説明

反応射出成形用組成物および反応射出成形体

【課題】機械的強度および導電性に優れた射出成形品を製造することのできる射出成形用組成物およびこれにより得られた反応射出成形体を提供することを課題とする。
【解決手段】液状硬化性樹脂組成物中に、外径15〜100nmの炭素繊維から構成される3次元ネットワーク状の炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有しており、かつ当該粒状部は前記炭素繊維の成長過程において形成されてなるものである炭素繊維構造体を、全体の0.1〜20質量%の割合で含有してなることを特徴とする射出成形用組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な反応射出成形用組成物および反応射出成形体に関するものである。詳しく述べると、本発明は、機械的強度および導電性に優れた射出成形品を製造することのできる反応射出成形用組成物およびこれにより得られた反応射出成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば、バンパー部材等の自動車用外装材として樹脂材料の使用が検討され、一部実用化されている。
【0003】
このような樹脂製部材の製造方法としては、その成形加工性の良さから、金型内で樹脂原料を反応させて製造する反応射出成形法(RIM)が特に利用されている。
【0004】
上記したような自動車用外装材あるいは航空機用部品等の構造材においては、軽量で、より機械的強度、弾性が高く、また耐熱性の高いものが望まれる。また、例えば、自動車用外装材においては鋼製外板と同時に静電塗装を行うことができるように、耐熱性と共に導電性を有することが望まれている。
【0005】
上記したような特性を満たすものとして、樹脂原料により形成されるマトリックス中に炭素繊維を配合して補強した炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が着目されている。
【0006】
また、例えば、燃料電池用セパレーターとしては、従来、熱硬化性樹脂と炭素質粉末との混合物を成形した後、成形体を焼成し導電性を高める黒鉛化工程や、切削や研磨などにより必要形状を付与する機械加工工程を含む方法により、あるいは圧縮成形法により作成が試みられてきた。しかし、黒鉛化工程や機械加工工程を必要とする手法では、製造コストが高く大量生産が困難であることから、射出成形や射出圧縮成形により製造方法が提案されている。これらの方法によれば成形時間を大幅に短縮できるため、大量生産に対応でき、安価な燃料電池セパレーターを提供することができる。
【0007】
近年、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」とも記する。)に代表されるカーボンナノ構造体などの微細炭素繊維が注目されており、例えば特許文献1および2に示されるように上述したような射出成形による炭素繊維強化プラスチックのフィラーとしても微細炭素繊維を用いることも検討されている。
【0008】
しかしながら、一方で、このような微細炭素繊維は、生成時点で既に塊になってしまい、これをそのまま使用すると、マトリックス中において分散が進まず性能不良をきたすおそれがある。特許文献2においては、液状硬化性樹脂組成物に配合した微細炭素繊維の凝集体を2軸押出機によって混錬しながら解砕することで直径35μm以下の凝集体としてマトリックス中に配合することが開示されているが、このように微細な凝集体とする上では、ある程度強い機械的せん断力を加える必要があり、微細炭素繊維自体の裁断等が生じて短繊維化し、また、最終製品において炭素繊維は微細化はされているものの凝集体として分散されているために、炭素繊維がネットワーク状に均一分散しているものとは言えず、特性の改善は不十分なものであった。
【特許文献1】米国特許第5611964号明細書
【特許文献2】米国特許第5643502号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明は、導電性付与剤として好ましい物性を持ち、少量の添加にて、マトリックスの特性を損なわずに、機械的特性、熱的特性および電気的特性を改善できる新規な構造の炭素繊維構造体を含む射出成形用組成物を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討の結果、その添加量が少なくても十分な機械的特性、熱的特性および電気的特性を発揮させるためには、可能な限り微細な炭素繊維を用い、さらにこれら炭素繊維が一本一本ばらばらになることなく互いに強固に結合し、疎な構造体としてマトリックスに保持されるものであること、また炭素繊維自体の一本一本が極力欠陥の少ないものであることが有効であることを見出し、本発明に到達したものである。
【0011】
すなわち、上記課題を解決する本発明は、液状硬化性樹脂組成物中に、外径15〜100nmの炭素繊維から構成される3次元ネットワーク状の炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有しており、かつ当該粒状部は前記炭素繊維の成長過程において形成されてなるものである炭素繊維構造体を、全体の0.1〜20質量%の割合で含有してなることを特徴とする射出成形用組成物である。
【0012】
本発明はまた、前記炭素繊維構造体は、ラマン分光分析法で測定されるI/Iが、0.2以下であることを特徴とする射出成形用組成物を示すものである。
【0013】
本発明はさらに、前記炭素繊維構造体は、炭素源として、分解温度の異なる少なくとも2つ以上の炭素化合物を用いて、生成されたものであ射出成形用組成物を示すものである。
【0014】
本発明はまた、上記射出成形用組成物を成形して得られたことを特徴とする射出成形品である。
【発明の効果】
【0015】
本発明においては、炭素繊維構造体が、上記したように3次元ネットワーク状に配された微細径の炭素繊維が、前記炭素繊維の成長過程において形成された粒状部によって互いに強固に結合され、該粒状部から前記炭素繊維が複数延出する形状を有するものであるために、液状硬化性樹脂組成物中に配合された際、当該炭素繊維構造体は、疎な構造を残したまま高い分散性をもって分散し得、少量の添加量においても、マトリックス中に、微細な炭素繊維を均一な広がりをもって配置することができる。このように、本発明に係る射出成形用組成物においては、液状硬化性樹脂組成物全体に微細な炭素繊維が均一に分散分布されているため、極端な粘度上昇を起こすことなく射出成形が可能であり、また得られた成形体においてはマトリックス全体に良好な導電性パスが形成され、導電性を向上させることができ、また機械的特性、熱特性等に関しても、マトリックス全体に微細炭素繊維からなるフィラーが満遍なく配されることで、特性向上が図れることとなるものである。また、上記したように射出成形時の極端な粘度上昇を起きないため、フィラーである炭素繊維構造体の充填量を比較的高いものとしても射出成形可能であり、例えば、高い導電性を求められる各種電池用電極材料等を量産することも可能となるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
【0017】
本発明の反応射出成形用組成物は、後述するような所定構造を有する3次元ネットワーク状の炭素繊維構造体を、全体の0.1〜20質量%の割合で含有することを特徴するものである。
【0018】
本発明において用いられる炭素繊維構造体は、例えば、図3に示すSEM写真または図4(a)および(b)に示すTEM写真に見られるように、外径15〜100nmの炭素繊維から構成される3次元ネットワーク状の炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有することを特徴とする炭素繊維構造体である。
【0019】
炭素繊維構造体を構成する炭素繊維の外径を、15〜100nmの範囲のものとするのは、外径が15nm未満であると、後述するように炭素繊維の断面が多角形状とならず、一方、炭素繊維の物性上直径が小さいほど単位量あたりの本数が増えるとともに、炭素繊維の軸方向への長さも長くなり、高い導電性が得られるため、100nmを越える外径を有することは、樹脂等のマトリックスへ改質剤、添加剤として配される炭素繊維構造体として適当でないためである。なお、炭素繊維の外径としては特に、20〜70nmの範囲内にあることが、より望ましい。この外径範囲のもので、筒状のグラフェンシートが軸直角方向に積層したもの、すなわち多層であるものは、曲がりにくく、弾性、すなわち変形後も元の形状に戻ろうとする性質が付与されるため、炭素繊維構造体が一旦圧縮された後においても、樹脂等のマトリックスに配された後において、疎な構造を採りやすくなる。
【0020】
なお、2400℃以上でアニール処理すると、積層したグラフェンシートの面間隔が狭まり真密度が1.89g/cmから2.1g/cmに増加するとともに、炭素繊維の軸直交断面が多角形状となり、この構造の炭素繊維は、積層方向および炭素繊維を構成する筒状のグラフェンシートの面方向の両方において緻密で欠陥の少ないものとなるため、曲げ剛性(EI)が向上する。
【0021】
加えて、該微細炭素繊維は、その外径が軸方向に沿って変化するものであることが望ましい。このように炭素繊維の外径が軸方向に沿って一定でなく、変化するものであると、樹脂等のマトリックス中において当該炭素繊維に一種のアンカー効果が生じるものと思われ、マトリックス中における移動が生じにくく分散安定性が高まるものとなる。
【0022】
そして本発明に係る炭素繊維構造体においては、このような所定外径を有する微細炭素繊維が3次元ネットワーク状に存在するが、これら炭素繊維は、当該炭素繊維の成長過程において形成された粒状部において互いに結合され、該粒状部から前記炭素繊維が複数延出する形状を呈しているものである。このように、微細炭素繊維同士が単に絡合しているものではなく、粒状部において相互に強固に結合されているものであることから、樹脂等のマトリックス中に配した場合に当該構造体が炭素繊維単体として分散されることなく、嵩高な構造体のままマトリックス中に分散配合されることができる。また、本発明に係る炭素繊維構造体においては、当該炭素繊維の成長過程において形成された粒状部によって炭素繊維同士が互いに結合されていることから、その構造体自体の電気的特性等も非常に優れたものであり、例えば、一定圧縮密度において測定した電気抵抗値は、微細炭素繊維の単なる絡合体、あるいは微細炭素繊維同士の接合点を当該炭素繊維合成後に炭素質物質ないしその炭化物によって付着させてなる構造体等の値と比較して、非常に低い値を示し、マトリックス中に分散配合された場合に、良好な導電パスを形成できることができる。
【0023】
当該粒状部は、上述するように炭素繊維の成長過程において形成されるものであるため、当該粒状部における炭素間結合は十分に発達したものとなり、正確には明らかではないが、sp結合およびsp結合の混合状態を含むと思われる。そして、生成後(後述する中間体および第一中間体)においては、粒状部と繊維部とが、炭素原子からなるパッチ状のシート片を貼り合せたような構造をもって連続しており、その後の高温熱処理後においては、図4(a)および(b)に示されるように、粒状部を構成するグラフェン層の少なくとも一部は、当該粒状部より延出する微細炭素繊維を構成するグラフェン層に連続するものとなる。本発明に係る炭素繊維構造体において、粒状部と微細炭素繊維との間は、上記したような粒状部を構成するグラフェン層が微細炭素繊維を構成するグラフェン層と連続していることに象徴されるように、炭素結晶構造的な結合によって(少なくともその一部が)繋がっているものであって、これによって粒状部と微細炭素繊維との間の強固な結合が形成されているものである。
【0024】
なお、本願明細書において、粒状部から炭素繊維が「延出する」するとは、粒状部と炭素繊維とが他の結着剤(炭素質のものを含む)によって、単に見かけ上で繋がっているような状態をさすものではなく、上記したように炭素結晶構造的な結合によって繋がっている状態を主として意味するものである。
【0025】
また、当該粒状部は、上述するように炭素繊維の成長過程において形成されるが、その痕跡として粒状部の内部には、少なくとも1つの触媒粒子、あるいはその触媒粒子がその後の熱処理工程において揮発除去されて生じる空孔を有している。この空孔(ないし触媒粒子)は、粒状部より延出している各微細炭素繊維の内部に形成される中空部とは、本質的に独立したものである(なお、ごく一部に、偶発的に中空部と連続してしまったものも観察される。)。
この触媒粒子ないし空孔の数としては特に限定されるものではないが、粒状部1つ当りに1〜1000個程度、より望ましくは3〜500個程度存在する。このような範囲の数の触媒粒子の存在下で粒状部が形成されたことによって、後述するような所望の大きさの粒状部とすることができる。
【0026】
また、この粒状部中に存在する触媒粒子ないし空孔の1つ当りの大きさとしては、例えば、1〜100nm、より好ましくは2〜40nm、さらに好ましくは3〜15nmである。
【0027】
さらに、特に限定されるわけではないが、この粒状部の粒径は、図2に示すように、前記微細炭素繊維の外径よりも大きいことが望ましい。具体的には、例えば、前記微細炭素繊維の外径の1.3〜250倍、より好ましくは1.5〜100倍、さらに好ましくは2.0〜25倍である。なお、前記値は平均値である。このように炭素繊維相互の結合点である粒状部の粒径が微細炭素繊維外径の1.3倍以上と十分に大きなものであると、当該粒状部より延出する炭素繊維に対して高い結合力がもたらされ、樹脂等のマトリックス中に当該炭素繊維構造体を配した場合に、ある程度のせん弾力を加えた場合であっても、3次元ネットワーク構造を保持したままマトリックス中に分散させることができる。一方、粒状部の大きさが微細炭素繊維の外径の250倍を超える極端に大きなものとなると、炭素繊維構造体の繊維状の特性が損なわれる虞れがあり、例えば、各種マトリックス中への添加剤、配合剤として適当なものとならない虞れがあるために望ましくない。なお、本明細書でいう「粒状部の粒径」とは、炭素繊維相互の結合点である粒状部を1つの粒子とみなして測定した値である。
【0028】
その粒状部の具体的な粒径は、炭素繊維構造体の大きさ、炭素繊維構造体中の微細炭素繊維の外径にも左右されるが、例えば、平均値で20〜5000nm、より好ましくは25〜2000nm、さらに好ましくは30〜500nm程度である。
【0029】
さらにこの粒状部は、前記したように炭素繊維の成長過程において形成されるものであるため、比較的球状に近い形状を有しており、その円形度は、平均値で0.2〜<1、好ましくは0.5〜0.99、より好ましくは0.7〜0.98程度である。
【0030】
加えて、この粒状部は、前記したように炭素繊維の成長過程において形成されるものであって、例えば、微細炭素繊維同士の接合点を当該炭素繊維合成後に炭素質物質ないしその炭化物によって付着させてなる構造体等と比較して、当該粒状部における、炭素繊維同士の結合は非常に強固なものであり、炭素繊維構造体における炭素繊維の破断が生じるような条件下においても、この粒状部(結合部)は安定に保持される。具体的には例えば、後述する実施例において示すように、当該炭素繊維構造体を液状媒体中に分散させ、これに一定出力で所定周波数の超音波をかけて、炭素繊維の平均長がほぼ半減する程度の負荷条件としても、該粒状部の平均粒径の変化率は、10%未満、より好ましくは5%未満であって、粒状部、すなわち、繊維同士の結合部は、安定に保持されているものである。
【0031】
また、本発明において用いられる炭素繊維構造体は、面積基準の円相当平均径が50〜100μm、より好ましくは60〜90μm程度程度であることが望ましい。ここで面積基準の円相当平均径とは、炭素繊維構造体の外形を電子顕微鏡などを用いて撮影し、この撮影画像において、各炭素繊維構造体の輪郭を、適当な画像解析ソフトウェア、例えばWinRoof(商品名、三谷商事株式会社製)を用いてなぞり、輪郭内の面積を求め、各繊維構造体の円相当径を計算し、これを平均化したものである。
【0032】
複合化される樹脂等のマトリックス材の種類によっても左右されるため、全ての場合において適用されるわけではないが、この円相当平均径は、樹脂等のマトリックス中に配合された場合における当該炭素繊維構造体の最長の長さを決める要因となるものであり、概して、円相当平均径が50μm未満であると、導電性が十分に発揮されないおそれがあり、一方、100μmを越えるものであると、例えば、マトリックス中へ混練等によって配合する際に大きな粘度上昇が起こり混合分散が困難あるいは成形性が劣化する虞れがあるためである。
【0033】
また本発明に係る炭素繊維構造体は、上記したように、本発明に係る炭素繊維構造体は、3次元ネットワーク状に存在する炭素繊維が粒状部において互いに結合され、該粒状部から前記炭素繊維が複数延出する形状を呈しているが、1つの炭素繊維構造体において、炭素繊維を結合する粒状部が複数個存在して3次元ネットワークを形成している場合、隣接する粒状部間の平均距離は、例えば、0.5μm〜300μm、より好ましくは0.5~100μm、さらに好ましくは1〜50μm程度となる。なお、この隣接する粒状部間の距離は、1つの粒状体の中心部からこれに隣接する粒状部の中心部までの距離を測定したものである。粒状体間の平均距離が、0.5μm未満であると、炭素繊維が3次元ネットワーク状に十分に発展した形態とならないため、例えば、マトリックス中に分散配合された場合に、良好な導電パスを形成し得ないものとなる虞れがあり、一方、平均距離が300μmを越えるものであると、マトリックス中に分散配合させる際に、粘性を高くさせる要因となり、炭素繊維構造体のマトリックスに対する分散性が低下する虞れがあるためである。
【0034】
さらに、本発明において用いられる炭素繊維構造体は、上記したように、3次元ネットワーク状に存在する炭素繊維が粒状部において互いに結合され、該粒状部から前記炭素繊維が複数延出する形状を呈しており、このため当該構造体は炭素繊維が疎に存在した嵩高な構造を有するが、具体的には、例えば、その嵩密度が0.0001〜0.05g/cm、より好ましくは0.001〜0.02g/cmであることが望ましい。嵩密度が0.05g/cmを超えるものであると、少量添加によって、樹脂等のマトリックスの物性を改善することが難しくなるためである。
【0035】
また、本発明に係る炭素繊維構造体は、3次元ネットワーク状に存在する炭素繊維がその成長過程において形成された粒状部において互いに結合されていることから、上記したように構造体自体の電気的特性等も非常に優れたものであるが、例えば、一定圧縮密度0.8g/cmにおいて測定した粉体抵抗値が、0.02Ω・cm以下、より望ましくは、0.001〜0.010Ω・cmであることが好ましい。粉体抵抗値が0.02Ω・cmを超えるものであると、樹脂等のマトリックスに配合された際に、良好な導電パスを形成することが難しくなるためである。
【0036】
また、本発明において用いられる炭素繊維構造体は、高い強度および導電性を有する上から、炭素繊維を構成するグラフェンシート中における欠陥が少ないことが望ましく、具体的には、例えば、ラマン分光分析法で測定されるI/I比が、0.2以下、より好ましくは0.1以下であることが望ましい。ここで、ラマン分光分析では、大きな単結晶の黒鉛では1580cm−1付近のピーク(Gバンド)しか現れない。結晶が有限の微小サイズであることや格子欠陥により、1360cm−1付近にピーク(Dバンド)が出現する。このため、DバンドとGバンドの強度比(R=I1360/I1580=I/I)が上記したように所定値以下であると、グラフェンシート中における欠陥量が少ないことが認められるためである。
【0037】
本発明に係る前記炭素繊維構造体はまた、空気中での燃焼開始温度が750℃以上、より好ましくは800〜900℃であることが望ましい。前記したように炭素繊維構造体が欠陥が少なく、かつ炭素繊維が所期の外径を有するものであることから、このような高い熱的安定性を有するものとなる。
【0038】
上記したような所期の形状を有する炭素繊維構造体は、特に限定されるものではないが、例えば、次のようにして調製することができる。
【0039】
基本的には、遷移金属超微粒子を触媒として炭化水素等の有機化合物をCVD法で化学熱分解して繊維構造体(以下、中間体という)を得、これをさらに高温熱処理する。
【0040】
原料有機化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素、一酸化炭素(CO)、エタノール等のアルコール類などが使用できる。特に限定されるわけではないが、本発明に係る繊維構造体を得る上においては、炭素源として、分解温度の異なる少なくとも2つ以上の炭素化合物を用いることが好ましい。なお、本明細書において述べる「少なくとも2つ以上の炭素化合物」とは、必ずしも原料有機化合物として2種以上のものを使用するというものではなく、原料有機化合物としては1種のものを使用した場合であっても、繊維構造体の合成反応過程において、例えば、トルエンやキシレンの水素脱アルキル化(hydrodealkylation)などのような反応を生じて、その後の熱分解反応系においては分解温度の異なる2つ以上の炭素化合物となっているような態様も含むものである。
【0041】
なお、熱分解反応系において炭素源としてこのように2種以上の炭素化合物を存在させた場合、それぞれの炭素化合物の分解温度は、炭素化合物の種類のみでなく、原料ガス中の各炭素化合物のガス分圧ないしモル比によっても変動するものであるため、原料ガス中における2種以上の炭素化合物の組成比を調整することにより、炭素化合物として比較的多くの組み合わせを用いることができる。
【0042】
例えば、メタン、エタン、プロパン類、ブタン類、ペンタン類、へキサン類、ヘプタン類、シクロプロパン、シクロヘキサンなどといったアルカンないしシクロアルカン、特に炭素数1〜7程度のアルカン;エチレン、プロピレン、ブチレン類、ペンテン類、ヘプテン類、シクロペンテンなどといったアルケンないしシクロオレフィン、特に炭素数1〜7程度のアルケン;アセチレン、プロピン等のアルキン、特に炭素数1〜7程度のアルキン;ベンゼン、トルエン、スチレン、キシレン、ナフタレン、メチルナフタレン、インデン、フェナントレン等の芳香族ないし複素芳香族炭化水素、特に炭素数6〜18程度の芳香族ないし複素芳香族炭化水素、メタノール、エタノール等のアルコール類、特に炭素数1〜7程度のアルコール類;その他、一酸化炭素、ケトン類、エーテル類等の中から選択した2種以上の炭素化合物を、所期の熱分解反応温度域において異なる分解温度を発揮できるようにガス分圧を調整し、組み合わせて用いること、および/または、所定の温度領域における滞留時間を調整することで可能であり、その混合比を最適化することで効率よく本発明に係る炭素繊維構造体を製造することができる。
【0043】
このような2種以上の炭素化合物の組み合わせのうち、例えば、メタンとベンゼンとの組み合わせにおいては、メタン/ベンゼンのモル比が、>1〜600、より好ましくは1.1〜200、さらに好ましくは3〜100とすることが望ましい。なお、この値は、反応炉の入り口におけるガス組成比であり、例えば、炭素源の1つとしてトルエンを使用する場合には、反応炉内でトルエンが100%分解して、メタンおよびベンゼンが1:1で生じることを考慮して、不足分のメタンを別途供給するようにすれば良い。例えば、メタン/ベンゼンのモル比を3とする場合には、トルエン1モルに対し、メタン2モルを添加すれば良い。なお、このようなトルエンに対して添加するメタンとしては、必ずしも新鮮なメタンを別途用意する方法のみならず、当該反応炉より排出される排ガス中に含まれる未反応のメタンを循環使用することにより用いることも可能である。
【0044】
このような範囲内の組成比とすることで、炭素繊維部および粒状部のいずれもが十分を発達した構造を有する炭素繊維構造体を得ることが可能となる。
【0045】
なお、雰囲気ガスには、アルゴン、ヘリウム、キセノン等の不活性ガスや水素を用いることができる。
【0046】
また、触媒としては、鉄、コバルト、モリブデンなどの遷移金属あるいはフェロセン、酢酸金属塩などの遷移金属化合物と硫黄あるいはチオフェン、硫化鉄などの硫黄化合物の混合物を使用する。
【0047】
中間体の合成は、通常行われている炭化水素等のCVD法を用い、原料となる炭化水素および触媒の混合液を蒸発させ、水素ガス等をキャリアガスとして反応炉内に導入し、800〜1300℃の温度で熱分解する。これにより、外径が15〜100nmの繊維相互が、前記触媒の粒子を核として成長した粒状体によって結合した疎な三次元構造を有する炭素繊維構造体(中間体)が複数集まった数cmから数十センチの大きさの集合体を合成する。
【0048】
原料となる炭化水素の熱分解反応は、主として触媒粒子ないしこれを核として成長した粒状体表面において生じ、分解によって生じた炭素の再結晶化が当該触媒粒子ないし粒状体より一定方向に進むことで、繊維状に成長する。しかしながら、本発明に係る炭素繊維構造体を得る上においては、このような熱分解速度と成長速度とのバランスを意図的に変化させる、例えば上記したように炭素源として分解温度の異なる少なくとも2つ以上の炭素化合物を用いることで、一次元的方向にのみ炭素物質を成長させることなく、粒状体を中心として三次元的に炭素物質を成長させる。もちろん、このような三次元的な炭素繊維の成長は、熱分解速度と成長速度とのバランスにのみ依存するものではなく、触媒粒子の結晶面選択性、反応炉内における滞留時間、炉内温度分布等によっても影響を受け、また、前記熱分解反応と成長速度とのバランスは、上記したような炭素源の種類のみならず、反応温度およびガス温度等によっても影響受けるが、概して、上記したような熱分解速度よりも成長速度の方が速いと、炭素物質は繊維状に成長し、一方、成長速度よりも熱分解速度の方が速いと、炭素物質は触媒粒子の周面方向に成長する。従って、熱分解速度と成長速度とのバランスを意図的に変化させることで、上記したような炭素物質の成長方向を一定方向とすることなく、制御下に多方向として、本発明に係るような三次元構造を形成することができるものである。なお、生成する中間体において、繊維相互が粒状体により結合された前記したような三次元構造を容易に形成する上では、触媒等の組成、反応炉内における滞留時間、反応温度、およびガス温度等を最適化することが望ましい。
【0049】
なお、本発明に係る炭素繊維構造体を効率良く製造する方法としては、上記したような分解温度の異なる2つ以上の炭素化合物を最適な混合比にて用いるアプローチ以外に、反応炉に供給される原料ガスに、その供給口近傍において乱流を生じさせるアプローチを挙げることができる。ここでいう乱流とは、激しく乱れた流れであり、渦巻いて流れるような流れをいう。
【0050】
反応炉においては、原料ガスが、その供給口より反応炉内へ導入された直後において、原料混合ガス中の触媒としての遷移金属化合物の分解により金属触媒微粒子が形成されるが、これは、次のような段階を経てもたらされる。すなわち、まず、遷移金属化合物が分解され金属原子となり、次いで、複数個、例えば、約100原子程度の金属原子の衝突によりクラスター生成が起こる。この生成したクラスターの段階では、微細炭素繊維の触媒として作用せず、生成したクラスター同士が衝突により更に集合し、約3nm〜10nm程度の金属の結晶性粒子に成長して、微細炭素繊維の製造用の金属触媒微粒子として利用されることとなる。
【0051】
この触媒形成過程において、上記したように激しい乱流による渦流が存在すると、ブラウン運動のみの金属原子又はクラスター同士の衝突と比してより激しい衝突が可能となり、単位時間あたりの衝突回数の増加によって金属触媒微粒子が短時間に高収率で得られ、又、渦流によって濃度、温度等が均一化されることにより粒子のサイズの揃った金属触媒微粒子を得ることができる。さらに、金属触媒微粒子が形成される過程で、渦流による激しい衝突により金属の結晶性粒子が多数集合した金属触媒微粒子の集合体を形成する。このようにして金属触媒微粒子が速やかに生成されるため、炭素化合物の分解が促進されて、十分な炭素物質が供給されることになり、前記集合体の各々の金属触媒微粒子を核として放射状に微細炭素繊維が成長し、一方で、前記したように一部の炭素化合物の熱分解速度が炭素物質の成長速度よりも速いと、炭素物質は触媒粒子の周面方向にも成長し、前記集合体の周りに粒状部を形成し、所期の三次元構造を有する炭素繊維構造体を効率よく形成する。なお、前記金属触媒微粒子の集合体中には、他の触媒微粒子よりも活性の低いないしは反応途中で失活してしまった触媒微粒子も一部に含まれていることも考えられ、集合体として凝集するより以前にこのような触媒微粒子の表面に成長していた、あるいは集合体となった後にこのような触媒微粒子を核として成長した非繊維状ないしはごく短い繊維状の炭素物質層が、集合体の周縁位置に存在することで、本発明に係る炭素繊維構造体の粒状部を形成しているものとも思われる。
【0052】
反応炉の原料ガス供給口近傍において、原料ガスの流れに乱流を生じさせる具体的手段としては、特に限定されるものではなく、例えば、原料ガス供給口より反応炉内に導出される原料ガスの流れに干渉し得る位置に、何らかの衝突部を設ける等の手段を採ることができる。前記衝突部の形状としては、何ら限定されるものではなく、衝突部を起点として発生した渦流によって十分な乱流が反応炉内に形成されるものであれば良いが、例えば、各種形状の邪魔板、パドル、テーパ管、傘状体等を単独であるいは複数組み合わせて1ないし複数個配置するといった形態を採択することができる。
【0053】
このようにして、触媒および炭化水素の混合ガスを800〜1300℃の範囲の一定温度で加熱生成して得られた中間体は、炭素原子からなるパッチ状のシート片を貼り合わせたような(生焼け状態の、不完全な)構造を有し、ラマン分光分析をすると、Dバンドが非常に大きく、欠陥が多い。また、生成した中間体は、未反応原料、非繊維状炭化物、タール分および触媒金属を含んでいる。
【0054】
従って、このような中間体からこれら残留物を除去し、欠陥が少ない所期の炭素繊維構造体を得るために、適切な方法で2400〜3000℃の高温熱処理する。
【0055】
すなわち、例えば、この中間体を800〜1200℃で加熱して未反応原料やタール分などの揮発分を除去した後、2400〜3000℃の高温でアニール処理することによって所期の構造体を調製し、同時に繊維に含まれる触媒金属を蒸発させて除去する。なお、この際、物質構造を保護するために不活性ガス雰囲気中に還元ガスや微量の一酸化炭素ガスを添加してもよい。
【0056】
前記中間体を2400〜3000℃の範囲の温度でアニール処理すると、炭素原子からなるパッチ状のシート片は、それぞれ結合して複数のグラフェンシート状の層を形成する。
【0057】
また、このような高温熱処理前もしくは処理後において、炭素繊維構造体の円相当平均径を数cmに解砕処理する工程と、解砕処理された炭素繊維構造体の円相当平均径を50〜100μmに粉砕処理する工程とを経ることで、所望の円相当平均径を有する炭素繊維構造体を得る。なお、解砕処理を経ることなく、粉砕処理を行っても良い。また、本発明に係る炭素繊維構造体を複数有する集合体を、使いやすい形、大きさ、嵩密度に造粒する処理を行っても良い。さらに好ましくは、反応時に形成された上記構造を有効に活用するために、嵩密度が低い状態(極力繊維が伸びきった状態でかつ空隙率が大きい状態)で、アニール処理するとさらに樹脂への導電性付与に効果的である。
【0058】
本発明において用いられる微細炭素繊維構造体は、
A)嵩密度が低い、
B)樹脂等のマトリックスに対する分散性が良い、
C)導電性が高い、
D)熱伝導性が高い、
E)摺動性が良い、
F)化学的安定性が良い、
G)熱的安定性が高い、
などの特性がある。
【0059】
本発明に係る射出成形用組成物は、上記したような微細炭素繊維構造体を液状硬化性樹脂組成物中に配合してなるものであるが、本発明において用いられる液状硬化性樹脂組成物としては、射出成形可能なものであれば、特に限定されるものではなく公知の各種のものを用いることができる。なお、本明細書において述べる「液状硬化性樹脂組成物」とは、使用温度において液状であり、硬化反応により三次元的高分子マトリックスを形成し得る組成物(プレミックス)を指し、反応性モノマー、オリゴマー、架橋性ポリマーあるいはこれらの混合物といったマトリックス形成成分のみならず、重合開始剤、触媒、硬化剤、活性化剤などの反応に寄与する成分を含有し得る。さらに必要に応じて、これら以外にも、公知のごとく、溶剤、粘度調整剤、各種安定化剤等を含有し得る。
【0060】
液状硬化性樹脂組成物としては、一液性のものであっても二液性のものであってもよく、二液性のものである場合には、微細炭素繊維構造体は、主剤側あるいは硬化剤側のいずれに配合しても良い。
【0061】
硬化性樹脂としては、具体的には、例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ノルボルネン樹脂、フタル酸樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂、キシレン・ホルムアルデヒド樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、アニリン樹脂、変性アクリル樹脂、シリコーン系樹脂、などの熱硬化性樹脂を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。得られる成形品の使用する用途等によっても異なってくるが、このうち、好ましくは、ウレタン樹脂、ノルボルネン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等である。なお、常温にて固形タイプの熱硬化性樹脂もあるが、その使用温度において液状となっているものであれば、使用可能である。また、熱硬化性樹脂に限らず、公知の各種の光硬化性樹脂や電子線硬化性樹脂組成物等も使用可能である。さらに、液状硬化性樹脂組成物中には、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、飽和ポリエステル樹脂、アイオノマー樹脂等の熱可塑性樹脂ないし熱可塑性エラストマーを、硬化性樹脂と共に配合することも可能である。
【0062】
エポキシ樹脂としては、特に制限はなく、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、アミノグリシジル型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂等を用いることができる。また、硬化剤としては、芳香族アミン、脂肪族アミン、これらの活性水素を有するアミンにエポキシ化合物、アクリロニトリル、フェノールとホルムアルデヒド、チオ尿素などの化合物を反応させて得られる変性アミン、活性水素を持たない第三アミン、カルボン酸無水物、ポリカルボン酸ヒドラジド、ノボラック樹脂などのポリフェノール化合物、チオグリコール酸とポリオールのエステルのようなポリメルカプタン、三フッ化ホウ素エチルアミン錯体のようなルイス酸錯体、芳香族スルホニウム塩などが挙げられる。硬化剤には、硬化活性を高めるために公知の適当な硬化助剤を組合わせることができる。例えば、ジシアンジアミドに、3-フェニル-1,1-ジメチル尿素、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素(DCMU)、3-(3−クロロ−4-メチルフェニル)-1,1-ジメチル尿素、2,4−ビス(3,3−ジメチルウレイド)トルエンのような尿素誘導体を硬化助剤として組合わせる例、カルボン酸無水物やノボラック樹脂に第三アミンを硬化助剤として組合わせる例などが挙げられる。
【0063】
またウレタン樹脂は、公知のように、イソシアネートとポリオール成分とを含有するものである。イソシアネートとしては、一般的なポリウレタン樹脂に使用されている全てのイソシアネートを用いることができる。すなわち、芳香族イソシアネート類、脂肪族イソシアネート類、脂環族イソシアネート類、これらの2量体、3量体、あるいは予めこれらとポリオール類とを反応させたプレポリマー等を用いることができる。例えば、エチレンジイソシアネート、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,3−及び1,4−ジイソシアネート及びイソホロンジイソシアネートである。代表的な芳香族ポリイソシアネートはフェニレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート及び4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートである。特に、2,4−及び2,6−トルエンジイソシアネートであり、入手可能な市販品の混合物として単用または共用することができる。また、約60%の4,4′−ジフェニレンジイソシアネートを他の類似異性体の高級ポリイソシアネートとを共に含む、「粗MDI」などの商品名として知られる混合物も使用可能である。さらに、ポリイソシアネート及びポリエーテル又はポリエステルポリオールの一部分予備反応させた混合物からなるこれらのポリイソシアネートのプレポリマーも使用可能である。このうち、芳香族のイソシアネートは、脂肪族あるいは脂環族のイソシアネートに比べて反応性が高いことから、芳香族イソシアネートを使用することが好ましいといえる。ただし、反応性が低い脂肪族あるいは脂環族のイソシアネートを使用する場合でも、錫系触媒を用いれば、錫触媒、特にメルカプト基で活性を抑制しアミン蒸気と接触したときに活性になるため急速硬化性が現れるので効果的である。ポリオール化合物としても、一般的なポリウレタン樹脂に使用されている全てのポリオールを用いることができ、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリアクリルポリオール、ポリカーボネイトポリオール、エポキシ変性ポリオール、ウレタン変性ポリオール等を例示することができる。これらポリオールに対するイソシアネートの使用量については適用するポリオールの種類と量、および適用するイソシアネートの種類によって一概に限定されないが、NCO/OHの当量比を1/9〜2/1、好ましくは、1/3〜1.5/1、さらに好ましくは、1/2〜1.2/1が適当である。
【0064】
ウレタン樹脂組成物中には、さらにウレタン触媒、連鎖延長剤などが配合され得る。連鎖延長剤としては、例えば、ジエチルトルエンジアミンおよびt−ブチルトルエンジアミンのような芳香族ジアミン連鎖延長剤が例示できる。ウレタン触媒としては、例えばトリエチレンジアミン及びジラウリン酸ジブチルスズといった公知のアミン及びスズ触媒等を含み、例えばトリエチレンジアミン及びジラウリン酸ジブチルスズである。適当な触媒の量は組成物中のポリオールの質量の100部当たり約0.025〜0.3部、好ましくは0.05〜0.2部である。
【0065】
次に、ノルボルネン系の液状硬化性樹脂組成物には、ノルボルネン系モノマーのほか、通常、メタセシス触媒と活性剤とが含まれる。
【0066】
ノルボルネン系モノマーとしては、ノルボルネン環を有するものであればよく、その具体例としては、ノルボルネン、ノルボルナジエン等の二環体、ジシクロペンタジエン(シクロペンタジエン二量体)、ジヒドロジシクロペンタジエン等の三環体、テトラシクロドデセン等の四環体、シクロペンタジエン三量体等の五環体、シクロペンタジエン四量体等の七環体、およびこれら二環体〜七環体のメチル、エチル、プロピルおよびブチル等のアルキル、ビニル等のアルケニル、エチリデン等のアルキリデン、フェニル、トリルおよびナフチル等のアリール等の置換体、更には、これら二環体〜七環体のエステル基、エーテル基、シアノ基、ハロゲン原子等の極性基を有する置換体等が例示される。中でも、入手が容易であり、反応性に優れることから、三環体以上の多環ノルボルネン系モノマーが好ましく、より好ましくは三環体、四環体、或いは五環体のノルボルネン系モノマーである。こうしたノルボルネン系モノマーは、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。ノルボルネン系モノマーと開環共重合し得るシクロブテン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、シクロオクテン、シクロドデセンなどの単環シクロオレフィンなどを、コモノマーとして用いることもできる。メタセシス触媒としては、RIM法でノルボルネン系モノマーを開環重合できるものであれば特に限定されず、公知のもので良い。たとえば、六塩化タングステン、又はトリドデシルアンモニウムモリブデート、もしくはトリ(トリデシル)アンモニウムモリブデート等のモリブデン酸有機アンモニウム塩等のノルボルネン系モノマーの塊状重合用触媒として公知のメタセシス触媒であれば特に制限はないが、モリブデン酸有機アンモニウム塩が好ましい。
【0067】
本発明の射出成形用組成物は、前記のような液状硬化性樹脂組成物と共に、前述の炭素繊維構造体を有効量含む。
【0068】
その量は、射出成形用組成物の用途や高分子マトリックス成分の種類等によって異なるが、組成物全体(なお、溶媒等の揮発性成分を含む場合にはこれらを除いたビヒクル固形分である)に対し、凡そ0.1〜20%である。0.1%未満では、形成される成形体における電気導電性、機械的強度、熱安定性等が十分なものとならない虞れがある。一方、20%より多くなると、粘度が上昇し射出成形が困難となる虞れがある。なお、例えば、静電塗装が可能な程度の導電性を付与する、静電気帯電防止性を付与するといった、形態においては、例えば、0.5〜5%程度とすることが望ましく、一方、例えば電極材料等のように機械的強度といった面よりも導電特性が重視される形態においては、例えば、5〜20%程度といった比較的高配合量とすることも可能である。
【0069】
なお、本発明の射出成形用組成物においては、このようにフィラーとしての炭素繊維構造体の配合量が比較的低いものであっても、マトリックス中に、微細な炭素繊維を均一な広がりをもって配置することができるため、上述したように電気伝導性に優れた射出成形用組成物を形成することができる。
【0070】
本発明において用いられる射出成形用組成物は、本発明の目的を阻害しない範囲で公知の種々の添加剤、例えば、充填剤、補強剤、各種安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、滑剤、可塑剤、溶剤等を配合することが可能である。
【0071】
特に、本発明において導電性樹脂成形体を調製しようとする場合には、金属粉末、カーボン粉末等のその他の導電性フィラーを配合することが可能である。なお、本発明に係る射出成形用組成物が、このような金属粉末、カーボン粉末等の導電性フィラーを、前記した炭素繊維構造体と共に含有している場合、比較的少量の炭素繊維構造体を含有することによって、これら導電性フィラーの配合量を低減させても、従来多量の導電性フィラーを配合することによってしか得られなかった高い導電性が発揮され、導電性フィラーの配合量の増大によって生じていた硬化皮膜強度の低下、易剥離性といった問題が解消されるとともに、高価な金属の添加量を低減することによるコスト的な利点が得られる。このように高い導電性が発現する作用機序として正確なところは明らかではないが、樹脂マトリックス中において金属またはカーボン粉末といった比較的大きな導電性フィラーとより小さな炭素繊維構造体とが接触することにより生じるものであると推定される。詳しくは、導電性フィラー同士の接触の際に生じる空隙にカーボンナノ構造体が充填されることにより電気的な連鎖が形成されて高い導電性が発現されると推定されるものである。
【0072】
金属粉末としては特に限定されるものではないが、例えば、銀、白金、パラジウム、銅、ニッケルなどの金属を1種あるいは混合物として用いることができる。これらの金属粉末の形状は、フレーク状、球状、樹枝状、樹塊状、不定形など導電フィラーとして使用されるものであれば特に限定されることなく使用することができる。このような金属粉末の粒径としては、特に限定されるものではないが、例えば、0.5〜15μm程度が好ましい。平均粒径が0.5μmより小さいと、金属の表面積が増加し、酸化し易くなってしまい導電性が十分に得られなくなってしまうからである。一方、平均粒径が15μmよりも大きいと、粒子同士が接触したときに多数の空隙が生じてしまい導電性が十分に得られなくなってしまう虞れがあるからである。
【0073】
また導電性フィラーとなるカーボン粉末としては、特に限定されるものではないが、一般に、カーボンブラックを用いることが好ましい。カーボンブラックとしては、各種製法により得られるいずれのものも使用することは可能であるが、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラック等を好適なものとして例示することができる。また、原料の相違により分類されるガスブラック、オイルブラック、アセチレンブラック等もまた好適な例として例示することができる。これらの中で、特に、アセチレンブラックおよびケッチェンブラックが好ましい。
【0074】
上記したような金属粉末、カーボン粉末等の導電性フィラーを熱硬化性樹脂組成物に配合する場合において、その配合量としては、金属粉末の場合、例えば、熱硬化性樹脂組成物100質量部に対して、金属粉末100〜500質量部程度が望ましい。100質量部より少ないと、金属粒子同士の接触箇所が少ないために、十分な導電性が得られなくなってしまう虞れがあるためであり、一方、500質量部よりも多いと、相対的に樹脂成分の含有量が少なくなり、この導電性樹脂組成物で例えば、導電路等を形成しても、この導電路が剥離しやすい等の不具合が発生する虞れが高くなるためである。また、カーボンブラックの場合は、熱硬化性樹脂組成物100質量部に対して、カーボンブラック5〜50質量部程度が望ましい。5質量部より少ないと、十分な導電性が得られなくなってしまう虞れがあるためであり、一方、50質量部よりも多いと、相対的に樹脂成分や、後述するカーボンナノ構造体の含有量が少なくなり、導電性が十分に発揮されなくなったり、この導電性樹脂組成物で例えば、導電路等を形成してもこの導電路が剥離しやすい等の不具合が発生する虞れが高くなるためである。なお、このように導電性フィラーを配合する場合におけるカーボンナノ構造体の配合量は、熱硬化性樹脂組成物100質量部に対し、カーボンナノ構造体0.1〜30質量部程度配合することが適当である。
【0075】
本発明の射出成形用組成物を調製するには、適当な攪拌装置を用いて攪拌しながら、液状熱硬化性樹脂組成物に、炭素繊維構造体を投入して混合してプレミックスとすれば良い。
【0076】
使用される攪拌装置としては、炭素繊維構造体の繊維を裁断してしまうような、過度のせん断力が負荷されない条件にて攪拌混合を行えるものであれば特に限定されず、スクリューないしプロペラ、パドル、リボン等の各種攪拌子を備えた単軸ないしは多軸の回転軸を有する各種の攪拌装置を用いることができる。
【0077】
このような攪拌装置を用いて、熱硬化性樹脂組成物を攪拌しながら、急激に粘性が高くならないように、液状熱硬化性樹脂組成物の温度を所定温度範囲に維持しながら、炭素繊維構造体を連続的あるいは分割的徐々に投入して混合を行う。この場合、液状熱硬化性樹脂組成物の種類によっても異なるが、液状熱硬化性樹脂組成物の温度を10〜70℃、より好ましくは、30〜70℃、さらに好ましくは50〜70℃に維持することが望ましい。70℃よりも高い温度となると、熱硬化性樹脂組成物は一般に反応が進み、急激な粘度上昇が起こり、得られる炭素繊維構造体含有熱硬化性樹脂組成物の貯蔵安定性に影響を及ぼす虞れが高い。また、使用時における作業性や物性にも影響を与えるため70℃以下に維持する必要がある。一方、樹脂組成物の温度が10℃よりも低い温度となっても、低温化による樹脂粘度の上昇が起こり、所期の撹拌混合が行えない虞れが高い。また、液状の熱硬化性樹脂組成物は、この10〜70℃の温度範囲において、例えば、0.01〜80Pa・s程度の粘度を示すことが望ましい。粘度が0.01Pa・s未満であると、攪拌、押出しにおける回転数を高めても、炭素繊維構造体の分散が悪くなるためである。これは、炭素繊維構造体は、ある程度の粘度の樹脂の流動によって分散されるためである。一方、粘度が80Pa・sを超えるものであると、攪拌、押出時においてカーボンナノ構造体に加わる応力が高くなり、熱硬化性樹脂組成物の温度上昇を生じさせる結果、急激な粘度上昇が起こり、得られる炭素繊維構造体含有熱硬化性樹脂組成物の貯蔵安定性に影響を及ぼす虞れがあるためである。
【0078】
なお液状硬化性樹脂組成物に対し、上記したような導電性フィラー、その他の充填剤等を配合する場合には、液状硬化性樹脂組成物への炭素繊維構造体の添加攪拌に先立ち、これらの導電性フィラー、その他の充填剤等を液状硬化性樹脂組成物に予め各種攪拌装置、混練機等を用いて分散配合しておくことが望ましい。すなわち、これらの導電性フィラー、その他の充填剤等を、先に述べたような比較的せん断力の弱い攪拌条件下で分散配合することは難しいためである。
【0079】
そして、上記のように調整されたプレミックス液状熱硬化性樹脂組成物を、同様に液状熱硬化性樹脂組成物の温度を10〜70℃程度に維持しつつ、金型温度は、熱硬化性樹脂組成物の硬化温度に維持して、公知の適当な射出成形装置に導入し、射出成形もしくは射出圧縮成形することにより所定形状の成形品を作製する。射出圧縮成形を用いる場合は、特に限定されないが、例えば、金型を開いた状態で樹脂組成物を射出充填し、その後金型を閉じて圧縮する方法、金型を型締め圧力をゼロにした状態で閉じて樹脂組成物を射出充填し、その際の樹脂内圧により金型を開かせた後、金型を閉じて圧縮する方法などがある。射出成形及び射出圧縮成形の成形条件は、使用する液状熱硬化性樹脂の溶融粘度や硬化剤、離型剤などの種類や含有量、成形品の大きさにより適宜選択される。
【0080】
なお、二液型の反応射出成形においては、モノマー液を第一の容器及び第二の容器に収容し、反応射出成形機にて1対1の混合比にて、成形機内で混合し、金型内に射出して、反応固化させることにより、成形品を作製する。
【0081】
本発明に係る射出成形用組成物により形成される射出成形品は、特に限定されるものではないが、代表的には、その表面抵抗値が1013Ω/cm以下、特に10〜1012Ω/cmとなる。
【0082】
本発明に係る射出成形用組成物の用途としては、特に限定されるものではないが、例えば、自動車用外板、航空機用部品等の構造材、燃料電池のセパレータ、電気二重層キャパシタの電極などといった電極材料、電磁波吸収材料等に広く応用することが可能である。
【実施例】
【0083】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0084】
なお、以下において、各物性値は次のようにして測定した。
【0085】
<面積基準の円相当平均径>
まず、粉砕品の写真をSEMで撮影する。得られたSEM写真において、炭素繊維構造体の輪郭が明瞭なもののみを対象とし、炭素繊維構造体が崩れているようなものは輪郭が不明瞭であるために対象としなかった。1視野で対象とできる炭素繊維構造体(60〜80個程度)はすべて用い、3視野で約200個の炭素繊維構造体を対象とした。対象とされた各炭素繊維構造体の輪郭を、画像解析ソフトウェア WinRoof(商品名、三谷商事株式会社製)を用いてなぞり、輪郭内の面積を求め、各繊維構造体の円相当径を計算し、これを平均化した。
【0086】
<嵩密度の測定>
内径70mmで分散板付透明円筒に1g粉体を充填し、圧力0.1Mpa、容量1.3リットルの空気を分散板下部から送り粉体を吹出し、自然沈降させる。5回吹出した時点で沈降後の粉体層の高さを測定する。このとき測定箇所は6箇所とることとし、6箇所の平均を求めた後、嵩密度を算出した。
【0087】
<ラマン分光分析>
堀場ジョバンイボン製LabRam800を用い、アルゴンレーザーの514nmの波長を用いて測定した。
【0088】
<TG燃焼温度>
マックサイエンス製TG−DTAを用い、空気を0.1リットル/分の流速で流通させながら、10℃/分の速度で昇温し、燃焼挙動を測定した。燃焼時にTGは減量を示し、DTAは発熱ピークを示すので、発熱ピークのトップ位置を燃焼開始温度と定義した。
【0089】
<X線回折>
粉末X線回折装置(JDX3532、日本電子製)を用いて、アニール処理後の炭素繊維構造体を調べた。Cu管球で40kV、30mAで発生させたKα線を用いることとし、面間隔の測定は学振法(最新の炭素材料実験技術(分析・解析編)、炭素材料学会編)に従い、シリコン粉末を内部標準として用いた。
【0090】
<粉体抵抗および復元性>
CNT粉体1gを秤取り、樹脂製ダイス(内寸40リットル、10W、80Hmm)に充填圧縮し、変位および荷重を読み取る。4端子法で定電流を流して、そのときの電圧を測定し、0.9g/cmの密度まで測定したら、圧力を解除し復元後の密度を測定した。粉体抵抗については、0.5、0.8および0.9g/cmに圧縮したときの抵抗を測定することとする。
【0091】
<粒状部の平均粒径、円形度、微細炭素繊維との比>
面積基準の円相当平均径の測定と同様に、まず、炭素繊維構造体の写真をSEMで撮影する。得られたSEM写真において、炭素繊維構造体の輪郭が明瞭なもののみを対象とし、炭素繊維構造体が崩れているようなものは輪郭が不明瞭であるために対象としなかった。1視野で対象とできる炭素繊維構造体(60〜80個程度)はすべて用い、3視野で約200個の炭素繊維構造体を対象とした。
【0092】
対象とされた各炭素繊維構造体において、炭素繊維相互の結合点である粒状部を1つの粒子とみなして、その輪郭を、画像解析ソフトウェア WinRoof(商品名、三谷商事株式会社製)を用いてなぞり、輪郭内の面積を求め、各粒状部の円相当径を計算し、これを平均化して粒状部の平均粒径とした。また、円形度(R)は、前記画像解析ソフトウェアを用いて測定した輪郭内の面積(A)と、各粒状部の実測の輪郭長さ(L)より、次式により各粒状部の円形度を求めこれを平均化した。
【0093】
R=A*4π/L2
さらに、対象とされた各炭素繊維構造体における微細炭素繊維の外径を求め、これと前記各炭素繊維構造体の粒状部の円相当径から、各炭素繊維構造体における粒状部の大きさを微細炭素繊維との比として求め、これを平均化した。
【0094】
<粒状部の間の平均距離>
面積基準の円相当平均径の測定と同様に、まず、炭素繊維構造体の写真をSEMで撮影する。得られたSEM写真において、炭素繊維構造体の輪郭が明瞭なもののみを対象とし、炭素繊維構造体が崩れているようなものは輪郭が不明瞭であるために対象としなかった。1視野で対象とできる炭素繊維構造体(60〜80個程度)はすべて用い、3視野で約200個の炭素繊維構造体を対象とした。
【0095】
対象とされた各炭素繊維構造体において、粒状部が微細炭素繊維によって結ばれている箇所を全て探し出し、このように微細炭素繊維によって結ばれる隣接する粒状部間の距離(一端の粒状体の中心部から他端の粒状体の中心部までを含めた微細炭素繊維の長さ)をそれぞれ測定し、これを平均化した。
【0096】
<炭素繊維構造体の破壊試験>
蓋付バイアル瓶中に入れられたトルエン100mlに、30μg/mlの割合で炭素繊維構造体を添加し、炭素繊維構造体の分散液試料を調製した。
【0097】
このようにして得られた炭素繊維構造体の分散液試料に対し、発信周波数38kHz、出力150wの超音波洗浄器((株)エスエヌディ製、商品名:USK-3)を用いて、超音波を照射し、分散液試料中の炭素繊維構造体の変化を経時的に観察した。
【0098】
まず超音波を照射し、30分経過後において、瓶中から一定量2mlの分散液試料を抜き取り、この分散液中の炭素繊維構造体の写真をSEMで撮影する。得られたSEM写真の炭素繊維構造体中における微細炭素繊維(少なくとも一端部が粒状部に結合している微細炭素繊維)をランダムに200本を選出し、選出された各微細炭素繊維の長さを測定し、D50平均値を求め、これを初期平均繊維長とした。
【0099】
一方、得られたSEM写真の炭素繊維構造体中における炭素繊維相互の結合点である粒状部をランダムに200個を選出し、選出された各粒状部をそれぞれ1つの粒子とみなしてその輪郭を、画像解析ソフトウェア WinRoof(商品名、三谷商事株式会社製)を用いてなぞり、輪郭内の面積を求め、各粒状部の円相当径を計算し、このD50平均値を求めた。そして得られたD50平均値を粒状部の初期平均径とした。
【0100】
その後、一定時間毎に、前記と同様に瓶中から一定量2mlの分散液試料を抜き取り、この分散液中の炭素繊維構造体の写真をSEMで撮影し、この得られたSEM写真の炭素繊維構造体中における微細炭素繊維のD50平均長さおよび粒状部のD50平均径を前記と同様にして求めた。
【0101】
そして、算出される微細炭素繊維のD50平均長さが、初期平均繊維長の約半分となった時点(本実施例においては超音波を照射し、500分経過後)における、粒状部のD50平均径を、初期平均径と対比しその変動割合(%)を調べた。
【0102】
<導電性>
得られた板状試験片の導電性を、四探針式低抵抗率計(ロレスタGP、三菱化学(株)製)を用いて、試験片表面9箇所の抵抗(Ω)を測定し、その平均値より表面抵抗値((Ω/cm)を求めた。また、同抵抗計により体積抵抗率(Ω・cm)に換算し、平均値を算出した。
【0103】
合成例1
CVD法によって、トルエンを原料として炭素繊維構造体を合成した。
【0104】
触媒としてフェロセン及びチオフェンの混合物を使用し、水素ガスの還元雰囲気で行った。トルエン、触媒を水素ガスとともに380℃に加熱し、生成炉に供給し、1250℃で熱分解して、炭素繊維構造体(第一中間体)を得た。
【0105】
なお、この炭素繊維構造体(第一中間体)を製造する際に用いられた生成炉の概略構成を図8に示す。図8に示すように、生成炉1は、その上端部に、上記したようなトルエン、触媒および水素ガスからなる原料混合ガスを生成炉1内へ導入する導入ノズル2を有しているが、さらにこの導入ノズル2の外側方には、円筒状の衝突部3が設けられている。この衝突部3は、導入ノズル2の下端に位置する原料ガス供給口4より反応炉内に導出される原料ガスの流れに干渉し得るものとされている。なお、この実施例において用いられた生成炉1では、導入ノズル2の内径a、生成炉1の内径b、筒状の衝突部3の内径c、生成炉1の上端から原料混合ガス導入口4までの距離d、原料混合ガス導入口4から衝突部3の下端までの距離e、原料混合ガス導入口4から生成炉1の下端までの距離をfとすると、各々の寸法比は、おおよそa:b:c:d:e:f=1.0:3.6:1.8:3.2:2.0:21.0に形成されていた。また、反応炉への原料ガス導入速度は、1850NL/min、圧力は1.03atmとした。
【0106】
上記のようにして合成された中間体を窒素中で900℃で焼成して、タールなどの炭化水素を分離し、第二中間体を得た。この第二中間体のラマン分光測定のR値は0.98であった。また、この第一中間体をトルエン中に分散して電子顕微鏡用試料調製後に観察したSEMおよびTEM写真を図1、2に示す。
【0107】
さらにこの第二中間体をアルゴン中で2600℃で高温熱処理し、得られた炭素繊維構造体の集合体を気流粉砕機にて粉砕し、本発明において用いられる炭素繊維構造体を得た。
【0108】
得られた炭素繊維構造体をトルエン中に超音波で分散して電子顕微鏡用試料調製後に観察したSEMおよびTEM写真を図3、4に示す。
【0109】
また、得られた炭素繊維構造体をそのまま電子顕微鏡用試料ホルダーに載置して観察したSEM写真を図5に、またその粒度分布を表1に示した。
【0110】
さらに高温熱処理前後において、炭素繊維構造体のX線回折およびラマン分光分析を行い、その変化を調べた。結果を図6および7に示す。
【0111】
また、得られた炭素繊維構造体の円相当平均径は、72.8μm、嵩密度は0.0032g/cm、ラマンID/IG比値は0.090、TG燃焼温度は786℃、面間隔は3.383オングストローム、粉体抵抗値は0.0083Ω・cm、復元後の密度は0.25g/cmであった。
【0112】
さらに炭素繊維構造体における粒状部の粒径は平均で、443nm(SD207nm)であり、炭素繊維構造体における微細炭素繊維の外径の7.38倍となる大きさであった。また粒状部の円形度は、平均値で0.67(SD0.14)であった。
【0113】
また、前記した手順によって炭素繊維構造体の破壊試験を行ったところ、超音波印加30分後の初期平均繊維長(D50)は、12.8μmであったが、超音波印加500分後の平均繊維長(D50)は、6.7μmとほぼ半分の長さとなり、炭素繊維構造体において微細炭素繊維に多くの切断が生じたことが示された。しかしながら、超音波印加500分後の粒状部の平均径(D50)を、超音波印加30分後の初期初期平均径(D50)と対比したところ、その変動(減少)割合は、わずか4.8%であり、測定誤差等を考慮すると、微細炭素繊維に多くの切断が生じた負荷条件下でも、切断粒状部自体はほとんど破壊されることなく、繊維相互の結合点として機能していることが明らかとなった。
【0114】
なお、合成例1で測定した各種物性値を、表2にまとめた。
【0115】
【表1】

【0116】
【表2】

合成例2
生成炉からの排ガスの一部を循環ガスとして使用し、この循環ガス中に含まれるメタン等の炭素化合物を、新鮮なトルエンと共に、炭素源として使用して、CVD法により微細炭素繊維を合成した。
【0117】
合成は、触媒としてフェロセン及びチオフェンの混合物を使用し、水素ガスの還元雰囲気で行った。新鮮な原料ガスとして、トルエン、触媒を水素ガスとともに予熱炉にて380℃に加熱した。一方、生成炉の下端より取り出された排ガスの一部を循環ガスとし、その温度を380℃に調整した上で、前記した新鮮な原料ガスの供給路途中にて混合して、生成炉に供給した。
【0118】
なお、使用した循環ガスにおける組成比は、体積基準のモル比でCH 7.5%、C 0.3%、C 0.7%、C 0.1%、CO 0.3%、N 3.5%、H 87.6%であり、新鮮な原料ガスとの混合によって、生成炉へ供給される原料ガス中におけるメタンとベンゼンとの混合モル比CH/C(なお、新鮮な原料ガス中のトルエンは予熱炉での加熱によって、CH:C=1:1に100%分解したものとして考慮した。)が、3.44となるように、混合流量を調整された。
【0119】
なお、最終的な原料ガス中には、混合される循環ガス中に含まれていた、C、CおよびCOも炭素化合物として当然に含まれているが、これらの成分は、いずれもごく微量であり、実質的に炭素源としては無視できるものであった。
【0120】
そして、実施例1と同様に、生成炉において、1250℃で熱分解して、炭素繊維構造体(第一中間体)を得た。
【0121】
なお、この炭素繊維構造体(第一中間体)を製造する際に用いられた生成炉の構成は、円筒状の衝突部3がない以外は、図8に示す構成と同様のものであり、また反応炉への原料ガス導入速度は、合成例1と同様に、1850NL/min、圧力は1.03atmとした。
【0122】
上記のようにして合成された第一中間体をアルゴン中で900℃で焼成して、タールなどの炭化水素を分離し、第二中間体を得た。この第二中間体のラマン分光測定のR値は0.83であった。また、第一中間体をトルエン中に分散して電子顕微鏡用試料調製後に観察したところ、そのSEMおよびTEM写真は図1、2に示す合成例1のものとほぼ同様のものであった。
【0123】
さらにこの第二中間体をアルゴン中で2600℃で高温熱処理し、得られた炭素繊維構造体の集合体を気流粉砕機にて粉砕し、本発明に係る炭素繊維構造体を得た。
【0124】
得られた炭素繊維構造体をトルエン中に超音波で分散して電子顕微鏡用試料調製後に観察したSEMおよびTEM写真は、図3、4に示す合成例1のものとほぼ同様のものであった。
【0125】
また、得られた炭素繊維構造体をそのまま電子顕微鏡用試料ホルダーに載置して観察し粒度分布を調べた。得られた結果を表3に示す。
【0126】
さらに高温熱処理前後において、炭素繊維構造体のX線回折およびラマン分光分析を行い、その変化を調べたところ、図6および7に示す合成例1の結果とほぼ同様のものであった。
【0127】
また、得られた炭素繊維構造体の円相当平均径は、75.8μm、嵩密度は0.004g/cm、ラマンI/I比値は0.086、TG燃焼温度は807℃、面間隔は3.386オングストローム、粉体抵抗値は0.0077Ω・cm、復元後の密度は0.26g/cmであった。
【0128】
さらに炭素繊維構造体における粒状部の粒径は平均で、349.5nm(SD180.1nm)であり、炭素繊維構造体における微細炭素繊維の外径の5.8倍となる大きさであった。また粒状部の円形度は、平均値で0.69(SD0.15)であった。
【0129】
また、前記した手順によって炭素繊維構造体の破壊試験を行ったところ、超音波印加30分後の初期平均繊維長(D50)は、12.4μmであったが、超音波印加500分後の平均繊維長(D50)は、6.3μmとほぼ半分の長さとなり、炭素繊維構造体において微細炭素繊維に多くの切断が生じたことが示された。しかしながら、超音波印加500分後の粒状部の平均径(D50)を、超音波印加30分後の初期初期平均径(D50)と対比したところ、その変動(減少)割合は、わずか4.2%であり、測定誤差等を考慮すると、微細炭素繊維に多くの切断が生じた負荷条件下でも、切断粒状部自体はほとんど破壊されることなく、繊維相互の結合点として機能していることが明らかとなった。
【0130】
なお、合成例2で測定した各種物性値を、表4にまとめた。
【0131】
【表3】

【0132】
【表4】

実施例1〜10
原料液の調整;
(モノマー液Aの調整)
精製ジシクロペンタジエン(純度99.7%)95質量部、精製エチリデンノルボルネン5質量部よりなるモノマー混合物に対して、合成例1及び合成例2で得られた炭素繊維構造体を前記モノマー混合物に対して0.2〜10質量部加え、更に六塩化タングステンをタングステン含有量が0.01M/Lになるように加えて、均一混合し、炭素繊維構造体及び触媒成分を含有するモノマー液Aを調整した。
【0133】
(モノマー液Bの調整)
精製ジシクロペンタジエン95質量部、精製エチリデンノルボルネン5質量部よりなるモノマー混合物に対して、合成例1及び合成例2で得られた炭素繊維構造体を前記モノマー混合物に対して0.2〜10質量部加え、エチレン含有70モル%のエチレンープロピレンーエチリデンノルボルネン共重合ゴム3質量部を溶解した溶液に、トリオクチルアルミニウム85、ジオクチルアルミニウムアイオダイド15、ジグライム100のモル割合で混合調整した重合用活性化剤混合液をアルミニウム含有が0.03M/Lになる割合で添加し、均一混合し、炭素繊維構造体及び活性化剤成分を含有するモノマー液Bを調整した。
【0134】
(成形)
それぞれのモノマー液を第1容器及び第2容器に収納し、反応射出成形機にて1対1の混合比により成形機内で混合し、金型内に射出し、反応固化させることにより、長さ50mm、幅30mm、厚さ3mmの板状の試験片を作製した。成形条件としては、原料のA液、B液の液温度を30℃、金型温度を90℃とした。
【0135】
(評価方法)
得られた板状試験片の導電性を、上述した方法により測定した。得られた結果を表5、表6に示す。
【0136】
比較例1
実施例1〜10に用いた原料液に炭素繊維構造体を配合しないものを作製し、実施例1〜15と同様の測定を行った。得られた結果を表5、表6に示す。
【0137】
【表5】

【0138】
【表6】

実施例11〜20
(炭素繊維構造体プリフォームの成形)
合成例1又は合成例2で得られた炭素繊維構造体100質量部に対して、レゾールタイプのフェノール樹脂(残炭率:46%、不揮発分:76%、住友デュレス製 PR−51708)2質量部を、ヘンシェルミキサー(三井三池化工機製)を用いて30℃にて1000rpmで5分間混合し、その後、混合物を圧縮成形の金型内に入れて、150℃で30分間圧縮加熱し、プリフォームの成形品を得た。
【0139】
原料液の調整;(モノマー液Aの調整)
精製ジシクロペンタジエン(純度99.7%)95質量部、精製エチリデンノルボルネン5質量部よりなるモノマー混合物に対して、六塩化タングステンをタングステン含有量が0.01M/Lになるように加えて、均一混合し、炭素繊維構造体及び触媒成分を含有するモノマー液Aを調整した。
【0140】
(モノマー液Bの調整)
精製ジシクロペンタジエン95質量部、精製エチリデンノルボルネン5質量部よりなるモノマー混合物に対して、エチレン含有70モル%のエチレンープロピレンーエチリデンノルボルネン共重合ゴム3質量部を溶解した溶液に、トリオクチルアルミニウム85、ジオクチルアルミニウムアイオダイド15、ジグライム100のモル割合で混合調整した重合用活性化剤混合液をアルミニウム含有が0.03M/Lになる割合で添加し、均一混合し、炭素繊維構造体及び活性化剤成分を含有するモノマー液Bを調整した。
【0141】
(成形)
金型内に所定量のプリフォームをセットし、その後型を閉め、それぞれのモノマー液を第1容器及び第2容器に収納し、反応射出成形機にて1対1の混合比により成形機内で混合し、金型内に射出し、反応固化させることにより、長さ50mm、幅30mm、厚さ3mmの板状の試験片を作製した。成形条件としては、原料のA液、B液の液温度を30℃、金型温度を90℃とした。
【0142】
(評価方法)
得られた板状試験片の導電性を、四探針低抵抗率計(三菱化学(株)製、ロレスタGP)を用いて表面9箇所の抵抗(Ω)を測定した。そして同抵抗計により体積抵抗(Ω・cm)に換算し、平均値を算出した。
【0143】
比較例2
実施例11〜20に用いた原料液に炭素繊維構造体を配合しないものを作製し、実施例11〜20と同様の測定を行った。
【0144】
(結果)
実施例11〜20及び比較例2における表面抵抗(Ω/cm)を表7に、体積抵抗(Ω・cm)を表8に示す。
【0145】
【表7】

【0146】
【表8】

実施例21〜30
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(旭電化工業(株)製、アデカレジン EP4100E、エポキシ当量190)90質量部、ジシアンジアミド(旭電化工業(株)製、アデカハードナー EH3636−AS)7.2質量部を予め混合してなる熱硬化性樹脂組成物を、混合槽に入れ、攪拌装置にて40rpmの回転数で攪拌しながら、合成例1および合成例2で得られた炭素繊維構造体0.5〜10質量部を連続的に投入した後、槽内における樹脂組成物温度を表1に示すようにそれぞれ10〜70℃の範囲内の所定温度に制御して、10分間混合を行い、プレミックスを行った。次に、得られたプレミックス液状熱硬化性樹脂組成物を、汎用の反応射出成形機に投入し、金型温度150℃で成形することで、長さ50mm、幅30mm、厚さ3mmの板状射出成形品を得た。
【0147】
得られた板状試験片の導電性を、上記した方法により測定した得られた。結果を表9、10に示す。
【0148】
比較例3
実施例21〜30に用いた原料液に炭素繊維構造体を配合しないものを作製し、実施例21〜30と同様の測定を行った。得られた結果を表9、表10に示す。
【0149】
【表9】

【0150】
【表10】

【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】本発明の射出成形用組成物に用いる炭素繊維構造体の中間体のSEM写真である。
【図2】本発明の射出成形用組成物に用いる炭素繊維構造体の中間体のTEM写真である。
【図3】本発明の射出成形用組成物に用いる炭素繊維構造体のSEM写真である。
【図4】(a)(b)は、それぞれ本発明の射出成形用組成物に用いる炭素繊維構造体のTEM写真である。
【図5】本発明の射出成形用組成物に用いる炭素繊維構造体のSEM写真である。
【図6】本発明の射出成形用組成物に用いる炭素繊維構造体および該炭素繊維構造体の中間体のX線回折チャートである。
【図7】本発明の射出成形用組成物に用いる炭素繊維構造体および該炭素繊維構造体の中間体のラマン分光分析チャートである。
【図8】本発明の実施例において炭素繊維構造体の製造に用いた生成炉の概略構成を示す図面である。
【符号の説明】
【0152】
1 生成炉
2 導入ノズル
3 衝突部
4 原料ガス供給口
a 導入ノズルの内径
b 生成炉の内径
c 衝突部の内径
d 生成炉の上端から原料混合ガス導入口までの距離
e 原料混合ガス導入口から衝突部の下端までの距離
f 原料混合ガス導入口から生成炉の下端までの距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状硬化性樹脂組成物中に、外径15〜100nmの炭素繊維から構成される3次元ネットワーク状の炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有しており、かつ当該粒状部は前記炭素繊維の成長過程において形成されてなるものである炭素繊維構造体を、全体の0.1〜20質量%の割合で含有してなることを特徴とする反応射出成形用組成物。
【請求項2】
前記炭素繊維構造体は、ラマン分光分析法で測定されるI/Iが、0.2以下であることを特徴とする請求項1に記載の反応射出成形用組成物。
【請求項3】
前記炭素繊維構造体は、炭素源として、分解温度の異なる少なくとも2つ以上の炭素化合物を用いて、生成されたものである請求項1または2に記載の反応射出成形用組成物。
【請求項4】
請求項1〜4のいずれかに記載の反応射出成形用組成物を成形して得られたことを特徴とする反応射出成形品。

【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−112886(P2007−112886A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−305071(P2005−305071)
【出願日】平成17年10月19日(2005.10.19)
【出願人】(502205145)株式会社物産ナノテク研究所 (101)
【Fターム(参考)】