印刷物検査方法および印刷物検査装置
【課題】装置コストを抑制しつつ、磁気検査を高速かつ高精度に行うこと。
【解決手段】移動制御部が、噴出エアーの介在によって印刷物との間隔が微少間隔となったならば、磁気ヘッドの温度変化が止まる熱平衡状態を待ち合わせることなく、磁気ヘッドの走査を開始し、走査が開始されたならば、磁気情報記憶指示部が、磁気ヘッドからの信号値を記憶部へ記憶させる指示を行い、近似曲線算出部が、記憶部へ記憶された信号値の中から磁気検出がない部分に対応する磁気なし信号値を抽出し、抽出された磁気なし信号値の変動履歴をあらわす近似曲線を算出し、補正処理部が、算出された近似曲線に基づいて記憶部へ記憶された信号値を補正するように印刷物検査装置を構成する。
【解決手段】移動制御部が、噴出エアーの介在によって印刷物との間隔が微少間隔となったならば、磁気ヘッドの温度変化が止まる熱平衡状態を待ち合わせることなく、磁気ヘッドの走査を開始し、走査が開始されたならば、磁気情報記憶指示部が、磁気ヘッドからの信号値を記憶部へ記憶させる指示を行い、近似曲線算出部が、記憶部へ記憶された信号値の中から磁気検出がない部分に対応する磁気なし信号値を抽出し、抽出された磁気なし信号値の変動履歴をあらわす近似曲線を算出し、補正処理部が、算出された近似曲線に基づいて記憶部へ記憶された信号値を補正するように印刷物検査装置を構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、磁気ヘッドの計測面と印刷物との間に印刷物を押圧するエアーを介在させ、計測面と印刷物との間隔を所定の微少間隔に保ったまま印刷物を走査することで印刷物の磁気特性を検査する印刷物検査方法および印刷部検査装置に関し、特に、装置コストを抑制しつつ、磁気検査を高速かつ高精度に行うことができる印刷物検査方法および印刷物検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、計測面にエアー噴出口が設けられた磁気ヘッドを用いて印刷物の検査を行う印刷物検査装置が知られている。かかる印刷物検査装置では、磁気ヘッドの計測面からエアーを噴出することで、印刷物の波打ちやしわを矯正し、磁気ヘッドと印刷物との距離を微少距離に保ったまま印刷物の走査を行う。
【0003】
ここで、磁気ヘッドの移動によって走査を行う場合には、エアー噴出に起因する磁気ヘッドの温度変化が止まる熱平衡状態となるまで磁気ヘッドを待機させたうえで、走査を開始する必要がある。これは、通常、磁気ヘッドの温度と噴出されるエアーの温度とに差が生じており、上記した熱平衡状態となるまでに所定の時間を要するためである。
【0004】
しかし、磁気ヘッドの温度変化が熱平衡状態となるまで磁気ヘッドを待機させると、磁気ヘッドの待機時間がそのまま計測時間の長大化につながるため好ましくない。特に、印刷物に対する走査を多数回行う場合には、待機時間の累積による計測時間の長大化が顕著となる。
【0005】
このため、エアー噴出に起因する磁気ヘッドの温度変化を制御することで、待機時間を短縮化する技術が提案されている。たとえば、磁気ヘッド周辺の温度と同温のエアーを噴出するようにエアーの温度調整を行う技術や、噴出するエアーと同温となるように磁気ヘッドの温度調整を行う技術が提案されている。
【0006】
なお、特許文献1には、磁気ヘッドの表面温度を測定し、表面温度ごとにあらかじめ用意された補正値を用いて磁気ヘッドの出力値を補正する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−263701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、噴出するエアーの温度や、磁気ヘッドの温度を調整する従来技術には、温度調整用の回路や部材が必要であり、印刷物検査装置自体が高価となってしまうという問題や、磁気ヘッドや周辺部材等が大型化してしまうという問題があった。
【0009】
このため、特許文献1の技術を用いて磁気ヘッドの出力値を補正することも考えられるが、特許文献1の技術を用いるためには、磁気ヘッドの表面温度を測定するセンサが必要であり、装置のコスト低減や磁気ヘッドの小型化に対する障害となる。また、エアー噴出を伴う場合、磁気ヘッド内部の温度分布や温度勾配の変化は複雑であり、かかる変化に対応した補正値を予め決定しておくことは難しい。
【0010】
これらのことから、装置コストを抑制しつつ、磁気検査を高速かつ高精度に行うことができる印刷物検査方法あるいは印刷物検査装置をいかにして実現するかが大きな課題となっている。
【0011】
本発明は、上述した従来技術による問題点を解消するためになされたものであり、装置コストを抑制しつつ、磁気検査を高速かつ高精度に行うことができる印刷物検査方法および印刷物検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、磁気ヘッドの計測面と印刷物との間に前記印刷物を押圧するエアーを介在させ、前記計測面と前記印刷物との間隔を所定の微少間隔に保ったまま前記印刷物を走査することで前記印刷物の磁気特性を検査する印刷物検査方法であって、前記エアーの介在によって前記印刷物との間隔が前記微少間隔となったならば、前記磁気ヘッドの温度変化が止まる熱平衡状態を待ち合わせることなく、前記磁気ヘッドの前記走査を開始する走査開始工程と、前記走査開始工程によって前記走査が開始されたならば、前記磁気ヘッドからの信号値を記憶部へ記憶させる指示を行う記憶指示工程と、前記記憶指示工程の指示によって前記記憶部へ記憶された前記信号値の中から磁気検出がない部分に対応する磁気なし信号値を抽出する抽出工程と、前記抽出工程によって抽出された前記磁気なし信号値の変動履歴をあらわす近似曲線を算出する算出工程と、前記算出工程によって算出された前記近似曲線に基づいて前記記憶指示工程の指示によって前記記憶部へ記憶された前記信号値を補正する補正工程とを含んだことを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、上記の発明において、前記抽出工程は、前記記憶指示工程の指示によって前記記憶部へ記憶された前記信号値のうち、予め定められた数値範囲に該当する信号値を前記磁気なし信号値として抽出することを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、上記の発明において、前記算出工程は、前記近似曲線を仮の近似曲線として算出したならば、該仮の近似曲線の算出に用いられた前記磁気なし信号値のうち、該仮の近似曲線を基準とした分散の絶対値が所定値以上の前記磁気なし信号値を除外したうえで、除外後に残存する前記磁気なし信号値の前記変動履歴をあらわす最終的な前記近似曲線を算出することを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、上記の発明において、前記抽出工程は、前記記憶指示工程の指示によって前記記憶部へ記憶された前記信号値から最小値が更新されたポイントを時系列の正順または逆順に順次取得し、取得した前記ポイントの値を前記磁気なし信号値として抽出することを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、上記の発明において、前記補正工程は、前記記憶指示工程の指示によって前記記憶部へ記憶された各信号値から、前記算出工程によって算出された前記近似曲線上の該当する値をそれぞれ差し引くことを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、磁気ヘッドの計測面と印刷物との間に前記印刷物を押圧するエアーを介在させ、前記計測面と前記印刷物との間隔を所定の微少間隔に保ったまま前記印刷物を走査することで前記印刷物の磁気特性を検査する印刷物検査装置であって、前記エアーの介在によって前記印刷物との間隔が前記微少間隔となったならば、前記磁気ヘッドの温度変化が止まる熱平衡状態を待ち合わせることなく、前記磁気ヘッドの前記走査を開始する走査開始手段と、前記走査開始手段によって前記走査が開始されたならば、前記磁気ヘッドからの信号値を記憶部へ記憶させる指示を行う記憶指示手段と、前記記憶指示手段の指示によって前記記憶部へ記憶された前記信号値の中から磁気検出がない部分に対応する磁気なし信号値を抽出する抽出手段と、前記抽出手段によって抽出された前記磁気なし信号値の変動履歴をあらわす近似曲線を算出する算出手段と、前記算出手段によって算出された前記近似曲線に基づいて前記記憶指示手段の指示によって前記記憶部へ記憶された前記信号値を補正する補正手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、エアーの噴出を開始した直後に磁気ヘッドの走査を開始し、走査が開始されたならば、磁気ヘッドからの信号値を記憶部へ記憶させる指示を行い、記憶部へ記憶された信号値の中から磁気検出がない部分に対応する磁気なし信号値を抽出し、抽出された磁気なし信号値の変動履歴をあらわす近似曲線を算出し、算出された近似曲線に基づいて記憶部へ記憶された信号値を補正することとしたので、エアー噴出後の温度変動の熱平衡状態を待ち合わせる必要がないので、磁気検査を高速に行うことができるとともに、近似曲線に基づいた温度補正によって高精度な磁気検査を行うことができるという効果を奏する。すなわち、磁気ヘッドで取得した信号値に磁気なし信号値が含まれていれば、かかる信号値のみに基づいて適正な補正処理を行うことができるという効果を奏する。また、エアーの温度あるいは磁気ヘッドの温度を制御する必要がないので、磁気ヘッドを含む周辺部材を簡略化することが可能となり、装置コストを抑制することができるという効果を奏する。
【0019】
また、本発明によれば、記憶部へ記憶された信号値のうち、予め定められた数値範囲に該当する信号値を磁気なし信号値として抽出することとしたので、信号値の変動履歴におけるベース曲線を簡便に、かつ、精度良く推定することができるという効果を奏する。
【0020】
また、本発明によれば、近似曲線を仮の近似曲線として算出したならば、仮の近似曲線の算出に用いられた磁気なし信号値のうち、仮の近似曲線を基準とした分散の絶対値が所定値以上の磁気なし信号値を除外したうえで、除外後に残存する磁気なし信号値の変動履歴をあらわす最終的な近似曲線を算出することとしたので、近似曲線を精度良く算出することができるという効果を奏する。
【0021】
また、本発明によれば、記憶部へ記憶された信号値から最小値が更新されたポイントを時系列の正順または逆順に順次取得し、取得したポイントの値を磁気なし信号値として抽出することとしたので、信号値の変動履歴におけるベース曲線を、さらに簡便に推定することができるという効果を奏する。
【0022】
また、本発明によれば、記憶部へ記憶された各信号値から、算出された近似曲線上の該当する値をそれぞれ差し引くこととしたので、温度変動による変化分が上乗せされた信号値から、温度変動による変化分を差し引く温度補正によって、信号値の補正を簡便かつ高精度に行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、本発明に係る印刷物検査手法を適用する印刷物検査装置の概要を示す図である。
【図2】図2は、本発明に係る印刷物検査手法の概要を示す図である。
【図3】図3は、本実施例に係る印刷物検査装置の構成を示すブロック図である。
【図4】図4は、磁気ヘッドおよび磁気ヘッドに関連する回路を示す図である。
【図5】図5は、磁気ヘッドによって取得された信号値に対する温度補正処理の概要を示す図である。
【図6】図6は、信号値抽出処理の例を示す図である。
【図7】図7は、近似曲線算出処理の例を示す図である。
【図8】図8は、印刷物検査装置が実行する処理手順を示すフローチャートである。
【図9】図9は、信号値抽出処理および近似曲線算出処理の変形例を示す図である。
【図10】図10は、変形例に係る印刷物検査装置が実行する処理手順を示すフローチャートである。
【図11】図11は、大判印刷物の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に添付図面を参照して、この発明に係る印刷物検査手法の好適な実施例を詳細に説明する。なお、以下では、本発明に係る印刷物検査手法を適用した印刷物検査装置が、基本単位の印刷原画が余白部を挟んで規則的に並べられて印刷された印刷物(以下、「大判印刷物」と記載する)を検査対象とする場合について説明する。しかしながら、このような大判印刷物に限らず、磁気を含んだインクが未乾燥の印刷物全般を、検査対象とすることができる。
【0025】
また、以下では、磁気ヘッドが大判印刷物と対峙状態となり、かつ、エアー噴出状態となったことをもって測定を開始するものとする。ここで、対峙状態とエアー噴出状態との先後関係については特に区別せず、「エアー噴出開始直後に走査を開始する」といった記載を行うこととする。また、磁気ヘッドは、大判印刷物に対して非接触状態を保ったまま走査されるものとする。
【0026】
また、以下では、本発明に係る印刷物検査手法の概要について図1、図2および図11を用いて説明した後に、本発明に係る印刷物検査手法を適用した印刷物検査装置についての実施例について図3〜図8を用いて説明することとする。
【0027】
まず、本発明に係る印刷物検査手法を適用する印刷物検査装置の概要について説明する。図1は、本発明に係る印刷物検査手法を適用する印刷物検査装置10の概要を示す図である。なお、同図には、本発明に係る印刷物検査手法を適用する印刷物検査装置10の一部のみを示している。
【0028】
また、同図の(A)には、印刷物検査装置10の俯瞰図を、同図の(B)には、ヘッドユニット11を大判印刷物100側からみた図を、同図の(C)には、ヘッドユニット11をY軸の正方向からみた図を、それぞれ示している。なお、大判印刷物100は、上面が平面加工されたガラス平盤などの図示しない平盤上に載置されており、同図に示すXY平面は、かかる平盤の上面と平行な平面である。
【0029】
同図に示したように、印刷物検査装置10は、磁気ヘッド11aの下面からエアーを噴出することで、磁気ヘッド11a下面が大判印刷物100に接触することを防止する。また、この磁気ヘッド11aを内蔵するヘッドユニット11には、一組のローラ11bがY軸と平行な取付軸まわりに転動可能に設けられている。
【0030】
そして、磁気検査を行う場合には、ローラ11bが大判印刷物の余白部(インクがない部分)上を走行することで、磁気ヘッド11aの下面と大判印刷物100との微少間隔(たとえば、150μm)を保持する。
【0031】
また、ヘッドユニット11は、Z軸用駆動モータ1cによって方向5c(同図のZ軸の正方向および負方向)に移動可能なZ軸用可動部2c経由で、X軸用可動部3aに接続されている。
【0032】
また、X軸用可動部3aは、X軸用ガイド2a上を、X軸用駆動モータ1aによって方向5a(同図のX軸の正方向および負方向)へ移動制御される。また、X軸用ガイド2aは、Y軸用可動部3bに接続されており、Y軸用可動部3bは、Y軸用ガイド2b上を、Y軸用駆動モータ1bによって方向5b(同図のY軸の正方向および負方向)へ移動制御される。
【0033】
すなわち、ヘッドユニット11は、同図に示したX軸、Y軸およびZ軸にそれぞれ沿って移動自在に設けられている。たとえば、同図に示した走査方向200で、大判印刷物100を走査する場合には、Y座標を固定したうえで、X座標の走査開始位置でローラ11bが大判印刷物100に接するまでヘッドユニット11を下降させる。そして、X座標のみを変化させることで走査方向200へヘッドユニット11を走行させる。
【0034】
つづいて、X座標の走査終了位置に達したならば、ヘッドユニット11を上昇させることで、ローラ11bを大判印刷物100から離す。そして、ヘッドユニット11のY座標を変更しつつX座標を走査開始位置まで戻し、ヘッドユニット11を下降させて次の走査を開始する。
【0035】
ここで、検査対象となる大判印刷物100について図11を用いて説明しておく。図11は、大判印刷物100の一例を示す図である。なお、同図には、X方向にA〜Dまでの4列、Y方向に1〜5までの5行の計20(4×5)個の印刷原画101が印刷された大判印刷物100を示している。なお、大判印刷部100の外周部分および各印刷原画101間には、インクが印刷されていない余白部が、それぞれ設けられている。
【0036】
そして、上述したように、X方向の走査を行う場合には、たとえば、同図における第1行の左端でヘッドユニット11を下降させて第1行の走査を開始し、第1行の右端までの走査が終了したならば、ヘッドユニット11を上昇させる。
【0037】
なお、ヘッドユニット11内に磁気ヘッド11aのY方向の位置をずらす機構を設けることとすれば、磁気ヘッド11aをずらして走査する手順を繰り返すことで、第1行の走査を複数回にわたって行うことも可能である。この場合、第1行のすべての走査が完了したならば、ヘッドユニット11を上昇させた状態で第2行の左端でヘッドユニット11を下降させ、第2行の走査を開始することになる。
【0038】
図1に戻り、図1の(B)以降について説明する。図1の(B)に示したように、ヘッドユニット11を大判印刷物100側からみると、1つの磁気ヘッド11aが配置されている。なお、図1の(B)には、磁気ヘッド11aの大判印刷物100側の面に6個の穴が設けられている旨を示しているが、これらの穴は、大判印刷物100へ吹き付けるエアーの噴出口である。なお、大判印刷物100へ吹き付けるエアーは、図示しないコンプレッサから供給される圧縮エアーである。
【0039】
具体的には、図1の(C)に示したように、かかる噴出口から方向300へ向けてエアーが吹き付けられることで、大判印刷物100の波打ちやしわが矯正される。これにより、磁気ヘッド11aと大判印刷物100との間隔を適正に保つことができる。なお、エアーは、チューブやパイプといった流路11c経由で噴出口へ導かれる。
【0040】
しかし、このように、エアー噴出によって磁気ヘッド11aと大判印刷物100との微少間隔を保持する印刷物検査装置10の場合、噴出されるエアーの温度と、磁気ヘッド11aの温度とが異なることが一般的である。このため、従来は、エアー噴出に伴う磁気ヘッド11aの温度変化が熱平衡状態となるまで、すなわち、エアーと磁気ヘッド11aとの温度差が0となるまで待ってヘッドユニット11による走査を開始しており、ヘッドユニット11の待機時間が問題となっていた。
【0041】
また、エアーを常時噴出して磁気ヘッド11aとの温度を一致させておく手法もあったが、大判印刷物100からヘッドユニット11が離れた状態でエアーを噴出しておいても、磁気ヘッド11a全体をエアーの温度と同一にすることは困難であった。
【0042】
これは、あらかじめエアーを噴出していたとしても、ヘッドユニット11を大判印刷物100の至近距離に近づけると(両者を対峙させると)、大判印刷物100で吹き返されたエアーの温度が磁気ヘッド11aの計測面から内部へ伝達され、磁気ヘッド11a内における温度部分布の変動によって磁気ヘッド11aの出力値が変動するためである。
【0043】
さらに、コンプレッサによるエアーの加圧は、エアー温度の上昇を伴ううえ、季節による周辺空気の温度や、作業室内の空調温度等にも影響されて不規則な温度変動の要因となりうることは広く知られている。また、磁気ヘッド11aによって取得された磁気データを加圧エアーの吹き付けによる温度変動中に随時補正することも困難である。これは、磁気ヘッド11a内部の温度分布や温度勾配の変化は複雑であり、かかる変化に対応した補正値を予め決定しておくことが難しいためである。
【0044】
そこで、本発明に係る印刷物検査手法では、磁気ヘッド11aによって取得された磁気データをいったん記憶し、事後的に磁気データの温度補正を行うことで、かかる待機時間を極小化することとした。
【0045】
図2は、本発明に係る印刷物検査手法の概要を示す図である。なお、同図の(A)には、従来技術に係る磁気ヘッド走査開始タイミングを、同図の(B)には、本発明に係る磁気ヘッド走査開始タイミングを、それぞれ示している。また、同図に示すグラフの横軸は時間を、縦軸は磁気ヘッド11aの出力を、それぞれあらわしている。
【0046】
図2の(A)に示したように、従来は、エアー噴出に伴う温度変化によって不安定となる磁気ヘッド11aの出力が安定するまで、すなわち、磁気ヘッド11aの温度変化が熱平衡状態となるまで待って磁気ヘッド11aの走査を開始していた。
【0047】
これに対し、図2の(B)に示したように、本発明では、エアー噴出開始直後に、磁気ヘッド11aによる走査を開始することとしたうえで、走査開始後の磁気ヘッド出力をサンプリングして記憶することとした(同図の(B−1)参照)。そして、記憶した出力値を温度補正して使用することとした(同図の(B−2)参照)。
【0048】
このように、本発明に係る印刷物検査手法では、磁気ヘッド11aの温度が過渡的に変化している区間における磁気ヘッド出力をも使用しつつ、磁気ヘッド11aの温度特性に起因する誤差については、事後的な温度補正で解消することとした。
【0049】
したがって、磁気ヘッド11aの温度変化が熱平衡状態となるまで待ち合わせる必要がないので、磁気検査を高速に行うことができる。また、図5〜図7を用いて後述する手法を用いて磁気ヘッド出力の温度補正を行うこととしたので、磁気検査を高精度に行うことができる。
【0050】
そして、本発明に係る印刷物検査手法は、噴出するエアーの温度調整や磁気ヘッドの温度調整を行う必要がないため、温度制御用の制御回路や、温度センサといった各種部材が不要となる。したがって、磁気ヘッド11aをはじめとする構成部材の小型化および低コスト化を実現することができる。
【0051】
さらに、磁気ヘッド11a内部におけるエアー熱等の熱伝搬特性を考慮する必要がないため、磁気ヘッド11aを簡単な構成とすることができ、コストの削減を図ることが可能となる。
【0052】
以下では、図1、図2および図11を用いて説明した本発明に係る印刷物検査手法を適用した印刷物検査装置10についての実施例を説明する。
【実施例】
【0053】
まず、本実施例に係る印刷物検査装置10の構成について図3を用いて説明する。図3は、本実施例に係る印刷物検査装置10の構成を示すブロック図である。なお、同図では、図1に示した可動機構等の記載を省略している。
【0054】
同図に示すように、印刷物検査装置10は、ヘッドユニット11と、制御部12と、記憶部13と、エアーコンプレッサ14とを備えている。また、ヘッドユニット11は、磁気ヘッド11aをさらに備えており、制御部12は、移動制御部12aと、磁気情報記憶指示部12bと、近似曲線算出部12cと、補正処理部12dと、磁気検査部12eとをさらに備えている。
【0055】
そして、記憶部13は、磁気情報13aを記憶する。なお、エアーコンプレッサ14から送り出された圧縮エアーは、図1の(C)に示したチューブやパイプといった流路11c経由で、各磁気ヘッド11aへ導かれる(同図の破線矢印参照)。
【0056】
ヘッドユニット11は、磁気ヘッド11aを保持するユニットであり、制御部12の移動制御部12aからの指示に基づき、検査対象である大判印刷物100に対する相対位置を図1に示したX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向について変化させる。また、同じく移動制御部12aからの指示に基づき、エアーコンプレッサ14で加圧されたエアーを磁気ヘッド11aから噴出させる動作の開始および停止を行う。
【0057】
磁気ヘッド11aは、交流バイアス式の差動型磁気検知ヘッドであり、検知面、すなわち、大判印刷物100側に設けられた検知ヘッドと、この検知ヘッドとコアを共有しており、大判印刷物100から隔てられた側に設けられたキャンセルヘッドとから構成される。また、この磁気ヘッド11aの検知面には、エアー噴出口が設けられている。
【0058】
ここで、磁気ヘッド11aの構成およびヘッドユニット11の構成について図4を用いて説明しておく。図4は、磁気ヘッド11aおよび磁気ヘッド11aに関連する回路を示す図である。なお、同図の(A)には、磁気ヘッド11aの下面図を、同図の(B)には、磁気ヘッド11aの側面図を、同図の(C)には、磁気ヘッド11aの回路図を、それぞれ示している。
【0059】
図4の(A)に示すように、磁気ヘッド11aの下面には、エアーの噴出口41が設けられている。また、かかる下面の中央部には、磁気検知が可能な検知ヘッドのコア部である検知領域42が存在する。すなわち、検知領域42以外の領域は、磁気に対する不感領域である。
【0060】
ここで、磁気ヘッド11aのY軸方向の幅43は、たとえば、16mmであり、検知領域42のY軸方向の幅42は、たとえば、10mmである。なお、本実施例では、検知面の外周部分に不感領域を有する磁気ヘッド11aを用いる場合について主に説明するが、不感領域を極小とした磁気ヘッド11aを用いることとしてもよい。
【0061】
図4の(B)に示すように、磁気ヘッド11aの内部には、対極コア45が設けられている。また、磁気ヘッド11aの下面に設けられた噴出口41からは、大判印刷物100へ向けて方向300へエアーが吹き付けられる。
【0062】
図4の(C)に示すように、磁気ヘッド11aは、発振器501によって生成された交流信号に基づいて励磁される。また、同図に示すように、対極コア45上には、キャンセルヘッド45aおよび検知ヘッド45bが構成されている。具体的には、対極コア45の上方ブロック45aaにおける励磁駆動回路502側の極にはキャンセルヘッド用1次コイル45abが、増幅回路503側の極にはキャンセルヘッド用2次コイル45acがそれぞれ巻回されてキャンセルヘッド45aが構成されている。
【0063】
また、対極コア45の下方ブロック45baにおける励磁駆動回路502側の極には検知ヘッド用1次コイル45bbが、増幅回路504側の極には検知ヘッド用2次コイル45bcがそれぞれ巻回されて検知ヘッド45bが構成されている。なお、上方ブロック45aaおよび下方ブロック45baにそれぞれ巻回されたキャンセルヘッド用1次コイル45abと検知ヘッド用1次コイル45bbとは直列に接続され、キャンセルヘッド用2次コイル45acと検知ヘッド用2次コイル45bcとは並列に接続されている。
【0064】
そして、発振器501によって生成された交流の基準信号は励磁駆動回路502へ入力され、励磁駆動回路502は、かかる基準信号に対して所定の励磁信号を付加したうえで、キャンセルヘッド用1次コイル45abおよび検知ヘッド用1次コイル45bbへ通電する。これにより交番磁界が生成される。そして、キャンセルヘッド用2次コイル45acおよび検知ヘッド用2次コイル45bcでは、磁性体の接近などによる交番磁界の変化を検出する。
【0065】
ここで、検知ヘッド用2次コイル45bcは、大判印刷物100に印刷された磁性インクによる交番磁界の変化を検出するが、キャンセルヘッド用2次コイル45acは、大判印刷物100から隔てられているため交番磁界の変化を検出しない。
【0066】
このため、キャンセルヘッド用2次コイル45acからの出力を増幅回路503で増幅した信号と、検知ヘッド用2次コイル45bcからの出力を増幅回路504で増幅した信号との差分を差動アンプ回路505へ入力することで、キャンセルヘッド45aの出力を基準とした磁気信号を取得することができる。
【0067】
ここで、差動アンプ回路505は、増幅回路503および増幅回路504から出力された各増幅出力の差動交流出力を整流平滑することで、直流電圧信号へ変換する回路である。すなわち、差動アンプ回路505は、定常状態から差動交流出力に変化が生じた場合に、かかる変化量を直流電圧信号値の変化として出力する。
【0068】
また、キャンセルヘッド用2次コイル45acからの出力は、増幅回路503経由で励磁駆動回路502へフィードバックされる。これは、励磁駆動回路502が、所定レベルでキャンセルヘッド用1次コイル45abおよび検知ヘッド用1次コイル45bbを増減補正し、常時安定に励起するためである。
【0069】
このようなキャンセルヘッド45aおよび検知ヘッド45bを有する磁気ヘッド11aを用いた場合、各コイル(キャンセルヘッド45aおよび検知ヘッド45bの各コイル)を同温定常状態に保つ必要があり、両者の温度バランスが崩れると抵抗値の微少変動などによって差動アンプ回路505のオフセット値が変動してしまう。
【0070】
したがって、このような磁気ヘッド11aの温度特性を安定させるには、磁気ヘッド11a全体の温度を一様に一定とする必要がある。しかし、後述する温度補正手法を用いることで、磁気ヘッド11aの温度管理を行うことなく、磁気検査の精度を向上させることができる。
【0071】
図3の説明に戻り、制御部12について説明する。制御部12は、ヘッドユニット11の移動制御および加圧エアーの噴出制御や、磁気ヘッド11aから取得した磁気データの補正処理、補正処理後の磁気データを用いた磁気検査処理といった処理を行う処理部である。
【0072】
移動制御部12aは、図1に示した各モータ(1a、1bおよび1c)に対する指示を行うことで、ヘッドユニット11の移動制御を行う処理部である。なお、この移動制御部12aは、磁気ヘッド11aから大判印刷物100へ向けて噴射されるエアー(コンプレッサ14で加圧された加圧エアー)の噴出開始指示あるいは噴出停止指示を併せて行う。
【0073】
磁気情報記憶指示部12bは、磁気ヘッド11aが取得した磁気データを磁気情報13aとして記憶部13へ記憶させる処理を行う処理部である。なお、記憶部13へ記憶された磁気情報13aは、近似曲線算出部12cによって用いられることになる。
【0074】
近似曲線算出部12cは、記憶部13に記憶された磁気情報13aを読み出し、時系列の信号値の変動をあらわす変動曲線の磁気なし部分に相当するベース曲線を算出する処理を行う処理部である。具体的には、走査区間(走査開始位置から走査終了位置までの区間)において磁気ヘッド11aの温度が不変であれば、磁気なし部分に相当する信号値は一定となるはずである。この場合、かかるベース曲線は、時間軸と平行な直線となる。
【0075】
しかし、磁気ヘッド11aの検知面から大判印刷物100へ向けてエアーを吹き付ける手法をとった場合には、通常、磁気ヘッド11aの温度と噴出されるエアーの温度とに差が生じており、エアー噴出による磁気ヘッド11aの温度変化が熱平衡状態となるまでに所定の時間を要する。したがって、上記したベース曲線の形状は、直線とはならない。そして、かかるベース曲線を得ることができれば、変動曲線からベース曲線を差し引く補正を行うことで温度変化の影響を排除した信号値を得ることができる。
【0076】
このため、近似曲線算出部12cは、かかるベース曲線を多次元関数による近似曲線として算出することした。そして、補正処理部12dは、近似曲線算出部12cによって算出された近似曲線を磁気情報13aの変動曲線から差し引くことで、温度変化の影響を排除した補正信号値を取得する。そして、磁気検査部12eは、補正処理部12dから受け取った補正信号値を、あらかじめ用意された基準信号値と比較するなどして磁気検査を行うことになる。
【0077】
なお、記憶部13は、ハードディスクドライブや不揮発性メモリといった記憶デバイスで構成される記憶部であり、磁気情報13aは、磁気ヘッド11aの識別子、走査時のX座標およびY座標といった情報および磁気ヘッド11aが取得した信号値を含んだ情報である。
【0078】
次に、上記した近似曲線算出部12cおよび補正処理部12dによって行われる温度補正処理の概要について図5を用いて説明する。図5は、磁気ヘッド11aによって取得された信号値に対する温度補正処理の概要を示す図である。なお、同図では、図11に示した大判印刷物100の所定の行における各印刷原画101の走査によって得られた信号値の変動グラフを例示している。また、同図では、説明を解りやすくするために、変動グラフの変動を簡略化して示している。
【0079】
図5の(A)に示したように、磁気ヘッド11aによって取得された信号値は、走査距離に応じて変動する。ここで、各印刷原画101の1箇所で磁気を検出したとすると、4つの印刷原画101のそれぞれで同類のピーク信号52が得られる。そして、各ピーク信号52は、印刷なし部分に相当するベース曲線51に足し合わせられた状態で検出される。
【0080】
なお、同図に示す点53は、ベース曲線51の傾きが0となる点、すなわち、熱平衡状態となった点をあらわしており、従来は、かかる熱平衡状態となるまで待ってヘッドユニット11による走査が行われていた。しかし、噴出エアーと磁気ヘッド11aとの完全な熱平衡状態を待ち合わせると、走査ごとに待ち合わせ時間が異なるものとなり、待ち合わせ終了時点の検出が困難となる。そして、大判印刷物100全体の磁気検査に要する時間がかさんでしまう。
【0081】
そこで、本実施例に係る印刷物検査装置10では、熱平衡状態を待ち合わせることなく走査を行い、磁気ヘッド11aによって取得された信号値を補正することで、磁気ヘッド11aの熱変動による影響を除去することとした。
【0082】
具体的には、図5の(B)に示したように、信号値の変動グラフを、閾値Lと、閾値Lよりも大きい閾値Hとで区切り、閾値L以上、かつ、閾値H以下の信号値(以下、「抽出信号値」と記載する)のみを抽出する。そして、図5の(C)に示したように、抽出信号値の変動を近似する近似曲線54を算出する。
【0083】
ここで、近似曲線54は、たとえば、回帰分析によって算出することができ、2次曲線〜7次曲線として算出されるが、精度の面からみて2次曲線とすれば足りる。なお、算出された近似曲線54は、図5の(A)に示したベース曲線51に相当する。なお、近似曲線54の詳細な算出手順については、図7を用いて後述する。
【0084】
また、閾値Lおよび閾値Hは、ベース曲線51の変動幅や、ベース曲線51の平均などを実験等から求めておき、かかる変動幅を含むようにあらかじめ設定されるものとする。そして、図5の(C)に示したように、近似曲線算出部12cによって近似曲線54が算出されたならば、補正処理部12dは、図5の(A)に示した変動グラフから近似曲線54の値を差し引く処理を行う。これにより、温度変動の影響が排除された信号値を得ることができる(図5の(D)参照)。
【0085】
次に、磁気ヘッド11aによって取得された信号値の実例を用い、図5の(B)に示した信号値抽出処理および図5の(C)に示した近似曲線算出処理について、図6および図7を用いて説明する。なお、図6および図7に示した各グラフの横軸は走査距離(mm)を、縦軸は信号値をアナログからデジタルへ変換したレベル値を、それぞれあらわしている。
【0086】
まず、信号値抽出処理について図6を用いて説明する。図6は、信号値抽出処理の例を示す図である。なお、同図の(A)には、信号値62を破線で、信号値62のベースライン61を実線でそれぞれあらわしたグラフを示している。また、同図の(B)には、同図の(A)に示したベースライン61付近を拡大したグラフを示している。
【0087】
図6の(A)に示したように、4列の大判印刷物100をX方向に走査した場合には、信号値62は、グラフの横軸方向に、3つの山で構成される変化を、4回繰り返した形状となる。そして、信号値62における磁気なし部分に相当するベースライン61は、磁気ヘッド11a内部における温度分布の変化に伴って緩やかに変動し、やがて平衡状態(横軸と平行)になる。
【0088】
ここで、磁気なし部分の平均的なレベル値を20とし、磁気なし部分のレベル値の変動幅を3とすると、図6の(B)に示したように、閾値Hは23となり、閾値Lは17となる。そして、信号値抽出処理では、閾値L以上閾値H以下、すなわち、レベル値が17以上23以下の信号値62のみを抽出信号値として抽出する。そして、近似曲線抽出処理では、このようにして抽出された抽出信号値のみを用いて近似曲線を算出することになる。
【0089】
なお、図6では、磁気なし部分の平均的なレベル値を20とし、かかるレベル値の変動幅を3とした場合について説明したが、これらの値を実験値などに基づいて変更することとしてもよい。
【0090】
次に、近似曲線算出処理について図7を用いて説明する。図7は、近似曲線算出処理の例を示す図である。図7の(A)に示したように、近似曲線算出処理では、図6の(B)で抽出された抽出信号値を回帰分析することによって第1次推定曲線を算出する。
【0091】
つづいて、図7の(B)に示したように、図7の(A)で算出された第1次推定曲線に対する抽出信号値の分布状況を分析し、近似曲線近傍に分布する抽出信号値のみを磁気なし信号値として再抽出する。たとえば、第1次推定曲線について+σ以内および−σ以内の抽出信号値のみを再抽出する。なお、±0.5σや、±2σといった他の再抽出範囲を設定することとしてもよい。ここで、σは、標準偏差をあらわす。
【0092】
そして、図7の(C)に示したように、図7の(B)で再抽出された抽出信号値のみに基づき、第1次推定曲線の算出と同様の手順で第2次推定曲線を算出する。ここで、算出された第2次推定曲線が、最終的な近似曲線54(図5参照)として決定されることになる。
【0093】
なお、図7では、第1次推定曲線の算出、第1次推定曲線に対する抽出信号値の分布状況に応じた抽出信号値の再抽出、再抽出された抽出信号値に基づく第2次推定曲線の算出という手順で最終的な近似曲線54を決定する場合について示した。しかしながら、これに限らず、推定曲線の算出と、抽出信号値の再抽出とを所定回数(n回)繰り返すことで、最終的な近似曲線54を決定することとしてもよい。
【0094】
この場合、算出された第n次推定曲線と、第n−1次推定曲線とを対比し、両推定曲線の形状や位置の差異があらかじめ定めた所定の閾値を下回った場合に、繰り返しを停止することとしてもよく、あらかじめ繰り返し回数(n回)を定めておくこととしてもよい。
【0095】
また、図7では、第1次推定曲線の近傍に分布する抽出信号値の再抽出処理において分散を用いる場合について示したが、第1次推定曲線から所定距離以内の抽出信号値を再抽出することとしてもよい。このようにすることで、抽出信号値の再抽出処理をより簡便に行うことができる。
【0096】
次に、印刷物検査装置10が実行する処理手順について図8を用いて説明する。図8は、印刷物検査装置10が実行する処理手順を示すフローチャートである。なお、同図には、磁気ヘッド11aによる所定の走査が完了した後に、印刷物検査装置10によって実行される処理手順を示している。
【0097】
図8に示すように、近似曲線算出部12cは、記憶部13から磁気データを読み出し(ステップS101)、1回の走査に対応する磁気データにおける信号値が所定範囲内の磁気データを抽出する(ステップS102)。なお、所定範囲内とは、図5などに示した閾値L以上閾値H以下の範囲を指す。
【0098】
つづいて、近似曲線算出部12cは、ステップS102で抽出した磁気データを用いて第1次推定曲線を算出し(ステップS103)、第1次推定曲線から1σ以上離れた磁気データを除外する(ステップS104)。
【0099】
そして、残った磁気データ、すなわち、ステップS102で抽出された磁気データのうちステップS104で除外されなかった磁気データを用いて第2次推定曲線を算出する(ステップS105)。
【0100】
つづいて、補正処理部12dは、所定の走査に係る全磁気データから最終的な推定曲線である第2次推定曲線を差し引くことで補正データを生成する(ステップS106)。そして、磁気検査部12eは、ステップS106で生成された補正データを用いて磁気検査を実行し(ステップS107)、処理を終了する。
【0101】
なお、必要とする複数の全走査データに関して補正データを生成した後に、生成した全補正データに対してステップS107の処理を実行することとしてもよい。また、複数回の走査を必要とする場合、1つの走査終了から次の走査終了までの間に、先の走査データに関する補正処理を終了させることとすれば、最終走査の終了後における補正処理を短時間で終了させることができる。
【0102】
ところで、これまでは、近似曲線算出部12cが、所定の閾値を用いることで磁気情報13aから抽出信号値を抽出し、かかる抽出信号値を用いてベース曲線の推定曲線を算出する場合について説明してきた。しかしながら、所定の閾値を用いることなく推定曲線を算出することも可能である。そこで、以下では、所定の閾値を用いることなく推定曲線を算出する場合について図9および図10を用いて説明することとする。
【0103】
図9は、信号値抽出処理および近似曲線算出処理の変形例を示す図である。なお、図9では、図5で既に説明した要素については同一の符号を付している。また、図9では、各データが時系列データである旨を示すため各グラフの横軸を時間としているが、ヘッドユニット11の移動速度が一定であれば、各グラフの横軸を図5のように距離とした場合と同意である。
【0104】
また、図9の(A)には、ベース曲線51が単調に増加する場合について、図9の(B)には、ベース曲線51が単調に減少する場合について、それぞれ示している。
【0105】
図9の(A)に示したように、グラフの横軸について、ヘッドユニット11を大判印刷物100から微少距離に位置付けてエアー噴出した時間をt0、測定開始時間をtS、測定終了時間をtEとする。そして、図9の(A)では、ベース曲線51が非減少曲線であるとする。
【0106】
この場合、図9の(A−1)に示したように、近似曲線算出部12cは、まず、測定開始時間(tS)に対応する信号値91を選択し、時系列の正順92(時間経過に沿った方向)で、信号値の最小値を順次更新していく処理を、測定終了時間(tE)まで繰り返す。そして、最小値を更新した信号値の数を記憶する。なお、同図に示したベース曲線51は時系列の正順92について非減少曲線であるので、最小値を更新した信号値の数は0となる。
【0107】
また、図9の(A−2)に示したように、近似曲線算出部12cは、測定終了時間(tE)に対応する信号値93を選択し、時系列の逆順94(時間経過に逆らった方向)で、信号値の最小値を順次更新していく処理を、測定開始時間(tS)まで繰り返す。そして、最小値を更新した信号値の数を記憶する。なお、同図に示したベース曲線51は時系列の正順92について非減少曲線であるが、時系列の逆順94については非増加曲線であるので、最小値を更新した信号値の数は多数となる。
【0108】
このように、近似曲線算出部12cは、時系列の正順92および逆順94のそれぞれについて最小値を更新した信号値の数を算出し、最小値を更新した信号値の数が多い検索方向を選択する。すなわち、図9の(A)に示した場合には、逆順94を選択する。そして、時系列を逆順94にたどった場合に最小値を更新した信号値の集合に基づいて推定曲線95を算出する(図9の(A−2)参照)。なお、推定曲線95の算出には、図7に示した第1次推定曲線や第2次推定曲線の算出と同様の手法を用いることができる。
【0109】
一方、図9の(B)に示したように、ベース曲線51が単調に減少する場合には、図9の(A)に示した場合と逆方向の検索順序が選択されることになる。すなわち、ベース曲線51が単調に減少する場合には、検索方向として正順92が選択される。そして、時系列を正順92にたどった場合に最小値を更新した信号値の集合に基づいて推定曲線96を算出する(図9の(B)参照)。なお、推定曲線96の算出には、図7に示した第1次推定曲線や第2次推定曲線の算出と同様の手法を用いることができる。
【0110】
このように、図9に示した手法では、磁気インク検出に伴う変動がベース曲線に足し合わせられた形で検出されることに着目し、変動グラフの底辺を構成するベース曲線を、直接的に取得することとしたので、推定曲線算出に係る処理負荷を低減することができる。
【0111】
次に、変形例に係る印刷物検査装置10が実行する処理手順について図10を用いて説明する。図10は、変形例に係る印刷物検査装置10が実行する処理手順を示すフローチャートである。なお、同図には、磁気ヘッド11aによる所定の走査が完了した後に、印刷物検査装置10によって実行される処理手順を示している。
【0112】
図10に示すように、近似曲線算出部12cは、記憶部13から磁気データを時系列の正順で読み出し(ステップS201)、正順の最小値更新点をカウントする(ステップS202)。ここで、正順の最小値更新点のカウント数をCAとする。
【0113】
また、近似曲線算出部12cは、記憶部13から磁気データを時系列の逆順で読み出し(ステップS203)、逆順の最小値更新点をカウントする(ステップS204)。ここで、逆順の最小値更新点のカウント数をCBとする。
【0114】
つづいて、正順のカウント数(CA)が、逆順のカウント数(CB)よりも大きいか否かを判定し(ステップS205)、正順のカウント数(CA)のほうが大きい場合には(ステップS205,Yes)、正順の最小値更新点の集合、すなわち、正順の最小値更新点を結んだ曲線を推定曲線とする(ステップS206)。一方、ステップS205の判定条件を満たさなかった場合には(ステップS205,No)、逆順の最小値更新点の集合、すなわち、逆順の最小値更新点を結んだ曲線を推定曲線とする(ステップS207)。
【0115】
つづいて、補正処理部12dは、所定の走査に係る全磁気データからステップS206またはステップS207で算出された推定曲線を差し引くことで補正データを生成する(ステップS208)。そして、磁気検査部12eは、ステップS208で生成された補正データを用いて磁気検査を実行し(ステップS209)、処理を終了する。
【0116】
ところで、図8および図9では、記憶部13から読み出した磁気データを時系列の正順および逆順でそれぞれ検索し、各検索方向で最小値更新点をカウントし、カウント数が多いほうの検索方向に対応する最小値更新点を結んで推定曲線を算出する場合について説明した。しかしながら、両検索方向で最小値更新点をそれぞれカウントすることなく検索方向を決定することも可能である。
【0117】
具体的には、測定開始時間(tS)に対応する信号値91と、信号値91の近傍における信号値との大小比較で、検索方向を決定することができる。たとえば、図9の(A)のように信号値91の右側近傍の信号値が信号値91よりも大きければ、検索方向を逆順と決定することができる。また、図9の(B)のように信号値91の右側近傍の信号値が信号値91よりも小さければ、検索方向を正順と決定することができる。
【0118】
また、測定終了時間(tE)に対応する信号値93と、信号値93の近傍における信号値との大小比較で、検索方向を決定することとしてもよい。たとえば、図9の(A)のように信号値93の左側近傍の信号値が信号値93よりも小さければ、検索方向を逆順と決定することができる。また、図9の(B)のように信号値93の左側近傍の信号値が信号値93よりも大きければ、検索方向を正順と決定することができる。
【0119】
このように、正順または逆順のいずれか一方の検索を行うのみで、検索方向を決定することとすれば、正順および逆順の最小値更新点をそれぞれカウントする手法に比べて処理時間を短縮することができる。
【0120】
また、検索方向の決定タイミングについては、測定開始時間(tS)あるいは測定終了時間(tE)近傍の信号値を読み出した時点とすることができる。すなわち、測定開始時間(tS)から測定終了時間(tE)まで、あるいは、測定終了時間(tE)から測定開始時間(tS)まで、すべての信号値の読み出しを待つ必要はない。
【0121】
なお、測定開始時間(tS)から測定終了時間(tE)までを、複数の区間に区切り、各区間において最小値更新点をそれぞれ求めていくこととすれば、磁気ヘッド11aの走査と、最小値更新点を求める処理とを並行して行うことが可能となり、さらに処理時間を短縮することができる。
【0122】
たとえば、測定開始時間(tS)を含む最初の区間で、ベース曲線51が減少していることが判明した場合には、検索方向を正順としたうえで、各区間において最小値更新点を順次求めていく。このようにすることで、測定終了時間(tE)では、すべての最小値更新点が揃うので、推定曲線をただちに得ることができる。すなわち、推定曲線の算出処理を磁気ヘッド11aの走査と並行して行うことができる。
【0123】
一方、測定開始時間(tS)を含む最初の区間で、ベース曲線51が増加していることが判明した場合には、検索方向を逆順と決定する。そして、最初の区間の信号値が揃った段階で、最初の区間を逆順に検索することで最小値更新点を求めていく。
【0124】
さらに、2番目の区間の信号値が揃った段階で、2番目の区間を逆順に検索することで最小値更新点を求めていく。同様の処理を最後の区間まで繰り返すことで、ベース曲線51が増加している場合であっても、測定終了時間(tE)後に行う処理は、最後の区間における最小値更新点を求める処理のみとなる。したがって、推定曲線の算出処理を磁気ヘッド11aの走査とほぼ並行して行うことができる。
【0125】
上述してきたように、本実施例では、移動制御部が、噴出エアーの介在によって印刷物との間隔が微少間隔となったならば、磁気ヘッドの温度変化が止まる熱平衡状態を待ち合わせることなく、磁気ヘッドの走査を開始し、走査が開始されたならば、磁気情報記憶指示部が、磁気ヘッドからの信号値を記憶部へ記憶させる指示を行い、近似曲線算出部が、記憶部へ記憶された信号値の中から磁気検出がない部分に対応する磁気なし信号値を抽出し、抽出された磁気なし信号値の変動履歴をあらわす近似曲線を算出し、補正処理部が、算出された近似曲線に基づいて記憶部へ記憶された信号値を補正するように印刷物検査装置を構成した。
【0126】
したがって、エアー噴出後の温度変動の熱平衡状態を待ち合わせる必要がないので、磁気検査を高速に行うことができるとともに、近似曲線に基づいた温度補正によって高精度な磁気検査を行うことができる。また、エアーの温度あるいは磁気ヘッドの温度を管理したり制御したりする必要がなく、磁気ヘッド内部の検知コイルからキャンセルコイルへの熱伝搬特性を管理したり調整したりする必要もない。したがって、磁気ヘッドを含む周辺部材を簡略化することが可能となり、装置コストを抑制することができる。
【0127】
また、熱変動のある磁気ヘッド信号値データそのものから磁気なし信号値レベルの変動を検知することで、自動的に印刷物の正しい磁気特性を取得することができる。
【0128】
なお、上述した実施例では、磁気ヘッドによる1回の走査が完了した後に、記憶部に記憶された磁気情報を用いた近似曲線算出処理や補正処理を行う場合について説明した。しかしながら、これに限らず、走査の途中(たとえば、1/2完了時や1/3完了時など)で近似曲線算出処理等を開始することとしてもよい。このようにすることで、1回の走査が完了した時点で、温度補正後の磁気検査結果を得ることができる。
【0129】
また、上述した実施例では、磁気なし信号値に対して磁気信号値が正(プラス)になる場合について説明を行ったが、磁気信号値が負(マイナス)になる場合にも本発明を適用することができる。この場合、磁気なし信号値に対して磁気信号値が正(プラス)となるように両信号値の正負関係を逆にして本発明を適用することとすればよい。
【産業上の利用可能性】
【0130】
以上のように、本発明に係る印刷物検査方法および印刷物検査装置は、印刷物の磁気検査に有用であり、特に、磁気ヘッドや磁気ヘッドの周辺から加圧エアーを吹き付けつつ印刷物の磁気特性を非接触で測定する場合における磁気検査の所要時間短縮や、磁気ヘッドあるいは磁気ヘッドユニットの小型化に適している。
【符号の説明】
【0131】
10 印刷物検査装置
11 ヘッドユニット
11a 磁気ヘッド
11b ローラ
11c 流路
12 制御部
12a 移動制御部
12b 磁気情報記憶指示部
12c 近似曲線算出部
12d 補正処理部
12e 磁気検査部
13 記憶部
13a 磁気情報
14 エアーコンプレッサ
【技術分野】
【0001】
この発明は、磁気ヘッドの計測面と印刷物との間に印刷物を押圧するエアーを介在させ、計測面と印刷物との間隔を所定の微少間隔に保ったまま印刷物を走査することで印刷物の磁気特性を検査する印刷物検査方法および印刷部検査装置に関し、特に、装置コストを抑制しつつ、磁気検査を高速かつ高精度に行うことができる印刷物検査方法および印刷物検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、計測面にエアー噴出口が設けられた磁気ヘッドを用いて印刷物の検査を行う印刷物検査装置が知られている。かかる印刷物検査装置では、磁気ヘッドの計測面からエアーを噴出することで、印刷物の波打ちやしわを矯正し、磁気ヘッドと印刷物との距離を微少距離に保ったまま印刷物の走査を行う。
【0003】
ここで、磁気ヘッドの移動によって走査を行う場合には、エアー噴出に起因する磁気ヘッドの温度変化が止まる熱平衡状態となるまで磁気ヘッドを待機させたうえで、走査を開始する必要がある。これは、通常、磁気ヘッドの温度と噴出されるエアーの温度とに差が生じており、上記した熱平衡状態となるまでに所定の時間を要するためである。
【0004】
しかし、磁気ヘッドの温度変化が熱平衡状態となるまで磁気ヘッドを待機させると、磁気ヘッドの待機時間がそのまま計測時間の長大化につながるため好ましくない。特に、印刷物に対する走査を多数回行う場合には、待機時間の累積による計測時間の長大化が顕著となる。
【0005】
このため、エアー噴出に起因する磁気ヘッドの温度変化を制御することで、待機時間を短縮化する技術が提案されている。たとえば、磁気ヘッド周辺の温度と同温のエアーを噴出するようにエアーの温度調整を行う技術や、噴出するエアーと同温となるように磁気ヘッドの温度調整を行う技術が提案されている。
【0006】
なお、特許文献1には、磁気ヘッドの表面温度を測定し、表面温度ごとにあらかじめ用意された補正値を用いて磁気ヘッドの出力値を補正する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−263701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、噴出するエアーの温度や、磁気ヘッドの温度を調整する従来技術には、温度調整用の回路や部材が必要であり、印刷物検査装置自体が高価となってしまうという問題や、磁気ヘッドや周辺部材等が大型化してしまうという問題があった。
【0009】
このため、特許文献1の技術を用いて磁気ヘッドの出力値を補正することも考えられるが、特許文献1の技術を用いるためには、磁気ヘッドの表面温度を測定するセンサが必要であり、装置のコスト低減や磁気ヘッドの小型化に対する障害となる。また、エアー噴出を伴う場合、磁気ヘッド内部の温度分布や温度勾配の変化は複雑であり、かかる変化に対応した補正値を予め決定しておくことは難しい。
【0010】
これらのことから、装置コストを抑制しつつ、磁気検査を高速かつ高精度に行うことができる印刷物検査方法あるいは印刷物検査装置をいかにして実現するかが大きな課題となっている。
【0011】
本発明は、上述した従来技術による問題点を解消するためになされたものであり、装置コストを抑制しつつ、磁気検査を高速かつ高精度に行うことができる印刷物検査方法および印刷物検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、磁気ヘッドの計測面と印刷物との間に前記印刷物を押圧するエアーを介在させ、前記計測面と前記印刷物との間隔を所定の微少間隔に保ったまま前記印刷物を走査することで前記印刷物の磁気特性を検査する印刷物検査方法であって、前記エアーの介在によって前記印刷物との間隔が前記微少間隔となったならば、前記磁気ヘッドの温度変化が止まる熱平衡状態を待ち合わせることなく、前記磁気ヘッドの前記走査を開始する走査開始工程と、前記走査開始工程によって前記走査が開始されたならば、前記磁気ヘッドからの信号値を記憶部へ記憶させる指示を行う記憶指示工程と、前記記憶指示工程の指示によって前記記憶部へ記憶された前記信号値の中から磁気検出がない部分に対応する磁気なし信号値を抽出する抽出工程と、前記抽出工程によって抽出された前記磁気なし信号値の変動履歴をあらわす近似曲線を算出する算出工程と、前記算出工程によって算出された前記近似曲線に基づいて前記記憶指示工程の指示によって前記記憶部へ記憶された前記信号値を補正する補正工程とを含んだことを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、上記の発明において、前記抽出工程は、前記記憶指示工程の指示によって前記記憶部へ記憶された前記信号値のうち、予め定められた数値範囲に該当する信号値を前記磁気なし信号値として抽出することを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、上記の発明において、前記算出工程は、前記近似曲線を仮の近似曲線として算出したならば、該仮の近似曲線の算出に用いられた前記磁気なし信号値のうち、該仮の近似曲線を基準とした分散の絶対値が所定値以上の前記磁気なし信号値を除外したうえで、除外後に残存する前記磁気なし信号値の前記変動履歴をあらわす最終的な前記近似曲線を算出することを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、上記の発明において、前記抽出工程は、前記記憶指示工程の指示によって前記記憶部へ記憶された前記信号値から最小値が更新されたポイントを時系列の正順または逆順に順次取得し、取得した前記ポイントの値を前記磁気なし信号値として抽出することを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、上記の発明において、前記補正工程は、前記記憶指示工程の指示によって前記記憶部へ記憶された各信号値から、前記算出工程によって算出された前記近似曲線上の該当する値をそれぞれ差し引くことを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、磁気ヘッドの計測面と印刷物との間に前記印刷物を押圧するエアーを介在させ、前記計測面と前記印刷物との間隔を所定の微少間隔に保ったまま前記印刷物を走査することで前記印刷物の磁気特性を検査する印刷物検査装置であって、前記エアーの介在によって前記印刷物との間隔が前記微少間隔となったならば、前記磁気ヘッドの温度変化が止まる熱平衡状態を待ち合わせることなく、前記磁気ヘッドの前記走査を開始する走査開始手段と、前記走査開始手段によって前記走査が開始されたならば、前記磁気ヘッドからの信号値を記憶部へ記憶させる指示を行う記憶指示手段と、前記記憶指示手段の指示によって前記記憶部へ記憶された前記信号値の中から磁気検出がない部分に対応する磁気なし信号値を抽出する抽出手段と、前記抽出手段によって抽出された前記磁気なし信号値の変動履歴をあらわす近似曲線を算出する算出手段と、前記算出手段によって算出された前記近似曲線に基づいて前記記憶指示手段の指示によって前記記憶部へ記憶された前記信号値を補正する補正手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、エアーの噴出を開始した直後に磁気ヘッドの走査を開始し、走査が開始されたならば、磁気ヘッドからの信号値を記憶部へ記憶させる指示を行い、記憶部へ記憶された信号値の中から磁気検出がない部分に対応する磁気なし信号値を抽出し、抽出された磁気なし信号値の変動履歴をあらわす近似曲線を算出し、算出された近似曲線に基づいて記憶部へ記憶された信号値を補正することとしたので、エアー噴出後の温度変動の熱平衡状態を待ち合わせる必要がないので、磁気検査を高速に行うことができるとともに、近似曲線に基づいた温度補正によって高精度な磁気検査を行うことができるという効果を奏する。すなわち、磁気ヘッドで取得した信号値に磁気なし信号値が含まれていれば、かかる信号値のみに基づいて適正な補正処理を行うことができるという効果を奏する。また、エアーの温度あるいは磁気ヘッドの温度を制御する必要がないので、磁気ヘッドを含む周辺部材を簡略化することが可能となり、装置コストを抑制することができるという効果を奏する。
【0019】
また、本発明によれば、記憶部へ記憶された信号値のうち、予め定められた数値範囲に該当する信号値を磁気なし信号値として抽出することとしたので、信号値の変動履歴におけるベース曲線を簡便に、かつ、精度良く推定することができるという効果を奏する。
【0020】
また、本発明によれば、近似曲線を仮の近似曲線として算出したならば、仮の近似曲線の算出に用いられた磁気なし信号値のうち、仮の近似曲線を基準とした分散の絶対値が所定値以上の磁気なし信号値を除外したうえで、除外後に残存する磁気なし信号値の変動履歴をあらわす最終的な近似曲線を算出することとしたので、近似曲線を精度良く算出することができるという効果を奏する。
【0021】
また、本発明によれば、記憶部へ記憶された信号値から最小値が更新されたポイントを時系列の正順または逆順に順次取得し、取得したポイントの値を磁気なし信号値として抽出することとしたので、信号値の変動履歴におけるベース曲線を、さらに簡便に推定することができるという効果を奏する。
【0022】
また、本発明によれば、記憶部へ記憶された各信号値から、算出された近似曲線上の該当する値をそれぞれ差し引くこととしたので、温度変動による変化分が上乗せされた信号値から、温度変動による変化分を差し引く温度補正によって、信号値の補正を簡便かつ高精度に行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、本発明に係る印刷物検査手法を適用する印刷物検査装置の概要を示す図である。
【図2】図2は、本発明に係る印刷物検査手法の概要を示す図である。
【図3】図3は、本実施例に係る印刷物検査装置の構成を示すブロック図である。
【図4】図4は、磁気ヘッドおよび磁気ヘッドに関連する回路を示す図である。
【図5】図5は、磁気ヘッドによって取得された信号値に対する温度補正処理の概要を示す図である。
【図6】図6は、信号値抽出処理の例を示す図である。
【図7】図7は、近似曲線算出処理の例を示す図である。
【図8】図8は、印刷物検査装置が実行する処理手順を示すフローチャートである。
【図9】図9は、信号値抽出処理および近似曲線算出処理の変形例を示す図である。
【図10】図10は、変形例に係る印刷物検査装置が実行する処理手順を示すフローチャートである。
【図11】図11は、大判印刷物の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に添付図面を参照して、この発明に係る印刷物検査手法の好適な実施例を詳細に説明する。なお、以下では、本発明に係る印刷物検査手法を適用した印刷物検査装置が、基本単位の印刷原画が余白部を挟んで規則的に並べられて印刷された印刷物(以下、「大判印刷物」と記載する)を検査対象とする場合について説明する。しかしながら、このような大判印刷物に限らず、磁気を含んだインクが未乾燥の印刷物全般を、検査対象とすることができる。
【0025】
また、以下では、磁気ヘッドが大判印刷物と対峙状態となり、かつ、エアー噴出状態となったことをもって測定を開始するものとする。ここで、対峙状態とエアー噴出状態との先後関係については特に区別せず、「エアー噴出開始直後に走査を開始する」といった記載を行うこととする。また、磁気ヘッドは、大判印刷物に対して非接触状態を保ったまま走査されるものとする。
【0026】
また、以下では、本発明に係る印刷物検査手法の概要について図1、図2および図11を用いて説明した後に、本発明に係る印刷物検査手法を適用した印刷物検査装置についての実施例について図3〜図8を用いて説明することとする。
【0027】
まず、本発明に係る印刷物検査手法を適用する印刷物検査装置の概要について説明する。図1は、本発明に係る印刷物検査手法を適用する印刷物検査装置10の概要を示す図である。なお、同図には、本発明に係る印刷物検査手法を適用する印刷物検査装置10の一部のみを示している。
【0028】
また、同図の(A)には、印刷物検査装置10の俯瞰図を、同図の(B)には、ヘッドユニット11を大判印刷物100側からみた図を、同図の(C)には、ヘッドユニット11をY軸の正方向からみた図を、それぞれ示している。なお、大判印刷物100は、上面が平面加工されたガラス平盤などの図示しない平盤上に載置されており、同図に示すXY平面は、かかる平盤の上面と平行な平面である。
【0029】
同図に示したように、印刷物検査装置10は、磁気ヘッド11aの下面からエアーを噴出することで、磁気ヘッド11a下面が大判印刷物100に接触することを防止する。また、この磁気ヘッド11aを内蔵するヘッドユニット11には、一組のローラ11bがY軸と平行な取付軸まわりに転動可能に設けられている。
【0030】
そして、磁気検査を行う場合には、ローラ11bが大判印刷物の余白部(インクがない部分)上を走行することで、磁気ヘッド11aの下面と大判印刷物100との微少間隔(たとえば、150μm)を保持する。
【0031】
また、ヘッドユニット11は、Z軸用駆動モータ1cによって方向5c(同図のZ軸の正方向および負方向)に移動可能なZ軸用可動部2c経由で、X軸用可動部3aに接続されている。
【0032】
また、X軸用可動部3aは、X軸用ガイド2a上を、X軸用駆動モータ1aによって方向5a(同図のX軸の正方向および負方向)へ移動制御される。また、X軸用ガイド2aは、Y軸用可動部3bに接続されており、Y軸用可動部3bは、Y軸用ガイド2b上を、Y軸用駆動モータ1bによって方向5b(同図のY軸の正方向および負方向)へ移動制御される。
【0033】
すなわち、ヘッドユニット11は、同図に示したX軸、Y軸およびZ軸にそれぞれ沿って移動自在に設けられている。たとえば、同図に示した走査方向200で、大判印刷物100を走査する場合には、Y座標を固定したうえで、X座標の走査開始位置でローラ11bが大判印刷物100に接するまでヘッドユニット11を下降させる。そして、X座標のみを変化させることで走査方向200へヘッドユニット11を走行させる。
【0034】
つづいて、X座標の走査終了位置に達したならば、ヘッドユニット11を上昇させることで、ローラ11bを大判印刷物100から離す。そして、ヘッドユニット11のY座標を変更しつつX座標を走査開始位置まで戻し、ヘッドユニット11を下降させて次の走査を開始する。
【0035】
ここで、検査対象となる大判印刷物100について図11を用いて説明しておく。図11は、大判印刷物100の一例を示す図である。なお、同図には、X方向にA〜Dまでの4列、Y方向に1〜5までの5行の計20(4×5)個の印刷原画101が印刷された大判印刷物100を示している。なお、大判印刷部100の外周部分および各印刷原画101間には、インクが印刷されていない余白部が、それぞれ設けられている。
【0036】
そして、上述したように、X方向の走査を行う場合には、たとえば、同図における第1行の左端でヘッドユニット11を下降させて第1行の走査を開始し、第1行の右端までの走査が終了したならば、ヘッドユニット11を上昇させる。
【0037】
なお、ヘッドユニット11内に磁気ヘッド11aのY方向の位置をずらす機構を設けることとすれば、磁気ヘッド11aをずらして走査する手順を繰り返すことで、第1行の走査を複数回にわたって行うことも可能である。この場合、第1行のすべての走査が完了したならば、ヘッドユニット11を上昇させた状態で第2行の左端でヘッドユニット11を下降させ、第2行の走査を開始することになる。
【0038】
図1に戻り、図1の(B)以降について説明する。図1の(B)に示したように、ヘッドユニット11を大判印刷物100側からみると、1つの磁気ヘッド11aが配置されている。なお、図1の(B)には、磁気ヘッド11aの大判印刷物100側の面に6個の穴が設けられている旨を示しているが、これらの穴は、大判印刷物100へ吹き付けるエアーの噴出口である。なお、大判印刷物100へ吹き付けるエアーは、図示しないコンプレッサから供給される圧縮エアーである。
【0039】
具体的には、図1の(C)に示したように、かかる噴出口から方向300へ向けてエアーが吹き付けられることで、大判印刷物100の波打ちやしわが矯正される。これにより、磁気ヘッド11aと大判印刷物100との間隔を適正に保つことができる。なお、エアーは、チューブやパイプといった流路11c経由で噴出口へ導かれる。
【0040】
しかし、このように、エアー噴出によって磁気ヘッド11aと大判印刷物100との微少間隔を保持する印刷物検査装置10の場合、噴出されるエアーの温度と、磁気ヘッド11aの温度とが異なることが一般的である。このため、従来は、エアー噴出に伴う磁気ヘッド11aの温度変化が熱平衡状態となるまで、すなわち、エアーと磁気ヘッド11aとの温度差が0となるまで待ってヘッドユニット11による走査を開始しており、ヘッドユニット11の待機時間が問題となっていた。
【0041】
また、エアーを常時噴出して磁気ヘッド11aとの温度を一致させておく手法もあったが、大判印刷物100からヘッドユニット11が離れた状態でエアーを噴出しておいても、磁気ヘッド11a全体をエアーの温度と同一にすることは困難であった。
【0042】
これは、あらかじめエアーを噴出していたとしても、ヘッドユニット11を大判印刷物100の至近距離に近づけると(両者を対峙させると)、大判印刷物100で吹き返されたエアーの温度が磁気ヘッド11aの計測面から内部へ伝達され、磁気ヘッド11a内における温度部分布の変動によって磁気ヘッド11aの出力値が変動するためである。
【0043】
さらに、コンプレッサによるエアーの加圧は、エアー温度の上昇を伴ううえ、季節による周辺空気の温度や、作業室内の空調温度等にも影響されて不規則な温度変動の要因となりうることは広く知られている。また、磁気ヘッド11aによって取得された磁気データを加圧エアーの吹き付けによる温度変動中に随時補正することも困難である。これは、磁気ヘッド11a内部の温度分布や温度勾配の変化は複雑であり、かかる変化に対応した補正値を予め決定しておくことが難しいためである。
【0044】
そこで、本発明に係る印刷物検査手法では、磁気ヘッド11aによって取得された磁気データをいったん記憶し、事後的に磁気データの温度補正を行うことで、かかる待機時間を極小化することとした。
【0045】
図2は、本発明に係る印刷物検査手法の概要を示す図である。なお、同図の(A)には、従来技術に係る磁気ヘッド走査開始タイミングを、同図の(B)には、本発明に係る磁気ヘッド走査開始タイミングを、それぞれ示している。また、同図に示すグラフの横軸は時間を、縦軸は磁気ヘッド11aの出力を、それぞれあらわしている。
【0046】
図2の(A)に示したように、従来は、エアー噴出に伴う温度変化によって不安定となる磁気ヘッド11aの出力が安定するまで、すなわち、磁気ヘッド11aの温度変化が熱平衡状態となるまで待って磁気ヘッド11aの走査を開始していた。
【0047】
これに対し、図2の(B)に示したように、本発明では、エアー噴出開始直後に、磁気ヘッド11aによる走査を開始することとしたうえで、走査開始後の磁気ヘッド出力をサンプリングして記憶することとした(同図の(B−1)参照)。そして、記憶した出力値を温度補正して使用することとした(同図の(B−2)参照)。
【0048】
このように、本発明に係る印刷物検査手法では、磁気ヘッド11aの温度が過渡的に変化している区間における磁気ヘッド出力をも使用しつつ、磁気ヘッド11aの温度特性に起因する誤差については、事後的な温度補正で解消することとした。
【0049】
したがって、磁気ヘッド11aの温度変化が熱平衡状態となるまで待ち合わせる必要がないので、磁気検査を高速に行うことができる。また、図5〜図7を用いて後述する手法を用いて磁気ヘッド出力の温度補正を行うこととしたので、磁気検査を高精度に行うことができる。
【0050】
そして、本発明に係る印刷物検査手法は、噴出するエアーの温度調整や磁気ヘッドの温度調整を行う必要がないため、温度制御用の制御回路や、温度センサといった各種部材が不要となる。したがって、磁気ヘッド11aをはじめとする構成部材の小型化および低コスト化を実現することができる。
【0051】
さらに、磁気ヘッド11a内部におけるエアー熱等の熱伝搬特性を考慮する必要がないため、磁気ヘッド11aを簡単な構成とすることができ、コストの削減を図ることが可能となる。
【0052】
以下では、図1、図2および図11を用いて説明した本発明に係る印刷物検査手法を適用した印刷物検査装置10についての実施例を説明する。
【実施例】
【0053】
まず、本実施例に係る印刷物検査装置10の構成について図3を用いて説明する。図3は、本実施例に係る印刷物検査装置10の構成を示すブロック図である。なお、同図では、図1に示した可動機構等の記載を省略している。
【0054】
同図に示すように、印刷物検査装置10は、ヘッドユニット11と、制御部12と、記憶部13と、エアーコンプレッサ14とを備えている。また、ヘッドユニット11は、磁気ヘッド11aをさらに備えており、制御部12は、移動制御部12aと、磁気情報記憶指示部12bと、近似曲線算出部12cと、補正処理部12dと、磁気検査部12eとをさらに備えている。
【0055】
そして、記憶部13は、磁気情報13aを記憶する。なお、エアーコンプレッサ14から送り出された圧縮エアーは、図1の(C)に示したチューブやパイプといった流路11c経由で、各磁気ヘッド11aへ導かれる(同図の破線矢印参照)。
【0056】
ヘッドユニット11は、磁気ヘッド11aを保持するユニットであり、制御部12の移動制御部12aからの指示に基づき、検査対象である大判印刷物100に対する相対位置を図1に示したX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向について変化させる。また、同じく移動制御部12aからの指示に基づき、エアーコンプレッサ14で加圧されたエアーを磁気ヘッド11aから噴出させる動作の開始および停止を行う。
【0057】
磁気ヘッド11aは、交流バイアス式の差動型磁気検知ヘッドであり、検知面、すなわち、大判印刷物100側に設けられた検知ヘッドと、この検知ヘッドとコアを共有しており、大判印刷物100から隔てられた側に設けられたキャンセルヘッドとから構成される。また、この磁気ヘッド11aの検知面には、エアー噴出口が設けられている。
【0058】
ここで、磁気ヘッド11aの構成およびヘッドユニット11の構成について図4を用いて説明しておく。図4は、磁気ヘッド11aおよび磁気ヘッド11aに関連する回路を示す図である。なお、同図の(A)には、磁気ヘッド11aの下面図を、同図の(B)には、磁気ヘッド11aの側面図を、同図の(C)には、磁気ヘッド11aの回路図を、それぞれ示している。
【0059】
図4の(A)に示すように、磁気ヘッド11aの下面には、エアーの噴出口41が設けられている。また、かかる下面の中央部には、磁気検知が可能な検知ヘッドのコア部である検知領域42が存在する。すなわち、検知領域42以外の領域は、磁気に対する不感領域である。
【0060】
ここで、磁気ヘッド11aのY軸方向の幅43は、たとえば、16mmであり、検知領域42のY軸方向の幅42は、たとえば、10mmである。なお、本実施例では、検知面の外周部分に不感領域を有する磁気ヘッド11aを用いる場合について主に説明するが、不感領域を極小とした磁気ヘッド11aを用いることとしてもよい。
【0061】
図4の(B)に示すように、磁気ヘッド11aの内部には、対極コア45が設けられている。また、磁気ヘッド11aの下面に設けられた噴出口41からは、大判印刷物100へ向けて方向300へエアーが吹き付けられる。
【0062】
図4の(C)に示すように、磁気ヘッド11aは、発振器501によって生成された交流信号に基づいて励磁される。また、同図に示すように、対極コア45上には、キャンセルヘッド45aおよび検知ヘッド45bが構成されている。具体的には、対極コア45の上方ブロック45aaにおける励磁駆動回路502側の極にはキャンセルヘッド用1次コイル45abが、増幅回路503側の極にはキャンセルヘッド用2次コイル45acがそれぞれ巻回されてキャンセルヘッド45aが構成されている。
【0063】
また、対極コア45の下方ブロック45baにおける励磁駆動回路502側の極には検知ヘッド用1次コイル45bbが、増幅回路504側の極には検知ヘッド用2次コイル45bcがそれぞれ巻回されて検知ヘッド45bが構成されている。なお、上方ブロック45aaおよび下方ブロック45baにそれぞれ巻回されたキャンセルヘッド用1次コイル45abと検知ヘッド用1次コイル45bbとは直列に接続され、キャンセルヘッド用2次コイル45acと検知ヘッド用2次コイル45bcとは並列に接続されている。
【0064】
そして、発振器501によって生成された交流の基準信号は励磁駆動回路502へ入力され、励磁駆動回路502は、かかる基準信号に対して所定の励磁信号を付加したうえで、キャンセルヘッド用1次コイル45abおよび検知ヘッド用1次コイル45bbへ通電する。これにより交番磁界が生成される。そして、キャンセルヘッド用2次コイル45acおよび検知ヘッド用2次コイル45bcでは、磁性体の接近などによる交番磁界の変化を検出する。
【0065】
ここで、検知ヘッド用2次コイル45bcは、大判印刷物100に印刷された磁性インクによる交番磁界の変化を検出するが、キャンセルヘッド用2次コイル45acは、大判印刷物100から隔てられているため交番磁界の変化を検出しない。
【0066】
このため、キャンセルヘッド用2次コイル45acからの出力を増幅回路503で増幅した信号と、検知ヘッド用2次コイル45bcからの出力を増幅回路504で増幅した信号との差分を差動アンプ回路505へ入力することで、キャンセルヘッド45aの出力を基準とした磁気信号を取得することができる。
【0067】
ここで、差動アンプ回路505は、増幅回路503および増幅回路504から出力された各増幅出力の差動交流出力を整流平滑することで、直流電圧信号へ変換する回路である。すなわち、差動アンプ回路505は、定常状態から差動交流出力に変化が生じた場合に、かかる変化量を直流電圧信号値の変化として出力する。
【0068】
また、キャンセルヘッド用2次コイル45acからの出力は、増幅回路503経由で励磁駆動回路502へフィードバックされる。これは、励磁駆動回路502が、所定レベルでキャンセルヘッド用1次コイル45abおよび検知ヘッド用1次コイル45bbを増減補正し、常時安定に励起するためである。
【0069】
このようなキャンセルヘッド45aおよび検知ヘッド45bを有する磁気ヘッド11aを用いた場合、各コイル(キャンセルヘッド45aおよび検知ヘッド45bの各コイル)を同温定常状態に保つ必要があり、両者の温度バランスが崩れると抵抗値の微少変動などによって差動アンプ回路505のオフセット値が変動してしまう。
【0070】
したがって、このような磁気ヘッド11aの温度特性を安定させるには、磁気ヘッド11a全体の温度を一様に一定とする必要がある。しかし、後述する温度補正手法を用いることで、磁気ヘッド11aの温度管理を行うことなく、磁気検査の精度を向上させることができる。
【0071】
図3の説明に戻り、制御部12について説明する。制御部12は、ヘッドユニット11の移動制御および加圧エアーの噴出制御や、磁気ヘッド11aから取得した磁気データの補正処理、補正処理後の磁気データを用いた磁気検査処理といった処理を行う処理部である。
【0072】
移動制御部12aは、図1に示した各モータ(1a、1bおよび1c)に対する指示を行うことで、ヘッドユニット11の移動制御を行う処理部である。なお、この移動制御部12aは、磁気ヘッド11aから大判印刷物100へ向けて噴射されるエアー(コンプレッサ14で加圧された加圧エアー)の噴出開始指示あるいは噴出停止指示を併せて行う。
【0073】
磁気情報記憶指示部12bは、磁気ヘッド11aが取得した磁気データを磁気情報13aとして記憶部13へ記憶させる処理を行う処理部である。なお、記憶部13へ記憶された磁気情報13aは、近似曲線算出部12cによって用いられることになる。
【0074】
近似曲線算出部12cは、記憶部13に記憶された磁気情報13aを読み出し、時系列の信号値の変動をあらわす変動曲線の磁気なし部分に相当するベース曲線を算出する処理を行う処理部である。具体的には、走査区間(走査開始位置から走査終了位置までの区間)において磁気ヘッド11aの温度が不変であれば、磁気なし部分に相当する信号値は一定となるはずである。この場合、かかるベース曲線は、時間軸と平行な直線となる。
【0075】
しかし、磁気ヘッド11aの検知面から大判印刷物100へ向けてエアーを吹き付ける手法をとった場合には、通常、磁気ヘッド11aの温度と噴出されるエアーの温度とに差が生じており、エアー噴出による磁気ヘッド11aの温度変化が熱平衡状態となるまでに所定の時間を要する。したがって、上記したベース曲線の形状は、直線とはならない。そして、かかるベース曲線を得ることができれば、変動曲線からベース曲線を差し引く補正を行うことで温度変化の影響を排除した信号値を得ることができる。
【0076】
このため、近似曲線算出部12cは、かかるベース曲線を多次元関数による近似曲線として算出することした。そして、補正処理部12dは、近似曲線算出部12cによって算出された近似曲線を磁気情報13aの変動曲線から差し引くことで、温度変化の影響を排除した補正信号値を取得する。そして、磁気検査部12eは、補正処理部12dから受け取った補正信号値を、あらかじめ用意された基準信号値と比較するなどして磁気検査を行うことになる。
【0077】
なお、記憶部13は、ハードディスクドライブや不揮発性メモリといった記憶デバイスで構成される記憶部であり、磁気情報13aは、磁気ヘッド11aの識別子、走査時のX座標およびY座標といった情報および磁気ヘッド11aが取得した信号値を含んだ情報である。
【0078】
次に、上記した近似曲線算出部12cおよび補正処理部12dによって行われる温度補正処理の概要について図5を用いて説明する。図5は、磁気ヘッド11aによって取得された信号値に対する温度補正処理の概要を示す図である。なお、同図では、図11に示した大判印刷物100の所定の行における各印刷原画101の走査によって得られた信号値の変動グラフを例示している。また、同図では、説明を解りやすくするために、変動グラフの変動を簡略化して示している。
【0079】
図5の(A)に示したように、磁気ヘッド11aによって取得された信号値は、走査距離に応じて変動する。ここで、各印刷原画101の1箇所で磁気を検出したとすると、4つの印刷原画101のそれぞれで同類のピーク信号52が得られる。そして、各ピーク信号52は、印刷なし部分に相当するベース曲線51に足し合わせられた状態で検出される。
【0080】
なお、同図に示す点53は、ベース曲線51の傾きが0となる点、すなわち、熱平衡状態となった点をあらわしており、従来は、かかる熱平衡状態となるまで待ってヘッドユニット11による走査が行われていた。しかし、噴出エアーと磁気ヘッド11aとの完全な熱平衡状態を待ち合わせると、走査ごとに待ち合わせ時間が異なるものとなり、待ち合わせ終了時点の検出が困難となる。そして、大判印刷物100全体の磁気検査に要する時間がかさんでしまう。
【0081】
そこで、本実施例に係る印刷物検査装置10では、熱平衡状態を待ち合わせることなく走査を行い、磁気ヘッド11aによって取得された信号値を補正することで、磁気ヘッド11aの熱変動による影響を除去することとした。
【0082】
具体的には、図5の(B)に示したように、信号値の変動グラフを、閾値Lと、閾値Lよりも大きい閾値Hとで区切り、閾値L以上、かつ、閾値H以下の信号値(以下、「抽出信号値」と記載する)のみを抽出する。そして、図5の(C)に示したように、抽出信号値の変動を近似する近似曲線54を算出する。
【0083】
ここで、近似曲線54は、たとえば、回帰分析によって算出することができ、2次曲線〜7次曲線として算出されるが、精度の面からみて2次曲線とすれば足りる。なお、算出された近似曲線54は、図5の(A)に示したベース曲線51に相当する。なお、近似曲線54の詳細な算出手順については、図7を用いて後述する。
【0084】
また、閾値Lおよび閾値Hは、ベース曲線51の変動幅や、ベース曲線51の平均などを実験等から求めておき、かかる変動幅を含むようにあらかじめ設定されるものとする。そして、図5の(C)に示したように、近似曲線算出部12cによって近似曲線54が算出されたならば、補正処理部12dは、図5の(A)に示した変動グラフから近似曲線54の値を差し引く処理を行う。これにより、温度変動の影響が排除された信号値を得ることができる(図5の(D)参照)。
【0085】
次に、磁気ヘッド11aによって取得された信号値の実例を用い、図5の(B)に示した信号値抽出処理および図5の(C)に示した近似曲線算出処理について、図6および図7を用いて説明する。なお、図6および図7に示した各グラフの横軸は走査距離(mm)を、縦軸は信号値をアナログからデジタルへ変換したレベル値を、それぞれあらわしている。
【0086】
まず、信号値抽出処理について図6を用いて説明する。図6は、信号値抽出処理の例を示す図である。なお、同図の(A)には、信号値62を破線で、信号値62のベースライン61を実線でそれぞれあらわしたグラフを示している。また、同図の(B)には、同図の(A)に示したベースライン61付近を拡大したグラフを示している。
【0087】
図6の(A)に示したように、4列の大判印刷物100をX方向に走査した場合には、信号値62は、グラフの横軸方向に、3つの山で構成される変化を、4回繰り返した形状となる。そして、信号値62における磁気なし部分に相当するベースライン61は、磁気ヘッド11a内部における温度分布の変化に伴って緩やかに変動し、やがて平衡状態(横軸と平行)になる。
【0088】
ここで、磁気なし部分の平均的なレベル値を20とし、磁気なし部分のレベル値の変動幅を3とすると、図6の(B)に示したように、閾値Hは23となり、閾値Lは17となる。そして、信号値抽出処理では、閾値L以上閾値H以下、すなわち、レベル値が17以上23以下の信号値62のみを抽出信号値として抽出する。そして、近似曲線抽出処理では、このようにして抽出された抽出信号値のみを用いて近似曲線を算出することになる。
【0089】
なお、図6では、磁気なし部分の平均的なレベル値を20とし、かかるレベル値の変動幅を3とした場合について説明したが、これらの値を実験値などに基づいて変更することとしてもよい。
【0090】
次に、近似曲線算出処理について図7を用いて説明する。図7は、近似曲線算出処理の例を示す図である。図7の(A)に示したように、近似曲線算出処理では、図6の(B)で抽出された抽出信号値を回帰分析することによって第1次推定曲線を算出する。
【0091】
つづいて、図7の(B)に示したように、図7の(A)で算出された第1次推定曲線に対する抽出信号値の分布状況を分析し、近似曲線近傍に分布する抽出信号値のみを磁気なし信号値として再抽出する。たとえば、第1次推定曲線について+σ以内および−σ以内の抽出信号値のみを再抽出する。なお、±0.5σや、±2σといった他の再抽出範囲を設定することとしてもよい。ここで、σは、標準偏差をあらわす。
【0092】
そして、図7の(C)に示したように、図7の(B)で再抽出された抽出信号値のみに基づき、第1次推定曲線の算出と同様の手順で第2次推定曲線を算出する。ここで、算出された第2次推定曲線が、最終的な近似曲線54(図5参照)として決定されることになる。
【0093】
なお、図7では、第1次推定曲線の算出、第1次推定曲線に対する抽出信号値の分布状況に応じた抽出信号値の再抽出、再抽出された抽出信号値に基づく第2次推定曲線の算出という手順で最終的な近似曲線54を決定する場合について示した。しかしながら、これに限らず、推定曲線の算出と、抽出信号値の再抽出とを所定回数(n回)繰り返すことで、最終的な近似曲線54を決定することとしてもよい。
【0094】
この場合、算出された第n次推定曲線と、第n−1次推定曲線とを対比し、両推定曲線の形状や位置の差異があらかじめ定めた所定の閾値を下回った場合に、繰り返しを停止することとしてもよく、あらかじめ繰り返し回数(n回)を定めておくこととしてもよい。
【0095】
また、図7では、第1次推定曲線の近傍に分布する抽出信号値の再抽出処理において分散を用いる場合について示したが、第1次推定曲線から所定距離以内の抽出信号値を再抽出することとしてもよい。このようにすることで、抽出信号値の再抽出処理をより簡便に行うことができる。
【0096】
次に、印刷物検査装置10が実行する処理手順について図8を用いて説明する。図8は、印刷物検査装置10が実行する処理手順を示すフローチャートである。なお、同図には、磁気ヘッド11aによる所定の走査が完了した後に、印刷物検査装置10によって実行される処理手順を示している。
【0097】
図8に示すように、近似曲線算出部12cは、記憶部13から磁気データを読み出し(ステップS101)、1回の走査に対応する磁気データにおける信号値が所定範囲内の磁気データを抽出する(ステップS102)。なお、所定範囲内とは、図5などに示した閾値L以上閾値H以下の範囲を指す。
【0098】
つづいて、近似曲線算出部12cは、ステップS102で抽出した磁気データを用いて第1次推定曲線を算出し(ステップS103)、第1次推定曲線から1σ以上離れた磁気データを除外する(ステップS104)。
【0099】
そして、残った磁気データ、すなわち、ステップS102で抽出された磁気データのうちステップS104で除外されなかった磁気データを用いて第2次推定曲線を算出する(ステップS105)。
【0100】
つづいて、補正処理部12dは、所定の走査に係る全磁気データから最終的な推定曲線である第2次推定曲線を差し引くことで補正データを生成する(ステップS106)。そして、磁気検査部12eは、ステップS106で生成された補正データを用いて磁気検査を実行し(ステップS107)、処理を終了する。
【0101】
なお、必要とする複数の全走査データに関して補正データを生成した後に、生成した全補正データに対してステップS107の処理を実行することとしてもよい。また、複数回の走査を必要とする場合、1つの走査終了から次の走査終了までの間に、先の走査データに関する補正処理を終了させることとすれば、最終走査の終了後における補正処理を短時間で終了させることができる。
【0102】
ところで、これまでは、近似曲線算出部12cが、所定の閾値を用いることで磁気情報13aから抽出信号値を抽出し、かかる抽出信号値を用いてベース曲線の推定曲線を算出する場合について説明してきた。しかしながら、所定の閾値を用いることなく推定曲線を算出することも可能である。そこで、以下では、所定の閾値を用いることなく推定曲線を算出する場合について図9および図10を用いて説明することとする。
【0103】
図9は、信号値抽出処理および近似曲線算出処理の変形例を示す図である。なお、図9では、図5で既に説明した要素については同一の符号を付している。また、図9では、各データが時系列データである旨を示すため各グラフの横軸を時間としているが、ヘッドユニット11の移動速度が一定であれば、各グラフの横軸を図5のように距離とした場合と同意である。
【0104】
また、図9の(A)には、ベース曲線51が単調に増加する場合について、図9の(B)には、ベース曲線51が単調に減少する場合について、それぞれ示している。
【0105】
図9の(A)に示したように、グラフの横軸について、ヘッドユニット11を大判印刷物100から微少距離に位置付けてエアー噴出した時間をt0、測定開始時間をtS、測定終了時間をtEとする。そして、図9の(A)では、ベース曲線51が非減少曲線であるとする。
【0106】
この場合、図9の(A−1)に示したように、近似曲線算出部12cは、まず、測定開始時間(tS)に対応する信号値91を選択し、時系列の正順92(時間経過に沿った方向)で、信号値の最小値を順次更新していく処理を、測定終了時間(tE)まで繰り返す。そして、最小値を更新した信号値の数を記憶する。なお、同図に示したベース曲線51は時系列の正順92について非減少曲線であるので、最小値を更新した信号値の数は0となる。
【0107】
また、図9の(A−2)に示したように、近似曲線算出部12cは、測定終了時間(tE)に対応する信号値93を選択し、時系列の逆順94(時間経過に逆らった方向)で、信号値の最小値を順次更新していく処理を、測定開始時間(tS)まで繰り返す。そして、最小値を更新した信号値の数を記憶する。なお、同図に示したベース曲線51は時系列の正順92について非減少曲線であるが、時系列の逆順94については非増加曲線であるので、最小値を更新した信号値の数は多数となる。
【0108】
このように、近似曲線算出部12cは、時系列の正順92および逆順94のそれぞれについて最小値を更新した信号値の数を算出し、最小値を更新した信号値の数が多い検索方向を選択する。すなわち、図9の(A)に示した場合には、逆順94を選択する。そして、時系列を逆順94にたどった場合に最小値を更新した信号値の集合に基づいて推定曲線95を算出する(図9の(A−2)参照)。なお、推定曲線95の算出には、図7に示した第1次推定曲線や第2次推定曲線の算出と同様の手法を用いることができる。
【0109】
一方、図9の(B)に示したように、ベース曲線51が単調に減少する場合には、図9の(A)に示した場合と逆方向の検索順序が選択されることになる。すなわち、ベース曲線51が単調に減少する場合には、検索方向として正順92が選択される。そして、時系列を正順92にたどった場合に最小値を更新した信号値の集合に基づいて推定曲線96を算出する(図9の(B)参照)。なお、推定曲線96の算出には、図7に示した第1次推定曲線や第2次推定曲線の算出と同様の手法を用いることができる。
【0110】
このように、図9に示した手法では、磁気インク検出に伴う変動がベース曲線に足し合わせられた形で検出されることに着目し、変動グラフの底辺を構成するベース曲線を、直接的に取得することとしたので、推定曲線算出に係る処理負荷を低減することができる。
【0111】
次に、変形例に係る印刷物検査装置10が実行する処理手順について図10を用いて説明する。図10は、変形例に係る印刷物検査装置10が実行する処理手順を示すフローチャートである。なお、同図には、磁気ヘッド11aによる所定の走査が完了した後に、印刷物検査装置10によって実行される処理手順を示している。
【0112】
図10に示すように、近似曲線算出部12cは、記憶部13から磁気データを時系列の正順で読み出し(ステップS201)、正順の最小値更新点をカウントする(ステップS202)。ここで、正順の最小値更新点のカウント数をCAとする。
【0113】
また、近似曲線算出部12cは、記憶部13から磁気データを時系列の逆順で読み出し(ステップS203)、逆順の最小値更新点をカウントする(ステップS204)。ここで、逆順の最小値更新点のカウント数をCBとする。
【0114】
つづいて、正順のカウント数(CA)が、逆順のカウント数(CB)よりも大きいか否かを判定し(ステップS205)、正順のカウント数(CA)のほうが大きい場合には(ステップS205,Yes)、正順の最小値更新点の集合、すなわち、正順の最小値更新点を結んだ曲線を推定曲線とする(ステップS206)。一方、ステップS205の判定条件を満たさなかった場合には(ステップS205,No)、逆順の最小値更新点の集合、すなわち、逆順の最小値更新点を結んだ曲線を推定曲線とする(ステップS207)。
【0115】
つづいて、補正処理部12dは、所定の走査に係る全磁気データからステップS206またはステップS207で算出された推定曲線を差し引くことで補正データを生成する(ステップS208)。そして、磁気検査部12eは、ステップS208で生成された補正データを用いて磁気検査を実行し(ステップS209)、処理を終了する。
【0116】
ところで、図8および図9では、記憶部13から読み出した磁気データを時系列の正順および逆順でそれぞれ検索し、各検索方向で最小値更新点をカウントし、カウント数が多いほうの検索方向に対応する最小値更新点を結んで推定曲線を算出する場合について説明した。しかしながら、両検索方向で最小値更新点をそれぞれカウントすることなく検索方向を決定することも可能である。
【0117】
具体的には、測定開始時間(tS)に対応する信号値91と、信号値91の近傍における信号値との大小比較で、検索方向を決定することができる。たとえば、図9の(A)のように信号値91の右側近傍の信号値が信号値91よりも大きければ、検索方向を逆順と決定することができる。また、図9の(B)のように信号値91の右側近傍の信号値が信号値91よりも小さければ、検索方向を正順と決定することができる。
【0118】
また、測定終了時間(tE)に対応する信号値93と、信号値93の近傍における信号値との大小比較で、検索方向を決定することとしてもよい。たとえば、図9の(A)のように信号値93の左側近傍の信号値が信号値93よりも小さければ、検索方向を逆順と決定することができる。また、図9の(B)のように信号値93の左側近傍の信号値が信号値93よりも大きければ、検索方向を正順と決定することができる。
【0119】
このように、正順または逆順のいずれか一方の検索を行うのみで、検索方向を決定することとすれば、正順および逆順の最小値更新点をそれぞれカウントする手法に比べて処理時間を短縮することができる。
【0120】
また、検索方向の決定タイミングについては、測定開始時間(tS)あるいは測定終了時間(tE)近傍の信号値を読み出した時点とすることができる。すなわち、測定開始時間(tS)から測定終了時間(tE)まで、あるいは、測定終了時間(tE)から測定開始時間(tS)まで、すべての信号値の読み出しを待つ必要はない。
【0121】
なお、測定開始時間(tS)から測定終了時間(tE)までを、複数の区間に区切り、各区間において最小値更新点をそれぞれ求めていくこととすれば、磁気ヘッド11aの走査と、最小値更新点を求める処理とを並行して行うことが可能となり、さらに処理時間を短縮することができる。
【0122】
たとえば、測定開始時間(tS)を含む最初の区間で、ベース曲線51が減少していることが判明した場合には、検索方向を正順としたうえで、各区間において最小値更新点を順次求めていく。このようにすることで、測定終了時間(tE)では、すべての最小値更新点が揃うので、推定曲線をただちに得ることができる。すなわち、推定曲線の算出処理を磁気ヘッド11aの走査と並行して行うことができる。
【0123】
一方、測定開始時間(tS)を含む最初の区間で、ベース曲線51が増加していることが判明した場合には、検索方向を逆順と決定する。そして、最初の区間の信号値が揃った段階で、最初の区間を逆順に検索することで最小値更新点を求めていく。
【0124】
さらに、2番目の区間の信号値が揃った段階で、2番目の区間を逆順に検索することで最小値更新点を求めていく。同様の処理を最後の区間まで繰り返すことで、ベース曲線51が増加している場合であっても、測定終了時間(tE)後に行う処理は、最後の区間における最小値更新点を求める処理のみとなる。したがって、推定曲線の算出処理を磁気ヘッド11aの走査とほぼ並行して行うことができる。
【0125】
上述してきたように、本実施例では、移動制御部が、噴出エアーの介在によって印刷物との間隔が微少間隔となったならば、磁気ヘッドの温度変化が止まる熱平衡状態を待ち合わせることなく、磁気ヘッドの走査を開始し、走査が開始されたならば、磁気情報記憶指示部が、磁気ヘッドからの信号値を記憶部へ記憶させる指示を行い、近似曲線算出部が、記憶部へ記憶された信号値の中から磁気検出がない部分に対応する磁気なし信号値を抽出し、抽出された磁気なし信号値の変動履歴をあらわす近似曲線を算出し、補正処理部が、算出された近似曲線に基づいて記憶部へ記憶された信号値を補正するように印刷物検査装置を構成した。
【0126】
したがって、エアー噴出後の温度変動の熱平衡状態を待ち合わせる必要がないので、磁気検査を高速に行うことができるとともに、近似曲線に基づいた温度補正によって高精度な磁気検査を行うことができる。また、エアーの温度あるいは磁気ヘッドの温度を管理したり制御したりする必要がなく、磁気ヘッド内部の検知コイルからキャンセルコイルへの熱伝搬特性を管理したり調整したりする必要もない。したがって、磁気ヘッドを含む周辺部材を簡略化することが可能となり、装置コストを抑制することができる。
【0127】
また、熱変動のある磁気ヘッド信号値データそのものから磁気なし信号値レベルの変動を検知することで、自動的に印刷物の正しい磁気特性を取得することができる。
【0128】
なお、上述した実施例では、磁気ヘッドによる1回の走査が完了した後に、記憶部に記憶された磁気情報を用いた近似曲線算出処理や補正処理を行う場合について説明した。しかしながら、これに限らず、走査の途中(たとえば、1/2完了時や1/3完了時など)で近似曲線算出処理等を開始することとしてもよい。このようにすることで、1回の走査が完了した時点で、温度補正後の磁気検査結果を得ることができる。
【0129】
また、上述した実施例では、磁気なし信号値に対して磁気信号値が正(プラス)になる場合について説明を行ったが、磁気信号値が負(マイナス)になる場合にも本発明を適用することができる。この場合、磁気なし信号値に対して磁気信号値が正(プラス)となるように両信号値の正負関係を逆にして本発明を適用することとすればよい。
【産業上の利用可能性】
【0130】
以上のように、本発明に係る印刷物検査方法および印刷物検査装置は、印刷物の磁気検査に有用であり、特に、磁気ヘッドや磁気ヘッドの周辺から加圧エアーを吹き付けつつ印刷物の磁気特性を非接触で測定する場合における磁気検査の所要時間短縮や、磁気ヘッドあるいは磁気ヘッドユニットの小型化に適している。
【符号の説明】
【0131】
10 印刷物検査装置
11 ヘッドユニット
11a 磁気ヘッド
11b ローラ
11c 流路
12 制御部
12a 移動制御部
12b 磁気情報記憶指示部
12c 近似曲線算出部
12d 補正処理部
12e 磁気検査部
13 記憶部
13a 磁気情報
14 エアーコンプレッサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気ヘッドの計測面と印刷物との間に前記印刷物を押圧するエアーを介在させ、前記計測面と前記印刷物との間隔を所定の微少間隔に保ったまま前記印刷物を走査することで前記印刷物の磁気特性を検査する印刷物検査方法であって、
前記エアーの介在によって前記印刷物との間隔が前記微少間隔となったならば、前記磁気ヘッドの温度変化が止まる熱平衡状態を待ち合わせることなく、前記磁気ヘッドの前記走査を開始する走査開始工程と、
前記走査開始工程によって前記走査が開始されたならば、前記磁気ヘッドからの信号値を記憶部へ記憶させる指示を行う記憶指示工程と、
前記記憶指示工程の指示によって前記記憶部へ記憶された前記信号値の中から磁気検出がない部分に対応する磁気なし信号値を抽出する抽出工程と、
前記抽出工程によって抽出された前記磁気なし信号値の変動履歴をあらわす近似曲線を算出する算出工程と、
前記算出工程によって算出された前記近似曲線に基づいて前記記憶指示工程の指示によって前記記憶部へ記憶された前記信号値を補正する補正工程と
を含んだことを特徴とする印刷物検査方法。
【請求項2】
前記抽出工程は、
前記記憶指示工程の指示によって前記記憶部へ記憶された前記信号値のうち、予め定められた数値範囲に該当する信号値を前記磁気なし信号値として抽出することを特徴とする請求項1に記載の印刷物検査方法。
【請求項3】
前記算出工程は、
前記近似曲線を仮の近似曲線として算出したならば、該仮の近似曲線の算出に用いられた前記磁気なし信号値のうち、該仮の近似曲線を基準とした分散の絶対値が所定値以上の前記磁気なし信号値を除外したうえで、除外後に残存する前記磁気なし信号値の前記変動履歴をあらわす最終的な前記近似曲線を算出することを特徴とする請求項1または2に記載の印刷物検査方法。
【請求項4】
前記抽出工程は、
前記記憶指示工程の指示によって前記記憶部へ記憶された前記信号値から最小値が更新されたポイントを時系列の正順または逆順に順次取得し、取得した前記ポイントの値を前記磁気なし信号値として抽出することを特徴とする請求項1に記載の印刷物検査方法。
【請求項5】
前記補正工程は、
前記記憶指示工程の指示によって前記記憶部へ記憶された各信号値から、前記算出工程によって算出された前記近似曲線上の該当する値をそれぞれ差し引くことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の印刷物検査方法。
【請求項6】
磁気ヘッドの計測面と印刷物との間に前記印刷物を押圧するエアーを介在させ、前記計測面と前記印刷物との間隔を所定の微少間隔に保ったまま前記印刷物を走査することで前記印刷物の磁気特性を検査する印刷物検査装置であって、
前記エアーの介在によって前記印刷物との間隔が前記微少間隔となったならば、前記磁気ヘッドの温度変化が止まる熱平衡状態を待ち合わせることなく、前記磁気ヘッドの前記走査を開始する走査開始手段と、
前記走査開始手段によって前記走査が開始されたならば、前記磁気ヘッドからの信号値を記憶部へ記憶させる指示を行う記憶指示手段と、
前記記憶指示手段の指示によって前記記憶部へ記憶された前記信号値の中から磁気検出がない部分に対応する磁気なし信号値を抽出する抽出手段と、
前記抽出手段によって抽出された前記磁気なし信号値の変動履歴をあらわす近似曲線を算出する算出手段と、
前記算出手段によって算出された前記近似曲線に基づいて前記記憶指示手段の指示によって前記記憶部へ記憶された前記信号値を補正する補正手段と
を備えたことを特徴とする印刷物検査装置。
【請求項1】
磁気ヘッドの計測面と印刷物との間に前記印刷物を押圧するエアーを介在させ、前記計測面と前記印刷物との間隔を所定の微少間隔に保ったまま前記印刷物を走査することで前記印刷物の磁気特性を検査する印刷物検査方法であって、
前記エアーの介在によって前記印刷物との間隔が前記微少間隔となったならば、前記磁気ヘッドの温度変化が止まる熱平衡状態を待ち合わせることなく、前記磁気ヘッドの前記走査を開始する走査開始工程と、
前記走査開始工程によって前記走査が開始されたならば、前記磁気ヘッドからの信号値を記憶部へ記憶させる指示を行う記憶指示工程と、
前記記憶指示工程の指示によって前記記憶部へ記憶された前記信号値の中から磁気検出がない部分に対応する磁気なし信号値を抽出する抽出工程と、
前記抽出工程によって抽出された前記磁気なし信号値の変動履歴をあらわす近似曲線を算出する算出工程と、
前記算出工程によって算出された前記近似曲線に基づいて前記記憶指示工程の指示によって前記記憶部へ記憶された前記信号値を補正する補正工程と
を含んだことを特徴とする印刷物検査方法。
【請求項2】
前記抽出工程は、
前記記憶指示工程の指示によって前記記憶部へ記憶された前記信号値のうち、予め定められた数値範囲に該当する信号値を前記磁気なし信号値として抽出することを特徴とする請求項1に記載の印刷物検査方法。
【請求項3】
前記算出工程は、
前記近似曲線を仮の近似曲線として算出したならば、該仮の近似曲線の算出に用いられた前記磁気なし信号値のうち、該仮の近似曲線を基準とした分散の絶対値が所定値以上の前記磁気なし信号値を除外したうえで、除外後に残存する前記磁気なし信号値の前記変動履歴をあらわす最終的な前記近似曲線を算出することを特徴とする請求項1または2に記載の印刷物検査方法。
【請求項4】
前記抽出工程は、
前記記憶指示工程の指示によって前記記憶部へ記憶された前記信号値から最小値が更新されたポイントを時系列の正順または逆順に順次取得し、取得した前記ポイントの値を前記磁気なし信号値として抽出することを特徴とする請求項1に記載の印刷物検査方法。
【請求項5】
前記補正工程は、
前記記憶指示工程の指示によって前記記憶部へ記憶された各信号値から、前記算出工程によって算出された前記近似曲線上の該当する値をそれぞれ差し引くことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の印刷物検査方法。
【請求項6】
磁気ヘッドの計測面と印刷物との間に前記印刷物を押圧するエアーを介在させ、前記計測面と前記印刷物との間隔を所定の微少間隔に保ったまま前記印刷物を走査することで前記印刷物の磁気特性を検査する印刷物検査装置であって、
前記エアーの介在によって前記印刷物との間隔が前記微少間隔となったならば、前記磁気ヘッドの温度変化が止まる熱平衡状態を待ち合わせることなく、前記磁気ヘッドの前記走査を開始する走査開始手段と、
前記走査開始手段によって前記走査が開始されたならば、前記磁気ヘッドからの信号値を記憶部へ記憶させる指示を行う記憶指示手段と、
前記記憶指示手段の指示によって前記記憶部へ記憶された前記信号値の中から磁気検出がない部分に対応する磁気なし信号値を抽出する抽出手段と、
前記抽出手段によって抽出された前記磁気なし信号値の変動履歴をあらわす近似曲線を算出する算出手段と、
前記算出手段によって算出された前記近似曲線に基づいて前記記憶指示手段の指示によって前記記憶部へ記憶された前記信号値を補正する補正手段と
を備えたことを特徴とする印刷物検査装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−76675(P2011−76675A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228116(P2009−228116)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000001432)グローリー株式会社 (1,344)
【出願人】(595115592)学校法人鶴学園 (39)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000001432)グローリー株式会社 (1,344)
【出願人】(595115592)学校法人鶴学園 (39)
【Fターム(参考)】
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