説明

印刷情報取得方法、プロファイル生成方法、プロファイル生成装置及びプログラム

【課題】ドライダウンに起因する濃度変動下にカラーパッチを測色する場合であっても、該カラーパッチの色値が表す印刷情報を正しく識別可能であり、該印刷情報を適切に取得することができる印刷情報取得方法、プロファイル生成方法、プロファイル生成装置及びプログラムを提供する。
【解決手段】管理用パッチ42の印刷時点を取得し、管理用パッチ42を測色し、測色された管理用パッチ42の測色時点を取得し、取得された前記測色時点と取得された前記印刷時点とに基づいて、管理用パッチ42が印刷されてから測色されるまでの経過時間を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷物に付された管理用パッチを用いて前記印刷物の印刷情報を取得する印刷情報取得方法、プロファイル生成方法、プロファイル生成装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年のインクジェット技術の飛躍的進歩に伴い、インクジェット方式の印刷機による高速・高画質を両立したカラー大判印刷が可能になりつつある。この印刷機は、個人的・家庭的用途だけでなく、最近では、特に商業用途において幅広い分野で用いられている。この印刷機を用いることにより、例えば、店頭POP(Point of Purchase)や壁面ポスターのみならず、屋外広告・看板等の大サイズメディア、ロールメディア、厚手の硬質メディアに対しても印刷が可能である。
【0003】
このような多様な商業的需要に応えるため、印刷に用いられる印刷媒体(以下「メディア」という場合がある。)も多種多彩である。例えば、合成紙・厚紙・アルミ蒸着紙等の紙類、塩化ビニル・PET等の樹脂、繊維織物の両面に合成樹脂フイルムを貼り合わせたターポリン等が用いられる。
【0004】
広告印刷には需要者の視覚を通じてその購買意欲を喚起させる効果が期待されることから、印刷物(印刷された印刷媒体)の色の仕上がりは特に重要である。従来から、印刷物の色管理手段として、ICC(International Color Consortium)プロファイルの作成方法や、指定色の調整方法等の様々なカラーマッチング技術が多数開示されている。その際に、印刷機を用いて複数の色のカラーパッチからなるカラーチャートを印刷し、該カラーチャートの評価結果を前記印刷機にフィードバックする方法が一般的である。
【0005】
例えば、100〜1000色程度のカラーパッチを備えるカラーチャートを測色計で測色し、その測色データに基づいてその印刷機固有のICCプロファイルを作成できる。また、指定色近傍で徐々に色を変化させたカラーチャートを作業者に視認させ、指定色に最も近い色と判断されるカラーパッチの色を選択し、その色に合わせ込むような微調整をすることができる。
【0006】
このように、印刷機による色再現や色の微調整を正確に行うためには、現に測色又は評価されたカラーチャートの印刷情報が追跡可能であることが望ましい。ここでいう印刷情報とは、印刷に関する種々の情報であって、印刷モード、メディアの種類等の印刷条件のみならず、印刷用途、印刷機の識別番号、指定色のカラー番号等をも含む広い概念である。
【0007】
設定された印刷情報と印刷されたカラーチャートとを照合させ、その印刷情報を間違いなく管理する方法の一つとして、カラーパッチの色と配置の組合せで各情報を埋め込む方法が提案されている。これにより、バーコード等の識別コードを読み取るための読取手段を新たに設けることなく測色計で代用でき、しかも少ない数のカラーパッチの構成で印刷情報を誤り無く識別可能となる。
【0008】
特許文献1には、色校正用カラーパッチのうち所定の色が予め選定され、設定された印刷条件に応じて前記所定の色を有するカラーパッチの配置が変更されたカラーチャートが開示されている。さらに、測色計を用いて前記カラーチャートを測色し、前記カラーチャート上での前記所定の色のカラーパッチの配置情報(アドレス)を取得することで、前記カラーチャートに係る印刷条件を識別できるシステム及び方法が開示されている。
【0009】
特許文献2には、色校正用カラーパッチとは別に管理用パッチ(特許文献2の[請求項1]等における「属性特定用カラーパッチ」に対応する。)を設けているカラーチャートが開示されている。また、測色計を用いて前記カラーチャートを測色し、前記管理用パッチと同色である前記色校正用カラーパッチを選択し、前記カラーチャート上での該色校正用カラーパッチの配置情報(アドレス)を取得することで、前記カラーチャートに係る印刷条件を識別できるシステム及び方法が開示されている。
【0010】
特許文献1及び2に開示される方法は、カラーチャート上の二次元的な位置情報を参照してその位置情報を印刷情報に変換するという技術的思想が共通している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−328255号公報
【特許文献2】特開2007−221571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、インクジェット方式の印刷機において、印刷直後からインクが乾燥するにつれて印刷濃度が経時的に低下する現象、すなわちドライダウンが生じることが知られている。また、ドライダウンにより、特にシャドー部の色再現範囲を経時的に縮小させられる場合がある。
【0013】
特許文献1に開示されたシステムでは、カラーチャートの印刷後に測色計を用いて測色を行う場合は、予め選定された特定の色のカラーパッチもドライダウンによって経時的に変動するため、その配置されたアドレスを誤って識別する可能性がある。
【0014】
また、特許文献2に開示されたシステムでは、同一のカラーチャート上であっても、印刷後からの経過時間や、記録媒体上でのカラーパッチの位置の差異によって印刷濃度(測色値)がばらつくので、管理用パッチと同色である色校正用カラーパッチを誤って選択する可能性がある。
【0015】
さらに、作業者がドライダウンの悪影響を過度に用心するあまり、カラーチャートの印刷後にしばらく待機して測色を開始するようでは、色調整作業の効率は低下してしまう。
【0016】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、ドライダウンに起因する濃度変動下にカラーパッチを測色する場合であっても、該カラーパッチの色値が表す印刷情報を正しく識別可能であり、該印刷情報を適切に取得することができる印刷情報取得方法、プロファイル生成方法、プロファイル生成装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、印刷物に付された管理用パッチを用いて前記印刷物の印刷情報を取得する印刷情報取得方法に関する。
【0018】
そして、前記管理用パッチの印刷時点を取得する第1取得ステップと、前記管理用パッチを測色する測色ステップと、測色された前記管理用パッチの測色時点を取得する第2取得ステップと、取得された前記測色時点と取得された前記印刷時点とに基づいて、前記管理用パッチが印刷されてから測色されるまでの経過時間を算出する算出ステップとを備える。
【0019】
このように構成しているので、管理用パッチが印刷されてから測色されるまでの経過時間を自動的に取得可能であり、ドライダウンに起因する濃度変動下にカラーパッチを測色する場合であっても、該カラーパッチの色値が表す印刷情報を正しく識別可能であり、該印刷情報を適切に取得することができる。
【0020】
また、前記管理用パッチには測色成否検出用パッチが含まれ、前記測色成否検出用パッチの測色値に基づいて前記管理用パッチの測色値の取得結果の成否を判定する判定ステップを備えることが好ましい。
【0021】
さらに、算出された前記経過時間が第1の閾値以下である場合はその旨の警告を行う警告ステップを備えることが好ましい。
【0022】
さらに、算出された前記経過時間が第2の閾値以下である場合に所定の時間範囲内での測色値の取得を禁止する禁止ステップを備えることが好ましい。
【0023】
さらに、測色された前記管理用パッチの測色値と算出された前記経過時間とに基づいて、ドライダウンの定常状態下における前記管理用パッチの測色値を予測する予測ステップを備えることが好ましい。
【0024】
さらにまた、前記管理用パッチには時間取得用パッチが含まれ、前記第2取得ステップは、前記時間取得用パッチの測色時点を前記管理用パッチの前記測色時点として取得することが好ましい。
【0025】
さらにまた、前記印刷情報には前記印刷時点が含まれることが好ましい。
【0026】
さらにまた、前記印刷物には、プロファイルの生成のためのカラーチャートが含まれることが好ましい。
【0027】
本発明に係る印刷情報取得方法は、印刷物の印刷情報を所定の規則に従って所定の色値に符号化する符号化ステップと、測色され得られた前記管理用パッチの色値を前記所定の規則に従って前記印刷物の印刷情報に復号化する復号化ステップとを備え、前記印刷物はインクジェット方式の印刷機により印刷されるとともに、前記所定の色値は前記印刷物の印刷に用いるインク量に応じて選択されることを特徴とする。
【0028】
このように構成しているので、管理用パッチを形成するためのインク使用量を予め把握可能であり、ドライダウンに起因する印刷濃度の変動量を見積もることができる。
【0029】
また、前記所定の色値は、前記管理用パッチの印刷に用いる各色のインクの総量が、前記管理用パッチを除く印刷領域の印刷に用いる各色のインクの総量よりも少なくなるように選択されることが好ましい。これにより、管理用パッチの形成面上でのインク溢れを防止できるとともに、インクの乾燥時間が短縮され、さらにはドライダウンに起因する印刷濃度の変動量も低減できる。
【0030】
本発明に係るプロファイル生成方法は、上記の印刷情報取得方法を用いて前記印刷情報を取得する第3取得ステップと、取得された前記印刷情報に含まれる前記印刷時点に基づいて前記カラーチャートの測色の可否を判定する判定ステップと、前記カラーチャートの測色が可能であると判定された場合に前記カラーチャートを測色して各カラーパッチの測色値を取得する第4取得ステップと、取得された各カラーパッチの測色値に基づいて印刷プロファイルを生成する生成ステップとを備えることを特徴とする。
【0031】
本発明に係るプロファイル生成装置は、上記のプロファイル生成方法を用いて、取得された前記印刷情報と対応付けられた印刷プロファイルを生成するプロファイル生成部を有することを特徴とする。
【0032】
本発明に係るプログラムは、印刷物に付された管理用パッチを用いて前記印刷物の印刷情報を取得するためにコンピュータを、前記管理用パッチの印刷時点を取得する手段、前記管理用パッチを測色する手段、測色された前記管理用パッチの測色時点を取得する手段、取得された前記測色時点と取得された前記印刷時点とに基づいて、前記管理用パッチが印刷されてから測色されるまでの経過時間を算出する手段として機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0033】
本発明に係る印刷情報取得方法、プロファイル生成方法、プロファイル生成装置及びプログラムによれば、管理用パッチの印刷時点を取得し、前記管理用パッチを測色し、測色された前記管理用パッチの測色時点を取得し、取得された前記測色時点と取得された前記印刷時点とに基づいて、前記管理用パッチが印刷されてから測色されるまでの経過時間を算出するようにしたので、管理用パッチが印刷されてから測色されるまでの経過時間を自動的に取得可能である。これにより、ドライダウンに起因する濃度変動下にカラーパッチを測色する場合であっても、該カラーパッチの色値が表す印刷情報を正しく識別可能であり、該印刷情報を適切に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本実施形態に係るプロファイル生成装置が組み込まれた印刷システムの斜視説明図である。
【図2】本実施形態に係るプロファイル用カラーチャートの概略正面図である。
【図3】本実施形態に係る指定色調整用カラーチャートの概略正面図である。
【図4】本実施形態に係るプロファイル生成装置の機能ブロック図である。
【図5】本実施形態に係る印刷システムを用いて適切な印刷物を得るためのフローチャートである。
【図6】印刷情報が符号化された管理用パッチを印刷物に付するためのフローチャートである。
【図7】本実施形態に係る対応表作成部により作成される対応表の一例を示す図である。
【図8】印刷物に付された管理用パッチから印刷情報を取得するためのフローチャートである。
【図9】ドライダウンによって生じる印刷物の色差の経時的変化を説明するグラフである。
【図10】図10Aは、カラーチャート印刷要求の通知があった場合における時間管理部の処理内容を説明する機能ブロック図である。図10Bは、測色完了の通知があった場合における時間管理部の処理内容を説明する機能ブロック図である。
【図11】異なる2機種の印刷機におけるガマットの位置関係を示す説明図である。
【図12】異なる3機種の印刷機におけるID番号の設定方法を示す模式図である。
【図13】図13A及び図13Bは、管理用パッチを形成するためのインク使用量を決定する概念図である。
【図14】本実施形態の変形例に係るプロファイル用カラーチャートの概略正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明に係る印刷情報取得方法についてそれを実施するプロファイル生成装置並びに印刷システムとの関係において好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0036】
図1は、本実施形態に係るプロファイル生成装置としての画像処理装置16が組み込まれた印刷システム10の斜視説明図である。
【0037】
印刷システム10は、LAN12と、編集装置14と、画像処理装置16と、印刷機18と、測色計20とを基本的に備える。
【0038】
LAN12は、イーサネット(登録商標)等の通信規格に基づいて構築されているネットワークである。編集装置14と、画像処理装置16と、データベースDBとは、前記LAN12を介して有線又は無線により相互に接続されている。
【0039】
編集装置14は、文字、図形、絵柄や写真等から構成されるカラー画像の配置をページ毎に編集が自在であり、ページ記述言語(以下、PDLという。)による電子原稿、例えば、4色(CMYK)や3色(RGB)のカラーチャンネルからなる8ビット画像データを生成する。
【0040】
ここで、PDLとは、印刷や表示等の出力単位である「ページ」内で文字、図形等の書式情報、位置情報、色情報(濃度情報を含む)等の画像情報を記述する言語である。例えば、PDF(Portable Document Formatの略で、ISO32000−1:2008に規定)、AdobeSystems社のPostScript(登録商標)やXPS(XML Paper Specification)等が知られている。
【0041】
また、編集装置14には図示しないカラースキャナが接続されており、該カラースキャナは、所定の位置にセットされたカラー原稿を光学的に読み取ることで、前記電子原稿の構成要素となるカラー画像データを取得可能である。
【0042】
画像処理装置16は、PDLによる電子原稿をビットマップ形式(ラスタ画像の一種)に展開し、所望の画像処理、例えば、色変換処理、画像拡縮処理や配置処理等を行い、印刷機18の印刷方式に適した印刷信号に変換し、前記印刷機18に前記印刷信号を送信する各機能を有している。
【0043】
また、画像処理装置16は、CPU・メモリ等を有する本体22と、カラー画像を表示する表示装置24と、入力部としての入力装置26(キーボード28及びマウス30)を備えており、さらに測色計20が接続されている。
【0044】
印刷機18は、C、M、Y、Kの各色(プロセスカラー)からなる標準インクと、LC、LM等の淡色やW(白色)等のオプションインクとを組み合わせてカラー画像を形成するインクジェット方式の印刷装置である。この印刷機18は、外部(例えば、画像処理装置16)から受信した印刷信号に基づいて各色のインクの射出制御を行うことにより、印刷媒体としてのメディア32(図1では、ロール状の未印刷のメディア32)上にカラー画像を印刷し、印刷物34(印刷物34の一種であるプロファイル用カラーチャート34pや指定色調整用カラーチャート34cが含まれる。)を形成する。
【0045】
メディア32の基材には、合成紙・厚紙・アルミ蒸着紙等の紙類、塩化ビニル・PET等の樹脂やターポリン等を用いることができる。
【0046】
測色計20は、測定対象物の測色値(以下、単に「色値」という場合がある。)を測定する。ここで測色値とは、三刺激値XYZ、均等色空間の座標値L***等のみならず、波長に対する光学物性値の分布(以下、「分光データ」という。)、例えば、分光放射分布、分光感度分布、分光反射率又は分光透過率が含まれる。
【0047】
図2は、本実施形態に係るプロファイル用カラーチャート34pの概略正面図である。
【0048】
プロファイル用カラーチャート34pは、メディア32上に印刷された、色の異なる100個の略同形状のカラーパッチ36と、該カラーパッチ36の行方向及び列方向の配列位置を特定する数字列38及びアルファベット文字列40と、プロファイル用カラーチャート34pの印刷条件を識別するための管理用パッチ42とから構成される。
【0049】
各カラーパッチ36は、縦方向には10個のカラーパッチ36が隙間なく配置され、横方向には10個のカラーパッチ36が所定間隔の隙間を設けながら配置されている。各カラーパッチ36の色は、CMYK値の各信号レベルの範囲(百分率では0%〜100%、8ビット階調である場合は0〜255)の所定の値が設定されている。
【0050】
数字列38は、上から順に(01)〜(10)の文字列として、各カラーパッチ36の左方部にその位置に対応するように設けられている。一方、アルファベット文字列40は、左から順番に(A)〜(J)の文字列として、各カラーパッチ36の上方部にその位置に対応するように設けられている。
【0051】
管理用パッチ42は、右から順番に、1個の先頭パッチ42aと、4個の印刷情報パッチ42bと、1個のチェックサム用パッチ42c(測色成否検出用パッチ)と、1個の末尾パッチ42dとから構成される。
【0052】
図3は、本実施形態に係る指定色調整用カラーチャート34cの概略正面図である。
【0053】
指定色調整用カラーチャート34cは、メディア32上に印刷された、色の異なる49個の略同形状のカラーパッチ44と、該カラーパッチ44の行方向及び列方向の配列位置を特定する行番号46及び列番号48と、指定色調整用カラーチャート34cの印刷条件を識別するための管理用パッチ42とから構成される。
【0054】
各カラーパッチ44は、縦方向・横方向ともに7個ずつのカラーパッチ44が所定間隔の隙間を設けるように配置されている。各カラーパッチ44の色は、CMYK値の各信号レベルの範囲(百分率では0%〜100%、8ビット階調である場合は0〜255)の所定の値が設定されている。
【0055】
識別情報としての行番号46は、上から順番に(+3)〜(−3)の文字列として、各カラーパッチ44の左方部にその位置に対応するように設けられている。一方、識別情報としての列番号48は、左から順番に(−3)〜(+3)の文字列として、各カラーパッチ44の上方部にその位置に対応するように設けられている。
【0056】
なお、管理用パッチ42は、図2に示す管理用パッチ42と同一の構成を採るため説明を省略する。
【0057】
図4は、本実施形態に係る画像処理装置16の構成ブロック図である。なお、電子原稿は白抜実線矢印の方向に、カラーチャート用画像データは白抜破線矢印の方向に、その他の各種データは実線矢印の方向にそれぞれ供給されることを表す。
【0058】
画像処理装置16の本体22は、編集装置14側から供給される電子原稿を入力するI/F60と、該I/F60を介して供給された電子原稿のPDL形式をビットマップ形式に展開するRIP62(ラスタイメージングプロセッサ)と、該RIP62により展開された電子原稿のCMYK値(あるいはRGB値)に対して所定の色変換処理を施して新たなCMYK値の画像データを得る色変換処理部64と、該色変換処理部64により色変換されて得られた新たなCMYK値の画像データを印刷機18に適した印刷信号(インク射出制御データ)に変換する印刷機ドライバ66と、該印刷機ドライバ66により変換された印刷信号を印刷機18側に出力するI/F68とを備える。
【0059】
また、本体22は、印刷機18毎にプロファイルを管理する色管理部70と、指定色調整用カラーチャート34c又はプロファイル用カラーチャート34pを印刷するための画像データを生成する画像データ生成部72と、印刷要求時点や測色完了時点等の時間を監視する時間管理部74と、表示装置24との接続を可能とするI/F76と、入力装置26(キーボード28及びマウス30)との接続を可能とするI/F78と、測色計20との接続を可能とするI/F80とを備える。
【0060】
さらに、本体22は、その内部の各構成要素から供給される各種データを記憶し、あるいは記憶している各種データを各構成要素に供給する記憶部82を備えている。該記憶部82は、RIP62と、色変換処理部64と、色管理部70と、画像データ生成部72と、時間管理部74と、I/F76と、I/F78と、I/F80とにそれぞれ接続されている。
【0061】
なお、色変換処理部64は、デバイス依存データからデバイス非依存データに変換する目標プロファイル処理部84と、デバイス非依存データからデバイス依存データに変換するする印刷プロファイル処理部86とを備える。ここで、デバイス依存データとは、各種デバイスを適切に駆動するためのCMYK値、RGB値等で定義されるデータである。また、デバイス非依存データとは、HSL、HSB、CIELAB、CIELUV、XYZ等の表色系で定義されるデータである。
【0062】
また、画像データ生成部72は、指定色調整用カラーチャート34cを印刷するための画像データを生成する指定色調整用データ生成部88と、プロファイル用カラーチャート34pを印刷するための画像データを生成するプロファイル用データ生成部90と、画像データに併せて所定の位置に管理用パッチ42を付加する管理用パッチ付加部92とを備える。
【0063】
さらに、色管理部70は、印刷機18毎にプロファイルを生成するプロファイル生成部94と、管理用パッチ42におけるカラーIDを管理するカラーID管理部96と、印刷条件等の各種データを所定の規則に従って変換するデータ変換部98とを備える。さらにまた、データ変換部98は、色値(例えば、L***)と印刷情報とのカラー対応表(対応表)を作成する対応表作成部100と、印刷情報から測色値に符号化する符号化処理部102と、測色値から印刷情報に復号化する復号化処理部104と、管理用パッチ42の先頭パッチ42a又は末尾パッチ42dを検出する検出部106と、測色計20による測色値の取得結果の成否を判定する判定部108と、ドライダウンの定常状態下における管理用パッチ42の測色値を予測する予測部109とから構成される。
【0064】
さらに、RIP62は、電子原稿のビットマップ形式化の際に、印刷機18の解像度等に対応した画像拡縮処理や、印刷フォーマットに対応した回転・反転処理等の種々の画像処理を行うことができる。
【0065】
さらに、印刷機ドライバ66は、CMYK値からインク各色(CMYK、LC、LM、又はW)に対応するインク射出制御用データを作成する。このインク射出制御用データは、印刷機18のインク射出動作(ON・OFFやインクドット径の大小等)との間でその印刷機18固有のデータ定義に従って関連付けられている。その際、8ビット多階調画像から2値画像等の低階調画像への変換を要するが、ディザマトリクス法や誤差拡散法等の公知のアルゴリズムを用いることができる。
【0066】
さらに、目標プロファイル処理部84又は印刷プロファイル処理部86は、印刷機18の印刷モードに応じてプロファイルを補正することができる。ここで、印刷モードとは、印刷ヘッドのノズル数、印刷ヘッドの走査時におけるインク射出タイミング(片方向・双方向)、パス数、搭載インク色数及びその種類、インク射出制御用データ作成のアルゴリズム等の、印刷に関する各種設定をいう。
【0067】
さらに、CPU等で構成される制御部(不図示)は、この画像処理に関するすべての制御を行う。すなわち、本体22内部の各構成要素の制御(例えば、記憶部82のデータ読出し・書込み)のみならず、I/F76を介して表示装置24に表示信号を送信する制御や、I/F80を介して測色計20から測色データを取得する制御等も含まれる。
【0068】
本実施形態に係る画像処理装置16は以上のように構成され、上述した各画像処理機能は、基本プログラム(オペレーティングシステム)上で動作する応用プログラムを用いて実現することができる。
【0069】
本実施形態に係る印刷システム10は、基本的には以上のように構成されるものであり、次にその動作について説明する。
【0070】
図5は、本実施形態に係る印刷システム10を用いて適切な印刷物34を得るためのフローチャートである。主に図1を参照しながら説明する。
【0071】
先ず、作業者は、形成しようとする印刷物34に関する印刷条件やその観察態様を調査する(ステップS1)。ここで、印刷条件とは、印刷に使用する印刷機18の種類、メディア32の種類や前述した印刷モード等である。また、観察態様とは、光源の分光放射分布や印刷物34の掲示態様(反射、透過、又はその混合)等である。
【0072】
次いで、作業者は、印刷機18に適切なプロファイルを選定する(ステップS2)。通常、目標プロファイル又は印刷プロファイルは、本体22の記憶部82に保存されている。印刷機18に適切なプロファイルが登録(記憶部82に記憶)されていない場合は、印刷プロファイルを別途生成することができる。
【0073】
次いで、印刷機18を用いて電子原稿を印刷し、印刷物34を得る(ステップS3)。ここで、図示しないラミネート処理装置を用いて印刷物34にラミネート処理を施し、その画像形成面上に保護膜を設けてもよい。そうすれば、画像の擦過性・堅牢性を向上させることができる。
【0074】
次いで、印刷物34のカラー画像の色を評価し(ステップS4)、画像の色が適切か否かを判断する(ステップS5)。所望の色合いが得られたか否かについての評価方法としては、画像の全体的外観又は部分的外観に着目し、作業者等の目視により良否を判断する方法、あるいは、測色計20を用いて印刷物34の所定の箇所を測色し、その値が所望の範囲内に収まるか否かで判断する方法等が使用される。
【0075】
この画像評価の結果、印刷物34の画像の色が適切でないと判断された場合は、プロファイルの変更等を行うことにより色の微調整を行う(ステップS6)。この具体的方法としては、プロファイルの再設定・再生成や、プロファイルの微調整(現在設定されているプロファイルの補正)等が挙げられる。
【0076】
以下、印刷と評価を繰り返すことにより(ステップS3〜S6)、所望の色の印刷物34が得られる。
【0077】
ここで、電子原稿の印刷(ステップS3)の際の、画像処理装置16による画像処理の流れについて、図4を参照しながら詳細に説明する。
【0078】
編集装置14から供給された電子原稿(PDL形式)が、LAN12及びI/F60を介して画像処理装置16に入力されると、前記電子原稿は、RIP62によりそれぞれ8ビットのCMYKビットマップ形式(デバイス依存の画像データ)に展開され、目標プロファイル処理部84によりL***(デバイス非依存の画像データ)に変換され、印刷プロファイル処理部86によりCMYK値(デバイス依存の画像データ)に変換され、印刷機ドライバ66により印刷信号(すなわち、インク射出制御データ)に変換され、I/F68を介して印刷機18に供給される。必要に応じて、RIP62で展開されたCMYKビットマップ形式の画像データを記憶部82に一時的に保存する。その後、印刷機18により所望の印刷物34が印刷される。
【0079】
このとき、複数の設定条件に対応する目標プロファイル及び印刷プロファイルが予め記憶部82に記憶されているので、予め設定された各種条件に応じて選択的に、目標プロファイルが目標プロファイル処理部84に供給され、印刷プロファイルが印刷プロファイル処理部86に供給される。ここで、各プロファイルに対して印刷機18の印字モード等を加味した補正を適宜行うように構成すれば、さらに適切な色変換処理を行うことができる。
【0080】
また、プロファイルの生成(ステップS2)の際の、画像処理装置16による画像処理の流れについて、図4を参照しながら詳細に説明する。
【0081】
記憶部82により記憶された所定のCMYK値データに基づいて、プロファイル用データ生成部90により生成された画像データは、図4に示すように白抜破線矢印の経路から印刷機ドライバ66に供給され、電子原稿の印刷と同様の動作により印刷機18側に供給される。このようにして得られたプロファイル用カラーチャート34pの各カラーパッチ36(図2参照)を、画像処理装置16に接続された測色計20を用いて測色し、L***の測色値を取得する。この測色値のデータは記憶部82に一旦記憶される。その後、指定されたCMYK値と得られたL***との対応関係に基づいて3次元−4次元変換LUTを作成し、該LUTを備える印刷プロファイルを生成することができる。
【0082】
以上、印刷システム10を用いて適切な印刷物34を得るための方法、すなわち、直接的な色管理方法について説明した。次いで、印刷情報の管理等による間接的な色管理方法、具体的には、管理用パッチ42を介して、印刷機18の印刷情報を印刷物34に付加(又は印刷物34から取得)する方法について詳細に説明する。
【0083】
図6は、印刷情報が符号化された管理用パッチ42を印刷物34に付するためのフローチャートである。プロファイル用カラーチャート34pを例に説明する。
【0084】
先ず、印刷機18に適切な印刷プロファイルを選択する(ステップS101)。ここで、印刷プロファイルは、図4に示す記憶部82により予め記憶されている。その中から、印刷プロファイル処理部86に供給される予定のプロファイルと同一のプロファイルが自動又は手動により選択される。
【0085】
次いで、印刷機18のガマット情報を取得する(ステップS102)。印刷機18のガマット情報は、ステップS101で選択された印刷プロファイルに基づいて把握される。なお、ガマット情報とは、均等色空間(例えば、L***空間)におけるガマット領域の形状を表す各情報であり、ガマット領域の形状とは、ガマット領域の体積、形、位置関係等である。
【0086】
次いで、取得した印刷機18のガマット情報に基づいてカラー対応表を作成する(ステップS103)。カラー対応表は、対応表作成部100により作成され、その後必要に応じて記憶部82に記憶される(図4参照)。
【0087】
図7は、カラー対応表の各アドレスの決定方法の一例を示す説明図である。なお、本図は、L***空間上でのa**平面を表している。
【0088】
画定された印刷機18のガマット110のうち、その境界の近傍色を除く内側の領域に符号化領域112が設けられている。後述するように、色再現性が不安定な傾向があるガマット110境界の近傍色を用いるよりも、色再現性が高い符号化領域112内の色を用いた方が、管理用パッチ42の読取成功率が向上するからである。
【0089】
対応表作成部100により、所定の規則に従って、符号化領域112内の無数の色の中から各目標色値114が設定される。この設定方法は種々存在し得るものであり、アルゴリズムの種類は問わない。例えば、様々なガマット形状に対しても同様の規則に従って作成できるように、隣接する各目標色値114の色差が略等間隔となるように格子状に設けてもよい。
【0090】
その後、対応表作成部100により、各目標色値114に対して互いに重複しない1つの対応数字が割り当てることで、適切なカラー対応表が作成される。図7の例では、原点(L*軸)を始点とする渦巻状に数字を付している。なお、対応数字の値や割り当て順番については図7の例に限られない。
【0091】
このカラー対応表の作成と併せて、各目標色値114に対する色差の誤差の許容範囲がそれぞれ設定される。ここで、色差の誤差とは、測色計20や印刷機18の機器の性能ばらつきやドライダウンに起因する色再現のずれを意味する。図7に示すように、各目標色値114を中心とした閉空間116(色領域)がそれぞれ設定される。
【0092】
次いで、印刷情報パッチ42b当たりの最大情報量を決定する(ステップS104)。この最大情報量は、印刷情報パッチ42bに色の制約を課さない限り、前ステップS103により対応数字が割り当てられた閉空間116の総数である。以下、閉空間116の総数をN個とする。
【0093】
次いで、プロファイル用カラーチャート34pに付する印刷情報パッチ42bの数を決定する(ステップS105)。カラーID管理部96(図4参照)により、印刷情報の総データ量を超えるような印刷情報パッチ42bの数が決定される。この数は固定値でもよいし、印刷情報のデータ量の多少に応じて変更してもよい。ここでは、仮にM個とする。
【0094】
次いで、印刷情報の符号化処理を行う(ステップS106)。印刷機18の印刷情報は、ステップS103により作成されたカラー対応表に基づいて、符号化処理部102(図4参照)により符号化され、さらにL***値に変換される。符号化の具体的方法について以下に例示する。
【0095】
第一の符号化方法は、付与されたID番号に対応する印刷情報を割り当てる方法である。つまり、印刷情報の各変数(印刷モード、メディアの種類、印刷用途、印刷機の識別番号、指定色の色見本番号等)の組み合わせをID番号で一元管理するものである。
【0096】
第二の符号化方法は、印刷情報の各変数を前述したカラー対応表の対応数字と予め関連付けておく方法である。例えば、所定の印刷モードがONの状態を「1」、該印刷モードがOFFの状態を「0」として関連付けておき、各変数の対応数字の組み合わせによって符号化がなされる。
【0097】
第三の符号化方法は、印刷情報の各変数を一旦コード化し、その値とカラー対応表の対応数字と関連付けておく方法である。例えば、「PRINTER−1」からなる印刷機18の登録名を各ASCII文字としてコード変換し、その値とカラー対応表の対応数字と関連付けておくことができる。
【0098】
上記のいずれかの符号化方法を用いれば、1個の印刷情報パッチ42bにつき多量の印刷情報を埋め込むことができる。
【0099】
ここで、第一の符号化方法の具体例について説明する。付与されたID番号xが仮に10進法で6桁の数値であるものとし、このxを2色(L*1,a*1,b*1)、(L*2,a*2,b*2)で符号化する場合を考える。符号化の一例として、各測色値は、次の(1)式〜(6)式で算出することができる。
*1=k×Int{x/(10^5)}+h ……(1)
*1=k×Int{x/(10^4)}+h ……(2)
*1=k×Int{x/(10^3)}+h ……(3)
*2=k×Int{x/(10^2)}+h ……(4)
*2=k×Int{x/(10^1)}+h ……(5)
*2=k×Int{x/(10^0)}+h ……(6)
【0100】
なお、付与されたID番号の範囲内において、算出された2色(L*1,a*1,b*1)、(L*2,a*2,b*2)がいずれもガマットの範囲内に収まるように、k、hを予め決定することができる。また、ID番号の符号化・復号化が可能であれば、ID番号xの表記方法は10進法に限られることなく任意に設定することができる。
【0101】
次いで、管理用パッチ42のチェックサムを算出する(ステップS107)。例えば、剰余値をチェックサムの値に設定することができる。具体的には、{N−mod(ΣVi,N)}mod(N)と設定することができる。ここで、modは、モジュロ演算子であり、{Vi}(i=1,…,M)は各印刷情報パッチ42bの値である。このようにして、チェックサム用パッチ42cの色が決定される。
【0102】
符号化処理部102により、管理用パッチ42の先頭パッチ42a、末尾パッチ42dの色も併せて決定される。例えば、カラーパッチ36や管理用パッチ42のいずれにも使用されない色を選択することにより、管理用パッチ42の検出が容易となる。
【0103】
最後に、管理用パッチ42を形成するための画像データを生成し、他の画像データの領域の一部に該画像データを付する(ステップS108)。すなわち、プロファイル用データ生成部90により生成された画像データの一部は、管理用パッチ付加部92により、管理用パッチ42に相当する画像データに置き換えられる。この管理用パッチ42は、カラーパッチ36と区別し易い位置に、あるいは測色し易い位置に配置することができる。
【0104】
以上のようにして、プロファイル用カラーチャート34pに印刷情報としての管理用パッチ42が付された状態で印刷機18により印刷される(ステップ109)。同様にして、指定色調整用カラーチャート34cに管理用パッチ42が付される。
【0105】
次いで、印刷物34に付された管理用パッチ42から印刷情報を取得する具体的方法について、プロファイル用カラーチャート34pを例に、図8に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0106】
先ず、管理用パッチ42の測色を行う(ステップS201)。作業者は、測色計20を用いて、先頭パッチ42a又は末尾パッチ42dを測色開始位置とし、末尾パッチ42d又は先頭パッチ42aを測色終了位置として色値をそれぞれ測色する。なお、プロファイル用カラーチャート34p上のカラーパッチ36と管理用パッチ42の測色順番は問わない。
【0107】
次いで、先頭パッチ42aを検出する(ステップS202)。カラーパッチ36や管理用パッチ42のいずれにも使用されない色値を先頭パッチ42aの色値として選択すると、先頭パッチ42aの検出が容易となる。
【0108】
次いで、各パッチの測色値を取得する(ステップS203)。図2に示す例では、作業者は4個の印刷情報パッチ42b、チェックサム用パッチ42c、末尾パッチ42dの順番で測色する。測色値L***が所定の範囲内にあるか否かを確認し(ステップS204)、所定の範囲内にあれば復号化処理を行う(ステップS206)。図7に示すように、測色値がP1である場合、対応数字「07」の目標色値114における閉空間116内の値であるので、「07」と復号化される。このように、各閉空間116の属否に基づいて色値を復号化することにより、印刷や測色の変動要因を加味した上で色値を適切に復号化できる。
【0109】
また、各閉空間116が相互に重複しないようにカラー対応表が設けられているので、印刷や測色による変動状況下であっても色値を一意に復号化できる。一つの閉空間116内にある2点間の色差の最大値が5〜15の範囲となるように設けることができる。
【0110】
例えば、符号化領域112が20≦L*≦80、−30≦a*≦30、−30≦b*≦30で与えられるとすると、60×60×60=216000の体積を有する。そこで、一辺が6である立方体に1つの符号を割り当てると、最大1000個の符号に対応させることができる。
【0111】
さらに、ドライダウンによる印刷物34の濃度変動特性(図9参照)に応じてカラー対応表を作成してもよい。例えば、濃度変動量が大きい場合には目標色値114の間隔を大きくし、且つ、閉空間116のサイズを大きくすることができる。これにより、ドライダウンによる濃度の経時的変動をも加味した上で色値を適切に復号化できる。すなわち、作業者は印刷物34の印刷後から印刷濃度が安定するまでの時間を待つ必要がない。
【0112】
さらに、印刷機18の色再現性が高い色値の範囲では各閉空間116のサイズを小さくし、印刷機18の色再現性が低い色値の範囲では各閉空間116のサイズを大きくしてもよい。これにより、色再現性の良し悪しを加味した上で色値を適切に復号化できる。
【0113】
さらに、閉空間116の形状は球体(図7参照)に限らず、立方体、正八面体等であってもよい。さらに、閉空間116の属否判定を行うための演算処理を簡略化するため、各閉空間116は同形状にしてもよい。
【0114】
さらに、ガマット110に応じてカラー対応表の作成アルゴリズムを変更してもよい。そうすれば、符号化領域112を効率良く利用でき、より多くの数字を割り当てることができる。
【0115】
また、所定の範囲外であれば、不正値を取得した旨を警告する(ステップS205)。この場合、表示装置24の表示等により警告を行うことができる。そして、復号化処理部104は、取得された色値から最も近い目標色値114を選択し、その色値に基づいて復号化処理を行う。図7に示すように、測色値がP2である場合、いずれの対応数字の閉空間116内に属しないが、P2に最も近い目標色値114である「06」として復号化される。
【0116】
図8に戻り、その後末尾パッチ42dが検出されたか否かを判定し(ステップS207)、末尾パッチ42dが検出されない場合は、ステップS203〜S207の処理を繰り返す。
【0117】
末尾パッチ42dが検出された場合は、復号化により得られた値を結合し、印刷機18の印刷情報を復元する(ステップS208)。
【0118】
次いで、チェックサムの確認を行う(ステップS209)。具体的には、判定部108(図4参照)により、4個の印刷情報パッチ42b及びチェックサム用パッチ42cの値の総和をNで除算し剰余値が算出される。もし、剰余値が0であればいずれの測色値も正常に測定されたものとしてOKと判定され、剰余値が0でなければいずれかの測色値が異常であるとしてNGと判定される。
【0119】
判定部108による判定結果がOKであれば、読み取った印刷情報を表示する(ステップS210)。例えば、プロファイル用カラーチャート34pの印刷情報を表示装置24に表示させることにより、作業者はその印刷情報を容易に確認することができる。
【0120】
一方、判定部108による判定結果がNGであれば、読取異常である旨を表示する(ステップS211)。さらに、チェックサム(剰余値)の確認結果に応じて、測色計20、印刷機18又はドライダウンによる異常原因を切り分けて、その結果を表示装置24に表示させることができる。
【0121】
次いで、プロファイル用カラーチャート34pの印刷出力時間を取得する(ステップS212)。読み取った印刷情報の中にプロファイル用カラーチャート34pの印刷時点が含まれている場合は、その時間を取得してもよい。
【0122】
次いで、プロファイル用カラーチャート34pの印刷時点から所定の時間(第1の閾値)が経過しているか否かを判定する(ステップS213)。この第1の閾値は、ドライダウンに起因するカラーパッチ36の濃度の経時的変動がほとんど起こらなくなるまでの十分な時間である。詳細は後述する。
【0123】
印刷時点からの経過時間が第1の閾値を超えている場合は、作業者は、測色計20を用いてプロファイル用カラーチャート34pの各カラーパッチ36を測色する(ステップS214)。取得された測色値を用いて印刷プロファイルを作成する動作は、上述した通りであるから説明を割愛する。
【0124】
一方、印刷時点からの経過時間が第1の閾値を超えていない場合は、所定の時間だけ待つ旨の警告をする(ステップS215)。単なる警告のみならず、所定の時間が経過までの残り時間を随時表示するようにしてもよい。
【0125】
以上のようにして、プロファイル用カラーチャート34pに付された管理用パッチ42から印刷情報が取得される。同様にして、指定色調整用カラーチャート34cに付された管理用パッチ42から印刷情報が取得される。
【0126】
なお、管理用パッチ42から取得された印刷情報と、該管理用パッチ42が付されたカラーチャート(図2又は図3に示すカラーパッチ36)の測色等により得られた色情報とを関連付けて管理してもよい。例えば、プロファイル用カラーチャート34p(図2参照)の各カラーパッチ36と併せて管理用パッチ42も測色しておけば、プロファイル用カラーチャート34pの印刷情報と関連付けられた印刷プロファイルを生成することができる。これにより、印刷プロファイルを誤りなく確実に管理できる。
【0127】
このように、印刷情報と色値とを直接対応づけるカラー対応表を用いるので、印刷物34の描画内容と独立して印刷情報を取得できる。また、印刷機18のガマット110に応じてカラー対応表を作成する対応表作成部100を設けているので、印刷機18が再現可能である範囲内の色値と印刷情報とを適切に対応づけることができる。これにより、異なる種類のカラーチャートや、カラーチャート以外の印刷物34を印刷する場合であっても、同一の印刷機18内での整合性が失われることなく印刷物34の印刷情報を取得できる。
【0128】
ところで、以下の事項をさらに考慮することにより、印刷情報取得システムとしての頑健性をさらに向上できる。
【0129】
[1.ドライダウンを考慮した管理用パッチの測色]
続いて、印刷機18による印刷後に発生するドライダウンを考慮した管理用パッチ42の測色方法について以下に説明する。
【0130】
図9は、ドライダウンによって生じる印刷物34の色差の経時的変化を説明するグラフである。CMYKのプロセスカラーについてそれぞれの単色のべた画像を印刷し、その色差の時間的変化を追った。グラフの横軸は時間(単位は分)であり、縦軸はドライダウンの定常状態下における測色値を基準とする相対的色差である。CMYKのいずれの色についても、印刷直後から指数関数的に色差が変化し、最終的には定常状態(つまり、縦軸の値が0)に達する。
【0131】
このグラフに基づいて定常状態における管理用パッチ42の測色値を予測することができるので、以下に示すように種々の処理仕様を実現することができる。
【0132】
図10A及び図10Bは、図4に示す時間管理部74の詳細ブロック図である。
【0133】
図10Aは、カラーチャートの印刷要求通知があった場合の時間データの流れを表す図である。図示しない制御部からカラーチャート印刷要求通知を受けた時間取得部120により現在時刻が取得される。その後、現在時刻は、符号化処理部102側へ印刷情報の一部である印刷時刻(印刷時点)として供給される。
【0134】
図10Bは、測色計20による測色完了通知があった場合の時間データの流れを表す図である。図示しない制御部から測色完了通知を受けた時間取得部120により現在時刻が取得され、該現在時刻は測色時刻(測色時点)として経過時間算出部122に供給される。
【0135】
一方、印刷情報の一部である印刷時刻は、復号化処理部104により復号化され、経過時間算出部122に供給される。経過時間算出部122は、現在時刻と印刷時刻との差分値を、管理用パッチ42が印刷機18により印刷されてから測色されるまでの経過時間として算出する。
【0136】
その経過時間が警告部124に供給され、予め設定された閾値との大小関係を比較する。例えば、経過時間が第1の閾値以下である場合は、その旨の警告を行うため、表示装置24に警告画面を表示することができる。また、経過時間が第2の閾値(第1の閾値よりも小さい値である。)以下である場合は、測色結果を用いないようにするとともに、測色計20からのデータ取得を禁止する旨を表示装置24に表示することができる。
【0137】
さらに、経過時間算出部122により算出された経過時間はプロファイル生成部94に供給され、プロファイル用カラーチャート34pの定常状態下における測色値L***を予測することができる。すなわち、プロファイル用カラーチャート34pの印刷後にカラーパッチ36の色がドライダウンにより変化している最中であっても、測色計20より取得された測色値L***と供給された経過時間とを用いて、印刷後の時間が十分経過した場合における印刷プロファイルを推定することができる。このようにすれば、待ち時間なく測色が可能であり作業効率が向上する。
【0138】
同様に、経過時間算出部122により算出された経過時間は予測部109に供給され、管理用パッチ42の定常状態下における測色値L***を予測することができる。このようにすれば、管理用パッチ42の読取精度が向上する。
【0139】
ところで、経過時間を一層厳密に算出するため、各カラーチャートの画像データが画像処理装置16から印刷機18に転送される時点を印刷時刻と定義することができる。この場合は、転送時点を管理用パッチ42に直接組み込むことはできないので、該転送時点を画像処理装置16の記憶部82に別途記憶しておき、必要に応じて読み出すようにすればよい。
【0140】
また、管理用パッチ42の中から、測色時点を取得するトリガとなる図示しない時間取得用パッチを別個に設けておいてもよい。あるいは、既に設けている先頭パッチ42a又は末尾パッチ42dにその機能をもたせてもよい。
【0141】
さらに、管理用パッチ42の濃度測定可否を判断するための第3の閾値を設定しておいてもよい。この場合、第3の閾値は、プロファイル用カラーチャート34pのカラーパッチ36(指定色調整用カラーチャート34cのカラーパッチ44)の濃度測定可否を判断するための第1又は第2の閾値と同じ値に設定してもよいし、異なる値に設定してもよい。
【0142】
このように、管理用パッチ42の印刷時点を取得し、管理用パッチ42を測色し、測色された管理用パッチ42の測色時点を取得し、取得された前記測色時点と取得された前記印刷時点とに基づいて、管理用パッチ42が印刷されてから測色されるまでの経過時間を算出するようにしたので、該経過時間を自動的に取得可能である。これにより、ドライダウンに起因する濃度変動下に管理用パッチ42を測色する場合であっても、管理用パッチ42の色値が表す印刷情報を正しく識別可能であり、該印刷情報を適切に取得することができる。
【0143】
[2.複数台の印刷機に対するID管理]
実際の印刷システム10下では、1台の画像処理装置16に対して複数台の印刷機18を接続させる構成が採られ得る。原則的には、印刷機18毎に印刷情報を管理しなければならないため、印刷システム10全体として管理されるデータ量が膨大となる。特に、同一機種の印刷機18が複数台接続された場合、同一内容の印刷情報が印刷機18毎に個別に管理されることになり冗長である。
【0144】
そこで、印刷システム10全体として、複数台の印刷機18に共通に定義されるID番号に基づいて印刷情報を一元的に管理することが好ましい。
【0145】
すなわち、複数台の印刷機18に共通に定義されるID番号を設定し、所定の色値(ガマットの重複領域内の色)と前記ID番号とを対応付ける第1の対応表を作成し、前記ID番号と印刷機18毎の印刷情報とを対応付ける第2の対応表を作成することにより、管理用パッチ42の色と印刷情報とを関連付けるものである。
【0146】
図11は、2台の印刷機18におけるガマットの位置関係を示す説明図である。以下、説明の便宜のため、この2台の印刷機18を第1の印刷機18a、第2の印刷機18bという。
【0147】
図11に示すグラフは、L***空間におけるH*軸断面図であり、横軸はC*、縦軸はL*である。実線で囲まれた領域は第1の印刷機18aにおけるガマット150を、一点鎖線で囲まれた領域は第2の印刷機18bにおけるガマット152をそれぞれ示している。
【0148】
ガマット150とガマット152との重複領域154に関して、第1及び第2の印刷機18a、18bのいずれも色再現が可能であるから、共通のID番号(グローバルID番号)を用いることができる。一方、ガマット150と重複領域154との差集合である非重複領域156に関して、第1の印刷機18aのみ色再現が可能であるから、第1の印刷機18aに固有のID番号(プライベートID番号)を用いる。また、ガマット152と重複領域154との差集合である非重複領域158に関して、第2の印刷機18bのみ色再現が可能であるから、第2の印刷機18bに固有のID番号(プライベートID番号)を用いる。
【0149】
すなわち、重複領域154内の色に対してはグローバルID番号で割り当て、非重複領域156及び158内の色に対してはプライベートID番号で割り当てることができる。したがって、同一のプライベートID番号に対して、非重複領域156内の1色に、非重複領域158内の1色に、すなわち、印刷機18毎に異なる印刷条件を割り当てることができる。
【0150】
図12は、3台の印刷機18におけるID番号の設定方法を示す模式図である。以下、説明の便宜のため、この3台の印刷機18を第1の印刷機18a、第2の印刷機18b、第3の印刷機18cという。
【0151】
実線で囲まれた略円状のガマット160、162、164は、それぞれ第1の印刷機18a、第2の印刷機18b、第3の印刷機18cのガマットを示している。
【0152】
第1、第2及び第3の印刷機18a、18b及び18cの重複領域166に関しては、3台すべての印刷機、すなわち、第1、第2及び第3の印刷機18a、18b及び18cにより色再現が可能であるから、共通のID番号(グローバルID番号)を用いることができる。図12に示す一例によれば、ID番号1〜10を割り当てる。
【0153】
第1及び第2の印刷機18a及び18bの一部重複領域168に関しては、第1及び第2の印刷機18a及び18bにより色再現が可能であるから、この2台に対して共通のID番号(プライベートID番号)を用いることができる。図12に示す一例によれば、ID番号11〜20を割り当てる。
【0154】
第1及び第3の印刷機18a及び18cの一部重複領域170に関しては、第1及び第3の印刷機18a及び18cにより色再現が可能であるから、この2台に対して共通のID番号(プライベートID番号)を用いることができる。図12に示す一例によれば、ID番号21〜30を割り当てる。
【0155】
第2及び第3の印刷機18b及び18cの一部重複領域172に関しては、第2及び第3の印刷機18b及び18cにより色再現が可能であるから、この2台に対して共通のID番号(プライベートID番号)を用いることができる。図12に示す一例によれば、ID番号31〜40を割り当てる。
【0156】
一方、ガマット160と重複領域166、一部重複領域168、170との差集合である非重複領域174に関して、第1の印刷機18aのみ色再現が可能であるから、第1の印刷機18aに固有のID番号(プライベートID番号)を用いる。図12に示す一例によれば、第1の印刷機18aに対して未だ割り当てられていないID番号31〜50を割り当てる。
【0157】
また、ガマット162と重複領域166、一部重複領域168、172との差集合である非重複領域176に関して、第2の印刷機18bのみ色再現が可能であるから、第2の印刷機18bに固有のID番号(プライベートID番号)を用いる。図12に示す一例によれば、第2の印刷機18bに対して未だ割り当てられていないID番号21〜30、41〜50を割り当てる。
【0158】
さらに、ガマット164と重複領域166、一部重複領域170、172との差集合である非重複領域178に関して、第3の印刷機18cのみ色再現が可能であるから、第3の印刷機18cに固有のID番号(プライベートID番号)を用いる。図12に示す一例によれば、第3の印刷機18cに対して未だ割り当てられていないID番号11〜20、41〜50を割り当てる。
【0159】
このように構成すれば、共通のID番号を一元的に管理可能であり、データ量を低減することができる。また、データの登録・削除その他の管理が容易となる。
【0160】
具体的には、図12に示す一例のように、印刷機1台につき50件ずつの印刷情報を管理する際には、従来技術の場合は合計150色を管理する必要があった。一方、本実施形態の場合は合計100色を管理すれば足りる。
【0161】
さらに、印刷システム10として画像処理装置16が複数台存在する場合は、ID番号の種類に応じてその管理装置を別個に設けてもよい。例えば、グローバルID番号に関しては、LAN12(図1参照)に接続されているデータベースDBにより一元的に管理することができる。また、印刷機18毎のプライベートID番号に関しては、該印刷機18に接続される各画像処理装置16(図4に示すカラーID管理部96)により個別に管理することができる。
【0162】
[3.保護膜を被覆させた後の印刷物の測色値予測]
ラミネートフイルム等の保護膜を印刷物34の画像形成面上に被覆させる場合、ラミネートフイルムの有無によりカラー画像の測色値が無視できない程度に変化する。このように形成された印刷物を「保護膜付印刷物」という。
【0163】
通常は、作業の効率性や経済性の観点から、保護膜を被覆することなくプロファイル用カラーチャート34pの各カラーパッチ36を測色する。しかし、例えば、指定色調整用カラーチャート34cに保護膜を被覆させ、指定色の調整作業が完了した後に、印刷情報の再確認のために管理用パッチ42を測色する場合がある。この場合、保護膜の被覆前後により測色結果が異なるので、管理用パッチ42に符号化された印刷情報の取得ができなくなるおそれがある。とはいえ、一度被覆した保護膜を印刷物34から剥がすことは実質的に不可能であるか、或いは可能であっても作業上困難を伴う。
【0164】
そこで、保護膜の有無や保護膜の種類に応じて、管理用パッチ42の色値を補正した上で、印刷情報に復号化してもよい。これにより、管理用パッチ42を測色する時点が印刷物34に保護膜を被覆する前若しくは被覆した後のいずれであっても、色値を適切に復号化できる。
【0165】
一方、管理用パッチ42を測色する際の保護膜の有無や保護膜の種類に応じて、印刷情報から符号化した色値を予め補正した上で、管理用パッチ42の画像データを付加してもよい。これにより、印刷物34に保護膜を被覆する前に、若しくは被覆した後に管理用パッチ42を測色した場合のいずれであっても、色値を適切に復号化できる。
【0166】
[4.管理用パッチの印刷方法]
インクジェット方式の印刷機18の場合は、メディア32に付着させるインク量が増すほど、メディア32の内部及び表面のインクが十分に乾燥するまでに要する時間は長くなる。また、メディア32が吸収可能なインクの許容量又は許容吸収速度を超える場合、メディア32の表面上でインク溢れが生じる可能性がある。このように、メディア32に画像を形成した後に十分な乾燥時間を経過しないままに、管理用パッチ42を測色すると以下の不都合が生じる。
【0167】
例えば、インクが溢れたメディア32上の所定箇所に接触すると、測色計20や作業者にインクが付着するので、印刷物34の前記所定箇所のみ脱色や混色することがある。また、インクが未だ乾燥していない状況下ではメディア32表面における擦過性が脆弱になるので、印刷物34の表面に擦り傷が発生することもある。いずれの場合も印刷不具合の一因となり、測色計20の不良のおそれもある。
【0168】
そこで、管理用パッチ42の印刷に用いるインク量に応じて該管理用パッチ42の色値を選択してもよい。これにより、インクの使用量を予め把握可能であり、ドライダウンに起因する印刷濃度の変動量を見積もることができる。
【0169】
また、管理用パッチ42の印刷に用いる各色のインクの総量が、該管理用パッチ42を除く印刷領域(画像や文字等)の印刷に用いる各色のインクの総量よりも少なくなるように、該管理用パッチ42の色値を選択してもよい。そうすれば、管理用パッチ42の形成面上でのインク溢れを防止できるとともに、インクの乾燥時間が短縮され、さらにはドライダウンに起因する印刷濃度の変動量も低減できる。
【0170】
図13A及び図13Bは、管理用パッチ42を形成するためのインク使用量を決定する概念図である。ここでは、説明の便宜上、CMY(又はCMK)の3色であるが、インクの色数や組合せは任意に変更できることはいうまでもない。
【0171】
図13Aは、溶媒の主成分が水である水系インクにおける、CMYインクの使用量の決定例を示す。C軸、M軸、Y軸はいずれも網%(各色インクの射出量0〜100%に相当)で表記されており、それぞれ0〜100%の範囲で設定される。本図では、(C,M,Y)=(70,0,0)、(0,70,0)、(0,0,70)の3点で一面をなし、且つ原点Oを頂点とする正三角錐の領域200が形成されている。この領域200内の任意の色を用いることにより、CMY各インクの使用量の総和を常に70%以下にすることができる。
【0172】
図13Bは、溶媒の主成分が有機溶剤である顔料インクにおける、CMKインクの使用量の決定例を示す。C軸、M軸、K軸はいずれも網%(インクの射出量に相当)で表記されており、それぞれ0〜100%の範囲で設定される。本図では、破線で示される大きな三角錐から(C,M,K)=(150,0,0)、(0,150,0)、(0,0,150)の3点をそれぞれ頂点とする3つの小さな三角錐を切り欠いた、七面体の領域202が形成されている。この領域202内の任意の色を用いることにより、CMK各インクの使用量の総和を常に150%以下にすることができる。
【0173】
このようにして、印刷機ドライバ66(図2参照)により、管理用パッチ42の色値に対応するCMYKデータから適切なインク射出制御データに変換される。また、印刷機ドライバ66が備える色変換LUTを参照し、印刷機18による印刷の際にインクの使用量が少ない色値のみを予め選択しておくこともできる。
【0174】
なお、CMYK各色(プロセスカラー)からなる標準インクと、LC、LM等の淡色や白色、クリアの無彩色等のオプションインクとを組み合わせる場合も同様である。例えば、インク使用量を極力抑えつつもガマット110内の色再現範囲を広くするためには、淡色インクや無彩色インクを使用せず、プロセスカラー等の濃い色のインクを中心に用いてもよい。
【0175】
また、インクの射出量を制御可能な印刷機18を用いて、インクドット径が複数のサイズとなるようにメディア32上に形成可能である場合は、色再現範囲を広くするようにインクの射出量を選択してもよい。例えば、インクドット径が大きくなるように画像を形成し、L*の色再現範囲(特にシャドー部)を拡大することができる。
【0176】
さらに、メディア32上に各色インクを付着させる密度を略均一にするため、インク液滴数(量)を微視的に均等に割り当てるようにインク射出制御データを作成してもよい。
【0177】
さらに、管理用パッチ42を除く印刷領域における印刷モードに基づいて印刷物34の印刷時間を見積もり、該印刷時間を勘案して管理用パッチ42の形成のためのインク使用量を決定してもよい。
【0178】
さらに、図14に示すように、メディア32の先端204側(メディア32の搬送方向の上流側)に管理用パッチ42を配置してもよい。その理由を以下説明する。
【0179】
印刷機18による印刷動作が開始してから、後端206側の印刷が完了するまでは、すなわち、他のすべての印刷領域(図14ではカラーパッチ36)での印刷が終了するまでは、印刷物34(メディア32)は印刷機18に拘束される。その後、メディア32が断裁されて印刷物34が排出される時点では、管理用パッチ42の印刷時点から相当の時間が経過している。そうすると、ドライダウンによる濃度変動特性(図9参照)から明らかであるように、管理用パッチ42を測色可能である時点では、その印刷濃度の変動量が小さくなっている。
【0180】
このように、管理用パッチ42をメディア32の先端204側(時間的に先に印刷される側)に配置することにより、その印刷時点から測色時点までの時間間隔を長くすることが可能であり、その結果、ドライダウンに起因する濃度変動に伴う管理用パッチ42の復号化の精度を一層向上できる。
【0181】
なお、この発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の主旨を逸脱しない範囲で自由に変更できることは勿論である。
【0182】
例えば、本実施形態では、プロファイル用カラーチャート34p(図2参照)、指定色調整用カラーチャート34c(図3参照)が有するカラーパッチ36、44の個数をそれぞれ100個、49個としているが、これらを自由に変更できるように構成してもよい。
【0183】
また、本実施形態では、カラーチャートの種類としてプロファイル用カラーチャート34p(図2参照)及び指定色調整用カラーチャート34c(図3参照)について説明しているが、これらの種類には限られない。具体的には、指定色の最終確認をさせるためにクライアントに提示するカラーチャートも含まれる。
【0184】
さらに、本実施形態では、1台の画像処理装置16上で、(1)符号化、(2)印刷指示、(3)測色データ取得、(4)復号化、(5)印刷情報の取得、の各動作を行うように構成しているが、上記動作を行うため各機能を複数の装置に分散して設けてもよい。例えば、印刷機18のカラー対応表をデータベースDBで一元的に管理してもよい。かかる場合は、測色計20を用いて取得された管理用パッチ42の色値は、画像処理装置16によりデータベースDBに送信され、該データベースDBにより印刷物34の印刷情報に変換される。このようにすれば、画像処理装置16は、復号化処理部104を備えることなく印刷物34の印刷情報を取得することができる。
【0185】
さらに、本実施形態では、印刷機18がインクジェット方式である構成を採っているがこれに限定されることなく、オフセット印刷機、電子写真、感熱方式等であっても本発明の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0186】
10…印刷システム 14…編集装置
16…画像処理装置 18…印刷機
20…測色計 22…本体
24…表示装置 26…入力装置
32…メディア 34…印刷物
34p…プロファイル用カラーチャート 34c…指定色調整用カラーチャート
36、44…カラーパッチ 38…数字列
40…アルファベット文字列 42…管理用パッチ
42a…先頭パッチ 42b…印刷情報パッチ
42c…チェックサム用パッチ 42d…末尾パッチ
60、68、76、78、80…I/F 62…RIP
64…色変換処理部 66…印刷機ドライバ
70…色管理部 72…画像データ生成部
74…時間管理部 82…記憶部
84…目標プロファイル処理部 86…印刷プロファイル処理部
88…指定色調整用データ生成部 90…プロファイル用データ生成部
92…管理用パッチ付加部 94…プロファイル生成部
96…カラーID管理部 98…データ変換部
100…対応表作成部 102…符号化処理部
104…復号化処理部 106…検出部
108…判定部 109…予測部
110、150、152、160、162、164…ガマット
112…符号化領域 114…目標色値
116…閉空間 120…時間取得部
122…経過時間算出部 124…警告部
154、166…重複領域
156、158、174、176、178…非重複領域
168、170、172…一部重複領域 200、202…領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷物に付された管理用パッチを用いて前記印刷物の印刷情報を取得する印刷情報取得方法であって、
前記管理用パッチの印刷時点を取得する第1取得ステップと、
前記管理用パッチを測色する測色ステップと、
測色された前記管理用パッチの測色時点を取得する第2取得ステップと、
取得された前記測色時点と取得された前記印刷時点とに基づいて、前記管理用パッチが印刷されてから測色されるまでの経過時間を算出する算出ステップと
を備えることを特徴とする印刷情報取得方法。
【請求項2】
請求項1記載の印刷情報取得方法において、
前記管理用パッチには測色成否検出用パッチが含まれ、
前記測色成否検出用パッチの測色値に基づいて前記管理用パッチの測色値の取得結果の成否を判定する判定ステップを備える
ことを特徴とする印刷情報取得方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の印刷情報取得方法において、
算出された前記経過時間が第1の閾値以下である場合はその旨の警告を行う警告ステップを備える
ことを特徴とする印刷情報取得方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の印刷情報取得方法において、
算出された前記経過時間が第2の閾値以下である場合に所定の時間範囲内での測色値の取得を禁止する禁止ステップを備える
ことを特徴とする印刷情報取得方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の印刷情報取得方法において、
測色された前記管理用パッチの測色値と算出された前記経過時間とに基づいて、ドライダウンの定常状態下における前記管理用パッチの測色値を予測する予測ステップを備える
ことを特徴とする印刷情報取得方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の印刷情報取得方法において、
前記管理用パッチには時間取得用パッチが含まれ、
前記第2取得ステップは、前記時間取得用パッチの測色時点を前記管理用パッチの前記測色時点として取得する
ことを特徴とする印刷情報取得方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の印刷情報取得方法において、
前記印刷情報には前記印刷時点が含まれる
ことを特徴とする印刷情報取得方法。
【請求項8】
請求項7記載の印刷情報取得方法において、
前記印刷物には、プロファイルの生成のためのカラーチャートが含まれる
ことを特徴とする印刷情報取得方法。
【請求項9】
印刷物に付された管理用パッチを用いて前記印刷物の印刷情報を取得する印刷情報取得方法であって、
前記印刷物の印刷情報を所定の規則に従って所定の色値に符号化する符号化ステップと、
測色され得られた前記管理用パッチの色値を前記所定の規則に従って前記印刷物の印刷情報に復号化する復号化ステップとを備え、
前記印刷物はインクジェット方式の印刷機により印刷されるとともに、前記所定の色値は前記印刷物の印刷に用いるインク量に応じて選択される
ことを特徴とする印刷情報取得方法。
【請求項10】
請求項9記載の印刷情報取得方法において、
前記所定の色値は、前記管理用パッチの印刷に用いる各色のインクの総量が、前記管理用パッチを除く印刷領域の印刷に用いる各色のインクの総量よりも少なくなるように選択される
ことを特徴とする印刷情報取得方法。
【請求項11】
請求項8記載の印刷情報取得方法を用いて前記印刷情報を取得する第3取得ステップと、
取得された前記印刷情報に含まれる前記印刷時点に基づいて前記カラーチャートの測色の可否を判定する判定ステップと、
前記カラーチャートの測色が可能であると判定された場合に前記カラーチャートを測色して各カラーパッチの測色値を取得する第4取得ステップと、
取得された各カラーパッチの測色値に基づいて印刷プロファイルを生成する生成ステップと
を備えることを特徴とするプロファイル生成方法。
【請求項12】
請求項11記載のプロファイル生成方法を用いて、取得された前記印刷情報と対応付けられた印刷プロファイルを生成するプロファイル生成部を有する
ことを特徴とするプロファイル生成装置。
【請求項13】
印刷物に付された管理用パッチを用いて前記印刷物の印刷情報を取得するためにコンピュータを、
前記管理用パッチの印刷時点を取得する手段、
前記管理用パッチを測色する手段、
測色された前記管理用パッチの測色時点を取得する手段、
取得された前記測色時点と取得された前記印刷時点とに基づいて、前記管理用パッチが印刷されてから測色されるまでの経過時間を算出する手段
として機能させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−97549(P2011−97549A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41080(P2010−41080)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】