説明

反応硬化型ポリウレタン樹脂組成物、及び該組成物を用いた二液反応硬化型ポリウレタン接着剤

【課題】 液貯蔵安定性に優れ、供される際に発泡現象を抑制でき、施工後の接着強度が極めて優れた反応硬化型ポリウレタン樹脂組成物、及び該組成物を構成する成分を基とした「主剤」と「硬化剤」からなる無溶剤タイプの二液反応硬化型ポリウレタン接着剤提供すること。
【解決手段】 ヒマシ油系ポリオール、特定の充填材、特定の抑泡材、並びに特定の触媒を選択して併せ用い、有機ポリイソシアネートとしてポリメリックMDIを選択して用い、かつ、これらを特定の配合比により併せ用いることにより、解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無溶剤タイプの反応硬化型ポリウレタン樹脂組成物、及び該組成物を構成する成分を基とした「主剤」と「硬化剤」からなる二液反応硬化型として供されるポリウレタン接着剤(具体的には、前記の「主剤」並びに「硬化剤」ともに常温(例えば25℃)下で液状である、無溶剤タイプの二液混合・加熱反応硬化型のポリウレタン接着剤)に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン樹脂が接着剤として好適であることは周知であり、多くの用途において使用されている。一般に、ポリオールを主たる成分とする「主剤(第1液)」と、有機ポリイソシアネートを主たる成分とする「硬化剤(第2液)」とを均一混合して、この混合物を被着体に塗布、加熱・硬化させて接着剤として用いる、いわゆる二液硬化の形態が、現在でも多くの分野で行われている。
【0003】
近年、これらの分野において環境・人体への配慮の高まりから、無溶剤タイプの製品の開発要望がより一層強くなってきている。また、二酸化炭素の排出量削減の観点から、合成樹脂の使用から、天然物由来の素材の使用といった環境への配慮がなされた製品の開発要望も併せて強くなってきている。しかし、特に天然物由来の素材を用いた製品において、従来品に所望されていた接着性能(接着力)を確保するには困難を要することが多い。
【0004】
接着性能(接着力)を向上させる一般的な手法として、硬化剤たる有機ポリイソシアネートの多用による、樹脂中におけるウレア結合の形成を促す方法がある。しかし、主剤における使用原料中の水分の量次第では、ウレア化反応に伴い発生する二酸化炭素に起因する樹脂の発泡(ひいては接着性能の低下)といった不具合が生じる場合が多い。
【0005】
接着性能を確保し、かつ、前記の発泡といった問題を解決する方法として、例えば、ポリオール成分として、多官能ポリエーテルポリオールと、ヒマシ油または変成ヒマシ油ポリオールを併せ用いた主剤を用いる方法が提案されている(特許文献1参照)。しかし、ポリオール成分として天然物由来の素材であるヒマシ油系ポリオールのみを用いるまでには至っていない。
【0006】
【特許文献1】特開2006−282922号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は以上のような背景に基づいてなされたものである。
【0008】
本発明の第1の目的は、前記のような発泡現象を抑制できるのは勿論のこと、接着強度についても極めて優れた反応硬化型ポリウレタン樹脂組成物、及び該組成物を構成する成分を基とした「主剤」と「硬化剤」からなる無溶剤タイプの二液反応硬化型ポリウレタン接着剤提供することにある。
【0009】
本発明の第2の目的は、反応硬化型ポリウレタン樹脂組成物が二液反応硬化型のポリウレタン接着剤として適用される場合、より多くの分野において適用可能なものとなるよう、主剤における貯蔵安定性(具体的には、液分離の発生の抑制と、経時に伴う反応性遅延化の抑制の双方)に極めて優れた無溶剤タイプの二液反応硬化型ポリウレタン接着剤を提供することにある。
【0010】
本発明の第3の目的は、前記の第1の目的並びに第2の目的に併せて、ポリウレタン樹脂自体の接着性能、とりわけ、優れた接着強度も経時に関わらず確保できることが可能な無溶剤タイプの二液反応硬化型ポリウレタン接着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
これらの一連の課題を解決する(目的を達成する)ために、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、ヒマシ油系ポリオール、特定の充填材、特定の抑泡材、並びに特定の触媒を選択して併せ用い、有機ポリイソシアネートとしてポリメリックMDIを選択して用い、かつ、これらを特定の配合比により併せ用いることが解決する手段として非常に有効であることを見出し、本発明に至った。
【0012】
すなわち、本発明は次の(1)〜(2)のとおりである。
【0013】
(1) ヒマシ油系ポリオール(A)、充填材(B)、抑泡材(C)、触媒(D)、増粘剤(E)、及び有機ポリイソシアネート(F)より構成される反応硬化型ポリウレタン樹脂組成物であって、
充填材(B)が炭酸カルシウムであり、
抑泡材(C)が0.5×10−10m〜6.0×10−10mの細孔径を有する合成ゼオライト(c1)及び/または活性アルミナ(c2)であり、
触媒(D)が分子内に錫を含有するウレタン化触媒であり、
有機ポリイソシアネート(F)が、ジフェニルメタンジイソシアネート異性体混合物(fd)を20〜80質量%、3核体以上のジフェニルメタンジイソシアネート系多核縮合体(fp)が80〜20質量%(但し、(fd)+(fp)=(f)として100質量%)であるポリメリックMDI(f)であり、かつ、
有機ポリイソシアネート(F)におけるイソシアネート基とヒマシ油系ポリオール(A)における水酸基との当量比が、イソシアネート基/水酸基=1.0以上
であることを特徴とする、反応硬化型ポリウレタン樹脂組成物。
【0014】
(2) ヒマシ油系ポリオール(A)、充填材(B)、抑泡材(C)、触媒(D)、並びに増粘剤(E)より構成される主剤と、有機ポリイソシアネート(F)より構成される硬化剤からなる二液反応硬化型ポリウレタン接着剤であって、
充填材(B)が炭酸カルシウムであり、
抑泡材(C)が0.5×10−10m〜6.0×10−10mの細孔径を有する合成ゼオライト(c1)及び/または活性アルミナ(c2)であり、
触媒(D)が分子内に錫を含有するウレタン化触媒であり、
有機ポリイソシアネート(F)が、ジフェニルメタンジイソシアネート異性体混合物(fd)を20〜80質量%、3核体以上のジフェニルメタンジイソシアネート系多核縮合体(fp)が80〜20質量%(但し、(fd)+(fp)=(f)として100質量%)であるポリメリックMDI(f)であり、かつ、
有機ポリイソシアネート(F)におけるイソシアネート基とヒマシ油系ポリオール(A)における水酸基との当量比が、イソシアネート基/水酸基=1.0以上
であることを特徴とする、二液反応硬化型ポリウレタン接着剤。
【発明の効果】
【0015】
本発明の反応硬化型ポリウレタン樹脂組成物、及び該組成物を構成する成分を基とした「主剤」と「硬化剤」からなる無溶剤タイプの二液反応硬化型ポリウレタン接着剤は、反応硬化時における発泡現象を抑制できる。また、接着剤として供された場合、極めて優れた接着強度を得ることが可能である。
【0016】
また、本発明の反応硬化型ポリウレタン樹脂組成物を構成する成分を基とした「主剤」は、液分離の発生の抑制、また、経時に伴う反応性遅延化の抑制といった、双方の優れた効果を確保できる。このことは、二液反応硬化時における反応性の遅延化を引き起こさないことにもつながり、長期間にわたり安定した反応性を有するポリウレタン接着剤の提供を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明をさらに詳細に説明する。
【0018】
本発明の反応硬化型ポリウレタン樹脂組成物は、ヒマシ油系ポリオール(A)、充填材(B)、抑泡材(C)、触媒(D)、増粘剤(E)、及び有機ポリイソシアネート(F)より構成される反応硬化型ポリウレタン樹脂組成物であって、充填材(B)が炭酸カルシウムであり、抑泡材(C)が0.5×10−10m〜6.0×10−10mの細孔径を有する合成ゼオライト(c1)及び/または活性アルミナ(c2)であり、触媒(D)が分子内に錫を含有するウレタン化触媒であり、有機ポリイソシアネート(F)が、ジフェニルメタンジイソシアネート異性体混合物(fd)を20〜80質量%、3核体以上のジフェニルメタンジイソシアネート系多核縮合体(fp)が80〜20質量%(但し、(fd)+(fp)=(f)として100質量%)であるポリメリックMDI(f)であり、かつ、有機ポリイソシアネート(F)におけるイソシアネート基とヒマシ油系ポリオール(A)における水酸基との当量比が、イソシアネート基/水酸基=1.0以上を満たす構成からなるものである。
【0019】
<ヒマシ油系ポリオール(A)>
本発明の反応硬化型ポリウレタン樹脂組成物を構成するヒマシ油系ポリオール(A)としては、ヒマシ油(ヒマシ油脂肪酸のトリグリセライド);ヒマシ油脂肪酸(水添ヒマシ油脂肪酸を含める)とポリオール(上記低分子ポリオール及び/又はポリエーテルポリオール)との反応により得られる線状または分岐状ポリエステル、例えばヒマシ油脂肪酸のジグリセライド、モノグリセライド、ヒマシ油脂肪酸とトリメチロールアルカンとのモノ、ジ、またはトリエステル、ヒマシ油脂肪酸とポリプロピレングリコールとのモノ、ジ、またはトリエステル等が挙げられる。
【0020】
なお、主にヒマシ油を触媒の存在下で加熱して脱水反応を経て得られる、いわゆる“脱水ヒマシ油”または“部分脱水ヒマシ油”を本発明の反応硬化型ポリウレタン樹脂組成物を構成するヒマシ油系ポリオール(A)として適用した場合、接着剤として供された際に反応硬化時において不必要な発泡をもたらす場合がある。このような観点から、本発明の反応硬化型ポリウレタン樹脂組成物を構成するヒマシ油系ポリオール(A)として、この“脱水ヒマシ油”または“部分脱水ヒマシ油”は用いない方が好ましい。
【0021】
本発明に用いられるヒマシ油系ポリオール(A)における数平均分子量は、400〜2,100の範囲内であれば適用可能であるが、好ましくは400〜1,500の範囲内、中でも、優れたレベリング(塗工された接着剤の平滑化)性や接着強度が得られるとの観点から、600〜1,000の範囲内であることがより好ましい。
【0022】
また、本発明に用いられるヒマシ油系ポリオール(A)における平均官能基(水酸基)数は、2.0〜6.0の範囲内であれば適用可能であるが、好ましくは2.5〜4.0の範囲内、中でも、接着剤として使用する時の反応硬化性や接着強度の点で優れるとの観点から、2.7〜3.0の範囲内であることがより好ましい。
【0023】
<充填材(B)>
本発明では、反応硬化型ポリウレタン樹脂組成物を構成する充填材(B)として、接着剤として供される場合に不具合となる発泡現象が抑えることが可能であるとの観点から、炭酸カルシウム(b1)を用いる。
【0024】
前記の炭酸カルシウム(b1)としては、接着剤として用いた場合に好適な粘度を付与でき、かつ、沈降などの不具合が生じないとの観点から、粒子径が0.5〜8.0μmのものを選択して用いるのが好ましい。
【0025】
また、炭酸カルシウム(b1)としては、接着剤として用いた場合に不具合となる発泡現象を回避するとの観点から、発泡現象の原因となる水分が極力含まれていない(好適には、水分含有量が1.0質量%以下(1.0質量%を含む))炭酸カルシウムを用いるのが好ましい。なお、水分が前記の好ましい量を超えて含まれるものでも、減圧脱水工程を経たうえで導入することも可能である。
【0026】
なお、本発明の反応硬化型ポリウレタン樹脂組成物に所望される諸性能を保持出来るレベルであれば、充填材(B)として、前記の炭酸カルシウム(b1)以外に、充填材として用いられる従来公知の物質(例えば硅砂、カオリン、ゼオライト(後記の抑泡材(C)に該当する合成ゼオライトを除く)、ベントナイト、クルー、タルク、グラファイト、石綿、炭素繊維、無水ケイ酸、炭酸マグネシウム、酸化チタン、シラスバルーン、ガラスバルーン等)を併せ用いることができる。
【0027】
<抑泡材(C)>
本発明では、反応硬化型ポリウレタン樹脂組成物を構成する抑泡材(C)として、0.5×10−10m〜6.0×10−10m(=0.5〜6.0Å(オングストローム))の細孔径を有する合成ゼオライト(c1)及び/または活性アルミナ(c2)を用いる。
【0028】
合成ゼオライトには、前記の0.5×10−10m〜6.0×10−10mの範囲を外れる細孔径を有するものも存在するが、0.5×10−10m未満の細孔径を有するものを用いた場合、あるいは、6.0×10−10mを超える細孔径を有するものを用いた場合、ともに本発明に所望される抑泡性が劣るといった不具合を生じる。このため、本発明の反応硬化型ポリウレタン樹脂組成物を構成する合成ゼオライトとしては、0.5×10−10m〜6.0×10−10mの範囲を外れる細孔径を有するものは除外するのが適当である。
【0029】
前記の0.5×10−10m〜6.0×10−10mの細孔径を有する合成ゼオライト(c1)においても、前記の炭酸カルシウム(b1)と同様、接着剤として用いた場合に不具合となる発泡現象を回避するとの観点から、発泡現象の原因となる水分が極力含まれていない(好適には、水分含有量が5.0質量%以下(5.0質量%を含む))合成ゼオライトを用いるのが好ましい。
【0030】
なお、本発明に用いる0.5×10−10m〜6.0×10−10mの細孔径を有する合成ゼオライト(c1)は、強熱減量処理が施されたものを使用するのが好ましい。
【0031】
前記の活性アルミナ(c2)としては、水分の吸着に優れるとの観点から、細孔径が0.5×10−10m〜6.0×10−10mの範囲内のものを選択して用いるのが好ましい。
【0032】
また、前記の活性アルミナ(c2)においても、前記の炭酸カルシウム(b1)や前記の合成ゼオライト(c1)と同様、接着剤として用いた場合に不具合となる発泡現象を回避するとの観点から、発泡現象の原因となる水分が極力含まれていない(好適には、水分含有量が1.0質量%以下(1.0質量%を含む))活性アルミナを用いるのが好ましい。
【0033】
なお、本発明に用いる活性アルミナ(c2)は、水分の吸着に優れるとの観点から、比表面積の大きい活性アルミナを使用するのが好ましい。
【0034】
<充填材(B)と抑泡材(C)の使用比率>
前記の充填材(B)並びに抑泡材(C)の導入質量比は、充填材(B)を1とした場合、抑泡材(C)が0.05以上であるのが好ましい。
【0035】
<触媒(D)>
本発明では、反応硬化型ポリウレタン樹脂組成物を構成する触媒(D)として、反応性の面で経時変化を起こさない(経時とともに反応性が遅延化しない)ものである必要があるとの観点から、分子内に錫を含有するウレタン化触媒(例えばジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート等)を選択して用いる。これらの触媒は、1種または2種以上併用して用いることがでる。
【0036】
本発明においては、前記の効果を有し、かつ、反応硬化性や発泡抑制にも優れるとの観点から、ジオクチル錫ジラウレートを選択して用いるのが好ましい。
【0037】
本発明の反応硬化型ポリウレタン樹脂組成物を構成する触媒(D)の導入量は、ヒマシ油系ポリオール(A)を100質量%とした場合、接着剤として所望されるポットライフや反応硬化性といった反応性によるが、0.0001〜5質量%の範囲内であるのが好ましい。
【0038】
<増粘剤(E)>
本発明の反応硬化型ポリウレタン樹脂組成物を構成する増粘剤(E)としては、無機系の増粘剤として、重曹、硼硝、球状微粉末シリカ(アエロジル)等、高分子系の増粘剤として、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、脂肪酸アマイド、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ソーダ、アクリル酸メタクリル酸アルキル共重合体等が挙げられる。
【0039】
本発明においては、充填材の沈降防止とレベリング性向上という双方の性能に優れるとの観点から、脂肪酸アマイド、または脂肪酸アマイドを含む混合物を選択して用いるのが好ましい。
【0040】
本発明において、反応硬化型ポリウレタン樹脂組成物を構成する増粘剤(E)の導入量は、ヒマシ油系ポリオール(A)を100質量%とした場合、0.001〜10質量%の範囲内であるのが好ましく、中でも、過度の量を用いることなく充填材の沈降防止とレベリング性向上という双方の性能が得られるとの観点から、0.01〜5.0質量%の範囲内であるのが特に好ましい。
【0041】
<有機ポリイソシアネート(F)>
本発明では、反応硬化型ポリウレタン樹脂組成物を構成する有機ポリイソシアネート(F)として、本発明の樹脂組成物が接着剤として供された場合、所望される十分な反応硬化性と接着強度の双方を併せ持つことが可能であるとの観点から、MDI(fd)が20〜80質量%、MDI系多核縮合体(fp)が80〜20質量%からなる混合物であるポリメリックMDI(f)を用いる。該ポリメリックMDI(f)は、別称として「ポリフェニレンポリメチレンポリイソシアネート」または「クルードMDI」とも称される場合がある。なお、MDI(fd)とMDI系多核縮合体(fp)との合計は、ポリメリックMDI(f)として100質量%である。
【0042】
ポリメリックMDI(f)は、アニリンとホルマリンとの縮合反応によって得られる縮合混合物(ポリアミン)のアミノ基を、ホスゲン化等によりイソシアネート基に転化することによって得ることができ、縮合時の原料組成比や反応条件を変更することによって、最終的に得られるポリメリックMDIの組成(核体分布や異性体構成比)を制御することができる。
【0043】
本発明に用いられるポリメリックMDI(f)は、イソシアネート基への転化後の反応液、反応液から溶媒の除去、一部MDIを留出分離した缶出液等の、反応条件や分離条件等の異なった数種の混合物であってもよい。また、市販のポリメリックMDIに前記のMDI(ed)を混合したものであってもよい。
【0044】
ポリメリックMDI(f)におけるMDI(fd)の割合は20〜80質量%の範囲であり、好ましくは25〜75質量%の範囲、中でも、ポリメリックMDI(f)における液状での貯蔵安定性の保持、また、本発明の樹脂組成物が接着剤として供された場合、所望される十分な反応硬化性と接着強度の双方を併せ持つことが可能であるとの観点から、26〜70質量%の範囲であることがとりわけ好ましい。ここで、MDI(fd)の割合はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によるMDIのピーク面積比から求める割合である。ポリメリックMDI(f)におけるMDI(fd)の割合が80質量%を超えた場合、MDI(fd)に起因する結晶の析出が生じる等、ポリメリックMDIの貯蔵安定性の面で不具合が生じる可能性が高くなる傾向にある。一方、この割合が20質量%未満である場合、ポリメリックMDIの粘度が過度に高くなり、前記の(A)〜(E)との混合不良が生じる等作業性の面で不具合が生じる可能性が高くなる傾向にある。
【0045】
2核体であるMDI(fd)は、4,4′−MDIと、2,2′−MDIと、2,4′−MDIとの3種類の異性体により構成されている。本発明においては、これらの異性体の構成比は特に限定はないが、例えば本発明の樹脂組成物が接着剤として供された場合、所望される十分な反応硬化性と接着強度の双方を併せ持つことが可能であるとの観点から、4,4′−MDI含有割合が40〜99%の範囲内であることが好ましい。なお、異性体の構成比はGC(ガスクロマトグラフィー)によって得られる各ピークの面積百分率を基に、検量線から求めることができる。
【0046】
ポリメリックMDI(f)の平均官能基数は、2.1以上(2.1を含む)であることが好ましく、更に好ましくは2.2〜3.1の範囲内とされる。
【0047】
ポリメリックMDI(f)のイソシアネート基含有量は、30〜33質量%の範囲内であることが好ましいが、更に好ましくは30.5〜32.5質量%の範囲内とされる。
【0048】
ポリメリックMDI(f)の酸度は0.04質量%未満の範囲内(より好ましくは、限りなく0質量%に近い値)であることが好ましい。これにより、得られるポリメリックMDI(f)の貯蔵安定性と好適な反応性とが確保される。なお、「酸度」とは、室温でアルコールと反応し遊離する酸成分を塩化水素に換算して示した値をいい、JIS K−1603によって測定される。
【0049】
<その他のイソシアネート化合物>
本発明の反応硬化型ポリウレタン樹脂組成物を構成する有機ポリイソシアネート(F)としては、前記のポリメリックMDI(f)が必須とされるが、必要に応じて、この必須であるポリメリックMDI(f)以外のイソシアネート基含有化合物(以下「その他のイソシアネート化合物」と略記。)が含有されていてもよい。
【0050】
その他のイソシアネート化合物としては、ポリメリックMDI(もしくはMDIのみ)と活性水素基含有化合物とを反応させて得られるウレタン化物、ウレア化物、アロファネート化物、ビウレット化物、カルボジイミド化物、ウレトンイミン化物、ウレトジオン化物、イソシアヌレート化物;2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、キシレン−1,4−ジイソシアネート、キシレン−1,3−ジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、3−メチル−1,5−ペンタンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、水素添加トリレンジイソシアネート、水素添加キシレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネートなどを挙げることができる。また、これらのポリメリック体やこれらのイソシアネートと、活性水素基含有化合物とを反応させて得られるウレタン化物、ウレア化物、アロファネート化物、ビウレット化物、カルボジイミド化物、ウレトンイミン化物、ウレトジオン化物、イソシアヌレート化物等が挙げられる。なお、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて、必須であるポリメリックMDI(f)と併せ用いることができる。
【0051】
<任意成分>
本発明の反応硬化型ポリウレタン樹脂組成物には、前記の(A)〜(F)以外に、本発明の所望する効果が損なわれない範囲内において、各種の任意成分が含有されていてもよい。かかる任意成分としては、反応硬化型ポリウレタン樹脂として供される従来公知の物質(添加剤など)を全て使用することができる。
【0052】
<反応硬化型ポリウレタン樹脂組成物>
本発明の反応硬化型ポリウレタン樹脂組成物においては、接着剤として用いた場合における反応硬化性、接着強度、並びに不要な発泡の抑制のいずれにも優れるとの観点から、R値〔有機ポリイソシアネート(F)における全イソシアネート基のモル数/ヒマシ油系ポリオール(A)における全水酸基のモル数〕は1.0以上(1.0を含める)とされるが、前記の一連の効果により優れるとの観点から、1.1〜5.0の範囲内であるのが好ましく、中でも、とりわけ、接着強度と不要な発泡の抑制の双方に極めて優れるとの観点から、1.5〜2.0の範囲内であるのが特に好ましい。R値が1.0未満の場合、接着強度が低下するといった不具合を生じる。なお、R値が5.0を超える場合、接着剤として用いた場合に不要な発泡が生じる可能性が高くなる。
【0053】
<二液反応硬化型ポリウレタン接着剤>
本発明の反応硬化型ポリウレタン樹脂組成物は、前記の(A)〜(E)より構成される「主剤」と、前記の(F)より構成される「硬化剤」からなる、二液反応硬化型のポリウレタン接着剤として好適に用いることができる。
【0054】
この場合、前記の「主剤」と前記の「硬化剤」を均一混合して得られた時点(=本発明の反応硬化型ポリウレタン樹脂組成物)における液の粘度(温度25℃、回転速度30rpm)は、充填材(B)の沈降抑制、レベリング性の向上、並びに塗工性のいずれにも優れるとの観点から2,000〜30,000mPa・sの範囲内であることが好ましく、中でも、前記の優れた性能をいずれも確実に具備するとの観点から、7,000〜15,000mPa・sの範囲内であることが特に好ましい。
【実施例】
【0055】
以下に実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらの例によってなんら限定して解釈されるものではない。なお、以下においては特段の記載がない限り、「%」および「部」は、それぞれ「質量%」および「質量部」を示す。
【0056】
<「主剤」の調製(調製例1〜15)>
下記の表1〜表3に示す配合処方に従って、各成分を均一混合することにより、主剤として「OH−1」〜「OH−15」を調製した。
【0057】
前記の主剤「OH−1」〜「OH−15」の各々について、200ml容量のガラス製サンプル瓶に200g仕込み、蓋で密封した後、50℃雰囲気下にて7日間静置した。7日経過後の外観を目視により観察し、下記の基準に基づいて評価した。結果を表1〜表3に併せて示す。
(評価基準)
「○」:結晶析出や充填材等の沈降の発生等といった液の相分離は見られない。
「×」:結晶析出や充填材等の沈降の発生等といった液の相分離、またはこれらの前兆と思われる現象が見られる。
なお、測定開始時における上記の主剤「OH−1」〜「OH−15」は、各々全て「○」と判断されている。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
【表3】

【0061】
上記の表1〜表3における化合物(成分)の詳細は、下記のとおりである。
【0062】
<ポリオール(A)>
(A−1):
ヒマシ油系ポリオール、公称水酸基価=162、公称官能基数=2.7、商品名「ヒマシ油LAV(伊藤製油(株)製)」
(A−2):
ヒマシ油系ポリオール、公称水酸基価=162、公称官能基数=2.7、商品名「URIC H−24(伊藤製油(株)製)」
(A−3):
部分脱水ヒマシ油系ポリオール、公称水酸基価=117、公称官能基数=2.0、商品名「#1740U(伊藤製油(株)製)」
(A−4):
大豆ポリオール、公称水酸基価=176、公称官能基数=2.0、商品名「R3−170E(Urethane Soy System Company社製)」
【0063】
<充填材(B)>
(B−1):
炭酸カルシウム、水分含有量=0.2質量%、平均粒径=1.8μm、商品名「ソフトン1200(備北粉化工業(株)製)」
【0064】
<抑泡材(C)>
(C−1):
A型の結晶構造を有する合成ゼオライト、強熱減量=1.5%、平均粒径=5μm、細孔径=3×10−10m(=3Å(オングストローム))、商品名「ゼオラムA−3(東ソー(株)製)」
(C−2):
活性アルミナ、水分含有量=0.1質量%、平均粒径=14.3μm、商品名「水硬性アルミナ(住友化学(株)製)」
(C−3):
A型の結晶構造を有する合成ゼオライト、強熱減量=3.0%、平均粒径=15μm、細孔径=9×10−10m(=9Å(オングストローム))、商品名「ゼオラムF−9(東ソー(株)製)」
(C−4):
生石灰、水分含有量=0.5質量%、平均粒径=10μm、商品名「モイストップ#10(三共製粉(株)製)」
【0065】
<触媒(D)>
(D−1):
ジオクチル錫ジラウレート、商品名「ニッカオクチックス錫(日本化学産業(株)製)」
(D−2):
N−メチルイミダゾール、商品名「NC−IM(日本乳化剤(株)製)」
(D−3):
ビスマストリス(2−エチルヘキサノエート)と2−エチルヘキサン酸の混合物、商品名「ネオスタンU−600(日東化成(株)製)」
(D−4):
2,4,6−トリジメチルアミノメチルフェノール、商品名「アンカミンK−54(エアプロダクツジャパン(株)製)」
(D−5):
トリエチレンジアミン、商品名「TEDA(日本乳化剤(株)製)」
(D−6):
酢酸カリウム溶液、商品名「DABCO P−15(日本乳化剤(株)製)」
【0066】
<増粘剤(E)>
(E−1):
脂肪酸アマイドと水添ヒマシ油との混合物、商品名「ディスパロン4300(楠本化学(株)製)」
【0067】
<「硬化剤」(有機ポリイソシアネート(F))>
前記の一連の主剤と併せ用いるための硬化剤として「NCO−1」を用意した。
「NCO−1」:
(i)GPCによるMDIのピーク面積比=40%(ポリメリックMDI)
(ii)MDI中の4,4’−MDIの割合=99%(GCによる測定)
(iii)イソシアネート含量=31.1%
(iv)粘度(25℃)=163mPa・s
(v)酸度=0.01%
【0068】
<ポリウレタン樹脂の評価(主剤調製1日後)>
実施例1〜8、比較例1〜10
主剤として調製後25℃雰囲気下にて1日間静置した前記の「OH−1」〜「OH−14」を、また、硬化剤として前記の「NCO−1」をそれぞれ用意し、各々液温を25℃に調整した。これらを下記の表4〜表6に示す組合せに従い、主剤/硬化剤=3/1(質量比)にて、合計100gになるようにステンレス製容器に仕込み、卓上ボール盤(リョービ販売(株)製)を用いて、回転速度300rpmにて10秒間攪拌・均一混合することにより、混合物(本発明の組成物/比較用の組成物)を得た。
なお、調製した主剤のうち「OH−15」については、調製7日後における液分離が顕著であるため、該評価は行っていない。
【0069】
<初期粘度の測定>
得られた各混合物について、B型粘度計ピスメトロン(芝浦システム(株)製)を用いて、液温25℃、回転速度30rpmにおける初期粘度の測定を行った。測定結果を表4〜表6に併せて示す。
【0070】
<ポットライフの測定>
得られた各混合物について、ブルックフィールド粘度計(ブルックフィールド社製)を用いて、液温30℃で250,000mPa・sに到達する時間をポットライフ時間として、ポットライフの測定を行った。結果を表4〜表6に併せて示す。
【0071】
<発泡の有無の確認>
得られた各混合物について、2mm厚の亜鉛鋼板に混合物を50μmになるように塗布し、その上に2mm厚のPET板を0.25MPaで圧着して貼り合わせた。その後、25℃雰囲気下で24時間静置した。静置後、下記の基準に基づいて、発泡の有無の目視確認を行った。結果を表4〜表6に併せて示す。
(評価基準)
「○」:硬化し終えた樹脂中において、泡の巻き込みは見られない。
「△」:硬化し終えた樹脂中において、僅かながら泡の巻き込みが見受けられる。
「×」:硬化し終えた樹脂中において、泡の巻き込みが明確に見受けられる。
【0072】
<引張せん断接着力の測定>
得られた各混合物について、2mm厚の亜鉛鋼板に混合物を50μmになるように塗布し、その上に2mm厚の亜鉛鋼板を貼り合わせた。25℃雰囲気下で24時間エージング(静置)した。エージング後、25℃雰囲気下でテンシロンを用いて、クロスヘッドスピード5mm/min.による引張せん断接着力の測定を行った。結果を表4〜表6に併せて示す。
【0073】
<ポリウレタン樹脂の評価(主剤14日間高温経時後)>
実施例1〜8、比較例1〜13
主剤を調製後50℃雰囲気下にて14日間静置した前記の「OH−1」〜「OH−5」並びに「OH−10」を用いて、前記の主剤調製1日後における場合と同様の手法により、硬化剤としての前記の「NCO−1」からなる混合物(本発明の組成物/比較用の組成物)を改めて得た。
なお、調製した主剤のうち「OH−15」は前記の主剤調製1日後の場合と同様、調製7日後における液分離が顕著であるため、該評価は行っていない。
また、調製した主剤のうち「OH−6」〜「OH−9」並びに「OH−11」〜「OH−14」については、発泡の有無の評価において、硬化し終えた樹脂中において泡の巻き込みが明確に見受けられる(即ち発泡が生じている)ことから、「OH−15」と同様、該評価は行っていない。
【0074】
14日間経時後の主剤を用いて前記の方法により得た混合物(本発明の組成物/比較用の組成物)につき各々、ポットライフの測定について前記と同じ方法により再度行った。これら一連の結果を表4〜表6に併せて示す。
【0075】
【表4】

【0076】
【表5】

【0077】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の反応硬化型ポリウレタン樹脂組成物は、前記のとおり、一連の優れた効果を奏することから、例えば二液反応硬化型ポリウレタン接着剤として、従来公知の被着体、例えば金属、樹脂、木材、無機質材料、ガラス、紙などに適用可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒマシ油系ポリオール(A)、充填材(B)、抑泡材(C)、触媒(D)、増粘剤(E)、及び有機ポリイソシアネート(F)より構成される反応硬化型ポリウレタン樹脂組成物であって、
充填材(B)が炭酸カルシウムであり、
抑泡材(C)が0.5×10−10m〜6.0×10−10mの細孔径を有する合成ゼオライト(c1)及び/または活性アルミナ(c2)であり、
触媒(D)が分子内に錫を含有するウレタン化触媒であり、
有機ポリイソシアネート(F)が、ジフェニルメタンジイソシアネート異性体混合物(fd)を20〜80質量%、3核体以上のジフェニルメタンジイソシアネート系多核縮合体(fp)が80〜20質量%(但し、(fd)+(fp)=(f)として100質量%)であるポリメリックMDI(f)であり、かつ、
有機ポリイソシアネート(F)におけるイソシアネート基とヒマシ油系ポリオール(A)における水酸基との当量比が、イソシアネート基/水酸基=1.0以上
であることを特徴とする、反応硬化型ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項2】
ヒマシ油系ポリオール(A)、充填材(B)、抑泡材(C)、触媒(D)、並びに増粘剤(E)より構成される主剤と、有機ポリイソシアネート(F)より構成される硬化剤からなる二液反応硬化型ポリウレタン接着剤であって、
充填材(B)が炭酸カルシウムであり、
抑泡材(C)が0.5×10−10m〜6.0×10−10mの細孔径を有する合成ゼオライト(c1)及び/または活性アルミナ(c2)であり、
触媒(D)が分子内に錫を含有するウレタン化触媒であり、
有機ポリイソシアネート(F)が、ジフェニルメタンジイソシアネート異性体混合物(fd)を20〜80質量%、3核体以上のジフェニルメタンジイソシアネート系多核縮合体(fp)が80〜20質量%(但し、(fd)+(fp)=(f)として100質量%)であるポリメリックMDI(f)であり、かつ、
有機ポリイソシアネート(F)におけるイソシアネート基とヒマシ油系ポリオール(A)における水酸基との当量比が、イソシアネート基/水酸基=1.0以上
であることを特徴とする、二液反応硬化型ポリウレタン接着剤。


【公開番号】特開2009−114247(P2009−114247A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−286090(P2007−286090)
【出願日】平成19年11月2日(2007.11.2)
【出願人】(000230135)日本ポリウレタン工業株式会社 (222)
【Fターム(参考)】