説明

反応容器、反応装置と反応容器の閉塞方法

【課題】反応室の閉塞をより確実に行う。
【解決手段】反応容器は互いに閉塞可能な本体2と蓋体3とを有する。本体2に反応試薬を設置する凹部形状のウェル6を形成する。所定間隔で各3個並べたウェル6の両側に導入口7と空気口8を形成し、外部に連通させる。導入口7から各ウェル6に連通する流路9を形成して空気口8に接続させる。導入口7から導入する反応試液を流路9を通して各ウェル6に供給する。蓋体3にもウェル6に対向する位置に凹部形状のウェル6′を形成する。本体2と蓋体3の間に弾性シート11を介在させる。弾性シート11はウェル6に対応する位置に孔部12を形成する。反応容器を加重部材の台と押さえ部材とで挟持させ、加圧状態で固定部材によって固定する。反応容器の弾性シート11は弾性変形して流路9を封止して各ウェル6、6′を独立して液密に封止させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば遺伝子解析チップ等を含む反応容器を液密に閉塞させることができる反応容器、反応装置及び反応容器の閉塞方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大型の実験装置や大量の反応試薬を使用することなく、生体反応を実験室で行う方法として、マイクロチップやラボオンチップといった微少量の反応系を利用することが一般的に行われている。
このような小型の生体反応用器具として、マイクロタイタープレート等の多数の微少なウェルを有する反応容器が利用されている。生体反応では、同じ試料に対して複数の試薬や異種の試薬を作用させ、同時に分析することが通常行われている。このような場合、反応容器における複数のウェルにそれぞれ異なる試薬を入れておき、このウェルにサンプルを流路を通して導入する。そして、反応が開始する前に流路を閉塞することで反応容器の各ウェルを独立させ、所望の反応を各ウェル毎に行わせるようにしている。
このような反応容器として、例えば下記特許文献1に記載されたものがある。特許文献1に記載された反応容器では、変形可能なシールを有するウェルの集合体にサンプルを導入した後に、治具を用いてシールを永久変形させて流路を閉塞することで各ウェルを独立させて、ウェル毎に所望の反応を起こさせるサンプル処理装置が開示されている。
【特許文献1】特表2004−502164号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載されたサンプル処理装置では、操作者が治具を用いてシールを人手で永久変形させて流路を封止するようにしているために、操作者によっては流路を完全に封止することができず、一のウェルから周辺の他のウェルにサンプルが流入してコンタミネーションを起こしてしまい所望の反応を行えないという不具合があった。
【0004】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、反応室の閉塞をより確実に行えるようにした反応容器、反応装置と反応容器の閉塞方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による反応容器は、互いに閉塞可能な本体と蓋体を有していて、これら本体と蓋体の少なくとも一方に反応試薬を設置する反応室を有していて、本体と蓋体の間に弾性体を介在させたことを特徴とする。
本発明によれば、本体と蓋体を閉じて弾性体を押圧することで弾性体を弾性変形させて反応室を液密に封止することができるから、他の反応室にサンプルが流入してコンタミネーションを起こすことを確実に防止することができて所望の反応を行うことができる。
なお、反応室は窪み形状のウェルでもよいし、単に試薬等を載置する平面等の面でもよく、いずれも含む。また、反応室には流路を設けて連通した構成でもよいし、流路を連通しない構成でもよい。
【0006】
また、弾性体は反応室を囲うように配設されていることが好ましい。
本体と蓋体の押圧によって弾性体を弾性変形させることで確実に反応室の開口の周囲を閉塞できる。
また、弾性体は疎水性であってもよく、サンプル等に含まれる水分の吸収を妨げて弾性体の弾性特性の劣化を抑制できる。
また、反応室には反応試液の流路が接続されていてもよい。
この場合でも、本体と蓋体の閉塞によって弾性体を弾性変形させることで流路を液密に閉塞できて反応室の分離独立性を確保できる。
また、本体と蓋体の少なくともいずれかに反応試液の導入口または/及び空気抜きのための空気口を備えていてもよい。導入口から反応試液を導入して内部に残留する空気を空気口から排出できる。
【0007】
本発明による反応装置は、上述したいずれかの反応容器を加熱または冷却させる加熱・冷却手段を備えたことを特徴とする。
加熱・冷却手段を用いて外部から反応容器を加熱することで、弾性変形した弾性体と両側の本体及び蓋体とのなじみを良好にして一層密着性を向上できる。また、加熱・冷却手段によって反応容器を加熱または冷却することで反応室での反応を促進できる。
【0008】
本発明による反応容器の閉塞方法は、本体と蓋体の少なくとも一方に反応試薬を設置する反応室を有していて、弾性体を挟んで本体と蓋体を閉塞して弾性体を弾性変形させることによって反応室を液密に封止するようにしたことを特徴とする。
本発明によれば、本体と蓋体を閉じて弾性体を押圧することで弾性体を弾性変形させて反応室を液密に封止でき、他の反応室にサンプル等が流入してコンタミネーションを起こすことを確実に防止できて所望の反応を行うことができる。
【0009】
また、本体と蓋体の少なくとも一方に反応室に連通する流路が形成されており、弾性体を弾性変形させることで流路を液密に封止するようにしてもよい。
弾性体を弾性変形させて流路を液密に閉塞することで反応室の独立性を確保できる。
また、閉塞された反応容器を加熱または冷却させるようにしてもよく、外部から反応容器を加熱することで弾性変形した弾性体と両側の本体及び蓋体とのなじみを良くして密着性を向上でき、また反応容器を加熱または冷却することで反応室での反応を促進できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明による反応容器、反応装置及び反応容器の閉塞方法によれば、蓋体と本体を閉塞する際に両者の間に介在する弾性体が弾性変形することによって反応室を液密に閉塞することができ、従来の反応容器と比較して治具等でシールを永久変形することなく、より確実に反応室を閉塞して封止させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の各実施形態について添付図面を参照して説明する。
まず、本発明の第一の実施の形態による反応容器について図1乃至図5により説明する。図1は反応容器の平面図と側面図、図2は図1の反応容器を開いた状態の説明図、図3は図1のA−A線部分断面図であって(a)は開いた状態、(b)は閉塞した状態の図、図4は加重部材に反応容器を載置した状態の斜視図、図5は加重部材で反応容器に荷重をかけて固定した押圧固定状態を示す斜視図である。
図1に示す反応容器1は、互いに積層された例えば略四角形板状の本体2及び蓋体3と、これら本体2及び蓋体3の間に挟持された弾性体としての弾性シート11とで構成されている。本体2と蓋体3とはその連結部がヒンジ部4を形成しており、本体2と蓋体3を各内面を内側にして開閉可能とされている。なお、本体2と蓋体3は連結されずに互いに分離していてもよい。
なお、反応容器1において本体2と蓋体3は便宜上の呼び名であり、本体2と蓋体3の構成または名称を互いに入れ替えてもよい。
【0012】
次に反応容器1の各構成について図2及び図3により詳述する。本体2にはその内面に反応室として複数のウェル6が設けられ、ウェル6は例えば図2に示すように各3個づつ所定間隔で2列に配列されている。各ウェル6は例えば略半球状や逆円錐台状の凹部または窪みとして形成され、その内部に反応試薬が載置されることになる。このようなウェル6は、容量を例えば100μl(マイクロリットル)程度、より好ましくは容量5〜60μl(マイクロリットル)の範囲としてもよい。
各列のウェル6の両側には例えば本体2の裏面に貫通する導入口7と空気口8がそれぞれ形成されている。各列のウェル6において、導入口7から各ウェル6及び空気口8にかけて凹溝状の流路9が延びて接続されている。導入口7には、例えば図示しないマイクロポンプ、或いは手動式定量分注器(ピペットマン(R))や自動式定量分注器等の強制的な送液装置が挿入され、この送液装置によって導入口7から流路9及び各ウェル6に反応試液が導入される。2本の流路9、9はほぼ平行に配列されている。
空気口8では、ウェル6や流路9内の空気を外部に放出できるようになっている。
なお、図2に示す例では、ウェル6の各列毎に導入口7と空気口8が流路9の両端にそれぞれ形成されているが、2本の流路9を両端でそれぞれ合流させて各1つの導入口7,空気口8を設けて接続させてもよい。
【0013】
なお、本体2の材質については、必要に応じて透明または不透明な適宜の一般の材料から作成することができる。例えば、不透明な材料である場合、テフロン(登録商標)等のフッ素樹脂、ポリプロピレン(PP)、ポリウレタン、ベークライトやウレア樹脂等の各種樹脂、アルミや銀、銅および各種合金等を利用できる。
また、透明な材料を利用する場合、ガラス、ジルコン等の無機材料、ポリカーボネート、ポリプロピレン、PET(ポリエチレンテレフタレート)等の各種の樹脂材料を利用できる。
いずれにしても、本反応容器1で利用する試料や試薬やその反応に悪影響を与えない材料から適宜選択することができる。
本体2には、反応阻害性の低減や組み立て時の作業性等に必要なコーティング、表面改質、表面加工等を施すことができる。例えば、親水性や撥水性を持たせるためのコーティング剤の塗布やコーティング層の形成(コーティングフィルム等の貼り付けや表面加工等)を行うことや、接着剤、溶着層の形成(当該層の挟み込み、接着等)を含む。
なお、導入口7や空気口8は本体2の裏面に開口する構成に代えて側面に開口するように構成してもよい。
【0014】
また、蓋体3にはその内面に反応室として複数のウェル6′が設けられ、ウェル6′は例えば図2に示すように各3個づつ所定間隔で2列に配列されている。蓋体3の各ウェル6′は、本体2と蓋体3をヒンジ部4で閉じて閉塞させた際に本体2の各ウェル6と対向する位置となるように配設されている(図3参照)。蓋体3の構成は本体2とほぼ同一であり、その材質についても同様である。
図に示す蓋体3では、本体2に設けた流路9、導入口7、空気口8は設けられていないが、これらを設けてもよく、その場合にヒンジ部4に対して略線対称に形成してもよい。
なお、本体2や蓋体3について異質の材料を用いるものとしてもよいし、同一材料を用いても良い。熱伝導率の向上を期待して一方を金属製としたり、反応を蛍光等の電磁波で測定するために透明な本体2及び/または蓋体3を使用することもできる。
【0015】
弾性シート11は例えば略四角形シート状であって本体2や蓋体3の寸法より小さく形成されている。弾性シート11は、本体2と蓋体3の間に装着して閉塞した際に、本体2のウェル6に対向するように孔部12が形成されている。各孔部12はウェル6、6′と対向するように位置が設定され、ウェル6、6′と同一またはより大径の寸法に形成されていることが好ましい。
弾性シート11の材質として、例えばシリコンゴム、フッ素樹脂ゴム、PDMS(ポリジメチルシロキサン:シリコン樹脂)等の適宜に弾性を備えた材料を選択することができる。しかも、弾性シート11は反応試薬と反応試液の反応に対して反応阻害がない材料を選択する必要がある。反応阻害のない適切な材料が得られない場合には、上述したように材料表面にコーティングしたり、表面加工や表面改質等を行うことで反応阻害のない所要の特性を確保する。
【0016】
弾性シート11の設置に際し、各孔部12が各ウェル6、6′に対向するように本体2または蓋体3に位置決めして載置してもよいし、接着してもよい。弾性シート11は本体2と蓋体3の間に挟持され、所定の加重がかけられた際に弾性変形して各ウェル6,6′を液密に封止し、しかも本体2に設けたウェル6に連通する流路9を弾性シート11の変形によって液密に封止する程度の弾性を備えていることが好ましい。弾性シート11に印加する所定の加重の大きさは、弾性シート11が弾性を失わない範囲で弾性変形する荷重であって流路9等の空間を液密に封止できると共に、本体2や蓋体3が使用に耐える程度の荷重とする。
【0017】
本実施形態による反応容器1は上述の構成を備えており、次にその組み立て方法について図2に基づいて説明する。
反応容器1の組み立てに際し、本体2のウェル6の開口を有する内面に弾性シート11を重ねて、各ウェル6に孔部12が重なるように載置する。このとき、弾性シート11は本体2の流路9に重ねて載置する。そして、蓋体3をヒンジ部4で折り返し、弾性シート11の上に重ねる。このとき、各ウェル6′が弾性シート11の各孔部12に重なるように閉鎖させる。
なお、反応容器1の一体化に際して、本体2、弾性シート11、蓋体3をそれぞれ互いに接着、溶着してもよいし、ピン等で固定してもよい。或いは弾性シート11を挟んで本体2と蓋体3を互いに接着等してもよい。
【0018】
このように一体化した反応容器1に加重をかけて固定する加重部材15について図4及び図5により説明する。
加重部材15は、ヒンジ部で開閉可能な台16と押さえ部材17とで構成されている。これら台16と押さえ部材17は反応容器1よりも縦及び横寸法が若干大きい板状に形成されている。図4に示す押さえ部材17は例えば略四角形平板に形成され、その内面には本体2または蓋体3の外面から外側に突出する各ウェル6、6′の湾曲突出部を収容する窓部18が形成されている。
【0019】
この窓部18は例えば貫通孔として内面と反対側の外面に貫通している。押さえ部材17の内面には各窓部18の両側に押さえ刃19が突出して形成されている。なお、押さえ部材17全体を透明部材で形成してもよい。その場合には、貫通孔からなる窓部18に代えて、押さえ部材17の内面にウェル6または6′を収容する凹部を形成すればよい。或いは、押さえ部材17のうち、窓部18に代えた凹部の部分のみを外面に向けて透明に形成してもよい。
また、台16も押さえ部材17と略同一形状を有しており、その内面から外面にかけて蓋体3または本体2のウェル6′、6の湾曲突出部を収容する貫通孔(または凹部)が形成されている(図示せず)。
【0020】
そして、反応容器1を例えば本体2を上に向けた状態で台16に載置させ、押さえ部材17を閉じて押さえ刃19によって台16との間で反応容器1を所定の加重で押圧した状態に保持する。次に、台16と押さえ部材17とを反応容器1に加重をかけて閉じた状態で例えば板状の固定部材20で固定する。これにより、反応容器1は加重部材15によって所定の加重がかけられた状態に保持される。
なお、加重部材15において、加重を反応容器1にかける手段として、バネや流体圧によるもの、モータ等の動力源によるもの、或いはその併用によるもの等、適宜選択して設計することができる。加重は反応容器1の両側からかけても片側からかけてもよい。押さえ部材17は板状でも棒状でもよい。固定部材20は加重部材15の対向する側面にそれぞれ係合して固定してもよい。
加重部材15で加重をかけることで、図3(b)に示すように、反応容器1は弾性シート11が本体2と蓋体3との間で弾性変形させられ、各ウェル6,6′の周囲を液密に封止すると共にウェル6に連通する流路9も押さえ刃19によって弾性変形した弾性シート11で液密封止される。
【0021】
次に、本実施形態による反応容器1を用いた反応試験方法の一例について説明する。
先ず図2に示すように、反応容器1を開放した状態で、例えば本体2の各ウェル6内(蓋体3のウェル6′でもよい)に反応試薬を載置する。
反応試薬として、例えば酵素、緩衝液、蛍光剤、薬品、オリゴヌクレオチド等を用いることができる。また、反応試薬を載置したウェル6(またはウェル6′)内に固定するために、ワックスや樹脂等、温度変化に反応して液状に性状が変化する物質を更に投入することができる。或いは、反応試薬に粘性がある場合には、温度変化で性状が変化する物質に代えて、反応試薬自体の粘性を利用してウェル6内に固定保持することもできる。その他、光、圧力等の物理変化で性状が変化するものや、化学的、生物学的に性状が変化するものを利用してもよい。
【0022】
そして本体2または蓋体3に弾性シート11を設置して、蓋体3または本体2をヒンジ部4で折り曲げて閉塞させる。この状態で、図3(a)に示すように、反応容器1に加重を加えていないので、蓋体3と本体2はウェル6,6′が互いに対向して弾性シート11を挟んで当接状態にあるが、流路9は封止されていない。
次に、例えば本体2の裏面に開口した導入口7から反応試液を投入して、内部の流路9を通して各ウェル6(または6′)に供給する。なお、反応試薬は本体2と蓋体3を閉じる前に導入口7から供給させてもよい。反応試薬として、例えばヒトゲノムを含むサンプル溶液を用いるものとする。
そして、図4に示すように、加重部材15の台16上に、反応容器1を例えば本体2を上側に向けて載置させ、本体2に押さえ部材17を被せて所定の加重で押圧させる。この状態で加重部材15の台16と押さえ部材17との自由端部または自由端部及び対向する他端部を固定部材20で固定する。
【0023】
そして、図5に示すように加重部材15の周囲に、反応容器を加熱または冷却させる加熱・冷却手段22を設置して反応装置24を構成してもよい。反応容器1を圧縮状態で加熱することで、本体2と弾性シート11と蓋体3の馴染みを改善して密着性を向上できる。そのため、反応時にウェル6間の反応液体の混入や混合をより高精度に防止できる。
また、反応容器1を加熱・冷却手段22で加熱することで、例えばワックスや樹脂等の物質を温度変化によって液状に変化させることができ、ウェル6、6′に収容された反応試薬と反応試液の主反応を促進させることができる。
また、反応容器1の温度測定や温度調整のために熱電対等の温度測定機構を備えるようにしてもよい。これらの温度調整や温度測定を行うために、PLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)や制御ソフト等を搭載したコンピュータを利用することもできる。
このように、反応容器1内の各ウェル6、6′は、加重部材15による所定の加重を受けて弾性変形した弾性シート11によって周囲を液密に封止される。そのため、主反応中に反応試薬や反応試液が隣接するウェル6,6′に拡散することを防止してコンタミネーションの発生を防止できる。
【0024】
上述のように本実施形態による反応容器1によれば、本体2と蓋体3の間に弾性シート11を挟持して加重部材15で加圧状態に保持することで、反応時における各ウェル6,6′と流路9の液密な封止を確実に行うことができ、反応容器1の閉塞不良を防止できる。そのため、主反応中に反応試薬や反応試液が隣接するウェル6,6′に拡散することを防止してコンタミネーションの発生を防止できると共に正確な反応データを測定できる。
しかも、反応容器1のウェル6,6′の封止に際し、治具を用いて手動でシールを永久変形させて閉塞するものと比較して、加重部材15で反応容器1を挟持して固定部材20で所定の加重が反応容器1にかかった状態に保持できるから、確実で安定した閉塞と封止を達成できる。
【0025】
本発明は、上述の実施形態による反応容器1に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜の変更が可能である。次に本発明の他の実施形態や変形例について説明するが、上述の実施形態と同一または同様な部分、部材には同一の符号を用いてその説明を省略する。
図6及び図7は、本発明の第二実施形態による反応容器26を示すものである。
図6(a)、(b)には、反応容器26の本体27と蓋体28が開示されている。図6(a)において、例えば板状の本体27には中央に例えば断面略三角形で細長い凹溝30が形成され、凹溝30は板状の仕切り弾性材31によって複数、例えば三つのウェル32に仕切られており、その両側に反応試液を投入する導入口33と空気抜けの空気口34が配設され、それぞれ外部に連通している。
【0026】
仕切り弾性材31は例えば第一実施形態による弾性シート11と同一材質で形成されている。仕切り弾性材31は各ウェル32を液密に区画している。各仕切り弾性材31の上端は凹溝30の開口より若干低い高さに形成されているが、本体27の内面と同一高さまたはこれを越える高さに形成してもよい。
また、図6(b)に示す蓋体28は例えば略板状に形成されているが、本体27の凹溝30と略同様に凹部が形成されていてもよい。そして、蓋体28には凹溝30の各仕切り弾性材31と対向する位置に例えば蓋体28と同一材質からなる剛性の凸部36が突出して形成されている。
そして、図7に示すように、本体27と蓋体28を位置合わせして閉塞した状態で、凹溝30の各ウェル32は仕切り弾性材31が凸部36と圧接されて弾性変形することで液密に区画されることになる。なお、図6及び図7に示すように蓋体28には、本体27と閉塞させた状態で導入口33、空気口34に連通する貫通孔37a、37bが形成されている。これにより、反応容器26の本体26と蓋体28を閉じた状態で貫通孔37aから反応試液を導入することができ、反対側の貫通孔37bから空気を排出可能である。
【0027】
従って、本実施形態による反応容器26を用いた反応試験方法では、反応容器26の蓋体28を本体27から開放した状態で各ウェル32に反応試薬が載置され、更に導入口33から反応試薬としてヒトゲノムを含むサンプル溶液を供給する。そして、反応容器26の本体27と蓋体28を閉じた状態で貫通孔37aを通して導入口33内に反応試薬を投入する。導入口33内に反応試薬が満たされると凹溝30の開口より低い仕切り弾性材31を越えてウェル32内に侵入し、最後に空気口34内に溢れると順次ウェル32内に反応試薬が供給されることになる。
全てのウェル32に反応試薬が満たされると、蓋体28で本体27を加圧して閉塞し、各ウェル32間は仕切り弾性材31と凸部36によって液密に区画される。
そして、この反応容器26を加重部材15で挟持して加圧状態にし、加熱・冷却手段22で加熱または冷却することで反応を促進させることができる。
本実施形態による反応容器26によっても各ウェル32間のコンタミネーションを防止できる。
【0028】
次に図8に示す反応容器は第三実施形態による反応容器を示すものであり、(a)は本体の平面図、(b)は反応容器の中央縦断面図である。
本実施形態による反応容器38は第二実施形態による反応容器26とほぼ同一構成を備えており、相違点についてのみ説明する。
図8において、本体27の内面に形成した凹溝30の開口を仕切る稜線に沿ってパッキン状の弾性部材39が全周に取り付けられている。そのため、反応試薬と反応試液を本体27の各ウェル32に投入した状態で蓋体28で閉塞すると、凹溝30は弾性部材39で液密に封止されると共に各ウェル32は仕切り弾性材31によって液密に仕切られる。
【0029】
なお、上述の第一実施形態では、反応容器1の本体2と蓋体3の両方にウェル6,6′を設けたが、第二、第三実施形態の反応容器26,38に示すように一方のみにウェル6(6′)を設けて、他方にはウェルを設けず例えば平板状に形成してもよい。また、反応室として凹部形状のウェル6、6′、32を形成したが、反応試薬を保持して反応試液と反応させることができればよいので、必ずしも反応室として本体2や蓋体3に凹部を設ける必要はなく、反応試薬を載置した位置でワックスや樹脂等によって固定保持できれば凹部のない平面等でもよい。この場合でも、温度に反応してワックスや樹脂が性状を液状に変化するから、反応試液と反応させることができる。
また、第一実施形態において本体2にウェル6に連通する流路9を設けたが、流路9は本体2に代えて蓋体3のウェル6′に設けてもよく、或いは両方に設けてもよい。また、第二、第三実施形態による反応容器26、38に示すように流路9を全く設けなくてもよい。
【0030】
また、第一乃至第三実施形態に示す反応容器1,26,38において、ウェル6,6′、32は6個または3個に限定されることなく1または適宜の複数個設けることができる。また導入口や空気口は設けなくてもよい。
また、弾性シート11、仕切り弾性材32、弾性部材39は弾性体を構成する。弾性体である弾性シート11は必ずしもシート状の部材にウェル6,6′の数に応じた孔部12を設けた構成に限定されるものではなく、弾性体の形状は任意であり、例えば第二、第三実施形態における弾性部材39と仕切り弾性材32等で示すように線状の弾性材を格子状に形成して弾性体を構成するようにしてもよい。また、ウェル32を全周に液密封止しなくてもよく、第二実施形態のように隣接するウェル32間を液密に仕切ることでコンタミネーションが生じないようにしてもよい。
また、図9は第二、第三実施形態に示す反応容器26,38の変形例を示すものである。第二、第三実施形態に示す反応容器26,38では、本体27に設けた凹溝30には複数のウェル32、…の両側に導入口33と空気口34を設けたが、変形例として図9に示すように、凹溝30の両側に導入口33及び空気口34に代えてウェル32、32を設けることでウェル数を増大させるようにしてもよい。この場合、反応試薬を貫通孔37aから各ウェル32に供給した後で、両側の貫通孔37a、37bを塞ぐ必要がある。
【実施例】
【0031】
次に本発明の実施例について説明する。
実施例は、本発明の第一実施形態による反応容器1に適用したものである。
反応容器1の各材質として、本体2はアルミニウム、蓋体3は透明なポリプロピレン、弾性シート11はシリコーンゴムで製造した。本体2と蓋体3は反応阻害を除去すると共に、閉塞した本体2と蓋体3を接着させるために厚さ70μmのポリプロピレン製のシーラント層を設けてレーザで溶着する。
この反応容器1の本体2には、ウェル6として反応試薬を保持するために深さ0.5mmの凹部(窪み)を形成した。反応試薬として、PCR(ポリメラーゼチェーンリアクション)に使用するバッファ(緩衝液)、プライマー、酵素と、インベーダ反応(R)に使用する酵素、バッファ、蛍光標識等を含む。ウェル6内で反応試薬を被覆して固定する物質として、融点65℃程度のAmpliWax(アプライドバイオシステム社製)を用いた。反応試薬は、ヒトゲノムを含むサンプル溶液を採用した。
【0032】
そして、反応容器1における本体2のウェル6に反応試薬としてPCR(ポリメラーゼチェーンリアクション)に使用するバッファ(緩衝液)を乾燥させて載置し、AmpliWaxで被覆固定した。弾性シート11を挟んで本体2と蓋体3を閉塞して、導入口7から流路9を介して各ウェル6にヒトゲノムを含むサンプル溶液を流し込んだ。
そして、加重部材15の台16に反応容器1を載置して押さえ部材17で挟んで、反応容器1の上下方向から10kgの荷重を加えて固定部材20で固定した。これによって、弾性シート11が弾性変形して各流路9と各ウェル6、6′を液密に封止し、各ウェル6、6′毎に個別に独立して閉塞した。加重部材15の外側に加熱・冷却手段22を配設して加熱する。
そして、PCR条件(即ち95℃で1分30秒、60℃で30秒、90℃で30秒とし、60℃、90℃でそれぞれ30回)でDNAの増幅を行った。その後、引き続いて温度を60℃に保ち、インベーダ反応を行い、蛍光強度を正しく測定することができた。そのため、反応容器1内のウェル6、6間でコンタミネーションが生じなかったことを確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第一実施形態による反応容器を示すもので、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図2】図1に示す反応容器を開いた状態の分解説明図である。
【図3】図1のA−A線部分断面図であって、(a)は蓋体と本体が分離した状態、(b)は蓋体と本体が加圧された状態の図である。
【図4】加重部材を開いた状態で台に反応容器を載置した状態の斜視図である。
【図5】加重部材で反応容器を挟持して荷重をかけた固定状態を示す斜視図である。
【図6】本発明の第二実施形態による反応容器を示す平面図で、(a)は本体、(b)は蓋体である。
【図7】図6における反応容器を示す中央縦断面図で、(a)は本体と蓋体を分離した状態の図、(b)は本体と蓋体を閉塞して加圧した状態の図である。
【図8】本発明の第三実施形態による反応容器を示す図で、(a)は本体の平面図、(b)は反応容器の中央縦断面図である。
【図9】本発明の第二、第三実施形態による反応容器の変形例を示す図で、(a)は本体と蓋体の分離状態を示す断面図、(b)は反応容器の縦断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 、26、38 反応容器
2、27 本体
3、28 蓋体
6、6′、32 ウェル
7、33 導入口
9 流路
11 弾性シート
12 孔部
15 加重部材
16 台
17 押さえ部材
20 固定部材
22 加熱・冷却手段
31 仕切り弾性材
39 弾性部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに閉塞可能な本体と蓋体を有していて、これら本体と蓋体の少なくとも一方に反応試薬を設置する反応室を有していて、前記本体と蓋体の間に弾性体を介在させたことを特徴とする反応容器。
【請求項2】
前記弾性体は反応室を囲うように配設されている請求項1に記載された反応容器。
【請求項3】
前記弾性体は疎水性である請求項1または2に記載された反応容器。
【請求項4】
前記反応室には反応試液の流路が接続されている請求項1乃至3のいずれかに記載された反応容器。
【請求項5】
前記本体と蓋体の少なくともいずれかに反応試液の導入口または/及び空気抜きのための空気口を備えた請求項1乃至4のいずれかに記載された反応容器。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載された反応容器を加熱または冷却させる加熱・冷却手段を備えたことを特徴とする反応装置。
【請求項7】
本体と蓋体の少なくとも一方に反応試薬を設置する反応室を有していて、弾性体を挟んで前記本体と蓋体を閉塞して前記弾性体を弾性変形させることによって前記反応室を液密に封止するようにしたことを特徴とする反応容器の閉塞方法。
【請求項8】
前記本体と蓋体の少なくとも一方に前記反応室に連通する流路が形成されており、前記弾性体を弾性変形させることで流路を液密に封止するようにした請求項7に記載された反応容器の閉塞方法。
【請求項9】
閉塞された前記反応容器を加熱または冷却させるようにした請求項7または8に記載された反応容器の閉塞方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−22917(P2010−22917A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−185915(P2008−185915)
【出願日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】