説明

反強誘電性ポリマー複合材料、その製造方法、及びそれを含んでなる物品

【課題】高い誘電常数及び高い破壊電圧並びに良好な機械的強度及び加工性を有する新しいポリマー複合材料を提供する。
【解決手段】熱可塑性ポリマー、熱硬化性ポリマー、及びそれらのブレンド物から選ばれるポリマーに、チタン酸ジルコニム鉛、チタン酸ジルコニウムランタン鉛、ニオブ酸スカンジウム鉛、タンタル酸スカンジウム鉛、チタン酸ニオブスカンジウム鉛、チタン酸ニオブルテチウム鉛などのセラミック反強誘電性粒子とを含んでなる組成物で、該組成物をバイアス電界に暴露して組成物の誘電定数を変化させる、また、該組成物に電界を印加してセラミック反強誘電性粒子を再配向させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反強誘電性ポリマー複合材料、その製造方法、及びそれを含んでなる物品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用点火プラグキャップのような商業的用途では、高い誘電定数及び高い破壊電圧を得ることが望ましい。点火プラグキャップは、一般にポリマー複合材料から製造される。ポリマー複合材料での高い誘電定数は、一般に高体積分率の充填材を使用することで達成される。しかし、これは点火プラグキャップの衝撃強さ及び延性のような機械的性質を低下させる。
【0003】
また、高エネルギー密度電力変換用途で使用されるエネルギー貯蔵デバイス(例えば、DCリンクコンデンサー)は、電動機及び発電機のような電気装置の高電圧−高温環境に耐えることが望ましい。したがって、かかる貯蔵デバイスは高い破壊電圧及び耐コロナ性を示すことが望ましい。電子工業では、プリント配線基板中にコンデンサーを組み込むための電気的要件、信頼性要件及び加工要件を満足する好適な高誘電定数材料を得ることも望ましい。このように、電子工業及び自動車工業では、高い誘電定数及び高い破壊電圧並びに良好な機械的強度及び加工性を有する新しいポリマー複合材料に対するニーズが存在している。
【0004】
したがって、高い誘電定数及び高いエネルギー貯蔵能力と、加工の容易さ及び既存の高誘電定数複合材料に比べて向上した機械的性質とを併せ持つ組成物を得ることが望ましい。
【特許文献1】米国特許第5650031号明細書
【特許文献2】米国特許第6632109号明細書
【特許文献3】米国特許第6778053号明細書
【特許文献4】米国特許第6864306号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2003/0017351号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2004/0265551号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2005/0080175号明細書
【特許文献8】米国特許出願公開第2005/0161149号明細書
【特許文献9】国際公開第01/89827号パンフレット
【特許文献10】特開昭58−141222号公報
【非特許文献1】Colin Kydd Campbell.“Experimental and Theoretical Characterization of an Antiferroelectric Ceramic Capacitor for Power Electronics”.IEEE Transactions on Components and Packaging Technologies,Vol.25,No.2,pages 211−216,June 2002
【非特許文献2】Jianwen Xu and C.P.Wonga).“Low−loss percolative dielectric composite”Applied Physics Letters 87,082907,pages 082907−1,2,3,2005
【非特許文献3】Y.Bai,Z.−Y.Cheng,V.Gharti,H.S.Xu,and Q.M.Zhanga).“High−dielectric−constant ceramic−power polymer composites”Applied Physics Letters,Vol.76,No.25,pages 3804−3806,published April 28,2000
【非特許文献4】E.Aulagner,J.Guillet,G.Seytre,C.Hantoche,P.Le Gonidec,G.Terzulli.“(PVDF/BatiO3) AND (PP/BaTiO3) FILMS FOR ENERGY STORAGE CAPACITORS”1995 IEEE 5th International Conference on Conduction and Breakdown in Solid Dielectrics.Pages 423−427.1995
【非特許文献5】D.Dimos.“PEROVSKITE THIN FILMS FOR HIGH−FREQUENCY CAPACITOR APPLICATIONS1”.Annual Review of Materials Science.Vol.28:397−419(Volume publication date August 1998)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書中には、ポリマー材料とセラミック反強誘電性粒子とを含んでなる組成物が開示される。
【0006】
本明細書中にはまた、組成物の誘電定数を同調させる方法であって、ポリマー材料とセラミック反強誘電性粒子とを含む組成物をバイアス電界に暴露する段階と、組成物の誘電定数を変化させる段階とを含んでなる方法が開示される。
【0007】
本明細書中にはまた、ポリマー材料とセラミック反強誘電性粒子とをブレンドして組成物を形成する段階を含んでなる方法が開示される。
【0008】
本明細書中にはまた、ポリマー材料とセラミック反強誘電性粒子とをブレンドして組成物を形成する段階と、組成物に電界を印加する段階と、セラミック反強誘電性粒子を再配向させる段階とを含んでなる方法が開示される。
【0009】
図面の簡単な説明
図1は、ポリマー材料に配合したナノサイズ反強誘電性粒子の量の関数としての誘電定数の増加を示すグラフである。
【0010】
図2は、様々な重量パーセントのナノサイズ反強誘電性粒子をポリマー材料に配合したときにトリガーされる分極ヒステリシスループを示すグラフである。
【0011】
図3は、ナノサイズ反強誘電性粒子をポリマー材料に配合したときの誘電定数の電界同調性を示すグラフである。
【0012】
図4は、マイクロメートルサイズの反強誘電性粒子をポリマー材料に配合したときにトリガーされる分極ヒステリシスループを示すグラフである。
【0013】
図5は、マイクロメートルサイズの反強誘電性粒子をポリマー材料に配合したときにトリガーされる分極ヒステリシスループを示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本明細書中で使用する「第一」、「第二」などの用語は、いかなる順序、数量又は重要度も表すわけではなく、むしろある構成要素を別の構成要素から区別するために使用されることに注意すべきである。単数形で記載したものは、数量の制限を意味するわけではなく、むしろ記載されたものの1以上が存在することを意味する。数量に関して使用される「約」という修飾語は、記載された値を含むと共に、(例えば、特定の数量の測定に関連する誤差の程度を含め)前後関係から指示される意味を有する。本明細書中に開示されるすべての範囲は、両端を含むと共に独立して結合可能であることに注意すべきである。
【0015】
本明細書中には、ポリマー材料とセラミック反強誘電性粒子とを含んでなる組成物が開示される。セラミック反強誘電性粒子は、活性化電界の印加に際して強誘電性粒子に変換できる。一実施形態では、活性化電界はバイアス電界でよい。別の実施形態では、活性化電界は熱エネルギー源の存在下で(例えば、炉内で)印加されるバイアス電界であってもよい。このように、反強誘電性粒子は、バイアス電界への暴露時に低誘電定数状態(反強誘電性状態)から高誘電定数状態(強誘電性状態)への相転移を受けることができる電界同調可能な非線形誘電体粒子である。反強誘電性粒子のこれらの有利な性質により、組成物は電界同調可能となる。電界同調可能な組成物は、その誘電特性を使用すべき用途に応じて要求通りに調整できるので有利である。
【0016】
強誘電性効果は、ある種のイオン結晶が自発的な双極子モーメントを呈し得る電気的現象である。2つの主たるタイプの強誘電体(変位型及び秩序−無秩序型)が存在する。例えば、チタン酸バリウムでの効果は変位型であり、イオンが平衡位置からわずかに変位すると、結晶中のイオンに原因する局所電界からの力が弾性復元力より早く増大するという分極カタストロフィーに由来している。これは、平衡イオン位置の非対称シフト、したがって永久双極子モーメントを引き起こす。秩序−無秩序型強誘電体では、各単位格子中に双極子モーメントが存在するが、これらは高温ではランダムな方向を向いている。温度を低下させて相転移を受けさせると、双極子は秩序化し、すべてがドメイン中で同じ方向を向く。強誘電性材料中で起こる上述の秩序化の結果、これらの材料は約1000以上の高い誘電定数を有する。反強誘電性転移では、個々の双極子は隣接する双極子に対して反平行に整列する結果、正味の自発分極はゼロになる。かくして、反強誘電性状態の材料は一般に約100〜約1000の低い誘電定数を有する。
【0017】
反強誘電性粒子は、ナノ粒子又はマイクロメートルサイズ粒子の形態で存在する。これらの反強誘電性粒子は、一般にポリマー材料の誘電定数と同様な誘電定数を有している。これは、強誘電性粒子に比べ場合、粒子の高電界透過を可能にする。上述の通り、反強誘電性粒子は本質的に、電界の印加に際して反強誘電性から強誘電性への相転移を受ける。ポリマー中に分散させた反強誘電性粒子は、約100キロボルト/ミリメートル以下の電界の印加に際して反強誘電性状態から強誘電性状態への相転移を受けるようにトリガーすることができる。その結果、本組成物の誘電定数は、反強誘電性粒子を含まない組成物と比較して約500%以上の量で増加するであろう。
【0018】
反強誘電性粒子は、ポリマー材料中に分散させて組成物の誘電定数を増加させることができるので有利である。ポリマー材料中に十分に分散させた粒子は、反強誘電性粒子を含まないポリマー材料に比べて向上した性質を示す。これらの向上した性質には、高い誘電定数、高いエネルギー密度、向上した絶縁破壊強さ、光学的透明度、耐コロナ性、向上した衝撃強さ及び延性、並びに向上した加工容易性及びクラスAの表面仕上がある。
【0019】
一実施形態では、本組成物は約200V/マイクロメートル以上の破壊電圧を有する。本組成物は、約1J/cm以上〜約10J/cm以上のエネルギー密度を有するので有利である。バイアス電圧に暴露されると、本組成物の誘電定数は組成物中のセラミック反強誘電性粒子の量に応じて1桁以上増加し得る。
【0020】
組成物に使用されるポリマー材料は、多種多様な熱可塑性ポリマー、熱硬化性ポリマー、熱可塑性ポリマーのブレンド、及び熱可塑性ポリマーと熱硬化性ポリマーのブレンドから選択できる。ポリマー材料は、ホモポリマー、星形ブロックコポリマーやグラフトコポリマーや交互ブロックコポリマーやランダムコポリマーのようなコポリマー、イオノマー、デンドリマー、又はこれらの1種以上を含む組合せでよい。ポリマー材料はまた、ポリマー、コポリマー、ターポリマーなどのブレンド、又はこれらの1種以上を含む組合せであってもよい。
【0021】
ポリマー材料に使用できる熱可塑性ポリマーの例には、ポリアセタール、ポリアクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリアルキド樹脂、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリアラミド、ポリアミドイミド、ポリアリーレート、ポリウレタン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン、ポリアリールスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリベンゾオキサゾール、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾチアジノフェノチアジン、ポリベンゾチアゾール、ポリピラジノキノキサリン、ポリピロメリトイミド、ポリキノキサリン、ポリベンゾイミタゾール、ポリオキシンドール、ポリオキソイソインドリン、ポリジオキソイソインドリン、ポリトリアジン、ポリピリダジン、ポリピペラジン、ポリピリジン、ポリピペリジン、ポリトリアゾール、ポリピラゾール、ポリカルボラン、ポリオキサビシクロノナン、ポリジベンゾフラン、ポリフタリド、ポリアセタール、ポリアンヒドリド、ポリビニルエーテル、ポリビニルチオエーテル、ポリビニルアルコール、ポリビニルケトン、ポリハロゲン化ビニル、ポリビニルニトリル、ポリビニルエステル、ポリスルホネート、ポリスルフィド、ポリチオエステル、ポリスルホン、ポリスルホンアミド、ポリウレア、ポリホスファゼン、ポリシラザン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリシロキサンなど、又はこれらの熱可塑性ポリマーの1種以上を含む組合せがある。
【0022】
例示的な熱可塑性ポリマーには、ポリエーテルイミド、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン(P(VDF−TrFE))、ポリビニリデン−テトラフルオロエチレンコポリマー(P(VDF−TFE))、ポリビニリデン−トリフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(P(VDF−TFE−HFE))、ポリビニリデン−ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(P(VDF−HFE))、エポキシ樹脂、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリイミド、ポリアリーレート、ポリフェニルスルホン、ポリスチレン、ポリエーテルスルホン、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、シリコーンなど、又はこれらの1種以上を含む組合せがある。典型的なポリマーは、General Electric Plastics社から市販のポリエーテルイミドのULTEM(登録商標)である。
【0023】
熱可塑性ポリマーのブレンドの例には、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン/ナイロン、ポリカーボネート/アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン、ポリフェニレンエーテル/ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル/ポリアミド、ポリカーボネート/ポリエステル、ポリフェニレンエーテル/ポリオレフィンなど、又はこれらの1種以上を含む組合せがある。
【0024】
熱硬化性ポリマーの例は、エポキシ/アミン樹脂、エポキシ/アンヒドリド樹脂、イソシアネート/アミン樹脂、イソシアネート/アルコール樹脂、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、不飽和ポリエステルとビニルエステルのブレンド、不飽和ポリエステル/ウレタン混成樹脂、ポリウレタン−ウレア、熱硬化性ポリフェニレンエーテル、シリコーン、反応性ジシクロペンタジエン樹脂、反応性ポリアミドなど、又はこれらの1種以上を含む組合せである。
【0025】
一実施形態では、好適な熱硬化性ポリマーには、エネルギー活性化可能な熱硬化性プレポリマー組成物から製造できる熱硬化性ポリマーがある。その例には、ウレタンポリエステルのようなポリウレタン、シリコーンポリマー、フェノールポリマー、アミノポリマー、エポキシポリマー、ビスマレイミド、ポリイミド及びフランポリマーがある。エネルギー活性化可能な熱硬化性プレポリマー成分は、ポリマー前駆体及び硬化剤を含んでいてもよい。ポリマー前駆体は熱活性化可能であってもよく、これは触媒の必要性を排除する。選択される硬化剤は、熱硬化性ポリマーを形成するために必要なエネルギー源の種類を決定するばかりでなく、得られる熱硬化性ポリマーの性質に影響を及ぼすこともある。硬化剤の例には、脂肪族アミン、芳香族アミン、酸無水物など、又はこれらの1種以上を含む組合せがある。エネルギー活性化可能な熱硬化性プレポリマー組成物は、組成物の粘度を低下させて高処理量及び低温での押出しを容易にするため、溶媒又は加工助剤を含んでいてもよい。溶媒は架橋反応を遅らすために役立ち、重合中又は重合後に部分的又は完全に蒸発させることができる。
【0026】
上述の通り、ポリマー材料は約150℃以上のガラス転移温度を有することが望ましい。一実施形態では、ポリマー材料は約175℃以上のガラス転移温度を有することが望ましい。別の実施形態では、ポリマー材料は約200℃以上のガラス転移温度を有することが望ましい。さらに別の実施形態では、ポリマー材料は約225℃以上のガラス転移温度を有することが望ましい。さらに別の実施形態では、ポリマー材料は約250℃以上のガラス転移温度を有することが望ましい。
【0027】
一実施形態では、ポリマー材料は組成物の総重量の約5〜約99.999wt%の量で使用される。別の実施形態では、ポリマー材料は組成物の総重量の約10〜約99.99wt%の量で使用される。別の実施形態では、ポリマー材料は組成物の総重量の約30〜約99.5wt%の量で使用される。別の実施形態では、ポリマー材料は組成物の総重量の約50〜約99.3wt%の量で使用される。
【0028】
反強誘電性粒子は、一般に、組成物中への配合に先立って反強誘電性状態に変換される強誘電性粒子である。反強誘電性状態の反強誘電性粒子は、ポリマー材料の誘電定数にできるだけ近い誘電定数を有することが一般に望ましい。一実施形態では、(反強誘電性状態の)反強誘電性粒子はポリマー材料の誘電定数の値の10%以内にある誘電定数の値を有する。別の実施形態では、(反強誘電性状態の)反強誘電性粒子はポリマー材料の誘電定数の値の20%以内にある誘電定数の値を有する。さらに別の実施形態では、(反強誘電性状態の)反強誘電性粒子はポリマー材料の誘電定数の値の50%以内にある誘電定数の値を有する。反強誘電性粒子の例は、ペロブスカイトから導かれるものである。
【0029】
一実施形態では、反強誘電性粒子は下記の式(I)を有するものである。
【0030】
Pb(M,M,M,....)O (I)
式中、M、M、Mは遷移金属又は希土類金属である。遷移金属の例は周期表の第3d族、第4d族及び第5d族中に存在するものであって、例えば、スカンジウム、鉄、チタン、クロム、ジルコニウムなど、又はこれらの遷移金属の1種以上を含む組合せである。希土類金属の例は、ランタン、セリウム、ネオジム、ガドリニウム、サマリウムなど、又はこれらの希土類金属の1種以上を含む組合せである。
【0031】
反強誘電性粒子の一例は、下記の式(II)で示されるチタン酸ジルコニウム鉛(PZT)からなるものである。
Pb(ZrTi1−x)O (II)
式中、xは約1までの数である。一実施形態では、xは約0.3〜約1の値を有する。別の実施形態では、xは約0.6〜約1の値を有する。さらに別の実施形態では、xは約0.9〜約1の値を有する。PZT反強誘電性粒子は、広い組成空間を占め、したがって広範囲の誘電特性を示す固溶体の形態で存在する。PZTの相境界及び電気的性質は、ドーピングによってさらに改質することもできる。例えば、La3+によるPb2+の置換は、7000までの誘電率を有すると共に反強誘電性粒子に変換できる強誘電性粒子を生じることができる。PZT及びPZT誘導体の例には、PbHfO、PbZrO、改質Pb(ZrTi)O、PbLa(ZrSnTi)O、PbNb(ZrSnTi)Oなど、又はこれらの反強誘電性粒子の1種以上を含む組合せがある。典型的な反強誘電性粒子はジルコン酸鉛(PbZrO)である。
【0032】
反強誘電性粒子の別の例は、下記の式(III)のチタン酸ジルコニウムランタン鉛(PLZT)からなるものである。
Pb1−xLa(ZrTi1−y)1−x/4 (III)
式中、x及びyはそれぞれ約1までの値を有し、x及びyは互いに独立である。一実施形態では、xは約0.1〜約0.3の値を有し、yは約0.8〜約1の値を有する。
【0033】
反強誘電性粒子のさらに別の例は、下記の式(IV)のニオブ酸スカンジウム鉛(PSN)又は下記の式(V)のタンタル酸スカンジウム鉛(PST)からなるものである。
PbScNb1−x (IV)
PbScTa1−x (V)
他の反強誘電性粒子は、PbSc1/2Nb1/2−PbLu1/2Nb1/2、SrTiO−PbZrO、チタン酸ニオブスカンジウム鉛(PSNT)及びチタン酸ニオブルテチウム鉛(PLuNT)である。
【0034】
別の実施形態では、反強誘電性粒子は鉛を含まない。反強誘電性粒子の例には、NaNbO、(K,Na)(Nb,Ta)O、KNbO、BaZrO、Na0.250.25Bi0.5TiO、Ag(Ta,Nb)O、Na0.5Bi0.5TiO−K0.5Bi0.5TiO−BaTiOなど、又はこれらの無鉛反強誘電性粒子の1種以上を含む組合せがある。
【0035】
上述の通り、かかる粒子は、バイアス電界への暴露時に低誘電定数状態(反強誘電性状態)から高誘電定数状態(強誘電性状態)への相転移を受けることができる。一実施形態では、反強誘電性粒子は、約4キロボルト/ミリメートル(kV/mm)以上のバイアス電界に暴露された場合に反強誘電性状態(低誘電定数状態)から強誘電性状態(高誘電定数状態)への相転移を受けることができる。一実施形態では、反強誘電性粒子は、約60キロボルト/ミリメートル(kV/mm)以上のバイアス電界に暴露された場合に反強誘電性状態(低誘電定数状態)から強誘電性状態(高誘電定数状態)への相転移を受けることができる。さらに別の実施形態では、反強誘電性粒子は、約200キロボルト/ミリメートル(kV/mm)以上のバイアス電界に暴露された場合に反強誘電性状態(低誘電定数状態)から強誘電性状態(高誘電定数状態)への相転移を受けることができる。
【0036】
一実施形態では、本組成物の誘電定数は相転移後に50%以上増加する。別の実施形態では、本組成物の誘電定数は相転移後に100%以上増加する。別の実施形態では、本組成物の誘電定数は相転移後に500%以上増加する。
【0037】
上述の通り、反強誘電性粒子はナノメートル範囲(10−9メートル範囲)又はマイクロメートル範囲(10−6メートル範囲)の粒度を有する。一実施形態では、反強誘電性粒子は約5ナノメートル〜約10マイクロメートルの粒度を有する。別の実施形態では、反強誘電性粒子は約10ナノメートル〜約1マイクロメートルの粒度を有する。別の実施形態では、反強誘電性粒子は約50〜約500ナノメートルの粒度を有する。さらに別の実施形態では、反強誘電性粒子は約100〜約400ナノメートルの粒度を有する。
【0038】
一実施形態では、かかる粒子は、ポリマー材料との結合を容易にするために表面処理することができる。一実施形態では、表面処理は粒子をシランカップリング剤で被覆することからなる。好適なシランカップリング剤の例には、テトラメチルクロロシラン、ヘキサジメチレンジシラザン、γ−アミノプロポキシシランなど、又はこれらのシランカップリング剤の1種以上を含む組合せがある。シランカップリング剤は、一般に反強誘電性粒子とポリマー材料との相容性を高めてポリマー材料中への反強誘電性粒子の分散を向上させる。
【0039】
上述の通り、反強誘電性粒子はナノメートル範囲又はマイクロメートル範囲にある1以上の寸法を有する。反強誘電性粒子は、約10マイクロメートル以下の平均最大寸法を有することが一般に望ましい。この寸法は、直径、面の一辺、長さなどがある。反強誘電性粒子は、整数で定義される次元を有する形状を有していてもよい。例えば、反強誘電性粒子は一次元、二次元又は三次元の形状を有する。これらはまた、整数で定義されない次元を有する形状を有していてもよい(例えば、これらはフラクタルの形態で存在し得る)。反強誘電性粒子は、球、フレーク、繊維、ホイスカーなどの形態、又はこれらの形態の1以上を含む組合せで存在し得る。反強誘電性粒子の断面形状は、円形、楕円形、三角形、長方形、多角形、又はこれらの形状の1以上を含む組合せでよい。市販の反強誘電性粒子は、ポリマー材料中への配合前に又はポリマー材料中への配合後にも、凝集体又は集合体の形態で存在し得る。凝集体は2以上の粒子が互いに物理的に接触したものからなる一方、集合体は2以上の凝集体が互いに物理的に接触したものからなる。
【0040】
反強誘電性粒子の正確な粒度、形状及び組成に関係なく、これらは所望ならば組成物の総重量の約0.1〜約85wt%の添加量でポリマー材料中に分散させることができる。一実施形態では、反強誘電性粒子は組成物の総重量の約1wt%以上の量で存在する。別の実施形態では、反強誘電性粒子は組成物の総重量の約10wt%以上の量で存在する。さらに別の実施形態では、反強誘電性粒子は組成物の総重量の約30wt%以上の量で存在する。一実施形態では、反強誘電性粒子は組成物の総重量の85wt%以下の量で存在する。別の実施形態では、反強誘電性粒子は組成物の総重量の約70wt%以下の量で存在する。さらに別の実施形態では、反強誘電性粒子は組成物の総重量の約60wt%以下の量で存在する。
【0041】
ポリマー材料は一般に、反強誘電性粒子及び他の任意に所望される充填材と共に、特に限定されないが、メルトブレンディング、溶液ブレンディングなど、又はこれらのブレンディング方法の1以上を含む組合せのような数種の方法で加工できる。組成物のメルトブレンディングは、剪断力、伸長力、圧縮力、超音波エネルギー、電磁エネルギー、熱エネルギー、或いはこれらの力又はエネルギー形態の1種以上を含む組合せの使用を伴い、単一のスクリュー、複数のスクリュー、噛合式同方向回転又は異方向回転スクリュー、非噛合式同方向回転又は異方向回転スクリュー、往復スクリュー、ピン付きスクリュー、ピン付きバレル、ロール、ラム、らせん状ローター、又はこれらの1以上を含む組合せで上述の力を及ぼす加工装置で実施される。
【0042】
上述の力を伴うメルトブレンディングは、特に限定されないが、一軸又は多軸押出機、バス(Buss)ニーダー、ヘンシェル(Henschel)、ヘリコーン、ロス(Ross)ミキサー、バンバリー(Banbury)、ロールミル、成形機(例えば、射出成形機、真空成形機、吹込成形機)などの機械、又はこれらの機械の1以上を含む組合せで実施できる。組成物のメルトブレンディング又は溶液ブレンディング中には、組成物1キログラム当たり約0.01〜約10キロワット時(kwhr/kg)の比エネルギーを付与することが一般に望ましい。この範囲内では、組成物のブレンディングのためには、約0.05kwhr/kg以上、好ましくは約0.08kwhr/kg以上、さらに好ましくは約0.09kwhr/kg以上の比エネルギーが一般に望ましい。組成物のブレンディングのためにはまた、約9kwhr/kg以下、好ましくは約8kwhr/kg以下、さらに好ましくは約7kwhr/kg以下の比エネルギーが望ましい。
【0043】
かかる粒子は、ポリマー材料中への配合前には反強誘電性状態又は強誘電性状態であってもよい。ポリマー材料中への配合後に強誘電性状態にある粒子は、特定用途での使用に先立って反強誘電性状態に変換される。一般に、特定用途での使用に先立って粒子を反強誘電性状態にすることが望ましい。上述の通り、ポリマーに配合された反強誘電性粒子の状態を(反強誘電性状態から強誘電性状態に)変化させるためには、一般に約100キロボルト/ミリメートル以下のバイアス電界が使用される。このバイアス電界に伴い、試料に熱を加えることもできる。熱は、バイアス電界の印加中に、対流、伝導又は放射の形態で試料に加えることができる。
【0044】
一実施形態では、所望ならば、押出機又はバスニーダーのようなメルトブレンディング装置への供給に先立ち、粉末状、ペレット状、シート状などのポリマー材料をまずヘンシェル又はロールミル内で反強誘電性粒子及び他の任意充填材とドライブレンドすることができる。別の実施形態では、反強誘電性粒子がマスターバッチの形態でメルトブレンディング装置内に導入される。かかる方法では、マスターバッチはポリマー材料より下流側でメルトブレンディング装置内に導入すればよい。
【0045】
マスターバッチを使用する場合、反強誘電性粒子はマスターバッチの総重量の約10〜約85wt%の量でマスターバッチ中に存在し得る。一実施形態では、反強誘電性粒子はマスターバッチの総重量の約30wt%以上の量で使用される。別の実施形態では、反強誘電性粒子はマスターバッチの総重量の約40wt%以上の量で使用される。別の実施形態では、反強誘電性粒子はマスターバッチの総重量の約45wt%以上の量で使用される。一実施形態では、反強誘電性粒子はマスターバッチの総重量の約85wt%以下の量で使用される。別の実施形態では、反強誘電性粒子はマスターバッチの総重量の約75wt%以下の量で使用される。別の実施形態では、反強誘電性粒子はマスターバッチの総重量の約65wt%以下の量で使用される。マスターバッチに使用できるポリマー材料の例には、ポリプロピレン、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリエステルなど、又はこれらのポリマー材料の1種以上を含む組合せがある。ポリマーブレンド中でのマスターバッチの使用に関する別の実施形態では、組成物の連続相をなすポリマー材料と同じポリマー材料を含むマスターバッチを使用することが時には望ましい。ポリマーブレンド中でのマスターバッチの使用に関するさらに別の実施形態では、組成物に使用するポリマーと化学的に異なるポリマー材料を含むマスターバッチを使用することが望ましい場合がある。この場合、マスターバッチのポリマー材料はブレンド中で連続相をなす。
【0046】
ポリマー材料と反強誘電性粒子とを含む組成物には、所望ならば、複数のブレンディング段階及び成形段階を施すことができる。例えば、まず組成物を押し出してペレットに成形できる。次いで、ペレットを成形機に供給し、そこで他の望ましい形状に成形できる。別法として、単一のメルトブレンダーから得られる組成物をシート又はストランドに成形し、次いでアニール、一軸延伸又は二軸延伸のような押出後操作を施すこともできる。
【0047】
溶液ブレンディングを用いて組成物を製造することもできる。溶液ブレンディングでは、剪断、圧縮、超音波振動などの追加エネルギーを用いて、粒子とポリマー材料との均質化を促進することもできる。一実施形態では、流体(例えば、溶媒)中に懸濁したポリマー材料を反強誘電性粒子と共に超音波処理装置内に導入できる。混合物は、反強誘電性粒子をポリマー材料及び流体中に分散させるのに有効な時間の超音波処理で溶液ブレンドすることができる。次いで、所望ならば、ポリマー材料を反強誘電性粒子と共に乾燥し、押し出し、成形できる。流体は超音波処理操作中にポリマー材料を膨潤させることが一般に望ましい。ポリマー材料を膨潤させることは、一般に、溶液ブレンディング操作中に反強誘電性粒子がポリマー材料に浸透する能力を高め、結果として分散を向上させる。
【0048】
溶液ブレンディングに関する別の実施形態では、反強誘電性粒子がポリマー材料前駆体と共に超音波処理される。ポリマー材料前駆体は、一般に、反応してポリマー材料を生成できるモノマー、ダイマー、トライマーなどであってもよい。反強誘電性粒子及びポリマー材料前駆体と共に、溶媒のような流体を超音波処理装置内に任意に導入できる。超音波処理の時間は、一般に、ポリマー材料前駆体による反強誘電性粒子の封入を促進するのに有効な長さである。封入後、ポリマー材料前駆体を重合させることで、内部に反強誘電性粒子が分散したポリマー材料が生成される。
【0049】
このような封入及び分散方法を容易にするために使用できるモノマーの好適な例は、特に限定されないが、ポリアセタール、ポリアクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアリーレート、ポリウレタン、ポリアリールスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリーレンスルフィド、ポリ塩化ビニル、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンなど、又はこれらの1種以上を含む組合せのようなポリマーの合成で使用するものである。一実施形態では、ポリマー材料、ポリマー材料前駆体、流体及び/又は粒子の混合物が約1分〜約24時間の時間にわたり超音波処理される。別の実施形態では、混合物は約5分以上の時間にわたり超音波処理される。別の実施形態では、混合物は約10分以上の時間にわたり超音波処理される。別の実施形態では、混合物は約15分以上の時間にわたり超音波処理される。一実施形態では、混合物は約15時間以下の時間にわたり超音波処理される。別の実施形態では、混合物は約10時間以下の時間にわたり超音波処理される。別の実施形態では、混合物はさらに好ましくは約5時間以下の時間にわたり超音波処理される。
【0050】
組成物の溶液ブレンディングに際しては溶媒を使用できる。溶媒は粘度調整剤として使用でき、或いは粒子の分散及び/又は懸濁を容易にするために使用できる。液状非プロトン性極性溶媒(例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチロラクトン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、ニトロメタン、ニトロベンゼン、スルホラン、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン(NMP)など、又はこれらの溶媒の1種以上を含む組合せ)が使用できる。極性プロトン性溶媒(例えば、水、メタノール、アセトニトリル、ニトロメタン、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなど、又はこれらの極性プロトン性溶媒の1種以上を含む組合せ)も使用できる。所望ならば、他の無極性溶媒(例えば、ベンゼン、トルエン、塩化メチレン、四塩化炭素、ヘキサン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなど、又はこれらの溶媒の1種以上を含む組合せ)も使用できる。1種以上の非プロトン性極性溶媒及び1種以上の無極性溶媒を含む共溶媒も使用できる。一実施形態では、溶媒はキシレン又はN−メチルピロリドンである。
【0051】
溶媒を使用する場合、それは組成物の総重量の約1〜約50wt%の量で使用できる。一実施形態では、溶媒を使用する場合、それは組成物の総重量の約3〜約30wt%の量で使用できる。さらに別の実施形態では、溶媒を使用する場合、それは組成物の総重量の約5〜約20wt%の量で使用できる。組成物のブレンディング前、ブレンディング中及び/又はブレンディング後に溶媒を蒸発させることが一般に望ましい。
【0052】
溶液ブレンディング後、所望の組成物を含む溶液は、流延、スピンキャスティング、漬け塗り、吹付け塗り、はけ塗り及び/又は静電吹付塗装で所望の基材上に塗布できる。次いで溶液を乾燥すれば、表面上に組成物が残る。別の実施形態では、所望の組成物を含む溶液を紡糸、圧縮成形、射出成形又は吹込成形することで、組成物からなる物品を形成できる。
【0053】
ブレンディングは、分散剤、結合剤、改質剤、洗浄剤及び添加剤のような各種の二次的化学種を用いて支援することができる。二次的化学種は、組成物の1以上の性質を向上させるためにも添加できる。ブレンディングはまた、ポリマー材料の薄層又はポリマー材料との相容性を有する相(例えば、シラン層)で粒子を予備被覆することでも支援できる。
【0054】
一実施形態では、反強誘電性粒子を配向させるため、ポリマー材料と共に反強誘電性粒子をランダムな向き及び位置で含む組成物を電界に暴露することができる。電界の印加は、組成物が溶融状態又は溶液状態にある場合に実施できる。凝固は電界の存在下で起こり得る。電界に暴露すると、反強誘電性粒子は好ましい向きに再整列し得る。一実施形態では、電界を用いてこれらの粒子を整列させることで、高い誘電定数を生み出すことができる。
【0055】
ポリマー材料と低誘電定数状態の反強誘電性粒子とを含む組成物は、単独のポリマー材料に比べて利点を有する。一実施形態では、組成物はポリマー材料のみからなる組成物より10%以上高い誘電定数を有する。別の実施形態では、組成物は単独のポリマー材料より50%以上高い誘電定数を有する。別の実施形態では、組成物は単独のポリマー材料より100%以上高い誘電定数を有する。
【0056】
反強誘電性粒子を強誘電性粒子に変換するための電界を印加すると、組成物は単独のポリマー材料より200%以上高い誘電定数を有する。一実施形態では、変換後には、組成物はポリマー材料のみからなる組成物より300%以上高い誘電定数を有する。別の実施形態では、変換後には、組成物は単独のポリマー材料より400%以上高い誘電定数を有する。別の実施形態では、変換後には、組成物は単独のポリマー材料より500%以上高い誘電定数を有する。
【0057】
ポリマー材料と高誘電定数状態(強誘電性状態)の粒子とを含む組成物は、ポリマー材料と低誘電定数状態(反強誘電性状態)の粒子とを含む組成物に比べてさらに利点を有する。一実施形態では、本組成物はポリマー材料と低誘電定数状態の粒子とを含む組成物より50%以上高い誘電定数を有する。別の実施形態では、本組成物はポリマー材料及び低誘電定数状態の粒子より100%以上高い誘電定数を有する。別の実施形態では、本組成物はポリマー材料及び低誘電定数状態の粒子より500%以上高い誘電定数を有する。
【0058】
本組成物はまた、単独のポリマー材料より有利に高い破壊電圧を有する。一実施形態では、本組成物は50キロボルト/ミリメートル以上の破壊電圧を有する。破壊電圧は、一般に組成物の厚さの関数として求められる。別の実施形態では、本組成物は100キロボルト/ミリメートル以上の破壊電圧を有する。別の実施形態では、本組成物は300キロボルト/ミリメートル以上の破壊電圧を有する。
【0059】
本組成物はまた、単独のポリマー材料より有利に高い耐コロナ性を有する。一実施形態では、本組成物は約200〜約2000時間にわたり印加された約1000〜約5000ボルトの電流に耐える耐コロナ性を有する。別の実施形態では、本組成物は約250〜約1000時間にわたり印加された約1000〜約5000ボルトの電流に耐える耐コロナ性を有する。さらに別の実施形態では、本組成物は約500〜約900時間にわたり印加された約1000〜約5000ボルトの電流に耐える耐コロナ性を有する。
【0060】
本組成物は、約1〜約10ヘルツ(Hz)の周波数で測定した場合に約3以上の誘電定数を有する。一実施形態では、本組成物は約1〜約10ヘルツ(Hz)の周波数で測定した場合に約5以上の誘電定数を有する。さらに別の実施形態では、本組成物は約1〜約10ヘルツ(Hz)の周波数で測定した場合に約10以上の誘電定数を有する。さらに別の実施形態では、本組成物は約1〜約10ヘルツ(Hz)の周波数で測定した場合に約50以上の誘電定数を有する。
【0061】
別の実施形態では、本組成物はまた約5キロジュール/平方メートル(kJ/m)以上の衝撃強さを有する。別の実施形態では、本組成物は約10kJ/m以上の衝撃強さを有する。別の実施形態では、本組成物は約15kJ/m以上の衝撃強さを有する。別の実施形態では、本組成物は約30kJ/m以上の衝撃強さを有する。
【0062】
ナノ粒子を含む組成物は、光学的に透明であってもよい。一実施形態では、本組成物は約70%以上の可視光透過率を有する。別の実施形態では、本組成物は約80%以上の可視光透過率を有する。さらに別の実施形態では、本組成物は約90%以上の可視光透過率を有する。さらに別の実施形態では、本組成物は約95%以上の可視光透過率を有する。さらに別の実施形態では、本組成物はまた成形された場合にクラスAの表面仕上を有する。成形物品は、射出成形、吹込成形、圧縮成形など、又はこれらの1以上を含む組合せで製造できる。
【0063】
本組成物は、過渡電圧クランピング、リプル電圧低減、及び共鳴回路での波形補正をはじめとする用途のためのエネルギー貯蔵及び電力変換デバイスで有利に使用できる。本組成物は、点火プラグキャップ、コンデンサー、除細動器、X線管又は他の物品で有利に使用できる。
【実施例】
【0064】
限定的ではなく例示的なものである以下の実施例は、本明細書中に記載された様々な実施形態の一部をなす組成物及び製造方法を例示している。
【0065】
実施例1
実施例1は、ポリマー材料に配合したナノサイズ反強誘電性粒子の増加量の関数としての誘電定数の増加を例示している。ポリマー材料は、Solvay Solexis Inc.から市販のポリフッ化ビニリデン(PVDF)である。ナノサイズ反強誘電性粒子は、菱面体構造のジルコン酸鉛(NPZ)である。平均粒度は100ナノメートルであった。ナノサイズ反強誘電性粒子は以下のようにして製造した。酸化鉛及び二酸化ジルコニウムを塩化ナトリウムと塩化カリウムとの等モル混合物と混合した。蓋付きのアルミナるつぼ内において、混合物を空気中で900℃に6時間加熱した。次いで、反応塊を熱水で処理することで、フッ化物フラックスを溶解して除去した。微細な結晶質のジルコン酸鉛を回収した。
【0066】
次に、ペイントシェーカーを用いてジルコン酸鉛粉末をアセトン中で摩砕し、乾燥し、200メッシュのふるいでふるい分けした。まず、0.25グラムのポリフッ化ビニリデン(PVDF)を153グラムのNMP溶媒中に溶解してポリフッ化ビニリデン(PVDF)溶液を調製した。ナノサイズ反強誘電性粒子を、PVDF及び粒子の総体積を基準にして約20〜約40vol%の量で添加した。次いで、粒子を含むPVDF溶液をクリーンフード下においてガラス基材上に流延した。フィルムが形成されるまで溶液を乾燥した。Hewlett Packard社製の誘電体分析装置HP4285Aを用いて、組成物フィルムに10〜10Hzの周波数で室温で誘電定数試験を施した。フィルムの厚さは20〜150マイクロメートルであり、これに白金をスパッター被覆した。この白金により、誘電体分析装置の電極との電気的接触が達成された。結果を図1に示す。図1から、20vol%のナノサイズ反強誘電性粒子がポリマー材料単独の誘電定数を約250%増加させたことがわかる。40vol%のナノサイズ反強誘電性粒子の添加は、ポリマー材料単独の誘電定数を約450%増加させた。
【0067】
実施例2
実施例2は、ナノサイズのセラミック反強誘電性粒子とポリマー材料とを含む組成物について分極を測定した場合に得られる分極ヒステリシスループを例示している。実施例1で使用したものと同じ組成のナノサイズ反強誘電性粒子を、実施例1に詳述したようにして、20vol%及び40vol%の量でポリフッ化ビニリデン(PVDF)に配合した。ナノサイズ反強誘電性粒子は40ナノメートルの粒度を有している。Radiant Technologies Inc.製のPrecision LC Ferroelectric試験装置を用いて、10ヘルツの周波数で分極を測定した。結果を図2のグラフに示す。図2のグラフから、ナノサイズ粒子中の分極は分極ループの形成で表されるように印加電界で切り換えられることがわかる。高レベルのNPZ添加量では、分極スイッチングは一層容易にトリガーされる。
【0068】
実施例3
実施例3は、ナノサイズ反強誘電性粒子をポリマー材料に配合したときの誘電定数の電界同調性を例示している。ナノサイズ反強誘電性粒子は粒度40ナノメートルのジルコン酸鉛であり、実施例1の場合と同様にして20vol%及び40vol%の量でポリフッ化ビニリデン(PVDF)に配合した。誘電定数は、図2に示すような分極スイッチング挙動に基づいて算出した。誘電定数は以下のようにして算出した。
【0069】
誘電定数Kは、下記の式(I)及び(II)に示すように定義される。
P=(K−1)εE (I)
D=KεE (II)
式中、Pは(本実験で測定した)分極であり、Dは双極子変位であり、εは真空の誘電率であり、Eは印加電界である。
【0070】
高い誘電定数を有する材料については、P≒D=KεEである。非線形誘導体については、所定電界EでのK(E)は下記の式(III)で示されるように定義できる。
【0071】
K(E)=(dP/dE)/ε(E) (III)
したがってKは、所定電界EでのP−E曲線の導関数を取ることにより、式(III)を用いて算出される。微分ノイズを低減させるため、報告するK値は直近の10の実験データ点の平均値である。詳しくは、Kは100ボルト/マイクロメートル電界範囲内で測定した分極データについて平均されている。
【0072】
結果を図3にグラフとして示す。図3から、20vol%のナノサイズ反強誘電性粒子を含むポリマー材料については、誘電定数は約100ボルト/マイクロメートルの電界下で約50%の増加を示したことがわかる。40vol%のナノサイズ反強誘電性粒子を含むポリマー材料については、誘電定数は約50ボルト/マイクロメートルの電界下で200%を超える最大増加を示した。この誘電定数増加は、反強誘電性状態から強誘電性状態への相転移に一致している。
【0073】
実施例4
実施例4は、マイクロメートルサイズのセラミック反強誘電性粒子をポリマー材料に配合したときにトリガーされる分極ヒステリシスループを例示している。マイクロメートルサイズ粒子はジルコン酸鉛(PZ)粒子であった。マイクロメートルサイズ反強誘電性粒子は1〜5マイクロメートルの粒度を有しており、実施例1の場合と同様にして20vol%及び40vol%の量でPVDFに配合した。分極ヒステリシスは、実施例2に記載したようにして測定した。結果を図4にグラフとして示すが、これは20vol%のPZを含む複合材料の様々な電界下での分極応答の一般的挙動を示している。図4で表されるように、40vol%の充填材を含む試料で反強誘電性−強誘電性相転移をトリガーするためには、20vol%の充填材を含む試料の場合よりも高い電界が必要である。
【0074】
実施例5
実施例5は、マイクロメートルサイズ反強誘電性粒子をポリマー材料に配合したときの誘電定数の電界同調性を例示している。マイクロメートルサイズ粒子はジルコン酸鉛(PZ)粒子であった。マイクロメートルサイズ反強誘電性粒子は1〜5マイクロメートルの粒度を有しており、実施例1の場合と同様にして20vol%及び40vol%の量でPVDFに配合した。誘電定数は、図4に示すような分極スイッチング挙動に基づいて算出した。誘電定数は実施例3に記載したようにして算出した。結果を図5にグラフとして示す。20vol%のマイクロメートルサイズ反強誘電性粒子を含むポリマー材料の誘電定数は、単独のポリマー材料の誘電定数と顕著に異なる電界同調性を示さなかった。しかし、40vol%のマイクロメートルサイズ反強誘電性粒子を含むポリマー材料の誘電定数は、単独のポリマー材料の誘電定数と顕著に異なる電界同調性を示した。例えば、図5は、40vol%のマイクロメートルサイズ反強誘電性粒子を含むポリマー材料の誘電定数が約60ボルト/マイクロメートルの電界下で単独のポリマー材料に比べて100%増加することを示している。
【0075】
上述の実施例から、本組成物の誘電定数は反強誘電性粒子を含まないポリマー材料に比べて50%以上増加できることがわかる。一実施形態では、本組成物の誘電定数は反強誘電性粒子を含まないポリマー材料に比べて200%以上増加する。別の実施形態では、本組成物の誘電定数は反強誘電性粒子を含まないポリマー材料に比べて400%以上増加する。
【0076】
例示的な一実施形態では、本組成物は、約10kJ/m以上の衝撃強さ、クラスAの表面仕上、及び100V/マイクロメートル以上の絶縁破壊強さを有する。
【0077】
別の例示的な実施形態では、本組成物は、約10kJ/m以上の衝撃強さ、クラスAの表面仕上、及び約200〜約2000時間にわたり印加された約1000〜5000ボルトに耐える耐コロナ性を有する。
【0078】
以上、例示的な実施形態に関して本発明を説明してきたが、当業者であれば、本発明の技術的範囲から逸脱せずに様々な変更及び同等物による構成要素の置換をなし得ることが理解されよう。加えて、特定の状況又は材料を本発明の教示に適合させるため、本発明の本質的な範囲から逸脱せずに多くの修正を行うことができる。したがって、本発明はこの発明を実施するために想定される最良の形態として開示された特定の実施形態に限定されず、特許請求の範囲に含まれるすべての実施形態を包含するものである。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】ポリマー材料に配合したナノサイズ反強誘電性粒子の量の関数としての誘電定数の増加を示すグラフである。
【図2】様々な重量パーセントのナノサイズ反強誘電性粒子をポリマー材料に配合したときにトリガーされる分極ヒステリシスループを示すグラフである。
【図3】ナノサイズ反強誘電性粒子をポリマー材料に配合したときの誘電定数の電界同調性を示すグラフである。
【図4】マイクロメートルサイズの反強誘電性粒子をポリマー材料に配合したときにトリガーされる分極ヒステリシスループを示すグラフである。
【図5】マイクロメートルサイズの反強誘電性粒子をポリマー材料に配合したときにトリガーされる分極ヒステリシスループを示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー材料と、
セラミック反強誘電性粒子と
を含んでなる組成物。
【請求項2】
反強誘電性状態の反強誘電性粒子がポリマー材料の誘電定数の値の50%以内にある誘電定数の値を有する、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
反強誘電性粒子がペロブスカイトからなる、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
反強誘電性粒子が下記の一般式(I)を有する、請求項1記載の組成物。
Pb(M,M,M,....)O (I)
(式中、M、M、Mは遷移金属又は希土類金属であり、Pbは鉛であり、Oは酸素である。)
【請求項5】
反強誘電性粒子が下記の式(II)を有するチタン酸ジルコニウム鉛(PZT)からなる、請求項1記載の組成物。
Pb(ZrTi1−x)O (II)
(式中、xは約1までの数である。)
【請求項6】
反強誘電性粒子が、PbHfO、PbZrO、改質Pb(ZrTi)O、PbLa(ZrSnTi)O、PbNb(ZrSnTi)O、又はこれらの反強誘電性粒子の1種以上を含む組合せからなる、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
反強誘電性粒子が下記の式(III)を有するチタン酸ジルコニウムランタン鉛(PLZT)からなる、請求項1記載の組成物。
Pb1−xLa(ZrTi1−y)1−x/4 (III)
(式中、x及びyはそれぞれ約1までの数であり、x及びyは互いに独立である。)
【請求項8】
xが約0.3までの数であり、yが約0.8〜約1の数である、請求項7記載の組成物。
【請求項9】
反強誘電性粒子が、下記の式(IV)を有するニオブ酸スカンジウム鉛(PSN)又は下記の式(V)を有するタンタル酸スカンジウム鉛(PST)からなる、請求項1記載の組成物。
PbScNb1−x (IV)
PbScTa1−x (V)
(式中、xは約1までの数である。)
【請求項10】
反強誘電性粒子が、チタン酸ニオブスカンジウム鉛(PSNT)、チタン酸ニオブルテチウム鉛(PLuNT)、又はこれらの反強誘電性粒子の1種以上を含む組合せからなる、請求項1記載の組成物。
【請求項11】
組成物の誘電定数を同調させる方法であって、
ポリマー材料とセラミック反強誘電性粒子とを含む組成物をバイアス電界に暴露する段階と、
組成物の誘電定数を変化させる段階と
を含んでなる方法。
【請求項12】
バイアス電界が約100キロボルト/ミリメートルである、請求項11記載の方法。
【請求項13】
さらに組成物を加熱する段階を含む、請求項11記載の方法。
【請求項14】
ポリマー材料とセラミック反強誘電性粒子とをブレンドして組成物を形成する段階を含んでなる方法。
【請求項15】
さらに組成物を流延する段階を含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
さらに組成物を射出成形する段階を含む、請求項14記載の方法。
【請求項17】
さらに、セラミック反強誘電性粒子を低誘電定数状態から高誘電定数状態に変換させる段階を含む、請求項14記載の方法。
【請求項18】
ポリマー材料とセラミック反強誘電性粒子とをブレンドして組成物を形成する段階と、
組成物に電界を印加する段階と、
セラミック反強誘電性粒子を再配向させる段階と
を含んでなる方法。
【請求項19】
組成物に電界を印加する段階がセラミック反強誘電性粒子に柱状組織を形成させる、請求項18記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−182554(P2007−182554A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−317223(P2006−317223)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】