説明

受信回路

【課題】エラーの発生率を改善し目標とする発生率にする際の遅延量を低減した受信装置を提供する。
【解決手段】発生確率が時間に応じて正規分布するランダムジッタを含む信号を入力し、この入力信号をデジタルデータに変換して出力する受信装置において、位相を設定可能なクロック信号を生成するクロック回路と、前記入力信号を前記クロック信号に基づくタイミングでデジタルデータに変換して出力するとともに、前記変換の際にエラーが生じた場合にはエラー信号を出力する第1受信回路と、前記入力信号を遅延させた信号を、前記クロック信号に基づくタイミングでデジタルデータに変換して出力するとともに、前記変換の際にエラーが生じた場合エラー信号を出力する第2受信回路と、第1、第2受信回路のエラー信号に基づいて、第1受信回路または第2の受信回路のいずれか一方からのデジタルデータを選択して出力するデータ出力制御部を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルデータを受信する受信装置に関し、更に詳しくは、少ない遅延で受信時のエラー発生率を低減する受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
データを送受信する際に受信装置でのエラーの発生率を改善して目標とする発生率にするために、従来では送信側でエラー訂正符号を付加して送信し、受信側では誤りのあるデータをエラー訂正符号によりエラー訂正する構成をとる。エラーの発生率は、例えばBER(Bit Error Rate、送信した総ビット数に対して、誤りのあった受信ビット数の割合)等の指標によっても表現される。
【0003】
このような従来の伝送路系における、受信回路の構成を、図面を用いて説明する。
図4は従来の受信回路の例を示した構成図である。
ここではシリアルデータの送受信においてよく用いられる8B10B変換を使用してデータ送受信する例を説明する。
【0004】
8B10B変換によるデータ送受信とは、送信側で、8ビットの並列データ(元データ)を8B10B変換テーブルに基づいて10ビットのデータに変換(8B10Bエンコード)後、直列データに変換して送信し、受信側で、送信された10ビットの直列データを並列データに変換後、8B10B変換テーブルに基づいて元の8ビットの並列データに変換(8B10Bデコード)することでデータの送受信を行う通信方式である。
【0005】
8B10Bなどのシリアル通信で用いられるエンコードは、生成される直列データに含まれる、1または0の連続数を一定以下に抑えるようになっている。これは、受信側で受信データからクロックを再生しやすくするためである。
【0006】
図4において、図示しない送信装置が、元データにエラー訂正符号を付加した後に、8B10Bエンコードした信号を生成し、直列データに変換して、図示しない伝送路へ送信しているものとする。
入力端1は、図示しない送信装置からの信号を伝送路を介して入力する。
クロック回路2は、クロックデータリカバリ回路(Clock Data Recovery回路、以下CDR)等で、入力端1に接続され、入力端1からクロック信号を再生して、位相を調整し出力する。
【0007】
受信回路3はラッチ手段31と変換手段32を備える。
ラッチ手段31は、フリップフロップ回路等で、入力端1からの入力信号をクロック回路2からのクロック信号に基づくタイミングでラッチして出力する。
【0008】
変換手段32は、8B10Bデコーダ等で、ラッチ手段31の出力結果を入力して8B10B変換でデコードして結果をデータ線33から出力するとともに、デコードする際にエラーが生じた場合はエラー信号をエラー信号線34から出力する。
【0009】
エラー訂正回路4は、データバッファ41と訂正手段42を備える。データバッファ41は変換手段32から出力されるデータを一旦蓄積する。
訂正手段42は、データバッファ41に蓄積されたデータに含まれているエラー訂正符号を使いエラー訂正し、確定データとして出力する。
【0010】
このような従来の受信装置の動作例を、図面を用いて説明する。
図4において、クロック回路2は、入力信号にからクロック信号を再生し出力する。
ラッチ手段31は、クロック信号の立ち上がりエッジで入力信号をラッチして出力する。
変換手段32は、ラッチ手段31の出力結果を8B10B変換でデコードして結果を出力するとともに、デコードする際にエラーが生じた場合はエラー信号をエラー信号線34から出力する。
【0011】
データバッファ41は、変換手段42から出力されるデータを定められた数だけ蓄積する。訂正手段42は、変換手段32からのエラー信号に基づいて、データバッファ41に蓄積されたデータのエラーを訂正して出力する。
【0012】
図5は、図4に示す受信装置により、元データ4単位(例えばデータ「A〜D」)に対して訂正符号が1単位付加されている場合の動作を模式的に示したタイムチャートである。
(a)は変換手段32の出力、(b)はデータバッファ41への蓄積処理、(c)は訂正手段42のエラー訂正処理、(d)はエラー訂正回路4からの出力(データの確定)を示す。この例のように、図4に示す受信装置では、データ「A〜D」が変換手段32から出力されデータが確定するまでに、図5の「DLY」で示される遅延が生じる。
【0013】
特許文献1には、
入力信号をデコーダによりデコードしてデータを出力する受信装置の構成が詳細に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2002−084247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
このような従来の受信装置は、エラーの発生率(あるいはBER)の改善をエラー訂正符号によるエラー訂正処理によって実現するので、デジタルデータをデータバッファ41に格納する処理と、データバッファに格納されたデータに対し訂正手段42のエラー訂正処理等が必要となり、変換手段32が出力してからデータの確定までに遅延(図5に示す「DLY」)が生じてしまうという課題があった。
【0016】
そこで本発明は、エラーの発生率(あるいはBER)を改善し目標とする発生率にする際の遅延量を従来装置よりも低減した受信装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
このような課題を解決するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、
外部の送信装置によって出力され、発生確率が時間に応じて正規分布するランダムジッタを含む信号を入力し、この入力信号をデジタルデータに変換して出力する受信装置において、
位相を設定可能なクロック信号を生成するクロック回路と、
前記入力信号を前記クロック信号に基づくタイミングでデジタルデータに変換して出力するとともに、前記変換の際にエラーが生じた場合にはエラー信号を出力する第1の受信回路と、
前記入力信号に、遅延を付加して出力する遅延回路と、
前記遅延回路により遅延が付加された前記入力信号を、前記クロック信号に基づくタイミングでデジタルデータに変換して出力するとともに、前記変換の際にエラーが生じた場合エラー信号を出力する第2の受信回路と、
第1の受信回路および第2の受信回路のエラー信号に基づいて、第1の受信回路または第2の受信回路のいずれか一方からのデジタルデータを選択して出力するデータ出力制御部と、
を備えたことを特徴とする。
【0018】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明であって、
前記第1の受信回路および前記第2の受信回路は、入力信号の波形がその内側を通過した際にエラーとなるアイマスクをそれぞれ定義し、
前記入力信号のランダムジッタの発生確率分布と、前記第1の受信回路および前記第2の受信回路のアイマスクとの関係に基づいて、前記クロック回路の位相と前記遅延回路の遅延量を調整する遅延調整手段を備えることを特徴とする。
【0019】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明であって、
前記クロック回路は、前記入力信号に重畳するクロック信号を抽出し、このクロック信号の位相を可変に調整して出力するクロックデータリカバリ回路であることを特徴とする。
【0020】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明であって、
前記第1の受信回路は、第1のラッチ手段と第1の変換手段を有し、
前記第1のラッチ手段は前記入力信号を前記クロック信号に基づくタイミングでラッチして出力し、
第1の変換手段は前記第1のラッチ手段からの出力をデジタルデータに変換して出力し、前記変換の際にエラーが生じた場合にはエラー信号を出力し、
前記第2の受信回路は、第2のラッチ手段と第2の変換手段により構成され、
前記第2のラッチ手段は、前記遅延回路により遅延が付加された前記入力信号を前記クロック信号に基づくタイミングでラッチして出力し、
前記第2の変換手段は前記第2のラッチ手段からの出力をデジタルデータに変換して出力し、前記変換の際にエラーが生じた場合にはエラー信号を出力することを特徴とする。
【0021】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の発明であって、
前記データ出力制御部は、回路選択手段とマルチプレクサにより構成され、
前記回路選択手段は、前記第1の受信回路および第2の受信回路が出力するエラー信号に基づいて、前記第1の受信回路および第2の受信回路のうちいずれのデジタルデータを選択したらよいかを判定し、
前記マルチプレクサは、前記回路選択手段の判定結果に基づいて、前記第1の受信回路または第2の受信回路のいずれか一方のデジタルデータを選択して出力することを特徴とする。
【0022】
請求項6記載の発明は、請求項4または5のいずれかに記載の発明であって、
前記第1の変換手段および第2の変換手段は、それぞれ第1のラッチ手段および第2のラッチ手段の出力と、所定のデコードテーブルと、に基づいてデジタルデータを生成して出力することを特徴とする。
【0023】
請求項7記載の発明は、請求項4〜6のいずれかに記載の発明であって、
前記第1の変換手段および第2の変換手段は、8B10Bデコーダであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、外部の送信装置によって出力され、発生確率が時間に応じて正規分布するランダムジッタを含む信号を入力し、第1の受信回路および第2の受信回路は、入力信号の波形がその内側を通過した際にエラーとなるアイマスクをそれぞれ定義し、遅延調整手段が、入力信号のランダムジッタの発生確率分布と第1の受信回路および第2の受信回路のアイマスクとの関係に基づいて、クロック回路の位相と遅延回路の遅延を調整し、第1の受信回路が入力信号をクロック回路からのクロック信号に基づくタイミングでデジタルデータに変換して出力するとともに変換の際にエラーが生じた場合にはエラー信号を出力し、第2の受信回路が、遅延回路により遅延が付加された入力信号をクロック信号に基づくタイミングでデジタルデータに変換して出力するとともに変換の際にエラーが生じた場合エラー信号を出力し、データ出力制御部が、第1の受信回路および第2の受信回路のエラー信号に基づいて第1の受信回路または第2の受信回路のいずれか一方からのデジタルデータを選択して出力するので、従来のように受信回路を単独で用いた場合に比べ、少ない遅延量でエラーの発生率(あるいはBER)を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施例の構成図である。
【図2】図1の実施例において受信回路を単独で使用した場合のアイマスクおよびランダムジッタの発生確率を示したタイムチャートである。
【図3】図1の装置において、遅延調整手段6によりシフトされたアイマスクを示す図である。
【図4】従来の受信装置の構成例を示した図である。
【図5】図4の装置のエラー訂正に関する動作を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下本発明を、図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明の一実施例を示した構成図である。ここで、図4と同一のものは、同一符号を付して説明を省略する。
【0027】
送信装置(図示せず)は図4の例における説明と同一である。
図1において、クロック回路2は、図示しない伝送路からの信号を入力し、信号からクロック信号を再生して、位相を調整して出力する。
遅延回路5は、伝送路からの信号を入力し、遅延を付加して出力する。この遅延量は、固定でも可変でもよい。
【0028】
遅延調整手段6は、クロック回路2と遅延回路5に接続され、クロック回路2のクロック信号の位相と、遅延回路5において付加する遅延と、を調整して設定する。
【0029】
受信回路3は、ラッチ手段31と変換手段32を備え、また受信回路7は、ラッチ手段71と変換手段72を備える。
ラッチ手段31は、クロック回路2と入力端1に接続され、クロック回路2のクロック信号の立ち上がりエッジのタイミングで、入力信号をラッチして出力する。
ラッチ手段71は、クロック回路2と遅延回路5に接続され、クロック回路2のクロック信号の立ち上がりエッジのタイミングで、遅延回路5により遅延が付加された入力信号をラッチして出力する。
【0030】
変換手段32、72は、8B10Bデコーダ等で、それぞれラッチ手段31、71のラッチ結果を入力し、8B10B変換によりデコードを行い、デコード結果をそれぞれデータ信号線33、34から出力すると共に、デコードする際にエラーが生じた場合はエラー信号をそれぞれエラー信号線34、74から出力する。
【0031】
データ出力制御部8は、回路選択手段81とマルチプレクサ82を備える。
回路選択手段81は、エラー信号線34、74と接続され、変換手段32、72からのエラー信号に基づいて、受信回路3、7のうちいずれかを選択したらよいかを示す回路選択信号を出力する。
マルチプレクサ82は、受信回路3、7のデータ信号線と接続されており、回路選択手段81から出力される回路選択信号に基づいて、受信回路3、7のいずれか一方のデータを確定データとして出力する。
【0032】
このような受信回路の動作について、図面を用い詳細に説明する。
遅延調整手段6は、クロック回路2のクロック信号の位相と、遅延回路5の遅延を調整し設定する。
クロック回路2は、遅延調整手段6の設定に従い、入力信号からクロック信号を再生して、位相を調整して出力する。
遅延回路5は、遅延調整手段6の設定に従い、入力信号に、遅延を付加して出力する。
遅延調整手段6によって、クロック回路2と遅延回路5を調整することにより、同一の波形を受信回路3、7とで異なるタイミングでラッチすることが可能となる。例えば、クロック回路2の位相をクロック信号を入力信号のレートよりも5ps後方にずらし、遅延回路5に10psの遅延を付加させると、受信回路3は元の波形よりも5ps前方でラッチし、受信回路7は元の波形よりも5ps後方でラッチすることになる。
【0033】
変換手段32、72は、それぞれラッチ手段31、71のラッチ結果を入力し、8B10B変換によりデコードを行い、デコード結果をそれぞれデータ信号線33、73から出力すると共に、デコードする際にエラーが生じた場合はエラー信号をそれぞれエラー信号線34、74から出力する。
【0034】
回路選択手段81は、エラー信号線34、74からのエラー信号に基づいて、受信回路3、7のうちいずれを選択したらよいかを示す回路選択信号を出力する。
マルチプレクサ82は、回路選択手段81から出力される回路選択信号に基づいて、受信回路3、7のうちいずれか一方から出力されるデータを確定データとして出力する。したがって、受信回路3または受信回路7のうちいずれかで正常に受信できれば、正常な(エラーのない)確定データを得ることができる。
【0035】
一般に、信号のエラーはジッタやノイズなどによって発生する。ここで言うジッタとは、信号の時間方向の変位、ノイズは信号の電圧方向の変位である。ジッタとノイズは、ディターミニスティックな成分(有限な成分)と、ランダムな成分に分類できる。ディターミニスティックな成分は、変位量が有限の値をとるもので、いくらサンプル数を増やしても変位量は有限の値のままである。一方、ランダムな成分は、変位量を横軸に、発生数を縦軸にしてヒストグラムを作ると、その形が正規分布になり、サンプル数を増やしていくと、それに応じて、発生頻度の低い大きな変位量をもったサンプルが確率的に現れてくる。このためサンプル数を増やせば増やしただけ、より大きな変位量のサンプルが現れるため、変位量は無限の値になる。実際の信号には、ディターミニスティックな成分とランダムな成分の和が含まれることになる。
【0036】
受信回路は、仕様として時間方向と電圧方向の、必要なマージンが規定されていて、これを満たせないときエラーが生じる。よって、ジッタやノイズの影響で必要なマージンを満たせないときにエラーが生じると考える。なお、説明の簡略化のために、以後の説明ではジッタによる影響に絞る。
【0037】
エラー発生率は、送信した総ビット数に対して、誤りのあった受信ビット数の割合等で表現できる。ディターミニスティックジッタによる変位量は一定であるため、これだけでエラーになってしまうような場合は比較的高いエラー発生率になる。低いエラーレートを議論する場合は、ランダムジッタによる影響が支配的になるような状況である必要がある。
【0038】
つまり、ディターミニスティックジッタのみではエラーが発生せず、それにランダムジッタが加算されて、サンプル数の増加に伴い確率的にエラーが発生するということである。よって、以後の説明では、信号周期(Unit Interval : UI)からディターミニスティックな成分を定数として引き算した残りをUIと定義し直し、ジッタはランダムジッタのみが存在するとして説明する。
【0039】
次に、エラー発生確率がどのように改善されるかを、図2および図3を用いて説明する。
図2の「E1」は、図1に示す受信装置において、UIの中央にラッチのタイミングエッジがある場合の受信回路3のアイマスクである。アイマスクとは、受信回路3が必要とするタイミングマージン(最小のセットアップ・ホールド時間)と電圧マージンを模式的に(図2では菱形で)示した領域である。つまり、入力波形がアイマスクE1の内側を通過した場合には、受信回路においてデータ誤判定が生じる領域を示している。
【0040】
また、図2の「P1」、「P2」は、図1の受信装置に入力する信号に9σ(つまりランダムジッタ発生確率分布の標準偏差σに対して9倍の振幅の確率)でランダムジッタが発生する位置を示す。
【0041】
受信回路を単独で用いる場合、送信されるデータが1ビットのときに、そのアイマスクが「E1」の位置の場合のエラー率は、9σ(=1.0E−19)となる。送信されるデータが10ビットでは、1.0E−19×10=1.0E−18となる。
【0042】
前述の通り、ラッチ手段31は、UIの中央に対し5ps前のタイミングで入力信号をラッチし、一方、ラッチ手段71は、UIの中央に対し5ps後のタイミングで、入力信号をラッチして出力するようにしている。したがって、見かけ上、受信回路3のアイマスクは5psつまり1σ前方に移動し、受信回路7のアイマスクは5psつまり1σ後方に移動するので、それぞれのアイマスクは、図3の「E2」および「E3」ようになる。「E2」は受信回路3のもの、「E3」は受信回路7のものである。「P3」、「P4」は、それぞれ8σでランダムジッタが発生する位置を示す。比較のため図2で示すUIの中心に位置する、元のアイマスク「E1」も示す。
【0043】
本発明の受信装置は、受信回路3と受信回路7のいずれかで正常に受信できればよく、図3に示すアイマスクが「E2」、「E3」の位置で、波形W1が発生する場合、受信回路3ではエラーとなるが、受信回路7では正常に受信でき、また、波形W2が発生する場合は、受信回路7ではエラーとなるが、受信回路3では正常に受信できることとなる。
【0044】
例えば、8B10Bでは、10ビット単位でデコードを行うため、10ビット中でW1とW2が発生しない限り、本発明の受信装置はW1、W2共に正常な受信データを得ることができる。
波形W1および波形W2の発生確率は、「P3」、「P4」で示される通り、ともに8σ(=約6.2E−16)であるとすると、本発明の受信装置でエラーとなるには、W1とW2が10ビット中で発生する必要がある。W1とW2はランダムジッタでありそれぞれ独立事象であり、W1とW2が10ビット中で生じる確率は、P3とP4に積に組み合わせ数(10C2=45)をかけたものになるので、約1.7E−29となり、受信回路が1個の場合の前述のエラー率1.0E−18に比べて改善されている。
このように、本発明による受信装置は、クロック回路2の位相と遅延回路5の遅延を適切に設定することにより、エラーの発生率を改善することが可能である。
【0045】
一方、エラーの発生率を改善する際に、図1の受信装置での遅延の主要因となるのは、回路選択手段81が、受信回路3、7のエラー信号を入力しこのエラー信号に基づいて回路選択信号を出力し、マルチプレクサが82、回路選択信号で選択された受信回路を選択するまでの時間であるが、この時間は、図4に示す装置におけるデータバッファ41が自身にデータを一定数に格納する処理と、訂正手段42がデータバッファ41に格納されたデータに対するエラーの訂正処理等(図5に示す「DLY」)よりも十分少ない。
また、エラー訂正のためのエラー訂正符号も不要となるので、図5に示した装置に比べデータ数を減らす(実効レートも向上させる)ことができる。
(入力端1から変換手段32、72までの経路における遅延は、図4に示す装置とほぼ同様と考えられるので、ここでは考慮しない。)
【0046】
このように、外部の送信装置によって出力され、発生確率が時間に応じて正規分布するランダムジッタを含む信号を入力し、受信回路3および受信回路7は、入力信号の波形がその内側を通過した際にエラーとなるアイマスクをそれぞれ定義し、遅延調整手段6が、入力信号のランダムジッタの発生確率分布と受信回路3および受信回路7のアイマスクとの関係に基づいて、クロック回路2のクロック信号の位相および遅延回路5の遅延を調整し、受信回路3が入力信号をクロック回路2からのクロック信号に基づくタイミングでデータ変換して出力するとともに変換の際にエラーが生じた場合にはエラー信号を出力し、受信回路7が、遅延回路5により遅延が付加された入力信号をクロック信号に基づくタイミングでデータ変換して出力するとともに変換の際にエラーが生じた場合エラー信号を出力し、回路選択手段81は、受信回路3、7が出力するエラー信号に基づいて、受信回路3、7のうちいずれのデータを選択したらよいかを判定し、マルチプレクサ82は、回路選択手段31の判定結果に基づいて、受信回路3または受信回路7のいずれか一方のデータを選択して出力するので、従来のように受信回路を単独で用いた場合に比べ、少ない遅延量でエラーの発生率(あるいはこれに依存するBER)を改善する受信装置を実現することができる。
【0047】
なお、変換手段は、8B10Bデコーダの例を示したが、例えば、64B66B、64B67B、128B130B等のデコーダを用いてもよいし、デジタルデータに付加されたパリティによってエラーの有無を判断しエラーが生じた場合にエラー信号を出力する構成としてもよい。
【0048】
クロック回路2は、CDRを例として、入力信号からクロック信号を再生して出力する回路を示したが、入力信号とは別のクロック信号を入力する回路(ソースシンクロナス方式の回路)であってもよい。
【0049】
クロック回路2の位相と遅延回路5の遅延の量はそれぞれ、可変にして遅延調整手段6によって調整しても良いし、予め適値の固定値としてもよい。
【符号の説明】
【0050】
2 クロック回路
5 遅延回路
6 遅延調整手段
3,7 受信回路
31,71 ラッチ手段
32,72 変換手段
8 データ出力制御部
81 回路選択手段
82 マルチプレクサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部の送信装置によって出力され、発生確率が時間に応じて正規分布するランダムジッタを含む信号を入力し、この入力信号をデジタルデータに変換して出力する受信装置において、
位相を設定可能なクロック信号を生成するクロック回路と、
前記入力信号を前記クロック信号に基づくタイミングでデジタルデータに変換して出力するとともに、前記変換の際にエラーが生じた場合にはエラー信号を出力する第1の受信回路と、
前記入力信号に、遅延を付加して出力する遅延回路と、
前記遅延回路により遅延が付加された前記入力信号を、前記クロック信号に基づくタイミングでデジタルデータに変換して出力するとともに、前記変換の際にエラーが生じた場合エラー信号を出力する第2の受信回路と、
第1の受信回路および第2の受信回路のエラー信号に基づいて、第1の受信回路または第2の受信回路のいずれか一方からのデジタルデータを選択して出力するデータ出力制御部と、
を備えたことを特徴とする受信装置。
【請求項2】
前記第1の受信回路および前記第2の受信回路は、入力信号の波形がその内側を通過した際にエラーとなる領域であるアイマスクをそれぞれ定義し、
前記入力信号のランダムジッタの発生確率分布と、前記第1の受信回路および前記第2の受信回路のアイマスクとの関係に基づいて、前記クロック回路の位相と前記遅延回路の遅延量を調整する遅延調整手段を備えることを特徴とする請求項1記載の受信回路。
【請求項3】
前記クロック回路は、前記入力信号に重畳するクロック信号を抽出し、このクロック信号の位相を可変に調整して出力するクロックデータリカバリ回路であることを特徴とする請求項1または2記載の受信回路。
【請求項4】
前記第1の受信回路は、第1のラッチ手段と第1の変換手段を有し、
前記第1のラッチ手段は前記入力信号を前記クロック信号に基づくタイミングでラッチして出力し、
第1の変換手段は前記第1のラッチ手段からの出力をデジタルデータに変換して出力し、前記変換の際にエラーが生じた場合にはエラー信号を出力し、
前記第2の受信回路は、第2のラッチ手段と第2の変換手段により構成され、
前記第2のラッチ手段は、前記遅延回路により遅延が付加された前記入力信号を前記クロック信号に基づくタイミングでラッチして出力し、
前記第2の変換手段は前記第2のラッチ手段からの出力をデジタルデータに変換して出力し、前記変換の際にエラーが生じた場合にはエラー信号を出力することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の受信回路。
【請求項5】
前記データ出力制御部は、回路選択手段とマルチプレクサにより構成され、
前記回路選択手段は、前記第1の受信回路および第2の受信回路が出力するエラー信号に基づいて、前記第1の受信回路および第2の受信回路のうちいずれのデジタルデータを選択したらよいかを判定し、
前記マルチプレクサは、前記回路選択手段の判定結果に基づいて、前記第1の受信回路または第2の受信回路のいずれか一方のデジタルデータを選択して出力することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の受信回路。
【請求項6】
前記第1の変換手段および第2の変換手段は、それぞれ第1のラッチ手段および第2のラッチ手段の出力と、所定のデコードテーブルと、に基づいてデジタルデータを生成して出力することを特徴とする請求項4または5に記載の受信回路。
【請求項7】
前記第1の変換手段および第2の変換手段は、8B10Bデコーダであることを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の受信回路。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−205366(P2011−205366A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70250(P2010−70250)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】