説明

双電極電気化学送出システム

【課題】装置内の半セル間の濃度差をなくしたセル設計を提供する。
【解決手段】本発明の電気化学セルは、第1半セル及び第2半セルを有し、かつこれらの半セル間にイオン選択膜を有するセル筐体を有する。この電気化学セルはさらに、前記第1半セル内に配置された第1電極と、前記第2半セル内に配置された第2電極と、これらの第1電極及び第2電極の両方と通電する電解液を有する。この電気化学セルの電極は、この電気化学セルが動作中に塩濃度レベルをほぼ一定に維持するように構成する。この電気化学セルは、埋め込み可能な流体送出装置に関連して使用することが好ましい。この装置を使用する方法も追加的に開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
1.発明の分野
本発明は一般に電気化学流体送出装置に関するものであり、特に改善された電気浸透流体送出装置に関するものである。
【0002】
2.従来技術の状況
流体送出装置は現在技術において既知であり、加圧流体送出装置から機械的流体送出装置、電気化学流体送出装置まで、及びそれ以外の範囲に及ぶ。特に興味深い流体送出システムの1つは、送出ポンプに結合された電気浸透セルであり、電気浸透ポンプを形成する。これらの単純なポンプは、電気化学セルとイオン選択膜との組み合わせによって流体送出用の駆動力を発生する。
【0003】
しかし、従来の電気浸透ポンプには、従来技術では今のところ対応していない多数の問題がある。定流量(定レート)の流体送出用途では1つの特別な問題が生じている。装置の動作がある期間にわたって継続すると共に、陽極(アノード)と陰極(カソード)との間の電流を定率に維持しても送出流量が一定しないということが観測される。一般に、電気浸透セルでは2種類の浸透が同時に発生している。主要かつ最も優勢な種類の浸透は電気浸透であり、これにより、セルが動作している間に帯電したイオン(解離塩)がイオン交換膜を通され、これにより、これらのイオンと共に水分子が引かれる。二次的でこれほど優勢でない輸送の形態は、環境条件による浸透である。浸透とは障壁を通る溶媒の移動であり、一般に、より低い溶質濃度の領域からより高い溶質濃度の領域に移動する。通常のセル動作条件であるものとすれば、環境駆動の浸透は電気浸透に比べれば無視できる。
【0004】
しかし、電気浸透送出装置の半セル(半電池)内の塩の相対濃度が変化すると共に、送出される流量の大幅な変化が観測される。装置の動作が継続すると共に、装置の膜をイオン(塩)が通過することが一方の半セル内の塩濃度の増加を生じさせる。最終的に、環境的な浸透流束(フラックス)が大きく発達する程度に濃度が高くなる。従って、環境的な浸透がより優勢になり、セルの予測性及び信頼性に悪影響する。こうした追加的な溶液の移動が一方の半セルに含まれる総流体量の増加を生じさせて、流体の送出流量を増加させる。
【0005】
上述した効果は、セルの動作が停止した後にも継続し得る。陽極と陰極との間の通電をなくしても、半セル間の濃度差は残る。従って、追加的な溶媒が膜を通って引かれ続けて、セルが動作を停止した後にも流体送出装置に流体を送出させ続ける。この追加的な流体送出は「ゼロ電流輸送」と称され、特に定流量の流体送出装置の長期使用にとっては許容できないものと考えられている。
【0006】
従って本発明の目的は、装置内の半セル間の濃度差を回避した、改善されたセル設計を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、装置の送出流量の信頼性及び一貫性を向上させることにある。
【0008】
本発明のさらなる目的は、不所望なゼロ電流輸送を解消するか、あるいは大幅に低減することにある。
【0009】
これら及び他の目的は、本明細書及びこれに添付した特許請求の範囲及び図面を参照すれば、通常の当業者にとって明らかになる。
【0010】
(発明の概要)
本発明は、内部に第1電極を有する第1半セル、内部に第2電極を有する第2半セル、及びこれらのセル間のイオン交換膜を有する電気化学セルとして本明細書に開示する。この電気化学セルは追加的に、前記第1電極及び前記第2電極の両方と通電する電解液を有して、セルの動作を可能にする。さらに、この電気化学セルは追加的に、前記電気化学セル内の塩の濃度をほぼ一定に維持する手段を具えている。前記セル内の塩の濃度をほぼ一定に維持することによって、前記第1半セルと前記第2半セルとの間の濃度差の大きな食い違いを回避することができ、従って、電気浸透輸送(移動)の不規則性、並びにゼロ電流輸送の存在を回避することができる。
【0011】
好適例では、前記電極がほぼ同一の活性材料から成り、これにより装置の動作中に、一方の電極によって生成されるイオンが他方の電極と反応する。このことは、前記電気化学セル内の塩濃度を一定に維持する働きをする。
【0012】
好適例では、前記第1電極及び前記第2電極が共に銀/塩化銀電極である。
【0013】
前記電気化学セルの動作を調整するために、前記電気化学セルは、この電気化学セルを制御する手段を具えていることが好ましい。この制御手段は、抵抗器、複雑な制御回路、等から構成することができる。これらの装置は、前記電気化学セルの電極を通って流れる電流の時間的挙動及び大きさを制御する働きをする。好適例では、前記電気化学セルが2つ以上の第2電極を具え、これら2つ以上の第2電極の少なくとも1つが、前記第1電極とほぼ同一の活性材料から成る。前記制御手段は、前記第1電極と前記2つ以上の第2電極の少なくとも1つとの間の電流を方向付けすることが好ましい。この電流は、必要に応じて、前記2つ以上の第2電極に電流を分割して割り当てる(電極間で電流を分割する)か、あるいはこれらの電極に電流を順に割り当てる(電極間で電流を巡回させる)かのいずれかによって方向付けすることができる。少なくとも2つの第2電極の同時の動作を促進させるために、各電極用の配線ループが抵抗器を含み、1つの抵抗器の抵抗値が他の抵抗器の抵抗値より少なくとも10倍大きいことが好ましい。
【0014】
前記電気化学セルは、前記2つの半セルの少なくとも一方のイオン濃度を測定するためのイオンセンサを追加的に具えることができる。そしてこの濃度は、前記制御手段の動作を決定するために用いることができる。
【0015】
本発明の好適例では、上述した電気化学セルを電気化学流体送出装置に内蔵する。この流体送出装置は、流体入口と、この流体入口と流体が通じる上述した電気化学セルと、この電気化学セルに隣接したピストン部材または可動仕切と、このピストン部材/可動仕切に隣接した薬剤貯蔵器とを具えて、この薬剤貯蔵器が出口ポートを有する。前記電気化学セルは、その動作が停止されるまで、前記薬剤貯蔵器から薬剤を、安定かつ一貫して送出すべく動作する。この装置の動作期間を通して、前記電極は、前記セル内の塩濃度レベルをほぼ一定に維持する働きをし、このことは、環境的な浸透を最小化し、装置からの流体送出の信頼性、予測性、及び一貫性を増加させることを保証し、並びに、セルの動作が停止した後のゼロ電流輸送を最小化することを保証する。
【0016】
前記流体送出装置の流体入口が浸透膜であり、この装置内で使用する電解液が体液または体液と等張の流体であることが好ましい。
【0017】
(実施例の詳細な説明)
本発明は多くの異なる形の実施例が可能であるが、いくつかの特定実施例を図示して詳細に説明し、本明細書の開示は本発明の原理の好適例として考えるべきものであり、本発明を例示した実施例に限定することを意図したものではない。
【0018】
図1に、電気浸透ポンプを具えた従来技術の電気化学装置100を示し、この装置は流体入口101、電気浸透(または電気化学)セル102、及び流体出口104を具えている。流体入口101は一対の流体導管108として示し、新鮮な生理的食塩水を必要に応じてセル102に供給し、そして戻す。電気浸透セル102は一般に、第1半セル112、膜114、及び第2半セル116から成る。図1に示すもののような従来の装置は一般に、流体を第1半セル112内に導入して、この流体の一部分を膜114を通して吸い出すことによって動作し、この吸い出しは、イオンが膜114を通る電気化学的移動による。第2半セル116内に導入される流体は蓄積して、第2セル116内に含まれる流体を流体出口104経由でセル102外に送出する。
【0019】
流体送出装置に使用可能なこうした従来技術の電気浸透は一般に、多くの欠点を有する。こうした装置は電気浸透輸送によって流体を送出するのに有効であるが、流体送出の一貫性及び予測可能性は、装置の動作停止中及びその後(例えば電流が停止した後)の浸透輸送によって影響され得る。セルの動作中に、従来のセルは、セル自体の内部の塩濃度の増加が見られる。この塩濃度の増加はセルの動作に影響することがあり、特に、セル内の不所望な浸透輸送の駆動力として作用し得る。この効果は、電気浸透輸送の停止の後にも及ぶことがあり、セル電流が遮断された後にも浸透輸送を生じさせる。この種の事後動作的な浸透輸送はゼロ電流輸送と称される。
【0020】
本発明の流体送出装置10はとりわけ、これらの問題を克服する働きをする。図2に示す流体送出装置10は、流体入口14、電気化学セル16、ピストン28、貯蔵器30、出口ポート36、及び配線装置38を具えている。流体送出装置10は、動作中に、外部の流体源から流体入口14を通して電気化学セル16内に流体を受け入れて、この流体をセル16を通るようにピストン28に向けて押し出して、ピストン28を貯蔵器30内に変位させて、この流体を出口ポート36を通して貯蔵器30外に送出することができる。以下で説明するように、流体送出装置10は、安定した流れの流体を、予測可能かつ測定可能な流量である期間にわたって送出することができる。好適な実施例では、貯蔵器30が薬剤調合物を含み、流体送出装置10が被制御の流量で薬剤を送出すべく動作する。
【0021】
図2に示す流体送出装置10は概ね、細長い円筒形の装置から成る。本発明の教示は、広範な流体送出装置で利用することができる。本発明のポンプ技術の特に有用な応用の一つが埋込可能な医療ポンプである。これらのポンプは患者の体内に埋め込まれて、長期にわたって患者に薬剤を送出する。本発明の教示は、こうした埋込可能な装置に関して説明し、そしてこうした環境内のものを図示する。なお、流体送出装置10は埋込可能装置に関連して説明するが、本明細書及び特許請求の範囲に含まれる教示は、本明細書の開示の範囲から離れることなしに他の装置及び用途に移行させることができる。
【0022】
図2に示す装置10の流体入口14は一般に、装置10の端部12に結合された膜から成る。装置10は水が豊富な環境にあり、動作中に水が入口14を通してセル16内に入ることができることが好ましい。あるいはまた、図1に示すように、流体入口14を、セル16内に流体を送出するための1つ以上の導管108で構成することができる。いずれの場合にも、流体入口14は、電気浸透セル16への一定かつ安定した流体の供給を行って、進行的かつ一貫した動作を保証すべきである。
【0023】
図2の電気浸透セルは第1半セル18及び第2半セル22を具え、これらの半セル間に膜26を有する。流体入口14は第1半セル18に結合され、装置10の周囲環境からセル16内に流体が入ることを可能にする。図1に示すように、第1半セル18及び第2半セル22内には電極があり、第1半セル18内には第1電極20が、第2半セル22内には第2電極24がある。第1電極20及び第2電極24は、それぞれ陰極(カソード)及び陽極(アノード)を構成することが好ましい。また、第1半セル18及び第2半セル22はその内部に含まれる特定種類の電極に応じて名付けられ、こうしたものとして、以下では陰極半セル18及び陽極半セル22と称する。
【0024】
セルの動作を最適化するために、そして動作中及び動作後に共に浸透性の移動(非電子の浸透)の発生が最小化されることを保証するために、陽極24及び陰極20は共に、同一の活性材料から構成することができる。例えば、好適な実施例では、陰極20及び陽極24は共に、Ag/AgCl電極で構成することができる。この場合には、動作中に陰極20では次式の反応が行われる:
【化1】



そして、陽極24では次式の反応が行われる:
【化2】



【0025】
上記の式に見られるように、好適な実施例では、陰極20が塩素イオンを生成して、この塩素イオンは膜を通して陽極半セル22に渡され、その後に陽極24はこの塩素イオンを再錯化して不溶性の塩化銀にして、この塩化銀は溶液から析出する。このことが行われるに当たり、塩、即ち塩素イオンの濃度は動作中に増加しない、というのは塩素イオンは絶えず錯化されて析出するからである。これに加えて、電流が流れている際に、塩素イオンと共に水も輸送されて、第2半セル22内に正味の量の流束(フラックス)を生じさせ、従って、貯蔵器30からの流体送出を生じさせる。
【0026】
上述した実施例は単に銀/塩化銀の活性材料電極の使用について述べたものであり、他の多数の活性材料も同様に電極用に利用可能である。当業者には明らかなように、動作中に電極がセル内の塩濃度をほぼ一定に維持する働きをするものとすれば、簡単な実験で本発明に用いられる他の多数の活性材料を生成することができる。本発明の限定を意図するものではないが、他の電極系の例は下表のものを含む:
【表1】

【0027】
使用すべく選択した特定材料にかかわらず、膜26を通過したイオンは種々の方法で中和することができる。一般に、膜26を通過したイオンはその後に、膜26の他方の側(通過した後の側)に既に存在するイオンによって錯化されるか、あるいは通過したイオンと同様の他のイオンによって触媒による自己中和反応で錯化されるかのいずれかが好ましい。これに加えて、上記通過したイオンは反対側(通過した後の側)の電極と反応して、この電極上で錯化しメッキ化するか、あるいは電解液から析出し得る。これらの反応が進む間に、陽極半セル22内に含まれる溶液のイオン濃度はほぼ一定に維持される。
【0028】
セル16の膜26は一般に、陰極20において生成されるイオンの通過を可能にするイオン選択膜から成り、陰極半セル18と陽極半セル22との間の保全性をほぼ維持する。通常、膜26はアニオン(陽イオン)またはカチオン(陰イオン)のいずれか(両方ではない)に対して選択的である。膜26用に選択する特定材料は、選択した電極材料、及び装置10の望ましい送出(ポンプ)流量によって決まる。しかし代表的な材料は、Ameridia社のAM-1(登録商標)、AM-3(登録商標)、AFN(登録商標)及びAMX(登録商標);デュポン社のNafion(登録商標);Membranes International社のCMI 7000 C/R(登録商標)、及び現在技術で既知の他の材料である。
【0029】
本発明の装置の電気浸透セル16に関連する教示は、必ずしも流体送出装置に限定する必要はない。本発明のセル16の拡張性のある使用及び一貫性のある動作は、流体送出の技術を越えて、温度または圧力による影響を最小にしたあらゆる物質の被制御の放出を含めて拡張することができる。従って、本明細書の開示は流体送出装置に関連して示しているが、上述したように、この電気化学セルの教示は、本明細書の開示の範囲を外れることなしに他の装置に移植することができる。
【0030】
流体の正味の体積変化を第1半セル18から第2半セル22に移行させるために、流体送出装置10は可動ピストン、可動壁、ピストン、またはセル容積が十分に増加する際に第2半セル22の容積を増加させるべく移動する他の類似の構造を具えている。簡単明瞭にするために、こうした可動構造は一般にピストン28のようにすることが好ましいが、これは装置を特定構造に限定することを意図したものではない。ピストン28は陽極半セル22の末端23に結合され、装置10のこの部分を薬剤貯蔵器30から封止する。ピストン28は装置10内で摺動可能なように結合され、これにより、陽極半セル22内に含まれる流体の体積が増加または減少する際に、ピストン28はこれに対応して薬剤貯蔵器30内及び薬剤貯蔵器30外に動かされる。このプロセスより、薬剤貯蔵器30内に含まれる流体を送出用に押し出すか、あるいは装置10の動作が引き込みであれば引き込むことができる。他の構造を同様に利用して、代案の構造で同じ機能動作を実行することができる。例えば、ピストン28をダイヤフラム(仕切板)、あるいは各区画の保全性を維持しつつ圧力または体積の増加を一方の区画から他方の区画に伝えることのできる他の同様の構造で構成することができる。
【0031】
出口ポート36は、貯蔵器30と周囲環境との間の開口で構成することが好ましい。図には示していないが、出口ポート36は追加的に、任意数の流体送出制御装置、例えばノズル、バルブ、あるいは装置10から出る流体の流量を調整するための他の制御装置を具えることができる。しかし、最も簡単かつ好適な形態では、出口ポート36が単に静止の開口であり、貯蔵器30から出る流体の制御流量が電気浸透セル16の動作によって完全に決まる。
【0032】
図2に示す配線装置38は電源44、スイッチ42、及び電気化学セル16を制御する手段40を具えて、これらが協働して出口ポート36から出る流体の送出流量を制御する働きをする。電源44、スイッチ42、及び制御装置40が協働して、セル16用の制御メカニズムを提供して、動作のレート(流量)並びに動作の開始及び終了のタイミングを調整する。制御手段40は、回路内の単純な抵抗器で構成することができ、あるいは、陽極24及び陰極20を通る電流を調整するコンピュータ化した制御回路のようなより精巧なメカニズム(機構)で構成することができる。電源44によって性御手段40に給電して、一旦スイッチ42が閉じられると(この動作は制御手段40によって制御することができる)、装置10の動作が制御手段40の命令に従って開始される。あるいはまた、制御手段40を電源44自体で構成して、電源44の動作電圧によって配線ループを通る電流の大きさ及び時間的挙動の少なくとも一方を調整することができる。
【0033】
制御手段40は追加的にセンサ46を具えることができる。センサ46をセル16の陽極半セル22の壁面内に配置して、陽極半セル22内に含まれる溶液と直接接触させることができる。センサ46は、半セル22内の流体の導電率、あるいは陽極半セル22内に含まれる任意数の種類のイオンの濃度を検出することができるが、特に、陰極20が動作中に生成するイオンのイオン濃度を検出し測定することができるべきである。代表的なセンサは、導電率センサ、ナトリウムイオンセンサ、Ag/AgClイオンセンサ、等を含む。陽極半セル22の導電率またはイオン濃度を監視することによって、制御部材40が電気浸透セル16の動作を調整して、装置10から出る、一貫性があり予測可能な流量を維持することができる。
【0034】
動作中には、まず流体送出装置10を、人体のような湿気が豊富な環境内に配置するか、あるいは埋め込む。一旦定位置におかれると、装置10は、配線装置38を最終的な動作位置にもっていくことによって、動作のための構成になる。このことは例えば、単にスイッチ42を閉じるか、あるいは制御手段40をセル16の動作を開始するようにプログラムすることによって行うことができる。
【0035】
動作を開始した後には、流体が流体入口14経由でセル16内に入ることができる。流体はセル16の陰極半セル18内に入って、半セル18内では陰極20が電気化学反応によってイオンを生成し始める。そしてこれらのイオンは装置の動作によって膜26を通って陽極半セル22内に移動する。イオンが膜26を通過する際に、これらのイオンは陰極セル18内に含まれる小量の流体を一緒に持っていき、陽極半セル22内に含まれる総体積を増加させる。陽極半セル22内の流体の体積が増加すると共に、ピストン28が薬剤貯蔵器30内に押し込まれて、ライニング(内張)32並びにその内側に含まれる医薬を圧縮する。その後に、この医薬が出口ポート36を通って押し出されて、この薬剤が周囲環境に送出される。
【0036】
流体入口14を通してセル16を満たす代わりに、セル16に事前に流体を満たしておくことができる。一般に、こうした流体は、ある意味で体液を模擬した水溶性電解液及び水溶液を含む。こうした流体は、例として、等張の生理的食塩水、リンゲル液、人工透析液、等を含むことができる。
【0037】
一旦、イオンが陽極半セル22内に含まれると、陽極24はこれらのイオンを中和すべく作用する。陽極24は、次の3つの方法のうちの1つの方法でイオンを中和する:(1)陽極24が生成するイオンによる錯化反応、(2)触媒を用いた自由イオンに対する自己錯化反応、または(3)自由イオンと反応させて、陽極24の表面上にメッキにする方法。陰極20及び陽極24は、例えばAg/AgClのような同一材料で構成することができ、これにより、陰極20において生成されるイオン(例えば塩素イオン)が陽極24において(例えば銀によって)再錯化されて、(AgClの錯化及び析出によって)自由イオンを中和することができる。
【0038】
図3に、本発明の代案実施例を示す。本実施例では、図に示すように、本発明の電気浸透セル16が、陰極20、及び第1陽極24’及び第2陽極24”を具えている。スイッチ25を用いて、電池出力を第1陽極24’と第2陽極24”との間で方向付けすることができる(図4参照)。上述したように、陰極20及び第1陽極24’はほぼ同一の活性材料から成る。第2陽極24”は、異なる材料であるが電気化学的には互換性のある材料から成る。例えば、第2電極24”は、Zn、Mg、Alまたは他の適切な陽極材料で構成することができる。第2陽極24”は可溶性のカチオンを生成することが好ましい。陰極20及び第1陽極24’及び第2陽極24”の各々が、制御手段40’、40”及びスイッチ42’、42”と通電し、そして第1陽極24’は電源44とも通電することが好ましい。あるいはまた、図4に示すように、スイッチ25を含む場合には、第1陽極24’及び第2陽極24”が共に電源44に接続可能であることが好ましい。
【0039】
第2半セル22の容積に依存して、長期のセル動作が、動作上無視できない半セル22内の電解液の濃度低下をもたらし得る。この低下は、第1陽極24’の動作によりイオンが膜26を通過することに伴う水の電気浸透輸送、及び塩の量の増加がないことによって生じる。電流の一部を第2陽極24”に向けることによって、可溶性のイオン(カチオン)が生成されて、あらゆる濃度低下を相殺することができる。
【0040】
本実施例では、第2陽極24”としての標準的な陽極と、陰極20とほぼ同じ活性材料から成る第1陽極24’との同時使用か交互使用のいずれかによって、装置10の動作を最大のものにすることができる。制御手段40は、必要に応じて第1陽極24’及び第2陽極24”の電気接続及び動作を方向付けする方向付け手段を利用することによって装置10の動作を最大のものにすることができる。この動作を促進するために、制御手段40をイオンセンサ46と通電するように配置して、イオンセンサ46は陽極半セル22内のイオンの濃度を監視する。性御手段40は、一旦電極と通電するように配置されると、電流を第1陽極24’または第2陽極24”のいずれか、あるいは両方に同時に向けるための巡回手段または分割手段のいずれかを使用することができる。陽極24’、24”への電流のタイミング及び/または比率は、制御手段40によって追加的に指示される。
【0041】
共に動作する第1陽極24’及び第2陽極24”を有する装置10の動作を最大のものにするために、図3に示すように、装置10は、陰極20を第1陽極24’に接続する第1配線ループ50、及び陰極20を第2陽極24”に接続する第2配線ループ52を具えることができる。こうした動作設定では、各ループ50、52はそれぞれ、スイッチ42’、42”、及び制御手段40’、40”を具えている。第1配線ループ50は追加的に、上述したセルの動作を行わせるための電源44を追加的に具えている。一般に、こうした構成は、第1陽極24’及び第2陽極24”の各々の独立した動作を可能にする。
【0042】
しかし、特定の環境では、第1陽極24’が第2陽極24”の動作を妨害すること、及びその逆があり得る。こうした妨害を防止する手助けをするために、制御手段40’、40”が標準的な抵抗器を具えていること、及び第2制御手段40”が第1制御手段40’よりもずっと大きい抵抗を有することが好ましい。例えば、第2制御手段40”に、第1制御手段40’の抵抗の10倍の抵抗を設けることができる。第2配線ループ52の抵抗を増加させることによって、このループ内の電流を減少させて、第2陽極24”の第1陽極24’に対する悪影響を低減することができる。
【0043】
以上の記述は単に本発明を説明及び例示したものであり、本発明はこの記述に限定されず請求項によって限定され、本明細書の開示を見た当業者は、本発明の範囲を逸脱することなしに変更を加えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】従来の電気化学流体送出装置の破断側面図である。
【図2】本発明の流体送出装置の破断側面図である。
【図3】本発明の流体送出装置の代案実施例の破断側面図である。
【図4】本発明の流体送出装置の代案実施例の破断側面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体送出システム用の電気化学セルにおいて、
第1半セル及び第2半セルを有し、これらの半セル間にイオン選択膜を有するセル筐体と;
前記第1半セル内に配置された第1電極と;
前記第2半セル内に配置された第2電極と;
前記第1電極及び前記第2電極の両方と通電する電解液と;
前記電気化学セルの動作中に、前記電気化学セル内の塩濃度をほぼ一定に維持する手段と
を具えていることを特徴とする流体送出システム用電気化学セル。
【請求項2】
前記維持する手段が、前記イオン選択膜を通過したイオンを中和する化学反応を生成する手段を具えていることを特徴とする請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記生成する手段が、ほとんど不溶性の生成物を生成することを特徴とする請求項2に記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記生成する手段が、生成物の少なくとも一部として水を生成することを特徴とする請求項2に記載の電気化学セル。
【請求項5】
前記維持する手段が、共通の活性材料から製造した前記第1電極及び前記第2電極を具えていることを特徴とする請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項6】
前記第1及び第2電極の前記活性材料が銀/塩化銀から成ることを特徴とする請求項5に記載の電気化学セル。
【請求項7】
前記電気化学セルが、前記電気化学セルの動作を制御する手段を追加的に具えて、前記制御する手段が、前記電気化学セル内の電流の大きさ及び時間的挙動の少なくとも一方を調整可能であることを特徴とする請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項8】
前記電気化学セルが少なくとも2つの前記第2電極を具えて、前記制御する手段が、前記第1電極と前記少なくとも2つの前記第2電極との間の電流を方向付けする手段を具えていることを特徴とする請求項7に記載の電気化学セル。
【請求項9】
前記方向付けする手段が、前記少なくとも2つの前記第2電極に電流を順に割り当てる手段を具えていることを特徴とする請求項8に記載の電気化学セル。
【請求項10】
前記方向付けする手段が、前記少なくとも2つの前記第2電極に電流を分割して割り当てる手段を具えていることを特徴とする請求項8に記載の電気化学セル。
【請求項11】
前記電気化学セルが追加的に、前記電気化学セルに結合されて前記第1半セル及び前記第2半セルの少なくとも一方のイオン濃度を測定するセンサを具えていることを特徴とする請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項12】
前記電解液が、電解液の溶媒として水を含むことを特徴とする請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項13】
前記電解液が、体液をある程度模擬したものであることを特徴とする請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項14】
流体入口と;
前記流体入口と流体が通じる電気浸透セルと;
前記電気浸透セルに隣接した可動壁と;
前記可動壁に隣接し、出口ポートを具えた薬剤貯蔵器とを具えて、
前記電気浸透セルが、
第1半セル及び第2半セルを有し、これらの半セル間にイオン選択膜を有するセル筐体と;
前記第1半セル内に配置された第1電極と;
前記第2半セル内に配置された第2電極と;
前記第1電極及び前記第2電極の両方と通電する電解液と;
前記電気化学セルの動作中に、前記電気化学セル内の塩濃度をほぼ一定に維持する手段とを具えている
ことを特徴とする電気浸透流体送出装置。
【請求項15】
前記維持する手段が、前記イオン選択膜を通過したイオンを中和する化学反応を生成する手段を具えていることを特徴とする請求項14に記載の流体送出装置。
【請求項16】
前記生成する手段が、ほとんど不溶性の生成物を生成することを特徴とする請求項15に記載の流体送出装置。
【請求項17】
前記生成する手段が、生成物の少なくとも一部として水を生成することを特徴とする請求項15に記載の流体送出装置。
【請求項18】
前記維持する手段が、共通の活性材料から製造した前記第1電極及び前記第2電極を具えていることを特徴とする請求項14に記載の流体送出装置。
【請求項19】
前記第1及び第2電極の前記活性材料が銀/塩化銀から成ることを特徴とする請求項18に記載の流体送出装置。
【請求項20】
前記電気化学セルが、前記電気化学セルの動作を制御する手段を追加的に具えて、前記制御する手段が、前記電気化学セル内の電流の大きさ及び時間的挙動の少なくとも一方を調整可能であることを特徴とする請求項14に記載の流体送出装置。
【請求項21】
前記電気化学セルが少なくとも2つの前記第2電極を具えて、前記制御する手段が、前記第1電極と前記少なくとも2つの前記第2電極との間の電流を方向付けする手段を具えていることを特徴とする請求項20に記載の流体送出装置。
【請求項22】
前記方向付けする手段が、前記少なくとも2つの前記第2電極に電流を順に割り当てる手段を具えていることを特徴とする請求項21に記載の流体送出装置。
【請求項23】
前記方向付けする手段が、前記少なくとも2つの前記第2電極に電流を分割して割り当てる手段を具えていることを特徴とする請求項21に記載の流体送出装置。
【請求項24】
前記電気化学セルが追加的に、前記電気化学セルに結合されて前記第1半セル及び前記第2半セルの少なくとも一方のイオン濃度を測定するセンサを具えていることを特徴とする請求項14に記載の流体送出装置。
【請求項25】
前記流体入口が多孔質構造から成ることを特徴とする請求項14に記載の流体送出装置。
【請求項26】
前記流体入口が半透過性の構造から成ることを特徴とする請求項14に記載の流体送出装置。
【請求項27】
前記半透過性の構造が、水に対して透過性であるがイオンに対してほとんど不透過性であることを特徴とする請求項26に記載の流体送出装置。
【請求項28】
前記電解液が、電解液の溶媒として水を含むことを特徴とする請求項14に記載の流体送出装置。
【請求項29】
前記電解液が、体液をある程度模擬したものであることを特徴とする請求項14に記載の流体送出装置。
【請求項30】
電気浸透流体送出装置からの不所望な流体送出を防止する方法において、この方法が、
共通の活性材料から第1電極及び第2電極を構成するステップと;
前記電気浸透流体送出装置を所定期間だけ動作させるステップとを具えて、
前記電極を構成するステップが、セル動作の停止中及び停止後に共に、不所望な浸透性の輸送を防止すべく作用することを特徴とする流体送出の防止方法。
【請求項31】
前記活性材料が、銀/塩化銀から成ることを特徴とする請求項30に記載の方法。
【請求項32】
電気浸透流体送出装置からの不所望な流体送出を防止する方法において、
前記電気浸透流体送出装置の1つの電極においてイオンを生成するステップと;
前記イオンを、前記電気浸透流体送出装置内の第1半セルから膜を通して第2半セル内に移動させるステップと;
前記イオンを、前記第2半セル内の他の物質と反応させて中和するステップと
を具えていることを特徴とする流体送出の防止方法。
【請求項33】
前記イオンを反応させるステップが、ほとんど不溶性の生成物を生成することを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記イオンを反応させるステップが、生成物の少なくとも一部として水を生成することを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項35】
医薬または他の有益な薬剤を、人間を含む動物に対して送出する方法において、
請求項14に記載の電気浸透流体送出装置を構成するステップと、
前記電気浸透流体送出装置に、医薬/有益な薬剤の調合物を充填するステップと;
前記電気浸透流体装置を埋め込んで作動させて、医薬/有益な薬剤の調合物の被制御流量での送出を行うステップと
を具えていることを特徴とする薬剤送出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−513759(P2006−513759A)
【公表日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−568056(P2004−568056)
【出願日】平成15年12月31日(2003.12.31)
【国際出願番号】PCT/US2003/041665
【国際公開番号】WO2004/070085
【国際公開日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(505284862)マイクロリン エルエルシー (3)
【Fターム(参考)】