卵巣がんのためのバイオマーカー
本発明は、(a)対象生物由来のサンプルにおいて、少なくとも一つの生体マーカーを検出し、(b)その測定結果を卵巣がんの状態と関連づけることを含む、対象生物における卵巣がんの状態を認定する方法に関するものである。更に、本発明は対象生物における卵巣がんの状態を認定するためのキットに関するものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2004年12月1日に出願された米国仮出願第60/632474号、2004年3月31日に出願された米国仮出願第60/558422号の優先権を主張するものであり、両出願を参照してその全てを本明細書に取り込む。
【0002】
(発明分野)
本発明は、卵巣がんの検出において重要なバイオマーカーを提供する。マーカーは、SELDI分析を用いて、健常人由来のものと、卵巣がん患者の血清蛋白質プロファイリングを識別することで同定された。本発明は、卵巣がんの状態を認定するのにバイオマーカーを使用するシステム及び方法に、これらのバイオマーカーを関連づけるものである。本発明はまた、公知の蛋白質であるバイオマーカーを同定するものでもある。
【背景技術】
【0003】
卵巣がんは、先進国において、もっとも致死性の高い婦人科学の悪性腫瘍の一つである。米国だけで年間約23000人の女性が卵巣がんと診断されており、そのうちの約14000人が死亡する(Jamal, Aら、CA Cancer J Clin, 2002; 52: 23-47)。がん治療の進歩にもかかわらず、卵巣がんによる致死率にはこの20年以上際だった変化はみられない(上述)。疾患が診断された時点での病期(stage)によって、生存率が急勾配になることから、卵巣がん患者の長期生存率を上昇させるには、早期発見が未だに最も重要な因子となっているのである。
【0004】
後期ステージで診断された卵巣がんの予後がよくないこと、確認診断に伴う費用とリスク、そして相対的に一般の人々の有病率が低いことがあいまって、一般向けの卵巣がんのスクリーニングに用いられる試験に於いては、感度及び特異度に非常に厳しい条件が求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
がんの早期検出と診断に適した腫瘍マーカーの同定は、患者の臨床結果を向上させるうえで非常に有望視されている。特に、はっきりしない若しくは徴候がない患者、又は物理的な検査では相対的にアクセスし難い腫瘍を有している患者にとっては重要である。早期検出にかなりの努力がなされているにもかかわらず、未だコスト効率の良いスクリーニング試験は開発されておらず(Paley PJ., Curr Opin Pncol, 2001; 13(5):399-402)、診断時に播種性の疾患を呈する女性が一般的である(Ozols RFら、Epithelial ovarian cancer In: Hoskins YJ, Perez CA, Young RC編、Principles and Practice of Gynecologic Oncology. 3rd ed. Philadelphia Lippincott, Williams and Wilkins; 2000. p.981-1057)。
【0006】
腫瘍マーカーとして最も特徴付けられているCA125は、ステージIの卵巣腫瘍の約30〜40%で陰性であるが、そのレベルは様々な良性の疾患に於いても上昇する(Meyer Tら、Br J Cancer, 2000; 82(9): 1535-8; Buamah P., J Surg Oncol, 2000; 75(4): 264-5; Tuxen MKら、Cancer Treat Rev, 1995; 21(3):215-45)。卵巣がんの早期検出及び診断のための集団性のスクリーニングに使用するには、感度及び特異度が低いので差し控えられている。(MacDonald NDら、Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol, 1999; 82(2): 155-7; Jacobs Iら、Hum Reprod, 1989; 4(1):1-12; Shih I-Mら、Tumor markers in ovarian cancer. In:Diamandis EP, Fritsche, H., Lilja, H., Chan, D.W., Schwartz, M編、Tumor markers physiology, pathobiology, technology and clinical applications. Philadelphia: AACC Press; in press)。骨盤及びより最近では膣のソノグラフィーが、危険性の高い患者のスクリーニングに使用されているが、どちらの技術も一般向けに適用するには十分な感度も特異度も有さない(MacDoland NDら、上述)。がんのモデルの長期的な危険性(Skates SJら、Cancer, 1995; 76(10 Suppl): 2004-10)、及び第二の試験としての超音波と同時に(Jacobs I DAら、Br Med J, 1993; 306(6884): 1030-34; Menon U TAら、British Journal of Obstetrics and Gynecology, 2000; 107(2): 165-69)、追加の腫瘍マーカーと組み合わせてCA125を使用する最近の試みが(Woolal RP XFら、J Natl Cancer Inst, 1993; 85(21): 1748-51; Woolas RPら、Gynecol Oncol, 1995; 59(1):111-6; Zhang Zら、Gynecol Oncol, 1999; 73(1): 56-61; Zhang Zら、Use of Multiple Markers to Detect Stage I Epithelial Ovarian Cancers: Neural Network Analysis Improves Performance. American Society of Clinical Oncology 2001; Annual Meeting, Abstract)、全ての試験の特異度をあげるという有望な結果を示したが、これは、比較的罹患率の低い卵巣がんのような疾患には重要なことである。
【0007】
後期卵巣がんは、予測があまりできないため、医師は最低10%陽性の検出値の試験を受け入れるということが一般的である(Bast R.C.ら、Cancer Treatment and Research, 2002; 107: 61-97)。これを一般に広げるには、一般的なスクリーニング試験は70%以上の感度を必要とし、99.6%の特異度を必要とする。今のところ、CA125、CA72−4、又はM−CSFのような現存する血清マーカーは、どれもそのような有効性を示さない(Bast R.C.ら、Int J Biol Markers, 1998; 13:179-87)。
【0008】
そこで、個別に又は他のマーカー若しくは診断モダリティと組み合わせて、卵巣がんの早期検出のために必要な感度と特異度を有する新しい血清マーカーが嘱望されている(Bast RCら、Early detection of ovarian cancer: promise and reality. Ovarian Cancer: ISIS Medical Media Ltd., Oxford, UK; 2001. in press)。許容できるスクリーニング試験がないことから、卵巣がん患者の長期生存率を上げるには、早期発見が最も重要な因子となっている。
【0009】
従って、患者の卵巣がん状態を検出する、信頼できる正確な方法、そしてその結果が対象生物(subject)の治療又は処置管理に使用できるようなものの開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の要約)
本発明は、マーカーを測定することにより、卵巣がんの状態を決定するのに有用な、感度が高く迅速な方法及びキットを提供する。患者のサンプルに於いてこれらのマーカーを測定することで、診断者がヒトのがんの予想される診断又は陰性(例えば正常又は疾患ではない)と関連付けられる情報が提供される。マーカーは分子量及び/又はそれらの蛋白質の独自性で特徴付けられる。マーカーは、例えばマススペクトロメトリーを伴うクロマトグラフィーによる分離、固定化された抗体を使用する又は伝統的なイムノアッセイによる蛋白質の捕獲等の様々な分画技術を使用して、サンプル内の他の蛋白質から分析することができる。好ましい態様では、分析法は、表面活性化レーザー脱離/イオン化(SELDI)マススペクトロメトリーを含み、マススペクトロメトリープローブの表面は、マーカーに結合する吸収剤を含んでいる。
【0011】
特に、(1)修飾された形態のApoA1を含むアポリポプロテインA1(本明細書では「ApoA1」と表す)、(2)切断された形態のトランスサイレチン(本明細書では「トランスサイレチンΔN10」と表す)及び修飾された形態のトランスサイレチンを含むトランスサイレチン(transthyretin)、(3)少なくとも3つのインターαトリプシン阻害剤重鎖H4(本明細書では「IAIH4断片」と表す)のうちの一つとして本明細書に記載の方法により、3つのバイオマーカーが発見され、その後同定された。
【0012】
本発明は、(a)対象生物由来のサンプルに於いて、少なくとも一つのバイオマーカーを検出し、ここでそのバイオマーカーは、ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性の(native)トランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2,IAIH4断片3及びそれらの組み合わせから選択されるものであり、(b)その測定結果を卵巣がんの状態と関連づけることを含む、対象生物における卵巣がんの状態を認定する方法を提供する。ある特定の方法では、測定工程はサンプルにおけるマーカーの量を定量することを含む。他の態様では、測定工程はサンプルにおけるバイオマーカーのタイプを認定することを含む。
【0013】
本発明はまた、測定方法が、血液及び血液由来の対象生物からのサンプルを提供し、陰イオン交換樹脂でサンプル内の蛋白質を分けてApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチン及びIAIH4断片を含む分画を集め、そして蛋白質バイオマーカーに結合する捕獲試薬を含む基質の表面で、分画由来のApoA1、トランスサイレチン及びIAIH4断片を捕獲することを含む方法に関するものである。血液由来物質は、例えば血清又は血漿である。好ましい態様では、基質はIMAC銅表面を含むSELDIプローブであり、蛋白質バイオマーカーがSELDIで検出されるものである。他の態様では、基質が、ApoA1、トランスサイレチン及びIAIH4断片に結合する生体特異的な親和性試薬を含むSELDIプローブであり、蛋白質バイオマーカーがSELDIで検出されるものである。他の態様では、基質がApoA1、トランスサイレチン及びIAIH4断片に結合する生体特異的な親和性試薬を含むイクロタイタープレートであり、蛋白質バイオマーカーがイムノアッセイで検出されるものである。
【0014】
ある態様では、本発明の方法は更に、本発明の方法により決定された状態に基づいて、対象生物を治療又は処置管理する方法を含む。例えば、もし本発明の方法の結果が決定的でないか、又は状態を確認する必要性がある場合には、医師は更なる試験を指示するでうし、或いは、もし手術をするのが適切であることを示す状態であれば、医師は患者の手術を予定するであろう。同様に、例えば状態が卵巣がんの後期である等、試験の結果が陽性の場合、又は症状がその他の点で急性(otherwie acute)である場合には、更なる対策は講じられないであろう。更に、その結果が治療又は処置の成功を示すものであれば、更なる管理は不要である。
【0015】
本発明はまた、対象生物を治療又は処置した後に、再び少なくとも一つのバイオマーカーを測定する方法を提供する。例えば、対象生物の治療又は処置管理の工程は、得られた結果に応じてその後も繰り返し及び/又は治療又は処置の方法を変更して実施される。
【0016】
「卵巣がんの状態(status)」という用語は、患者に於ける症状に言及するものである。卵巣がんの症状のタイプの例としては、対象生物に於けるがんのリスク、疾患の有無、患者に於ける疾患の病期(stage)、治療又は処置の有効性等が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
本発明の方法に於いて有用なバイオマーカーは、ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2,及びIAIH4断片3から選択される。ある好ましい態様では、更に、対象生物由来のサンプルに於いて、少なくとも一つの先に知られたバイオマーカー(本明細書で「マーカー4」として表されるもの)を測定し、少なくとも一つのマーカー4の測定結果と、ApoA1、トランスサイレチン及びIAIH4断片の測定結果を、卵巣がんの状態と関連づけることを含む。ある態様では、ApoA1、トランスサイレチン及びIAIH4断片から選択されるマーカーに加えて、マーカー4のみが測定され、他の態様では、マーカー4より多くのマーカーが測定される。
【0018】
マーカー4の例は、例えば、CA125、CA125II、CA15−3、CA19−9、CA72−4、CA195、腫瘍関連トリプシン阻害剤(TATI)、CEA、胎盤アルカリンホスファターゼ(PLAP)、シアリルTN、ガラクトシルトランスフェラーゼ、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF、CSF−1)、リゾホスファチジン酸(LPA)、上皮成長因子受容体(p110GFR)の細胞外ドメインの110kD構成体、例えばカリクレイン6及びカリクレイン10(NES−1)等の組織カリクレイン、プロスタシン、HE4、クレアチンキナーゼB(CKB)、LASA、HER−2/neu、尿ゴナドトロピンペプチド、ダイアノンNB70/K、組織ペプチド抗体(TPA)、オステオポンチン、ハプトグロビン、ビクニン、MUC1及びそれらの蛋白質の変異体(例えば開裂体やアイソフォーム等)であるバイオマーカーを含むが、これらに限定されるものではない。
【0019】
ある態様では、本発明の方法は、ApoA1、トランスサイレチン及びIAIH4断片の3つ全てのバイオマーカー(ApoA1が未修飾のApoA1及び修飾されたApoA1から選択されるものであり、トランスサイレチンがトランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン及びグルタチオン化されたトランスサイレチンからなる群より選択されるものであり、IAIH4断片がIAIH4断片1,2及び3からなる群より選択されるものである)を測定することを提供する。別の態様では、ApoA1及びトランスサイレチン(ApoA1が、未修飾のApoA1及び修飾されたApoA1から選択されるものであり、トランスサイレチンがトランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン及びグルタチオン化されたトランスサイレチンからなる群より選択されるものである、)2つのバイオマーカーを測定する方法を提供する。ある好ましい態様では、2つのバイオマーカーは修飾されたApoA1及びシステイン化されたトランスサイレチンである。別の態様では、ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン及び3つの全てのIAIH4断片の測定の方法を提供する。ある態様では、対象生物由来のサンプルにおいて、少なくとも一つの公知のバイオマーカー(マーカー4)がまた測定され、マーカー4の測定結果と、他3つのバイオマーカーの測定結果(ApoA1、トランスサイレチン及びIAIH4断片)の測定結果が、卵巣がんの状態と関連づけられる。上述したように、ある態様では、測定されるバイオマーカーは、3つのバイオマーカー(ApoA1が、未修飾のApoA1及び修飾されたApoA1から選択されるものであり、トランスサイレチンがトランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン及びグルタチオン化されたトランスサイレチンからなる群より選択されるものであり、IAIH4断片がIAIH4断片1、2及び3から選択されるもの、又は2つか3つのIAIH4断片から成り得るものである)及びマーカー4として指定されている群より二つ又はそれ以上のマーカーを含む。
【0020】
本発明はまた、マーカーI〜XLVIIIとして示される生体マ−カーに関するものである。本発明の蛋白質マーカーは、一つ又はそれ以上のいくつかの局面で特徴付けられることができる。特に一つの態様では、これらのマーカーは、特にマススペクトロメトリースペクトル分析で決定されるように、本明細書に特定される条件下で分子量により特徴付けられる。他の態様では、マーカーは、サイズ(領域を含む)、及び/又はマーカーのスペクトルピークの形、近接を含む特徴、近隣ピークのサイズや形のような、マーカーのマススペクトロメトリースペクトル形跡の特徴で、特徴付けられることができる。更に他の態様では、マーカーは、特に特定の条件下でIMAC銅吸収剤に結合する能力である、親和結合性の特徴で特徴付けられることができるが、例えばニッケルのような他の金属もまた使用されることができるだろう。好ましい態様では、本発明のマーカーは分子量、マススペクトル形跡、IMAC−銅吸収剤結合のような局面の各々で特徴づけられることができるだろう。
【0021】
本明細書に開示されているマーカーの質量値(mass value)として、スペクトル装置の質量精度は、開示されている分子量(weight value)の約±0.15パーセント以内であると考えられる。認識されている装置の精度のばらつきに加えて、スペクトルのマス測定値は約400〜1000m/dmの解像度の範囲で変化できる。mは質量であり、dmは0.5ピーク高さにおけるマススペクトルピークの幅である。マススペクトル装置とその操作に伴う質量の精度と解像度のばらつきは、マーカーI〜XLVIIIそれぞれの質量を開示するに当たり「約」という用語を使用して反映させている。そのような質量の精度と解像度のばらつきが意図され、本明細書に開示される各マーカーの質量に関しての「約」という用語の意味するところは、対象生物の性、遺伝子型及び/又は民族性、並びに特定のがん又はそれらの起源若しくはそれらの病期に起因して存在するマーカーの異形を包含することである。
【0022】
本発明は更に、(a)対象生物由来のサンプルに於いて、少なくとも一つのバイオマーカーを測定し、ここでそのバイオマーカーはマーカーI〜XLVIII及びその組み合わせからなる群より選択されるものであり、(b)その測定結果を、卵巣がんの状態と関連付けることを含む、対象生物における卵巣がんの状態を認定する方法を提供する。ある方法では、測定工程は、サンプル内のマーカーの有無を検出することを含む。他の方法では、測定工程はサンプル内のマーカーを定量することを含む。他の方法では、測定工程はサンプル内のバイオマーカーの型を認定することを含む。
【0023】
診断試験の正確さは、受診者動作特性曲線(「ROC曲線」)により特徴づけられる。ROCは診断試験の異なる可能なカットポイントへの擬陽性比率に対する真の陽性比率のプロットである。ROC曲線は感度と特異度の関連を示す。つまり、感度の増加は特異度の減少を伴うであろう。曲線がより左軸とROC空間の上の端に近づくほど、試験はより正確である。逆に曲線がROCグラフの45度対角線に近づくほど、試験はより不正確である。ROCの下の領域は試験精度を評価する。試験の正確さは、試験される群を、問題となる疾患を有する群及び有さない群へと、いかによく分離できるかに依存する。(「AUC」として表される)曲線の下の領域が1の場合は、完全な試験を表す一方、0.5はより有用でない試験を表す。よって、本発明の好ましいバイオマーカーと診断方法は、0.5よりも大きいAUC、より好ましくは0.6より大きいAUC、更に好ましくは0.7より大きいAUCを有する。
【0024】
バイオマーカーの測定の好ましい方法には、バイオチップアレイの使用が含まれる。本発明で有用なバイオチップアレイは、蛋白質チップアレイ及び核酸アレイを含む。一つ又はそれ以上のマーカーがバイオチップアレイ上に捕獲され、マーカーの分子量検出のためにレーザーイオン化に供される。マーカーの分析は、例えば全イオン電流に対してノーマライズされた閾値強度に対して一つ又はそれ以上のマーカーの分子量によるものである。好ましくは、検出されるマーカーの数を限定するようにピーク強度範囲を限定するために、対数変換が使用される。
【0025】
本発明の好ましい方法では、バイオマーカーの測定結果と卵巣がんの状態を関連づける工程は、ソフトウエア分類アルゴリズムにより行われる。好ましくは、データはバイオチップアレイに固定化された対象生物からのサンプルに於いて、バイオチップアレイをレーザーイオンにさらし、質量/電荷比のシグナル強度を検出し、データをコンピュータで読める形態へ変換し、卵巣がん患者には存在するが、がんに罹患していない対照の対象生物には欠如しているシグナルを検出するために、使用者の入力パラメータに従ってデータを分類するアルゴリズムを実行することで、産生される。
【0026】
好ましくは、例えばバイオチップ表面は、イオン、アニオン、固定化されたニッケルイオン、陽性及び陰性イオンの混合物、一つ又はそれ以上の抗体、一本又は二本鎖核酸、蛋白質、ペプチド又はそれらの断片、アミノ酸プローブ又はファージディスプレイライブラリーである。
【0027】
他の好ましい態様では、一つ又はそれ以上のマーカーは、吸収剤が装着された、マススペクトロメーターでの使用に適したプローブを提供すること、対象生物からのサンプルを吸収剤と接触させること、プローブからマーカーを脱離してイオン化し、マススペクトロメーターで脱イオン化/イオン化されたマーカーを検出することを含む、レーザー脱離/イオン化マススペクトロメトリーを使用して測定される。
【0028】
好ましくは、レーザー脱離/イオン化マススペクトロメトリーは、結合する吸収剤を含む基質を提供し、対象生物からのサンプルを吸収剤と接触させ、結合された吸収剤を含むマススペクトロメーターでの使用に適したプローブに基質を設置し、マーカーをプローブから脱離してイオン化して、脱離/イオン化されたマーカーをマススペクトロメーターで検出することを含む。
【0029】
吸収剤は例えば、ニッケル、抗体、一本又は二本鎖オリゴヌクレオチド、アミノ酸、蛋白質、ペプチド又はそれらの断片のような、親水性、親油性、イオン又は金属キレート吸収剤である。
【0030】
本発明の方法は、例えば血液、血清及び血漿のような、そのような方法を受けることができるであろう患者のサンプルのいかなるタイプに於いても行うことができる。
【0031】
ある態様では、対象生物由来のサンプルに於いて複数のバイオマーカーが測定され、ここでバイオマーカーは、ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1,IAIH4断片2及びIAIH断片3から選択されるものと、少なくとも一つの公知であるマーカー、マーカー4である。ある好ましい態様では、複数のバイオマーカーはApoA1及びトランスサイレチンからなり、更に、より好ましい態様ではApoA1が修飾されたApoA1であり、トランスサイレチンがシステイン化されたトランスサイレチンである。別の好ましい方法では、複数のバイオマーカーはApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1,IAIH4断片2及びIAIH4断片3を含む。複数のバイオマーカーの測定はまた、少なくとも一つのマーカー4の測定を含むことができる。好ましくは、蛋白質バイオマーカーはSELDI又はイムノアッセイにより測定される。
【0032】
本発明はまた、対象生物由来のサンプルに於いて少なくとも一つのバイオマーカーを測定する方法を提供し、ここでバイオマーカーは、ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2,及びIAIH4断片3並びにこれらの組み合わせから選択されるものである。ある態様では、本発明の方法は更に、ApoA1及び/又は少なくとも一つの卵巣がんマーカー、即ち、例えばCA125、CA125II、CA15−3、CA19−9、CA72−4、CA195、TATI、CEA、PLAP、シアリルTN、ガラクトシルトランスフェラーゼ、M−CSF、CSF−1、LPA、p110EGFR、組織カリクレイン、プロスタシン、HE4、CKB、LASA、HER−2/neu、尿ゴナドトロピンペプチド、ダイアノンNB70/K、TPA、オステオポンチン、ハプトグロビン、ビクニン、及びMUC1並びにそれらの蛋白質の変異体(例えば開裂体やアイソフォーム等)であるバイオマーカーであるマーカー4を測定することを含む。
【0033】
本発明はまた、(a)ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片並びにこれらの組み合わせから選択されるバイオマーカーと結合する捕獲試薬、及び(b)少なくとも一つのバイオマーカーを含む容器、を含むキットを提供する。好ましい態様では、捕獲試薬は複数のバイオマーカーに結合する。ある態様では、その複数には、ApoA1及びトランスサイレチン、更により好ましい態様では、ApoA1が、修飾されたApoA1であり、トランスサイレチンがシステイン化されたトランスサイレチンである。別の態様では、その複数には、ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3が含まれる。捕獲試薬はいかなるタイプの試薬でもいいが、好ましくはその試薬はSELDIプローブである。捕獲試薬はまた、例えばマーカー4などの、公知のその他のマーカーに結合してもよい。ある好ましい態様では、キットは更に第一の捕獲試薬が結合しないバイオマーカーの一つと結合する第二の捕獲試薬を含む。
【0034】
更に本発明で提供されるキットは、(a)ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1,IAIH4断片2,及びIAIH断片3から選択される少なくとも一つのバイオマーカーと結合する第一の捕獲試薬、及び(b)第一の捕獲試薬と結合しないバイオマーカーの少なくとも一つを結合する第二の捕獲試薬を含む。好ましくは、少なくとも一つの捕獲試薬は抗体である。あるキットは更に、少なくとも一つの捕獲試薬が結合した又は結合できるMSプローブを含む。
【0035】
本発明のあるキットでは、捕獲試薬は固定化された金属キレート(「IMAC」)である。
【0036】
本発明のあるキットは、更に洗浄後、他のバイオマーカーと比較して、捕獲試薬に結合したバイオマーカーが選択的に保持されるようにする洗浄液を含む。
【0037】
本発明はまた、(a)ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH断片3から選択される少なくとも一つのバイオマーカーと結合する第一の捕獲試薬、及び(b)バイオマーカーを検出するための捕獲試薬を使用するための指示書、を含むキットを提供する。これらのキットのある態様では、捕獲試薬は抗体を含む。更に、いくつかのキットでは、捕獲試薬はIMACを含む。キットは更に、洗浄後に他のバイオマーカーと比較して、捕獲試薬に結合したバイオマーカーを選択的に保持する洗浄液を含んでもよい。好ましくは、キットは、卵巣がん状態を決定するためにキットを使用するための指示書を含み、指示書は、試験サンプルを捕獲試薬と接触させ、捕獲試薬により保持される一つ又はそれ以上のバイオマーカーを測定することを提供する。
【0038】
キットはまた、抗体、一本又は二本鎖オリゴヌクレオチド、アミノ酸、蛋白質、ペプチド又はそれらの断片である捕獲試薬を提供する。
【0039】
キットを使用する一つ又はそれ以上の蛋白質バイオマーカーの測定は、マススペクトロメトリー又はELISAのようなイムノアッセイによる。
【0040】
卵巣がんの検出のための精製された蛋白質及び/又は更なる診断アッセイのための抗体の産生もまた、提供される。精製された蛋白質は、配列番号1(IAIH4断片1)、配列番号2(IAIH4断片2)及び配列番号3(IAIH4断片3)の精製されたペプチドを含む。本発明はまた、検出可能な標識を含む、精製されたペプチドを提供する。
【0041】
本発明はまた、ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1,IAIH4断片2,及びIAIH断片3から選択される少なくとも二つのバイオマーカーに結合する、少なくとも一つの捕獲試薬を含む製品を提供する。本発明製品の他の態様は、更に、例えばCA125、CA125II、CA15−3、CA19−9、CA72−4、CA195、TATI、CEA、PLAP、シアリルTN、ガラクトシルトランスフェラーゼ、M−CSF、CSF−1、LPA、p110EGFR、組織カリクレイン、プロスタシン、HE4、CKB、LASA、HER−2/neu、尿ゴナドトロピンペプチド、ダイアノンNB70/K、TPA、オステオポンチン、ハプトグロビン、ビクニン及びMUC1並びにそれらの蛋白質の変異体(例えば開裂体やアイソフォーム等)であるバイオマーカーであるがこれらに限定されるものではないマーカー4である、その他の公知の卵巣がんマーカーに結合する捕獲試薬を含む。
【0042】
本発明はまた、個々がApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH断片3から選択される、異なるバイオマーカー及び少なくとも一つのマーカー4に結合するものである、複数の捕獲試薬、を含むシステムを提供する。
【0043】
本発明はまた、(a)カリクレインを、カリクレイン基質及び試験試薬と接触させ、(b)試験試薬がカリクレインの活性を調節するか否かを決定する、ことを含むスクリーニング試験を提供する。そのような一つの試験では、基質はインターαトリプシン阻害剤重鎖H4前駆体である。この試験では、カリクレインは好ましくは基質をIAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3からなる群より選択される、IAIH4断片へ開裂させるものである。
【0044】
別の態様では、経膣超音波、陽電子(ポジトロン)放出(型)断層撮影(法)(PET:Positron emission tomography)又は単光子放射型コンピュータ断層撮影(SPECT:single photon emission computerized tomography)画像化のような非侵襲性の医療画像化技術が、がん、冠状動脈疾病及び脳疾患の検出に特に有用である。X線写真、CT及びMRIのような画像化技術が主として構造を示すのに対して、超音波ドップラー血流検査、PET及びSPECT画像は臓器及び組織の化学的機能を示す。卵巣がんのような病気の判定及びモニタリングに、超音波血流検査、PET及びSPECTイメージングの有用性が増している。
【0045】
本明細書に開示されるペプチドバイオマーカー又はその断片はPET及びSPECTの撮像応用に使用できる。PET及びSPECTの応用に適したトレーサー残基で修飾した後、腫瘍蛋白質と相互に作用するペプチドバイオマーカーは、卵巣がん患者の体内で堆積したバイオマーカーを画像化するのに使用できる。
【0046】
本発明のその他の態様を、以下に記載する。
【0047】
(定義)
他に定義されない限り、本明細書に使用される全ての技術及び化学用語は、本発明の所属する技術分野の当業者に通常理解される意味を有するものである。以下の参照文献は、本発明において使用される用語の多くの一般的な定義を、当業者に提供するものである。Singletonら、Dictonary of Microbiology and Molecular Biology (2nd ed. 1994)、The Cambridge Dictionary of Science and Technology (Walker ed. 1988)、The Glossary of Genetics, 5th ed., R.Riegerら(eds.), Springer Verlag (1991)、Hale & Marhan, The Harper Collins Dictionary of Biology (1991)。本明細書で使用されるように、以下の用語は他に特定されない限り、それらの用語に割り当てられた意味を有するものである。
【0048】
「ガス相イオンスペクトロメーター」は、ガス相イオンを検出する器具を表す。ガス相イオンスペクトロメーターは、ガス相イオンを供給するイオン源を含む。ガス相イオンスペクトロメーターは、例えば、マススペクトロメーター、イオン移動性スペクトロメーター及び総イオン電流測定装置を含む。「ガス相イオンスペクトロメトリー」はガス相イオンを検出するためにガス相イオンスペクトロメーターを使用することを表す。
【0049】
「マススペクトロメーター」は、ガス相イオンのマス対荷電比に翻訳されることができるパラメーターを測定するガス相イオンスペクトロメーターを表す。マススペクトロメトリースペクトロメーターは一般にイオン源とマススペクトロメトリー分析器を含む。マススペクトロメーターの例には、飛行時間、磁気領域、四極フィルター、イオントラップ、イオンサイクロトロン共鳴、静電領域分析及びこれらの融合がある。「マススペクトロメトリー」とはガス相イオンを検出するためにマススペクトロメーターを使用することを表す。
【0050】
「レーザー脱離マススペクトロメーター」は、分析物を脱離、電圧をかけ及びイオン化する手段として、レーザーエネルギーを使用するマススペクトロメーターを表す。
【0051】
「タンデムマススペクトロメーター」は、イオン及びイオン混合物を含む、m/zに基づくイオンの分離や測定の二つの連続する工程を実行することが可能な、如何なるマススペクトロメーターをも表す。この用語には、イオンタンデムインスペースの、m/zに基づく分離や測定の二つの連続する工程を実行できる二つのマス分析器を有するマススペクトロメーターが含まれる。本用語は更に、イオンタンデムインスペースの、m/zに基づく分離や測定の二つの連続する工程を実行できる単一のマス分析器を有するマススペクトロメーターを含む。この用語はこのように、明らかに、Qq−TOFマススペクトロメーター、イオントラップマススペクトロメーター、イオントラップ−TOFマススペクトロメーター、TOF−TOFマススペクトロメーター、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴マススペクトロメーター、静電領域−磁気領域マススペクトロメーター、そしてこれらの組み合わせを含む。
【0052】
「マス分析器」はガス相イオンのマス対荷電比へ変換できるパラメーターの測定のための手段を含むマススペクトロメーターの副集合を表す。飛行時間マススペクトロメーターにおいて、マス分析器はイオン視覚集合、飛行チューブ及びイオン検出器を含む。
【0053】
「イオン源」は、ガス相イオンを提供するガス相イオンスペクトロメーターの副集合をあらわす。一つの態様では、イオン源は脱離/イオン化工程を通じてイオンを提供する。そのような態様は一般的に、イオン化エネルギーの源(例えばレーザー脱離/イオン化源)への質問可能な関係や、ガス相イオンスペクトロメーターの検出器と、大気圧又は副大気圧でともに伝達することに位置的に従事するプローブインターフェイスを含む。
【0054】
固相から分析物を脱離/イオン化するためのイオン化エネルギーの形態には、例えば(1)レーザーエネルギー、(2)早い原子(早い原子物理衝撃で使用される)、(3)放射核のβ崩壊で産生される高エネルギー粒子(プラズマ脱離で使用される)、(4)二次イオンを産生する一次イオン(二次イオンマススペクトロメトリーで使用される)が含まれる。固相分析物に対して好ましいイオン化エネルギーの形態は、レーザー(レーザー脱離/イオン化で使用される)、特に窒素レーザー、Nd−Yagレーザー及び他のパルスされたレーザー源である。「能力(fluence)」は質問可能なイメージのユニット領域当たりに運ばれるエネルギーを表す。レーザーのような高能力源は、約1mJ/mm2から50mJ/mm2運ぶだろう。通常、サンプルはプローブの表面に位置され、プローブはプローブインターフェイスと連動し、プローブ表面はイオン化エネルギーで衝撃を受ける。エネルギーは分析分子を表面からガス相へ脱離し、それらをイオン化する。
【0055】
分析物のためのイオン化エネルギーの他形態には、例えば(1)ガス相中性をイオン化する電子、(2)ガス相、固相、又は液相中性からイオンを誘導する強度な電気的領域、(3)固相、ガス相、液相中性の化学的イオン化を誘導するために、イオン化粒子又は中性化学物質を有する電気的領域の組み合わせを適用する源、が含まれる。
【0056】
「固体支持体」とは、捕獲試薬とともに誘導可能である又はそれに結合されることができる固体物質を表す。代表的な固体支持体には、プローブ、マイクロタイタープレート及びクロマトグラフィー樹脂が含まれる。
【0057】
本発明における「プローブ」とは、ガス相イオンスペクトロメーター(例えばマススペクトロメーター)のプローブインターフェイスに携わり、イオン化とマススペクトロメーターのようなガス相イオンスペクトロメーターへ誘導するためのイオン化エネルギーへ分析物を提示するように適合された装置を表す。「プローブ」は、一般的に分析物がイオン化エネルギー源に提示される、サンプル提示表面を含む固体基質(可動性又は非可動性)を含むものである。
【0058】
「表面活性化レーザー脱離/イオン化」又は「SELDI」は、分析物が、ガス相イオンスペクトロメーターのプローブインターフェースに携わるSELDIプローブの表面で分析物が捕獲される、脱離/イオン化ガス相イオンスペクトロメトリー(例えば、マススペクトロメトリー)法を表す。「SELDI MS」では、ガス相イオンスペクトロメーターはマススペクトロメーターである。SELDI技術は、例えば米国特許第5719060号(Hutchens及びYip)及び米国特許第6225047号(Hutchens及びYip)に開示されている。
【0059】
「表面増強親和性捕獲(Surface-Enhanced Affinity Capture)」又は「SEAC」は、吸着剤表面を含むプローブ(「SEACプローブ」)の使用を含むSELDIの形態である。「吸着剤表面」とは、吸着剤が結合する表面を表す(また「捕獲試薬」又は「親和性試薬」とも呼ばれる)。吸着剤は分析物に結合できるいかなる物質(例えば、標的ポリペプチドや核酸)でもよい。「クロマトグラフィー吸着剤」は、クロマトグラフィーで通常使用される物質を表す。クロマトグラフィー吸着剤には、例えばイオン交換物質、金属キレート(例えばニトリロ酢酸やイミノジ酢酸)、固定化された金属キレート、疎水性相互作用吸着剤、親水性相互作用吸着剤、染料、単純な生体分子(例えば、ヌクレオチド、アミノ酸、単純な糖や脂肪酸)及び吸着剤の混合物(例えば、疎水性吸引/静電反発作用吸着剤)が含まれる。「生体特異的吸着剤」とは、例えば核酸分子(例えばアプタマー)、ポリペプチド、ポリサッカライド、脂質、ステロイド又はこれらの接合物(例えばグリコプロテイン、リポプロテイン、グリコリピッド、核酸(例えばDNA)蛋白質接合体)を含む吸着剤を表す。ある例では、生体特異的吸着剤は多蛋白質複合体、生体膜やウイルスのような巨大分子構造であり得る。生体特異的吸着剤の例は、抗体、受容体蛋白質及び核酸である。生体特異的吸着剤は通常は、クロマトグラフィー吸着剤よりも標的分析物質に対してより特異的である。SELDIで使用される吸着剤の更なる例は、米国特許第6225047号(HutchensおよびYip, “Use of retentate chromatography to generate difference maps”, 2001年5月1日)において見出すことができる。
【0060】
いくつかの態様では、SEACプローブは選択される吸着物質を提供するように修飾されることができる前活性化された表面として提供される。例えば、あるプローブは共有結合を通じて生体分子を結合できる活性部分とともに提供される。エポキシドやカルボジイミジゾールは、抗体や細胞性受容体のような生体特異的吸着剤を共有結合する有用な反応性部分である。
【0061】
「吸着」とは、分析物の吸着剤や捕獲試薬への検出可能な非共有結合を表す。
【0062】
「表面活性化簡易脱離」又は「SEND」とは、化学的にプローブ表面に結合したエネルギー吸収分子を含むプローブ(「SENDプローブ」)の使用を含んでいるSELDIの形態である。「エネルギー吸収物質」(「EAM」)とは、レーザー脱離/イオン化源由来のエネルギーを吸着でき、それから接触する分析分子の脱離とイオン化に寄与できる分子を表す。この用語は、MALDIで使用される分子を含み、しばしば「マトリックス」として表され、他の物質と同様に、明らかに珪皮酸誘導体、シナピン酸(「SPA」)、シアノヒドロキシ珪皮酸(「CHCA」)、ジヒドロキシベンゾイックアシド、フェルリックアシド、ヒドロキシアセトフェノン誘導体を含む。それはまた、SELDIで使用されるEAMを含む。SENDは更に米国特許第5719060、米国特許出願第60/408255、2002年9月4日に出願されたもの(Kitagawa, “Monomers And Polyners Having Energy Absorbing Moieties Of Use In Desorption/Ionization Of Analytes”)に開示されている。
【0063】
「表面活性化光不安定装着及び放出」又は「SEPAR」は、分析物に共有結合して、それから、例えばレーザー光のような光に照射後に、その部分でのフォトラビル結合を切断して分析物を放出できる表面に装着された部分を有するプローブの使用を含む、SELDIの形態である。SEPARは更に、米国特許第5719060号に開示されている。
【0064】
「溶離液」又は「洗浄液」は、吸着表面への分析物質の吸着に影響する若しくは変更を加える及び/又は吸着表面から結合していない物質を取り除くために使用される通常は液体の試薬を表す。溶離液の溶離の特徴は、例えば、pH、イオン強度、疎水性、カオトロピズムの度合い、界面活性剤の強度及び温度に依存するものである。
【0065】
「分析物」とは、検出されることが望まれるサンプルのいかなる構成物質をも表す。本用語は、サンプル内の、単一の構成物質又は複数の構成物質を表すことができる。
【0066】
親和性捕獲プローブの吸着表面に吸着されたサンプルの「複雑さ」とは、吸着された、異なる蛋白質の種類の数を意図する。
【0067】
「分子結合パートナー」及び「特異的結合パートナー」とは、通常は特異的に結合する分子生物のペアーである、分子のペアーを表す。分子結合パートナーには、受容体とリがんド、抗体と抗原、ビオチンとアビジン、ビオチンとストレプトアビジンが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0068】
「モニターリング」とは、継続的にパラメーターを変えた際に変化を記録することを表す。
【0069】
「バイオチップ」とは、吸着物質が結合した一般的に平面の表目を有する固相基質を表す。しばしば、バイオチップの表面には、複数のアドレス可能な(addressable locations)位置が含まれ、それらの位置の各々はそこに結合する吸着物質を有している。バイオチップはプローブインターフェイスに携わるように適合されることができ、それ故プローブとして機能する。
【0070】
「プロテインバイオチップ」とは、ポリペプチドを捕獲するのに適したバイオチップを表す。多くのプロテインバイオチップは当該技術分野で公知である。それらには例えば、サイファージェン バイオシステムズ(フレモント、CA)、パッカード バイオサイエンス カンパニー(メリデン、CT)、ジオミックス(ヘイワード、CA)、フィロス(レキシントン、MA)が含まれる。それらのプロテインバイオチップの例は、以下の特許又は特許出願に開示されている。米国特許第6225047号(HutchensおよびYip、「異なる地図を産生するためのリテンテートクロマトグラフィーの使用」、2001年5月1日)、国際公開第99/51773号(Kuimelis及びWagner、「アドレス可能蛋白質アレイ」、1999年10月14日)、米国特許第6329209号(Wagnerら、「蛋白質捕獲試薬のアレイとその使用方法」、2001年12月11日)及び国際公開第00/56934号(Englertら、「継続的な多孔性マトリックスアレイ」、2000年9月28日)。
【0071】
サイファージェン バイオシステムズで製造されたプロテインバイオチップは、アドレス可能な位置に結合された、クロマトグラフ吸着又は生物特異的吸着物質を含んでいる。サイファージェン プロテインチップ(登録商標)アレイには、NP20、H4、H50、SAX−2、WCX−2、CM−10、IMAC−3、IMAC−30、LASX−30、LWCX−30、IMAC−40、PS−10、PS−20、PG−20が含まれる。これらの蛋白質バイオチップには、ストリップ形態でアルミニウム基質が含まれている。ストリップの表面はシリコンジオキサイドで覆われている。
【0072】
NP−20バイオチップの場合には、シリコンオキサイドは親水性蛋白質を捕獲するための親水性吸着物質として機能する。
【0073】
H4、H50、SAX−2、WCX−2、CM−10、IMAC−3、IMAC−30、PS−10、PS−20バイオチップは更に、バイオチップの表面に物理的に結合した、又はバイオチップの表面にシランを通じて共有結合したヒドロゲルの形態で機能的にされた、クロスリンクされたポリマーを含む。H4バイオチップは疎水性結合のためにイソプロピル官能基を有している。H50バイオチップは、疎水性結合のためにノニルフェノキシポリ(エチレングリコール)メタクリレイトを有している。SAX−2バイオチップはアニオン交換のために四級アンモニウム官能基を有している。WCX−2及びCM−10バイオチップは、カチオン交換のためのカルボキシレート官能基を有している。IMAC−3およびIMAC−30バイオチップは、キレートによりCu++やNi++のような遷移金属イオンを吸着するニトリロ酢酸官能基を有している。これらの固定化された金属イオンは、結合を調整することでペプチドおよび蛋白質を吸着させる。PS−10バイオチップは蛋白質上の基と共有結合へと反応できるカルボイミディゾール官能基を有している。PS−20バイオチップは蛋白質と共有結合するためのエポキシド官能基を有している。PS種のバイオチップは、抗体、受容体、レクチン、ヘパリン、プロテインA、ビオチン/ストレプトアビジン等のような生物特異的吸着物質を、サンプル由来の分析物質を特異的に捕獲するように機能するようなチップ表面に結合させるのに有用である。PG−20バイオチップは、プロテインGが結合したPS−20チップである。LSAX−30(アニオン交換)、LWCX−30(カチオン交換)、IMAC−40(金属キレート)バイオチップは表面上で機能的にされたラテックスビーズを有している。そのようなバイオチップは更に、WO00/66265(Richら、「ガス相イオンスペクトロメーターのためのプローブ」、2000年11月9日)、WO00/67293(Beecherら、「ガス相マススペクトロメーターのための疎水性被覆を有するサンプルホルダー」、2000年11月9日)、米国特許出願US20030032043A1(Pohl及びPapanu「ラテックスビーズの吸着チップ」、2002年7月16日)、米国特許出願60/350110(Umら、「疎水性表面チップ」、2001年11月8日)に記載されている。
【0074】
バイオチップ上に捕獲されて、分析物は、例えばガス相イオンスペクトロメトリー法、光学的手法、電気化学的手法、原子間力顕微鏡法及び高周波法から選択される、様々な検出方法により、検出することができる。ガス相イオンスペクトロメトリー法は本明細書に記載されている。特に興味深いのは、マススペクトロメトリー、特にSELDIの使用である。光学的手法には、例えば、蛍光、発光、化学発光、吸光度、反射、透過率、複屈折、又は屈折率(例えば表面プラズモン共鳴、偏光解析法、反響鏡手法、格子連結ウェーブガイド手法又は干渉)が含まれる。光学的手法には、顕微鏡(共焦点並びに非共焦点)、イメージング手法及び非イメージング手法が含まれる。様々な形態(例えばELISA)におけるイムノアッセイは、固相上に捕獲された分析物を検出するのに汎用される方法である。電気化学的手法には、ボルト及びアンペア手法が含まれる。高周波法には、多極共鳴分光学が含まれる。
【0075】
「測定」という用語は、サンプル内のマーカーの有無を検出、サンプル内のマーカーの定量及び/又はバイオマーカーのタイプを認定する方法を含む。測定は、当該技術分野公知の方法及び本明細書に記載の方法により達成できる。その方法にはSELDIやイムノアッセイが含まれるが、これらに限定されるものではない。本明細書に記載のマーカーの一つ又はそれ以上の検出及び測定には、適した方法であれば如何なる方法も使用することができる。これらの方法には、マススペクトロメトリー(例えばレーザー脱離/イオン化マススペクトロメトリー)、蛍光(例えばサンドイッチイムノアッセイ)、表面プラズモン共鳴、偏光解析法及び原子間力顕微鏡法が含まれるがこれらに限定されるものではない。
【0076】
「差別化されて存在する(differentially present)」という表現は、がん患者から採取されたサンプルに於けるマーカーの発現量及び/又は頻度の違いを、対照である対象生物と比較して言及するものである。例えばIAIH4断片は、対照の対象生物由来のサンプルと比べて、卵巣がん患者のサンプルに於いて上昇したレベルで存在する。一方、ApoA1及び本明細書に開示されているトランスサイレチンは、対照となる対象生物由来のサンプルと比較して、卵巣がん患者のサンプルに於いて減少したレベルで発現している。更にマーカーは、対照となる対象生物由来のサンプルと比較して、がん患者のサンプルに於いてより高頻度又はより低頻度に検出されるポリペプチドであってもよい。マーカーは量、頻度又はその両方に於いて差別化されて存在することができる。
【0077】
あるサンプルにおけるポリペプチドの量が、他のサンプルに於けるポリペプチドの量よりも、統計学的に顕著に異なる場合には、二つのサンプルの間では、ポリペプチドが異なって発現している。例えば他のサンプルよりも少なくとも約120%、少なくとも約130%、少なくとも約150%、少なくとも約180%、少なくとも約200%、少なくとも約300%、少なくとも約500%、少なくとも約700%、少なくとも約900%、若しくは少なくとも約1000%高く発現している、又は一つのサンプルで検出され、他のサンプルでは検出されない場合には、二つのサンプルに於いてポリペプチドは異なって発現している。
【0078】
一方又は加えて、卵巣がん患者のサンプルに於けるポリペプチドの検出頻度が、対照サンプルに於けるよりも統計学的に非常に高いか又は低い場合には、二つのサンプルセットの間に於いてポリペプチドは異なって発現している。例えば他のサンプルよりも少なくとも約120%、少なくとも約130%、少なくとも約150%、少なくとも約180%、少なくとも約200%、少なくとも約300%、少なくとも約500%、少なくとも約700%、少なくとも約900%、若しくは少なくとも約1000%より高い頻度又は低い頻度で他のサンプルセットに比べてあるサンプルセットに於いて観測される場合には、二つのサンプルに於いてポリペプチドは異なって発現している。
【0079】
「診断」とは、病理学的状態即ち卵巣がんの存在又は性質を同定することを意味する。診断方法は、その感度及び特異度により異なる。診断アッセイの「感度」とは、試験の結果が陽性(「真に陽性」のパーセンテージ)の罹患者のパーセンテージである。アッセイで検出されない罹患者は、「偽陰性」である。診断アッセイの「特異度」は、1から偽陽性率を引いたものであり、「偽陽性」率は陽性の疾患を有さないヒトの比率として定義される。特有の診断手法は状況の決定的な診断を提供しないかもしれないが、診断において助けとなる陽性の指標を提供する方法であれば、有用である。
【0080】
マーカーの「試験量」とは、試験されるサンプルに存在するマーカーの量を表す。試験量は絶対量(例えばμg/ml)又は相対量(例えばシグナルの相対強度)であることができる。
【0081】
マーカーの「診断量」は、卵巣がんの診断と一致する対象生物のサンプルに於けるマーカーの量をあらわす。診断量は絶対量(例えばμg/ml)又は相対量(例えばシグナルの相対強度)であることができる。
【0082】
マーカーの「対照量」は、マーカーの試験量に対して比較される量又は量の幅であることができる。例えばマーカーの対照量は卵巣がんでないヒトに於けるマーカーの量であることができる。対照量は絶対量(例えばμg/ml)又は相対量(例えばシグナルの相対強度)であることができる。
【0083】
「抗体」とは、イムノグロブリン遺伝子或いは複数のイムノグロブリン遺伝子により実質的にコードされるポリペプチドリガンド、又はその断片を表し、エピトープ(例えば抗原)に特異的に結合して認識するものである。認識されるイムノグロブリン遺伝子は、κならびにλ定常領域遺伝子、α、γ、δ、ε、μ重鎖定常領域遺伝子及びミリアードイムノグロブリン可変領域遺伝子を含む。抗体は例えば、完全なイムノグロブリン又は様々なペプチダーゼにより消化されて産生された多くのよく特徴づけられた断片として存在する。これには例えばFab‘およびF(ab)’2断片が含まれる。本明細書で用いる「抗体」という用語はまた、抗体全体の修飾により又は組換えDNAメソドロジー技術を使用してデノボ合成された抗体断片を含む。また、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、化学抗体、ヒト化抗体、又は一本鎖抗体も含まれる。抗体の「Fc」部分は、一つ又はそれ以上の重鎖定常領域ドメインであるCH1、CH2およびCH3を含むが、重鎖可変領域を含まないイムノグロブリン重鎖の部分を表す。
【0084】
「対象生物の治療又は処置管理」とは、卵巣がんの状態を決定した後の医者の行動を表す。例えばもし本発明の方法の結果が決定的でなく、又は、状態を確かめる必要性がある場合には、医者は更なる試験を指示するであろう。また、卵巣がんの状態が、手術が適切であることを示している場合には、医者は患者の手術を予定するだろう。同様に、例えば後期卵巣がんのように否定的な状態である場合、又は症状が急性(acute)である場合には、更なる手段はとられないであろう。更に、もし結果が治療又は処置管理の成功を示すものであれば、更なる治療又は処置管理は必要ない。
【0085】
(発明の詳細な説明)
本発明は、プロテインチップ(登録商標)バイオマーカーシステム(サイファージェンバイオシステムズ、インコーポレイテッド、フレモント、CA)を使用して、卵巣がんと診断された患者及び公知の腫瘍疾患に罹患していない患者由来の蛋白質プロファイルの比較から産生されたバイオマーカーを提供する。これらのバイオマーカーは、その他の公知の卵巣がんマーカーと共に、個々のおよび多変量予測モデルに於いて評価された。特にこれらのバイオマーカーは個々で又は好ましくはこのグループ由来の他のバイオマーカー又は他の診断試験と組み合わせて、対象生物に於ける卵巣がん状態を測定する(determining)新規な方法を提供する。
【0086】
有効なバイオインフォマティックス手段と組み合わせた蛋白質のハイスループットなプロファイリングは、がんマーカーをスクリーニングするための有用な手段を提供する。要するに、本発明で使用されるシステムは、SELDI(表面活性化レーザー脱離/イオン化)を使用してサンプルをアッセイするために、クロマトグラフィープロテインチップ(登録商標)アレイを使用する。アレイに結合した蛋白質をプロテインチップ(登録商標)リーダー、飛行時間型質量分析計に読み込む。
【0087】
バイオマーカー(本明細書で「マーカー」とも称される)とは、ある症状の表現型(例えば、病気に罹患している)の対象生物から得たサンプルに、別の症状の表現型(例えば、病気に罹患していない)に較べて、差別化されて存在する有機生体分子である。その異なる群において、バイオマーカーの発現レベルの平均値又は中央値が統計的に有意であると計算される場合、バイオマーカーは異なる症状の表現型に於いては差別化されて存在する。統計的有意性に関する通常の試験には、数ある中で、t検定、算術平均(ANOVA)、クラスカル・ワリス検定(Kruskal−Wallis)、ウィルコクソン検定(Wilcoxon)、マン・ホイットニー検定(Mann−Whitney)及びオッズ比(odds ratio)が含まれる。バイオマーカーは、単独で又は組み合わせて、生物対象が一方の表現型に属しているのか、又はもう一方の表現型に属しているかの相対リスクの測定を提供する。従って、バイオマーカーは、疾病(診断)、治療又は処置における薬の有効性(テラノスティック)及び薬物の毒性のマーカーとして有用である。
【0088】
本発明は、卵巣がん患者と対照の対象生物のサンプルに差別化されて存在する蛋白質マーカー、並びにこの発見を卵巣がんの状態を決定するための方法及びキットに適用することに基づくものである。これらの蛋白質マーカーは、卵巣がん患者由来のサンプルに於いてヒトのがんが検出されない女性由来のサンプルに於けるレベルとは異なるレベルで見出される。従って、対照と比較して試験サンプルにおいて見出された一つ又はそれ以上のマーカーの量、又は、試験サンプルにおける一つ又はそれ以上のマーカーの有無は、患者の卵巣がんの症状に関する有用な情報を提供する。
【0089】
I.バイオマーカーに関する記載
A.アポリポプロテインA1
本発明の方法において有用なマーカーの一例は、アポリポプロテインA1であり、これは本明細書では「ApoA1」と表される。ApoA1はm/z28043(マーカーXXIV)のピークとして、マススペクトロメトリーで検出される。本明細書に開示されるマーカーの分子量は、開示されるSELDIマススペクトロスコピー手順により測定される特定値に対して0.15%以内の正確性であると考えられている。従って、ApoA1はm/z28055のピークとしても検出されるものである。
【0090】
ApoA1は手順に従って血液を分画化し、IMACチップへ適用した後、SELDIにより検出して見出した。精製した蛋白質はトリプシンで消化し、アポリポプロテインA1と同定した。ApoA1の単離及び同定のための手順は、以下の実施例に開示されている。ApoA1は卵巣がん患者に於いてある病期(stage)ではダウンレギュレートされている。従って、ApoA1の欠如や、健常な対照との比較に於いてApoA1量の統計学的に有意な減少は、卵巣がんの症状と関連性があると言える。統計学的に有意な減少とは、例えばp値が0.05よりも低いものであり、当該技術分野では公知である。
【0091】
本発明の好ましい方法は、修飾されたApoA1の使用を含む。ApoA1の修飾は、翻訳後の様々な化学基の追加、例えば、グルコシル化、脂質化、システイン化及びグルタチオン化、を含んでいてもよい。
【0092】
修飾されたApoA1の特に好ましい例は、m/z29977.4(マーカーXXV)のピークである。この修飾されたApoA1のピークは上述のApoA1の質量分析(MS)のピークの肩部として現れる。他の好ましい修飾されたApoA1の形態は、m/z28262、28473、28692、28844及び29031のピークである。図15及び16は、修飾されたApoA1バイオマーカーのピーク位置を示す質量スペクトルを表す。
【0093】
B.トランスサイレチン
本発明の方法において有用なマーカーの他の例には、プレアルブミンの形態であり、本明細書で「トランスサイレチンΔN10」と表されるものが含まれる。トランスサイレチンΔN10はm/z12870.9のピークとして、マススペクトロメトリーで検出される。トランスサイレチンΔN10は手順に従って血液を分画化し、IMACチップへ適用後のSELDIによる検出で、見出された。免疫沈降およびタンデムマススペクトロメトリーにより、精製された蛋白質はN末端の10個のアミノ酸を欠如するプレアルブミンの切断された形態(本明細書では「トランスサイレチンΔN10」と表される)であることが見出された。トランスサイレチンΔN10の単離及び同定のための手順は、以下の実施例に開示されている。トランスサイレチンΔN10もまたある病期(stage)の卵巣がん患者に於いてはダウンレギュレートされている。よってトランスサイレチンΔN10の欠如又は正常な対照と比較したトランスサイレチンΔN10量に於ける統計学的に有意な減少は、卵巣がん状態と関連があるだろう。
【0094】
本発明はトランスサイレチンΔN10を使用するものとして本明細書に記載されている。しかしながら未変性のトランスサイレチン(理論上の質量が13,761又は13,767ダルトン)もまた、本発明の方法には有用である。本発明の好ましい方法は、更に、修飾された形態のトランスサイレチンの使用を含む。トランスサイレチンの修飾は翻訳後の様々な化学基の追加、例えばグリコシル化、脂質化、システイン化、スルホン化、CysGlyでの修飾及びグルタチオン化を含んでいてもよい。
【0095】
修飾されたトランスサイレチンの特に好ましい例は、システイン化されたトランスサイレチンである(m/z 13,890.8又は13888ダルトンのピーク。)図8はトランスサイレチンのシステイン化である還元及びアルキル化の後のピークパターンの変化を表す。別の修飾されたトランスサイレチンの好ましい例は、グルタチオン化されたトランスサイレチンである(m/z 14,086.9又は14,093ダルトンのピーク。)また別の修飾されたトランスサイレチンの好ましい例は、スルホン化されたトランスサイレチンである(m/z 13,850ダルトンのピーク。)更に、別の修飾されたトランスサイレチンの例は、CysGlyで修飾されたトランスサイレチンである(m/z 13,944ダルトンのピーク。)
【0096】
図6は、切断された(トランスサイレチンΔN10)、未修飾の、システイン化された、及びグルタチオン化されたトランスサイレチンの相対的なサイズを表す。図7に表されるように、他のがん及びがんに罹患していない対照と比較したとき、切断されたトランスサイレチンの(トランスサイレチンΔN10)、未修飾の(未変性の)トランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン及びグルタチオン化されたトランスサイレチンの全てが卵巣がんの患者に於いて、より低くなっている(p値<0.001)。
【0097】
C.IAIH4断片
本発明の方法に於いて有用なマーカーのその他の例は、インターαトリプシン阻害剤重鎖H4の開裂した断片であり、本明細書では選択的に「IAIH4断片」、「ITIH4断片」及び/又はPK−120断片と表されるものである。好ましい態様では、IAIH4断片はIAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3からなる群より選択される。更に好ましい態様では、一般的な「IAIH4断片」という用語は、IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3の何れをも含む。
【0098】
IAIH4断片1はm/z3272ピークとして、マススペクトロメトリーで検出される。IAIH4断片1は手順に従って血液を分画化し、IMACチップへ適用後のSELDIによる検出で、見出された。ピークは一連のクロマトグラフィー分離技術を使用して、卵巣がんの集められた血清から精製された。その配列はMNFRPGVLSSRQLGLPGPPDVPDHAAYHPF(配列番号1)と決定され、ヒトインターαトリプシン阻害剤、重鎖H4(IAIH4、ITIH4又はPK−120としても表される)の660−689アミノ酸断片であった。この結果はマーカーのペプシン消化産物の分析により確認された。IAIH4断片1はある病期(stage)の卵巣がん患者に於いてはアップレギュレートされている。よってIAIH4断片1の存在又は正常な対照と比較したIAIH4断片1量に於ける統計学的に有意な増加は、卵巣がん状態と関連があるだろう。
【0099】
IAIH4に対して抗体を使用するSELDIイムノアッセイを、卵巣がんのあるステージに於いてアップレギュレートされる他のIAIH4断片の同定に使用した。そのようないくつかの断片が同定され、それらのうち2つが卵巣がんと卵巣がん以外のがんに於いて統計的に有意な差を示した(図5参照)。IAIH4断片2の配列はFRPGVLSSRQLGLPGPPDVPDHAAYHPF(配列番号2)と決定され、それは最初の2つのアミノ酸残基除いたIAIH4断片1の全てのアミノ酸を含む。IAIH4断片2は、m/z3,031ピークとしてマススペクトメトリーで検出される。IAIH4断片3の配列はRPGVLSSRQLGLPGPPDVPDHAAYHPF(配列番号3)と決定され、それは最初の3つのアミノ酸残基除いたIAIH4断片1の全てのアミノ酸を含む。IAIH4断片3はm/z2,884ピークとしてマススペクトロメトリーで検出される。IAIH4断片1と同様に、IAIH4断片1及び2も、ある特定の病期(stage)の卵巣がん患者に於いてアップレギュレートしている。従って、IAIH4断片1及び2の存在、又はIAIH4断片1及び2の量が健康な(normal)対照と較べて増加していることは、卵巣がんの症状と関連性がある。
【0100】
更に、本発明の好ましい方法は修飾された形態のIAIH4断片の使用を含む。IAIH4断片の修飾は翻訳後の様々な化学基の追加、例えばグリコシル化、脂質化、システイン化及びグルタチオン化を含んでいてもよい。
【0101】
E.見出されたその他の卵巣がんマーカー
卵巣がんの状態と関連性を有する更なるバイオマーカーが、pH4及びpH9で溶出された分画に於いて同定された。pH4では、これらのバイオマーカーに対応する蛋白質又はその断片が、SELDI(表面活性化レーザー脱離/イオン化)プロテインチップ/マススペクトルに、以下に示される値を中心とする分子量の強度ピークとして現れた。
【0102】
【0103】
【0104】
pH9では、これらのバイオマーカーに対応する蛋白質又はその断片が、SELDI(表面活性化レーザー脱離/イオン化)プロテインチップ/マススペクトルに、以下に示される値を中心とする分子量の強度ピークとして現れた。
【0105】
【0106】
マーカーI〜XLVIIIのこれらの質量は、開示されたSELDIマススペクトロスコピーで測定された特定値に対して0.15%以内の正確性であると考えられる。
【0107】
上述したように、マーカーI〜XLVIIIはまた、吸着物への親和性、とりわけ以下に示される実施例の一般的な解説のプロテインチップ分析に特定される条件下で固定化されたキレート(IMAC)−銅基質の表面への結合、に基づいて特徴付けられる。
【0108】
E.公知の卵巣がんマーカー
本発明のある態様はまた、ApoA1、トランスサイレチンΔN10、IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3から選択される一つ又はそれ以上のマーカーと組み合わせて、公知の卵巣がんバイオマーカーを使用するものである。「マーカー4」という用語は、本明細書では公知の卵巣がんマーカーを表すのに使用される。マーカー4として有用なマーカーの例には、CA125、CA125II、CA15−3、CA19−9、CA72−4、CA195、TATI、CEA、PLAP、シアリルTN、ガラクトシルトランスフェラーゼ、M−CSF、CSF−1、LPA、p110EGFR、組織カリクレイン、プロスタシン、HE4、CKB、LASA、HER−2/neu、尿ゴナドトロピンペプチド、ダイアノンNB70/K、TPA、オステオポンチン、ハプトグロビン、ビクニン及びMUC1並びにそれらの蛋白質の変異体(例えば開裂体やアイソフォーム等)であるバイオマーカーが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0109】
これらのマーカーは、その血中レベルを健常者と比較することにより、卵巣がんを診断するのに有用である。例えばCA125は、卵巣がんの女性の血中で上昇していることが知られている。同様に、CA19−9、CA72.4、CA195、TATI、インヒビン、PLAP及びその他は、卵巣がんの女性の血中で上昇していることが知られている。本発明のある特定の好ましい態様では、ApoA1、トランスサイレチンΔN10、IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3から選択されるマーカーの少なくとも一つと共に、少なくとも一つの公知のマーカー(マーカー4)が本発明の方法に含まれる。
【0110】
F.修飾された形態のバイオマーカーの使用
サンプル中に、検出可能な質量差によって特徴付けられる複数の異なる形態で頻繁に存在する蛋白質が発見されている。これらの形態は、翻訳前及び翻訳後の修飾の何れか一方、若しくは両方の結果として起こり得る。翻訳前の修飾による形態には対立遺伝子多型、スライス多型(slice variants)及びRNA編集型を含む。翻訳後の修飾による形態には、切断された、蛋白質分解による分裂(例、親蛋白質の断片)、グリコシル化、脂質化、システイン化、グルタチオン化、リン酸化反応、プレニル化、アシル化、アセチル化、メチル化、硫酸化、スルホン化、水酸化、ミリストイル化 、ファルネシル化 、酸化及びユビキチン化を含む。特定の蛋白質及びその蛋白質の修飾された全ての形態を含む集合を本明細書では「蛋白質群」とする。特定の蛋白質の全ての修飾された形態から成り、その特定の蛋白質自体を除いた集合を、本明細書では「修飾された蛋白質群」とする。本発明の何れのバイオマーカーの修飾された形態もまた、それ自体がバイオマーカーとして使用されてもよい。特定のケースでは、診断に於いて、修飾された形態の方が本明細書で説明される特定の形態のものよりも優れた識別力を示すかもしれない。
【0111】
バイオマーカーの修飾された形態は、最初は、修飾されたバイオマーカーを検出し区別することができるいずれの手法によっても検出できる。初期の検出の好ましい方法には、最初にバイオマーカーとその修飾された形態を、例えば生体特異性捕獲試薬で、捕獲し、続いて捕獲された蛋白質をマススペクトロメトリーにより検出する方法がある。より具体的には、蛋白質を、バイオマーカー及びその修飾された形態を認識する抗体、アプタマー又はアフィボディ(Affibodies)のような生体特異性捕獲試薬を使用して捕獲する。本発明の方法はまた、蛋白質インタラクター(protein interactor)の捕獲に帰着するものであるが、蛋白質インタラクターとは蛋白質と結合するか、又は抗体により認識され、それら自体がバイオマーカーとなり得るものである。好ましくは、生体特異性捕獲試薬は固相に結合する。次に、捕獲された蛋白質を、SELDIマススペクトロメトリーにより検出する。又は、捕獲試薬から蛋白質を溶出させて伝統的なMALDI若しくはSELDIで検出する。マススペクトロメトリーの使用は、修飾された蛋白質を、標識化を要することなく、質量に基づいて識別、定量化できるので特に魅力的である。
【0112】
好ましくは、生体特異性捕獲試薬はビーズ、平板、膜又はチップ(小片)のような固相と結合する。抗体のような生体分子の固相への結合方法は当該技術分野で周知である。これらの方法は、例えば、二機能性の(bifunctional)連結剤を採用するか、又は固相を、エポキシド又はイミジゾールのような反応基で、分子に接触すると直ぐに結合するように誘導体化(derivatized)することができる。異なる標的蛋白質に対する生体特異的な捕獲試薬は、同一の場所にて混合できる、又はそれらは異なる物理的な位置若しくはアドレス可能な位置で固相に結合することができる。例えば、複数のカラムに被覆ビーズ(derivatized beads)を積載し、各々のカラムで単一の蛋白質群を捕獲できる。或いは、様々な蛋白質群に対する捕獲試薬で誘導体化した異なるビーズをカラムに詰め、それにより全ての検体を一カ所に捕獲する。従って、ルミネックス(オースティン、TX)のxMAP技術のような、抗体誘導体化ビーズの技術(antibody-derivatized bead-based technologies)を蛋白質群の検出に使用することができる。しかしながら、生体特異性の捕獲試薬は、識別目的で、蛋白質群の個々のメンバーを特異的に指向する必要性がある。
【0113】
また別の態様に於いては、バイオチップの表面の同じ場所又はアドレス可能な物理的に異なる場所を、蛋白質群の捕獲試薬で誘導体化することができる。異なる蛋白質群をアドレス可能な異なる場所で捕獲することの利点の一つは、分析がよりシンプルになることである。
【0114】
修飾された形態の蛋白質と目的の臨床指標との相互関係が特定されれば、修飾された形態は本発明の何れの方法に於いてもバイオマーカーとして使用できる。この点に於いて、修飾された形態は、親和性捕獲の後にマススペクトロメトリーによる方法、又は修飾された形態を特異的に指向する伝統的なイムノアッセイを含む、何れの特異的な検出方法によっても検出可能である。イムノアッセイは、検体を捕獲する抗体のような生体特異性捕獲試薬を必要とする。更に、アッセイが蛋白質とその修飾された形態を特異的に識別するように設計される必要性があれば、例えば、サンドイッチ法を用いれば可能となる。サンドイッチ法は、一つの抗体が複数の形態を捕獲し、第二の、明確に標識(labeled)された抗体が、様々な形態に特異的に結合して、明確な検出を提供する。抗体は動物に生体分子で免疫性を与えることにより産生できる。本発明は、他の酵素免疫測定法に加えて、伝統的なイムノアッセイ、例えばELISA及び蛍光ベースのイムノアッセイを含むサンドイッチイムノアッセイを意図する。
【0115】
II試験サンプル
A)対象生物(subject)の型
サンプルは、例えば卵巣がんの状態の確定を望む女性などの対象患者(subject)から集める。対象患者は家系的に卵巣がんの高度の危険性が高い女性であってもよい。他の患者には、卵巣がんに罹っている女性が含まれ、試験は患者が受ける療法又は治療の効果を決定するために使用される。また、患者には、通常の試験の一部として又はバイオマーカーのベースラインレベルを確立するために試験される、健常人が含まれる。サンプルは、既に卵巣がんと診断され、軽減治療を受けてたことのある女性、又おそらくは、回復した女性から収集してもよい。
【0116】
B)サンプルの型及びサンプルの調製
マーカーは種々の異なった型の生体サンプルで測定することができる。サンプルは好ましくは体液サンプルである。有用な体液サンプルの例には、血液、血清、血漿、膣分泌、尿、涙、精液等が含まれる。マーカーは全て血清内で見出されることから、本発明の態様に於いて血清が好ましいサンプル源である。
【0117】
所望により、サンプルはマーカーの検出度を増強するように調製される。例えば、マーカーの検出度を増強するために、対象生物由来の血清サンプルは好ましくは、例えばチバクロンブルーアガロースクロマトグラフィー、一本鎖DNA親和性クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー(例えば、抗体)等により分画化される。分画法は使用される検出方法のタイプに依存する。興味ある蛋白質を豊富にする如何なる方法をも使用できる。前分画化プロトコールのような、サンプル調製は適宜行われ、使用される検出方法に依存するマーカーの検出度を増強させるために必要ではないかもしれない。例えば、マーカーに特異的に結合する抗体がサンプル内のマーカーの存在を検出するために使用される場合には、サンプル調製は不要である。
【0118】
通常、サンプル調製にはサンプルの分画化とバイオマーカーを含むことが決定された分画を収集することが含まれる。前分画化の方法には、例えばサイズ除去クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ヘパリンクロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、連続的抽出、ゲル電気泳動及び液体クロマトグライフィーが含まれる。分析物はまた検出に先立って修飾されることができる。これらの方法は更なる分析のためにサンプルを単純化するために有用である。例えば、アルブミンのような高吸光度蛋白質を、分析の前に血液から除去することは有用であろう。分画化方法の例はPCT/US03/00531に記載されているが、その全てを本明細書に取り込む。
【0119】
好ましくは、サンプルは陰イオン交換クロマトグラフィーにより前分画化される。陰イオン交換クロマトグラフィーは、その電荷の特徴にしたがっておおまかにサンプル内の蛋白質を前分画できる。例えばQ陰イオン交換樹脂が使用されることができ(例えばQハイパーD F、バイオセプラ)、サンプルは続いて異なるPHを有する溶出液により溶出されるだろう。陰イオン交換クロマトグラフィーは、他の型の生体分子から、より陰性に荷電したサンプル内の生体分子を分離する。高いpHを有する溶出液で溶出される蛋白質は、弱く陰性に荷電しているだろうし、低いpHを有する溶出液で溶出される蛋白質は、より強く陰性に荷電しているだろう。よって、サンプルの複雑性を減じることに加えて、陰イオン交換クロマトグラフィーはその結合特徴にしたがって蛋白質を分離する。
【0120】
好ましい態様では、血清サンプルは陰イオン交換クロマトグラフィーで分画化される。高い吸光度蛋白質による、より低い吸光度蛋白質のシグナル抑制は、SELDIマススペクトロメトリーに対して重要な難題を表す。サンプルの分画化は、個々の分画における構成物の複雑性を減じる。この方法はまた、ある分画へ吸光度の高い蛋白質を単離しようとし、それによってより低い吸光度の蛋白質に於けるシグナル抑制効果を減少させることができるだろう。陰イオン交換分画はその等電点(pI)により蛋白質を分離する。蛋白質はアミノ酸から作られており、それらは両極性であり、その荷電はアミノ酸がさらされる環境のpHに依存して変化する。蛋白質のpIは蛋白質がネットの荷電を有さないpHである。蛋白質は環境のpHが蛋白質のpIと等しいときに中性に荷電すると予想される。pHが蛋白質のpIより上昇すると、蛋白質はネットで陰性に荷電すると予想される。動揺に環境のpHが蛋白質のpIより加工すると、蛋白質はネットで陽性に荷電する。血清サンプルは、本明細書に記載のマーカーを得るために、以下の実施例に記載されるプロトコールにしたがって分画化された。
【0121】
陰イオン交換上での捕獲の後、蛋白質はpH9、pH7、pH5、pH4、pH3という一連の洗浄工程で溶出された。三つの潜在的なバイオマーカーのパネルは、3つの分画(pH9/流出、pH4、有機溶媒)のプロファイリングデータのUMSA分析により発見された。二つのピークはpH4分画由来のm/z12828、28043であり、両方はがんグループに於いてダウンレギュレートされており、三番目はpH9/流出分画由来のm/z3272であり、がんグループにおいてアップレギュレートされていた。固定化された金属親和性クロマトグラフィーアレイに結合したものは全て、銅イオンでチャージされた(IMAC3−Cu)。(図1のスペクトル)
【0122】
サンプル内の生体分子はまた、例えば一次元又は二次元ゲル電気泳動のような、高い分析電気泳動により分離されることができるだろう。マーカーを含む分画は、ガス相イオンスペクトロメトリーにより単離され、更に分析されることができるだろう。好ましくは、二次元ゲル電気泳動は、一つ又はそれ以上のマーカーを含む、生体分子スポットの二次元アレイを産生するために使用される。例えばJungblut及びThiede, Mass Spectr. Rev. 16: 145-162 (1997)参照。
【0123】
二次元ゲル電気泳動は、当該技術分野公知の方法を使用して行われることができる。例えばDeutscher ed., Methods In Enzymology vol.182参照。通常、サンプル内の生体分子は、例えば、サンプル内の生体分子がそのネット荷電がゼロ(すなわち等電点)になるスポットに達するまで、pH勾配で分離されるような、等電点焦点により、分離される。この最初の分離工程は、生体分子の一次元アレイを生じる。一次元アレイ内の生体分子は更に、最初の分離工程に於いて使用されるものとは一般的に異なる技術を使用して分離される。例えば、二次元に於いて、等電点焦点により分離された生体分子は更に、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS−PAGE)の存在下でノポリアクリルアミドゲル電気泳動のような、ポリアクリルアミドゲルを使用して分離される。SDS−PAGEゲルは、生体分子の分子量に基づいて更に分離させることができる。通常、二次元ゲル電気泳動は、複雑な混合物内の1000−200000ダルトンの分子量を有する化学的に異なる生体分子を分離できる。これらのゲルのpI範囲は、約3−10(広範囲ゲル)である。
【0124】
二次元アレイ内の生体分子は、当該技術分野公知の如何なる好適な技術を使用して検出してもよい。例えばゲル内の生体分子は、標識又は染色することができる(例えばクマシーブルー又は銀染色)。ゲル電気泳動が、本発明の一つ又はそれ以上のマーカーの分子量に対応するスポットを産生した場合には、そのスポットは更にガス相イオンスペクトロメトリーにより分析されることができるだろう。例えば、スポットはゲルから取り出され、ガス相イオンスペクトロメトリーにより分析されることができるだろう。または、生体分子を含むゲルは、電解液を添加することで不活性膜へ移送されることができるだろう。それから、マーカーの分子量におおよそ対応する膜上のスポットはガス相イオンスペクトロメトリーにより分析されることができるだろう。ガス相イオンスペクトロメトリーでは、スポットは、本明細書に記載のMALDI又はSELDI(例えばプロテインチップアレイを使用して)のようないかなる適した技術をも使用して分析されることができる。
【0125】
ガスイオンスペクトロメトリー分析に先立って、プロテアーゼ(例えばトリプシン)のような解裂試薬を使用して、スポット内の生体分子をより小さい断片に解裂させることが望ましいだろう。生体分子の小さい断片への消化は、スポット内の生体分子のマスフィンガープリントを提供し、よって所望によりマーカーを同定するために使用されることができるだろう。
【0126】
高パフォーマンス液体クロマトグラフィー(HPLC)はまた、極性、電解及び大きさのような、異なる物理的な性質に基づいて、サンプル内の生体分子の混合物を分離するために使用することができるだろう。HPLC装置は通常、可動性相の貯蔵、ポンプ、インジェクター、分離カラム及び検出器からなる。サンプル内の生体分子は、サンプル溶液をカラムへ注入することで分離される。混合物内の異なる生体分子が、可動性液相と静止相の間におけるそれらの群分離様式の相違に依存して、異なる速度でカラムを通過する。一つ又はそれ以上のマーカーの分子量及び/又は物理的性質に対応する分画が集められることができる。分画はそれからガス相イオンスペクトロメトリーによりマーカーを検出するために分析されることができる。例えばスポットは、本明細書に記載のMALDI又はSELDI(例えばプロテインチップアレイを使用して)を使用して分析されることができる。
【0127】
適宜、マーカーは、その感度を改良するため又は同定するために、分析に先立って修飾されることができる。例えば、マーカーは分析の前に蛋白質消化を行われることができる。いかなるプロテアーゼでも使用できる。トリプシンのようなマーカーを別個の断片へと解裂させるようなプロテアーゼは、特に有用である。消化された分画から生じた断片は、マーカーのフィンガープリントとして機能し、よってその同定を間接的に可能にする。これは、問題とされるマーカーに対して困惑されるような類似の分子量を有するマーカーがある場合において、特に有用である。また、蛋白質断片化は、より小さいマーカーはマススペクトロメトリーでより容易に分析されることから、高分子量マーカーのために有用である。他の例では、生体分子は検出分析を改良するために修飾されることができる。例えば、ノイラミニダーゼは、陰イオン性吸着物質(例えばカチオン交換プロテインチップアレイ)への結合を改善するため及び、検出分析を改善するために、グリコプロテインから末端のシアル酸残基を除去するために使用されることができる。他の例では、分子マーカーに特異的に結合してそれらを区別する特有の分子量マーカーのタグを装着することで、分子マーカーは修飾されることができる。適宜、そのような修飾されたマーカーの検出の後に、マーカーの同一性は、更に蛋白質データベース(例えばSwissProt)で修飾されたマーカーの物理的及び化学的な特徴とマッチさせることで決定されることができる。
【0128】
III.マーカーの捕獲
マーカーは好ましくは、個々に開示される如何なるバイオチップ、マルチウエルマイクロタイタープレート又は樹脂のような、固体支持体に固定化された捕獲試薬により捕獲される。特に、本発明のバイオマーカーは、好ましくはSELDI蛋白質バイオチップ上に捕獲される。捕獲はクロマトグラフィーの表面又は生体特異的表面に於いて行われる。反応性表面を含むSELDI蛋白質バイオチップの如何なるものでも、本発明のバイオマーカーを捕獲及び検出するために使用されることができる。しかしながら、本発明のバイオマーカーは固定化された金属キレートによく結合する。IMAC−3及びIMAC30バイオチップは、ニトリル酢酸がキレートによりCu++やNi++のような遷移金属イオンを吸着するもので、本発明のバイオマーカーを捕獲するための好ましいSELDIバイオチップである。反応性表面を含むSELDI蛋白質バイオチップであれば、どれでも本発明のバイオマーカーの捕獲及び検出に使用できる。これらのバイオチップは生体分子を特異的に捕獲する抗体を運搬することができ、又は、イムノグロブリンに結合するプロテインA又はプロテインGのような捕獲試薬とともに運搬することができる。それから生体分子は特異的な抗体を使用して溶液内で捕獲することができ、捕獲された生体分子は捕獲試薬を通じてチップ上で単離される。
【0129】
一般的に、血清のようなバイオマーカーを含むサンプルは、バイオチップの活性表面上に結合するのに十分な時間だけ置いておく。それから結合していない分子は、リン酸緩衡生理食塩水のような適切な溶出液を使用してその表面から洗浄する。一般に溶出液がストリンジェントであればあるほど、蛋白質が洗浄後に残るためには、より強固に結合していなければならない。保持された蛋白質バイオマーカーは、適切な手段により検出することができる。
【0130】
IV.マーカーの検出と測定
例えばバイオチップ又は抗体のような基質に一旦捕獲されれば、適切な方法であればどれでも、サンプル内の一つ又はそれ以上のマーカーを測定するために使用できる。例えば、マーカーは、ガス相イオンスペクトロメトリー法、光学的手法、電気化学的手法、原子間力顕微鏡法、高周波法を含む、様々な検出方法により、検出及び/又は測定することができる。これらの方法を使用することで、一つ又はそれ以上のマーカーが検出できる。
【0131】
A)SELDI
バイオマーカーの検出及び/又は測定の一つの好ましい方法は、マススペクトロメトリー、特に、「表面活性化レーザー脱離/イオン化」又は「SELDI」を使用する。SELDIとは、分析物がプローブインターフェースを司るSELDIプローブの表面に捕獲される、脱離/イオン化ガス相イオンスペクトロメトリー(例えばマススペクトロメトリー)の方法のことである。「SELDI MS」では、ガス相イオンスペクトロメーターはマススペクトロメーターである。SELDI技術は詳しく上述されている。ApoA1、修飾された6つの形態のApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3は、それぞれm/z約28043(又は28055);m/z約29977.4,28262,28473,28692,28844,及び29031;m/z約3031;及びm/z約2884として検出される。
【0132】
B)イムノアッセイ
他の態様では、イムノアッセイがサンプル内のマーカーの検出及び分析に使用される。この方法は、(a)マーカーに特異的に結合する抗体を提供し、(b)サンプルを抗体と接触させ、(c)サンプル内でマーカーに結合した抗体の複合体の存在を検出する、ことを含む。
【0133】
イムノアッセイは、抗原(例えばマーカー)に特異的に結合するために抗体を使用するアッセイである。イムノアッセイは、抗原を単離、標的化及び/又は定量するために、特有の抗体の特異的な結合性を使用することにより特徴づけられる。蛋白質又はペプチドを表す際に、抗体に「特異的に(又は選択的に)結合する」又は「特異的に(又は選択的に)免疫反応性である」という用語は、蛋白質や他の生理物質が混在する集団において蛋白質の存在を決定できる結合反応を表す。よって、指定されたイムノアッセイ条件下では、特定の抗体はバックグラウンドの少なくとも二倍特有の蛋白質に結合し、サンプル内に存在する他の蛋白質には実質的に有意に結合しない。そのような条件下での抗体への特異的な結合は、特定の蛋白質への特異性により選択される抗体を必要とする。例えば、ラット、マウス又はヒトのような特定の種由来のマーカーに対して産生されたポリクローナル抗体が、特異的にそのマーカーに対して免疫反応性であり、マーカーのポリモルフィックな変異体やアレル体を除く他の蛋白質とは免疫反応性を有さないポリクローナル抗体のみを得るために選択されることができる。この選択は他の種由来のマーカー分子と交差反応する抗体を差し引くことにより達成されることができるだろう。
【0134】
マーカーに特異的に結合する抗体は、精製されたマーカー又はその核酸配列を使用して、当該技術分野公知の適当な方法を用いて調製できるものである。例えばColigan, Current Protocols in Immunology (1991); Harlow & Lane, Antibodies: A Laboratory Mannual (1998); Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice (2d ed. 1986); Kohler & Milstein, Nature 256: 495-497 (1975)参照。そのような技術には、ウサギ又はマウスの免疫化によりポリクローナル及びモノクローナル抗体を調製するのと同様に、ファージ又は同様のベクター内で組換え抗体ライブラリーから抗体を選択することで抗体を調製する技術を含むが、これに限定されるものではない(例えば、Huseら、Science 246: 1275-1281 (1989),Wardら、Nature 341: 544-546 (1989)参照)。通常は、特異的又は選択的反応は、バックグラウンドシグナル又はノイズの少なくとも二倍であり、より典型的にはバックグラウンドの10から100倍以上である。
【0135】
一般に、対象生物から得られたサンプルはマーカーと特異的に結合する抗体と接触させられることができる。適宜、抗体をサンプルと接触させるのに先立って、複合体の洗浄とそれに続く単理を容易にするために、抗体は固体支持体に固定化されることができる。固体支持体の例には、ガラスや、例えばマイクロタイタープレート、スティック、ビーズ又はマイクロビーズの形態のプラスチックが含まれる。抗体はまたプローブ基質や上述されたプロテインチップアレイへ装着されることができる。サンプルは好ましくは対象生物から採取された体液サンプルである。体液サンプルの例には、血液、血清、血漿、乳首アスピレート、尿、涙,精液などが含まれる。好ましい態様では、体液には血清が含まれる。サンプルは抗体に接触させる前に,適切な溶出液で希釈される。
【0136】
サンプルを抗体とインキュベートした後、混合物は洗浄され、抗体マーカー複合体が検出される。これは洗浄された混合物を検出試薬とインキュベートすることで達成される。この検出試薬は、例えば検出可能な標識で標識された二次抗体であろう。模範的な検出可能なレベルには、磁気ビーズ(例えばDYNABEADS(登録商標))、蛍光染料、放射性標識、酵素(例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリンホスファターゼ、並びにその他の一般的にELISAで使用されるもの)及び、コロイド金や色のついたガラスやプラスチックビーズのような比色分析の標識が含まれる。或いは、サンプル内のマーカーは、例えば二次標識された抗体が、マーカー特異的に結合した抗体を検出するために使用されるように、非直接的な方法で及び/又は例えばマーカーの識別可能なエピトープに結合するモノクローナル抗体が混合物と同時にインキュベートされるように、競合若しくは阻害アッセイで、検出されることができるだろう。
【0137】
抗体−マーカー複合体の量又は存在を測定する方法には、例えば蛍光、発光、化学発光、吸光、反射、透過率、複屈折又は屈折率(例えば、表面プラズモン共鳴、偏光解析法、反響鏡手法、格子連結ウェーブガイド手法又は干渉))が含まれる。光学的手法には、(共焦点ならびに非共焦点)顕微鏡、イメージング手法及び、非イメージングが含まれる。電気化学的手法には、ボルト及びアンペア手法が含まれる。高周波法には、多極性共鳴分析計が含まれる。これらのアッセイを行う方法は、当該技術分野では容易に知られている。有用なアッセイには、例えば酵素免疫測定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、ウエスタンブロットアッセイ又はスロットブロットアッセイのような酵素免疫アッセイ(EIA)が含まれる。これらの方法はまた、例えばMethods in Cell Biology: Antibodies in Cell Biology, vol.37 (Asai ed. 1993); Basic and Clinical Immunology (Stites & Terr, eds., 7th ed. 1991)及びHarlow & Lane, 上述に開示されている。
【0138】
アッセイを通じて、インキュベーション及び/又は洗浄工程が、試薬のそれぞれの組み合わせ後に必要となる。インキュベーション工程は、約5秒から数時間まで異なり、好ましくは約5分から約24時間である。しかし、インキュベーション時間は、アッセイの形態、マーカー、溶液の容量、濃度などに依存するものである。10℃から40℃というような温度の幅でアッセイは行われるが、通常は室温にて行われる。
【0139】
イムノアッセイは、サンプル内のマーカーの量と同様に、サンプル内のマーカーの有無を決定するために使用できる。抗体−マーカー複合体の量は標準物質と比較することで決定される。標準物質は、例えば公知の化合物又はサンプル内に存在することが知られているその他の蛋白質であってもよい。上述したように、マーカーの試験量は、測定ユニットが対照と比較できれば、絶対量のユニットで測定される必要はない。
【0140】
サンプル内のこれらのマーカーを検出するための方法には、多くの適用がある。例えば、一つ又はそれ以上のマーカーが、ヒトのがん診断又は予後診断を助けるために測定できる。他の例では、マーカーの検出の方法は、がん治療に対する対象生物における応答をモニターするために使用される。他の例では、マーカーの検出方法は、インビボ又はインビトロでのこれらのマーカーの発現を調節する化合物のアッセイ及び同定のために使用される。好ましい例では、バイオマーカーは腫瘍進行の異なる病期(stage)を差別化するために使用されるので適切な治療又は処置と腫瘍の転移範囲を決定する上で助けとなる。
【0141】
V.データ分析
例えばマススペクトロメトリーにより、サンプルが測定され、データが産生されると、データはそれからコンピュータソフトウェアプログラムにより分析される。一般的にソフトウェアはマススペクトロメーター由来のシグナルをコンピュータで読み取り可能な形に変換するコードを含んでいる。ソフトウェアはまた、シグナルが、本発明のマーカー又は他の有用なマーカーに対応する「ピーク」を表しているか否かを決定するために、シグナル分析のためのアルゴリズムを適用するコードを含むこともできる。ソフトウェアはまた、試験サンプル由来のシグナルを「正常」及びヒトがんの典型的なシグナルの特徴と比較して、両シグナル間の適合の親密さを決定するアルゴリズムを実行するコードを含むこともできる。ソフトウェアはまた、試験サンプルが最も近く、それ故予想される診断を提供するコードを表示することを含むことができる。
【0142】
本発明の好ましい方法では、多数のバイオマーカーが測定される。多数のバイオマーカーの使用は試験の予測値を増強させ、診断、毒性学、患者層別及び患者のモニターリングにおいてより有用である。「パターン認識」と呼ばれる工程は、多数のバイオマーカーで形成されたパターンを検出して、予測される薬剤の臨床プロテオミクスの感度及び特異度を大幅に改良する。例えばSELDIを使用して得られた、臨床サンプル由来のデータに於ける些細な変化は、ある特定の蛋白質発現パターンにより、疾患の有無、がんの進行段階(stage)又は、薬剤療法に対する応答が有効か若しくはそうでないかと言った表現型の予測が可能であることを示している。
【0143】
マススペクトロメトリーでのデータの産生は、上述したようにイオン検出器によるイオンの検出で始まる。検出器をヒットするイオンは、類似シグナルをデジタル式に捕獲する高スピード時間アレイ記録装置によりデジタル化される電位を産生する。サイファージェン社のプロテインチップ(登録商標)システムは、これを達成するために、アナログからデジタルへの変換器(ADC)を採用する。ADCは規則的な時間間隔での検出器の出力を、時間依存性ビンへ増幅させる。時間の感覚は通常は1〜4ナノ秒である。更に最終的に分析される飛行時間スペクトルは、通常はサンプルに対するイオン化エネルギーのシグナルパルス由来のシグナルを示すのではなく、多数パルス由来のシグナルの合計を示すものである。これはノイズを減少させ、ダイナミックな範囲を増加させる。次いで、この飛行時間データは、データ処理に付される。サイファージェン プロテインチップ(登録商標)ソフトウェアでは、データ処理は通常TOFからM/Zへの変換、ベースラインの差し引き、高頻度ノイズフィルターリングを含む。
【0144】
TOFからM/Zへの変換には、飛行時間を質量対電荷比(M/Z)へ変換するアルゴリズムの適用が包含される。この工程において、シグナルは時間ドメインから質量ドメインへと変換される。即ち、個々の飛行時間は、質量対荷電比、M/Zへと変換される。計測は内部で又は外部で行われる。内部的な計測では、分析されるサンプルは一つ又はそれ以上の公知のM/Zを有する分析物を含む。これらの質量の分析物を表す飛行時間でのシグナルピークは、公知のM/Zへ割り当てられる。これらの割り当てられたM/Z比率に基づいて、パラメータが飛行時間をM/Zへ変換する数学的機能のために計算される。外部的な計測では、前もって行われた内部的な計測により創りだされたような、飛行時間をM/Zへ変換する機能が、内部的な計測を使用することなく飛行時間スペクトルへ適用される。
【0145】
ベースラインの差し引きは、スペクトルを乱す、人工的な再生可能な器械のオフセットを減じることで、定量データを改良する。それにはピーク幅のようなパラメータを挿入するアルゴリズムを使用してスペクトルのベースラインを計算して、マススペクトルからベースラインを差し引くことが含まれる。
【0146】
高頻度ノイズシグナルは、スムージング機能を適用することで減少される。通常のスムージング機能は、個々の時間依存的なビンに移動平均関数を適用する。改良された形態に於いては、移動平均フィルターは、フィルターバンド幅が例えばピークバンド幅など、その機能によって変化する様々な幅のデジタルフィルターであり、一般的に飛行時間の増加に伴ってより広くなっている。例えば、国際公開第00/70648号パンフレット、2000年11月23日(Gavinら、”Variable Width Digital Filter for Time-of-Flight Mass Spectrometry)参照。
【0147】
分析は一般的に、分析物由来のシグナルを表すスペクトルに於けるピークの同定を含んでいる。ピークの選択はもちろん視覚的にも行われるが、サイファージェン プロテインチップソフトウェアの一部としてピークの検出を自動化したソフトウェアが利用できる。一般的に、シグナル対ノイズの比が選択された閾値を越えるシグナルを同定してピークシグナルの中心でピークの質量を標識することにより、このソフトウェアは機能する。ある有用な適用において、多くのスペクトルは、ある選択されたマススペクトルの比率において表れる同一ピークを同定するために比較される。このソフトウェアの一つのバージョンは、様々なスペクトルで表れる全てのピークを決定された質量範囲にクラスターし、質量(M/Z)クラスターの中心点に近い全てのピークに質量(M/Z)を割り当てる。
【0148】
一つ又はそれ以上のスペクトル由来のピークデータは、例えば個々の列が特有の質量スペクトルを表し、個々のカラムが質量により決定されるスペクトルにおけるピークを表し、そして個々のセルがその特有のスペクトルでのピーク強度を含むスプレッドシートを作成することで、更に分析することができる。様々な統計的手法又はパターン認識手法がデータに適用できる。
【0149】
ある例では、サイファージェン バイオマーカーパターン(登録商標)ソフトウェアが、産生されたスペクトルに於けるパターンを検出するために使用される。データは分類モデルを使用するパターン認識工程を利用して分類される。一般的に、スペクトルは、分類アルゴリズムが検索される少なくとも二つの異なる群由来のサンプルを表すものである。例えば、病理対非病理(例えばがん対がんでない)、薬剤応答対薬剤非応答、毒性応答対毒性非応答、疾患状態の進行対疾患状態の非進行、表現型の状況出現対表現型の状況欠損などの群である。
【0150】
本発明の態様に於いて産生されるスペクトルは、分類モデルを使用するパターン認識工程を利用して分類することができる。ある態様では、「公知のサンプル」のようなサンプルを使用して産生されたスペクトル(例えばマススペクトル又は飛行時間スペクトル)由来のデータは、分類モデルを「トレーニング」するために使用できる。「公知のサンプル」とは前もって分類された(例えば、がん又はがんでない)サンプルである。「公知のサンプル」のようなサンプルを使用して産生されたスペクトル(例えば、マススペクトル又は飛行時間スペクトル)由来のデータは、分類モデルを「トレーニング」するために使用できる。「公知のサンプル」は前もって分類されたサンプルである。スペクトル由来で分類モデルを形成するために使用されるデータは、「トレーニングデータセット」として表される。一旦トレーニングされると、分類モデルは未知のサンプルを使用して産生されたスペクトル由来のデータにおけるパターンを認識できる。分類モデルは未知のサンプルを分類するために使用されることができる。これは、例えば特定の生体サンプルが、特定の生物学的状況(例えば病気の:病気でない)と関連しているか否かを予測する上で、有用だろう。
【0151】
分類モデルを形成するために有用なトレーニングデータセットは、生データ又は前処理データを含むだろう。ある態様では、生データは飛行時間スペクトル又はマススペクトルから得ることができ、如何なる適した様式で適宜「前処理」されるだろう。例えば、前決定されたシグナル対ノイズの比率を超えるシグナルは、スペクトル内の全てのサンプルを選択するのではなく、スペクトル内のピークのサブセットが選択するために、選択されることができる。他の例では、(例えば特有の飛行時間値又は質量対荷電比値)共通値における前もって決定されたピーク「クラスター」数が、ピークを選択するために使用できる。説明としては、与えられた質量対荷電比でのピークがマススペクトルの集団に於いて、マススペクトルの50%より低い場合には、その質量対荷電比のピークはトレーニングデータセットから除くことができる。このような前もって処理する工程は、分類モデルをトレーニングするために使用されるデータ量を減じるために使用できる。
【0152】
分類モデルは、データに存在する目的となるパラメータに基づく分類へ、データの集まりを分離することを試みる、如何なる適した統計学的分類(又は「学習」)方法を使用して行われる。分類方法は管理されてもされなくてもよい。管理された及びされていない分類工程の例は、Jain, “Statistical Pattern Recognition: A Review”, IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intelligence, Vol.22, No.1, 2000年1月に開示され、その全体は個々に参照として挿入される。
【0153】
管理された分類では、公知のカテゴリー例を含むトレーニングデータは学習機構に提示され、その機構は公知の分類の個々を決定する更なる関連性のセットを学習する。新しいデータはそれから学習機構へ適用され、それは学習された関係を利用して新しいデータを分類する。管理された分類工程の例には、線形回帰工程(例えば多線形回帰(MLR)、部分的最少スクエアー(PLS)回帰、主要構成物回帰(PCR))、双対決定階層(例えばCART−分類及び回帰階)層のような帰納的分類工程)、バックプロパゲーションネットワークのような、人工的ニューラルネットワーク、識別分析(例えばベイシアンクラシファイアー又はフィッシャー分析)、対数分類及び支持ベクター分類(指示ベクター装置)が含まれる。
【0154】
好ましい管理された分類方法は、帰納的分類工程である。帰納的分類工程は、未知のサンプル由来のスペクトルを分類するために帰納的分類階層を使用する。帰納的分類工程に関するより詳細は、米国特許公開第20020138208号(Paulseら、「マススペクトルの分析方法」、2002年9月26日)に開示されている。
【0155】
他の態様では、つくられる分類モデルは管理されない学習方法を使用して構成されるだろう。管理されない分類は、トレーニングデータが由来するスペクトルを前もって分類することなく、トレーニングデータセットに於ける類似性に基づいて分類を学習しようとする。管理されない学習方法には、クラスター分析が含まれる。クラスター分析は、互いに非常に類似しており他のクラスターのメンバーとは類似していないメンバーを理想的には有する「クラスター」又は集団に、データを分けようとする。類似性は、データアイテム間の距離を測定する距離測定基準を使用して測定され、互いにより近いデータアイテムは一緒にクラスターされる。クラスター技術はマッククイーンK−平均値アルゴリズムやコホネンセルフオーガナイジングマップアルゴリズムを含む。
【0156】
生物学的情報を分類するうえで使用されるために確立された学習アルゴリズムは、例えば、国際公開第01/31580号パンフレット(Barnhillら、”Methods and devices for identifying patterns in biological systems and methods of use thereof”, 2001年5月3日)、米国特許公開第2003/0193950号(Gavinら、”Method or analyzing mass spectra”, 2002年12月19日)、米国特許公開第2003/0004402号(Hittら、”Process for discriminating between biological states based on hidden patterns from biological data”, 2003年1月2日)、米国特許公開第2003/0055615号(Zhang及びZhang, “Systems and methods for processing biological expression data”, 2003年3月20日)に開示されている。
【0157】
より特異的に、バイオマーカーApoA1、トランスサイレチン及びIAIH4断片を得るために、がん患者と健常対照由来サンプルのピーク強度データが「発見セット」として使用された。このデータは一緒にされ、統一最大可分性分析(「USMA」)分類の非線形バージョンを使用して、様々な予期されるモデルを構築して試験するために、ランダムにトレーニングセットとテストセットへ分けられた。USMA分類の詳細は、米国特許公開第2003/0055615に開示されている。
【0158】
一般的に、上述のIVで産生されたデータは、診断アルゴリズム(すなわち、上述されたような分類アルゴリズム)へと挿入される。分類アルゴリズムは、学習アルゴリズムに基づいて産生される。その工程には分類アルゴリズムを産生できるアルゴリズムを開発することが含まれる。本発明の方法は、多くの卵巣がん及び統計学的なサンプル計算に基づく十分な数の正常サンプルを評価することで、より正確な分類アルゴリズムを産生する。サンプルは学習アルゴリズムに於けるデータのトレーニングセットとして使用される。
【0159】
分類の産生、即ち、診断、アルゴリズムは、サンプルを分析し、上述のIVで得られたデータを産生するために使用されるアッセイプロトコールに基づく。(例えば工程IVにおける)マーカーの検出及び/又は測定のプロトコールは、分類アルゴリズムを開発するために使用されるデータを得るために使用されるものと同じでなければならないことは、必須である。アッセイ条件は、サンプル調製と試験のための一般的なプロトコールと同様に、トレーニングと分類システムを通じて維持されなければならないものであり、チップタイプとマススペクトロメーターのパラメータを含む。マーカーの検出及び/又は測定のためのプロトコール(工程IV)が変わる場合には、学習アルゴリズムと分類アルゴリズムも変えなければならない。同様に、学習アルゴリズムと分類アルゴリズムが変わる場合には、マーカーの検出及び/又は測定のためのプロトコール(工程IV)もまた、分類アルゴリズムを産生するために使用されるものと一致するように変えなければならない。新しい分類モデルの開発は、十分な数のがん患者と正常サンプルの評価、新しい検出プロトコールに基づく新しいトレーニングデータセットの開発、データを使用する新しい分類アルゴリズムの産生、そして最終的に多面的な研究で分類アルゴリズムを確かめることを必要とするだろう。
【0160】
分類モデルは、如何なる適したデジタルコンピュータを使用して形成されることができる。適したデジタルコンピュータには、標準又は、操作システムに基づいて、ユニックス、ウインドウズ(登録商標)、リナックス(登録商標)のような特定の操作システムを使用する、マイクロ、ミニ又は大型コンピュータが含まれる。使用されるデジタルコンピュータは、興味あるスペクトルを産生するのに使用されるマススペクトルメーターから物理的に分離され又はマススペクトロメーターと共に使用されるであろう。マススペクトロメーターから分離される場合には、データは手動又は自動の他の手段によりコンピュータへ入力されなければならない。
【0161】
本発明のトレーニングデータセットと分類モデルは、実行されるコンピュータコードにより又はデジタルコンピュータの使用で構築されることができる。コンピュータコードは光学又は磁気ディスク、スティック、テープ等を含む、適したコンピュータで読み取り可能な媒体に保存されることができ、C、C++、ビジュアルベーシック等を含む如何なる適したコンピュータプログラミング言語によっても記載されることができる。
【0162】
VI.好ましい態様の例
好ましい態様では、血清サンプルは患者から集められ、上述したように陰イオン交換樹脂を使用して分画化される。サンプル内のバイオマーカーはIMAC銅プロテインチップアレイを使用して捕獲される。マーカーはそれからSELDIを使用して検出される。そのような試験に於いては、ApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及び/又はIAIH4断片3が検出できる。結果はコンピュータシステムへ挿入され、そのコンピュータシステムは、バイオマーカーをもともと決定するための学習アルゴリズムと分類アルゴリズムに於いて使用されたものと同じパラメータを使用するようにデザインされたアルゴリズムを含む。アルゴリズムは個々のバイオマーカーに関する受容されたデータに基づいて診断する。
【0163】
特に好ましい態様では、バイオマーカーCA125IIの量がまた、例えばイムノアッセイのような公知の方法を使用して、又は、SELDIプロテインチップアレイを使用して検出される。この態様では、マーカーCA125IIに関する結果はまた、コンピュータアルゴリズムへ挿入され、診断準備のために使用される。ApoA1、トランスサイレチンΔN10、IAIH4断片1及びCA125IIの4バイオマーカーの検出に基づく診断試験は、少なくとも約80%の特異度を有している。
【0164】
診断は、バイオマーカーを使用して開発される分類アルゴリズムと、SELDI試験から産生されたデータを調べることで、決定される。分類アルゴリズムは、バイオマーカーの検出に使用される試験プロトコールの特徴に基づく。これらの特徴には例えば、サンプル調製、チップの型、マススペクトロメーターパラメータが含まれる。試験パラメータが変わる場合には、アルゴリズムも変えなければならない。同様に、アルゴリズムが変わる場合には、試験プロトコールを変えなければならない。
【0165】
他の態様では、サンプルは患者から集められる。バイオマーカーは上述したように抗体プロテインチップアレイを使用して捕獲される。マーカーは生体特異的SELDI試験システムを用いて検出される。そのような試験では、ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及び/又はIAIH4断片3が検出できる。結果はコンピュータシステムへ挿入され、そのコンピュータシステムは、バイオマーカーをもともと決定するための学習アルゴリズムと分類アルゴリズムに於いて使用されたものと同じパラメータを使用するようにデザインされたアルゴリズムを含む。アルゴリズムは個々のバイオマーカーに関する受容されたデータに基づいて診断する。
【0166】
更に他の好ましい態様では、マーカーは非SELDI形態を使用して捕獲されて試験される。ある例では、サンプルは患者から集められる。バイオマーカーは例えばマーカーに対する抗体のように、他の公知の手段を用いて、基質上に捕獲される。マーカーは例えば光学的方法又は屈折率のような当該技術分野で公知の方法を用いて検出される。光学的方法の例には、例えばELISAのような蛍光の検出が含まれる。屈折率の例には、プラズモン共鳴が含まれる。マーカーに関する結果はそれからアルゴリズムへと供され、それは人工知能を要求しても要求しなくてもよい。アルゴリズムは個々のバイオマーカーに関して取得されたデータに基づいて診断する。
【0167】
上述した方法の何れに於いても、サンプル由来のデータは検出手段から診断アルゴリズムを含むコンピュータへ直接供給されるだろう。或いは、得られたデータは手動で又は自動手段により、診断アルゴリズムを含む分離されたコンピュータへ供給されることができる。
【0168】
VII.対象生物の診断と卵巣がんの状態の決定
個別的に如何なるバイオマーカーもが、卵巣がん状態を決定する上での助けとして有用である。まず、選択されたバイオマーカーが、例えばマススペクトロメトリーによる検出に続くSELDIバイオチップでの捕獲物のような、本明細書に記載されている方法を用いた対象生物からのサンプルに於いて測定される。それから、測定結果は卵巣がんの状態を、がんでない状態から区別する対照の診断量と比較される。診断量はがんでない状態に比較して、がん状態において特有のバイオマーカーがアップレギュレート又はダウンレギュレートされているという情報を反映するだろう。当該技術分野にてよく理解されているように、使用される特有の診断量は、診断する人の意向に基づいて、診断アッセイの感度や特異度を増強させるために調整されることができる。診断量と比較される試験量はよって、卵巣がんの状態を示す。
【0169】
個々のバイオマーカーが有用な診断マーカーであるが、バイオマーカーの組み合わせは単独マーカーよりもより高度の予測値を提供する。特に、サンプル内の複数マーカーの検出は、真に陽性及び真に陰性の割合を増加させ、偽陽性及び偽陰性の割合を低下させるだろう。よって、本発明の好ましい方法には、一つよりも多いバイオマーカーの測定が含まれる。例えば本発明の方法は、0.50より多いROC分析由来のAUC、より好ましい方法では0.60より多いAUC、更に好ましくは0.70より多いAUCを有する。特に好ましい方法は0.70より多いAUCを有し、最も好ましい方法では0.80より多いAUCを有する。
【0170】
更に、本発明の3つの好ましいバイオマーカーを、例えばCA125などのマーカー4と組み合わせて測定する方法の利用は、CA125の診断能を顕著に増加させ、0.50より多いAUC、より好ましくは、0.60より多いAUC、更に好ましくは0.70より多いAUCを有する試験を提供する。
【0171】
バイオマーカーを使用するために、対数回帰アルゴリズムが有用である。UMSAアルゴリズムが特に試験データから診断アルゴリズムを産生するのに有用である。このアルゴリズムは、Z.Zhangらの、マイクロアレイデータへの分類分析の適用に開示されている。
【0172】
学習アルゴリズムはオペレータに所望される特定の特異度及び感度を調節する多変量分類(診断)アルゴリズムを産生するだろう。分類アルゴリズムは卵巣がん状態を決定するために使用できる。その方法はまた、対象生物からのサンプル内の選択されたバイオマーカー(例えばApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2、及び/又はIAIH4断片3)を測定することを含む。これらの測定結果は分類アルゴリズムに供される。分類アルゴリズムは卵巣がん状態を示す標識スコアを産生する。
【0173】
ある態様では、マーカーの定量することなしの、単なるマーカーの有無が有用であり、卵巣がんの確からしい診断と関連させることができる。例えばIAIH4断片は、正常な対象生物よりもヒト卵巣がん患者に於いてより高頻度で検出できる。同様に例えばバイオマーカーApoA1とトランスサイレチンは、正常な対象生物よりもヒト卵巣がん患者に於いてより低頻度で検出できる。よって、試験対象生物に於いて検出されたマーカーの有無のそれぞれが、対象生物に於けるより高い卵巣がんの可能性を示す。
【0174】
他の態様では、マーカーの測定は卵巣がんの確からしい診断とマーカーの検出を関連付けるために、マーカーを定量することを含むことができる。試験される対象生物に於いて検出されるマーカーの量が対照量と比較して異なる場合には(即ち対照よりより高い又は低い、マーカーに依存する)、試験される対象生物は卵巣がんのより高い可能性を有している。
【0175】
関連性は、マーカー又は複数のマーカーの対照量(例えば、ヒトがんが検出されない正常な対象生物におけるもの)と比較した、サンプルに於けるマーカー又は複数のマーカー量(マーカー又は複数のマーカーのアップレギュレーション又はダウンレギュレーション)を考慮するものである。対照は、例えばヒトのがんが検出されない正常な対象生物の比較可能なサンプルに存在するマーカーの平均又は中間量である。対照量は、試験量の測定に於けるものと同じか又は実質的に同様の実験条件下で測定される。関連付けには、試験サンプル内のマーカーの有無と対照に於ける同マーカーの検出頻度を考慮する。関連付けに際しては、卵巣がんの状態の決定を容易にするためには、その両方の要因を考慮するものである。
【0176】
卵巣がんの状態を認定する態様では、本発明の方法は、症状に基づいた患対象生物の治療又は処置管理を更に含む。前述したように、治療又は処置管理とは、卵巣がんの状態を決定した後に医師や臨床医の対処の仕方を示すものである。例えば、本発明の方法の結果が決定的でなく、又は、状態を確認する必要性がある場合には、医師は更なる試験を命じるであろうし、或いは、もし状態が、手術が適当であることを示している場合には、医師は患者の手術を予定するだろう。また場合によっては、手術の替わりに又は手術に加えて、患者は化学療法又は放射線治療を受けることにもなる。同様に、例えばその症状が卵巣がんの後期であることを示している等、その結果が否定的な場合、又は、その症状がその他の点で急性(otherwise acute)の場合には、更なる対策は講じられないであろう。更に、その結果が治療又は処置の成功を示すものであれば、更なる管理は不要である。
【0177】
本発明はまた、バイオマーカー(又は特異的なバイオマーカーの組み合わせ)が対象生物に治療又は処置を施した後に再度測定されるような方法を提供する。これらの場合では、その方法は、例えばがん治療に対する応答、疾患の回復又は疾患の進行のような状態をモニターするために使用される。その方法を使用する容易さと、その方法の侵襲性により、その方法は患者が受ける個々の治療の後に繰り返すことができる。これは医師が一連の治療又は処置の有効性を追うことを可能にする。結果が、治療又は処置が有効でないことを示せば、一連の治療又は処置はそれに従って変更できる。これにより、医師は治療又は処置に於いて柔軟性のある選択をすることができる。
【0178】
他の例では、マーカーを検出する方法は、インビボ又はインビトロでのマーカーの発現を調節する化合物を同定するアッセイにも用いられる。
【0179】
本発明の方法は、同様に他にも適用できる。例えば、マーカーはインビボ又はインビトロでマーカーの発現を調節する化合物をスクリーニングするために使用でき、その化合物は患者に於いて卵巣がんを治療若しくは処置、又は予防するのに有用である。他の例では、マーカーは卵巣がんの治療又は処置への応答をモニターするために使用できる。更に他の例では、マーカーは、対象生物が卵巣がんを発展させる危険にあるか否かを決定するために遺伝研究において使用できる。例えば、あるマーカーは遺伝子工学的に関連している。これは、例えばその家族が卵巣がんの履歴を持つ卵巣がん患者の集団由来のサンプルを分析することにより、決定できるだろう。その結果は、例えばその家族が卵巣がんの履歴を持たない、卵巣がん患者由来のデータと比較できる。遺伝子工学的に関連のあるマーカーは、その家族が卵巣がんの履歴を持つ患者が、卵巣がんにかかりやすいか否かを決定するための手段として使用できるものである。
【0180】
本発明の追加の態様は、例えば、分析結果又は診断結果、若しくは両方を専門家、看護医又は患者へ伝えることに関連する。ある態様に於いて、分析結果又は診断結果、若しくはその両方を関心のある患者に伝えるために、例えば、医師と患者がコンピューターを利用するであろう。いくつかの態様では、検査が行われる或いは検査結果を解析する国又は管轄が、その分析結果又は診断を伝える国又は管轄と異なるであろう。
【0181】
本発明の好ましい態様に於いては、試験対象者に於ける本発明の何れかのバイオマーカーの有無に基づいた診断は、診断結果が得られると直ぐにその対象者に伝えられる。診断結果は対象者に治療又は処置を施す医師により伝えられるだろう。或いは、診断結果は対象者に電子メールにより送付されるか又は電話により伝えられるだろう。コンピューターは、電子メール又は電話により伝達する際に使用されるだろう。ある特定の態様に於いては、電気通信業界の熟練者が精通するであろうコンピューターハードウェアとソフトウェアの連携を駆使して、診断試験の結果を含んだ伝達内容が自動的に作成され、対象者に配信されるだろう。保健医療を目的とした通信システムの一例は米国出願台6283761号に説明されている、しかしながら、本発明はこの特定の通信システムの活用方法に限定されない。本発明の方法の態様において、サンプルの分析、疾病の診断及び分析結果並びに診断の伝達を含む全ての或いはいくつかの工程は多様な(例、外国の)管轄に於いて実行できるだろう。
VIII.キット
【0182】
更に他の局面では、本発明は卵巣がんの状態を認定するキットを提供し、そこではキットは本発明のマーカーを測定するために使用できる。例えば、キットは個々に開示されるマーカーの一つ又はそれ以上を測定するために使用でき、それらのマーカーは卵巣がん患者のサンプルと正常な対象生物に於いて差別化されて存在するものである。本発明のキットは様々な適用ができる。例えば、キットは、対象生物が卵巣がんを有するか陰性と診断されるかを区別するために使用でき、よって医師や臨床医が、がんの有無を診断することを可能にする。キットはまた、一連の治療又は処置に対する患者の応答をモニターするために使用でき、医師が試験結果に基づいて治療又は処置を修正することを可能にする。他の例では、キットはインビトロ又はインビボで、卵巣がんのモデル動物に於いて、一つ又はそれ以上のマーカーの発現を調節する化合物を同定するために使用できる。
【0183】
本発明はそれゆえ、(a)ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及び/又はIAIH4断片3並びにそれらの組み合わせから選択されるバイオマーカーに結合する捕獲試薬、及び(b)少なくとも一つのバイオマーカーを含む容器、を含むキットを提供する。好ましいキットでは、捕獲試薬は複数のバイオマーカーに結合する。捕獲試薬はまた、例えばCA125のような公知のバイオマーカー、マーカー4の少なくとも一つと結合するだろう。好ましい態様では、キットは更に、第一の捕獲試薬が結合しない、バイオマーカーの一つと結合する第二の捕獲試薬を含む。
【0184】
本発明で提供される更なるキットは、(a)ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及び/又はIAIH4断片3から選択される少なくとも一つのバイオマーカーを結合する第一の捕獲試薬、及び(b)第一の捕獲試薬とは結合しないバイオマーカーの少なくとも一つと結合する第二の捕獲試薬、を含むものである。好ましくは、少なくとも一つの捕獲試薬は抗体である。あるキットは更に、少なくとも一つの捕獲試薬が装着され、又は装着可能なMSプローブを含む。
【0185】
捕獲試薬は如何なる型の試薬でもよいが、好ましくは、試薬はSELDIプローブである。本発明のある態様では、捕獲試薬はIMACを含む。
【0186】
本発明はまた、(a)ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及び/又はIAIH4断片3から選択される少なくとも一つのバイオマーカーと結合する第一の捕獲試薬、及び(b)バイオマーカーを検出するための捕獲試薬を使用するための指示書、を含むキットを提供する。これらのキットのある場合には、捕獲試薬は抗体を含む。更に、前述したキットのいくつかは更に、捕獲試薬が結合する、又は結合できるMSプローブを含む。あるキットでは、捕獲試薬はIMACを含む。本明細書で同定される三つのマーカーの各々は、IMACプロテインチップ(登録商標)アレイに結合する。よって、本発明のある好ましい態様には、卵巣がんの早期検出のための高スループット試験であって、伝統的なCA−125ELISA(又はCA−125はプロテインチップ(登録商標)アレイプラットフォームに移されるされる)と同様に、三つの分析物のためのIMACプロテインチップ(登録商標)上の患者のサンプルを分析するものである。
【0187】
他の態様では、本明細書に記載のキットは、マーカーI〜XLVIIIより選択される少なくとも一つのバイオマーカーと結合する、少なくとも一つの捕獲試薬を含む。
【0188】
本発明のあるキットは更に、洗浄後に他のバイオマーカーと比較して、捕獲試薬に結合したバイオマーカーを選択的に保持する洗浄液又は溶出液を含む。或いは、キットは洗浄液を製造する指示書を含み、吸収剤と洗浄液の組み合わせで、ガス相イオンスペクトロメトリーを使用するマーカーの検出ができるようになる。
【0189】
好ましくは、キットは、試験サンプルを捕獲試薬と接触させ、捕獲試薬により保持される一つ又はそれ以上のバイオマーカーを検出することを提供するための使用説明書を含むものである。例えば、キットは血清サンプルを捕獲試薬と接触させた後に、捕獲試薬(例えばプローブ)をどのように洗浄するかを、消費者に説明する標準の使用説明書を含むものである。他の例では、キットは、サンプル内の蛋白質の複雑さを減じるためのサンプルの前分画化に関する説明書を含む。他の例では、キットは分画の自動化又は他の工程の自動化に関する説明書を含む。
【0190】
そのようなキットは好ましくは上述した物質から調製され、これらの物質(例えばプローブ基質、捕獲試薬、吸光度、洗浄液等)に関する上記考察は、このセクションにも適用できるものであるから、繰り返しの説明を省略するものである。
【0191】
他の態様では、キットはそれらの吸着物質(例えば、吸着物質を有する粒子)を含む一番目の基質と、プローブを形成するために一番目の基質がその上に位置づけされる、二番目の基質を含み、ガス相イオンスペクトロメーターへ除去可能なように挿入できるものである。他の態様では、キットは単一の基質を含み、基質上の吸光物質と除去可能に挿入できるプローブの形態である。更に他の態様では、キットは更に前分画スピンカラム(例えばチバクロンブルーアガロースカラム、抗HSAアガロースカラム、K−30サイズ除去カラム、Q陰イオン交換スピンカラム、一本鎖DNAカラム、レクチンカラム等)を含む。
【0192】
他の態様では、キットは(a)マーカーに特異的に結合する抗体と、(b)検出試薬を含む。そのようなキットは、上述した物質から調製でき、物質(例えば抗体、検出試薬、固定化支持体等)に関する上記考察はこのこのセクションにも適用できるものであるから、繰り返しの説明を省略するものである。キットは更に前分画スピンカラムを含んでいてもよい。ある態様では、キットは更に適切な作業パラメータに関する説明書をラベル又は別に挿入されたものとして、含んでいてもよい。
【0193】
更に、キットは適宜、標準又は対照の情報を含み、それにより試験サンプルを、サンプルで検出されるマーカーの試験量が、卵巣がんの診断と一致する診断量であるか否かを決定する標準的な対照の情報と比較することが可能となる。
【0194】
本発明は、はApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及び/又はIAIH4断片3から選択される少なくとも二つのバイオマーカーに結合した、少なくとも一つの捕獲試薬を含む製品を提供する。本発明の製品の例には、プロテインチップアレイ(登録商標)、プローブ、マイクロタイタープレート、ビーズ、テストチューブ、マイクロチューブ及び、捕獲試薬が挿入されることができる他の如何なる固相が含まれ、これらに限定されるものではない。本発明製品の他の態様は更に、他の公知の卵巣がんマーカー、即ちマーカー4に結合する捕獲試薬を含む。そのような製品の例では、例えばプロテインチップ(登録商標)アレイはApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3並びにマーカー4に結合する捕獲試薬を更に含むだろう。特に好ましい態様では、マーカー4はCA125である。他の例では、マイクロタイタープレートは、ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及び/又はIAIH4断片3、並びに、マーカー4に結合できる抗体を有するものである。これらはそのような製品の数例である。当業者であれば、本明細書に開示される教示に従って、容易に、その他のこのような製品を製造できるものである。
【0195】
本発明はまた、個々の試薬が、ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及び/又はIAIH4断片3から選択される、異なるバイオマーカー、及び、マーカー4のカテゴリーに適合する少なくとも一つのマーカーに結合する複数の捕獲試薬を含むシステムを提供する。そのようなシステムの例としては、ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及び/又はIAIH4断片3から選択されるバイオマーカーの一つ又はそれ以上と結合する吸着物質を含む、プロテインチップ(登録商標)アレイのセットを含み、これに限定されるものではない。このタイプのシステムでは、個々のバイオマーカーに対して一つのプロテインチップ(登録商標)アレイがあるだろう。或いは、ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及び/又はIAIH4断片3から選択される複数のマーカーに対する一つのプロテインチップ(登録商標)アレイと、CA125に対する第二のプロテインチップ(登録商標)アレイが存在するだろう。他のシステムの例には、捕獲試薬が、別個の又は集団に於ける各々のバイオマーカーに対する抗体を有する試験チューブであるものを含む。当業者は本明細書に開示される教示に従って、その他のこのようなシステムを容易に構築できるものである。
【0196】
本発明はまた、(a)カリクレインを、カリクレイン基質及び試験試薬と接触させ、(b)試験試薬がカリクレインの活性を調節するか否かを測定する、ことを含むスクリーニング試験を提供する。そのような試験の一つに於いては、基質は、インターαトリプシン阻害剤重鎖H4前駆体である。以下で考察するように、幾つかのカリクレインは、卵巣がんに於いて障害をうけることが見出されている(Diamandis 2002における総説)。よって、カリクレインの活性を測定することは、卵巣がんの指標となる。そのような方法は、試験試薬がカリクレインの活性を調節するか否かを測定する工程は、IAIH4断片1、IAIH4断片2、及び/又はIAIH4断片3の存在又は量を測定することを含むものである。上述したIAIH4断片の測定方法は、スクリーニング方法で使用することができる。
【0197】
VIII.スクリーニング検定における卵巣がんのバイオマーカーの使用
本発明の方法は、同様に他にも適用できる。例えば、マーカーはインビボ又はインビトロでマーカーの発現を調節する化合物をスクリーニングするために使用でき、その化合物は患者に於いて卵巣がんを治療若しくは処置、又は予防するのに有用である。他の例では、バイオマーカーは卵巣がんの治療又は処置への応答をモニターするために使用できる。更に他の例では、バイオマーカーは、対象生物が卵巣がんを発展させる危険にあるか否かを決定するために遺伝の研究に使用できる。
【0198】
従って、例えば、本発明のキットは、チップ上でバイオマーカーを計測し、その計測値を卵巣がんの診断に使用する手順を提供する説明書に加え、蛋白質バイオチップ(例、サイファージェン プロテインチップアレイ:Ciphergen ProteinChip array)のような疎水性作用をもつ固体基質及びその基質を洗浄する緩衝液を含む。
【0199】
治療又は処置に関する試験に適した化合物は、本明細書に特定され記載された一つ以上のバイオマーカーと相互に作用する化合物を同定することにより先ずスクリーニングすることができる。スクリーニングは、一例として、本発明のバイオマーカーを組み換え発現させ、バイオマーカーを精製し、そして基質への添加することを含むものである。次いで、試験化合物を、通常、水性の条件下で基質と接触させて、試験化合物とバイオマーカーの相互作用を、例えば、溶出率を塩の濃度関数として計測することにより測定する。特定の蛋白質が、本発明の一つ又はそれ以上のバイオマーカーを認識し、開裂するが、この場合当該蛋白質は、例えば、ゲル電気泳動のような標準の試験でバイオマーカーの消化をモニタリングすることにより検出できる。
【0200】
関連のある態様に於いて、本発明の一つ又はそれ以上のバイオマーカーの活性を阻害する試験化合物の能力を測定することが可能である。特定のバイオマーカーの活性の測定に使用される手法が、バイオマーカーの機能及び性質によって変わることは当業者には認識されているところである。例えば、バイオマーカーの酵素活性は、適切な基質が利用可能であり、基質の濃度又は反応生成物の出現が容易に判定できるのであれば、試験できるであろろう。将来、治療又は処置に応用可能な試験化合物の、特定のバイオマーカーの活性を阻害又は増強する能力は、試験化合物の存在又は非存在下に於ける触媒作用の速度を計測することによって決定できる。試験化合物が、本発明のバイオマーカーのうちの一つの非酵素的な(例えば、構造上の)機能又は活性を妨げる能力もまた測定可能である。例えば、本発明のバイオマーカーの一つを含むマルチ蛋白質複合体の自己集合は、試験化合物の存在又は非存在下でスペクトロスコピーによりモニターできる。或いは、バイオマーカーが非酵素的な転写エンハンサーであれば、試験化合物の存在又は非存在下に、インビボ又はインビトロでバイオマーカー依存性の転写のレベルを測定することにより、転写を促進するバイオマーカーの能力を妨げる試験化合物を同定することが可能である。
【0201】
本発明の何れのバイオマーカー活性をも調節可能な試験化合物を、卵巣がん又はその他のがんを患っている、又はその進行の危険性を有する患者に投与してもよい。例えば、特定のバイオマーカーの活性がインビボで卵巣がん蛋白質の蓄積を抑制すれば、特定のバイオマーカーの活性を増強させる化合物の投与により患者の卵巣がんのリスクを低下させることができる。逆に、バイオマーカーの増強した活性が、少なくとも部分的に、卵巣がん発症の原因であれば、特定のバイオマーカーの活性を低下させる試験化合物の投与は患者の卵巣がんのリスクを低下させることになる。
【0202】
更なる態様に於いて本発明は、修飾された形態のIAIH4の増加したレベルに関連する卵巣がんのような疾患の治療又は処置に有効な化合物を同定する方法を提供する。例えば、ある様態では、細胞抽出物又は発現ライブラリーをスクリーニングして、完全長のIAIH4の開裂を触媒して切断された形態のIAIH4を形成する化合物を得る。このようなスクリーニング試験のある様態では、IAIH4の開裂は、フルオロフォア(fluorophore)をIAIH4に添付することにより検出できるが、IAIH4が開裂しないときは変化せず、蛋白質が開裂すると蛍光を発する。一方で、アミノ酸xとアミノ酸yの間のアミド結合を開裂できないように修飾した完全長のIAIH4は、インビボで完全長のIAIH4をその位置で開裂させる細胞プロテアーゼを選択的に結合又は「捕獲」するために使用できる。プロテアーゼ及びそのターゲットのスクリーニング及び同定の方法は、例えば、Lopez−Ottinら(Nature Reviews,3:509−519(2002))の科学文献に十分立証されている。
【0203】
更に別の態様では、本発明は、切断されたIAIH4の増加したレベルと関連する、例えば卵巣がんのような疾患の治療若しくは処置する方法、又は疾患の可能性若しくは進行を低減させる方法を提供する。例えば、完全長IAIH4を開裂させる一つ又はそれ以上の蛋白質が同定された後で、コンビナトリアルライブラリーをスクリーニングして同定された蛋白質の開裂活性を阻害する化合物を得る。このような化合物を得るために化学ライブラリーをスクリーンする方法は、当該技術分野において周知である。例えば、Lopez−Otinら(2002)を参照されたい。また、阻害化合物はIAIH4の構造に基づいてインテリジェントに設計可能である。
【0204】
完全長のIAIH4は血漿カリクレインに結合して活性を阻害するとみられている。(Pu XP, et al., Biochem Biophys Acta 1994; 1208:338-43; Nishimura H, et al., FEBS Lett 1995; 357:207-11)。IAIH4のN末端の切断はIAIH4のプロテアーゼの阻害活性を弱めると考えられている。例えば、Abrahamsonら(Biochem.J. 273:621−626(1991))を参照されたい。完全長のIAIH4の機能性を備えたIAIH4断片を与える化合物は、そのため恐らく、切断された形態のIAIH4に関連する卵巣がんのような疾患の治療又は処置に有用であると考えられる。従って、更にある態様に於いては本発明は、IAIH4断片の標的プロテアーゼへの親和性を高める化合物を同定する方法を提供する。例えば、化合物をスクリーニングして、完全長IAIH4が有するプロテアーゼ阻害活性を備えたIAIH4断片得る。IAIH4の阻害活性又はIAIH4と相互に作用する分子の活性を調節できる試験化合物を、次いで、対象生物に於いて卵巣がんの進行を遅らせるか又は停止させる能力についてインビボで試験する。
【0205】
臨床レベルでは、試験化合物のスクリーニングは、試験化合物の投与前(曝露前)及び投与後(曝露後)にその試験対象生物からサンプルを得ることを含む。サンプル中に於ける本発明の一つ又はそれ以上のバイオマーカーのレベルを測定及び分析し、試験化合物に曝露された後のバイオマーカーのレベルの変化の有無を決定してもよい。サンプルは、本明細書に記載のようにマススペクトロメトリー、又は当業者には公知である何れかの適切な方法で分析してもよい。例えば、本発明の一つ又はそれ以上のバイオマーカーのレベルは、バイオマーカーに特異的に結合する放射性標識又は蛍光標識された抗体を使用したウエスタンブロット法により直接計測してもよい。或いは、一つ又はそれ以上のバイオマーカーをコードしているmRNAのレベルの変化を計測し、特定の試験化合物を対象生物に投与することに関連付けてもよい。更に他の態様に於いて、一つ又はそれ以上のバイオマーカーの発現のレベルの変化をインビトロでの方法及び材料を使用して計測してもよい。例えば、本発明の一つ又はそれ以上のバイオマーカーを発現している又は発現できるヒト組織培養細胞を試験化合物に接触させてもよい。試験化合物で治療又は処置されている対象生物については、当該治療又は処置由来の何れの生理学的影響についても定期的に検査する。特に、試験化合物は、対象生物に於ける疾病の可能性を減少させる能力について評価する。又は、以前に卵巣がんと診断された対象生物に試験化合物を投与する場合、試験化合物の病気の進行を抑制するか停止させるかの能力について検査する。
【0206】
IX. 分類アルゴリズム及び診断を導く方法
データセットは複合の分類アルゴリズムにより分析できる。幾つかの分類アルゴリズムは分類のための個別の規則を提供し、その他の分類アルゴリズムは特定の結果(クラス)の確率評価を提供する。後者の場合は、決定(診断)は最も高い確率のクラスに基づいてなされる。例えば、健常、良性、「がん」という、3種類(クラス)の問題を考察する。分類アルゴリズム(例、最近隣法)を構築してサンプルAに適用し、当該サンプルが健常である確率が0、良性である確率が33%、及び「がん」である確率が67%であると仮定する。このとき、サンプルAは「がん」であると診断できるであろう。この方法は、しかしながら、診断に於ける「曖昧さ」を何ら考慮していない。即ち、サンプルが良性であるという若干の可能性があり得る。従って、この診断は、健常又は良性である確率が0であり、「がん」である確率が1というサンプルBと同一となる。
【0207】
本発明者らはそれぞれのクラスに割り当てられた確率から導いた指数を構築することを提案する。この指数はコンピューター的に論理的に構築でき、当該ケースに於いて、本発明者らは3つの確率の単純な一次結合、即ち
I=0xp(対照)+1xp(良性)+2xp(悪性腫瘍)
を導き出す。
【0208】
対照である確率が1のサンプルの値は0であり、良性である確率が1のサンプルの値は1であり、「がん」である確率が1のサンプルの値は2となる。従って、この指数に基づいた臨床決定が可能となる。指数が0である人物は「がん」である危険性がない一方で指数が2である人物は「がん」の危険性が非常に高い。中間の値である人物のがんの危険性は変化し、指数の値の上昇と共に危険性が高まる。
【0209】
本発明者らは本発明の方法をメーヨー病院(Mayo clinic)からの180件の一連のサンプルに適用した。本発明者らは5種類の形態のトランスサイレチン及び一つの形態のアポリポプロテインA1の、年齢を含むものと含まないものに基づいて、最近隣法の分類アルゴリズムを導き出した。以下に示す図には、モデルに年齢が含まれない場合のクラスの関数として指数値がプロットされている。
【0210】
スコアが0の個人は、これらのマーカーに基づき、事実上卵巣がんの危険性がなく、逆に、スコア2の個人は卵巣がんの危険性が最も高い。
【0211】
以下の実施例は本発明を、限定するものではなく、説明するためのものであ。特定の例が示されているが、上述の記載は説明のためのものであり、何ら本発明を限定するものではない。前述した態様の一つ又はそれ以上の特性何れもが、本発明に於ける他の態様の一つ又はそれ以上のその他の如何なる特性と組み合わせて用いられてもよい。更に、本発明の多くの改変は、本明細書の記載するところにより、当業者には明らかなものである。それ故、本発明の範囲は上述の記載に制限されるものではく、寧ろ添付の特許請求の範囲及びそれらの均等の範囲に基づいて決定されるものである。
【0212】
本出願で引用された全ての刊行物及び特許文献は、刊行物又は特許文献の各々に於いて示されているものを同等にその全てを参照して本明細書に取り込む。出願人は、本明細書で参照された何れの文献についても、本発明の「先行技術」として認めるものではない。
【0213】
実施例
原料と方法
サンプル
プロテオミックプロファイリングデータはグローニンゲン大学病院(グローニンゲン、オランダ)、デューク大学メディカルセンター(ダーハム、NC)、ロイヤルホスピタルフォーウィメン(シドニー、オーストラリア)、MDアンダーソン癌センター(ヒューストン、TX)で集められた全部で503例の血清試料から過去にさかのぼって得たものである。卵巣がんの群は、65人のステージI/IIの浸潤性上皮卵巣がん患者、88人のステージIII/IVの浸潤性上皮卵巣がん患者、28人の境界型腫瘍の患者及び14人の再発性患者からなる。がんのケースはFIGOクライテリアに基づく病理学者により最適なステージに分けられる。ステージI/IIの浸潤性卵巣がん患者のうち、20人は重症、17人は粘液性、15人は子宮内、8人は明細胞、1人はがん肉腫及び4人は混合上皮がん腫であった。サンプルはまた、良性骨盤塊と診断された166人の患者及び142人の健常人を対照として含むものであった。年齢及びCA125レベルを含む研究集団(群)の特徴と基本的な記述統計を、表1に記す。
【0214】
患者由来の全てのサンプルは、手術、又は治療若しくは処置に先だって集められ、健康な有志由来の試料は、施設の同意で集められた。血液は凝固され、血清は直ぐに分離された。全てのサンプルは−70℃で保存され、アッセイの直前に溶解された。前患者のCA125レベルは、CA125IIラジオイムノアッセイキット(セントカー)を使用した前もった研究により入手できた。
【0215】
プロテオミクスプロファイリングのための503例の試料に加え、ジョンズホプキンスメディカルインスティチューションでの定期的な臨床実験試験のために収集された142の血清試料が、イムノアッセイ試験が可能な同定されたバイオマーカーのレベルで試験された。これらのサンプルのうち、41例は後期卵巣がん患者から、41例は健常な女性から得られた。残りの60例サンプルは、胸がん、腸がん、前立腺がんの患者それぞれ20人から得られ、同定されたバイオマーカーの腫瘍部位特異性を試験するために使用された(表3)。全てのサンプルは、収集の後2〜4時間で処理され、−70℃での凍結に先立って、最大48時間、2〜8℃で保存された。CA125IIアッセイはまた、トソーAIA−600 II分析器(トソーメディックス)での二次元イムノエンザイモメトリックアッセイを使用して行われた。
【実施例1】
【0216】
蛋白質発現プロファイリング
血清分画:血清サンプルは氷上で溶かされ、それから沈殿を除去するために20000gで10分間遠心された。血清の20μlは30μlの変異緩衝液(U9:9Mのウレア、2%のCHAPS、50mMのトリスpH9.0)と混合され、4℃で20分間撹拌された。個々のサンプルのために、180μlのハイパーQDFアニオン交換樹脂が、200μlのU1緩衝液(50mMのトリスpH9.0で1:9に希釈されたU9)で三回平衡化された。変性した血清は樹脂に添加され、30分間結合させられた。結合しない物質は集められ、それから100μlの0.1%OGPを含む50mMトリス9.0が樹脂へと添加された。この洗浄物は収集され、結合しない物質(フロースルー、分画1)とあわせられた。分画はそれからpH7,5,4,3の洗浄緩衡液と有機溶媒それぞれ100μlを二回使用する段階的pH勾配で集められた。これで、全部で6つの分画が集められた。分画はバイオメック2000自動化液体ハンドラー(ベックマン)及びマイクロミックスシェイカー(DPC)で処理された。対照の収集されたヒト血清(インタージェン)のサンプルはアッセイをモニターするために、同様に処理された。
【0217】
A.蛋白質発現プロファイルのための物質
ベックマンバイオメック2000自動化ワークステーション
QハイパーDFセラミックアニオン交換樹脂(バイオセプラ、フランス)96穴ウェル
v底マイクロプレート
96穴ロプロダイン膜フィルタープレート(サイレントスクリーン、Nalge Nunc)
平衡緩衝液−50mMのトリス塩酸pH9.0
U9−9Mのウレア、2.0%のCHAPS、50mMのトリス塩酸、pH9.0;
U1−1Mのウレア、0.22%のCHAPS、50mMトリス塩酸、pH9.0;
pH9.0緩衝液−100mMのトリス塩酸、0.1%のOGP pH9.0;
pH7.0緩衡液−100mMのHEPES、0.1%のOGP pH7.0;
pH5.0緩衝液−100mMの酢酸Na、0.1%のOGP pH5.0;
pH4.0緩衝液−100mMの酢酸Na、0.1%のOGP pH4.0;
pH3.0緩衝液−50mMのクエン酸Na,0.1%のOGP pH3.0;
有機緩衝液−33.3%のイソプロパノール/16.67%のアセトニトリル/0.5%のトリフルオロ酢酸(TFA)
【0218】
B.手順
血清変性
20μlの血清を96穴V底プレートにピペットする。血清を含む個々のウェルに30μlのU9を添加する。96穴プレートをシーリングフィルムで覆う。樹脂が平衡化される間、少なくとも20分間4℃で撹拌する。
【0219】
樹脂の平衡化
50mMのトリス塩酸 pH9.0の3ベッド(bed)容量で樹脂を5回洗浄する。これは50mLの遠心チューブで行われる。樹脂に50mMのトリス塩酸 pH9.0の当量を添加することで樹脂の50/50スラリーを調製する。180μlの50/50スラリーを96ウェルフィルタープレートの個々のウェルに添加する。樹脂の緩衝液に対する比率を一貫したものに保つために、スラリーを含む(2又は3分取毎に)チューブを定期的に撹拌する。それから緩衝液をろ過し、200μlのU1を添加し、再度ろ過する。これを同様に更に2回行う。
【0220】
サンプル適用とインキュベーション
次に血清を樹脂に結合させる。本工程の最初の段階は、フィルタープレート内の対応するウェルに50μlの個々のサンプルをピペットする。次にサンプルプレートの個々のウェルに50μlのU1を添加し、5分間混合する。それからサンプルプレートの個々のウェルから50μlをフィルタープレートの対応するウェルへピペットする。30分間4℃で撹拌する。
【0221】
次に分画を集める。フィルタープレートの下にV底96ウェルを設置する。フィルタープレートから流出物を集める。100μlの洗浄緩衝液1がフィルタープレートの個々のウェルにそれから添加される。次に室温で10分間撹拌する。分画1は流出及びpH9の溶離液を含む。次にフィルタープレートの個々のウェルに100μlの洗浄緩衝液2を添加する。室温で10分間撹拌する。フィルタープレートの下にきれいなV底プレートを設置し、プレート内に分画2を集める。フィルタープレートの個々のウェルに100μlの洗浄緩衝液2を添加する。10分間室温で撹拌する。V底96ウェルプレートに分画2の残りを集める。分画2はpH7の溶離液を含んでいる。フィルタープレートの個々のウェルに100μlの洗浄緩衝液3を添加する。室温で10分間撹拌する。清浄なV底プレートをフィルタープレートの下に設置し、分画3を集める。フィルタープレートの個々のウェルへ100μlの洗浄緩衝液3を添加し、室温で10分間撹拌する。V底プレートに分画3の残りを集める。分画3はpH5の溶離液を含んでいる。フィルタープレートに100μkの洗浄緩衝液4を添加し、室温で10分間撹拌する。フィルタープレートの下に清浄なV底プレートを設置し、分画4を集める。次にフィルタープレートへ100μlの洗浄緩衝液を添加し、室温で10分間撹拌する。V底プレートに残った分画4を集める。分画4はpH4の溶離液を含む。それからフィルタープレートの個々のウェルに100μlの洗浄緩衝液5を添加し、室温で10分間撹拌する。V底プレートに残った分画5を集める。分画5はpH3の溶離液を含んでいる。フィルタープレートに100μlの洗浄緩衡液6を添加し、10分間室温で撹拌する。次にフィルタープレートの下に清浄なV底プレートを設置し、分画6を集める。フィルタープレートに100μlの洗浄緩衝液6を添加し、再度室温で10分間撹拌する。残りの分画を集める。分画6は有機溶媒溶離液を含んでいる。
チップ結合手順までの間、分画は凍結させておく。
【0222】
アレイ結合:10μlの個々の分画は90μlの結合緩衝液と混合され、IMAC、SAX、H50、WCXプロテインチップアレイ(サイファージェン バイオシステムズ)へ三回結合された。IMACでは、結合緩衝液は500mMの塩化ナトリウムを含む、100mMのリン酸ナトリウム pH7.0であり、SAXでは、結合緩衝液はpH7の100mMリン酸ナトリウムであり、H50では結合緩衝液は50%のアセトニトリル水溶液であり、WCXでは、緩衝液はpH4.0の100mM酢酸ナトリウムであった。結合は室温で30分間行われた。チップはそれから結合緩衝液で3回洗浄され、水で二回洗浄された。使用されたマトリックスはシナピニック酸であった。
【0223】
データ獲得および分析:SELDI分析のために、全てのアレイは、サイファージェンPBSプロテインチップ(登録商標)アレイリーダー、タイムラグ焦点、線形、レーザー脱離/イオン化飛行時間マススペクトロメーターを使用して読まれた。全てのスペクトルは陽性イオンモードで獲得された。タイムラグ焦点遅延時間はペプチドに対して400ns、蛋白質に対して1900nsで設定された。イオンは3kVイオン抽出パルスを使用して抽出され、20kVの加速化電位を使用して最終速度へと加速された。このシステムは秒あたり2〜5パルスの繰り返し率でパルスされた窒素レーザーを使用している。レーザー流は通常30〜150μJ/mm2であった。自動化された分析手順はほとんどのサンプル分析においてデータ獲得工程をコントロールするために使用された。個々のスペクトルは平均少なくとも100レーザーショットであり、公知のペプチド又は蛋白質の混合物に対して外見的に計測された。インシュリン及びイムノグロブリン標準物質を使用して、装置はパフォーマンスを毎週モニターされた。個々のチップは高低二つのレーザーエネルギーでよまれた。スペクトルは外見的に計測され、ベースラインは8倍のフィティング幅のセットを引かれ、それから総イオン電流へ(マトリックス領域を除いて)ノーマライズされた。
【実施例2】
【0224】
統計分析
バイオマーカー検索: M/Z2kD−50kDのマスの幅で限定されたマスピークが(S/N>5、0.3%のクラスターマスウインドウ)、SELDIスペクトルから選択された。興味あるスペクトルの幅でのデータのばらつきのより一貫したレベルを得るために、更なる分析の前に対数変換がピーク強度に適用された。初期の上皮卵巣がん患者及び、デューク大学医療センター(Ca n=36、HC n=47)並びにグロニンゲン大学病院(Ca n=20、HC n=30)由来の健常コントロールのデータ強度が、まずマイクロアレイデータ分析に、次いで蛋白質発現データ分析(プロピーク、3Zインフォマティックス)に用いられた、ユニファイドマキシマムセパラビリティー分析(UMSA)アルゴリズムを使用して分析された。(Li Jら、Clin Chem 2002, 48: 1296-304、Rai AJら、Zhang Zら、Arch Pathol Lab Med 2002, 126: 1518-26、Zhang Zら、Applying classification separability analysis: papers from CAMDA ’00 Boston: Kluwer Academic Publishers, 2001: 125-136; Zhang Zら、Fishing Expression- a Supervised Approach to Extract Patterns from a Compendium Of Expression Profiles. In: Lin SM, Johnson KF, eds. Microarray Data Analysis II: Papers from CAMDA ’01. Boston: Kluwer Academic Publishers, 2002)。
【0225】
データに於けるバイアスやアーティファクトのピークを選択する可能性を減少させるために、二つの側面からのデータが別々に分析された。初期の卵巣がんと健常コントロールを区別するはっきりとした一貫性のあるピークを選択するためにブーツストラップ・リサンプリング法が用いられた。各ブーツストラップ・ランに於いて、ある一定のパーセンテージのがん及び対照サンプルが、分析するための差し替え用にランダムに選択された。各ピークはUMSA分類の線形型式に当てはまるようにランク付けされた。各ピークのランクの平均及び標準偏差は複数回(20−40)の測定で算出された。高い平均ランクと低い標準偏差を有するピークが候補ピークの短いリストを形成するために選択された。次いで、二つの側面からの結果は、潜在的なバイオマーカーのパネルとして一貫した発現パターンを有するピークの最終セットを決定するために比較された。
【0226】
多変量予測モデル:多変量予測モデルを構築するために、二つの側面からのデータは合わせられ、ランダムにトレーニングセットと試験セットへと分けられた。潜在的なバイオマーカーパネルと得られた予測モデルの性能は最初に試験セットで評価され、最終的にバイオマーカー発見及びモデル構築工程に含まれなかった残り二つの側面からの、別々のデータで確認された。評価のための統計方法には感度並びに特異度評価及び、受診者動作特性(ROC)曲線分析が含まれた。
【実施例3】
【0227】
バイオマーカーの精製
全てのマーカーに於いて、血清は蛋白質発現プロファイリングに使用されたアニオン交換プロトコールを使用して初めに分画化された。個々の精製工程では、分画はNP20又はIMAC−銅プロテインチップアレイに於いてモニターされた。
【0228】
28kDマーカーの精製:アニオン交換分離由来の1mlのpH4分画が、500μlのRPCポリバイオ10−15(バイオセプラ)へ添加され、40℃で1時間インキュベートされた。0.1%のトリフルオロ酢酸を有するアセトニトリルの増加した量を含む分画が集められた。75%アセトニトリル/0.1%トリフルオロ酢酸分画は高速バキュームで乾燥され、DTTを伴わない100μlのSDS−トリシンサンプルローディング緩衝液で再水和された。40μlのサンプルが16%トリシンゲルへロードされ、100mVで4時間実行された。ゲルはコロイドブルーキット(ピアース)で汚れを取り除かれ、28kDaのものが切り取られた。
【0229】
12.8kDaマーカーの精製:アニオン交換分離由来の10mlのpH4分画は、1Mのトリス塩酸、pH11で、pH7.5に調節され、20mlのpH7.2のPBSで3回前もって洗浄された10mlのMEPビーズ(バイオスプラ)へロードされた。ピークを含む流出分画が、30分間4℃でシェイクした後に得られた。この分画は大量のアルブミンを含んでいることから、アルブミンの免疫枯渇が行われた。プロテインAビーズが1.5mlPBSでの3回に続く、0.1%のトリトン100を含む1.5mlのPBSで前もって洗浄された。4mlの抗HSA抗体(ICN)が1.5mlのプロテイン−Aビーズに添加され、一晩中結合させられた。結合されたビーズは、0.1%トリトン−100を含む1mlPBSで3回洗浄され、それから1mlのPBSで3回洗浄された。MEPカラムからの流出物はビーズへ添加され、4℃で1時間インキュベートされた。流出物は1分間3000rcfでスピンすることで得られた。プロテインA−抗HSA抗体カラムからの流出画分は、1.5mlの0.1%TFAで4回前もって洗浄された1.5mlのRPCポリバイオ10−15樹脂(バイオセプラ)を含むスピンカラムへと添加された。流出物は4℃で40分間静かな振動でインキュベートした後に、3000rcfでスピンすることで除去され、ビーズは0.1%のTFA0.8mlで洗浄された。0.1%のトリフルオロ酢酸を含むアセトニトリルの増加した量を含む分画が集められた。75%アセトニトリル/0.1%トリフルオロ酢酸分画が高速バキュームで乾燥され、DTTを有さない100μlのSDS−トリシンサンプルローディング緩衝液で再水和された。40μlのサンプルが16%トリシンゲルへとロードされ、100mVで4時間実行された。ゲルはコロイドブルーキット(ピアース)で汚れを取り除かれ、12.8kDaが切り取られた。
【0230】
3272ダルトンのバイオマーカーの精製:アニオン交換分画由来の1mlの流出物が、硫酸銅と結合した125μl(50%スラリー250μl)のIMACセルロース(バイオセプラ)へロードされ、4℃で1時間インキュベートされた。ビーズはそれからイミダゾールの徐々に増加する勾配で洗浄された(500mM塩化ナトリウムを有する、pH7の100mMリン酸ナトリウムの、20mM、50mM、100mM、150mM、200mMイミダゾール各々250μl)。バイオマーカー(50−150mMイミダゾール)を含む200μlの分画がC18カラム(ANSYSテクノロジーズ、メタケムポラリスC18−A5U)へロードされ、1ml/分で5分間0.1%のTFAで洗浄され、続いて1ml/分で、0.1%のTFAを含む0〜9%ACN勾配で10分間洗浄された。カラムはそれから0.1%TFAを含む9%ACNから、0.1%TFAを含む45%ACNへの線形勾配で、1ml/分で30分間溶出された。分画は1ml容器に集められ、マーカーは(ACNの濃度が34.2%である)分画38で溶出した。
【実施例4】
【0231】
バイオマーカーの同定
精製された蛋白質はトリプシンで消化され、トリプシンで消化された断片はプロテインチップリーダーで分析された。個々のスペクトルは平均少なくとも250レーザーショットであり、公知のペプチドの混合物に対して外見的に校正され、又はトリプシン自動溶解およびマトリックスピークを使用して内部的に校正された。ピークマスはプロファウンド検索ペプチドマッピングサイト(オンラインで入手可能)に供された。蛋白質配列はNCBIデータベースを使用して得られた。これらのデータベース合致は、プロテインチップアレイインターフェース(サイファージェン)を装着したPE Sciex QStar(コンコルド、カナダ)により確かめられた。MS/MS実験では、スペクトルはサイファージェン PCI1000プロテインチップ(登録商標)アレイインターフェースを装着したSciex QStar(コンコルド、オンタリオ、カナダ)タンデム四極飛行時間マススペクトロメーターで得られた。イオンは、平均電圧流が130μJ/mm2の秒辺り30パルスで作動する、電圧をかけられた窒素レーザー(レーザーサイエンスVSL337NDS、フランクリン、MA、USA)を使用してつくられた。窒素ガスは、全ての低エネルギー衝突誘起解離(CID)実験と同様に、形成されたイオンの衝突冷却のために、圧力10mトールで使用された。適用された衝突エネルギーは一般に50eV/kDaの支配へ続く。MS及びMS/MSモードでは、システムは公知のペプチドの混合物を使用して外見的に校正された。蛋白質の同定はUCSFプロテインプロスペクターMS−タグプログラム(オンラインで入手可能;Clauser K.R.ら(1999)Anal.l Chem.71:2871参照)を使用して行われた。MS−タグによるデータベース検索は、以下の値を使用して行われた。ヒト、トリプシン消化(許容される解裂の二つがかけた)、カルバミドメチル化により修飾されたシステイン、親及び断片イオンマス許容性50ppm、NCBI又はSwiss−Protデータベース。
これらの同定は、EIA又はプロテインチップアレイに基づくイムノアッセイにより確かめられた。
【0232】
これらの蛋白質は一般的に急性反応物として特徴付けられるものであるが、イムノアッセイを使用する予備的な研究において、アポリポプロテインA1のレベルが胸又は小腸がん患者において変化しておらず、プレアルブミンのレベルもまた、胸又は前立腺がん患者においては変化してなかったことに言及すべきである。
【0233】
トランスサイレチンは陰性の急性蛋白質であり、そのレベルは上皮卵巣がんにおいて減少することが以前報告されている(Mahlck CGら、Gynecol Obstet Invest, 1994; 37: 135-40)。トランスサイレチンは血清チロキシンとトリヨードチロニンの主要なキャリアーであり、レチノール結合蛋白質との相互作用を通じてレチノールの運搬を容易にする。トランスサイレチンの発現を欠如する形質転換マウスは劇的に低いレベルのレチノール及びレチノール結合蛋白質を有しており、(van Bennekum AMら、J Biol Chem 2001; 276: 1107-13)細胞性レチノール結合蛋白質が卵巣上皮の悪性形質転換の増加した速度と関連づけられることが示されるのと同様に、レチノール結合蛋白質の減少したレベルを有している(van Bennekum AMら、J Biol Chem 2001; 276: 1107-13、Roberts Dら、DNA Cell Biol 2002; 21: 11-9)。加えて、細胞性レチナール結合蛋白質のレベルが卵巣がんにおいて変化することが、オリゴヌクレオチドアレイ解析により報告されている(Giordano TJら、Am J Pathol 2001; 159: 1231-8)。
【0234】
m/z3272バイオマーカーが由来するIAIH4のカルボキシル部分は、血漿カリクレインの基質であることが示されている(Pu XPら、Biochem Biophys Acta 1994; 1208: 338-43、Nishimura Hら、FEBS Lett 1995; 357: 207-11)。カリクレインプロテアーゼは血漿カリクレインと組織カリクレインとからなっており、それらは基質特異性が重なっている(Diamandis EPら、Clin Chem 2002; 48: 1198-205)。組織カリクレインは前立腺特異的抗原(PSA;hK3)を含む大きな複数遺伝子ファミリーの産物であり、前立腺がんの腫瘍マーカーである。hK4、hK5、hK7、hK8、hK9を含むいくつかの組織カリクレインは卵巣がんに於いて異常発現物として見出されている(Yousef GMら、Minerva Endocrinol 2002; 27: 157-66)。
【0235】
トランスサイレチンΔN10及びIAIH4断片は成熟蛋白質の切り取られた産物である。これらのマーカーは、血漿カリクレイン、組織カリクレイン、マトリックスメタロプロテアーゼ、プロスタチン及び卵巣がんにおいて増加することが最近報告されたトリプシン様セリンプロテアーゼを含む、一つ又はそれ以上のプロテアーゼにより解裂される産物であろう(Mok SCら、J Natl Cancer Inst 2001; 93: 1458-64)。これらのマーカーを産生するプロテアーゼはまた、予想されるモデルに対するより高い感度及び特異度を与えるためにマーカー1〜4と組み合わせられることができるマーカーとして使用されることができるだろう。
【実施例5】
【0236】
個々のバイオマーカーの識別力
発見セット内で、初期の卵巣がん患者と健常人の対照との間に於ける、3つのバイオマーカーの発現レベルに於ける違いは統計学的に顕著であった(m/z12828及び28043のマーカーではP<0.000001、m/z3272のマーカーではP<0.003、m/z3031のマーカーではP<0.04、m/z2884のマーカーではP<0.005)(表1)。
【0237】
【表1】
【0238】
図2(パネルA−D)は、初期の卵巣がん患者及び健常人の対照由来のデータに於ける、受診者動作特性(ROC)曲線分析を使用して、3つのバイオマーカーそれぞれの識別力とCA125の識別力を比較するものである。パネルA−Dでは、1:CA125、2:m/z12.8kD、3:m/z28kDa、4:m/z3272Dである。CA125とm/z12828は検索及び個別の検証セットに於いて同様に実行され、他の二つのバイオマーカーは、一つ又は両方のデータセットに於いてCA125より低い曲線下面積(AUC)を有していた。しかしながら3つのバイオマーカーとCA125の間の見積もられた関連は低く(データは示されていない)、それらはお互い補足しあうもので、多変量アプローチがCA125の単独分析にはより性能がよいであろうという可能性を示している。
【0239】
初期卵巣がんグループのサンプルが由来する50歳以上の女性は61%であるのに対して、健常人の対照サンプルの27%が50歳以上の女性由来であることから(P<0.000001)、これらのマーカーが年齢に関連する変換を反映しているものではないかという関心をもった。しかしながら、同定されたバイオマーカーは年齢集団の間に於いてさほど変化がなく、CA125のバイオマーカーと同様にレベルに於いて異なるものでもなかった。(表1)。以前の人口に基づく研究に於いて、アポリポプロテインA1のレベルが年齢で実際若干増加することが示されている(Jungner Iら、Clin Chem 1998; 44: 1641-9、Bachorik PSら、Clin Chem 1997; 43: 2364-78)。
【実施例6】
【0240】
多変量予測モデル
非線形UMSA分類を使用して、二つの多変量予測モデルが構築された。最初のものは、その入力として3つのバイオマーカーのみを使用し、二番目のものはCA125レベルとともに、3つのバイオマーカーを使用した。図2のパネルE−Hは、二つのモデルの全体的な診断性能を、ROC分析を使用してCA125の全体的な診断性能と比較している。パネルE−Hでは、○:CA125、□:3つのバイオマーカーを使用する多変量モデル、△:3つのバイオマーカーとCA125を使用する多変量モデル。トレーニングデータでは、0.5のカットオフ値が感度及び特異度の合計をおおよそ最大化した。このカットオフを使用して、モデルは試験データと個々の検証データに適用された(表2)。独立した検証セットに於いて健常対照とステージI/II浸潤性卵巣がんとを差別するために、82.6%の感度(95% Cl 61.2−95.1%)で三つのバイオマーカーとCA125を使用する多変量モデルが、93.7%(84.5−98.2%)の特異度を有していた。表2はまた、独立した検証セットで、良性状態、後期浸潤がん又は境界の腫瘍である患者に関する結果を含んでいる。
【0241】
【表2】
【0242】
図3はCA125と3つのバイオマーカーの分布パターン及び全ての診断集団に於けるるサンプルでの二つのモデルの性能をプロットする。y軸は3つのバイオマーカー全ての線上スケールに於ける相対的な強度、対数スケールでのCA125の血清レベル、二つのモデルのための0(がんのもっとも低い危険度)と1(がんのもっとも高い危険度)の間の継続的な値である。サンプルグループには、A)健常対照、B)良性、C)ステージI/II浸潤性がん、D)ステージIII/IV浸潤性がん、E)再発、F)ステージI/II境界型腫瘍を含む。バイオマーカー検索セットに於ける二つのIIIc浸潤性ケースと、個々の検証セットに於ける三つのステージIII/IV境界型腫瘍はプロットされなかった。
【0243】
m/z3272を除いて、二つの予測されるモデルと同様に他の二つのバイオマーカーは、良性ケースからステージI/II浸潤性がんを検出することを適度に可能にした(m/z12828と28043それぞれにP=0.004、0.001、CA125あり及びなしのそれぞれのモデルでP=0.003、0.0001)。
【実施例7】
【0244】
免疫アッセイを使用する個別の検証
マイクロタイタープレート形式(和光化学、USA)で行われる濁度免疫アッセイを使用して、アポリポプロテインA1について、そして、ジメンションRxL器具(デイド−ベーリング)での、粒子増強濁度免疫アッセイを使用して、トランスサイレチンΔN10について、142の試料が分析された(表3)。
【0245】
【表3】
【0246】
41人の健常対照に比較して、41人の後期卵巣がん患者に於いて、CA125の血清レベルはアップレギュレートされ、アポリポプロテインA1とトランスサイレチンΔN10のレベルはダウンレギュレートされていた(それぞれP=0.001895、0.000151、0.000006)。健常対照ではアポリポプロテインA1の平均血清レベルは、胸部又は結腸がん患者のものと顕著には異ならず(それぞれP=0.844163、0.330148)、前立腺がん患者のものとのみ、ほんの僅かに異なっていた(P=0.0043676)。平均のトランスサイレチンレベルは、卵巣がん患者に於けるよりも、結腸がん患者に於けるほうがより低い程度ではあるがダウンレギュレートされていた(P=0.006889)。健常対照と胸又は前立腺がん患者との間では、平均トランスサイレチンΔN10血清レベルは著しくは異ならなかった(それぞれP=0.928519、0.546918)。
【実施例8】
【0247】
分類アルゴリズム
図4において図式的に描かれる分類アルゴリズムに関して、モジュール1−3はUMSA学習アルゴリズムでトレーニングされた。しかしながら、最終分類モジュールは、通常の支持ベクター機械分類と同じ数学的形態を有していた。
【0248】
UMSA分類モジュール1
CA125nm=log(CA125+0.01)
m/z12.9Knm=(m/z12828−61.103)/239.031
m/z28Knm=(m/z28043−61.3043)/238.9799
m/z3272nm=log(m/z3272+0.01)
log():自然対数
カーネル機能:ポリノミナル<X(:,i)X(:,j)>)^3.0
【0249】
【0250】
UMSA分類モジュール2
CA125nm=log(CA125+0.01)
m/z12.9Knm=(m/z12828−0.345)/0.1114
m/z28Knm=(m/z28043−0.4834)/0.2792
m/z3272nm=log(m/z3272+0.01)
log():自然対数
カーネル機能:exp(−/X(:,i)−X(:,j)/^2/(2*(1.0)^))
【0251】
【0252】
UMSA分類モジュール3
カーネル機構:ポリノミアル<X(:,i),X(:,j)>)^2.0
X1=exp(モジュール1出力)/(1+exp(モジュール1出力)
X1=モジュール2出力
【0253】
【0254】
後処理:
Y=(CA125<=75)ならば、モジュール3出力
その他は、モジュール3出力+log((CA125+0.0001)/75)*8/log(10/3)
モジュール出力=exp(Y/2)/(1+exp(Y/2))
【0255】
本発明は、その好ましい実施態様を含んで、詳細に記載されている。当該開示により当業者であれば、本発明の修飾及び/又は改良を行うことができるものであるが、後述の請求の範囲で示されるように、それらも本発明の範囲に含まれるものである。
【0256】
本出願で引用された全ての刊行物及び特許文献は、刊行物又は特許文献の各々に於いて示されているものが同等にその全てが参照として本明細書に取り込まれる。出願人は、本明細書で参照された何れの文献についても、本発明の「先行技術」として認めるものではない。
【実施例9】
【0257】
初期の段階の卵巣がんのバイオマーカーの検証、及び治療又は処置との関連性
患者:この研究には、フローニンゲン及びルーバンの2カ所の病院から集められた、良性の卵巣の疾病を有する女性25人、卵巣がん初期(ステージI、IIa)の女性53人、卵巣がん後期の女性116人、及び健常な対照として73人が参加した。サンプルの組織学的亜型は以下の通りである:95漿液、29粘液、16子宮内膜、11明細胞、17腺がん及び1ミュラー管混合。不明確な腫瘍のある患者は含まなかった。初期がんの女性の平均年齢は51.8歳であり、後期がんでは58.8歳であり、良性の疾病では47歳、そして健常な対照では58歳であった。
【0258】
クロマトグラフのプロテインチップ(登録商標)分析:5μLの血清を9Mのウレア/2%のCHAPS/50mMのトリス塩酸7.5μLで変性した。変性した血清をバイオチップ結合バッファー(IMAC30アレイには、50mMのリン酸ナトリウム、250mMのNaCl、pH6.0、又はQ10アレイ用には100mMのリン酸ナトリウム緩衝液、pH7.0)で希釈した。希釈した血清をIMAC30又はQ10プロテインチップアレイで2時間インキュベートした。アレイを結合バッファーで洗浄し、次いで水で洗浄して、簡単に風乾させた。シナピン酸を加え、4000シリーズのプロテインチップ読み取り装置(Series 400 ProteinChip Reader)で読み取った。
【0259】
データ分析:マススペクトルは外部的に質量を標準化し、内部的に全イオン電流を利用して強度を標準化して、基準を差し引いた。ピークを手動で選択して強度を記録した。データはt検定及びサポートベクタマシンを使用して分析した。
【0260】
図9は、Q10プロテインチップアレイでのトランスサイレチンアッセイのスペクトルを表す。未修飾の、スルホンされた、システイン化された、Gys−Glyで修飾された、及びグルタチオン化されたトランスサイレチンの5種類の形態が解明されたことを示す。加えて、トランスサイレチン(Δ10)の切断された形態もまた検出され、これはシステイン化されたトランスサイレチンよりも更に低い濃度(〜2%)で存在した。
【0261】
当該分析は、蛋白質の標準値を用いて較正することにより、完全に定量的なものとなる。図10は様々な形態のトランスサイレチンの濃度に対するピーク強度の線形応答を表す。
【0262】
図4は卵巣がんに於いてトランスサイレチン及びアポリポプロテインA1がダウンレギュレートすることを表す。二群t検定は初期段階又は後期段階の卵巣がんの何れの患者に於いてもトランスサイレチンの5種類の形態及びアポリポプロテインA1がダウンレギュレートすることを示す。トランスサイレチンのダウンレギュレーション(下方制御)は後期段階の患者においてより顕著であることがわかる。
【0263】
【表4】
【0264】
図5はトランスサイレチン及びアポリポプロテインA1の術後の増加を表す。箱髭図(Box−and−whisker plots)はトランスサイレチンとアポリポプロテインA1の両方が術後に対照のレベルに戻ることを表す。対のt検定(paired t−test)はこの作用が統計的に顕著であることを表す。幾つかのトランスサイレチンの形態は他より大きな反応を示した。
【0265】
【表5】
【0266】
図11に表されるように、トランスサイレチンの形態とアポリポプロテインA1の組み合わせは手術に応じて変化する。5形態のトランスサイレチン及びアポリポプロテインA1に基づいたサポートベクタマシンアルゴリズムをそれぞれの患者の手術前及び手術後の指数値を出すために使用した。手術前のレベルと手術後のレベルを比較する指数値の相関図は、大部分の患者に於いて、数値が手術後に増加したことを明らかにした。A.数値は初期段階の卵巣がん患者の31/42(73.8%)に於いて増加した。B.数値は後期段階の卵巣がん患者の62/79(78.5%)に於いて増加した。図12に表されるように、この指数の数値は患者のモニターに使用できる。治療又は処置期間中の指数値の変化の様子の一例として、この患者については、指数の数値は手術前には低く、手術後に上昇した。レベルは1996年の10月まで最高値を保った。この時点で、当該患者の疾病の進行が明らかにされた。
【実施例10】
【0267】
対照症例研究(case-control study)に於けるマーカーの検証
患者:研究には、上皮性卵巣がんの女性45人、良性卵巣疾病の女性71人、消化器系の疾病の女性122人が参加した。本発明者らは、一人の小児良性病変及び解凍後の再冷凍を1回以上行ったサンプルを除外した。対照用のサンプルは患者及び良性の疾病のサンプルより長期に渡り保存された(平均の保存期間は、対照が21年、患者及び良性疾病は17年。)保存期間に関係するピークの検出の偏りを最小化する為、本発明者らはマーカーデータのメインの分析を1983〜1989年に採取されたサンプルに制限した。従って、本明細書に挙げられるデータは卵巣がん患者42人の症例、良性疾病の患者65人、及び対照76人に基づいたものである。
【0268】
クロマトグラフのプロテインチップ(登録商標)の分析:5μLの血清を9Mのウレア/2%のCHAPS/50mMのトリス塩酸7.5μLで変性させた。変性された血清をアレイ結合バッファー(IMAC30アレイには、50mMのリン酸ナトリウム、250mMの塩化ナトリウム、pH6.0、又はQ10アレイには100mMのリン酸ナトリウム緩衝液(バッファー)、pH7.0)で希釈した。希釈された血清はIMAC30又はQ10プロテインチップアレイで2時間インキュベートした。アレイを結合バッファーで洗浄し、次いで水で洗浄して、簡単に風乾した。シナピン酸を加え、4000シリーズのプロテインチップ読み取り装置(Series 4000 ProteinChip Reader)で読み取った。
【0269】
データ分析:マススペクトルは外部的に質量を標準化し、内部的に全イオン電流を利用して強度を標準化して、基準を差し引いた。ピークは手動で選択され、強度が記録された。人口学的特性をフィッシャーの正確確率検定を使用して比較した。t検定を群間に於けるピークの最高値の差の判定に使用した。線形及び二次判別分析並びに最近隣法を使用し、分類子を形成した。分類のエラー率はクロス確認(相互検証)で判断した。
【0270】
本発明の研究のサンプルに於ける人口統計学的特性及び臨床特性
【表6】
【0271】
図13はQ10プロテインチップアレイでのトランスサイレチンの形態及びアポリポプロテインA1のピーク強度の散布図を表す。トランスサイレチンの形態に対する二群t検定の結果は以下の通りである:未修飾、0.0076;スルホン化された、0.0052;システイン化された、0.0104;Cys−Glyで修飾された、0.0026;及びグルタチオン化された、0.0047。アポリポプロテインA1の二群t検定の結果は0.0009である。
【0272】
図14は最近隣法の指数を表す。年齢を含まないもの又は年齢を含むものについて6種類のトランスサイレチンの形態及びアポリポプロテインA1のピーク強度をモデルにインプットした。最近隣法を、各々のサンプルについて、対照、良性又はがん患者の事後確率の算出に使用した。クラスの構成要員の事後予想は、p(良性|マーカー)+2 x p(がん|マーカー)、p(良性|マーカー)+2xp(がん|マーカー)として計算された。数値の0はサンプルが明らかに対照として分類されたことを示し、一方で数値の2はサンプルが明らかにがんとして分類されたことを示す。
【図面の簡単な説明】
【0273】
【図1】図1は、m/z12828と28043(分画pH4、IMAC−Cuアレイ)及び3272(分画pH9、IMAC−Cuアレイ)に位置するピークを示すバイオマーカー発見セットに於けるサンプル由来のマススペクトルの擬似ゲル像を表す。
【図2】図2(A)、(B)、(C)、(D)は、CA125と三つの同定されたバイオマーカーの間のROC曲線比較を示す。図2(E)、(F)、(G)、(H)は、CA125と二つの多変量予測モデルのROC曲線比較を示す。
【図3】図3(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)はバイオマーカー発見セットと、個々の検証セット(パネルa−h)に於ける患者と健常対照間の、三つの同定されたバイオマーカーとCA125のスキャッチャードプロット分布を示す。図3(i)、(j)、(k)、(l)は試験セット(バイオマーカー発見セットの部分)と個々の検証セットに於ける患者と健常対照との間の二つの多変量予測モデル出力を示すスキャッチャープロットを表す。
【図4】図4はバイオマーカーを特徴づけるために使用された分類アルゴリズムのダイアグラムを表す。
【図5】図5は卵巣がんサンプルに見られる異なるIAIH4断片のスペクトルを表す。3276.7のピークはIAIH4断片1(配列番号1)を表す。3031.3のピークはIAIH4断片2(配列番号2)を表す。2884のピークはIAIH4断片3(配列番号3)を示す。表は「がん」のないサンプルに対して卵巣がんに於けるIAIH4断片の原型(IAIH4断片1;「Orig」)の8つの断片の存在に対するp値を表している。NS=有意でない。「−MN」はIAIH4断片1の配列からのN末端のMとNの切断を示し、更に配列番号2(IAIH4断片2)としても表される。「−MNF」はIAIH4断片1の配列からN末端のM、N及びFの切断を示し、更に配列番号3(IAIH4断片3)としても表される。表に於けるその他の断片は、原型のIAIH4断片1の配列から取り除かれたアミノ酸残基を示す。
【図6】図6は未修飾の、システイン化された、グルタチオン化された、及び断片のトランスサイレチンの免疫学的及びクロマトグラフの検出のためのマススペクトルを表す。
【図7】図7は卵巣がんの患者からの様々な形態のトランスサイレチンの検出結果を、その他のがん及び対照の患者と比較して表す。
【図8】図8はトランスサイレチンのシステイン化の実施である還元及びアルキル化の後のマススペクトルのピークパターンの変化を表す。
【図9】図9はQ10プロテインチップアレイでのトランスサイレチンの分析のスペクトルを表す。 5つの形態のトランスサイレチンが分解された:未修飾の、スルホン化された、CysGlyで修飾された及びグルタチオン化されたトランスサイレチンである。加えて、切断されたトランスサイレチン(ΔN10)もまた検出されたが、システイン化された形態の濃度(〜2%)より更に低い濃度で存在した。
【図10】図10は様々な形態のトランスサイレチンの濃度に対するピーク強度の線形応答を表す。
【図11】図11は手術に応じたトランスサイレチンとApoA1の組み合わせの変化を表す。5種類の形態のトランスサイレチン及びアポリポプロテインA1に基づいたサポートベクタマシンアルゴリズムを使用して、それぞれの患者について手術前及び手術後の指数を構築した。手術前のレベルと手術後のレベルを比較した指数の相関散布図は、大部分の患者について、手術後にスコアが増加した。A.数値は初期段階の卵巣がん患者の31/42(73.8%)に於いて増加した。B.数値は後期段階の卵巣がん患者の62/79(78.5%)に於いて増加した。
【図12】図12はこの指数の数値は患者のモニターに使用できることを表している。治療又は処置期間中の指数値の変化の様子の一例として、この患者については、指数の数値は手術前には低く、手術後に上昇した。レベルは1996年の10月まで最高値を保った。この時点で、当該患者の疾病の進行が明らかにされた。
【図13】図13はQ10プロテインチップアレイでのトランスサイレチンの形態及びアポリポプロテインA1のピーク強度の散布図を表す。トランスサイレチンの形態に対する二群t検定の結果は以下の通りである:未修飾、0.0076;スルホン化された、0.0052;システイン化された、0.0104;Cys−Glyで修飾された、0.0026;及びグルタチオン化された、0.0047。アポリポプロテインA1の二群t検定の結果は0.0009である。
【図14】図14は最近隣法の指数を表す。年齢を含まないもの又は年齢を含むものについて6種類のトランスサイレチンの形態及びアポリポプロテインA1のピーク強度をモデルにインプットした。最近隣法を、各々のサンプルについて、対照、良性又はがん患者の事後確率の算出に使用した。クラスの構成要員の事後予想は、p(良性|マーカー)+2 x p(がん|マーカー)、p(良性|マーカー)+2xp(がん|マーカー)として計算された。数値の0はサンプルが明確に対照として分類されたことを示し、一方で数値の2はサンプルが明確にがんとして分類されたことを示す。
【図15】図15はIMAC30Cuアレイ(PBSIIc)でのApoA1ピークののマススペクトルを表す。
【図16】図16はIMAC30Cuアレイ(PBS4000)でのApoA1ピークのマススペクトルを表す。
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2004年12月1日に出願された米国仮出願第60/632474号、2004年3月31日に出願された米国仮出願第60/558422号の優先権を主張するものであり、両出願を参照してその全てを本明細書に取り込む。
【0002】
(発明分野)
本発明は、卵巣がんの検出において重要なバイオマーカーを提供する。マーカーは、SELDI分析を用いて、健常人由来のものと、卵巣がん患者の血清蛋白質プロファイリングを識別することで同定された。本発明は、卵巣がんの状態を認定するのにバイオマーカーを使用するシステム及び方法に、これらのバイオマーカーを関連づけるものである。本発明はまた、公知の蛋白質であるバイオマーカーを同定するものでもある。
【背景技術】
【0003】
卵巣がんは、先進国において、もっとも致死性の高い婦人科学の悪性腫瘍の一つである。米国だけで年間約23000人の女性が卵巣がんと診断されており、そのうちの約14000人が死亡する(Jamal, Aら、CA Cancer J Clin, 2002; 52: 23-47)。がん治療の進歩にもかかわらず、卵巣がんによる致死率にはこの20年以上際だった変化はみられない(上述)。疾患が診断された時点での病期(stage)によって、生存率が急勾配になることから、卵巣がん患者の長期生存率を上昇させるには、早期発見が未だに最も重要な因子となっているのである。
【0004】
後期ステージで診断された卵巣がんの予後がよくないこと、確認診断に伴う費用とリスク、そして相対的に一般の人々の有病率が低いことがあいまって、一般向けの卵巣がんのスクリーニングに用いられる試験に於いては、感度及び特異度に非常に厳しい条件が求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
がんの早期検出と診断に適した腫瘍マーカーの同定は、患者の臨床結果を向上させるうえで非常に有望視されている。特に、はっきりしない若しくは徴候がない患者、又は物理的な検査では相対的にアクセスし難い腫瘍を有している患者にとっては重要である。早期検出にかなりの努力がなされているにもかかわらず、未だコスト効率の良いスクリーニング試験は開発されておらず(Paley PJ., Curr Opin Pncol, 2001; 13(5):399-402)、診断時に播種性の疾患を呈する女性が一般的である(Ozols RFら、Epithelial ovarian cancer In: Hoskins YJ, Perez CA, Young RC編、Principles and Practice of Gynecologic Oncology. 3rd ed. Philadelphia Lippincott, Williams and Wilkins; 2000. p.981-1057)。
【0006】
腫瘍マーカーとして最も特徴付けられているCA125は、ステージIの卵巣腫瘍の約30〜40%で陰性であるが、そのレベルは様々な良性の疾患に於いても上昇する(Meyer Tら、Br J Cancer, 2000; 82(9): 1535-8; Buamah P., J Surg Oncol, 2000; 75(4): 264-5; Tuxen MKら、Cancer Treat Rev, 1995; 21(3):215-45)。卵巣がんの早期検出及び診断のための集団性のスクリーニングに使用するには、感度及び特異度が低いので差し控えられている。(MacDonald NDら、Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol, 1999; 82(2): 155-7; Jacobs Iら、Hum Reprod, 1989; 4(1):1-12; Shih I-Mら、Tumor markers in ovarian cancer. In:Diamandis EP, Fritsche, H., Lilja, H., Chan, D.W., Schwartz, M編、Tumor markers physiology, pathobiology, technology and clinical applications. Philadelphia: AACC Press; in press)。骨盤及びより最近では膣のソノグラフィーが、危険性の高い患者のスクリーニングに使用されているが、どちらの技術も一般向けに適用するには十分な感度も特異度も有さない(MacDoland NDら、上述)。がんのモデルの長期的な危険性(Skates SJら、Cancer, 1995; 76(10 Suppl): 2004-10)、及び第二の試験としての超音波と同時に(Jacobs I DAら、Br Med J, 1993; 306(6884): 1030-34; Menon U TAら、British Journal of Obstetrics and Gynecology, 2000; 107(2): 165-69)、追加の腫瘍マーカーと組み合わせてCA125を使用する最近の試みが(Woolal RP XFら、J Natl Cancer Inst, 1993; 85(21): 1748-51; Woolas RPら、Gynecol Oncol, 1995; 59(1):111-6; Zhang Zら、Gynecol Oncol, 1999; 73(1): 56-61; Zhang Zら、Use of Multiple Markers to Detect Stage I Epithelial Ovarian Cancers: Neural Network Analysis Improves Performance. American Society of Clinical Oncology 2001; Annual Meeting, Abstract)、全ての試験の特異度をあげるという有望な結果を示したが、これは、比較的罹患率の低い卵巣がんのような疾患には重要なことである。
【0007】
後期卵巣がんは、予測があまりできないため、医師は最低10%陽性の検出値の試験を受け入れるということが一般的である(Bast R.C.ら、Cancer Treatment and Research, 2002; 107: 61-97)。これを一般に広げるには、一般的なスクリーニング試験は70%以上の感度を必要とし、99.6%の特異度を必要とする。今のところ、CA125、CA72−4、又はM−CSFのような現存する血清マーカーは、どれもそのような有効性を示さない(Bast R.C.ら、Int J Biol Markers, 1998; 13:179-87)。
【0008】
そこで、個別に又は他のマーカー若しくは診断モダリティと組み合わせて、卵巣がんの早期検出のために必要な感度と特異度を有する新しい血清マーカーが嘱望されている(Bast RCら、Early detection of ovarian cancer: promise and reality. Ovarian Cancer: ISIS Medical Media Ltd., Oxford, UK; 2001. in press)。許容できるスクリーニング試験がないことから、卵巣がん患者の長期生存率を上げるには、早期発見が最も重要な因子となっている。
【0009】
従って、患者の卵巣がん状態を検出する、信頼できる正確な方法、そしてその結果が対象生物(subject)の治療又は処置管理に使用できるようなものの開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の要約)
本発明は、マーカーを測定することにより、卵巣がんの状態を決定するのに有用な、感度が高く迅速な方法及びキットを提供する。患者のサンプルに於いてこれらのマーカーを測定することで、診断者がヒトのがんの予想される診断又は陰性(例えば正常又は疾患ではない)と関連付けられる情報が提供される。マーカーは分子量及び/又はそれらの蛋白質の独自性で特徴付けられる。マーカーは、例えばマススペクトロメトリーを伴うクロマトグラフィーによる分離、固定化された抗体を使用する又は伝統的なイムノアッセイによる蛋白質の捕獲等の様々な分画技術を使用して、サンプル内の他の蛋白質から分析することができる。好ましい態様では、分析法は、表面活性化レーザー脱離/イオン化(SELDI)マススペクトロメトリーを含み、マススペクトロメトリープローブの表面は、マーカーに結合する吸収剤を含んでいる。
【0011】
特に、(1)修飾された形態のApoA1を含むアポリポプロテインA1(本明細書では「ApoA1」と表す)、(2)切断された形態のトランスサイレチン(本明細書では「トランスサイレチンΔN10」と表す)及び修飾された形態のトランスサイレチンを含むトランスサイレチン(transthyretin)、(3)少なくとも3つのインターαトリプシン阻害剤重鎖H4(本明細書では「IAIH4断片」と表す)のうちの一つとして本明細書に記載の方法により、3つのバイオマーカーが発見され、その後同定された。
【0012】
本発明は、(a)対象生物由来のサンプルに於いて、少なくとも一つのバイオマーカーを検出し、ここでそのバイオマーカーは、ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性の(native)トランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2,IAIH4断片3及びそれらの組み合わせから選択されるものであり、(b)その測定結果を卵巣がんの状態と関連づけることを含む、対象生物における卵巣がんの状態を認定する方法を提供する。ある特定の方法では、測定工程はサンプルにおけるマーカーの量を定量することを含む。他の態様では、測定工程はサンプルにおけるバイオマーカーのタイプを認定することを含む。
【0013】
本発明はまた、測定方法が、血液及び血液由来の対象生物からのサンプルを提供し、陰イオン交換樹脂でサンプル内の蛋白質を分けてApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチン及びIAIH4断片を含む分画を集め、そして蛋白質バイオマーカーに結合する捕獲試薬を含む基質の表面で、分画由来のApoA1、トランスサイレチン及びIAIH4断片を捕獲することを含む方法に関するものである。血液由来物質は、例えば血清又は血漿である。好ましい態様では、基質はIMAC銅表面を含むSELDIプローブであり、蛋白質バイオマーカーがSELDIで検出されるものである。他の態様では、基質が、ApoA1、トランスサイレチン及びIAIH4断片に結合する生体特異的な親和性試薬を含むSELDIプローブであり、蛋白質バイオマーカーがSELDIで検出されるものである。他の態様では、基質がApoA1、トランスサイレチン及びIAIH4断片に結合する生体特異的な親和性試薬を含むイクロタイタープレートであり、蛋白質バイオマーカーがイムノアッセイで検出されるものである。
【0014】
ある態様では、本発明の方法は更に、本発明の方法により決定された状態に基づいて、対象生物を治療又は処置管理する方法を含む。例えば、もし本発明の方法の結果が決定的でないか、又は状態を確認する必要性がある場合には、医師は更なる試験を指示するでうし、或いは、もし手術をするのが適切であることを示す状態であれば、医師は患者の手術を予定するであろう。同様に、例えば状態が卵巣がんの後期である等、試験の結果が陽性の場合、又は症状がその他の点で急性(otherwie acute)である場合には、更なる対策は講じられないであろう。更に、その結果が治療又は処置の成功を示すものであれば、更なる管理は不要である。
【0015】
本発明はまた、対象生物を治療又は処置した後に、再び少なくとも一つのバイオマーカーを測定する方法を提供する。例えば、対象生物の治療又は処置管理の工程は、得られた結果に応じてその後も繰り返し及び/又は治療又は処置の方法を変更して実施される。
【0016】
「卵巣がんの状態(status)」という用語は、患者に於ける症状に言及するものである。卵巣がんの症状のタイプの例としては、対象生物に於けるがんのリスク、疾患の有無、患者に於ける疾患の病期(stage)、治療又は処置の有効性等が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
本発明の方法に於いて有用なバイオマーカーは、ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2,及びIAIH4断片3から選択される。ある好ましい態様では、更に、対象生物由来のサンプルに於いて、少なくとも一つの先に知られたバイオマーカー(本明細書で「マーカー4」として表されるもの)を測定し、少なくとも一つのマーカー4の測定結果と、ApoA1、トランスサイレチン及びIAIH4断片の測定結果を、卵巣がんの状態と関連づけることを含む。ある態様では、ApoA1、トランスサイレチン及びIAIH4断片から選択されるマーカーに加えて、マーカー4のみが測定され、他の態様では、マーカー4より多くのマーカーが測定される。
【0018】
マーカー4の例は、例えば、CA125、CA125II、CA15−3、CA19−9、CA72−4、CA195、腫瘍関連トリプシン阻害剤(TATI)、CEA、胎盤アルカリンホスファターゼ(PLAP)、シアリルTN、ガラクトシルトランスフェラーゼ、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF、CSF−1)、リゾホスファチジン酸(LPA)、上皮成長因子受容体(p110GFR)の細胞外ドメインの110kD構成体、例えばカリクレイン6及びカリクレイン10(NES−1)等の組織カリクレイン、プロスタシン、HE4、クレアチンキナーゼB(CKB)、LASA、HER−2/neu、尿ゴナドトロピンペプチド、ダイアノンNB70/K、組織ペプチド抗体(TPA)、オステオポンチン、ハプトグロビン、ビクニン、MUC1及びそれらの蛋白質の変異体(例えば開裂体やアイソフォーム等)であるバイオマーカーを含むが、これらに限定されるものではない。
【0019】
ある態様では、本発明の方法は、ApoA1、トランスサイレチン及びIAIH4断片の3つ全てのバイオマーカー(ApoA1が未修飾のApoA1及び修飾されたApoA1から選択されるものであり、トランスサイレチンがトランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン及びグルタチオン化されたトランスサイレチンからなる群より選択されるものであり、IAIH4断片がIAIH4断片1,2及び3からなる群より選択されるものである)を測定することを提供する。別の態様では、ApoA1及びトランスサイレチン(ApoA1が、未修飾のApoA1及び修飾されたApoA1から選択されるものであり、トランスサイレチンがトランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン及びグルタチオン化されたトランスサイレチンからなる群より選択されるものである、)2つのバイオマーカーを測定する方法を提供する。ある好ましい態様では、2つのバイオマーカーは修飾されたApoA1及びシステイン化されたトランスサイレチンである。別の態様では、ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン及び3つの全てのIAIH4断片の測定の方法を提供する。ある態様では、対象生物由来のサンプルにおいて、少なくとも一つの公知のバイオマーカー(マーカー4)がまた測定され、マーカー4の測定結果と、他3つのバイオマーカーの測定結果(ApoA1、トランスサイレチン及びIAIH4断片)の測定結果が、卵巣がんの状態と関連づけられる。上述したように、ある態様では、測定されるバイオマーカーは、3つのバイオマーカー(ApoA1が、未修飾のApoA1及び修飾されたApoA1から選択されるものであり、トランスサイレチンがトランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン及びグルタチオン化されたトランスサイレチンからなる群より選択されるものであり、IAIH4断片がIAIH4断片1、2及び3から選択されるもの、又は2つか3つのIAIH4断片から成り得るものである)及びマーカー4として指定されている群より二つ又はそれ以上のマーカーを含む。
【0020】
本発明はまた、マーカーI〜XLVIIIとして示される生体マ−カーに関するものである。本発明の蛋白質マーカーは、一つ又はそれ以上のいくつかの局面で特徴付けられることができる。特に一つの態様では、これらのマーカーは、特にマススペクトロメトリースペクトル分析で決定されるように、本明細書に特定される条件下で分子量により特徴付けられる。他の態様では、マーカーは、サイズ(領域を含む)、及び/又はマーカーのスペクトルピークの形、近接を含む特徴、近隣ピークのサイズや形のような、マーカーのマススペクトロメトリースペクトル形跡の特徴で、特徴付けられることができる。更に他の態様では、マーカーは、特に特定の条件下でIMAC銅吸収剤に結合する能力である、親和結合性の特徴で特徴付けられることができるが、例えばニッケルのような他の金属もまた使用されることができるだろう。好ましい態様では、本発明のマーカーは分子量、マススペクトル形跡、IMAC−銅吸収剤結合のような局面の各々で特徴づけられることができるだろう。
【0021】
本明細書に開示されているマーカーの質量値(mass value)として、スペクトル装置の質量精度は、開示されている分子量(weight value)の約±0.15パーセント以内であると考えられる。認識されている装置の精度のばらつきに加えて、スペクトルのマス測定値は約400〜1000m/dmの解像度の範囲で変化できる。mは質量であり、dmは0.5ピーク高さにおけるマススペクトルピークの幅である。マススペクトル装置とその操作に伴う質量の精度と解像度のばらつきは、マーカーI〜XLVIIIそれぞれの質量を開示するに当たり「約」という用語を使用して反映させている。そのような質量の精度と解像度のばらつきが意図され、本明細書に開示される各マーカーの質量に関しての「約」という用語の意味するところは、対象生物の性、遺伝子型及び/又は民族性、並びに特定のがん又はそれらの起源若しくはそれらの病期に起因して存在するマーカーの異形を包含することである。
【0022】
本発明は更に、(a)対象生物由来のサンプルに於いて、少なくとも一つのバイオマーカーを測定し、ここでそのバイオマーカーはマーカーI〜XLVIII及びその組み合わせからなる群より選択されるものであり、(b)その測定結果を、卵巣がんの状態と関連付けることを含む、対象生物における卵巣がんの状態を認定する方法を提供する。ある方法では、測定工程は、サンプル内のマーカーの有無を検出することを含む。他の方法では、測定工程はサンプル内のマーカーを定量することを含む。他の方法では、測定工程はサンプル内のバイオマーカーの型を認定することを含む。
【0023】
診断試験の正確さは、受診者動作特性曲線(「ROC曲線」)により特徴づけられる。ROCは診断試験の異なる可能なカットポイントへの擬陽性比率に対する真の陽性比率のプロットである。ROC曲線は感度と特異度の関連を示す。つまり、感度の増加は特異度の減少を伴うであろう。曲線がより左軸とROC空間の上の端に近づくほど、試験はより正確である。逆に曲線がROCグラフの45度対角線に近づくほど、試験はより不正確である。ROCの下の領域は試験精度を評価する。試験の正確さは、試験される群を、問題となる疾患を有する群及び有さない群へと、いかによく分離できるかに依存する。(「AUC」として表される)曲線の下の領域が1の場合は、完全な試験を表す一方、0.5はより有用でない試験を表す。よって、本発明の好ましいバイオマーカーと診断方法は、0.5よりも大きいAUC、より好ましくは0.6より大きいAUC、更に好ましくは0.7より大きいAUCを有する。
【0024】
バイオマーカーの測定の好ましい方法には、バイオチップアレイの使用が含まれる。本発明で有用なバイオチップアレイは、蛋白質チップアレイ及び核酸アレイを含む。一つ又はそれ以上のマーカーがバイオチップアレイ上に捕獲され、マーカーの分子量検出のためにレーザーイオン化に供される。マーカーの分析は、例えば全イオン電流に対してノーマライズされた閾値強度に対して一つ又はそれ以上のマーカーの分子量によるものである。好ましくは、検出されるマーカーの数を限定するようにピーク強度範囲を限定するために、対数変換が使用される。
【0025】
本発明の好ましい方法では、バイオマーカーの測定結果と卵巣がんの状態を関連づける工程は、ソフトウエア分類アルゴリズムにより行われる。好ましくは、データはバイオチップアレイに固定化された対象生物からのサンプルに於いて、バイオチップアレイをレーザーイオンにさらし、質量/電荷比のシグナル強度を検出し、データをコンピュータで読める形態へ変換し、卵巣がん患者には存在するが、がんに罹患していない対照の対象生物には欠如しているシグナルを検出するために、使用者の入力パラメータに従ってデータを分類するアルゴリズムを実行することで、産生される。
【0026】
好ましくは、例えばバイオチップ表面は、イオン、アニオン、固定化されたニッケルイオン、陽性及び陰性イオンの混合物、一つ又はそれ以上の抗体、一本又は二本鎖核酸、蛋白質、ペプチド又はそれらの断片、アミノ酸プローブ又はファージディスプレイライブラリーである。
【0027】
他の好ましい態様では、一つ又はそれ以上のマーカーは、吸収剤が装着された、マススペクトロメーターでの使用に適したプローブを提供すること、対象生物からのサンプルを吸収剤と接触させること、プローブからマーカーを脱離してイオン化し、マススペクトロメーターで脱イオン化/イオン化されたマーカーを検出することを含む、レーザー脱離/イオン化マススペクトロメトリーを使用して測定される。
【0028】
好ましくは、レーザー脱離/イオン化マススペクトロメトリーは、結合する吸収剤を含む基質を提供し、対象生物からのサンプルを吸収剤と接触させ、結合された吸収剤を含むマススペクトロメーターでの使用に適したプローブに基質を設置し、マーカーをプローブから脱離してイオン化して、脱離/イオン化されたマーカーをマススペクトロメーターで検出することを含む。
【0029】
吸収剤は例えば、ニッケル、抗体、一本又は二本鎖オリゴヌクレオチド、アミノ酸、蛋白質、ペプチド又はそれらの断片のような、親水性、親油性、イオン又は金属キレート吸収剤である。
【0030】
本発明の方法は、例えば血液、血清及び血漿のような、そのような方法を受けることができるであろう患者のサンプルのいかなるタイプに於いても行うことができる。
【0031】
ある態様では、対象生物由来のサンプルに於いて複数のバイオマーカーが測定され、ここでバイオマーカーは、ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1,IAIH4断片2及びIAIH断片3から選択されるものと、少なくとも一つの公知であるマーカー、マーカー4である。ある好ましい態様では、複数のバイオマーカーはApoA1及びトランスサイレチンからなり、更に、より好ましい態様ではApoA1が修飾されたApoA1であり、トランスサイレチンがシステイン化されたトランスサイレチンである。別の好ましい方法では、複数のバイオマーカーはApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1,IAIH4断片2及びIAIH4断片3を含む。複数のバイオマーカーの測定はまた、少なくとも一つのマーカー4の測定を含むことができる。好ましくは、蛋白質バイオマーカーはSELDI又はイムノアッセイにより測定される。
【0032】
本発明はまた、対象生物由来のサンプルに於いて少なくとも一つのバイオマーカーを測定する方法を提供し、ここでバイオマーカーは、ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2,及びIAIH4断片3並びにこれらの組み合わせから選択されるものである。ある態様では、本発明の方法は更に、ApoA1及び/又は少なくとも一つの卵巣がんマーカー、即ち、例えばCA125、CA125II、CA15−3、CA19−9、CA72−4、CA195、TATI、CEA、PLAP、シアリルTN、ガラクトシルトランスフェラーゼ、M−CSF、CSF−1、LPA、p110EGFR、組織カリクレイン、プロスタシン、HE4、CKB、LASA、HER−2/neu、尿ゴナドトロピンペプチド、ダイアノンNB70/K、TPA、オステオポンチン、ハプトグロビン、ビクニン、及びMUC1並びにそれらの蛋白質の変異体(例えば開裂体やアイソフォーム等)であるバイオマーカーであるマーカー4を測定することを含む。
【0033】
本発明はまた、(a)ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片並びにこれらの組み合わせから選択されるバイオマーカーと結合する捕獲試薬、及び(b)少なくとも一つのバイオマーカーを含む容器、を含むキットを提供する。好ましい態様では、捕獲試薬は複数のバイオマーカーに結合する。ある態様では、その複数には、ApoA1及びトランスサイレチン、更により好ましい態様では、ApoA1が、修飾されたApoA1であり、トランスサイレチンがシステイン化されたトランスサイレチンである。別の態様では、その複数には、ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3が含まれる。捕獲試薬はいかなるタイプの試薬でもいいが、好ましくはその試薬はSELDIプローブである。捕獲試薬はまた、例えばマーカー4などの、公知のその他のマーカーに結合してもよい。ある好ましい態様では、キットは更に第一の捕獲試薬が結合しないバイオマーカーの一つと結合する第二の捕獲試薬を含む。
【0034】
更に本発明で提供されるキットは、(a)ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1,IAIH4断片2,及びIAIH断片3から選択される少なくとも一つのバイオマーカーと結合する第一の捕獲試薬、及び(b)第一の捕獲試薬と結合しないバイオマーカーの少なくとも一つを結合する第二の捕獲試薬を含む。好ましくは、少なくとも一つの捕獲試薬は抗体である。あるキットは更に、少なくとも一つの捕獲試薬が結合した又は結合できるMSプローブを含む。
【0035】
本発明のあるキットでは、捕獲試薬は固定化された金属キレート(「IMAC」)である。
【0036】
本発明のあるキットは、更に洗浄後、他のバイオマーカーと比較して、捕獲試薬に結合したバイオマーカーが選択的に保持されるようにする洗浄液を含む。
【0037】
本発明はまた、(a)ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH断片3から選択される少なくとも一つのバイオマーカーと結合する第一の捕獲試薬、及び(b)バイオマーカーを検出するための捕獲試薬を使用するための指示書、を含むキットを提供する。これらのキットのある態様では、捕獲試薬は抗体を含む。更に、いくつかのキットでは、捕獲試薬はIMACを含む。キットは更に、洗浄後に他のバイオマーカーと比較して、捕獲試薬に結合したバイオマーカーを選択的に保持する洗浄液を含んでもよい。好ましくは、キットは、卵巣がん状態を決定するためにキットを使用するための指示書を含み、指示書は、試験サンプルを捕獲試薬と接触させ、捕獲試薬により保持される一つ又はそれ以上のバイオマーカーを測定することを提供する。
【0038】
キットはまた、抗体、一本又は二本鎖オリゴヌクレオチド、アミノ酸、蛋白質、ペプチド又はそれらの断片である捕獲試薬を提供する。
【0039】
キットを使用する一つ又はそれ以上の蛋白質バイオマーカーの測定は、マススペクトロメトリー又はELISAのようなイムノアッセイによる。
【0040】
卵巣がんの検出のための精製された蛋白質及び/又は更なる診断アッセイのための抗体の産生もまた、提供される。精製された蛋白質は、配列番号1(IAIH4断片1)、配列番号2(IAIH4断片2)及び配列番号3(IAIH4断片3)の精製されたペプチドを含む。本発明はまた、検出可能な標識を含む、精製されたペプチドを提供する。
【0041】
本発明はまた、ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1,IAIH4断片2,及びIAIH断片3から選択される少なくとも二つのバイオマーカーに結合する、少なくとも一つの捕獲試薬を含む製品を提供する。本発明製品の他の態様は、更に、例えばCA125、CA125II、CA15−3、CA19−9、CA72−4、CA195、TATI、CEA、PLAP、シアリルTN、ガラクトシルトランスフェラーゼ、M−CSF、CSF−1、LPA、p110EGFR、組織カリクレイン、プロスタシン、HE4、CKB、LASA、HER−2/neu、尿ゴナドトロピンペプチド、ダイアノンNB70/K、TPA、オステオポンチン、ハプトグロビン、ビクニン及びMUC1並びにそれらの蛋白質の変異体(例えば開裂体やアイソフォーム等)であるバイオマーカーであるがこれらに限定されるものではないマーカー4である、その他の公知の卵巣がんマーカーに結合する捕獲試薬を含む。
【0042】
本発明はまた、個々がApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH断片3から選択される、異なるバイオマーカー及び少なくとも一つのマーカー4に結合するものである、複数の捕獲試薬、を含むシステムを提供する。
【0043】
本発明はまた、(a)カリクレインを、カリクレイン基質及び試験試薬と接触させ、(b)試験試薬がカリクレインの活性を調節するか否かを決定する、ことを含むスクリーニング試験を提供する。そのような一つの試験では、基質はインターαトリプシン阻害剤重鎖H4前駆体である。この試験では、カリクレインは好ましくは基質をIAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3からなる群より選択される、IAIH4断片へ開裂させるものである。
【0044】
別の態様では、経膣超音波、陽電子(ポジトロン)放出(型)断層撮影(法)(PET:Positron emission tomography)又は単光子放射型コンピュータ断層撮影(SPECT:single photon emission computerized tomography)画像化のような非侵襲性の医療画像化技術が、がん、冠状動脈疾病及び脳疾患の検出に特に有用である。X線写真、CT及びMRIのような画像化技術が主として構造を示すのに対して、超音波ドップラー血流検査、PET及びSPECT画像は臓器及び組織の化学的機能を示す。卵巣がんのような病気の判定及びモニタリングに、超音波血流検査、PET及びSPECTイメージングの有用性が増している。
【0045】
本明細書に開示されるペプチドバイオマーカー又はその断片はPET及びSPECTの撮像応用に使用できる。PET及びSPECTの応用に適したトレーサー残基で修飾した後、腫瘍蛋白質と相互に作用するペプチドバイオマーカーは、卵巣がん患者の体内で堆積したバイオマーカーを画像化するのに使用できる。
【0046】
本発明のその他の態様を、以下に記載する。
【0047】
(定義)
他に定義されない限り、本明細書に使用される全ての技術及び化学用語は、本発明の所属する技術分野の当業者に通常理解される意味を有するものである。以下の参照文献は、本発明において使用される用語の多くの一般的な定義を、当業者に提供するものである。Singletonら、Dictonary of Microbiology and Molecular Biology (2nd ed. 1994)、The Cambridge Dictionary of Science and Technology (Walker ed. 1988)、The Glossary of Genetics, 5th ed., R.Riegerら(eds.), Springer Verlag (1991)、Hale & Marhan, The Harper Collins Dictionary of Biology (1991)。本明細書で使用されるように、以下の用語は他に特定されない限り、それらの用語に割り当てられた意味を有するものである。
【0048】
「ガス相イオンスペクトロメーター」は、ガス相イオンを検出する器具を表す。ガス相イオンスペクトロメーターは、ガス相イオンを供給するイオン源を含む。ガス相イオンスペクトロメーターは、例えば、マススペクトロメーター、イオン移動性スペクトロメーター及び総イオン電流測定装置を含む。「ガス相イオンスペクトロメトリー」はガス相イオンを検出するためにガス相イオンスペクトロメーターを使用することを表す。
【0049】
「マススペクトロメーター」は、ガス相イオンのマス対荷電比に翻訳されることができるパラメーターを測定するガス相イオンスペクトロメーターを表す。マススペクトロメトリースペクトロメーターは一般にイオン源とマススペクトロメトリー分析器を含む。マススペクトロメーターの例には、飛行時間、磁気領域、四極フィルター、イオントラップ、イオンサイクロトロン共鳴、静電領域分析及びこれらの融合がある。「マススペクトロメトリー」とはガス相イオンを検出するためにマススペクトロメーターを使用することを表す。
【0050】
「レーザー脱離マススペクトロメーター」は、分析物を脱離、電圧をかけ及びイオン化する手段として、レーザーエネルギーを使用するマススペクトロメーターを表す。
【0051】
「タンデムマススペクトロメーター」は、イオン及びイオン混合物を含む、m/zに基づくイオンの分離や測定の二つの連続する工程を実行することが可能な、如何なるマススペクトロメーターをも表す。この用語には、イオンタンデムインスペースの、m/zに基づく分離や測定の二つの連続する工程を実行できる二つのマス分析器を有するマススペクトロメーターが含まれる。本用語は更に、イオンタンデムインスペースの、m/zに基づく分離や測定の二つの連続する工程を実行できる単一のマス分析器を有するマススペクトロメーターを含む。この用語はこのように、明らかに、Qq−TOFマススペクトロメーター、イオントラップマススペクトロメーター、イオントラップ−TOFマススペクトロメーター、TOF−TOFマススペクトロメーター、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴マススペクトロメーター、静電領域−磁気領域マススペクトロメーター、そしてこれらの組み合わせを含む。
【0052】
「マス分析器」はガス相イオンのマス対荷電比へ変換できるパラメーターの測定のための手段を含むマススペクトロメーターの副集合を表す。飛行時間マススペクトロメーターにおいて、マス分析器はイオン視覚集合、飛行チューブ及びイオン検出器を含む。
【0053】
「イオン源」は、ガス相イオンを提供するガス相イオンスペクトロメーターの副集合をあらわす。一つの態様では、イオン源は脱離/イオン化工程を通じてイオンを提供する。そのような態様は一般的に、イオン化エネルギーの源(例えばレーザー脱離/イオン化源)への質問可能な関係や、ガス相イオンスペクトロメーターの検出器と、大気圧又は副大気圧でともに伝達することに位置的に従事するプローブインターフェイスを含む。
【0054】
固相から分析物を脱離/イオン化するためのイオン化エネルギーの形態には、例えば(1)レーザーエネルギー、(2)早い原子(早い原子物理衝撃で使用される)、(3)放射核のβ崩壊で産生される高エネルギー粒子(プラズマ脱離で使用される)、(4)二次イオンを産生する一次イオン(二次イオンマススペクトロメトリーで使用される)が含まれる。固相分析物に対して好ましいイオン化エネルギーの形態は、レーザー(レーザー脱離/イオン化で使用される)、特に窒素レーザー、Nd−Yagレーザー及び他のパルスされたレーザー源である。「能力(fluence)」は質問可能なイメージのユニット領域当たりに運ばれるエネルギーを表す。レーザーのような高能力源は、約1mJ/mm2から50mJ/mm2運ぶだろう。通常、サンプルはプローブの表面に位置され、プローブはプローブインターフェイスと連動し、プローブ表面はイオン化エネルギーで衝撃を受ける。エネルギーは分析分子を表面からガス相へ脱離し、それらをイオン化する。
【0055】
分析物のためのイオン化エネルギーの他形態には、例えば(1)ガス相中性をイオン化する電子、(2)ガス相、固相、又は液相中性からイオンを誘導する強度な電気的領域、(3)固相、ガス相、液相中性の化学的イオン化を誘導するために、イオン化粒子又は中性化学物質を有する電気的領域の組み合わせを適用する源、が含まれる。
【0056】
「固体支持体」とは、捕獲試薬とともに誘導可能である又はそれに結合されることができる固体物質を表す。代表的な固体支持体には、プローブ、マイクロタイタープレート及びクロマトグラフィー樹脂が含まれる。
【0057】
本発明における「プローブ」とは、ガス相イオンスペクトロメーター(例えばマススペクトロメーター)のプローブインターフェイスに携わり、イオン化とマススペクトロメーターのようなガス相イオンスペクトロメーターへ誘導するためのイオン化エネルギーへ分析物を提示するように適合された装置を表す。「プローブ」は、一般的に分析物がイオン化エネルギー源に提示される、サンプル提示表面を含む固体基質(可動性又は非可動性)を含むものである。
【0058】
「表面活性化レーザー脱離/イオン化」又は「SELDI」は、分析物が、ガス相イオンスペクトロメーターのプローブインターフェースに携わるSELDIプローブの表面で分析物が捕獲される、脱離/イオン化ガス相イオンスペクトロメトリー(例えば、マススペクトロメトリー)法を表す。「SELDI MS」では、ガス相イオンスペクトロメーターはマススペクトロメーターである。SELDI技術は、例えば米国特許第5719060号(Hutchens及びYip)及び米国特許第6225047号(Hutchens及びYip)に開示されている。
【0059】
「表面増強親和性捕獲(Surface-Enhanced Affinity Capture)」又は「SEAC」は、吸着剤表面を含むプローブ(「SEACプローブ」)の使用を含むSELDIの形態である。「吸着剤表面」とは、吸着剤が結合する表面を表す(また「捕獲試薬」又は「親和性試薬」とも呼ばれる)。吸着剤は分析物に結合できるいかなる物質(例えば、標的ポリペプチドや核酸)でもよい。「クロマトグラフィー吸着剤」は、クロマトグラフィーで通常使用される物質を表す。クロマトグラフィー吸着剤には、例えばイオン交換物質、金属キレート(例えばニトリロ酢酸やイミノジ酢酸)、固定化された金属キレート、疎水性相互作用吸着剤、親水性相互作用吸着剤、染料、単純な生体分子(例えば、ヌクレオチド、アミノ酸、単純な糖や脂肪酸)及び吸着剤の混合物(例えば、疎水性吸引/静電反発作用吸着剤)が含まれる。「生体特異的吸着剤」とは、例えば核酸分子(例えばアプタマー)、ポリペプチド、ポリサッカライド、脂質、ステロイド又はこれらの接合物(例えばグリコプロテイン、リポプロテイン、グリコリピッド、核酸(例えばDNA)蛋白質接合体)を含む吸着剤を表す。ある例では、生体特異的吸着剤は多蛋白質複合体、生体膜やウイルスのような巨大分子構造であり得る。生体特異的吸着剤の例は、抗体、受容体蛋白質及び核酸である。生体特異的吸着剤は通常は、クロマトグラフィー吸着剤よりも標的分析物質に対してより特異的である。SELDIで使用される吸着剤の更なる例は、米国特許第6225047号(HutchensおよびYip, “Use of retentate chromatography to generate difference maps”, 2001年5月1日)において見出すことができる。
【0060】
いくつかの態様では、SEACプローブは選択される吸着物質を提供するように修飾されることができる前活性化された表面として提供される。例えば、あるプローブは共有結合を通じて生体分子を結合できる活性部分とともに提供される。エポキシドやカルボジイミジゾールは、抗体や細胞性受容体のような生体特異的吸着剤を共有結合する有用な反応性部分である。
【0061】
「吸着」とは、分析物の吸着剤や捕獲試薬への検出可能な非共有結合を表す。
【0062】
「表面活性化簡易脱離」又は「SEND」とは、化学的にプローブ表面に結合したエネルギー吸収分子を含むプローブ(「SENDプローブ」)の使用を含んでいるSELDIの形態である。「エネルギー吸収物質」(「EAM」)とは、レーザー脱離/イオン化源由来のエネルギーを吸着でき、それから接触する分析分子の脱離とイオン化に寄与できる分子を表す。この用語は、MALDIで使用される分子を含み、しばしば「マトリックス」として表され、他の物質と同様に、明らかに珪皮酸誘導体、シナピン酸(「SPA」)、シアノヒドロキシ珪皮酸(「CHCA」)、ジヒドロキシベンゾイックアシド、フェルリックアシド、ヒドロキシアセトフェノン誘導体を含む。それはまた、SELDIで使用されるEAMを含む。SENDは更に米国特許第5719060、米国特許出願第60/408255、2002年9月4日に出願されたもの(Kitagawa, “Monomers And Polyners Having Energy Absorbing Moieties Of Use In Desorption/Ionization Of Analytes”)に開示されている。
【0063】
「表面活性化光不安定装着及び放出」又は「SEPAR」は、分析物に共有結合して、それから、例えばレーザー光のような光に照射後に、その部分でのフォトラビル結合を切断して分析物を放出できる表面に装着された部分を有するプローブの使用を含む、SELDIの形態である。SEPARは更に、米国特許第5719060号に開示されている。
【0064】
「溶離液」又は「洗浄液」は、吸着表面への分析物質の吸着に影響する若しくは変更を加える及び/又は吸着表面から結合していない物質を取り除くために使用される通常は液体の試薬を表す。溶離液の溶離の特徴は、例えば、pH、イオン強度、疎水性、カオトロピズムの度合い、界面活性剤の強度及び温度に依存するものである。
【0065】
「分析物」とは、検出されることが望まれるサンプルのいかなる構成物質をも表す。本用語は、サンプル内の、単一の構成物質又は複数の構成物質を表すことができる。
【0066】
親和性捕獲プローブの吸着表面に吸着されたサンプルの「複雑さ」とは、吸着された、異なる蛋白質の種類の数を意図する。
【0067】
「分子結合パートナー」及び「特異的結合パートナー」とは、通常は特異的に結合する分子生物のペアーである、分子のペアーを表す。分子結合パートナーには、受容体とリがんド、抗体と抗原、ビオチンとアビジン、ビオチンとストレプトアビジンが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0068】
「モニターリング」とは、継続的にパラメーターを変えた際に変化を記録することを表す。
【0069】
「バイオチップ」とは、吸着物質が結合した一般的に平面の表目を有する固相基質を表す。しばしば、バイオチップの表面には、複数のアドレス可能な(addressable locations)位置が含まれ、それらの位置の各々はそこに結合する吸着物質を有している。バイオチップはプローブインターフェイスに携わるように適合されることができ、それ故プローブとして機能する。
【0070】
「プロテインバイオチップ」とは、ポリペプチドを捕獲するのに適したバイオチップを表す。多くのプロテインバイオチップは当該技術分野で公知である。それらには例えば、サイファージェン バイオシステムズ(フレモント、CA)、パッカード バイオサイエンス カンパニー(メリデン、CT)、ジオミックス(ヘイワード、CA)、フィロス(レキシントン、MA)が含まれる。それらのプロテインバイオチップの例は、以下の特許又は特許出願に開示されている。米国特許第6225047号(HutchensおよびYip、「異なる地図を産生するためのリテンテートクロマトグラフィーの使用」、2001年5月1日)、国際公開第99/51773号(Kuimelis及びWagner、「アドレス可能蛋白質アレイ」、1999年10月14日)、米国特許第6329209号(Wagnerら、「蛋白質捕獲試薬のアレイとその使用方法」、2001年12月11日)及び国際公開第00/56934号(Englertら、「継続的な多孔性マトリックスアレイ」、2000年9月28日)。
【0071】
サイファージェン バイオシステムズで製造されたプロテインバイオチップは、アドレス可能な位置に結合された、クロマトグラフ吸着又は生物特異的吸着物質を含んでいる。サイファージェン プロテインチップ(登録商標)アレイには、NP20、H4、H50、SAX−2、WCX−2、CM−10、IMAC−3、IMAC−30、LASX−30、LWCX−30、IMAC−40、PS−10、PS−20、PG−20が含まれる。これらの蛋白質バイオチップには、ストリップ形態でアルミニウム基質が含まれている。ストリップの表面はシリコンジオキサイドで覆われている。
【0072】
NP−20バイオチップの場合には、シリコンオキサイドは親水性蛋白質を捕獲するための親水性吸着物質として機能する。
【0073】
H4、H50、SAX−2、WCX−2、CM−10、IMAC−3、IMAC−30、PS−10、PS−20バイオチップは更に、バイオチップの表面に物理的に結合した、又はバイオチップの表面にシランを通じて共有結合したヒドロゲルの形態で機能的にされた、クロスリンクされたポリマーを含む。H4バイオチップは疎水性結合のためにイソプロピル官能基を有している。H50バイオチップは、疎水性結合のためにノニルフェノキシポリ(エチレングリコール)メタクリレイトを有している。SAX−2バイオチップはアニオン交換のために四級アンモニウム官能基を有している。WCX−2及びCM−10バイオチップは、カチオン交換のためのカルボキシレート官能基を有している。IMAC−3およびIMAC−30バイオチップは、キレートによりCu++やNi++のような遷移金属イオンを吸着するニトリロ酢酸官能基を有している。これらの固定化された金属イオンは、結合を調整することでペプチドおよび蛋白質を吸着させる。PS−10バイオチップは蛋白質上の基と共有結合へと反応できるカルボイミディゾール官能基を有している。PS−20バイオチップは蛋白質と共有結合するためのエポキシド官能基を有している。PS種のバイオチップは、抗体、受容体、レクチン、ヘパリン、プロテインA、ビオチン/ストレプトアビジン等のような生物特異的吸着物質を、サンプル由来の分析物質を特異的に捕獲するように機能するようなチップ表面に結合させるのに有用である。PG−20バイオチップは、プロテインGが結合したPS−20チップである。LSAX−30(アニオン交換)、LWCX−30(カチオン交換)、IMAC−40(金属キレート)バイオチップは表面上で機能的にされたラテックスビーズを有している。そのようなバイオチップは更に、WO00/66265(Richら、「ガス相イオンスペクトロメーターのためのプローブ」、2000年11月9日)、WO00/67293(Beecherら、「ガス相マススペクトロメーターのための疎水性被覆を有するサンプルホルダー」、2000年11月9日)、米国特許出願US20030032043A1(Pohl及びPapanu「ラテックスビーズの吸着チップ」、2002年7月16日)、米国特許出願60/350110(Umら、「疎水性表面チップ」、2001年11月8日)に記載されている。
【0074】
バイオチップ上に捕獲されて、分析物は、例えばガス相イオンスペクトロメトリー法、光学的手法、電気化学的手法、原子間力顕微鏡法及び高周波法から選択される、様々な検出方法により、検出することができる。ガス相イオンスペクトロメトリー法は本明細書に記載されている。特に興味深いのは、マススペクトロメトリー、特にSELDIの使用である。光学的手法には、例えば、蛍光、発光、化学発光、吸光度、反射、透過率、複屈折、又は屈折率(例えば表面プラズモン共鳴、偏光解析法、反響鏡手法、格子連結ウェーブガイド手法又は干渉)が含まれる。光学的手法には、顕微鏡(共焦点並びに非共焦点)、イメージング手法及び非イメージング手法が含まれる。様々な形態(例えばELISA)におけるイムノアッセイは、固相上に捕獲された分析物を検出するのに汎用される方法である。電気化学的手法には、ボルト及びアンペア手法が含まれる。高周波法には、多極共鳴分光学が含まれる。
【0075】
「測定」という用語は、サンプル内のマーカーの有無を検出、サンプル内のマーカーの定量及び/又はバイオマーカーのタイプを認定する方法を含む。測定は、当該技術分野公知の方法及び本明細書に記載の方法により達成できる。その方法にはSELDIやイムノアッセイが含まれるが、これらに限定されるものではない。本明細書に記載のマーカーの一つ又はそれ以上の検出及び測定には、適した方法であれば如何なる方法も使用することができる。これらの方法には、マススペクトロメトリー(例えばレーザー脱離/イオン化マススペクトロメトリー)、蛍光(例えばサンドイッチイムノアッセイ)、表面プラズモン共鳴、偏光解析法及び原子間力顕微鏡法が含まれるがこれらに限定されるものではない。
【0076】
「差別化されて存在する(differentially present)」という表現は、がん患者から採取されたサンプルに於けるマーカーの発現量及び/又は頻度の違いを、対照である対象生物と比較して言及するものである。例えばIAIH4断片は、対照の対象生物由来のサンプルと比べて、卵巣がん患者のサンプルに於いて上昇したレベルで存在する。一方、ApoA1及び本明細書に開示されているトランスサイレチンは、対照となる対象生物由来のサンプルと比較して、卵巣がん患者のサンプルに於いて減少したレベルで発現している。更にマーカーは、対照となる対象生物由来のサンプルと比較して、がん患者のサンプルに於いてより高頻度又はより低頻度に検出されるポリペプチドであってもよい。マーカーは量、頻度又はその両方に於いて差別化されて存在することができる。
【0077】
あるサンプルにおけるポリペプチドの量が、他のサンプルに於けるポリペプチドの量よりも、統計学的に顕著に異なる場合には、二つのサンプルの間では、ポリペプチドが異なって発現している。例えば他のサンプルよりも少なくとも約120%、少なくとも約130%、少なくとも約150%、少なくとも約180%、少なくとも約200%、少なくとも約300%、少なくとも約500%、少なくとも約700%、少なくとも約900%、若しくは少なくとも約1000%高く発現している、又は一つのサンプルで検出され、他のサンプルでは検出されない場合には、二つのサンプルに於いてポリペプチドは異なって発現している。
【0078】
一方又は加えて、卵巣がん患者のサンプルに於けるポリペプチドの検出頻度が、対照サンプルに於けるよりも統計学的に非常に高いか又は低い場合には、二つのサンプルセットの間に於いてポリペプチドは異なって発現している。例えば他のサンプルよりも少なくとも約120%、少なくとも約130%、少なくとも約150%、少なくとも約180%、少なくとも約200%、少なくとも約300%、少なくとも約500%、少なくとも約700%、少なくとも約900%、若しくは少なくとも約1000%より高い頻度又は低い頻度で他のサンプルセットに比べてあるサンプルセットに於いて観測される場合には、二つのサンプルに於いてポリペプチドは異なって発現している。
【0079】
「診断」とは、病理学的状態即ち卵巣がんの存在又は性質を同定することを意味する。診断方法は、その感度及び特異度により異なる。診断アッセイの「感度」とは、試験の結果が陽性(「真に陽性」のパーセンテージ)の罹患者のパーセンテージである。アッセイで検出されない罹患者は、「偽陰性」である。診断アッセイの「特異度」は、1から偽陽性率を引いたものであり、「偽陽性」率は陽性の疾患を有さないヒトの比率として定義される。特有の診断手法は状況の決定的な診断を提供しないかもしれないが、診断において助けとなる陽性の指標を提供する方法であれば、有用である。
【0080】
マーカーの「試験量」とは、試験されるサンプルに存在するマーカーの量を表す。試験量は絶対量(例えばμg/ml)又は相対量(例えばシグナルの相対強度)であることができる。
【0081】
マーカーの「診断量」は、卵巣がんの診断と一致する対象生物のサンプルに於けるマーカーの量をあらわす。診断量は絶対量(例えばμg/ml)又は相対量(例えばシグナルの相対強度)であることができる。
【0082】
マーカーの「対照量」は、マーカーの試験量に対して比較される量又は量の幅であることができる。例えばマーカーの対照量は卵巣がんでないヒトに於けるマーカーの量であることができる。対照量は絶対量(例えばμg/ml)又は相対量(例えばシグナルの相対強度)であることができる。
【0083】
「抗体」とは、イムノグロブリン遺伝子或いは複数のイムノグロブリン遺伝子により実質的にコードされるポリペプチドリガンド、又はその断片を表し、エピトープ(例えば抗原)に特異的に結合して認識するものである。認識されるイムノグロブリン遺伝子は、κならびにλ定常領域遺伝子、α、γ、δ、ε、μ重鎖定常領域遺伝子及びミリアードイムノグロブリン可変領域遺伝子を含む。抗体は例えば、完全なイムノグロブリン又は様々なペプチダーゼにより消化されて産生された多くのよく特徴づけられた断片として存在する。これには例えばFab‘およびF(ab)’2断片が含まれる。本明細書で用いる「抗体」という用語はまた、抗体全体の修飾により又は組換えDNAメソドロジー技術を使用してデノボ合成された抗体断片を含む。また、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、化学抗体、ヒト化抗体、又は一本鎖抗体も含まれる。抗体の「Fc」部分は、一つ又はそれ以上の重鎖定常領域ドメインであるCH1、CH2およびCH3を含むが、重鎖可変領域を含まないイムノグロブリン重鎖の部分を表す。
【0084】
「対象生物の治療又は処置管理」とは、卵巣がんの状態を決定した後の医者の行動を表す。例えばもし本発明の方法の結果が決定的でなく、又は、状態を確かめる必要性がある場合には、医者は更なる試験を指示するであろう。また、卵巣がんの状態が、手術が適切であることを示している場合には、医者は患者の手術を予定するだろう。同様に、例えば後期卵巣がんのように否定的な状態である場合、又は症状が急性(acute)である場合には、更なる手段はとられないであろう。更に、もし結果が治療又は処置管理の成功を示すものであれば、更なる治療又は処置管理は必要ない。
【0085】
(発明の詳細な説明)
本発明は、プロテインチップ(登録商標)バイオマーカーシステム(サイファージェンバイオシステムズ、インコーポレイテッド、フレモント、CA)を使用して、卵巣がんと診断された患者及び公知の腫瘍疾患に罹患していない患者由来の蛋白質プロファイルの比較から産生されたバイオマーカーを提供する。これらのバイオマーカーは、その他の公知の卵巣がんマーカーと共に、個々のおよび多変量予測モデルに於いて評価された。特にこれらのバイオマーカーは個々で又は好ましくはこのグループ由来の他のバイオマーカー又は他の診断試験と組み合わせて、対象生物に於ける卵巣がん状態を測定する(determining)新規な方法を提供する。
【0086】
有効なバイオインフォマティックス手段と組み合わせた蛋白質のハイスループットなプロファイリングは、がんマーカーをスクリーニングするための有用な手段を提供する。要するに、本発明で使用されるシステムは、SELDI(表面活性化レーザー脱離/イオン化)を使用してサンプルをアッセイするために、クロマトグラフィープロテインチップ(登録商標)アレイを使用する。アレイに結合した蛋白質をプロテインチップ(登録商標)リーダー、飛行時間型質量分析計に読み込む。
【0087】
バイオマーカー(本明細書で「マーカー」とも称される)とは、ある症状の表現型(例えば、病気に罹患している)の対象生物から得たサンプルに、別の症状の表現型(例えば、病気に罹患していない)に較べて、差別化されて存在する有機生体分子である。その異なる群において、バイオマーカーの発現レベルの平均値又は中央値が統計的に有意であると計算される場合、バイオマーカーは異なる症状の表現型に於いては差別化されて存在する。統計的有意性に関する通常の試験には、数ある中で、t検定、算術平均(ANOVA)、クラスカル・ワリス検定(Kruskal−Wallis)、ウィルコクソン検定(Wilcoxon)、マン・ホイットニー検定(Mann−Whitney)及びオッズ比(odds ratio)が含まれる。バイオマーカーは、単独で又は組み合わせて、生物対象が一方の表現型に属しているのか、又はもう一方の表現型に属しているかの相対リスクの測定を提供する。従って、バイオマーカーは、疾病(診断)、治療又は処置における薬の有効性(テラノスティック)及び薬物の毒性のマーカーとして有用である。
【0088】
本発明は、卵巣がん患者と対照の対象生物のサンプルに差別化されて存在する蛋白質マーカー、並びにこの発見を卵巣がんの状態を決定するための方法及びキットに適用することに基づくものである。これらの蛋白質マーカーは、卵巣がん患者由来のサンプルに於いてヒトのがんが検出されない女性由来のサンプルに於けるレベルとは異なるレベルで見出される。従って、対照と比較して試験サンプルにおいて見出された一つ又はそれ以上のマーカーの量、又は、試験サンプルにおける一つ又はそれ以上のマーカーの有無は、患者の卵巣がんの症状に関する有用な情報を提供する。
【0089】
I.バイオマーカーに関する記載
A.アポリポプロテインA1
本発明の方法において有用なマーカーの一例は、アポリポプロテインA1であり、これは本明細書では「ApoA1」と表される。ApoA1はm/z28043(マーカーXXIV)のピークとして、マススペクトロメトリーで検出される。本明細書に開示されるマーカーの分子量は、開示されるSELDIマススペクトロスコピー手順により測定される特定値に対して0.15%以内の正確性であると考えられている。従って、ApoA1はm/z28055のピークとしても検出されるものである。
【0090】
ApoA1は手順に従って血液を分画化し、IMACチップへ適用した後、SELDIにより検出して見出した。精製した蛋白質はトリプシンで消化し、アポリポプロテインA1と同定した。ApoA1の単離及び同定のための手順は、以下の実施例に開示されている。ApoA1は卵巣がん患者に於いてある病期(stage)ではダウンレギュレートされている。従って、ApoA1の欠如や、健常な対照との比較に於いてApoA1量の統計学的に有意な減少は、卵巣がんの症状と関連性があると言える。統計学的に有意な減少とは、例えばp値が0.05よりも低いものであり、当該技術分野では公知である。
【0091】
本発明の好ましい方法は、修飾されたApoA1の使用を含む。ApoA1の修飾は、翻訳後の様々な化学基の追加、例えば、グルコシル化、脂質化、システイン化及びグルタチオン化、を含んでいてもよい。
【0092】
修飾されたApoA1の特に好ましい例は、m/z29977.4(マーカーXXV)のピークである。この修飾されたApoA1のピークは上述のApoA1の質量分析(MS)のピークの肩部として現れる。他の好ましい修飾されたApoA1の形態は、m/z28262、28473、28692、28844及び29031のピークである。図15及び16は、修飾されたApoA1バイオマーカーのピーク位置を示す質量スペクトルを表す。
【0093】
B.トランスサイレチン
本発明の方法において有用なマーカーの他の例には、プレアルブミンの形態であり、本明細書で「トランスサイレチンΔN10」と表されるものが含まれる。トランスサイレチンΔN10はm/z12870.9のピークとして、マススペクトロメトリーで検出される。トランスサイレチンΔN10は手順に従って血液を分画化し、IMACチップへ適用後のSELDIによる検出で、見出された。免疫沈降およびタンデムマススペクトロメトリーにより、精製された蛋白質はN末端の10個のアミノ酸を欠如するプレアルブミンの切断された形態(本明細書では「トランスサイレチンΔN10」と表される)であることが見出された。トランスサイレチンΔN10の単離及び同定のための手順は、以下の実施例に開示されている。トランスサイレチンΔN10もまたある病期(stage)の卵巣がん患者に於いてはダウンレギュレートされている。よってトランスサイレチンΔN10の欠如又は正常な対照と比較したトランスサイレチンΔN10量に於ける統計学的に有意な減少は、卵巣がん状態と関連があるだろう。
【0094】
本発明はトランスサイレチンΔN10を使用するものとして本明細書に記載されている。しかしながら未変性のトランスサイレチン(理論上の質量が13,761又は13,767ダルトン)もまた、本発明の方法には有用である。本発明の好ましい方法は、更に、修飾された形態のトランスサイレチンの使用を含む。トランスサイレチンの修飾は翻訳後の様々な化学基の追加、例えばグリコシル化、脂質化、システイン化、スルホン化、CysGlyでの修飾及びグルタチオン化を含んでいてもよい。
【0095】
修飾されたトランスサイレチンの特に好ましい例は、システイン化されたトランスサイレチンである(m/z 13,890.8又は13888ダルトンのピーク。)図8はトランスサイレチンのシステイン化である還元及びアルキル化の後のピークパターンの変化を表す。別の修飾されたトランスサイレチンの好ましい例は、グルタチオン化されたトランスサイレチンである(m/z 14,086.9又は14,093ダルトンのピーク。)また別の修飾されたトランスサイレチンの好ましい例は、スルホン化されたトランスサイレチンである(m/z 13,850ダルトンのピーク。)更に、別の修飾されたトランスサイレチンの例は、CysGlyで修飾されたトランスサイレチンである(m/z 13,944ダルトンのピーク。)
【0096】
図6は、切断された(トランスサイレチンΔN10)、未修飾の、システイン化された、及びグルタチオン化されたトランスサイレチンの相対的なサイズを表す。図7に表されるように、他のがん及びがんに罹患していない対照と比較したとき、切断されたトランスサイレチンの(トランスサイレチンΔN10)、未修飾の(未変性の)トランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン及びグルタチオン化されたトランスサイレチンの全てが卵巣がんの患者に於いて、より低くなっている(p値<0.001)。
【0097】
C.IAIH4断片
本発明の方法に於いて有用なマーカーのその他の例は、インターαトリプシン阻害剤重鎖H4の開裂した断片であり、本明細書では選択的に「IAIH4断片」、「ITIH4断片」及び/又はPK−120断片と表されるものである。好ましい態様では、IAIH4断片はIAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3からなる群より選択される。更に好ましい態様では、一般的な「IAIH4断片」という用語は、IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3の何れをも含む。
【0098】
IAIH4断片1はm/z3272ピークとして、マススペクトロメトリーで検出される。IAIH4断片1は手順に従って血液を分画化し、IMACチップへ適用後のSELDIによる検出で、見出された。ピークは一連のクロマトグラフィー分離技術を使用して、卵巣がんの集められた血清から精製された。その配列はMNFRPGVLSSRQLGLPGPPDVPDHAAYHPF(配列番号1)と決定され、ヒトインターαトリプシン阻害剤、重鎖H4(IAIH4、ITIH4又はPK−120としても表される)の660−689アミノ酸断片であった。この結果はマーカーのペプシン消化産物の分析により確認された。IAIH4断片1はある病期(stage)の卵巣がん患者に於いてはアップレギュレートされている。よってIAIH4断片1の存在又は正常な対照と比較したIAIH4断片1量に於ける統計学的に有意な増加は、卵巣がん状態と関連があるだろう。
【0099】
IAIH4に対して抗体を使用するSELDIイムノアッセイを、卵巣がんのあるステージに於いてアップレギュレートされる他のIAIH4断片の同定に使用した。そのようないくつかの断片が同定され、それらのうち2つが卵巣がんと卵巣がん以外のがんに於いて統計的に有意な差を示した(図5参照)。IAIH4断片2の配列はFRPGVLSSRQLGLPGPPDVPDHAAYHPF(配列番号2)と決定され、それは最初の2つのアミノ酸残基除いたIAIH4断片1の全てのアミノ酸を含む。IAIH4断片2は、m/z3,031ピークとしてマススペクトメトリーで検出される。IAIH4断片3の配列はRPGVLSSRQLGLPGPPDVPDHAAYHPF(配列番号3)と決定され、それは最初の3つのアミノ酸残基除いたIAIH4断片1の全てのアミノ酸を含む。IAIH4断片3はm/z2,884ピークとしてマススペクトロメトリーで検出される。IAIH4断片1と同様に、IAIH4断片1及び2も、ある特定の病期(stage)の卵巣がん患者に於いてアップレギュレートしている。従って、IAIH4断片1及び2の存在、又はIAIH4断片1及び2の量が健康な(normal)対照と較べて増加していることは、卵巣がんの症状と関連性がある。
【0100】
更に、本発明の好ましい方法は修飾された形態のIAIH4断片の使用を含む。IAIH4断片の修飾は翻訳後の様々な化学基の追加、例えばグリコシル化、脂質化、システイン化及びグルタチオン化を含んでいてもよい。
【0101】
E.見出されたその他の卵巣がんマーカー
卵巣がんの状態と関連性を有する更なるバイオマーカーが、pH4及びpH9で溶出された分画に於いて同定された。pH4では、これらのバイオマーカーに対応する蛋白質又はその断片が、SELDI(表面活性化レーザー脱離/イオン化)プロテインチップ/マススペクトルに、以下に示される値を中心とする分子量の強度ピークとして現れた。
【0102】
【0103】
【0104】
pH9では、これらのバイオマーカーに対応する蛋白質又はその断片が、SELDI(表面活性化レーザー脱離/イオン化)プロテインチップ/マススペクトルに、以下に示される値を中心とする分子量の強度ピークとして現れた。
【0105】
【0106】
マーカーI〜XLVIIIのこれらの質量は、開示されたSELDIマススペクトロスコピーで測定された特定値に対して0.15%以内の正確性であると考えられる。
【0107】
上述したように、マーカーI〜XLVIIIはまた、吸着物への親和性、とりわけ以下に示される実施例の一般的な解説のプロテインチップ分析に特定される条件下で固定化されたキレート(IMAC)−銅基質の表面への結合、に基づいて特徴付けられる。
【0108】
E.公知の卵巣がんマーカー
本発明のある態様はまた、ApoA1、トランスサイレチンΔN10、IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3から選択される一つ又はそれ以上のマーカーと組み合わせて、公知の卵巣がんバイオマーカーを使用するものである。「マーカー4」という用語は、本明細書では公知の卵巣がんマーカーを表すのに使用される。マーカー4として有用なマーカーの例には、CA125、CA125II、CA15−3、CA19−9、CA72−4、CA195、TATI、CEA、PLAP、シアリルTN、ガラクトシルトランスフェラーゼ、M−CSF、CSF−1、LPA、p110EGFR、組織カリクレイン、プロスタシン、HE4、CKB、LASA、HER−2/neu、尿ゴナドトロピンペプチド、ダイアノンNB70/K、TPA、オステオポンチン、ハプトグロビン、ビクニン及びMUC1並びにそれらの蛋白質の変異体(例えば開裂体やアイソフォーム等)であるバイオマーカーが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0109】
これらのマーカーは、その血中レベルを健常者と比較することにより、卵巣がんを診断するのに有用である。例えばCA125は、卵巣がんの女性の血中で上昇していることが知られている。同様に、CA19−9、CA72.4、CA195、TATI、インヒビン、PLAP及びその他は、卵巣がんの女性の血中で上昇していることが知られている。本発明のある特定の好ましい態様では、ApoA1、トランスサイレチンΔN10、IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3から選択されるマーカーの少なくとも一つと共に、少なくとも一つの公知のマーカー(マーカー4)が本発明の方法に含まれる。
【0110】
F.修飾された形態のバイオマーカーの使用
サンプル中に、検出可能な質量差によって特徴付けられる複数の異なる形態で頻繁に存在する蛋白質が発見されている。これらの形態は、翻訳前及び翻訳後の修飾の何れか一方、若しくは両方の結果として起こり得る。翻訳前の修飾による形態には対立遺伝子多型、スライス多型(slice variants)及びRNA編集型を含む。翻訳後の修飾による形態には、切断された、蛋白質分解による分裂(例、親蛋白質の断片)、グリコシル化、脂質化、システイン化、グルタチオン化、リン酸化反応、プレニル化、アシル化、アセチル化、メチル化、硫酸化、スルホン化、水酸化、ミリストイル化 、ファルネシル化 、酸化及びユビキチン化を含む。特定の蛋白質及びその蛋白質の修飾された全ての形態を含む集合を本明細書では「蛋白質群」とする。特定の蛋白質の全ての修飾された形態から成り、その特定の蛋白質自体を除いた集合を、本明細書では「修飾された蛋白質群」とする。本発明の何れのバイオマーカーの修飾された形態もまた、それ自体がバイオマーカーとして使用されてもよい。特定のケースでは、診断に於いて、修飾された形態の方が本明細書で説明される特定の形態のものよりも優れた識別力を示すかもしれない。
【0111】
バイオマーカーの修飾された形態は、最初は、修飾されたバイオマーカーを検出し区別することができるいずれの手法によっても検出できる。初期の検出の好ましい方法には、最初にバイオマーカーとその修飾された形態を、例えば生体特異性捕獲試薬で、捕獲し、続いて捕獲された蛋白質をマススペクトロメトリーにより検出する方法がある。より具体的には、蛋白質を、バイオマーカー及びその修飾された形態を認識する抗体、アプタマー又はアフィボディ(Affibodies)のような生体特異性捕獲試薬を使用して捕獲する。本発明の方法はまた、蛋白質インタラクター(protein interactor)の捕獲に帰着するものであるが、蛋白質インタラクターとは蛋白質と結合するか、又は抗体により認識され、それら自体がバイオマーカーとなり得るものである。好ましくは、生体特異性捕獲試薬は固相に結合する。次に、捕獲された蛋白質を、SELDIマススペクトロメトリーにより検出する。又は、捕獲試薬から蛋白質を溶出させて伝統的なMALDI若しくはSELDIで検出する。マススペクトロメトリーの使用は、修飾された蛋白質を、標識化を要することなく、質量に基づいて識別、定量化できるので特に魅力的である。
【0112】
好ましくは、生体特異性捕獲試薬はビーズ、平板、膜又はチップ(小片)のような固相と結合する。抗体のような生体分子の固相への結合方法は当該技術分野で周知である。これらの方法は、例えば、二機能性の(bifunctional)連結剤を採用するか、又は固相を、エポキシド又はイミジゾールのような反応基で、分子に接触すると直ぐに結合するように誘導体化(derivatized)することができる。異なる標的蛋白質に対する生体特異的な捕獲試薬は、同一の場所にて混合できる、又はそれらは異なる物理的な位置若しくはアドレス可能な位置で固相に結合することができる。例えば、複数のカラムに被覆ビーズ(derivatized beads)を積載し、各々のカラムで単一の蛋白質群を捕獲できる。或いは、様々な蛋白質群に対する捕獲試薬で誘導体化した異なるビーズをカラムに詰め、それにより全ての検体を一カ所に捕獲する。従って、ルミネックス(オースティン、TX)のxMAP技術のような、抗体誘導体化ビーズの技術(antibody-derivatized bead-based technologies)を蛋白質群の検出に使用することができる。しかしながら、生体特異性の捕獲試薬は、識別目的で、蛋白質群の個々のメンバーを特異的に指向する必要性がある。
【0113】
また別の態様に於いては、バイオチップの表面の同じ場所又はアドレス可能な物理的に異なる場所を、蛋白質群の捕獲試薬で誘導体化することができる。異なる蛋白質群をアドレス可能な異なる場所で捕獲することの利点の一つは、分析がよりシンプルになることである。
【0114】
修飾された形態の蛋白質と目的の臨床指標との相互関係が特定されれば、修飾された形態は本発明の何れの方法に於いてもバイオマーカーとして使用できる。この点に於いて、修飾された形態は、親和性捕獲の後にマススペクトロメトリーによる方法、又は修飾された形態を特異的に指向する伝統的なイムノアッセイを含む、何れの特異的な検出方法によっても検出可能である。イムノアッセイは、検体を捕獲する抗体のような生体特異性捕獲試薬を必要とする。更に、アッセイが蛋白質とその修飾された形態を特異的に識別するように設計される必要性があれば、例えば、サンドイッチ法を用いれば可能となる。サンドイッチ法は、一つの抗体が複数の形態を捕獲し、第二の、明確に標識(labeled)された抗体が、様々な形態に特異的に結合して、明確な検出を提供する。抗体は動物に生体分子で免疫性を与えることにより産生できる。本発明は、他の酵素免疫測定法に加えて、伝統的なイムノアッセイ、例えばELISA及び蛍光ベースのイムノアッセイを含むサンドイッチイムノアッセイを意図する。
【0115】
II試験サンプル
A)対象生物(subject)の型
サンプルは、例えば卵巣がんの状態の確定を望む女性などの対象患者(subject)から集める。対象患者は家系的に卵巣がんの高度の危険性が高い女性であってもよい。他の患者には、卵巣がんに罹っている女性が含まれ、試験は患者が受ける療法又は治療の効果を決定するために使用される。また、患者には、通常の試験の一部として又はバイオマーカーのベースラインレベルを確立するために試験される、健常人が含まれる。サンプルは、既に卵巣がんと診断され、軽減治療を受けてたことのある女性、又おそらくは、回復した女性から収集してもよい。
【0116】
B)サンプルの型及びサンプルの調製
マーカーは種々の異なった型の生体サンプルで測定することができる。サンプルは好ましくは体液サンプルである。有用な体液サンプルの例には、血液、血清、血漿、膣分泌、尿、涙、精液等が含まれる。マーカーは全て血清内で見出されることから、本発明の態様に於いて血清が好ましいサンプル源である。
【0117】
所望により、サンプルはマーカーの検出度を増強するように調製される。例えば、マーカーの検出度を増強するために、対象生物由来の血清サンプルは好ましくは、例えばチバクロンブルーアガロースクロマトグラフィー、一本鎖DNA親和性クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー(例えば、抗体)等により分画化される。分画法は使用される検出方法のタイプに依存する。興味ある蛋白質を豊富にする如何なる方法をも使用できる。前分画化プロトコールのような、サンプル調製は適宜行われ、使用される検出方法に依存するマーカーの検出度を増強させるために必要ではないかもしれない。例えば、マーカーに特異的に結合する抗体がサンプル内のマーカーの存在を検出するために使用される場合には、サンプル調製は不要である。
【0118】
通常、サンプル調製にはサンプルの分画化とバイオマーカーを含むことが決定された分画を収集することが含まれる。前分画化の方法には、例えばサイズ除去クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ヘパリンクロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、連続的抽出、ゲル電気泳動及び液体クロマトグライフィーが含まれる。分析物はまた検出に先立って修飾されることができる。これらの方法は更なる分析のためにサンプルを単純化するために有用である。例えば、アルブミンのような高吸光度蛋白質を、分析の前に血液から除去することは有用であろう。分画化方法の例はPCT/US03/00531に記載されているが、その全てを本明細書に取り込む。
【0119】
好ましくは、サンプルは陰イオン交換クロマトグラフィーにより前分画化される。陰イオン交換クロマトグラフィーは、その電荷の特徴にしたがっておおまかにサンプル内の蛋白質を前分画できる。例えばQ陰イオン交換樹脂が使用されることができ(例えばQハイパーD F、バイオセプラ)、サンプルは続いて異なるPHを有する溶出液により溶出されるだろう。陰イオン交換クロマトグラフィーは、他の型の生体分子から、より陰性に荷電したサンプル内の生体分子を分離する。高いpHを有する溶出液で溶出される蛋白質は、弱く陰性に荷電しているだろうし、低いpHを有する溶出液で溶出される蛋白質は、より強く陰性に荷電しているだろう。よって、サンプルの複雑性を減じることに加えて、陰イオン交換クロマトグラフィーはその結合特徴にしたがって蛋白質を分離する。
【0120】
好ましい態様では、血清サンプルは陰イオン交換クロマトグラフィーで分画化される。高い吸光度蛋白質による、より低い吸光度蛋白質のシグナル抑制は、SELDIマススペクトロメトリーに対して重要な難題を表す。サンプルの分画化は、個々の分画における構成物の複雑性を減じる。この方法はまた、ある分画へ吸光度の高い蛋白質を単離しようとし、それによってより低い吸光度の蛋白質に於けるシグナル抑制効果を減少させることができるだろう。陰イオン交換分画はその等電点(pI)により蛋白質を分離する。蛋白質はアミノ酸から作られており、それらは両極性であり、その荷電はアミノ酸がさらされる環境のpHに依存して変化する。蛋白質のpIは蛋白質がネットの荷電を有さないpHである。蛋白質は環境のpHが蛋白質のpIと等しいときに中性に荷電すると予想される。pHが蛋白質のpIより上昇すると、蛋白質はネットで陰性に荷電すると予想される。動揺に環境のpHが蛋白質のpIより加工すると、蛋白質はネットで陽性に荷電する。血清サンプルは、本明細書に記載のマーカーを得るために、以下の実施例に記載されるプロトコールにしたがって分画化された。
【0121】
陰イオン交換上での捕獲の後、蛋白質はpH9、pH7、pH5、pH4、pH3という一連の洗浄工程で溶出された。三つの潜在的なバイオマーカーのパネルは、3つの分画(pH9/流出、pH4、有機溶媒)のプロファイリングデータのUMSA分析により発見された。二つのピークはpH4分画由来のm/z12828、28043であり、両方はがんグループに於いてダウンレギュレートされており、三番目はpH9/流出分画由来のm/z3272であり、がんグループにおいてアップレギュレートされていた。固定化された金属親和性クロマトグラフィーアレイに結合したものは全て、銅イオンでチャージされた(IMAC3−Cu)。(図1のスペクトル)
【0122】
サンプル内の生体分子はまた、例えば一次元又は二次元ゲル電気泳動のような、高い分析電気泳動により分離されることができるだろう。マーカーを含む分画は、ガス相イオンスペクトロメトリーにより単離され、更に分析されることができるだろう。好ましくは、二次元ゲル電気泳動は、一つ又はそれ以上のマーカーを含む、生体分子スポットの二次元アレイを産生するために使用される。例えばJungblut及びThiede, Mass Spectr. Rev. 16: 145-162 (1997)参照。
【0123】
二次元ゲル電気泳動は、当該技術分野公知の方法を使用して行われることができる。例えばDeutscher ed., Methods In Enzymology vol.182参照。通常、サンプル内の生体分子は、例えば、サンプル内の生体分子がそのネット荷電がゼロ(すなわち等電点)になるスポットに達するまで、pH勾配で分離されるような、等電点焦点により、分離される。この最初の分離工程は、生体分子の一次元アレイを生じる。一次元アレイ内の生体分子は更に、最初の分離工程に於いて使用されるものとは一般的に異なる技術を使用して分離される。例えば、二次元に於いて、等電点焦点により分離された生体分子は更に、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS−PAGE)の存在下でノポリアクリルアミドゲル電気泳動のような、ポリアクリルアミドゲルを使用して分離される。SDS−PAGEゲルは、生体分子の分子量に基づいて更に分離させることができる。通常、二次元ゲル電気泳動は、複雑な混合物内の1000−200000ダルトンの分子量を有する化学的に異なる生体分子を分離できる。これらのゲルのpI範囲は、約3−10(広範囲ゲル)である。
【0124】
二次元アレイ内の生体分子は、当該技術分野公知の如何なる好適な技術を使用して検出してもよい。例えばゲル内の生体分子は、標識又は染色することができる(例えばクマシーブルー又は銀染色)。ゲル電気泳動が、本発明の一つ又はそれ以上のマーカーの分子量に対応するスポットを産生した場合には、そのスポットは更にガス相イオンスペクトロメトリーにより分析されることができるだろう。例えば、スポットはゲルから取り出され、ガス相イオンスペクトロメトリーにより分析されることができるだろう。または、生体分子を含むゲルは、電解液を添加することで不活性膜へ移送されることができるだろう。それから、マーカーの分子量におおよそ対応する膜上のスポットはガス相イオンスペクトロメトリーにより分析されることができるだろう。ガス相イオンスペクトロメトリーでは、スポットは、本明細書に記載のMALDI又はSELDI(例えばプロテインチップアレイを使用して)のようないかなる適した技術をも使用して分析されることができる。
【0125】
ガスイオンスペクトロメトリー分析に先立って、プロテアーゼ(例えばトリプシン)のような解裂試薬を使用して、スポット内の生体分子をより小さい断片に解裂させることが望ましいだろう。生体分子の小さい断片への消化は、スポット内の生体分子のマスフィンガープリントを提供し、よって所望によりマーカーを同定するために使用されることができるだろう。
【0126】
高パフォーマンス液体クロマトグラフィー(HPLC)はまた、極性、電解及び大きさのような、異なる物理的な性質に基づいて、サンプル内の生体分子の混合物を分離するために使用することができるだろう。HPLC装置は通常、可動性相の貯蔵、ポンプ、インジェクター、分離カラム及び検出器からなる。サンプル内の生体分子は、サンプル溶液をカラムへ注入することで分離される。混合物内の異なる生体分子が、可動性液相と静止相の間におけるそれらの群分離様式の相違に依存して、異なる速度でカラムを通過する。一つ又はそれ以上のマーカーの分子量及び/又は物理的性質に対応する分画が集められることができる。分画はそれからガス相イオンスペクトロメトリーによりマーカーを検出するために分析されることができる。例えばスポットは、本明細書に記載のMALDI又はSELDI(例えばプロテインチップアレイを使用して)を使用して分析されることができる。
【0127】
適宜、マーカーは、その感度を改良するため又は同定するために、分析に先立って修飾されることができる。例えば、マーカーは分析の前に蛋白質消化を行われることができる。いかなるプロテアーゼでも使用できる。トリプシンのようなマーカーを別個の断片へと解裂させるようなプロテアーゼは、特に有用である。消化された分画から生じた断片は、マーカーのフィンガープリントとして機能し、よってその同定を間接的に可能にする。これは、問題とされるマーカーに対して困惑されるような類似の分子量を有するマーカーがある場合において、特に有用である。また、蛋白質断片化は、より小さいマーカーはマススペクトロメトリーでより容易に分析されることから、高分子量マーカーのために有用である。他の例では、生体分子は検出分析を改良するために修飾されることができる。例えば、ノイラミニダーゼは、陰イオン性吸着物質(例えばカチオン交換プロテインチップアレイ)への結合を改善するため及び、検出分析を改善するために、グリコプロテインから末端のシアル酸残基を除去するために使用されることができる。他の例では、分子マーカーに特異的に結合してそれらを区別する特有の分子量マーカーのタグを装着することで、分子マーカーは修飾されることができる。適宜、そのような修飾されたマーカーの検出の後に、マーカーの同一性は、更に蛋白質データベース(例えばSwissProt)で修飾されたマーカーの物理的及び化学的な特徴とマッチさせることで決定されることができる。
【0128】
III.マーカーの捕獲
マーカーは好ましくは、個々に開示される如何なるバイオチップ、マルチウエルマイクロタイタープレート又は樹脂のような、固体支持体に固定化された捕獲試薬により捕獲される。特に、本発明のバイオマーカーは、好ましくはSELDI蛋白質バイオチップ上に捕獲される。捕獲はクロマトグラフィーの表面又は生体特異的表面に於いて行われる。反応性表面を含むSELDI蛋白質バイオチップの如何なるものでも、本発明のバイオマーカーを捕獲及び検出するために使用されることができる。しかしながら、本発明のバイオマーカーは固定化された金属キレートによく結合する。IMAC−3及びIMAC30バイオチップは、ニトリル酢酸がキレートによりCu++やNi++のような遷移金属イオンを吸着するもので、本発明のバイオマーカーを捕獲するための好ましいSELDIバイオチップである。反応性表面を含むSELDI蛋白質バイオチップであれば、どれでも本発明のバイオマーカーの捕獲及び検出に使用できる。これらのバイオチップは生体分子を特異的に捕獲する抗体を運搬することができ、又は、イムノグロブリンに結合するプロテインA又はプロテインGのような捕獲試薬とともに運搬することができる。それから生体分子は特異的な抗体を使用して溶液内で捕獲することができ、捕獲された生体分子は捕獲試薬を通じてチップ上で単離される。
【0129】
一般的に、血清のようなバイオマーカーを含むサンプルは、バイオチップの活性表面上に結合するのに十分な時間だけ置いておく。それから結合していない分子は、リン酸緩衡生理食塩水のような適切な溶出液を使用してその表面から洗浄する。一般に溶出液がストリンジェントであればあるほど、蛋白質が洗浄後に残るためには、より強固に結合していなければならない。保持された蛋白質バイオマーカーは、適切な手段により検出することができる。
【0130】
IV.マーカーの検出と測定
例えばバイオチップ又は抗体のような基質に一旦捕獲されれば、適切な方法であればどれでも、サンプル内の一つ又はそれ以上のマーカーを測定するために使用できる。例えば、マーカーは、ガス相イオンスペクトロメトリー法、光学的手法、電気化学的手法、原子間力顕微鏡法、高周波法を含む、様々な検出方法により、検出及び/又は測定することができる。これらの方法を使用することで、一つ又はそれ以上のマーカーが検出できる。
【0131】
A)SELDI
バイオマーカーの検出及び/又は測定の一つの好ましい方法は、マススペクトロメトリー、特に、「表面活性化レーザー脱離/イオン化」又は「SELDI」を使用する。SELDIとは、分析物がプローブインターフェースを司るSELDIプローブの表面に捕獲される、脱離/イオン化ガス相イオンスペクトロメトリー(例えばマススペクトロメトリー)の方法のことである。「SELDI MS」では、ガス相イオンスペクトロメーターはマススペクトロメーターである。SELDI技術は詳しく上述されている。ApoA1、修飾された6つの形態のApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3は、それぞれm/z約28043(又は28055);m/z約29977.4,28262,28473,28692,28844,及び29031;m/z約3031;及びm/z約2884として検出される。
【0132】
B)イムノアッセイ
他の態様では、イムノアッセイがサンプル内のマーカーの検出及び分析に使用される。この方法は、(a)マーカーに特異的に結合する抗体を提供し、(b)サンプルを抗体と接触させ、(c)サンプル内でマーカーに結合した抗体の複合体の存在を検出する、ことを含む。
【0133】
イムノアッセイは、抗原(例えばマーカー)に特異的に結合するために抗体を使用するアッセイである。イムノアッセイは、抗原を単離、標的化及び/又は定量するために、特有の抗体の特異的な結合性を使用することにより特徴づけられる。蛋白質又はペプチドを表す際に、抗体に「特異的に(又は選択的に)結合する」又は「特異的に(又は選択的に)免疫反応性である」という用語は、蛋白質や他の生理物質が混在する集団において蛋白質の存在を決定できる結合反応を表す。よって、指定されたイムノアッセイ条件下では、特定の抗体はバックグラウンドの少なくとも二倍特有の蛋白質に結合し、サンプル内に存在する他の蛋白質には実質的に有意に結合しない。そのような条件下での抗体への特異的な結合は、特定の蛋白質への特異性により選択される抗体を必要とする。例えば、ラット、マウス又はヒトのような特定の種由来のマーカーに対して産生されたポリクローナル抗体が、特異的にそのマーカーに対して免疫反応性であり、マーカーのポリモルフィックな変異体やアレル体を除く他の蛋白質とは免疫反応性を有さないポリクローナル抗体のみを得るために選択されることができる。この選択は他の種由来のマーカー分子と交差反応する抗体を差し引くことにより達成されることができるだろう。
【0134】
マーカーに特異的に結合する抗体は、精製されたマーカー又はその核酸配列を使用して、当該技術分野公知の適当な方法を用いて調製できるものである。例えばColigan, Current Protocols in Immunology (1991); Harlow & Lane, Antibodies: A Laboratory Mannual (1998); Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice (2d ed. 1986); Kohler & Milstein, Nature 256: 495-497 (1975)参照。そのような技術には、ウサギ又はマウスの免疫化によりポリクローナル及びモノクローナル抗体を調製するのと同様に、ファージ又は同様のベクター内で組換え抗体ライブラリーから抗体を選択することで抗体を調製する技術を含むが、これに限定されるものではない(例えば、Huseら、Science 246: 1275-1281 (1989),Wardら、Nature 341: 544-546 (1989)参照)。通常は、特異的又は選択的反応は、バックグラウンドシグナル又はノイズの少なくとも二倍であり、より典型的にはバックグラウンドの10から100倍以上である。
【0135】
一般に、対象生物から得られたサンプルはマーカーと特異的に結合する抗体と接触させられることができる。適宜、抗体をサンプルと接触させるのに先立って、複合体の洗浄とそれに続く単理を容易にするために、抗体は固体支持体に固定化されることができる。固体支持体の例には、ガラスや、例えばマイクロタイタープレート、スティック、ビーズ又はマイクロビーズの形態のプラスチックが含まれる。抗体はまたプローブ基質や上述されたプロテインチップアレイへ装着されることができる。サンプルは好ましくは対象生物から採取された体液サンプルである。体液サンプルの例には、血液、血清、血漿、乳首アスピレート、尿、涙,精液などが含まれる。好ましい態様では、体液には血清が含まれる。サンプルは抗体に接触させる前に,適切な溶出液で希釈される。
【0136】
サンプルを抗体とインキュベートした後、混合物は洗浄され、抗体マーカー複合体が検出される。これは洗浄された混合物を検出試薬とインキュベートすることで達成される。この検出試薬は、例えば検出可能な標識で標識された二次抗体であろう。模範的な検出可能なレベルには、磁気ビーズ(例えばDYNABEADS(登録商標))、蛍光染料、放射性標識、酵素(例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリンホスファターゼ、並びにその他の一般的にELISAで使用されるもの)及び、コロイド金や色のついたガラスやプラスチックビーズのような比色分析の標識が含まれる。或いは、サンプル内のマーカーは、例えば二次標識された抗体が、マーカー特異的に結合した抗体を検出するために使用されるように、非直接的な方法で及び/又は例えばマーカーの識別可能なエピトープに結合するモノクローナル抗体が混合物と同時にインキュベートされるように、競合若しくは阻害アッセイで、検出されることができるだろう。
【0137】
抗体−マーカー複合体の量又は存在を測定する方法には、例えば蛍光、発光、化学発光、吸光、反射、透過率、複屈折又は屈折率(例えば、表面プラズモン共鳴、偏光解析法、反響鏡手法、格子連結ウェーブガイド手法又は干渉))が含まれる。光学的手法には、(共焦点ならびに非共焦点)顕微鏡、イメージング手法及び、非イメージングが含まれる。電気化学的手法には、ボルト及びアンペア手法が含まれる。高周波法には、多極性共鳴分析計が含まれる。これらのアッセイを行う方法は、当該技術分野では容易に知られている。有用なアッセイには、例えば酵素免疫測定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、ウエスタンブロットアッセイ又はスロットブロットアッセイのような酵素免疫アッセイ(EIA)が含まれる。これらの方法はまた、例えばMethods in Cell Biology: Antibodies in Cell Biology, vol.37 (Asai ed. 1993); Basic and Clinical Immunology (Stites & Terr, eds., 7th ed. 1991)及びHarlow & Lane, 上述に開示されている。
【0138】
アッセイを通じて、インキュベーション及び/又は洗浄工程が、試薬のそれぞれの組み合わせ後に必要となる。インキュベーション工程は、約5秒から数時間まで異なり、好ましくは約5分から約24時間である。しかし、インキュベーション時間は、アッセイの形態、マーカー、溶液の容量、濃度などに依存するものである。10℃から40℃というような温度の幅でアッセイは行われるが、通常は室温にて行われる。
【0139】
イムノアッセイは、サンプル内のマーカーの量と同様に、サンプル内のマーカーの有無を決定するために使用できる。抗体−マーカー複合体の量は標準物質と比較することで決定される。標準物質は、例えば公知の化合物又はサンプル内に存在することが知られているその他の蛋白質であってもよい。上述したように、マーカーの試験量は、測定ユニットが対照と比較できれば、絶対量のユニットで測定される必要はない。
【0140】
サンプル内のこれらのマーカーを検出するための方法には、多くの適用がある。例えば、一つ又はそれ以上のマーカーが、ヒトのがん診断又は予後診断を助けるために測定できる。他の例では、マーカーの検出の方法は、がん治療に対する対象生物における応答をモニターするために使用される。他の例では、マーカーの検出方法は、インビボ又はインビトロでのこれらのマーカーの発現を調節する化合物のアッセイ及び同定のために使用される。好ましい例では、バイオマーカーは腫瘍進行の異なる病期(stage)を差別化するために使用されるので適切な治療又は処置と腫瘍の転移範囲を決定する上で助けとなる。
【0141】
V.データ分析
例えばマススペクトロメトリーにより、サンプルが測定され、データが産生されると、データはそれからコンピュータソフトウェアプログラムにより分析される。一般的にソフトウェアはマススペクトロメーター由来のシグナルをコンピュータで読み取り可能な形に変換するコードを含んでいる。ソフトウェアはまた、シグナルが、本発明のマーカー又は他の有用なマーカーに対応する「ピーク」を表しているか否かを決定するために、シグナル分析のためのアルゴリズムを適用するコードを含むこともできる。ソフトウェアはまた、試験サンプル由来のシグナルを「正常」及びヒトがんの典型的なシグナルの特徴と比較して、両シグナル間の適合の親密さを決定するアルゴリズムを実行するコードを含むこともできる。ソフトウェアはまた、試験サンプルが最も近く、それ故予想される診断を提供するコードを表示することを含むことができる。
【0142】
本発明の好ましい方法では、多数のバイオマーカーが測定される。多数のバイオマーカーの使用は試験の予測値を増強させ、診断、毒性学、患者層別及び患者のモニターリングにおいてより有用である。「パターン認識」と呼ばれる工程は、多数のバイオマーカーで形成されたパターンを検出して、予測される薬剤の臨床プロテオミクスの感度及び特異度を大幅に改良する。例えばSELDIを使用して得られた、臨床サンプル由来のデータに於ける些細な変化は、ある特定の蛋白質発現パターンにより、疾患の有無、がんの進行段階(stage)又は、薬剤療法に対する応答が有効か若しくはそうでないかと言った表現型の予測が可能であることを示している。
【0143】
マススペクトロメトリーでのデータの産生は、上述したようにイオン検出器によるイオンの検出で始まる。検出器をヒットするイオンは、類似シグナルをデジタル式に捕獲する高スピード時間アレイ記録装置によりデジタル化される電位を産生する。サイファージェン社のプロテインチップ(登録商標)システムは、これを達成するために、アナログからデジタルへの変換器(ADC)を採用する。ADCは規則的な時間間隔での検出器の出力を、時間依存性ビンへ増幅させる。時間の感覚は通常は1〜4ナノ秒である。更に最終的に分析される飛行時間スペクトルは、通常はサンプルに対するイオン化エネルギーのシグナルパルス由来のシグナルを示すのではなく、多数パルス由来のシグナルの合計を示すものである。これはノイズを減少させ、ダイナミックな範囲を増加させる。次いで、この飛行時間データは、データ処理に付される。サイファージェン プロテインチップ(登録商標)ソフトウェアでは、データ処理は通常TOFからM/Zへの変換、ベースラインの差し引き、高頻度ノイズフィルターリングを含む。
【0144】
TOFからM/Zへの変換には、飛行時間を質量対電荷比(M/Z)へ変換するアルゴリズムの適用が包含される。この工程において、シグナルは時間ドメインから質量ドメインへと変換される。即ち、個々の飛行時間は、質量対荷電比、M/Zへと変換される。計測は内部で又は外部で行われる。内部的な計測では、分析されるサンプルは一つ又はそれ以上の公知のM/Zを有する分析物を含む。これらの質量の分析物を表す飛行時間でのシグナルピークは、公知のM/Zへ割り当てられる。これらの割り当てられたM/Z比率に基づいて、パラメータが飛行時間をM/Zへ変換する数学的機能のために計算される。外部的な計測では、前もって行われた内部的な計測により創りだされたような、飛行時間をM/Zへ変換する機能が、内部的な計測を使用することなく飛行時間スペクトルへ適用される。
【0145】
ベースラインの差し引きは、スペクトルを乱す、人工的な再生可能な器械のオフセットを減じることで、定量データを改良する。それにはピーク幅のようなパラメータを挿入するアルゴリズムを使用してスペクトルのベースラインを計算して、マススペクトルからベースラインを差し引くことが含まれる。
【0146】
高頻度ノイズシグナルは、スムージング機能を適用することで減少される。通常のスムージング機能は、個々の時間依存的なビンに移動平均関数を適用する。改良された形態に於いては、移動平均フィルターは、フィルターバンド幅が例えばピークバンド幅など、その機能によって変化する様々な幅のデジタルフィルターであり、一般的に飛行時間の増加に伴ってより広くなっている。例えば、国際公開第00/70648号パンフレット、2000年11月23日(Gavinら、”Variable Width Digital Filter for Time-of-Flight Mass Spectrometry)参照。
【0147】
分析は一般的に、分析物由来のシグナルを表すスペクトルに於けるピークの同定を含んでいる。ピークの選択はもちろん視覚的にも行われるが、サイファージェン プロテインチップソフトウェアの一部としてピークの検出を自動化したソフトウェアが利用できる。一般的に、シグナル対ノイズの比が選択された閾値を越えるシグナルを同定してピークシグナルの中心でピークの質量を標識することにより、このソフトウェアは機能する。ある有用な適用において、多くのスペクトルは、ある選択されたマススペクトルの比率において表れる同一ピークを同定するために比較される。このソフトウェアの一つのバージョンは、様々なスペクトルで表れる全てのピークを決定された質量範囲にクラスターし、質量(M/Z)クラスターの中心点に近い全てのピークに質量(M/Z)を割り当てる。
【0148】
一つ又はそれ以上のスペクトル由来のピークデータは、例えば個々の列が特有の質量スペクトルを表し、個々のカラムが質量により決定されるスペクトルにおけるピークを表し、そして個々のセルがその特有のスペクトルでのピーク強度を含むスプレッドシートを作成することで、更に分析することができる。様々な統計的手法又はパターン認識手法がデータに適用できる。
【0149】
ある例では、サイファージェン バイオマーカーパターン(登録商標)ソフトウェアが、産生されたスペクトルに於けるパターンを検出するために使用される。データは分類モデルを使用するパターン認識工程を利用して分類される。一般的に、スペクトルは、分類アルゴリズムが検索される少なくとも二つの異なる群由来のサンプルを表すものである。例えば、病理対非病理(例えばがん対がんでない)、薬剤応答対薬剤非応答、毒性応答対毒性非応答、疾患状態の進行対疾患状態の非進行、表現型の状況出現対表現型の状況欠損などの群である。
【0150】
本発明の態様に於いて産生されるスペクトルは、分類モデルを使用するパターン認識工程を利用して分類することができる。ある態様では、「公知のサンプル」のようなサンプルを使用して産生されたスペクトル(例えばマススペクトル又は飛行時間スペクトル)由来のデータは、分類モデルを「トレーニング」するために使用できる。「公知のサンプル」とは前もって分類された(例えば、がん又はがんでない)サンプルである。「公知のサンプル」のようなサンプルを使用して産生されたスペクトル(例えば、マススペクトル又は飛行時間スペクトル)由来のデータは、分類モデルを「トレーニング」するために使用できる。「公知のサンプル」は前もって分類されたサンプルである。スペクトル由来で分類モデルを形成するために使用されるデータは、「トレーニングデータセット」として表される。一旦トレーニングされると、分類モデルは未知のサンプルを使用して産生されたスペクトル由来のデータにおけるパターンを認識できる。分類モデルは未知のサンプルを分類するために使用されることができる。これは、例えば特定の生体サンプルが、特定の生物学的状況(例えば病気の:病気でない)と関連しているか否かを予測する上で、有用だろう。
【0151】
分類モデルを形成するために有用なトレーニングデータセットは、生データ又は前処理データを含むだろう。ある態様では、生データは飛行時間スペクトル又はマススペクトルから得ることができ、如何なる適した様式で適宜「前処理」されるだろう。例えば、前決定されたシグナル対ノイズの比率を超えるシグナルは、スペクトル内の全てのサンプルを選択するのではなく、スペクトル内のピークのサブセットが選択するために、選択されることができる。他の例では、(例えば特有の飛行時間値又は質量対荷電比値)共通値における前もって決定されたピーク「クラスター」数が、ピークを選択するために使用できる。説明としては、与えられた質量対荷電比でのピークがマススペクトルの集団に於いて、マススペクトルの50%より低い場合には、その質量対荷電比のピークはトレーニングデータセットから除くことができる。このような前もって処理する工程は、分類モデルをトレーニングするために使用されるデータ量を減じるために使用できる。
【0152】
分類モデルは、データに存在する目的となるパラメータに基づく分類へ、データの集まりを分離することを試みる、如何なる適した統計学的分類(又は「学習」)方法を使用して行われる。分類方法は管理されてもされなくてもよい。管理された及びされていない分類工程の例は、Jain, “Statistical Pattern Recognition: A Review”, IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intelligence, Vol.22, No.1, 2000年1月に開示され、その全体は個々に参照として挿入される。
【0153】
管理された分類では、公知のカテゴリー例を含むトレーニングデータは学習機構に提示され、その機構は公知の分類の個々を決定する更なる関連性のセットを学習する。新しいデータはそれから学習機構へ適用され、それは学習された関係を利用して新しいデータを分類する。管理された分類工程の例には、線形回帰工程(例えば多線形回帰(MLR)、部分的最少スクエアー(PLS)回帰、主要構成物回帰(PCR))、双対決定階層(例えばCART−分類及び回帰階)層のような帰納的分類工程)、バックプロパゲーションネットワークのような、人工的ニューラルネットワーク、識別分析(例えばベイシアンクラシファイアー又はフィッシャー分析)、対数分類及び支持ベクター分類(指示ベクター装置)が含まれる。
【0154】
好ましい管理された分類方法は、帰納的分類工程である。帰納的分類工程は、未知のサンプル由来のスペクトルを分類するために帰納的分類階層を使用する。帰納的分類工程に関するより詳細は、米国特許公開第20020138208号(Paulseら、「マススペクトルの分析方法」、2002年9月26日)に開示されている。
【0155】
他の態様では、つくられる分類モデルは管理されない学習方法を使用して構成されるだろう。管理されない分類は、トレーニングデータが由来するスペクトルを前もって分類することなく、トレーニングデータセットに於ける類似性に基づいて分類を学習しようとする。管理されない学習方法には、クラスター分析が含まれる。クラスター分析は、互いに非常に類似しており他のクラスターのメンバーとは類似していないメンバーを理想的には有する「クラスター」又は集団に、データを分けようとする。類似性は、データアイテム間の距離を測定する距離測定基準を使用して測定され、互いにより近いデータアイテムは一緒にクラスターされる。クラスター技術はマッククイーンK−平均値アルゴリズムやコホネンセルフオーガナイジングマップアルゴリズムを含む。
【0156】
生物学的情報を分類するうえで使用されるために確立された学習アルゴリズムは、例えば、国際公開第01/31580号パンフレット(Barnhillら、”Methods and devices for identifying patterns in biological systems and methods of use thereof”, 2001年5月3日)、米国特許公開第2003/0193950号(Gavinら、”Method or analyzing mass spectra”, 2002年12月19日)、米国特許公開第2003/0004402号(Hittら、”Process for discriminating between biological states based on hidden patterns from biological data”, 2003年1月2日)、米国特許公開第2003/0055615号(Zhang及びZhang, “Systems and methods for processing biological expression data”, 2003年3月20日)に開示されている。
【0157】
より特異的に、バイオマーカーApoA1、トランスサイレチン及びIAIH4断片を得るために、がん患者と健常対照由来サンプルのピーク強度データが「発見セット」として使用された。このデータは一緒にされ、統一最大可分性分析(「USMA」)分類の非線形バージョンを使用して、様々な予期されるモデルを構築して試験するために、ランダムにトレーニングセットとテストセットへ分けられた。USMA分類の詳細は、米国特許公開第2003/0055615に開示されている。
【0158】
一般的に、上述のIVで産生されたデータは、診断アルゴリズム(すなわち、上述されたような分類アルゴリズム)へと挿入される。分類アルゴリズムは、学習アルゴリズムに基づいて産生される。その工程には分類アルゴリズムを産生できるアルゴリズムを開発することが含まれる。本発明の方法は、多くの卵巣がん及び統計学的なサンプル計算に基づく十分な数の正常サンプルを評価することで、より正確な分類アルゴリズムを産生する。サンプルは学習アルゴリズムに於けるデータのトレーニングセットとして使用される。
【0159】
分類の産生、即ち、診断、アルゴリズムは、サンプルを分析し、上述のIVで得られたデータを産生するために使用されるアッセイプロトコールに基づく。(例えば工程IVにおける)マーカーの検出及び/又は測定のプロトコールは、分類アルゴリズムを開発するために使用されるデータを得るために使用されるものと同じでなければならないことは、必須である。アッセイ条件は、サンプル調製と試験のための一般的なプロトコールと同様に、トレーニングと分類システムを通じて維持されなければならないものであり、チップタイプとマススペクトロメーターのパラメータを含む。マーカーの検出及び/又は測定のためのプロトコール(工程IV)が変わる場合には、学習アルゴリズムと分類アルゴリズムも変えなければならない。同様に、学習アルゴリズムと分類アルゴリズムが変わる場合には、マーカーの検出及び/又は測定のためのプロトコール(工程IV)もまた、分類アルゴリズムを産生するために使用されるものと一致するように変えなければならない。新しい分類モデルの開発は、十分な数のがん患者と正常サンプルの評価、新しい検出プロトコールに基づく新しいトレーニングデータセットの開発、データを使用する新しい分類アルゴリズムの産生、そして最終的に多面的な研究で分類アルゴリズムを確かめることを必要とするだろう。
【0160】
分類モデルは、如何なる適したデジタルコンピュータを使用して形成されることができる。適したデジタルコンピュータには、標準又は、操作システムに基づいて、ユニックス、ウインドウズ(登録商標)、リナックス(登録商標)のような特定の操作システムを使用する、マイクロ、ミニ又は大型コンピュータが含まれる。使用されるデジタルコンピュータは、興味あるスペクトルを産生するのに使用されるマススペクトルメーターから物理的に分離され又はマススペクトロメーターと共に使用されるであろう。マススペクトロメーターから分離される場合には、データは手動又は自動の他の手段によりコンピュータへ入力されなければならない。
【0161】
本発明のトレーニングデータセットと分類モデルは、実行されるコンピュータコードにより又はデジタルコンピュータの使用で構築されることができる。コンピュータコードは光学又は磁気ディスク、スティック、テープ等を含む、適したコンピュータで読み取り可能な媒体に保存されることができ、C、C++、ビジュアルベーシック等を含む如何なる適したコンピュータプログラミング言語によっても記載されることができる。
【0162】
VI.好ましい態様の例
好ましい態様では、血清サンプルは患者から集められ、上述したように陰イオン交換樹脂を使用して分画化される。サンプル内のバイオマーカーはIMAC銅プロテインチップアレイを使用して捕獲される。マーカーはそれからSELDIを使用して検出される。そのような試験に於いては、ApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及び/又はIAIH4断片3が検出できる。結果はコンピュータシステムへ挿入され、そのコンピュータシステムは、バイオマーカーをもともと決定するための学習アルゴリズムと分類アルゴリズムに於いて使用されたものと同じパラメータを使用するようにデザインされたアルゴリズムを含む。アルゴリズムは個々のバイオマーカーに関する受容されたデータに基づいて診断する。
【0163】
特に好ましい態様では、バイオマーカーCA125IIの量がまた、例えばイムノアッセイのような公知の方法を使用して、又は、SELDIプロテインチップアレイを使用して検出される。この態様では、マーカーCA125IIに関する結果はまた、コンピュータアルゴリズムへ挿入され、診断準備のために使用される。ApoA1、トランスサイレチンΔN10、IAIH4断片1及びCA125IIの4バイオマーカーの検出に基づく診断試験は、少なくとも約80%の特異度を有している。
【0164】
診断は、バイオマーカーを使用して開発される分類アルゴリズムと、SELDI試験から産生されたデータを調べることで、決定される。分類アルゴリズムは、バイオマーカーの検出に使用される試験プロトコールの特徴に基づく。これらの特徴には例えば、サンプル調製、チップの型、マススペクトロメーターパラメータが含まれる。試験パラメータが変わる場合には、アルゴリズムも変えなければならない。同様に、アルゴリズムが変わる場合には、試験プロトコールを変えなければならない。
【0165】
他の態様では、サンプルは患者から集められる。バイオマーカーは上述したように抗体プロテインチップアレイを使用して捕獲される。マーカーは生体特異的SELDI試験システムを用いて検出される。そのような試験では、ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及び/又はIAIH4断片3が検出できる。結果はコンピュータシステムへ挿入され、そのコンピュータシステムは、バイオマーカーをもともと決定するための学習アルゴリズムと分類アルゴリズムに於いて使用されたものと同じパラメータを使用するようにデザインされたアルゴリズムを含む。アルゴリズムは個々のバイオマーカーに関する受容されたデータに基づいて診断する。
【0166】
更に他の好ましい態様では、マーカーは非SELDI形態を使用して捕獲されて試験される。ある例では、サンプルは患者から集められる。バイオマーカーは例えばマーカーに対する抗体のように、他の公知の手段を用いて、基質上に捕獲される。マーカーは例えば光学的方法又は屈折率のような当該技術分野で公知の方法を用いて検出される。光学的方法の例には、例えばELISAのような蛍光の検出が含まれる。屈折率の例には、プラズモン共鳴が含まれる。マーカーに関する結果はそれからアルゴリズムへと供され、それは人工知能を要求しても要求しなくてもよい。アルゴリズムは個々のバイオマーカーに関して取得されたデータに基づいて診断する。
【0167】
上述した方法の何れに於いても、サンプル由来のデータは検出手段から診断アルゴリズムを含むコンピュータへ直接供給されるだろう。或いは、得られたデータは手動で又は自動手段により、診断アルゴリズムを含む分離されたコンピュータへ供給されることができる。
【0168】
VII.対象生物の診断と卵巣がんの状態の決定
個別的に如何なるバイオマーカーもが、卵巣がん状態を決定する上での助けとして有用である。まず、選択されたバイオマーカーが、例えばマススペクトロメトリーによる検出に続くSELDIバイオチップでの捕獲物のような、本明細書に記載されている方法を用いた対象生物からのサンプルに於いて測定される。それから、測定結果は卵巣がんの状態を、がんでない状態から区別する対照の診断量と比較される。診断量はがんでない状態に比較して、がん状態において特有のバイオマーカーがアップレギュレート又はダウンレギュレートされているという情報を反映するだろう。当該技術分野にてよく理解されているように、使用される特有の診断量は、診断する人の意向に基づいて、診断アッセイの感度や特異度を増強させるために調整されることができる。診断量と比較される試験量はよって、卵巣がんの状態を示す。
【0169】
個々のバイオマーカーが有用な診断マーカーであるが、バイオマーカーの組み合わせは単独マーカーよりもより高度の予測値を提供する。特に、サンプル内の複数マーカーの検出は、真に陽性及び真に陰性の割合を増加させ、偽陽性及び偽陰性の割合を低下させるだろう。よって、本発明の好ましい方法には、一つよりも多いバイオマーカーの測定が含まれる。例えば本発明の方法は、0.50より多いROC分析由来のAUC、より好ましい方法では0.60より多いAUC、更に好ましくは0.70より多いAUCを有する。特に好ましい方法は0.70より多いAUCを有し、最も好ましい方法では0.80より多いAUCを有する。
【0170】
更に、本発明の3つの好ましいバイオマーカーを、例えばCA125などのマーカー4と組み合わせて測定する方法の利用は、CA125の診断能を顕著に増加させ、0.50より多いAUC、より好ましくは、0.60より多いAUC、更に好ましくは0.70より多いAUCを有する試験を提供する。
【0171】
バイオマーカーを使用するために、対数回帰アルゴリズムが有用である。UMSAアルゴリズムが特に試験データから診断アルゴリズムを産生するのに有用である。このアルゴリズムは、Z.Zhangらの、マイクロアレイデータへの分類分析の適用に開示されている。
【0172】
学習アルゴリズムはオペレータに所望される特定の特異度及び感度を調節する多変量分類(診断)アルゴリズムを産生するだろう。分類アルゴリズムは卵巣がん状態を決定するために使用できる。その方法はまた、対象生物からのサンプル内の選択されたバイオマーカー(例えばApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2、及び/又はIAIH4断片3)を測定することを含む。これらの測定結果は分類アルゴリズムに供される。分類アルゴリズムは卵巣がん状態を示す標識スコアを産生する。
【0173】
ある態様では、マーカーの定量することなしの、単なるマーカーの有無が有用であり、卵巣がんの確からしい診断と関連させることができる。例えばIAIH4断片は、正常な対象生物よりもヒト卵巣がん患者に於いてより高頻度で検出できる。同様に例えばバイオマーカーApoA1とトランスサイレチンは、正常な対象生物よりもヒト卵巣がん患者に於いてより低頻度で検出できる。よって、試験対象生物に於いて検出されたマーカーの有無のそれぞれが、対象生物に於けるより高い卵巣がんの可能性を示す。
【0174】
他の態様では、マーカーの測定は卵巣がんの確からしい診断とマーカーの検出を関連付けるために、マーカーを定量することを含むことができる。試験される対象生物に於いて検出されるマーカーの量が対照量と比較して異なる場合には(即ち対照よりより高い又は低い、マーカーに依存する)、試験される対象生物は卵巣がんのより高い可能性を有している。
【0175】
関連性は、マーカー又は複数のマーカーの対照量(例えば、ヒトがんが検出されない正常な対象生物におけるもの)と比較した、サンプルに於けるマーカー又は複数のマーカー量(マーカー又は複数のマーカーのアップレギュレーション又はダウンレギュレーション)を考慮するものである。対照は、例えばヒトのがんが検出されない正常な対象生物の比較可能なサンプルに存在するマーカーの平均又は中間量である。対照量は、試験量の測定に於けるものと同じか又は実質的に同様の実験条件下で測定される。関連付けには、試験サンプル内のマーカーの有無と対照に於ける同マーカーの検出頻度を考慮する。関連付けに際しては、卵巣がんの状態の決定を容易にするためには、その両方の要因を考慮するものである。
【0176】
卵巣がんの状態を認定する態様では、本発明の方法は、症状に基づいた患対象生物の治療又は処置管理を更に含む。前述したように、治療又は処置管理とは、卵巣がんの状態を決定した後に医師や臨床医の対処の仕方を示すものである。例えば、本発明の方法の結果が決定的でなく、又は、状態を確認する必要性がある場合には、医師は更なる試験を命じるであろうし、或いは、もし状態が、手術が適当であることを示している場合には、医師は患者の手術を予定するだろう。また場合によっては、手術の替わりに又は手術に加えて、患者は化学療法又は放射線治療を受けることにもなる。同様に、例えばその症状が卵巣がんの後期であることを示している等、その結果が否定的な場合、又は、その症状がその他の点で急性(otherwise acute)の場合には、更なる対策は講じられないであろう。更に、その結果が治療又は処置の成功を示すものであれば、更なる管理は不要である。
【0177】
本発明はまた、バイオマーカー(又は特異的なバイオマーカーの組み合わせ)が対象生物に治療又は処置を施した後に再度測定されるような方法を提供する。これらの場合では、その方法は、例えばがん治療に対する応答、疾患の回復又は疾患の進行のような状態をモニターするために使用される。その方法を使用する容易さと、その方法の侵襲性により、その方法は患者が受ける個々の治療の後に繰り返すことができる。これは医師が一連の治療又は処置の有効性を追うことを可能にする。結果が、治療又は処置が有効でないことを示せば、一連の治療又は処置はそれに従って変更できる。これにより、医師は治療又は処置に於いて柔軟性のある選択をすることができる。
【0178】
他の例では、マーカーを検出する方法は、インビボ又はインビトロでのマーカーの発現を調節する化合物を同定するアッセイにも用いられる。
【0179】
本発明の方法は、同様に他にも適用できる。例えば、マーカーはインビボ又はインビトロでマーカーの発現を調節する化合物をスクリーニングするために使用でき、その化合物は患者に於いて卵巣がんを治療若しくは処置、又は予防するのに有用である。他の例では、マーカーは卵巣がんの治療又は処置への応答をモニターするために使用できる。更に他の例では、マーカーは、対象生物が卵巣がんを発展させる危険にあるか否かを決定するために遺伝研究において使用できる。例えば、あるマーカーは遺伝子工学的に関連している。これは、例えばその家族が卵巣がんの履歴を持つ卵巣がん患者の集団由来のサンプルを分析することにより、決定できるだろう。その結果は、例えばその家族が卵巣がんの履歴を持たない、卵巣がん患者由来のデータと比較できる。遺伝子工学的に関連のあるマーカーは、その家族が卵巣がんの履歴を持つ患者が、卵巣がんにかかりやすいか否かを決定するための手段として使用できるものである。
【0180】
本発明の追加の態様は、例えば、分析結果又は診断結果、若しくは両方を専門家、看護医又は患者へ伝えることに関連する。ある態様に於いて、分析結果又は診断結果、若しくはその両方を関心のある患者に伝えるために、例えば、医師と患者がコンピューターを利用するであろう。いくつかの態様では、検査が行われる或いは検査結果を解析する国又は管轄が、その分析結果又は診断を伝える国又は管轄と異なるであろう。
【0181】
本発明の好ましい態様に於いては、試験対象者に於ける本発明の何れかのバイオマーカーの有無に基づいた診断は、診断結果が得られると直ぐにその対象者に伝えられる。診断結果は対象者に治療又は処置を施す医師により伝えられるだろう。或いは、診断結果は対象者に電子メールにより送付されるか又は電話により伝えられるだろう。コンピューターは、電子メール又は電話により伝達する際に使用されるだろう。ある特定の態様に於いては、電気通信業界の熟練者が精通するであろうコンピューターハードウェアとソフトウェアの連携を駆使して、診断試験の結果を含んだ伝達内容が自動的に作成され、対象者に配信されるだろう。保健医療を目的とした通信システムの一例は米国出願台6283761号に説明されている、しかしながら、本発明はこの特定の通信システムの活用方法に限定されない。本発明の方法の態様において、サンプルの分析、疾病の診断及び分析結果並びに診断の伝達を含む全ての或いはいくつかの工程は多様な(例、外国の)管轄に於いて実行できるだろう。
VIII.キット
【0182】
更に他の局面では、本発明は卵巣がんの状態を認定するキットを提供し、そこではキットは本発明のマーカーを測定するために使用できる。例えば、キットは個々に開示されるマーカーの一つ又はそれ以上を測定するために使用でき、それらのマーカーは卵巣がん患者のサンプルと正常な対象生物に於いて差別化されて存在するものである。本発明のキットは様々な適用ができる。例えば、キットは、対象生物が卵巣がんを有するか陰性と診断されるかを区別するために使用でき、よって医師や臨床医が、がんの有無を診断することを可能にする。キットはまた、一連の治療又は処置に対する患者の応答をモニターするために使用でき、医師が試験結果に基づいて治療又は処置を修正することを可能にする。他の例では、キットはインビトロ又はインビボで、卵巣がんのモデル動物に於いて、一つ又はそれ以上のマーカーの発現を調節する化合物を同定するために使用できる。
【0183】
本発明はそれゆえ、(a)ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及び/又はIAIH4断片3並びにそれらの組み合わせから選択されるバイオマーカーに結合する捕獲試薬、及び(b)少なくとも一つのバイオマーカーを含む容器、を含むキットを提供する。好ましいキットでは、捕獲試薬は複数のバイオマーカーに結合する。捕獲試薬はまた、例えばCA125のような公知のバイオマーカー、マーカー4の少なくとも一つと結合するだろう。好ましい態様では、キットは更に、第一の捕獲試薬が結合しない、バイオマーカーの一つと結合する第二の捕獲試薬を含む。
【0184】
本発明で提供される更なるキットは、(a)ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及び/又はIAIH4断片3から選択される少なくとも一つのバイオマーカーを結合する第一の捕獲試薬、及び(b)第一の捕獲試薬とは結合しないバイオマーカーの少なくとも一つと結合する第二の捕獲試薬、を含むものである。好ましくは、少なくとも一つの捕獲試薬は抗体である。あるキットは更に、少なくとも一つの捕獲試薬が装着され、又は装着可能なMSプローブを含む。
【0185】
捕獲試薬は如何なる型の試薬でもよいが、好ましくは、試薬はSELDIプローブである。本発明のある態様では、捕獲試薬はIMACを含む。
【0186】
本発明はまた、(a)ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及び/又はIAIH4断片3から選択される少なくとも一つのバイオマーカーと結合する第一の捕獲試薬、及び(b)バイオマーカーを検出するための捕獲試薬を使用するための指示書、を含むキットを提供する。これらのキットのある場合には、捕獲試薬は抗体を含む。更に、前述したキットのいくつかは更に、捕獲試薬が結合する、又は結合できるMSプローブを含む。あるキットでは、捕獲試薬はIMACを含む。本明細書で同定される三つのマーカーの各々は、IMACプロテインチップ(登録商標)アレイに結合する。よって、本発明のある好ましい態様には、卵巣がんの早期検出のための高スループット試験であって、伝統的なCA−125ELISA(又はCA−125はプロテインチップ(登録商標)アレイプラットフォームに移されるされる)と同様に、三つの分析物のためのIMACプロテインチップ(登録商標)上の患者のサンプルを分析するものである。
【0187】
他の態様では、本明細書に記載のキットは、マーカーI〜XLVIIIより選択される少なくとも一つのバイオマーカーと結合する、少なくとも一つの捕獲試薬を含む。
【0188】
本発明のあるキットは更に、洗浄後に他のバイオマーカーと比較して、捕獲試薬に結合したバイオマーカーを選択的に保持する洗浄液又は溶出液を含む。或いは、キットは洗浄液を製造する指示書を含み、吸収剤と洗浄液の組み合わせで、ガス相イオンスペクトロメトリーを使用するマーカーの検出ができるようになる。
【0189】
好ましくは、キットは、試験サンプルを捕獲試薬と接触させ、捕獲試薬により保持される一つ又はそれ以上のバイオマーカーを検出することを提供するための使用説明書を含むものである。例えば、キットは血清サンプルを捕獲試薬と接触させた後に、捕獲試薬(例えばプローブ)をどのように洗浄するかを、消費者に説明する標準の使用説明書を含むものである。他の例では、キットは、サンプル内の蛋白質の複雑さを減じるためのサンプルの前分画化に関する説明書を含む。他の例では、キットは分画の自動化又は他の工程の自動化に関する説明書を含む。
【0190】
そのようなキットは好ましくは上述した物質から調製され、これらの物質(例えばプローブ基質、捕獲試薬、吸光度、洗浄液等)に関する上記考察は、このセクションにも適用できるものであるから、繰り返しの説明を省略するものである。
【0191】
他の態様では、キットはそれらの吸着物質(例えば、吸着物質を有する粒子)を含む一番目の基質と、プローブを形成するために一番目の基質がその上に位置づけされる、二番目の基質を含み、ガス相イオンスペクトロメーターへ除去可能なように挿入できるものである。他の態様では、キットは単一の基質を含み、基質上の吸光物質と除去可能に挿入できるプローブの形態である。更に他の態様では、キットは更に前分画スピンカラム(例えばチバクロンブルーアガロースカラム、抗HSAアガロースカラム、K−30サイズ除去カラム、Q陰イオン交換スピンカラム、一本鎖DNAカラム、レクチンカラム等)を含む。
【0192】
他の態様では、キットは(a)マーカーに特異的に結合する抗体と、(b)検出試薬を含む。そのようなキットは、上述した物質から調製でき、物質(例えば抗体、検出試薬、固定化支持体等)に関する上記考察はこのこのセクションにも適用できるものであるから、繰り返しの説明を省略するものである。キットは更に前分画スピンカラムを含んでいてもよい。ある態様では、キットは更に適切な作業パラメータに関する説明書をラベル又は別に挿入されたものとして、含んでいてもよい。
【0193】
更に、キットは適宜、標準又は対照の情報を含み、それにより試験サンプルを、サンプルで検出されるマーカーの試験量が、卵巣がんの診断と一致する診断量であるか否かを決定する標準的な対照の情報と比較することが可能となる。
【0194】
本発明は、はApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及び/又はIAIH4断片3から選択される少なくとも二つのバイオマーカーに結合した、少なくとも一つの捕獲試薬を含む製品を提供する。本発明の製品の例には、プロテインチップアレイ(登録商標)、プローブ、マイクロタイタープレート、ビーズ、テストチューブ、マイクロチューブ及び、捕獲試薬が挿入されることができる他の如何なる固相が含まれ、これらに限定されるものではない。本発明製品の他の態様は更に、他の公知の卵巣がんマーカー、即ちマーカー4に結合する捕獲試薬を含む。そのような製品の例では、例えばプロテインチップ(登録商標)アレイはApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3並びにマーカー4に結合する捕獲試薬を更に含むだろう。特に好ましい態様では、マーカー4はCA125である。他の例では、マイクロタイタープレートは、ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及び/又はIAIH4断片3、並びに、マーカー4に結合できる抗体を有するものである。これらはそのような製品の数例である。当業者であれば、本明細書に開示される教示に従って、容易に、その他のこのような製品を製造できるものである。
【0195】
本発明はまた、個々の試薬が、ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及び/又はIAIH4断片3から選択される、異なるバイオマーカー、及び、マーカー4のカテゴリーに適合する少なくとも一つのマーカーに結合する複数の捕獲試薬を含むシステムを提供する。そのようなシステムの例としては、ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及び/又はIAIH4断片3から選択されるバイオマーカーの一つ又はそれ以上と結合する吸着物質を含む、プロテインチップ(登録商標)アレイのセットを含み、これに限定されるものではない。このタイプのシステムでは、個々のバイオマーカーに対して一つのプロテインチップ(登録商標)アレイがあるだろう。或いは、ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及び/又はIAIH4断片3から選択される複数のマーカーに対する一つのプロテインチップ(登録商標)アレイと、CA125に対する第二のプロテインチップ(登録商標)アレイが存在するだろう。他のシステムの例には、捕獲試薬が、別個の又は集団に於ける各々のバイオマーカーに対する抗体を有する試験チューブであるものを含む。当業者は本明細書に開示される教示に従って、その他のこのようなシステムを容易に構築できるものである。
【0196】
本発明はまた、(a)カリクレインを、カリクレイン基質及び試験試薬と接触させ、(b)試験試薬がカリクレインの活性を調節するか否かを測定する、ことを含むスクリーニング試験を提供する。そのような試験の一つに於いては、基質は、インターαトリプシン阻害剤重鎖H4前駆体である。以下で考察するように、幾つかのカリクレインは、卵巣がんに於いて障害をうけることが見出されている(Diamandis 2002における総説)。よって、カリクレインの活性を測定することは、卵巣がんの指標となる。そのような方法は、試験試薬がカリクレインの活性を調節するか否かを測定する工程は、IAIH4断片1、IAIH4断片2、及び/又はIAIH4断片3の存在又は量を測定することを含むものである。上述したIAIH4断片の測定方法は、スクリーニング方法で使用することができる。
【0197】
VIII.スクリーニング検定における卵巣がんのバイオマーカーの使用
本発明の方法は、同様に他にも適用できる。例えば、マーカーはインビボ又はインビトロでマーカーの発現を調節する化合物をスクリーニングするために使用でき、その化合物は患者に於いて卵巣がんを治療若しくは処置、又は予防するのに有用である。他の例では、バイオマーカーは卵巣がんの治療又は処置への応答をモニターするために使用できる。更に他の例では、バイオマーカーは、対象生物が卵巣がんを発展させる危険にあるか否かを決定するために遺伝の研究に使用できる。
【0198】
従って、例えば、本発明のキットは、チップ上でバイオマーカーを計測し、その計測値を卵巣がんの診断に使用する手順を提供する説明書に加え、蛋白質バイオチップ(例、サイファージェン プロテインチップアレイ:Ciphergen ProteinChip array)のような疎水性作用をもつ固体基質及びその基質を洗浄する緩衝液を含む。
【0199】
治療又は処置に関する試験に適した化合物は、本明細書に特定され記載された一つ以上のバイオマーカーと相互に作用する化合物を同定することにより先ずスクリーニングすることができる。スクリーニングは、一例として、本発明のバイオマーカーを組み換え発現させ、バイオマーカーを精製し、そして基質への添加することを含むものである。次いで、試験化合物を、通常、水性の条件下で基質と接触させて、試験化合物とバイオマーカーの相互作用を、例えば、溶出率を塩の濃度関数として計測することにより測定する。特定の蛋白質が、本発明の一つ又はそれ以上のバイオマーカーを認識し、開裂するが、この場合当該蛋白質は、例えば、ゲル電気泳動のような標準の試験でバイオマーカーの消化をモニタリングすることにより検出できる。
【0200】
関連のある態様に於いて、本発明の一つ又はそれ以上のバイオマーカーの活性を阻害する試験化合物の能力を測定することが可能である。特定のバイオマーカーの活性の測定に使用される手法が、バイオマーカーの機能及び性質によって変わることは当業者には認識されているところである。例えば、バイオマーカーの酵素活性は、適切な基質が利用可能であり、基質の濃度又は反応生成物の出現が容易に判定できるのであれば、試験できるであろろう。将来、治療又は処置に応用可能な試験化合物の、特定のバイオマーカーの活性を阻害又は増強する能力は、試験化合物の存在又は非存在下に於ける触媒作用の速度を計測することによって決定できる。試験化合物が、本発明のバイオマーカーのうちの一つの非酵素的な(例えば、構造上の)機能又は活性を妨げる能力もまた測定可能である。例えば、本発明のバイオマーカーの一つを含むマルチ蛋白質複合体の自己集合は、試験化合物の存在又は非存在下でスペクトロスコピーによりモニターできる。或いは、バイオマーカーが非酵素的な転写エンハンサーであれば、試験化合物の存在又は非存在下に、インビボ又はインビトロでバイオマーカー依存性の転写のレベルを測定することにより、転写を促進するバイオマーカーの能力を妨げる試験化合物を同定することが可能である。
【0201】
本発明の何れのバイオマーカー活性をも調節可能な試験化合物を、卵巣がん又はその他のがんを患っている、又はその進行の危険性を有する患者に投与してもよい。例えば、特定のバイオマーカーの活性がインビボで卵巣がん蛋白質の蓄積を抑制すれば、特定のバイオマーカーの活性を増強させる化合物の投与により患者の卵巣がんのリスクを低下させることができる。逆に、バイオマーカーの増強した活性が、少なくとも部分的に、卵巣がん発症の原因であれば、特定のバイオマーカーの活性を低下させる試験化合物の投与は患者の卵巣がんのリスクを低下させることになる。
【0202】
更なる態様に於いて本発明は、修飾された形態のIAIH4の増加したレベルに関連する卵巣がんのような疾患の治療又は処置に有効な化合物を同定する方法を提供する。例えば、ある様態では、細胞抽出物又は発現ライブラリーをスクリーニングして、完全長のIAIH4の開裂を触媒して切断された形態のIAIH4を形成する化合物を得る。このようなスクリーニング試験のある様態では、IAIH4の開裂は、フルオロフォア(fluorophore)をIAIH4に添付することにより検出できるが、IAIH4が開裂しないときは変化せず、蛋白質が開裂すると蛍光を発する。一方で、アミノ酸xとアミノ酸yの間のアミド結合を開裂できないように修飾した完全長のIAIH4は、インビボで完全長のIAIH4をその位置で開裂させる細胞プロテアーゼを選択的に結合又は「捕獲」するために使用できる。プロテアーゼ及びそのターゲットのスクリーニング及び同定の方法は、例えば、Lopez−Ottinら(Nature Reviews,3:509−519(2002))の科学文献に十分立証されている。
【0203】
更に別の態様では、本発明は、切断されたIAIH4の増加したレベルと関連する、例えば卵巣がんのような疾患の治療若しくは処置する方法、又は疾患の可能性若しくは進行を低減させる方法を提供する。例えば、完全長IAIH4を開裂させる一つ又はそれ以上の蛋白質が同定された後で、コンビナトリアルライブラリーをスクリーニングして同定された蛋白質の開裂活性を阻害する化合物を得る。このような化合物を得るために化学ライブラリーをスクリーンする方法は、当該技術分野において周知である。例えば、Lopez−Otinら(2002)を参照されたい。また、阻害化合物はIAIH4の構造に基づいてインテリジェントに設計可能である。
【0204】
完全長のIAIH4は血漿カリクレインに結合して活性を阻害するとみられている。(Pu XP, et al., Biochem Biophys Acta 1994; 1208:338-43; Nishimura H, et al., FEBS Lett 1995; 357:207-11)。IAIH4のN末端の切断はIAIH4のプロテアーゼの阻害活性を弱めると考えられている。例えば、Abrahamsonら(Biochem.J. 273:621−626(1991))を参照されたい。完全長のIAIH4の機能性を備えたIAIH4断片を与える化合物は、そのため恐らく、切断された形態のIAIH4に関連する卵巣がんのような疾患の治療又は処置に有用であると考えられる。従って、更にある態様に於いては本発明は、IAIH4断片の標的プロテアーゼへの親和性を高める化合物を同定する方法を提供する。例えば、化合物をスクリーニングして、完全長IAIH4が有するプロテアーゼ阻害活性を備えたIAIH4断片得る。IAIH4の阻害活性又はIAIH4と相互に作用する分子の活性を調節できる試験化合物を、次いで、対象生物に於いて卵巣がんの進行を遅らせるか又は停止させる能力についてインビボで試験する。
【0205】
臨床レベルでは、試験化合物のスクリーニングは、試験化合物の投与前(曝露前)及び投与後(曝露後)にその試験対象生物からサンプルを得ることを含む。サンプル中に於ける本発明の一つ又はそれ以上のバイオマーカーのレベルを測定及び分析し、試験化合物に曝露された後のバイオマーカーのレベルの変化の有無を決定してもよい。サンプルは、本明細書に記載のようにマススペクトロメトリー、又は当業者には公知である何れかの適切な方法で分析してもよい。例えば、本発明の一つ又はそれ以上のバイオマーカーのレベルは、バイオマーカーに特異的に結合する放射性標識又は蛍光標識された抗体を使用したウエスタンブロット法により直接計測してもよい。或いは、一つ又はそれ以上のバイオマーカーをコードしているmRNAのレベルの変化を計測し、特定の試験化合物を対象生物に投与することに関連付けてもよい。更に他の態様に於いて、一つ又はそれ以上のバイオマーカーの発現のレベルの変化をインビトロでの方法及び材料を使用して計測してもよい。例えば、本発明の一つ又はそれ以上のバイオマーカーを発現している又は発現できるヒト組織培養細胞を試験化合物に接触させてもよい。試験化合物で治療又は処置されている対象生物については、当該治療又は処置由来の何れの生理学的影響についても定期的に検査する。特に、試験化合物は、対象生物に於ける疾病の可能性を減少させる能力について評価する。又は、以前に卵巣がんと診断された対象生物に試験化合物を投与する場合、試験化合物の病気の進行を抑制するか停止させるかの能力について検査する。
【0206】
IX. 分類アルゴリズム及び診断を導く方法
データセットは複合の分類アルゴリズムにより分析できる。幾つかの分類アルゴリズムは分類のための個別の規則を提供し、その他の分類アルゴリズムは特定の結果(クラス)の確率評価を提供する。後者の場合は、決定(診断)は最も高い確率のクラスに基づいてなされる。例えば、健常、良性、「がん」という、3種類(クラス)の問題を考察する。分類アルゴリズム(例、最近隣法)を構築してサンプルAに適用し、当該サンプルが健常である確率が0、良性である確率が33%、及び「がん」である確率が67%であると仮定する。このとき、サンプルAは「がん」であると診断できるであろう。この方法は、しかしながら、診断に於ける「曖昧さ」を何ら考慮していない。即ち、サンプルが良性であるという若干の可能性があり得る。従って、この診断は、健常又は良性である確率が0であり、「がん」である確率が1というサンプルBと同一となる。
【0207】
本発明者らはそれぞれのクラスに割り当てられた確率から導いた指数を構築することを提案する。この指数はコンピューター的に論理的に構築でき、当該ケースに於いて、本発明者らは3つの確率の単純な一次結合、即ち
I=0xp(対照)+1xp(良性)+2xp(悪性腫瘍)
を導き出す。
【0208】
対照である確率が1のサンプルの値は0であり、良性である確率が1のサンプルの値は1であり、「がん」である確率が1のサンプルの値は2となる。従って、この指数に基づいた臨床決定が可能となる。指数が0である人物は「がん」である危険性がない一方で指数が2である人物は「がん」の危険性が非常に高い。中間の値である人物のがんの危険性は変化し、指数の値の上昇と共に危険性が高まる。
【0209】
本発明者らは本発明の方法をメーヨー病院(Mayo clinic)からの180件の一連のサンプルに適用した。本発明者らは5種類の形態のトランスサイレチン及び一つの形態のアポリポプロテインA1の、年齢を含むものと含まないものに基づいて、最近隣法の分類アルゴリズムを導き出した。以下に示す図には、モデルに年齢が含まれない場合のクラスの関数として指数値がプロットされている。
【0210】
スコアが0の個人は、これらのマーカーに基づき、事実上卵巣がんの危険性がなく、逆に、スコア2の個人は卵巣がんの危険性が最も高い。
【0211】
以下の実施例は本発明を、限定するものではなく、説明するためのものであ。特定の例が示されているが、上述の記載は説明のためのものであり、何ら本発明を限定するものではない。前述した態様の一つ又はそれ以上の特性何れもが、本発明に於ける他の態様の一つ又はそれ以上のその他の如何なる特性と組み合わせて用いられてもよい。更に、本発明の多くの改変は、本明細書の記載するところにより、当業者には明らかなものである。それ故、本発明の範囲は上述の記載に制限されるものではく、寧ろ添付の特許請求の範囲及びそれらの均等の範囲に基づいて決定されるものである。
【0212】
本出願で引用された全ての刊行物及び特許文献は、刊行物又は特許文献の各々に於いて示されているものを同等にその全てを参照して本明細書に取り込む。出願人は、本明細書で参照された何れの文献についても、本発明の「先行技術」として認めるものではない。
【0213】
実施例
原料と方法
サンプル
プロテオミックプロファイリングデータはグローニンゲン大学病院(グローニンゲン、オランダ)、デューク大学メディカルセンター(ダーハム、NC)、ロイヤルホスピタルフォーウィメン(シドニー、オーストラリア)、MDアンダーソン癌センター(ヒューストン、TX)で集められた全部で503例の血清試料から過去にさかのぼって得たものである。卵巣がんの群は、65人のステージI/IIの浸潤性上皮卵巣がん患者、88人のステージIII/IVの浸潤性上皮卵巣がん患者、28人の境界型腫瘍の患者及び14人の再発性患者からなる。がんのケースはFIGOクライテリアに基づく病理学者により最適なステージに分けられる。ステージI/IIの浸潤性卵巣がん患者のうち、20人は重症、17人は粘液性、15人は子宮内、8人は明細胞、1人はがん肉腫及び4人は混合上皮がん腫であった。サンプルはまた、良性骨盤塊と診断された166人の患者及び142人の健常人を対照として含むものであった。年齢及びCA125レベルを含む研究集団(群)の特徴と基本的な記述統計を、表1に記す。
【0214】
患者由来の全てのサンプルは、手術、又は治療若しくは処置に先だって集められ、健康な有志由来の試料は、施設の同意で集められた。血液は凝固され、血清は直ぐに分離された。全てのサンプルは−70℃で保存され、アッセイの直前に溶解された。前患者のCA125レベルは、CA125IIラジオイムノアッセイキット(セントカー)を使用した前もった研究により入手できた。
【0215】
プロテオミクスプロファイリングのための503例の試料に加え、ジョンズホプキンスメディカルインスティチューションでの定期的な臨床実験試験のために収集された142の血清試料が、イムノアッセイ試験が可能な同定されたバイオマーカーのレベルで試験された。これらのサンプルのうち、41例は後期卵巣がん患者から、41例は健常な女性から得られた。残りの60例サンプルは、胸がん、腸がん、前立腺がんの患者それぞれ20人から得られ、同定されたバイオマーカーの腫瘍部位特異性を試験するために使用された(表3)。全てのサンプルは、収集の後2〜4時間で処理され、−70℃での凍結に先立って、最大48時間、2〜8℃で保存された。CA125IIアッセイはまた、トソーAIA−600 II分析器(トソーメディックス)での二次元イムノエンザイモメトリックアッセイを使用して行われた。
【実施例1】
【0216】
蛋白質発現プロファイリング
血清分画:血清サンプルは氷上で溶かされ、それから沈殿を除去するために20000gで10分間遠心された。血清の20μlは30μlの変異緩衝液(U9:9Mのウレア、2%のCHAPS、50mMのトリスpH9.0)と混合され、4℃で20分間撹拌された。個々のサンプルのために、180μlのハイパーQDFアニオン交換樹脂が、200μlのU1緩衝液(50mMのトリスpH9.0で1:9に希釈されたU9)で三回平衡化された。変性した血清は樹脂に添加され、30分間結合させられた。結合しない物質は集められ、それから100μlの0.1%OGPを含む50mMトリス9.0が樹脂へと添加された。この洗浄物は収集され、結合しない物質(フロースルー、分画1)とあわせられた。分画はそれからpH7,5,4,3の洗浄緩衡液と有機溶媒それぞれ100μlを二回使用する段階的pH勾配で集められた。これで、全部で6つの分画が集められた。分画はバイオメック2000自動化液体ハンドラー(ベックマン)及びマイクロミックスシェイカー(DPC)で処理された。対照の収集されたヒト血清(インタージェン)のサンプルはアッセイをモニターするために、同様に処理された。
【0217】
A.蛋白質発現プロファイルのための物質
ベックマンバイオメック2000自動化ワークステーション
QハイパーDFセラミックアニオン交換樹脂(バイオセプラ、フランス)96穴ウェル
v底マイクロプレート
96穴ロプロダイン膜フィルタープレート(サイレントスクリーン、Nalge Nunc)
平衡緩衝液−50mMのトリス塩酸pH9.0
U9−9Mのウレア、2.0%のCHAPS、50mMのトリス塩酸、pH9.0;
U1−1Mのウレア、0.22%のCHAPS、50mMトリス塩酸、pH9.0;
pH9.0緩衝液−100mMのトリス塩酸、0.1%のOGP pH9.0;
pH7.0緩衡液−100mMのHEPES、0.1%のOGP pH7.0;
pH5.0緩衝液−100mMの酢酸Na、0.1%のOGP pH5.0;
pH4.0緩衝液−100mMの酢酸Na、0.1%のOGP pH4.0;
pH3.0緩衝液−50mMのクエン酸Na,0.1%のOGP pH3.0;
有機緩衝液−33.3%のイソプロパノール/16.67%のアセトニトリル/0.5%のトリフルオロ酢酸(TFA)
【0218】
B.手順
血清変性
20μlの血清を96穴V底プレートにピペットする。血清を含む個々のウェルに30μlのU9を添加する。96穴プレートをシーリングフィルムで覆う。樹脂が平衡化される間、少なくとも20分間4℃で撹拌する。
【0219】
樹脂の平衡化
50mMのトリス塩酸 pH9.0の3ベッド(bed)容量で樹脂を5回洗浄する。これは50mLの遠心チューブで行われる。樹脂に50mMのトリス塩酸 pH9.0の当量を添加することで樹脂の50/50スラリーを調製する。180μlの50/50スラリーを96ウェルフィルタープレートの個々のウェルに添加する。樹脂の緩衝液に対する比率を一貫したものに保つために、スラリーを含む(2又は3分取毎に)チューブを定期的に撹拌する。それから緩衝液をろ過し、200μlのU1を添加し、再度ろ過する。これを同様に更に2回行う。
【0220】
サンプル適用とインキュベーション
次に血清を樹脂に結合させる。本工程の最初の段階は、フィルタープレート内の対応するウェルに50μlの個々のサンプルをピペットする。次にサンプルプレートの個々のウェルに50μlのU1を添加し、5分間混合する。それからサンプルプレートの個々のウェルから50μlをフィルタープレートの対応するウェルへピペットする。30分間4℃で撹拌する。
【0221】
次に分画を集める。フィルタープレートの下にV底96ウェルを設置する。フィルタープレートから流出物を集める。100μlの洗浄緩衝液1がフィルタープレートの個々のウェルにそれから添加される。次に室温で10分間撹拌する。分画1は流出及びpH9の溶離液を含む。次にフィルタープレートの個々のウェルに100μlの洗浄緩衝液2を添加する。室温で10分間撹拌する。フィルタープレートの下にきれいなV底プレートを設置し、プレート内に分画2を集める。フィルタープレートの個々のウェルに100μlの洗浄緩衝液2を添加する。10分間室温で撹拌する。V底96ウェルプレートに分画2の残りを集める。分画2はpH7の溶離液を含んでいる。フィルタープレートの個々のウェルに100μlの洗浄緩衝液3を添加する。室温で10分間撹拌する。清浄なV底プレートをフィルタープレートの下に設置し、分画3を集める。フィルタープレートの個々のウェルへ100μlの洗浄緩衝液3を添加し、室温で10分間撹拌する。V底プレートに分画3の残りを集める。分画3はpH5の溶離液を含んでいる。フィルタープレートに100μkの洗浄緩衝液4を添加し、室温で10分間撹拌する。フィルタープレートの下に清浄なV底プレートを設置し、分画4を集める。次にフィルタープレートへ100μlの洗浄緩衝液を添加し、室温で10分間撹拌する。V底プレートに残った分画4を集める。分画4はpH4の溶離液を含む。それからフィルタープレートの個々のウェルに100μlの洗浄緩衝液5を添加し、室温で10分間撹拌する。V底プレートに残った分画5を集める。分画5はpH3の溶離液を含んでいる。フィルタープレートに100μlの洗浄緩衡液6を添加し、10分間室温で撹拌する。次にフィルタープレートの下に清浄なV底プレートを設置し、分画6を集める。フィルタープレートに100μlの洗浄緩衝液6を添加し、再度室温で10分間撹拌する。残りの分画を集める。分画6は有機溶媒溶離液を含んでいる。
チップ結合手順までの間、分画は凍結させておく。
【0222】
アレイ結合:10μlの個々の分画は90μlの結合緩衝液と混合され、IMAC、SAX、H50、WCXプロテインチップアレイ(サイファージェン バイオシステムズ)へ三回結合された。IMACでは、結合緩衝液は500mMの塩化ナトリウムを含む、100mMのリン酸ナトリウム pH7.0であり、SAXでは、結合緩衝液はpH7の100mMリン酸ナトリウムであり、H50では結合緩衝液は50%のアセトニトリル水溶液であり、WCXでは、緩衝液はpH4.0の100mM酢酸ナトリウムであった。結合は室温で30分間行われた。チップはそれから結合緩衝液で3回洗浄され、水で二回洗浄された。使用されたマトリックスはシナピニック酸であった。
【0223】
データ獲得および分析:SELDI分析のために、全てのアレイは、サイファージェンPBSプロテインチップ(登録商標)アレイリーダー、タイムラグ焦点、線形、レーザー脱離/イオン化飛行時間マススペクトロメーターを使用して読まれた。全てのスペクトルは陽性イオンモードで獲得された。タイムラグ焦点遅延時間はペプチドに対して400ns、蛋白質に対して1900nsで設定された。イオンは3kVイオン抽出パルスを使用して抽出され、20kVの加速化電位を使用して最終速度へと加速された。このシステムは秒あたり2〜5パルスの繰り返し率でパルスされた窒素レーザーを使用している。レーザー流は通常30〜150μJ/mm2であった。自動化された分析手順はほとんどのサンプル分析においてデータ獲得工程をコントロールするために使用された。個々のスペクトルは平均少なくとも100レーザーショットであり、公知のペプチド又は蛋白質の混合物に対して外見的に計測された。インシュリン及びイムノグロブリン標準物質を使用して、装置はパフォーマンスを毎週モニターされた。個々のチップは高低二つのレーザーエネルギーでよまれた。スペクトルは外見的に計測され、ベースラインは8倍のフィティング幅のセットを引かれ、それから総イオン電流へ(マトリックス領域を除いて)ノーマライズされた。
【実施例2】
【0224】
統計分析
バイオマーカー検索: M/Z2kD−50kDのマスの幅で限定されたマスピークが(S/N>5、0.3%のクラスターマスウインドウ)、SELDIスペクトルから選択された。興味あるスペクトルの幅でのデータのばらつきのより一貫したレベルを得るために、更なる分析の前に対数変換がピーク強度に適用された。初期の上皮卵巣がん患者及び、デューク大学医療センター(Ca n=36、HC n=47)並びにグロニンゲン大学病院(Ca n=20、HC n=30)由来の健常コントロールのデータ強度が、まずマイクロアレイデータ分析に、次いで蛋白質発現データ分析(プロピーク、3Zインフォマティックス)に用いられた、ユニファイドマキシマムセパラビリティー分析(UMSA)アルゴリズムを使用して分析された。(Li Jら、Clin Chem 2002, 48: 1296-304、Rai AJら、Zhang Zら、Arch Pathol Lab Med 2002, 126: 1518-26、Zhang Zら、Applying classification separability analysis: papers from CAMDA ’00 Boston: Kluwer Academic Publishers, 2001: 125-136; Zhang Zら、Fishing Expression- a Supervised Approach to Extract Patterns from a Compendium Of Expression Profiles. In: Lin SM, Johnson KF, eds. Microarray Data Analysis II: Papers from CAMDA ’01. Boston: Kluwer Academic Publishers, 2002)。
【0225】
データに於けるバイアスやアーティファクトのピークを選択する可能性を減少させるために、二つの側面からのデータが別々に分析された。初期の卵巣がんと健常コントロールを区別するはっきりとした一貫性のあるピークを選択するためにブーツストラップ・リサンプリング法が用いられた。各ブーツストラップ・ランに於いて、ある一定のパーセンテージのがん及び対照サンプルが、分析するための差し替え用にランダムに選択された。各ピークはUMSA分類の線形型式に当てはまるようにランク付けされた。各ピークのランクの平均及び標準偏差は複数回(20−40)の測定で算出された。高い平均ランクと低い標準偏差を有するピークが候補ピークの短いリストを形成するために選択された。次いで、二つの側面からの結果は、潜在的なバイオマーカーのパネルとして一貫した発現パターンを有するピークの最終セットを決定するために比較された。
【0226】
多変量予測モデル:多変量予測モデルを構築するために、二つの側面からのデータは合わせられ、ランダムにトレーニングセットと試験セットへと分けられた。潜在的なバイオマーカーパネルと得られた予測モデルの性能は最初に試験セットで評価され、最終的にバイオマーカー発見及びモデル構築工程に含まれなかった残り二つの側面からの、別々のデータで確認された。評価のための統計方法には感度並びに特異度評価及び、受診者動作特性(ROC)曲線分析が含まれた。
【実施例3】
【0227】
バイオマーカーの精製
全てのマーカーに於いて、血清は蛋白質発現プロファイリングに使用されたアニオン交換プロトコールを使用して初めに分画化された。個々の精製工程では、分画はNP20又はIMAC−銅プロテインチップアレイに於いてモニターされた。
【0228】
28kDマーカーの精製:アニオン交換分離由来の1mlのpH4分画が、500μlのRPCポリバイオ10−15(バイオセプラ)へ添加され、40℃で1時間インキュベートされた。0.1%のトリフルオロ酢酸を有するアセトニトリルの増加した量を含む分画が集められた。75%アセトニトリル/0.1%トリフルオロ酢酸分画は高速バキュームで乾燥され、DTTを伴わない100μlのSDS−トリシンサンプルローディング緩衝液で再水和された。40μlのサンプルが16%トリシンゲルへロードされ、100mVで4時間実行された。ゲルはコロイドブルーキット(ピアース)で汚れを取り除かれ、28kDaのものが切り取られた。
【0229】
12.8kDaマーカーの精製:アニオン交換分離由来の10mlのpH4分画は、1Mのトリス塩酸、pH11で、pH7.5に調節され、20mlのpH7.2のPBSで3回前もって洗浄された10mlのMEPビーズ(バイオスプラ)へロードされた。ピークを含む流出分画が、30分間4℃でシェイクした後に得られた。この分画は大量のアルブミンを含んでいることから、アルブミンの免疫枯渇が行われた。プロテインAビーズが1.5mlPBSでの3回に続く、0.1%のトリトン100を含む1.5mlのPBSで前もって洗浄された。4mlの抗HSA抗体(ICN)が1.5mlのプロテイン−Aビーズに添加され、一晩中結合させられた。結合されたビーズは、0.1%トリトン−100を含む1mlPBSで3回洗浄され、それから1mlのPBSで3回洗浄された。MEPカラムからの流出物はビーズへ添加され、4℃で1時間インキュベートされた。流出物は1分間3000rcfでスピンすることで得られた。プロテインA−抗HSA抗体カラムからの流出画分は、1.5mlの0.1%TFAで4回前もって洗浄された1.5mlのRPCポリバイオ10−15樹脂(バイオセプラ)を含むスピンカラムへと添加された。流出物は4℃で40分間静かな振動でインキュベートした後に、3000rcfでスピンすることで除去され、ビーズは0.1%のTFA0.8mlで洗浄された。0.1%のトリフルオロ酢酸を含むアセトニトリルの増加した量を含む分画が集められた。75%アセトニトリル/0.1%トリフルオロ酢酸分画が高速バキュームで乾燥され、DTTを有さない100μlのSDS−トリシンサンプルローディング緩衝液で再水和された。40μlのサンプルが16%トリシンゲルへとロードされ、100mVで4時間実行された。ゲルはコロイドブルーキット(ピアース)で汚れを取り除かれ、12.8kDaが切り取られた。
【0230】
3272ダルトンのバイオマーカーの精製:アニオン交換分画由来の1mlの流出物が、硫酸銅と結合した125μl(50%スラリー250μl)のIMACセルロース(バイオセプラ)へロードされ、4℃で1時間インキュベートされた。ビーズはそれからイミダゾールの徐々に増加する勾配で洗浄された(500mM塩化ナトリウムを有する、pH7の100mMリン酸ナトリウムの、20mM、50mM、100mM、150mM、200mMイミダゾール各々250μl)。バイオマーカー(50−150mMイミダゾール)を含む200μlの分画がC18カラム(ANSYSテクノロジーズ、メタケムポラリスC18−A5U)へロードされ、1ml/分で5分間0.1%のTFAで洗浄され、続いて1ml/分で、0.1%のTFAを含む0〜9%ACN勾配で10分間洗浄された。カラムはそれから0.1%TFAを含む9%ACNから、0.1%TFAを含む45%ACNへの線形勾配で、1ml/分で30分間溶出された。分画は1ml容器に集められ、マーカーは(ACNの濃度が34.2%である)分画38で溶出した。
【実施例4】
【0231】
バイオマーカーの同定
精製された蛋白質はトリプシンで消化され、トリプシンで消化された断片はプロテインチップリーダーで分析された。個々のスペクトルは平均少なくとも250レーザーショットであり、公知のペプチドの混合物に対して外見的に校正され、又はトリプシン自動溶解およびマトリックスピークを使用して内部的に校正された。ピークマスはプロファウンド検索ペプチドマッピングサイト(オンラインで入手可能)に供された。蛋白質配列はNCBIデータベースを使用して得られた。これらのデータベース合致は、プロテインチップアレイインターフェース(サイファージェン)を装着したPE Sciex QStar(コンコルド、カナダ)により確かめられた。MS/MS実験では、スペクトルはサイファージェン PCI1000プロテインチップ(登録商標)アレイインターフェースを装着したSciex QStar(コンコルド、オンタリオ、カナダ)タンデム四極飛行時間マススペクトロメーターで得られた。イオンは、平均電圧流が130μJ/mm2の秒辺り30パルスで作動する、電圧をかけられた窒素レーザー(レーザーサイエンスVSL337NDS、フランクリン、MA、USA)を使用してつくられた。窒素ガスは、全ての低エネルギー衝突誘起解離(CID)実験と同様に、形成されたイオンの衝突冷却のために、圧力10mトールで使用された。適用された衝突エネルギーは一般に50eV/kDaの支配へ続く。MS及びMS/MSモードでは、システムは公知のペプチドの混合物を使用して外見的に校正された。蛋白質の同定はUCSFプロテインプロスペクターMS−タグプログラム(オンラインで入手可能;Clauser K.R.ら(1999)Anal.l Chem.71:2871参照)を使用して行われた。MS−タグによるデータベース検索は、以下の値を使用して行われた。ヒト、トリプシン消化(許容される解裂の二つがかけた)、カルバミドメチル化により修飾されたシステイン、親及び断片イオンマス許容性50ppm、NCBI又はSwiss−Protデータベース。
これらの同定は、EIA又はプロテインチップアレイに基づくイムノアッセイにより確かめられた。
【0232】
これらの蛋白質は一般的に急性反応物として特徴付けられるものであるが、イムノアッセイを使用する予備的な研究において、アポリポプロテインA1のレベルが胸又は小腸がん患者において変化しておらず、プレアルブミンのレベルもまた、胸又は前立腺がん患者においては変化してなかったことに言及すべきである。
【0233】
トランスサイレチンは陰性の急性蛋白質であり、そのレベルは上皮卵巣がんにおいて減少することが以前報告されている(Mahlck CGら、Gynecol Obstet Invest, 1994; 37: 135-40)。トランスサイレチンは血清チロキシンとトリヨードチロニンの主要なキャリアーであり、レチノール結合蛋白質との相互作用を通じてレチノールの運搬を容易にする。トランスサイレチンの発現を欠如する形質転換マウスは劇的に低いレベルのレチノール及びレチノール結合蛋白質を有しており、(van Bennekum AMら、J Biol Chem 2001; 276: 1107-13)細胞性レチノール結合蛋白質が卵巣上皮の悪性形質転換の増加した速度と関連づけられることが示されるのと同様に、レチノール結合蛋白質の減少したレベルを有している(van Bennekum AMら、J Biol Chem 2001; 276: 1107-13、Roberts Dら、DNA Cell Biol 2002; 21: 11-9)。加えて、細胞性レチナール結合蛋白質のレベルが卵巣がんにおいて変化することが、オリゴヌクレオチドアレイ解析により報告されている(Giordano TJら、Am J Pathol 2001; 159: 1231-8)。
【0234】
m/z3272バイオマーカーが由来するIAIH4のカルボキシル部分は、血漿カリクレインの基質であることが示されている(Pu XPら、Biochem Biophys Acta 1994; 1208: 338-43、Nishimura Hら、FEBS Lett 1995; 357: 207-11)。カリクレインプロテアーゼは血漿カリクレインと組織カリクレインとからなっており、それらは基質特異性が重なっている(Diamandis EPら、Clin Chem 2002; 48: 1198-205)。組織カリクレインは前立腺特異的抗原(PSA;hK3)を含む大きな複数遺伝子ファミリーの産物であり、前立腺がんの腫瘍マーカーである。hK4、hK5、hK7、hK8、hK9を含むいくつかの組織カリクレインは卵巣がんに於いて異常発現物として見出されている(Yousef GMら、Minerva Endocrinol 2002; 27: 157-66)。
【0235】
トランスサイレチンΔN10及びIAIH4断片は成熟蛋白質の切り取られた産物である。これらのマーカーは、血漿カリクレイン、組織カリクレイン、マトリックスメタロプロテアーゼ、プロスタチン及び卵巣がんにおいて増加することが最近報告されたトリプシン様セリンプロテアーゼを含む、一つ又はそれ以上のプロテアーゼにより解裂される産物であろう(Mok SCら、J Natl Cancer Inst 2001; 93: 1458-64)。これらのマーカーを産生するプロテアーゼはまた、予想されるモデルに対するより高い感度及び特異度を与えるためにマーカー1〜4と組み合わせられることができるマーカーとして使用されることができるだろう。
【実施例5】
【0236】
個々のバイオマーカーの識別力
発見セット内で、初期の卵巣がん患者と健常人の対照との間に於ける、3つのバイオマーカーの発現レベルに於ける違いは統計学的に顕著であった(m/z12828及び28043のマーカーではP<0.000001、m/z3272のマーカーではP<0.003、m/z3031のマーカーではP<0.04、m/z2884のマーカーではP<0.005)(表1)。
【0237】
【表1】
【0238】
図2(パネルA−D)は、初期の卵巣がん患者及び健常人の対照由来のデータに於ける、受診者動作特性(ROC)曲線分析を使用して、3つのバイオマーカーそれぞれの識別力とCA125の識別力を比較するものである。パネルA−Dでは、1:CA125、2:m/z12.8kD、3:m/z28kDa、4:m/z3272Dである。CA125とm/z12828は検索及び個別の検証セットに於いて同様に実行され、他の二つのバイオマーカーは、一つ又は両方のデータセットに於いてCA125より低い曲線下面積(AUC)を有していた。しかしながら3つのバイオマーカーとCA125の間の見積もられた関連は低く(データは示されていない)、それらはお互い補足しあうもので、多変量アプローチがCA125の単独分析にはより性能がよいであろうという可能性を示している。
【0239】
初期卵巣がんグループのサンプルが由来する50歳以上の女性は61%であるのに対して、健常人の対照サンプルの27%が50歳以上の女性由来であることから(P<0.000001)、これらのマーカーが年齢に関連する変換を反映しているものではないかという関心をもった。しかしながら、同定されたバイオマーカーは年齢集団の間に於いてさほど変化がなく、CA125のバイオマーカーと同様にレベルに於いて異なるものでもなかった。(表1)。以前の人口に基づく研究に於いて、アポリポプロテインA1のレベルが年齢で実際若干増加することが示されている(Jungner Iら、Clin Chem 1998; 44: 1641-9、Bachorik PSら、Clin Chem 1997; 43: 2364-78)。
【実施例6】
【0240】
多変量予測モデル
非線形UMSA分類を使用して、二つの多変量予測モデルが構築された。最初のものは、その入力として3つのバイオマーカーのみを使用し、二番目のものはCA125レベルとともに、3つのバイオマーカーを使用した。図2のパネルE−Hは、二つのモデルの全体的な診断性能を、ROC分析を使用してCA125の全体的な診断性能と比較している。パネルE−Hでは、○:CA125、□:3つのバイオマーカーを使用する多変量モデル、△:3つのバイオマーカーとCA125を使用する多変量モデル。トレーニングデータでは、0.5のカットオフ値が感度及び特異度の合計をおおよそ最大化した。このカットオフを使用して、モデルは試験データと個々の検証データに適用された(表2)。独立した検証セットに於いて健常対照とステージI/II浸潤性卵巣がんとを差別するために、82.6%の感度(95% Cl 61.2−95.1%)で三つのバイオマーカーとCA125を使用する多変量モデルが、93.7%(84.5−98.2%)の特異度を有していた。表2はまた、独立した検証セットで、良性状態、後期浸潤がん又は境界の腫瘍である患者に関する結果を含んでいる。
【0241】
【表2】
【0242】
図3はCA125と3つのバイオマーカーの分布パターン及び全ての診断集団に於けるるサンプルでの二つのモデルの性能をプロットする。y軸は3つのバイオマーカー全ての線上スケールに於ける相対的な強度、対数スケールでのCA125の血清レベル、二つのモデルのための0(がんのもっとも低い危険度)と1(がんのもっとも高い危険度)の間の継続的な値である。サンプルグループには、A)健常対照、B)良性、C)ステージI/II浸潤性がん、D)ステージIII/IV浸潤性がん、E)再発、F)ステージI/II境界型腫瘍を含む。バイオマーカー検索セットに於ける二つのIIIc浸潤性ケースと、個々の検証セットに於ける三つのステージIII/IV境界型腫瘍はプロットされなかった。
【0243】
m/z3272を除いて、二つの予測されるモデルと同様に他の二つのバイオマーカーは、良性ケースからステージI/II浸潤性がんを検出することを適度に可能にした(m/z12828と28043それぞれにP=0.004、0.001、CA125あり及びなしのそれぞれのモデルでP=0.003、0.0001)。
【実施例7】
【0244】
免疫アッセイを使用する個別の検証
マイクロタイタープレート形式(和光化学、USA)で行われる濁度免疫アッセイを使用して、アポリポプロテインA1について、そして、ジメンションRxL器具(デイド−ベーリング)での、粒子増強濁度免疫アッセイを使用して、トランスサイレチンΔN10について、142の試料が分析された(表3)。
【0245】
【表3】
【0246】
41人の健常対照に比較して、41人の後期卵巣がん患者に於いて、CA125の血清レベルはアップレギュレートされ、アポリポプロテインA1とトランスサイレチンΔN10のレベルはダウンレギュレートされていた(それぞれP=0.001895、0.000151、0.000006)。健常対照ではアポリポプロテインA1の平均血清レベルは、胸部又は結腸がん患者のものと顕著には異ならず(それぞれP=0.844163、0.330148)、前立腺がん患者のものとのみ、ほんの僅かに異なっていた(P=0.0043676)。平均のトランスサイレチンレベルは、卵巣がん患者に於けるよりも、結腸がん患者に於けるほうがより低い程度ではあるがダウンレギュレートされていた(P=0.006889)。健常対照と胸又は前立腺がん患者との間では、平均トランスサイレチンΔN10血清レベルは著しくは異ならなかった(それぞれP=0.928519、0.546918)。
【実施例8】
【0247】
分類アルゴリズム
図4において図式的に描かれる分類アルゴリズムに関して、モジュール1−3はUMSA学習アルゴリズムでトレーニングされた。しかしながら、最終分類モジュールは、通常の支持ベクター機械分類と同じ数学的形態を有していた。
【0248】
UMSA分類モジュール1
CA125nm=log(CA125+0.01)
m/z12.9Knm=(m/z12828−61.103)/239.031
m/z28Knm=(m/z28043−61.3043)/238.9799
m/z3272nm=log(m/z3272+0.01)
log():自然対数
カーネル機能:ポリノミナル<X(:,i)X(:,j)>)^3.0
【0249】
【0250】
UMSA分類モジュール2
CA125nm=log(CA125+0.01)
m/z12.9Knm=(m/z12828−0.345)/0.1114
m/z28Knm=(m/z28043−0.4834)/0.2792
m/z3272nm=log(m/z3272+0.01)
log():自然対数
カーネル機能:exp(−/X(:,i)−X(:,j)/^2/(2*(1.0)^))
【0251】
【0252】
UMSA分類モジュール3
カーネル機構:ポリノミアル<X(:,i),X(:,j)>)^2.0
X1=exp(モジュール1出力)/(1+exp(モジュール1出力)
X1=モジュール2出力
【0253】
【0254】
後処理:
Y=(CA125<=75)ならば、モジュール3出力
その他は、モジュール3出力+log((CA125+0.0001)/75)*8/log(10/3)
モジュール出力=exp(Y/2)/(1+exp(Y/2))
【0255】
本発明は、その好ましい実施態様を含んで、詳細に記載されている。当該開示により当業者であれば、本発明の修飾及び/又は改良を行うことができるものであるが、後述の請求の範囲で示されるように、それらも本発明の範囲に含まれるものである。
【0256】
本出願で引用された全ての刊行物及び特許文献は、刊行物又は特許文献の各々に於いて示されているものが同等にその全てが参照として本明細書に取り込まれる。出願人は、本明細書で参照された何れの文献についても、本発明の「先行技術」として認めるものではない。
【実施例9】
【0257】
初期の段階の卵巣がんのバイオマーカーの検証、及び治療又は処置との関連性
患者:この研究には、フローニンゲン及びルーバンの2カ所の病院から集められた、良性の卵巣の疾病を有する女性25人、卵巣がん初期(ステージI、IIa)の女性53人、卵巣がん後期の女性116人、及び健常な対照として73人が参加した。サンプルの組織学的亜型は以下の通りである:95漿液、29粘液、16子宮内膜、11明細胞、17腺がん及び1ミュラー管混合。不明確な腫瘍のある患者は含まなかった。初期がんの女性の平均年齢は51.8歳であり、後期がんでは58.8歳であり、良性の疾病では47歳、そして健常な対照では58歳であった。
【0258】
クロマトグラフのプロテインチップ(登録商標)分析:5μLの血清を9Mのウレア/2%のCHAPS/50mMのトリス塩酸7.5μLで変性した。変性した血清をバイオチップ結合バッファー(IMAC30アレイには、50mMのリン酸ナトリウム、250mMのNaCl、pH6.0、又はQ10アレイ用には100mMのリン酸ナトリウム緩衝液、pH7.0)で希釈した。希釈した血清をIMAC30又はQ10プロテインチップアレイで2時間インキュベートした。アレイを結合バッファーで洗浄し、次いで水で洗浄して、簡単に風乾させた。シナピン酸を加え、4000シリーズのプロテインチップ読み取り装置(Series 400 ProteinChip Reader)で読み取った。
【0259】
データ分析:マススペクトルは外部的に質量を標準化し、内部的に全イオン電流を利用して強度を標準化して、基準を差し引いた。ピークを手動で選択して強度を記録した。データはt検定及びサポートベクタマシンを使用して分析した。
【0260】
図9は、Q10プロテインチップアレイでのトランスサイレチンアッセイのスペクトルを表す。未修飾の、スルホンされた、システイン化された、Gys−Glyで修飾された、及びグルタチオン化されたトランスサイレチンの5種類の形態が解明されたことを示す。加えて、トランスサイレチン(Δ10)の切断された形態もまた検出され、これはシステイン化されたトランスサイレチンよりも更に低い濃度(〜2%)で存在した。
【0261】
当該分析は、蛋白質の標準値を用いて較正することにより、完全に定量的なものとなる。図10は様々な形態のトランスサイレチンの濃度に対するピーク強度の線形応答を表す。
【0262】
図4は卵巣がんに於いてトランスサイレチン及びアポリポプロテインA1がダウンレギュレートすることを表す。二群t検定は初期段階又は後期段階の卵巣がんの何れの患者に於いてもトランスサイレチンの5種類の形態及びアポリポプロテインA1がダウンレギュレートすることを示す。トランスサイレチンのダウンレギュレーション(下方制御)は後期段階の患者においてより顕著であることがわかる。
【0263】
【表4】
【0264】
図5はトランスサイレチン及びアポリポプロテインA1の術後の増加を表す。箱髭図(Box−and−whisker plots)はトランスサイレチンとアポリポプロテインA1の両方が術後に対照のレベルに戻ることを表す。対のt検定(paired t−test)はこの作用が統計的に顕著であることを表す。幾つかのトランスサイレチンの形態は他より大きな反応を示した。
【0265】
【表5】
【0266】
図11に表されるように、トランスサイレチンの形態とアポリポプロテインA1の組み合わせは手術に応じて変化する。5形態のトランスサイレチン及びアポリポプロテインA1に基づいたサポートベクタマシンアルゴリズムをそれぞれの患者の手術前及び手術後の指数値を出すために使用した。手術前のレベルと手術後のレベルを比較する指数値の相関図は、大部分の患者に於いて、数値が手術後に増加したことを明らかにした。A.数値は初期段階の卵巣がん患者の31/42(73.8%)に於いて増加した。B.数値は後期段階の卵巣がん患者の62/79(78.5%)に於いて増加した。図12に表されるように、この指数の数値は患者のモニターに使用できる。治療又は処置期間中の指数値の変化の様子の一例として、この患者については、指数の数値は手術前には低く、手術後に上昇した。レベルは1996年の10月まで最高値を保った。この時点で、当該患者の疾病の進行が明らかにされた。
【実施例10】
【0267】
対照症例研究(case-control study)に於けるマーカーの検証
患者:研究には、上皮性卵巣がんの女性45人、良性卵巣疾病の女性71人、消化器系の疾病の女性122人が参加した。本発明者らは、一人の小児良性病変及び解凍後の再冷凍を1回以上行ったサンプルを除外した。対照用のサンプルは患者及び良性の疾病のサンプルより長期に渡り保存された(平均の保存期間は、対照が21年、患者及び良性疾病は17年。)保存期間に関係するピークの検出の偏りを最小化する為、本発明者らはマーカーデータのメインの分析を1983〜1989年に採取されたサンプルに制限した。従って、本明細書に挙げられるデータは卵巣がん患者42人の症例、良性疾病の患者65人、及び対照76人に基づいたものである。
【0268】
クロマトグラフのプロテインチップ(登録商標)の分析:5μLの血清を9Mのウレア/2%のCHAPS/50mMのトリス塩酸7.5μLで変性させた。変性された血清をアレイ結合バッファー(IMAC30アレイには、50mMのリン酸ナトリウム、250mMの塩化ナトリウム、pH6.0、又はQ10アレイには100mMのリン酸ナトリウム緩衝液(バッファー)、pH7.0)で希釈した。希釈された血清はIMAC30又はQ10プロテインチップアレイで2時間インキュベートした。アレイを結合バッファーで洗浄し、次いで水で洗浄して、簡単に風乾した。シナピン酸を加え、4000シリーズのプロテインチップ読み取り装置(Series 4000 ProteinChip Reader)で読み取った。
【0269】
データ分析:マススペクトルは外部的に質量を標準化し、内部的に全イオン電流を利用して強度を標準化して、基準を差し引いた。ピークは手動で選択され、強度が記録された。人口学的特性をフィッシャーの正確確率検定を使用して比較した。t検定を群間に於けるピークの最高値の差の判定に使用した。線形及び二次判別分析並びに最近隣法を使用し、分類子を形成した。分類のエラー率はクロス確認(相互検証)で判断した。
【0270】
本発明の研究のサンプルに於ける人口統計学的特性及び臨床特性
【表6】
【0271】
図13はQ10プロテインチップアレイでのトランスサイレチンの形態及びアポリポプロテインA1のピーク強度の散布図を表す。トランスサイレチンの形態に対する二群t検定の結果は以下の通りである:未修飾、0.0076;スルホン化された、0.0052;システイン化された、0.0104;Cys−Glyで修飾された、0.0026;及びグルタチオン化された、0.0047。アポリポプロテインA1の二群t検定の結果は0.0009である。
【0272】
図14は最近隣法の指数を表す。年齢を含まないもの又は年齢を含むものについて6種類のトランスサイレチンの形態及びアポリポプロテインA1のピーク強度をモデルにインプットした。最近隣法を、各々のサンプルについて、対照、良性又はがん患者の事後確率の算出に使用した。クラスの構成要員の事後予想は、p(良性|マーカー)+2 x p(がん|マーカー)、p(良性|マーカー)+2xp(がん|マーカー)として計算された。数値の0はサンプルが明らかに対照として分類されたことを示し、一方で数値の2はサンプルが明らかにがんとして分類されたことを示す。
【図面の簡単な説明】
【0273】
【図1】図1は、m/z12828と28043(分画pH4、IMAC−Cuアレイ)及び3272(分画pH9、IMAC−Cuアレイ)に位置するピークを示すバイオマーカー発見セットに於けるサンプル由来のマススペクトルの擬似ゲル像を表す。
【図2】図2(A)、(B)、(C)、(D)は、CA125と三つの同定されたバイオマーカーの間のROC曲線比較を示す。図2(E)、(F)、(G)、(H)は、CA125と二つの多変量予測モデルのROC曲線比較を示す。
【図3】図3(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)はバイオマーカー発見セットと、個々の検証セット(パネルa−h)に於ける患者と健常対照間の、三つの同定されたバイオマーカーとCA125のスキャッチャードプロット分布を示す。図3(i)、(j)、(k)、(l)は試験セット(バイオマーカー発見セットの部分)と個々の検証セットに於ける患者と健常対照との間の二つの多変量予測モデル出力を示すスキャッチャープロットを表す。
【図4】図4はバイオマーカーを特徴づけるために使用された分類アルゴリズムのダイアグラムを表す。
【図5】図5は卵巣がんサンプルに見られる異なるIAIH4断片のスペクトルを表す。3276.7のピークはIAIH4断片1(配列番号1)を表す。3031.3のピークはIAIH4断片2(配列番号2)を表す。2884のピークはIAIH4断片3(配列番号3)を示す。表は「がん」のないサンプルに対して卵巣がんに於けるIAIH4断片の原型(IAIH4断片1;「Orig」)の8つの断片の存在に対するp値を表している。NS=有意でない。「−MN」はIAIH4断片1の配列からのN末端のMとNの切断を示し、更に配列番号2(IAIH4断片2)としても表される。「−MNF」はIAIH4断片1の配列からN末端のM、N及びFの切断を示し、更に配列番号3(IAIH4断片3)としても表される。表に於けるその他の断片は、原型のIAIH4断片1の配列から取り除かれたアミノ酸残基を示す。
【図6】図6は未修飾の、システイン化された、グルタチオン化された、及び断片のトランスサイレチンの免疫学的及びクロマトグラフの検出のためのマススペクトルを表す。
【図7】図7は卵巣がんの患者からの様々な形態のトランスサイレチンの検出結果を、その他のがん及び対照の患者と比較して表す。
【図8】図8はトランスサイレチンのシステイン化の実施である還元及びアルキル化の後のマススペクトルのピークパターンの変化を表す。
【図9】図9はQ10プロテインチップアレイでのトランスサイレチンの分析のスペクトルを表す。 5つの形態のトランスサイレチンが分解された:未修飾の、スルホン化された、CysGlyで修飾された及びグルタチオン化されたトランスサイレチンである。加えて、切断されたトランスサイレチン(ΔN10)もまた検出されたが、システイン化された形態の濃度(〜2%)より更に低い濃度で存在した。
【図10】図10は様々な形態のトランスサイレチンの濃度に対するピーク強度の線形応答を表す。
【図11】図11は手術に応じたトランスサイレチンとApoA1の組み合わせの変化を表す。5種類の形態のトランスサイレチン及びアポリポプロテインA1に基づいたサポートベクタマシンアルゴリズムを使用して、それぞれの患者について手術前及び手術後の指数を構築した。手術前のレベルと手術後のレベルを比較した指数の相関散布図は、大部分の患者について、手術後にスコアが増加した。A.数値は初期段階の卵巣がん患者の31/42(73.8%)に於いて増加した。B.数値は後期段階の卵巣がん患者の62/79(78.5%)に於いて増加した。
【図12】図12はこの指数の数値は患者のモニターに使用できることを表している。治療又は処置期間中の指数値の変化の様子の一例として、この患者については、指数の数値は手術前には低く、手術後に上昇した。レベルは1996年の10月まで最高値を保った。この時点で、当該患者の疾病の進行が明らかにされた。
【図13】図13はQ10プロテインチップアレイでのトランスサイレチンの形態及びアポリポプロテインA1のピーク強度の散布図を表す。トランスサイレチンの形態に対する二群t検定の結果は以下の通りである:未修飾、0.0076;スルホン化された、0.0052;システイン化された、0.0104;Cys−Glyで修飾された、0.0026;及びグルタチオン化された、0.0047。アポリポプロテインA1の二群t検定の結果は0.0009である。
【図14】図14は最近隣法の指数を表す。年齢を含まないもの又は年齢を含むものについて6種類のトランスサイレチンの形態及びアポリポプロテインA1のピーク強度をモデルにインプットした。最近隣法を、各々のサンプルについて、対照、良性又はがん患者の事後確率の算出に使用した。クラスの構成要員の事後予想は、p(良性|マーカー)+2 x p(がん|マーカー)、p(良性|マーカー)+2xp(がん|マーカー)として計算された。数値の0はサンプルが明確に対照として分類されたことを示し、一方で数値の2はサンプルが明確にがんとして分類されたことを示す。
【図15】図15はIMAC30Cuアレイ(PBSIIc)でのApoA1ピークののマススペクトルを表す。
【図16】図16はIMAC30Cuアレイ(PBS4000)でのApoA1ピークのマススペクトルを表す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)対象生物由来のサンプルに於いて、ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも一つのバイオマーカーを測定し、
(b)その測定結果を卵巣がんの状態と関連づけることを含む、
対象生物における卵巣がんの状態を認定する方法。
【請求項2】
更に、(c)前記状態に基づいて対象生物を治療又は処置することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
対象生物の治療又は処置管理が、更なる試験の指示、手術及び更なる手段を講じないことから選択されるものである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
更に、(d)対象生物を治療又は処置した後に、少なくとも一つのバイオマーカーを測定することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
卵巣がんの状態が、対象生物に於けるがんのリスク、疾患の有無、疾患の病期及び疾患の治療又は処置の有効性からなる群より選択されるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
更に、対象生物由来のサンプルにおいて、少なくとも一つの公知のバイオマーカー(マーカー4)を測定し、公知のバイオマーカーの測定結果と、ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2又はIAIH4断片3の測定結果を卵巣がんの状態と関連づけることを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
公知のバイオマーカーが、CA125、CA125II、CA15−3、CA19−9、CA72−4、CA195、腫瘍関連トリプシン阻害剤(TATI)、CEA、胎盤アルカリンホスファターゼ(PLAP)、シアリルTN、ガラクトシルトランスフェラーゼ、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF、CSF−1)、リゾホスファチジン酸(LPA)、上皮成長因子受容体(p110GFR)の細胞外ドメインの110kD構成体、例えばカリクレイン6及びカリクレイン10(NES−1)等の組織カリクレイン、プロスタシン、HE4、クレアチンキナーゼB(CKB)、LASA、HER−2/neu、尿ゴナドトロピンペプチド、ダイアノンNB70/K、組織ペプチド抗体(TPA)、オステオポンチン及びハプトグロビン、並びにそれらの蛋白質の変異体(例えば開裂体やアイソフォーム等)であるバイオマーカーから選択されるものである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
修飾されたApoA1及び未修飾のApoA1を含む群から選択されるApoA1、並びに
トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン及びグルタチオン化されたトランスサイレチンを含む群から選択されるトランスサイレチン、
を測定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
ApoA1が修飾されたApoA1であり、トランスサイレチンがシステイン化されたトランスサイレチンである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
修飾されたApoA1及び未修飾のApoA1を含む群から選択されるApoA1、
トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン及びグルタチオン化されたトランスサイレチンを含む群から選択されるトランスサイレチン、並びに
IAIH4断片1、IAIH断片2及びIAIH4断片3を含む群から選択されるIAIH4断片、
を測定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン及びグルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3を測定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
更に、対象生物由来のサンプルにおいて、公知のバイオマーカーを測定し、公知のバイオマーカーの測定結果と、ApoA1、トランスサイレチンΔN10及びIAIH4断片の測定結果を卵巣がんの状態と関連づけることを含む、請求項8〜12の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
公知のバイオマーカーが、CA125、CA125II、CA15−3、CA19−9、CA72−4、CA195、TATI、CEA、PLAP、シアリルTN、ガラクトシルトランスフェラーゼ、M−CSF、CSF−1、LPA、p110EGFR、組織カリクレイン、プロスタシン、HE4、CKB、LASA、HER−2/neu、尿ゴナドトロピンペプチド、ダイアノンNB70/K、TPA、オステオポンチン、ハプトグロビン及びそれらの蛋白質の変異体(例えば開裂体やアイソフォーム等)であるバイオマーカーから選択されるものである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
測定が、
(a)血液又は血液由来の対象生物からのサンプルを提供し、
(b)陰イオン交換樹脂でサンプル内の蛋白質を分け、ApoA1、トランスサイレチン及びIAIH4断片を含む分画を集め、そして
(c)蛋白質バイオマーカーに結合する捕獲試薬を含む基質の表面で、分画由来のApoA1、トランスサイレチン及びIAIH4断片を捕獲する、
ことを含む請求項8〜13の何れか一項に記載の方法。
【請求項15】
基質が、IMAC銅表面を含むSELDIプローブであり、蛋白質バイオマーカーがSELDIで検出されるものである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
基質が、ApoA1、トランスサイレチン及びIAIH4断片に結合する生体特異的な親和性試薬を含むSELDIプローブであり、蛋白質バイオマーカーがSELDIで検出されるものである、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
基質が、ApoA1、トランスサイレチン及びIAIH4断片に結合する生体特異的な親和性試薬を含むマイクロタイタープレートであり、蛋白質バイオマーカーがイムノアッセイで検出されるものである、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
測定が、バイオマーカーの有無を検出すること、マーカーを定量すること及びバイオマーカーのタイプを認定することから選択されるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
少なくとも一つのバイオマーカーが、バイオチップアレイを用いて測定されるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
バイオチップアレイが蛋白質チップアレイである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
バイオチップアレイが核酸アレイである、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
少なくとも一つのバイオマーカーがバイオチップアレイに固定化されたものである、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
蛋白質バイオマーカーがSELDIで測定されるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
蛋白質バイオマーカーがイムノアッセイで測定されるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
関連づけがソフトウエア分類アルゴリズムにより行われるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
サンプルが、血液、血清及び血漿から選択されるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
(a)対象生物由来のサンプルにおいて、ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3からなる群より選択される複数のバイオマーカーを測定することを含む方法。
【請求項28】
複数のバイオマーカーが、
未修飾のApoA1及び修飾されたApoA1を含む群から選択されるApoA1、並びに
トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン及びグルタチオン化されたトランスサイレチンを含む群から選択されるトランスサイレチン、
を含むものである、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
複数のバイオマーカーが、
ApoA1、
トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン及びグルタチオン化されたトランスサイレチンを含む群から選択されるトランスサイレチン、並びに
IAIH4断片1,IAIH断片2及びIAIH4断片3を含む群から選択されるIAIH4断片、
を含むものである、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
更に、少なくとも一つの公知のバイオマーカーを測定することを含む、請求項27〜29の何れか一項に記載の方法。
【請求項31】
公知のバイオマーカーが、CA125、CA125II、CA15−3、CA19−9、CA72−4、CA195、TATI、CEA、PLAP、シアリルTN、ガラクトシルトランスフェラーゼ、M−CSF、CSF−1、LPA、p110EGFR、組織カリクレイン、プロスタシン、HE4、CKB、LASA、HER−2/neu、尿ゴナドトロピンペプチド、ダイアノンNB70/K、TPA、オステオポンチン及びハプトグロビン、並びにそれらの蛋白質の変異体(例えば開裂体やアイソフォーム等)であるバイオマーカーから選択されるものである、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
蛋白質バイオマーカーがSELDI又はイムノアッセイで検出されるものである、請求項27〜31の何れか一項に記載の方法。
【請求項33】
サンプルが、血液、血清及び血漿から選択されるものである、請求項27〜32の何れか一項に記載の方法。
【請求項34】
対象生物由来のサンプルにおいて、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3、並びにそれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも一つのバイオマーカーを測定することを含む方法。
【請求項35】
更に、ApoA1を測定することを含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
ApoA1が修飾されたApoA1である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
更に、少なくとも一つの公知のバイオマーカーを測定することを含む、請求項34〜36の何れか一項に記載の方法。
【請求項38】
公知のバイオマーカーが、CA125、CA125II、CA15−3、CA19−9、CA72−4、CA195、TATI、CEA、PLAP、シアリルTN、ガラクトシルトランスフェラーゼ、M−CSF、CSF−1、LPA、p110EGFR、組織カリクレイン、プロスタシン、HE4、CKB、LASA、HER−2/neu、尿ゴナドトロピンペプチド、ダイアノンNB70/K、TPA、オステオポンチン及びハプトグロビン、並びにそれらの蛋白質の変異体(例えば開裂体やアイソフォーム等)であるバイオマーカーから選択されるものである、請求項37に記載の方法。。
【請求項39】
蛋白質バイオマーカーがSELDI又はイムノアッセイで検出されるものである、請求項34〜38の何れか一項に記載の方法。
【請求項40】
サンプルが、血液、血清及び血漿から選択されるものである、請求項34〜39の何れか一項に記載の方法。
【請求項41】
(a)ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3、並びにそれらの組み合わせから選択されるバイオマーカーに結合する捕獲試薬、そして
(b)少なくとも一つのバイオマーカーを含む容器、
を含むキット。
【請求項42】
捕獲試薬が複数のバイオマーカーに結合するものである、請求項41に記載のキット。
【請求項43】
捕獲試薬がSELDIプローブである、請求項41〜42の何れか一項に記載のキット。
【請求項44】
更に、CA125に結合する捕獲試薬を含む、請求項41〜43の何れか一項に記載のキット。
【請求項45】
更に、第一の捕獲試薬が結合しないバイオマーカーの一つと結合する第二の捕獲試薬を含むものである、請求項41〜44の何れか一項に記載のキット。
【請求項46】
(a)ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3から選択される少なくともひとつのバイオマーカーと結合する第一の捕獲試薬、そして
(b)第一の捕獲試薬とは結合しないバイオマーカーの少なくとも一つと結合する第二の捕獲試薬、
を含むキット。
【請求項47】
少なくとも一つの捕獲試薬が抗体である、請求項46に記載のキット。
【請求項48】
更に、少なくとも一つの捕獲試薬が結合している又は結合できるMSプローブを含む、請求項46〜47の何れか一項に記載のキット。
【請求項49】
捕獲試薬が固定化された金属キレートである、請求項46〜48の何れか一項に記載のキット。
【請求項50】
更に、洗浄後に他のバイオマーカーと比較して、捕獲試薬に結合したバイオマーカーを選択的に保持する洗浄液を含む、請求項46〜49の何れか一項に記載のキット。
【請求項51】
(a)ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3から選択される少なくとも一つのバイオマーカーと結合する第一の捕獲試薬、そして
(b)バイオマーカーを検出するための捕獲試薬を使用するための説明書、
を含むキット。
【請求項52】
捕獲試薬が抗体である、請求項51に記載のキット。
【請求項53】
更に、捕獲試薬が結合している、又は結合できるMSプローブを含む、請求項51〜52の何れか一項に記載のキット。
【請求項54】
捕獲試薬が固定化された金属キレートである、請求項51〜53の何れか一項に記載のキット。
【請求項55】
更に、洗浄後に他のバイオマーカーと比較して、捕獲試薬に結合したバイオマーカーを選択的に保持する洗浄液を含む、請求項51〜55の何れか一項に記載のキット。
【請求項56】
更に、がんを検出するためのキットの使用説明書を含むものである、請求項51〜55の何れか一項に記載のキット。
【請求項57】
使用説明書が、試験サンプルを捕獲試薬と接触させ、捕獲試薬により保持される一つ又はそれ以上のバイオマーカーを検出することを指示するものである、請求項56に記載のキット。
【請求項58】
配列番号1(IAIH4断片1)、配列番号2(IAIH4断片2)及び配列番号3(IAIH4断片3)からなる群より選択される、精製されたペプチド。
【請求項59】
更に、検出可能な標識を含む、請求項58に記載のペプチド。
【請求項60】
(a)ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3から選択される少なくとも二つのバイオマーカーと結合する、少なくとも一つの捕獲試薬を含む製品。
【請求項61】
バイオマーカーが、
未修飾のApoA1及び修飾されたApoA1からなる群より選択されるApoA1、並びに
トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン及びグルタチオン化されたトランスサイレチンからなる群より選択されるトランスサイレチン、
である、請求項60に記載の製品。
【請求項62】
バイオマーカーが、
ApoA1、
トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン及びグルタチオン化されたトランスサイレチンからなる群より選択されるトランスサイレチン、並びに
IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3からなる群より選択されるIAIH4断片、
である、請求項60に記載の製品。
【請求項63】
更に、少なくとも一つの公知のバイオマーカーと結合する捕獲試薬を含む、請求項60〜62の何れか一項に記載の製品。
【請求項64】
公知のバイオマーカーが、CA125、CA125II、CA15−3、CA19−9、CA72−4、CA195、TATI、CEA、PLAP、シアリルTN、ガラクトシルトランスフェラーゼ、M−CSF、CSF−1、LPA、p110EGFR、組織カリクレイン、プロスタシン、HE4、CKB、LASA、HER−2/neu、尿ゴナドトロピンペプチド、ダイアノンNB70/K、TPA、オステオポンチン及びハプトグロビン、並びにそれらの蛋白質の変異体(例えば開裂体やアイソフォーム等)であるバイオマーカーから選択されるものである、請求項63に記載の製品。
【請求項65】
(a)ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2、IAIH4断片3及びCA125から選択される異なるバイオマーカーを各々に結合する複数の捕獲試薬を含むシステム。
【請求項66】
(a)カリクレインを、カリクレイン基質及び試験試薬と接触させ、そして
(b)試験試薬がカリクレインの活性を調節するか否かを決定する、
ことを含むスクリーニング方法。
【請求項67】
基質が、インターαトリプシン阻害剤重鎖H4前駆体である、請求項66に記載の試験。
【請求項68】
カリクレインが基質をIAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3へ開裂させるものである、請求項66に記載の試験。
【請求項69】
更に、決定工程がバイオマーカーIAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3を測定することを含む、請求項66に記載の試験。
【請求項70】
蛋白質バイオマーカーがSELDIで測定されるものである、請求項69に記載の試験。
【請求項71】
蛋白質バイオマーカーがイムノアッセイで測定されるものである、請求項69に記載の試験。
【請求項72】
(a)対象生物由来のサンプルにおいて、マーカーI〜XLVIII及びそれらの組み合わせからなる群より選択されるバイオマーカーの少なくとも一つを測定し、そして
(b)測定結果を卵巣がんの状態と関連づけることを含む、
対象生物における卵巣がんの状態を認定する方法。
【請求項73】
更に、(c)状態に基づいて対象生物の治療又は処置管理を行うことを含む、請求項72に記載の方法。
【請求項74】
対象生物の治療又は処置管理が、更なる試験の指示、手術及び更なる手段を講じないことから選択されるものである、請求項73に記載の方法。
【請求項75】
更に、(d)対象生物を治療又は処置した後に、少なくとも一つのバイオマーカーを測定することを含む、請求項73に記載の方法。
【請求項76】
卵巣がんの状態が、対象生物に於けるがんのリスク、疾患の有無、疾患の病期及び疾患に対する治療又は処置の有効性からなる群より選択されるものである、請求項72に記載の方法。
【請求項77】
更に、対象生物由来のサンプルにおいて、少なくとも一つの公知のバイオマーカーを測定し、少なくとも一つの公知のバイオマーカーの測定結果と、マーカーI〜XLVIIIからなる群の少なくとも一つのマーカーの測定結果を、卵巣がんの状態と関連付けることを含む、請求項72〜77の何れか一項に記載の方法。
【請求項78】
公知のバイオマーカーが、ApoA1、トランスサイレチン、IAIH4断片、CA125、CA125II、CA15−3、CA19−9、CA72−4、CA195、TATI、CEA、PLAP、シアリルTN、ガラクトシルトランスフェラーゼ、M−CSF、CSF−1、LPA、p110EGFR、組織カリクレイン、プロスタシン、HE4、CKB、LASA、HER−2/neu、尿ゴナドトロピンペプチド、ダイアノンNB70/K、TPA、オステオポンチン及びハプトグロビン、並びにそれらの蛋白質の変異体(例えば開裂体やアイソフォーム等)であるバイオマーカーから選択されるものである、請求項77に記載の方法。
【請求項79】
測定が、
(a)血液又は血液由来の対象生物からのサンプルを提供し、
(b)陰イオン交換樹脂でサンプル内の蛋白質を分け、マーカーI〜XLVIIIからなる群より選択されるバイオマーカーのいずれかを含む分画を集め、そして
(c)蛋白質バイオマーカーに結合する捕獲試薬を含む基質の表面で、分画由来のバイオマーカーを捕獲する、
ことを含む請求項72〜78の何れか一項に記載の方法。
【請求項80】
基質がIMAC銅表面を含むSELDIプローブであり、蛋白質バイオマーカーがSELDIで検出されるものである、請求項79に記載の方法。
【請求項81】
基質が、マーカーI〜XLVIIIからなる群より選択されるバイオマーカーのいずれかと結合する生体特異的な親和性試薬を含むSELDIプローブであり、蛋白質バイオマーカーがSELDIで検出されるものである、請求項79に記載の方法。
【請求項82】
更に、対象生物由来のサンプルにおいて、ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3から選択される少なくとも一つのバイオマーカーを測定し、そのバイオマーカーの測定結果と、マーカーI〜XLVIIIからなる群の少なくとも一つのマーカーの測定結果を、卵巣がんの状態と関連付けることを含む、請求項72〜81の何れか一項に記載の方法。
【請求項83】
a.サンプルに属するデータにアクセスするコード、サンプルの少なくとも一つのバイオマーカーの測定結果を含んでなるデータ、ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3からなる群より選択されるバイオマーカー、並びに
b.サンプルの卵巣がんの状態を測定結果の関数として分類する分類アルゴリズムを実行するコード、
を含むソフトウェア製品。
【請求項84】
分類アルゴリズムがサンプルの卵巣がんの状態を、ApoA1、未修飾のApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH断片3からなる群より選択されるバイマーカーの測定結果の関数として分類する、請求項83に記載のソフトウェア製品。
【請求項85】
分類アルゴリズムがサンプルの卵巣がんの状態を、
未修飾のApoA1及び修飾されたApoA1からなる群より選択されるApoA1、並びに
トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン及びグルタチオン化されたトランスサイレチンからなる群より選択されるトランスサイレチン、
の各バイオマーカーの測定結果の関数として分類する、請求項83に記載のソフトウェア製品。
【請求項86】
分類アルゴリズムがサンプルの卵巣がんの状態を、
未修飾のApoA1及び修飾されたApoA1からなる群より選択されるApoA1、
トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン及びグルタチオン化されたトランスサイレチンからなる群より選択されるトランスサイレチン、並びに
IAIH4断片1,IAIH4断片2及びIAIH4断片3からなる群より選択されるIAIH4断片、
の各バイオマーカーの測定結果の関数として分類する、請求項83に記載のソフトウェア製品。
【請求項87】
更に、分類アルゴリズムがサンプルの卵巣がんの状態を公知のバイオマーカーの測定結果の関数として分類するものである、請求項83〜86の何れか一項に記載のソフトウェア製品。
【請求項88】
公知のバイオマーカーが、ApoA1、トランスサイレチンΔN10、IAIH4断片、CA125、CA125II、CA15−3、CA19−9、CA72−4、CA195、TATI、CEA、PLAP、シアリルTN、ガラクトシルトランスフェラーゼ、M−CSF、CSF−1、LPA、p110EGFR、組織カリクレイン、プロスタシン、HE4、CKB、LASA、HER−2/neu、尿ゴナドトロピンペプチド、ダイアノンNB70/K、TPA、オステオポンチン、ハプトグロビン及びそれらの蛋白質の変異体(例えば開裂体やアイソフォーム等)であるバイオマーカーからなる群より選択されるものである、請求項87に記載のソフトウェア製品。
【請求項89】
ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3からなる群より選択されるバイオマーカーのマススペクトメトリー又はイムノアッセイによる検出を含む方法。
【請求項90】
ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3からなる群より選択される、対象生物由来のサンプル中のバイオマーカーとの関連から決定される卵巣がんの状態に関する診断を対象に伝えることを含む方法。
【請求項91】
コンピューター処理による媒体を通じて診断を対象に伝える、請求項90に記載の方法。
【請求項92】
a)IAIH4を試験化合物と接触させ、そして
b)試験化合物がIAIH4と相互作用するかどうかを決定する、
ことを含む、IAIH4と相互作用する化合物を同定する方法。
【請求項93】
a)IAIH4を試験化合物と接触させ、そして
b)試験化合物がIAIH4と相互作用するかどうかを決定する、
ことを含む、IAIH4と相互作用する化合物を同定する方法。
【請求項94】
a)IAIH4の切断を抑制するプロテアーゼ阻害剤を細胞に接触させて、当該細胞内のIAIH4濃度を調節する方法。
【請求項95】
IAIH4を切断するプロテアーゼの発現又は活性を調節する化合物の治療有効量を対象生物に投与することを含んでなる、対象生物の症状を治療又は処置する方法。
【請求項96】
a)データセットが少なくとも2つの群の各々に分類される確率を指定し、そして
b)各々の確率の関数であるデータセットの指数を決定する、
ことを含む方法。
【請求項97】
データセットが複数のバイオマーカー、病歴、遺伝子型及び臨床検査からなる群より選択される少なくとも一つ又はそれ以上の測定を含む、請求項96に記載の方法。
【請求項98】
関数が、各々の確率の関数の合計である、請求項96に記載の方法。
【請求項99】
確率が相対リスク、オッズ比及びハザード比からなる群より選択されるものである、請求項96に記載の方法。
【請求項1】
(a)対象生物由来のサンプルに於いて、ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも一つのバイオマーカーを測定し、
(b)その測定結果を卵巣がんの状態と関連づけることを含む、
対象生物における卵巣がんの状態を認定する方法。
【請求項2】
更に、(c)前記状態に基づいて対象生物を治療又は処置することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
対象生物の治療又は処置管理が、更なる試験の指示、手術及び更なる手段を講じないことから選択されるものである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
更に、(d)対象生物を治療又は処置した後に、少なくとも一つのバイオマーカーを測定することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
卵巣がんの状態が、対象生物に於けるがんのリスク、疾患の有無、疾患の病期及び疾患の治療又は処置の有効性からなる群より選択されるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
更に、対象生物由来のサンプルにおいて、少なくとも一つの公知のバイオマーカー(マーカー4)を測定し、公知のバイオマーカーの測定結果と、ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2又はIAIH4断片3の測定結果を卵巣がんの状態と関連づけることを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
公知のバイオマーカーが、CA125、CA125II、CA15−3、CA19−9、CA72−4、CA195、腫瘍関連トリプシン阻害剤(TATI)、CEA、胎盤アルカリンホスファターゼ(PLAP)、シアリルTN、ガラクトシルトランスフェラーゼ、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF、CSF−1)、リゾホスファチジン酸(LPA)、上皮成長因子受容体(p110GFR)の細胞外ドメインの110kD構成体、例えばカリクレイン6及びカリクレイン10(NES−1)等の組織カリクレイン、プロスタシン、HE4、クレアチンキナーゼB(CKB)、LASA、HER−2/neu、尿ゴナドトロピンペプチド、ダイアノンNB70/K、組織ペプチド抗体(TPA)、オステオポンチン及びハプトグロビン、並びにそれらの蛋白質の変異体(例えば開裂体やアイソフォーム等)であるバイオマーカーから選択されるものである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
修飾されたApoA1及び未修飾のApoA1を含む群から選択されるApoA1、並びに
トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン及びグルタチオン化されたトランスサイレチンを含む群から選択されるトランスサイレチン、
を測定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
ApoA1が修飾されたApoA1であり、トランスサイレチンがシステイン化されたトランスサイレチンである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
修飾されたApoA1及び未修飾のApoA1を含む群から選択されるApoA1、
トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン及びグルタチオン化されたトランスサイレチンを含む群から選択されるトランスサイレチン、並びに
IAIH4断片1、IAIH断片2及びIAIH4断片3を含む群から選択されるIAIH4断片、
を測定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン及びグルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3を測定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
更に、対象生物由来のサンプルにおいて、公知のバイオマーカーを測定し、公知のバイオマーカーの測定結果と、ApoA1、トランスサイレチンΔN10及びIAIH4断片の測定結果を卵巣がんの状態と関連づけることを含む、請求項8〜12の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
公知のバイオマーカーが、CA125、CA125II、CA15−3、CA19−9、CA72−4、CA195、TATI、CEA、PLAP、シアリルTN、ガラクトシルトランスフェラーゼ、M−CSF、CSF−1、LPA、p110EGFR、組織カリクレイン、プロスタシン、HE4、CKB、LASA、HER−2/neu、尿ゴナドトロピンペプチド、ダイアノンNB70/K、TPA、オステオポンチン、ハプトグロビン及びそれらの蛋白質の変異体(例えば開裂体やアイソフォーム等)であるバイオマーカーから選択されるものである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
測定が、
(a)血液又は血液由来の対象生物からのサンプルを提供し、
(b)陰イオン交換樹脂でサンプル内の蛋白質を分け、ApoA1、トランスサイレチン及びIAIH4断片を含む分画を集め、そして
(c)蛋白質バイオマーカーに結合する捕獲試薬を含む基質の表面で、分画由来のApoA1、トランスサイレチン及びIAIH4断片を捕獲する、
ことを含む請求項8〜13の何れか一項に記載の方法。
【請求項15】
基質が、IMAC銅表面を含むSELDIプローブであり、蛋白質バイオマーカーがSELDIで検出されるものである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
基質が、ApoA1、トランスサイレチン及びIAIH4断片に結合する生体特異的な親和性試薬を含むSELDIプローブであり、蛋白質バイオマーカーがSELDIで検出されるものである、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
基質が、ApoA1、トランスサイレチン及びIAIH4断片に結合する生体特異的な親和性試薬を含むマイクロタイタープレートであり、蛋白質バイオマーカーがイムノアッセイで検出されるものである、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
測定が、バイオマーカーの有無を検出すること、マーカーを定量すること及びバイオマーカーのタイプを認定することから選択されるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
少なくとも一つのバイオマーカーが、バイオチップアレイを用いて測定されるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
バイオチップアレイが蛋白質チップアレイである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
バイオチップアレイが核酸アレイである、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
少なくとも一つのバイオマーカーがバイオチップアレイに固定化されたものである、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
蛋白質バイオマーカーがSELDIで測定されるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
蛋白質バイオマーカーがイムノアッセイで測定されるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
関連づけがソフトウエア分類アルゴリズムにより行われるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
サンプルが、血液、血清及び血漿から選択されるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
(a)対象生物由来のサンプルにおいて、ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3からなる群より選択される複数のバイオマーカーを測定することを含む方法。
【請求項28】
複数のバイオマーカーが、
未修飾のApoA1及び修飾されたApoA1を含む群から選択されるApoA1、並びに
トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン及びグルタチオン化されたトランスサイレチンを含む群から選択されるトランスサイレチン、
を含むものである、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
複数のバイオマーカーが、
ApoA1、
トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン及びグルタチオン化されたトランスサイレチンを含む群から選択されるトランスサイレチン、並びに
IAIH4断片1,IAIH断片2及びIAIH4断片3を含む群から選択されるIAIH4断片、
を含むものである、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
更に、少なくとも一つの公知のバイオマーカーを測定することを含む、請求項27〜29の何れか一項に記載の方法。
【請求項31】
公知のバイオマーカーが、CA125、CA125II、CA15−3、CA19−9、CA72−4、CA195、TATI、CEA、PLAP、シアリルTN、ガラクトシルトランスフェラーゼ、M−CSF、CSF−1、LPA、p110EGFR、組織カリクレイン、プロスタシン、HE4、CKB、LASA、HER−2/neu、尿ゴナドトロピンペプチド、ダイアノンNB70/K、TPA、オステオポンチン及びハプトグロビン、並びにそれらの蛋白質の変異体(例えば開裂体やアイソフォーム等)であるバイオマーカーから選択されるものである、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
蛋白質バイオマーカーがSELDI又はイムノアッセイで検出されるものである、請求項27〜31の何れか一項に記載の方法。
【請求項33】
サンプルが、血液、血清及び血漿から選択されるものである、請求項27〜32の何れか一項に記載の方法。
【請求項34】
対象生物由来のサンプルにおいて、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3、並びにそれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも一つのバイオマーカーを測定することを含む方法。
【請求項35】
更に、ApoA1を測定することを含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
ApoA1が修飾されたApoA1である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
更に、少なくとも一つの公知のバイオマーカーを測定することを含む、請求項34〜36の何れか一項に記載の方法。
【請求項38】
公知のバイオマーカーが、CA125、CA125II、CA15−3、CA19−9、CA72−4、CA195、TATI、CEA、PLAP、シアリルTN、ガラクトシルトランスフェラーゼ、M−CSF、CSF−1、LPA、p110EGFR、組織カリクレイン、プロスタシン、HE4、CKB、LASA、HER−2/neu、尿ゴナドトロピンペプチド、ダイアノンNB70/K、TPA、オステオポンチン及びハプトグロビン、並びにそれらの蛋白質の変異体(例えば開裂体やアイソフォーム等)であるバイオマーカーから選択されるものである、請求項37に記載の方法。。
【請求項39】
蛋白質バイオマーカーがSELDI又はイムノアッセイで検出されるものである、請求項34〜38の何れか一項に記載の方法。
【請求項40】
サンプルが、血液、血清及び血漿から選択されるものである、請求項34〜39の何れか一項に記載の方法。
【請求項41】
(a)ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3、並びにそれらの組み合わせから選択されるバイオマーカーに結合する捕獲試薬、そして
(b)少なくとも一つのバイオマーカーを含む容器、
を含むキット。
【請求項42】
捕獲試薬が複数のバイオマーカーに結合するものである、請求項41に記載のキット。
【請求項43】
捕獲試薬がSELDIプローブである、請求項41〜42の何れか一項に記載のキット。
【請求項44】
更に、CA125に結合する捕獲試薬を含む、請求項41〜43の何れか一項に記載のキット。
【請求項45】
更に、第一の捕獲試薬が結合しないバイオマーカーの一つと結合する第二の捕獲試薬を含むものである、請求項41〜44の何れか一項に記載のキット。
【請求項46】
(a)ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3から選択される少なくともひとつのバイオマーカーと結合する第一の捕獲試薬、そして
(b)第一の捕獲試薬とは結合しないバイオマーカーの少なくとも一つと結合する第二の捕獲試薬、
を含むキット。
【請求項47】
少なくとも一つの捕獲試薬が抗体である、請求項46に記載のキット。
【請求項48】
更に、少なくとも一つの捕獲試薬が結合している又は結合できるMSプローブを含む、請求項46〜47の何れか一項に記載のキット。
【請求項49】
捕獲試薬が固定化された金属キレートである、請求項46〜48の何れか一項に記載のキット。
【請求項50】
更に、洗浄後に他のバイオマーカーと比較して、捕獲試薬に結合したバイオマーカーを選択的に保持する洗浄液を含む、請求項46〜49の何れか一項に記載のキット。
【請求項51】
(a)ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3から選択される少なくとも一つのバイオマーカーと結合する第一の捕獲試薬、そして
(b)バイオマーカーを検出するための捕獲試薬を使用するための説明書、
を含むキット。
【請求項52】
捕獲試薬が抗体である、請求項51に記載のキット。
【請求項53】
更に、捕獲試薬が結合している、又は結合できるMSプローブを含む、請求項51〜52の何れか一項に記載のキット。
【請求項54】
捕獲試薬が固定化された金属キレートである、請求項51〜53の何れか一項に記載のキット。
【請求項55】
更に、洗浄後に他のバイオマーカーと比較して、捕獲試薬に結合したバイオマーカーを選択的に保持する洗浄液を含む、請求項51〜55の何れか一項に記載のキット。
【請求項56】
更に、がんを検出するためのキットの使用説明書を含むものである、請求項51〜55の何れか一項に記載のキット。
【請求項57】
使用説明書が、試験サンプルを捕獲試薬と接触させ、捕獲試薬により保持される一つ又はそれ以上のバイオマーカーを検出することを指示するものである、請求項56に記載のキット。
【請求項58】
配列番号1(IAIH4断片1)、配列番号2(IAIH4断片2)及び配列番号3(IAIH4断片3)からなる群より選択される、精製されたペプチド。
【請求項59】
更に、検出可能な標識を含む、請求項58に記載のペプチド。
【請求項60】
(a)ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3から選択される少なくとも二つのバイオマーカーと結合する、少なくとも一つの捕獲試薬を含む製品。
【請求項61】
バイオマーカーが、
未修飾のApoA1及び修飾されたApoA1からなる群より選択されるApoA1、並びに
トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン及びグルタチオン化されたトランスサイレチンからなる群より選択されるトランスサイレチン、
である、請求項60に記載の製品。
【請求項62】
バイオマーカーが、
ApoA1、
トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン及びグルタチオン化されたトランスサイレチンからなる群より選択されるトランスサイレチン、並びに
IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3からなる群より選択されるIAIH4断片、
である、請求項60に記載の製品。
【請求項63】
更に、少なくとも一つの公知のバイオマーカーと結合する捕獲試薬を含む、請求項60〜62の何れか一項に記載の製品。
【請求項64】
公知のバイオマーカーが、CA125、CA125II、CA15−3、CA19−9、CA72−4、CA195、TATI、CEA、PLAP、シアリルTN、ガラクトシルトランスフェラーゼ、M−CSF、CSF−1、LPA、p110EGFR、組織カリクレイン、プロスタシン、HE4、CKB、LASA、HER−2/neu、尿ゴナドトロピンペプチド、ダイアノンNB70/K、TPA、オステオポンチン及びハプトグロビン、並びにそれらの蛋白質の変異体(例えば開裂体やアイソフォーム等)であるバイオマーカーから選択されるものである、請求項63に記載の製品。
【請求項65】
(a)ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2、IAIH4断片3及びCA125から選択される異なるバイオマーカーを各々に結合する複数の捕獲試薬を含むシステム。
【請求項66】
(a)カリクレインを、カリクレイン基質及び試験試薬と接触させ、そして
(b)試験試薬がカリクレインの活性を調節するか否かを決定する、
ことを含むスクリーニング方法。
【請求項67】
基質が、インターαトリプシン阻害剤重鎖H4前駆体である、請求項66に記載の試験。
【請求項68】
カリクレインが基質をIAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3へ開裂させるものである、請求項66に記載の試験。
【請求項69】
更に、決定工程がバイオマーカーIAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3を測定することを含む、請求項66に記載の試験。
【請求項70】
蛋白質バイオマーカーがSELDIで測定されるものである、請求項69に記載の試験。
【請求項71】
蛋白質バイオマーカーがイムノアッセイで測定されるものである、請求項69に記載の試験。
【請求項72】
(a)対象生物由来のサンプルにおいて、マーカーI〜XLVIII及びそれらの組み合わせからなる群より選択されるバイオマーカーの少なくとも一つを測定し、そして
(b)測定結果を卵巣がんの状態と関連づけることを含む、
対象生物における卵巣がんの状態を認定する方法。
【請求項73】
更に、(c)状態に基づいて対象生物の治療又は処置管理を行うことを含む、請求項72に記載の方法。
【請求項74】
対象生物の治療又は処置管理が、更なる試験の指示、手術及び更なる手段を講じないことから選択されるものである、請求項73に記載の方法。
【請求項75】
更に、(d)対象生物を治療又は処置した後に、少なくとも一つのバイオマーカーを測定することを含む、請求項73に記載の方法。
【請求項76】
卵巣がんの状態が、対象生物に於けるがんのリスク、疾患の有無、疾患の病期及び疾患に対する治療又は処置の有効性からなる群より選択されるものである、請求項72に記載の方法。
【請求項77】
更に、対象生物由来のサンプルにおいて、少なくとも一つの公知のバイオマーカーを測定し、少なくとも一つの公知のバイオマーカーの測定結果と、マーカーI〜XLVIIIからなる群の少なくとも一つのマーカーの測定結果を、卵巣がんの状態と関連付けることを含む、請求項72〜77の何れか一項に記載の方法。
【請求項78】
公知のバイオマーカーが、ApoA1、トランスサイレチン、IAIH4断片、CA125、CA125II、CA15−3、CA19−9、CA72−4、CA195、TATI、CEA、PLAP、シアリルTN、ガラクトシルトランスフェラーゼ、M−CSF、CSF−1、LPA、p110EGFR、組織カリクレイン、プロスタシン、HE4、CKB、LASA、HER−2/neu、尿ゴナドトロピンペプチド、ダイアノンNB70/K、TPA、オステオポンチン及びハプトグロビン、並びにそれらの蛋白質の変異体(例えば開裂体やアイソフォーム等)であるバイオマーカーから選択されるものである、請求項77に記載の方法。
【請求項79】
測定が、
(a)血液又は血液由来の対象生物からのサンプルを提供し、
(b)陰イオン交換樹脂でサンプル内の蛋白質を分け、マーカーI〜XLVIIIからなる群より選択されるバイオマーカーのいずれかを含む分画を集め、そして
(c)蛋白質バイオマーカーに結合する捕獲試薬を含む基質の表面で、分画由来のバイオマーカーを捕獲する、
ことを含む請求項72〜78の何れか一項に記載の方法。
【請求項80】
基質がIMAC銅表面を含むSELDIプローブであり、蛋白質バイオマーカーがSELDIで検出されるものである、請求項79に記載の方法。
【請求項81】
基質が、マーカーI〜XLVIIIからなる群より選択されるバイオマーカーのいずれかと結合する生体特異的な親和性試薬を含むSELDIプローブであり、蛋白質バイオマーカーがSELDIで検出されるものである、請求項79に記載の方法。
【請求項82】
更に、対象生物由来のサンプルにおいて、ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3から選択される少なくとも一つのバイオマーカーを測定し、そのバイオマーカーの測定結果と、マーカーI〜XLVIIIからなる群の少なくとも一つのマーカーの測定結果を、卵巣がんの状態と関連付けることを含む、請求項72〜81の何れか一項に記載の方法。
【請求項83】
a.サンプルに属するデータにアクセスするコード、サンプルの少なくとも一つのバイオマーカーの測定結果を含んでなるデータ、ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3からなる群より選択されるバイオマーカー、並びに
b.サンプルの卵巣がんの状態を測定結果の関数として分類する分類アルゴリズムを実行するコード、
を含むソフトウェア製品。
【請求項84】
分類アルゴリズムがサンプルの卵巣がんの状態を、ApoA1、未修飾のApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH断片3からなる群より選択されるバイマーカーの測定結果の関数として分類する、請求項83に記載のソフトウェア製品。
【請求項85】
分類アルゴリズムがサンプルの卵巣がんの状態を、
未修飾のApoA1及び修飾されたApoA1からなる群より選択されるApoA1、並びに
トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン及びグルタチオン化されたトランスサイレチンからなる群より選択されるトランスサイレチン、
の各バイオマーカーの測定結果の関数として分類する、請求項83に記載のソフトウェア製品。
【請求項86】
分類アルゴリズムがサンプルの卵巣がんの状態を、
未修飾のApoA1及び修飾されたApoA1からなる群より選択されるApoA1、
トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン及びグルタチオン化されたトランスサイレチンからなる群より選択されるトランスサイレチン、並びに
IAIH4断片1,IAIH4断片2及びIAIH4断片3からなる群より選択されるIAIH4断片、
の各バイオマーカーの測定結果の関数として分類する、請求項83に記載のソフトウェア製品。
【請求項87】
更に、分類アルゴリズムがサンプルの卵巣がんの状態を公知のバイオマーカーの測定結果の関数として分類するものである、請求項83〜86の何れか一項に記載のソフトウェア製品。
【請求項88】
公知のバイオマーカーが、ApoA1、トランスサイレチンΔN10、IAIH4断片、CA125、CA125II、CA15−3、CA19−9、CA72−4、CA195、TATI、CEA、PLAP、シアリルTN、ガラクトシルトランスフェラーゼ、M−CSF、CSF−1、LPA、p110EGFR、組織カリクレイン、プロスタシン、HE4、CKB、LASA、HER−2/neu、尿ゴナドトロピンペプチド、ダイアノンNB70/K、TPA、オステオポンチン、ハプトグロビン及びそれらの蛋白質の変異体(例えば開裂体やアイソフォーム等)であるバイオマーカーからなる群より選択されるものである、請求項87に記載のソフトウェア製品。
【請求項89】
ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3からなる群より選択されるバイオマーカーのマススペクトメトリー又はイムノアッセイによる検出を含む方法。
【請求項90】
ApoA1、修飾されたApoA1、トランスサイレチンΔN10、未変性のトランスサイレチン、システイン化されたトランスサイレチン、スルホン化されたトランスサイレチン、CysGlyで修飾されたトランスサイレチン、グルタチオン化されたトランスサイレチン、IAIH4断片1、IAIH4断片2及びIAIH4断片3からなる群より選択される、対象生物由来のサンプル中のバイオマーカーとの関連から決定される卵巣がんの状態に関する診断を対象に伝えることを含む方法。
【請求項91】
コンピューター処理による媒体を通じて診断を対象に伝える、請求項90に記載の方法。
【請求項92】
a)IAIH4を試験化合物と接触させ、そして
b)試験化合物がIAIH4と相互作用するかどうかを決定する、
ことを含む、IAIH4と相互作用する化合物を同定する方法。
【請求項93】
a)IAIH4を試験化合物と接触させ、そして
b)試験化合物がIAIH4と相互作用するかどうかを決定する、
ことを含む、IAIH4と相互作用する化合物を同定する方法。
【請求項94】
a)IAIH4の切断を抑制するプロテアーゼ阻害剤を細胞に接触させて、当該細胞内のIAIH4濃度を調節する方法。
【請求項95】
IAIH4を切断するプロテアーゼの発現又は活性を調節する化合物の治療有効量を対象生物に投与することを含んでなる、対象生物の症状を治療又は処置する方法。
【請求項96】
a)データセットが少なくとも2つの群の各々に分類される確率を指定し、そして
b)各々の確率の関数であるデータセットの指数を決定する、
ことを含む方法。
【請求項97】
データセットが複数のバイオマーカー、病歴、遺伝子型及び臨床検査からなる群より選択される少なくとも一つ又はそれ以上の測定を含む、請求項96に記載の方法。
【請求項98】
関数が、各々の確率の関数の合計である、請求項96に記載の方法。
【請求項99】
確率が相対リスク、オッズ比及びハザード比からなる群より選択されるものである、請求項96に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
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【図14】
【図15】
【図16】
【公表番号】特表2007−531883(P2007−531883A)
【公表日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−506525(P2007−506525)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【国際出願番号】PCT/US2005/010783
【国際公開番号】WO2005/098447
【国際公開日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(505045908)ザ・ジョンズ・ホプキンス・ユニバーシティ (21)
【出願人】(501497253)サイファージェン バイオシステムズ インコーポレイテッド (21)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【国際出願番号】PCT/US2005/010783
【国際公開番号】WO2005/098447
【国際公開日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(505045908)ザ・ジョンズ・ホプキンス・ユニバーシティ (21)
【出願人】(501497253)サイファージェン バイオシステムズ インコーポレイテッド (21)
【Fターム(参考)】
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