説明

原盤製造方法、光ディスク製造方法

【課題】ニアフィールド露光と無機レジストプロセスを組み合わせて飛躍的な高密度記録を実現できるようにする。
【解決手段】原盤のリソグラフィ工程において、予め無機レジスト層の表面上へ保護薄膜を形成し、露光後に保護薄膜を剥離した上で現像を行う。無機レジスト層が保護薄膜に覆われた状態で露光を行うことで、無機レジスト上へ直接レーザを照射した際にレジスト材料の揮発でソリッドイマージョンレンズ表面が汚れてしまい、原盤−レンズ間のギャップ制御が不安定になる問題を回避する。さらに保護薄膜によって、露光部分の無機レジストの隆起を抑制することで、無機レジスト記録後の数10nmの隆起現象によって原盤とソリッドイマージョンレンズ間のギャップが塞がって衝突が起こる危険性を回避する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機レジスト原盤及びニアフィールド露光を用いた原盤製造方法、光ディスク製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特開2003−315988号公報
【特許文献2】特開2001−56994号公報
【特許文献3】特開2006−344347号公報
【非特許文献1】Ariyoshi Nakaoki, Takao Kondo, Kimihiro Saito, Masataka Shinoda and Kazuo Fujiura, “High Numerical Aperture Hemisphere Solid Immersion Lens Made of KTaO3 with Wide Thickness Tolerance”, Proceedings of SPIE Volume6282 , 62820 O-1~62820 O-8
【非特許文献2】Shin Masuhara, Ariyoshi Nakaoki, Takashi Shimouma and Takeshi Yamasaki, “Real Ability of PTM Proved with the Near Field”, Proceedings of SPIE Volume6282 , 628214-1~628214-8
【0003】
デジタル放送の普及により本格的なHD(High Definition)映像時代を迎えるにあたって、光ディスクは現在主流のDVD(Digital Versatile Disc)からブルーレイディスク(Blu-ray Disc:登録商標)或いはHD−DVDへと高記録密度化が促進されている。
【0004】
光ディスク原盤のマスタリング工程において、ピットやグルーブといったパターンは、レーザ露光によるリソグラフィで形成されるが、従来は主に露光スポットの縮小によって高密度化がなされていた。
マスタリングにおける波長λのレーザ光を、開口数(NA)の対物レンズで集光した時の露光スポット径φは、φ=1.22×(λ/NA)となる。対物レンズのNAは、CD(Compact Disc)開発当初から理論限界値1にほぼ近い0.90〜0.95のものが使用されていたので、記録レーザ光源の短波長化が露光スポット径縮小にほぼ全て貢献してきたと言える。
CDのマスタリングには波長442nmのHe−Cdレーザ、或いは波長413nmのKr+レーザが使用されていたが、UV(Ultraviolet)波長351nmのAr+レーザの投入によってDVDの生産が可能になった。さらには波長257〜266nmのDUV(Deep Ultraviolet)レーザが実用化されて記録可能型のブルーレイディスク(BD−RE)が実現した。
【0005】
近年、それと異なるアプローチによって、簡易なプロセスながら飛躍的な高密度記録を実現し、再生専用型ブルーレイディスク(BD−ROM)の生産へ導入された技術がある。 従来からリソグラフィ時の感光層には有機材料(フォトレジスト)が使用されてきたが、特定の無機材料についても同様に被露光部分がアルカリ現像によって溶解され、しかも有機レジストプロセスに対して大幅に解像度が向上する現象が発見された。
上記特許文献1には無機材料を感光材料とする技術が開示されている。このようにレジスト機能を有する無機材料を、以降、「無機レジスト」と呼ぶ。
【0006】
図7に、感光材料として有機レジストを用いる場合と、無機レジストを用いる場合における露光及び現像後の凹凸形状を示している。
有機レジストプロセスは光モード(Photon mode)で記録がなされるため、最小露光パターン幅は露光スポット径に比例し、おおよそスポット径半値幅に等しい値である。
これに対して無機レジストプロセスは熱モード(Heat mode)の記録であり、記録膜構造の設計によって反応温度の閾値を十分高く設定すると、露光スポット中心近傍の高温部のみが記録に寄与するので、実効的な記録スポット径を著しく縮小することが出来る。
【0007】
このため従来の有機レジストでは、DUV波長を使ってもBD−ROMのピットを精度良く形成出来なかったが、無機レジスト使用時には青色半導体レーザ光源でも十分な解像度を持つ。
寧ろ、半導体レーザはGHzオーダーの高速変調が可能であり、相変化ディスクや光磁気ディスクへの信号記録に用いられるライトストラテジーの導入によってピット形状を細かく制御出来るので、より良好な信号特性を得るのに適している。ライトストラテジーとは、一つのピットを高速のマルチパルスで記録する方法である。この場合、それぞれのパルスのパルス幅、パルス強度、パルス間隔等の調整により、パターン形状を最適化することが出来る。
【0008】
上記無機レジストプロセスについて簡単に説明しておく。
図8(a)に示すが如く、無機レジスト原盤100の基本的な構成は、例えばSiウエハー、或いは石英といった支持体(原盤基板100a)上に、蓄熱量制御層100b、無機レジスト層100cの順でスパッタ成膜された層構造である。
このような無機レジスト原盤100に対し、図8(b)に示すように、記録信号に応じて変調されたビーム(記録光)がNA=0.9前後の対物レンズによって原盤表面上に集光され、熱記録が行われる。無機レジスト原盤100は露光装置のターンテーブル上に設置され、記録線速度に応じた速度で回転し、半径方向に一定の送りピッチ(トラックピッチ)で対物レンズと相対移動を行う。
露光が終了した無機レジスト原盤は、図8(c)のように、テトラメチルアンモニウムハイライド(TMAH)といった一般的な有機アルカリ現像液により現像され、その結果、無機レジスト層100cには露光パターンに応じた凹凸が形成される。つまり露光部分が凹状となり、これが原盤におけるピット形状或いはグルーブ形状となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような無機レジストプロセスでは、記録膜の設計が解像度に大きく影響するが、もちろん従来同様に記録スポット径を縮小することによっても、より一層高密度化することが可能である。
【0010】
記録スポット径を縮小するにあたっては、記録光源の短波長化以外に、ソリッドイマージョンレンズ(SIL)を原盤に対して数十nmの距離に接近させた状態で記録スポットを照射する「ニアフィールド露光」によって、NA>1.0を実現する方法がある。
ニアフィールド光学系の光ディスクへの応用については、現在2.0に近いNAのSILによる記録再生が発表されている(非特許文献1参照)。これによると、従来のファーフィールド光学系におけるNA最大値(0.95)に対して、スポット径を1/2まで縮小する事が出来ている。
高速変調によるライトストラテジー生成が可能な半導体レーザ光源の最短波長は、今のところせいぜい370nmなので、ROMディスクのマスタリングを考慮するならば、青色半導体レーザを使用したままニアフィールド露光で高NA化する方法が有力となる。
【0011】
有機レジストプロセスについては、光ディスク原盤のマスタリングにニアフィールド露光を適用した事例が既に報告されている。例えば上記特許文献2にニアフィールド露光装置の光学系が示されている。ニアフィールド露光装置の光学系は、記録レーザ光が対物レンズ(SIL)に入射するまでは従来光学系と違いはない。但しSILの先端と原盤表面間のギャップを20〜30nm程度の間隔に保ち、両者の衝突が発生しないように従来以上に精密にフォーカシングする必要がある。
【0012】
このためニアフィールド露光固有のフォーカス方式として、原盤からの反射光と、SIL出射面からの反射光との干渉光強度をPDで検出し、原盤−SIL間の距離によって干渉光強度が変化する現象を利用して、フォーカスサーボ信号(ギャップサーボ信号)とすることが提案されている。
ただし、記録光はレジスト感度や目標パターン寸法によって強度設定が変わり、またグルーブやピットといった描画パターン形状に依存してパルス幅も変化するので、マスタリングの度に発光強度が変動してしまい、前記干渉光強度から原盤−SIL間距離を判断する用途としては使いづらい。そこで、常時一定の強度で発光するフォーカス専用のレーザを別途設けることが行われる。
このような方法を用いて安定してニアフィールド状態を維持することが出来れば、他については通常の露光工程と変わるところはない。
【0013】
このニアフィールド露光を無機レジストプロセスに導入する事によっては、レーザを光源とする光記録としては最大限の記録密度を達成することが期待出来る。
無機レジストプロセスに関しては、記録波長405nm、NA=0.95のファーフィールド記録光学系にて、直径12cmサイズのディスクに100GBのROMパターンのマスタリングがすでに成功している(非特許文献2参照)。
従って無機レジストプロセスにニアフィールド露光を導入し、例えば同波長でNA=1.9の場合には、400GBのROMパターンが記録(露光)可能と見積もられる。
そのような超高密度領域においては電子線描画技術が競合するが、露光装置の簡易性や、すでに再生専用型ブルーレイディスク(BD−ROM)の生産の実績がある無機レジストプロセスの信頼性、実用性がアドバンテージとなる。
また光ディスク以外の微細パターン加工用途としても、L/S 40nm以下の線幅が可能であり、非常に有望である。
【0014】
ところが、上記の効果を期待して、実際に無機レジスト原盤にニアフィールド露光を試みたところ、現在レジスト材料として最も良く使われる酸化タングステンを主材料とする限りにおいては、以下の問題が発生して正常なフォーカシングを行うことが出来ず、記録に至らなかった。
【0015】
無機レジスト原盤に対してニアフィールド露光装置を用いた場合、対物レンズ出力が0.2mW程度の低い再生パワーであっても、レジスト表面から揮発したガスがSIL表面を汚してしまい、上述したギャップサーボ信号を乱す。その結果フォーカス動作が不安定になり、SILと原盤との衝突に及ぶ。
さらに、この問題を解決してパターン記録が可能になったとしても、新たに以下の不都合が生じるものと予想される。
無機レジストの場合、パターン記録時に露光された部分が20〜30nm隆起する。ニアフィールド状態ではSILと原盤表面の間隔を20nm程度に接近しているが、パターンの隆起によってそのギャップが埋まり、衝突の危険性が高い。
【0016】
これらの問題により、ニアフィールド露光を無機レジストプロセスに導入することは困難とされてきた。そこで本発明は、これらの問題を解消し、ニアフィールド露光と無機レジストプロセスを組み合わせて飛躍的な高密度記録を実現できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の原盤製造方法は、原盤形成基板上に無機レジスト層を形成し、さらに上記無機レジスト層の表面に、光透過性材料中に屈折率nが露光光学系のNAに対してn≧NAである高屈折率材料が混合された保護薄膜を形成する無機レジスト原盤成膜工程と、上記無機レジスト原盤成膜工程で形成された無機レジスト原盤に対して、上記保護薄膜上から、露光光学系によりNA>1のニアフィールド露光を行う露光工程と、上記露光工程を経た無機レジスト原盤において上記保護薄膜を剥離する剥離工程と、上記保護薄膜を剥離した無機レジスト原盤の現像を行い、露光部と非露光部による凹凸パターンを形成する現像工程とを有する。
また上記保護薄膜における高屈折率材料は酸化チタンとする。
また上記無機レジスト原盤成膜工程において、上記保護薄膜を形成する材料は、スピンコートにより上記無機レジスト層の表面に塗布したうえで、硬化して形成する。
また上記剥離工程において、上記保護薄膜は、上記現像工程で用いる現像液への浸漬により剥離する。
【0018】
本発明の光ディスク製造方法は、上記原盤製造方法で製造された無機レジスト原盤からスタンパを作製するスタンパ作製工程と、上記スタンパを用いてディスク基板を成形し、該ディスク基板上に所定の層構造を形成することで光ディスクを製造するディスク製造工程とを有する。
【0019】
このような本発明は、ニアフィールド記録に無機レジストを適用するにあたって、表面からガスを発生せず、かつ記録時のパターン隆起をせいぜい10nm以下に抑制するような無機レジスト記録膜構造を提供するものである。
即ち、原盤のリソグラフィ工程において、予め無機レジスト層の表面上へ保護薄膜を形成し、露光後に保護薄膜を剥離した上で現像を行う。
無機レジスト層が保護薄膜に覆われた状態で露光を行うことで、無機レジスト上へ直接レーザを照射した際にレジスト材料の揮発でソリッドイマージョンレンズ表面が汚れてしまい、原盤−レンズ間のギャップ制御が不安定になる問題を回避する。
さらに、保護薄膜によって、露光部分の無機レジストの隆起を抑制することで、無機レジスト記録後の数10nmの隆起現象によって原盤とソリッドイマージョンレンズ間のギャップが塞がり、衝突が起こる危険性を回避する。
その結果、無機レジストとニアフィールド記録の組み合わせが実現され、従来以上の高密度記録が可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、集光スポットの熱によるレジスト表面からのガス揮発が、わずか数十nmの距離で近接するソリッドイマージョンレンズの表面を容易に汚してしまい、ギャップサーボ信号を乱す点を解消できる。さらに、露光後の無機レジストの隆起高さが、レジスト/ソリッドイマージョンレンズ間の数十nmのギャップ長と同等であり、レンズと原盤の接触事故を起こすことも解消できる。これによって安定した露光動作が可能となる。
従って、有機レジストプロセスに対して圧倒的に分解能の高い無機レジストプロセスと、対物レンズNAの増加に伴い記録スポット径が縮小されるニアフィールド記録技術との組み合わせを実現することができ、飛躍的な高密度記録(露光)を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を次の順序で説明する。
[1.ニアフィールド露光装置]
[2.ディスク製造工程]
[3.無機レジスト原盤へのニアフィールド露光]
[4.実験例]
[5.まとめ]
【0022】
[1.ニアフィールド露光装置]

本実施の形態では、感光材料として無機レジストを用いた原盤(無機レジスト原盤)に対して、ニアフィールド露光装置を用いて露光を行う。
ここではまず、ニアフィールド露光装置について図1,図2,図3で説明する。
【0023】
図1は、実施の形態の製造プロセスで用いるニアフィールド露光装置50の構成を示している。
このニアフィールド露光装置50は、所定の駆動機構により無機レジスト原盤1を回転駆動した状態で、記録用レーザビームL1を無機レジスト原盤1に照射して照射位置を順次無機レジスト原盤1の外周側に変位させる。これにより無機レジスト原盤1にスパイラル状に、ピット列(又はグルーブ)としてのトラックを形成する。
【0024】
このニアフィールド露光装置50において、レーザ光源53は、半導体レーザであり、所定波長の記録用レーザビームL1を出射する。
信号発生器56は、ピット列に対応する変調信号S1をレーザドライバ54に出力する。レーザドライバ54は、変調信号S1に基づいてレーザ光源(半導体レーザ)53を駆動する。これにより、レーザ光源53から変調信号S1に基づいてオン/オフ変調された記録用レーザビームL1が出力される。
【0025】
レンズ58A及び58Bは、ビームエキスパンダ58を構成し、記録用レーザビームL1についてビーム径を拡大して所定のビーム径により出射する。
偏光ビームスプリッタ59は、このビームエキスパンダ58からの記録用レーザビームL1を反射すると共に、無機レジスト原盤1側からの記録用レーザビームL1の戻り光L1Rを透過し、これにより記録用レーザビームL1と戻り光L1Rとを分離する。
【0026】
1/4波長板60は、偏光ビームスプリッタ59からの記録用レーザビームL1に位相差を与えることにより、この記録用レーザビームL1を円偏光に変換する。また1/4波長板60は、無機レジスト原盤1側からの戻り光L1Rに同様に位相差を与えることにより、円偏光により入射する戻り光L1Rを記録用レーザビームL1と偏光面が直交する直線偏光により偏光ビームスプリッタ59に出射する。
【0027】
ダイクロイックミラー61は、1/4波長板60より出射される記録用レーザビームL1を無機レジスト原盤1に向けて反射すると共に、この無機レジスト原盤1側より到来する戻り光L1Rを1/4波長板60に向けて出射する。
またダイクロイックミラー61は、この記録用レーザビームL1と波長が異なるフォーカス用レーザビームL2を無機レジスト原盤1に向けて透過すると共に、この無機レジスト原盤1側より到来するフォーカス用レーザビームL2による干渉光L2Rを透過して出射する。
【0028】
対物レンズ62は、いわゆる後玉レンズ62A及び先玉レンズ62Bによる1組のレンズにより構成される。そして後玉レンズ62Aにより記録用レーザビームL1を収束光束に変換した後、先玉レンズ62Bの後玉レンズ62A側レンズ面により先玉レンズ62Bの出射面に集光する。
これにより対物レンズ62は、先玉レンズ62BがSIL(Solid Immersion Lens)を構成し、全体として開口数が1以上に設定されて、近接場効果により記録用レーザビームL1を無機レジスト原盤1に照射するようになされている。
なおこの先玉レンズ62Bは、無機レジスト原盤1側の面の中央が円形形状に突出するように形成され、これにより無機レジスト原盤1への衝突を防止するようになされている。
【0029】
ニアフィールド露光装置50では、以上の経路での記録用レーザビームL1の照射により無機レジスト原盤1に対するピットパターンの露光が行われる。
また、無機レジスト原盤1、対物レンズ62の出射面より戻り光L1Rが得られ、この戻り光L1Rが記録用レーザビームL1の光路を逆に辿り、偏光ビームスプリッタ59を透過して記録用レーザビームL1から分離されることになる。
【0030】
マスク64は、偏光ビームスプリッタ59より透過した戻り光L1Rの光路上に配置されている。そして戻り光L1Rのうちの近軸光線を遮光することにより、対物レンズ62の出射面に対して臨界角以上の角度により入射した記録用レーザビームL1に対応する成分のみ選択的に透過する。
このような作用をなすマスク64は、図2(a)に示すように、透明平行平板の中央に、戻り光L1Rのビーム径に比して小径の遮光領域を作成して構成される。すなわち戻り光L1Rにおいて、対物レンズ62の出射面に臨界角以下の入射角により入射した成分は、この対物レンズ62の出射面と無機レジスト原盤1とで反射され、これらの反射光が干渉することになる。これによりニアフィールド露光装置50では、このような干渉する反射光の成分についてはマスク64で除去して戻り光L1Rを処理するようになされている。
【0031】
レンズ65は、マスク64を透過した戻り光L1Rを受光素子66に集光し、受光素子66は、戻り光L1Rの光量検出結果S1を出力する。従ってマスク64は、反射光の干渉によるこの光量検出結果S1の変動を防止することになる。
これによりニアフィールド露光装置50は、対物レンズ62の出射面で全反射する記録用レーザビームL1の光量を検出できるようになされている。
このようにして検出される光量検出結果S1は、図2(b)に示すように、対物レンズ62が無機レジスト原盤1より一定距離以上離間している場合には、一定の信号レベルに保持される。これに対し、対物レンズ62が無機レジスト原盤1に一定距離以上近づくと、対物レンズ62の先端と無機レジスト原盤1との間の間隔に対応するように信号レベルが変化することになる。
【0032】
レーザ光源68は、He−Neレーザであり、記録用レーザビームL1とは異なる波長であり、また無機レジスト原盤1を露光しない波長によるフォーカス用レーザビームL2を出射する。
レンズ69A及び69Bは、ビームエキスパンダ69を構成し、このフォーカス用レーザビームL2のビーム径を縮小して小さなビーム径により出射する。
偏光ビームスプリッタ70は、ビームエキスパンダ69の出射光を透過すると共に、この透過光の光路を逆に辿って入射するフォーカス用レーザビームL2による干渉光L2Rを反射し、これによりフォーカス用レーザビームL2と干渉光L2Rとを分離する。
【0033】
1/4波長板71は、偏光ビームスプリッタ70より出射されるフォーカス用レーザビームL2に位相差を与えることにより、このフォーカス用レーザビームL2を円偏光に変換してダイクロイックミラー61に出射する。
またダイクロイックミラー61より偏光ビームスプリッタ70に入射する干渉光L2Rに同様に位相差を与えることにより、円偏光により入射する干渉光L2Rをフォーカス用レーザビームL2と偏光面が直交する直線偏光により偏光ビームスプリッタ20に出射する。
【0034】
このようにニアフィールド露光装置50では、記録用レーザビームL1と波長の異なる小さなビーム径によるフォーカス用レーザビームL2を、記録用レーザビームL1と共に対物レンズ62に入射して無機レジスト原盤1に照射するようになされている。このフォーカス用レーザビームL1は対物レンズ62の近軸光線により入射する。
これによりこのフォーカス用レーザビームL1は、対物レンズ62の出射面と、無機レジスト原盤1の表面とでそれぞれ反射される。そして近接場記録に供する程度に対物レンズ62と無機レジスト原盤1とが近接して配置されることにより、これら反射光が干渉することになる。これらの反射光による干渉光L2Rがフォーカス用レーザビームL2の光路を逆に辿って偏光ビームスプリッタ70に入射し、この偏光ビームスプリッタ70で反射されてフォーカス用レーザビームL2から分離される。
【0035】
レンズ74は、偏光ビームスプリッタ70で反射された干渉光L2Rを受光素子75に集光し、受光素子75は、光量検出結果S2を出力する。
これらにより、この光量検出結果S2においては、図2(b)に示すように、対物レンズ62の先端と無機レジスト原盤1との間の間隔がフォーカス用レーザビームL2の波長λの2分の1だけ変化する周期により正弦波状に信号レベルが変化することになる。
【0036】
制御回路80は、光量検出結果S1及びS2に基づいて、アクチュエータ81を駆動することにより、対物レンズ62をフォーカス制御する。
すなわち制御回路80は、オペレータにより露光の開始が指示されると、無機レジスト原盤1上におけるピット列の記録とは無関係の、例えば無機レジスト原盤1の内周側領域に対物レンズ62を移動する。
さらに制御回路80は、信号発生器56を駆動して記録用レーザビームL1をこの領域に連続的に照射する。この状態で制御回路80は、アクチュエータ81を駆動して対物レンズ62を無機レジスト原盤1に徐々に接近させ、全反射に係る光量検出結果S1を監視する。
【0037】
ここで制御回路80は、光量検出結果S1の信号レベルが減少を開始して近接場効果を発揮できる程度に対物レンズ62と無機レジスト原盤1の接近が検出され、さらにこの全反射に係る光量検出結果S1によりほぼ制御目標まで対物レンズ62が無機レジスト原盤1に接近したと判断すると、干渉光L2Rの光量検出結果S2を基準にしたフィードバックループによりフォーカス制御を開始する。
すなわち制御回路80は、このフォーカス制御において、制御目標に対応する基準電圧REFと干渉光の光量検出結果S2との誤差信号が0レベルになるようにアクチュエータ81を駆動する。
制御回路80は、このようにして干渉光L2Rの光量検出結果S2を基準にしたフォーカス制御を開始すると、信号発生器56の動作を制御して連続した記録用レーザビームL1の照射を停止した後、対物レンズ62を露光開始位置に移動させる。さらに制御回路80は、信号発生器56により記録用レーザビームL1の変調を開始させ、この露光開始位置より順次無機レジスト原盤1の露光を開始させることになる。
【0038】
以上のニアフィールド露光装置50では、その光学系は、記録用レーザビームL1が対物レンズ62に入射するまでは従来光学系と違いはない。しかし対物レンズ62の先端と無機レジスト原盤1の表面とのギャップを20〜30nm程度の間隔に保ち、両者の衝突が発生しないように精密にフォーカシングすることになる。
そのため上記の構成により、無機レジスト原盤1からの反射光と、対物レンズ62(SIL)出射面からの反射光との干渉光強度を検出し、原盤−SIL間の距離によって干渉光強度が変化する現象を利用して、フォーカスサーボ信号(ギャップサーボ信号)としている。
【0039】
[2.ディスク製造工程]

続いて本実施の形態としてのディスク製造工程の全体を図3で説明する。
図3(a)は無機レジスト原盤1を示している。
この無機レジスト原盤1の構造については図4で後述する。
無機レジスト原盤1に対して、上記のニアフィールド露光装置50により、信号パターンとしてのピット列に対応した選択的な露光を施し感光させる(図3(b))。
そしてレジスト層を現像(エッチング)することによって所定の凹凸パターン(ピット列)が形成された状態の無機レジスト原盤1が生成される(図3(c))。
以上が原盤製造工程となる。
【0040】
続いてスタンパ製造工程が行われる。即ち上記のように生成した無機レジスト原盤1の凹凸パターン面上にメッキ処理を行って金属ニッケル膜を析出させ、これを無機レジスト原盤1から剥離させた後に所定の加工を施し、無機レジスト原盤1の凹凸パターンが転写されたスタンパ10を得る(図3(d)(e))。
【0041】
続いてスタンパを用いて光ディスクを大量生産する。
まず、スタンパ10を用いて射出成型法によって熱可塑性樹脂であるポリカーボネートからなる樹脂製ディスク基板20を成形する(図3(f))。スタンパ10を剥離することで、ディスク基板20が得られる(図3(g))。
樹脂製のディスク基板20に対しては、その凹凸面にAg合金などの反射膜を形成し、記録層L0とする(図3(h))。
さらに、記録層L0上に光透過層(カバー層)21を形成する(図3(i))。
これにより光ディスクが完成される。即ちピット列が形成された再生専用ディスクが製造される。
なお、光透過層21の表面にハードコート層を形成する場合もある。
【0042】
[3.無機レジスト原盤へのニアフィールド露光]

以上の光ディスク製造工程において、本実施の形態では、無機レジスト原盤1の層構造及び無機レジスト原盤1の現像までの工程に特徴を有する。
以下では、この点について説明する。
【0043】
上述したように、無機レジスト原盤1に対してニアフィールド露光装置50を用いた場合、レジスト表面から揮発したガスがSIL表面を汚し、ギャップサーボ信号を乱す。その結果フォーカス動作が不安定になり、SILと原盤との衝突に及ぶことがある。
また、無機レジストの場合、パターン記録時に露光された部分が20〜30nm隆起する。ニアフィールド状態ではSILと原盤表面の間隔を20nm程度に接近しているため、パターンの隆起によってそのギャップが埋まり、衝突の危険性が高い。
【0044】
そこで本実施の形態では、ニアフィールド記録に無機レジストを適用するにあたって、表面からガスを発生せず、かつ記録時のパターン隆起をせいぜい10nm以下に抑制するような無機レジスト原盤1の記録膜構造とする。
即ち、記録膜ガス封止効果、及び記録膜隆起抑制効果を有する保護薄膜を無機レジスト膜表面上に形成し、記録完了後に前記薄膜を機械的な剥離手法、或いは溶剤を用いる化学的手法等、何らかの方法で除去し、その後現像処理を行うようにするものである。
【0045】
図4(a)に本例の無機レジスト原盤1の構造を示している。
無機レジスト原盤1は、Siウエハー或いは石英等による原盤基板(支持体)1a上に、蓄熱量制御層1bと、無機レジスト層1cがスパッタ成膜され、さらに無機レジスト層1cの表面に保護薄膜としての表面コート層1dが形成される。
【0046】
蓄熱量制御層1bは、露光スポットで与えられた熱を原盤基板1aに逃がさず、無機レジストを加温するために用いられる。そのため膜厚を厚くするとレジスト感度の増加をもたらすが、蓄熱効果が高すぎると面内方向への余分な熱拡散により解像度が劣化する。よってレジスト感度と解像度のバランスが取れる材料・膜厚を選択する事が重要であり、実際にはアモルファスシリコン(a−Si)、SiO2、或いはSiNが20〜100nm程度の厚さで使用される。
無機レジスト層1cとしての無機レジスト材料としては、遷移金属の不完全酸化物が用いられ、具体的な遷移金属としては、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Nb、Cu、Ni、Co、Mo、Ta、W、Zr、Ru、Ag等が挙げられる。
【0047】
表面コート層1dとしては、具体的にはニアフィールド記録再生ディスク用の表面コートとなり得る、高屈折率材料(例えばTiO2)が混合された光透過材料が適している。
この表面コート材料は、スピンコートによって0.5μm〜数μm程度の膜厚で均一に塗布可能であり、硬度が低いために無機レジストが記録後に数十nm程度隆起しても、それを吸収して表面隆起を防ぐことができる。またSILのNA(>1)に対して、高屈折率材料の屈折率nが[n≧NA]であれば、SILのNAを損ねずにニアフィールド記録再生が可能となる。
【0048】
このような表面コート層1dを形成した無機レジスト原盤1について、上記ニアフィールド露光装置50により露光を行う。
図4(b)に露光の様子を示している。
この場合、表面コート層1dにより、無機レジスト層1cからの揮発ガスの封止効果が得られる。従って、揮発ガスでSIL表面が汚されることはなく、安定したフォーカス動作が実現される。
また無機レジスト層1cは、その露光部分が数10nmほど隆起する。これは、露光された領域では無機レジストがアモルファス状態から結晶状態へ相変化を起こして、体積膨張が生じることによる。
ところが、本例の場合、表面コート層1dによって隆起が抑えられ、対物レンズ62に相対する面に殆ど影響を与えない。
【0049】
露光後は、図4(c)に示すように、無機レジスト原盤1から表面コート層1dを剥離する。
表面コート層1dの剥離が終了した無機レジスト原盤について、図4(d)のように、テトラメチルアンモニウムハイライド(TMAH)といった一般的な有機アルカリ現像液により現像を行う。その結果、無機レジスト層1cには露光パターン(ピット列)に応じた凹凸が形成される。つまり露光部分が凹状となり、これが原盤におけるピット形状或いはグルーブ形状となる。
【0050】
このように、無機レジスト原盤リソグラフィプロセス中に、無機レジスト成膜後の表面コート形成、及び露光後の前記表面コート除去を行うようにすることで、有機レジストに対して飛躍的に高分解能を有する無機レジストへのニアフィールド露光が可能となり、これによって一層の高密度記録が可能となる。
【0051】
[4.実験例]

上記の手法により、実際に無機レジスト原盤1へのニアフィールド記録を行い、ソリッドイマージョンレンズ(SIL)のNAをほぼ反映した高密度記録に成功した。
そのプロセスについて、これより実験例を具体的に説明する。
【0052】
・プロセス1:原盤作製工程
通常の無機レジスト原盤は平坦なシリコン或いは石英ウエハーを用いるが、今回の実験ではディスク用のニアフィールド記録再生機を使用する都合上、トラッキング用のプリグルーブが形成されたプラスチック基板上に無機レジスト層の成膜を行った。
プリグルーブのトラックピッチは190nm、深さは約20nmである。
層構造は、プラスチック基板上に、a−Si(アモルファスシリコン)の蓄熱量制御層1bを80nm厚で形成し、酸化タングステン系無機レジスト層1cを40nm厚で形成した。
【0053】
・プロセス2:表面コート形成工程
プロセス1で作製した成膜済み基板の無機レジスト表面上に、表面コート層1dを1μm厚で形成した。
この表面コート層1dは、具体的には屈折率n=2.5のTiO2微粒子含有のアクリル系ハードコート剤(JSR(株)製、商品名「デソライトZ7252D」)を、メチルイソブチルケトンとイソプロピルアルコールで希釈したものである。
希釈した状態で基板上にスピンコートを行った後に、紫外線で硬化させるプロセスによって表面コート層1dが定着する。
【0054】
・プロセス3:ニアフィールド露光工程
波長λ=405nmの半導体レーザ光源、及びNA=1.7のSILから構成される記録光学系によって、無機レジスト基板上に光ディスクのピットパターンの露光を行った。 記録信号はBD−ROM(再生専用型ブルーレイディスク)に用いられるRLL(1−7)pp信号である。(CLk=66MHz)
今回露光を行った記録線密度(BD−ROM;25GB比)、最短ピット長、及び記録線速度は以下の4種類である。
【0055】
(1)サンプル1;線密度=BD−ROM×2.00、最短ピット長2T=75nm、記録線速度v=2.46m/s
(2)サンプル2;線密度=BD−ROM×2.50、最短ピット長2T=60nm、記録線速度v=1.98m/s
(3)サンプル3;線密度=BD−ROM×2.73、最短ピット長2T=55nm、記録線速度v=1.804m/s
(4)サンプル4;線密度=BD−ROM×3.00、最短ピット長2T=50nm、記録線速度v=1.65m/s
【0056】
ライトストラテジー、記録パワー(Peak_Power, Bias_Power)と言った記録条件は、全てのサンプルで同一である。ピークパワー=8.0mW、バイアスパワー=2.0mWとした。
表面コート層1dの存在によって、記録再生中にフォーカスが不安定になる事なく、また記録後のレジストの隆起によってSILとの接触が発生することなく、安定した露光が実現された。
【0057】
・プロセス4:表面コート剥離工程
露光終了後、現像を行うためには、プロセス2で形成した表面コート層1dを除去する必要がある。
本表面コート材料の場合、無機レジスト表面との密着力が弱いため、ディスク外周をカッターで傷つけてきっかけを作ると、その部分から容易に手作業で剥離する事が出来た。 またアルカリ現像液への浸漬によっても、コート膜が膨潤作用を起こして、数分間内に全てディスク基板から分離する事を確認した。
後者の手法は、現像と同一工程で済むため、より実用的と言える。
【0058】
・プロセス5:現像工程
通常の無機レジスト現像工程と同様に、市販の有機アルカリ現像液TMAH−2.38%溶液(東京応化工業(株)製;商品名「NMD−3」)への12分間の浸漬で、前記露光済み基板を現像した。
【0059】
結果は次のとおりであった。
以上の工程を経て形成されたサンプル1〜4のAFM観察像を、図5(a)(b)(c)(d)に示す。
図6(c)のサンプル3(線密度=BD−ROM×2.73)までは、ピットは明確に分離形成されている。
図6(d)のサンプル4(線密度=BD−ROM×3.00)では、2T長の最短ランド部にて前後のピットが若干つながっており、記録パワーの調整によって完全分離できる見込みはあるものの、線速度方向の記録分解能が限界に近づいている事が分かる。
【0060】
一方、比較対象として、波長λ=405nmの半導体レーザ光源、及びNA=0.95の対物レンズから構成されるファーフィールド光学系で記録を行った場合の記録分解能限界について述べる。
図6(a)(b)(c)(d)は、同様のRLL(1−7)pp信号のピット列を記録した、以下のサンプル5〜8についてのAFM像である。
これらはプリグルーブのない通常のシリコンウエハー原盤上に記録されたものであるが、レジスト構成は前記サンプル1〜4と同一であり、記録光学系の比較が可能である。なおトラックピッチは0.32μmである。
【0061】
(1)サンプル5;線密度=BD−ROM×1.50、最短ピット長2T=100nm、記録線速度v=3.28m/s
(2)サンプル6;線密度=BD−ROM×1.67、最短ピット長2T=90nm、記録線速度v=2.95m/s
(3)サンプル7;線密度=BD−ROM×1.76、最短ピット長2T=85nm、記録線速度v=2.79m/s
(4)サンプル8;線密度=BD−ROM×1.88、最短ピット長2T=80nm、記録線速度v=2.62m/s
【0062】
図6(b)のサンプル6を見ると、最短ピット長=90nmの密度にて、記録線速度方向のピット完全分離が困難になっている。前述のNA=1.7におけるニアフィールド記録系では、NA記録分解能限界は2T=50nmであったが、その値は、NA=0.95での記録分解能限界(2T=90nm)に対して、NA(即ちスポット径)にほぼ比例している。
つまり今回の実験では、ニアフィールド記録の効果がNA換算による期待値どおりに現れており、本実施の形態のプロセス手法が有効である事を示唆している。
【0063】
ここでは実験上の都合によって、プリグルーブ付きのプラスティック基板上に成膜を行ったが、当然ながらニアフィールド光学系を有する専用露光装置があれば、従来同様平坦な原盤面への記録が可能であり、実際のマスタリングではそちらが使用される。
また光ディスク原盤製造に限らず、例えばX−Y描画ステージを導入して、一般的な微細加工装置へと応用する事も考えられる。
【0064】
表面コート層1dにおける高屈折率材料については、TiO2微粒子に限ることなく、SILのNA以上の高屈折率を有する材料であれば使用可能である。
ただし高屈折率材料が混合される光透過性材料側は、今回の材料に対して大きく変更する必要は無い。
他の高屈折率材料を用いる場合でも、アルコールで希釈してスピンコート塗布出来る形態が適用される。よって、表面コートの形成、及び剥離については、上述した手法で一般性があるものと思われる。
【0065】
表面コート層1dの材料についてさらに述べておく。
光透過性材料としての性能は、高屈折率材料微粒子の含有量が少なく、粒子径が小さくなるほど向上する。高屈折率材料と光透過材料との屈折率差により光の散乱を生ずるからである。
表面コート層1dの平均屈折率ncは、
nc=√{(X・(n1)2+(1−X)・(n2)2} ・・・(式1)
となる。
但し、n1は高屈折率材料の屈折率、Xは高屈折率材料の体積充填率、n2は光透過性材料の屈折率である。
【0066】
つまり、高屈折率材料の屈折率が高いほど、その含有率を少なく抑えることが出来る。
屈折率が高く、粒子を細かく出来る材料(粒子径;5nm程度)として、Zr、Nb、Ti、Sn、Ta、Ce、Znの群から選択される1種または2種以上を含有してなる金属酸化物が好ましい。特にはTiO2が適していると考えられる。
無機酸化物微粒子としては、一般に、可視光線の波長帯域において吸収のない酸化インジウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化スズ、酸化タンタル等の酸化物微粒子が用いられるが、特に酸化チタン微粒子は、屈折率が最も高くかつ化学的に安定であるために好ましい高屈折率材料とされているためである。
【0067】
高屈折率材料の屈折率n1の規定については次のとおりである。
対物レンズのNAから、平均屈折率ncの最小値が決定される。(すなわちNA=ncの場合)
上記式1を変形すると、
n12={(NA2)−(1−X)・(n22)}/X ・・・(式2)
【0068】
高屈折率材料の体積充填率Xに対して、例えばXを30%以下にしなければならないといった要請があれば、(式2)よりn1の最小値を規定する事が出来る。
例えばX=0.3、n1=2.5、n2=1.55としたら、これらから、nc=1.89と計算され、NA(=1.7)より大ということになる。
またnc=1.7にしようとしたら、n1=2.00となる。
【0069】
[5.まとめ]

以上のように本実施の形態では、無機レジスト原盤1上にピット或いはグルーブといった微細パターンをリソグラフィする際、無機レジスト原盤1の表面にスピンコート法によって高屈折率材料微粒子を含有する表面コート層1d(保護薄膜)を形成する。
そしてソリッドイマージョンレンズを用いて無機レジスト原盤1上にパターンをニアフィールド露光し、次に表面コート層1dを除去し、最後に現像を行うというプロセスである。
【0070】
表面コート層1dの存在によって、従来無機レジストへのニアフィールド記録で課題となっていた問題が解決される。
即ち、集光スポットの熱によるレジスト表面からのガス揮発が、わずか数十nmの距離で近接するソリッドイマージョンレンズの表面を容易に汚してしまい、ギャップサーボ信号を乱す点があった。これが表面コート層1dのガス封止効果により解消される。
また露光後の無機レジストの隆起高さが、レジスト−ソリッドイマージョンレンズ間の数十nmのギャップ長とほぼ同等であり、レンズと原盤の接触事故を起こす点が問題とされたが、表面コート層1dによる隆起抑制作用により、これが解消され、安定した露光動作が可能となった。
【0071】
これによって、有機レジストプロセスに対して圧倒的に分解能の高い無機レジストプロセスと、対物レンズNAの増加に伴い記録スポット径が縮小されるニアフィールド記録技術との組み合わせが実現され、飛躍的な高密度化が実現できる。
【0072】
なお、実施の形態では、本発明をブルーレイディスクの製造に適用した例で説明を行ってきたが、もちろんブルーレイディスクの製造に限られるものではない。将来のより高密度化を実現した光ディスクの製造にも本発明は適用できる。
また、高記録密度光ディスク原盤のピット或いはグルーブ列や、その他同等の寸法を必要とする一般的な微細加工用途のパターン形成に関しても、本発明は適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施の形態で用いるニアフィールド露光装置の説明図である。
【図2】実施の形態のニアフィールド露光装置のマスク及び光量検出結果の説明図である。
【図3】実施の形態のディスク製造工程の説明図である。
【図4】実施の形態の無機レジスト原盤のニアフィールド露光の説明図である。
【図5】実施の形態の実験結果のAFM観察像を示した図である。
【図6】比較例としてのAFM観察像を示した図である。
【図7】無機レジストの高分解能性の説明図である。
【図8】無機レジストリソグラフィの説明図である。
【符号の説明】
【0074】
1 無機レジスト原盤、1a 原盤基板、1b 蓄熱量制御層、1c 無機レジスト層、1d 表面コート層、10 スタンパ、20 ディスク基板、21 光透過層、50 ニアフィールド露光装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原盤形成基板上に無機レジスト層を形成し、さらに上記無機レジスト層の表面に、光透過性材料中に屈折率nが露光光学系のNAに対してn≧NAである高屈折率材料が混合された保護薄膜を形成する無機レジスト原盤成膜工程と、
上記無機レジスト原盤成膜工程で形成された無機レジスト原盤に対して、上記保護薄膜上から、露光光学系によりNA>1のニアフィールド露光を行う露光工程と、
上記露光工程を経た無機レジスト原盤において上記保護薄膜を剥離する剥離工程と、
上記保護薄膜を剥離した無機レジスト原盤の現像を行い、露光部と非露光部による凹凸パターンを形成する現像工程と、
を有する原盤製造方法。
【請求項2】
上記保護薄膜における高屈折率材料は酸化チタンである請求項1に記載の原盤製造方法。
【請求項3】
上記無機レジスト原盤成膜工程において、上記保護薄膜を形成する材料は、スピンコートにより上記無機レジスト層の表面に塗布したうえで、硬化して形成する請求項1に記載の原盤製造方法。
【請求項4】
上記剥離工程において、上記保護薄膜は、上記現像工程で用いる現像液への浸漬により剥離する請求項1に記載の原盤製造方法。
【請求項5】
原盤形成基板上に無機レジスト層を形成し、さらに上記無機レジスト層の表面に、光透過性材料中に屈折率nが露光光学系のNAに対してn≧NAである高屈折率材料が混合された保護薄膜を形成する無機レジスト原盤成膜工程と、
上記無機レジスト原盤成膜工程で形成された無機レジスト原盤に対して、上記保護薄膜上から、露光光学系によりNA>1のニアフィールド露光を行う露光工程と、
上記露光工程を経た無機レジスト原盤において上記保護薄膜を剥離する剥離工程と、
上記保護薄膜を剥離した無機レジスト原盤の現像を行い、露光部と非露光部による凹凸パターンを形成する現像工程と、
上記現像工程を経た無機レジスト原盤からスタンパを作製するスタンパ作製工程と、
上記スタンパを用いてディスク基板を成形し、該ディスク基板上に所定の層構造を形成することで光ディスクを製造するディスク製造工程と、
を有する光ディスク製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−86636(P2010−86636A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−257108(P2008−257108)
【出願日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】