説明

単一分極化されたニオブ酸リチウム単結晶の製造方法

【課題】簡素な製造工程及び設備によって、単一分極化された高品質なニオブ酸リチウム単結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】垂直ブリッジマン法により単一分極化されたニオブ酸リチウム単結晶を製造する方法であって、育成炉10の内部空間11aにルツボ22を配置し、ルツボ22内に、ニオブ酸リチウムの単一分極化済みの種結晶a、及び原料bを収容し、育成炉10の温度制御により、育成炉10内にニオブ酸リチウムの融点以上となる高温部と該高温部よりも下方へ向かって徐々に温度が低くなり前記融点以下となる温度勾配部を形成し、前記高温部から前記温度勾配部へ向かってルツボ22を所定の速度で下降することで、原料bに対しルツボ外から電界を加えることなく、原料bを単結晶化するとともに単一分極化するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単一分極化されたニオブ酸リチウム単結晶の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
単一分極化されたニオブ酸リチウム単結晶は、電気光学効果、非線形光学効果、超音波電波、圧電効果等の特性に優れており、電気信号を光信号に変換する光変調器や、光信号を光路を変換する光スイッチ、特定の電磁波を選択したり増幅したりする表面弾性波デバイス等に利用される。
従来の製造方法では、引上げ単結晶育成法(チョクラルスキー法)によりニオブ酸リチウム単結晶を製造し、このニオブ酸リチウム単結晶に単一分極化処理を施している。
すなわち、先ず、引上げ単結晶育成法では、ニオブ酸リチウムの原料融液に種結晶を一旦浸漬した後、これを回転させながら引き上げ、原料融液中から種結晶後端に種結晶と同じ結晶性の結晶を析出成長させて、単結晶を製造する(特許文献1参照)。
次の単一分極化処理では、前記のようにして育成したニオブ酸リチウム単結晶をキュリー温度(1140℃)よりも高い温度まで加熱し、この加熱された単結晶に電界を加え(1.5V/cm程度)、電界を加えたままの前記単結晶をキュリー温度よりも低い温度まで冷却する(特許文献2参照)。
【0003】
なお、前記製法では、引上げ単結晶育成法と単一分極化処理の2工程が必要となる上、温度の加熱冷却の繰り返しが多く、製造コスト及び製造時間等の面で不利であることから、引上げ単結晶育成法を行っている最中に、キュリー温度よりも高温にある育成部分に電界をかける製造方法(電界印加引上げ法)も提案されている。
【0004】
しかしながら、前記従来の製造方法では、何れの場合も、電界を印加するための工程及び設備等が必要になる。その上、ニオブ酸リチウム単結晶がへき開性を有するため、分極処理前の加工や、分極処理中の温度変化等に起因して、結晶内に熱歪が生じ、結晶にクラックが発生しやすいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−221299号公報
【特許文献2】特開平10−330200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記従来事情に鑑みてなされたものであり、その課題とする処は、簡素な製造工程及び設備によって、単一分極化された高品質なニオブ酸リチウム単結晶を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための技術的手段は、垂直ブリッジマン法により単一分極化されたニオブ酸リチウム単結晶を製造する方法であって、育成炉の内部空間にルツボを配置し、前記ルツボ内に、ニオブ酸リチウムの種結晶及び原料を収容し、前記育成炉の温度制御により、前記育成炉内にニオブ酸リチウムの融点以上となる高温部と該高温部よりも下方へ向かって徐々に温度が低くなり前記融点以下となる温度勾配部を形成し、前記高温部から前記温度勾配部へ向かって前記ルツボを所定の速度で下降することで、前記原料に対しルツボ外から電界を加えることなく、前記原料を単結晶化するとともに単一分極化するようにしたことを特徴とする。
【0008】
すなわち、本願発明者は、鋭意研究の末、ニオブ酸リチウム単結晶の製造方法として垂直ブリッジマン法を適用することで、結晶成長過程及び結晶成長後に電界を加える工程を要することなく、単一分極化されたニオブ酸リチウム単結晶が得られることを知見し、本願発明を完成させた。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、以上説明したように構成されているので、以下に記載されるような作用効果を奏する。
本発明によれば、結晶成長過程及び結晶成長後に電界を加える必要がないため、従来用いていた電界を加えるための装置及び工程等を省くことができ、製造コストを低減することができる。しかも、引上げ単結晶育成法と比べ、抵抗加熱による溶融を行うこと、成長速度が遅いこと、温度勾配が緩いこと、融液の対流が殆どないこと等の特徴を有しており、これらに起因して、熱歪及びクラックの発生が軽減される。
よって、簡素な製造工程及び設備によって、単一分極化された高品質なニオブ酸リチウム単結晶を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る単一分極化されたニオブ酸リチウム単結晶の製造方法に用いる装置を示す断面図であり、(a)は結晶育成前の状態を示し、(b)は結晶育成後の状態を示す。また、同図中のグラフは、育成炉内の温度勾配を示す。
【図2】本発明により製造されたニオブ酸リチウム単結晶のウェハーにおける+面の写真であり、(a)は+面全体を示し、(b)は(a)の一部分を20倍に拡大した顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
図1は、本発明を実施するための結晶育成装置の一例を示す。
この結晶育成装置1は、中空円筒状の育成炉10と、該育成炉10内で昇降する昇降部20とから構成される。
【0013】
育成炉10は、中空円筒状の空間を確保する筒体11、筒体11の周りに上下方向へわたってコイル状に装着されたヒータ12、筒体11の上端開口部を開閉可能に閉鎖する蓋体13、筒体11内の内部空間11aに下方から気体(本実施の形態の一例によれば空気)を供給するノズル14等を備え、その内部空間11aには、昇降部20が昇降可能に挿入されている。
【0014】
昇降部20は、下方側の図示しない昇降装置によって昇降可能に支持された支持杆21と、支持杆21の上端に着脱可能に装着された有底筒状の白金製のルツボ22と、ルツボ22の上端開口部を開閉可能に閉鎖する蓋体24とからなる。
【0015】
次に、上記構成の結晶育成装置1を用いて、単一分極化されたニオブ酸リチウム単結晶を製造する手順について詳細に説明する。
【0016】
先ず、育成炉10内の内部空間11aに、ノズル14によって空気が供給される。
【0017】
そして、ルツボ22内の底部側には、種結晶aが収容され、同ルツボ22内の種結晶aよりも上部側には、ニオブ酸リチウムの原料bが収容される。
種結晶aは、単一分極化済みのニオブ酸リチウム単結晶であり、+面(図1によれば種結晶aの上面)で種付けされる。この種結晶aは、従来の製法により製作したものであってもよいし、予め本発明の製造方法により製作したものであってもよい。
【0018】
なお、当該製造方法により製作されるニオブ酸リチウム単結晶を非線形光学素子用に用いる場合には、耐光損傷性等を向上する観点から、ニオブ酸リチウムの原料に、酸化マグネシウムを添加するのが好ましい。この場合の添加量は、不定比組成のニオブ酸リチウム単結晶に対しては酸化マグネシウムを5mol%以上、定比組成のニオブ酸リチウム単結晶に対しては酸化マグネシウムを1.3mol%以上とされる。前記添加量の上限は、結晶性及び生産性を損ねないように適宜に定められる。
特に、不定比組成のニオブ酸リチウム単結晶の場合には、前記添加量を6〜7mol%の範囲内とするのが好ましい。
【0019】
次に、ヒータ12が温度制御されることにより、育成炉10内には、ニオブ酸リチウムの融点(1253℃)以上となる高温部(図1中、水平の破線よりも上側の領域)と、該高温部よりも下方へ向かって徐々に温度が低くなり前記融点以下となる温度勾配部(図1中、水平の破線よりも下側の領域)とが形成される。これにより、ルツボ22内の原料b及び種結晶aの一部が融解する。
【0020】
ここで、前記高温部は、前記融点よりも高い温度であればよいが、ルツボ22の破断等を生じたり生産性を損ねたり等することのないように、好ましくは、前記融点よりも高く、且つ(前記融点+100℃)よりも低い温度範囲となるように設定される。
【0021】
前記温度勾配部の温度勾配は、10〜30℃/cmの範囲内とされる。温度勾配を前記範囲の下限よりも小さくした場合には、結晶成長の駆動力が弱くなるので、成長速度が極端に遅くなり、セル成長してしまい単結晶化できない可能性がある。また、温度勾配を前記範囲の上限よりも大きくした場合には、特に結晶成長に問題を生じるわけでないが、現実的に温度制御が困難になること等から前記上限以下とするのが好ましい。
【0022】
次に、前記高温部から前記温度勾配部へ向かってルツボ22を所定の速度で下降する。すると、融点に相当する温度に到達した原料bの融液が、ルツボ22内で順次に固化する。固化した結晶は種結晶aと同じ方位を持った単結晶となる。すなわち、種結晶aを起点として、下方から単結晶が成長することになる。
【0023】
この工程で、ルツボ22の降下速度は、0.1〜1mm/hの範囲内とされる。この速度範囲の上限を超えた場合は、セル成長してしまい単結晶化できなくなるおそれがある。前記速度範囲の下限を超えた場合には、特に結晶成長に問題を生じるわけでないが、生産性を良好にする観点より前記下限以上とするのが好ましい。
【0024】
ルツボ22内の融液がすべて結晶化した後、固化した単結晶を室温まで冷却して、製造工程を終了する。前記製造中において原料bに対しルツボ22外から電界を加えることはない。また、製造後においても、固化した単結晶に対し電界を加えることはない。
【0025】
前記製造方法によって製造されたニオブ酸リチウム単結晶は、上面側が+、下面側が−となるように単一分極化された円柱状のインゴットになる。
なお、上記実施の形態によれば、+面(図1によれば種結晶aの上面)で種付けしたが、種結晶aを上下逆に配置し、種結晶aの−面で種付けすることも可能であり、この場合であっても、成長した単結晶は、上面側が+、下面側が−となるように単一分極化される。
【0026】
次に、ニオブ酸リチウム単結晶が単一分極化されたものか否かを判断する手法について説明する。
一般に、分極処理後の結晶インゴットが単一分極化されているか否かを判断する手法としては、エッチング処理面の状態を観察する方法が知られている(特開昭58−17245号公報及び特開平7−167843号公報参照)。
具体的に説明すれば、先ず、ニオブ酸リチウム単結晶のインゴットを薄くスライスして円盤状のウェハーに加工し、両面を研磨した後、その両研磨面にエッチング処理を施す。エッチング液には、例えば、50%のフッ化水素水溶液、あるいは、フッ化水素:硝酸:水=1:1:2の比率の溶液を用いる。
【0027】
前記エッチング処理の後、前記ウェハーの+面(製造中上側となる面)又は−面(製造中下側となる面)における凹凸の状態を顕微鏡観察する。凹凸が存在する場合は、単一分極化されていないものと判断し、凹凸が無くフラット面になっている場合は、単一分極化されていると判断する。
【0028】
なお、ニオブ酸リチウム単結晶が単一分極化されたものか否かを判断する他の手法としては、上記公報に記載されるように、インピーダンスメータを用いて結晶インゴットの共振点を測定し、この値から単一分極化状態にあるか否かを推定する方法や、単結晶内を伝わる超音波の音速測定により分極状態を検査する方法等とすることも可能である。
【0029】
上記製造方法により得られた単一分極化されたニオブ酸リチウム単結晶は、電気光学効果、非線形光学効果、超音波電波、圧電効果等の特性に優れており、従来同様に、光変調器や、光スイッチ、表面弾性波デバイス等に利用可能であるのは勿論のこと、特に、レーザー光の波長を変換するQPM(Quasi-Phase Matching:擬似位相整合)波長変換素子としても有効利用することができる。
すなわち、従来技術では、結晶品質が分極精度を左右し、品質を低下させていることが、QPM波長変換素子等への利用の妨げとなっていたが、本願発明によれば、単一分極化された高品質なニオブ酸リチウム単結晶を得ることができるため、QPM波長変換素子及び分極周期反転デバイスとしての応用が期待できる。
【実施例】
【0030】
以下、前記実施の形態の具体的な実施例について説明する。
【0031】
本実施例では、内径52mm、長さ215mmの白金製のルツボ22を用いる。
育成炉10内の高温部は、ヒータ12の制御により、1253〜1353℃の範囲内となるように設定される。また、温度勾配部の温度勾配は、育成炉10内にルツボ22等を配置して原料を充填しない状態で、12.7℃/cmとなるように設定される。
【0032】
先ず、ルツボ22内の底部に、予め単一分極化したニオブ酸リチウム単結晶の種結晶aを、+面が上向きになるように収容し、同ルツボ22内の種結晶aよりも上側にニオブ酸リチウムの原料bを収容する。
【0033】
次に、ヒータ12の制御により、育成炉10内の高温部を前記温度範囲内にするとともに、温度勾配部を前記温度勾配にして、原料b及び種結晶aの一部を融解する。
【0034】
次に、ルツボ22を0.5mm/hの速度で降下して、ルツボ22内の融液を結晶化した後、固化した単結晶を室温まで冷却して、製造工程を終了する。前記製造中において原料bに対しルツボ22外から電界を加えることはない。また、製造後においても、固化した単結晶に対し電界を加えることはない。
【0035】
上記製造手順により製造したニオブ酸リチウム単結晶のインゴットは、外径52mm、長さ80mmの略円筒状であった。このインゴットをスライスして、直径約50mm(約2インチ)、厚さ1mmの略円盤状のウェハーを製作し、該ウェハーの両面を研磨(鏡面処理)した後、その両研磨面にエッチング処理を施した。エッチング液には、フッ化水素:硝酸:水=1:1:2の比率の溶液を用いた。エッチング処理の際のドラフト内温度は約25℃、エッチング時間は1時間とした。
【0036】
前記エッチング処理後、前記ウェハーの+面(製造中上側になる面)を顕微鏡観察したところ、図2(b)に一部の拡大写真を示すように、前記+面のほぼ全面について、凹凸の無いフラットな面であることを確認した。つまり、本実施例として製造されたニオブ酸リチウム単結晶は、単一分極化されているといえる。
なお、図2中、微小な黒い斑点は、異物(インクリュージョン)と考えられる。
【符号の説明】
【0037】
1:結晶育成装置
10:育成炉
11:筒体
12:ヒータ
20:昇降部
22:ルツボ
11a:内部空間
a:種結晶
b:原料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直ブリッジマン法により単一分極化されたニオブ酸リチウム単結晶を製造する方法であって、
育成炉の内部空間にルツボを配置し、前記ルツボ内に、ニオブ酸リチウムの種結晶及び原料を収容し、前記育成炉の温度制御により、前記育成炉内にニオブ酸リチウムの融点以上となる高温部と該高温部よりも下方へ向かって徐々に温度が低くなり前記融点以下となる温度勾配部を形成し、前記高温部から前記温度勾配部へ向かって前記ルツボを所定の速度で下降することで、前記原料に対しルツボ外から電界を加えることなく、前記原料を単結晶化するとともに単一分極化するようにしたことを特徴とする、単一分極化されたニオブ酸リチウム単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記種結晶が、予め単一分極化されていることを特徴とする請求項1記載の単一分極化されたニオブ酸リチウム単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記温度勾配部の温度勾配を10〜30℃/cmの範囲内としたことを特徴とする請求項1又は2記載の単一分極化されたニオブ酸リチウム単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記ルツボの降下速度を0.1〜1mm/hの範囲内としたことを特徴とする請求項1乃至3何れか1項記載の単一分極化されたニオブ酸リチウム単結晶の製造方法。
【請求項5】
前記ニオブ酸リチウムの原料に、酸化マグネシウムを添加するようにしたことを特徴とする請求項1乃至4何れか1項記載の単一分極化されたニオブ酸リチウム単結晶の製造方法。
【請求項6】
QPM波長変換素子用の単一分極化されたニオブ酸リチウム単結晶を製造することを特徴とする請求項1乃至5何れか1項記載の単一分極化されたニオブ酸リチウム単結晶の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−10656(P2013−10656A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143570(P2011−143570)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(390021186)株式会社秩父富士 (54)
【Fターム(参考)】