説明

印刷装置、キャリブレーション方法、及びキャリブレーション実行プログラム

【課題】色予測精度を向上させることが可能な印刷装置、キャリブレーション方法、及びキャリブレーション実行プログラムの提供を目的とする。
【解決手段】ターゲット1次色を2次色以上の混色にて再現する印刷装置であって、任意の色相毎に、異なる1次色インクを混色して得た混色の分光反射率を取得する分光特性取得手段と、色予測モデルを用いて任意のインク量セットにおける分光特性を予測するに際し、前記インク量セットを構成する1次色インクの分光特性、及び前記取得された混色の分光特性を用いて、同インク量セットの分光特性を予測する分光特性予測手段と、前記予測された分光特性をもとに、前記インク量セットにおける分光特性をターゲット1次色の分光特性に近づけるよう補正する補正手段と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク量セットに対して色合わせを行うキャリブレーションに関し、特に任意のインク量セットの分光特性を予測して色合わせを行うキャリブレーションに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プリンターでは、あるインク量セットにより表現される色の色精度を維持するためにキャリブレーションが実行される。このキャリブレーションでは、あるインク量セットにより形成された印刷物を測色し、この測色結果とターゲット値の差をもとに補正量を算出している。
【0003】
上記したキャリブレーションにおいて色精度の向上させるためには測色値は多いことが望ましいが、プリンターが出力可能な全てのインク量セットを測色することはコスト面において望ましくない。そのため、代表的なインク量セットでの測色値をもとに、他のインク量セットでの測色値を予測することでキャリブレーションに係るコストを低減することが提案されている。その一例として、分光ノイゲバウアモデルが知られている。
【0004】
色予測モデルとして周知である分光ノイゲバウアモデルでは、1次色インク(例えば、C,M,Yの各インク)の反射率と、この1次色インクを混色させた混色の反射率とを面積比(厳密には被覆率)により重み付けして足し合わせることで、あるインク量セットにおける分光反射率を予測している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−263579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した従来の色予測モデルでは、任意のインク量セットでも色予測が行えるよう、1次色及び混色の分光反射率は一定の値を使用し、被覆率を変化させることで予測値を取得している。ここで、すべての混色の分光反射率を測色することは不可能であるため、印刷可能な混色の測色値をもとに理論的にその値が決定されている。そのため、ある色相によっては得られる分光反射率の予測精度が悪くなる場合があった。
【0007】
本発明は、上記課題にかんがみてなされたもので、色予測精度を向上させることが可能な印刷装置、キャリブレーション方法、及びキャリブレーション実行プログラムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明では、まず、分光特性取得手段は、任意の色相毎に、異なる1次色を混色して得た混色の分光反射率を取得する。また、分光特性予測手段は、色予測モデルを用いて任意のインク量セットにおける分光特性を予測するに際し、インク量セットを構成する1次色インクの分光特性、及び取得された混色の分光特性を用いて、同インク量セットの分光特性を予測する。そして、補正手段は、予測された分光特性をもとに、インク量セットにおける分光特性をターゲット1次色の分光特性に近づけるよう補正する。
【0009】
上記のように構成された発明では、ある色相に属するインク量セットを色予測するに際し、色予測モデルに用いられる混色の分光特性を色相毎に個別の値を取得し、この混色の分光特性を色予測に用いる。そのため、色予測モデルにおける予測精度を向上させることができる。
【0010】
また、前記分光特性取得手段は、任意の色相における異なる1次色インクを混色して構成されたインクの分光特性と、前記各1次色インクの分光特性とを取得し、前記各分光特性と、分光ノイゲバウアの色予測モデルに基づいて、前記混色の分光特性を求める構成としてもよい。
上記のように構成された発明では、分光ノイゲバウアモデルを用いた色予測において予測精度を向上させることができる。
【0011】
そして、混色の分光特性を取得する1次色インクの設定の一例として、前記インク量セットと、前記ターゲットデーターとの間の色差を取得する色差取得手段を有し、分光特性取得手段は、前記色差に応じて取得される前記混色の分光特性を変化させる構成としてもよい。その一例として、前記分光特性取得手段は、前記色差が所定の閾値以下である場合は、色相が近い1次色インクを混色した分光特性を取得する構成としてもよい。
上記のように構成された発明では、色差に応じて色予測モデルに使用する混色の分光反射率を変化させるため、色予測精度を向上させることができる。
【0012】
また、色差に応じて取得される混色の分光特性変化させる他の構成の一例として、前記色差が所定の閾値以上である場合は、分光特性取得手段は、分光特性のピークが遠い1次色インクを混色させた分光特性を取得する構成としてもよい。
【0013】
そして、前記第1の分光反射率取得手段は、前記1次色インクの混色比率を保持したまま、異なる濃度での混色の分光反射率を取得する構成としてもよい。
上記のように構成された発明では、色予測に用いる混色の分光反射率を複数取得することで予測精度をより向上させることができる。
【0014】
また、本発明は印刷装置のみならず、本発明の構成を用いたキャリブレーション方法、及びキャリブレーション実行プログラムにも応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】任意のインク量セットにおける分光反射率を予測する手法を説明する図である。
【図2】ホストPCの構成を説明するブロック構成図である。
【図3】キャリブレーションを実行する際のホストPC10の機能を示すブロック図である。
【図4】プリンターの構成を説明するブロック構成図である。
【図5】分光反射率データベースRDBに記録される各値の関係を示す図である。
【図6】インデックステーブルIDTの一例を示している。
【図7】本実施形態にかかるキャリブレーションの手法を説明するフローチャートである。
【図8】カラーチャート説明するための図である。
【図9】予測分光反射率Rs(λ)を取得する際の流れを説明するフローチャートである。
【図10】色相平面上における任意のインク色における色差を示す図である。
【図11】任意のインク量セットΦにおける分光反射率を示す図である。
【図12】分光反射率データベースRDBの作成を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、下記の順序に従って本発明の実施形態を説明する。
1.本発明の概要:
2.ホストPC、プリンターの構成:
3.キャリブレーションの流れ:
4.分光反射率データベースRDBの作成方法:
5.その他の実施形態:
【0017】
1.本発明の概要:
図1は、任意のインク量セットにおける分光反射率を予測する手法を説明する図である。図1ーAには、従来のある印刷物の分光反射率の予測方法として分光ノイゲバウアモデルを、図1−Bには、インクの被覆率と実行面積率との関係を示すマーレイ・デービスモデルを記載している。
【0018】
分光ノイゲバウアモデルは、任意のインク量セットφ(なお、図1では便宜上インクセットdc,dmにおけるモデルを示す。)で印刷を行った場合の予測分光反射率Rs(λ)を予測するためのモデルである。この分光ノイゲバウアモデルでは、あるインク量セットΦを用紙に印字した状態を模式的に解釈し、各領域での分光反射率を式(1)のようにそれぞれの被覆率(a,a,a,a)をもとに線形結合することで、このインク量セットでの分光反射率を予測する。
【数1】

【0019】
ここで、aiはi番目の領域の面積率であり、Ri(λ)はi番目の領域の分光反射率である。添え字iは、インクの無い領域(w)と、シアンインクのみの領域(c)と、マゼンタインクのみの領域(m)と、イエローインクのみの領域(y)と、マゼンタインクとイエローインクが吐出される領域(r)と、イエローインクとシアンインクが吐出される領域(g)と、シアンインクとマゼンタインクが吐出される領域(b)と、CMYの3つのインクが吐出される領域(k)をそれぞれ意味している。また、fc,fm,fyは、CMY各インクを1種類のみ吐出したときにそのインクで覆われる面積の割合(「インク被覆率(Ink area coverage)」と呼ぶ)である。
【0020】
インク被覆率fc,fm,fyは、図1−Bに示すマーレイ・デービスモデルで与えられる。マーレイ・デービスモデルでは、例えばシアンインクのインク被覆率fcは、シアンのインク量dcの非線形関数であり、例えば1次元ルックアップテーブルによってインク量dcをインク被覆率fcに換算することができる。インク被覆率fc,fm,fyがインク量dc,dm,dyの非線形関数となる理由は、単位面積に少量のインクが吐出された場合にはインクが十分に広がるが、多量のインクが吐出された場合にはインクが重なり合うためにインクで覆われる面積があまり増加しないためである。他の種類のMYインクについても同様である。
【0021】
分光反射率に関する分光ノイゲバウアモデルを適用すると、前記(1)式は以下の(1a)式または(1b)式に書き換えられる。
【数2】


ここで、nは1以上の所定の係数であり、例えばn=10に設定することができる。前記の(1a)式および(1b)式は、ユール・ニールセン分光ノイゲバウアモデル(Yule-Nielsen Spectral Neugebauer Model)を表す式である。
【0022】
このユール・ニールセン分光ノイゲバウアモデルでは、1次色インク(例えば、dc,dm,dy)の分光反射率R1(λ)(図1では、Rc(λ)、Rm(λ)、Ry(λ))と、紙白の分光反射率Rw(λ)と、1次色インクが混色する領域の分光反射率R2(λ)(図1では、Rr(λ),Rg(λ),Rb(λ),Rk(λ))を事前に取得しておく必要がある。一方、1次色の分光反反射率R1(λ)と、紙白の分光反射率Rw(λ)は精度良く容易に取得が可能であるものの、混色の分光反射率R2(λ)は容易に測定できない場合もあり、混色の分光反射率を精度よく取得することがあるインク量セットΦでの予測分光反射率Rs(λ)を精度良く求めることに繋がる。
【0023】
そのため、本実施形態では、分光ノイゲバウアモデルをもとに、精度良く取得可能な1次インク色の分光反射率R1(λ)から色相毎の混色の分光反射率R2(λ)を事前に取得しておき、ある色相におけるインク量セットΦの色予測を行う際に、取得された混色の分光反射率R2(λ)を色予測に用いる。即ち、本実施形態では、従来のように混色の分光反射率R2(λ)を全色相で共通の値とするのではなく、色予測が行われるインク量セットΦが属する各色相で異なる混色の分光反射率R2(λ)を用いて色予測を行う。
【0024】
2.ホストPC、プリンターの構成:
図2は、ホストPCの構成を説明するブロック構成図である。また、図3は、キャリブレーションを実行する際のホストPC10の機能を示すブロック図である。そして、図4は、プリンターの構成を説明するブロック構成図である。
【0025】
ホストPC10は、CPU11と、RAM12と、ROM13と、HDD14と、各種インターフェース(GIF、VIF、IIF)15〜17と、バス18とを備えて構成され、CPU11によりバス18を介した統合的な制御が行われる。
【0026】
GIF(汎用インターフェース)15は、例えばUSB規格に準じたインターフェースであり、プリンター20と接続することでホストPC10から出力されるデーターをプリンター20に送信する。VIF(ビデオインターフェース)16は、ディスプレイ40と接続することでディスプレイ40に対して画像を表示させる。IIF(入力機器インターフェース)17は、キーボード50aやマウス50bに接続することでキーボード50aやマウス50bを操作することで得られる操作入力をホストPC10に入力させる。
【0027】
HDD14には、プログラムデーターPD以外にも、色変換テーブルLUTと、インデックテーブルIDTと、分光反射率データベースRDBと、パッチデーターCPD1,CPD2と、が記録されている。
【0028】
ホストPC10は、プログラムデーターPDを実行することで、ドライバーモジュールM1と、データベース作成モジュールM2と、分光予測モジュールM3と、分光特性取得モジュールM4と、補正量算出モジュールM5と、テーブル補正モジュールM6と、を備えて構成される。
【0029】
ドライバーモジュールM1は、色変換テーブルLUT及びパッチデーターCPDをもとにカラーチャートを印刷する。データベース作成モジュールM2は、分光予測モジュールM3が使用する分光反射率データベースRDBを作成する。分光予測モジュールM3は、インデックステーブルIDT及び分光反射率データベースRDBを参照して分光ノイゲバウアモデルによる分光反射率の予測を行う。分光特性取得モジュールM4は、カラーチャートを測色して得た分光反射率を補正用分光反射率Rc(λ)として取得する。補正量算出モジュールM5は、インデックステーブルIDTに記録されたターゲット分光反射率Rt(λ)と補正用分光反射率Rc(λ)とに基づいてインク量セットΦをターゲット値に近づけるための補正量を算出する。テーブル補正モジュールM6は、補正量算出モジュールM5が算出した補正量をもとにインデックステーブルIDTに記録された各インク量セットΦを修正する。
【0030】
図5は、分光反射率データベースRDBに記録される各値の関係を示す図である。分光反射率データベースRDBには、任意のインク量セットΦにおける分光反射率を予測するのに用いられるデーターが記録されている。本実施形態にかかる分光反射率データベースRDBには、1次色インク(dc,dm,dy)の分光反射率R1(λ)(以下、第1分光データーRd1と記載する)と、紙白の分光反射率Rw(λ)、更には1次色インクを混色して得た混色(二次色)(r,g,b)の分光反射率R2(λ)(以下、第2分光データーRd2と記載する)が記録されている。
【0031】
第1分光データーRd1は、図5に示す色相平面(a)上で、C、M、Yの各インクの値に対応した値が記録されている。また、第2分光データーRd2は、色相平面における第1平面〜第4平面にそれぞれ存在する値であり、各平面において複数点ずつ記録されている(図では、斜線で示す領域)。
【0032】
また、第2分光データーRd2は、任意の1次色インクに対して、この1次色インクの色相の両隣のインクを混色させて形成されたパッチ群を測色して得た分光反射率(以下、第1の混色データーと記載する。)と、この1次色インクと分光反射率のピークが遠い1次色インクを混色して形成されたパッチ群を測色して得た分光反射率(以下、第2の混色データーと記載する。)と、を備える。なお、この分光反射率データベースRDBの作成手法については後述する。
【0033】
図6は、インデックステーブルIDTの一例を示している。インデックステーブルIDTは、プリンター20の機体番号と塗料番号とインデックスと1次色インクとの対応関係が規定されている。また、各塗料番号にはターゲット分光反射率Rt(λ)が対応付けられている。ターゲット分光反射率Rt(λ)は実際に各塗料を塗布したサンプルを分光反射率計で測定して得られた分光反射率である。なお、塗料番号とインデックスは双方とも固有のものである。
【0034】
図4において、プリンター20は、ASIC21と、印刷ヘッド22と、吐出制御回路24と、印刷ヘッド駆動制御回路25と、用紙搬送機構27と、GIF28と、バス29とを備えて構成され、ASIC21により統合的な制御が行われる。また、本実施形態にかかるプリンター20は、上記構成に加えて、測色ヘッド23と、測色ヘッド駆動制御回路26とを備えて構成され、用紙に印刷したカラーチャートの各パッチPを測色ヘッド23により測色することができる。
【0035】
印刷ヘッド22は、印刷ヘッド駆動制御回路25の制御により主走査方向に往復運動を行う機構であり、吐出制御回路24により制御されて、図示しない各インクカートリッジ(C,M,Y,K,lc,lm,ly)から供給されたインクを用紙に吐出する。また、用紙搬送機構27は、印刷用紙を副走査方向に搬送する機構である。さらに、GIF28は、ホストPC10のGIF15と接続することで、ホストPC10との間で通信を確立する。
【0036】
測色ヘッド23は、測色ヘッド駆動制御回路26の制御により主走査方向に往復運動を行いつつ、用紙に印刷された印刷画像(カラーチャート)を測色する。測色ヘッド23は図示しない光センサーを備え、用紙に印刷された印刷画像が示す各色の分光反射率R(λ)を検出する。
【0037】
3.キャリブレーションの流れ:
図7は、本実施形態にかかるキャリブレーションの手法を説明するフローチャートである。なお、このキャリブレーションにおいては、ターゲット1次色を2次色以上のインク量セットにより再現する場合を例に説明を行う。以下、図7を参照して本実施形態にかかるキャリブレーションを説明する。
【0038】
ホストPC10にてキャリブレーションを実行するための条件が成立すると、ステップS1では、ドライバーモジュールM1はパッチデーターCPD1を用いて用紙にカラーチャートを印刷する。図8は、カラーチャート説明するための図である。カラーチャートは、多数の矩形状のパッチPが行列状に配列されている。各パッチPは各塗料に対応しており、各パッチPの近くに塗料番号が印刷されている。また、この塗料番号にはそれぞれターゲット分光反射率Rt(λ)がインデックステーブルIDTを通じて対応づけられており、各パッチPのターゲット分光反射率Rt(λ)識別することができる。
【0039】
ステップS2では、分光特性取得モジュールM4は今から測色を行うパッチPを選択する。また、ステップS3では、分光特性取得モジュールM4は、選択されたパッチPに対応するターゲット反射率Rt(λ)を、インデックテーブルIDTを参照して取得する。そして、ステップS4では、分光特性取得モジュールM4は、選択したパッチPの分光反射率(補正用分光反射率Rc(λ))を、測色ヘッド23を介して取得する。
【0040】
ステップS5では、分光予測モジュールM3は、ステップS4で取得された補正用分光反射率Rc(λ)に対応するインク量セットΦの近傍の予測分光反射率Rs(λ)を取得する。ここで、分光予測モジュールM3は、分光反射率データベースRDB、及び上記式(1a)又は式(1b)に示す分光予測モデルをもとに予測分光反射率Rs(λ)を取得する。また、この予測分光反射率Rs(λ)は、後述するステップS6におけるインク量セットΦの値が変更されるたびに変更される値である。
【0041】
図9は、予測分光反射率Rs(λ)を取得する際の流れを説明するフローチャートである。ステップS20では、分光予測モジュールM3は、分光反射率データベースRDBから紙白の分光反射率Rw(λ)を取得する。また、ステップS21では、分光予測モジュールM3は、分光反射率データベースRDBを参照して、今から予測を行うインク量セットΦにおける1次色インクの分光反射率R1(λ)を第1分光データーRd1から取得する。
【0042】
ステップS22では、分光予測モジュールM3は、プリンター20が出力するインク量セットΦとこのインク量セットΦに対応したターゲット分光反射率Rt(λ)との色差ΔEを算出する。ステップS22で算出される色差ΔEは、例えば、ステップS4により取得された補正用分光反射率Rc(λ)とこの補正用分光反射率Rc(λ)に対応したターゲット分光反射率Rt(λ)の差により算出されるが、値としては厳密である必要はなく代表的な値から算出すればよい。そのため、ステップS22の処理により本発明の色差取得手段を実現する。
【0043】
ステップS22で取得された色差ΔEが閾値Th以下である場合(ステップS23:YES)、ステップS24では、分光予測モジュールM3は、インク量セットΦを予測するために用いられる第2分光データーRd2を、分光反射率データベースRDBにおける第1の混色データーから複数取得する。
【0044】
図10は、色相平面上における任意のインク色における色差を示す図である。なお、図10では、CIELAB均等色空間におけるa平面での色差ΔEを示す。例えば、シアン(C)インクにおいてターゲット値Tc(ターゲット分光反射率Rt(λ)により規定される値)との色差ΔEが小さい場合、シアンインクに他の1次色インクを少量ずつ混色していくことで、色相をターゲット方向(図ではマゼンダ方向)に移動させることができる。
【0045】
そのため、本実施形態では、ステップS22で求めた色差ΔEが小さい場合、上記手法によりインク量セットΦをターゲット方向に移動させると、その成分である混色の分光反射率R2(λ)は、1次色インクに少量の1次色インクを混色して形成した第2分光データーRd2での値となる。そのため、予測分光反射率Rs(λ)の算出に第1の混色データーに記録された第2分光データーRd2を用いてインク量セットΦの予測分光反射率を算出する。
【0046】
ステップS22で求めた色差ΔEが閾値Thより大きい場合(ステップS23:NO)、ステップS25では、分光予測モジュールM3は、インク量セットΦを予測するために用いられる第2分光データーRd2を、分光反射率データベースRDBにおける第2の混色データーから複数取得する。
【0047】
図11は、任意のインク量セットΦにおける分光反射率を示す図である。例えば、Aに示す予測分光反射率Rs(λ)を備えるインク量セットΦを、色差ΔEが大きいBに示すターゲット分光反射率Rt(λ)に近づける場合を想定する。なお、両分光反射率は波長のピーク以外にも、波長成分毎に波形が大きく異なっている。ここで、任意のインクを混色させて得られる分光反射率は、各インクの分光反射率の積分和により求めることができるが、分光反射率のピークが近いインクを混色させた場合、混色後の波形変化が小さく、図11に示すターゲット値Rt(λ)に近づけることが難しい。即ち、色差ΔEが大きい場合、任意のインク量セットΦの予測分光反射率Rc(λ)をターゲット分光反射率Rt(λ)に近づけるためには、ピーク波長が異なるインクを混色させることが望ましい。
【0048】
そのため、本実施形態では、ステップS22で求めた色差ΔEが大きい場合、上記手法によりインク量セットΦをターゲット方向に移動させると、その成分である混色の分光反射率R2(λ)は、1次色インクにピーク波長が異なる1次色インクを混色して形成した第2分光データーRd2での値となる。そのため、予測分光反射率Rs(λ)の算出に第2の混色データーに記録された第2分光データーRd2を用いてインク量セットΦの予測分光反射率を算出する。以上により、ステップS24,S25の処理により本発明の分光特性取得手段を実現する。
【0049】
ここで、予測分光反射率Rs(λ)を取得するために用いられる第2分光データーRd2は、混色比を変化させる場合や、混色比を保持しつつ異なるインク濃度に対応する値を取得するといった幅広い値を取得しておくことが望ましい。例えば、色相平面で1次色インクの混色比を変化させることは、混色後のインクに対して色相方向を変化させることに対応し、インク濃度を変化させることは彩度方向を変化させることに対応する。そのため、混色比及び濃度が異なる第2分光データーRd2をある色相平面において複数取得しておくことで、予測分光反射率Rs(λ)の予測精度を高めることができる。
【0050】
ステップS26では、分光予測モジュールM3は、分光反射率データベースRDBから取得した複数の第2分光データーRd2を、予測対象となるインク量セットΦにおける混色の分光反射率R2(λ)の近さに応じて重み付けして足し合わせ、分光予測モデルに代入する混色の分光反射率R’d2(λ)を算出する。即ち、第2分光データーRd2を複数点取得する場合、インク量セットΦをターゲット分光反射率Rt(λ)に近づけるよう変化させると、混色の分光反射率R2(λ)と、ステップS24又はS25で取得された複数の第2分光データーRd2との色相平面上での距離は変化する。そのため、ある予測分光反射率Rs(λ)において、その予測成分となる混色の分光反射率R2(λ)ともっとも近い(例えば、構成するインクの濃度又は混色比率が近い)第2分光データーRd2の値が反映されるよう、各値に重み付けを行う。
【0051】
ステップS27では、分光予測モジュールM3は、取得した分光反射率Rd1(λ),Rw(λ)、R’d2(λ)を、分光予測モデルを示す式(1a)又は式(1b)に代入して、任意のインク量セットΦにおける予測分光反射率Rs(λ)を算出する。そのため、ステップS27の処理により分光特性予測手段を実現する。
【0052】
予測対象となる全てのインク量セットΦにおいて、予測分光反射率Rs(λ)が取得されていない場合(ステップS28:NO)、全ての予測分光反射率Rs(λ)が取得されるまでステップS21〜S27までの処理を繰返す。全ての予測対象において予測分光反射率Rs(λ)が取得された場合は、図8のステップS6に進む。
【0053】
図7のステップS6では、補正量算出モジュールM5は、ターゲット分光反射率Rt(λ)とステップS5で取得された予測分光反射率Rs(λ)の差分D(λ)を各波長λについて算出し、波長λごとに重みが課せられた重み関数w(λ)を当該差分D(λ)に乗算する。この値の二乗平均の平方根を評価値E(φ)として算出する。以上の計算を数式で表すと下記の(2)式のように表すことができる。
【数3】

【0054】
前記の(2)式において、Nは波長λの区分数を意味する。前記の(2)式において、評価値E(φ)が小さければ小さいほど、各波長λにおけるターゲット分光反射率Rt(λ)と予測分光反射率Rs(λ)の差が少ないということができる。すなわち、評価値E(φ)が小さければ小さいほど、入力したインク量セットφによってプリンター20が印刷したときに光沢紙上にて再現される分光反射率R(λ)と、対応する塗料のサンプルから得られたターゲット分光反射率Rt(λ)が近似しているということができる。
【0055】
さらに、インク量セットφによるプリンター20の再現色と、対応する塗料のサンプルが示す絶対的な色は、それぞれ光源の変動に応じて変動することとなるが、評価値E(φ)を小さくすることにより両者の色を相対的に一致させることができる。従って、評価値E(φ)が小さくなるインク量セットφによれば、あらゆる光源において塗料が示す色に知覚される印刷結果を得ることができるということができる。
【0056】
また、本実施形態において、重み関数w(λ)は下記の式(3)のものを使用する。
【数4】


前記の式(3)においては、等色関数x(λ),y(λ),z(λ)を加算することにより、重み関数w(λ)が定義されている。なお、前記の(3)式の右辺全体に所定の係数を乗算して、重み関数w(λ)の値の範囲を正規化してもよい。等色関数x(λ),y(λ),z(λ)は、人間の視覚感度に応じたスペクトルを有しており、人間の視覚感度が敏感な波長域での分光反射率R(λ)を重視させることができる。例えば、人間の目に知覚されない近紫外波長域においてはw(λ)が0となり、当該波長域における差分D(λ)は評価値E(φ)の増大に寄与しないこととなる。
【0057】
すなわち、必ずしも全可視波長域においてターゲット分光反射率Rt(λ)と予測分光反射率Rs(λ)との差が小さくなくても、人間の目に特に強く知覚される波長域においてターゲット分光反射率Rt(λ)と予測分光反射率Rs(λ)とが似ていれば、小さい値の評価値E(φ)を得ることができ、人間の目に知覚に即した分光反射率R(λ)の近似性の指標として評価値E(φ)を使用することができる。
【0058】
補正量算出モジュールM5は、インク量セットφを順次シフトさせながら、その都度、図9に示すフローチャートに沿って、分光予測モジュールM3に予測分光反射率Rs(λ)を計算させ、評価値E(φ)を算出する。そして、評価値E(φ)を極小化させるインク量セットφの最適解を算出する。この最適解を算出する手法としては、様々な最適化手法を用いることができるが、例えば勾配法といった非線形最適化手法を用いることが望ましい。以上によりステップS6の処理により本発明の補正手段を実現する。
【0059】
以上のようにして、ステップS6にてターゲット分光反射率Rt(λ)が再現可能なインク量セットφが算出できると、ステップS7では、テーブル補正モジュールM6は、ターゲット分光反射率Rt(λ)を測定したサンプルの塗料番号と、ターゲット分光反射率Rt(λ)と、算出したインク量セットφとを対応付けてインデックステーブルIDTに格納する。ステップS8においては、すべてのパッチPを選択したか否かが判定され、選択していない場合は(ステップS8:NO)、ステップS2に戻り、次のインク量セットを選択する。これにより、インク量セットΦを順次ターゲット値に色合わせすることが可能となる。以上、本実施形態にかかるキャリブレーションについて説明した。
【0060】
4.分光反射率データベースRDBの作成方法:
図12は、分光反射率データベースRDBの作成を説明するためのフローチャートである。以下、図12を参照して、本実施形態にかかる分光反射率データベースRDBの作成過程を説明する。
【0061】
ステップS31では、データベース作成モジュールM2は、用紙における紙白の分光反射率Rw(λ)を取得する。また、ステップS32では、データベース作成モジュールM2は、第1分光データーRd1として、1次色インクにおける分光反射率R1(λ)を取得する。上記した紙白の分光反射率Rw(λ)及び1次色インクの分光反射率Rd1(λ)は、実測で求める必要はないが、色精度が高いことが望ましい。
【0062】
ステップS33では、データベース作成モジュールM2は、パッチデーターCPD2を用いてカラーチャートを印刷する。パッチデーターCPD2は、上記した第1及び第2の混色データーに記録される第2分光データーRd2を取得するのに必要とされるパッチPを印刷するものである。そのため、カラーチャートを形成するパッチPは、1次色インクに他の1次色インクを任意の混色比により混色して形成される。ここで、各パッチPは、その測色値が全ての色相平面上に複数点ずつ存在するよう1次色インクの混色比が設定されて構成されている。
【0063】
ステップS34では、データベース作成モジュールM2は、印刷された各カラーチャートを測色ヘッド23に測色させて、それぞれの分光反射率Rp(λ)を取得する。
【0064】
ステップS35では、ステップS31で取得された紙白の分光反射率Rw(λ)、S32で取得された1次色インクの分光反射率Rd1(λ)、及びステップS34でカラーチャートを測色して得た分光反射率Rp(λ)から、任意の1次色を混色した場合の第2分光データーRd2を取得する。
【0065】
ここで、任意のインク量セットΦを混色して得た分光反射率Rp(λ)と、各分光反射率(Rd1(λ),Rd2(λ),Rw(λ))との関係は、式(1a)に示すユール・ニールセン分光ノイゲバウアモデルから規定することができる。そのため、第2分光データーRd2は、下記に示す(式4)に、ステップS31,32,34で取得した各反射率を代入して予測するこができる。なお、下記の式(4)では、1次色インクの例としてシアンインク(C)とマゼンダインク(M)を記載している。また、aは、混色の被覆率である。
【数5】


【0066】
すべてのカラーチャートに対して、ステップS35の処理により第2分光データーRd2が取得されていない場合(ステップS36:NO)、ステップS32〜S35の処理を繰返す。すべてのカラーチャートに対して、第2分光データーRd2が取得された場合(ステップS36:YES)、ステップS37では、取得した第1分光データーRd1、紙白の分光反射率Rw(λ)、第2分光データーRd2を分光反射率データベースRDBに記録する。以上、分光反射率データベースRDBの作成手法を説明した。
【0067】
5.その他の実施形態:
本発明は様々な実施形態が存在する。
本実施形態にかかるキャリブレーションを実行する装置として、ホストPC10とプリンター20とで構成されるシステムをもとに説明を行ったが、装置の構成としてはこれに限定されない。例えば、プリンター20のみで本実施形態にかかるキャリブレーションを実行する構成としてもよい。
【0068】
また、キャリブレーション過程において予測分光反射率Rs(λ)をターゲット分光反射率Rt(λ)に近づけるために用いられた(式2)は一例であり、例えばヤコビ行列を用いる周知の技術を適用するものであってもよい。
【0069】
なお、本発明は上記実施例に限られるものでないことは言うまでもない。即ち、上記実施例の中で開示した相互に置換可能な部材および構成等を適宜その組み合わせを変更して適用すること、上記実施例の中で開示されていないが、公知技術であって上記実施例の中で開示した部材および構成等と相互に置換可能な部材および構成等を適宜置換し、またその組み合わせを変更して適用すること、上記実施例の中で開示されていないが、公知技術等に基づいて当業者が上記実施例の中で開示した部材および構成等の代用として想定し得る部材および構成等と適宜置換し、またその組み合わせを変更して適用すること、は本発明の一実施例として開示されるものである。
【符号の説明】
【0070】
10…ホストPC、11…CPU、12…RAM、13…ROM、14…HDD、15…GIF、16…VIF、17…IIF、18…バス、20…プリンター、21…ASIC、22…印刷ヘッド、23…測色ヘッド、24…吐出制御回路、25…印刷ヘッド駆動制御回路、26…測色ヘッド駆動制御回路、27…用紙搬送機構、28…GIF、29…バス、40…ディスプレイ、50a…キーボード、50b…マウス、M1…ドライバーモジュール、M2…データベース作成モジュール、M3…分光予測モジュール、M4…分光特性取得モジュール、M5…補正量算出モジュール、M6…テーブル補正モジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲット1次色を2次色以上の混色にて再現する印刷装置であって、
任意の色相毎に、異なる1次色インクを混色して得た混色の分光反射率を取得する分光特性取得手段と、
色予測モデルを用いて任意のインク量セットにおける分光特性を予測するに際し、前記インク量セットを構成する1次色インクの分光特性、及び前記取得された混色の分光特性を用いて、同インク量セットの分光特性を予測する分光特性予測手段と、
前記予測された分光特性をもとに、前記インク量セットにおける分光特性をターゲット1次色の分光特性に近づけるよう補正する補正手段と、を有することを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
前記分光特性取得手段は、
任意の色相における異なる1次色インクを混色して構成されたインクの分光特性と、前記各1次色インクの分光特性とを取得し、
前記各分光特性と、分光ノイゲバウアの色予測モデルに基づいて、前記混色の分光特性を求めることを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記インク量セットと、前記ターゲットデーターとの間の色差を取得する色差取得手段を有し、
分光特性取得手段は、前記色差に応じて取得される前記混色の分光特性を変化させることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項4】
前記分光特性取得手段は、前記色差が所定の閾値以下である場合は、色相が近い1次色インクを混色した分光特性を取得することを特徴とする請求項3に記載の印刷装置。
【請求項5】
前記色差が所定の閾値以上である場合は、分光特性取得手段は、分光特性のピークが遠い1次色インクを混色させた分光特性を取得することを特徴とする請求項3に記載の印刷装置。
【請求項6】
前記分光特性取得手段は、前記1次色インクの混色比率を保持したまま、異なる濃度での混色の分光反射率を取得することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の印刷装置。
【請求項7】
ターゲット1次色を2次色以上の混色にて再現するキャリブレーション方法であって、
任意の色相毎に、異なる各1次色を混色して得た混色の分光反射率を取得する分光特性取得工程と、
色予測モデルを用いて任意のインク量セットにおける分光特性を予測するに際し、前記インク量セットを構成する1次色インクの分光特性、及び前記取得された混色の分光特性を用いて、同インク量セットの分光特性を予測する分光特性予測工程と、
前記予測された分光特性をもとに、前記インク量セットにおける分光特性をターゲット1次色の分光特性に近づけるよう補正する補正工程と、を有することを特徴とするキャリブレーション方法。
【請求項8】
コンピューターに、ターゲット1次色を2次色以上の混色にて再現させるキャリブレーション実行プログラムであって、
任意の色相毎に、異なる各1次色を混色して得た混色の分光反射率を取得する分光特性取得機能と、
色予測モデルを用いて任意のインク量セットにおける分光特性を予測するに際し、前記インク量セットを構成する1次色インクの分光特性、及び前記取得された混色の分光特性を用いて、同インク量セットの分光特性を予測する分光特性予測機能と、
前記予測された分光特性をもとに、前記インク量セットにおける分光特性をターゲット1次色の分光特性に近づけるよう補正する補正機能と、をコンピューターに実現させることを特徴とするキャリブレーション実行プログラム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−217222(P2011−217222A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84842(P2010−84842)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】