説明

反応器用のガス分配器

反応器(21)用のスパージャーシステム(10)が、スパージャーの上方に配置された分配システムを介して反応器の床板上のスパージャーに反応物を供給するための供給管を備える。ガス又は他の反応物を床板全体に放出するために、一般にスパージャーの出口(12)は床板の方向を向いているか又は床板に平行な方向に向いている。これにより、反応器の床板上への触媒の沈降が抑制されることで、スラリーの混合が改善され、制御されない反応に関連した問題が緩和される。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は反応器において使用するスパージャーシステムに関する。特に、本発明は、フィッシャー・トロプシュ反応などの発熱反応に用いられる反応器に適したスパージャーシステムに関すると共に、この反応器とスパージャーシステムを用いるプロセス中に一酸化炭素の水素化により生成できる炭化水素やこれらの炭化水素から誘導される燃料にも関する。
【背景技術】
【0002】
フィッシャー・トロプシュ法は炭化水素供給原料を液体及び/又は固体の炭化水素に変換するためにしばしば用いられる。第1段階で、供給原料(例えば天然ガス、随伴ガス、炭層メタン、残油(原油)留分及び/又は石炭)を水素と一酸化炭素との混合物(この混合物はしばしば合成ガスと称される)に変換する。第2段階では、この合成ガスを反応器に送り、そこで高温高圧で適当な触媒上で炭素原子数200まで、又は特定の環境下ではそれより多くの炭素原子数を含んだメタンから高分子量の分子までの範囲のパラフィン系化合物に変換する。
【0003】
フィッシャー・トロプシュ反応を行なわせるために多くの種類の反応器システムが開発されてきた。例えば、フィッシャー・トロプシュ反応器システムとして、固定床反応器(特に多管固定床反応器)、流動床反応器(エントレインド式(entrained)流動床反応器や固定流動床反応器など)、及びスラリー床反応器(三相スラリーバブル塔やエバレーテッド式(ebulated)床反応器)が挙げられる。
【0004】
フィッシャー・トロプシュ反応は高い発熱性であり温度に敏感なので、最適な動作条件と所望の炭化水素生成物の選択性とを維持するために注意深い温度制御が必要とされる。
【0005】
固定床反応器(例えば多管固定床反応器)の熱伝達の特性は、流体の相対的に低い質量速度、小さな粒子サイズ及び低い熱容量ゆえに一般に劣る。しかしながら、もしガス速度を増すことにより熱伝達を改善しようとすると、より高度なCO変換は得ることができるが、反応器での圧力低下が過度になるので、工業的な実行が制限される。所望のCO変換と工業的に利益のでるガス処理量を得るために、実質的に半径方向の温度勾配が生じる状態になる。そのため、半径方向の過度な温度プロファイルを避けるため、フィッシャー・トロプシュ固定床反応器管は、7cm未満又は5cmに等しい直径を有すべきである。フィッシャー・トロプシュ固定床反応器における高活性触媒の望ましい使用により、状況はさらに悪くなる。熱伝達特性が悪いので、局所的なランナウェー(ホットスポット)が起こることで、触媒の局所的な失活が生じ得る。ランナウェー反応を防ぐためには、反応器内の最大温度を制限しなければならない。しかしながら、反応混合物内の温度勾配の存在は、多量の触媒が最適レベルには及ばないレベルで作用し得ることを意味している。
【0006】
固定床設計の全体性能を改善する手段としての液体リサイクルの使用も記載されている。このシステムは(固定床反応器システムの一部としての)「細流床」反応器とも称され、反応物のガスと液体の両方が(好ましくは触媒に対してダウンフロー方向に)同時に導入される。流れる反応物のガス及び液体の存在により、CO変換と生成物の選択性とに関する反応器の性能が強化される。(任意の固定床の設計のみならず)細流床システムの制約は、高い質量速度での動作に伴う圧力低下である。固定床におけるガス充満の空隙率(典型的には0.50未満)や触媒粒子のサイズ及び形状ゆえに、過度の圧力低下なしに高い質量速度を得ることはできない。したがって、反応器の単位体積当たりの変換される質量処理量は、熱伝達率のために制限される。個々の触媒粒子のサイズを増す場合、(所与の圧力低下に対して)質量速度を大きくすることにより、熱伝達が改善されるが、一般に、高沸点生成物に対する選択性の喪失、及び触媒活性の増大に伴うメタン選択性の増大が、より高い熱伝達の工業上の動機付けを相殺する。
【0007】
一般に、三相スラリーバブル塔反応器は、熱伝達特性の点で固定床設計に対して有利である。一般にこの反応器は、液体連続マトリックス中に下向きに流れるガスにより懸濁した小さい触媒粒子を混合する。複数の冷却管が三相スラリーシステム中に存在する。連続液体マトリックスの動きにより、高い工業生産性を達成するのに十分な熱伝達が可能となる。触媒粒子は液体連続相内を動くことで、発生した熱を触媒粒子から冷却面に効率的に伝達する一方で、反応器中の液体の多量の残存量が高い熱慣性を与え、熱のランナウェーを生じ得る急速な温度上昇を防止するのを助ける。
【0008】
一般に懸濁液ゾーンの底に又は底の近くに設けられた1個以上のガススパージャーにより、懸濁液ゾーンを通して供給ガスを適切に分配することが保証される。公知のガススパージャーの例は、多孔板や多孔管の配列である。この板又は管の細孔は、ガスを適切に通過させるには十分大きいが、固体粒子が細孔に入るのを阻止するほど十分に小さい。しかし、例えば固体粒子の摩耗やガス供給の不足により、深刻な細孔の目詰まりが生じ得る。さらに、相対的に小さな細孔により、細孔にて大きな圧力低下が生じる。
【0009】
他の公知のガススパージャーとしては、エジェクター・ジェットやスリット・ジェットなどのダイナミック・ガス・ジェットが挙げられる。このようなガススパージャーに関連した問題としては、ガス供給が停止した場合、液体/固体の懸濁液の排水が懸濁液ゾーンからガス供給システムに入る危険性が挙げられる。この危険性は、ガス出口がガス供給システムより上方に設けられているか又はガス供給システムと同じレベルに設けられている場合に存在する。
【0010】
公知のガススパージャーの概要については、「Bubble Column Reactors」,W.-D.Deckwer,1992,John Wiley & Sons,第9-13頁に開示されている。スパージャーについてもEP-A-956126に記載されている。GB 787,123には、簡易なノズル又はジェットを備えた管路を用いる注入システムが記載されている。しかし、ガス出口は注入管路と同じレベルにある。よって、圧力差が小さいので、スラリーが注入管路に直接進入し得る。
【0011】
本発明のガススパージャーの目的は、従来技術のガススパージャーに関連の問題を解決することである。
【特許文献1】EP-A-956126
【特許文献2】GB 787,123
【特許文献3】欧州特許出願公開第0450859号
【非特許文献1】「Bubble Column Reactors」,W.-D.Deckwer,1992,John Wiley & Sons,第9-13頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
よって、現在の状況によるスパージャーシステムでは、ガス出口(すなわちガスがスパージャーシステムから出るところであり、かつガスがスラリー中に導入されるところの開口部)は、スラリーが分配システムに進入することを防止するために、ガス分配システムより十分に下方に配置される。この点について、スラリーの進入により、スパージャーシステムの内部に触媒粒子が堆積し得ることが分かった。液体の熱伝達媒体が存在せず、多量の水素と一酸化炭素が存在する場合、上記の触媒粒子又は触媒堆積物は発熱反応を触媒し続ける。このようにして、局所的なホットスポットが形成され、これがスパージャーシステムを損傷し得る。加えて、ケーク堆積物が形成され得る。特に長い運転時間(その間にスラリーが定期的にスパージャーシステムに進入する)の後、かなりの量のケークが形成されて、スパージャーシステムにおける1個以上のパイプの(部分的な)閉塞が生じ得る。このことは防止しなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
したがって、本発明は、反応器内で使用するスパージャーシステムであって、前記スパージャーシステムは、ガスを反応器に送り込むためのガス出口と、ガスを前記出口に供給するガス分配システムとを備え、ガス出口から放出させるガスをスパージャーに供給する前記ガス分配システムが、スパージャーシステムにおけるスパージャーの前記出口より上方に配置されることを特徴とするスパージャーシステムを提供する。
一般にこのスパージャーシステムは発熱反応を行なわせる反応器において有用である。
【0014】
一般に、スパージャー出口は反応器の床板にできるだけ近接して、一般には20cm未満の距離にて、さらに好ましくは10cm未満の距離にて配置される。加えて、適切には、すべてのスパージャーのガス出口は、分配システムより15cm以上下方に配置され、好ましくはすべてのスパージャー出口は分配システムより30cm以上下方に配置される。通常は、スパージャー出口は分配システムより0.5〜5m下方、好ましくは1〜3m下方にある。通常はスパージャーとスパージャー出口とは反応器内でほぼ同じレベルにある。適切には、(垂直な)反応器におけるスパージャーの中央スペースの中心間での高さの差は、40cm未満、好ましくは30cm未満、さらに好ましくは20cm未満である。
【0015】
適切には、ガス分配システムはガスをスパージャーに供給するパイプ配列を備える。一例として、(大きな)水平の分配器パイプが複数の(小さな)水平なサイドパイプを備え、各サイドパイプが、反応器の底近くに設けられたスパージャーに連結された1個以上の垂直パイプを備える。別の例として、水平な円形の分配器パイプが複数の垂直パイプを備え、その端部が反応器の底に近接しており、垂直パイプはその端部で例えば2又は4個の水平なパイプに連結され、これらの水平なパイプがスパージャーに連結されている。別の例が図面に示されている。ガス分配システムはガス供給パイプを備え、ガス供給パイプは、反応器壁を通って外部のガス供給システムに連結される。適切には、反応器壁を介したこの連結は、例えば水平な分配器パイプと同じレベルにあるが、好ましくはより高いレベルにある。適切には、反応器壁を介したガス供給の連結は、スパージャー出口より0.3〜8m上方、好ましくは0.5〜5m上方、さらに好ましくは1〜3m上方にある。例外的な場合として、上部で反応器に入る細長いパイプを使用してもよい。特定の場合には、1つのガス供給パイプを使用してもよく、別の場合には、複数(例えば2〜10個)使用してもよい、。反応器は1つのスパージャーシステムを備えることもでき、又は複数のスパージャーシステム、例えば2〜16、特に4〜12個を備えることもできる。
【0016】
本出願では、スパージャーは1個以上のスパージャー出口を介してガスをスラリーに導入する装置である。ガス分配手段に流動連結し且つスパージャー出口(又はガス出口)に流動連結した中央スペースが存在する。ガス分配手段はガス分配システムと通常は分配導管手段とを備える。スパージャーは分配システムに直接連結でき、好ましくは、分配導管を介して連結できる。たいていの状況では、分配システムは(垂直な)反応器の軸に垂直な1つの(水平な)平面内にある。スパージャーは分配システムの一部ではない。よって、ガス出口手段を備えた中央の分配器パイプから成る分配システムは、スパージャーが存在しないので、特許請求の範囲に記載の範囲内にない。
【0017】
本発明によるスパージャーシステムの利点は、反応器の内部で可動部分が必要ないことである。ガス流は反応器の外部で制御できる。このように、好ましくは反応器内に可動部分が存在せず、又は使用されるすべての要素が静止要素である。
【0018】
また、ガス分配システムの最高地点にある反応器を介したガス供給連結が、スパージャー出口より上方に位置するので、スラリーがスパージャー及びガス分配システムに流入することに対する自然の障壁が存在する。別の好ましい態様では、反応器壁を介したガス供給連結は、垂直の円筒形の反応器壁において、垂直円筒壁が反応器の通常はドーム形又は球形の底部に変わる変わり目よりも、好ましくは0.2m以上、さらに好ましくは0.3〜2m上方に位置する。
【0019】
本発明はまた、本発明の上記態様によるスパージャーを組み込んだ反応器を提供する。
特定の態様では、スパージャー出口は、スパージャーの端部に配置され、スパージャーは、ガスをスパージャーに供給する分配導管の端部にある。
一般に、ガス出口は、反応器の床板の全体にガスを放出するよう適合している。
【0020】
スパージャー出口から放出されるガスで反応器の床板を吹き払うことは、反応器内で触媒の分配を促進し、反応器の底部での混合を改善する利点を有し、このことは、熱を冷却モジュールに伝達する上で有利であり、局所的なホットスポットが阻止される。また、このことにより触媒の粒子が床板から分散し、結果としてこのゾーン内で生じ得る触媒の局所的な積み重なりと局所的なホットスポットが防止される。
【0021】
したがって、発熱反応を実行させるのに特に適した反応器であって、発熱反応の結果として発生する熱を制御する冷却手段を備えた反応器において、触媒を反応器の床板から吹き払うことにより、スパージャー出口より上方のゾーン(ここでは通常は冷却液循環管がこのような反応器内では多数を占める)でのみ触媒が循環し、その結果、たいていの発熱反応は冷却液循環管が密集した反応器のゾーンにおいて発生する。このことにより、反応の制御が容易になり、冷却手段により制御されない領域内でホットスポットの障害が抑制される。
【0022】
また、ガス分配器システムより下方にスパージャー出口を配置することにより、反応器の床板に隣接した反応器の下部領域での混合及び熱の除去が容易になり、そこでの蝋又は副生成物の積み重なりが阻止されると共に、触媒の沈降も阻止される。
【0023】
一般に、ガス出口は反応器の下部内面に平行に又は下部内面の方に向けられて配置される。一般に各スパージャー装置はスパージャーヘッドから外側に向けられた複数の出口(例えば6〜12個)を有し、一般にこれらの出口はスパージャーヘッドの周囲に互いに等距離にて配置され、それにより、出口を出るガスジェットが反応器の周囲の領域を一様に吹き払う。特定の態様では、出口からのガスジェットを床板表面に向けて直接方向付けることができる。
【0024】
一般にスパージャーヘッドは、反応器の床板上で規則的なパターンにて互いに間隔を置いて配置される。一般に、スパージャーヘッドのパターンと密度、及びスパージャーヘッドを出て行くガスジェットの速度は、ガスジェットがヘッドを取り囲むスラリー中に放射状に十分侵入して、反応器断面の十分な到達範囲を確保すると共に、触媒の摩耗を防ぐべくガス注入速度を制限するように選択される。
【0025】
一般に、ガス出口には、出口を通るガスジェットの速度を調整するためにオリフィスなどの流れ制御手段を組み込む。一般に、このオリフィスはベンチュリ形オリフィスであり、出口中へのスラリーの流れを制限するために逆止弁が随意に組み込まれる。出口からのガスの注入速度を制限することで触媒の摩耗を抑えるために、一般に出口オリフィスは大径のシュラウドパイプにより覆われ、このシュラウドパイプは、所望の注入速度及びスパージャーの寸法に依存した最小距離だけオリフィスを越えて延び、その結果、オリフィスを出て行くガスジェットの運動エネルギーは、スラリーに入る前にシュラウドパイプ内である程度浪費される。一般に、反応器の床板は凹形であり、一般には床板の曲線の接線に平行である真っ直ぐなガス出口シュラウドパイプでは、通常はガスジェットは出口を出て行く際には床板に向けて方向付けられるので、吹き払う機能が強化される。
【0026】
別の態様によると、本発明は、反応器に反応物を入れて反応生成物を反応器から取り出すステップを含む反応実行方法であって、スパージャー装置を介して反応物の少なくとも一部を反応器に供給し、スパージャー装置が反応物を出口から放出し、スパージャーより上方に配置された分配システムを介して反応物をスパージャー装置に供給する方法を提供する。
【0027】
スパージャーシステム内に存在する触媒粒子を除去する別の可能性は、スパージャーシステムを流れるガス流中に適当な液体を注入することである。これは断続的に又は連続的に行なうことができる。適する注入液体は炭化水素、特にフィッシャー・トロプシュ法で作られる炭化水素である。直接得られる炭化水素を使用してもよく、例えばスラリーの濾過で得られる反応器蝋、又は120〜500℃、特に150〜360℃の範囲での蒸留で得られる留出物の留分を使用できる。また、沸点が120〜500℃、特に150〜360℃の水素化及び/又は水素化分解された留分を使用してもよい。これらの注入液体は好ましくは反応器の外部の注入ノズルを介して注入される。スパージャーシステムにおけるガスのフローパターンは下方向に向けられるので、注入される液体がシステム内に存在し得る触媒粒子及び/又は触媒堆積物を洗い流す。好ましい態様では、注入液体は100〜250℃、さらに好ましくは150〜225℃の温度に加熱される。
以下、本発明は特定の態様に限定されるものではないが、図面に関してさらに詳細に本発明を説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
図1の反応器20は、反応物を送り込むチャンバーを形成する外側シェル21を有する。一般にこの態様の反応器は、例えばフィッシャー・トロプシュ型反応などの三相スラリー反応を行なわせるために用いられる。液相反応物と固体粒状触媒とが供給管(図示せず)から反応器チャンバーに供給され、気相反応物が反応器の床板上に配置されたガススパージャー15の配列によって反応器中に送られる。スパージャー15はガスの泡を放出する出口を有し、このガスの泡は液相中を上昇して液相中で固体粒状触媒と相互作用して反応生成物を形成し、この反応生成物が反応器から取り出される。
【0029】
フィッシャー・トロプシュ反応は発熱性であるので、反応器20は、反応器シェル21内の冷却液パイプから成る循環システムを介して冷却液を供給し循環させるために、複数の冷却モジュール1(明瞭にするため1つのみ図示)を収容する。冷却モジュール1は反応器シェル21の床板上に置かれたサドルにより下から支持される。熱は、冷却液が該モジュールの循環システムを通過する際に、冷却モジュール1を取り囲むスラリーから冷却液に伝達される。適する冷却液は当業者には分かるであろうが、例えば水/水蒸気又は油をベースにした冷却液が挙げられる。
【0030】
好ましくは、反応器20のくぼんだ床板の短半径ゾーンが反応器中への合成ガス出口の上方にあるとすると、合成ガスは、図3に図示されるように、反応器内の低いレベルにて、随意に該ゾーンにできるだけ近接して反応器中に供給される。冷却液パイプを連結するのに用いるのと同じ設計のC形クランプ5により、外部の合成ガス供給管を反応器へのエントリ地点にてシェル21上のフランジに連結できる、それにより、反応器の全体にわたって設計の変化を最小にする。次に、合成ガスは、(C形クランプ5によりフランジにて共に締めつけられた)分配器パイプ10を介して反応器20の床板のガスマニホールド11に供給される。図示された例では各マニホールド11は1つの分配器パイプにより供給されるが、所望ならば1つの分配器パイプが複数のマニホールドに供給することもできる。各マニホールド11は複数のスパージャー15(例えば4個)に連結されてそれらを支持し、スパージャー供給管12を介して合成ガスを供給する。スパージャー供給管12はC形クランプ5によりスパージャーに連結される。
【0031】
スパージャー15は、図5に示されるように、反応器20の床板上に一様なパターンで配置され、一般にはサドル23の周りに配置される。各スパージャー15は、8個のオリフィス17を有する中央チャンバー16を備える。オリフィスの各々は、狭いベンチュリ形スロートを介して、反応器への出口19を有するより広い直径のシュラウドパイプ18に連結される。各シュラウドパイプ18は反応器シェル21の床板に平行に配置される。特定の態様では、反応器シェル21の床板に向けて浅い角度にてシュラウドパイプ18を方向付けることができる。
【0032】
運転中、合成ガスは分配器パイプ10を通してマニホールド11に送られ、スパージャー供給管12を通してスパージャー15に送られる。スパージャー16の中央チャンバーを介して、合成ガスがオリフィス17及びベンチュリ管を通してシュラウドパイプ18中に一様に分配される。ベンチュリ管はスラリー(特に触媒)がオリフィスに入るのを制限する。
【0033】
随意に、触媒が合成ガス分配システム中に侵入するのを防止するため、ガス供給又は分配システム内にて(一般には可動部分を反応器シェルの外側に保持するように反応器の外部にて)ある場所に逆止弁(図示せず)を配置してもよい。
【0034】
マニホールド11におけるベンドは可能ならば避けるのが好ましいが、たまにマニホールドを各スパージャー15と連結するのに必要とされる。その場合には、図5に示されるように、一般にベンドは垂直平面内よりもマニホールドの水平な平面内に形成される。このことにより、スパージャー15へのガス供給分配システムにおけるダウンフローが最大になり、これは供給システムへのスラリーの侵入を抑制する利点を有する。更に、このことにより、触媒がガス供給システムに入ること、並びにその結果として生じる汚れ、閉塞、及びスラリー中の液体反応物と供給システム中の合成ガスとの発熱反応に起因した制御されない熱生成が制限される。スパージャー15又は供給管中へのスラリーの小さな逆流は、ガスの正圧力を維持すること、及びガス供給システムを時々パージングすることにより対応できる。
【0035】
シュラウドパイプ18のより広い直径及び長さが原因で、ベンチュリ管を出て行くガスジェットは、ベンチュリ管の下流のシュラウドパイプ18内で一定の流れになるまで、シュラウドパイプ18内である程度消散する。したがって、注入速度及び圧力を小さくするために、より大きなパイプを使用することができる。所望のガス注入速度とパターンとスパージャー数と共に、シュラウドパイプ18の直径と長さは、ガスがスラリー中に放射状に適当に侵入して反応器の床板からの触媒の分散の効果を確実に得るのに十分なだけ高い許容レベルではあるが、触媒の過度の摩耗を避けるだけ十分に低い許容レベルまで、パイプ18の出口からの流出速度を低減するように選択される。反応器とスパージャーシステムとの標準的な使用を表しているこの例では、分配システムへの入口での合成ガス流は反応条件にて約5〜10m/秒である。オリフィス17の直径は約30〜40mmであり、シュラウドパイプ18は長さが200mm以上で、IDは約40〜60mmである。スパージャー中での供給ガス速度は、最大約5〜15m/sに制限される。これらの数値は任意であり、限定するものではないことが理解される。
【0036】
この態様の各スパージャー15は8個の出口19を有し、反応器20の床板全体に32個のスパージャーからなる規則的なパターンにて配置されている。この配置により、実質的に反応器の床板全体に、反応器の残りの内容物に対してわずかに大きな圧力にて合成ガスが一様に供給されことが保証され、これにより、触媒の沈降が阻止される。
【0037】
好ましい態様では、スパージャーは、反応器の底部から同一距離にて配置され、例えば反応器の床板上に物理的に支持されるか、又は、(好ましくは)供給管12上で反応器床板より数mm上方にて上方から支持される。このことは、反応器シェルが凹形の床板を有する場合には、反応器の中心軸のところ(ここは凹形面が最も深いところ)のスパージャーと、(反応器シェル21の床板面と壁との間の変わり目に近い)床板の周辺のところのスパージャーとの間でわずかな静水圧力差が存在することを意味する。この静水圧力差はスパージャー15からのガス分配の一様性に影響し得るので、この効果を補償するため、一般に反応器シェル21の床板は1:2の高さ/直径比を有する。また、一般に、反応器の中心(又は他の場所)におけるスパージャー15のオリフィスは、反応器20内のすべてのスパージャー15についてガスジェット速度及び圧力を等しくするように変えられる。
【0038】
一般に、スパージャー供給管11は、スパージャー15からのガスジェット速度に影響を与える分配システム中での圧力損失を防止するために、比較的広い直径を有する。
【0039】
好ましい態様では、スパージャーは、図5に示されるように、冷却モジュールを支持するためのサドル3の間に配置され、できるだけ真っ直ぐな供給管10を介して上方から供給される。この構成は、供給管又は支持構造をスパージャーと反応器の床板との間に配置する必要がないので、スパージャー出口19を反応器シェル21の床板に非常に近接して配置するのに役立つ。この例では、スパージャー出口19はシェル21の床板よりも10cm未満(例えば5cm)上方にある。一般に、反応器20の床板上のスパージャー分配パターンは、反応器内の冷却モジュールのパターン(図4に輪郭形状として図示)にできるだけ一致するように選択され、それにより、注入された合成ガスともう一方の反応物との反応が懸濁触媒の存在下でできるだけ冷却モジュールの近傍で生じる。このことは、反応ホットスポット(ここでは反応を制御するため過剰な合成ガスが1つの特定の領域の冷却容量のために該領域に加えられる)を抑制するのに役立つ。
【0040】
好ましい態様では、スパージャー15は同一で交換可能であり、反応器の全体においてフランジ付きパイプ上に同じC形クランプ連結が用いられる。
【0041】
本発明の範囲を逸脱することなく変更及び改良を組み入れることができる。例えば、触媒粒子の平均粒子サイズは、特にスラリーゾーン方式の種類に依存して広い限度内で変わり得る。一般的に、平均粒子サイズは1μm〜2mm、好ましくは1μm〜1mmの範囲とし得る。
【0042】
平均粒子サイズが100μmより大きく、粒子が機械的な装置によって懸濁中に保持されない場合には、一般にそのスラリーゾーン方式はエバレーティング(ebullating)床方式と言われる。好ましくは、エバレーティング床方式中の平均粒子サイズは、600μm未満、さらに好ましくは100〜400μmの範囲である。一般に粒子の粒子サイズが大きくなればなるほど、粒子がスラリーゾーンからフリーボードゾーンに脱出する可能性は小さくなることが分かる。よって、エバレーティング床方式が用いられる場合には、主に触媒粒子の微粉がフリーボードゾーンに脱出する。
【0043】
平均粒子サイズが100μm以下であり、粒子が機械的な装置によって懸濁中に保持されない場合には、一般にそのスラリーゾーン方式はスラリー相方式と言われる。好ましくは、スラリー相方式中の平均粒子サイズは5μmより大きく、さらに好ましくは10〜75μmの範囲にある。
【0044】
粒子が機械的な装置によって懸濁中に保持される場合には、一般にそのスラリーゾーン方式は撹拌タンク方式と言われる。基本的に上述した範囲内の任意の平均粒子サイズが適用できることが分かる。好ましくは、平均粒子サイズは1〜200μmの範囲内に維持される。
【0045】
スラリー中に存在する触媒粒子の濃度は、5〜45体積%、好ましくは10〜35体積%の範囲とし得る。例えば欧州特許出願公開第0450859号に記載のように、さらに他の粒子をスラリーに添加することが望ましいかもしれない。一般的にスラリー中の固体粒子の全濃度は、50体積%以下、好ましくは45体積%以下である。
【0046】
適するスラリー液は当業者には公知である。一般的に、スラリー液の少なくとも一部は発熱反応の反応生成物である。好ましくは、スラリー液はほぼ完全に反応生成物である。
【0047】
発熱反応は、固体の触媒の存在下で起こされる反応であり、三相スラリー反応器内で起こさせることのできる反応である。一般的に、発熱反応の反応物の少なくとも1種はガス状である。発熱反応の例としては、水素化反応、ヒドロホルミル化、アルカノール合成、一酸化炭素を用いた芳香族ウレタンの製造、Kolbel-Engelhardt合成、ポリオレフィン合成、及びフィッシャー・トロプシュ合成が挙げられる。本発明の好ましい態様によると、発熱反応はフィッシャー・トロプシュ合成反応である。
【0048】
フィッシャー・トロプシュ合成は当業者にはよく知られており、水素と一酸化炭素とのガス状混合物を反応条件にてフィッシャー・トロプシュ触媒と接触させることにより該混合物から炭化水素を合成することを含む。
【0049】
フィッシャー・トロプシュ合成の生成物は、メタンから重質パラフィン系蝋までの範囲とし得る。好ましくは、メタンの製造を最小にし、製造される炭化水素のかなりの部分が炭素原子5以上の炭素鎖長を有する。好ましくは、C+炭化水素の量は、全生成物の60重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、さらにいっそう好ましくは80重量%以上、最も好ましくは85重量%以上である。
【0050】
フィッシャー・トロプシュ触媒は当該技術において公知であり、一般的に第VIII族の金属成分、好ましくはコバルト、鉄及び/又はルテニウム、さらに好ましくはコバルトが挙げられる。一般的に、触媒は触媒の担体を含む。好ましくは、触媒担体は多孔性の無機耐火性酸化物などの多孔性であり、さらに好ましくはアルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア又はそれらの混合物である。
【0051】
担体上に存在する触媒活性金属の最適な量は、特に特定の触媒活性金属に依存する。一般的に、触媒中に存在するコバルトの量は、担体物質の100重量部当たり1〜100重量部、好ましくは担体物質の100重量部当たり10〜50重量部の範囲とし得る。
【0052】
触媒活性金属が、1種以上の金属助触媒又は共触媒と共に触媒中に存在してもよい。助触媒は、関連する特定の助触媒に依存して、金属又は金属酸化物として存在し得る。適する助触媒としては、周期表の第IIA、IIIB、IVB、VB、VIB及び/又はVIIB族の金属の酸化物、ランタニド系元素及び/又はアクチニド系元素の酸化物が挙げられる。好ましくは、触媒は周期表第IVB、VB及び/又はVIIB族の元素の少なくとも1種、特にチタニウム、ジルコニウム、マンガン及び/又はバナジウムを含む。金属酸化物の助触媒の代わりとして、又は金属酸化物の助触媒に加えて、触媒は周期表第VIIB及び/又はVIII族から選択された金属助触媒を含んでもよい。好ましい金属助触媒としては、レニウム、白金及びパラジウムが挙げられる。
【0053】
最も適切な触媒は、触媒活性金属としてコバルトを、助触媒としてジルコニウムを含む。別の最も適切な触媒は、触媒活性金属としてコバルトを、助触媒としてマンガン及び/又はバナジウムを含む。
【0054】
助触媒は、もし触媒中に存在するならば、一般的には担体物質の100重量部当たり0.1〜60重量部の量が存在する。しかしながら、助触媒の最適な量は助触媒として作用する夫々の元素について変わり得ることが分かる。触媒が触媒活性金属としてコバルトを含み、助触媒としてマンガン及び/又はバナジウムを含む場合には、コバルト:(マンガン+バナジウム)の原子比は少なくとも12:1とするのが有利である。
【0055】
好ましくは、フィッシャー・トロプシュ合成は、125〜350℃、さらに好ましくは175〜275℃、最も好ましくは200〜260℃の範囲の温度で行なう。好ましくは、圧力の範囲は、5〜150絶対バール、さらに好ましくは5〜80絶対バールである。
【0056】
一般的に水素と一酸化炭素(合成ガス)は、0.4〜2.5の範囲のモル比にて三相スラリー反応器に供給される。好ましくは、一酸化炭素に対する水素のモル比は、1.0〜2.5の範囲内である。
【0057】
ガスの毎時の空間速度は広範囲に変わり得るが、一般的には1500〜10000Nl/l/h、好ましくは2500〜7500Nl/l/hの範囲内である。
【0058】
好ましくは、フィッシャー・トロプシュ合成は、スラリー相方式又はエバレーティング床方式において実行され、その際、触媒粒子は上方向の表面上のガス及び/又は液体速度により懸濁中に保持される。
当業者ならば特定の反応器の構成及び反応方式に最も適する条件を選ぶことができることが分かる。
【0059】
好ましくは、合成ガスの表面上のガス速度の範囲は、0.5〜50cm/秒、さらに好ましくは5〜35cm/秒である。
一般的には、液体の製造を含めて表面上の液体速度は、0.001〜4.00cm/秒の範囲内に維持される。好ましい範囲は、運転の好ましいモードに依存し得ることが分かる。
好ましい態様によると、表面上の液体速度は0.005〜1.0cm/秒の範囲内に維持される。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】スパージャーシステムを有する反応器の一般的な構成の側面図である。
【図2】図1の反応器の底部でのスパージャーの平面図である。
【図3】図2のスパージャーの側面図である。
【図4】スパージャーパイプの平面図である。
【図5】スパージャーパイプの側面図である。
【図6】スパージャーヘッドの側面図である。
【符号の説明】
【0061】
1…冷却モジュール
5…C形クランプ
10…分配器パイプ
11…マニホールド
12…スパージャー供給管
15…スパージャー
16…中央チャンバー
17…オリフィス
18…シュラウドパイプ
19…出口
20…反応器
21…外側シェル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応器内で使用するスパージャーシステムであって、前記スパージャーシステムは、ガスを反応器に送り込むためのガス出口と、ガスを前記出口に供給するガス分配システムとを備え、ガス出口から放出させるガスをスパージャーに供給する前記ガス分配システムが、スパージャーシステムにおけるスパージャーの前記出口より上方に配置されることを特徴とするスパージャーシステム。
【請求項2】
前記ガス出口は反応器の床板全体にガスを放出するよう適合している請求項1に記載のスパージャーシステム。
【請求項3】
前記スパージャー出口がスパージャーの端部に配置され、スパージャーがガスをスパージャーに供給する分配導管の端部に配置される請求項1又は請求項2に記載のスパージャーシステム。
【請求項4】
前記ガス出口と反応器の床板との距離が10cm未満であり、かつ/又はスパージャーガス出口間の距離が分配システムの下方で15cm以上であり、好ましくはスパージャー出口は分配システムより30cm以上下方にある請求項1〜3のいずれか一項に記載のスパージャーシステム。
【請求項5】
前記ガス出口に、前記出口を通るガスジェットの速度を調整する流量制御手段を組み込んだ請求項1〜4のいずれか一項に記載のスパージャーシステム。
【請求項6】
前記流量制御手段がベンチュリ形オリフィスであり、好ましくはスパージャーがシュラウドパイプを備えてガスの注入速度を制限する請求項5に記載のスパージャーシステム。
【請求項7】
各スパージャーがスパージャーヘッドから外側に向けられた複数の出口を有し、これらの出口は互いに等距離にてスパージャーヘッドの周囲に配置される請求項1〜6のいずれか一項に記載のスパージャーシステム。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のスパージャーシステムを有する反応器であって、好ましくは反応器内の発熱反応を制御するよう適合した冷却手段を備えた反応器であり、スパージャーと冷却手段が対応したパターンにて配置され、さらに好ましくはガス出口が反応器の床板にほぼ平行に配置されるか又は反応器の床板に向けて方向付けられる反応器。
【請求項9】
反応器に反応物を入れて反応生成物を反応器から取り出すステップを含む反応実行方法であって、スパージャー装置を介して反応物の少なくとも一部を反応器に供給し、スパージャー装置が反応物を出口から放出し、スパージャーより上方に配置された分配システムを介して反応物をスパージャー装置に供給し、好ましくは複数のスパージャー装置が互いに一定の間隔で反応器の床板上に規則的なパターンにて配置されるか又はスパージャー装置が反応器の床板全体に出口から反応物を放出する方法。
【請求項10】
触媒、好ましくは担持されたコバルト触媒の存在下でかつ液体炭化水素の存在下で一酸化炭素と水素を反応させることにより反応器内で炭化水素を製造する方法であって、該方法においては、請求項1〜9のいずれか一項又は複数項に記載のスパージャーシステムにより一酸化炭素と水素とを反応器に導入し、その後、随意に水素化及び/又は水素化分解を行なった後、蒸留を行なってナフサ、ケロシン(kero)、ガス油、蝋ラフィネート及び/又は基油を得る方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−527793(P2007−527793A)
【公表日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−502333(P2007−502333)
【出願日】平成17年3月7日(2005.3.7)
【国際出願番号】PCT/EP2005/050999
【国際公開番号】WO2005/084790
【国際公開日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(390023685)シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ (411)
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
【Fターム(参考)】