説明

半導体装置の製造方法

【課題】スペーサーを形成すべき凸部の相互間隔、溝の幅、又は孔の径が小さい場合に、基板保護膜を用いる必要がなく、かつノッチを生じさせずにスペーサーを形成する。
【解決手段】スペーサーを形成する時の異方性エッチングにおいて、「1−(異方性エッチングおける第2スペーサー形成膜5の垂直方向のエッチングレートに対する水平方向のエッチングレートの比)」を異方性度と定義し、「(第1スペーサー形成膜4の膜厚T1−第2スペーサー形成膜5の膜厚T2)/(第1スペーサー形成膜4の膜厚T1)」を第1スペーサー形成膜4の第2スペーサー形成膜5に対する膜厚増分率と定義した時に、第2スペーサー形成膜5の垂直方向のエッチングレートを第1スペーサー形成膜4の垂直方向のエッチングレートより小さく、かつ第1スペーサー形成膜4の垂直方向のエッチングレートに異方性度と膜厚増分率のうち小さい方を乗じた値より大きいエッチング条件にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凸部の側壁にスペーサーを形成する工程を有する半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報通信機器の発達に伴いLSIに要求される処理能力はますます高いものになっており、MIS型電界効果トランジスタの高速化が図られている。この高速化は主として構造の微細化および高密度化によって進められてきた。一方、LSIを製造する際、段差の側壁にスペーサーと呼ばれる構造をしばしば形成する。スペーサーとは、段差を有する構造に対し、自己整合的に所定の構造を形成する際、その構造体の水平方向の位置を制御するために用いられる。
【0003】
例えばスペーサーは、MIS型電界効果トランジスタのソース・ドレインを、ゲート電極をマスクにしてイオン注入により自己整合的に形成する際に、ソース・ドレインの先端とゲート電極の水平方向の位置調整に用いられる。これは、イオン注入された不純物が、活性化の熱処理の際に、横方向にも広がるためである。
【0004】
またスペーサーは、MIS型電界効果トランジスタのソース・ドレイン上に、金属スパッタと熱処理を組み合わせて、自己整合的に金属シリサイドを形成する際(サリサイドプロセスと呼ばれる)、シリサイドとゲート電極の水平方向の距離を適切に離す場合にも用いられる。
【0005】
その他スペーサーは、フォトリソグラフィとエッチングを用いて形成した溝やホールの幅を、更に狭くしたい場合に、その内部の側壁に形成することもある。
【0006】
スペーサーを形成することに関連する文献としては、特許文献1〜8がある。これらのうち特許文献1と特許文献2には、MIS型電界効果トランジスタのゲート電極の側壁にスペーサーを形成する際に、基板が削れてしまうということを解決することを目的として、基板保護膜を用いて基板を保護しつつスペーサーを形成する方法が開示されている。特許文献3には、等方性エッチングを用いてスペーサーを形成する方法が開示されている。特許文献4には、MONOS構造のメモリゲート電極を、制御ゲート電極の側壁スペーサーとして形成する際に、スペーサーとなる膜の表面にエッチングレートの遅い膜を設けることにより、肩落ちの少ないスペーサー形状を実現する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−159335号公報
【特許文献2】特開2005−277317号公報
【特許文献3】特開平07−245397号公報
【特許文献4】特開2007−184323号公報
【特許文献5】特開2002−170941号公報
【特許文献6】特開2004−303799号公報
【特許文献7】特開2005−175378号公報
【特許文献8】特開2006−100599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示されているように、側壁にスペーサーを形成する際に基板などの下地が削られることは、異方性エッチングを用いた場合に共通する課題である。そこで、特許文献1又は特許文献2に開示されている方法を用いれば、基板が削れることはなくなるが、基板上に保護膜が残る。このような保護膜が残ることが好ましくない場合は保護膜を用いることができない。このような場合としては、例えば、非常に低エネルギーで不純物のイオン注入を行う場合が考えられる。
【0009】
なお特許文献1、特許文献2には、ウェットエッチングにより、この保護膜のみを選択的に除去する方法も開示されている。しかしこの場合、スペーサーの下にノッチが形成されてしまう。そのため、このようはノッチが形成されることが好ましくない場合は、この方法は用いることができない。このような場合としては、例えば、スペーサーをマスクとして用いる自己整合的なイオン注入工程がある。詳細には、ノッチの部分のマスク性が低下するため、ノッチの下に望まない不純物が注入される懸念がある。
【0010】
特許文献3に開示されているスペーサーの形成方法では、等方性エッチングを用いているため、スペーサー材と基板とのエッチング選択比を非常に高く設定できる。これは、等方性エッチングの手法として、化学的なエッチング手法を選択できるためである。そのため、基板保護膜を用いることなく、基板が削れることを抑制できるが、狙いのスペーサーの中腹幅に対し、スペーサーとなる膜を厚めに堆積しなくてはならない。そのため、スペーサーを形成すべき凸部の相互間隔、溝の幅、又は孔の径が小さい場合、狭い溝内部の側壁にスペーサーを形成する際、凸部の相互間隔、溝、又は孔の全体がスペーサー材で埋もれてしまい、望むようなスペーサー形状が得られない。
【0011】
特許文献4に開示されている方法の場合、エッチングの際、スペーサーの側面がエッチングレートの遅い膜で保護されている。特許文献4では、異方性エッチングと基板保護膜とを組み合わせているが、等方性成分を含むエッチングを用いる場合にも適用できることが容易に想像できる。その場合、横方向のエッチングが少ないため、スペーサーとなる膜の堆積膜厚とスペーサー中腹幅の差が小さい。すなわち、より狭い溝の内部でも、側壁にスペーサーを形成することができる。しかしながら、エッチングレートの遅い膜で保護されていないスペーサー下部はノッチ形状になりやすいという課題がある。
【0012】
このように、スペーサーを形成すべき凸部の相互間隔、溝の幅、又は孔の径が小さい場合に、基板保護膜を用いる必要がなく、かつノッチを生じさせずにスペーサーを形成することは難しかった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、凸部、溝、若しくは孔を形成する工程と、
前記凸部の側壁上、前記溝の側壁上、若しくは孔の内壁上、及び前記凸部、溝、又は前記孔の周囲に第1スペーサー形成膜を形成する工程と、
前記第1スペーサー形成膜上に第2スペーサー形成膜を形成する工程と、
前記第2スペーサー形成膜及び前記第1スペーサー形成膜に等方性成分を含む異方性エッチングを行うことにより、前記凸部の側壁、前記溝の側壁、又は前記孔の内壁にスペーサーを形成する工程と、
を備え、
前記異方性エッチングにおいて、
1−(前記異方性エッチングおける前記第2スペーサー形成膜の垂直方向のエッチングレートに対する水平方向のエッチングレートの比)を異方性度と定義し、
(前記第1スペーサー形成膜の膜厚−前記第2スペーサー形成膜の膜厚)/(前記第1スペーサー形成膜の膜厚)を前記第1スペーサー形成膜の前記第2スペーサー形成膜に対する膜厚増分率と定義したときに、
前記第2スペーサー形成膜の垂直方向のエッチングレートは、
前記第1スペーサー形成膜の垂直方向のエッチングレートより小さく、
かつ前記第1スペーサー形成膜の垂直方向のエッチングレートに、前記異方性度と前記膜厚増分率のうち小さいほうを乗じた値より大きい半導体装置の製造方法が提供される。
【0014】
本発明によれば、2種類のエッチングレートを有するスペーサー材を組み合わせるため、スペーサー材の垂直方向の平均的なエッチングレートを、水平方向の平均的なエッチングレートより高めることができる。これは、エッチング条件を変えることなく、エッチングの実質的な異方性を高めることに相当する。
【0015】
また第2スペーサー形成膜の垂直方向のエッチングレートは、第1スペーサー形成膜の垂直方向のエッチングレートより小さい。このため、第1スペーサー形成膜をエッチングしてスペーサーの形状にするときに、第2スペーサー形成膜は第1スペーサー形成膜のうちスペーサーの裾となる領域を被覆するマスクとして機能するともいえる。一方で、第2スペーサー形成膜のマスク性はそれほど高くないため、第2スペーサー形成膜もゆっくりエッチングされるため、第1スペーサー形成膜により構成される部分にノッチが形成されることが抑制される。
【0016】
また第2スペーサー形成膜の垂直方向のエッチングレートは、第1スペーサー形成膜の垂直方向のエッチングレートに、異方性度と膜厚増分率のうち小さいほうを乗じた値より大きい。このようにすることで、第1スペーサー形成膜により形成されるスペーサーがノッチ形状になることが抑制できる。なお第2スペーサー形成膜の垂直方向のエッチングレートが、第1スペーサー形成膜の垂直方向のエッチングレートに膜厚増分率を乗じた値以下で、なおかつ第2スペーサー形成膜の垂直方向のエッチングレートが、第1スペーサー形成膜の垂直方向のエッチングレートに異方性度を乗じた値以下の場合は、第1スペーサー形成膜により形成されるスペーサーがノッチ形状になってしまう。
【0017】
従って、スペーサーを形成するときに、基板保護膜を用いる必要がなく、かつノッチを生じることを抑制できる。
【0018】
本発明によれば、凸部、溝、又は孔を形成する工程と、
前記凸部の側壁上、前記溝の側壁上、若しくは孔の内壁上、及び前記凸部、溝、又は前記孔の周囲に第1スペーサー形成膜を形成する工程と、
前記第1スペーサー形成膜上に、前記第1スペーサー形成膜より薄い第2スペーサー形成膜を形成する工程と、
前記第2スペーサー形成膜及び前記第1スペーサー形成膜に等方性成分を含む異方性エッチングを行うことにより、前記凸部の側壁、前記溝の側壁、又は前記孔の内壁にスペーサーを形成する工程と、
を備え、
前記異方性エッチングにおいて、
1−(前記異方性エッチングおける前記第2スペーサー形成膜の垂直方向のエッチングレートに対する水平方向のエッチングレートの比)を異方性度と定義したときに、
前記第2スペーサー形成膜の垂直方向のエッチングレートは、
前記第1スペーサー形成膜の垂直方向のエッチングレートより小さく、
かつ前記第1スペーサー形成膜の垂直方向のエッチングレートに前記異方性度を乗じた値より大きい半導体装置の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、スペーサーを形成すべき凸部の相互間隔、溝の幅、又は孔の径が小さい場合に、基板保護膜を用いる必要がなく、かつノッチが生じることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施の形態における半導体装置の製造方法を工程順に示す断面図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態における半導体装置の製造方法を工程順に示す断面図である。
【図3】本発明の第3の実施の形態における半導体装置の製造方法を工程順に示す断面図である。
【図4】本発明の膜厚設計方法を示すグラフである。
【図5】本発明の効果を示すグラフである。
【図6】本発明の効果を示すグラフである。
【図7】本発明の効果を計算したグラフである。
【図8】本発明の効果を示す実験で用いた、シリコン窒化膜のエッチングレートを示したグラフである。
【図9】関連技術1に係る実験結果を示した工程手順と断面像である。
【図10】第1の実施の形態による実験結果を示した工程手順と断面図である。
【図11】第1の実施の形態による実験結果の効果を示したグラフである。
【図12】関連技術1に係る半導体装置の製造方法を工程順に示す断面図である。
【図13】関連技術2に係る半導体装置の製造方法を工程順に示す断面図である。
【図14】関連技術3に係る半導体装置の製造方法を工程順に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0022】
以下、本発明の実施形態を図に基づいて詳細に説明する。本発明の実施形態の優位性を明確にするため、先ず、図12、図13、図14に示した製造方法を用いることで、狭い溝内部に側壁スペーサーを作製した場合の問題点について述べる。なお、溝と表記した場合、柱状物が狭い間隔で並んでいるような構造体をも含むことができる。本実施例では、MIS型電界効果トランジスタのゲート電極の側壁スペーサーを例にとって説明する。なお、側壁スペーサーのすそ引き形状が課題になる場合がある。それは、すそ引き幅はばらつきやすく、半導体装置の製造ばらつきを引き起こすからである。これらの課題は、特に、LSIの構造の高密度化と共に深刻な課題となっている。
【0023】
(関連技術1)
図12は、純粋な異方性エッチングで側壁スペーサーを作製する方法を示している。 まず図12(a)に示すように、シリコン基板1上に、ゲート絶縁膜2を介して、ポリシリコンゲート電極3を形成する。ポリシリコンゲート電極3は複数あり、間隔Wで並んでいる。次に、全面にシリコン窒化膜10を厚さTだけ堆積する。その後図12(b)に示すように、反応性イオンエッチング(RIE)法で、異方性の非常に高い条件でシリコン窒化膜10をエッチングし、側壁スペーサー10aを形成する。
【0024】
その際、側壁スペーサー10aの中腹幅Lは、シリコン窒化膜10の側壁上の膜厚Tと等しくなる。従って、シリコン窒化膜10の膜厚Lは、側壁スペーサー10aの中腹幅Tより厚く堆積する必要は無く、ポリシリコンゲート電極3の間隔Wは、2×T近くまで狭めることが可能である。
【0025】
しかし、異方性が非常に高いエッチング条件を用いるため、シリコン基板1とのエッチング選択比を十分高くとることができず、図12(b)に示すように基板削れ1aを生じる。このような基板削れ1aは、MIS型電界効果トランジスタの寄生抵抗の増加、リーク電流の増加、あるいは電気特性のばらつきを引き起こす。従って、このような課題が深刻となるMIS型電界効果トランジスタの製造には用いることができない。
【0026】
基板削れ1aを防ぐために、特許文献1、特許文献2には、基板保護膜を用いる方法が開示されているが、前述のように、基板保護膜が別の課題を引き起こす場合がある。特に、低エネルギーのイオン注入でシリコン基板1に不純物導入を行う場合、保護膜で不純物が無駄に消費されてしまうという課題がある。
【0027】
(関連技術2)
図13は、等方性成分を含むRIE法で側壁スペーサーを作製する方法を示している。 まず図13(a)に示すように、シリコン基板1上に、ゲート絶縁膜2を介して、ポリシリコンゲート電極3を形成する。ポリシリコンゲート電極3は複数あり、間隔Wで並んでいる。次に、全面にシリコン窒化膜11を厚さTだけ堆積する。その後図13(b)に示すように、反応性イオンエッチング(RIE)法で、異方性成分と等方性成分からなる条件でシリコン窒化膜11をエッチングする。エッチングは、シリコン基板1とポリシリコンゲート電極3が露になった時点でストップさせ、側壁スペーサー11aが形成される。
【0028】
その際、等方性成分として、シリコン窒化膜11とシリコン基板1とのエッチング選択比が非常に高い、化学的なエッチャント成分を選択できる。従って、シリコン基板1に基板の削れはほとんど起こらない。
【0029】
しかし、等方性成分によるエッチングにより、水平方向にもシリコン窒化膜11のエッチングが進行し、k×Tだけ、シリコン窒化膜11が水平方向にもエッチングされる。ここで、kは、シリコン窒化膜11の水平方向のエッチングレートの、垂直方向のエッチングレートに対する比で、1未満の値である。この値は、エッチングの等方性の大きさを表すので、本明細書において等方性度と呼ぶことにする。(等方性度)=1ならば、完全な等方性エッチングである。また、1−kは、異方性の大きさを表すので、異方性度と呼ぶことにする。(異方性度)=1ならば、完全な異方性エッチングである。
【0030】
すると、側壁スペーサー11aの中腹幅Lは、
L=(1−k)×T
となる。すなわち、堆積膜厚に異方性度をかけた値となる。これより、中腹幅Lのスペーサーを形成するために必要なシリコン窒化膜11の堆積膜厚Tは、
T=L/(1−k)>L
となる。従って、ポリシリコンゲート電極3の間隔Wは、2×T=2×L/(1−k)より狭めることができない。このことは、狭い間隔で並ぶポリシリコンゲート電極の側壁スペーサー形成には不利である。特に、高密度でMIS型電界効果トランジスタを配置する集積回路の製造には不向きである。
【0031】
(関連技術3)
図14は、側壁スペーサーの材料として、外側にエッチングレートの遅い膜を配置する方法を示している。これは、特許文献4に開示されている方法を応用した方法である。まず図14(a)に示すように、シリコン基板1上に、ゲート絶縁膜2を介して、ポリシリコンゲート電極3を形成する。ポリシリコンゲート電極3は複数あり、間隔Wで並んでいる。次に、全面にシリコン窒化膜12と、その上にシリコン酸化膜13を堆積する。その後図14(b)に示すように、異方性成分と等方性成分からなるRIE法で、シリコン酸化膜13とシリコン窒化膜12をエッチングする。その際、シリコン酸化膜13のエッチングレートは遅く、シリコン窒化膜12のエッチングレートは速い条件を選択する。
【0032】
まず、シリコン酸化膜13がエッチングされ、これによりスペーサー13aが形成される。続けて、シリコン窒化膜12がエッチングされ、スペーサー12aが形成される。この際、エッチングの等方性成分により、スペーサー13aも水平方向にエッチングされ、スペーサー13bとなる。ただし、エッチングレートが遅いため、エッチングレートの速いシリコン窒化膜12のエッチングが終了するまでの時間でエッチングされる膜厚は僅かである。
【0033】
こうして、等方性成分を含むエッチングを用いつつ、横方向のエッチングを減らすことができるので、関連技術3と比較して、より狭い間隔で並ぶポリシリコンゲート電極の側壁スペーサー形成が可能となる。しかも、シリコン基板1の削れは十分減らすことが可能である。
【0034】
しかし、シリコン酸化膜13とシリコン窒化膜12のエッチングレートの差が大きいため、スペーサー13bの下部にノッチ12bが生じてしまう。そのため、このようはノッチが形成されることが好ましくない場合は、この方法は用いることができない。例えば、イオン注入の場合、ノッチの部分のマスク性が低下するため、ノッチの下に望まない不純物が注入される懸念がある。
【0035】
次に、本発明の実施形態について説明する。本発明の実施形態に係る、半導体装置の狭い溝の側壁にスペーサーを形成する方法とは、溝の側壁および底面に速いエッチングレート(R1)の膜を膜厚T1だけ堆積し、その上に遅いエッチングレート(R2)の膜を膜厚T2だけ堆積した後、それら2つの膜を、等方性度がkであるエッチングによりスペーサーに加工する場合において、0<R2<R1であり、なおかつ、R2/R1の値を、1−kの値と1−T2/T1の値のうち、より小さな値より大きくなるように設定するものである。このような条件範囲のもとでは、等方性成分を含むエッチングを用いつつ、より狭い溝内に側壁スペーサー形成が可能である。しかも、ノッチは無く、シリコン基板の削れは十分減らすことが可能である。
【0036】
すなわち以下に示す実施形態においては、まず、凸部、溝、又は孔を形成する。次いで、凸部の側壁上、溝の側壁上、若しくは孔の内壁上、及び凸部、溝、又は孔の周囲に第1スペーサー形成膜を形成する。次いで、第1スペーサー形成膜上に第2スペーサー形成膜を形成する。次いで、第2スペーサー形成膜及び第1スペーサー形成膜を異方性エッチングすることにより、凸部の側壁、溝の側壁、又は孔の内壁にスペーサーを形成する。
【0037】
そして上記した異方性エッチングにおいて、「1−(異方性エッチングおける第2スペーサー形成膜の垂直方向のエッチングレートに対する水平方向のエッチングレートの比)」を異方性度と定義し、「(第1スペーサー形成膜の膜厚−第2スペーサー形成膜の膜厚)/(第1スペーサー形成膜の膜厚)」を第1スペーサー形成膜の第2スペーサー形成膜に対する膜厚増分率と定義したときに、第2スペーサー形成膜の垂直方向のエッチングレートは、第1スペーサー形成膜の垂直方向のエッチングレートより小さく、かつ第1スペーサー形成膜の垂直方向のエッチングレートに、異方性度と膜厚増分率のうち小さいほうを乗じた値より大きい。この条件の必要性は、後述する図4により示されている。
【0038】
また上記した異方性エッチングにおいて、第2スペーサー形成膜の垂直方向のエッチングレートは、第1スペーサー形成膜の垂直方向のエッチングレートより小さく、かつ第1スペーサー形成膜の垂直方向のエッチングレートに異方性度を乗じた値より大きくてもよい。この条件の必要性は、後述する図4により示されている。
【0039】
次に、本発明の実施形態を、具体例を用いて更に詳細に説明する。なお以下の例では、ポリシリコンゲート電極3に側壁スペーサーを形成しているが、溝の側壁又は孔の内壁に側壁スペーサーを形成する場合も、以下の例と同様にすることができる。
【0040】
(実施の形態1)
図1は、本発明の第1の実施の形態を示す図である。本形態では、側壁スペーサー完成後に、エッチングレートの遅いシリコン窒化膜を残すように設定する。これは、側壁スペーサー完成後の後工程で、側壁スペーサーの横方向のエッチングが気になる場合に有効である。例えば、度重なるウェット洗浄工程による側壁スペーサーの後退などがそれにあたる。
【0041】
まず図1(a)に示すように、シリコン基板1上に、ゲート絶縁膜2を介して、ポリシリコンゲート電極3を形成する。ポリシリコンゲート電極3は複数あり、間隔Wで並んでいる。次に、全面に、垂直成分及び水平成分のそれぞれでエッチングレートの速いシリコン窒化膜4(第1スペーサー形成膜)を膜厚T1、その上に、垂直成分及び水平成分のそれぞれでエッチングレートの遅いシリコン窒化膜5(第2スペーサー形成膜)を膜厚T2だけ堆積する。エッチングレートは、例えば成膜温度を変えることにより変えることができる。例えばシリコン窒化膜4は第1の温度で形成され、シリコン窒化膜5は第1の温度より高い第2の温度で形成される。その際、シリコン窒化膜5のエッチングレートは、シリコン窒化膜4のエッチングレートのr倍とする。rは1未満の数値である。すなわち、シリコン窒化膜4のエッチングレートをR1、シリコン窒化膜5のエッチングレートをR2とすると、
R2/R1=r<1 ...(1)
である。
【0042】
次に図1(b)に示すように、等方性度がkである、異方性成分と等方性成分からなるRIE法で、エッチングレートの遅いシリコン窒化膜5をエッチングし、スペーサー5aを形成する。この際、等方性成分によるエッチングにより、水平方向にもシリコン窒化膜5のエッチングが進行し、k×T2だけ、シリコン窒化膜5が水平方向にもエッチングされる。kは、本例に示すように2つの膜が少なくとも同じ材料であれば、膜種によらずほぼ同一の値となる。
【0043】
例として、図8に、本実施例の効果を示す実験として用いた、2種類のシリコン窒化膜(低温成膜SiNと高温成膜SiN)の、垂直方向と水平方向のエッチングレートを示す。いずれのシリコン窒化膜(SiN)でも、等方性度kの値はほぼ0.35である。なお、これらのシリコン窒化膜(SiN)は、化学気相成長(CVD)法を用いて堆積しており、CVD温度を変えることにより、エッチングレートを連続的に変化することができた。その他、堆積方法を変えることによっても、シリコン窒化膜のエッチングレートの変化は可能である。
【0044】
続けて図1(c)に示すように、同じ異方性成分と等方性成分からなるRIE法で、シリコン窒化膜4を、シリコン基板1の一部とポリシリコンゲート電極3の上面が露出するまでエッチングし、スペーサー4aを形成する。ここでエッチングは、シリコン窒化膜5及びシリコン窒化膜4に対して連続して行われる。この際、エッチングの等方性成分により、シリコン窒化膜5より下部において、k×T1だけ、シリコン窒化膜4が水平方向にもエッチングされる。一方、スペーサー5aも水平方向にエッチングされ、スペーサー5bとなる。このエッチング量は、シリコン窒化膜4の水平方向のエッチング量のr倍になるから、k×T1×rである。
【0045】
これらから、完成した側壁スペーサーの形状は以下のようになる。
(中腹部の水平方向のエッチング量)=(すそ引き量)=k×r×T1+k×T2...(2)
(シリコン窒化膜5より下の、シリコン窒化膜4の水平方向のエッチング量)=k×T1...(3)
(側壁スペーサーの中腹幅)=(1−k×r)×T1+(1−k)×T2=L ...(4)
【0046】
ただし、側壁スペーサー完成後に、エッチングレートの遅いシリコン窒化膜5を残す必要があることから、
(中腹部の水平方向のエッチング量)<(シリコン窒化膜5の膜厚)=T2...(5)
でなければならず、(5)に(2)を代入することにより、
T2>k/(1−k)×r×T1 ...(6)
となる。
【0047】
また、ノッチ形状を防ぐため、
(中腹部の水平方向のエッチング量)≧(シリコン窒化膜5より下の、シリコン窒化膜4の水平方向のエッチング量)...(7)
でなければならず、(7)に(2)及び(3)を代入することにより、
T2≧(1−r)×T1...(8)
となる。
【0048】
ここで、(1)、(6)、(8)より、実施例1をなす、r(=R2/R1)、T2/T1の値の範囲を図示したのが、図4である。これをもとに、エッチングレートの速いシリコン窒化膜とエッチングレートの遅いシリコン窒化膜の膜厚の和 T1+T2を、T2/T1を変数にして示したグラフが図5である。横軸は対数表示になっていることに注意されたい。本実施例は、図5のA−A'またはB−B'の範囲で、これは図4のA−A'またはB−B'の状態に一致している。
【0049】
図5によれば、本実施例により、同じ側壁スペーサー中腹幅に対し、側壁スペーサーをシリコン窒化膜単層で形成する場合(T2/T1=0または∞)に比べれば、シリコン窒化膜の総膜厚T1+T2の値を小さくできることがわかる。なお、側壁スペーサーのすそ引きの値も、本実施例により減少できる。
【0050】
このことより、等方性成分を含むエッチングを用いつつ、より狭い間隔で並ぶポリシリコンゲート電極の側壁スペーサー形成が可能であることがわかる。しかも、ノッチは無く、シリコン基板の削れは十分減らすことが可能である。
【0051】
図9、図10、図11は、本実施例の効果を示すために行った実験結果を示している。エッチングレートの異なるシリコン窒化膜としては、本実験で用いたRIEに対し、図8に示されるエッチングレートを有するシリコン窒化膜を用いた。
【0052】
まず、図9は、関連技術2に従った、単層のシリコン窒化膜による側壁スペーサーの形成方法と、その断面観察像を示している。なお、実験で用いた構造は、図1で示した実施例と少し異なっているが、側壁スペーサーの形成方法は同じである。図9の断面像によると、関連技術2に従った場合、大きいすそ引きが見られ、堆積したシリコン窒化膜の膜厚は、完成した側壁スペーサーの中腹幅の1.6倍であった。
【0053】
一方、図10によると、本実施例を適用した側壁スペーサーは、すそ引きが減少しており、堆積したシリコン窒化膜の総膜厚は、完成した側壁スペーサーの中腹幅の1.4倍に減少している。図11は、この値をまとめたグラフである。計算値と実験値がやや異なっているものの、概ね傾向は一致しており、本実施例の効果が示されている。
【0054】
(実施の形態2)
図2は、本発明の第2の実施の形態を示す図である。本形態では、側壁スペーサー完成後に、エッチングレートの遅いシリコン窒化膜は無くなるように設定する。これは、エッチングレートの遅い窒化膜を残したくない場合に有効である。例えば、エッチングレートの遅い窒化膜がストレスや信頼性に影響を及ぼす場合などがそれにあたる。
【0055】
まず図2(a)に示すように、シリコン基板1上に、ゲート絶縁膜2を介して、ポリシリコンゲート電極3を形成する。ポリシリコンゲート電極3は複数あり、間隔Wで並んでいる。次に、全面にエッチングレートの速いシリコン窒化膜6を膜厚T1、その上にエッチングレートの遅いシリコン窒化膜7を膜厚T2だけ堆積する。その際、シリコン窒化膜7のエッチングレートは、シリコン窒化膜6のエッチングレートのr倍とする。rは1未満の数値である。すなわち、シリコン窒化膜6のエッチングレートをR1、シリコン窒化膜7のエッチングレートをR2とすると、
R2/R1=r<1...(9)
である。
【0056】
次に図2(b)に示すように、等方性度がkである、異方性成分と等方性成分からなるRIE法で、エッチングレートの遅いシリコン窒化膜7をエッチングし、スペーサー7aを形成する。この際、等方性成分によるエッチングにより、水平方向にもシリコン窒化膜7のエッチングが進行し、k×T2だけ、シリコン窒化膜7が水平方向にもエッチングされる。kは、少なくとも同じ材料であれば、膜種によらずほぼ同一の値となる。この段階で、スペーサー7aの幅は、(1−k)×T2である。
【0057】
続けて図2(c)に示すように、同じ異方性成分と等方性成分からなるRIE法で、スペーサー7aが無くなるまでエッチングする。スペーサー7aの中腹幅は(1−k)×T2であるから、シリコン窒化膜6は垂直方向に(1−k)×T2/k/rだけエッチングされ、シリコン窒化膜6aとなる。このシリコン窒化膜6aの垂直方向の残り膜厚は、T1−(1−k)/k/r×T2である。
【0058】
更に、同じ異方性成分と等方性成分からなるRIE法で、シリコン窒化膜6aを、シリコン基板1とポリシリコンゲート電極3が露になるまでエッチングし、スペーサー6bを形成する。この際、エッチングの等方性成分により、水平方向にも、シリコン窒化膜6aのエッチングが進行する。従って、k×T1−(1−k)/r×T2だけ、シリコン窒化膜6aが水平方向にもエッチングされる。一方、シリコン窒化膜7より下部における、シリコン窒化膜6の水平方向のエッチング量は、結局のところ、膜厚T1のk倍になるから、最終的にはk×T1である。
【0059】
これらから、完成した側壁スペーサーの形状は以下のようになる。
(中腹部の水平方向のエッチング量)=(すそ引き量)=k×T1+{1−(1−k)/r}×T2...(10)
(シリコン窒化膜7より下の、シリコン窒化膜6の水平方向のエッチング量)=k×T1...(11)
(側壁スペーサーの中腹幅)=(1−k)×T1+(1−k)/r×T2=L...(12)
【0060】
ただし、側壁スペーサー完成後に、エッチングレートの遅いシリコン窒化膜が無くなるから、
(中腹部の水平方向のエッチング量)≧(シリコン窒化膜7の膜厚)=T2...(13)
でなければならず、(10)、(13)より、
T2≦k/(1−k)×r×T1...(14)
である。
【0061】
また、ノッチ形状を防ぐため、
(中腹部の水平方向のエッチング量)≧(シリコン窒化膜7より下の、シリコン窒化膜6の水平方向のエッチング量)...(15)
でなければならず、(10)、(11)、(15)より、
r≧1−k...(15)
である。
【0062】
ここで、(9)、(14)、(15)より、実施例2をなす、r(=R2/R1)、T2/T1の値の範囲を図示したのが、図4である。
【0063】
これをもとに、エッチングレートの速いシリコン窒化膜とエッチングレートの遅いシリコン窒化膜の膜厚の和 T1+T2を、T2/T1を変数にして示したグラフが図5である。横軸は対数表示になっていることに注意されたい。本実施例は、図5のA'−A''の範囲で、これは図4のA'−A''の状態に一致している。
【0064】
図5によれば、本実施例により、同じ側壁スペーサー中腹幅に対し、側壁スペーサーをシリコン窒化膜単層で形成する場合(T2/T1=0または∞)に比べれば、シリコン窒化膜の総膜厚T1+T2の値を小さくできることがわかる。なお、側壁スペーサーのすそ引きの値も、本実施例により減少できる。
【0065】
このことより、等方性成分を含むエッチングを用いつつ、より狭い間隔で並ぶポリシリコンゲート電極の側壁スペーサー形成が可能であることがわかる。しかも、ノッチは無く、シリコン基板の削れは十分減らすことが可能である。
【0066】
(実施の形態3)
図3は、本発明の第3の実施の形態を示す図である。本形態では、側壁スペーサー完成後に、エッチングレートの遅いシリコン窒化膜がちょうど無くなるように設定される。これは、第2の実施の形態の特殊な場合である。
【0067】
まず図3(a)に示すように、シリコン基板1上に、ゲート絶縁膜2を介して、ポリシリコンゲート電極3を形成する。ポリシリコンゲート電極3は複数あり、間隔Wで並んでいる。次に、全面にエッチングレートの速いシリコン窒化膜8を膜厚T1、その上にエッチングレートの遅いシリコン窒化膜9を膜厚T2だけ堆積する。その際、シリコン窒化膜9のエッチングレートは、シリコン窒化膜8のエッチングレートのr倍とする。rは1未満の数値である。すなわち、シリコン窒化膜8のエッチングレートをR1、シリコン窒化膜9のエッチングレートをR2とすると、
R2/R1=r<1...(16)
である。
【0068】
次に図3(b)に示すように、等方性度がkである、異方性成分と等方性成分からなるRIE法で、エッチングレートの遅いシリコン窒化膜9をエッチングし、スペーサー9aを形成する。この際、等方性成分によるエッチングにより、水平方向にもシリコン窒化膜9のエッチングが進行し、k×T2だけ、シリコン窒化膜9が水平方向にもエッチングされる。kは、少なくとも同じ材料であれば、膜種によらずほぼ同一の値となる。この段階で、スペーサー9aの中腹幅は、(1−k)×T2である。
【0069】
続けて図3(c)に示すように、同じ異方性成分と等方性成分からなるRIE法で、シリコン窒化膜8を、シリコン基板1とポリシリコンゲート電極3が露になるまでエッチングし、スペーサー8aを形成する。この際、エッチングの等方性成分により、シリコン窒化膜9より下部において、k×T1だけ、シリコン窒化膜8が水平方向にもエッチングされる。一方、スペーサー9aも水平方向にエッチングされる。このエッチング量は、シリコン窒化膜8の水平方向のエッチング量のr倍になるから、k×T1×rである。そしてこの段階で、ちょうど、スペーサー9aが無くなるようにする。ここで、スペーサー9aの中腹幅は(1−k)×T2であるから、
T2=k/(1−k)×r×T1...(17)
となるように設定する。
【0070】
これらから、完成した側壁スペーサーの形状は以下のようになる。
(中腹部の水平方向のエッチング量)=(すそ引き量)=T2...(18)
(シリコン窒化膜9より下の、シリコン窒化膜8の水平方向のエッチング量)=k×T1...(19)
(側壁スペーサーの中腹幅)=T1=L...(20)
【0071】
なお、ノッチ形状を防ぐため、
(中腹部の水平方向のエッチング量)≧(シリコン窒化膜7より下の、シリコン窒化膜6の水平方向のエッチング量)...(21)
でなければならず、(18)、(19)、(21)より、
T2≧k×T1...(22)
である。
【0072】
ここで、(16)、(17)、(22)より、実施例3をなす、r(=R2/R1)、T2/T1の値の範囲を図示したのが、図4である。
【0073】
これをもとに、エッチングレートの速いシリコン窒化膜とエッチングレートの遅いシリコン窒化膜の膜厚の和 T1+T2を、T2/T1を変数にして示したグラフが図5である。横軸は対数表示になっていることに注意されたい。本実施例は、図5のA'に対応しており、これは図4のA'の状態に一致している。
【0074】
図5によれば、本実施例により、同じ側壁スペーサー中腹幅に対し、側壁スペーサーをシリコン窒化膜単層で形成する場合(T2/T1=0または∞)に比べれば、シリコン窒化膜の総膜厚T1+T2の値を小さくできることがわかる。また、同じr=R2/R1の値ならば、本実施例のときにもっともT1+T2の値を小さくできることは重要である。なお、側壁スペーサーのすそ引きの値も、本実施例のときにもっとも小さくできる。
【0075】
このことより、等方性成分を含むエッチングを用いつつ、より狭い間隔で並ぶポリシリコンゲート電極の側壁スペーサー形成が可能であることがわかる。しかも、ノッチは無く、シリコン基板の削れを十分減らすことが可能である。
【0076】
(実施例の総括)
最後に、実施例1、実施例2、および実施例3を総括して、本発明の実施条件の範囲、及び最も効果をなす条件について述べる。
【0077】
まず、r<1−kの場合、エッチングレートの遅いシリコン窒化膜を薄くしすぎると、ノッチ形状になる。図4によれば、ノッチにならない条件とは、「T2/T1≧1−r」である。このとき、実施できるのは、実施例1のみである。なお、2つのシリコン窒化膜の膜厚の和T1+T2を最も小さくできるのは、図5(b)より、B'の状態、すなわち「T2/T1=1−r」の場合である。この場合、すそ引きも最も小さくなる。しかしこの条件は、図4によれば、ノッチ形状にならないぎりぎりの条件のため、膜厚ばらつきに注意する必要がある。
【0078】
r<1−kの典型としては、エッチングレートの遅いシリコン窒化膜の代わりに、材料を変えて、シリコン酸化膜などにした場合に相当する。この場合は、rは0.1以下になる場合があり、概ね、T2/T1≧1−r≒1、すなわち、エッチングレートの遅い膜の膜厚を、エッチングレートの速い膜の膜厚より厚く設定しなくてはならない。言い換えると、エッチングの非常に遅くかつ"薄い"膜を外側に配置した場合は、ほぼ必ずノッチ形状になることを意味している。これは、関連技術3に示されている。この点で、本発明が与える数値範囲は、関連技術3とは明らかに異なるものである。
【0079】
次に、r≧1−kの場合、図4によれば、T1とT2をどのように選択してもノッチ形状にならない。これは、比較的、2つのシリコン窒化膜のエッチングレートの差が小さい条件を選択しているためである。従って、膜厚のばらつきによってノッチ形状が発生するような事態を防ぎたい場合は、r≧1−kの条件を選択するのが好ましい。この場合は、エッチング終了段階でちょうどエッチングレートの遅いシリコン窒化膜が無くなるよう、膜厚を設定するのが良い。これは、実施例3に相当する。この場合、与えられた2つのシリコン窒化膜、エッチング条件、できあがりの側壁スペーサー中腹幅の値のもとで、最も狭いゲート電極間まで側壁スペーサーを形成でき、なおかつすそ引きは最も小さくできる。
【0080】
図6は、2つのシリコン窒化膜の膜厚の和T1+T2の最小値、およびすそ引きの値の最小値の、r依存性を示している。これは、図4、図5におけるA'またはB'の状態のときに実現される。これによれば、rが小さいほど、すなわち2つの窒化膜のエッチングレート差が非常に大きいほど、膜厚の和およびすそ引きを減らせることが分かる。図7は、等方性度k=0.4 の時の計算結果である。これによれば、シリコン窒化膜を単層膜でスペーサーを形成した場合(R1=R2すなわちr=1)の膜厚1.67×Lに比べ、2つのシリコン窒化膜の膜厚の和を1.4×L以下まで減らせることが分かる。これは、側壁スペーサーを形成できる溝の幅を16%以上低減できることを意味する。
【0081】
なお、本実施の形態では、段差を有する構造として、MIS型電界効果トランジスタのゲート電極を採用したが、狭い溝内の側壁にスペーサーを形成する場合や、コンタクトホールや配線ビア内部にスペーサーを形成する場合にも適用可能である。また、スペーサーの材料として、シリコン窒化膜を用いたが、シリコン酸化膜や、シリコン酸化膜とシリコン窒化膜の組み合わせでも構わない。
【0082】
またエッチングの手法として、RIEを採用したが、完全に等方的なエッチング(k=1)でも効果はある。また、実際のRIEでは、エッチングの手順として、ブレークスルー・ステップ、メインエッチング・ステップ、オーバーエッチング・ステップなど、複数のステップから構成されることが多いが、どれか一つのステップに本発明が採用されていれば、効果はある。
【0083】
水平方向のエッチングレートの垂直方向のエッチングレートに対する比kが、エッチングレートの速い窒化膜とエッチングレートの遅い窒化膜で等しいことを前提にしているが、これはもちろん、厳密に等しい必要は無く、多少は異なっていても良い。重要なのは、本発明の設計手法であり、他のパラメータの調整でk値のずれを吸収できれば構わない。
【0084】
本発明の実施形態による構造は、実施例1の場合は、透過型電子顕微鏡などによる側壁スペーサーの断面形状観察と、EDX(エネルギー分散型X線分析装置)などによる組成分析を組み合わせることにより、確認可能である。実施例2の場合は、やや難しいが、側壁スペーサーの側面に段差があれば、透過型電子顕微鏡などによる断面形状観察によって確認可能である。
【0085】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【符号の説明】
【0086】
1 シリコン基板
2 ゲート酸化膜
3 ポリシリコンゲート電極
4 シリコン窒化膜
4a シリコン窒化膜スペーサー
5 シリコン窒化膜
5a、3b シリコン窒化膜スペーサー
6 シリコン窒化膜
6a シリコン窒化膜
6b シリコン窒化膜スペーサー
7 シリコン窒化膜
7a シリコン窒化膜スペーサー
8 シリコン窒化膜
8a シリコン窒化膜スペーサー
9 シリコン窒化膜
9a シリコン窒化膜スペーサー
10 シリコン窒化膜
10a シリコン窒化膜スペーサー
11 シリコン窒化膜
11a 側壁スペーサー
12 シリコン窒化膜
12a 側壁スペーサー
12b ノッチ
13 シリコン酸化膜
13a、13b シリコン酸化膜スペーサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凸部、溝、又は孔を形成する工程と、
前記凸部の側壁上、前記溝の側壁上、若しくは孔の内壁上、及び前記凸部、溝、又は前記孔の周囲に第1スペーサー形成膜を形成する工程と、
前記第1スペーサー形成膜上に第2スペーサー形成膜を形成する工程と、
前記第2スペーサー形成膜及び前記第1スペーサー形成膜に等方性成分を含む異方性エッチングを行うことにより、前記凸部の側壁、前記溝の側壁、又は前記孔の内壁にスペーサーを形成する工程と、
を備え、
前記異方性エッチングにおいて、
1−(前記異方性エッチングおける前記第2スペーサー形成膜の垂直方向のエッチングレートに対する水平方向のエッチングレートの比)を異方性度と定義し、
(前記第1スペーサー形成膜の膜厚−前記第2スペーサー形成膜の膜厚)/(前記第1スペーサー形成膜の膜厚)を前記第1スペーサー形成膜の前記第2スペーサー形成膜に対する膜厚増分率と定義したときに、
前記第2スペーサー形成膜の垂直方向のエッチングレートは、
前記第1スペーサー形成膜の垂直方向のエッチングレートより小さく、
かつ前記第1スペーサー形成膜の垂直方向のエッチングレートに、前記異方性度と前記膜厚増分率のうち小さいほうを乗じた値より大きい半導体装置の製造方法。
【請求項2】
凸部、溝、又は孔を形成する工程と、
前記凸部の側壁上、前記溝の側壁上、若しくは孔の内壁上、及び前記凸部、溝、又は前記孔の周囲に第1スペーサー形成膜を形成する工程と、
前記第1スペーサー形成膜上に、前記第1スペーサー形成膜より薄い第2スペーサー形成膜を形成する工程と、
前記第2スペーサー形成膜及び前記第1スペーサー形成膜に等方性成分を含む異方性エッチングを行うことにより、前記凸部の側壁、前記溝の側壁、又は前記孔の内壁にスペーサーを形成する工程と、
を備え、
前記異方性エッチングにおいて、
1−(前記異方性エッチングおける前記第2スペーサー形成膜の垂直方向のエッチングレートに対する水平方向のエッチングレートの比)を異方性度と定義したときに、
前記第2スペーサー形成膜の垂直方向のエッチングレートは、
前記第1スペーサー形成膜の垂直方向のエッチングレートより小さく、
かつ前記第1スペーサー形成膜の垂直方向のエッチングレートに前記異方性度を乗じた値より大きい半導体装置の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の半導体装置の製造方法において、
前記異方性エッチングおける前記第2スペーサー形成膜の垂直方向のエッチングレートに対する水平方向のエッチングレートの比を、前記異方性エッチングにおける等方性度として定義したとき、
前記第2スペーサー形成膜の垂直方向のエッチングレートは、前記第1スペーサー形成膜の垂直方向のエッチングレートに、前記第1スペーサー形成膜に対する前記第2スペーサー形成膜の膜厚の比と、前記異方性度とをそれぞれ乗じた値を、さらに前記等方性度で割った値に等しい半導体装置の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一つに記載の半導体装置の製造方法において、
前記第1スペーサー形成膜と前記第2スペーサー形成膜は、互いに同一の元素により形成される半導体装置の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の半導体装置の製造方法において、
前記第1スペーサー形成膜と前記第2スペーサー形成膜は、互いに異なる基板温度で成膜される半導体装置の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の半導体装置の製造方法において、
前記第1スペーサー形成膜は、前記第2スペーサー形成膜より低い基板温度で成膜される半導体装置の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一つに記載の半導体装置の製造方法において、
前記第2スペーサー形成膜及び前記第1スペーサー形成膜に対して連続して前記異方性エッチングが行われる半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−96788(P2011−96788A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248120(P2009−248120)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(302062931)ルネサスエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】