説明

反射防止用フィルム及びその製造方法

【課題】孔密度を一方の膜表面から他方の膜表面に向かって膜圧方向に徐々に変化させた複数の微小な孔を形成することにより、一方の膜表面から他方の膜表面に向かって膜厚方向に徐々に変化させることが可能な反射防止用フィルム及びその製造方法を提供する。
【解決手段】反射防止用フィルム10には、膜厚方向に、即ち、第2表面14から第1表面12への方向に、孔密度が密から疎に徐々に変化するように複数の孔20が形成されている。また、膜厚方向に垂直な平面においては、孔20は概ね均等に分散している。また、第2表面14は、孔20の開口部により、凹部21が形成されている。また、第1表面12は、平滑な面である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止用フィルム及びその製造方法に関する。特に、液晶表示装置(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、陰極管表示装置(CRT)等の画像表示装置において、外光の反射や像の映り込みを防止させることが可能な反射防止用フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
屈折率の低い光学材料は、反射防止膜、光導波路、レンズ、プリズム等に利用されている。特に、画像表示装置において、外光の反射や像の映り込みを軽減するための反射防止膜に利用されている。
【0003】
従来から、反射防止用膜として、AGフィルムやAR(LR)フィルムがいろいろと開発されている。AG(防眩)フィルムは、フィルム表面にアンチグレア(防眩)層をコーティングすることによって表面に凹凸を形成し、反射光を表面の凹凸に反射させて散乱させ、蛍光灯や外光などの映り込みを軽減させる。
【0004】
また、AR(反射防止)フィルムやLR(低反射)フィルムは、フィルム表面に屈折率の異なる低反射層をコーティングし、光干渉により反射光が互いに打ち消しあうことで反射光量を低減させる。一般には、屈折率の高い材料と低い材料とを交互に積層した多層膜である。特許文献1では、樹脂モノマーを重合させた、又は、樹脂のワニスからなる透明材料中に独立した泡状の閉じた微小な気泡を分散させてその透明材料自身の屈折率より低い屈折率にした反射防止用多孔質光学材料が提案されている。
【特許文献1】特許第3549108号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のAGフィルムは、低価格ではあるが、反射光を散乱させるとともに透過光も散乱させてしまうため、画像が白くぼやけてしまうという問題点があった。また、従来のARフィルムやLRフィルムは、表面が平滑で、高精細な画像を得ることができるが、非常に価格が高いという問題点があった。特に、ARフィルムには反射率低減のための高価な低屈折率材料を使用しなければならなかった。
【0006】
本発明は、以上のような問題点を解決するためになされたもので、孔密度を一方の膜表面から他方の膜表面に向かって膜厚方向に徐々に変化させた複数の微小な孔を形成した反射防止用フィルム及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した従来の問題点を解決すべく下記の発明を提供する。
本発明の第1の態様にかかる反射防止用フィルムは、疎水性を有する有機ポリマー及び両親媒性物質からなり、孔密度を一方の膜表面から他方の膜表面に向かって膜厚方向に徐々に変化させた複数の微小な孔を有し、前記孔密度を徐々に変化させることにより、膜厚方向に屈折率を連続的または段階的に変化させることを特徴とする。
【0008】
このような構成の反射防止用フィルムを使用する場合は、通常孔密度の高い方(屈折率の低い方)を画像表示装置の表示面の反対側に向けて配置する。この理由は、反射防止用フィルムの膜厚方向の屈折率の差を考慮して画像表示装置の表面には、反射防止用フィルムの高屈折率側を向けて、大気側には、大気に屈折率が近い反射防止用フィルムの屈折率の低い方を向けて配置する必要がある。このように配置することにより、反射防止用フィルムからの反射を少なくすることができる。
【0009】
例えば、反射防止用フィルムとして使用する場合は、孔密度の低い方を画像表示装置の表面に向け接触させて配置する。ここで、孔密度の差の定義は、|[一方の膜表面付近孔密度]−[他方の膜表面付近孔密度]|/[一方の膜表面付近孔密度と他方の膜表面付近孔密度いずれかの大きいほうの値]×100として、単位は%とする。ここで、一方の膜表面付近とは、一方の膜表面から膜厚方向に膜厚全体の20%分内部に入った範囲、他方の膜表面付近とは、他方の膜表面から膜厚全体の20%分内部に入った範囲のことである。
【0010】
ここで、孔密度は、走査型電子顕微鏡による膜断面観察結果より、単位面積あたりの孔の数から求めた。孔密度の測定対象範囲に孔の輪郭の一部分がかかっている場合は、孔断面の輪郭の半分以上かかっている場合も、孔断面の輪郭の半分以下の場合もいずれも、0.5個と計算することにした。孔の輪郭全体が含まれるものは1個として計算した。
【0011】
これにより、膜内部において、膜厚方向に屈折率を変化させて、光の反射を低減することができる。従って、光の反射は、屈折率が急激に変化する界面で発生するため、例えば、ガラス基板の反射防止には、ガラス基板の屈折率に近い屈折率から空気の屈折率に近い屈折率まで、膜厚方向に屈折率を徐々に変化させることにより、有効な反射防止効果を得ることができる。
【0012】
また、高価な低屈折率材料を使用することなく、安価な材料にて安価な反射防止用フィルムを製造することができる。
【0013】
本発明の第2の態様にかかる反射防止用フィルムは、本発明の第1の態様にかかる反射防止用フィルムにおいて、どちらか一方の膜表面に前記孔の開口部により形成される凹部を有していることを特徴とする。
【0014】
これにより、微細な凹凸を膜表面に形成して、反射光を散乱させることができる。
【0015】
本発明の第3の態様にかかる反射防止用フィルムは、本発明の第1または2の態様にかかる反射防止用フィルムにおいて、前記孔の平均孔径は、0.01〜1.0μmであることを特徴とする。
【0016】
本発明のその他の態様にかかる反射防止用フィルムは、本発明の第1から3のいずれか1つの態様にかかる反射防止用フィルムにおいて、膜厚方向に変化させる前記孔密度の差は30%以上であることを特徴とする。孔密度の差を好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上とすることにより、膜厚方向に十分な屈折率差が生じるため、望ましい反射防止効果を得ることができる。
【0017】
本発明の第1の態様にかかる反射防止用フィルムの製造方法は、(a)少なくとも疎水性を有する有機ポリマー、両親媒性物質、親水性溶液及び疎水性有機溶媒からなる溶液を混合攪拌して、逆ミセルが形成された疎水性有機溶媒溶液を生成する工程と、(b)前記工程(a)によって生成された疎水性有機溶媒溶液を基板上に塗布した後に乾燥させて、孔密度を一方の膜表面から他方の膜表面に向かって膜厚方向に徐々に変化させた複数の微小な孔を有した多孔質膜を形成する工程と、を備えていることを特徴とする。
【0018】
これにより、膜内部において、膜厚方向に屈折率を徐々に変化させて、光の反射を低減することができる。また、高価な低屈折率材料を使用することなく、安価な材料にて安価な反射防止用フィルムを製造することができる。
【0019】
本発明の第2の態様にかかる反射防止用フィルムの製造方法は、本発明の第1の態様にかかる反射防止用フィルムの製造方法において、前記工程(b)における前記基板は、親水性基板であることを特徴とする。
【0020】
これにより、最外層に疎水性基を有する逆ミセルは、親水性基板と反発して、親水性基板の近傍に逆ミセルが存在しにくくなる。その為、基板近傍の孔密度は小さくなり、基板に接触しない多孔質膜の表面近傍の孔密度が大きくなる。
【0021】
本発明の第3の態様にかかる反射防止用フィルムの製造方法は、(a)少なくとも疎水性を有する有機ポリマー、両親媒性物質、親水性溶液及び疎水性有機溶媒からなる溶液を混合攪拌して、逆ミセルが形成された疎水性有機溶媒溶液を生成する工程と、(c)前記工程(a)によって生成された疎水性有機溶媒溶液を基板上に塗布した後に乾燥させて、孔密度を一方の膜表面から他方の膜表面に向かって膜厚方向に徐々に変化させた複数の微小な孔を有した多孔質膜を形成するとともに、前記基板に接触した前記多孔質膜の表面に前記孔の開口部による凹部を形成する工程と、を備えていることを特徴とする。
【0022】
これにより、膜内部において、膜厚方向に屈折率を徐々に変化させることにより、光の反射を低減することができる。また、高価な低屈折率材料を使用することなく、安価な材料にて安価な反射防止用フィルムを製造することができる。また、微細な凹凸を膜表面に形成して、反射光を散乱させることができる。
【0023】
本発明の第4の態様にかかる反射防止用フィルムの製造方法は、本発明の第3の態様にかかる反射防止用フィルムの製造方法において、前記工程(c)における前記基板は、疎水性基板であることを特徴とする。
【0024】
これにより、最外層に疎水性基を有する逆ミセルは、疎水性基板上に吸着しやすくなるため、基板側に孔が配列した構造になる。その結果、膜を基板から剥離すると基板と接触していた膜表面に、孔の開口部による凹部が形成される。
【0025】
本発明の第5の態様にかかる反射防止用フィルムの製造方法は、本発明の第1から4のいずれか1つの態様にかかる反射防止用フィルムの製造方法において、前記工程(a)における前記親水性溶液の比重は、前記疎水性有機溶媒の比重より小さいことを特徴とする。
【0026】
これにより、ミセルの比重が周囲の有機溶媒溶液より小さくなる。その為、基板近傍の孔密度は小さくなり、基板に接触しない多孔質膜の表面近傍の孔密度が大きくなる。
【0027】
本発明の第6の態様にかかる反射防止用フィルムの製造方法は、本発明の第1から5のいずれか1つの態様にかかる反射防止用フィルムの製造方法において、前記工程(a)における前記両親媒性物質の重量(W2)に対する前記親水性溶液の重量(W1)の割合である重量比(Rw=W1/W2)は、0.5〜15であることを特徴とする。
【0028】
上述のRwを0.5以上とすることにより逆ミセルの形成を容易にし、Rwを15以下とすることにより逆ミセルが不可逆的に凝集するのを効果的に防止することができる。また、逆ミセルのミセル径を制御することができる。即ち、孔の孔径を制御することができる。従って、Rwを大きくすることにより孔径を大きくし、Rwを小さくすることにより孔径を小さくすることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、膜内部において、屈折率を一方の膜表面から他方の膜表面に向かって膜厚方向に徐々に変化させ、光の反射を低減することができる。また、高価な低屈折率材料を使用することなく、安価な材料にて安価な反射防止用フィルムを製造することができる。また、微細な凹凸を膜表面に形成して、反射光を散乱させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
この発明の一実施態様を、図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施態様は説明のためのものであり、本発明の範囲を制限するものではない。当業者であれば以下に説明する実施態様の各要素もしくは全要素を、これらの要素と同種のもので置換した実施態様を採用することが可能であるが、これらの実施態様も本発明の範囲に含まれる。
【0031】
図1は、本発明の一実施形態にかかる反射防止用フィルムの模式断面図の一例である。図1に示すように、反射防止対象基板50の表面に反射防止用フィルム10が張り合わされている。以下、反射防止対象基板50側に張り合わされる反射防止用フィルム10の表面を第1表面12とし、反射防止対象基板50側に張り合わされない反射防止用フィルム10の表面を第2表面14とする。
【0032】
反射防止用フィルム10には、膜厚方向に、即ち、第2表面14から第1表面12への方向に、孔密度が密から疎に一方の膜表面から他方の膜表面に向かって膜厚方向に徐々に変化するように複数の孔20が形成されている。また、膜厚方向に垂直な平面においては、孔20は概ね均等に分散している。また、第2表面14は、孔20の開口部により、凹部21が形成されている。また、第1表面12は、平滑な面である。
【0033】
次に、上述した反射防止用フィルム10の製造方法を説明する。
図2は、本発明の一実施形態にかかる反射防止用フィルムの製造方法の一例を説明するための図である。図2に示すように、まず、疎水性を有する有機ポリマー41、両親媒性物質42、疎水性有機溶媒43及び親水性溶液44を混合攪拌して、内部に親水性溶液44を有する逆ミセル45が形成された疎水性有機溶媒溶液40を生成する(図中(1))。
【0034】
具体的には、まず、有機ポリマー41、両親媒性物質42、疎水性有機溶媒43及び親水性溶液44を容器に投入する。ここでは、有機ポリマー41、両親媒性物質42、疎水性有機溶媒43及び親水性溶液44の配合順序は任意である。そして、マグネチックスターラー、回転翼、超音波などによって、その混合液を容器中で攪拌する。特に、超音波を利用して攪拌することによって、微細であって均一な逆ミセル45を形成できる。
【0035】
また、親水性液体44と両親媒性物質42の重量配合比Rw(親水性液体/両親媒性物質)は、逆ミセル45のミセル径の設計にもよるが、0.5〜15が好ましい。Rwを0.5以上とすることにより逆ミセルの形成を容易にし、15以下とすることにより逆ミセルが不可逆的に凝集するのを効果的に防止することができる。更に、上述の割合の範囲内で疎水性有機溶媒溶液中に形成される逆ミセルの大きさを制御することができる。即ち、Rwを大きくすると逆ミセルの径は大きくなり、一方、Rwを小さくすることにより逆ミセルの径を小さくすることができる。
【0036】
また、親水性液体44の体積と、有機ポリマー41、両親媒性物質42及び親水性溶液44の合計体積との体積比Rs(親水性液体/(親水性液体+有機ポリマー+両親媒性物質))は、0.05〜0.4が好ましい。これにより、逆ミセルの密度を制御することができる。即ち、Rsを大きくすると逆ミセルの密度は大きくなり、一方、Rsを小さくすることにより逆ミセルの密度を小さくすることができる。
【0037】
次に、基板60上に疎水性有機溶媒溶液40を塗布した後乾燥させて、一方の膜表面から他方の膜表面に向かって膜厚方向に徐々に変化させた複数の微小な孔20を有した多孔質膜10を形成する(図中(2))。このとき、基板60に接触した多孔質膜10の表面、即ち、第2表面14に孔20の開口部による凹部21を形成する。
【0038】
ここでは、ブレードコーターなどの塗布機を用いて、塗布液である疎水性有機溶媒溶液40を剥離フィルムである基板60上に塗布する。また、基板60上に塗布されている疎水性有機溶媒溶液40へ送風することによって、疎水性有機溶媒43及び親水性溶液44を蒸発させて、孔20を形成する。
【0039】
また、疎水性有機溶媒溶液40から疎水性有機溶媒43と親水性溶液44とを蒸発させて多孔質膜10を形成する際に、先ず疎水性有機溶媒43を選択的に蒸発させる方が孔20を確実に形成することができる。そのため、疎水性有機溶媒43と親水性溶液44との蒸発温度における疎水性有機溶媒43の蒸気圧が親水性溶液44の蒸気圧よりも高い方が望ましい。
【0040】
また、疎水性有機溶媒43の比重は、形成される多孔質膜20中の孔20の垂直方向の形成位置を制御するのに利用することが可能である。
【0041】
一般に多孔質膜20中の孔20を均一に分布させたい場合には、非極性溶媒を使用することが望ましい。一方、親水性溶液44として例えば水を使用する場合には、クロロホルムのような比重が水よりも大きいものを選択すると、逆ミセル45を上方に多く分布させることが可能となり、他方、脂肪族炭化水素又は芳香族炭化水素のような比重が水よりも小さいものを使用すると、逆ミセル45を下方に多く分布させることが可能になる。
【0042】
逆ミセル45を上方に多く分布させる場合には、有機ポリマー41の比重はポリエチレンとポリプロピレン等の一部のポリオレフィンを除いて殆どのものが水の比重よりも大きいことから、有機ポリマー41の比重を利用して水の比重より小さい有機溶媒を使用することも可能である。
【0043】
疎水性有機溶媒43の比重が水よりも大きいものの具体例としては、ジクロルメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1、2−ジクロルエタン、1、1、2、2−テトラクロルエタン、1、2ジクロルエチレン、トリクロルエチレン等の塩素系溶媒;二硫化炭素が挙げられ、また、疎水性有機溶媒の比重が水よりも軽いものの具体例としては、ノルマルペンタンノルマルヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。
【0044】
これらの疎水性有機溶媒43は単独で用いても、またはこれらの溶媒を組み合わせて均一の溶液を形成する場合等は混合溶媒を使用することが可能である。
【0045】
また、基板60として、親水性基板を利用することにより、形成される多孔質膜20中の孔20の垂直方向の形成位置を制御することが可能である。最外層に疎水性基を有する逆ミセル45は、親水性基板と反発して、親水性基板の近傍に逆ミセル45が存在しにくくなる。そのため、逆ミセル45を上方に多く分布させることが可能となる。
【0046】
また、基板60として、疎水性基板を利用することにより、基板60に接触した多孔質膜10の第2表面14に孔20の開口部による凹部21を形成することが可能である。最外層に疎水性基を有する逆ミセル45は、疎水性基板上に吸着しやすくなるため、基板側に孔20が配列した構造になる。その結果、膜を基板から剥離すると基板と接触していた第2表面14に、孔20の開口部による凹部21が形成される。
【0047】
最後に、基板60から剥離された多孔質膜10が反射防止用フィルム10となる(図中(3))。
【0048】
上述の有機ポリマー41としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−4−メチルペンテン−1、シクロポリオレフィン等のオレフィン系ポリマー;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン塩素樹脂系ポリマー;ポリアルキレンオキサイド;ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合樹脂等のアルコール系樹脂;ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)等のスチレン系樹脂;メタクリル酸エステル樹脂、アクリル酸エステル樹脂等のアクリル系樹脂;ポリアミド樹脂(ポリアミド6、ポリアミド46、ポリアミド66等)、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、熱可塑性ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)等のエンジニアリングプラスチックから選ばれた少なくとも1種以上が挙げられる。
【0049】
その他、用途等により、有機ポリマーとしてポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ酢酸ビニル、セルロース系プラスチック、熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性樹脂、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、非晶ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド等も使用可能である。
【0050】
これらの中でもコスト面からポリスチレン、前記アクリル系樹脂、透明性の観点からポリカーボネート、シクロポリオレフィン、フッ素樹脂、また、耐熱性の観点から、ポリアミド、ポリイミドが好ましい。
【0051】
また、両親媒性物質42としては、疎水性基と親水性基を有するものであれば特に種類は限定されず、高分子両親媒性物質及び高分子以外の両親媒性物質でもよい。イオン性両親媒性物質において親水性基を構成する陰イオンとしては−COO、−SO等があり、また陽イオンとしてはジメチルアンモニウムイオン、トリメチルアンモニウムイオン、ピリジニウムイオンなどがある。また、非イオン性両親媒性物質における親水基としては水酸基、エーテル結合などがある。本発明の多層構造体における両親媒性物質の存在は、エネルギー分散型蛍光X線分析装置をした観察により確認できる。
【0052】
両親媒性物質42の具体例としては、ビス(2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム)(下記化学式1で示す。以下AOTと記載することがある。)、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジイソブチルスルホコハク酸ナトリウム、ジシクロヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジヘキサデシルジメチルアンモニウムとポリスチレンスルホン酸のポリイオンコンプレックス(下記化学式2で示す。以下PICと記載することがある。)、エチレングリコールとプロピレングリコールから得られるブロックコポリマー、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドから得られるブロックコポリマーから選ばれた少なくとも1種以上が挙げられる。
【0053】
上記PICは、例えば、ジヘキサデシルジメチルアンモニウムブロミドの超音波分散液とポリスチレンスルホン酸ナトリウムの水溶液を反応させて生じる白色沈殿を乾燥後、再結晶させて精製物として得ることができる。ここで、化学式2におけるnは300〜500程度の整数である。
【0054】
【化1】

また、本発明で使用可能な疎水性有機溶媒43としては、表1に示す、20℃における誘電率が5以下であるノルマルペンタン、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、イソオクタン、ノルマルヘプタン、ノルマルデカン、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、オルソキシレン、メタキシレン、パラキシレン、混合キシレン、四塩化炭素、クロロホルム、及びトランス1、2、−ジクロロエチレン、並びに表2に示す、20℃における誘電率が5を越える、酢酸ブチル、ジクロロメタン、1、1、2、2−テトラクロロルエタン、シス1、2−ジクロロエタン、及びイソブチルメチルケトンまたはこれらの混合物が例示できるが、本発明で使用可能な疎水性有機溶媒はこれらに限定されるものではない。疎水性有機溶媒は、有機ポリマーの溶解能が高く、水の溶解度が低く、蒸気圧が高いことが好ましく、さらに実用性の観点から化学的に安定で、毒性が低いことが好ましい観点から、好ましい溶媒として、トルエン、クロロホルムが例示できる。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

また、逆ミセル45を形成する際に使用する親水性液体44として、水の使用がもっとも好ましいが、本発明において両親媒性物質、有機ポリマー、疎水性有機溶媒及び親水性液体からなる疎水性有機溶媒を撹拌して、疎水性有機溶媒溶液中で逆ミセルを形成するものであれば、水以外の親水性液体、又は水に水以外の親水性液体を配合して、親水性液体の比重、蒸気圧、溶解性等を調整することが可能である。水以外の親水性液体として、メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ギ酸等が例示できる。
【0057】
また、本発明において使用される疎水性基板としては、ガラス基板、金属基板、セラミックス等の無機基板、プラスチック基板、木材、紙、強化プラスチック基板、ホーロー基板、水ガラス基板等が挙げられる。
【0058】
プラスチック基板としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリメチルメタクリレート系樹脂、ポリフッ化エチレン等のフッ素樹脂、ポリエーテルケトン、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリカーボネート、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂等の熱硬化性もしくは熱可塑性プラスチック、及びこれらのプラスチックを無機又は有機繊維等で強化した繊維強化プラスチック等が挙げられる。
【0059】
金属基板としては、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、亜鉛、鉄、鋼(亜鉛メッキ鋼、ステンレス鋼等)が挙げられる。ガラス基板としては、石英ガラス、ナトリウムガラス、無アルカリガラス等が挙げられる。無機基板としては、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素等が挙げられる。また、基板表面がアクリル系、アルキド系、ポリエステル系、ウレタン系、フェノール系、メラミン系樹脂の硬化被膜によりコーティングされていてもよい。
【0060】
また、本発明において使用される親水性基板としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸およびそれらの塩、ポリエステルポリオール、ポリウレタンポリオール、ポリアクリル酸類およびそれらの塩、酢酸ビニル−マレイン酸コポリマー類、スチレン−マレイン酸コポリマー類、ポリエチレングリコール類、ヒドロキシプロピレンポリマー類、ポリビニルアルコール類、ヒドロキシエチルメタクリレートのホモポリマーおよびコポリマー、ヒドロキシエチルアクリレートのホモポリマーおよびコポリマー、ヒドロキシプロピルメタクリレートのホモポリマーおよびコポリマー、ヒドロキシプロピルアクリレートのホモポリマーおよびコポリマー、ヒドロキシブチルメタクリレートのホモポリマーおよびコポリマー、ヒドロキシブチルアクリレートのホモポリマーおよびコポリマー等が挙げられる。また、親水性基板として、親水性基を有するオルガノシロキサン系高分子化合物、石英基板やガラス基板等を用いることができる。
【0061】
上記した基板の中でもガラス、金属、セラミックス、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート系樹脂、ポリフッ化エチレン、ポリエーテルケトン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸から選ばれた少なくとも1種以上、あるいはこれらを複合した基板が、本発明において好適に使用できる。
【0062】
次に、本発明の好適ないくつかの実施例を説明する。
【実施例】
【0063】
(実施例1)
実施例1では、有機ポリマーとしてポリスチレン1.08gと、両親媒性物質AOT0.12gとを混合し、この混合物をトルエン6mlに溶解し、さらに水0.3mlを添加して5分間超音波分散し、逆ミセルが形成された塗布液を調製した。
【0064】
この塗布液を、ブレードコーターを用いてPVA(ポリビニルアルコール)基板に厚さ300μmになるように塗布し、乾燥空気(温度25℃,相対湿度17%)を、流速1L/min.で送風して有機溶媒を乾燥させて、PVA基板上に多孔質膜を作製した。
【0065】
透過型電子顕微鏡を用いて求めた多孔質膜の膜厚は19.9μm、平均孔径は0.29μmであり、膜表面付近の孔密度は23.2 / 100μm2、膜表面付近から基板付近までは、孔密度が徐々に減少する傾向を示し、基板付近の孔密度は9.6 / 100μmであった。また、この膜を、分光光度計を用いて、380〜780nmの波長領域において、入射角5°における分光反射率を測定したところ、450〜650nmの平均反射率は1.3%であった。
【0066】
(実施例2)
実施例2では、有機ポリマーとしてポリスチレン1.08gと、両親媒性物質AOT0.12gとを混合し、この混合物をトルエン6mlに溶解し、さらに水0.05mlおよびメタノール0.25mlを添加して5分間超音波分散し、逆ミセルが形成された塗布液を調製した。
【0067】
この塗布液を、ブレードコーターを用いてPET(ポリエチレンテレフタレート)基板に厚さ300μmになるように塗布し、乾燥空気(温度25℃,相対湿度17%)を流速1L/min.で送風して有機溶媒を乾燥させて、PET基板上に多孔質膜を作製した。
【0068】
透過型電子顕微鏡を用いて求めた多孔質膜の膜厚は22.4μm、平均孔径は0.37μmであり、膜表面付近の孔密度は50.8 / 100μm、基板付近の孔密度は31.2 / 100μmであった。また、この膜を、分光光度計を用いて、380〜780nmの波長領域において、入射角5°における分光反射率を測定したところ、450〜650nmの平均反射率は1.8%であった。
【0069】
(実施例3)
実施例3では、有機ポリマーとしてポリスチレン1.08gと、両親媒性物質AOT0.12gとを混合し、この混合物をクロロホルム6mlに溶解し、さらに水0.3mlを添加して5分間超音波分散し、逆ミセルが形成された塗布液を調製した。
【0070】
この塗布液を、ブレードコーターを用いてPET基板に厚さ300μmになるように塗布し、乾燥空気(温度25℃,相対湿度17%)を流速1L/min.で送風して有機溶媒を乾燥させて、PET基板上に多孔質膜を作製した。
【0071】
透過型電子顕微鏡を用いて求めた多孔質膜の膜厚は17.2μm、平均孔径は0.26μmであり、膜表面付近の孔密度は95.2/ 100μm、基板付近の孔密度は23.2 / 100μmであった。また、この膜を、分光光度計を用いて、380〜780nmの波長領域において、入射角5°における分光反射率を測定したところ、450〜650nmの平均反射率は1.2%であった。
【0072】
(実施例4)
実施例4では、有機ポリマーとしてポリスチレン1.08gと、両親媒性物質AOT0.12gとを混合し、この混合物をトルエン6mlに溶解し、さらに水0.3mlを添加して5分間超音波分散し、逆ミセルが形成された塗布液を調製した。
【0073】
この塗布液を、ブレードコーターを用いてPET基板に厚さ300μmになるように塗布し、乾燥空気(温度25℃,相対湿度17%)を流速1L/min.で送風して有機溶媒を乾燥させて、PET基板上に多孔質膜を作製した。
【0074】
透過型電子顕微鏡を用いて求めた多孔質膜の膜厚は21.0μm、平均孔径は0.37μmであり、膜表面付近の孔密度は11.2 / 100μm、基板付近の孔密度は25.2 / 100μmであった。また、この膜をエタノールに浸漬して基板から剥離したところ、膜裏面(基板に接触していた面)に平均孔径0.34μmの開口部が見られた。また、この膜を、分光光度計を用いて、380〜780nmの波長領域において、入射角5°における分光反射率を測定したところ、450〜650nmの平均反射率は0.5%であった。
【0075】
(比較例1)
比較例1では、有機ポリマーとしてポリスチレン1.08gと、両親媒性物質AOT0.12gとを混合し、この混合物をトルエン6mlに溶解し、5分間超音波分散し、塗布液を調製した。
【0076】
この塗布液を、ブレードコーターを用いてPET基板に厚さ300μmになるように塗布し、乾燥空気(温度25℃,相対湿度17%)を流速1L/min.で送風して有機溶媒を乾燥させて、PET基板上に作製した膜を透過型電子顕微鏡で観察したところ、膜内部に多孔構造は見られなかった。また、この膜を、分光光度計を用いて、380〜780nmの波長領域において、入射角5°における分光反射率を測定したところ、450〜650nmの平均反射率は4.8%であった。
【0077】
(比較例2)
比較例2では、有機ポリマーとしてポリスチレン1.08gと、両親媒性物質AOT0.01gとを混合し、この混合物をトルエン6mlに溶解し、さらに水0.3mlを添加して5分間超音波分散し、逆ミセルが形成された塗布液を調製した。
【0078】
この塗布液を、ブレードコーターを用いてPET基板に厚さ300μmになるように塗布し、乾燥空気(温度25℃,相対湿度17%)を流速1L/min.で送風して有機溶媒を乾燥させて、PET基板上に多孔質膜を作製した。
【0079】
透過型電子顕微鏡を用いて求めた多孔質膜の膜厚は18.7μm、平均孔径は4.31μmであり、膜表面付近の孔密度は12.8 / 100μm、基板付近の孔密度は23.2 / 100μmであった。また、この膜を、分光光度計を用いて、380〜780nmの波長領域において、入射角5°における分光反射率を測定したところ、450〜650nmの平均反射率は3.8%であった。これにより、孔の孔径が大きすぎると、平均反射率が低下しないことがわかった。
【0080】
実施例1から4及び比較例1により、膜厚方向に変化するように孔を分散することにより、平均反射率が低下するという特性を示すことがわかった。
【0081】
また、実施例1から4及び比較例2により、孔の孔径を微小(1μm以下)にすることにより、平均反射率が低下するという特性を示すことがわかった。
【0082】
上述した図1及び図2において、多孔質膜である反射防止用フィルム10の第2表面14は、孔20の開口部により、凹部21を形成しているが、本発明においては、平滑な表面であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の一実施形態にかかる反射防止用フィルムの模式断面図の一例である。
【図2】本発明の一実施形態にかかる反射防止用フィルムの製造方法の一例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0084】
10 反射防止用フィルム(多孔質膜)
12 第1表面
14 第2表面
20 孔
21 凹部
50 反射防止対象基板



【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性を有する有機ポリマー及び両親媒性物質からなる反射防止用フィルムにおいて、
前記反射防止用フィルムが複数の微小な孔を有し、前記孔の密度を一方の膜表面から他方の膜表面に向かって膜厚方向に徐々に変化させることを特徴とする反射防止用フィルム。
【請求項2】
どちらか一方の膜表面に前記孔の開口部により形成される凹部を有していることを特徴とする請求項1に記載の反射防止用フィルム。
【請求項3】
前記孔の平均孔径は、0.01〜1.0μmであることを特徴とする請求項1または2に記載の反射防止用フィルム。
【請求項4】
(a)少なくとも疎水性を有する有機ポリマー、両親媒性物質、親水性溶液及び疎水性有機溶媒からなる溶液を混合攪拌して、逆ミセルが形成された疎水性有機溶媒溶液を生成する工程と、
(b)前記工程(a)によって生成された疎水性有機溶媒溶液を基板上に塗布した後に乾燥させて、孔密度を一方の膜表面から他方の膜表面に向かって膜厚方向に徐々に変化させた複数の微小な孔を有した多孔質膜を形成する工程と、
を備えていることを特徴とする反射防止用フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記工程(b)における前記基板は、親水性基板であることを特徴とする請求項4に記載の反射防止用フィルムの製造方法。
【請求項6】
(a)少なくとも疎水性を有する有機ポリマー、両親媒性物質、親水性溶液及び疎水性有機溶媒からなる溶液を混合攪拌して、逆ミセルが形成された疎水性有機溶媒溶液を生成する工程と、
(c)前記工程(a)によって生成された疎水性有機溶媒溶液を基板上に塗布した後に乾燥させて、孔密度を一方の膜表面から他方の膜表面に向かって膜厚方向に徐々に変化させた複数の微小な孔を有した多孔質膜を形成するとともに、前記基板に接触した前記多孔質膜の表面に前記孔の開口部による凹部を形成する工程と、
を備えていることを特徴とする反射防止用フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記工程(c)における前記基板は、疎水性基板であることを特徴とする請求項6に記載の反射防止用フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記工程(a)における前記親水性溶液の比重は、前記疎水性有機溶媒の比重より小さいことを特徴とする請求項4から7のいずれか1項に記載の反射防止用フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記工程(a)における前記両親媒性物質の重量(W2)に対する前記親水性溶液の重量(W1)の割合である重量比(Rw=W1/W2)は、0.5〜15であることを特徴とする請求項4から8のいずれか1項に記載の反射防止用フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−256881(P2008−256881A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−98070(P2007−98070)
【出願日】平成19年4月4日(2007.4.4)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】