説明

半導体装置及び半導体装置の製造方法

【課題】耐電圧特性の温度依存性を改善した半導体装置及び半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】アノード端子T2に、カソード端子T1に対して大きな電圧を印加したときに形成される空乏層DLに、N型半導体領域N4から到達する電子が増加しないように、N型半導体領域N4を、不純物を高濃度に含む高濃度N型半導体領域N4aと、高濃度N型半導体領域N4aに比較して不純物を低濃度に含む低濃度N型半導体領域N4bとが交互に配置される構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーエレクトロニクス分野における半導体装置及び半導体装置の製造方法、特にスイッチング素子であるサイリスタ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図5に示す半導体装置200は、P型不純物の不純物濃度を有する半導体基板におけるP型半導体領域P1と、半導体基板の一方の主面に露出する上面部を除いて前記P型半導体領域P1に隣接するN型半導体領域N2と、半導体基板の一方の主面に露出する上面部を除いて前記N型半導体領域N2に隣接するP型半導体領域P3と、半導体基板の他方の主面に露出する下面部を除いて前記P型半導体領域P1に隣接するN型半導体領域N4と、半導体基板の他方の主面に露出する下面部を除いて前記N型半導体領域N4に隣接するP型半導体領域P5と、を備えている。
また、半導体装置200において、P型半導体領域P3とN型半導体領域N2は、半導体基板の一方の主面において形成された保護膜I1に設けられた開口CT1を介して、それぞれ共通電極である第1の電極M1にオーミック接触される。同様に、P型半導体領域P5とN型半導体領域N4は、半導体基板の他方の主面において形成された保護膜I2に設けられた開口CT2を介して、それぞれ共通電極である第2の電極M2にオーミック接触される。第1の電極M1は、端子T1(アノード端子)に、第2の電極M2は、端子T2(カソード端子)に夫々接続される。
【0003】
以上の構成により、半導体装置200は、P型半導体領域P3、N型半導体領域N2、P型半導体領域P1及びN型半導体領域N4から構成される第1のPNPNサイリスタと、P型半導体領域P5、N型半導体領域N4、P型半導体領域P1及びN型半導体領域N2から構成される第2のPNPNサイリスタとが端子T1と端子T2との間に並列接続された複合素子である。
【0004】
ここで、端子T1と端子T2に、端子T1側が端子T2に対して高くなるように電圧を印加すると、N型半導体領域N2とP型半導体領域P1との界面に形成されるPN接合J2は逆方向にバイアスされ、P型半導体領域P1とN型半導体領域N4との界面に形成されるPN接合J3は順方向にバイアスされる。
これによって、PN接合J2を形成するN型半導体領域N2において、電子は正に帯電したドナーから遠ざけられてアノード側へ移動し、P型半導体領域P1において、正孔は負に帯電したアクセプタから遠ざけられカソード側へ移動する。そのため、PN接合J2の近傍に空乏層DLが形成され、アノードとカソードとの間に印加される電圧の大部分が空乏層の両側に加わるので高い電界が発生する。印加される電圧が高くなるにつれ、更に、電子がアノード側へ移動し、正孔がカソード側へ移動し、オフ電流が増加していく。
そして、逆バイアスが印加されているPN接合J2がブレークダウンするブレークオーバ電圧VBOが、端子T1と端子T2との間に印加されると、オフ電流は急激に増加する。これにより、N型半導体領域N2において、P型半導体領域P3直下の横方向(半導体基板の主面と平行な方向)による抵抗(R)とオフ電流(i)との積による電圧降下(i×R)が生じて、PN接合J1に順方向バイアスが印加され、電圧降下がPN接合J1の拡散電位を超えると、P型半導体領域P3からN型半導体領域N2に正孔が注入され始める。これにより、P型半導体領域P3、N型半導体領域N2及びP型半導体領域P1から形成されるPNPバイポーラトランジスタ(ベース接地電流増幅率α1とする)と、N型半導体領域N2、P型半導体領域P1及びN型半導体領域N4から形成されるNPNバイポーラトランジスタ(ベース接地電流増幅率α2とする)とのそれぞれの電流増幅率が増加し始め、α1+α2=1となると、サイリスタが点弧し、アノード端子からカソード端子へと順方向にオン電流を流す。
【0005】
一方、端子T1と端子T2に、端子T2側が端子T1に対して高くなるように電圧を印加すると、N型半導体領域N4とP型半導体領域P1との界面に形成されるPN接合J3は逆方向にバイアスされ、P型半導体領域P1とN型半導体領域N2との界面に形成されるPN接合J2は順方向にバイアスされる。サイリスタの動作原理は、上記順方向バイアス時と同じであるが、PN接合J3のP型半導体領域P5と対向する部分以外の一部分に、P型半導体領域P1に比べてP型不純物濃度が高濃度のP型半導体領域P15(低耐圧領域)を設けているので、ブレークオーバ電圧(ブレークオーバ電圧VBO’)が上記順方向の場合より低くなる。
つまり、逆バイアスが印加されているPN接合J3がブレークダウンするブレークオーバ電圧VBO’が、端子T2と端子T1との間に印加されると、オフ電流は急激に増加し、N型半導体領域N4において、P型半導体領域P5直下の横方向による抵抗とオフ電流との積による電圧降下が生じ、P電圧降下がPN接合J4の拡散電位を超えると、P型半導体領域P5からN型半導体領域N4に正孔が注入され始める。そして、P型半導体領域P5、N型半導体領域N4及びP型半導体領域P1から形成されるPNPバイポーラトランジスタと、N型半導体領域N4、P型半導体領域P1及びN型半導体領域N2から形成されるNPNバイポーラトランジスタとのそれぞれの電流増幅率が増加し始め、電流増幅率の和が1となると、サイリスタが逆方向に点弧し、カソード端子からアノード端子へと逆方向にオン電流を流す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−68873号公報
【特許文献2】特開平11−111855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、サイリスタの上記順方向動作において、動作温度を上昇させると、N型半導体領域N4から注入され、空乏層DLに到達する少数キャリアである電子が増加することで、空乏層DLの幅が狭くなる。それゆえ、空乏層DLに加わる電界強度が増加することにより、逆バイアスが印加されているPN接合J2がブレークダウンする電圧であるブレークオーバ電圧VBOが低くなってしまうという問題があった。
【0008】
本発明は、上記問題を鑑みなされたもので、その目的は、温度上昇によるブレークオーバ電圧VBOの低下を抑制するサイリスタを提供することにある。
なお、上記特許文献1及び2は、一導電型の不純物領域のうちの高濃度領域と低濃度領域を一つの工程で形成する技術を開示しているにすぎない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の半導体装置は、第1端子と第2端子間に電圧が印加されたときに空乏層を形成することにより前記第1端子と前記第2端子間の電流通電を阻止する半導体装置において、前記空乏層の一方を形成する第1導電型の第1の半導体領域と前記空乏層の他方を形成する第2導電型の第2の半導体領域とのいずれか一方の半導体領域に隣接して、該一方の半導体領域とは逆導電型の第3の半導体領域を有し、前記第3の半導体領域は、不純物を高濃度に含む高濃度領域と、前記高濃度領域に比較して不純物を低濃度に含む低濃度領域とが、前記電流通電の方向に対して垂直方向に交互に配置され形成されていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、第1導電型の第1の半導体領域と、半導体基板の一方の主面に露出する上面部を除いて前記第1の半導体領域に隣接する第2導電型の第2の半導体領域と、前記半導体基板の一方の主面に露出する上面部を除いて前記第2の半導体領域に隣接する第1導電型の第3の半導体領域と、前記半導体基板の他方の主面に露出する下面部を除いて前記第1の半導体領域に隣接する第2導電型の第4の半導体領域と、前記半導体基板の他方の主面に露出する下面部を除いて前記第4の半導体領域に隣接する第1導電型の第5の半導体領域と、を備え、前記第2の半導体領域及び前記第4の半導体領域の一方の領域、又は両方の領域は、第2導電型の不純物を高濃度に含む高濃度領域と、前記高濃度領域に比較して不純物を低濃度に含む低濃度領域とが、前記半導体基板の一方の主面に対して水平方向に交互に配置され形成されていることを特徴とする半導体装置である。
【0011】
また、上記半導体装置において、前記第2の半導体領域及び前記第3の半導体領域は第1の電極に接続され、前記第4の半導体領域及び前記第5の半導体領域は第2の電極に接続され、前記第1の電極は2端子サイリスタのアノード電極であり、前記第2の電極はカソード電極であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、半導体装置の製造方法であって、前記高濃度領域及び前記低濃度領域を有する半導体領域を形成するにあたり、半導体基板の一主面上にマスク物質を形成するマスク物質形成工程と、前記半導体領域に対応する第1の領域上の前記マスク物質を、前記半導体領域の前記低濃度領域に対応する領域であって、前記第1の領域内にある規則的に繰り返される複数の非開口からなる第2の領域を残して取り除くマスク物質除去工程と、前記マスク物質除去工程により前記マスク物質が取り除かれた領域に不純物をデポジションする不純物デポジション工程と、デポジションされた不純物を拡散させ、前記半導体領域を形成する熱処理工程と、を含むことを特徴とする。
【0013】
また、上記半導体装置の製造方法において、前記第2の領域の複数の非開口各々は、正方形状の非開口と、前記正方形状の非開口を環状に取り囲む一定幅の非開口からなり、環状に取り囲む非開口各々は、隣り合う他の開口と前記正方形状の非開口の一辺と同じ長さの間隔を有して設けられることを特徴とする。
【0014】
また、上記半導体装置の製造方法において、前記第2の領域の複数の非開口各々は、メッシュ状の非開口であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
この本発明によれば、空乏層が形成されているPN接合に対向する半導体領域から空乏層へ到達し、該空乏層を狭くする少数キャリアのうち、低濃度領域から空乏層へ到達する少数キャリアは減少するので、PN接合の空乏層の幅が狭くなることを抑制でき、全てを高濃度で形成する場合に比べて、温度上昇によるブレークオーバ電圧VBOの低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の半導体装置100の構成を示す断面図である。
【図2】本発明の半導体装置100のN型不純物領域N4の形成に用いられるフォトマスクのパターンの平面図、及び半導体装置100の部分断面図である。
【図3】本発明の半導体装置100のN型不純物領域N2の形成に用いられる、他のフォトマスクのパターンの平面図、及び半導体装置100の部分断面図である。
【図4】本発明の半導体装置100のN型不純物領域N4の形成に用いられるフォトマスクのパターンの平面図、及び半導体装置100の部分断面図である。
【図5】関連する半導体装置200の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態におけるサイリスタ(半導体装置100)の断面図を示している。なお、図5と同一の部分には同一の符号を付している。半導体装置100は、図1に示すように、P型不純物の不純物濃度を有する半導体基板におけるP型半導体領域P1と、半導体基板の一方の主面に露出する上面部を除いて前記P型半導体領域P1に隣接するN型半導体領域N2と、半導体基板の一方の主面に露出する上面部を除いて前記N型半導体領域N2に隣接するP型半導体領域P3と、半導体基板の他方の主面に露出する下面部を除いて前記P型半導体領域P1に隣接するN型半導体領域N4と、半導体基板の他方の主面に露出する下面部を除いて前記N型半導体領域N4に隣接するP型半導体領域P5と、を備えている。
ここで、P型半導体領域P3は、平面視においてN型半導体領域N2の内側にあり、またP型半導体領域P3は半導体基板表面からの深さ方向に、N型半導体領域N2に比較して浅く形成されている。また、P型半導体領域P5は、平面視においてN型半導体領域N4の内側にあり、またP型半導体領域P5は半導体基板表面からの深さ方向に、N型半導体領域N4に比較して浅く形成されている。
また、本実施形態において、N型半導体領域N2及びN型半導体領域N4の両方の領域は、P型半導体領域P1を介して対向している。また、本実施形態において、N型半導体領域N4は、N型不純物を高濃度に含む高濃度N型半導体領域N4a(高濃度領域)と、高濃度領域に比較してN型不純物を低濃度に含む低濃度N型半導体領域N4b(低濃度領域)とが、半導体基板の一方の主面に対して水平方向に(或いは電流通電の方向に対して垂直方向に)交互に配置され形成されている。
【0018】
また、半導体装置100において、P型半導体領域P3とN型半導体領域N2は、半導体基板の一方の主面において形成された保護膜I1に設けられた開口CT1を介して、それぞれ共通電極である第1の電極M1にオーミック接触される。同様に、P型半導体領域P5とN型半導体領域N4は、半導体基板の他方の主面において形成された保護膜I2に設けられた開口CT2を介して、それぞれ共通電極である第2の電極M2にオーミック接触される。第1の電極M1は、端子T1(アノード端子)に、第2の電極M2は、端子T2(カソード端子)に夫々接続される。
以上の構成により、半導体装置100は、P型半導体領域P3、N型半導体領域N2、P型半導体領域P1及びN型半導体領域N4から構成される第1のPNPNサイリスタと、P型半導体領域P5、N型半導体領域N4、P型半導体領域P1及びN型半導体領域N2から構成される第2のPNPNサイリスタとが、その導通の向きが逆となるように端子T1と端子T2との間に並列接続された複合素子である。
【0019】
ここで、まず、半導体装置100の製造方法について説明する。
最初に、P型不純物の不純物濃度を有する半導体基板(P型半導体領域P1)を用意する。次に、N型半導体領域N4を形成する工程に進む。まず、半導体基板のアノード側表面(他方の主面)に下地酸化膜(イオン注入のダメージを防ぐための酸化膜)を形成し、酸化膜上にイオン注入のマスクとなるフォトレジスト(例えば、ポジ型のフォトレジスト)を塗布する。次に、フォトマスクを用いて露光を行う。
図2は、露光において用いるフォトマスクのパターンの平面図(図2(a))、及びイオン注入後の半導体基板の断面図(図2(b)、図2(c))を示す。
【0020】
図2(a)に示すフォトマスクのパターンの平面図においては、N型半導体領域N4のうちの高濃度N型半導体領域となるべき領域のフォトレジストを感光させる複数の環状の光透過部M42b、N型半導体領域N4のうちの低濃度N型半導体領域N4bとなるべき領域のフォトレジストを感光させない複数の環状光遮光部を示している(図中、白抜き部分が遮光部である。)
この図2(a)のフォトマスクのパターンが半導体基板で転写され、環状の光透過部M42b各々に対応するフォトレジストにおける開口、複数の環状光遮光部各々に対応するフォトレジストにおける非開口が形成される。
つまり、N型半導体領域N4に対応する第1の領域上のマスク物質としてのフォトレジストは、低濃度N型半導体領域N4bに対応する領域であって、第1の領域内にある規則的に繰り返される複数の非開口からなる第2の領域を残して取り除かれる。
このフォトレジストにおける複数の非開口は、中央部に正方形状の非開口(図2(a)に示すフォトマスクの中央部の白抜き部分に対応する)と、この正方形状の非開口を環状に取り囲む一定幅の非開口とからなり、環状に取り囲む非開口各々は、隣り合う他の非開口と正方形状の非開口の一辺と同じ長さの間隔を有して設けられる。
このように開口及び非開口が形成されたマスク物質(フォトレジスト)における開口から、半導体基板へN型不純物イオン(例えばリンイオン)が注入される。
【0021】
図2(b)は、図2(a)のフォトマスクのパターン上を走るAA’線又はBB’線に沿った部分に対応する半導体装置100のイオン注入後の断面を示した断面図であり、上記フォトレジストにおける開口(図2(a)に示すフォトマスクのパターンの光透過部である斜線部に対応する)から注入されたN型不純物の半導体基板へのイオン注入後のN型半導体領域N4を示している。図2(b)に示すように、N型半導体領域N4を形成するイオン注入後において、複数の環状光透過部M42b各々に対応するフォトレジストにおける開口から注入されたN型不純物イオンは活性化されず、不純物領域N42bは離散的に存在し、互いの不純物領域N42bが繋がっておらず、一部にP型半導体領域が存在する。
【0022】
フォトレジスト剥離後、注入したN型不純物イオンの活性化のための熱処理を行い、純物領域N42b同士を繋げる。すなわち、熱処理を施すことで、フォトレジストにおける開口からイオン注入した不純物の横方向の拡散により互いの不純物領域N42bを繋げるが、半導体基板においてフォトレジストが存在していた領域の表面からPN接合までの距離(図中DP2)が、半導体基板においてフォトレジストが存在していなかった領域の表面からPN接合(P型半導体領域P1とのPN接合)までの距離(図中DP1)と等しくならない程度の熱処理を施す。余りに長時間の熱処理を施せば、半導体基板の深さ方向(主面と垂直方向)の全ての位置において、N型半導体領域N4における主面と水平方向の不純物濃度が全く均一になってしまい、高濃度領域と低濃度領域を形成できないからである。そのため、横方向で不純物領域N42bが繋がる位の時間の熱処理を施すことが好ましい。
このようにして、不純物を高濃度に含むN型半導体領域N4a(高濃度領域)と、N型半導体領域N4aに比較してN型不純物を低濃度に含むN型半導体領域N4b(低濃度領域)とが、電流通電の方向に対して垂直方向に(半導体基板の主面に対して水平方向に)交互に配置されるN型半導体領域N4が形成される。
【0023】
続いて、N型半導体領域N2を形成する工程に進む。まず、半導体基板のカソード側表面(一方の主面)に下地酸化膜を形成し、酸化膜上にイオン注入のマスクとなるフォトレジストを塗布する。次に、フォトマスクを用いて露光を行う。
図3は、露光において用いるフォトマスクのパターンの平面図(図3(a))、及びイオン注入後の半導体基板の断面図(図3(b)、図3(c))を示す。
図3(a)に示すフォトマスクのパターンの平面図においては、N型半導体領域N2のとなるべき領域のフォトレジストを感光させる矩形状の光透過部M22を示している(図中、斜線部が光透過部である。)
この図3(a)のフォトマスクのパターンが半導体基板で転写され、矩形状の光透過部M22に対応する開口がフォトレジストに形成され、フォトレジストにおける開口から、半導体基板へN型不純物イオン(例えばリンイオン)が注入される。
【0024】
図3(b)は、図3(a)のフォトマスクのパターン上を走るAA’線又はBB’線に沿った部分に対応する半導体装置100のイオン注入後の断面を示した断面図であり、上記フォトレジストにおける開口(図3(a)に示すフォトマスクのパターンの光透過部である斜線部に対応する)に示すフォトマスクのから注入されたN型不純物の半導体基板へのイオン注入後のN型半導体領域N2を示している。図3(b)に示すように、N型半導体領域N2を形成するイオン注入後において、N型不純物イオンは活性化されず、ほぼフォトレジストにおける開口と同じ大きさで不純物領域N22が存在している。
フォトレジスト剥離後、注入したN型不純物イオンの活性化のための熱処理を行う。すなわち、イオン注入した不純物の縦方向及び横方向の拡散により、不純物領域N22が半導体基板中に拡散し、N型半導体領域N2が形成される。
なお、上記説明では、N型半導体領域N4及びN2を別々のイオン注入工程、熱処理工程で形成したが、もちろん工程数を削減するため、同時に形成することもできる。つまり、半導体基板の一方の主面及び他方の主面に、フォトレジストを塗布後、図2(a)及び図3(a)で示すフォトマスクを用いて露光し、イオン注入用のマスク物質(フォトレジスト)を形成して、そのフォトレジストにおける開口からイオン注入する。その後、両面のフォトレジストを剥離し、N型半導体領域N4及びN2を活性化する熱処理を同時に施してもよい。
【0025】
続いて、P型半導体領域P5を形成する工程に進む。半導体基板のアノード側表面(他方の主面)に下地酸化膜を形成し、酸化膜上にイオン注入のマスクとなるフォトレジストを塗布する。次に、矩形状光透過部が設けられたフォトマスクを用いて露光を行い、露光されたフォトレジストにおける開口からP型不純物イオン(例えばボロンイオン)注入を行う。
フォトレジスト剥離後、注入したP型不純物イオンの活性化のための熱処理を行い、P型半導体領域P5を形成する。
この際、上で説明した逆方向動作時に低耐圧領域となるP型半導体領域P15を同時に形成してもよい。また、半導体基板の他の主面(アノード側の表面)に設けられるチャネルストッパとなるP型不純物領域(不図示)も同時に形成してもよい。
【0026】
続いて、P型半導体領域P3を形成する工程に進む。P型半導体領域P3は、上記P型半導体領域P5を形成するのと同様、イオン注入及び不純物を活性化するための熱拡散処理からなる工程である。また、P型半導体領域P3を形成する工程は、N型半導体領域N2及びN4を形成する工程を共通にできるのと同様の理由で、上記P型半導体領域P3を形成する工程と共通化してもよい。
【0027】
続いて、電極形成工程に進む。アノード、カソードの各電極を形成する際、必要に応じて既に形成されたP型半導体領域P3、N型半導体領域N2、N型半導体領域N4、及びP型半導体領域P5各々の表面に、イオン注入法によりオーミック層(図1において不図示)を形成する。その後、保護膜I1、保護膜I2を形成し、メタル電極と各半導体領域の電気的接触を得るため、開口CT1及び開口CT2を形成する。最後に、各開口CT1及び開口CT2上に、メタル電極となる金属材料、例えばアルミニウムを堆積し、アルミニウムをパターニングして、アノード電極M1及びカソード電極M2を形成する。
【0028】
このようにして形成された半導体装置100は、アノード端子T1(第1端子)とカソード端子T2(第2端子)との間に電圧が印加されたときに、空乏層DLを形成することによりアノード端子T1とカソード端子T2間の電流通電を阻止する半導体装置である。
半導体装置100は、空乏層DLの一方を形成するN型半導体領域N2(第1導電型の第1の半導体領域)と空乏層DLの他方を形成するP型半導体領域P1(第2導電型の第2の半導体領域)とのいずれか一方の半導体領域(ここではP型半導体領域P1)に隣接して、該一方の半導体領域とは逆導電型の第3の半導体領域(N型半導体領域N4)を有している。また、N型半導体領域N4は、不純物を高濃度に含むN型半導体領域N4a(高濃度領域)と、N型半導体領域N4aに比較してN型不純物を低濃度に含むN型半導体領域N4b(低濃度領域)とが、電流通電の方向に対して垂直方向に交互に配置され形成されている。
【0029】
この本発明によれば、空乏層DLが形成されているPN接合J2に対向するN型半導体領域N4から空乏層DLへ到達し、該空乏層を狭くする少数キャリア(電子)のうち、低濃度領域から空乏層へ到達する少数キャリアは減少するので、PN接合J2の空乏層の幅が狭くなることを抑制でき、N型半導体領域N4の全てを高濃度で形成する場合(上記製造方法の説明において、N型半導体領域N4を、図3(a)に示したフォトマスクを用いてN型半導体領域N2と同様に形成した場合)に比べて、温度上昇によるブレークオーバ電圧VBOの低下を抑制することができる。
【0030】
また、図4は、露光において用いる、他のフォトマスクのパターンの平面図(図4(a))、及びイオン注入後の半導体基板の断面図(図4(b)、図4(c))を示す。
図4(a)に示すフォトマスクのパターンの平面図においては、N型半導体領域N4のうちの低濃度N型半導体領域N4bとなるべき領域のフォトレジストを感光させない複数のメッシュ状の光遮光部を示している。図中、白抜き部分が光遮光部であり、光遮光部は、
例えば縦及び横の長さが一定の長方形あるいは正方形の矩形部から構成され、光遮光部である長方形或いは正方形同士は一定の間隔(光透過部に相当する)で規則的に繰り返される構成となっている。
この図4(a)のフォトマスクのパターンが半導体基板で転写され、光透過部に対応する開口、複数のメッシュ状光遮光部各々に対応する非開口がフォトレジストにおいて形成される。
つまり、N型半導体領域N4に対応する第1の領域上のマスク物質としてのフォトレジストは、低濃度N型半導体領域N4bに対応する領域であって、第1の領域内にある規則的に繰り返される複数の非開口からなる第2の領域を残して取り除かれる。
この、フォトレジストにおける複数の非開口は、上述の様に、縦及び横の長さが一定の長方形あるいは正方形の矩形部(イオン注入をマスクする部分)から構成され、矩形部同士は一定の間隔(イオン注入される部分に相当する)で規則的に繰り返される構成となっている。
このように開口及び非開口が形成されたマスク物質(フォトレジスト)における開口から、半導体基板へN型不純物イオン(例えばリンイオン)が注入される。
【0031】
図4(b)は、図4(a)のフォトマスクのパターン上を走るAA’線又はBB’線に沿った部分に対応する半導体装置100のイオン注入後の断面を示した断面図であり、上記フォトレジストにおける開口(図4(a)に示すフォトマスクのパターンの光透過部である斜線部に対応する)から注入されたN型不純物の半導体基板へのイオン注入後のN型半導体領域N4を示している。図4(b)に示すように、N型半導体領域N4を形成するイオン注入後において、複数の環状光透過部M42b各々に対応するフォトレジストにおける開口から注入されたN型不純物イオンは活性化されず、不純物領域N42bは離散的に存在し、互いの不純物領域N42bが繋がっておらず、図3(b)と同様に、一部にP型半導体領域が存在する。
フォトレジスト剥離後、注入したN型不純物イオンの活性化のため、イオン注入した不純物の横方向の拡散により、互いの不純物領域N42bが繋がり、P型半導体領域がなくなる程度の熱処理を施す。
このようにして、図4(c)に示すように、N型不純物を高濃度に含むN型半導体領域N4a(高濃度領域)と、高濃度領域に比較してN型不純物を低濃度に含むN型半導体領域N4b(低濃度領域)とからなる、N型半導体領域N4が形成される。
【0032】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の変更等も含まれる。
例えば、上記実施形態の説明においては、イオン注入よりN型半導体領域N4またはN型半導体領域N2を形成したが、マスク物質としてフォトレジストを用いず、酸化膜を用いてもよい。この場合、半導体基板の一主面上にマスク物質である酸化膜を形成し、この酸化膜のうち高濃度領域及び低濃度領域となるべき領域の酸化膜を、上記フォトマスクを用いて開口し、開口から半導体基板へ不純物をデポジションして(例えば拡散源として固体または液体を用いて)熱拡散法により高濃度領域及び低濃度領域を形成してもよい。
【0033】
また、本発明の実施形態においては、低耐圧領域となるP型半導体領域P15を設け、逆方向のブレークオーバ電圧(ブレークオーバ電圧VBO’)が順方向のブレークオーバ電圧(ブレークオーバ電圧VBO)場合に比較して低くなる構造の2端子サイリスタについて説明したが、もちろんこの例に限られることはなく、低耐圧領域となるP型半導体領域P15がない構造で、順方向のブレークオーバ電圧VBO及び逆方向のブレークオーバVBO’がほぼ等しい2極双方向サイリスタであってもよい。その場合、N型半導体領域N2もN型半導体領域N4と同様、不純物を高濃度に含む高濃度領域と、高濃度領域に比較して不純物を低濃度に含む低濃度領域とが、電流通電の方向に対して垂直方向に交互に配置され形成される構造であってもよい。
【0034】
また、2端子サイリスタのみならず、3端子の逆阻止3端子サイリスタ、ゲートターンオフサイリスタ(ゲート端子付きサイリスタ)に本発明を適用してもよい。例えば、第1導電型エミッタ領域(例えばN型半導体領域であるカソード層)、第2導電型ベース領域(P型半導体領域であるベース層)、第1導電型ベース領域(バルク層)、及び第2導電型エミッタ領域(アノード層)を、半導体基体の上下方向へ直列に順次隣接させて構成し、カソード層がカソード端子、ベース層がゲート端子、アノード層がアノード端子へ、それぞれ接続される電極を持ったサイリスタであってもよい。この場合、順方向動作(アノード端子電圧>カソード端子電圧)において、ベース層とバルク層との間のPN接合に逆バイアスが印加され空乏層が形成される。本発明により、アノード層を高濃度と低濃度からなる領域で構成することで、空乏層へ到達する少数キャリア(この場合は正孔)の増加が抑えられ、温度上昇によるブレークオーバ電圧VBOの低下を抑制することができる。
また、逆方向動作(アノード端子電圧<カソード端子電圧)において、アノード層とバルク層との間のPN接合に逆バイアスが印加され空乏層が形成される。本発明により、ベース層を高濃度と低濃度からなる領域で構成することで、空乏層へ到達する少数キャリア(この場合は正孔)の増加が抑えられ、温度上昇によるブレークオーバ電圧VBO’の低下を抑制することができる。
【符号の説明】
【0035】
N2,N4,N4a,N4b…N型半導体領域、P1,P3,P5,P15…P型半導体領域、DL…空乏層、J1,J2,J3,J4…PN接合、CT1,CT2…開口、M1,M2…電極、I1,I2…保護膜、T2,T1…端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1端子と第2端子間に電圧が印加されたときに空乏層を形成することにより前記第1端子と前記第2端子間の電流通電を阻止する半導体装置において、
前記空乏層の一方を形成する第1導電型の第1の半導体領域と前記空乏層の他方を形成する第2導電型の第2の半導体領域とのいずれか一方の半導体領域に隣接して、該一方の半導体領域とは逆導電型の第3の半導体領域を有し、
前記第3の半導体領域は、不純物を高濃度に含む高濃度領域と、前記高濃度領域に比較して不純物を低濃度に含む低濃度領域とが、前記電流通電の方向に対して垂直方向に交互に配置され形成されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
第1導電型の第1の半導体領域と、
半導体基板の一方の主面に露出する上面部を除いて前記第1の半導体領域に隣接する第2導電型の第2の半導体領域と、
前記半導体基板の一方の主面に露出する上面部を除いて前記第2の半導体領域に隣接する第1導電型の第3の半導体領域と、
前記半導体基板の他方の主面に露出する下面部を除いて前記第1の半導体領域に隣接する第2導電型の第4の半導体領域と、
前記半導体基板の他方の主面に露出する下面部を除いて前記第4の半導体領域に隣接する第1導電型の第5の半導体領域と、
を備え、
前記第2の半導体領域及び前記第4の半導体領域の一方の領域、又は両方の領域は、第2導電型の不純物を高濃度に含む高濃度領域と、前記高濃度領域に比較して不純物を低濃度に含む低濃度領域とが、前記半導体基板の一方の主面に対して水平方向に交互に配置され形成されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
前記第2の半導体領域及び前記第3の半導体領域は第1の電極に接続され、前記第4の半導体領域及び前記第5の半導体領域は第2の電極に接続され、前記第1の電極は2端子サイリスタのアノード電極であり、前記第2の電極はカソード電極であることを特徴とする請求項2記載の半導体装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3いずれか一項に記載の半導体装置の製造方法であって、
前記高濃度領域及び前記低濃度領域を有する半導体領域を形成するにあたり、半導体基板の一主面上にマスク物質を形成するマスク物質形成工程と、
前記半導体領域に対応する第1の領域上の前記マスク物質を、前記半導体領域の前記低濃度領域に対応する領域であって、前記第1の領域内にある規則的に繰り返される複数の非開口からなる第2の領域を残して取り除くマスク物質除去工程と、
前記マスク物質除去工程により前記マスク物質が取り除かれた領域に不純物をデポジションする不純物デポジション工程と、
デポジションされた不純物を拡散させ、前記半導体領域を形成する熱処理工程と、
を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記第2の領域の複数の非開口各々は、正方形状の非開口と、前記正方形状の非開口を環状に取り囲む一定幅の非開口からなり、環状に取り囲む非開口各々は、隣り合う他の非開口と前記正方形状の非開口の一辺と同じ長さの間隔を有して設けられることを特徴とする請求項4に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記第2の領域の複数の非開口各々は、メッシュ状の非開口であることを特徴とする請求項4に記載の半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−104563(P2012−104563A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249985(P2010−249985)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000002037)新電元工業株式会社 (776)
【Fターム(参考)】