説明

双極型静電チャック

【課題】吸着面となる静電チャックの表面に水分や有機物などの汚染物質が付着しても、所望の吸着力を発現することが可能な双極型静電チャックを提供する。
【解決手段】 基台4と、この基台4の上面に形成された一対の正負の電極2a、2bと、この電極2a、2bを被覆するように該基台4の上に形成された絶縁層3と、を具備してなる双極型静電チャック1において、該絶縁層表面からの深さが、該一対の正負の電極2a、2bが位置する深さよりも大きい溝部6を、該一対の正負の電極2a、2bの間が分断されるように形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、双極型静電チャックに関するもので、特に、半導体や液晶製造工程において被吸着物であるシリコンウエハや液晶基板を吸着保持する双極型静電チャックに関するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば、半導体製造過程および液晶製造過程における各種処理工程では、シリコンウエハや液晶基板を載置台上で確実に保持する必要がある。こうした要求に応える保持装置としては、静電作用を利用して被吸着物であるシリコンウエハや液晶基板を吸着保持する静電チャック装置が広く用いられおり、その装置に搭載される静電チャックとしては、基台と、この基台の上面に形成された電極と、この電極を被覆するように前記基台の上に形成された絶縁層とを具備してなるものが提案されている。
【0003】
静電チャックには電極の構成により、単一の電極を有する単極型静電チャックと一対の正負の電極を有する双極型静電チャックに大別される。このうち、双極型静電チャックは、単極型静電チャックのように被吸着物を接地する必要がなく、製品面積の大型化が可能なことから、近年、多方面に盛んに使用されるようになってきている。(例えば、特許文献1参照)
また、双極型静電チャックの電極の構造としては、一対の電極層を対抗させたもの以外にも、一対の櫛歯形状の電極や内周電極と外周にリング状電極を形成したものなど、使用条件によってさまざまなものが用いられている。
【特許文献1】特開平11−186371号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、本発明に係る双極型静電チャックは、正と負の一対の電極を内部に有しており、その電極間の電位差によって吸着力を発現する構成となっている。すなわち、電極の間には静電チャックの素材であるセラミックスからなる絶縁層があり、この絶縁層を介してプラスとマイナスの電位差を生じさせている。しかし、吸着面となる静電チャックの表面に水分や有機物などの汚染物質が付着すると表面の絶縁性が低下するため、静電チャック表面上に電位が発生せず、吸着力が低下するという課題があった。
このように、正と負の電極間の距離が短い双極型静電チャックにおいては、わずかな付着物でも容易に電位差が発生しない状態が起こり、吸着力が発現できない原因となっていた。
本発明は上記したような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、表面の汚染付着物の影響を受けずに吸着力を発現できる双極型静電チャックを提供することにある。
【0005】
本発明らは上記したような従来技術の問題点を解決するために鋭意検討して本発明を完成した。すなわち、本発明の目的は、吸着面となる静電チャックの表面に水分や有機物などの汚染物質が付着しても、所望の吸着力を発現することが可能な双極型静電チャックを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記した本発明の目的は、基台と、この基台の上面に形成された一対の正負の電極と、この電極を被覆するように該基台の上に形成された絶縁層と、を具備してなる双極型静電チャックにおいて、該絶縁層表面からの深さが、該一対の正負の電極が位置する深さよりも大きい溝部を、該一対の正負の電極の間が分断されるように形成していることを特徴とする双極型静電チャックによって達成される。
【0007】
また、前記した本発明の目的は、前記溝部の幅が5mm以下であることを特徴とする前記の双極型静電チャックによって達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、吸着面となる静電チャックの表面に水分や有機物などの汚染物質が付着しても、所望の吸着力を発現することが可能な双極型静電チャックが得られるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明では、基台と、この基台の上面に形成された一対の正負の電極と、この電極を被覆するように該基台の上に形成された絶縁層と、を具備してなる双極型静電チャックにおいて、該絶縁層表面からの深さが、該一対の正負の電極が位置する深さよりも大きい溝部を、該一対の正負の電極の間が分断されるように形成していることを特徴とする双極型静電チャックを提案している。
【0010】
ここで、本発明の実施の形態に係る双極型静電チャックの模式的な断面図を図1に、また平面図を図2に示した。
本発明の双極型静電チャック1は、基台4と、この基台4の上面に形成され、電源5に接続された一対の正負の電極(2a,2b)と、この電極を被覆するように該基台4の上に形成された絶縁層3とを具備している。また本発明の双極型静電チャックは、絶縁層表面からの深さが、一対の正負の電極が位置する深さよりも大きい溝部6を、該一対の正負の電極の間が分断されるように形成している。
【0011】
次に、本発明のその他の実施の形態に係る双極型静電チャックの模式的な平面図を図3に示した。本発明の双極型静電チャックの電極の構造としては、一対の電極層を対抗させたもの以外にも、図3に示したように一対の正負の電極を内周電極2aとリング状外周電極2bのように構成し、溝部6(図面では太い実線で模式的に示した。)を、一対の正負の電極の間が分断されるように形成しても良い。
また、本発明のその他の実施の形態に係る双極型静電チャックの模式的な平面図を図4に示した。図4に示したように一対の正負の櫛歯形状電極(2a,2b)を構成し、溝部6(図面では太い実線で模式的に示した。)を、一対の正負の櫛歯形状電極の間が分断されるように形成しても良い。
【0012】
ここで、静電チャックの基台と絶縁層とを構成する材料はAlN、Al23、Si34から選ばれる一種の材料を主成分とする同種のセラミック材料であることが好ましい。その理由は、これらの材料からなるセラミック部材が物理的特性および化学的特性に優れているため、半導体製造装置や液晶製造装置のように機械的強度や耐食性等を要求される静電チャックの構成材料として好適であるからである。
【0013】
静電チャックは、高電圧を印加してクーロン力もしくはジョンソンラーベック力によりSiウエハー等の被吸着物を吸着させるものであるから、前記したように、吸着面となる静電チャックの表面に水分や有機物などの汚染物質が付着して、吸着表面に電位差が発生しない状態は好ましくない。
【0014】
したがって、本発明では双極型静電チャックの表面に溝部を形成し、電極間の絶縁層を物理的に分断することにより、表面に付着したものに関係なく、吸着力が発現できるようにしたものである。すなわち、本発明によれば、水分や有機物などの汚染物質が静電チャックの表面に付着しても、溝部で汚染物質が分断されるため、表面の絶縁性が低下することがなくなり、吸着力が発現できなくなるという問題が発生しなくなるという効果がある。
【0015】
ここで、双極型静電チャックの吸着力に与える汚染物質の影響を無視できるように小さくするためには、絶縁層表面からの深さが、一対の正負の電極が位置する深さよりも大きい溝部を、一対の正負の電極の間が分断されるように形成していることが好ましい。これは、溝部の深さが電極の位置より浅いと吸着表面の汚染物質の付着の影響をうけて、吸着力を十分に発揮できないからである。
ここで、溝部の深さは電極が位置する深さよりも大きく、かつ、電極の下面部よりさらに、0.1〜3.0mmだけ大きいことが、特に好ましい。その理由は、0.1mm未満では、吸着力が汚染物質の付着の影響をうけるため好ましくなく、3.0mmを超えると、基台の機械的強度を低減するので好ましくない。
【0016】
次に、本発明では、前記溝部の幅が5mm以下であることを特徴とする前記の双極型静電チャックを提案している。
ここで、溝部の幅が5mm以下であることが好ましい理由は、溝部の幅が5mmを超えて大きいと静電チャックに吸着した被吸着物の熱分布を均一にすることを目的として流しているガスが溝部に滞留し、被吸着物の熱分布が不均一になるから好ましくないからである。
また、溝部の幅が0.5mm未満では付着物の影響を排除できないため、溝部の幅は、0.5〜5mmであることが好ましい。
【0017】
以下、本発明の実施例を比較例とともに具体的に挙げ、本発明をより詳細に説明する。
(実施例1)
(1)双極型静電チャックの製造
市販のAlN粉末に希土類酸化物の焼結助剤を添加してなる混合粉末を、100kg/cm2(=9.8MPa)で一軸加圧し、φ200mm×10mmの盤状の成形体を作製した。(焼結後に、本発明の基台に相当する。)
次に、前記成形体の上に厚さ0.1mmで、一対の内周電極とリング状外周電極(図3参照。)を配置し、その上に前記した混合粉末を充填した(焼結後に、本発明の絶縁層に相当する。)後、焼成温度;1900℃、焼成時間;2時間、プレス圧;100kg/cm2の条件でホットプレス焼結を行うことで、φ200mm×15mmの盤状のセラミックスからなる静電チャック用部材を得た。
次に、得られた静電チャック用部材の絶縁層(電極上に充填した混合粉末により形成された層)の厚さが1mmになる様に研削し、反対側の面の2箇所に孔をあけ、一対の正負の電極への電圧印加用端子を取り付けた。
その後、一対の正負の電極の間が分断されるように幅が2mmで、絶縁層表面(吸着面)からの深さが、一対の正負の電極が位置する深さよりも大きく、かつ、電極の下面部よりさらに1mm深い溝部をマシニングセンターで加工を行い(図5に実施例の溝部の概略構成断面図を示した。)、本発明の実施例である双極型静電チャックを得た。
(2)吸着力の測定
次に、得られた双極型静電チャックについて、3KVまでの直流電圧を印加して、耐電圧と吸着力の評価を行った。吸着力の評価は、Siウエハーを静電チャックの吸着面にのせて吸着させ、フォースゲージでSiウエハーを引っ張り、Siウエハーが吸着面から剥がれたときの力を吸着力として測定した。
その結果、耐電圧は実用に問題がないほど十分に大きく、また、吸着力は483gと大きかった。
(3)表面への水分付着試験
次に、実施例で得られた双極型静電チャックを、湿度が90%の高湿槽に4時間放置して、静電チャック表面へ水分を十分付着させた。その後、前記の吸着力の測定を行った結果、吸着力は503gとなった。このように、本発明の実施例である双極型静電チャックの吸着力は高湿槽放置後で表面に水分が付着した状態でも放置前とほぼ同等で大きかった。
【0018】
(実施例2)
(1)双極型静電チャックの製造
電極の形状が櫛歯形状(図4参照。)である以外は実施例1と同様の方法で作製した静電チャックに一対の正負の電極の間が分断されるように幅が2mmで、絶縁層表面からの深さが、一対の正負の電極が位置する深さよりも大きく、かつ、電極の下面部よりさらに1mm深い溝部をマシニングセンターで加工を行い、本発明の実施例である双極型静電チャックを得た。
(2)吸着力の測定
次に、得られた双極型静電チャックについて、3KVまでの直流電圧を印加して、耐電圧と吸着力の評価を行った。吸着力の評価は、Siウエハーを静電チャックの吸着面にのせて吸着させ、フォースゲージでSiウエハーを引っ張り、Siウエハーが吸着面から剥がれたときの力を吸着力として測定した。
その結果、耐電圧は実用に問題がないほど十分に大きく、また、吸着力は658gと大きかった。
(3)表面への水分付着試験
次に、得られた双極型静電チャックを、湿度が90%の高湿槽に4時間放置して、静電チャック表面へ水分を十分付着させた。その後、前記の吸着力の測定を行った結果、吸着力は631gと高湿槽放置後で表面に水分が付着した状態でも放置前とほぼ同等であった。
【0019】
(比較例)
溝部の絶縁層表面(吸着面)からの深さが、一対の正負の電極が位置する深さよりも小さく、かつ、電極の下面部より0.5mmだけ浅い溝部(図6に比較例の溝部の概略構成断面図を示した。)とした以外は実施例1と同様の方法で双極型静電チャックを作製して、吸着力の測定を行った。
【0020】
次に、実施例と同様に、湿度が90%の高湿槽に4時間放置し、表面に水分が十分付着した状態で吸着力の測定を行った。
その結果、高湿槽放置前の吸着力は、462gと実施例と同程度に大きかったが、高湿槽放置後の吸着力は、130gと高湿槽放置前の半分以下となってしまった。
【0021】
以上の通り、本発明のように、双極型静電チャックの電極の間が分断されるよう溝部を形成することにより双極型静電チャックの吸着表面への汚染物質の付着の影響を受けずに、安定した吸着力を発現できる双極型静電チャックを提供できることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態に係る双極型静電チャックの模式的な断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る双極型静電チャックの模式的な平面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る双極型静電チャックの模式的な平面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る双極型静電チャックの模式的な平面図である。
【図5】実施例に係る溝部の概略構成断面図である。
【図6】比較例に係る溝部の概略構成断面図である。
【符号の説明】
【0023】
1;静電チャック
2a,2b;電極
3;絶縁層
4;基台
5;電源
6;溝部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台と、この基台の上面に形成された一対の正負の電極と、この電極を被覆するように該基台の上に形成された絶縁層と、を具備してなる双極型静電チャックにおいて、該絶縁層表面からの深さが、該一対の正負の電極が位置する深さよりも大きい溝部を、該一対の正負の電極の間が分断されるように形成していることを特徴とする双極型静電チャック。
【請求項2】
前記溝部の幅が5mm以下であることを特徴とする請求項1記載の双極型静電チャック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−214339(P2007−214339A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−32285(P2006−32285)
【出願日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(391005824)株式会社日本セラテック (200)
【Fターム(参考)】