の穴が形成されていることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項11】
請求項10記載の半導体装置の製造方法において、前記絶縁シートはポリプロピレンからなることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項12】
請求項1記載の半導体装置の製造方法において、前記不活性ブロックはチタンからなることを特徴とする半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2008−190005(P2008−190005A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−26472(P2007−26472)
【出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【出願人】(503121103)株式会社ルネサステクノロジ (4,790)
【Fターム(参考)】