説明

印刷用シート

【課題】耐ブロッキング性を有し、紫外線硬化タイプや酸化重合タイプ等の銘柄の異なるインキの密着性及び印刷性に優れ、さらに熱転写印字性にも優れる印刷用シートを提供することを目的とする。
【解決手段】基材の一方の面に、ガラス転移温度Tgが40〜95℃の範囲にある熱可塑性ポリエステル樹脂(A)と、その100質量部に対して、活性エネルギー線硬化型化合物の硬化樹脂(B)を5〜25質量部の割合で含む印刷用コート層を有し、かつ前記印刷用コート層の厚さが80〜450nmであって、ナノインデンテーション試験により測定される表面硬度が150〜300MPaであることを特徴とする印刷用シートである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は印刷用シート、さらに詳しくは、耐ブロッキング性を有し、紫外線硬化タイプや酸化重合タイプ等の銘柄の異なるインキの密着性及び印刷性に優れ、さらに熱転写印字性にも優れる印刷用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
各種の印刷に用いられる印刷用シートに、基材としてプラスチックシートが使用されてきている。一般的に、印刷用シートの基材がプラスチックシートである場合には、インキとの密着性を良好にするため、基材シートの表面に印刷用コート層が設けられている。近年、印刷業界においては、フレキソ印刷の需要が増えてきている。また、フレキソ印刷のインキはUV(紫外線硬化型)インキが主流である。ところが、フレキソ印刷では通常のオフセット印刷等に比べてインキの盛り量が多いため、UVインキを用いてフレキソ印刷を施すとインキの硬化収縮によりインキの脱落が生じる、という問題があった。したがって、UVインキを用いてフレキソ印刷を行う場合にもUVインキの収縮に追従でき、かつUVインキとの密着性に優れた印刷用フィルムや印刷用粘着シートが求められていた。
また、UVインキに特化したものでなく、酸化重合型インキとの密着性及び印刷性に優れ熱転写印字にも優れ、さらには印刷前の状態において耐ブロッキング適性も有するものが一つのコート層として処理されているものが求められている。
【0003】
紫外線硬化タイプ及び酸化重合タイプ等の、銘柄の異なるインキの密着性及び印刷性に優れ、さらに印刷加工を伴うラベル用に有用な、ポリエステル系積層フィルムに関し、ポリエステル系樹脂からなる基材フィルムと、該基材フィルムの少なくとも片面に設けられた表面層とを有するポリエステル系積層フィルムであって、該表面層が、分岐したグリコールを構成成分として含有する共重合ポリエステル樹脂(A)と、重亜硫酸塩をブロック剤とするブロック型イソシアネート基を含有する樹脂(B)とを主成分とする樹脂組成物から構成されているポリエステル系積層フィルムが開示されている(特許文献1参照)。
酸化重合型インキ、紫外線硬化型インキの印刷物においてインキの密着性を有し、しかも印刷物の耐スクラッチ性を有する熱可塑性樹脂フィルムとして、JIS K 5600−5−4に準拠する鉛筆硬度がHB以上である硬化型樹脂及び、オレフィン系樹脂を含み、さらに、熱可塑性樹脂フィルム外表面にオレフィン系樹脂由来の突起を含む塗布層を少なくとも片面に有する熱可塑性樹脂フィルムが開示されている(特許文献2参照)。
さらに耐ブロッキング性、インキ密着性に優れたインキ用アンカーコート剤として、トルエン不溶分率60〜99重量%であることを特徴とする共重合体ラテックス組成物からなるインキ用アンカーコート剤であり、上記共重合体としては、ガラス転移温度が−90〜10℃の範囲にある共重合体(イ)からなるコア層及びガラス転移温度が50〜180℃の範囲にある共重合体(ロ)からなるシェル層を有するものが開示されている(特許文献3参照)。
このように、種々の印刷用シートが開示されているが、一つのコート層で耐ブロッキング性を有し、紫外線硬化タイプや酸化重合タイプ等の銘柄の異なるインキの密着性及び印刷性に優れ、さらに熱転写印字性にも優れる印刷用シートは見出されていないのが実状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3200929号公報
【特許文献2】特開2005−89736号公報
【特許文献3】特開2007−100034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような状況下でなされたもので、耐ブロッキング性を有し、紫外線硬化タイプや酸化重合タイプ等の銘柄の異なるインキの密着性及び印刷性に優れ、さらに熱転写印字性にも優れる印刷用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記の好ましい性質を有する印刷用シートを開発すべく鋭意研究を重ねた結果、基材の一方の面に、特定の性状と厚さを有する印刷用コート層を設けることにより、その目的を達成し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
[1]基材の一方の面に、ガラス転移温度Tgが40〜95℃の範囲にある熱可塑性ポリエステル樹脂(A)と、その100質量部に対して、活性エネルギー線硬化型化合物の硬化樹脂(B)を5〜25質量部の割合で含む印刷用コート層を有し、かつ前記印刷用コート層の厚さが80〜450nmであって、ナノインデンテーション試験により測定される表面硬度が150〜300MPaであることを特徴とする印刷用シート、
[2]活性エネルギー線硬化型化合物の硬化樹脂(B)における活性エネルギー線硬化型化合物が、紫外線硬化型アクリレート系化合物である上記[1]項に記載の印刷用シート、
[3]印刷用コート層の表面硬度が、200〜300MPaである上記[1]又は[2]項に記載の印刷用シート、
[4]印刷用コート層の厚さが、100〜350nmである上記[1]〜[3]項のいずれかに記載の印刷用シート、
[5]基材の他方の面に、粘着剤層を有する上記[1]〜[4]項のいずれかに記載の印刷用シート、及び
[6]基材が、ポリエチレンテレフタレートフィルムである上記[1]〜[5]項のいずれかに記載の印刷用シート、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、一つのコート層で耐ブロッキング性を有し、紫外線硬化タイプや酸化重合タイプ等の銘柄の異なるインキの密着性及び印刷性に優れ、さらに熱転写印字性にも優れる印刷用シートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の印刷用シートは、基材の一方の面に、以下に示す性状を有する厚さが80〜450nmの印刷用コート層が設けられていることを特徴とする。
[基材]
本発明の印刷用シートにおける基材としては、プラスチックフィルム、合成紙等公知のものを使用することができる。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロン、ポリウレタン、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリエステルアミド、ポリエーテル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスチレン、ポリ−p−フェニレンスルフィド、ポリエーテルエステル、ポリ塩化ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸エステル等のフィルムや、ポリオレフィン、ポリエステルからなる合成紙等が挙げられる。また、粘着剤層を設けて粘着シート、粘着ラベルとして使用する場合には、フィルムの柔軟性等の点から、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンフィルム等を好ましく使用することができ、特にポリエチレンテレフタレートフィルムが好適である。この基材の厚さに特に制限はないが、通常20〜300μm程度、好ましくは25〜200μmである。
【0009】
本発明において、基材としてプラスチックフィルムを用いる場合には、その表面に設けられる層との密着性を向上させる目的で、所望により片面又は両面に、酸化法や凹凸化法などにより表面処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理などが挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法などが挙げられる。これらの表面処理法は基材フィルムの種類に応じて適宜選ばれるが、一般にはコロナ放電処理法が効果及び操作性などの面から、好ましく用いられる。また、プライマー処理を施すこともできる。
【0010】
[印刷用コート層]
本発明の印刷用シートにおいて、前記基材の一方の面に設けられる印刷用コート層は、ガラス転移温度Tgが40〜95℃の範囲にある熱可塑性ポリエステル樹脂(A)と、その100質量部に対して、活性エネルギー線硬化型化合物の硬化樹脂(B)を5〜25質量部の割合で含むコート層である。
【0011】
(熱可塑性ポリエステル樹脂(A))
当該印刷用コート層における成分(A)の熱可塑性ポリエステル樹脂としては、ガラス転移温度Tgが40〜95℃の範囲にあるものを用いることを要する。このTgが40℃未満では、得られる印刷用シートは耐ブロッキング性に劣り、一方Tgが95℃を超えると、印刷用シートの印刷性が低下する。該Tgの好ましい範囲は50〜90℃である。
このようなTgを有する熱可塑性ポリエステル樹脂としては、非晶性ポリエステル系樹脂、ウレタン変性ポリエステル系樹脂などを用いることができる。
なお、上記Tgは、DSC(示差走査熱量分析)により、詳細には「ティー・エイ・インスツルメント(株)製、商品名「DSC Q2000」を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/minの条件により測定した値である。
【0012】
ここで、非晶性ポリエステル系樹脂としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールAのエチレンオキシドやプロピレンオキシド付加物などのアルコール成分の中から選ばれる少なくとも1種と、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸及びその酸無水物などのカルボン酸成分の中から選ばれる少なくとも1種とを縮重合させて得られた重合体などを挙げることができる。
また、ウレタン変性ポリエステル系樹脂としては、例えば前記のアルコール成分とカルボン酸成分とを縮重合させて得られた末端にヒドロキシル基を有するポリエステルポリオールに、各種のポリイソシアナート化合物を反応させて得られた重合体などを挙げることができる。
本発明においては、前記熱可塑性ポリエステル樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
(活性エネルギー線硬化型化合物の硬化樹脂(B))
当該印刷用コート層においては、前記の成分(A)と共に、成分(B)として、活性エネルギー線硬化型化合物の硬化樹脂を含有する。
前記活性エネルギー線硬化型化合物とは、活性エネルギー線、すなわち電磁波又は荷電粒子線の中でエネルギー量子を有するもの、例えば、紫外線又は電子線などを照射することにより、架橋、硬化する重合性化合物を指す。
この活性エネルギー線硬化型化合物としては、例えば活性エネルギー線重合性プレポリマー及び/又は活性エネルギー線重合性モノマーを挙げることができ、特に紫外線硬化型アクリレート化合物が好適である。上記活性エネルギー線重合性プレポリマーとしては、例えばポリエステルアクリレート系、エポキシアクリレート系、ウレタンアクリレート系、ポリオールアクリレート系などが挙げられる。ここで、ポリエステルアクリレート系プレポリマーとしては、例えば多価カルボン酸と多価アルコールの縮合によって得られる両末端に水酸基を有するポリエステルオリゴマーの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより、あるいは、多価カルボン酸にアルキレンオキシドを付加して得られるオリゴマーの末端の水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。
なお、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を指す。
【0014】
エポキシアクリレート系プレポリマーは、例えば、比較的低分子量のビスフェノール型エポキシ樹脂やノボラック型エポキシ樹脂のオキシラン環に、(メタ)アクリル酸を反応しエステル化することにより得ることができる。ウレタンアクリレート系プレポリマーは、例えば、ポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールとポリイソシアネートの反応によって得られるポリウレタンオリゴマーを、(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。さらに、ポリオールアクリレート系プレポリマーは、ポリエーテルポリオールの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。これらの活性エネルギー線重合性プレポリマーは1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
また、活性エネルギー線重合性モノマーとしては、例えば1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性リン酸ジ(メタ)アクリレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの多官能アクリレートが挙げられる。これらの活性エネルギー線重合性モノマーは1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよく、また、前記活性エネルギー線重合性プレポリマーと併用してもよい。
なお、(メタ)アクリレートとは、アクリレート及び/又はメタクリレートを指す。
【0016】
(印刷用コート層の性状)
当該印刷用コート層においては、前記の熱可塑性ポリエステル樹脂(A)と、活性エネルギー線硬化型化合物の硬化樹脂(B)との含有割合は、前記成分(A)100質量部に対して、成分(B)は5〜25質量部である。成分(B)の含有割合が5質量部未満では、紫外線硬化型タイプのインキによる印刷適正が悪く、一方25質量部を超えると熱転写印字性が低下する。成分(B)の好ましい含有割合は7〜20質量部である。
また、当該印刷用コート層においては、ナノインデンテーション試験により測定される表面硬度が、150〜300MPaである。この表面硬度が150MPa未満では耐ブロッキング性が低下し、300MPaを超えると印刷性及び熱転写印字性が低下する。好ましい表面硬度は200〜300MPaである。
なお、上記のナノインデンテーション試験による表面硬度測定試験は、下記の方法で行う。
<表面硬度測定試験>
印刷用シートを23℃、50%RH条件下で1週間調湿後、10mm×10mmサイズに裁断したサンプルを、アルミニウム製の台座に接着したガラス板上に、2液系のエポキシ接着剤で、印刷用コート層を有する面の反対面を固定し、ナノインデンター[MTS社製、機種名「Nano Indenter SA2」]により、印刷用コート層の表面硬度を測定する。
さらに、当該印刷用コート層の厚さは、80〜450nmである。この厚さが80nm未満では印刷性が低下し、一方450nmを超えると耐ブロッキング性が低下する。好ましい厚さは100〜350nmである。
【0017】
[印刷用シートの作製]
本発明の印刷用シートにおいては、基材の一方の面に、前記の印刷用コート層を設けてなるものであって、この印刷用コート層を形成するには、まずコート層形成用塗工液を調製する。
(コート層形成用塗工液)
当該印刷用コート層を形成するためのコート層形成用塗工液としては、適当な溶媒中に前述した熱可塑性ポリエステル樹脂と、活性エネルギー線硬化型化合物と、必要に応じて用いられる光重合開始剤及び各種添加剤、例えば有機又は無機の顔料、着色剤、可塑剤、酸化防止剤、光安定剤、分散剤、架橋剤、レベリング剤などを溶解又は分散させてなる塗工液を用いることができる。
【0018】
<光重合開始剤>
活性エネルギー線硬化型化合物の硬化に紫外線などの光を用いる場合には、必要に応じて光重合開始剤を用いることができる。なお、電子線で硬化する場合には、光重合開始剤を用いる必要はない。
この光重合開始剤としては、例えばベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン−n−ブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、アセトフェノン、ジメチルアミノアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−2(ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、ベンゾフェノン、p−フェニルベンゾフェノン、4,4'−ジエチルアミノベンゾフェノン、ジクロロベンゾフェノン、2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−ターシャリ−ブチルアントラキノン、2−アミノアントラキノン、2−メチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジメチルケタール、p−ジメチルアミン安息香酸エステルなどが挙げられる。これらは1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよく、また、その配合量は、前記活性エネルギー線重合性プレポリマー及び/又は活性エネルギー線重合性モノマー100質量部に対して、通常0.2〜10質量部の範囲で選ばれる。
【0019】
<溶媒>
当該コート層形成用塗工液に用いられる溶媒としては特に制限はなく、例えば酢酸エチル、酢酸ブチルなどのようなエステル系溶媒、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンのようなケトン系溶媒、トルエン、キシレンなどのような芳香族炭化水素系溶媒等を挙げることができる。
コート層形成用塗工液における固形分濃度としては、塗工可能な濃度であればよく、特に制限はないが、通常1〜10質量%程度、好ましくは2〜5質量%である。
【0020】
(印刷用コート層の形成)
まず、前記のようにして調製されたコート層形成用塗工液を、例えばグラビアロール方式、エアナイフ方式、ワイヤーバーコーティング方式などにより、基材の一方の面に、乾燥膜厚が80〜450nmになるように塗工し、乾燥させて未硬化コート層を形成する。
次いで、この未硬化コート層に、前述したナノインデンテーション試験による表面硬度が150〜300MPaになるように、紫外線や電子線などの活性エネルギー線、好ましくは紫外線を照射して、架橋硬化させる。活性エネルギー線として紫外線を用いる場合には、照射量は、光量で通常180〜800mJ/cm2程度、好ましくは200〜700mJ/cm2である。該紫外線は、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、フュージョン製Hランプ、キセノンランプなどで得ることができる。
【0021】
(粘着剤層)
本発明の印刷用シートにおいては、基材の前記印刷用コート層が設けられている側の反対面に、粘着剤層を設けて印刷用粘着シートとすることができる。粘着剤層に用いられる粘着剤としては、アクリル系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等の公知の粘着剤を使用することができる。粘着剤層は、基材の印刷用コート層を有する面とは反対側の面に直接粘着剤層用塗布液を塗布することにより設けてもよいし、剥離材の剥離処理が施された面に粘着剤層を形成して、この粘着剤層を基材の印刷用コート層とは反対側の面に貼りあわせることにより、剥離材付き粘着剤層を形成してもよい。粘着剤層を形成する方法は、特に限定されることがなく通常の方法を使用することができ、例えば、グラビアロール方式、ロールナイフ方式等により形成することができる。本発明において粘着剤層の厚さは特に制限されるものではないが、通常5〜100μmの範囲内であり、特に10〜50μmの範囲内であることが好ましい。
通常は粘着剤層面には、使用に供するまでの間、粘着剤層を保護するために剥離材を仮貼着しておく。剥離材としては公知のものが使用可能であり、例えば、シリコーン系、ポリエチレン系等の剥離剤で剥離処理した剥離紙や剥離フィルム等を用いることができる。
【0022】
このようにして作製された本発明の印刷用シートは、耐ブロッキング性を有し、紫外線硬化タイプや酸化重合タイプなどの銘柄の異なるインキの密着性及び印刷性に優れ、さらに、熱転写印字性にも優れるなどの特徴を有している。
【実施例】
【0023】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例で得られた印刷用シートの性能は、以下に示す方法に従って求めた。
(1)印刷用コート層の表面硬度
明細書本文に記載のナノインデンテーション試験により、印刷用コート層の表面硬度を測定した。
(2)耐ブロッキング性
印刷用シートの印刷用コート層と、厚さ50μmの未処理のポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)[東レ(株)製、商品名「ルミラーPET50」]のフィルム面とを、各5枚重ね合わせたのち、60℃、95%RHの環境下に196mN/cm2の荷重を加えて7日間放置した。その後23℃、50%RH環境下に4時間放置した後、重ね合わせたサンプルを剥がし、フィルム面との接着性を、下記の判定基準で求めた。
○:フィルム面との接着が全くない。
△:フィルム面と印刷用コート面が点で接着しているが、両者を手で剥がすのには問題はなく、剥がした後の印刷用コート層表面には目視でなんら変化がない。
×:フィルム面と印刷用シートが接着し、両者を手で剥がすことが不可能であるか、あるいは両者を手で剥がすことが可能であるが、剥がした後の印刷用コート層表面に変化が見られる。
【0024】
(3)印刷性
(a)UV硬化型インキの印刷性
印刷用シートの印刷用コート層面に、UVインキ[T&K TOKA(株)製、商品名「BEST CURE UV161墨S」]を用いて、印刷機[(株)明製作所製、商品名「RIテスター」]にて印刷を施し、UV照射(高圧水銀ランプ)を行って画像を得た。
また、印刷用シートに、UVインキ[T&K TOKA(株)製、商品名「フレキソ白500」]を用いてフレキソ印刷機[マーカンディー社製、商品名「MA−2200」印刷速度20m/min]でフレキソ印刷を施し、UV照射(メタルハライドランプ3kW)を行い、印刷画像を得る。フレキソ印刷機のアニロックスローラーのセルは亀甲型#200で、セル容量は16cm3/m2である。
(b)酸化重合型インキの印刷性
印刷用シートの印刷用コート層面に、酸化重合インキ[東洋インキ(株)製、商品名「TSP202」]を用いて、印刷機[(株)明製作所製、商品名「RIテスター」]にて印刷を施し画像を得た。
上記印刷を行った後、23℃、50%RH環境下に24時間放置後に、印刷画像が形成された印刷用シートを用いて、JIS K 5400 8.5.2の碁盤目テープ法に基づき、切り傷の隙間間隔1mm(マス目の数100)において、インキと印刷用シートとの密着性の評価を行った。
密着性試験後に残存するマス目の数をxとして、残存率をx/100で表した。x/100の値が90/100以上が合格である。
【0025】
(4)熱転写印字性
印刷用シートの印刷用コート層面に、レジン系インキリボン[ソニーケミカル社製、商品名「TR4070」]を、熱転写プリンタ[ゼブラ社製、機種名「Zebra140XiIII」]で速度3インチ/sec(7.6cm/sec)にて印字を行った。インキリボンの転写性を下記の基準で評価した。
○:問題なくインキリボンの転写可能
△:インキリボンの転写は可能だが、印字物にボイドや擦れが生じる
×:インキリボンの転写不可能
【0026】
実施例1
基材として厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)[東レ(株)製、商品名「ルミラーPET50 T−60」]の一方の面に、熱可塑性ポリエステル樹脂[東洋紡績(株)製、商品名「バイロンUR1400」Tg83℃]100質量部(固形30質量%)、紫外線硬化型樹脂[荒川化学工業社製、商品名「ビームセット575CB」]4質量部(固形100%)及びトルエン900質量部、メチルエチルケトン900質量部、シクロヘキサノン90質量部からなる塗布液をバーコーティングにより塗布し、90℃にて1分間乾燥させた後、光量300mJ/cm2で紫外線を照射し、印刷用シートを作製した。印刷用コート層の乾燥後の厚さを分光エリプソメーター[J.A.Woollan社製、商品名「M−2000」]にて測定したところ、200nmだった。
なお、上記「ビームセット575CB」は、ウレタン変性アクリレート系オリゴマーであり、また光重合開始剤を含む。
印刷用シートの性能評価結果を第1表に示す。
【0027】
実施例2
基材として厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)[東レ(株)製、商品名「ルミラーPET50 T−60」]の一方の面に、熱可塑性ポリエステル樹脂[東洋紡績(株)製、商品名「バイロンUR1400」Tg83℃]100質量部(固形30質量%)、紫外線硬化型樹脂[荒川化学工業社製、商品名「ビームセット575CB」]3質量部(固形100%)及びトルエン900質量部、メチルエチルケトン900質量部、シクロヘキサノン90質量部からなる塗布液をバーコーティングにより塗布し、90℃にて1分間乾燥させた後、光量300mJ/cm2で紫外線を照射し、印刷用シートを作製した。印刷用コート層の乾燥後の厚さは200nmだった。
印刷用シートの性能評価結果を第1表に示す。
【0028】
実施例3
基材として厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)[東レ(株)製、商品名「ルミラーPET50 T−60」]の一方の面に、熱可塑性ポリエステル樹脂[東洋紡績(株)製、商品名「バイロンUR1400」Tg83℃]100質量部(固形30質量%)、紫外線硬化型樹脂[荒川化学工業社製、商品名「ビームセット575CB」]5質量部(固形100%)及びトルエン900質量部、メチルエチルケトン900質量部、シクロヘキサノン90質量部からなる塗布液をバーコーティングにより塗布し、90℃にて1分間乾燥させた後、光量300mJ/cm2で紫外線を照射し、印刷用シートを作製した。印刷用コート層の乾燥後の厚さは200nmだった。
印刷用シートの性能評価結果を第1表に示す。
【0029】
実施例4
基材として厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)[東レ(株)製、商品名「ルミラーPET50 T−60」]の一方の面に、熱可塑性ポリエステル樹脂[東洋紡績(株)製、商品名「バイロンUR1400」Tg83℃]100質量部(固形30質量%)、紫外線硬化型樹脂[荒川化学工業社製、商品名「ビームセット575CB」]3質量部(固形100%)及びトルエン900質量部、メチルエチルケトン900質量部、シクロヘキサノン90質量部からなる塗布液をバーコーティングにより塗布し、90℃にて1分間乾燥させた後、光量300mJ/cm2で紫外線を照射し、印刷用シートを作製した。印刷用コート層の乾燥後の厚さは300nmだった。
印刷用シートの性能評価結果を第1表に示す。
【0030】
実施例5
基材として厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)[東レ(株)製、商品名「ルミラーPET50 T−60」]の一方の面に、熱可塑性ポリエステル樹脂[東洋紡績(株)製、商品名「バイロンUR1400」Tg83℃]100質量部(固形30質量%)、紫外線硬化型樹脂[荒川化学工業社製、商品名「ビームセット575CB」]3質量部(固形100%)及びトルエン900質量部、メチルエチルケトン900質量部、シクロヘキサノン90質量部からなる塗布液をバーコーティングにより塗布し、90℃にて1分間乾燥させた後、光量300mJ/cm2で紫外線を照射し、印刷用シートを作製した。印刷用コート層の乾燥後の厚さは100nmだった。
印刷用シートの性能評価結果を第1表に示す。
【0031】
実施例6
基材として厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)[東レ(株)製、商品名「ルミラーPET50 T−60」]の一方の面に、熱可塑性ポリエステル樹脂[東洋紡績(株)製、商品名「バイロンUR1400」Tg83℃]100質量部(固形30質量%)、紫外線硬化型樹脂[大日精化工業社製、商品名「セイカビームEXF−01L」]3質量部(固形100%)及びトルエン900質量部、メチルエチルケトン900質量部、シクロヘキサノン90質量部からなる塗布液をバーコーティングにより塗布し、90℃にて1分間乾燥させた後、光量300mJ/cm2で紫外線を照射し、印刷用シートを作製した。印刷用コート層の乾燥後の厚さは200nmだった。
なお、上記の「セイカビームEXF−01L」は、多官能アクリレート系モノマーであり、また光重合開始剤を含む。
印刷用シートの性能評価結果を第1表に示す。
【0032】
比較例1
基材として厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)[東レ(株)製、商品名「ルミラーPET50 T−60」]の一方の面に、熱可塑性ポリエステル樹脂[東洋紡績(株)製、商品名「バイロンUR1400」Tg83℃]100質量部(固形30質量%)、紫外線硬化型樹脂[荒川化学工業社製、商品名「ビームセット575CB」]0.5質量部(固形100%)及びトルエン900質量部、メチルエチルケトン900質量部、シクロヘキサノン90質量部からなる塗布液をバーコーティングにより塗布し、90℃にて1分間乾燥させた後、光量300mJ/cm2で紫外線を照射し、印刷用シートを作製した。印刷用コート層の乾燥後の厚さは200nmだった。
印刷用シートの性能評価結果を第1表に示す。
【0033】
比較例2
基材として厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)[東レ(株)製、商品名「ルミラーPET50 T−60」]の一方の面に、熱可塑性ポリエステル樹脂[東洋紡績(株)製、商品名「バイロンUR1400」Tg83℃]100質量部(固形30質量%)、紫外線硬化型樹脂[荒川化学工業社製、商品名「ビームセット575CB」]10質量部(固形100%)及びトルエン900質量部、メチルエチルケトン900質量部、シクロヘキサノン90質量部からなる塗布液をバーコーティングにより塗布し、90℃にて1分間乾燥させた後、光量300mJ/cm2で紫外線を照射し、印刷用シートを作製した。印刷用コート層の乾燥後の厚さは200nmだった。
印刷用シートの性能評価結果を第1表に示す。
【0034】
比較例3
基材として厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)[東レ(株)製、商品名「ルミラーPET50 T−60」]の一方の面に、熱可塑性ポリエステル樹脂[東洋紡績(株)製、商品名「バイロンUR1400」Tg83℃]100質量部(固形30質量%)、紫外線硬化型樹脂[荒川化学工業社製、商品名「ビームセット575CB」]3質量部(固形100%)及びトルエン900質量部、メチルエチルケトン900質量部、シクロヘキサノン90質量部からなる塗布液をバーコーティングにより塗布し、90℃にて1分間乾燥させた後、光量300mJ/cm2で紫外線を照射し、印刷用シートを作製した。印刷用コート層の乾燥後の厚さは500nmだった。
印刷用シートの性能評価結果を第1表に示す。
【0035】
比較例4
基材として厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)[東レ(株)製、商品名「ルミラーPET50 T−60」]の一方の面に、熱可塑性ポリエステル樹脂[東洋紡績(株)製、商品名「バイロンUR1400」Tg83℃]100質量部(固形30質量%)、紫外線硬化型樹脂[荒川化学工業社製、商品名「ビームセット575CB」]3質量部(固形100%)及びトルエン900質量部、メチルエチルケトン900質量部、シクロヘキサノン90質量部からなる塗布液をバーコーティングにより塗布し、90℃にて1分間乾燥させた後、光量900mJ/cm2で紫外線を照射し、印刷用シートを作製した。印刷用コート層の乾燥後の厚さは200nmだった。
印刷用シートの性能評価結果を第1表に示す。
【0036】
比較例5
基材として厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)[東レ(株)製、商品名「ルミラーPET50 T−60」]の一方の面に、熱可塑性ポリエステル樹脂[東洋紡績(株)製、商品名「バイロンUR3200」Tg−3℃]100質量部(固形30質量%)、紫外線硬化型樹脂[荒川化学工業社製、商品名「ビームセット575CB」]3質量部(固形100%)及びトルエン900質量部、メチルエチルケトン900質量部、シクロヘキサノン90質量部からなる塗布液をバーコーティングにより塗布し、90℃にて1分間乾燥させた後、光量300mJ/cm2で紫外線を照射し、印刷用シートを作製した。印刷用コート層の乾燥後の厚さは200nmだった。
印刷用シートの性能評価結果を第1表に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
第1表から分かるように、本発明の印刷用シートは、いずれも印刷用コート層の厚さが80〜450nmの範囲内にあり、かつ表面硬度が150〜300MPaの範囲内にあって、耐ブロッキング性、UV型インキの印刷性、酸化重合型インキの印刷性及び熱転写印字性のいずれについても良好である。
これに対し、比較例1〜5の印刷用シートは、耐ブロッキング性、UV型インキの印刷性、酸化重合型インキの印刷性及び熱転写印字性のいずれか1種以上が不良である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の印刷用シートは、耐ブロッキング性を有し、紫外線硬化タイプや酸化重合タイプ等の銘柄の異なるインキの密着性及び印刷性に優れ、さらに熱転写印字性にも優れるなどの特徴を有している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の一方の面に、ガラス転移温度Tgが40〜95℃の範囲にある熱可塑性ポリエステル樹脂(A)と、その100質量部に対して、活性エネルギー線硬化型化合物の硬化樹脂(B)を5〜25質量部の割合で含む印刷用コート層を有し、かつ前記印刷用コート層の厚さが80〜450nmであって、ナノインデンテーション試験により測定される表面硬度が150〜300MPaであることを特徴とする印刷用シート。
【請求項2】
活性エネルギー線硬化型化合物の硬化樹脂(B)における活性エネルギー線硬化型化合物が、紫外線硬化型アクリレート系化合物である請求項1に記載の印刷用シート。
【請求項3】
印刷用コート層の表面硬度が、200〜300MPaである請求項1又は2に記載の印刷用シート。
【請求項4】
印刷用コート層の厚さが、100〜350nmである請求項1〜3のいずれかに記載の印刷用シート。
【請求項5】
基材の他方の面に、粘着剤層を有する請求項1〜4のいずれかに記載の印刷用シート。
【請求項6】
基材が、ポリエチレンテレフタレートフィルムである請求項1〜5のいずれかに記載の印刷用シート。

【公開番号】特開2010−173085(P2010−173085A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−15123(P2009−15123)
【出願日】平成21年1月27日(2009.1.27)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】