説明

半硬質ボンド磁石

【課題】常温、高温においても十分なトルクを得ることができる半硬質ボンド磁石を提供する。
【解決手段】半硬質ボンド磁石の半硬質磁性粉として、化学式:(Fe100-a-b-c-d-e−Ra−Cob−Bc−Tid−Nbe)但し、R:希土類元素、a:2.5〜4.0at%、b:0.1〜11.0at%、c:3.0〜12.0at%、d:0〜2.5at%(0at%を含む)、e:0〜2.0at%(0at%を含む)で示される組成になり、保磁力(iHc)が25.0〜160.0 kA/m、残留磁束密度(Br)が1.0T以上、キュリー温度が310℃以上の磁性粉を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、適度の保磁力と高い残留磁気を有し、かつ耐熱性にも優れる半硬質ボンド磁石に関するものである。
本発明の半硬質ボンド磁石は、常温でのトルクが高く、かつ高温でのトルク低下が小さいという特長があり、特に異形状対応可能なトルクリミッターやダンパー、ショックアブソーバー、テンショナー、ブレーキおよびアクセルペダル等に要求される非接触式のヒステリシス発生装置に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、トルクリミッターとして、例えば図1に示すように、内側に金属製のヒステリシス板1を配設した円筒状のケーシング2内に、或はケースをかねた半硬質磁粉・樹脂複合ボンド磁石の円筒状内に回転軸3を挿通した焼結磁石4を回転可能に装着した構造のものが、所謂、ラジアルギャップのトルクリミッターとして知られている。
併せて面対向のものも知られ、アキシャルギャップのトルクリミッターと称されている。
【0003】
しかしながら、上記の図1の構造になるトルクリミッターは、金属製のヒステリシス板が不可欠であり、部品点数や組立工数が多くなるため、コストアップを招くという問題があった。また、部品点数や組立工数が多くなると、寸法誤差が生じ易くなるため、ヒステリシス板と焼結磁石との間のクリアランスを大きくする必要があるが、クリアランスを大きくすると、ヒステリシストルクにバラツキを生じるばかりでなく、装置の大型化を余儀なくされるところに問題があった。
【0004】
上記の問題を解決するものとして、従来の金属製ヒステリシス板を配設した円筒状ケーシングに代えて、図2に示すように、円筒状の半硬質プラスチックマグネット5を用いる構造のものが提案された(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特開2000−243613号公報
【0005】
この特許文献1では、半硬質プラスチックマグネットとして、総重量に対して75〜95重量%の鋳造磁石粉体と、3〜20重量%の樹脂バインダーと、0.1〜5重量%の滑剤と、0.5〜3重量%のカップリング剤とからなり、保磁力(He)が100〜1100エルステッド、残留磁束密度(Br)が1000〜10000ガウスのものを推奨している。
【0006】
また、上記の鋳造磁石粉体に代えて、保磁力(He)が100〜1100エルステッドの酸化物磁性粉(フェライト粉末)を用いたヒステリシスボンド磁石も提案されている(例えば特許文献2)。
【特許文献2】特開2005−12047号公報
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示の半硬質プラスチックマグネットは、ヒステリシストルクの安定化および装置の小型化については目的が達成されたものの、この半硬質プラスチックマグネットは、磁性粉として、鋳造磁石を粉砕した粉体を使用するため、その鋳造磁石の粉砕のし難さからボンド磁石として良好な粒度分布を得ることが困難であった。
一方、特許文献2に開示の半硬質プラスチックマグネットはその残留磁束密度が十分とは言えず、トルクリミッター等の用途に使用した場合に十分なトルクが得難いため、その利用範囲は限定的であった。
【0008】
上記の問題を解決するものとして、発明者らは先に、特許文献3において、半硬質ボンド磁石用の磁性粉として、
「 化学式:Fe100-a-b-c-d−Ra−Bb−Tic−Nbd
但し、a:2.0〜3.5 at%、
b:6.0〜9.0 at%、
c:0.5〜1.5 at%、
d:0〜1.5 at%
で示される組成になり、保磁力(iHc)が8.0〜160.0 kA/m、残留磁束密度(Br)が 1.0〜1.5Tであることを特徴とする半硬質磁性粉。」
を開発した。
【特許文献3】特開2008−41916号公報
【0009】
その他、半硬質ボンド磁石ではないが、ヒステリシスカップリング装置等に用いて好適な半硬質磁性材料として、特許文献4において、
「(Fe1-mCom100-x-yxyz(Feは鉄、Coはコバルト、Bはボロン、RはY、La、Ce、Pr、NdおよびSmからなる群から選択された少なくとも1種の希土類、MはAl、Si、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、Hf、Ta、W、Pt、AuおよびPbからなる群から選択された少なくとも1種の元素)の組成式で表される半硬質磁性材料であって、
前記x、y、zが
7原子%≦x<15原子%、
0.5原子%≦y≦4原子%、
0.1原子%≦z≦7原子%、および0.001≦m≦0.5の関係を満足し、かつ構成相として、平均結晶粒径が100nm以下であるα−Fe微結晶を含んでいることを特徴とする半硬質磁性材料。」
が提案されている。
【特許文献4】特開2000−252107号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前掲特許文献3に開示の磁性粉を用いた半硬質ボンド磁石を使用することにより、トルクリミッター等の半硬質材料として利用した場合に、高いトルクを発現させることができるようになった。
しかしながら、この半硬質ボンド磁石は、高温でのトルクが極端に低下するところに問題を残していた。
【0011】
また、特許文献4に開示の半硬質磁性材料は、Brは1.4T以上と良好ではあるものの、iHcが50kA/m以下と制限されるため、これも大きなトルクを発生させることができないという欠点があった。
また、この半硬質磁性材料は、急冷凝固箔であることから、実際の使用に際しては所要厚みとするために数枚〜数十枚を積層して使用する必要が生じるが、数十枚の積層材とした場合例えばトルクリミッターとして使用した場合には、積層体の積層厚みのバラつきが、相対的に永久磁石との間のギャップを変動させ、その結果としてトルクが変動するという問題があった。
なお、接着剤で接着積層体の形にしてまとめれば上記の問題を解決できるものの、この場合には半硬質層の占積率が低下しトルクの低下をもたらすという問題が生じた。
【0012】
本発明は、上記の問題を有利に解決するもので、例えばトルクリミッターに用いた場合において、常温でのトルクに優れるのはいうまでもなく、高温でのトルク低下が極めて少なく、しかもギャップ変動のおそれがない半硬質ボンド磁石を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
さて、発明者らは、まず、半硬質ボンド磁石をトルクリミッター等の用途に使用した場合に、常温で十分なトルクを得ることができ、かつ高温におけるトルク低下を低減できる半硬質磁性粉の特性について検討した。
その結果、保磁力(iHc)が25.0〜160.0 kA/m、残留磁束密度(Br)が1.0T以上で、かつキュリー温度が310℃以上とする必要があることが判明した。
【0014】
そこで、次に、上記の特性が得られる磁石組成について検討を重ねた。
前記した鋳造磁石粉体(アルニコ磁石)や酸化物磁性粉(フェライト粉末)の他に、半硬質磁石の代表的なものとして鉄−クロム−コバルト磁石が知られているが、この磁石は剛性が高いため加工し難く、その厚みは加工できる厚みに限定されることから、磁石側からの磁束をもれなく利用することは困難なため、十分なトルクを得ることはできなかった。また、この磁石は、加工後に熱処理を必要とするが、その温度管理が難しいため、ばらつきが発生し易いだけでなく、エネルギーコストが高いという点にも問題を残していた。
【0015】
そこで、発明者らは、新たに、上記の特性を達成できる磁性粉を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、半硬質ボンド磁石の素材である磁性粉としては、鉄、希土類元素、ボロン、およびコバルトの4つの元素を基本構成成分とするものが有効であり、かかる磁性粉を適量のバインダー樹脂と混合したボンド磁石は、トルクリミッター等の半硬質材料として利用した場合に、極めて高いトルクを発現させることができ、しかも高温におけるトルク低下が少ないことの新規知見を得た。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
【0016】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.半硬質磁性粉と樹脂とを混合した半硬質ボンド磁石であって、それに使用される半硬質磁性粉が、
化学式:(Fe100-a-b-c-d-e−Ra−Cob−Bc−Tid−Nbe
但し、R:希土類元素、
a:2.5〜4.0at%、
b:0.1〜11.0at%、
c:3.0〜12.0at%、
d:0〜2.5at%(0at%を含む)、
e:0〜2.0at%(0at%を含む)
で示される組成になり、該半硬質磁粉の保磁力(iHc)が25.0〜160.0 kA/m、残留磁束密度(Br)が1.0T以上、キュリー温度が310℃以上であることを特徴とする半硬質ボンド磁石。
【0017】
2.前記半硬質磁粉の保磁力(iHc)が50.0〜150.0 kA/mであることを特徴とする上記1記載の半硬質ボンド磁石。
【0018】
3.前記半硬質磁粉のR(希土類元素)が、ネオジム、プラセオジウムまたはサマリウムあるいはそれらの混合体であること特徴とする上記1または2記載の半硬質ボンド磁石。
【0019】
4.前記半硬質磁性粉が、急冷処理により得たものであることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載の半硬質ボンド磁石。
【0020】
5.前記半硬質磁性粉の配合比率が50〜83体積%であることを特徴とする上記1〜4のいずれかに記載の半硬質ボンド磁石。
【0021】
6.前記半硬質ボンド磁石の配向が等方性であることを特徴とする上記1〜5のいずれかに記載の半硬質ボンド磁石。
【発明の効果】
【0022】
本発明の半硬質ボンド磁石は、固有保磁力が適切な領域にあり、併せて残留磁束密度が大きいので、大きなヒステリシストルクを得ることができる。しかも、キュリー温度が高いので、高温におけるトルク低下も少ない。
また、半硬質磁粉とバインダー樹脂を基本構成成分とするので、適切な成形方法により異形の最適な形状に調節できるため、ハウジングを兼用することができ、その結果、安価にトルクリミッター、ダンパー、ショックアブソーバー、テンショナー、ブレーキ、クラッチおよびアクセルペダル等のヒステリシス発生装置を提供することができる。
さらに、本発明の半硬質ボンド磁石は、所謂ボンド磁石なので、従来知られた圧延半硬質磁石(通常、〜0.7mm厚程度)や急冷凝固合金の熱処理半硬質箔(通常、10〜30μm厚)と違って、積層する必要がなく単味のままで所望厚みに成形することができるため、ギャップ変動のおそれがない。また、接着層による積層体中の半硬質箔占積率の低下も無く、また、異形状への加工が容易という特長を生かして、円筒を含めた複雑形状タイプの諸製品形状に好適に対応することができる。
加えて上記の応用として、本発明に従う半硬質ボンド磁石を利用すれば、従来材を使用した場合に比べて、高温度下で使用する際のトルクリミッターの大きさを極端に大きくすることなしに、使用に耐え得るヒステリシストルクを得ることができる。
例えば、同じトルクリミッター構成(内外径が同じ)で比較した場合、従来材(特許文献3)に比べて半硬質磁石及び永久磁石の長さを、使用温度にもよるが(10〜45%程度)短くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を具体的に説明する。
前述したとおり、トルクリミッター等のヒステリシス発生装置としては、適正な保磁力と高い残留磁気を有することが求められる。
さらに、本発明では、高温でのトルクの低下を極力防止することが求められる。
ここに、かかるトルクリミッターの特性を得るために必要な磁性粉として適正な保磁力としては、共に使用される軸側の永久磁石等の残留磁束密度にも依存するので、一概には言えないものの、一般に、保磁力が25.0 kA/m(300エルステッド)に満たないと、例えばトルクリミッター用に用いた場合に十分なヒステリシストルクが得られず、一方160.0 kA/m(2000エルステッド)を超えると、例えば、ヒステリシスボンド磁石とともに用いられる磁石の残留磁束密度が小さい場合に、コギングが生じる場合があり、スムーズなヒステリシストルクが得られないことがある。
従って、本発明では、半硬質ボンド磁石の素材である半硬質磁性粉の保磁力(iHc)は、25.0〜160.0 kA/mの範囲に限定した。より好ましくはiHc:50.0〜150.0 kA/mの範囲である。
【0024】
また、残留磁束密度(Br)が1.0Tに満たないと、アルニコや鉄−クロム−コバルト磁石などの既存の半硬質磁石と大差なく、十分なヒステリシストルクが得られないので、本発明では半硬質磁性粉としての残留磁束密度(Br)は1.0T以上に限定した。好ましくは1.2T以上であり、より好ましくは1.3T以上である。
【0025】
さらに、高温でのトルク低下を防止するには、キュリー温度を高くする必要がある。
例えば、半硬質ボンド磁石を、紙送り重送防止トルクリミッターの用途に使用する場合、回転数がこれまでの3000(回/rpm)程度までであれば、前掲特許文献3に開示した磁性粉で十分であったのであるが、最近では、生産効率の向上を目指して回転数を増大させさらに高速化しようという動きがある。
しかしながら、回転数が3000(回/rpm)を超える高速回転になると、これに使用される半硬質ボンド磁石の温度が上昇し、特に温度が180℃以上になると、トルクの大幅な低下が避けられなかった。
発明者らは、この高温におけるトルク低下を防止する手法について検討したところ、半硬質ボンド磁石に使用する磁性粉のキュリー温度を310℃以上にすれば良いことを突き止めた。
【0026】
そこで、本発明では、保磁力(iHc)が25.0〜160.0 kA/m、残留磁束密度(Br)が1.0T以上で、キュリー温度が310℃以上の特性を目標として、半硬質磁性粉の開発に取り組んだ結果、前述したとおり
半硬質ボンド磁石の磁性粉として、
化学式:(Fe100-a-b-c-d-e−Ra−Cob−Bc−Tid−Nbe
但し、R:希土類元素、
a:2.5〜4.0at%、
b:0.1〜11.0at%、
c:3.0〜12.0at%、
d:0〜2.5at%(0at%を含む)、
e:0〜2.0at%(0at%を含む)
で示される組成に到達したのである。
【0027】
ここに、希土類元素(R)の含有量が2.5at%に満たないと、残留磁束密度(Br)が1.0Tに届かないため所望のトルクが得られず、一方4.0at%を超えると、保磁力(iHc)が160.0 kA/mを超え、共に使用される軸側の磁石によってはコギングが発生したり、十分なトルクが得られないという不利が生じる。
かかる希土類元素としては、従来公知のものいずれもが使用できるが、中でもネオジムやプラセオジウム或はサマリウムは高い残留磁束密度(Br)を得る上で有利である。これらは、単独でまたは必要に応じ2種以上組み合わせて用いることができる。
【0028】
本発明では、適正量のコバルトを含有させることが重要である。というのは、コバルト(Co)の含有量が0.1at%に満たないとキュリー温度が低くなり、高温下でのトルクの低下が避けられず、一方11.0at%を超えると残留磁束密度が低下するという不利が生じるからである。
【0029】
図3に、Fe88.5-x−R3.5−Cox−B7−Ti1を基本組成する半硬質磁性粉に、コバルトを0〜12.0at%の範囲で含有させたときの、保磁力(iHc)、残留磁束密度(Br)およびキュリー温度(Tc)について調べた結果を示す。
同図に示したとおり、Co量が0.1at%未満ではキュリー温度が310℃に満たず、一方11.0at%を超えると残留磁束密度(Br)が1.0T未満になるので、本発明ではコバルトについてはその含有量を0.1〜11.0at%の範囲に限定した。より好ましくは2.0〜8.0at%の範囲である。
【0030】
また、ボロン(B)の含有量が3.0at%に満たないと保磁力の値が大きくなりすぎ、一方12.0at%を超えると保磁力が低下するという不利が生じるので、B含有量は3.0〜12.0at%の範囲に限定した。より好ましくは4.0〜9.0at%の範囲である。
【0031】
次に、チタン(Ti)は必ずしも必要ではないが、保磁力向上に役立つ点で有用であるので、必要に応じて添加することができる。しかしながら、Ti量が2.5at%を超えると保磁力が大きくなりすぎるという不利を招く。
【0032】
また、ニオブ(Nb)も、必ずしも必要ではないが、保磁力向上に役立つ点で有用であるので、必要に応じて添加することができる。しかしながら、Nb量が2.0 at%を超えると保磁力が増大するという不利が生じる。
【0033】
上記した好適組成の半硬質磁性粉を製造するには、溶湯を急冷して凝固させるいわゆる急冷凝固法を利用することが好ましい。また、かかる急冷凝固法としては、溶湯を、高速で回転するロール周面に供給することにより急冷して薄帯化する、単ロール法や双ロール法がとりわけ有利に適合する。
そして、上記のようにして得た急冷薄帯を粉砕して、半硬質磁性粉とするのである。
【0034】
ここに、半硬質磁性粉の平均粒径は、特に限定されるものではないが1〜100μm程度とするのが好適である。というのは、平均粒径が1μm 未満の場合は成形し難くなり、一方100μmを超えると成形表面の肌荒れや大粒子の形成面からの脱落が懸念されるからである。
【0035】
本発明の半硬質ボンド磁石における磁性粉の配合比率は、特に限定されるものではないが、ボンド磁石全体に対して50〜83体積%程度とすることが好ましい。
というのは、磁粉が50体積%に満たないと実用に耐える十分なトルクを得難く、一方83体積%を超えると例えば圧縮成形の場合機械的強度の大幅な低下を引き起こしたり、良好半硬質ボンド磁石をつくることができないからである。なお、成形法が射出成形の場合における磁性粉の好適配合比率は50〜75体積%である。ここで、磁粉が75体積%を超えると、加工性が劣悪となって成形が困難となり、良好な半硬質ボンド磁石をつくることができなくなる。
【0036】
また、本発明に用いられるバインダー樹脂としては、既に知られたものが使用でき、それらには、ポリアミド12、芳香環を含む芳香族ポリアミドなどのポリアミド系樹脂、ポリエチレンおよびポリプロピレンなどを単独または共重合したポリオレフィン系樹脂、シリコーン樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、塩素化ポリエチレン(CPE)樹脂、液晶樹脂、フェノール系樹脂、熱可塑ポリイミド(PI)樹脂、ポリエーテルケトン樹脂(PEK)、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルスルホン(PES)樹脂、ポリサルフォン(PSF)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂、液晶ポリマー(LCP)、アクリロニトリルブタジエンなどのゴム等を使用でき、これらを単独でまたは必要により2種以上混合して用いることができる。これらの中でも、PPS樹脂、PEK樹脂、PSF樹脂、PEEK樹脂、PTFE樹脂(フッ素系樹脂)、PBT樹脂、PI樹脂が高温での熱分解が起こり難くとりわけ好適である。
【0037】
さらに、本発明の半硬質ボンド磁石は、必要に応じて、滑剤およびカップリング剤を含有することができる。
滑剤としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、エチレンビスアミド(EBS)、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス等のワックス類等が挙げられ、これらは単独でまたは必要に応じ組み合わせて用いることができる。
【0038】
また、カップリング剤としては、シラン系カップリング剤およびチタネート系カップリング剤等が好適であり、これらのうちから選んだ1種または2種以上を磁性粉の種類やバインダー樹脂の種類に応じて適宜選択して使用することができる。
【0039】
これら滑剤およびカップリング剤の添加量は特に規定するものではないが、ボンド磁石全体に対して、滑剤:0.1〜5体積%およびカップリング剤:0.5〜3体積%程度とするのが好適である。
滑剤が0.1体積%未満では、金型からの離型が困難となる場合があり、生産性が低下し てコストアップを招いたり、離型時に成形品の表面がえぐり取られることがあり、この場合には該部分から機械的強度の低下およびヒステリシストルクの低下をもたらす場合がある。一方、5体積%を超えると成形品表面からのブリードを惹き起こしたり、機械的強度の低下をもたらす場合がある。
また、カップリング剤が0.5体積%未満では、加工時の流動性不良に起因した加工不良 が生じ、一方3体積%を超えると熱分解によるガス発生に起因したボイドの発生および機械強度の低下が懸念される。
【0040】
その他、本発明の半硬質ボンド磁石には、必要に応じて、通常使用される可塑剤、抗酸化剤、安定剤等を含有させても差し支えない。
【0041】
本発明の半硬質ボンド磁石は、上記の如き組成物を射出成形、押出成形および圧縮成形等により、円筒状、円盤状および板状等、所望の形状に適宜成形することができる。
【0042】
上記の如くして得られる本発明の半硬質ボンド磁石は、トルクリミッター、ダンパー、ショックアブソーバー、テンショナー、ブレーキ、クラッチおよびアクセルペダル等のヒステリシス発生装置を提供できるものとして有用である。
【0043】
なお、本発明の半硬質ボンド磁石と共にヒステリシス発生装置を構成する軸側の磁石としては、通常、永久磁石が用いられ、焼結磁石、ボンド磁石のいずれでもよい。しかしながら、焼結磁石は、寸法精度に劣るという問題がある。この点、ボンド磁石は上記のような問題がなく、また成形性や寸法精度に優れ、さらには割れや欠けが発生し難いという点でも有利である。但し、本発明の半硬質ボンド磁石の内、比較的高めのiHcを持つものを使用する場合には、ギャップ磁束密度を高くできるNdFeB系焼結磁石を選ぶことが適当である。
【0044】
このようなボンド磁石の磁性粉としては、フェライト系磁性粉をはじめとして、サマリウム−コバルト系磁性粉、ネオジム−鉄−ボロン系磁性粉、サマリウム−鉄−窒素系磁性粉等の希土類系磁性粉など、従来公知の異方化永久磁性粉いずれもが使用できるが、NdFeB或はサマリウム鉄窒素磁性粉などの希土類系磁性粉を用いたボンド磁石が好適である。これらは、単独でも2種以上複合して使用することもできる。
このときのバインダー樹脂としては、本発明の半硬質ボンド磁石と同じものを用いることができる。配合割合は磁性粉が50〜83体積%、バインダー樹脂が17〜50体積%程度とすることが好ましい。磁性粉が50体積%未満では十分な磁気特性が得られず、一方83体積%を超えると成形性の悪化を招く。
【0045】
なお、本発明に従う半硬質ボンド磁石をヒステリシス発生装置として使用する場合には、前掲図2に示したケースと半硬質磁性板を合わせて円筒状としてギャップを隔てて多極着磁した永久磁石と対向させて用いればよい。
【実施例1】
【0046】
半硬質磁性粉としては、表1に記号A〜J,X,Yで示す種々の組成になる溶湯を、急冷凝固法により薄帯化後、粉砕した後、650℃熱処理したもの(いずれも平均粒径は40μmとした)を用いた。これらの半硬質磁性粉を表2に具体名を示すバインダー樹脂と種々の割合で配合し、得られた磁石組成物を、射出成形により、円筒状(内径:16mm、外径:18mm、長さ:20mm)の半硬質ボンド磁石に成形した。なお、一部の磁石組成物中には、滑剤やカップリング剤をさらに配合した。また、一部の例については射出成形に代えて圧縮成形で上記形状のボンド磁石を成形した。
かくして得られた半硬質ボンド磁石を、図2に示したようなトルクリミッターに組み込み、そのヒステリシストルクを測定した。
なお、軸側の永久磁石としては、(BH)max が88 kJ/m3(45 MGOe)で、iHc が640 kA/m(8000エルステッド)のネオジム焼結磁石を用いた。また、着磁した磁極数は、図2(b)に示すように12とした。
【0047】
表1に、急冷凝固後の薄帯の保磁力(iHc)、残留磁束密度(Br)およびキュリー温度について調べた結果を併記する。
また、表2には、半硬質ボンド磁石の常温(25℃)、中温(125℃)および高温(180℃)における保磁力(iHc)および残留磁束密度(Br)、さらにはトルクリミッターとして使用したときの各温度におけるヒステリシストルクについて調査した結果を併記する。
なお、表2中において、No.1〜11は発明例、そしてNo.12が特許文献3に相当する従来例、No.13〜15が特許文献4に相当する従来例である。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
表2に示したとおり、トルクリミッターとして本発明に従う半硬質ボンド磁石を用いた場合はいずれも、常温におけるヒステリシストルクに優れるのはいうまでもなく、180℃という高温においてもトルク低下が小さいものを得ることができた。
従って、本発明に従う半硬質ボンド磁石を利用すれば、従来材を使用した場合に比べて、高温度下で使用する際のトルクリミッターの大きさを大きくすること無しに、十分に使用に耐え得るヒステリシストルクを得ることができる。
例えば、同じトルクリミッター構成(内外径が同じ)で比較した場合、従来材(特許文献3)に比べて半硬質磁石及び永久磁石の長さを、
25℃で 13%
125℃で 29%
180℃で 42%
短くすることができた。
【産業上の利用可能性】
【0051】
上述したとおり、本発明の半硬質ボンド磁石は、安価で、安全性および高温安定性に富み、高トルクのトルクリミッター、ダンパー、ショックアブソーバー、クラッチおよびアクセルペダル等のヒステリシス発生装置用として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】金属製のヒステリシス板を用いた従来のトルクリミッターを示す概略断面図である。
【図2】円筒状の半硬質プラスチックマグネットを用いたトルクリミッターを示す概略断面図である。
【図3】Fe88.5-x−R3.5−Cox−B7−Ti1 組成の半硬質磁性粉におけるコバルト含有量と、保磁力(iHc)、残留磁束密度(Br)およびキュリー温度(Tc)との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0053】
1 ヒステリシス板
2 ケーシング
3 回転軸
4 焼結磁石
5 半硬質プラスチックマグネット


【特許請求の範囲】
【請求項1】
半硬質磁性粉と樹脂とを混合した半硬質ボンド磁石であって、それに使用される半硬質磁性粉が、
化学式:(Fe100-a-b-c-d-e−Ra−Cob−Bc−Tid−Nbe
但し、R:希土類元素、
a:2.5〜4.0at%、
b:0.1〜11.0at%、
c:3.0〜12.0at%、
d:0〜2.5at%(0at%を含む)、
e:0〜2.0at%(0at%を含む)
で示される組成になり、該半硬質磁粉の保磁力(iHc)が25.0〜160.0 kA/m、残留磁束密度(Br)が1.0T以上、キュリー温度が310℃以上であることを特徴とする半硬質ボンド磁石。
【請求項2】
前記半硬質磁粉の保磁力(iHc)が50.0〜150.0 kA/mであることを特徴とする請求項1記載の半硬質ボンド磁石。
【請求項3】
前記半硬質磁粉のR(希土類元素)が、ネオジム、プラセオジウムまたはサマリウムあるいはそれらの混合体であること特徴とする請求項1または2記載の半硬質ボンド磁石。
【請求項4】
前記半硬質磁性粉が、急冷処理により得たものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の半硬質ボンド磁石。
【請求項5】
前記半硬質磁性粉の配合比率が50〜83体積%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の半硬質ボンド磁石。
【請求項6】
前記半硬質ボンド磁石の配向が等方性であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の半硬質ボンド磁石。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−56418(P2010−56418A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−221853(P2008−221853)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(801000027)学校法人明治大学 (161)
【出願人】(391029392)中川特殊鋼株式会社 (9)
【Fターム(参考)】