説明

単結晶SiC及びその製造方法

【課題】多結晶ドメインの混在のない高品質な単結晶SiCを安定してエピタキシャルに成長させることが可能な単結晶SiC製造方法及びその結果得られる高品質な単結晶SiCを提供する。
【解決手段】SiC種結晶4が固定されたサセプタ5及び単結晶SiC製造用原料を供給するための原料供給管6を坩堝内に配置する配置工程、並びに、高温雰囲気とした坩堝2内に単結晶SiC製造用原料を不活性ガスAと共に原料供給管6を通してSiC種結晶4上に供給して単結晶SiCを成長させる成長工程を含み、成長工程において、SiO2粒子と、カーボン(C)粒子と、少なくとも1つの特定粒子とを供給し、特定粒子は、融点及び/又は昇華点が900℃以上2,400℃以下である単結晶SiCの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス用材料やLED用材料として利用される単結晶SiC及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単結晶SiC(炭化珪素)は結晶の結合エネルギーが大きく、絶縁破壊電界が大きく、また熱伝導率も大きいため、耐苛酷環境用デバイスやパワーデバイス用の材料として有用である。またその格子定数がGaNの格子定数と近いため、GaN−LED用の基板材料としても有用である。
【0003】
従来この単結晶SiCの製造には、黒鉛坩堝内でSiC粉末を昇華させ、黒鉛坩堝内壁に単結晶SiCを再結晶化させるレーリー法や、このレーリー法をベースに原料配置や温度分布を最適化し、再結晶化させる部分にSiC種単結晶を配置してエピタキシャルに再結晶成長させる改良レーリー法、ガスソースをキャリアガスによって加熱されたSiC種単結晶上に輸送し結晶表面で化学反応させながらエピタキシャル成長させるCVD法、黒鉛坩堝内でSiC粉末とSiC種単結晶を近接させた状態でSiC粉末をSiC種単結晶上にエピタキシャルに再結晶成長させる昇華近接法などがある(非特許文献1第4章参照)。
【0004】
ところで現状では、これらの各単結晶SiC製造方法にはいずれも問題があるとされている。レーリー法では、結晶性の良好な単結晶SiCが製造できるものの、自然発生的な核形成をもとに結晶成長するため、形状制御や結晶面制御が困難であり、且つ大口径ウエハが得られないという問題がある。改良レーリー法では、数100μm/h程度の高速で大口径の単結晶SiCインゴットを得ることができるものの、螺旋状にエピタキシャル成長するため、結晶内に多数のマイクロパイプが発生するという問題がある。CVD法では、高純度で低欠陥密度の良質な単結晶SiCが製造できるものの、希薄なガスソースでのエピタキシャル成長のため、成長速度が〜10μm/h程度と遅く、長尺の単結晶SiCインゴットを得られないという問題がある。昇華近接法では、比較的簡単な構成で高純度のSiCエピタキシャル成長が実現できるが、構成上の制約から長尺の単結晶SiCインゴットを得ることは不可能という問題がある。
【0005】
最近、加熱保持されたSiC種単結晶上に、二酸化ケイ素超微粒子と炭素超微粒子とを不活性キャリアガスで供給し、SiC種単結晶上で二酸化ケイ素を炭素で還元することで、式(1)の反応により単結晶SiCをSiC種単結晶上にエピタキシャルに高速成長させる方法が報告された(特許文献1参照)。この製造方法では、マイクロパイプ等の欠陥を抑制した高品質な単結晶SiCを高速で得ることができるとされている。
SiO2 + 3C → SiC + 2CO↑ ・・・ (1)
上記の特許文献1に開示された単結晶SiCの製造方法では、不活性ガス雰囲気中に過熱状態で保持されたSiC種結晶表面に向けて、二酸化珪素超微粒子及び炭素超微粒子を供給して付着させ、SiC種結晶表面において二酸化珪素を炭素により還元することにより、SiC単結晶をSiC種結晶上に成長させている。
【0006】
【特許文献1】特許第3505597号公報
【非特許文献1】松波弘之編著、「半導体SiC技術と応用」、日刊工業新聞社(2003年3月初版発行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
実際に特許文献1で開示されている方法で単結晶SiCを製造してみると、得られる単結晶SiCの結晶品質は必ずしも良好でないことが確認された。具体的には、単結晶SiC中の細かな領域(典型的には5μm以下の領域)において、結晶方位の異なる多結晶ドメインが混在する問題が生じてしまう。
【0008】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、多結晶ドメインの混在のない高品質な単結晶SiCを安定してエピタキシャルに成長させることが可能な単結晶SiCの製造方法及びその結果得られる高品質な単結晶SiCを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題は、以下の<1>又は<5>に記載の手段によって解決された。好ましい実施態様である<2>〜<4>と共に以下に記載する。
<1> SiC種結晶が固定されたサセプタ及び単結晶SiC製造用原料を供給するための原料供給管を坩堝内に配置する配置工程、並びに、高温雰囲気とした該坩堝内に該単結晶SiC製造用原料を不活性ガスと共に原料供給管を通してSiC種結晶上に供給して単結晶SiCを成長させる成長工程を含み、該成長工程において、SiO2粒子と、カーボン(C)粒子と、少なくとも1つの特定粒子とを供給し、該特定粒子は、融点及び/又は昇華点が900℃以上2,400℃以下であることを特徴とする単結晶SiCの製造方法、
<2> 特定粒子の供給量が、総量として、SiO2粒子に対する重量換算で100ppm以上、2,000ppm以下である<1>に記載の単結晶SiCの製造方法、
<3> 該特定粒子がAl23粒子、TiO2粒子、ZnO粒子、SnO2粒子、Ga23粒子、Nb25粒子及びTa25粒子よりなる群から選ばれた少なくとも1つである<1>又は<2>に記載の単結晶SiCの製造方法、
<4> 前記不活性ガスがArガスである<1>〜<3>いずれか1つに記載の単結晶SiCの製造方法、
<5> <1>〜<4>いずれか1つに記載の製造方法により製造された単結晶SiC。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、多結晶ドメインの混在のない高品質な単結晶SiCを安定してエピタキシャルに成長させることが可能な単結晶SiC製造方法及びその結果得られる高品質な単結晶SiCを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の単結晶SiCの製造方法は、SiC種結晶が固定されたサセプタ及び単結晶SiC製造用原料を供給するための原料供給管を坩堝内に配置する配置工程、並びに、高温雰囲気とした該坩堝内に該単結晶SiC製造用原料を不活性ガスと共に原料供給管を通してSiC種結晶上に供給して単結晶SiCを成長させる成長工程を含み、該成長工程において、SiO2粒子と、カーボン(C)粒子と、少なくとも1つの特定粒子とを供給し、該特定粒子は、融点及び/又は昇華点が900℃以上2,400℃以下であることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、SiO2粒子及びカーボン(C)粒子により式(1)の反応を起こして単結晶SiCを製造する際に、別の特定粒子を添加することにより、結果的に多結晶ドメインの混在のない高品質な単結晶SiCを安定してエピタキシャルに製造し提供することができる。
この理由としては、製造時のメカニズムを考えると2つが考えられる。
一つ目は、前記の特定粒子のうち、900℃以上2,400℃以下の融点(Tm℃)を有する粒子(例えば、Al23、TiO2、SnO2、Ga23、Nb25、Ta25)の中から一種乃至は複数種を選択する場合である。この場合当該選択した特定粒子がSiO2粒子の溶融フラックスとして作用すると考えられ、結果としてエピタキシャル成長時のSiC種単結晶表面の界面エネルギーが低下し、成長界面の乱雑さに起因する多結晶ドメインの発生が抑制されると推定される。
二つ目は、前記の特定粒子のうち、900℃以上2,400℃以下の昇華点(Ts℃)を有する粒子(例えば、ZnO)の中から一種乃至は複数種を選ぶ場合である。この時、当該選択した特定粒子が、式(1)の反応により生成されたSiC粒子の移動及び再配列の運動をアシストすると考えられ、結果的に移動及び再配列が十分になされずに方位が異なったままSiC種単結晶に取り込まれてしまう多結晶ドメインが解消すると推定される。更に付言すると、例えば、ZnO粒子は1,725℃で昇華することが知られており、この昇華に伴う体積膨張運動及び気体ZnOの拡散運動が、SiC種単結晶表面でのSiC粒子の移動及び再配列運動をアシストすると推定される。
【0013】
尚、特許文献1に開示されたSiC単結晶の製造方法では、該SiC単結晶中にドーピングを行う場合には、超微粒子(二酸化ケイ素超微粒子及び炭素超微粒子)やキャリアガス中にドーパントとなる成分を混合してもよい、と記載されている。しかしながら、より高品質な単結晶SiCを製造するために、何らかの添加物を積極的に供給(ドープ)するという言及は何らない。更に、具体的なドーパント成分についても、何ら記載されていない。
【0014】
本発明の単結晶SiCの製造方法の成長工程において、SiO2粒子及びカーボン(C)粒子が必須原料として選定され、それ以外に少なくとも1つの特定粒子を使用する。該特定粒子は、900℃以上2,400℃以下の融点(Tm℃)及び/又は昇華点(Ts℃)を有する。
特定粒子としては、前記融点及び/又は昇華点を有する化合物であれば特に限定されず、公知の化合物から選択することができるが、特に上記の融点及び/又は昇華点を有する金属酸化物を好適に使用することができる。
また、特定粒子の融点(Tm℃)及び/又は昇華点(Ts℃)は、1000℃以上2,300℃以下であることが好ましく、1,100℃以上2,100℃以下であることがより好ましい。
好ましい特定粒子としては、Al23粒子、TiO2粒子、ZnO粒子、SnO2粒子、Ga23粒子、Nb25粒子及びTa25粒子が例示でき、単独で使用することもできるし、複数を併用することもできる。
即ち、本発明において、SiC単結晶の成長工程において、SiO2粒子と、カーボン(C)粒子と、Al23粒子、TiO2粒子、ZnO粒子、SnO2粒子、Ga23粒子、Nb25粒子及びTa25粒子よりなる粒子群から選択される少なくとも1つ(即ち、いずれか一種、又はこれらの複数種)がSiC種単結晶上に供給されることがより好ましい。これらの中でも、特定粒子がAl23粒子、TiO2粒子、ZnO粒子、Ga23粒子、Nb25粒子及びTa25粒子であることが好ましく、Al23粒子、TiO2粒子、ZnO粒子、Ga23粒子及びTa25粒子であることがより好ましく、Al23粒子、TiO2粒子及びTa25であることが更に好ましい。
【0015】
尚、特定粒子は、SiO2粒子及びカーボン(C)粒子と共にSiC種単結晶に供給することもできるし、予めSiO2粒子又はカーボン(C)粒子と混合されていてもよい。また、SiO2粒子及び/又はカーボン(C)粒子に副成分として混在しているものであってもよい。
【0016】
また、SiO2粒子及びカーボン(C)粒子は、それぞれ別個の粒子として供給することもできるが、SiO2粒子及びカーボン(C)粒子を含む2次粒子として供給することもできる。また、この2次粒子に上記の特定粒子から選ばれた少なくとも1つを共存させることもできるし、SiO2粒子又はカーボン(C)粒子と共に2次粒子を形成していてもよい。
【0017】
また前記特定粒子の供給量は、総量として、SiO2粒子に対する重量換算で100ppm以上、2,000ppm(0.2%)以下であることが好ましい。200ppm以上2,000ppm以下であることがより好ましい。供給量が100ppm以上であると意図しない多結晶SiCの発生抑止効果が現れ、高品質なSiC単結晶を得ることができるので好ましい。また、供給量が2,000ppm以下であると、特定粒子の過剰な取り込みによる欠陥や歪の増大、ドロップレットの発生、意図しない色むらの発生等を防止できるので好ましい。
【0018】
SiO2粒子及びカーボン(C)粒子の種類、粒径、粒子形状等は特に限定されず、SiO2粒子及びカーボン(C)粒子の混合物又はSiO2粒子及びカーボン(C)粒子からなる2次粒子が好適に利用できる。尚、これらSiO2粒子及びカーボン(C)粒子の種類、粒径、粒子形状等は特に限定されず、例えば火炎加水分解法で得られる高純度シリカ(いぶしシリカfumed silica)や、高純度アセチレンブラックなどが好適に利用できる。
上記SiO2粒子及びカーボン(C)粒子のいずれも2種以上のものを混合して使用してもよい。また上記SiO2粒子及びカーボン粒子(C)は、必要に応じて、前処理を施してもよい。
SiO2粒子もカーボン(C)粒子も共に1次粒子径が100nm以下の微粒子が好ましく、40nm以下の微粒子がより好ましく、20nm以下の超微粒子が更に好ましく、5〜20nmの超微粒子が特に好ましい。
【0019】
上記SiO2粒子及びカーボン(C)粒子の供給量の比率は特に限定されず、所望の組成比が適宜選択できるが、SiO2粒子とカーボン(C)粒子の重量比(SiO2:C)が1:1.5〜5:1の範囲内が代表的である。より好ましい重量比は1.5:1〜3:1である。
【0020】
上記特定粒子の種類、粒径、粒子形状等は特に限定されず、いずれも市販の粉末原料を入手して使用できる。尚、前述のSiO2粒子及びカーボン(C)粒子と併せ、これらの粒子群はいずれも毒性がなく、安全に取扱い及び製造が可能であることが好ましい。但し、安全管理を行った上で、毒性のある特定粒子を使用することも可能である。
これらの特定粒子の平均1次粒子径は、400nm以下であることが好ましく、より好ましくは100nm以下であり、更に好ましくは50nm以下である。平均粒子径が400nm以下であると特定粒子による偏析が防止できるので好ましい。
【0021】
上記SiC製造用原料であるSiO2粒子と、カーボン(C)粒子、それに加えて更に少なくとも1つの特定粒子で構成される供給物(以下、「原料粒子」ともいう。)のSiC種単結晶上への供給は、途切れることなく連続して供給することができる方法であることが好ましく、その具体的な方法は特に限定されない。例えば市販のパウダフィーダのように連続して粉体輸送できるものが使用できる。但し、当該供給管及び単結晶SiC製造装置内部は酸素混入を防止するため、アルゴンやヘリウムなどの不活性ガスにより、好ましくはアルゴンガスにより、置換されたハーメチック構造にしておくことが好ましい。
【0022】
上記原料粒子のSiC種単結晶上への供給条件については、これら原料粒子がSiC種単結晶上に混合された状態で供給されればよく、予め混合しておいても、別個に供給してSiC種単結晶上で混合してもよい。
【0023】
また単結晶SiC中にドーピングをおこなう場合は、p型であれば上記Al23粒子を高濃度(0.1〜0.2%)に添加することにより、簡便で且つ高品質な単結晶SiC製造をおこなうことができる。また、p型のドーピングを行うために、Al(CH33、B26等を使用することもできる。また、n型であれば雰囲気中にガスソースとして窒素をドーピングすることが簡便である。
【0024】
本発明の製造方法で使用するSiC種結晶は、好ましくはSiC種単結晶ウエハであり、その種類、サイズ、形状は特に限定されず、目的とする単結晶SiCの種類、サイズ、形状によって適宜選択できる。例えば改良レーリー法によって得られたSiC単結晶を必要に応じて前処理したSiC種単結晶ウエハが好適に利用できる。種結晶は、ジャスト基板でもよく、また、オフ角基板でもよい。SiC種単結晶として、ジャスト面のSi面基板や数度のオフ角を有する(0001)Si面基板が例示できる。
【0025】
単結晶SiC製造温度は特に限定されず、目的とする単結晶SiCのサイズや形状、種類等に応じて適宜設定できるが、好ましい製造温度は1,600〜2,400℃の範囲であり、この温度は例えば坩堝外側の温度として測定できる。
また、前記単結晶SiC製造温度は、使用する特定粒子に応じて適宜選択することが好ましく、単結晶SiC製造温度は、使用する特定粒子の融点及び/又は昇華点より高い温度で選択することが好ましい。
【0026】
本発明の単結晶SiCの製造方法に使用する単結晶SiC製造装置の構成は、特に限定されない。即ち種結晶サイズ、坩堝加熱方法、坩堝材質、原料粒子供給方法、雰囲気調整方法、成長圧力、温度制御方法などは、目的とする単結晶SiCのサイズや形状、種類、単結晶SiC製造用原料及び特定粒子の種類や量等に応じて適宜選択できる。例えば、温度測定と温度制御にはPID温度制御技術を使用することができる。
【0027】
本発明で使用する坩堝の形状は、外形については特に限定されず、目的とする単結晶SiCのサイズや形状に合わせ適宜選択できる。尚、当該坩堝の材質は使用温度範囲を考慮してグラファイト製であることが好ましい。
【0028】
SiC種単結晶ウエハを保持するサセプタの形状は特に限定されず、目的とする単結晶SiCのサイズや形状に合わせ適宜選択できる。但し、当該サセプタの材質は使用温度範囲を考慮してグラファイト製であることが好ましい。
尚、サセプタ上端のSiC種単結晶を保持する表面の法線方向は、特に限定されず自由に設定することができ、該サセプタの鉛直方向と略平行から最大45°傾斜までとすることが好ましい。
【0029】
単結晶SiC製造用原料及び特定粒子を連続供給する原料供給管の形状は特に限定されず、目的とする単結晶SiCのサイズや形状に合わせ適宜選択できる。但し当該供給管の材質は使用温度範囲を考慮してグラファイト製であることが好ましい。特定粒子は原料供給管を通してSiC種単結晶上に供給される。
原料供給管は、SiC種単結晶を固定したサセプタに坩堝中で対向させてもよく、直角又は斜めに配置してもよい。
【0030】
図1は本発明の単結晶SiCを製造するための装置の一例を示す概念的断面図であり、ここでは高周波誘導加熱炉10を用いている。
水冷された密閉チャンバ1内にカーボン製の密閉した円筒坩堝2(直径100mm、高さ150mm)が配置され、前記水冷された密閉チャンバ1の外側に高周波誘導加熱コイル3を配置してある。
前記密閉した円筒坩堝2内の上部には、SiC種単結晶ウエハ4を保持するためのサセプタ5が貫通挿入されている。このサセプタ5は密閉した円筒坩堝の内部まで伸びており、図示しない回転機構により該サセプタの中心軸を回転軸として回転可能である。
またこのサセプタの図示されない上端には、制御可能な熱交換機能が付与されており、該サセプタ鉛直方向(長手方向)に熱流を発生することができる。また前記熱流量の調整が可能な構成となっている。
尚、サセプタ下端のSiC種結晶を保持する表面の法線方向は、該サセプタの鉛直方向と略平行から最大45°傾斜まで自由に設定することができる。SiC種結晶4の上にSiC単結晶の成長層9を成長させる。
【0031】
前記密閉坩堝2内の下部には、単結晶SiC製造用原料及び特定粒子を供給するための原料供給管6が貫通挿入されている。更に前記原料供給管6は、前記高周波誘導加熱炉の外側に延設されていて、調節弁8、8’により独立に供給量が調節可能な複数の原料貯蔵槽7、7’と、流量調節可能な不活性キャリアガスAの供給源(図示せず)にそれぞれ連結している。
【0032】
本発明で使用される単結晶SiC製造用原料及び特定粒子は、予め混合した上で1つの貯蔵槽から前記密閉坩堝内部に供給してもよいし、特定粒子やその他の添加原料も含めたそれぞれの原料粒子、又はいくつかの混合原料を個別の貯蔵槽に充填し、それぞれの貯蔵槽からの相対的供給量を調節することにより、原料供給管内の不活性キャリアガス中で混合して前記密閉坩堝内部に連続供給してもよい。
高周波誘導加熱炉は、図示しない真空排気系及び圧力調節系により圧力制御が可能であり、また図示しない不活性ガス置換機構を備えている。尚、図1の実施例では供給管を坩堝の下側に、サセプタを坩堝の上側に配したが、本発明の作用が変わらない範囲内で、上下逆に配置することも可能であるし、供給管をサセプタに対し斜めや横向きに配置することも可能である。
【実施例】
【0033】
以下に実施例1〜7につき、比較例1〜5と共に説明する。
尚、実施例及び比較例で使用した各粒子について、以下に記載する。
SiO2粒子(日本アエロジル(株)製、商品名:アエロジル380)
カーボン(C)粒子(電気化学工業(株)製、デンカブラック粉状品(アセチレンブラック))
Al23粒子(関東化学(株)製、酸化アルミニウムNanoTekR
TiO2粒子(関東化学(株)製、酸化チタン(IV)NanoTekR
SnO2粒子(関東化学(株)製、酸化すず(IV)NanoTekR
ZnO粒子(関東化学(株)製、酸化亜鉛NanoTekR
Ga23粒子(関東化学(株)製、酸化ガリウム(III))
Nb25粒子(関東化学(株)製、酸化ニオブ(V)3N5)
Ta25粒子(関東化学(株)製、酸化タンタル(V)3N5)
23粒子(関東化学(株)製、酸化ほう素鹿特級)
23粒子(関東化学(株)製、酸化イットリウムNanoTekR
ZrO2粒子(関東化学(株)製、酸化ジルコニウム3N)
MgO粒子(関東化学(株)製、酸化マグネシウム4N)
【0034】
前記高周波誘導加熱炉を用いて、以下の条件にて単結晶SiCの製造をおこなった。
図1を参照して説明する。SiO2粒子とカーボン(C)粒子の重量比が1:1.5〜1:3となるように秤量後、カーボン(C)粒子はそのまま原料貯蔵槽7に充填した。また秤量したSiO2粒子の方には、実施例1〜7として、Al23粒子、TiO2粒子、SnO2粒子、ZnO粒子、Ga23粒子、Nb25粒子、Ta25粒子をそれぞれ表1に示すごとく添加し、同様に比較例1〜4として、B23粒子、Y23粒子、ZrO2粒子、MgO粒子をそれぞれ表1に示すごとく添加した。また比較例5としてSiO2粒子のみの原料も用意した。これらを原料貯蔵槽7’に充填した。
【0035】
前記サセプタ下端にSiC種単結晶ウエハを固定した。ここで使用したSiC種単結晶ウエハは、改良レーリー法で製造された2インチ単結晶SiC基板を使用した。高周波誘導加熱炉内部を真空引きした後、不活性ガス(高純度アルゴン)で該高周波誘導加熱炉内部を置換した。次いで前記高周波誘導加熱コイルにより、前記カーボン製の密閉坩堝を加熱し、前記SiC種単結晶ウエハ表面温度が1,600〜2,400℃の範囲となるように調整した。
尚、加熱温度は、添加した特定粒子の融点又は昇華点以上の温度であり、且つ、1,600〜2400℃の温度範囲とした。
次いでSiC種単結晶ウエハが固定された前記サセプタを0〜20rpmの回転速度で回転させた。この状態で前記不活性キャリアガス(高純度アルゴン)を流速0.5〜10L/minの範囲に調整して流し、前記単結晶SiC製造用原料及び特定粒子を、前記原料供給管内部を通して、前記密閉坩堝内上部に配置された前記SiC種単結晶ウエハ表面上に連続して供給させ、単結晶SiCの製造をおこなった。製造結果を表1にまとめる。
【0036】
【表1】

【0037】
ここで、表1の歩留まりとは、10回製造した場合に、多結晶ドメインフリーの単結晶SiCが得られた回数を示している。
表1に示すように、原料中に少なくとも1つの特定粒子(Al23粒子、TiO2粒子、ZnO粒子、Ga23粒子、及びTa25粒子)が添加された場合には、多結晶ドメインの発生が完全に防止できることが確認された。また原料中にNb25粒子及びSnO2粒子が添加された場合には、比較例5に比べて、多結晶ドメインの発生が大幅に抑制されることが確認された。具体的には、Nb25粒子を添加した場合には、多結晶ドメインの無い単結晶SiCが9回製造され、多結晶ドメインはほぼフリーであり、SnO2粒子を添加した場合には、多結晶ドメインの無い単結晶SiCが8回製造され、多結晶ドメインはほとんど発生しなかった。
他方、比較例1〜比較例4に示した各原料、即ち、B23粒子、Y23粒子、ZrO2粒子、MgO粒子が添加された場合には、多結晶ドメインの抑制効果は確認されなかった。またSiO2粒子とカーボン(C)粒子のみの原料(比較例5)であっても、多結晶ドメインの抑制効果は確認されなかった。
【0038】
これらの結果について以下の如くに考察した。まずSiO2粒子とカーボン(C)粒子のみの原料の場合には、単結晶SiC成長時のSiO2粒子の溶融が十分に起こらず、結果としてエピタキシャル成長時のSiC種単結晶表面の界面エネルギーが高いため、成長界面の乱雑さに起因する多結晶ドメインの発生頻度が高いと推定される。
続いて実施例の一部(Al23粒子、TiO2粒子、Ga23粒子、Nb25粒子、Ta25粒子)のように、製造温度よりも低温側に融点がある原料を添加した場合には、当該添加粒子がSiO2粒子の溶融フラックスとして作用すると考えられ、結果としてエピタキシャル成長時のSiC種単結晶表面の界面エネルギーが低下し、成長界面の乱雑さに起因する多結晶ドメインの発生が抑制されると推定される。
【0039】
一方、比較例の一部(Y23粒子、ZrO2粒子、MgO粒子)のように、添加粒子の融点が製造温度よりも高い場合には、SiO2粒子の溶融フラックスとしての効果が十分に発揮されず、結果としてエピタキシャル成長時のSiC種単結晶表面の界面エネルギーは低下しないため、成長界面の乱雑さに起因する多結晶ドメインの発生頻度には変化が見られないと推定される。但し比較例の別の例(B23粒子)のように、製造温度よりも著しく低い融点(900℃未満)を有する原料を使用した場合には、却って多結晶ドメインが増加した。このことから、最適な製造温度よりもかなりの低温域(900℃未満)から原料の溶融がはじまる場合には、却って低温成長の促進や過飽和度の増大といった好ましくない現象が現れるものと推定された。
【0040】
次に実施例の別の例(ZnO粒子)のごとく、製造温度よりも低温側に昇華点がある粒子を添加した場合には、当該粒子の体積膨張及び拡散運動が、SiC種単結晶近傍にて生成されたSiC粒子の移動及び再配列の運動をアシストすると考えられ、結果的に移動及び再配列しそこねて方位が異なったままSiC種単結晶に取り込まれてしまう多結晶ドメインが解消されると推定される。
【0041】
以上の結果から、原料(SiO2粒子及びカーボン(C)粒子)に少なくとも1つの特定粒子を添加することにより、多結晶ドメインの発生のない、より高品質の単結晶SiCを製造できた。
尚、今回の実施例としてはSiO2粒子とカーボン(C)粒子の他に、Al23粒子、TiO2粒子、B23粒子、Y23粒子、ZrO2粒子、SnO2粒子、MgO粒子、ZnO粒子、Ga23粒子、Nb25粒子、Ta25粒子の11種類を用意したが、これは入手が容易で、且つ取扱い上の安全性が高いためである。
よって本発明は、表1の結果と上記考察結果とから、本特許と同様の効果及び作用を発現すると推定される、上記11種以外のその他粒子の選択の自由を排除するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の単結晶SiCを製造するための装置の一例を示す概念的断面図である。
【符号の説明】
【0043】
1 密閉チャンバ
2 円筒坩堝
3 高周波誘導加熱コイル
4 SiC種結晶
5 サセプタ
6 原料供給管
7、7’ 原料貯蔵槽
8、8’ 調節弁
9 成長層
10 高周波誘導加熱炉
A 不活性キャリアガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC種結晶が固定されたサセプタ及び単結晶SiC製造用原料を供給するための原料供給管を坩堝内に配置する配置工程、並びに、
高温雰囲気とした該坩堝内に該単結晶SiC製造用原料を不活性ガスと共に原料供給管を通してSiC種結晶上に供給して単結晶SiCを成長させる成長工程を含み、
該成長工程において、SiO2粒子と、カーボン(C)粒子と、少なくとも1つの特定粒子とを供給し、
該特定粒子は、融点及び/又は昇華点が900℃以上2,400℃以下であることを特徴とする
単結晶SiCの製造方法。
【請求項2】
特定粒子の供給量が、総量として、SiO2粒子に対する重量換算で100ppm以上、2,000ppm以下である請求項1に記載の単結晶SiCの製造方法。
【請求項3】
該特定粒子がAl23粒子、TiO2粒子、ZnO粒子、SnO2粒子、Ga23粒子、Nb25粒子及びTa25粒子よりなる群から選ばれた少なくとも1つである
請求項1又は2に記載の単結晶SiCの製造方法。
【請求項4】
前記不活性ガスがArガスである請求項1〜3いずれか1つに記載の単結晶SiCの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1つに記載の製造方法により製造された単結晶SiC。

【図1】
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【公開番号】特開2008−254945(P2008−254945A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−96570(P2007−96570)
【出願日】平成19年4月2日(2007.4.2)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】