説明

反応方法および反応装置

【課題】固体触媒の存在下、発熱または吸熱を伴う液相反応であり、外部循環により反応液の除熱または加熱をする反応において、反応槽底部への固体触媒の堆積を、効率よく低減、抑制することができる反応方法、および、その反応方法を実施するための反応装置を提供すること。
【解決手段】固体触媒の存在下で液相において発熱または吸熱を伴う反応をさせるための反応槽2から、循環ライン6(オーバーフローライン13)を通じて反応液を排出する。次いで、排出された反応液を、熱交換器8で除熱または加熱後、反応槽2に再度供給させるときに、供給される反応液を、反応液噴出器14により、反応槽2内の底面に向けて噴出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体触媒の存在下、液相中で反応生成物を生成させるための反応方法、および、その反応方法を実施するための反応装置に関する。
【背景技術】
【0002】
反応槽内の反応液を除熱または加熱する方法として、反応槽の鉛直方向上側から反応液を抜き出し、反応槽の外部で熱交換後、反応槽の鉛直方向下側(例えば、反応槽底部)から、反応液を、再度反応槽に供給して、循環させる外部循環方法(上部抜き出し外部循環方法)が知られている。
また、特許文献1および2には、上部抜き出し外部循環方法による攪拌装置が記載されている。
【特許文献1】特開平11−276869号公報
【特許文献2】特開2002−326023号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかるに、特許文献1および2に記載の攪拌装置では、いずれも、反応槽の鉛直方向上側から抜き出された反応液が、反応槽底部に設けられた開口部から、鉛直方向上側に向けて供給される。
このため、固体触媒の存在下、液相中で反応生成物を生成させる反応において、特許文献1および2に記載の攪拌装置を用いて、反応液を循環させると、反応槽底部の上記開口部の周囲に、固体触媒が堆積する場合がある。このような固体触媒の堆積は、反応槽内壁への固体触媒の付着や、固体触媒の分散不良による反応効率の低下などを生じさせる。
【0004】
そこで、本発明の目的は、固体触媒の存在下での発熱または吸熱を伴う液相反応であり、外部循環により反応液の除熱または加熱をする反応において、反応槽底部への固体触媒の堆積を、効率よく低減、抑制することができる反応方法、および、その反応方法を実施するための反応装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の反応方法は、固体触媒の存在下で液相において発熱または吸熱を伴う反応をさせるための反応槽から、反応液を排出し、次いで、排出された反応液を、除熱または加熱後、前記反応槽に再度供給させるときに、供給される反応液を、前記反応槽内の底面に向けて噴出することを特徴としている。
この反応方法によれば、反応槽に再度供給される反応液を、反応槽内の底面に向けて噴出することで、反応槽内の底部に沿った反応液流を形成することができる。そのため、形成された反応液流により、固体触媒の液相中への混合が促進され、反応槽底部での固体触媒の堆積を低減、抑制することができ、ひいては、反応効率の向上を図ることができる。
【0006】
また、本発明の反応方法は、前記反応槽内の反応液を、前記反応槽に再度供給される反応液流により攪拌することが好適である。
この反応方法によれば、反応槽に再度供給される反応液が、反応槽内の底面に向けて噴出されることで、反応槽内の底部に沿って流れた後、反応槽内の底面の反対側に固体触媒を吹き上げる反応液流を形成することができる。それゆえ、上記本発明の反応方法の好適態様によれば、固体触媒の混合の促進と同時に、反応槽内の液相の効率的な攪拌を促進することができる。また、これにより、反応槽内の液相を攪拌する攪拌手段として、攪拌翼を用いる必要がなく、反応槽として、気泡塔などを用いることができる。
【0007】
また、本発明の反応方法は、前記反応が、前記液相中に供給される原料液および原料ガスによる気液接触反応である場合においても、好適である。
すなわち、この反応方法は、固液二相系での液相反応だけでなく、気液固三相系での液相反応にも適用できる。しかも、この反応方法によれば、反応槽に再度供給される反応液が上述の反応液流を形成することで、反応槽内の液相の攪拌が促進されることから、反応槽内に供給される原料ガスも効率的に攪拌されて、反応効率が向上される。
【0008】
また、本発明の反応方法は、前記反応が、前記液相中に供給される原料液および原料ガスによる気液接触反応である場合において、前記反応槽から排出された反応液を、前記反応槽における反応液の排出位置よりも下方で、自然循環により、再度前記反応槽に供給させることが好適である。
この反応方法によれば、反応槽内の液相に原料ガスが供給されることで、上記液相の見掛けの密度を、反応槽から循環ラインに供給される反応液の見掛けの密度に比べて、低くすることができ、これにより、サイフォン効果に起因する自然循環によって、反応槽から排出された反応液を、上記反応槽における反応液の排出位置よりも下方で、再度反応槽に供給、循環させることができる。このため、反応液を強制循環させるためのポンプを用いることなく、反応液の外部循環が可能になる。
【0009】
また、本発明の反応方法は、前記反応が、前記液相中に供給される原料液および原料ガスによる気液接触反応である場合において、前記反応槽から反応液を排出し、前記反応槽に再度供給する途中で、前記反応液を、気液分離槽で気液分離させることが好適である。
反応槽から排出される反応液は、原料ガスが混入している場合や、反応生成物としてのガスが溶存している場合があり、反応効率の低下や、反応生成物の回収効率(生産性)の低下を引き起こす場合がある。しかし、この反応方法によれば、反応槽から排出された反応液を反応槽へ再度供給する前に、混入している原料ガスや溶存しているガスの除去、回収が可能になり、これにより、反応効率や生産性の向上を図ることができる。
【0010】
また、本発明の反応装置は、固体触媒の存在下で液相において発熱または吸熱を伴う反応をさせるための反応槽と、前記反応槽から反応液を排出し、前記反応槽に再度供給させるための循環ラインと、前記循環ラインの途中に介在する熱交換手段と、前記循環ラインの下流側端部に設けられ、反応液を前記反応槽内の底面に向けて噴出させるための反応液噴出手段と、を備えることを特徴としている。
【0011】
この反応装置では、反応槽に再度供給される反応液を、上記反応液噴出手段により、反応槽内の底面に向けて噴出させることができ、これにより、反応槽内の底部に沿った反応液流を形成することができる。そのため、形成された反応液流により、固体触媒の液相中への混合が促進され、反応槽底部での固体触媒の堆積を低減、抑制することができ、ひいては、反応効率の向上を図ることができる。
【0012】
さらに、上述の反応槽内の底部に沿った反応液流は、その後、反応槽内の底面の反対側に固体触媒を吹き上げる反応液流を形成することから、上記の反応装置によれば、固体触媒の混合の促進と同時に、反応槽内の液相の効率的な攪拌を促進することができる。また、これにより、反応槽内の液相を攪拌する攪拌手段として、攪拌翼を用いる必要がなく、反応槽として、気泡塔などを用いることができる。
【0013】
また、本発明の反応装置は、前記反応槽が、気泡塔であることが好適である。
この反応装置によれば、反応槽に再度供給される反応液が上述の反応液流を形成することから、反応槽が気泡塔から構成される場合にも、反応槽内の液相の効率的な攪拌が促進される。また、反応槽が気泡塔から構成されることで、装置構成の簡略化を図ることができる。
【0014】
また、本発明の反応装置は、前記反応槽が、気泡塔である場合において、前記循環ラインの下流側端部が、前記循環ラインの上流側端部よりも下方に配置されており、前記循環ラインに、気液分離手段を備えていることが好適である。
この反応装置によれば、反応槽内に気泡が供給されることで、反応槽内の液相の見掛けの密度が、反応槽から排出されて循環ラインに供給される反応液の見掛けの密度に比べて低くなることから、サイフォン効果に起因する自然循環によって、反応槽から排出された反応液を、再度反応槽に供給、循環させることができる。このため、反応液を強制循環させるためのポンプを用いることなく、反応液の外部循環が可能になる。
【0015】
また、本発明の反応装置は、前記気液分離手段が、前記循環ラインの途中に備えられた気液分離槽であることが好適である。
反応槽から排出される反応液には、原料ガスが混入している場合や、反応生成物としてのガスが溶存している場合があるため、反応効率や、反応生成物の回収効率(生産性)の低下を引き起こす場合がある。しかし、この反応装置によれば、循環ラインの途中に設けられた気液分離槽により、反応液に混入している原料ガスや、反応液に溶存しているガスの除去、回収をすることができ、反応効率や生産性の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の反応方法および反応装置によれば、固体触媒の存在下での発熱または吸熱を伴う液相反応であり、外部循環により反応液の除熱または加熱をする反応において、反応槽底部への固体触媒の堆積を、効率よく低減、抑制することができ、反応効率や生産性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は、本発明の反応装置の一実施形態を示す概略構成図である。
図1において、この反応装置1は、固体触媒の存在下、液相中で、気液接触により反応生成物を生成させるための反応装置、すなわち、気液固三相系での液相反応のための反応装置であって、反応槽2、原料ガス供給ライン3、原料液供給ライン4、固体触媒供給ライン5、循環ライン6、気液分離手段としての気液分離槽7、および、熱交換手段としての熱交換器8を備えている。
【0018】
反応槽2は、固体触媒の存在下、液相において反応をさせることができる反応槽、好ましくは、固体触媒の存在下、液相中で、気液接触による反応をさせることができる反応槽であれば、特に限定されず、例えば、耐圧性の気泡塔などから構成されている。
反応槽2は、より具体的には、その周側面を構成し、略円筒形状に形成される反応槽胴部9と、その上面を構成し、略放物面鏡形状に形成される反応槽天井部10と、その底面を構成し、略放物面鏡形状に形成される反応槽底部11とを一体的に備える密閉空洞形状に形成されている。
【0019】
また、この反応槽2内には、底部において、スパージャ12と、スパージャ12の鉛直方向下方に配置される、反応液噴出手段としての反応液噴出器14とが設けられている。
原料ガス供給ライン3は、その上流側端部が、原料ガス源に接続されており、また、その下流側端部が、スパージャ12に接続されている。
スパージャ12は、反応槽2内の底部、より具体的には、反応槽底部11の近傍に設けられている。
【0020】
このスパージャ12は、供給される原料ガスを、液相に対して噴射することができるスパージャであれば、特に限定されず、例えば、円筒形状の管がリング形状に加工された、いわゆるリング形状スパージャや、例えば、円筒形状の管が骨組形状に加工された、いわゆる骨組形状(ラダーパイプ型)スパージャなどの、公知の各種形状のスパージャが挙げられる。
【0021】
原料液供給ライン4は、その上流側端部が、原料液源に接続されており、また、その下流側端部が、反応槽2内に配置されている。
固体触媒供給ライン5は、その上流側端部が、固体触媒源に接続されており、また、その下流側端部が、反応槽2内に配置されている。
循環ライン6は、反応槽2から排出された反応液を、再び反応槽2に循環させるための経路であって、循環ライン6の上流側端部は、反応槽2の反応槽胴部9の上部に接続されており、下流側端部は、反応槽2の反応槽底部11の軸心部において、反応液噴出器14に接続されている。
【0022】
また、循環ライン6の途中には、循環ライン6の上流側から下流側へと順に、気液分離槽7と、熱交換器8とが介装されている。
循環ライン6のうち、その上流側端部から、気液分離槽7までのラインは、気液分離手段としてのオーバーフローライン13として設けられており、反応槽2内の反応液の液面Lが予め設定された液面ラインに達したときに、反応槽2から反応液がオーバーフローされる。
【0023】
気液分離槽7は、循環ライン6の途中で、オーバーフローライン13よりも下流側に、かつ、後述する熱交換器8よりも上流側に設けられる。この気液分離槽7は、反応槽2からオーバーフローライン13を経て排出された反応液を一時貯留するための貯留槽であって、気液分離槽7内に反応液が一時貯留されることにより、反応液から、反応液に含まれている気体成分(例えば、原料ガス、反応生成物、大気泡など。)が除去される。なお、気液分離槽7の大きさは、特に限定されないが、一般的に、フルード数が0.3より小さくなるように設計することで、良好に大気泡が分離され、気液分離槽7よりも下流側の循環ライン6において、気体成分が巻き込まれるおそれを軽減できる。
【0024】
また、この反応装置1では、反応槽2から排出された反応液が、反応槽2における反応液の排出位置よりも下方で、再度反応槽2に供給され、しかも、循環ライン6の上流側端部から気液分離槽7までのラインがオーバーフローライン13として設けられており、さらに、循環ライン6の途中で、オーバーフローライン13よりも下流側に、気液分離槽7が設けられていることから、反応槽2から排出された反応液を、サイフォン効果に起因する自然循環により、再度反応槽2へと還流させることができる。
【0025】
熱交換器8は、循環ライン6の途中における気液分離槽7の下流側に設けられる。この熱交換器8は、気液分離槽7を経て供給される反応液を、熱交換により除熱または加熱して、循環ライン6に供給する。
ここで、原料ガスと原料液との反応が、発熱反応である場合は、熱交換器8は、例えば、クーラーとして構成され、熱交換器8において、反応液が除熱される。一方、原料ガスと原料液との反応が、吸熱反応である場合は、熱交換器8は、例えば、ヒーターとして構成され、熱交換器8において、反応液が加熱される。
【0026】
反応液噴出器14は、反応槽2内の反応槽底部11に設けられ、循環ライン6の下流側端部と接続されている。この反応液噴出器14は、反応槽2からオーバーフローライン13を経て排出され、循環ライン6を通り、気液分離槽7および熱交換器8を経由して、再度、反応槽2内に還流される反応液を、反応槽2内に再度供給する。
反応液噴出器14は、循環ライン6の下流側端部(噴出口18)から、反応槽2の軸線に沿って、鉛直方向上方に供給される反応液を、鉛直方向下方に方向転換させて、反応槽2内の底面(反応槽2内部の底部側の鏡面)に向けて噴出させるようにしている。
【0027】
このように、還流される反応液を、反応液噴出器14から、反応槽2内の底面に向けて噴出させたときに、噴出口18から噴出された反応液は、例えば、まず、反応槽底部11の内壁面(反応槽2の底面)に衝突し、次いで、反応槽2の半径方向外側へ屈曲して流れる反応液流(矢印A)と、反応槽2の半径方向内側へ屈曲して流れる反応液流(矢印B)とを形成する。さらに、反応槽2の半径方向外側へ屈曲して流れる反応液流(矢印A)は、反応槽底部11の内壁面に沿って上昇して、反応槽2の底面から鉛直方向上方(反応槽天井部10側)に固体触媒を吹き上げる反応液流(矢印C)を形成し、一方で、反応槽2の半径方向内側へ屈曲して流れる反応液流(矢印B)は、反応槽2の軸心近傍で上昇して、反応槽2の底面から鉛直方向上方(反応槽天井部10側)に固体触媒を吹き上げる反応液流(矢印D)を形成する。これら反応槽底部11の内壁面に沿って上昇する反応液流(矢印C)と、反応槽2の軸心近傍で上昇する反応液流(矢印D)との形成により、固体触媒の混合の促進と同時に、反応槽2内の反応液の効率的な攪拌を促進することができる。
【0028】
ここで、反応液噴出器14について、図2および図3を参照して具体的に説明する。
図2および図3は、反応液噴出器10を示す斜視図であって、図2は、ノズル型の反応液噴出器15を示し、図3は、ラダーパイプ型の反応液噴出器19を示している。
図2を参照して、ノズル型の反応液噴出器15は、循環ライン6の下流側端部と連通して、反応槽底部11の内壁面から鉛直方向上方に延びる主管16と、主管16の上端部と連通して、主管16から水平方向において、平面視略十字形状に延びる枝管17と、を備えている。各枝管17の先端部は、鉛直方向下方に屈曲されており、その先端の開口部が、反応槽底部11の内壁面と対向する噴出口18とされている。反応槽2からオーバーフローされ、循環ライン6を経て、再度、反応槽2に還流される反応液は、各噴出口18から反応槽底部11の内壁面に向けて噴出される。
【0029】
また、図3を参照して、ラダーパイプ型の反応液噴出器19は、循環ライン6の下流側端部と連通して、反応槽底部11の内壁面から鉛直方向上方に延びる主管20と、主管20の上端部と連通して、主管20から水平方向に延びる直管からなる分配管21と、分配管21と連通して、分配管21の長手方向に対して直交する方向に延びる複数の枝管22とを備えている。これら複数の枝管22は、分配管21の長手方向に互いに等間隔を隔てて、分配管21と主管20との交点を境界として分配管21の長手方向において対称に設けられている。また、各枝管22の鉛直方向下側面(反応槽底部11の内壁面)には、複数の放出孔23が設けられている。これら放出孔23は、枝管22の長手方向に沿って等間隔で設けられている。反応槽2からオーバーフローされ、循環ライン6を経て、再度、反応槽2に還流される反応液は、各放出孔23から反応槽底部11の内壁面に向けて噴出される。
【0030】
再び、図1を参照して、この反応装置1は、さらに、排出ライン24と、取出ライン25とを備えている。
排出ライン24は、その上流側端部が、反応槽2の頂部、詳しくは、反応槽天井部10の頂部に接続されている。
取出ライン25は、その上流側端部が、気液分離槽7の頂部に接続されている。また、取出ライン25の下流側端部は、排出ライン24の途中に接続されている。
【0031】
次に、図1に示す反応装置1により、原料ガスと原料液とを、固体触媒の存在下、液相中で反応させるための、本発明の反応方法(気液固三相系での液相反応)の一実施形態について説明する。
この方法では、まず、反応槽2内に、溶媒を仕込み、原料液供給ライン4から原料液を供給し、固体触媒供給ライン5から固体触媒を供給し、さらに、原料ガス供給ライン3を介して、スパージャ12から原料ガスを供給する。従って、反応槽2内は、気液固三相系になっている。なお、溶媒は、好ましくは、原料液である。
【0032】
反応槽2において、原料液の供給量は、例えば、単位時間当たりの反応生成物の生産量などによって、適宜決定される。
原料ガスの供給量は、特に限定されないが、原料液と反応する原料ガスの化学量論に対し、過剰量とすることが好ましい。
固体触媒の供給量は、反応槽2内の反応液の量(原料液と溶媒との合計量)や、反応により消費され、失活する固体触媒量に合わせて、適宜設定すればよい。また、固体触媒は、固体触媒と、原料液(または溶媒)とが混合されたスラリーの状態で、固体触媒供給ライン5から供給すればよい。
【0033】
上記のようにして、反応槽2内に、原料液、原料ガスおよび固体触媒が供給されると、原料液は、原料液供給ライン4から反応槽2内へ、鉛直方向下方に向かって供給される一方で、原料ガスは、スパージャ12から反応槽2内へ、鉛直方向上方に向かって供給されるので、原料ガスと原料液は、互いに対向する方向から気液接触され、これにより、反応生成物の生成が促進される。
【0034】
反応槽2内で生成した反応生成物は、排出ライン24から排出されて、回収される。また、反応槽2内に供給され、反応に利用されなかった原料ガスは、排出ライン24から排出されて、回収される。
また、反応槽2内において、液面Lのレベルに達した反応液は、オーバーフローライン13へオーバーフローして、気液分離槽7に供給される。
【0035】
オーバーフローした反応液には、反応液に同伴された反応生成物や原料ガスが少量含まれる。このため、気液分離槽7では、反応液と、反応生成物や原料ガスとが分離される。気液分離槽7で分離された反応生成物や、原料ガスは、気液分離槽7に接続されている取出ライン25から排出され、その取出ライン25から排出ライン24へ合流して、回収される。
【0036】
一方、気液分離槽7で分離された反応液は、さらに、循環ライン6を通って、熱交換器8で除熱または加熱され、さらに、循環ライン6を通って、反応槽2内の反応液噴出器14から、再び反応槽2内へ還流される。
上記反応方法において、反応槽2から排出され、循環ライン6を経て、再び反応槽2内へ還流される反応液の量(外部循環量)は、例えば、反応槽2の容量や、発熱または吸熱量などのプロセス条件により決定されるため、特に限定されないが、例えば、除熱または加熱の効率や、反応槽2内での固体触媒や反応液の混合性を考慮すると、循環ライン6を経て循環される反応液の量(外部循環量)A[m3/h]を、反応槽2内にて滞留されている反応液の量(滞留量)B[m3]で除した値A/Bが、好ましくは、5h-1以上、より好ましくは、20〜25h-1である。
【0037】
なお、サイフォン効果に起因する自然循環により、反応液を循環させる場合に、反応液の循環量は、例えば、反応槽2のガスホールドアップ、循環ライン6の配管の断面積、熱交換器8の圧力損失などにより、決定される。
また、上記反応方法において、反応液噴出手段(反応液噴出器14)による反応液の噴出速度は、反応槽2内での固体触媒の堆積を防ぎつつ、反応装置1のエロージョンを回避できる速度であることが好ましい。具体的には、反応槽2の容量や、固体触媒の性状などに合わせて決定されるため、特に限定されないが、好ましくは、0.3〜10m/sであり、より好ましくは、2m/s程度である。
【0038】
また、上記の反応装置1において、図2に示すノズル型の反応液噴出器15におけるノズル18の本数や、図3に示すラダーパイプ型の反応液噴出器19における噴出孔の数は、特に規定されず、上記した反応液の噴出速度条件が満たされるように、適宜設置すればよい。
また、循環ライン6には、反応槽2から排出された反応液を、再び反応槽2へ供給し、循環させるためのポンプ26を設けていてもよい。ポンプ26を設けて、循環ライン6内の反応液を強制循環させる場合は、反応槽2へと循環される反応液流の流速や循環量を、適宜調整できる。
【0039】
なお、この反応装置1において、循環ライン6に供給される反応液は、オーバーフローライン13を経た後に、ポンプ26に供給されることから、さらには、気液分離槽7に供給されて、気液分離後に、ポンプ26に供給されることから、ポンプ26でのキャビテーションの発生が抑制される。
また、上記の反応装置1において、反応槽2内から循環ライン6へ排出された反応液を、自然循環により、再度反応槽2へ還流させるには、循環ライン6に、気液分離手段が備えられていればよい。それゆえ、オーバーフローライン13と気液分離槽7とは、いずれか一方が設けられていればよい。
【0040】
また、上記の反応装置1において、循環ライン6には、反応槽2内で生成した反応生成物を排出、回収するための排出ライン27を設けていてもよい。排出ライン27は、その上流側端部が、循環ライン6に連設される。排出ライン27と循環ライン6との接続位置は、熱交換器8よりも上流側と下流側とのいずれであってもよいが、例えば、反応液を比較的低い温度で排出させることが望まれる場合であって、熱交換器8において反応液が除熱される場合には、排出ライン27は、循環ライン6の熱交換器8よりも下流側に接続される。
【0041】
また、循環ライン6に連設される排出ライン27は、例えば、反応生成物が液相として取り出される場合に、反応装置1に連設される排出ライン24に代わって設けられるものであってもよく、この場合、取出ライン25は、反応生成物に混入された気体成分を、系外に除去するための排気口として用いられる。
上記の説明は、気液固三相系の反応装置について説明したが、本発明の反応装置は、図4に示すように、固体触媒の存在下、液相中で反応生成物を生成させるための固液二相系の反応装置であってもよい。
【0042】
図4は、本発明の反応装置の変形例を示す概略構成図である。図4において、図1に示す反応装置1と同じ部材には、同じ符号を付して、その説明を省略する。
図4に示す反応装置1aは、固体触媒の存在下、液相中で反応生成物を生成させるための反応装置、すなわち、固液二相系での液相反応のための反応装置であって、反応槽2、2つの原料液供給ライン4a,4b、固体触媒供給ライン5、循環ライン6、熱交換手段としての熱交換器8、および、ポンプ26を備えている。
【0043】
反応槽2内には、底部において、反応液噴出手段としての反応液噴出器14とが設けられている。
2つの原料液供給ライン4a,4bは、その上流側端部が、互いに異なる原料液源にそれぞれ接続されており、また、その下流側端部が、反応槽2内にそれぞれ配置されている。一方の原料液供給ライン4aと、他方の原料液供給ライン4bとからは、互いに反応する原料液が、反応槽2内に供給される。
【0044】
循環ライン6の途中には、循環ライン6の上流側から下流側へと順に、熱交換器8と、ポンプ26とが介装されている。
反応液噴出器14は、反応槽2から排出され、循環ライン6を通り、熱交換器8およびポンプ26を経由して、再度、反応槽2内に還流される反応液を、反応槽2内に再度供給する。
【0045】
この反応装置1は、さらに、排出ライン27を備えている。
次に、図4に示す反応装置1aにより、原料液を、固体触媒の存在下、液相中で反応させるための、本発明の反応方法(固液二相系での液相反応)の一実施形態について説明する。
この方法では、まず、反応槽2内に、溶媒を仕込み、各原料液供給ライン4a,4bから原料液をそれぞれ供給し、さらに、固体触媒供給ライン5から固体触媒を供給する。従って、反応槽2内は、固液の二相系になっている。なお、溶媒は、好ましくは、原料液である。
【0046】
反応槽2において、原料液の供給量は、例えば、単位時間当たりの反応生成物の生産量などによって、適宜決定され、互いに反応する2種の原料液の供給量は、その反応の化学量論に合わせて、適宜決定される。
反応槽2内で生成した反応生成物は、排出ライン27から排出されて、回収される。
また、反応槽2内の反応液は、反応槽2から排出され、循環ライン6に供給されて、外部循環される。循環ライン6に供給された反応液は、熱交換器8で除熱または加熱後、循環ライン6を通って、ポンプ26に供給され、さらに、ポンプ26で強制循環されて、反応槽2内の反応液噴出器14から、再び反応槽2内へ還流される。
【0047】
上記反応方法において、反応槽2から排出され、循環ライン6を経て、再び反応槽2内へ還流される反応液の量(外部循環量)は、例えば、反応槽2の容量や、発熱または吸熱量などのプロセス条件により決定されるため、特に限定されないが、例えば、除熱または加熱の効率や、反応槽2内での固体触媒や反応液の混合性を考慮すると、循環ライン6を経て循環される反応液の量(外部循環量)A[m3/h]を、反応槽2内にて滞留されている反応液の量(滞留量)B[m3]で除した値A/Bが、好ましくは、5h-1以上、より好ましくは、20〜25h-1である。
【0048】
また、上記反応方法において、反応液噴出手段(反応液噴出器14)による反応液の噴出速度は、反応槽2内での固体触媒の堆積を防ぎつつ、反応装置1aのエロージョンを回避できる速度であることが好ましい。具体的には、反応槽2の容量や、固体触媒の性状などに合わせて決定されるため、特に限定されないが、好ましくは、0.3〜10m/sであり、より好ましくは、2m/s程度である。
【0049】
また、上記の反応装置1aにおいて、反応液噴出器14としては、例えば、図2に示すノズル型の反応液噴出器15や、図3に示すラダーパイプ型の反応液噴出器19が挙げられる。
また、上記の反応装置1aにおいて、反応槽2内から反応液を排出して、外部循環させる際には、循環ライン6の上流側端部をオーバーフローラインとして設けて、反応槽2内の液面Lのレベルに達した反応液をオーバーフローさせて、循環ライン6に供給してもよい。
【0050】
また、上記の反応装置1aにおいて、循環ライン6に介装されるポンプ26の介装位置は、熱交換器8よりも上流側と下流側とのいずれであってもよい。
【実施例】
【0051】
以下に、本発明の反応方法を、実施例を例示してさらに詳しく説明するが、本発明は何ら実施例に制限されない。なお、以下の実施例においては、特に言及がない限り、重量基準として説明している。
実施例1
液相反応槽における液相の流れについて確認するために、シミュレーションによる解析を実施した。
【0052】
シミュレーションに際して、計算ソフトには、ANSYS社製の計算流体力学(CFD)アプリケーション(熱流体解析ツール)「ANSYS(登録商標) CFX」を使用し、計算モデルには、気体の体積率に関する輸送方程式を解くための多流体モデルを使用した。
また、反応槽2(図1参照)の内径は、3000mmとし、反応槽2内に撹拌翼などの攪拌手段は設けなかった。
【0053】
反応槽2内の液相は、液深2600mm、密度775kg/m3、粘度0.45mPa・s、表面張力0.0210N/mとした。
スパージャ14としては、リングスパージャを用い、このリングスパージャから供給される原料ガスは、密度0.394kg/m3、粘度0.0116mPa・sとし、その供給量は、4000m3/hとした。
【0054】
以上の条件において、上記液相を、500m3/hで、反応液噴出器14から噴出させる条件で計算した結果を、図5に示す。
結果の流線を見ると、反応液噴出器(反応液噴出手段)14から導入された反応液は、反応器の底面を攪拌した後、反応槽2内の反応液全体を良好に混合している。反応槽2内には大きな循環流も生じており、触媒や気体の分散にも寄与することが予想される。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図1は、本発明の反応装置の一実施形態を示す概略構成図である。
【図2】図2は、反応液噴出器の一例を示す斜視図である。
【図3】図3は、反応液噴出器の他の例を示す斜視図である。
【図4】図4は、本発明の反応装置の変形例を示す概略構成図である。
【図5】図5は、液相反応槽における液相の流れを示すシミュレーション図である。
【符号の説明】
【0056】
1,1a 反応装置
2 液相反応槽(反応槽)
6 循環ライン
7 気液分離槽
8 熱交換器(熱交換手段)
14 反応液噴出器(反応液噴出手段)
15 反応液噴出器
19 反応液噴出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体触媒の存在下で液相において発熱または吸熱を伴う反応をさせるための反応槽から、反応液を排出し、次いで、排出された反応液を、除熱または加熱後、前記反応槽に再度供給させるときに、供給される反応液を、前記反応槽内の底面に向けて噴出することを特徴とする、反応方法。
【請求項2】
前記反応槽内の反応液を、前記反応槽に再度供給される反応液流により攪拌することを特徴とする、請求項1に記載の反応方法。
【請求項3】
前記反応が、前記液相中に供給される原料液および原料ガスによる気液接触反応であることを特徴とする、請求項1または2に記載の反応方法。
【請求項4】
前記反応槽から排出された反応液を、前記反応槽における反応液の排出位置よりも下方で、自然循環により、再度前記反応槽に供給させることを特徴とする、請求項3に記載の反応方法。
【請求項5】
前記反応槽から反応液を排出し、前記反応槽に再度供給する途中で、前記反応液を、気液分離槽で気液分離させることを特徴とする、請求項3または4に記載の反応方法。
【請求項6】
固体触媒の存在下で液相において発熱または吸熱を伴う反応をさせるための反応槽と、
前記反応槽から反応液を排出し、前記反応槽に再度供給させるための循環ラインと、
前記循環ラインの途中に介在する熱交換手段と、
前記循環ラインの下流側端部に設けられ、反応液を前記反応槽内の底面に向けて噴出させるための反応液噴出手段と、
を備えることを特徴とする、反応装置。
【請求項7】
前記反応槽が、気泡塔であることを特徴とする、請求項6に記載の反応装置。
【請求項8】
前記循環ラインの下流側端部が、前記循環ラインの上流側端部よりも下方に配置されており、かつ、前記循環ラインに、気液分離手段を備えていることを特徴とする、請求項7に記載の反応装置。
【請求項9】
前記気液分離手段が、前記循環ラインの途中に備えられた気液分離槽であることを特徴とする、請求項8に記載の反応装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−268370(P2007−268370A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−95293(P2006−95293)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】