説明

反射性正極およびそれを用いた窒化ガリウム系化合物半導体発光素子

【課題】 p型窒化ガリウム系化合物半導体層との接触抵抗が小さく、且つ、高反射性であり、さらに逆方向電圧が高く信頼性に優れた正極を有する窒化ガリウム系化合物半導体発光素子を提供すること。
【解決手段】 正極がp型半導体層と接するコンタクトメタル層および該コンタクトメタル層上の反射層を有し、該コンタクトメタル層が白金族金属または白金族金属を含む合金からなり、該反射層がAg、Alおよびこれらの少なくとも一種を含む合金からなる群から選ばれ金属からなることを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体発光素子用反射性正極、特に優れた特性および安定性を有する反射性正極ならびにそれを用いたフリップチップ型窒化ガリウム系化合物半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、AlxInyGa1-x-yN(0≦x<1,0≦y<1,x+y<1)で表わされる窒化ガリウム系化合物半導体が紫外光領域から青色あるいは緑色発光ダイオード(LED)の材料として注目されている。このような材料の化合物半導体を使うことによって、これまで困難であった発光強度の高い紫外光、青色、緑色等の発光が可能となった。このような窒化ガリウム系化合物半導体は、一般に絶縁性基板であるサファイア基板上に成長されるため、GaAs系の発光素子のように基板の裏面に電極を設けることができない。このため結晶成長した半導体層側に負極と正極の両方を形成することが必要である。
【0003】
特に、窒化ガリウム系化合物半導体を用いた半導体素子の場合は、サファイア基板が発光波長に対して透光性を有するため、電極面を下側にしてマウントし、サファイア基板側から光を取り出す構造のフリップチップ型が注目されている。
【0004】
図1はこのような型の発光素子の一般的なの構造例を示す概略図である。すなわち、発光素子は、基板1にバッファ層2、n型半導体層3、発光層4およびp型半導体層5が結晶成長されて、発光層4およびp型半導体層5の一部がエッチング除去されてn型半導体層3が露出されており、p型半導体層5上に正極10、n型半導体層上に負極20が形成されている。このような発光素子は、例えばリードフレームに電極形成面を向けて装着され、次いでボンディングされる。そして、発光層4で発生した光は基板1側から取り出される。この型の発光素子においては、光を効率よく取り出すために、正極10には反射性の金属を用いてp型半導体層5の大部分を覆うように設け、発光層から正極側に向かった光も正極10で反射させて基板1側から取り出している。
【0005】
従って、正極材料としては低接触抵抗および高反射率が求められる。反射率の高い金属としてはAgおよびAlが一般に知られており、厚さ20nm以上のAg層をp型半導体層上に直接設けた反射率の高い反射性正極が提案されている(特許文献1参照)。Agを使用する手段として特許文献1では、p型窒化物半導体層上に銀層を設け、銀層上に安定化層を追加してなることが示されている。安定化層の役割は銀層の機械的、電気的特性を向上するためと記載されている。
【0006】
しかし、AgおよびAlがp型半導体層へ過度に拡散すると、低電流リークが生じ、逆方向電圧が低下する。このことによって、長期エージング試験において特性値が変化するという信頼性の低下を招く。この原因は、AgおよびAlのp型半導体層への拡散により、p型半導体層の結晶性が悪化するためと思われる。
【0007】
また、接触抵抗の不均一を解消するために、p型半導体層上に薄膜金属を設けたフリップチップ型の発光素子が提案されている(特許文献2参照)。
【0008】
【特許文献1】特開平11−186599号公報
【特許文献2】特開平11−220168号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、AgおよびAlにおける上述の問題点を解決した、即ち逆方向電圧の高い信頼性に優れた、p型窒化ガリウム系化合物半導体層との接触抵抗が小さく、且つ、高反射性の正極を有する窒化ガリウム系化合物半導体発光素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は下記の発明を提供する。
(1)p型半導体層に接するコンタクトメタル層および該コンタクトメタル層上の反射層を有し、該コンタクトメタル層が白金族金属または白金族金属を含む合金からなり、該反射層がAg、Alおよびこれらの少なくとも一種を含む合金からなる群から選ばれた少くとも一種の金属からなることを特徴とする半導体発光素子用反射性正極。
【0011】
(2)コンタクトメタル層がPtまたはその合金である上記1項に記載の半導体発光素子用反射性正極。
【0012】
(3)コンタクトメタル層の厚さが0.1〜30nmである上記1または2項に記載の半導体発光素子用反射性正極。
【0013】
(4)コンタクトメタル層の厚さが1〜30nmである上記3項に記載の半導体発光素子用反射性正極。
【0014】
(5)コンタクトメタル層の厚さが0.1〜4.9nmである上記3項に記載の半導体発光素子用反射性正極。
【0015】
(6)コンタクトメタル層のp型半導体層側表面にIII族金属を含む半導体金属混在層が存在する上記1〜5項のいずれか一項に記載の半導体発光素子用反射性正極。
【0016】
(7)コンタクトメタル層がRF放電スパッタリング法で形成されたものである上記1〜6項のいずれか一項に記載の半導体発光素子用反射性正極。
【0017】
(8)反射層がAgまたはその合金である上記1〜7項のいずれか一項に記載の半導体発光素子用反射性正極。
【0018】
(9)反射層の厚さが30〜500nmである上記1〜8項のいずれか一項に記載の半導体発光素子用反射性正極。
【0019】
(10)反射層がDC放電スパッタリング法で形成されたものである上記1〜9項のいずれか一項に記載の半導体発光素子用反射性正極。
【0020】
(11)コンタクトメタル層および反射層を覆うオーバーコート層をさらに有する上記1〜10項のいずれか一項に記載の半導体発光素子用反射性正極。
【0021】
(12)オーバーコート層の厚さが少なくとも10nmである上記11項に記載の半導体発光素子用反射性正極。
【0022】
(13)オーバーコート層の反射層の上面に接する部分の少なくとも一部が金属である上記11または12項に記載の半導体発光素子用反射性正極。
【0023】
(14)オーバーコート層がTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Auおよびこれらのいずれかを含む合金からなる群から選ばれた少くとも一種の金属である上記13項に記載の半導体発光素子用反射性正極。
【0024】
(15)オーバーコート層がRu、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Auおよびこれらのいずれかを含む合金からなる群から選ばれた少くとも一種の金属である上記14項に記載の半導体発光素子用反射性正極。
【0025】
(16)オーバーコート層がp型半導体層とオーミック接触する上記11〜15項のいずれか一項に記載の半導体発光素子用反射性正極。
【0026】
(17)オーバーコート層がp型半導体層と1×10-3Ωcm2以下の接触比抵抗で接触する上記16項に記載の半導体発光素子用反射性正極。
【0027】
(18)コンタクトメタル層形成後、350℃より高い温度で熱処理されていない上記1〜17項のいずれか一項に記載の半導体発光素子用反射性正極。
【0028】
(19)基板上に窒化ガリウム系化合物半導体からなるn型半導体層、発光層およびp型半導体層をこの順序で含み、負極および正極がそれぞれn型半導体層およびp型半導体層に設けられている発光素子において、該正極が上記1〜18項のいずれか一項に記載の正極である窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。
【0029】
(20)p型半導体層の正極側表面に正極金属混在層が存在する上記19項に記載の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。
【0030】
(21)上記19または20項に記載の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子を用いてなるランプ。
【発明の効果】
【0031】
本発明の半導体発光素子用反射性正極は、p型半導体層とAgまたはAlからなる正極反射層との間に白金族金属からなる正極コンタクトメタル層を介在しているので、反射層金属であるAgまたはAlのp型半導体層への拡散を抑制することができ、発光素子の電気特性がよく、信頼性を有する。
【0032】
また、正極コンタクトメタル層の半導体側表面に半導体を構成するIII族金属を含有する半導体金属混在層を設けることにより、接触抵抗は一層低下する。
さらに、本発明の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子は、p型半導体層の正極側表面にコンタクトメタル層を構成する金属を含有する正極金属混在層を設けることにより、正極とp型半導体層との接触抵抗が小さい。
【0033】
また、正極のコンタクトメタル層をRF放電によるスパッタリングで形成することにより、アニーリング処理なしに正極金属混在層および半導体金属混在層を形成することができ、生産性が向上する。
【0034】
また、反射層の側面および上面を覆うようにオーバーコート層を設けることにより、発光素子の安定性は一層向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明における基板上に積層される窒化ガリウム系化合物半導体としては、図1に示したような、基板1にバッファ層2、n型半導体層3、発光層4およびp型半導体層5が結晶成長されているものが何ら制限無く用いることができる。基板にはサファイアおよびSiC等が何ら制限なく用いられる。窒化ガリウム系化合物半導体として一般式AlxInyGa1-x-yN(0≦x<1,0≦y<1,x+y<1)で表わされる半導体が多数知られており、本発明においても一般式AlxInyGa1-x-yN(0≦x<1,0≦y<1,x+y<1)で表わされる窒化ガリウム系化合物半導体が何ら制限なく用いられる。
【0036】
その一例を説明すると、図2に示したような、サファイア基板1上にAlN層からなるバッファ層2を積層し、その上にn型GaN層からなるnコンタクト層3a、n型GaN層からなるnクラッド層3b、InGaN層からなる発光層4、p型AlGaN層からなるpクラッド層5b、およびp型GaN層からなるpコンタクト層5aを順次積層したものを用いることができる。
【0037】
このような窒化ガリウム系化合物半導体のpコンタクト層5a、pクラッド層5b、発光層4、およびnクラッド層3bの一部をエッチングにより除去してnコンタクト層3a上に例えばTi/Auからなる負極20を設け、pコンタクト層5a上に正極10を設ける。
【0038】
本発明において、正極10はp型半導体層と接するコンタクトメタル層を有する。コンタクトメタル層上には反射層を設ける。コンタクトメタル層は反射層に対する拡散抑制層の役割も果たす。よって、コンタクトメタル層は低接触抵抗と共に高光透過率も要求される。また、通常、回路基板またはリードフレーム等との電気接続のためにボンディングパッド層が最上層に設けられる。
【0039】
コンタクトメタル層の材料にはp型半導体層との低接触抵抗を達成するために、仕事関数の高い金属、具体的にはPt、Ir、Rh、Pd、RuおよびOsなど白金族金属または白金族金属を含む合金を用いることが好ましい。さらに好ましくはPt、Ir、RhおよびRuである。Ptが特に好ましい。
【0040】
コンタクトメタル層は反射層を構成するAgおよびAlの拡散防止層としての役割も併せ持つため、緻密な構造をとる融点の高い金属が望ましい。具体的には、AgおよびAlより融点の高い金属または合金であることが好ましい。この観点からも白金族金属はコンタクトメタル層の材料として好ましい。
【0041】
コンタクトメタル層の厚さは、低接触抵抗を安定して得るためには0.1nm以上とすることが好ましい。さらに好ましくは1nm以上であり、特に好ましくは2nm以上であり、3nm以上が極めて好ましい。接触抵抗が均一であるために1nm以上が望ましい。また、光透過率を十分に得るために、30nm以下とすることが好ましい。さらに好ましくは20nm以下であり、特に好ましくは10nm以下であり、4.9nm以下が極めて好ましい。コンタクトメタル層はAgおよびAlの拡散防止層としての役割も併せ持つため、この観点からは0.5nm以上が好ましい。さらに好ましくは1nm以上である。また、コンタクトメタル層として連続した層を成している状態が好ましい。
【0042】
さらに、正極コンタクトメタル層の半導体側表面に半導体を構成する金属を含有する半導体金属混在層を存在させると、接触抵抗が一層低下するので好ましい。即ち、本発明において、「半導体金属混在層」とはコンタクトメタル層中の半導体構成金属含有層として定義される。
【0043】
半導体金属混在層の厚さは0.1〜3nmが好ましい。0.1nm未満では接触抵抗低下の効果が顕著ではない。3nmを超えると光透過率が減少するので好ましくない。さらに好ましくは1〜3nmである。
【0044】
また、該層中に含まれる半導体構成金属の比率は全金属量に対して0.1〜50原子%が好ましい。0.1%未満では接触抵抗低下の効果が顕著ではない。50原子%を超えると光透過率を減少させる懸念がある。さらに好ましくは1〜20原子%である。
【0045】
半導体金属混在層の厚さおよび含有する半導体構成金属の比率は、当業者には周知の断面TEMのEDS分析によって測定できる。即ち、コンタクトメタル層の下面(p型半導体層面)から厚み方向に数点、例えば5点断面TEMのEDS分析を行ない、各点でのチャートから含まれる金属とその量が求められる。厚さを決定するのに測定した5点では不十分な場合は、追加してさらに数点測定すればよい。
【0046】
また、p型半導体層の正極側表面に上記コンタクトメタル層を形成する金属を含む正極金属混在層を存在させると好ましい。このような構成にすることによって、正極とp型半導体層との接触抵抗がさらに低下する。
【0047】
要するに、本発明において、「正極金属混在層」とはp型半導体層中のコンタクトメタル層形成金属含有層と定義される。
【0048】
正極金属混在層の厚さは0.1〜10nmが好ましい。0.1nm未満および10nmを超えると低接触抵抗が得られ難い。より良い接触抵抗を得るためには1〜8nmとすることがさらに好ましい。
【0049】
該層中に含まれるコンタクトメタル層形成金属の比率は、全金属に対して0.01〜30原子%が好ましい。0.01原子%未満では低接触抵抗が得られ難く、30原子%を超えると半導体の結晶性を悪化させる懸念がある。好ましくは1〜20原子%である。なお、該層は反射層形成金属を含んでしまう場合がある。その場合、反射層金属であるAgおよびAlの比率は全金属に対して5原子%以下とするのが望ましい。5原子%を超えると低電流リーク成分が増加し、逆方向電圧値が低下することがある。
【0050】
正極金属混在層の厚さおよび正極金属含有量の測定は、半導体金属混在層と同様、断面TEMのEDS分析によって行なうことができる。
【0051】
反射層は反射率が高い金属、具体的にはAgまたはAlないしはこれらの少なくとも一種を含む合金を用いて形成できる。厚さは30nm以上が好ましい。30nm未満では高反射率を電極の全面でムラなく得ることが困難である。50nm以上がさらに好ましい。また、生産コストの面から500nm以下とすることが好ましい。
【0052】
コンタクトメタル層および反射層はスパッタリングや真空蒸着などの当業界周知の如何なる方法で形成してもよい。なかでもスパッタリング法は接触抵抗の低いコンタクトメタル層および反射性に優れた反射層が得られるので好ましい。
【0053】
コンタクトメタル層をp型半導体層上に形成するにあたり、RF放電によるスパッタリング成膜法で形成することが好ましい。RF放電によるスパッタリング成膜法を用いることで、蒸着法やDC放電のスパッタリング成膜法を用いるより接触抵抗の低い電極を形成できる。即ち、RF放電によるスパッタリング成膜法でコンタクトメタル層を形成することにより、上述の半導体金属混在層および正極金属混在層を同時に形成することができる。
【0054】
RF放電によるスパッタリング成膜では、イオンアシスト効果により、p型半導体層に付着したスパッタ原子にエネルギを与え、p型半導体、例えばMgドープのp−GaNとの間で表面拡散を促す作用があると考えられる。さらに、上記成膜においては、p型半導体層の最表面原子にもエネルギを与え、半導体材料、例えばGaがコンタクトメタル層に拡散することを促す作用もあると考えられる。断面TEMのEDS分析において、p−GaN上のRFスパッタリング成膜部であるコンタクトメタル層に半導体由来のGaとコンタクトメタル層材料であるPtの両方が検出される領域、即ち、半導体金属混在層が確認された。なお、この分析において、この領域にNの存在を確認することはできなかった。
一方、半導体側ではGa、N、Ptがすべて検出される領域、即ち、正極金属混在層が確認された。
【0055】
RF放電による成膜では、初期において、接触抵抗を下げる効果を持つが、膜厚を大きくすると、その膜が疎であるために反射率の点ではDC放電による成膜に比べて劣る。そこで、接触抵抗を低く保った範囲で薄膜化して光透過率を上げたコンタクトメタル層をRF放電により形成し、その上に反射層をDC放電により形成することが好ましい。
【0056】
上記の如く、コンタクトメタル層をRFスパッタリング法により形成することによって、本発明における半導体金属混在層および正極金属混在層を形成することができる。この場合、コンタクトメタル層形成後のアニールを必要としない。むしろ、アニールすることにより、Pt、Gaそれぞれの拡散を促進し、半導体の結晶性を下げてしまうため、電気特性を悪化させてしまうことがある。コンタクトメタル層形成後、350℃よりも高い温度で熱処理されていないことが好ましい。
【0057】
半導体金属混在層および正極金属混在層中での正極材料由来の金属と半導体材料由来のGa等の金属およびNは、化合物もしくは合金として存在しているとも考えられるし、また、単純に混在しているとも考えられる。いずれにしても、コンタクトメタル層とp型半導体層との界面をなくすことで、低抵抗を得ることができる。
【0058】
スパッタリングは、従来公知のスパッタリング装置を用いて従来公知の条件を適宜選択して実施することができる。窒化ガリウム系化合物半導体層を積層した基板をチャンバ内に収容し、基板温度を室温から500℃の範囲に設定する。基板加熱は特に必要としないが、コンタクトメタル層形成金属および半導体形成金属の拡散を促進するために適度に加熱しても良い。チャンバ内は真空度が10-4〜10-7Paとなるまで排気する。スパッタリング用ガスとしては、He、Ne、Ar、Kr、Xe等が使用できる。入手の容易さからArとするのが望ましい。これらの内の一つのガスをチャンバ内に導入し、0.1〜10Paにしたのち放電を行う。好ましくは0.2〜5Paの範囲に設定する。供給する電力は0.2〜2.0kWの範囲が好ましい。この際、放電時間と供給電力を調節することによって、形成する層の厚さを調節することができる。スパッタリングに使用する所要ターゲットの酸素含有量は10000ppm以下とすることが、形成された層中の酸素含有量が少なくなるので好ましい。6000ppm以下とすることがさらに好ましい。
【0059】
ボンディングパッド層は、Au、Al、NiおよびCu等の材料を用いた各種構造が周知であり、これら周知の材料および構造のものを何ら制限無く用いることができる。また、厚さは100〜1000nmが好ましい。ボンディングパッドの特性上厚いほうがボンダビリティーが高くなるため、300nm以上が好ましい。さらに、製造コストの観点から500nm以下が好ましい。
【0060】
ところで、AgおよびAl等には、水の存在下でイオン化して拡散するエレクトロマイグレーションと呼ばれる現象が起こることが一般に知られている。AgおよびAlを用いた電極では周囲に水が存在する雰囲気において、通電することにより、AgもしくはAlを主成分とする析出物が生成される。析出物が正極より発生して負極に到達すると、素子に流した電流は発光層を通らなくなり、素子は発光しなくなってしまう。また、p型半導体層とn型半導体層とを析出物がつないでしまうと発光しなくなってしまう。
【0061】
これを防ぐために、反射層の側面および上面を覆うようにオーバーコート層を設けることが好ましい。オーバーコート層は反射層のAgまたはAlと空気中の水分との接触を防止する役割を持つ。
【0062】
オーバーコート層の材料は、金属、無機酸化物、無機窒化物および樹脂などコンタクトメタル層および反射層の側面および上面を覆うように薄層を形成できる材料であれば特に制限されない。しかし、少なくとも反射層の上面でボンディングパッド層が形成される部分は導電性の金属である必要がある。
【0063】
従って、オーバーコート層の材料はTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、PtおよびAuの群から選ばれる少なくとも一種の金属またはこれらの少なくとも一種を含む合金が望ましい。腐食しやすい金属(アルカリ金属・アルカリ土類金属)、低融点金属(400℃以下)は望ましくない。オーバーコート層に、ボンディングパッド層の材料に適したAuを用いて、オーバーコート層がボンディングパッド層を兼ねることもできる。
【0064】
オーバーコート層はその側面部分でp型半導体層とオーミック接触をしていることが望ましい。オーミック接触していることで、オーバーコート層側面直下に相当する範囲でも発光層が発光する。また、素子全体として順方向電圧を低下させることができる。オーミック接触が得られやすい金属として、Ru、Rh、Pd、Os、IrおよびPtなどの白金族金属または少なくとも一種の白金族金属を含む合金が好ましい。接触比抵抗値は1×10-3Ωcm2以下が望ましい。なお、接触比抵抗はTLM法で測定した値である。
【0065】
オーバーコート層の厚さは、反射層を外気の水分から隔離する必要があり、10nm以上であることが好ましい。上限は特にないが、コスト上200nm以下が好ましい。上述の如く、ボンディングパッド層を兼ねる場合は、ボンディングパッド層として必要な厚さを有することは言うまでもない。また、その側面部分の厚さを1〜50μm、好ましくは5〜40μmと厚くしておくと、上述した如く、発光層の発光面積が広がり、順方向電圧も低下するので好ましい。
さらにオーバーコート層には細い管状の穴などの水が内部に染込みやすい構造であってはならない。
【0066】
オーバーコート層の形成はスパッタリング、真空蒸着および溶液塗布法など周知の薄膜形成技術を何ら制限なく使用することができる。特に上述の金属の場合、スパッタリングや真空蒸着によって形成することが好ましい。
【実施例】
【0067】
以下に、実施例および比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0068】
表1に本実施例および比較例で用いたコンタクトメタル層、反射層、オーバーコート層およびボンディングパッド層の材料ならびに得られた素子特性を示した。なお、各特性は電流20mAで測定した値である。
【0069】
(実施例1)
図2は本実施例で製造した窒化ガリウム系化合物半導体発光素子の概略図である。
用いた窒化ガリウム系化合物半導体は、サファイア基板1上にAlN層からなるバッファ層2を積層し、その上にn型GaN層からなるnコンタクト層3a、n型GaN層からなるnクラッド層3b、InGaN層からなる発光層4、p型AlGaN層からなるpクラッド層5b、およびp型GaN層からなるpコンタクト層5aを順次積層したものである。nコンタクト層3aはSiを7×1018/cm3ドープしたn型GaN層であり、nクラッド層3bはSiを5×1018/cm3ドープしたn型GaN層であり、発光層4の構造は単一量子井戸構造で、InGaNの組成はIn0.95Ga0.05Nである。pクラッド層5bはMgを1×1018/cm3ドープしたp型のAlGaNでその組成はAl0.25Ga0.75Nである。pコンタクト層5aはMgを5×1019/cm3ドープしたp型のGaN層である。これらの層の積層は、MOCVD法により、当該技術分野においてよく知られた通常の条件で行なった。
【0070】
この窒化ガリウム系化合物半導体積層物に以下の手順で正極10および負極20を設けてフリップチップ型窒化ガリウム系化合物半導体発光素子を作製した。
(1)まず、上記の窒化ガリウム系化合物半導体積層物の負極形成領域のnコンタクト層3aを露出させた。手順は以下のとおりである。公知のリソグラフィー技術およびリフトオフ技術を用いて、エッチングマスクをpコンタクト層5a上の負極形成領域以外の領域に形成した。
【0071】
次いで、反応性イオンドライエッチングにて、nコンタクト層3aが露出するまでエッチングを施した後、ドライエッチング装置より取り出し、エッチングマスクをアセトン洗浄により除去した。
【0072】
(2)次に、以下の手順により正極10を形成した。pコンタクト層5a表面の酸化膜を除去する目的で沸騰した濃HCl中で素子を10分間処理下後、正極をpコンタクト層5a上に形成した。始めにコンタクトメタル層と反射層を成膜した。形成手順は以下の通りである。
【0073】
レジストを一様に塗布して、公知のリソグラフィー技術により正極形成領域のレジストを除去した。バッファードフッ酸(BHF)に室温で1分間浸漬した後、真空スパッタ装置で、コンタクトメタル層と反射層を成膜した。スパッタ法により形成する際の操作条件は、次の通りである。
【0074】
チャンバ内の真空度が10-4Pa以下となるまで排気し、上記窒化ガリウム系化合物半導体をチャンバ内に収容し、スパッタ用ガスとしてArガスをチャンバ内に導入し、3PaとしたのちRF放電によるスパッタリングを行ない、コンタクトメタル層を成膜した。供給する電力は0.5kWとし、コンタクトメタル層として、Ptを4.0nmの膜厚で成膜した。
【0075】
次に、上記の圧力、供給電力で、DC放電によるスパッタリングでAg反射層を200nmの膜厚で成膜した。スパッタ装置内より取り出した後、リフトオフ技術を用いて正極領域以外の金属膜をレジストとともに除去した。
【0076】
次いで、オーバーコート層30を成膜した。レジストを一様に塗布した後、公知リソグラフィー技術を用いて、正極領域より一回り大きいオーバーコート層領域を窓として開けた。窓の大きさは、オーバーコート層の側面部分31の厚さが10μmになるようにした。DC放電によるスパッタリングを用いて、Auを400nmの厚さで成膜した。スパッタ装置内より取り出した後、リフトオフ技術を用いてオーバーコート層領域以外の金属膜をレジストとともに除去した。このオーバーコート層30はボンディングパッド層を兼ねる。
【0077】
(3)負極20をnコンタクト層3a上に形成した。形成手順は以下の通りである。レジストを全面に一様に塗布した後、nコンタクト層3aまで露出した領域上に公知リソグラフィー技術を用いて負極領域の窓を開け、蒸着法によりTi、Auをそれぞれ100nm、300nmの厚さで形成した。負極部以外の金属膜をレジストとともに除去した。
【0078】
(4)保護膜を形成した。形成手順は以下の通りである。レジストを全面に一様に塗布した後、正極と負極の間の一部に公知リソグラフィー技術を用いて窓を開け、RF放電によるスパッタ法によりSiO2を200nmの厚さで形成した。保護膜部以外のSiO2膜をレジストとともに除去した。
(5)ウェーハを分割し、本発明の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子とした。
【0079】
得られた窒化ガリウム系化合物半導体発光素子をTO‐18にマウントし、電流20mAにおける素子特性を測定した。その結果を表1に示した。なお、エージング試験は、室温および約50%の湿度において、TO‐18で30mA通電させて100時間行なった。
【0080】
なお、断面TEMのEDS分析の結果、半導体金属混在層の厚さは2.5nmであり、Gaの比率は全金属(Pt+Ag+Ga)に対して該層中で1〜20原子%と見積もられた。また、pコンタクト層中の正極金属混在層の厚さは6.0nmであり、存在する正極材料はコンタクトメタル層を構成するPtで、その比率は全金属(Pt+Ga)に対して該層中で1〜10原子%と見積もられた。
【0081】
(実施例2〜5)
反射層およびオーバーコート層の材料を変えて、実施例1と同様に窒化ガリウム系化合物半導体発光素子を作製し、その素子特性を評価した。その結果を表1に併せて示した。オーバーコート層としてAu以外のPtおよびWを用いた実施例3および4は、ボンディングパッド層として厚さ400nmのAuをオーバーコート層30上に設けた。また、Ptオーバーコート層の側面部31はpコンタクト層5aとオーミック接触し、TLM法で求めた接触比抵抗は5×10-4Ωcm2であった。なお、実施例5は、オーバーコート層側面部の厚さを1μmとした以外は実施例1と同一である。
【0082】
また、これらの発光素子の正極金属混在層は厚さが1〜8nm、正極金属の比率が0.5〜18原子%の範囲に入っていた。また、半導体金属混在層は厚さが0.5〜3nm、Gaの比率が1〜20原子%の範囲に入っていた。
【0083】
(比較例)
コンタクトメタル層を設けないこと以外は、実施例1と同様に素子を作成した。実施例1と同様に素子特性を評価した結果を表1に併せて示した。順方向電圧が上昇し、逆方向電圧が低下した。
【0084】
(実施例6〜8)
コンタクトメタル層の厚さのみを変えて、実施例1と同様に窒化ガリウム系化合物半導体発光素子を作製し、その素子特性を評価した。その結果を表1に併せて示した。
また、これらの発光素子の正極金属混在層は厚さが1〜8nm、正極金属の比率が0.5〜18原子%の範囲に入っていた。また、半導体金属混在層は厚さが0.5〜3nm、Gaの比率が1〜20原子%の範囲に入っていた。
【表1】

【0085】
(実施例9〜11)
Ag反射層形成後加熱処理を行なったことを除いて、実施例1と同様に窒化ガリウム系化合物半導体発光素子を作製し、その素子特性を評価した。加熱処理は、RTA炉により大気中で温度を変えて10分間行なった。表2に熱処理温度と順方向電圧を示す。400℃で熱処理を行なった発光素子の順方向電圧は若干高かった。
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明によって提供される窒化ガリウム系化合物半導体発光素子は、優れた特性と安定性を有し、発光ダイオードおよびランプ等の材料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】従来のフリップチップ型化合物半導体発光素子の一般的な構造を示す概略図である。
【図2】本発明のフリップチップ型窒化ガリウム系化合物半導体発光素子の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0088】
1 基板
2 バッファ層
3 n型半導体層
4 発光層
5 p型半導体層
10 正極
20 負極
30 オーバーコート層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
p型半導体層に接するコンタクトメタル層および該コンタクトメタル層上の反射層を有し、該コンタクトメタル層が白金族金属または白金族金属を含む合金からなり、該反射層がAg、Alおよびこれらの少なくとも一種を含む合金からなる群から選ばれた少くとも一種の金属からなることを特徴とする半導体発光素子用反射性正極。
【請求項2】
コンタクトメタル層がPtまたはその合金である請求項1に記載の半導体発光素子用反射性正極。
【請求項3】
コンタクトメタル層の厚さが0.1〜30nmである請求項1または2に記載の半導体発光素子用反射性正極。
【請求項4】
コンタクトメタル層の厚さが1〜30nmである請求項3に記載の半導体発光素子用反射性正極。
【請求項5】
コンタクトメタル層の厚さが0.1〜4.9nmである請求項3に記載の半導体発光素子用反射性正極。
【請求項6】
コンタクトメタル層のp型半導体層側表面にIII族金属を含む半導体金属混在層が存在する請求項1〜5のいずれか一項に記載の半導体発光素子用反射性正極。
【請求項7】
コンタクトメタル層がRF放電スパッタリング法で形成されたものである請求項1〜6のいずれか一項に記載の半導体発光素子用反射性正極。
【請求項8】
反射層がAgまたはその合金である請求項1〜7のいずれか一項に記載の半導体発光素子用反射性正極。
【請求項9】
反射層の厚さが30〜500nmである請求項1〜8のいずれか一項に記載の半導体発光素子用反射性正極。
【請求項10】
反射層がDC放電スパッタリング法で形成されたものである請求項1〜9のいずれか一項に記載の半導体発光素子用反射性正極。
【請求項11】
コンタクトメタル層および反射層を覆うオーバーコート層をさらに有する請求項1〜10のいずれか一項に記載の半導体発光素子用反射性正極。
【請求項12】
オーバーコート層の厚さが少なくとも10nmである請求項11に記載の半導体発光素子用反射性正極。
【請求項13】
オーバーコート層の反射層の上面に接する部分の少なくとも一部が金属である請求項11または12に記載の半導体発光素子用反射性正極。
【請求項14】
オーバーコート層がTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Auおよびこれらのいずれかを含む合金からなる群から選ばれた少くとも一種の金属である請求項13に記載の半導体発光素子用反射性正極。
【請求項15】
オーバーコート層がRu、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Auおよびこれらのいずれかを含む合金からなる群から選ばれた少くとも一種の金属である請求項14に記載の半導体発光素子用反射性正極。
【請求項16】
オーバーコート層がp型半導体層とオーミック接触する請求項11〜15のいずれか一項に記載の半導体発光素子用反射性正極。
【請求項17】
オーバーコート層がp型半導体層と1×10-3Ωcm2以下の接触比抵抗で接触する請求項16に記載の半導体発光素子用反射性正極。
【請求項18】
コンタクトメタル層形成後、350℃より高い温度で熱処理されていない請求項1〜17のいずれか一項に記載の半導体発光素子用反射性正極。
【請求項19】
基板上に窒化ガリウム系化合物半導体からなるn型半導体層、発光層およびp型半導体層をこの順序で含み、負極および正極がそれぞれn型半導体層およびp型半導体層に設けられている発光素子において、該正極が請求項1〜18のいずれか一項に記載の正極である窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。
【請求項20】
p型半導体層の正極側表面に正極金属混在層が存在する請求項19に記載の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。
【請求項21】
請求項19または20に記載の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子を用いてなるランプ。

【図1】
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【図2】
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