説明

単結晶育成装置

【課題】大径化の要求や、消費電力の低減の要求に十分に対応しながら、クラック等のない、良好な単結晶を育成することができる単結晶育成装置を提供する。
【解決手段】育成する単結晶13の原料からなる原料棒2の、軸方向の、一定長の領域を、誘導加熱によって溶融させるための誘導コイル6を、前記単結晶13の原料の融点M0に対して、式(1):
0<M1 (1)
を満足する融点M1を有し、かつ抵抗率(20℃)が15μΩ・cm以下の材料によって形成した単結晶育成装置1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フローティングゾーン(FZ)法によって単結晶を育成するための、単結晶育成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属や半導体等の単結晶を、所定の大きさに育成するための単結晶育成方法として、いわゆるフローティングゾーン法が知られている。フローティングゾーン法は、特に、高い純度が要求される単結晶を育成する場合や、育成する原料の融点が高いため、前記原料の融液と反応しない材料からなる適当な坩堝が存在しない場合等に、広く採用される。図13は、フローティングゾーン法を実施するために用いる従来の、単結晶育成装置の一例を示す断面図である。
【0003】
図13を参照して、この例の単結晶育成装置1は、育成する単結晶13の原料からなる原料棒2を、前記原料棒2の軸方向を鉛直方向(図において上下方向)に向けた状態で保持するための上ホルダ3と、原料棒2の下端に当接されて、結晶成長の開始点として機能する種結晶4を保持するための下ホルダ5と、略環状に形成され、前記上ホルダ3によって保持される原料棒2と同軸に配設された状態で、交流電圧が印加されることによって、誘導磁場を生じて、前記原料棒2の、軸方向の、一定長の領域にジュール熱を発生させて、いわゆる誘導加熱によって溶融させるための誘導コイル6と、前記各部材を内部に収容するための耐圧容器7とを備えている。
【0004】
また、上ホルダ3および下ホルダ5は、それぞれ、耐圧容器7外に配設された駆動装置8、9から、耐圧容器7の気密を維持した状態で、前記耐圧容器7内に突設され、駆動装置8、9によって個別に駆動されて、原料棒2の軸を中心として回転しながら、前記原料棒2の軸方向に上下動する駆動軸10、11の先端に接続されている。
【0005】
前記各部を備えた、図の例の単結晶育成装置1を用いて、単結晶13を育成するためには、まず、原料棒2を、上ホルダ3に保持させると共に、種結晶4を、原料棒2の下端から離間させて、下ホルダ5に保持させた状態で、耐圧容器7を密閉し、内部の空気を除去すると共に、数気圧の不活性ガス雰囲気とする。
【0006】
次に、原料棒2の下端を、上方から、誘導コイル6に近づけた状態で、駆動装置8、9を駆動させて、前記原料棒2と種結晶4とを、それぞれ、原料棒2の軸を中心として、一定速度で、図中に実線の矢印で示すように、同方向に回転させながら、誘導コイル6に交流電圧を印加して、原料棒2の下端を、誘導加熱によって、原料の融点以上の温度に加熱して溶融させる。
【0007】
次に、駆動装置9を駆動させて、種結晶4を上方向に移動させて、原料棒2の下端と接触させた後、原料棒2と種結晶4の回転を続けながら、前記両者を、それぞれ個別に、任意の速度で、図中に実線の矢印で示すように、下方向に移動させる。そうすると、原料棒2に、前記原料棒2を形成する原料の融液からなり、原料棒2の軸方向に一定長を有する溶融帯12が形成されると共に、前記溶融帯12が、原料棒2の、下方向への移動に伴って、原料棒2の上方へ移動することで、溶融帯12より下側に、前記溶融帯12が通過した後の温度降下による融液の凝固によって、種結晶4の結晶とマッチングした単結晶13が成長し、育成される。
【0008】
前記、従来の単結晶育成装置1においては、誘導コイル6として、熱伝導性に優れた銅等の金属材料からなり、溶融帯12や単結晶13からの熱によって溶融するのを防止するため、内部に、水冷管等の冷却機構を有するものを用いるのが一般的である。また、耐圧容器7としては、高真空用ステンレス鋼等からなり、やはり、溶融帯12等からの熱によって溶融するのを防止するために、水冷管等の冷却機構を有するものを用いるのが一般的である。
【0009】
ところが、前記冷却機構によって冷却された誘導コイル6や耐圧容器7は、溶融帯12や、その直下の単結晶13と比較すると、著しく低温であることから、前記溶融帯12や単結晶13が、誘導コイル6や耐圧容器7との間の輻射伝熱によって、先に説明した、単結晶13を育成する工程の間中、強く冷却され続けることになる。
【0010】
そのため、前記工程の初期に、誘導コイル6に交流電圧を印加して、誘導加熱によって、原料棒2を溶融させて、溶融帯12を形成するために、多大な消費電力を要するという問題がある。また、単結晶13の表面が、その周囲から強く冷却されることによって、前記単結晶13の径方向および軸方向に、大きな温度勾配と、それに伴う、高い熱応力とを生じる結果、単結晶13にクラックが発生しやすいという問題もある。クラックが発生した単結晶13は、一般に、クラックのない領域においても、多量の結晶粒界や転位が見られる場合が多いため、たとえ、前記クラックのない領域を、選択的に切り出したとしても、それを、製品として使用することはできない。
【0011】
そこで、図13中に破線で示すように、誘導コイル6より、原料棒2の移動方向の前方側、つまり、誘導コイル6の下側に、単結晶13を囲むように、略環状の補助誘導コイル14を設けることが行われる(例えば、特許文献1参照)。補助誘導コイル14を設けると、前記補助誘導コイル14によって形成される誘導磁場の作用によって、育成中の単結晶13の表面に、ジュール熱を生じさせることができるため、前記単結晶13の、径方向および軸方向の温度勾配を低減して、クラックが発生するのを抑制することができる。
【0012】
また、図13中に二点鎖線で示すように、誘導コイル6の下側に、単結晶13を囲むように、略環状の保温体15を設けることも行われる。保温体15を設けると、前記保温体15によって囲まれた単結晶13と、耐圧容器7との間の輻射伝熱を遮断して、単結晶13を保温することができるため、前記単結晶13内の温度勾配を低減して、クラックが発生するのを抑制することができる。
【特許文献1】特公平6−44512号公報(請求項1、第2欄第4行〜同欄第8行、第3欄第39行〜第4欄第9行、第3図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
先に説明した、補助誘導コイルや保温体を設ける構成は、育成する単結晶の径が、さほど大きくない場合には、有効である。しかし、近年の、更なる、消費電力の低減の要求や、育成する単結晶の、大径化の要求に、十分に対応できなくなりつつあるのが現状である。
【0014】
例えば、補助誘導コイルを設けると、単結晶の温度勾配を低減することはできるものの、溶融帯の温度降下による融液の凝固と、それによる単結晶の生成とが遅れることにより、前記溶融帯の、単結晶との界面が、下方側へ移動することになるため、前記補助誘導コイルを設けない場合に比べて、溶融帯の、原料棒の軸方向における長さが長くなる傾向がある。
【0015】
そして、溶融帯が、同方向に長くなるほど、前記溶融帯の、単結晶との界面の、外周付近での静水圧が増加することになるため、特に、育成する単結晶の径が大きいほど、溶融帯が、前記単結晶の周方向に不規則な垂れを生じて、均一な単結晶を育成できなくなるという不具合を生じるおそれが増大する。
【0016】
一方、保温体を設けると、単結晶から、耐圧容器への輻射伝熱を抑制することはできるものの、低温に維持された誘導コイルへの輻射伝熱は抑制できないため、特に、育成する単結晶の径が大きいほど、保温効果が不十分となって、クラックが発生するのを抑制する効果が十分に得られなくなるおそれがある。また、前記誘導コイルへの輻射伝熱があることから、特に、育成する単結晶の径が大きいほど、消費電力を低減する要求に、十分に対応できないという問題もある。
【0017】
本発明の目的は、大径化の要求や、消費電力の低減の要求に十分に対応しながら、クラック等のない、良好な単結晶を育成することができる単結晶育成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
請求項1記載の発明は、略環状に形成され、育成する単結晶の原料からなる原料棒と同軸に配設されて、前記原料棒の、軸方向の、一定長の領域を、誘導加熱によって溶融させるための誘導コイルを備え、前記誘導コイルと原料棒とを、前記原料棒の軸方向に、相対的に移動させることで、前記溶融によって形成される溶融帯を、前記軸方向に移動させて、溶融帯が通過した後の凝固によって単結晶を成長させ、育成するための単結晶育成装置であって、前記誘導コイルが、育成する単結晶の原料の融点M0に対して、式(1):
0<M1 (1)
を満足する融点M1を有し、かつ抵抗率(20℃)が15μΩ・cm以下の材料によって形成されていることを特徴とする単結晶育成装置である。
【0019】
請求項1記載の発明においては、誘導コイルが、フローティングゾーン法によって単結晶を成長させる原料の溶融温度よりも高い、高融点の材料によって形成されているため、冷却しなくても、前記金属や半導体を誘導加熱によって溶融させて形成される溶融帯や、前記溶融帯から育成される単結晶等からの熱によって溶融したり軟化したりして変形するおそれがない。
【0020】
そのため、前記誘導コイルを、フローティングゾーン法によって、単結晶を育成する工程に使用する際に、冷却機構によって冷却する必要がなくなり、冷却せずに用いることで、前記誘導コイルに、溶融帯や単結晶からの輻射伝熱によって、前記溶融帯等と略同等の温度変化を経させることができるため、誘導コイルと、溶融帯や単結晶との間の温度差を、前記工程の間中、できるだけ、小さい範囲に維持することができる。
【0021】
したがって、請求項1記載の発明によれば、育成される単結晶の、径方向および軸方向の温度勾配を、これまでよりも低減して、前記温度勾配によって生じる熱応力を減少させることができるため、たとえ、育成する単結晶の径が、これまでに比べて大径化された場合でも、前記単結晶にクラックが発生するのを、確実に防止することができる。
【0022】
また、前記工程の初期に、誘導コイルに交流電圧を印加して、誘導加熱によって、原料棒を溶融させて、溶融帯を形成するために要する消費電力を、これまでより低減することができる上、
(1) 溶融帯や単結晶から、誘導コイルへの輻射伝熱を小さくできること、および
(2) 誘導コイルを形成する前記材料が、20℃での抵抗率が15μΩ・cm以下という、良好な導電性を有しており、溶融帯等に近い温度まで加熱されても、前記抵抗率が大幅に上昇しないこと、
から、溶融帯を、原料棒の軸方向に、一定速度で移動させて単結晶を成長させる際に、前記溶融帯の温度を一定の範囲に維持するために、誘導コイルに印加する交流電圧の消費電力が、過剰に増大するのを防止することもできる。
【0023】
したがって、請求項1記載の発明によれば、たとえ、育成する単結晶の径が、これまでに比べて大径化された場合でも、フローティングゾーン法によって、単結晶を育成する工程を通して、誘導コイルに印加する交流電圧の消費電力の総量を、これまでより低減することもできる。
【0024】
なお、前記融点および抵抗率を満足する、誘導コイルを形成する材料としては、前記材料の入手のしやすさや、前記材料から、所定の形状を有する誘導コイルを形成する際の加工のしやすさ等を考慮すると、請求項2に記載したように、タングステン、モリブデン、ホウ化ジルコニウム、およびホウ化ハフニウムからなる群より選ばれた、少なくとも1種の材料が好ましい。
【0025】
また、前記誘導コイルの内部に、請求項3に記載したように、閉空間を設けると、前記誘導コイルに交流電圧を印加した際に、その周囲に形成される誘導磁場を構成する磁力線の磁束密度を、より効果的に、溶融帯の中心部に集中させることができる。そのため、誘導加熱によって形成される溶融帯の、原料棒の軸方向の長さを、極力、短くして、前記溶融帯の、単結晶との界面の、外周付近での静水圧を小さくすることができ、たとえ、育成する単結晶の径が、これまでに比べて大径化された場合でも、静水圧の上昇を、極力、抑制して、溶融帯が、前記単結晶の周方向に不規則な垂れを生じて、均一な単結晶を育成できなくなるという不具合が生じるのを、確実に防止することができる。
【0026】
また、誘導コイルの、原料棒の移動方向の前方側に、前記誘導コイルと、前記移動方向に一定の間隔を隔てて、請求項4に記載したように、冷却機構を備えた略環状の補助誘導コイルを配設した場合には、前記補助誘導コイルにも交流電圧を印加することで、単結晶を、補助的に加熱することができる。そのため、前記単結晶の、径方向および軸方向の温度勾配を、より一層、低減して、温度勾配によって生じる熱応力を減少させることができ、たとえ、育成する単結晶の径が、これまでに比べて大径化された場合でも、単結晶にクラックが発生するのを、より一層、確実に防止することができる。
【0027】
また、先に説明したように、単結晶を、補助誘導コイルによって補助的に加熱しているにもかかわらず、前記補助誘導コイルを、冷却機構によって冷却することで、溶融帯からの輻射伝熱により、前記溶融帯の、原料棒の軸方向における長さが長くなるのを抑制して、前記溶融帯の、単結晶との界面の、外周付近での静水圧が増加するのを防止することができる。
【0028】
しかも、誘導コイルの、原料棒の移動方向の前方側の、溶融帯と単結晶との界面近傍に配設された補助誘導コイルに交流電圧を印加して発生される誘導磁場を構成する磁力線は、前記界面の近傍の領域に及ぼすローレンツ力の方向を、単結晶の中心方向に向けて、溶融帯を、前記単結晶の周方向に不規則な垂れを生じないように、支持する働きをする。そのため、たとえ、育成する単結晶の径が、これまでに比べて大径化された場合でも、溶融帯が、前記不規則な垂れを生じて、均一な単結晶を育成できなくなるという不具合を生じるのを、確実に防止することができる。
【0029】
さらに、誘導コイルまたは補助誘導コイルの、原料棒の移動方向の前方側に、前記誘導コイルまたは補助誘導コイルと、前記移動方向に一定の間隔を隔てて、請求項5に記載したように、略環状の保温体を配設した場合には、前記保温体によって、単結晶と、冷却された耐圧容器との間の輻射伝熱を遮断して、単結晶を保温することができる。そのため、前記単結晶の、径方向および軸方向の温度勾配を、より一層、低減して、温度勾配によって生じる熱応力を減少させることができ、たとえ、育成する単結晶の径が、これまでに比べて大径化された場合でも、単結晶にクラックが発生するのを、より一層、確実に防止することができる。
【0030】
その上、前記保温体を、冷却しない誘導コイルと組み合わせることで、単結晶を育成する工程の初期に、誘導コイルに交流電圧を印加して、溶融帯を形成するために要する消費電力を低減できる上、溶融帯を、原料棒の軸方向に、一定速度で移動させて単結晶を成長させる際に、誘導コイルに印加する交流電圧の消費電力が、過剰に増大するのを防止することもできる。そのため、たとえ、育成する単結晶の径が、これまでに比べて大径化された場合でも、フローティングゾーン法によって、単結晶を育成する工程を通して、誘導コイルに印加する交流電圧の消費電力の総量を、さらに低減することもできる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、大径化の要求や、消費電力の低減の要求に十分に対応しながら、クラック等のない、良好な単結晶を育成することができる単結晶育成装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
図1は、本発明の単結晶育成装置1の、実施の形態の一例を示す断面図である。図2は、前記単結晶育成装置1の要部である、誘導コイル6および補助誘導コイル14の部分を拡大した断面図である。
【0033】
両図を参照して、この例の単結晶育成装置1は、育成する単結晶13の原料からなる原料棒2を、前記原料棒2の軸方向を鉛直方向(図において上下方向)に向けた状態で保持するための上ホルダ3と、原料棒2の下端に当接されて、結晶成長の開始点として機能する種結晶4を保持するための下ホルダ5と、略環状に形成され、前記上ホルダ3によって保持される原料棒2と同軸に配設された状態で、交流電圧が印加されることによって、誘導磁場を生じて、前記原料棒2の、軸方向の、一定長の領域に、ジュール熱を発生させて、いわゆる誘導加熱によって溶融させるための誘導コイル6と、前記各部材を内部に収容するための耐圧容器7とを備えている。
【0034】
また、図1の例の単結晶育成装置1は、耐圧容器7内の、誘導コイル6より、原料棒2の移動方向の前方側、すなわち下側に、前記誘導コイル6と一定の間隔を隔てて配設され、交流電圧が印加されることによって、誘導コイル6と共に、誘導磁場を生じるための、略環状の補助誘導コイル14と、前記補助誘導コイル14の下側に、一定の間隔を隔てて配設された、略環状の保温体15も備えている。
【0035】
上ホルダ3および下ホルダ5は、それぞれ、耐圧容器7外に配設された駆動装置8、9から、耐圧容器7の気密を維持した状態で、前記耐圧容器7内に突設され、駆動装置8、9によって個別に駆動されて、原料棒2の軸を中心として回転しながら、前記原料棒2の軸方向に上下動する駆動軸10、11の先端に接続されている。
【0036】
前記各部を備えた、図の例の単結晶育成装置1を用いて、単結晶13を育成するためには、まず、原料棒2を、上ホルダ3に保持させると共に、種結晶4を、原料棒2の下端から離間させて、下ホルダ5に保持させた状態で、耐圧容器7を密閉し、内部の空気を除去すると共に、数気圧の不活性ガス雰囲気とする。
【0037】
次に、原料棒2の下端を、上方から、誘導コイル6に近づけた状態で、駆動装置8、9を駆動させて、前記原料棒2と種結晶4とを、それぞれ、原料棒2の軸を中心として、一定速度で、図中に実線の矢印で示すように、同方向に回転させながら、誘導コイル6、および補助誘導コイル14に交流電圧を印加して、原料棒2の下端を、誘導加熱によって、前記原料棒2を形成する原料の融点以上の温度に加熱して溶融させる。
【0038】
次に、駆動装置9を駆動させて、種結晶4を上方向に移動させて、原料棒2の下端と接触させた後、原料棒2と種結晶4の回転を続けながら、前記両者を、それぞれ個別に、任意の速度で、図中に実線の矢印で示すように、下方向に移動させる。そうすると、原料棒2に、前記原料の融液からなり、原料棒2の軸方向に一定長を有する溶融帯12が形成される。
【0039】
それと共に、前記溶融帯12が、原料棒2の、下方向への移動に伴って、前記原料棒2の上方へ移動することで、溶融帯12より下側に、溶融帯12が通過した後の温度降下による融液の凝固によって、種結晶4の結晶とマッチングした単結晶13が成長し、補助誘導コイル14によって補助的に誘導加熱されると共に、保温体15によって保温されながら、徐々に育成される。この際、原料棒2の直径および下降速度と、種結晶4の下降速度とを調整することで、所定の直径を有する単結晶13を育成することができる。
【0040】
図3は、前記単結晶育成装置1に用いる誘導コイル6の平面図、図4は、図3のIV−IV線断面図、図5は、図3のV方向矢視図である。図1〜図5を参照して、誘導コイル6は、円周上の1個所が、スリット16を設けることで遮断された、略環状に形成されていると共に、前記誘導コイル6の外周の、スリット16を挟む2箇所から、環の径方向外方へ、2本の、誘導コイル6に交流電圧を印加するための端子17が突設されている。端子17は、誘導コイル6を、耐圧容器7内の、図1に示す位置に保持するための支持棒を兼ねている。
【0041】
前記誘導コイル6は、本発明では、育成する単結晶13の原料の融点M0に対して、式(1):
0<M1 (1)
を満足する融点M1を有し、かつ抵抗率(20℃)が15μΩ・cm以下の材料によって形成される。誘導コイル6を形成する材料の融点、および抵抗率が、前記範囲に限定されるのは、下記の理由による。すなわち、融点が前記範囲以下では、誘導コイル6を、フローティングゾーン法によって、単結晶13を育成する工程に、冷却せずに用いた場合に、溶融帯12や単結晶13からの熱によって溶融したり軟化したりして変形して、単結晶13を育成する工程を続けることができなくなる。
【0042】
これに対し、融点が前記式(1)を満足する範囲内であれば、誘導コイル6を冷却せずに、前記工程に使用しても、溶融帯12等からの熱によって溶融したり軟化したりして変形するおそれがないため、前記誘導コイル6を、冷却せずに使用して、溶融帯12や単結晶13との間の温度差を、前記工程の間中、できるだけ、小さい範囲に維持することができる。
【0043】
したがって、育成される単結晶13の、径方向および軸方向の温度勾配を、これまでよりも低減して、前記温度勾配によって生じる熱応力を減少させることができるため、たとえ、育成する単結晶13の径が、これまでに比べて大径化された場合でも、前記単結晶13にクラックが発生するのを、確実に防止することができる。また、前記工程の初期に、誘導コイル6に交流電圧を印加して、誘導加熱によって、原料棒2を溶融させて、溶融帯12を形成するために要する消費電力を、これまでより低減することもできる。
【0044】
また、20℃での抵抗率が、前記範囲を超える場合には、誘導コイル6を、冷却せずに、前記工程に使用して、溶融帯12等に近い温度まで加熱した際に、その抵抗率が大幅に上昇してしまう。これに対し、20℃での抵抗率が、前記範囲内であれば、誘導コイル6を冷却せずに、前記工程に使用した際に、抵抗率を、前記工程の間、低い範囲に維持して、溶融帯12を、原料棒2の軸方向に、一定速度で移動させて単結晶13を成長させる際に、前記溶融帯12の温度を一定の範囲に維持するために、誘導コイル6に印加する交流電圧の消費電力が、過剰に増大するのを防止することもできる。
【0045】
したがって、たとえ、育成する単結晶13の径が、これまでに比べて大径化された場合でも、フローティングゾーン法によって、単結晶13を育成する工程を通して、誘導コイル6に印加する交流電圧の消費電力の総量を、これまでより低減することもできる。
【0046】
なお、誘導コイル6を形成する材料の融点は、前記範囲内でも、高いほど、本発明の単結晶育成装置1を用いたフローティングゾーン法によって、単結晶13を育成することができる原料の選択肢が広がるため、好ましいのであるが、前記材料の加工性が低くなって、誘導コイル6の、所定の立体形状に形成するのが難しくなる傾向がある。また、前記材料の入手が難しくなるおそれもある。そのため、材料の入手のしやすさや、誘導コイル6を形成する際の加工のしやすさ等をも併せ考慮すると、前記融点は3500℃以下、特に2500〜3400℃であるのが好ましい。
【0047】
また、誘導コイル6を形成する材料の、20℃での抵抗率は、低いほど、冷却せずに、前記工程に使用して、溶融帯12等に近い温度まで加熱された際の、抵抗率の上昇を抑制できるため、好ましいのであるが、先に説明した高融点の材料で、なおかつ、抵抗率が低いものは限られており、抵抗率が低いほど、入手が難しくなるおそれがある。そのため、材料の入手のしやすさ等をも併せ考慮すると、前記抵抗率は4.0μΩ・cm以上、特に4.5〜12μΩ・cmであるのが好ましい。
【0048】
前記条件を満たす材料としては、タングステン(融点:3380℃、抵抗率:5.4μΩ・cm)、モリブデン(融点:2630℃、抵抗率:5.7μΩ・cm)、ホウ化ジルコニウム(融点:3200℃、抵抗率:4.6μΩ・cm)、およびホウ化ハフニウム(融点:2800℃、抵抗率:10.0μΩ・cm)からなる群より選ばれた、少なくとも1種の材料が、好適に使用される。
【0049】
前記いずれかの材料から、図に示す形状の誘導コイル6を製造するためには、例えば、前記材料やその前駆体の粉末を含む成形材料を、誘導コイル6の形状に成形した後、焼結させる等の方法が採用される。なお、前記成形材料には、誘導コイル6の耐熱温度、および抵抗率に影響を及ぼさない範囲で、少量の、焼結助剤等として公知の化合物を添加してもよい。
【0050】
誘導コイル6は、図の例では、先に説明したように、その平面形状が、円周上の1個所にスリット16を設けることで遮断された、略環状に形成されている。それと共に、前記環の中心から放射方向で、かつ原料棒2の軸方向の断面形状が、融液の表面張力によって、図2に示す断面形状に形成される溶融帯12の表面に沿うように、環の外側に大径円部、内側に小径円部を有すると共に、両円部間がテーパー状に繋がれた、扁平状に形成されている。
【0051】
また、誘導コイル6の、大径円部の中心には、前記大径円部と同心上に、断面円形の閉空間18が形成されている。前記閉空間18は、平面形状が略円形で、なおかつ、その両端が、スリット16に達することなく閉じられている。前記閉空間18を設けると、誘導コイル6に交流電圧を印加した際に、その周囲に形成される誘導磁場を構成する磁力線MFの磁束密度を、より効果的に、溶融帯12の中心部に集中させることができる(図2参照)。
【0052】
そのため、誘導加熱によって形成される溶融帯12の、原料棒2の軸方向の長さを、極力、短くして、前記溶融帯12の、単結晶13との界面の、外周付近での静水圧を小さくすることができ、たとえ、育成する単結晶13の径が、これまでに比べて大径化された場合でも、静水圧の上昇を、極力、抑制して、溶融帯12が、前記単結晶13の周方向に不規則な垂れを生じて、均一な単結晶13を育成できなくなるという不具合が生じるのを、確実に防止することができる。
【0053】
端子17は、誘導コイル6と同等の融点と抵抗率とを有する材料、特に、熱膨張係数等を考慮して、前記誘導コイル6と同じ材料により、誘導コイル6と一体に、あるいは別体に形成することができる。また、端子17を保持すると共に、交流電源と接続する接続部は、図示していないが、例えば、銅等の、導電性に優れた金属によって形成すると共に、誘導加熱時の熱によって溶融しないように、冷却機構を設けて冷却するのが好ましい。
【0054】
ただし、前記接続部が、誘導コイル6に近づきすぎる場合には、前記誘導コイル6の温度分布の、原料棒2の軸を中心とする回転対称性が損なわれて、溶融帯12の冷却が不均一化するため、育成される単結晶13に曲がりを生じるおそれがある。そのため、端子17は、接続部の冷却が誘導コイル6の温度分布に影響を及ぼさないような、十分な長さを有しているのが好ましい。
【0055】
図6は、前記単結晶育成装置1に用いる補助誘導コイル14の平面図、図7は、図6のVII−VII線断面図、図8は、図6のVIII方向矢視図である。図1、2および図6〜図8を参照して、補助誘導コイル14は、円周上の1個所が、スリット19を設けることで遮断され、かつ、その内部に、冷却機構としての水冷管20が埋設された、原料棒2の軸方向に一定の長さを有すると共に、前記軸から放射方向に一定の幅を有する略環状(略筒状)に形成されていると共に、前記補助誘導コイル14の外周の、スリット19を挟む2箇所から、環の径方向外方へ、2本の、補助誘導コイル14に交流電圧を印加するための端子21が突設されている。
【0056】
端子21は、補助誘導コイル14を、耐圧容器7内の、図1に示す位置に保持するための支持棒を兼ねている。また、端子21は、内部が中空状に形成されていると共に、水冷管20と繋がれており、前記水冷管20に冷却水を供給するための配管も兼ねている。
【0057】
誘導コイル6に交流電圧を印加して、先に説明した工程によって、単結晶13を育成する際に、補助誘導コイル14にも交流電圧を印加することで、育成する単結晶13の表面を、補助的に加熱することができる。そのため、前記単結晶13の、径方向および軸方向の温度勾配を、より一層、低減して、温度勾配によって生じる熱応力を減少させることができ、たとえ、育成する単結晶13の径が、これまでに比べて大径化された場合でも、前記単結晶13にクラックが発生するのを、より一層、確実に防止することができる。
【0058】
また、先に説明したように、単結晶13を、補助誘導コイル14によって補助的に加熱しているにもかかわらず、前記補助誘導コイル14を、水冷管20に通水して冷却することで、溶融帯12からの輻射伝熱により、前記溶融帯12の、原料棒2の軸方向における長さが長くなるのを抑制して、前記溶融帯12の、単結晶13との界面の、外周付近での静水圧が増加するのを防止することもできる。
【0059】
しかも、誘導コイル6の下方側の、溶融帯12と単結晶13との界面近傍を囲むように配設される、前記略筒状の補助誘導コイル14に交流電圧を印加して発生させた誘導磁場を構成する磁力線MFは、図2に示すように、単結晶13の軸方向に沿うように形成されることから、前記界面の近傍の領域に及ぼすローレンツ力の方向を、単結晶13の中心方向に向けて、溶融帯12を、前記単結晶13の周方向に不規則な垂れを生じないように、支持する働きをする。そのため、たとえ、育成する単結晶13の径が、これまでに比べて大径化された場合でも、溶融帯12が、前記不規則な垂れを生じて、均一な単結晶13を育成できなくなるという不具合を生じるのを、確実に防止することができる。
【0060】
補助誘導コイル14は、その内径を、育成する単結晶13の径に対して、適度な距離をとることができる範囲に設定するのが肝要である。すなわち、発明者の検討によると、補助誘導コイル14の内径は、育成する単結晶13の径の1.2倍〜5倍であるのが好ましい。補助誘導コイル14の内径が、前記範囲未満では、補助誘導コイル14による誘導加熱が、単結晶13に、過剰に作用して、前記単結晶13が溶融するおそれがあり、前記範囲を超える場合には、補助誘導コイル14による誘導加熱が、単結晶13に、十分に作用しないおそれがある。
【0061】
図9は、誘導コイル6と補助誘導コイル14とを、交流電圧を印加するための交流電源22に接続するための、接続例を示す配線図である。図9を参照して、前記例では、交流電源22の、図において上側の端子を、誘導コイル6の右側の端子17に接続し、前記誘導コイル6の左側の端子17を、補助誘導コイル14の、右側の端子21に接続すると共に、前記補助誘導コイル14の左側の端子21を、前記交流電源22の下側の端子に接続している。誘導コイル6と、補助誘導コイル14とを、図のように接続すると、交流電源22から、前記両者に、位相を一致させた交流電圧を印加できるため、位相のずれによる電圧の減衰をなくして、原料棒2を、より効率的に誘導加熱することができる。
【0062】
なお、図9において実線の矢印は、端子21の中空部を通して、補助誘導コイル14内の水冷管20に供給する水の流れを示している。図9では、左側の端子21から吸水して、右側の端子21から排水させているが、水の流れは逆であってもよい。
【0063】
図10は、前記単結晶育成装置1に用いる保温体15の断面図、図11は、前記保温体15を構成する1つの側面保温部材27の外観を示す斜視図である。図12は、前記保温体15を構成する1つの底面保温部材24の外観を示す斜視図である。
【0064】
図10〜図12を参照して、保温体15は、円板状で、かつ、中央に、単結晶13が挿通される通孔23を有する底面保温部材24を、複数枚(図では5枚)、前記軸方向に、互いに直接に接触しないように、スペーサ25を介して積層した上に、円周上の2個所が、スリット26を設けることで遮断された、原料棒2の軸方向に一定の長さを有すると共に、前記軸から放射方向に一定の幅を有する略環状(略筒状)の、それぞれ筒の径が異なる複数個(図では5個)の側面保温部材27を、各側面保温部材27が互いに接触しないように間隔をあけて、それぞれ、原料棒2の軸と同心状となるように配設することで構成されている。
【0065】
前記底面保温部材24、および側面保温部材27は、いずれも、表面の熱線反射率が高く、かつ熱容量の小さい材料によって形成するのが好ましい。その具体例としては、モリブデン、白金、イリジウム等の板材が挙げられる。前記板材によって形成された底面保温部材24、側面保温部材27を組み立てた保温体15は、各部材の表面の熱線反射率が高く、単結晶13からの輻射熱を有効に反射して、前記単結晶13に戻す働きに優れているため、良好な保温性を有している。
【0066】
しかも、前記各部材の熱容量が小さい上、前記構造ゆえに、保温体15の全体としての熱容量も小さいため、前記保温体15によって、保温のために、単結晶13を囲むことで、耐圧容器7内に生じさせた温度分布を損ねることなしに、誘導コイル6や補助誘導コイル14に印加する交流電圧の出力を変化させたときの、耐圧容器7内の温度変化の応答性を向上することもできる。
【0067】
また、側面保温部材27は、先に説明したように、円周上の2個所にスリット26を設けて遮断しているため、誘導コイル6や補助誘導コイル14に交流電圧を印加して形成される誘導磁場によって生じるジュール熱を最小限に止めて、前記側面保温部材27が溶融するのを防止することもできる。
【0068】
そして、前記保温体15を設けることによって、単結晶13と、冷却された耐圧容器7との間の輻射伝熱を遮断して、単結晶13を保温することができるため、前記単結晶13の、径方向および軸方向の温度勾配を、より一層、低減して、温度勾配によって生じる熱応力を減少させることができ、たとえ、育成する単結晶13の径が、これまでに比べて大径化された場合でも、単結晶13にクラックが発生するのを、より一層、確実に防止することができる。
【0069】
その上、前記保温体15を、冷却しない誘導コイル6と組み合わせることで、単結晶13を育成する工程の初期に、誘導コイル6に交流電圧を印加して、溶融帯12を形成するために要する消費電力を低減できる上、溶融帯12を、原料棒2の軸方向に、一定速度で移動させて単結晶13を成長させる際に、誘導コイル6に印加する交流電圧の消費電力が、過剰に増大するのを防止することもできる。そのため、たとえ、育成する単結晶13の径が、これまでに比べて大径化された場合でも、フローティングゾーン法によって、単結晶13を育成する工程を通して、誘導コイル6に印加する交流電圧の消費電力の総量を、さらに低減することもできる。
【0070】
なお、本発明の構成は、以上で説明した図の例に限定されるものではない。例えば、誘導コイル6によって誘導加熱して溶融帯12を生成する前の原料棒2を、先に説明したのと同様の構造を有する保温体で囲んで保温してもよい。その場合には、溶融帯12からの熱によって、溶融には至らないものの、高温になる原料棒2と、冷却された耐圧容器7との間の輻射伝熱を遮断できるため、たとえ、育成する単結晶13の径が、これまでに比べて大径化された場合でも、フローティングゾーン法によって、単結晶13を育成する工程を通して、誘導コイル6に印加する交流電圧の消費電力の総量を、より一層、低減することができる。
【0071】
消費電力を、過度に低減することは、特に、補助誘導コイル14に交流電圧を印加して発生させる誘導磁場を構成する磁力線による、溶融帯12と、単結晶13との界面の近傍の領域に及ぼすローレンツ力の方向を、単結晶13の中心方向に向けて、溶融帯12を、前記単結晶13の周方向に不規則な垂れを生じないように支持する働きを低下させることに繋がるため、溶融帯12の不規則な垂れに注意する必要がある。しかし、単結晶13を形成する原料の種類等によっては、溶融帯12が垂れ落ちる心配がない場合があり、その場合には、原料棒2を保温体で囲んで保温することによる、消費電力の低減効果が、特に有効である。
【0072】
また、補助誘導コイル14や保温体15を省略してもよい。このうち、補助誘導コイル14を省略した場合には、前記補助誘導コイル14に交流電圧を印加して発生させる誘導磁場を構成する磁力線による、溶融帯12と、単結晶13との界面の近傍の領域に及ぼすローレンツ力の方向を、単結晶13の中心方向に向けて、溶融帯12を、前記単結晶13の周方向に不規則な垂れを生じないように支持する働きが得られない。
【0073】
しかし、低温に冷却された補助誘導コイル14を省略することで、保温体15による保温性をさらに向上できるため、先に説明したように、溶融帯12が垂れ落ちる心配がない場合等においては、補助誘導コイル14に印加する交流電圧を削減できることと相まって、消費電力の低減効果が、特に有効である。
【実施例】
【0074】
《実施例1》
〈誘導コイル6〉
ホウ化ジルコニウム(融点:3200℃、抵抗率:4.6μΩ・cm)を主成分とし、少量のホウ化クロム(融点:2000℃)を含む混合粉を、成形材料として圧縮成形した後、2000℃で焼結して、図3〜図5に示す形状を有し、かつ外径が100mm、内径が30mmの誘導コイル6を作製し、前記誘導コイル6に、同じ成形材料を焼結して形成した2本の端子17を接続した。そして、前記誘導コイル6を、2本の端子17を支持棒として利用して、図1に示す単結晶育成装置1の、円筒状の耐圧容器7内の、高さ方向の中心位置に、誘導コイル6の環の中心が、上ホルダ3によって保持される原料棒2の軸と同軸となるように配設した。
【0075】
〈補助誘導コイル14〉
図6〜8に示す形状を有し、外径が100mm、内径が80mmで、かつ内部に水冷管20を有する補助誘導コイル14を、銅によって形成すると共に、水冷管20に、銅管からなり、前記水冷管20に冷却水を供給するための配管を兼ねる2本の端子21を接続した。前記補助誘導コイル14は、耐圧容器7内の、誘導コイル6の下方に、2本の端子21を支持棒として利用して、原料棒2の軸方向に20mmの間隔をあけて、環の中心が、前記原料棒2の軸と同軸となるように配設した。そして、補助誘導コイル14と、誘導コイル6とを、交流電源22に対して、図9に示すように接続した。
【0076】
〈保温体15〉
図10、図12に示す形状を有し、外径が125mm、通孔23の内径が100mm、厚みが1mmである円板状の、モリブデン製の底面保温部材24を、高さ5mmのスペーサ25を介して、5枚、各円板の中心が、原料棒2の軸と同軸となるように積層した上に、円周上の2個所が、スリット26を設けることで遮断された、原料棒2の軸方向の長さ(高さ)が100mm、軸から放射方向の幅(厚み)が1mmの、略環状(略筒状)の、それぞれ筒の内径が100mm、105mm、110mm、115mm、および120mmである、モリブデン製の、5個の側面保温部材27を、各側面保温部材27が互いに接触しないように間隔をあけて、それぞれ、同心状となるに配設して保温体15を構成した。
【0077】
前記保温体15は、耐圧容器7内の、補助誘導コイル14の下方に設置した、円筒状のアルミナブロック(図示せず)上に、原料棒2の軸方向に20mmの間隔をあけて、円板および筒の中心が、前記原料棒2の軸と同軸となるように載置した。
【0078】
〈単結晶の育成〉
前記各部を備えた、図1の単結晶育成装置1の、上ホルダ3に、ホウ化チタンの多結晶からなる、直径50mm、長さ150mmの原料棒2を保持させると共に、下ホルダ5に、ホウ化チタンからなる、直径15mm、長さ10mmの種結晶4を保持させた状態で、耐圧容器7を密閉し、内部の空気を除去すると共に、10気圧の不活性ガス雰囲気とした。そして、配管を通して水冷管20に通水して、補助誘導コイル14を冷却しながら、先に説明した手順で、各部を動作させて、毎時20mm(20mm/h)の速度で、直径60mmのホウ化チタンの単結晶13を育成した。誘導コイル6および補助誘導コイル14に印加する交流電圧の周波数は150kHz、入力は20kWとした。
【0079】
そして、単結晶13が、長さ100mmまで成長した時点から3時間かけて、入力をゼロまで落とした後、育成した単結晶13の温度が室温(20℃)まで低下したことを確認した上で、前記単結晶13を、耐圧容器7から取り出して観察したところ、クラックは全く見られなかった。
【0080】
《比較例1》
実施例1で使用したのと同形状、同寸法で、かつ、内部に冷却機構としての水冷管を有する銅製の誘導コイル6を作製し、前記誘導コイル6を、水冷管と繋がれて、前記水冷管に冷却水を供給するための配管を兼ねる、銅管からなる2本の端子を、さらに支持棒として利用して、実施例1で使用した誘導コイル6に代えて、耐圧容器7内の同じ位置に設置すると共に、前記実施例1で使用したのと同じ補助誘導コイル14、および本体15と組み合わせて、図13に示す従来の単結晶育成装置1を構成した。
【0081】
前記単結晶育成装置1を使用して、配管を通して水冷管に通水して誘導コイル6を冷却し、かつ、配管を通して水冷管20に通水して補助誘導コイル14を冷却しながら、実施例1と同様にして、ホウ化チタンの単結晶13を育成しようとしたところ、誘導コイル6に印加する交流電圧の入力は40kWを必要とした。また、育成した単結晶13の温度が室温(20℃)まで低下したことを確認した上で、前記単結晶13を、耐圧容器7から取り出して観察したところ、熱応力が原因と考えられるクラックが発生しているのが確認された。
【0082】
《実施例2》
タングステン(融点:3380℃、抵抗率:5.4μΩ・cm)の粉末を、成形材料として圧縮成形した後、2500℃で焼結して、図3〜図5に示す形状を有し、かつ外径が100mm、内径が30mmの誘導コイル6を作製し、前記誘導コイル6に、同じ成形材料を焼結して形成した2本の端子17を接続した。そして、前記誘導コイル6を、2本の端子17を支持棒として利用して、実施例1で使用した誘導コイル6に代えて、耐圧容器7内の同じ位置に設置すると共に、前記実施例1で使用したのと同じ補助誘導コイル14、および本体15と組み合わせて、図1に示す単結晶育成装置を構成した。
【0083】
前記単結晶育成装置1の、上ホルダ3に、ホウ化ジルコニウムの多結晶からなる、直径50mm、長さ150mmの原料棒2を保持させると共に、下ホルダ5に、ホウ化ジルコニウムからなる、直径15mm、長さ10mmの種結晶4を保持させた状態で、耐圧容器7を密閉し、内部の空気を除去すると共に、10気圧の不活性ガス雰囲気とした。そして、配管を通して水冷管20に通水して、補助誘導コイル14を冷却しながら、先に説明した手順で、各部を動作させて、毎時20mm(20mm/h)の速度で、直径60mmのホウ化ジルコニウムの単結晶13を育成した。誘導コイル6および補助誘導コイル14に印加する交流電圧の周波数は150kHz、入力は25kWとした。
【0084】
そして、単結晶13が、長さ100mmまで成長した時点から3時間かけて、入力をゼロまで落とした後、育成した単結晶13の温度が室温(20℃)まで低下したことを確認した上で、前記単結晶13を、耐圧容器7から取り出して観察したところ、クラックは全く見られなかった。
【0085】
《比較例2》
比較例1で使用したのと同じ単結晶育成装置1を使用して、配管を通して水冷管に通水して誘導コイル6を冷却し、かつ、配管を通して水冷管20に通水して補助誘導コイル14を冷却しながら、実施例2と同様にして、ホウ化ジルコニウムの単結晶13を育成しようとしたところ、誘導コイルに印加する交流電圧の入力は50kWを必要とした。また、育成した単結晶13の温度が室温(20℃)まで低下したことを確認した上で、前記単結晶13を、耐圧容器7から取り出して観察したところ、熱応力が原因と考えられるクラックが発生しているのが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の単結晶育成装置の、実施の形態の一例を示す断面図である。
【図2】図1の単結晶育成装置の要部である、誘導コイルおよび補助誘導コイルの部分を拡大した断面図である。
【図3】図1の単結晶育成装置に用いる誘導コイルの平面図である。
【図4】図3のIV−IV線断面図である。
【図5】図3のV方向矢視図である。
【図6】図1の単結晶育成装置に用いる補助誘導コイルの平面図である。
【図7】図6のVII−VII線断面図である。
【図8】図6のVIII方向矢視図である。
【図9】図3の誘導コイルと図6の補助誘導コイルとを、交流電圧を印加するための交流電源に接続するための、接続例を示す斜視図である。
【図10】図1の単結晶育成装置に用いる保温体の断面図である。
【図11】図10の保温体を構成する1つの側面保温部材の外観を示す斜視図である。
【図12】図10の保温体を構成する1つの底面保温部材の外観を示す斜視図である。
【図13】フローティングゾーン法を実施するために用いる従来の、単結晶育成装置の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0087】
1 単結晶育成装置
2 原料棒
3 上ホルダ
4 種結晶
5 下ホルダ
6 誘導コイル
7 耐圧容器
8 駆動装置
9 駆動装置
10 駆動軸
11 駆動軸
12 溶融帯
13 単結晶
14 補助誘導コイル
15 保温体
16 スリット
17 端子
18 閉空間
19 スリット
20 水冷管
21 端子
22 交流電源
23 通孔
24 底面保温部材
25 スペーサ
26 スリット
27 側面保温部材
MF 磁力線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略環状に形成され、育成する単結晶の原料からなる原料棒と同軸に配設されて、前記原料棒の、軸方向の、一定長の領域を、誘導加熱によって溶融させるための誘導コイルを備え、前記誘導コイルと原料棒とを、前記原料棒の軸方向に、相対的に移動させることで、前記溶融によって形成される溶融帯を、前記軸方向に移動させて、溶融帯が通過した後の凝固によって単結晶を成長させ、育成するための単結晶育成装置であって、前記誘導コイルが、育成する単結晶の原料の融点M0に対して、式(1):
0<M1 (1)
を満足する融点M1を有し、かつ抵抗率(20℃)が15μΩ・cm以下の材料によって形成されていることを特徴とする単結晶育成装置。
【請求項2】
前記誘導コイルが、タングステン、モリブデン、ホウ化ジルコニウム、およびホウ化ハフニウムからなる群より選ばれた、少なくとも1種の材料によって形成されている請求項1記載の単結晶育成装置。
【請求項3】
前記誘導コイルの内部に、閉空間が設けられている請求項1または2記載の単結晶育成装置。
【請求項4】
前記誘導コイルの、原料棒の移動方向の前方側に、前記誘導コイルと、前記移動方向に一定の間隔を隔てて、冷却機構を備えた略環状の補助誘導コイルが配設されている請求項1〜3のいずれかに記載の単結晶育成装置。
【請求項5】
前記誘導コイルまたは補助誘導コイルの、原料棒の移動方向の前方側に、前記誘導コイルまたは補助誘導コイルと、前記移動方向に一定の間隔を隔てて、略環状の保温体が配設されている請求項1〜4のいずれかに記載の単結晶育成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−238362(P2007−238362A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−61575(P2006−61575)
【出願日】平成18年3月7日(2006.3.7)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】