説明

半導体集積回路

【課題】回路の誤動作を防止しつつ、所望のデータ処理をすることが可能な半導体集積回路を提供する。
【解決手段】半導体集積回路100は、電源電圧がしきい値以下である場合にクロック停止信号を出力し、電源電圧がしきい値より大きい場合にクロック作動信号を出力する電源電圧監視回路2と、クロック停止信号に応じて、外部から入力されたクロック信号の出力を停止し、クロック作動信号に応じて、クロック信号を出力するクロックゲーティング回路3と、電源電圧が供給され、クロックゲーティング回路3から出力されたクロック信号に同期して動作するプロセッサ4と、電源電圧監視回路2の出力信号に応じて、外部から入力されたデータを一時的に格納するデータバッファ5と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、外部から電圧を供給される半導体集積回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
LSI内の処理回路(プロセッサ)の動作周波数は、処理回路設計時に用いる幾つかのパラメータによって決定される。この動作周波数を低下させる主な原因として、低い動作保証下限電圧と、チップ内の電圧のばらつきとの2つが挙げられる。
【0003】
したがって、高性能な処理回路を設計する際には、動作保証下限電圧をできるだけ平均動作電圧に近づけ、さらにチップ内の電圧のばらつきの原因となるIR−Dropを減らすことが重要である。
【0004】
携帯端末向けのLSIでは、要求される処理能力は非常に大きい一方、低負荷時や待機時に許容される消費電力は非常に小さい。
【0005】
LSIの消費電流には、例えば、負荷の量に比例して消費されるスイッチング電流と、負荷の量にかかわらず消費されるリーク電流がある。低負荷時に、該リーク電流が問題となる。
【0006】
高い処理能力と低負荷時の低消費電力とを両立させるため、個別に電源遮断スイッチを有するマルチプロセッサアーキテクチャが有効である。
【0007】
既述のように、高性能な回路では、動作周波数を高く保つためにIR−Dropを小さく抑える必要がある。しかし、ピン・パッド間の配線の抵抗と電源遮断スイッチとがIR−Dropを増大させる。
【0008】
このIR−Dropの増大を防ぐためには、多くのピン・パッドを用意し、スイッチの大きさを大きくする必要がある。しかし、これらの対策は製造コストを増大させる。
【0009】
そこで、チップ内のプロセッサごとに電源回路を設けることが考えられる。これにより、ピンとパッドの間および電源遮断スイッチで生じるIR−Dropを考慮する必要がなくなる。
【0010】
ところが、チップ内に電源回路を設けた場合、供給電圧を安定させるためのキャパシタの容量を大きく取ることができない。このため、処理回路が動作し、使用する電流量が急激に増えた場合、この処理回路に供給される電圧が大きく下がってしまう。この供給される電圧が動作保証電圧以下になると、該処理回路が誤動作し得る。
【0011】
上述の処理回路が使用する電流量が急激に増える頻度は、それほど高くない。
【0012】
しかし、最悪のケースを想定すると動作保証下限電圧を高く設定できず、動作周波数を上げることができない。このため、処理回路が所望のデータ処理ができないという問題があった。
【0013】
ここで、従来技術には、発振回路から出力されるクロック信号により演算処理動作するシステム回路(処理回路)を備え、電源回路から該システム回路へ供給される電源電圧を検出するとともに該発振回路からのクロック信号の該システム回路への供給動作を制御する制御手段を設けたコンピュータがある。このコンピュータは、該電源電圧が低下したときに該クロック信号の該システム回路への供給を停止するものである(例えば、特許文献1参照。)。
【0014】
上記従来技術は、上記のような構成により、システム回路の誤動作を防止する。
【0015】
しかし、上記従来技術は、クロック信号の停止によりシステム回路が停止すると、該システムが停止した期間に外部からデータ等が入力されても、当該データを処理できない。
【特許文献1】特開2001−42977号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、回路の誤動作を防止しつつ、所望のデータ処理をすることが可能な半導体集積回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の一態様に係る実施例に従った半導体集積回路は、
電源電圧と予め設定したしきい値とを比較し、前記電源電圧が前記しきい値以下である場合にクロック停止信号を出力し、前記電源電圧が前記しきい値より大きい場合にクロック作動信号を出力する電源電圧監視回路と、
前記クロック停止信号に応じて、クロック信号の出力を停止し、前記クロック作動信号に応じて、前記クロック信号を出力するクロックゲーティング回路と、
前記電源電圧が供給され、前記クロックゲーティング回路から出力された前記クロック信号に同期して動作するプロセッサと、
前記プロセッサと一対一に対応して設けられ、前記電源電圧監視回路の出力信号に応じて、外部から入力されたデータを一時的に格納し、または、通過させて、前記データを前記プロセッサに出力するデータバッファと、を備え、
前記データバッファは、
前記電源電圧監視回路から出力された前記クロック停止信号に応じて、外部から入力された前記データを一時的に格納し、その後前記電源電圧監視回路から出力された前記クロック作動信号に応じて、格納された前記データを前記プロセッサに出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る半導体集積回路によれば、回路の誤動作を防止しつつ、所望のデータ処理をすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係る実施例について図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0020】
図1は、本発明の一態様である実施例1に係る半導体集積回路100の要部の構成を示す図である。
【0021】
図1に示すように、ICチップ半導体集積回路100は、内部電源回路1と、電源電圧監視回路2と、クロックゲーティング回路3と、プロセッサ4と、データバッファ5と、を備える。
【0022】
内部電源回路1は、プロセッサ4と一対一に対応して設けられている。この内部電源回路1は、外部の外部電源回路200からピン100aおよびパッド100bを介して供給された電圧を制御する。内部電源回路1は、この制御された電圧を電源電圧V1としてプロセッサ4に供給するようになっている。
【0023】
これにより、それぞれプロセッサ4に電源が割り当てられ、各プロセッサ4の電源遮断をIR−Dropなしに実現することができる。
【0024】
なお、内部電源回路1は、複数のプロセッサ4毎に電源電圧V1を供給するようにしてもよい。この場合、当該複数のプロセッサ4毎の電源遮断をIR−Dropなしに実現することができる。
【0025】
電源電圧監視回路2は、電源電圧V1と予め設定したしきい値とを比較し、電源電圧V1がしきい値以下である場合にクロック停止信号を出力するようになっている。また、電源電圧監視回路2は、電源電圧V1がしきい値より大きい場合にクロック作動信号を出力するようになっている。
【0026】
クロックゲーティング回路3は、該クロック停止信号に応じて、例えば、プロセッサ4の外部から入力されたクロック信号の出力を停止するようになっている。また、クロックゲーティング回路3は、該クロック作動信号に応じて、入力された外部クロック信号を該クロック信号として出力するようになっている。なお、外部クロック信号は、例えば、PLLにより生成される。
【0027】
プロセッサ4は、メインメモリ(図示せず)からデータバッファ5を介して入力されたデータを格納するキヤッシュメモリ4aと、該メインメモリに制御信号を出力して該データを出力させ、キャッシュメモリ4aに格納された該データを演算処理するCPU4bと、を有する。
【0028】
プロセッサ4は、電源電圧V1が供給され、クロックゲーティング回路3から出力された該クロック信号に同期して動作するようになっている。
【0029】
データバッファ5は、プロセッサと一対一に対応して設けられている。このデータバッファ5は、電源電圧監視回路2の出力信号に応じて、外部クロック信号に同期して、外部から入力されたデータを一時的に格納し、または、通過させて、該データをプロセッサ4に出力するようになっている。このデータバッファ5には、例えば、FIFO(First In First Out)バッファが選択される。
【0030】
また、データバッファ5は、少なくともプロセッサ4のキヤッシュライン分のデータを格納することができるようになっている。
【0031】
次に、以上のような構成を有する半導体集積回路100の動作について説明する。
【0032】
先ず、外部クロック信号がクロックゲーティング回路3を介してプロセッサ4に入力され、プロセッサ4が動作を開始する。
【0033】
このプロセッサ4の動作により電流が消費され、電源電圧V1がしきい値以下になると、電源電圧監視回路2がクロック停止信号を出力する。クロックゲーティング回路3は、このクロック停止信号に応じて、外部から入力されたクロック信号の出力を停止する。これにより、プロセッサ4の動作が停止する。一方、データバッファ5は、電源電圧監視回路2から出力されたクロック停止信号に応じて、外部から入力された該データを一時的に格納する。
【0034】
その後、電源電圧V1が該しきい値を越えると、電源電圧監視回路2がクロック作動信号を出力する。プロセッサ4は、このクロック作動信号に応じて、動作を再開する。一方、該クロック作動信号に応じて、データバッファ5は、外部クロック信号に同期して、格納された該データをプロセッサ4に出力する。
【0035】
このように、電源電圧V1に応じて、プロセッサ4およびデータバッファ5の動作が制御される。
【0036】
これにより、プロセッサ4の動作により消費電流が急激に増えた場合の電源電圧V1の低下を抑えることができる。したがって、電源電圧V1の低下によって生じるプロセッサ4の誤動作を防止することができる。
【0037】
さらに、一時的なプロセッサ4の停止時に半導体集積回路100に入力されたデータは、データバッファ5に格納されるので、所望のデータ処理をすることができる。
【0038】
ここで、例えば、一般的な演算処理回路では、クロック停止中に入力されるデータの量は決まっていないため、無限の大きさのバッファが必要となり現実的でない。しかし、プロセッサの場合、クロック信号停止中に外部から入力されるデータの量は、キャッシュライン分程度である。したがって、既述のように、データバッファ5の容量を現実的な大きさ(キャッシュライン分)に抑えることができる。
【0039】
また、プロセッサ4においては、キャッシュミスリフィル時にも急激に消費電流が増大する。このため、そのときに電源電圧V1が低下すると、クロックゲーティング回路3からクロック信号の出力が停止されてしまう可能性がある。プロセッサ4は、クロック信号停止中にバスからリフィルされているデータを受け取ることができないが、データバッファ5が一時的に該データを格納する。
【0040】
ここで、プロセッサに供給される電源電圧の変化について検討する。
【0041】
まず、比較例として、従来の半導体集積回路のプロセッサに供給される電源電圧について検討する。
【0042】
図2Aは、従来の半導体集積回路のプロセッサが停止状態から動作状態に遷移したときのクロック信号を示す図である。また、図2Bは、従来の半導体集積回路のプロセッサが停止状態から動作状態に遷移したときの供給電流および消費電流を示す図である。また、図2Cは、従来の半導体集積回路のプロセッサが停止状態から動作状態に遷移したときの電源電圧を示す図である。
【0043】
図2Aに示すように外部クロック信号が入力されるとプロセッサが動作を開始する。これにより、図2Bに示すように、プロセッサにおける消費電流が急峻に増加する。一方、外部電源回路のキャパシタの特性により、該外部電源回路から供給される供給電流は、徐々に増加する。
【0044】
したがって、図2Cに示すように、消費電流が供給電流を上回るときはキャパシタの電荷が減少し、電源電圧が低下する。一方、消費電流が供給電流を下回るときは、キャパシタの電荷が増加し、電源電圧が上昇する。
【0045】
このように、従来の半導体集積回路においては、プロセッサが動作状態に遷移したときに、電源電圧が、例えば、1.0Vから0.87V程度まで下がってしまう。
【0046】
次に、本実施例にかかる半導体集積回路のプロセッサに供給される電源電圧について検討する。
【0047】
図3Aは、本実施例にかかる半導体集積回路のプロセッサが停止状態から動作状態に遷移したときのクロック信号を示す図である。また、図3Bは、本実施例にかかる半導体集積回路のプロセッサが停止状態から動作状態に遷移したときの供給電流および消費電流を示す図である。また、図3Cは、本実施例にかかる半導体集積回路のプロセッサが停止状態から動作状態に遷移したときの電源電圧を示す図である。
【0048】
図3Aに示すように外部クロック信号が入力されるとプロセッサが動作を開始する。これにより、図3Bに示すように、プロセッサにおける消費電流が急峻に増加する。これに対し、外部電源回路のキャパシタの特性により、該外部電源回路から供給される供給電流は、徐々に増加する。ここで、図3Cに示すように電源電圧がしきい値(ここでは0.97V)以下になると、クロック信号の出力が停止され(図3A)、これによりプロセッサの動作が一時的に停止し消費電流が低下する(図3B)。その後、図3Cに示すように電源電圧が上昇し0.97Vを越えると、クロック信号の出力が再開され(図3A)、これによりプロセッサが動作し消費電流が上昇する(図3B)。以下同様の動作が繰り返される。
【0049】
このように、本実施例にかかる半導体集積回路においては、プロセッサが動作状態に遷移したときの電源電圧の低下が、0.96V程までに抑えられている。
【0050】
以上のように、本実施例に係る半導体集積回路によれば、回路の誤動作を防止しつつ、所望のデータ処理をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一態様である実施例1に係る半導体集積回路100の要部の構成を示す図である。
【図2】Aは、従来の半導体集積回路のプロセッサが停止状態から動作状態に遷移したときのクロック信号を示す図である。Bは、従来の半導体集積回路のプロセッサが停止状態から動作状態に遷移したときの供給電流および消費電流を示す図である。Cは、従来の半導体集積回路のプロセッサが停止状態から動作状態に遷移したときの電源電圧を示す図である。
【図3】Aは、本実施例にかかる半導体集積回路のプロセッサが停止状態から動作状態に遷移したときのクロック信号を示す図である。Bは、本実施例にかかる半導体集積回路のプロセッサが停止状態から動作状態に遷移したときの供給電流および消費電流を示す図である。Cは、本実施例にかかる半導体集積回路のプロセッサが停止状態から動作状態に遷移したときの電源電圧を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1 内部電源回路
2 電源電圧監視回路
3 クロックゲーティング回路
4 プロセッサ
4a キャッシュメモリ
4b CPU
5 データバッファ
100 半導体集積回路
100a ピン
100b パッド
200 外部電源回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源電圧と予め設定したしきい値とを比較し、前記電源電圧が前記しきい値以下である場合にクロック停止信号を出力し、前記電源電圧が前記しきい値より大きい場合にクロック作動信号を出力する電源電圧監視回路と、
前記クロック停止信号に応じて、クロック信号の出力を停止し、前記クロック作動信号に応じて、前記クロック信号を出力するクロックゲーティング回路と、
前記電源電圧が供給され、前記クロックゲーティング回路から出力された前記クロック信号に同期して動作するプロセッサと、
前記プロセッサと一対一に対応して設けられ、前記電源電圧監視回路の出力信号に応じて、外部から入力されたデータを一時的に格納し、または、通過させて、前記データを前記プロセッサに出力するデータバッファと、を備え、
前記データバッファは、
前記電源電圧監視回路から出力された前記クロック停止信号に応じて、外部から入力された前記データを一時的に格納し、その後前記電源電圧監視回路から出力された前記クロック作動信号に応じて、格納された前記データを前記プロセッサに出力する
ことを特徴とする半導体集積回路。
【請求項2】
外部から供給された電圧を制御し、前記電源電圧を前記プロセッサに供給するための内部電源回路をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の半導体集積回路。
【請求項3】
前記内部電源回路は、前記プロセッサと一対一に対応して設けられていることを特徴とする請求項2に記載の半導体集積回路。
【請求項4】
前記データバッファは、少なくとも前記プロセッサのキヤッシュライン分のデータを 格納することが可能であることを特徴とする請求項1ないし3の何れかに記載の半導体集積回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−217523(P2008−217523A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−55311(P2007−55311)
【出願日】平成19年3月6日(2007.3.6)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】