説明

受信波の波源位置推定装置及び波源方向推定装置、並びに受信波の波源位置推定方法及び波源方向推定方法

【課題】近傍波源の受信波の場合に、計算負荷を低減しつつ、推定精度の劣化が抑制された波源位置推定装置を提供する。
【解決手段】波源位置推定装置は、アレーアンテナ24aにより電波又は音波を受信して受信波の波源の位置を推定する。波源位置推定装置は、各受信素子が受信した受信波の入力ベクトルを算出し、代数的手法を用いた波源の位置算出の際に近傍波源の位置特定を可能とする変換行列を算出し、前記入力ベクトルと前記変換行列とを基に代数的手法によって波源の位置を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、近傍波源である受信波の波源位置推定装置及び波源方向推定装置、並びに受信波の波源位置推定方法及び波源方向推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地上デジタル放送機器、携帯電話、電子キー等の様々な無線機器の使用が日常化しており、希望の相手の位置を把握するため、また希望の相手からの電波を受信するために伝播特性測定の必要性が高まっている。
【0003】
例えば、車両においては、無線通信により車両に固有のIDコードを発信可能な電子キーを車両のキーとして使用する電子キーシステムが搭載されている。この電子キーシステムでは、電子キーから発信されたIDコードを車両が受信すると、車両が電子キーのIDコードと自身に予め登録されているIDコードとを照合するID照合を行い、これらIDコードが一致してID照合が成立すれば、車載機器の制御、例えば車両のドアロックの施解錠やエンジンの始動が許可又は実行される。
【0004】
この電子キーシステムにおいて、電子キーの位置が車内と車外とのいずれにあるかで車載機器の制御を切り分けている場合には、車両からのIDコードの返信要求を車内と車外とで異なるタイミングで発信して対応している。そこで、車両が電子キーから発信された電波の波源の位置を推定できれば、IDコードの返信要求を異なるタイミングで発信する動作を車両に実行させる必要がなくなるので、この利点を享受するために、波源位置推定によりキー位置を特定する技術が求められている。
【0005】
波源位置推定を行う方法としては、MUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法やESPRIT(Estimation of Signal Parameters visa Rotational Invariance Techniques)法等が挙げられるが、これらの方法では波源が十分遠方であり、到来波が平面波として近似できることを前提としている(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
そこで、モードベクトルを近傍波源に対応したものに変更することで近傍波源位置推定を可能とした、球面波モードベクトルMUSIC法が提案されている。しかし、MUSIC法を近傍波源に対して適用する場合、2次元のピークサーチが必要となるため、その計算負荷が懸念される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】菊間信良著「アレーアンテナによる適応信号処理」科学技術出版
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一方、ESPRIT法に基づいた近傍波源位置推定法も提案されている。これは、ESPRIT法に類似したDOA(Direction Of Arrival)−Matrix法を近傍波源に対して適用可能としたものであり、代数的に位置を算出することができる。したがって、ピークサーチが不要であり、球面波モードベクトルMUSIC法で懸念される計算負荷の低減に有効である。しかし、この方法ではアレー形状が等間隔リニアアレーであることが要求され、また受信波の位相項を2次の級数近似として扱うため、アレー素子間隔が1/4波長以下であることが要求される。更に、アレー開口の増大に伴い近似誤差も増大するという課題がある。そこで、アレー形状に制約が無く、波源が近傍である受信波の位置や方向の推定において計算負荷が低減されつつ、推定精度の劣化が抑制された推定装置が求められていた。
【0009】
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、近傍波源の受信波の場合に、計算負荷を低減しつつ、推定精度の劣化が抑制された波源位置推定装置及び波源方向推定装置、並びに受信波の波源位置推定方法及び波源方向推定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について説明する。
請求項1に記載の発明は、複数の受信素子により電波又は音波を受信して受信波の波源の位置を推定する波源位置推定装置において、各前記受信素子が受信した受信波の入力ベクトルを算出する入力ベクトル算出手段と、代数的手法を用いた波源の位置算出の際に近傍波源の位置特定を可能とする変換行列を算出する変換行列算出手段と、前記入力ベクトルと前記変換行列とを基に前記代数的手法によって波源の位置を算出する波源位置算出手段とを備えることをその要旨としている。
【0011】
同構成によれば、複数の受信素子により電波又は音波を受信して波源の位置を算出するにあたって、各受信素子が受信した受信波の入力ベクトルを入力ベクトル算出手段により算出し、代数的手法で近傍波源の位置特定を可能とする変換行列を変換行列算出手段によって算出し、波源位置算出手段により入力ベクトルと変換行列とを基に代数的手法としてESPRIT法における代数的処理によって波源の位置を算出する。従来、近傍波源の位置を推定する場合にはMUSIC法等のサーチ法が用いられるが、サーチに要する計算負荷が大きいという問題点がある。また、代数的手法により近傍波源の位置を推定する場合には、受信信号を近似する必要があり、近似に起因する誤差が発生する。また、受信素子配置(アレー)形状も等間隔リニアアレーかつ素子間隔が1/4波長以下である必要がある。そこで、本装置では、近傍波源の受信波の場合に、変換行列を使用することで代数的手法の適用を可能とするので、任意のアレー形状において計算負荷を低減できる。また、演算に際して入力値を近似することもないので、高い位置推定精度を確保することができる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、複数の受信素子により電波又は音波を受信して受信波の波源の方向を推定する波源方向推定装置において、各前記受信素子が受信した受信波の入力ベクトルを算出する入力ベクトル算出手段と、代数的手法を用いた波源の方向算出の際に波源の方向特定を可能とする変換行列を算出する変換行列算出手段と、前記入力ベクトルと前記変換行列とを基に代数的手法によって波源の方向を算出する波源方向算出手段とを備えることをその要旨としている。
【0013】
同構成によれば、複数の受信素子により電波又は音波を受信して波源の方向を算出するにあたって、入力ベクトル算出手段により各受信素子が受信した受信波の入力ベクトルを算出し、代数的手法で近傍波源の方向特定を可能とする変換行列を変換行列算出手段によって算出し、波源方向算出手段により入力ベクトルと変換行列とを基に代数的手法としてESPRIT法における代数的処理によって波源の方向を算出する。従来、到来波の方向を代数的手法により推定する場合には、受信素子配置(アレー)形状が、例えば等間隔リニアアレー等に制約される。しかしながら、本装置では、任意形状のアレーで受信した場合においても、変換行列を用いることにより代数的手法の適用を可能とするため、計算負荷を低減できる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の波源位置推定装置において、前記変換行列算出手段は、前記代数的手法で用いられる回転不変式の対角行列の成分として算出される固有値と、波源の存在し得る位置とが、一対一対応となる前記変換行列を算出することをその要旨としている。
【0015】
同構成によれば、波源位置を固有値から算出するため、簡単な代数計算を行えばよく、計算負荷を低減できる。
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の波源位置推定装置において、前記固有値は、前記波源の位置を表す複素数であることをその要旨としている。
【0016】
同構成によれば、固有値の実部が波源位置のx座標、虚部がy座標を表すため、固有値から波源の位置を算出する際に、さらに簡単に計算することができる。
請求項5に記載の発明は、請求項1又は3に記載の波源位置推定装置において、前記変換行列は、前記入力ベクトルのうち、一部のみを変換することが可能な行列であることをその要旨としている。
【0017】
同構成によれば、変換行列は入力ベクトルのうち、一部のみを変換することが可能である。したがって、変換行列の要素数が少なく、変換行列の算出に掛かる計算負荷を低減することができる。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項1に記載の波源位置推定装置において、前記変換行列算出手段は、前記代数的手法で用いられる回転不変式の対角行列の対角成分として算出される固有値を考慮することなく前記変換行列を算出することをその要旨としている。
【0019】
同構成によれば、変換行列の計算に用いる固有値の値を、入力ベクトルから算出する必要がないため、この部分の計算負荷が軽減される。
請求項7に記載の発明は、請求項1、及び3〜5のいずれか一項に記載の波源位置推定装置において、前記波源位置算出手段は、前記代数的手法で用いられる回転不変式の対角行列の成分として算出される固有値によって前記波源の位置を算出することをその要旨としている。
【0020】
同構成によれば、代数的手法で用いられる回転不変式、すなわち受信素子全体の平行移動によって生じる各波の位相回転、及び強度の変化が成立する式の対角行列の成分として算出された固有値から波源位置を算出する際に、簡単な代数演算を行えばよいため、計算負荷が軽減される。
【0021】
請求項8に記載の発明は、請求項1、及び3〜6のいずれか一項に記載の波源位置推定装置において、前記波源位置算出手段は、前記代数的手法で得られるモードベクトルによって前記波源の位置を算出することをその要旨としている。
【0022】
同構成によれば、代数的手法で算出されたモードベクトルから波源位置を算出するため、変換行列を計算する際に固有値について考慮する必要がなく、変換行列算出のための計算負荷が軽減される。
【0023】
請求項9に記載の発明は、請求項1、及び3〜8のいずれか一項に記載の波源位置推定装置において、前記波源位置算出手段は、前記入力ベクトルの自己相関行列を固有値展開して得られる信号部分空間に属する固有ベクトルを前記変換行列により変換して波源位置を算出することをその要旨としている。
【0024】
同構成によれば、波源位置算出手段が行う固有値展開の演算量を削減することができる。
請求項10に記載の発明は、請求項1、及び3〜8のいずれか一項に記載の波源位置推定装置において、前記波源位置算出手段は、前記入力ベクトルを前記変換行列により変換して波源位置を算出することをその要旨としている。
【0025】
同構成によれば、波源位置算出手段で行われる入力ベクトルの自己相関行列に対する固有値展開において、一般固有値展開を適用することができる。したがって、変換行列がユニタリ行列でない場合においても、雑音による推定精度の劣化を最小限に留めることができる。
【0026】
請求項11に記載の発明は、請求項1、及び3〜10のいずれか一項に記載の波源位置推定装置において、前記変換行列算出手段は、窓関数を用いて前記変換行列を算出することをその要旨としている。
【0027】
同構成によれば、窓関数を用いて変換行列を算出するため、推定領域全体を変換対象として変換行列を算出した場合と比較し、変換の際に発生する変換誤差を抑制することができる。
【0028】
請求項12に記載の発明は、請求項11に記載の波源位置推定装置において、前記窓関数の位置を初期推定に基づいて算出することをその要旨としている。
同構成によれば、窓関数の位置を初期推定に基づいて算出するため、初期推定を行わずに窓関数の位置を決定した場合と比較し、発生する変換誤差をより抑制することができる。
【0029】
請求項13に記載の発明は、請求項1、及び3〜12のいずれか一項に記載の波源位置推定装置において、前記波源位置推定を繰り返し行うことをその要旨としている。
同構成によれば、波源位置推定を繰り返し行うため、位置の推定精度を更に向上させることができる。
【0030】
請求項14に記載の発明は、請求項13に記載の波源位置推定装置において、前記波源位置推定を繰り返す際に、推定範囲を狭くすることをその要旨としている。
同構成によれば、波源位置推定を繰り返す際に推定範囲を狭くするため、繰り返す度に位置の推定精度を更に向上させることができる。
【0031】
請求項15に記載の発明は、請求項1、及び3〜14のいずれか一項に記載の波源位置推定装置において、前記受信素子は、円形に配置されることをその要旨としている。
同構成によれば、窓関数内部における変換誤差の不均一性を抑制することができるため、位置の推定精度を更に向上させることができる。
【0032】
請求項16に記載の発明は、複数の受信素子により電波又は音波を受信して受信波の波源の位置を推定する波源位置推定方法において、各前記受信素子が受信した受信波の入力ベクトルを算出し、異なる前記受信素子又は異なる波源における受信波に対応するよう変換することが可能な変換行列を算出し、前記入力ベクトルと前記変換行列とを基に代数的手法によって波源の位置を算出することをその要旨としている。
【0033】
請求項17に記載の発明は、複数の受信素子により電波又は音波を受信して受信波の波源の方向を推定する波源方向推定方法において、各前記受信素子が受信した受信波の入力ベクトルを算出し、異なる前記受信素子又は異なる波源における受信波に対応するよう変換することが可能な変換行列を算出し、前記入力ベクトルと前記変換行列とを基に代数的手法によって波源の方向を算出することをその要旨としている。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、近傍波源の受信波の場合に、計算負荷を低減しつつ、推定精度の劣化が抑制された波源位置推定装置及び波源方向推定装置、並びに受信波の波源位置推定方法及び波源方向推定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】電子キーシステムの構成を示すブロック図。
【図2】車両の通信エリアを示す上面図。
【図3】アレーアンテナと波源との位置関係を示す図。
【図4】初期推定位置と窓関数の位置関係。
【図5】シミュレーション条件を示す図。
【図6】本実施形態の信号対雑音比と位置推定誤差との関係を示す図。
【図7】本実施形態の繰り返し回数と位置推定誤差との関係を示す図。
【図8】本実施形態の繰り返し回数と位置推定誤差との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0036】
(第1の実施形態)
以下、本発明にかかる波源位置推定装置及び波源位置推定方法を車両の電子キーシステムに適用した第1の実施形態について図1〜図8を参照して説明する。
【0037】
図1に示されるように、車両2には、例えば運転者が実際に車両キーを操作しなくてもドアロックの施解錠やエンジンの始動及び停止等の車両動作を行うことが可能な電子キーシステム、いわゆるキー操作フリーシステムが搭載されている。キー操作フリーシステムは、キー固有のIDコードを無線通信で発信可能な電子キー1が車両キーとして使用され、電子キー1と車両2との狭域無線通信によりID照合が実行される。
【0038】
キー操作フリーシステムには、車両2に近づいたり離れたりした際に自動でID照合が行われてドアロックの施解錠が許可されるエントリーシステムがある。これを以下に説明すると、車両2には、電子キー1との間で狭域無線通信(以下、スマート通信という)を行う際にID照合を行う照合ECU(Electronic Control Unit)21と、車両2の状態を管理するメインボディECU31とが設けられている。照合ECU21には、車両2の室内天井に埋設されて(図2参照)車外及び車内にUHF(Ultra High Frequency)帯の信号を発信及び受信可能な通信機24が接続されている。通信機24には、複数のアンテナ素子からなるアレーアンテナ24aが搭載されている。照合ECU21には、例えばドアロック施解錠等を管理するメインボディECU31が車内LAN(Local Area Network)30を介して接続されている。
【0039】
一方、電子キー1には、車両2との間で電子キーシステムに準じた無線通信を行う際のコントロールユニットとして通信制御部11が設けられている。通信制御部11は、固有のキーコードとしてIDコードが記憶されたメモリ11aを備えている。通信制御部11には、外部で発信されたUHF帯の信号を受信可能な受信部12と、通信制御部11の指令に従いUHF帯の信号を発信可能な発信部13とが接続されている。
【0040】
照合ECU21は、通信機24からUHF帯のリクエスト信号Srqを間欠的に発信させ、車両2を含む周辺に通信エリアAを形成する(図2参照)。電子キー1がこの通信エリアAに入り込んでリクエスト信号Srqを受信部12で受信すると、電子キー1はリクエスト信号Srqに応答する形で、自身のメモリ11aに登録されたIDコードを含ませたUHF帯のIDコード信号Sidを発信部13から返信する。照合ECU21は、通信機24でIDコード信号Sidを受信すると、IDコード信号Sidを発信した電子キー1の位置を位置推定部21bにより推定する。位置推定部21bが受信波の波源位置推定装置に相当する。照合ECU21は、自身のメモリ21aに登録されたIDコードと電子キー1のIDコードとを照らし合わせてID照合を行う。照合ECU21は、電子キー1が車外(A−Ai)に位置すると推定して照合が成立する(車外照合成立)と、メモリ21aに車外照合フラグを一定時間立てて、メインボディECU31を介してドアロック装置38によるドアロックの施解錠を許可又は実行する。
【0041】
また、電子キーシステムには、エンジン始動停止操作の際に実際の車両キー操作を必要とせずに単なるスイッチ操作のみでエンジン始動停止操作を行うことが可能な機能としてワンプッシュエンジンスタートシステムがある。このワンプッシュエンジンスタートシステムを以下に説明すると、車両2には、照合ECU21のID照合成立結果を基に、エンジンの点火制御及び燃料噴射制御を行うエンジンECU32が設けられている。エンジンECU32は、車内LAN30を通じて照合ECU21等の各種ECUに接続されている。車両2の運転席には、車両2の電源状態(電源ポジション)を切り換える際に操作されるエンジンスイッチ35が設けられている。エンジンスイッチ35は、押し操作される度に車両2の電源状態をACC(Accessory)オン→IG(Ignition)オン→電源オフの純に繰り返し遷移させ、エンジン停止時にブレーキペダルが踏み込まれた状態で操作されると、エンジンを始動に切り換える。
【0042】
照合ECU21は、車外照合が成立してドアロックが解錠された後、ドアが開けられて運転者が乗車したことを例えばカーテシスイッチ37で認識すると、通信機24からリクエスト信号Srqを発信して通信エリアAを形成する。照合ECU21は、電子キー1がこの通信エリアAに入り込んで返信してきたIDコード信号Sidを通信機24で受信すると、IDコード信号Sidを発信した電子キー1の位置を位置推定部21bにより推定する。照合ECU21は、自身に登録されたIDコードと電子キー1のIDコードとを照らし合わせてID照合を行う。照合ECU21は、電子キー1が車内(Ai)に位置すると推定して照合の成立(車内照合成立)を確認すると、エンジンスイッチ35による電源状態の切替を許可する。
【0043】
次に、照合ECU21の位置推定部21bによる位置推定方法について図3〜図8を参照して説明する。本発明では、回転不変式が成立する仮想的なアレーへの変換を行う変換行列を用いることで、代数的手法であるESPRIT法の適用を可能とする。よって、定式化、ESPRIT法、近傍波源に対するESPRIT法の適用、初期推定誤差と窓関数の順番で説明する。なお、位置推定部21bが、入力ベクトル算出手段、変換行列算出手段、及び波源位置算出手段として機能する。
【0044】
<定式化>
波源の個数をLとする。図3は(x,y)=(x,y)=βに位置する第l波(l=1,2,…,L)の狭帯域波源と、x軸上に配置された素子間隔dのK素子等間隔リニアアレーとの位置関係を示した図である。L波の到来波がアレーアンテナに入射した場合、k番目(k=1,2,…,K)のアンテナ素子の受信信号xは次式のように表すことができる。
【0045】
【数1】

ここに、Fはl番目の波源の複素振幅であり、d(β)はl番目の波源とk番目のアレー素子との距離、η(β)はl番目の波源の位置βからアレー素子位置までの伝搬による位相遅れである。また、wはk番目のアレー素子における熱雑音、λはl番目の波源の波長を表す。式(1)を用い、入力ベクトルXを次のように定義する。
【0046】
【数2】

このとき、振幅ベクトルF、アレーのモード行列A、熱雑音ベクトルWを次のようにそれぞれ定義する。
【0047】
【数3】

なお、は転置を表す。このとき、アレーアンテナへの入力ベクトルは次のように表すことができる。
【0048】
【数4】

このようにして定義された入力ベクトルXの相関行列Rxxは、次式のように表すことができる。
【0049】
【数5】

ここで、Hは複素共役転置を、E[・]は期待値を表す。各アンテナの熱雑音は互いに無相関であり、入射波とも無相関であるので、スナップショット数が無限である場合、熱雑音電力をσとすると、W=σI(I:単位行列)となる。
【0050】
<ESPRIT法>
ESPRIT法は、波源が十分遠方であり、到来波が平面波とみなせることを前提として成立する。今、十分遠方に存在するl番目(l=1,2,・・・,L)の波源が、y軸となす角θl(反時計回り方向を正とする)から到来する場合を考える。すると、波源が近傍である場合に式(8)で表されたモードベクトルa(β)の成分a(β)は、次式のように変更される。
【0051】
【数6】

ここで、第1,2,…,K−1素子からなるサブアレーを第1サブアレー、第2,3,…,K素子からなるサブアレーを第2サブアレーと呼ぶこととする。このとき、J,Jを次のように定義する。
【0052】
【数7】

第1サブアレーのモード行列はJA、第2サブアレーのモード行列はJAと表すことができる。すると、これらサブアレーのモード行列の間には次の関係式が成り立つ。
【0053】
【数8】

ここに、diag[・]は対角行列を表す。式(17)は回転不変式(rotational invariance)と呼ばれ、ESPRIT法の基本原理を表す式である。これは第1サブアレーの第l波のモードベクトルJa(β)をexp{jφ}倍すると、第2サブアレーのモードベクトルJa(β)となることを意味し、サブアレー同士が同形かつ、波源が遠方であるからこそ成り立つものである。
【0054】
さて、ここで式(11)により得られた相関行列Rxxに対する固有値問題を解く。
【0055】
【数9】

上記を解いて得られるK個の固有値を、値の大きいものから順にλ,λ,…,λとする。言い換えれば、式(21)のΛの対角成分λが固有値である。このうち、大きいものからL個の固有値に対応する固有ベクトルv,v,…,vの張るL次元部分空間は、行列Aを構成するL個の列ベクトルの張る部分空間に一致する。したがって、以下を満たすL次の正則な行列Tが唯一存在する。
【0056】
【数10】

したがって、式(23)をA=E−1と変形し、式(17)へ代入すると次式が導かれる。ここで、式(23)におけるEが信号部分空間に属する固有ベクトルである。
【0057】
【数11】

ここで、E,E,Ψはそれぞれ以下のように定義した。
【0058】
【数12】

,Eはそれぞれ式(26),(27)より計算可能であるため、式(25)よりΨを算出可能である。よって、式(28)より、Ψを固有値展開することでT−1,Φを求めることができ、Φが求まれば式(18),(19)より到来角度θを算出することができる。
【0059】
<近傍波源に対するESPRIT法の適用>
上記では、波源が遠方である場合にはESPRIT法の適用が可能であることを確認した。しかし、波源が近傍である場合には、等間隔アレーであるにも関わらず、隣接素子間の受信信号の位相差が一定ではない不等間隔アレーで受信したような状態となる。したがって、ESPRIT法の原理式である回転不変式(17)を満たすような、同形のサブアレーのペアを取り出すことができない。
【0060】
そこで、本方法では、次式を満たす変換行列Bを使用する。
【0061】
【数13】

式(29)は、「位置β=(x,y)を表すモードベクトルa(β)を、変換行列Bにより変換すると、a(β)の(x+jy)倍となる」ことを意味する。そこで、このような変換行列Bが得られれば,以下の方法により波源位置を推定することが可能である。
【0062】
まず、モード行列Aを用いて式(29)を次のように表す。
【0063】
【数14】

ここに、変換行列Bはモード行列AをAΩという行列に変換することがわかる。この式(30)を回転不変式と呼ぶ。また、ω(β)が波源位置βと1対1対応する。次に、式(23)をA=E−1と変形し、式(30)へ代入すると,次式が導かれる。
【0064】
【数15】

ここで、E,E,Ψはそれぞれ以下のように定義した。
【0065】
【数16】

以上より、式(33)は式(25)と等しく、ESPRIT法が適用可能であることがわかる。また、式(33)より得られるΨは、Ωが対角行列であることから、式(36)のようにΩの対角成分を固有値、T−1の列ベクトルを固有ベクトルとする行列である。したがって、Ψを固有値展開することによりΩが得られ、更に式(31),(32)を用いることで波源位置βを求めることができる。すなわち、式(30)を満たす変換行列Bを得ることができれば、近傍波源に対してESPRIT法を適用することができ、波源位置が推定可能となる。
【0066】
式(29)における変換は非線形変換であるため、全ての位置に対して式(29)を満たす行列Bは存在しない。そこで、本方法では次式を用いて変換行列Bを算出する。
【0067】
【数17】

ここで、leftは左逆行列を表す。すなわち、AleftA=Iである。モード行列AはK×L行列であり、素子数K>波源数Lより縦長の行列である。また、Aの列ベクトル、すなわち各波源の位置βに対するモードベクトルa(β)はそれぞれ一次独立であるため、左逆行列Aleftが存在する。したがって、式(37)により変換行列Bを算出することが可能である。モード行列Aは波源位置βより算出されるものであり、推定前の段階では未知の行列だということである。したがって、まず初期推定を行い、おおよその波源位置からモード行列を算出し、これを用いて変換行列の計算を行うこととなる。初期推定の方法としては、ビームフォーマ法等が挙げられる。
【0068】
<初期推定誤差と窓関数>
上記では、近傍波源に対するESPRIT法を適用する方法について説明した。続いて、変換行列Bを求めるために行う初期推定について説明する。また、初期推定結果には一般に誤差が含まれるため、この初期推定に含まれる誤差の影響と、その対策について説明する。
【0069】
初期推定により得られた誤差を含む推定位置を図4のようにβ′=(x′、y′)とする。このβ′から式(6),(7),(8)を用いて算出されるモード行列をA′とし、A′から式(37)を用いて算出される変換行列をB′とする。変換行列B′は、理想的な変換行列Bに対して誤差を有する。この誤差をPとおくと誤差を含む変換行列B′は次式のように表される。
【0070】
【数18】

そして、B′により真の位置を表すモード行列Aを変換する。
【0071】
【数19】

上記のように変換誤差PAが発生し、モード行列を正しく変換することができない。変換誤差が存在する場合には式(30)が成立しないため、次のような窓関数を用いてこれを対策する。なお、窓関数については、「アレー補完処理に窓関数を導入した空間スムージング型超解像側角法」信学論(B)、vol.J82-B,no.6,pp.1185-1192,June 1999を参考にする。
【0072】
まず、窓関数Γ(β′)を次のように定義する。
【0073】
【数20】

ここで、μを窓関数幅、Nを窓関数幅分割数、γp,q′)を格子点と呼ぶこととする。格子点γp,q′)は、位置β′に対してx方向、y方向にそれぞれ距離pμ/(N−1),qμ/(N−1)離れた位置を表す。
【0074】
例えば、格子点γ-(N-1)/2,(N-1)/2′)は、位置β′に対して−x方向にμ/2、+y方向にμ/2離れた位置を表し、格子点γ0,0′)は位置β′を表すことになる。つまり、窓関数Γ(β′)は、図4のように位置β′を中心とした幅μの正方形格子状の点の集合となる。このような窓関数Γ(β′)を用いて、モード行列A(Aの上に・が付く)を次式のように定義する。
【0075】
【数21】

そして、モード行列A(Aの上に・が付く)を用いて変換行列B(Bの上に・が付く)を求める。ただし、モード行列A(Aの上に・が付く)はK×NL行列であるため、K<NLの場合には左逆行列Aleft(Aの上に・が付く)が存在せず、式(37)により変換行列B(Bの上に・が付く)を計算することはできない。この場合には、次式を最小化するB(Bの上に・が付く)を変換行列とする。
【0076】
【数22】

ここで、||・||はFrobenius normを表し、Ω(Ωの上に・が付く)は式(31)においてβの代わりにΓ(β′)を代入し算出されるNL×NLの対角行列である。このようにして求められた変換行列B(Bの上に・が付く)は、モード行列A(Aの上に・が付く)を行列AΩ(AとΩとの上に・がそれぞれ付く)に変換する際に誤差が生じてしまう。しかし、窓関数幅μが十分小さく、また窓関数幅分割数Nが十分大きければ、窓関数内では誤差は小さく、誤差は発生しないとみなすことができる。したがって、窓関数Γ(β′)の内部に真の波源位置βが存在すれば、次式が成立する。
【0077】
【数23】

すなわち、初期推定位置β′に誤差が含まれていても、窓関数Γ(β′)を用いて求めた変換行列B(Bの上に・が付く)により、モード行列AをAΩに誤差なく変換することができる。よって、上記で説明したように、ESPRIT法により波源位置を推定することが可能となる。
【0078】
実際には、真の波源位置βlが窓関数内に含まれるように、窓関数幅μは初期推定誤差よりも大きくとる必要がある。この場合、式(39)のように、窓関数幅μの大きさに応じて変換誤差PAが発生する。しかし、変換誤差PAが十分小さい場合には、変換誤差PAに起因する推定誤差も小さく、ESPRIT法による推定位置β′′は、初期推定位置β′よりも真の波源位置βに近づくことが期待される。また、変換誤差PAは窓関数幅μの縮小に応じて小さくなる。このため、推定位置β′′を初期推定位置とし、窓関数幅μを縮小して繰り返しESPRIT法を適用することにより、さらに推定精度を改善することも可能である。
【0079】
<シミュレーション>
計算機シミュレーションにより上記推定方法の評価を行う。本評価では波源数は既知とし、真の波源位置から最も近い推定位置までの距離を推定誤差として、RMSEによる定量評価を実施する。ここでは、それぞれの真の波源位置から最も近い推定位置が重複する場合を推定失敗として定義し、位置推定に失敗した事象はRMSEの計算に含めないこととする。また、SNRを計算する際の信号強度については、アレー中心(=原点)における第1波源の信号強度を用いている。
【0080】
ここでは、ESPRIT法による推定位置を初期推定位置とし、窓関数幅μを縮小して再びESPRIT法を適用する「繰り返し推定」を行うこととし、窓関数幅μの初期値として2λを与える。波源数は2個とし、初期推定誤差としては各波源に対して+x方向、+y方向にそれぞれ√(1/2)λの誤差を与える。つまり、ビームフォーマ法等を用いた初期推定は行わないこととする。距離にすると1λの誤差を各波源に与えることになるが、このとき真の波源位置βは窓関数Γ(β′)の内部に含まれることとなる。
【0081】
<シミュレーション結果>
それでは、具体的にシミュレーション結果を確認する。図6は、SNRと推定誤差の関係をプロットしたものである。繰り返し推定の回数はパラメータとし、4回〜32回まで変化させた。参考のためMUSIC法による推定結果も併せて示す。図6より、MUSIC法よりは若干劣るが、十分な繰り返しを行えば本方法は高い推定精度が得られることがわかる。また、本シミュレーション条件では、繰り返し回数は12回程度で十分であることもわかる。しかし、図6は、シミュレーション前に初期窓関数幅、窓関数縮小率の最適化を行った上で得られた結果である。波源位置、アレー形状、初期推定誤差等が変化すれば、最適な初期窓関数幅、窓関数縮小率も変化することが予想される。
【0082】
そこで、初期窓関数幅により推定結果がどの様に変化するかを確認する。図7は初期窓関数幅を2λから徐々に小さくした場合の、ある一回の独立試行における繰り返し回数と推定誤差の関係をプロットしたものである。なお、熱雑音による推定誤差が発生しないよう、熱雑音はないものとしてシミュレーションを行った。図7より、初期窓関数幅μ=2λ,1.6λの場合には、繰り返し回数に応じて推定誤差が減少しており、波源位置を正しく推定できることがわかる。しかし、初期窓関数幅μ=1.2λ,0.8λの場合には、繰り返しの途中で推定誤差が急激に増大しており、波源位置を推定できていないことが確認される。これは、初期窓関数幅μ=1.2λ,0.8λの場合には、初期推定誤差に対して初期窓関数幅が小さく、初期窓関数内に真の波源位置が含まれない状態となっているためと考えられる。このような状態では、変換行列B(Bの上に・が付く)によるモード行列Aの変換が正しく行われない、すなわち式(45)が成立しなくなるため、正しく推定することができない。したがって初期窓関数幅は、初期推定誤差の大きさに応じてある程度広くとる必要がある。図8は、図7とは逆に、初期窓関数幅を1λから徐々に大きくした場合の、ある一回の独立試行における繰り返し回数と推定誤差の関係をプロットしたものである。ここでも、先程と同様に熱雑音はないものとした。また、初期推定誤差についても存在しない状態、つまり初期推定位置として真の波源位置を与えた状態でシミュレーションを行った。これは、変換行列B(Bの上に・が付く)によりモード行列Aを変換する際に発生する誤差だけが、推定誤差の要因となる状態でシミュレーションを行うためである。したがって、繰り返し回数が1回目のときには推定誤差が0であるため、グラフ上に値がプロットされていない。繰り返し回数が2回目のときには推定誤差が発生しているが、これは変換誤差に起因するものである。図8より、初期窓関数幅μ=1λ,2λの場合には、波源位置を正しく推定できることがわかる。
【0083】
この結果は、初期窓関数幅μの大きさに上限があることを意味している。先程も述べたとおり、真の波源位置が窓関数内に含まれるためには、初期推定に含まれる誤差は、初期窓関数幅の上限より小さくなければならない。
【0084】
さて、近傍波源に対する位置推定方法として、回転不変式の成立する仮想的アレーへの変換を行う変換行列を用いて、ESPRIT法を適用可能とする方法を説明した。シミュレーションでは7素子等間隔リニアアレーを用い、近傍に位置する2つの波源に対して本方法を適用し、MUSIC法より若干劣る程度の高い推定精度が得られることを明らかにした。近傍波源をサーチすることなく推定でき、計算負荷を低減することができる。しかもアレー形状に対する制約が無いということは、非常に有用である。
【0085】
以上、説明した実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
(1)アレーアンテナにより電波を受信して波源の位置を算出するにあたって、各アレーが受信した受信波の入力ベクトルXを算出し、代数的手法で近傍波源の位置特定を可能とする変換行列Bを算出し、入力ベクトルXと変換行列Bとを基に代数的手法としてESPRIT法における代数的処理によって波源の位置を算出する。なお、入力ベクトルXは、自身の相関行列Rxxの固有ベクトルVの中で信号部分空間に属する固有ベクトルEとして用いる。従来、近傍波源の位置を推定する場合にはMUSIC法等のサーチ法が用いられるが、サーチに要する計算負荷が大きいという問題点がある。また、代数的手法により近傍波源の位置を推定する場合には、受信信号を近似する必要があり、近似に起因する誤差が発生する。また、アレー形状も等間隔リニアアレーかつ素子間隔が1/4波長以下である必要がある。そこで、本装置では、近傍波源の受信波の場合に、変換行列Bを使用することで代数的手法の適用を可能とするので、計算負荷を低減できる。また、演算に際して入力値を近似することもないので、高い位置推定精度を確保することができる。
【0086】
(2)固有値は、式(31)における対角行列Ωの対角成分ω(β)であって、ω(β)は式(32)に示されるように、波源位置と1対1対応する。波源位置を固有値から算出するため、簡単な代数計算を行えばよく、計算負荷を低減できる。
【0087】
(3)固有値ω(β)の実部が波源位置βのx座標、虚部がy座標を表すため、固有値から波源の位置を算出する際に、さらに簡単に計算することができる。
(4)回転不変式(30)の中の対角行列Ωの成分ω(β)が固有値に相当する。この対角行列Ωは、式(36)のΨを固有値展開することにより得られる。すなわち、代数的手法で用いられる回転不変式、すなわちアレー全体の平行移動によって生じる各波の位相回転、及び強度の変化が成立する式の対角行列の成分として算出された固有値から波源位置を算出する際に、簡単な代数演算を行えばよいため、計算負荷が軽減される。
【0088】
(5)入力ベクトルXの自己相関行列Rxxを固有値展開して得られる信号部分空間に属する固有ベクトルEを変換行列Bにより変換して波源位置を算出する。このため、固有値展開の演算量を削減することができる。
【0089】
(6)窓関数を用いて変換行列を算出するため、推定領域全体を変換対象として変換行列を算出した場合と比較し、変換の際に発生する変換誤差を抑制することができる。
(7)窓関数の位置を初期推定に基づいて算出するため、初期推定を行わずに窓関数の位置を決定した場合と比較し、発生する変換誤差をより抑制することができる。
【0090】
(8)波源位置推定を繰り返し行うため、位置の推定精度を更に向上させることができる。
(9)波源位置推定を繰り返す際に推定範囲を狭くするため、繰り返す度に位置の推定精度を更に向上させることができる。
【0091】
(第2の実施形態)
以下、本発明にかかる波源位置推定装置及び波源位置推定方法を車両の電子キーシステムに適用した第2の実施形態について説明する。この実施形態では、代数的手法で用いられる回転不変式の対角行列の成分として算出される固有値を考慮することなく変換行列Bを算出する点、変換行列Bを入力ベクトルXに掛けて変換する点、及びモードベクトルによって波源の位置を算出する点が上記第1の実施形態と異なっている。以下、第1の実施形態との相違点を中心に説明する。
【0092】
まず、<ESPRIT法>まで第1の実施形態と同様である。
次に、近傍波源に対するESPRIT法の適用について説明する。
本方法では、次式を満たす変換行列Bを使用する。
【0093】
【数24】

式(46)は、「位置β=(x,y)を表すモードベクトルa(β)を、変換行列Bにより変換すると、a(β)のω(β)倍となる」ことを意味する。そこで、このような変換行列Bが得られれば,以下の方法により波源位置を推定することが可能である。
【0094】
まず、モード行列Aを用いて式(46)を次のように表す。
【0095】
【数25】

ここに、変換行列Bはモード行列AをAΩという行列に変換することがわかる。この式(48)を回転不変式と呼ぶ。
【0096】
次に、この変換行列Bを用いて、次式で表される入力ベクトルXを定義する。
【0097】
【数26】

このように定義された入力ベクトルXの相関行列RxxBは次式のように表される。
【0098】
【数27】

この相関行列RxxBを、Bを用いて次のように一般固有値展開する。
【0099】
【数28】

上記を解いて得られるK個の固有値を、値の大きいものから順にλ,λ,…,λとする。言い換えれば、式(54)のΛの対角成分λが固有値である。このうち、大きいものからL個の固有値に対応する固有ベクトルv,v,…,vからなる行列をEと定義する。このとき、Eとモード行列Aの間には、次の関係式が成り立つ。
【0100】
【数29】

次に、式(56)をA=B−1と変形し、式(48)に代入すると、次式が導かれる。
【0101】
【数30】

ここで、E,E,Ψはそれぞれ以下のように定義した。
【0102】
【数31】

以上より、式(57)は式(25)と等しく、ESPRIT法が適用可能であることがわかる。また、式(57)より得られるΨは、Ωが対角行列であることから、式(60)のようにΩの対角成分を固有値、T−1の列ベクトルを固有ベクトルとする行列である。したがって、Ψを固有値展開することによりTが得られる。このTと、信号部分空間に属する固有ベクトルEを式(23)に代入することにより、モード行列Aを求めることができる。よって、モード行列Aの各列ベクトルであるモードベクトルa(β)から、式(6)、(7)、(8)を用いて波源位置βを算出することが可能である。すなわち、式(48)を満たす変換行列Bを得ることができれば、近傍波源に対してESPRIT法を適用することができ、波源位置が推定可能となる。以下、第1の実施形態と同様であるため割愛する。
【0103】
さて、本実施形態では、代数的手法で用いられる回転不変式の対角行列の成分として算出される固有値を考慮することなく変換行列Bを算出し、変換行列Bを入力ベクトルXに掛けて変換し、モードベクトルから波源の位置を算出した。このように第1の実施形態と異なる方法にしても近傍の波源位置を算出することができ、変換行列を使用することで代数的手法の適用を可能とするので、任意のアレー形状において計算負荷を低減できる。また、演算に際して入力値を近似することもないので、高い位置推定精度を確保することができる。
【0104】
以上、説明した実施形態によれば、第1の実施形態の(1)及び(6)〜(9)の作用効果に加え、以下の作用効果を奏することができる。
(10)代数的手法で用いられる回転不変式の対角行列の対角成分として算出される固有値を考慮することなく変換行列を算出するため、変換行列Bの計算に用いる固有値の値を、入力ベクトルから算出する必要がなく、この部分の計算負荷が軽減される。
【0105】
(11)代数的手法で算出されたモードベクトルから波源位置を算出するため、変換行列Bを計算する際に固有値について考慮する必要がなく、変換行列算出のための計算負荷が軽減される。
【0106】
(12)入力ベクトルXを変換行列Bにより変換して波源位置を算出する。このため、入力ベクトルXの自己相関行列Rxxに対する固有値展開において、一般固有値展開を適用することができる。したがって、変換行列Bがユニタリ行列でない場合においても、雑音による推定精度の劣化を最小限に留めることができる。
【0107】
(第3の実施形態)
以下、本発明にかかる波源位置推定装置及び波源位置推定方法を車両の電子キーシステムに適用した第3の実施形態について説明する。この実施形態では、変換行列を入力ベクトルのうち一部のみを変換することが可能な行列とした点が上記第1の実施形態と異なっている。以下、第1の実施形態との相違点を中心に説明する。
【0108】
まず、<ESPRIT法>まで第1の実施形態と同様である。
次に、近傍波源に対するESPRIT法の適用について説明する。
本方法では、次式を満たす変換行列Bを使用する。
【0109】
【数32】

式(61)は、「位置β=(x,y)を表す第2サブアレーのモードベクトルJa(β)を変換行列Bにより変換すると、第1サブアレーのモードベクトルJa(β)と同一形状となり、その際に第2サブアレーの基準素子位置は変化させない」ことを意味する。そこで、このような変換行列Bが得られれば,以下の方法により波源位置を推定することが可能である。
【0110】
まず、モード行列Aを用いて式(61)を次のように表す。
【0111】
【数33】

ここに、変換行列Bは第2サブアレーのモード行列JAを第1サブアレーのモード行列JAにΩを乗じた行列に変換することがわかる。この式(62)を回転不変式と呼ぶ。本実施形態においては第1の実施形態と異なり、変換行列Bはモード行列Aのうち、第2、3、・・・、K素子に対応するモード行列JAの変換を行う。すなわち、モード行列Aの一部のみを変換する。このような変換行列Bを用いると、BJX=BJAF=JAΩFのように入力ベクトルの一部のみを変換することが可能である。次に、式(23)をA=E−1と変形し、式(62)へ代入すると,次式が導かれる。
【0112】
【数34】

ここで、E,E,Ψはそれぞれ以下のように定義した。
【0113】
【数35】

以上より、式(65)は式(25)と等しく、ESPRIT法が適用可能であることがわかる。また、式(33)より得られるΨは、Ωが対角行列であることから、式(68)のようにΩの対角成分を固有値、T−1の列ベクトルを固有ベクトルとする行列である。したがって、Ψを固有値展開することによりΩが得られ、更に式(63),(64)を用いることで波源位置βを求めることができる。すなわち、式(62)を満たす変換行列Bを得ることができれば、任意形状のアレーに対してESPRIT法を適用することができ、波源位置が推定可能となる。
【0114】
本方法では次式を用いて変換行列Bを算出する。
【0115】
【数36】

ここで、leftは左逆行列を表す。すなわち、{JA}left{JA}=Iである。第2サブアレーのモード行列{JA}は(K−1)×L行列であり、(K−1)≧Lより縦長の行列、あるいは正方行列である。また、JAの列ベクトル、すなわち各波源の位置βに対する第2サブアレーのモードベクトルJa(β)はそれぞれ一次独立であるため、左逆行列{JA}leftが存在する。したがって、式(69)により変換行列Bを算出することが可能である。モード行列Aは波源位置βより算出されるものであり、推定前の段階では未知の行列だということである。したがって、まず初期推定を行い、おおよその波源位置からモード行列を算出し、これを用いて変換行列の計算を行うこととなる。初期推定の方法としては、ビームフォーマ法等が挙げられる。
【0116】
以下、第1の実施形態と同様であるため割愛する。
さて、本実施形態では、変換行列を入力ベクトルのうち一部のみを変換することが可能な行列とした。このように、変換行列は入力ベクトルのうち、一部のみを変換することが可能である。したがって、変換行列の要素数が少なく、変換行列の算出に掛かる計算負荷を低減することができる。
【0117】
以上、説明した実施形態によれば、第1の実施形態の(1)、(2)及び(4)〜(9)の作用効果に加え、以下の作用効果を奏することができる。
(13)変換行列は、入力ベクトルのうち一部のみを変換することが可能な行列とした。したがって、変換行列の要素数が少なく、変換行列の算出に掛かる計算負荷を低減することができる。
【0118】
(第4の実施形態)
以下、本発明にかかる波源方向推定装置及び波源方向推定方法を車両の電子キーシステムに適用した第4の実施形態について説明する。この実施形態では、位置推定ではなく、方向推定である点が上記第1の実施形態と異なっている。以下、第1の実施形態との相違点を中心に説明する。なお、位置推定部21bが、入力ベクトル算出手段、変換行列算出手段、及び波源方向算出手段として機能する。
【0119】
まず、<ESPRIT法>まで第1の実施形態と同様である。
次に、任意形状アレーに対するESPRIT法の適用について説明する。
<ESPRIT法>では、アレーアンテナの形状が等間隔リニアアレーである場合にESPRIT法の適用が可能であることを確認した。しかし、アレーアンテナの形状が任意である場合には、隣接素子間の受信信号の位相差が一定でないため、ESPRIT法の原理式である回転不変式(17)を満たすような、同形のサブアレーのペアを取り出すことができない。
【0120】
そこで、本方法では、次式を満たす変換行列Bを使用する。
【0121】
【数37】

式(71)は、「到来波の方向θを表すモードベクトルa(β)を変換行列Bにより変換すると、a(β)の(exp{jθ})倍となる」ことを意味する。そこで、このような変換行列Bが得られれば,以下の方法により波源方向を推定することが可能である。
【0122】
まず、モード行列Aを用いて式(61)を次のように表す。
【0123】
【数38】

ここに、変換行列Bはモード行列AをAΩという行列に変換することがわかる。この式(72)を回転不変式と呼ぶ。また、ω(β)が波源方向と1対1対応する。次に、式(23)をA=E−1と変形し、式(72)へ代入すると,次式が導かれる。
【0124】
【数39】

ここで、E,E,Ψはそれぞれ以下のように定義した。
【0125】
【数40】

以上より、式(75)は式(25)と等しく、ESPRIT法が適用可能であることがわかる。また、式(33)より得られるΨは、Ωが対角行列であることから、式(78)のようにΩの対角成分を固有値、T−1の列ベクトルを固有ベクトルとする行列である。したがって、Ψを固有値展開することによりΩが得られ、更に式(73),(74)を用いることで波源方向θを求めることができる。すなわち、式(72)を満たす変換行列Bを得ることができれば、任意形状のアレーに対してESPRIT法を適用することができ、波源方向が推定可能となる。以下、第1の実施形態の波源位置βを波源方向θと置き換えれば同様であるため割愛する。
【0126】
さて、本実施形態では、等間隔リニアアレーではなく任意形状のアレーにおいて、近傍波源の方向を算出した。このように、任意形状のアレーにおいても波源の方向を算出することができ、変換行列を使用することで代数的手法の適用を可能とするので、計算負荷を低減することができる。また、演算に際して入力値を近似することもないので、高い方向推定精度を確保することができる。
【0127】
以上、説明した実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
(1)アレーアンテナにより電波を受信して波源の方向を算出するにあたって、各アレーが受信した受信波の入力ベクトルXを算出し、代数的手法で近傍波源の方向特定を可能とする変換行列Bを算出し、入力ベクトルXと変換行列Bとを基に代数的手法としてESPRIT法における代数的処理によって波源の方向を算出する。なお、入力ベクトルXは、自身の相関行列Rxxの固有ベクトルVの中で信号部分空間に属する固有ベクトルEとして用いる。従来、到来波の方向を代数的手法により推定する場合には、アレー形状が、例えば等間隔リニアアレー等に制約される。しかしながら、本装置では、任意形状のアレーで受信した場合においても、変換行列を用いることにより代数的手法の適用を可能とするため、計算負荷を低減できる。
【0128】
(2)固有値は、式(72)における対角行列Ωの対角成分ω(β)であって、ω(β)は式(74)に示されるように、波源方向と1対1対応する。波源方向を固有値から算出するため、簡単な代数計算を行えばよく、計算負荷を低減できる。
【0129】
(3)固有値ω(β)の位相成分が波源方向θを表すため、固有値から波源の方向を算出する際に、さらに簡単に計算することができる。
(4)回転不変式(72)の中の対角行列Ωの成分ω(β)が固有値に相当する。この対角行列Ωは、式(78)のΨを固有値展開することにより得られる。すなわち、代数的手法で用いられる回転不変式、すなわちアレー全体の平行移動によって生じる各波の位相回転、及び強度の変化が成立する式の対角行列の成分として算出された固有値から波源方向を算出する際に、簡単な代数演算を行えばよいため、計算負荷が軽減される。
【0130】
(5)入力ベクトルXの自己相関行列Rxxを固有値展開して得られる信号部分空間に属する固有ベクトルEを変換行列Bにより変換して波源方向を算出する。このため、固有値展開の演算量を削減することができる。
【0131】
(6)窓関数を用いて変換行列を算出するため、推定領域全体を変換対象として変換行列を算出した場合と比較し、変換の際に発生する変換誤差を抑制することができる。
(7)窓関数の位置を初期推定に基づいて算出するため、初期推定を行わずに窓関数の位置を決定した場合と比較し、発生する変換誤差をより抑制することができる。
【0132】
(8)波源方向推定を繰り返し行うため、方向の推定精度を更に向上させることができる。
(9)波源方向推定を繰り返す際に推定範囲を狭くするため、繰り返す度に方向の推定精度を更に向上させることができる。
【0133】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することができる。
・上記第1、第3、及び第4の実施形態では、変換行列を、入力ベクトルすべてを変換可能な行列としたが、入力ベクトルのうち一部のみを変換することが可能な行列としてもよい。入力ベクトルのうち一部のみを変換することが可能な変換行列は、行列の要素数が少ない。したがって、変換行列の算出に掛かる計算負荷を低減することができる。
【0134】
・上記第2の実施形態では、変換行列を入力ベクトルのうち一部のみを変換可能な行列としたが、入力ベクトルのすべてを変換することが可能な行列としてもよい。
・上記第1、第3、及び第4の実施形態では、回転不変式の対角行列の成分として算出される固有値と、波源の存在し得る位置とが、一対一対応となる変換行列を算出したが、回転不変式の対角行列の対角成分として算出される固有値を考慮することなく変換行列を算出してもよい。
【0135】
・上記第1、第3、及び第4の実施形態では、位置の算出において固有値を使用したが、モードベクトルを使用してもよい。すなわち、式(33)により得られるΨは、式(36)となる。そして、このΨを固有値展開し、固有値Ω、固有ベクトルT−1を得る。次に、入力ベクトルXの自己相関行列Rxxの固有ベクトルVの中で信号部分空間に属する固有ベクトルEと、Ψの固有ベクトルT−1とから式(23)を用いてモード行列を算出する。そして、モード行列Aの各列成分であるモードベクトルa(β)から、波源位置βを例えば非線形計画法により算出する。
【0136】
・上記第2の実施形態では、回転不変式の対角行列の対角成分として算出される固有値を考慮することなく変換行列を算出したが、回転不変式の対角行列の成分として算出される固有値と、波源の存在し得る位置とが、一対一対応となる変換行列を算出してもよい。
【0137】
・上記第1の実施形態では、変換行列は式(29)の変換を行う行列としたが、式(29)以外の変換を行う行列を変換行列としてもよい。
・上記第2の実施形態では、変換行列は式(46)の変換を行う行列としたが、式(46)以外の変換を行う行列を変換行列としてもよい。
【0138】
・上記第3の実施形態では、変換行列は式(61)の変換を行う行列としたが、式(61)以外の変換を行う行列を変換行列としてもよい。
・上記第1の実施形態では、変換行列は式(71)の変換を行う行列としたが、式(71)以外の変換を行う行列を変換行列としてもよい。
【0139】
・上記第1、第3、及び第4の実施形態では、変換行列は式(37)により変換行列を算出したが、式(37)以外の式を用いて変換行列を算出してもよい。
・上記第3の実施形態では、変換行列は式(69)により変換行列を算出したが、式(69)以外の式を用いて変換行列を算出してもよい。
【0140】
・上記第1、第3、及び第4の実施形態では、変換行列Bと固有ベクトルEとを掛けたが、変換行列Bと入力ベクトルXとを掛けて算出するようにしてもよい。
・上記第2の実施形態では、変換行列Bと入力ベクトルXとを掛けたが、変換行列Bと固有ベクトルEとを掛けて算出するようにしてもよい。
【0141】
・上記構成において、アレー配置を円形としてもよい。このようにすれば、窓関数内部における変換誤差の不均一性を抑制することができるため、位置又は方向の推定精度を更に向上させることができる。
【0142】
・上記第1〜3の実施形態では、アレー配置は等間隔リニアアレーとしたが、これに限らず任意のアレー配置としてよい。
・上記実施形態では、変換行列算出時に窓関数を用いたが、所望の推定精度を得ることができれば、窓関数を用いなくともよい。
【0143】
・上記実施形態では、所望の推定精度を得ることができれば、繰り返し時に推定範囲を狭くしなくてもよい。
・上記実施形態では、代数的手法としてESPRIT法を用いたが、他の代数的手法、たとえばDOA−Matrix法等を使用してもよい。
【0144】
・上記実施形態では、波源位置推定の算出処理を12回程度繰り返し行うのがよいとしたが、所望の推定精度に合わせて適宜変更可能である。また、1回で所望の推定精度を得ることができれば、繰り返さなくてもよい。
【0145】
・上記実施形態では、波源位置推定装置を電子キーシステムの電子キー1の位置推定に適用したが、電子キーシステムに限らず、種々の通信機器に適用してもよい。
・また、波源位置推定手段を備えた波源位置推定装置に限らず、波源方向推定手段を備えた波源方向推定装置として種々の通信機器に適用してもよい。
【0146】
・波源位置推定装置及び波源方向推定装置等の装置に限らず、波源位置推定方法及び波源方向推定方法を、アレーアンテナを備えた種々の通信機器の演算に適用してもよい。
・上記構成において、図1に示されるように、電子キー1に施錠スイッチ19a及び解錠スイッチ19bを設け、この施錠スイッチ19a及び解錠スイッチ19bを操作することで、車両2へ施錠信号Sl又は解錠信号Sulを発信して、車両2のドアロックの解錠又は施錠を可能としてもよい。
【0147】
・電子キーシステムで使用する各通信の周波数はどの周波数の電波を使用してもよい。
・上記実施形態において、波源は電波を発信する装置であったが、これに限らず、例えばスピーカーのような音波を発信する装置であっても良い。
【0148】
・上記実施形態において、受信素子は電波を受信する装置であったが、これに限らず、例えばマイクロホンのような音波を受信する装置であっても良い。
・上記実施形態では、電波に適用したが、音波に適用してもよい。
【0149】
次に、上記実施形態から把握できる技術的思想をその効果と共に記載する。
(イ)請求項2に記載の波源方向推定装置において、前記変換行列算出手段は、前記代数的手法で用いられる回転不変式の対角行列の成分として算出される固有値と、波源の存在し得る方向とが、一対一対応となる前記変換行列を算出することを特徴とする波源方向推定装置。
【0150】
同構成によれば、波源位置を固有値から算出するため、簡単な代数計算を行えばよく、計算負荷を低減できる。
(ロ)(イ)に記載の波源方向推定装置において、前記固有値は、前記波源の方向を表す複素数であることを特徴とする波源方向推定装置。
【0151】
同構成によれば、固有値の位相成分が波源方向を表すため、固有値から波源の方向を算出する際に、さらに簡単に計算することができる。
(ハ)請求項2、又は(イ)に記載の波源方向推定装置において、前記変換行列は、前記入力ベクトルのうち、一部のみを変換することが可能な行列であることを特徴とする波源方向推定装置。
【0152】
同構成によれば、変換行列は入力ベクトルのうち、一部のみを変換することが可能である。したがって、変換行列の要素数が少なく、変換行列の算出に掛かる計算負荷を低減することができる。
【0153】
(ニ)請求項2に記載の波源方向推定装置において、前記変換行列算出手段は、前記代数的手法で用いられる回転不変式の対角行列の対角成分として算出される固有値を考慮することなく前記変換行列を算出することを特徴とする波源方向推定装置。
【0154】
同構成によれば、変換行列の計算に用いる固有値の値を、入力ベクトルから算出する必要がないため、この部分の計算負荷が軽減される。
(ホ)請求項2、及び(イ)〜(ハ)のいずれかに記載の波源方向推定装置において、前記波源方向算出手段は、前記代数的手法で用いられる回転不変式の対角行列の成分として算出される固有値によって前記波源の方向を算出することを特徴とする波源方向推定装置。
【0155】
同構成によれば、代数的手法で用いられる回転不変式、すなわち受信素子全体の平行移動によって生じる各波の位相回転、及び強度の変化が成立する式の対角行列の成分として算出された固有値から波源方向を算出する際に、簡単な代数演算を行えばよいため、計算負荷が軽減される。
【0156】
(へ)請求項2、及び(イ)〜(ニ)のいずれかに記載の波源方向推定装置において、前記波源方向算出手段は、前記代数的手法で得られるモードベクトルによって前記波源の方向を算出することを特徴とする波源方向推定装置。
【0157】
同構成によれば、代数的手法で算出されたモードベクトルから波源方向を算出するため、変換行列を計算する際に固有値について考慮する必要がなく、変換行列算出のための計算負荷が軽減される。
【0158】
(ト)請求項2、及び(イ)〜(へ)のいずれかに記載の波源方向推定装置において、前記波源方向算出手段は、前記入力ベクトルの自己相関行列を固有値展開して得られる信号部分空間に属する固有ベクトルを前記変換行列により変換して波源方向を算出することを特徴とする波源方向推定装置。
【0159】
同構成によれば、波源方向算出手段が行う固有値展開の演算量を削減することができる。
(チ)請求項2、及び(イ)〜(へ)のいずれかに記載の波源方向推定装置において、前記波源方向算出手段は、前記入力ベクトルを前記変換行列により変換して波源方向を算出することを特徴とする波源方向推定装置。
【0160】
同構成によれば、波源方向算出手段で行われる入力ベクトルの自己相関行列に対する固有値展開において、一般固有値展開を適用することができる。したがって、変換行列がユニタリ行列でない場合においても、雑音による推定精度の劣化を最小限に留めることができる。
【0161】
(リ)請求項2、及び(イ)〜(チ)のいずれかに記載の波源方向推定装置において、前記変換行列算出手段は、窓関数を用いて前記変換行列を算出することを特徴とする波源方向推定装置。
【0162】
同構成によれば、窓関数を用いて変換行列を算出するため、推定領域全体を変換対象として変換行列を算出した場合と比較し、変換の際に発生する変換誤差を抑制することができる。
【0163】
(ヌ)(リ)に記載の波源方向推定装置において、前記窓関数の位置を初期推定に基づいて算出することを特徴とする波源方向推定装置。
同構成によれば、窓関数の位置を初期推定に基づいて算出するため、初期推定を行わずに窓関数の位置を決定した場合と比較し、発生する変換誤差をより抑制することができる。
【0164】
(ル)請求項2、及び(イ)〜(ヌ)のいずれかに記載の波源方向推定装置において、前記波源方向推定を繰り返し行うことを特徴とする波源方向推定装置。
同構成によれば、波源方向推定を繰り返し行うため、方向の推定精度を更に向上させることができる。
【0165】
(ヲ)(ル)に記載の波源方向推定装置において、前記波源方向推定を繰り返す際に、推定範囲を狭くすることを特徴とする波源方向推定装置。
同構成によれば、波源方向推定を繰り返す際に推定範囲を狭くするため、繰り返す度に方向の推定精度を更に向上させることができる。
【0166】
(ワ)請求項2、及び(イ)〜(ヲ)のいずれかに記載の波源方向推定装置において、前記受信素子は、円形に配置されることを特徴とする波源方向推定装置。
同構成によれば、窓関数内部における変換誤差の不均一性を抑制することができるため、方向の推定精度を更に向上させることができる。
【符号の説明】
【0167】
1…電子キー、2…車両、11…通信制御部、11a…メモリ、12…受信部、13…発信部、21…照合ECU、21a…メモリ、21b…位置推定部、24…通信機、24a…アレーアンテナ、35…エンジンスイッチ、38…ドアロック装置、A…通信エリア、Ai…車内エリア、Sid…IDコード信号、Srq…リクエスト信号。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の受信素子により電波又は音波を受信して受信波の波源の位置を推定する波源位置推定装置において、
各前記受信素子が受信した受信波の入力ベクトルを算出する入力ベクトル算出手段と、
代数的手法を用いた波源の位置算出の際に近傍波源の位置特定を可能とする変換行列を算出する変換行列算出手段と、
前記入力ベクトルと前記変換行列とを基に前記代数的手法によって波源の位置を算出する波源位置算出手段とを備える
ことを特徴とする波源位置推定装置。
【請求項2】
複数の受信素子により電波又は音波を受信して受信波の波源の方向を推定する波源方向推定装置において、
各前記受信素子が受信した受信波の入力ベクトルを算出する入力ベクトル算出手段と、
代数的手法を用いた波源の方向算出の際に波源の方向特定を可能とする変換行列を算出する変換行列算出手段と、
前記入力ベクトルと前記変換行列とを基に代数的手法によって波源の方向を算出する波源方向算出手段とを備える
ことを特徴とする波源方向推定装置。
【請求項3】
請求項1に記載の波源位置推定装置において、
前記変換行列算出手段は、前記代数的手法で用いられる回転不変式の対角行列の成分として算出される固有値と、波源の存在し得る位置とが、一対一対応となる前記変換行列を算出する
ことを特徴とする波源位置推定装置。
【請求項4】
請求項3に記載の波源位置推定装置において、
前記固有値は、前記波源の位置を表す複素数である
ことを特徴とする波源位置推定装置。
【請求項5】
請求項1又は3に記載の波源位置推定装置において、
前記変換行列は、前記入力ベクトルのうち、一部のみを変換することが可能な行列である
ことを特徴とする波源位置推定装置。
【請求項6】
請求項1に記載の波源位置推定装置において、
前記変換行列算出手段は、前記代数的手法で用いられる回転不変式の対角行列の対角成分として算出される固有値を考慮することなく前記変換行列を算出する
ことを特徴とする波源位置推定装置。
【請求項7】
請求項1、及び3〜5のいずれか一項に記載の波源位置推定装置において、
前記波源位置算出手段は、前記代数的手法で用いられる回転不変式の対角行列の成分として算出される固有値によって前記波源の位置を算出する
ことを特徴とする波源位置推定装置。
【請求項8】
請求項1、及び3〜6のいずれか一項に記載の波源位置推定装置において、
前記波源位置算出手段は、前記代数的手法で得られるモードベクトルによって前記波源の位置を算出する
ことを特徴とする波源位置推定装置。
【請求項9】
請求項1、及び3〜8のいずれか一項に記載の波源位置推定装置において、
前記波源位置算出手段は、前記入力ベクトルの自己相関行列を固有値展開して得られる信号部分空間に属する固有ベクトルを前記変換行列により変換して波源位置を算出する
ことを特徴とする波源位置推定装置。
【請求項10】
請求項1、及び3〜8のいずれか一項に記載の波源位置推定装置において、
前記波源位置算出手段は、前記入力ベクトルを前記変換行列により変換して波源位置を算出する
ことを特徴とする波源位置推定装置。
【請求項11】
請求項1、及び3〜10のいずれか一項に記載の波源位置推定装置において、
前記変換行列算出手段は、窓関数を用いて前記変換行列を算出する
ことを特徴とする波源位置推定装置。
【請求項12】
請求項11に記載の波源位置推定装置において、
前記窓関数の位置を初期推定に基づいて算出する
ことを特徴とする波源位置推定装置。
【請求項13】
請求項1、及び3〜12のいずれか一項に記載の波源位置推定装置において、
前記波源位置推定を繰り返し行う
ことを特徴とする波源位置推定装置。
【請求項14】
請求項13に記載の波源位置推定装置において、
前記波源位置推定を繰り返す際に、推定範囲を狭くする
ことを特徴とする波源位置推定装置。
【請求項15】
請求項1、及び3〜14のいずれか一項に記載の波源位置推定装置において、
前記受信素子は、円形に配置される
ことを特徴とする波源位置推定装置。
【請求項16】
複数の受信素子により電波又は音波を受信して受信波の波源の位置を推定する波源位置推定方法において、
各前記受信素子が受信した受信波の入力ベクトルを算出し、
異なる前記受信素子又は異なる波源における受信波に対応するよう変換することが可能な変換行列を算出し、
前記入力ベクトルと前記変換行列とを基に代数的手法によって波源の位置を算出する
ことを特徴とする波源位置推定方法。
【請求項17】
複数の受信素子により電波又は音波を受信して受信波の波源の方向を推定する波源方向推定方法において、
各前記受信素子が受信した受信波の入力ベクトルを算出し、
異なる前記受信素子又は異なる波源における受信波に対応するよう変換することが可能な変換行列を算出し、
前記入力ベクトルと前記変換行列とを基に代数的手法によって波源の方向を算出する
ことを特徴とする波源方向推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−75448(P2011−75448A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228512(P2009−228512)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】