半導体製造装置用部品
【課題】接合材層の穴への流れ込みを防止できるとともに、吸着面の均熱性の低下を防止することができる半導体製造装置用部品を提供すること。
【解決手段】半導体製造装置用部品1は、セラミック部材10及びベース部材30を備える。セラミック部材10には、第2主面12にて開口する第1の穴47,81が設けられる。また、ベース部材30は、第1の穴47,81に連通する第2の穴49,82を有する。そして、セラミック部材10の第2主面12及びベース部材30の支持面31は接合材層20を介して接合される。また、支持面31には、穴49,82を包囲する位置に溝90,91が設けられる。なお、接合材層20は溝90,91の外側領域に存在し、溝90,91内の空間には接合材層20の一部が入り込んで溜まり92を形成する。
【解決手段】半導体製造装置用部品1は、セラミック部材10及びベース部材30を備える。セラミック部材10には、第2主面12にて開口する第1の穴47,81が設けられる。また、ベース部材30は、第1の穴47,81に連通する第2の穴49,82を有する。そして、セラミック部材10の第2主面12及びベース部材30の支持面31は接合材層20を介して接合される。また、支持面31には、穴49,82を包囲する位置に溝90,91が設けられる。なお、接合材層20は溝90,91の外側領域に存在し、溝90,91内の空間には接合材層20の一部が入り込んで溜まり92を形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハの固定、半導体ウェハの平面度の矯正、半導体ウェハの搬送、半導体ウェハの加熱などに用いられる半導体製造装置用部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体製造装置では、半導体ウェハ(例えばシリコンウェハ)に対してドライエッチング等の処理が行われている。ドライエッチングの精度を高めるためには、半導体ウェハを確実に固定しておく必要がある。そこで、半導体ウェハを固定する固定手段として、静電引力によって半導体ウェハを固定する静電チャックが提案されている。
【0003】
具体的に言うと、静電チャックは、セラミック絶縁板の内部に吸着用電極層を有している。その吸着用電極層に電圧を印加すると、静電引力が生じる。この静電引力を用いて、半導体ウェハがセラミック絶縁板の上面(吸着面)に吸着される。なお、静電チャックは、セラミック絶縁板の下面(接合面)と金属ベースの上面とを接合材層を介して接合することによって構成されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0004】
例えば、特許文献1に記載の従来技術では、上記の接合材層として、シリコーン系接着剤が用いられている。また、特許文献2に記載の従来技術では、接合材層として、接着剤をゲル状やゴム状に固化したものなどが用いられている。なお、特許文献1,2には、接着剤を塗布した金属ベースの上面にセラミック絶縁板を載置した後、接着剤を熱硬化させれば、セラミック絶縁板と金属ベースとが接合される旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−287344号公報(図2など)
【特許文献2】特開平7−335731号公報(請求項1,2、図1など)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、静電チャックの信頼性を向上させるために、接着剤の耐熱性を高めることが従来から要求されている。そこで近年では、耐熱性を有するシリコーン系接着剤が開発されている。一般的に、耐熱性を有するシリコーン系接着剤は、熱硬化時に徐々に硬化して150℃程度で完全に硬化する。この種の接着剤は、硬化温度よりも低い温度(80〜90℃付近)に達した際に、一旦軟化して粘度が低下することで流動性が増すという性質がある。なお、静電チャックには、例えば、吸着面に吸着された半導体ウェハを冷却する冷却用ガスが流れる穴などが設けられている。具体的に言うと、セラミック絶縁板を厚さ方向に貫通して吸着面及び接合面にて開口する絶縁板側穴や、金属ベース101の上面にて開口し、絶縁板側穴に連通するベース側穴102が設けられている(図14参照)。従って、金属ベース101の上面に塗布されている接着剤103が耐熱性を有するシリコーン系接着剤であれば、熱硬化時に温度が80〜90℃付近に達した際に、流動性が増した接着剤103がベース側穴102に流れ込んでしまう。
【0007】
この問題を解決するために、接着剤103の塗布領域をベース側穴102の開口縁から離すことも考えられる(図15参照)。しかし、流動性が増した接着剤103の流量調整は困難であるため、接着剤103を硬化させたとしても、ベース側穴102の開口縁から接着剤103までの間隔が一定ではなくなってしまう。しかも、接着剤103の接着範囲、ひいては、吸着面において接着剤103の直上となる領域の分布が、製造される静電チャックごとにばらついてしまう。なお、接着剤103が存在する領域は、接着剤103が存在しない領域よりも熱伝導率が高いため、セラミック絶縁板と金属ベース101との間で熱が伝達されやすい。よって、吸着面において接着剤103の直上となる領域が静電チャックごとにばらついていれば、吸着面に吸着された半導体ウェハを加熱または冷却する能力が静電チャックごとに異なってしまう。即ち、吸着面の均熱性が低下し、静電チャックの歩留まりが低下するという問題がある。
【0008】
さらに、上記の接合材層が導電性を有する材料(例えばロウ材)からなる場合、ベース側穴102の近傍において絶縁抵抗が低下するため、アーキングが発生して金属ベース101の一部が飛散するなどの問題がある。
【0009】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その第1の目的は、接合材層の穴への流れ込みを防止できるとともに、吸着面の均熱性の低下を防止することができる半導体製造装置用部品を提供することにある。また、第2の目的は、アーキングの発生を防止することができる半導体製造装置用部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そして、上記課題を解決するための手段としては、被加工物が載置される第1主面及び第2主面を有する板状物であって少なくとも前記第2主面にて開口する第1の穴が設けられたセラミック部材と、前記セラミック部材を支持する支持面を有し前記第1の穴に連通する第2の穴が設けられたベース部材とを備え、前記第2主面及び前記支持面が接合材層を介して接合されている半導体製造装置用部品において、前記第2主面及び前記支持面のうちの少なくとも一方には、前記穴を包囲する位置に溝が設けられ、前記接合材層は前記溝の外側領域に存在し、前記溝内の空間には前記接合材層の一部が入り込んで溜まりを形成していることを特徴とする半導体製造装置用部品がある。
【0011】
従って、上記手段の半導体製造装置用部品によれば、セラミック部材の第2主面やベース部材の支持面に塗布されている接合材層の粘度が低下することにより、接合材層の流動性が高くなったとしても、接合材層の一部は、穴(第1の穴または第2の穴)を包囲する溝に入り込んで溜まりを形成する。その結果、接合材層が溝の内側領域に侵入しにくくなるため、接合材層の穴への流れ込みを防止することができる。しかも、接合材層の一部が溝に入り込むことにより、接合材層の接着範囲(即ち、吸着面である第1主面において接合材層の直上となる領域)が一定になるため、第1主面の温度分布が半導体製造装置用部品ごとにばらつきにくくなる。その結果、第1主面に載置された被加工物を加熱または冷却する能力が、半導体製造装置用部品ごとにばらつきにくくなるため、第1主面の均熱性の低下を防止することができ、半導体製造装置用部品の歩留まりが向上する。また、接合材層が絶縁性を有するシリコーン系接着剤の硬化物からなる層であれば、セラミック部材とベース部材との接合部分における絶縁抵抗が一定になり、穴の近傍において絶縁抵抗が低下することがなくなるため、アーキングの発生を防止することができる。
【0012】
ここで、前記セラミック部材の厚さは特に限定されないが、例えば2mm以上7mm以下であってもよい。なお、セラミック部材の厚さが2mm未満になると、セラミック部材が薄くなりすぎるため、セラミック部材の強度が低下して破損する可能性がある。一方、セラミック部材の厚さが7mmよりも大きくなると、熱が伝達される距離(セラミック部材の第1主面からベース部材の支持面までの距離)が長くなるため、セラミック部材の熱を接合材層を介してベース部材側に逃がしにくくなる。その結果、温度制御性が低下する場合もありうる。
【0013】
なお、セラミック部材を構成する材料としては、アルミナ、イットリア(酸化イットリウム)、窒化アルミニウム、窒化ほう素、炭化珪素、窒化珪素などといった高温焼成セラミックを主成分とする焼結体などが挙げられる。また、用途に応じて、ホウケイ酸系ガラスやホウケイ酸鉛系ガラスにアルミナ等の無機セラミックフィラーを添加したガラスセラミックのような低温焼成セラミックを主成分とする焼結体を選択してもよいし、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、チタン酸ストロンチウムなどの誘電体セラミックを主成分とする焼結体を選択してもよい。
【0014】
なお、半導体製造におけるドライエッチングなどの各処理においては、プラズマを用いた技術が種々採用され、プラズマを用いた処理においては、ハロゲンガスなどの腐食性ガスが多用されている。このため、腐食性ガスやプラズマに晒される半導体製造装置用部品には、高い耐食性が要求される。従って、前記セラミック部材は、腐食性ガスやプラズマに対する耐食性がある材料、例えば、アルミナやイットリアを主成分とする材料からなることが好ましい。このようにすれば、セラミック部材の第1主面の腐食を防止できるため、第1主面の平面度が低下しにくくなり、半導体製造装置用部品の長寿命化を図ることができる。
【0015】
さらに、前記ベース部材を形成する材料としては、銅、アルミニウム、鉄、チタンなどを挙げることができる。また、前記接合材層を形成する材料としては、セラミック部材とベース部材とを接合させる力が大きい材料からなる層であることが好ましく、例えばインジウムなどの金属材料や、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂などの樹脂材料を選択することができる。なお、前記溝内の空間に前記接合材層の一部を確実に入り込ませるためには、前記接合材層が、塗布時に高い流動性を有する低粘度熱硬化性接着剤の硬化物からなる層であることが好ましい。具体的に言うと、前記接合材層の塗布時の粘度は、500ポイズ以下、特には100ポイズ以上500ポイズ以下であることが好ましい。仮に、塗布時の粘度が100ポイズ未満になると、塗布時に接合材層の一部が溝を越えて溝の内側領域に到達しやすくなるため、接合材層が穴に流れ込みやすくなる。一方、塗布時の粘度が500ポイズよりも大きくなると、接合材層の流動性が低下するため、接合材層の一部が溝内の空間に入り込まなくなる可能性がある。以上のことから、接合材層を形成する材料としては、塗布時の粘度が300ポイズ程度であって、熱硬化時において温度が80〜90℃付近に達した際の粘度が100ポイズ程度となる耐熱性を有するシリコーン樹脂などの樹脂材料を選択することができる。即ち、前記接合材層は、塗布時の粘度が500ポイズ以下であるシリコーン系接着剤(シリコーン樹脂からなる接着剤)の硬化物からなる層であることが好ましい。なお、シリコーン樹脂は高弾性率を有するため、接合材層がシリコーン系接着剤の硬化物からなる層であれば、セラミック部材−ベース部材間に発生する熱応力を有効に緩和することができる。ここで、「シリコーン樹脂」とは、シロキサン結合(珪素と酸素との結合)による主骨格を有する高分子化合物のことをいう。
【0016】
また、前記接合材層の厚さは特に限定されないが、例えば250μm以上300μm以下に設定されていてもよい。ところで、ベース部材は、セラミック部材を保持する機能だけでなく、第1主面上の被加工物から発生する熱を外部に放出して被加工物を冷却する機能も有している。しかし、接合材層は、セラミック材料や金属材料よりも熱伝導率がかなり低い樹脂材料からなる可能性が高いため、接合材層の厚さが300μmよりも大きくなると、セラミック部材−ベース部材間で熱が伝達されにくくなり、被加工物からの熱を外部に放出することが困難になる。なお、接合材層の厚さが250μm未満になると、セラミック部材の第2主面やベース部材の支持面に凹凸が生じた場合に、接合材層が行き渡らない未接合部分が生じやすくなる。
【0017】
前記セラミック部材には、少なくとも前記第2主面にて開口する第1の穴が設けられ、前記ベース部材には、前記第1の穴に連通する第2の穴が設けられる。ここで、穴(第1の穴及び第2の穴)の用途は特に限定されないが、例えば、前記穴を、前記第1主面に載置された前記被加工物を冷却する冷却用ガスが流れる冷却用ガス穴として用いてもよい。なお、冷却用ガスとしては、ヘリウムガスや窒素ガスなどの不活性ガスを挙げることができる。また、前記穴を、前記被加工物を押し上げて前記第1主面から離間させる押し上げ部材を挿入するための穴(押し上げ部材挿入穴)として用いてもよい。
【0018】
前記溝は、前記第2主面及び前記支持面のうちの少なくとも一方において、前記穴を包囲する位置に設けられる。即ち、前記溝は、前記第2主面のみに設けられていてもよいし、前記支持面のみに設けられていてもよいし、前記第2主面及び前記支持面の両方に設けられていてもよい。なお、溝が支持面のみに設けられている場合、金属材料や樹脂材料よりも硬いセラミック材料からなるセラミック部材に対して加工を行わなくても済むため、溝の形成が容易になる。また、溝が第2主面及び支持面の両方に設けられている場合、接合材層の一部が確実に溝内の空間に入り込むため、接合材層が溝の内側領域によりいっそう侵入しにくくなる。さらに、溝が第2主面及び支持面の両方に設けられている場合、半導体製造装置用部品を厚さ方向から見たときに、第2主面に設けられている溝と支持面に設けられている溝とが重なるように配置されていてもよいし、重なるように配置されていなくてもよい。
【0019】
ここで、前記溝は、前記穴の開口縁から例えば5mm以上10mm以下の間隔を隔てて形成されていてもよい。仮に、溝が穴の開口縁から5mm未満の間隔を隔てて形成されていると、溝の内側領域に侵入した液状の接合材層が穴の開口縁に到達しやすくなるため、接合材層が穴に流れ込みやすくなる。一方、溝が穴の開口縁から10mmよりも大きい間隔を隔てて形成されていると、接合材層が存在しない領域、即ち、セラミック部材とベース部材との間で熱が伝達されにくい領域が大きくなるため、第1主面に載置された被加工物を加熱または冷却する能力が低下してしまう。なお、溝は、前記穴の開口縁から5mm以上10mm以下の範囲内であって、全周にわたり等しい間隔をへだてて形成されることが好ましい。
【0020】
前記溝の平面視での形状は特に限定されないが、例えば略円形状や略矩形状などを挙げることができる。また、前記溝の断面形状も特に限定されないが、例えばV字状やU字状であれば、溝内の空間に接合材層の一部が流れ込みやすくなる。なお、溝の断面形状がV字状である場合、前記溝の内側面と前記支持面とがなす角度は150°以下であることがよい。仮に、前記溝の内側面と前記支持面とがなす角度が150°よりも大きいと、接合材層の一部が溝内の空間に流れ込んだとしても、接合材層の一部が溝からあふれ出て溝の内側領域に到達するおそれがある。また、前記溝は、前記穴と同心円状に形成されていてもよい。このようにした場合、溝内の空間に接合材層の一部が入り込んで溜まりを形成することにより、穴の開口縁から接合材層までの間隔が一定になるため、第1主面の温度分布が半導体製造装置用部品ごとにばらつきにくくなる。
【0021】
さらに、前記溝の開口幅及び前記溝の深さは、前記接合材層の厚さよりも大きくなるように設定されていてもよい。このようにすれば、接合材層の一部が確実に溝内の空間に入り込むため、接合材層が溝の内側領域によりいっそう侵入しにくくなる。
【0022】
ここで、前記溝の開口幅は例えば1mm以上5mm以下であり、前記溝の深さは例えば1mm以上5mm以下であってもよい。仮に、溝の開口幅や深さが1mm未満であると、溝内の空間に接合材層の一部が入りきらなくなるため、液状の接合材層が溝を越えて溝の内側領域に侵入してしまう。一方、溝の開口幅や深さが5mmよりも大きくなると、溝内の空間において接合材層が存在しない領域、即ち、セラミック部材とベース部材との間で熱が伝達されにくい領域が生じるため、第1主面の温度分布が不均一になってしまう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明を具体化した一実施形態の静電チャックを示す概略断面図。
【図2】静電チャックを示す分解斜視図。
【図3】静電チャックを示す概略断面図。
【図4】穴、溝及び接着剤層の位置関係を示す説明図。
【図5】実施例1〜11及び比較例を示す図表。
【図6】他の実施形態における穴、溝及び接着剤層の位置関係を示す説明図。
【図7】他の実施形態における穴、溝及び接着剤層の位置関係を示す説明図。
【図8】他の実施形態における穴、溝及び接着剤層の位置関係を示す説明図。
【図9】他の実施形態における溝及び溜まりを示す概略断面図。
【図10】他の実施形態における溝及び溜まりを示す概略断面図。
【図11】他の実施形態における溝及び溜まりを示す概略断面図。
【図12】他の実施形態における静電チャックを示す要部断面図。
【図13】他の実施形態における静電チャックを示す要部断面図。
【図14】従来技術における問題点を示す説明図。
【図15】従来技術における問題点を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の半導体製造装置用部品を静電チャックに具体化した一実施形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0025】
図1に示されるように、本実施形態の静電チャック1は、吸着面11に半導体ウェハ2(被加工物)を吸着するための装置である。静電チャック1は、セラミック絶縁板10(セラミック部材)と、セラミック絶縁板10の接合面12側に接着剤層20(接合材層)を介して接合される金属ベース30(ベース部材)とを備えている。
【0026】
図1〜図3に示されるように、セラミック絶縁板10は、直径300mm×厚さ3.0mmの平面視略円形状の板状物である。セラミック絶縁板10は、第1主面である吸着面11、及び、第2主面である接合面12を有している。セラミック絶縁板10は、アルミナを主成分とする焼結体からなり、6層のセラミック層13〜18を積層した構造を有している。本実施形態において、セラミック絶縁板10の熱伝導率は32W/(m・K)、熱膨張係数は7.7ppm/℃となっている。なお、セラミック絶縁板10の熱膨張係数は、30℃〜250℃間の測定値の平均値をいう。
【0027】
また、セラミック絶縁板10は、冷却用ガス穴41を内部に有している。冷却用ガス穴41には、吸着面11に吸着された半導体ウェハ2を冷却するヘリウムガス(冷却用ガス)が流れるようになっている。そして、冷却用ガス穴41は、第4層のセラミック層16内に、セラミック絶縁板10の平面方向に延びる横穴42を備えている。横穴42は、断面矩形状をなし、セラミック絶縁板10の厚さ方向の長さが0.5mm以上1.5mm以下(本実施形態では1.0mm)に設定されるとともに、セラミック絶縁板10の平面方向の長さが1.0mmに設定されている。また、冷却用ガス穴41は、第1層のセラミック層13内に内周側及び外周側の円環状ガス流路(図示略)を備えている。外周側の円環状ガス流路には、吸着面11にて開口する複数のガス噴出口(図示略)が設けられている。
【0028】
さらに図1,図3に示されるように、冷却用ガス穴41は、セラミック絶縁板10の厚さ方向に延びる直径1.0mmの第1の縦穴47,48をさらに備えている。セラミック絶縁板10の内周側に位置する第1の縦穴47(第1の穴)は、セラミック絶縁板10内における4箇所に設けられ、中央部分が横穴42に連通するとともに、吸着面11側の端部が内周側の円環状ガス流路に連通する一方、接合面12側の端部が接合面12にて開口している。また、セラミック絶縁板10の外周側に位置する第1の縦穴48は、セラミック絶縁板10内における4箇所に設けられ、吸着面11側の端部が外周側の円環状ガス流路に連通する一方、接合面12側の端部が横穴42に連通している。
【0029】
図1〜図3に示されるように、セラミック絶縁板10は、同セラミック絶縁板10の厚さ方向に延びる直径2.0mmの第1のピン挿入穴81(第1の穴)を備えている。第1のピン挿入穴81は、セラミック絶縁板10内における3箇所に設けられ、吸着面11側の端部が吸着面11にて開口する一方、接合面12側の端部が接合面12にて開口している。なお、第1のピン挿入穴81には、吸着面11に吸着された半導体ウェハ2を押し上げて吸着面11から離間させるリフトピン80(図3参照)が挿入されるようになっている。本実施形態のリフトピン80は、アルミニウムからなる棒状部材である。
【0030】
図1,図3に示されるように、セラミック絶縁板10は、吸着用電極層51を内部に有している。吸着用電極層51は、タングステンを主成分として形成された層であって、セラミック絶縁板10内において横穴42よりも吸着面11側(具体的には、第3層のセラミック層15上)に配置されている。なお、吸着用電極層51は、第3層〜第5層のセラミック層15〜17を貫通するスルーホール導体(図示略)の上端面に電気的に接続され、スルーホール導体の下端面は、第5層のセラミック層17の下面上に形成された吸着側パッド(図示略)に電気的に接続されている。さらに、第6層のセラミック層18の所定箇所には、吸着側パッドを露出させる第1の吸着側端子穴(図示略)が形成され、吸着側パッドの表面上には、吸着側端子ピン(図示略)がロウ付けまたははんだ付けによって接合されている。吸着側端子ピンは、前記金属ベース30に設けられた第2の吸着側端子穴(図示略)内に収容されている。そして、吸着側端子ピンには、吸着側外部端子(図示略)が接合された状態で電圧が印加されるようになっている。
【0031】
図1,図3に示されるように、セラミック絶縁板10は、同セラミック絶縁板10を加熱するヒータ電極層61を内部に有している。ヒータ電極層61は、タングステンを主成分として形成された層であって、セラミック絶縁板10内において横穴42よりも接合面12側(具体的には、第6層のセラミック層18上)に配置されている。ヒータ電極層61は、平面視渦巻き状に配置されている。なお、ヒータ電極層61は、第5層のセラミック層17の下面上に形成されたヒータ側パッド(図示略)に電気的に接続されている。さらに、第6層のセラミック層18の所定箇所には、ヒータ側パッドを露出させる第1のヒータ側端子穴(図示略)が形成され、ヒータ側パッドの表面上には、ヒータ側端子ピン(図示略)がロウ付けまたははんだ付けによって接合されている。ヒータ側端子ピンは、金属ベース30に設けられた第2のヒータ側端子穴(図示略)内に収容されている。そして、ヒータ側端子ピンには、ヒータ側外部端子(図示略)が接合された状態で電圧が印加されるようになっている。
【0032】
図1〜図3に示されるように、金属ベース30は、アルミニウムを主成分とする材料からなっている。本実施形態において、金属ベース30の熱伝導率は236W/(m・K)、熱膨張係数は約23ppm/℃となっている。なお、金属ベース30の熱膨張係数は、0℃〜ガラス転移温度(Tg)間の測定値の平均値をいう。また、金属ベース30は、直径340mm×厚さ20mmの略円板状である。即ち、金属ベース30の直径は、セラミック絶縁板10の直径(300mm)よりも大きく設定されている。金属ベース30は、セラミック絶縁板10を支持する支持面である第1面31と、第1面31の反対側に位置する第2面32とを有している。
【0033】
また、金属ベース30は、平面視渦巻状に配置された冷却水路71を内部に有している。冷却水路71には、セラミック絶縁板10を冷却する冷却水が流れるようになっている。冷却水路71には、第2面32にて開口する複数の冷却水通路73が設けられている。
【0034】
さらに図1〜図4に示されるように、金属ベース30は、同金属ベース30の厚さ方向に延びる直径1.0mmの第2の縦穴49(第2の穴)を備えている。この第2の縦穴49には、外部配管(図示略)を介してヘリウムガスが供給されるようになっている。第2の縦穴49は、金属ベース30内における4箇所に設けられ、第1面31側の端部が第1の縦穴47に連通する一方、第2面32側の端部が第2面32にて開口している。そして、第2の縦穴49は、冷却水路71を避けて配置されている。
【0035】
また図1〜図3に示されるように、金属ベース30は、同金属ベース30の厚さ方向に延びる直径2.0mmの第2のピン挿入穴82(第2の穴)を備えている。第2のピン挿入穴82は、金属ベース30内における3箇所に設けられ、第1面31側の端部が第1のピン挿入穴81に連通する一方、第2面32側の端部が第2面32にて開口している。この第2のピン挿入穴82には、リフトピン80が挿入されるようになっている。そして、第2のピン挿入穴82は、冷却水路71を避けて配置されている。
【0036】
図1〜図4に示されるように、金属ベース30の第1面31には、第2の縦穴49を包囲する位置に、平面視円環状の溝90が設けられている。また、金属ベース30の第1面31には、第2のピン挿入穴82を包囲する位置に、平面視円環状の溝91が設けられている。即ち、本実施形態の溝90,91は、セラミック絶縁板10の接合面12には設けられておらず、第1面31のみに設けられている。
【0037】
図3,図4に示されるように、本実施形態の溝90の断面形状はV字状であり、溝90の内側面と第1面31とがなす角度は、135°に設定されている。溝90は、第2の縦穴49の開口縁から5mmの間隔を隔てて形成されている。即ち、溝90は、第2の縦穴49の開口縁に至っておらず、第2の縦穴49と同心円状に形成されている。また、溝90の開口幅L1は2mmであり、溝90の深さL2は1mmである。従って、溝90の開口幅L1及び溝90の深さL2は、前記接着剤層20の厚さL3(250μm)よりも大きくなるように設定されている。そして、溝90の中心線L4における直径は、6.5mmとなっている。
【0038】
また、溝91は、溝90と略同様の構成を有している。即ち、本実施形態の溝91の断面形状もV字状であり、溝91の内側面と第1面31とがなす角度は、135°に設定されている。溝91は、第2のピン挿入穴82の開口縁から5mmの間隔を隔てて形成されている。即ち、溝91は、第2のピン挿入穴82の開口縁に至っておらず、第2のピン挿入穴82と同心円状に形成されている。また、溝91の開口幅は2mmであり、溝91の深さは1mmである。従って、溝91の開口幅及び溝91の深さは、接着剤層20の厚さL3よりも大きくなるように設定されている。そして、溝91の中心線における直径は、7.0mmとなっている。
【0039】
図1,図3に示されるように、接着剤層20は、セラミック絶縁板10の接合面12と金属ベース30の第1面31とを接合している。接着剤層20は、塗布時の粘度が300ポイズ程度である耐熱性のシリコーン系接着剤(低粘度熱硬化性接着剤)の硬化物からなる層である。また、接着剤層20は、トルエンやアセトンなどの有機溶剤を含んでいる。本実施形態において、接着剤層20の熱伝導率は0.16W/(m・K)、熱膨張係数は約200ppm/℃となっている。なお、接着剤層20の熱膨張係数は、0℃〜ガラス転移温度(Tg)間の測定値の平均値をいう。また図3,図4に示されるように、接着剤層20は、各溝90,91の外側領域に存在している。そして、接着剤層20の一部は、各溝90,91内の空間に入り込んで溜まり92を形成している。
【0040】
なお、本実施形態の静電チャック1を使用する場合には、吸着用電極層51に3kVの電圧を印加して静電引力を発生させ、発生した静電引力を用いて半導体ウェハ2を吸着面11に吸着させる。このとき、冷却用ガス穴41を流れるヘリウムガスが、ガス噴出口から吸着面11と半導体ウェハ2の裏面との間に供給され、半導体ウェハ2が冷却される。また、ヒータ電極層61に電圧を印加してセラミック絶縁板10を加熱することにより、吸着面11に吸着されている半導体ウェハ2が加熱される。
【0041】
さらに、半導体ウェハ2を吸着面11から離脱させる場合には、ピン挿入穴81,82に挿入されたリフトピン80を吸着面11から上方に突出させて半導体ウェハ2を突き上げるようにする。
【0042】
次に、静電チャック1の製造方法を説明する。
【0043】
まず以下の手順でスラリーを調製する。アルミナ粉末(92重量%)に、MgO(1重量%)、CaO(1重量%)、SiO2(6重量%)を混合し、ボールミルで50〜80時間湿式粉砕した後、脱水乾燥することにより、粉末を得る。次に、得られた粉末に、メタクリル酸イソブチルエステル(3重量%)、ブチルエステル(3重量%)、ニトロセルロース(1重量%)、ジオクチルフタレート(0.5重量%)を加え、さらにトリクロロエチレン、n−ブタノールを溶剤として加えた後、ボールミルで湿式混合することにより、アルミナグリーンシートを形成する際の出発材料となるスラリーを得る。
【0044】
次に、このスラリーを、減圧脱泡した後、離型性の支持体(図示略)上に流し出して冷却することにより、溶剤を発散させる。その結果、厚さ0.8mmの第1層〜第6層のアルミナグリーンシート(セラミック層13〜18となるべき未焼結セラミック層)が形成される。なお、第2層〜第6層のアルミナグリーンシートには、第1の縦穴47を形成するための貫通孔が4箇所に設けられ、第2層,第3層のアルミナグリーンシートには、第1の縦穴48を形成するための貫通孔が4箇所に設けられる。また、第1層〜第6層のアルミナグリーンシートには、第1のピン挿入穴81を形成するための貫通孔が3箇所に設けられる。さらに、第1層のアルミナグリーンシートには、円環状ガス流路を形成するための貫通孔が設けられ、第4層のアルミナグリーンシートには、横穴42を形成するための貫通孔が設けられる。また、第6層のアルミナグリーンシートには、第1の吸着側端子穴及び第1のヒータ側端子穴を形成するための貫通孔が設けられる。また、第3層〜第5層のアルミナグリーンシートには、スルーホール導体を形成するための貫通穴が設けられる。なお、各貫通孔は、アルミナグリーンシートを型抜きまたは機械加工することにより形成される。
【0045】
また、上記したアルミナグリーンシート用の粉末にタングステン粉末を混合する。これをアルミナグリーンシートの作製時と同様の方法によってスラリー状にし、メタライズペーストを得る。
【0046】
次に、第3層のアルミナグリーンシートの上面上に、従来周知のペースト印刷装置(例えばスクリーン印刷装置)を用いて、吸着用電極層51となるメタライズペーストを印刷塗布する。また、第6層のアルミナグリーンシートの上面上に、ペースト印刷装置を用いて、ヒータ電極層61となるメタライズペーストを印刷塗布する。この後、印刷されたメタライズペーストを乾燥する。
【0047】
次に、冷却用ガス穴41が形成されるように各貫通孔を位置合わせした状態で、第1層〜第6層のアルミナグリーンシートを熱圧着し、厚さを約5mmとしたグリーンシート積層体を形成する。さらに、グリーンシート積層体を、所定の円板状(本実施形態では、直径300mmの円板状)にカットする。
【0048】
次に、上記グリーンシート積層体を大気中にて250℃で10時間脱脂し、さらに還元雰囲気中1400〜1600℃にて所定時間焼成する。その結果、アルミナ及びタングステンが同時焼結し、所望構造のセラミック絶縁板10が得られる。この焼成により、寸法が約20%小さくなるため、セラミック絶縁板10の厚さは約4mmとなる。その後、セラミック絶縁板10の表裏両面を研磨することにより、セラミック絶縁板10の厚さを3mmにする加工を行うとともに、吸着面11及び接合面12の平面度を30μm以下とする加工を行う。
【0049】
次に、吸着側端子ピンにニッケルめっきを施し、ニッケルめっきを施した吸着側端子ピンを吸着側パッドに対してロウ付けまたははんだ付けする。また、ヒータ側端子ピンにニッケルめっきを施し、ニッケルめっきを施したヒータ側端子ピンをヒータ側パッドに対してロウ付けまたははんだ付けする。
【0050】
次に、金属ベース30に対して、レーザー加工機を用いたレーザー加工を行うことにより、第2の縦穴49を4箇所に貫通形成するとともに、3個の第2のピン挿入穴82を3箇所に貫通形成する。さらに、レーザー加工を行うことにより、金属ベース30の第1面31上に、第2の縦穴49を包囲する溝90を形成するとともに、第2のピン挿入穴82を包囲する溝91を形成する。さらに、金属ベース30の第1面31上に、従来周知のスクリーン印刷装置を用いて、液状の接着剤を1回または複数回印刷塗布し、所定厚さの接着剤層20を形成する。ここで、接着剤層20の厚さは、セラミック絶縁板10を金属ベース30に接合する際に圧縮されることを考慮して、接合後の接着剤層20の厚さL3の例えば1.4倍に設定される。また、第1面31上に塗布された接着剤は、粘度が300ポイズ程度であるために溝90,91の外側領域を流動するが、一部が溝90,91内の空間に入り込んで溜まり92を形成するため、接着剤が溝90,91を越えて溝90,91の内側領域に流れ込むことが防止される。
【0051】
次に、第1の縦穴47と第2の縦穴49とを位置合わせするとともに、第1のピン挿入穴81と第2のピン挿入穴82とを位置合わせした状態で、上記したセラミック絶縁板10を、吸着面11を上にした状態で接着剤層20の上に載置する。そして、セラミック絶縁板10の吸着面11上に錘(図示略)を載置して垂直方向に押圧力を加える。その結果、接着剤層20が厚さ方向に圧縮されてセラミック絶縁板10の接合面12と金属ベース30の第1面31との両方に接触する。なお、セラミック絶縁板10と金属ベース30との接合部分の外周縁からは余剰の接着剤がはみ出すが、接着後に研削等によって接着剤の余剰部分を除去すればよい。
【0052】
その後、加熱処理を所定時間行い、接着剤層20を硬化させる。なお、本実施形態の接着剤層20は、加熱時に硬化温度(150℃程度)よりも低い温度(80℃以上90℃以下)で一旦軟化して液状となる。このとき、接着剤は、粘度が300ポイズ程度となるために再び溝90,91の外側領域を流動するが、既に接着剤層20の一部が溝90,91内の空間に入り込んで溜まり92を形成しているため、接着剤が溝90,91を越えて溝90,91の内側領域に流れ込むことが防止される。その後、接着剤がさらに加熱されて硬化すれば、接着剤層20を介してセラミック絶縁板10の接合面12と金属ベース30の第1面31とが接合され、静電チャック1が完成する。
【0053】
次に、静電チャックの評価方法及びその結果を説明する。
【0054】
まず、複数の測定用サンプルを次のように準備した。図5に示されるように、本実施形態と同じ静電チャックを準備し、これを実施例1とした。即ち、実施例1の静電チャックでは、断面形状が「V字状」の溝(溝90,91)を「ベース(金属ベース30)」に形成し、溝の開口幅を2mmに設定し、溝の深さを1mmに設定し、穴(穴49,82)の開口縁から溝までの間隔を5mmに設定した。また、溝の開口幅を実施例1の場合よりも狭く(2mm→1mm)した静電チャックを準備し、これを実施例2とした。一方、溝の開口幅を実施例1の場合よりも広く(2mm→5mm)した静電チャックを準備し、これを実施例3とした。また、溝の深さを実施例1の場合よりも深く(1mm→5mm)した静電チャックを準備し、これを実施例4とした。さらに、穴の開口縁から溝までの間隔を実施例1の場合よりも広く(5mm→10mm)した静電チャックを準備し、これを実施例5とした。一方、穴の開口縁から溝までの間隔を実施例1の場合よりも狭く(5mm→2mm)した静電チャックを準備し、これを実施例6とした。また、溝の開口幅を実施例1の場合よりも広く(2mm→3mm)するとともに、溝の深さを実施例1の場合よりも深く(1mm→3mm)した静電チャックを準備し、これを実施例7とした。さらに、溝の断面形状を「V字状(実施例1)」→「矩形状」に変更した静電チャックを準備し、これを実施例8とした。また、溝の断面形状を「V字状(実施例1)」→「U字状」に変更した静電チャックを準備し、これを実施例9とした。また、溝を「ベース」ではなく「セラミック(セラミック絶縁板10)」に形成した静電チャックを準備し、これを実施例10とした。また、溝を「ベース」及び「セラミック」の両方に形成した静電チャックを準備し、これを実施例11とした。なお、溝が「ベース」にも「セラミック」にも形成されていない静電チャックを準備し、これを比較例とした。
【0055】
その結果、比較例では、ベース(またはセラミック)に塗布されている接着剤層が、硬化前や硬化時(即ち液状である場合)において穴に流れ込んでしまった(図5の「はみ出し:有」参照)。また、比較例では、接着剤層を硬化させたとしても、穴の開口縁から接着剤層までの間隔が一定ではなく、吸着面において接着剤層の直上となる領域がばらついてしまったため、吸着面における温度差が大きくなり(図5の「吸着面均一性:不良」参照)、吸着面に吸着された半導体ウェハを均一に加熱または冷却できなかった。
【0056】
一方、実施例1〜11では、ベース(またはセラミック)に塗布されている接着剤層の一部が、溝に入り込んで溜まりを形成したため、接着層が溝の内側領域にある穴に流れ込むことはなかった(図5の「はみ出し:無」参照)。また、接着剤層の一部が溜まりを形成したことにより、穴の開口縁から接着剤層までの間隔が一定になり、吸着面において接着剤層の直上となる領域にばらつきが生じなくなったため、吸着面における温度差が小さくなり(図5の「吸着面均一性:良好」参照)、吸着面に吸着された半導体ウェハを均一に加熱または冷却することができた。特に、実施例2,3の結果から、溝の開口幅を1mm以上5mm以下とすれば、吸着面均一性が良好になることが証明された。また、実施例1,4の結果から、溝の深さを1mm以上5mm以下とすれば、吸着面均一性が良好になることが証明された。
【0057】
従って、本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0058】
(1)本実施形態の静電チャック1によれば、金属ベース30の第1面31に塗布されている接着剤層20の粘度が低下することにより、接着剤層20の流動性が高くなったとしても、接着剤層20の一部は、第2の縦穴49を包囲する溝90や第2のピン挿入穴82を包囲する溝91に入り込んで溜まり92を形成する。その結果、接着剤層20が溝90,91の内側領域に侵入しにくくなるため、接着剤層20の穴49,82への流れ込みを防止することができる。しかも、接着剤層20の一部が溝90,91に入り込むことにより、接着剤層20の接着範囲(即ち、吸着面11において接着剤層20の直上となる領域)が一定になるため、吸着面11の温度分布が静電チャック1ごとにばらつきにくくなる。その結果、吸着面11に載置された半導体ウェハ2を加熱または冷却する能力が、静電チャック1ごとにばらつきにくくなるため、吸着面11の均熱性の低下を防止することができ、静電チャック1の歩留まりが向上する。また、本実施形態の接着剤層20は、絶縁性を有するシリコーン系接着剤の硬化物からなる層である。このため、セラミック絶縁板10と金属ベース30との接合部分における絶縁抵抗が一定になり、穴49,82の近傍において絶縁抵抗が低下することがなくなるため、アーキングの発生を防止することができる。
【0059】
(2)本実施形態のセラミック絶縁板10は、セラミックグリーンシートの成形技術(即ち、セラミック層13〜18の成形技術)が確立されているアルミナを主成分とする材料からなるため、第1の縦穴47や第1のピン挿入穴81などを容易に形成することができる。また、本実施形態の金属ベース30は、微細加工が可能な金属材料(本実施形態ではアルミニウム)からなるため、穴49,82や溝90,91などを容易に形成することができる。また、金属材料は熱伝導性に優れているため、冷却水路71を流れる冷却水を用いてセラミック絶縁板10を効果的に冷却することができる。
【0060】
(3)本実施形態の接着剤層20は、熱伝導率が比較的低いシリコーン系接着剤の硬化物からなっている。これにより、セラミック絶縁板10と金属ベース30との間で熱が伝達されにくくなるため、冷却水路71を流れる冷却水によってセラミック絶縁板10が過度に冷却されることがない。即ち、セラミック絶縁板10を確実に冷却するためには、ヒータ電極層61の出力を抑える必要があるため、結果としてヒータ電極層61の直上となる領域と直上とはならない領域との温度差が小さくなる。従って、吸着面11に吸着された半導体ウェハ2をより均一に加熱または冷却することができる。
【0061】
なお、本実施形態を以下のように変更してもよい。
【0062】
・上記実施形態では、1つの穴(第2の縦穴49または第2のピン挿入穴82)が1つの溝(溝90または溝91)で包囲されていた。例えば図6〜図8に示されるように、隣接して配置された複数の穴を共通の1つの溝で包囲してもよい。詳述すると、図6,図7に示されるように、第2の縦穴249,349(第2の穴)と、第2の縦穴249,349に隣接し、第2の縦穴249,349よりも直径が小さい第2の縦穴250,350(第2の穴)とを、1つの溝190,191で包囲してもよい。特に、溝の形状を図7に示す溝191のような形状にすれば、第2の縦穴349の開口縁から溝191までの間隔や、第2の縦穴350の開口縁から溝191までの間隔を均一にしやすくなる。また、図8に示されるように、互いに直径が等しい3つの第2の縦穴449(第2の穴)を、1つの溝192で包囲してもよい。
【0063】
・上記実施形態の溝90,91は、穴49,82を1周のみ包囲していたが、2周以上包囲していてもよい。しかし、接着剤層20の接着範囲を大きくとるためには、溝90,91は、穴49,82を1周のみ包囲していることが好ましい。
【0064】
・上記実施形態の溝90,91の断面形状はV字状であったが、断面形状が他の形状となる溝であってもよい。例えば、断面形状が矩形状の溝193(図9参照)であってもよいし、断面形状が三角形状の溝194(図10参照)であってもよいし、断面形状がU字状の溝195(図11参照)であってもよい。
【0065】
なお、図10に示される溝194は、溝194の外側領域側に位置する内側面と第1面31とがなす角度(150°)が、溝194の内側領域側に位置する内側面と第1面31とがなす角度(90°)よりも大きくなっている。このため、溝194の外側領域に存在する接着剤層20が溝194に入り込みやすくなるとともに、一旦溝194内の空間に入り込んだ接着剤層20が溝194の内側領域に侵入しにくくなる。
【0066】
・上記実施形態の静電チャック1では、金属ベース30の第1面31のみに溝90,91が設けられていた。しかし、図12に示される静電チャック111のように、セラミック絶縁板10の接合面12のみに溝196が設けられていてもよい。なお、この場合、冷却水路71は、上壁面(第1面31側の面)が接合面12から5mm以下の深さに位置するように配置されていてもよい。また、接合面12及び第1面31の両方に溝が設けられていてもよい。なお、溝が接合面12及び第1面31の両方に設けられている場合、接着剤層20の一部が確実に溝内の空間に入り込むため、接着剤層20が溝の内側領域によりいっそう侵入しにくくなる。
【0067】
・上記実施形態の製造方法では、金属ベース30に対して、レーザー加工機を用いたレーザー加工を行うことにより、溝90,91などを形成していたが、ドリルなどを用いた切削加工によって溝90,91などを形成してもよい。しかし、切削加工を行うと、切削屑が発生するという欠点があるため、上記実施形態のようにレーザー加工を行うことがよい。
【0068】
・上記実施形態の静電チャック1では、セラミック絶縁板10に設けられた第1の縦穴47が直径1.0mmに設定され、金属ベース30に設けられた第2の縦穴49が直径1.0mmに設定されていた。即ち、第1の縦穴47及び第2の縦穴49は、直径が互いに等しく設定されていた。また上記実施形態の静電チャック1では、セラミック絶縁板10に設けられた第1のピン挿入穴81が直径2.0mmに設定され、金属ベース30に設けられた第2のピン挿入穴82が直径2.0mmに設定されていた。即ち、第1のピン挿入穴81及び第2のピン挿入穴82は、直径が互いに等しく設定されていた。
【0069】
しかし、第1の縦穴47及び第2の縦穴49は、直径が互いに異なっていてもよい。例えば図13に示される静電チャック121のように、第2の縦穴149(第2の穴)の直径を第1の縦穴147(第1の穴)の直径よりも大きくしてもよい。この場合、溝197は、連通しあう第1の縦穴147及び第2の縦穴149のうち大径のもの(第2の縦穴149)を包囲するように設けられる。同様に、第1のピン挿入穴81及び第2のピン挿入穴82も、直径が互いに異なっていてもよい。
【0070】
・上記実施形態のセラミック絶縁板10は、アルミナを主成分とする材料からなっていたが、例えばイットリアを主成分とする材料からなっていてもよい。なお、イットリアは、半導体の製造時に多用されるプラズマや腐食性ガスに対する耐食性が、アルミナよりも優れている。よって、セラミック絶縁板10をイットリアによって形成すれば、吸着面11の腐食をより確実に防止でき、吸着面11の平面度がよりいっそう低下しにくくなるため、静電チャックのさらなる長寿命化を図ることができる。
【0071】
・上記実施形態の静電チャック1では、半導体ウェハ2を被加工物としていたが、液晶パネルなどの他の部材を被加工物としてもよい。
【0072】
・上記実施形態の静電チャック1では、半導体ウェハ2を冷却するヘリウムガスが流れる縦穴47,49と、半導体ウェハ2を突き上げるリフトピン80を挿入するためのピン挿入穴81,82とが別々に設けられていた。しかし、縦穴47,49及びピン挿入穴81,82のいずれか一方を省略してもよい。具体的に言うと、ピン挿入穴81,82を省略するとともに、縦穴47,49に、ヘリウムガスを流す機能に加えて、リフトピン80を挿入する機能を持たせてもよい。また、縦穴47,49を省略するとともに、ピン挿入穴81,82に、リフトピン80を挿入する機能に加えて、ヘリウムガスを流す機能を持たせてもよい。
【0073】
・上記実施形態の静電チャック1では、半導体ウェハ2を冷却するヘリウムガスが流れる縦穴47,49と、半導体ウェハ2を突き上げるリフトピン80を挿入するためのピン挿入穴81,82とが、第1の穴及び第2の穴としての機能を有していた。しかし、吸着面11の温度を測定するための温度計が挿入される温度測定用孔(図示略)や、上記実施形態における第1の吸着側端子穴(図示略)、第2の吸着側端子穴(図示略)、第1のヒータ側端子穴(図示略)及び第2のヒータ側端子穴(図示略)が、第1の穴及び第2の穴としての機能を有していてもよい。
【0074】
・上記実施形態では、静電チャック1が半導体製造装置用部品として用いられていた。しかし、第1の穴及び第2の穴からの真空引きによって被加工物を第1主面に吸引保持する真空チャック、セラミック部材の内部に設けられた発熱体によって第1主面に載置された被加工物を加熱するセラミックヒータ、係止手段を用いて被加工物の外周部を機械的に保持するメカニカルチャックなどの他の部材を半導体製造装置用部品として用いてもよい。
【0075】
次に、前述した実施形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0076】
(1)被加工物が載置される第1主面及び第2主面を有する板状物であって少なくとも前記第2主面にて開口する第1の穴が設けられたセラミック部材と、前記セラミック部材を支持する支持面を有し前記第1の穴に連通する第2の穴が設けられたベース部材とを備え、前記第2主面及び前記支持面が接合材層を介して接合されている半導体製造装置用部品において、前記第2主面及び前記支持面のうちの少なくとも一方には、前記穴を包囲する位置に溝が設けられ、前記接合材層は前記溝の外側領域に存在し、前記溝内の空間には前記接合材層の一部が入り込んで溜まりを形成し、前記溝の断面形状は、V字状であり、前記溝の内側面と前記支持面とがなす角度は150°以下であることを特徴とする半導体製造装置用部品。
【0077】
(2)被加工物が載置される第1主面及び第2主面を有する板状物であって少なくとも前記第2主面にて開口する第1の穴が設けられたセラミック部材と、前記セラミック部材を支持する支持面を有し前記第1の穴に連通する第2の穴が設けられたベース部材とを備え、前記第2主面及び前記支持面が接合材層を介して接合されている半導体製造装置用部品において、前記第2主面及び前記支持面のうちの少なくとも一方には、前記穴を包囲する位置に溝が設けられ、前記接合材層は前記溝の外側領域に存在し、前記溝内の空間には前記接合材層の一部が入り込んで溜まりを形成し、前記溝の断面形状は、三角形状であり、前記溝の外側領域側に位置する内側面と前記支持面とがなす角度が、前記溝の内側領域側に位置する内側面と前記支持面とがなす角度よりも大きくなっていることを特徴とする半導体製造装置用部品。
【0078】
(3)被加工物が載置される第1主面及び第2主面を有する板状物であって少なくとも前記第2主面にて開口する第1の穴が設けられたセラミック部材と、前記セラミック部材を支持する支持面を有し前記第1の穴に連通する第2の穴が設けられたベース部材とを備え、前記第2主面及び前記支持面が接合材層を介して接合されている半導体製造装置用部品において、前記第2主面及び前記支持面のうちの少なくとも一方には、前記穴を包囲する位置に溝が設けられ、前記接合材層は前記溝の外側領域に存在し、前記溝内の空間には前記接合材層の一部が入り込んで溜まりを形成し、前記接合材層は、塗布時の粘度が500ポイズ以下であるシリコーン系接着剤の硬化物からなる層であり、前記接着剤は、110℃以上200℃以下で硬化するとともに、硬化温度よりも低い温度である80℃以上90℃以下で一旦軟化することを特徴とする半導体製造装置用部品。
【0079】
(4)被加工物が載置される第1主面及び第2主面を有する板状物であって少なくとも前記第2主面にて開口する複数の第1の穴が設けられたセラミック部材と、前記セラミック部材を支持する支持面を有し前記複数の第1の穴に連通する複数の第2の穴が設けられたベース部材とを備え、前記第2主面及び前記支持面が接合材層を介して接合されている半導体製造装置用部品において、前記第2主面及び前記支持面のうちの少なくとも一方には、連通しあう前記第1の穴及び前記第2の穴のうち大径のものを包囲する溝が設けられ、前記接合材層は前記溝の外側領域に存在し、前記接合材層が前記溝の内部空間に部分的に入り込んで溜まりを形成していることを特徴とする半導体製造装置用部品。
【符号の説明】
【0080】
1,111,121…半導体製造装置用部品としての静電チャック
2…被加工物としての半導体ウェハ
10…セラミック部材としてのセラミック絶縁板
11…第1主面としての吸着面
12…第2主面としての接合面
20…接合材層としての接着剤層
30…ベース部材としての金属ベース
31…支持面としての第1面
47,147…第1の穴としての第1の縦穴
49,149,249,250,349,350,449…第2の穴としての第2の縦穴
81…第1の穴としての第1のピン挿入穴
82…第2の穴としての第2のピン挿入穴
90,91,190,191,192,193,194,195,196,197…溝
92…溜まり
L1…溝の開口幅
L2…溝の深さ
L3…接合材層の厚さ
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハの固定、半導体ウェハの平面度の矯正、半導体ウェハの搬送、半導体ウェハの加熱などに用いられる半導体製造装置用部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体製造装置では、半導体ウェハ(例えばシリコンウェハ)に対してドライエッチング等の処理が行われている。ドライエッチングの精度を高めるためには、半導体ウェハを確実に固定しておく必要がある。そこで、半導体ウェハを固定する固定手段として、静電引力によって半導体ウェハを固定する静電チャックが提案されている。
【0003】
具体的に言うと、静電チャックは、セラミック絶縁板の内部に吸着用電極層を有している。その吸着用電極層に電圧を印加すると、静電引力が生じる。この静電引力を用いて、半導体ウェハがセラミック絶縁板の上面(吸着面)に吸着される。なお、静電チャックは、セラミック絶縁板の下面(接合面)と金属ベースの上面とを接合材層を介して接合することによって構成されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0004】
例えば、特許文献1に記載の従来技術では、上記の接合材層として、シリコーン系接着剤が用いられている。また、特許文献2に記載の従来技術では、接合材層として、接着剤をゲル状やゴム状に固化したものなどが用いられている。なお、特許文献1,2には、接着剤を塗布した金属ベースの上面にセラミック絶縁板を載置した後、接着剤を熱硬化させれば、セラミック絶縁板と金属ベースとが接合される旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−287344号公報(図2など)
【特許文献2】特開平7−335731号公報(請求項1,2、図1など)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、静電チャックの信頼性を向上させるために、接着剤の耐熱性を高めることが従来から要求されている。そこで近年では、耐熱性を有するシリコーン系接着剤が開発されている。一般的に、耐熱性を有するシリコーン系接着剤は、熱硬化時に徐々に硬化して150℃程度で完全に硬化する。この種の接着剤は、硬化温度よりも低い温度(80〜90℃付近)に達した際に、一旦軟化して粘度が低下することで流動性が増すという性質がある。なお、静電チャックには、例えば、吸着面に吸着された半導体ウェハを冷却する冷却用ガスが流れる穴などが設けられている。具体的に言うと、セラミック絶縁板を厚さ方向に貫通して吸着面及び接合面にて開口する絶縁板側穴や、金属ベース101の上面にて開口し、絶縁板側穴に連通するベース側穴102が設けられている(図14参照)。従って、金属ベース101の上面に塗布されている接着剤103が耐熱性を有するシリコーン系接着剤であれば、熱硬化時に温度が80〜90℃付近に達した際に、流動性が増した接着剤103がベース側穴102に流れ込んでしまう。
【0007】
この問題を解決するために、接着剤103の塗布領域をベース側穴102の開口縁から離すことも考えられる(図15参照)。しかし、流動性が増した接着剤103の流量調整は困難であるため、接着剤103を硬化させたとしても、ベース側穴102の開口縁から接着剤103までの間隔が一定ではなくなってしまう。しかも、接着剤103の接着範囲、ひいては、吸着面において接着剤103の直上となる領域の分布が、製造される静電チャックごとにばらついてしまう。なお、接着剤103が存在する領域は、接着剤103が存在しない領域よりも熱伝導率が高いため、セラミック絶縁板と金属ベース101との間で熱が伝達されやすい。よって、吸着面において接着剤103の直上となる領域が静電チャックごとにばらついていれば、吸着面に吸着された半導体ウェハを加熱または冷却する能力が静電チャックごとに異なってしまう。即ち、吸着面の均熱性が低下し、静電チャックの歩留まりが低下するという問題がある。
【0008】
さらに、上記の接合材層が導電性を有する材料(例えばロウ材)からなる場合、ベース側穴102の近傍において絶縁抵抗が低下するため、アーキングが発生して金属ベース101の一部が飛散するなどの問題がある。
【0009】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その第1の目的は、接合材層の穴への流れ込みを防止できるとともに、吸着面の均熱性の低下を防止することができる半導体製造装置用部品を提供することにある。また、第2の目的は、アーキングの発生を防止することができる半導体製造装置用部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そして、上記課題を解決するための手段としては、被加工物が載置される第1主面及び第2主面を有する板状物であって少なくとも前記第2主面にて開口する第1の穴が設けられたセラミック部材と、前記セラミック部材を支持する支持面を有し前記第1の穴に連通する第2の穴が設けられたベース部材とを備え、前記第2主面及び前記支持面が接合材層を介して接合されている半導体製造装置用部品において、前記第2主面及び前記支持面のうちの少なくとも一方には、前記穴を包囲する位置に溝が設けられ、前記接合材層は前記溝の外側領域に存在し、前記溝内の空間には前記接合材層の一部が入り込んで溜まりを形成していることを特徴とする半導体製造装置用部品がある。
【0011】
従って、上記手段の半導体製造装置用部品によれば、セラミック部材の第2主面やベース部材の支持面に塗布されている接合材層の粘度が低下することにより、接合材層の流動性が高くなったとしても、接合材層の一部は、穴(第1の穴または第2の穴)を包囲する溝に入り込んで溜まりを形成する。その結果、接合材層が溝の内側領域に侵入しにくくなるため、接合材層の穴への流れ込みを防止することができる。しかも、接合材層の一部が溝に入り込むことにより、接合材層の接着範囲(即ち、吸着面である第1主面において接合材層の直上となる領域)が一定になるため、第1主面の温度分布が半導体製造装置用部品ごとにばらつきにくくなる。その結果、第1主面に載置された被加工物を加熱または冷却する能力が、半導体製造装置用部品ごとにばらつきにくくなるため、第1主面の均熱性の低下を防止することができ、半導体製造装置用部品の歩留まりが向上する。また、接合材層が絶縁性を有するシリコーン系接着剤の硬化物からなる層であれば、セラミック部材とベース部材との接合部分における絶縁抵抗が一定になり、穴の近傍において絶縁抵抗が低下することがなくなるため、アーキングの発生を防止することができる。
【0012】
ここで、前記セラミック部材の厚さは特に限定されないが、例えば2mm以上7mm以下であってもよい。なお、セラミック部材の厚さが2mm未満になると、セラミック部材が薄くなりすぎるため、セラミック部材の強度が低下して破損する可能性がある。一方、セラミック部材の厚さが7mmよりも大きくなると、熱が伝達される距離(セラミック部材の第1主面からベース部材の支持面までの距離)が長くなるため、セラミック部材の熱を接合材層を介してベース部材側に逃がしにくくなる。その結果、温度制御性が低下する場合もありうる。
【0013】
なお、セラミック部材を構成する材料としては、アルミナ、イットリア(酸化イットリウム)、窒化アルミニウム、窒化ほう素、炭化珪素、窒化珪素などといった高温焼成セラミックを主成分とする焼結体などが挙げられる。また、用途に応じて、ホウケイ酸系ガラスやホウケイ酸鉛系ガラスにアルミナ等の無機セラミックフィラーを添加したガラスセラミックのような低温焼成セラミックを主成分とする焼結体を選択してもよいし、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、チタン酸ストロンチウムなどの誘電体セラミックを主成分とする焼結体を選択してもよい。
【0014】
なお、半導体製造におけるドライエッチングなどの各処理においては、プラズマを用いた技術が種々採用され、プラズマを用いた処理においては、ハロゲンガスなどの腐食性ガスが多用されている。このため、腐食性ガスやプラズマに晒される半導体製造装置用部品には、高い耐食性が要求される。従って、前記セラミック部材は、腐食性ガスやプラズマに対する耐食性がある材料、例えば、アルミナやイットリアを主成分とする材料からなることが好ましい。このようにすれば、セラミック部材の第1主面の腐食を防止できるため、第1主面の平面度が低下しにくくなり、半導体製造装置用部品の長寿命化を図ることができる。
【0015】
さらに、前記ベース部材を形成する材料としては、銅、アルミニウム、鉄、チタンなどを挙げることができる。また、前記接合材層を形成する材料としては、セラミック部材とベース部材とを接合させる力が大きい材料からなる層であることが好ましく、例えばインジウムなどの金属材料や、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂などの樹脂材料を選択することができる。なお、前記溝内の空間に前記接合材層の一部を確実に入り込ませるためには、前記接合材層が、塗布時に高い流動性を有する低粘度熱硬化性接着剤の硬化物からなる層であることが好ましい。具体的に言うと、前記接合材層の塗布時の粘度は、500ポイズ以下、特には100ポイズ以上500ポイズ以下であることが好ましい。仮に、塗布時の粘度が100ポイズ未満になると、塗布時に接合材層の一部が溝を越えて溝の内側領域に到達しやすくなるため、接合材層が穴に流れ込みやすくなる。一方、塗布時の粘度が500ポイズよりも大きくなると、接合材層の流動性が低下するため、接合材層の一部が溝内の空間に入り込まなくなる可能性がある。以上のことから、接合材層を形成する材料としては、塗布時の粘度が300ポイズ程度であって、熱硬化時において温度が80〜90℃付近に達した際の粘度が100ポイズ程度となる耐熱性を有するシリコーン樹脂などの樹脂材料を選択することができる。即ち、前記接合材層は、塗布時の粘度が500ポイズ以下であるシリコーン系接着剤(シリコーン樹脂からなる接着剤)の硬化物からなる層であることが好ましい。なお、シリコーン樹脂は高弾性率を有するため、接合材層がシリコーン系接着剤の硬化物からなる層であれば、セラミック部材−ベース部材間に発生する熱応力を有効に緩和することができる。ここで、「シリコーン樹脂」とは、シロキサン結合(珪素と酸素との結合)による主骨格を有する高分子化合物のことをいう。
【0016】
また、前記接合材層の厚さは特に限定されないが、例えば250μm以上300μm以下に設定されていてもよい。ところで、ベース部材は、セラミック部材を保持する機能だけでなく、第1主面上の被加工物から発生する熱を外部に放出して被加工物を冷却する機能も有している。しかし、接合材層は、セラミック材料や金属材料よりも熱伝導率がかなり低い樹脂材料からなる可能性が高いため、接合材層の厚さが300μmよりも大きくなると、セラミック部材−ベース部材間で熱が伝達されにくくなり、被加工物からの熱を外部に放出することが困難になる。なお、接合材層の厚さが250μm未満になると、セラミック部材の第2主面やベース部材の支持面に凹凸が生じた場合に、接合材層が行き渡らない未接合部分が生じやすくなる。
【0017】
前記セラミック部材には、少なくとも前記第2主面にて開口する第1の穴が設けられ、前記ベース部材には、前記第1の穴に連通する第2の穴が設けられる。ここで、穴(第1の穴及び第2の穴)の用途は特に限定されないが、例えば、前記穴を、前記第1主面に載置された前記被加工物を冷却する冷却用ガスが流れる冷却用ガス穴として用いてもよい。なお、冷却用ガスとしては、ヘリウムガスや窒素ガスなどの不活性ガスを挙げることができる。また、前記穴を、前記被加工物を押し上げて前記第1主面から離間させる押し上げ部材を挿入するための穴(押し上げ部材挿入穴)として用いてもよい。
【0018】
前記溝は、前記第2主面及び前記支持面のうちの少なくとも一方において、前記穴を包囲する位置に設けられる。即ち、前記溝は、前記第2主面のみに設けられていてもよいし、前記支持面のみに設けられていてもよいし、前記第2主面及び前記支持面の両方に設けられていてもよい。なお、溝が支持面のみに設けられている場合、金属材料や樹脂材料よりも硬いセラミック材料からなるセラミック部材に対して加工を行わなくても済むため、溝の形成が容易になる。また、溝が第2主面及び支持面の両方に設けられている場合、接合材層の一部が確実に溝内の空間に入り込むため、接合材層が溝の内側領域によりいっそう侵入しにくくなる。さらに、溝が第2主面及び支持面の両方に設けられている場合、半導体製造装置用部品を厚さ方向から見たときに、第2主面に設けられている溝と支持面に設けられている溝とが重なるように配置されていてもよいし、重なるように配置されていなくてもよい。
【0019】
ここで、前記溝は、前記穴の開口縁から例えば5mm以上10mm以下の間隔を隔てて形成されていてもよい。仮に、溝が穴の開口縁から5mm未満の間隔を隔てて形成されていると、溝の内側領域に侵入した液状の接合材層が穴の開口縁に到達しやすくなるため、接合材層が穴に流れ込みやすくなる。一方、溝が穴の開口縁から10mmよりも大きい間隔を隔てて形成されていると、接合材層が存在しない領域、即ち、セラミック部材とベース部材との間で熱が伝達されにくい領域が大きくなるため、第1主面に載置された被加工物を加熱または冷却する能力が低下してしまう。なお、溝は、前記穴の開口縁から5mm以上10mm以下の範囲内であって、全周にわたり等しい間隔をへだてて形成されることが好ましい。
【0020】
前記溝の平面視での形状は特に限定されないが、例えば略円形状や略矩形状などを挙げることができる。また、前記溝の断面形状も特に限定されないが、例えばV字状やU字状であれば、溝内の空間に接合材層の一部が流れ込みやすくなる。なお、溝の断面形状がV字状である場合、前記溝の内側面と前記支持面とがなす角度は150°以下であることがよい。仮に、前記溝の内側面と前記支持面とがなす角度が150°よりも大きいと、接合材層の一部が溝内の空間に流れ込んだとしても、接合材層の一部が溝からあふれ出て溝の内側領域に到達するおそれがある。また、前記溝は、前記穴と同心円状に形成されていてもよい。このようにした場合、溝内の空間に接合材層の一部が入り込んで溜まりを形成することにより、穴の開口縁から接合材層までの間隔が一定になるため、第1主面の温度分布が半導体製造装置用部品ごとにばらつきにくくなる。
【0021】
さらに、前記溝の開口幅及び前記溝の深さは、前記接合材層の厚さよりも大きくなるように設定されていてもよい。このようにすれば、接合材層の一部が確実に溝内の空間に入り込むため、接合材層が溝の内側領域によりいっそう侵入しにくくなる。
【0022】
ここで、前記溝の開口幅は例えば1mm以上5mm以下であり、前記溝の深さは例えば1mm以上5mm以下であってもよい。仮に、溝の開口幅や深さが1mm未満であると、溝内の空間に接合材層の一部が入りきらなくなるため、液状の接合材層が溝を越えて溝の内側領域に侵入してしまう。一方、溝の開口幅や深さが5mmよりも大きくなると、溝内の空間において接合材層が存在しない領域、即ち、セラミック部材とベース部材との間で熱が伝達されにくい領域が生じるため、第1主面の温度分布が不均一になってしまう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明を具体化した一実施形態の静電チャックを示す概略断面図。
【図2】静電チャックを示す分解斜視図。
【図3】静電チャックを示す概略断面図。
【図4】穴、溝及び接着剤層の位置関係を示す説明図。
【図5】実施例1〜11及び比較例を示す図表。
【図6】他の実施形態における穴、溝及び接着剤層の位置関係を示す説明図。
【図7】他の実施形態における穴、溝及び接着剤層の位置関係を示す説明図。
【図8】他の実施形態における穴、溝及び接着剤層の位置関係を示す説明図。
【図9】他の実施形態における溝及び溜まりを示す概略断面図。
【図10】他の実施形態における溝及び溜まりを示す概略断面図。
【図11】他の実施形態における溝及び溜まりを示す概略断面図。
【図12】他の実施形態における静電チャックを示す要部断面図。
【図13】他の実施形態における静電チャックを示す要部断面図。
【図14】従来技術における問題点を示す説明図。
【図15】従来技術における問題点を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の半導体製造装置用部品を静電チャックに具体化した一実施形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0025】
図1に示されるように、本実施形態の静電チャック1は、吸着面11に半導体ウェハ2(被加工物)を吸着するための装置である。静電チャック1は、セラミック絶縁板10(セラミック部材)と、セラミック絶縁板10の接合面12側に接着剤層20(接合材層)を介して接合される金属ベース30(ベース部材)とを備えている。
【0026】
図1〜図3に示されるように、セラミック絶縁板10は、直径300mm×厚さ3.0mmの平面視略円形状の板状物である。セラミック絶縁板10は、第1主面である吸着面11、及び、第2主面である接合面12を有している。セラミック絶縁板10は、アルミナを主成分とする焼結体からなり、6層のセラミック層13〜18を積層した構造を有している。本実施形態において、セラミック絶縁板10の熱伝導率は32W/(m・K)、熱膨張係数は7.7ppm/℃となっている。なお、セラミック絶縁板10の熱膨張係数は、30℃〜250℃間の測定値の平均値をいう。
【0027】
また、セラミック絶縁板10は、冷却用ガス穴41を内部に有している。冷却用ガス穴41には、吸着面11に吸着された半導体ウェハ2を冷却するヘリウムガス(冷却用ガス)が流れるようになっている。そして、冷却用ガス穴41は、第4層のセラミック層16内に、セラミック絶縁板10の平面方向に延びる横穴42を備えている。横穴42は、断面矩形状をなし、セラミック絶縁板10の厚さ方向の長さが0.5mm以上1.5mm以下(本実施形態では1.0mm)に設定されるとともに、セラミック絶縁板10の平面方向の長さが1.0mmに設定されている。また、冷却用ガス穴41は、第1層のセラミック層13内に内周側及び外周側の円環状ガス流路(図示略)を備えている。外周側の円環状ガス流路には、吸着面11にて開口する複数のガス噴出口(図示略)が設けられている。
【0028】
さらに図1,図3に示されるように、冷却用ガス穴41は、セラミック絶縁板10の厚さ方向に延びる直径1.0mmの第1の縦穴47,48をさらに備えている。セラミック絶縁板10の内周側に位置する第1の縦穴47(第1の穴)は、セラミック絶縁板10内における4箇所に設けられ、中央部分が横穴42に連通するとともに、吸着面11側の端部が内周側の円環状ガス流路に連通する一方、接合面12側の端部が接合面12にて開口している。また、セラミック絶縁板10の外周側に位置する第1の縦穴48は、セラミック絶縁板10内における4箇所に設けられ、吸着面11側の端部が外周側の円環状ガス流路に連通する一方、接合面12側の端部が横穴42に連通している。
【0029】
図1〜図3に示されるように、セラミック絶縁板10は、同セラミック絶縁板10の厚さ方向に延びる直径2.0mmの第1のピン挿入穴81(第1の穴)を備えている。第1のピン挿入穴81は、セラミック絶縁板10内における3箇所に設けられ、吸着面11側の端部が吸着面11にて開口する一方、接合面12側の端部が接合面12にて開口している。なお、第1のピン挿入穴81には、吸着面11に吸着された半導体ウェハ2を押し上げて吸着面11から離間させるリフトピン80(図3参照)が挿入されるようになっている。本実施形態のリフトピン80は、アルミニウムからなる棒状部材である。
【0030】
図1,図3に示されるように、セラミック絶縁板10は、吸着用電極層51を内部に有している。吸着用電極層51は、タングステンを主成分として形成された層であって、セラミック絶縁板10内において横穴42よりも吸着面11側(具体的には、第3層のセラミック層15上)に配置されている。なお、吸着用電極層51は、第3層〜第5層のセラミック層15〜17を貫通するスルーホール導体(図示略)の上端面に電気的に接続され、スルーホール導体の下端面は、第5層のセラミック層17の下面上に形成された吸着側パッド(図示略)に電気的に接続されている。さらに、第6層のセラミック層18の所定箇所には、吸着側パッドを露出させる第1の吸着側端子穴(図示略)が形成され、吸着側パッドの表面上には、吸着側端子ピン(図示略)がロウ付けまたははんだ付けによって接合されている。吸着側端子ピンは、前記金属ベース30に設けられた第2の吸着側端子穴(図示略)内に収容されている。そして、吸着側端子ピンには、吸着側外部端子(図示略)が接合された状態で電圧が印加されるようになっている。
【0031】
図1,図3に示されるように、セラミック絶縁板10は、同セラミック絶縁板10を加熱するヒータ電極層61を内部に有している。ヒータ電極層61は、タングステンを主成分として形成された層であって、セラミック絶縁板10内において横穴42よりも接合面12側(具体的には、第6層のセラミック層18上)に配置されている。ヒータ電極層61は、平面視渦巻き状に配置されている。なお、ヒータ電極層61は、第5層のセラミック層17の下面上に形成されたヒータ側パッド(図示略)に電気的に接続されている。さらに、第6層のセラミック層18の所定箇所には、ヒータ側パッドを露出させる第1のヒータ側端子穴(図示略)が形成され、ヒータ側パッドの表面上には、ヒータ側端子ピン(図示略)がロウ付けまたははんだ付けによって接合されている。ヒータ側端子ピンは、金属ベース30に設けられた第2のヒータ側端子穴(図示略)内に収容されている。そして、ヒータ側端子ピンには、ヒータ側外部端子(図示略)が接合された状態で電圧が印加されるようになっている。
【0032】
図1〜図3に示されるように、金属ベース30は、アルミニウムを主成分とする材料からなっている。本実施形態において、金属ベース30の熱伝導率は236W/(m・K)、熱膨張係数は約23ppm/℃となっている。なお、金属ベース30の熱膨張係数は、0℃〜ガラス転移温度(Tg)間の測定値の平均値をいう。また、金属ベース30は、直径340mm×厚さ20mmの略円板状である。即ち、金属ベース30の直径は、セラミック絶縁板10の直径(300mm)よりも大きく設定されている。金属ベース30は、セラミック絶縁板10を支持する支持面である第1面31と、第1面31の反対側に位置する第2面32とを有している。
【0033】
また、金属ベース30は、平面視渦巻状に配置された冷却水路71を内部に有している。冷却水路71には、セラミック絶縁板10を冷却する冷却水が流れるようになっている。冷却水路71には、第2面32にて開口する複数の冷却水通路73が設けられている。
【0034】
さらに図1〜図4に示されるように、金属ベース30は、同金属ベース30の厚さ方向に延びる直径1.0mmの第2の縦穴49(第2の穴)を備えている。この第2の縦穴49には、外部配管(図示略)を介してヘリウムガスが供給されるようになっている。第2の縦穴49は、金属ベース30内における4箇所に設けられ、第1面31側の端部が第1の縦穴47に連通する一方、第2面32側の端部が第2面32にて開口している。そして、第2の縦穴49は、冷却水路71を避けて配置されている。
【0035】
また図1〜図3に示されるように、金属ベース30は、同金属ベース30の厚さ方向に延びる直径2.0mmの第2のピン挿入穴82(第2の穴)を備えている。第2のピン挿入穴82は、金属ベース30内における3箇所に設けられ、第1面31側の端部が第1のピン挿入穴81に連通する一方、第2面32側の端部が第2面32にて開口している。この第2のピン挿入穴82には、リフトピン80が挿入されるようになっている。そして、第2のピン挿入穴82は、冷却水路71を避けて配置されている。
【0036】
図1〜図4に示されるように、金属ベース30の第1面31には、第2の縦穴49を包囲する位置に、平面視円環状の溝90が設けられている。また、金属ベース30の第1面31には、第2のピン挿入穴82を包囲する位置に、平面視円環状の溝91が設けられている。即ち、本実施形態の溝90,91は、セラミック絶縁板10の接合面12には設けられておらず、第1面31のみに設けられている。
【0037】
図3,図4に示されるように、本実施形態の溝90の断面形状はV字状であり、溝90の内側面と第1面31とがなす角度は、135°に設定されている。溝90は、第2の縦穴49の開口縁から5mmの間隔を隔てて形成されている。即ち、溝90は、第2の縦穴49の開口縁に至っておらず、第2の縦穴49と同心円状に形成されている。また、溝90の開口幅L1は2mmであり、溝90の深さL2は1mmである。従って、溝90の開口幅L1及び溝90の深さL2は、前記接着剤層20の厚さL3(250μm)よりも大きくなるように設定されている。そして、溝90の中心線L4における直径は、6.5mmとなっている。
【0038】
また、溝91は、溝90と略同様の構成を有している。即ち、本実施形態の溝91の断面形状もV字状であり、溝91の内側面と第1面31とがなす角度は、135°に設定されている。溝91は、第2のピン挿入穴82の開口縁から5mmの間隔を隔てて形成されている。即ち、溝91は、第2のピン挿入穴82の開口縁に至っておらず、第2のピン挿入穴82と同心円状に形成されている。また、溝91の開口幅は2mmであり、溝91の深さは1mmである。従って、溝91の開口幅及び溝91の深さは、接着剤層20の厚さL3よりも大きくなるように設定されている。そして、溝91の中心線における直径は、7.0mmとなっている。
【0039】
図1,図3に示されるように、接着剤層20は、セラミック絶縁板10の接合面12と金属ベース30の第1面31とを接合している。接着剤層20は、塗布時の粘度が300ポイズ程度である耐熱性のシリコーン系接着剤(低粘度熱硬化性接着剤)の硬化物からなる層である。また、接着剤層20は、トルエンやアセトンなどの有機溶剤を含んでいる。本実施形態において、接着剤層20の熱伝導率は0.16W/(m・K)、熱膨張係数は約200ppm/℃となっている。なお、接着剤層20の熱膨張係数は、0℃〜ガラス転移温度(Tg)間の測定値の平均値をいう。また図3,図4に示されるように、接着剤層20は、各溝90,91の外側領域に存在している。そして、接着剤層20の一部は、各溝90,91内の空間に入り込んで溜まり92を形成している。
【0040】
なお、本実施形態の静電チャック1を使用する場合には、吸着用電極層51に3kVの電圧を印加して静電引力を発生させ、発生した静電引力を用いて半導体ウェハ2を吸着面11に吸着させる。このとき、冷却用ガス穴41を流れるヘリウムガスが、ガス噴出口から吸着面11と半導体ウェハ2の裏面との間に供給され、半導体ウェハ2が冷却される。また、ヒータ電極層61に電圧を印加してセラミック絶縁板10を加熱することにより、吸着面11に吸着されている半導体ウェハ2が加熱される。
【0041】
さらに、半導体ウェハ2を吸着面11から離脱させる場合には、ピン挿入穴81,82に挿入されたリフトピン80を吸着面11から上方に突出させて半導体ウェハ2を突き上げるようにする。
【0042】
次に、静電チャック1の製造方法を説明する。
【0043】
まず以下の手順でスラリーを調製する。アルミナ粉末(92重量%)に、MgO(1重量%)、CaO(1重量%)、SiO2(6重量%)を混合し、ボールミルで50〜80時間湿式粉砕した後、脱水乾燥することにより、粉末を得る。次に、得られた粉末に、メタクリル酸イソブチルエステル(3重量%)、ブチルエステル(3重量%)、ニトロセルロース(1重量%)、ジオクチルフタレート(0.5重量%)を加え、さらにトリクロロエチレン、n−ブタノールを溶剤として加えた後、ボールミルで湿式混合することにより、アルミナグリーンシートを形成する際の出発材料となるスラリーを得る。
【0044】
次に、このスラリーを、減圧脱泡した後、離型性の支持体(図示略)上に流し出して冷却することにより、溶剤を発散させる。その結果、厚さ0.8mmの第1層〜第6層のアルミナグリーンシート(セラミック層13〜18となるべき未焼結セラミック層)が形成される。なお、第2層〜第6層のアルミナグリーンシートには、第1の縦穴47を形成するための貫通孔が4箇所に設けられ、第2層,第3層のアルミナグリーンシートには、第1の縦穴48を形成するための貫通孔が4箇所に設けられる。また、第1層〜第6層のアルミナグリーンシートには、第1のピン挿入穴81を形成するための貫通孔が3箇所に設けられる。さらに、第1層のアルミナグリーンシートには、円環状ガス流路を形成するための貫通孔が設けられ、第4層のアルミナグリーンシートには、横穴42を形成するための貫通孔が設けられる。また、第6層のアルミナグリーンシートには、第1の吸着側端子穴及び第1のヒータ側端子穴を形成するための貫通孔が設けられる。また、第3層〜第5層のアルミナグリーンシートには、スルーホール導体を形成するための貫通穴が設けられる。なお、各貫通孔は、アルミナグリーンシートを型抜きまたは機械加工することにより形成される。
【0045】
また、上記したアルミナグリーンシート用の粉末にタングステン粉末を混合する。これをアルミナグリーンシートの作製時と同様の方法によってスラリー状にし、メタライズペーストを得る。
【0046】
次に、第3層のアルミナグリーンシートの上面上に、従来周知のペースト印刷装置(例えばスクリーン印刷装置)を用いて、吸着用電極層51となるメタライズペーストを印刷塗布する。また、第6層のアルミナグリーンシートの上面上に、ペースト印刷装置を用いて、ヒータ電極層61となるメタライズペーストを印刷塗布する。この後、印刷されたメタライズペーストを乾燥する。
【0047】
次に、冷却用ガス穴41が形成されるように各貫通孔を位置合わせした状態で、第1層〜第6層のアルミナグリーンシートを熱圧着し、厚さを約5mmとしたグリーンシート積層体を形成する。さらに、グリーンシート積層体を、所定の円板状(本実施形態では、直径300mmの円板状)にカットする。
【0048】
次に、上記グリーンシート積層体を大気中にて250℃で10時間脱脂し、さらに還元雰囲気中1400〜1600℃にて所定時間焼成する。その結果、アルミナ及びタングステンが同時焼結し、所望構造のセラミック絶縁板10が得られる。この焼成により、寸法が約20%小さくなるため、セラミック絶縁板10の厚さは約4mmとなる。その後、セラミック絶縁板10の表裏両面を研磨することにより、セラミック絶縁板10の厚さを3mmにする加工を行うとともに、吸着面11及び接合面12の平面度を30μm以下とする加工を行う。
【0049】
次に、吸着側端子ピンにニッケルめっきを施し、ニッケルめっきを施した吸着側端子ピンを吸着側パッドに対してロウ付けまたははんだ付けする。また、ヒータ側端子ピンにニッケルめっきを施し、ニッケルめっきを施したヒータ側端子ピンをヒータ側パッドに対してロウ付けまたははんだ付けする。
【0050】
次に、金属ベース30に対して、レーザー加工機を用いたレーザー加工を行うことにより、第2の縦穴49を4箇所に貫通形成するとともに、3個の第2のピン挿入穴82を3箇所に貫通形成する。さらに、レーザー加工を行うことにより、金属ベース30の第1面31上に、第2の縦穴49を包囲する溝90を形成するとともに、第2のピン挿入穴82を包囲する溝91を形成する。さらに、金属ベース30の第1面31上に、従来周知のスクリーン印刷装置を用いて、液状の接着剤を1回または複数回印刷塗布し、所定厚さの接着剤層20を形成する。ここで、接着剤層20の厚さは、セラミック絶縁板10を金属ベース30に接合する際に圧縮されることを考慮して、接合後の接着剤層20の厚さL3の例えば1.4倍に設定される。また、第1面31上に塗布された接着剤は、粘度が300ポイズ程度であるために溝90,91の外側領域を流動するが、一部が溝90,91内の空間に入り込んで溜まり92を形成するため、接着剤が溝90,91を越えて溝90,91の内側領域に流れ込むことが防止される。
【0051】
次に、第1の縦穴47と第2の縦穴49とを位置合わせするとともに、第1のピン挿入穴81と第2のピン挿入穴82とを位置合わせした状態で、上記したセラミック絶縁板10を、吸着面11を上にした状態で接着剤層20の上に載置する。そして、セラミック絶縁板10の吸着面11上に錘(図示略)を載置して垂直方向に押圧力を加える。その結果、接着剤層20が厚さ方向に圧縮されてセラミック絶縁板10の接合面12と金属ベース30の第1面31との両方に接触する。なお、セラミック絶縁板10と金属ベース30との接合部分の外周縁からは余剰の接着剤がはみ出すが、接着後に研削等によって接着剤の余剰部分を除去すればよい。
【0052】
その後、加熱処理を所定時間行い、接着剤層20を硬化させる。なお、本実施形態の接着剤層20は、加熱時に硬化温度(150℃程度)よりも低い温度(80℃以上90℃以下)で一旦軟化して液状となる。このとき、接着剤は、粘度が300ポイズ程度となるために再び溝90,91の外側領域を流動するが、既に接着剤層20の一部が溝90,91内の空間に入り込んで溜まり92を形成しているため、接着剤が溝90,91を越えて溝90,91の内側領域に流れ込むことが防止される。その後、接着剤がさらに加熱されて硬化すれば、接着剤層20を介してセラミック絶縁板10の接合面12と金属ベース30の第1面31とが接合され、静電チャック1が完成する。
【0053】
次に、静電チャックの評価方法及びその結果を説明する。
【0054】
まず、複数の測定用サンプルを次のように準備した。図5に示されるように、本実施形態と同じ静電チャックを準備し、これを実施例1とした。即ち、実施例1の静電チャックでは、断面形状が「V字状」の溝(溝90,91)を「ベース(金属ベース30)」に形成し、溝の開口幅を2mmに設定し、溝の深さを1mmに設定し、穴(穴49,82)の開口縁から溝までの間隔を5mmに設定した。また、溝の開口幅を実施例1の場合よりも狭く(2mm→1mm)した静電チャックを準備し、これを実施例2とした。一方、溝の開口幅を実施例1の場合よりも広く(2mm→5mm)した静電チャックを準備し、これを実施例3とした。また、溝の深さを実施例1の場合よりも深く(1mm→5mm)した静電チャックを準備し、これを実施例4とした。さらに、穴の開口縁から溝までの間隔を実施例1の場合よりも広く(5mm→10mm)した静電チャックを準備し、これを実施例5とした。一方、穴の開口縁から溝までの間隔を実施例1の場合よりも狭く(5mm→2mm)した静電チャックを準備し、これを実施例6とした。また、溝の開口幅を実施例1の場合よりも広く(2mm→3mm)するとともに、溝の深さを実施例1の場合よりも深く(1mm→3mm)した静電チャックを準備し、これを実施例7とした。さらに、溝の断面形状を「V字状(実施例1)」→「矩形状」に変更した静電チャックを準備し、これを実施例8とした。また、溝の断面形状を「V字状(実施例1)」→「U字状」に変更した静電チャックを準備し、これを実施例9とした。また、溝を「ベース」ではなく「セラミック(セラミック絶縁板10)」に形成した静電チャックを準備し、これを実施例10とした。また、溝を「ベース」及び「セラミック」の両方に形成した静電チャックを準備し、これを実施例11とした。なお、溝が「ベース」にも「セラミック」にも形成されていない静電チャックを準備し、これを比較例とした。
【0055】
その結果、比較例では、ベース(またはセラミック)に塗布されている接着剤層が、硬化前や硬化時(即ち液状である場合)において穴に流れ込んでしまった(図5の「はみ出し:有」参照)。また、比較例では、接着剤層を硬化させたとしても、穴の開口縁から接着剤層までの間隔が一定ではなく、吸着面において接着剤層の直上となる領域がばらついてしまったため、吸着面における温度差が大きくなり(図5の「吸着面均一性:不良」参照)、吸着面に吸着された半導体ウェハを均一に加熱または冷却できなかった。
【0056】
一方、実施例1〜11では、ベース(またはセラミック)に塗布されている接着剤層の一部が、溝に入り込んで溜まりを形成したため、接着層が溝の内側領域にある穴に流れ込むことはなかった(図5の「はみ出し:無」参照)。また、接着剤層の一部が溜まりを形成したことにより、穴の開口縁から接着剤層までの間隔が一定になり、吸着面において接着剤層の直上となる領域にばらつきが生じなくなったため、吸着面における温度差が小さくなり(図5の「吸着面均一性:良好」参照)、吸着面に吸着された半導体ウェハを均一に加熱または冷却することができた。特に、実施例2,3の結果から、溝の開口幅を1mm以上5mm以下とすれば、吸着面均一性が良好になることが証明された。また、実施例1,4の結果から、溝の深さを1mm以上5mm以下とすれば、吸着面均一性が良好になることが証明された。
【0057】
従って、本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0058】
(1)本実施形態の静電チャック1によれば、金属ベース30の第1面31に塗布されている接着剤層20の粘度が低下することにより、接着剤層20の流動性が高くなったとしても、接着剤層20の一部は、第2の縦穴49を包囲する溝90や第2のピン挿入穴82を包囲する溝91に入り込んで溜まり92を形成する。その結果、接着剤層20が溝90,91の内側領域に侵入しにくくなるため、接着剤層20の穴49,82への流れ込みを防止することができる。しかも、接着剤層20の一部が溝90,91に入り込むことにより、接着剤層20の接着範囲(即ち、吸着面11において接着剤層20の直上となる領域)が一定になるため、吸着面11の温度分布が静電チャック1ごとにばらつきにくくなる。その結果、吸着面11に載置された半導体ウェハ2を加熱または冷却する能力が、静電チャック1ごとにばらつきにくくなるため、吸着面11の均熱性の低下を防止することができ、静電チャック1の歩留まりが向上する。また、本実施形態の接着剤層20は、絶縁性を有するシリコーン系接着剤の硬化物からなる層である。このため、セラミック絶縁板10と金属ベース30との接合部分における絶縁抵抗が一定になり、穴49,82の近傍において絶縁抵抗が低下することがなくなるため、アーキングの発生を防止することができる。
【0059】
(2)本実施形態のセラミック絶縁板10は、セラミックグリーンシートの成形技術(即ち、セラミック層13〜18の成形技術)が確立されているアルミナを主成分とする材料からなるため、第1の縦穴47や第1のピン挿入穴81などを容易に形成することができる。また、本実施形態の金属ベース30は、微細加工が可能な金属材料(本実施形態ではアルミニウム)からなるため、穴49,82や溝90,91などを容易に形成することができる。また、金属材料は熱伝導性に優れているため、冷却水路71を流れる冷却水を用いてセラミック絶縁板10を効果的に冷却することができる。
【0060】
(3)本実施形態の接着剤層20は、熱伝導率が比較的低いシリコーン系接着剤の硬化物からなっている。これにより、セラミック絶縁板10と金属ベース30との間で熱が伝達されにくくなるため、冷却水路71を流れる冷却水によってセラミック絶縁板10が過度に冷却されることがない。即ち、セラミック絶縁板10を確実に冷却するためには、ヒータ電極層61の出力を抑える必要があるため、結果としてヒータ電極層61の直上となる領域と直上とはならない領域との温度差が小さくなる。従って、吸着面11に吸着された半導体ウェハ2をより均一に加熱または冷却することができる。
【0061】
なお、本実施形態を以下のように変更してもよい。
【0062】
・上記実施形態では、1つの穴(第2の縦穴49または第2のピン挿入穴82)が1つの溝(溝90または溝91)で包囲されていた。例えば図6〜図8に示されるように、隣接して配置された複数の穴を共通の1つの溝で包囲してもよい。詳述すると、図6,図7に示されるように、第2の縦穴249,349(第2の穴)と、第2の縦穴249,349に隣接し、第2の縦穴249,349よりも直径が小さい第2の縦穴250,350(第2の穴)とを、1つの溝190,191で包囲してもよい。特に、溝の形状を図7に示す溝191のような形状にすれば、第2の縦穴349の開口縁から溝191までの間隔や、第2の縦穴350の開口縁から溝191までの間隔を均一にしやすくなる。また、図8に示されるように、互いに直径が等しい3つの第2の縦穴449(第2の穴)を、1つの溝192で包囲してもよい。
【0063】
・上記実施形態の溝90,91は、穴49,82を1周のみ包囲していたが、2周以上包囲していてもよい。しかし、接着剤層20の接着範囲を大きくとるためには、溝90,91は、穴49,82を1周のみ包囲していることが好ましい。
【0064】
・上記実施形態の溝90,91の断面形状はV字状であったが、断面形状が他の形状となる溝であってもよい。例えば、断面形状が矩形状の溝193(図9参照)であってもよいし、断面形状が三角形状の溝194(図10参照)であってもよいし、断面形状がU字状の溝195(図11参照)であってもよい。
【0065】
なお、図10に示される溝194は、溝194の外側領域側に位置する内側面と第1面31とがなす角度(150°)が、溝194の内側領域側に位置する内側面と第1面31とがなす角度(90°)よりも大きくなっている。このため、溝194の外側領域に存在する接着剤層20が溝194に入り込みやすくなるとともに、一旦溝194内の空間に入り込んだ接着剤層20が溝194の内側領域に侵入しにくくなる。
【0066】
・上記実施形態の静電チャック1では、金属ベース30の第1面31のみに溝90,91が設けられていた。しかし、図12に示される静電チャック111のように、セラミック絶縁板10の接合面12のみに溝196が設けられていてもよい。なお、この場合、冷却水路71は、上壁面(第1面31側の面)が接合面12から5mm以下の深さに位置するように配置されていてもよい。また、接合面12及び第1面31の両方に溝が設けられていてもよい。なお、溝が接合面12及び第1面31の両方に設けられている場合、接着剤層20の一部が確実に溝内の空間に入り込むため、接着剤層20が溝の内側領域によりいっそう侵入しにくくなる。
【0067】
・上記実施形態の製造方法では、金属ベース30に対して、レーザー加工機を用いたレーザー加工を行うことにより、溝90,91などを形成していたが、ドリルなどを用いた切削加工によって溝90,91などを形成してもよい。しかし、切削加工を行うと、切削屑が発生するという欠点があるため、上記実施形態のようにレーザー加工を行うことがよい。
【0068】
・上記実施形態の静電チャック1では、セラミック絶縁板10に設けられた第1の縦穴47が直径1.0mmに設定され、金属ベース30に設けられた第2の縦穴49が直径1.0mmに設定されていた。即ち、第1の縦穴47及び第2の縦穴49は、直径が互いに等しく設定されていた。また上記実施形態の静電チャック1では、セラミック絶縁板10に設けられた第1のピン挿入穴81が直径2.0mmに設定され、金属ベース30に設けられた第2のピン挿入穴82が直径2.0mmに設定されていた。即ち、第1のピン挿入穴81及び第2のピン挿入穴82は、直径が互いに等しく設定されていた。
【0069】
しかし、第1の縦穴47及び第2の縦穴49は、直径が互いに異なっていてもよい。例えば図13に示される静電チャック121のように、第2の縦穴149(第2の穴)の直径を第1の縦穴147(第1の穴)の直径よりも大きくしてもよい。この場合、溝197は、連通しあう第1の縦穴147及び第2の縦穴149のうち大径のもの(第2の縦穴149)を包囲するように設けられる。同様に、第1のピン挿入穴81及び第2のピン挿入穴82も、直径が互いに異なっていてもよい。
【0070】
・上記実施形態のセラミック絶縁板10は、アルミナを主成分とする材料からなっていたが、例えばイットリアを主成分とする材料からなっていてもよい。なお、イットリアは、半導体の製造時に多用されるプラズマや腐食性ガスに対する耐食性が、アルミナよりも優れている。よって、セラミック絶縁板10をイットリアによって形成すれば、吸着面11の腐食をより確実に防止でき、吸着面11の平面度がよりいっそう低下しにくくなるため、静電チャックのさらなる長寿命化を図ることができる。
【0071】
・上記実施形態の静電チャック1では、半導体ウェハ2を被加工物としていたが、液晶パネルなどの他の部材を被加工物としてもよい。
【0072】
・上記実施形態の静電チャック1では、半導体ウェハ2を冷却するヘリウムガスが流れる縦穴47,49と、半導体ウェハ2を突き上げるリフトピン80を挿入するためのピン挿入穴81,82とが別々に設けられていた。しかし、縦穴47,49及びピン挿入穴81,82のいずれか一方を省略してもよい。具体的に言うと、ピン挿入穴81,82を省略するとともに、縦穴47,49に、ヘリウムガスを流す機能に加えて、リフトピン80を挿入する機能を持たせてもよい。また、縦穴47,49を省略するとともに、ピン挿入穴81,82に、リフトピン80を挿入する機能に加えて、ヘリウムガスを流す機能を持たせてもよい。
【0073】
・上記実施形態の静電チャック1では、半導体ウェハ2を冷却するヘリウムガスが流れる縦穴47,49と、半導体ウェハ2を突き上げるリフトピン80を挿入するためのピン挿入穴81,82とが、第1の穴及び第2の穴としての機能を有していた。しかし、吸着面11の温度を測定するための温度計が挿入される温度測定用孔(図示略)や、上記実施形態における第1の吸着側端子穴(図示略)、第2の吸着側端子穴(図示略)、第1のヒータ側端子穴(図示略)及び第2のヒータ側端子穴(図示略)が、第1の穴及び第2の穴としての機能を有していてもよい。
【0074】
・上記実施形態では、静電チャック1が半導体製造装置用部品として用いられていた。しかし、第1の穴及び第2の穴からの真空引きによって被加工物を第1主面に吸引保持する真空チャック、セラミック部材の内部に設けられた発熱体によって第1主面に載置された被加工物を加熱するセラミックヒータ、係止手段を用いて被加工物の外周部を機械的に保持するメカニカルチャックなどの他の部材を半導体製造装置用部品として用いてもよい。
【0075】
次に、前述した実施形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0076】
(1)被加工物が載置される第1主面及び第2主面を有する板状物であって少なくとも前記第2主面にて開口する第1の穴が設けられたセラミック部材と、前記セラミック部材を支持する支持面を有し前記第1の穴に連通する第2の穴が設けられたベース部材とを備え、前記第2主面及び前記支持面が接合材層を介して接合されている半導体製造装置用部品において、前記第2主面及び前記支持面のうちの少なくとも一方には、前記穴を包囲する位置に溝が設けられ、前記接合材層は前記溝の外側領域に存在し、前記溝内の空間には前記接合材層の一部が入り込んで溜まりを形成し、前記溝の断面形状は、V字状であり、前記溝の内側面と前記支持面とがなす角度は150°以下であることを特徴とする半導体製造装置用部品。
【0077】
(2)被加工物が載置される第1主面及び第2主面を有する板状物であって少なくとも前記第2主面にて開口する第1の穴が設けられたセラミック部材と、前記セラミック部材を支持する支持面を有し前記第1の穴に連通する第2の穴が設けられたベース部材とを備え、前記第2主面及び前記支持面が接合材層を介して接合されている半導体製造装置用部品において、前記第2主面及び前記支持面のうちの少なくとも一方には、前記穴を包囲する位置に溝が設けられ、前記接合材層は前記溝の外側領域に存在し、前記溝内の空間には前記接合材層の一部が入り込んで溜まりを形成し、前記溝の断面形状は、三角形状であり、前記溝の外側領域側に位置する内側面と前記支持面とがなす角度が、前記溝の内側領域側に位置する内側面と前記支持面とがなす角度よりも大きくなっていることを特徴とする半導体製造装置用部品。
【0078】
(3)被加工物が載置される第1主面及び第2主面を有する板状物であって少なくとも前記第2主面にて開口する第1の穴が設けられたセラミック部材と、前記セラミック部材を支持する支持面を有し前記第1の穴に連通する第2の穴が設けられたベース部材とを備え、前記第2主面及び前記支持面が接合材層を介して接合されている半導体製造装置用部品において、前記第2主面及び前記支持面のうちの少なくとも一方には、前記穴を包囲する位置に溝が設けられ、前記接合材層は前記溝の外側領域に存在し、前記溝内の空間には前記接合材層の一部が入り込んで溜まりを形成し、前記接合材層は、塗布時の粘度が500ポイズ以下であるシリコーン系接着剤の硬化物からなる層であり、前記接着剤は、110℃以上200℃以下で硬化するとともに、硬化温度よりも低い温度である80℃以上90℃以下で一旦軟化することを特徴とする半導体製造装置用部品。
【0079】
(4)被加工物が載置される第1主面及び第2主面を有する板状物であって少なくとも前記第2主面にて開口する複数の第1の穴が設けられたセラミック部材と、前記セラミック部材を支持する支持面を有し前記複数の第1の穴に連通する複数の第2の穴が設けられたベース部材とを備え、前記第2主面及び前記支持面が接合材層を介して接合されている半導体製造装置用部品において、前記第2主面及び前記支持面のうちの少なくとも一方には、連通しあう前記第1の穴及び前記第2の穴のうち大径のものを包囲する溝が設けられ、前記接合材層は前記溝の外側領域に存在し、前記接合材層が前記溝の内部空間に部分的に入り込んで溜まりを形成していることを特徴とする半導体製造装置用部品。
【符号の説明】
【0080】
1,111,121…半導体製造装置用部品としての静電チャック
2…被加工物としての半導体ウェハ
10…セラミック部材としてのセラミック絶縁板
11…第1主面としての吸着面
12…第2主面としての接合面
20…接合材層としての接着剤層
30…ベース部材としての金属ベース
31…支持面としての第1面
47,147…第1の穴としての第1の縦穴
49,149,249,250,349,350,449…第2の穴としての第2の縦穴
81…第1の穴としての第1のピン挿入穴
82…第2の穴としての第2のピン挿入穴
90,91,190,191,192,193,194,195,196,197…溝
92…溜まり
L1…溝の開口幅
L2…溝の深さ
L3…接合材層の厚さ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物が載置される第1主面及び第2主面を有する板状物であって少なくとも前記第2主面にて開口する第1の穴が設けられたセラミック部材と、前記セラミック部材を支持する支持面を有し前記第1の穴に連通する第2の穴が設けられたベース部材とを備え、前記第2主面及び前記支持面が接合材層を介して接合されている半導体製造装置用部品において、
前記第2主面及び前記支持面のうちの少なくとも一方には、前記穴を包囲する位置に溝が設けられ、前記接合材層は前記溝の外側領域に存在し、前記溝内の空間には前記接合材層の一部が入り込んで溜まりを形成している
ことを特徴とする半導体製造装置用部品。
【請求項2】
前記溝は、前記穴の開口縁から5mm以上10mm以下の間隔を隔てて形成されていることを特徴とする請求項1に記載の半導体製造装置用部品。
【請求項3】
前記溝は、前記穴の開口縁から5mm以上10mm以下の間隔を隔てるとともに、前記穴と同心円状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の半導体製造装置用部品。
【請求項4】
前記接合材層は、塗布時の粘度が500ポイズ以下である低粘度熱硬化性接着剤の硬化物からなる層であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の半導体製造装置用部品。
【請求項5】
前記接合材層は、塗布時の粘度が500ポイズ以下であるシリコーン系接着剤の硬化物からなる層であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の半導体製造装置用部品。
【請求項6】
前記溝の断面形状は、V字状であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の半導体製造装置用部品。
【請求項7】
前記溝の開口幅及び前記溝の深さは、前記接合材層の厚さよりも大きくなるように設定されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の半導体製造装置用部品。
【請求項8】
前記溝の開口幅は1mm以上5mm以下であり、前記溝の深さは1mm以上5mm以下であることを特徴とする請求項7に記載の半導体製造装置用部品。
【請求項9】
前記接合材層の厚さは250μm以上300μm以下であることを特徴とする請求項7または8に記載の半導体製造装置用部品。
【請求項10】
前記溝は前記支持面のみに設けられていることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の半導体製造装置用部品。
【請求項1】
被加工物が載置される第1主面及び第2主面を有する板状物であって少なくとも前記第2主面にて開口する第1の穴が設けられたセラミック部材と、前記セラミック部材を支持する支持面を有し前記第1の穴に連通する第2の穴が設けられたベース部材とを備え、前記第2主面及び前記支持面が接合材層を介して接合されている半導体製造装置用部品において、
前記第2主面及び前記支持面のうちの少なくとも一方には、前記穴を包囲する位置に溝が設けられ、前記接合材層は前記溝の外側領域に存在し、前記溝内の空間には前記接合材層の一部が入り込んで溜まりを形成している
ことを特徴とする半導体製造装置用部品。
【請求項2】
前記溝は、前記穴の開口縁から5mm以上10mm以下の間隔を隔てて形成されていることを特徴とする請求項1に記載の半導体製造装置用部品。
【請求項3】
前記溝は、前記穴の開口縁から5mm以上10mm以下の間隔を隔てるとともに、前記穴と同心円状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の半導体製造装置用部品。
【請求項4】
前記接合材層は、塗布時の粘度が500ポイズ以下である低粘度熱硬化性接着剤の硬化物からなる層であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の半導体製造装置用部品。
【請求項5】
前記接合材層は、塗布時の粘度が500ポイズ以下であるシリコーン系接着剤の硬化物からなる層であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の半導体製造装置用部品。
【請求項6】
前記溝の断面形状は、V字状であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の半導体製造装置用部品。
【請求項7】
前記溝の開口幅及び前記溝の深さは、前記接合材層の厚さよりも大きくなるように設定されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の半導体製造装置用部品。
【請求項8】
前記溝の開口幅は1mm以上5mm以下であり、前記溝の深さは1mm以上5mm以下であることを特徴とする請求項7に記載の半導体製造装置用部品。
【請求項9】
前記接合材層の厚さは250μm以上300μm以下であることを特徴とする請求項7または8に記載の半導体製造装置用部品。
【請求項10】
前記溝は前記支持面のみに設けられていることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の半導体製造装置用部品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
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【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−82405(P2011−82405A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−234760(P2009−234760)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】
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